(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、グロープラグには、急速昇温性を確保しつつ発熱温度の高温化を図るために、シースチューブの先端側における発熱量を十分に確保する特性(先端発熱性)が求められている。しかしながら、特許文献1〜3のグロープラグでは、シースチューブの先端側に発熱コイルが十分に配置されていないため、シースチューブの先端側における発熱量を十分に確保できないという課題があった。特に、特許文献3のグロープラグでは、シースチューブの先端側に向かうに連れて発熱コイルのコイル外径が小さくなり、これによって発熱コイルの1巻きごとの抵抗値が小さくなるため、シースチューブの先端側における発熱量が不足するという課題があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上述の課題を解決するためになされたものであり、以下の形態として実現することが可能である。
本発明の一形態によれば、先端側から後端側へと延びた筒状を成し、前記先端側に閉塞部を有する筒状体と;前記筒状体の内側に設けられ、前記先端側から前記後端側へと延びた螺旋状を成し、通電によって発熱する発熱コイルと、を備えるグロープラグが提供される。このグロープラグにおいて、前記発熱コイルは、前記後端側から前記閉塞部に向かうに従ってコイル外径が拡大するとともに前記閉塞部に接合された拡径部を、有し、前記拡径部における1巻きごとの抵抗値の最大値Rxと、前記発熱コイルのうち前記拡径部より前記後端側に位置する前記拡径部とは異なる部位における1巻きごとの抵抗値の最小値Rnとの関係は、(Rx−Rn)/Rn≧0.45を満たす。この形態によれば、拡径部において発熱コイルの1巻きごとの抵抗値を大きくできるため、筒状体の先端側における発熱量を増加できる。その結果、急速昇温性を確保しつつ発熱温度の高温化を図ることができる。
【0006】
(1)本発明の一形態によれば、先端側から後端側へと延びた筒状を成し、前記先端側に閉塞部を有する筒状体と;前記筒状体の内側に設けられ、前記先端側から前記後端側へと延びた螺旋状を成し、通電によって発熱する発熱コイルと、を備えるグロープラグが提供される。このグロープラグにおいて、前記発熱コイルは、前記後端側から前記閉塞部に向かうに従ってコイル外径が拡大するとともに前記閉塞部に接合された拡径部を、有する。この形態によれば、拡径部において発熱コイルの1巻きごとの抵抗値を大きくできるため、筒状体の先端側における発熱量を増加できる。その結果、急速昇温性を確保しつつ発熱温度の高温化を図ることができる。
【0007】
(2)上記形態のグロープラグにおいて、前記発熱コイルにおいて1巻きごとの抵抗値が最大となる部位は、前記拡径部に位置してもよい。この形態によれば、筒状体の先端側における発熱量をいっそう増加できる。
【0008】
(3)上記形態のグロープラグにおいて、前記拡径部における1巻きごとの抵抗値の最大値Rxと、前記発熱コイルのうち前記拡径部より前記後端側に位置する前記拡径部とは異なる部位における1巻きごとの抵抗値の最小値Rnとの関係は、(Rx−Rn)/Rn≧0.45を満たしてもよい。この形態によれば、急速昇温性を確保しつつ発熱温度の高温化を十分に図ることができる。
【0009】
(4)上記形態のグロープラグにおいて、前記拡径部における1巻きごとの抵抗値の最大値Rxと、前記発熱コイルのうち前記筒状体の前記先端側の表面から前記後端側へ6mm以上離れた部位における1巻きごとの抵抗値の最小値Rnとの関係は、(Rx−Rn)/Rn≧0.45を満たしてもよい。この形態によれば、急速昇温性を確保しつつ発熱温度の高温化を十分に図ることができる。
【0010】
本発明は、グロープラグ以外の種々の形態で実現することも可能である。例えば、上述のグロープラグを備える内燃機関、上述の筒状体と発熱コイルとを備える発熱装置、上述のグロープラグを製造する製造方法などの形態で実現することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
A.実施形態
A1.グロープラグの構成
図1は、グロープラグ10の構成を示す説明図である。
図1には、グロープラグ10の中心軸SCを境界として、紙面右側にグロープラグ10の外観形状が図示され、紙面左側にグロープラグ10の断面形状が図示されている。本実施形態の説明では、グロープラグ10における
図1の紙面下側を「先端側」といい、
図1の紙面上側を「後端側」という。
【0013】
