特許第6279920号(P6279920)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6279920
(24)【登録日】2018年1月26日
(45)【発行日】2018年2月14日
(54)【発明の名称】懸架装置
(51)【国際特許分類】
   F16F 9/49 20060101AFI20180205BHJP
   B62K 25/08 20060101ALI20180205BHJP
【FI】
   F16F9/49
   B62K25/08 C
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-23610(P2014-23610)
(22)【出願日】2014年2月10日
(65)【公開番号】特開2015-152023(P2015-152023A)
(43)【公開日】2015年8月24日
【審査請求日】2016年10月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000929
【氏名又は名称】KYB株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100067367
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 泉
(74)【代理人】
【識別番号】100122323
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 憲
(72)【発明者】
【氏名】新藤 和人
【審査官】 村山 禎恒
(56)【参考文献】
【文献】 特開平06−109054(JP,A)
【文献】 特開2004−011701(JP,A)
【文献】 英国特許出願公告第01448864(GB,A)
【文献】 実開昭51−103192(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 9/49
B62K 25/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体側チューブと車輪側チューブとからなるテレスコピック型のチューブ部材と、このチューブ部材に収容される倒立型の緩衝器本体と、この緩衝器本体の外周に取り付けられる絞り部材と、最圧縮時の底突きを抑制するオイルロック部材と、上記緩衝器本体と上記チューブ部材との間に形成されて液体が貯留されるリザーバとを備えており、
上記緩衝器本体は、上記車体側チューブに連結されるシリンダと、上記車輪側チューブに連結されて上記シリンダに出入りするロッドとを備えており、
上記オイルロック部材は、上記シリンダに取り付けられる筒状のオイルロックケースと、上記車輪側チューブに連結されて上記オイルロックケースに嵌入する環状のオイルロックピースとを備えており、
上記絞り部材は、上記シリンダに連結されて上記液体内に出没することを特徴とする懸架装置。
【請求項2】
上記絞り部材は、上記オイルロックケースの外周に配置され、当該オイルロックケースを介して上記シリンダに連結されることを特徴とする請求項1に記載の懸架装置。
【請求項3】
上記絞り部材は、上記車輪側チューブの内周面に摺接することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の懸架装置。
【請求項4】
上記車体側チューブは、上記車輪側チューブよりも大径に形成されており、上記車体側チューブに上記車輪側チューブが出没することを特徴とする請求項1から請求項3の何れか一項に記載の懸架装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、懸架装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般的に、車両において車体と車輪との間に介装される懸架装置は、車体を弾性支持して路面凹凸による衝撃を吸収する懸架ばねと、この衝撃吸収に伴う懸架ばねの伸縮運動を抑制する減衰力を発生する緩衝器とを備え、上記衝撃が車体に伝達されることを抑制する。
【0003】
例えば、二輪車や三輪車等の鞍乗型車両において前輪を懸架するフロントフォーク等、懸架装置の中には、緩衝器が車体側チューブと車輪側チューブとからなるテレスコピック型のチューブ部材と、このチューブ部材に収容される倒立型の緩衝器本体と、この緩衝器本体の外側に設けられる絞り部材及びオイルロック部材とを備えるとともに、緩衝器のチューブ部材に懸架ばねを収容するものがある(例えば、特許文献1,2)。
【0004】
図3,4に示すように、上記したような懸架装置における緩衝器本体2は、車体側チューブ10に連結されるシリンダ20と、車輪側チューブ11に連結されてシリンダ20に出没するロッド21とを備え、このロッド21の出没を抑制するメインの減衰力を発揮する。この緩衝器本体2とチューブ部材1との間には、リザーバRが形成されており、作動油が貯留されるとともに、その液面r1を介して上側に気体が封入されて気室Gが形成されている。
【0005】
絞り部材5は、シリンダ20の外周に取り付けられて、リザーバRに貯留される作動油中に出没可能とされるとともに、絞り部材5を介して上下に移動する作動油の抵抗となるので、絞り部材5が作動油中を移動する圧縮側のストローク範囲で、緩衝器の発生する減衰力を大きくできる。即ち、絞り部材5を備えることにより、緩衝器は、絞り部材5が作動油に浸かることを境にした位置依存の減衰力を発揮し、大きな入力に対して大きな減衰力を発揮できる。
【0006】
また、オイルロック部材6は、シリンダ20の下側に取り付けられる環状のオイルロックピース60と、車輪側チューブ11に連結されて作動油中に浸漬されるオイルロックケース61とを備えており、緩衝器の最圧縮時にオイルロックピース60がオイルロックケース61に嵌入してオイルロックケース61内の作動油を閉塞(オイルロック)した状態にする(図4)。これにより、最圧縮時近傍で、緩衝器の発生する減衰力を更に大きくし、最圧縮時の底突きを抑制できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平06−109054号公報
【特許文献2】特開2011−11682号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ここで、上記従来の懸架装置においては、特開2011−11682号公報に開示されるように、気室Gに圧縮しながら封入した気体を懸架ばね(エアばね)として利用する場合には勿論のこと、特開平06−109054号公報に開示されるように、コイルばねを懸架ばねとして利用する場合であっても、懸架装置は、気室Gの圧力に応じた反力を発揮する。そして、リザーバRに貯留する作動油の量で気室Gの圧縮比が決められ、所望のばね特性に応じて上記圧縮比が設定されるので、リザーバRにおける作動油の液面r1の高さは自由に設定することができない。このため、位置依存の減衰力が効き始めるストローク長を調整するには、絞り部材5の位置を上下に変更する必要がある。
【0009】
しかしながら、上記従来の懸架装置においては、図4に示すように、オイルロックピース60がオイルロックケース61に嵌入したとき、オイルロックケース61と絞り部材5が干渉しないようにするため、絞り部材5とオイルロックピース60を上下直列に配置するとともに、絞り部材5とオイルロックピース60との間隔(図4中矢印y)を充分に開ける必要がある。このため、上記従来の懸架装置においては、絞り部材5の位置を下げることが困難であるので、位置依存の減衰力が効き始めるストローク長の調整幅が狭く、このストローク長の調整が難しい。
【0010】