グロープラグ10は、ディーゼルエンジンを始めとする内燃機関(図示しない)の始動時における着火を補助する熱源として機能する。グロープラグ10は、中軸200と、主体金具500と、シースヒータ800とを備える。本実施形態では、グロープラグ10の中心軸SCは、中軸200、主体金具500、およびシースヒータ800の各部材における中心軸でもある。
【0014】
グロープラグ10の中軸200は、主体金具500の内側に設けられた導体である。本実施形態では、中軸200は、中心軸SCを中心とする円柱状を成す金属製の導体である。中軸200は、シースヒータ800へと電力を中継する。
【0015】
中軸200は、先端側に設けられた先端部210と、後端側に設けられた後端部290とを備える。中軸200の先端部210は、主体金具500の先端側に接合されたシースヒータ800の内側に挿入されている。中軸200の後端部290は、主体金具500の後端側から突出している。本実施形態では、後端部290には、雄ネジが形成されている。本実施形態では、後端部290には、先端側から順に、絶縁ゴム製の環状部材であるOリング460と、絶縁樹脂製の筒状部材である絶縁ブッシュ410と、金属製の筒状部材であるリング300と、金属製のナット100とが組み付けられている。
【0016】
グロープラグ10の主体金具500は、中心軸SCを中心とする円筒状を成す金属製の導体である。本実施形態では、主体金具500は、ニッケルめっきが施された低炭素鋼である。他の実施形態では、主体金具500は、亜鉛めっきが施された低炭素鋼であっても良いし、めっきが施されていない低炭素鋼であっても良い。
【0017】
主体金具500は、軸孔510と、工具係合部520と、ネジ部540とを備える。主体金具500の軸孔510は、中心軸SCを中心とする貫通孔である。軸孔510の先端側には、シースヒータ800が圧入によって接合されている。軸孔510の内径は、中軸200の外径よりも大きい。軸孔510の内側には、中軸200が保持されている。中軸200と軸孔510との間には、空隙が形成されている。主体金具500の工具係合部520は、グロープラグ10の取り付けおよび取り外しに用いられる工具(図示しない)に係り合う外周形状(例えば、六角形)を成す部位である。主体金具500のネジ部540は、内燃機関(図示しない)に対して嵌り合う雄ネジが外周に形成された部位である。
【0018】
グロープラグ10のシースヒータ800は、熱を発生させる発熱装置である。シースヒータ800は、シースチューブ810と、発熱コイル820と、制御コイル840と、絶縁粉末870とを備える。
【0019】
図2は、グロープラグ10におけるシースヒータ800の詳細構成を示す説明図である。
図2には、シースチューブ810を中心軸SCに沿って半分に切断したシースヒータ800が図示されている。
【0020】
シースヒータ800のシースチューブ810は、先端側から後端側へと延びた筒状を成す筒状体である。シースチューブ810の先端側には、閉塞した部位である閉塞部811が形成されている。閉塞部811の内側には、発熱コイル820が溶接によって接合されている。シースチューブ810の後端側における内側には、絶縁ゴム製の筒状部材であるパッキン600を介して中軸200が挿入されている。シースチューブ810の後端側における外側は、主体金具500における軸孔510の内側に接触している。
【0021】
本実施形態では、シースチューブ810の材質は、ニッケル基合金(インコネル601(「INCONEL」は登録商標))である。他の実施形態では、シースチューブ810の材質は、ステンレス鋼(例えば、SUS310S)であってもよい。
【0022】
本実施形態では、シースチューブ810の外径は、約3.5mm(ミリメートル)である。本実施形態では、シースチューブ810の側面における肉厚は、約0.5mmである。本実施形態では、シースチューブ810の閉塞部811における肉厚は、約1.0mmである。
【0023】
シースヒータ800の発熱コイル820は、通電によって発熱する発熱体である。発熱コイル820は、シースチューブ810の内側に設けられている。発熱コイル820は、先端側から後端側へと延びた螺旋状を成す。発熱コイル820の先端側は、シースチューブ810における閉塞部811の内側に溶接によって接合されている。発熱コイル820の後端側は、溶接によって制御コイル840に接合されている。発熱コイル820と制御コイル840との間には、溶融部830が形成されている。溶融部830は、
発熱コイル820と制御コイル840との溶接時に溶融した後に凝固した部位である。
【0024】
発熱コイル820は、拡径部822と、同径部827とを有する。発熱コイル820の拡径部822は、同径部827より先端側に位置し、閉塞部811に接合されている。拡径部822のコイル外径は、後端側から閉塞部811に向かうに従って拡大する。発熱コイル820の同径部827は、拡径部822より後端側に位置し、制御コイル840へと接続されている。同径部827のコイル外径は、後端側から先端側にわたってほぼ同一である。