そこで、本発明の目的は、位置依存の減衰力が効き始めるストローク長の調整幅を広げ、このストローク長の調整を容易にすることが可能な懸架装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するための手段は、車体側チューブと車輪側チューブとからなるテレスコピック型のチューブ部材と、このチューブ部材に収容される倒立型の緩衝器本体と、この緩衝器本体の外周に取り付けられる絞り部材と、最圧縮時の底突きを抑制するオイルロック部材と、上記緩衝器本体と上記チューブ部材との間に形成されて液体が貯留されるリザーバとを備えており、上記緩衝器本体は、上記車体側チューブに連結されるシリンダと、上記車輪側チューブに連結されて上記シリンダに出入りするロッドとを備えており、上記オイルロック部材は、上記シリンダに取り付けられる筒状のオイルロックケースと、上記車輪側チューブに連結されて上記オイルロックケースに嵌入する環状のオイルロックピースとを備えており、上記絞り部材は、上記シリンダに連結されて上記液体内に出没することである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、絞り部材の位置を下げることが容易になるので、位置依存の減衰力が効き始めるストローク長の調整幅を広げ、このストローク長の調整を容易にすることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の一実施の形態に係る懸架装置が最伸長状態にあるときの、上記懸架装置の緩衝器を原理的に示した図である。
図2】本発明の一実施の形態に係る懸架装置が最圧縮状態にあるときの、上記懸架装置の緩衝器を原理的に示した図である。
図3】従来の懸架装置が最伸長状態にあるときの、上記懸架装置の緩衝器を原理的に示した図である。
図4】従来の懸架装置が最圧縮状態にあるときの、上記懸架装置の緩衝器を原理的に示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に本発明の一実施の形態に係る懸架装置について、図面を参照しながら説明する。いくつかの図面を通して付された同じ符号は、同じ部品か対応する部品を示す。
【0015】
図1,2に示すように、本実施の形態に係る懸架装置Fは、車体側チューブ10と車輪側チューブ11とからなるテレスコピック型のチューブ部材1と、このチューブ部材1に収容される倒立型の緩衝器本体2と、この緩衝器本体2の外周に取り付けられる絞り部材3と、最圧縮時の底突きを抑制するオイルロック部材4と、上記緩衝器本体2と上記チューブ部材1との間に形成されて液体が貯留されるリザーバRとを備えている。
【0016】
そして、上記緩衝器本体2は、上記車体側チューブ10に連結されるシリンダ20と、上記車輪側チューブ11に連結されて上記シリンダ20に出入りするロッド21とを備えており、上記オイルロック部材4は、上記シリンダ20に取り付けられる筒状のオイルロックケース40と、上記車輪側チューブ11に連結されて上記オイルロックケース40に嵌入する環状のオイルロックピース41とを備えており、上記絞り部材3は、上記シリンダ20に連結されて上記液体内に出没し、上記絞り部材3を介して上下に移動する上記液体の流れに抵抗を与える。
【0017】
上記懸架装置Fは、本実施の形態において、二輪車や三輪車等の鞍乗型車両の前輪を懸架するフロントフォークであり、前輪を両側から支える一対の脚部を構成する二本の緩衝器D(一方の緩衝器Dのみを図示し、他方の緩衝器を省略する)と、これら緩衝器Dを連結するとともに車体の骨格となる車体フレームに連結される車体側ブラケット(図示せず)と、各緩衝器Dと前輪の車軸とを連結する車輪側ブラケット12とを備えている。本実施の形態において、対となる脚部を構成する各緩衝器Dが共通の構成を備えているので、以下、一方の緩衝器Dについてのみ詳細に説明する。なお、緩衝器Dが対となる脚部の片方のみであるとしてもよく、フロントフォークが一本の緩衝器Dからなる脚部のみを備えるものであってもよい。
【0018】
緩衝器Dは、当該緩衝器Dの外殻となるテレスコピック型のチューブ部材1と、このチューブ部材1に収容されてメインの減衰力を発生する緩衝器本体2と、この緩衝器本体2の外側に設けられるオイルロック部材4と絞り部材3とを備えており、チューブ部材1と緩衝器本体2との間には、リザーバRが形成されて下側に液体が貯留されている。この液体は、本実施の形態において、作動油からなるが、他の液体であるとしてもよい。
【0019】