【0025】
図2には、拡径部822のコイル外径と同径部827のコイル外径とを比較しやすいように、仮想線OLと、仮想線RLと、仮想線DLとが図示されている。仮想線OLは、拡径部822および同径部827に外側で接する線分である。仮想線RLは、仮想線OLと同一平面上で同径部827における中心径を繋ぐ線分である。仮想線DLは、拡径部822と同径部827との境界を示す線分である。本実施形態では、閉塞部811の外側から仮想線DLまでの中心軸SCに沿った距離L1は、約6mmである。他の実施形態では、距離L1は、6mmより短くてもよいし、6mmより長くてもよい。
【0026】
本実施形態では、拡径部822は、発熱コイル820における先端側から1巻き目W1から4巻き目W4までの合計4巻き分を占め、同径部827は、発熱コイル820における先端側から5巻き目W5から9巻き目W9までの合計5巻き分を占める。他の実施形態では、拡径部822の巻き数は、4巻き未満であってもよいし、4巻き超過であってもよい。他の実施形態では、同径部827の巻き数は、5巻き未満であってもよいし、5巻き超過であってもよい。
【0027】
発熱コイル820において1巻きごとの抵抗値が最大となる部位は、拡径部822に位置する。本実施形態では、1巻き目W1の抵抗値が、発熱コイル820において最大となる。他の実施形態では、2巻き目W2以降における1巻きごとの抵抗値が、発熱コイル820において最大となってもよい。
【0028】
急速昇温性を確保しつつ発熱温度の高温化を十分に図る観点から、拡径部822における1巻きごとの抵抗値の最大値Rxと、発熱コイル820のうち拡径部822より後端側に位置する拡径部822とは異なる部位(同径部827)における1巻きごとの抵抗値の最小値Rnとの関係は、(Rx−Rn)/Rn≧0.45を満たすことが好ましい。言い換えると、拡径部822における1巻きごとの抵抗値の最大値Rxと、発熱コイル820のうちシースチューブ810の先端側の表面から後端側へ中心軸SCに沿って6mm以上離れた部位における1巻きごとの抵抗値の最小値Rnとの関係は、(Rx−Rn)/Rn≧0.45を満たすことが好ましい。抵抗比(Rx−Rn)/Rnの値は、0.49以上がより好ましく、0.50以上がさらに好ましく、0.60以上がいっそう好ましい。抵抗比(Rx−Rn)/Rnの評価については後述する。
【0029】
本実施形態では、発熱コイル820の材質は、鉄(Fe)から主に構成される合金であり、鉄(Fe)は、発熱コイル820に占める割合が最も多い成分(好ましくは、65質量%以上)である。発熱コイル820は、クロム(Cr)およびアルミニウム(Al)の少なくとも一方を含有してもよし、クロム(Cr)およびアルミニウム(Al)以外の他の成分を含有してもよい。他の実施形態では、発熱コイル820の材質は、ニッケル(Ni)−クロム(Cr)合金であってもよい。
【0030】
シースヒータ800の制御コイル840は、シースチューブ810の内側において発熱コイル820と直列に接続され、発熱コイル820による発熱を制御する。制御コイル840の先端側は、溶接によって発熱コイル820に接合されている。制御コイル840の後端側は、中軸200の先端部210に接続されている。
【0031】
制御コイル840の材質は、発熱コイル820より電気比抵抗の温度係数が大きい。本実施形態では、制御コイル840の材質は、純ニッケル(Ni)である。制御コイル840は、コバルト(Co)−鉄(Fe)合金であってもよいし、コバルト(Co)−ニッケル(Ni)合金であってもよい。
【0032】
シースヒータ800の絶縁粉末870は、電気絶縁性を有する粉末である。本実施例では、絶縁粉末870は、酸化マグネシウム(MgO)から主に成る。絶縁粉末870は、シースチューブ810の内側に充填され、中軸200と、シースチューブ810と、発熱コイル820と、制御コイル840との各隙間を電気的に絶縁する。
【0033】
A2.グロープラグの評価
図3は、グロープラグ10の発熱特性および高温特性を評価した結果を示す表である。試験者は、評価対象となるグロープラグ10として、試料S1〜S8を用意した。試料S1〜S8に共通する試料は、次のとおりである。
・シースチューブ810の材質:ニッケル合金(インコネル601)
・発熱コイル820の材質:鉄(Fe)-クロム(Cr)−アルミニウム(Al)合金
・制御コイル840の材質:純ニッケル(Ni)
【0034】