上記液体の液面r1を介して上側には、気体が圧縮されながら封入されて気室Gが形成されている。当該気室Gの圧縮された気体は、チューブ部材1の圧縮量に応じた反力を発揮するエアばねとして機能し、このエアばねの反力で車体を弾性支持している。つまり、本実施の形態において、懸架ばねとしてエアばねを利用している。また、本実施の形態において、気室Gは、リザーバRから緩衝器本体2内にかけて形成されており、リザーバR内の気室Gを、以下、リザーバ内気室g1とする。
【0020】
チューブ部材1は、図示しない車体側ブラケットに連結される車体側チューブ10と、車輪側ブラケット12に連結されて車体側チューブ10に出入りする車輪側チューブ11とを備えてテレスコピック型となっており、路面凹凸による衝撃が前輪に入力されると、車輪側チューブ11が車体側チューブ10に出入りして伸縮するようになっている。本実施の形態において、懸架装置Fは、車体側チューブ10が車輪側チューブ11よりも大径に形成されて、車体側チューブ10に車輪側チューブ11が出入りする倒立型のフロントフォークであるが、車輪側チューブ11が車体側チューブ10よりも大径に形成されて、車輪側チューブ11に車体側チューブ10が出入りする正立型のフロントフォークであるとしてもよい。
【0021】
チューブ部材1の上端開口は、キャップ部材13で塞がれており、チューブ部材1の下端開口は、車輪側ブラケット12で塞がれており、車体側チューブ10と車輪側チューブ11の重複部の間に形成される筒状隙間の下端開口は、車体側チューブ10の下部内周に保持されて車輪側チューブ11の外周面に摺接する環状のオイルシールとダストシールからなるシール部材14で塞がれているので、チューブ部材1内に収容される液体や気体がチューブ部材1外に漏れ出ないようになっている。
【0022】
また、図示しないが、キャップ部材13にはエアバルブが設けられており、このエアバルブを介して気室Gに気体を給排できるようになっている。気室Gの圧縮比を、リザーバRに貯留される液体の量により決定することができ、気室Gが所定容積にあるときの圧力を気体の給排で調節することにより、エアばねによるばね特性を所望の特性に設定できる。
【0023】
チューブ部材1に収容される緩衝器本体2は、キャップ部材13を介して車体側チューブ10に連結されて車体側チューブ10の軸心部に起立する筒状のシリンダ20と、車輪側ブラケット12を介して車輪側チューブ11に連結されてシリンダ20に出入りするロッド21と、シリンダ20の下端部に固定されてロッド21を軸方向に移動自在に軸支する環状のロッドガイド22と、ロッド21の上端部に保持されてシリンダ20内を軸方向に移動可能なピストン23と、シリンダ20の反ロッド側に固定されるベース部材24と、このベース部材24よりも上側に配置されてシリンダ20内を軸方向に移動可能なフリーピストン25とを備えている。
【0024】
そして、シリンダ20内には、ピストン23で区画されて液体が充填される図1中下側の伸側室L1及び図1中上側の圧側室L2と、ベース部材24で圧側室L2と区画されて液体が充填される液溜室L3と、フリーピストン25で液溜室L3と区画されて気体が収容されるシリンダ内気室g2が形成されている。ロッドガイド22の内周には、ロッド21の外周に摺接する環状のシール22aが設けられており、シリンダ2内の液体が漏れ出ることを防いでいる。また、図示しないが、フリーピストン25の外周には、シリンダ20の内周面に摺接するOリングが設けられており、気体と液体とを分離できるようになっている。
【0025】
シリンダ20の上端には、シリンダ20内外を連通する孔20aが形成されており、シリンダ内気室g2はリザーバ内気室g1とともに気室Gを構成する。つまり、本実施の形態において、気室Gは、緩衝器本体2の外側のリザーバRから、緩衝器本体2の内側であるシリンダ20内のフリーピストン25の直上部まで延びている。
【0026】
シリンダ内気室g2は、リザーバ内気室g1と圧力が等しく、当該圧力でフリーピストン25を下側に附勢し、液溜室L3を介して圧側室L2及び伸側室L1を加圧できる。このため、減衰力発生応答性を向上させることができる。なお、シリンダ内気室g2とリザーバ内気室g1とを分離するとしてもよく、この場合には、リザーバ内気室g1に気体を給排するエアバルブの他に、シリンダ内気室g2に気体を給排するエアバルブを設けることが好ましい。また、フリーピストン25をコイルばねで附勢することにより減衰力発生応答性を向上させるとしてもよい。
【0027】
ピストン23には、伸側室L1と圧側室L2とを連通する伸側減衰通路23aと圧側吸込み通路23bが設けられている。伸側減衰通路23aの途中には、絞りV1が設けられており、伸側減衰通路23aを通過する液体の流れに抵抗を与えるようになっている。また、圧側吸込み通路23bの途中には、チェック弁V2が設けられており、圧側吸込み通路23bを圧側室L2から伸側室L1に向かう液体の流れのみを許容する。
【0028】
ベース部材24には、圧側室L2と液溜室L3とを連通する伸側吸込み通路24aと圧側減衰通路24bが設けられている。伸側吸込み通路24aの途中には、チェック弁V3が設けられており、伸側吸込み通路24aを液溜室L3から圧側室L2に向かう液体の流れのみを許容する。また、圧側減衰通路24bの途中には、絞りV4が設けられており、圧側減衰通路24bを通過する液体の流れに抵抗を与えるようになっている。
【0029】
上記構成によれば、車輪側チューブ11が車体側チューブ10から退出し、ロッド21がシリンダ20から退出する懸架装置Fの伸長作動時において、縮小される伸側室L1の液体が伸側減衰通路23aを通って拡大する圧側室L2に移動するとともに、シリンダ20から退出したロッド体積分の液体が伸側吸込み通路24aを通って液溜室L3から圧側室L2に移動する。このため、伸長作動時において緩衝器本体2は、主に、液体が伸側減衰通路23aを通過する際の抵抗に起因するメインの伸側減衰力を発揮する。また、液溜室L3から液体が流出すると、フリーピストン25が下側に移動して液溜室L3を縮小させるとともに、シリンダ内気室g2の容積を拡大させてロッド退出体積分のシリンダ内容積変化を補償できる。
【0030】
反対に、車輪側チューブ11が車体側チューブ10に進入し、ロッド21がシリンダ20に進入する懸架装置Fの圧縮作動時において、縮小される圧側室L2の液体が圧側吸込み通路23bを通って拡大する伸側室L1に移動するとともに、シリンダ20に進入したロッド体積分の液体が圧側減衰通路24bを通って圧側室L2から液溜室L3に移動する。このため、圧縮作動時において緩衝器本体2は、主に、液体が圧側減衰通路24bを通過する際の抵抗に起因するメインの圧側減衰力を発揮する。また、液溜室L3に液体が流入すると、フリーピストン25が上側に移動して液溜室L3を拡大するとともに、シリンダ内気室g2の容積を縮小させてロッド進入体積分のシリンダ内容積変化を補償できる。
【0031】
このように、本実施の形態においては、伸側減衰通路23aと圧側減衰通路24bを備えることにより、緩衝器本体2がピストン速度に依存するメインの減衰力を発生できるようになっているが、このメインの減衰力を発生させるための構成は、図示する限りではない。例えば、図1中、伸側減衰通路23aと圧側減衰通路24bは、双方向の移動が許容されているが、一方通行であってもよい。また、絞りV1,V4に替えて、伸側減衰通路23aや圧側減衰通路24bの途中に、これらの通路23a,24bを遮断する方向に附勢される弁体を設け、この弁体が伸側減衰通路23aや圧側減衰通路24bを通過する液体の抵抗となるとしてもよく、圧側吸込み通路23bや伸側吸込み通路24aを通過する作動液の流れに絞りや弁体で抵抗を与えるようにしてもよい。
【0032】
また、緩衝器本体2の構成は、上記の限りではない。例えば、ベース部材24を廃し、ピストン23に圧側減衰通路を設けるとしてもよく、シリンダ20とロッド21の軸方向の相対移動を抑制する減衰力を発揮できればよい。
【0033】
緩衝器本体2の外側に設けられるオイルロック部材4は、シリンダ20の下端に同軸上に取り付けられる筒状のオイルロックケース40と、懸架装置Fの最圧縮時にオイルロックケース40に嵌入する環状のオイルロックピース41とを備えて構成されている。
【0034】
オイルロックピース41は、ロッド21の下端部外周に固定される支持軸42の外周に取り付けられて、液体中に浸漬されており、支持軸42と、ロッド21及び車輪側ブラケット12を介して車輪側チューブ11に連結されている。支持軸42は、大径な基部42aと、この基部42aの上側に起立して基部42aよりも小径な支持部42bと、この支持部42bの上端から外周に張り出す環状の鍔42cとを備えており、オイルロックピース41は、支持部42bの外周に取り付けられている。オイルロックピース41の内径は、基部42a及び鍔42cの外径より小さく支持部42bの外径よりも大きく形成されており、オイルロックピース41の軸方向長さは、支持部42bの軸方向長さよりも短く形成されているので、オイルロックピース41と支持部42bとの間には、環状の内周通路43が形成されるとともに、オイルロックピース41は、基部42aと鍔42cとで抜け止めされて、これらの間を上下に移動できる。
【0035】
懸架装置Fが圧縮されて最圧縮状態に近づくと、オイルロックピース41がオイルロックケース40に挿入される。このとき、オイルロックピース41とオイルロックケース40との間にできる環状の隙間をオイルロックケース40内の液体が通過することで抵抗が生じ、緩衝器Dは、最圧縮時近傍で、上記したメインの減衰力の他に、オイルロック部材4の抵抗に起因する位置依存の減衰力を発生できる。
【0036】
さらに、図2に示すように、オイルロックピース41がオイルロックケース40に完全に嵌入すると、オイルロックピース41とオイルロックケース40との間の隙間がなくなり、オイルロックピース41が基部42aに密着して内周通路43の連通を遮断することから、オイルロックケース40内の液体を閉塞(オイルロック)して、最圧縮時の底突きを抑制できる。
【0037】
オイルロックケース40内の液体がオイルロックされた最圧縮時から伸長作動に切り替わると、オイルロックケース40の上昇に伴いオイルロックピース41が引き上げられて基部42aとオイルロックピース41との間に隙間ができ、内周通路43の連通が許容されてオイルロックが解除される。この内周通路43の連通は、オイルロックピース41が鍔42cに当接した状態においても維持できるようになっている。
【0038】
上記オイルロック部材4と同様に、緩衝器本体2の外側に設けられる絞り部材3は、本実施の形態において、オイルロックケース40の外周に取り付けられており、このオイルロックケース40を介してシリンダ20に連結されている。絞り部材3は、環状に形成されて車輪側チューブ11の内周面に摺接するとともに、軸方向に貫通する一以上の絞り孔3aを有している。
【0039】
また、絞り部材3は、懸架装置Fが最伸長時にあるときに、リザーバRに貯留される液体の液面r1よりも上側に配置されるとともに、オイルロック部材4による減衰力発生までにリザーバRの液体中に浸漬されるように設定されている。このように、絞り部材3が液体中を移動するストローク範囲では、絞り部材3の絞り孔3aをリザーバRの液体が通過することで抵抗が生じ、緩衝器Dは、上記したメインの減衰力の他に、絞り部材3の抵抗に起因する位置依存の減衰力を発生できる。
【0040】
この絞り部材3の抵抗に起因する減衰力を発生できるようになる境界のストローク長をM1とすると、このストローク長M1は、懸架装置Fが基準となるストローク長にあるときの、絞り部材3と液面r1との距離により設定することができる。以下、懸架装置Fが最伸長時にあるときのストローク長を基準(零)とすると、このときの絞り部材3と液面r1との距離が小さいほど、ストローク長M1を小さくでき、圧縮作動時の早い段階で絞り部材3の抵抗に起因する減衰力を発生できるようになる。
【0041】
このように、上記絞り部材3を設けることで、懸架装置Fに大きな力の入力があったとき、緩衝器Dが上記絞り部材3の抵抗に起因する付加的な減衰力を発生することで、大きな減衰力を発生できる。また、絞り部材3を設けることで、オイルロック部材4による減衰力の発生の前段階の減衰力を大きくし、メインの減衰力から、オイルロック部材4による減衰力が付加されるまでの減衰力のつながりを滑らかにすることができる。
【0042】
以下、本実施の形態に係る懸架装置Fの作動について説明する。
【0043】
最伸長状態にある懸架装置Fが圧縮されると、ストローク長がM1に達するまでの間、緩衝器Dの発生する減衰力は、主に、緩衝器本体2の発生するメインの減衰力に起因し、絞り部材3やオイルロック部材4による位置依存の減衰力は付加されていない。
【0044】
そして、圧縮作動時において懸架装置Fのストローク長がM1を超えると、絞り部材3がリザーバRの液体中に突入し、絞り部材3の下側の液体が絞り孔3aを通って上側に移動するので、絞り部材3の抵抗に起因する位置依存の減衰力が上記メインの減衰力に付加されて、緩衝器Dの発生する減衰力が大きくなる。
【0045】
さらに、圧縮作動時において懸架装置Fのストローク長がさらに大きくなり、オイルロックピース41がオイルロックケース40に挿入されると、オイルロックケース40の液体がオイルロックピース41とオイルロックケース40との間にできる隙間を通る。このため、オイルロック部材による減衰力がさらに付加されて、緩衝器Dの発生する減衰力がさらに大きくなる。
【0046】
懸架装置Fの最圧縮時には、オイルロックピース41がオイルロックケース40に嵌入し、オイルロックケース40内の液体がオイルロックされるので、それ以上の圧縮が規制され、最圧縮時の底突きを防ぐことができる。
【0047】
つづいて、懸架装置Fが伸長作動に転じると、オイルロックピース41が基部42aから離れて内周通路43の連通が許容され、これにより、オイルロックケース40の内外が連通されるので、オイルロックが解除される。
【0048】
そして、伸長作動時において懸架装置Fのストローク長がM1以上である場合には、絞り部材3の上側の液体が絞り孔3aを通って下側に移動するので、この絞り部材3の抵抗に起因する位置依存の減衰力がメインの減衰力に付加される。
【0049】
さらに、伸長作動時において懸架装置Fのストローク長が小さくなり、ストローク長がM1よりも小さくなると、絞り部材3が液面r1よりも上側を移動するようになるので、絞り部材3による位置依存の減衰力が、メインの減衰力に付加されなくなる。
【0050】
以下、本実施の形態に係る懸架装置の作用効果について説明する。
【0051】
本実施の形態において、車体側チューブ10は、車輪側チューブ11よりも大径に形成されており、車体側チューブ10に車輪側チューブ11が出没する。
【0052】
上記構成によれば、本実施の形態のように、絞り部材3を車輪側チューブ11の内周面に容易に摺接させることが可能となる。また、絞り部材3を車輪側チューブ11に摺接させたとしても、絞り部材3の位置が車体側チューブ10によって制限されることがなく、絞り部材3の位置の設定自由度を低下させることがない。
【0053】
なお、車輪側チューブ11が車体側チューブ10よりも大径に形成されて、車輪側チューブ11に車体側チューブ10が出没するとしてもよい。この場合においても、絞り部材3を車輪側チューブ11に摺接させてもよいが、絞り部材3の摺接部を車体側チューブ10の下端よりも下側に配置する必要があり、絞り部材3の構造が複雑化する。
【0054】
また、本実施の形態において、絞り部材3は、車輪側チューブ11の内周面に摺接する。
【0055】
上記構成によれば、チューブ部材1内に起立するシリンダ20を絞り部材3で支え、シリンダ20の倒れを防ぐことができる。つまり、絞り部材3が、位置依存の減衰力を付加する機能と、シリンダ20の倒れを防ぐ二種類の機能を有するので、絞り部材3の他にシリンダ20の倒れを防ぐことを目的とした他の部品を省略することができ、懸架装置Fの構成を簡易にできる。
【0056】
なお、必ずしも絞り部材3を車輪側チューブ11に摺接させなくてもよく、この場合には、シリンダ20の倒れを防ぐための部品を追加することが好ましい。このように、絞り部材3を車輪側チューブ11に摺接させない場合は、車輪側チューブ11に車体側チューブ10を出没させる場合であっても、絞り部材3の構造を複雑化させずに済む。
【0057】
また、本実施の形態において、絞り部材3は、オイルロックケース40の外周に配置され、当該オイルロックケース40を介してシリンダ20に連結されている。
【0058】
上記構成によれば、絞り部材3の位置をオイルロックケース40の位置まで下げているので、圧縮作動時において、緩衝器Dは、早い段階で絞り部材3による位置依存の減衰力を発生することができる。
【0059】
なお、絞り部材3は、緩衝器本体2の外周であれば何れの位置に設けることも可能であり、圧縮作動時における絞り部材3による減衰力の発生を遅らせたい場合には、シリンダ20の外周に絞り部材3を直接連結するとしてもよい。
【0060】
また、本実施の形態において、懸架装置Fは、車体側チューブ10と車輪側チューブ11とからなるテレスコピック型のチューブ部材1と、このチューブ部材1に収容される倒立型の緩衝器本体2と、この緩衝器本体2の外周に取り付けられる絞り部材3と、最圧縮時の底突きを抑制するオイルロック部材4と、上記緩衝器本体2と上記チューブ部材1との間に形成されて液体が貯留されるリザーバRとを備えている。
【0061】
そして、上記緩衝器本体2は、上記車体側チューブ10に連結されるシリンダ20と、上記車輪側チューブ11に連結されて上記シリンダ20に出入りするロッド21とを備えており、上記オイルロック部材4は、上記シリンダ20に取り付けられる筒状のオイルロックケース40と、上記車輪側チューブ11に連結されて上記オイルロックケース40に嵌入する環状のオイルロックピース41とを備えており、上記絞り部材3は、上記シリンダ20に連結されて上記液体内に出没する。
【0062】
上記構成によれば、絞り部材3とオイルロックケース40とを直列に配置する必要がなく、並列に配置させることが可能となるので、絞り部材3の位置をオイルロックケース40まで、あるいは、オイルロックケース40よりも下側に容易に下げることができる。したがって、絞り部材3による位置依存の減衰力が効き始めるストローク長M1の調整幅を広げ、このストローク長M1の調整を容易にすることが可能となる。
【0063】
また、本実施の形態において、懸架装置Fは、リザーバRの液面r1を介して上側に圧縮されながら封入された気体を懸架ばね(エアばね)として利用しており、コイルばねからなる懸架ばねを備えていない。このため、懸架装置Fのばね特性を所望の特性とするため、液面r1の位置管理を厳密にする必要がある。つまり、液面r1の位置は、所望のばね特性に応じて設定されており、絞り部材3による位置依存の減衰力発生のストローク長M1を設定するためのものではない。したがって、上記ストローク長M1を設定するために変更できる液面r1の調整幅が極めて小さい。
【0064】
そこで、懸架装置Fがエアばねからなる懸架ばねを備える場合には、特に、絞り部材3の上下位置を自由に変更できるようにすることが有効である。なお、懸架装置Fは、コイルスばねからなる懸架ばねを備えるものであってもよい。
【0065】
また、懸架装置Fが二輪車の後輪を懸架するリアクッションである場合には、一般的に、後輪を揺動可能に支持するスイングアームを備えており、このスイングアームと車体との間に緩衝器が介装されている。このため、位置依存の減衰力をスイングアームの揺動部等で発生させることも可能である。しかし、懸架装置Fがフロントフォークである場合には、スイングアームのような車輪を揺動可能に支持する揺動部材を備えていないことが一般的であり、位置依存の減衰力を発生するための構成を緩衝器D以外に設けることが難しい。
【0066】
つまり、懸架装置Fがフロントフォークである場合には、緩衝器Dに絞り部材3を設ける必要性が高いので、この絞り部材3の上下位置の変更自由度を高めて、位置依存の減衰力を発生するストローク長の調整を容易にすることが特に有効である。なお、懸架装置Fは、車輪を揺動可能に支持する揺動部材を有するリアクッションや、自動車用の懸架装置であるとしてもよい。
【0067】
以上、本発明の好ましい実施の形態を詳細に説明したが、特許請求の範囲から逸脱することなく改造、変形及び変更を行うことができることは理解すべきである。
【符号の説明】
【0068】
F 懸架装置
R リザーバ
1 チューブ部材
2 緩衝器本体
3 絞り部材
4 オイルロック部材
10 車体側チューブ
11 車輪側チューブ
20 シリンダ
21 ロッド
40 オイルロックケース
41 オイルロックピース
図1
図2
図3
図4