試料S1〜S8は、発熱コイル820の拡径部822におけるコイル外径について、それぞれ他の試料と異なる。試料S1〜S8は、シースチューブ810および制御コイル840の形状、発熱コイル820の同径部827におけるコイル外径、並びに、発熱コイル820における各部の線径について、それぞれ他の試料と同様である。
【0035】
図3の評価試験において、試験者は、各試料の発熱特性および高温特性を評価するために通電試験を行った。通電試験では、試験者は、各試料におけるシースチューブ810の表面に対して、先端側から1mmごとにPR熱電対を取り付けた。その後、試験者は、PR熱電対を取り付けた試料に対して11V(ボルト)の電圧を印加し、シースチューブ810における各部の温度変化を測定した。
【0036】
試験者は、次の評価基準に基づいて各試料の発熱特性を評価した。
◎(優):シースチューブ810の先端側から1mm以下の範囲で発熱開始
○(良):シースチューブ810の先端側から1mm超過2mm以下の範囲で発熱開始
△(可):シースチューブ810の先端側から2mm超過3mm以下の範囲で発熱開始
×(劣):シースチューブ810の先端側から3mm超過の範囲で発熱開始
【0037】
試験者は、次の評価基準に基づいて各試料の高温特性を評価した。
◎(優):11Vの電圧を印加してから2秒後の温度が1080℃以上
○(良):11Vの電圧を印加してから2秒後の温度が1050℃以上〜1080℃未満
△(可):11Vの電圧を印加してから2秒後の温度が950℃以上〜1050℃未満
×(劣):11Vの電圧を印加してから2秒後の温度が950℃以下
【0038】
図3の評価試験において、試験者は、通電試験を終えた後、各試料における発熱コイル820の1巻きごとの抵抗値を測定した。
図4は、試料S5における発熱コイル820の1巻きごとの抵抗値を測定した結果を示す表である。
図5は、試料S8における発熱コイル820の1巻きごとの抵抗値を測定した結果を示す表である。
【0039】
図6は、各試料における発熱コイル820の抵抗値を測定する様子を示す説明図である。試験者は、発熱コイル820の抵抗値を測定するために、シースチューブ810の先端側を中心軸SCに沿って半分に削ることによって、シースチューブ810から発熱コイル820を露出させた。その後、試験者は、シースチューブ810の閉塞部811における測定点M0と、発熱コイル820の1巻き目W1における測定点M1との間の抵抗値を、発熱コイル820における1巻き目W1の抵抗値として測定した。その後、試験者、発熱コイル820の2巻き目W2における測定点M2についても同様に測定点M0との間の抵抗値を測定し、この測定値から1巻き目W1の抵抗値を減算した値を、発熱コイル820における2巻き目W2の抵抗値として算出した。試験者は、発熱コイル820における3巻き目W3以降の抵抗値についても、2巻き目W2と同様に抵抗値を求めた。
【0040】
試験者は、発熱コイル820における各部の抵抗値に基づいて、抵抗比(Rx−Rn)/Rnを求めた。
図4,5に示すように、試料S5,S8の例では、拡径部822における1巻きごとの抵抗値の最大値Rxは、発熱コイル820の1巻き目W1の抵抗値であり、同径部827における1巻きごとの抵抗値の最小値Rnは、5巻き目W5の抵抗値であった。試料S5,S8の例では、発熱コイル820における5巻き目W5は、発熱コイル820のうちシースチューブ810の先端側の表面から後端側へ6mm以上離れた部位であった。
【0041】
図3の評価試験の結果によれば、急速昇温性を確保しつつ発熱温度の高温化を十分に図る観点から、抵抗比(Rx−Rn)/Rnの値は、0.45以上が好ましく、0.49以上がより好ましく、0.50以上がさらに好ましく、0.60以上がいっそう好ましいことが分かる。
【0042】
A3.効果
以上説明した実施形態によれば、拡径部822において発熱コイル820の1巻きごとの抵抗値が閉塞部811に向けて大きくなるため、シースチューブ810の先端側における発熱量を増加できる。その結果、急速昇温性を確保しつつ発熱温度の高温化を図ることができる。また、発熱コイル820において1巻きごとの抵抗値が最大となる部位が拡径部822に位置するため、シースチューブ810の先端側における発熱量をいっそう増加できる。また、抵抗比(Rx−Rn)/Rn≧0.45を満たすことによって、急速昇温性を確保しつつ発熱温度の高温化を十分に図ることができる。
【0043】
B.他の実施形態
本発明は、上述の実施形態や実施例、変形例に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の構成で実現することができる。例えば、発明の概要の欄に記載した各形態中の技術的特徴に対応する実施形態、実施例、変形例中の技術的特徴は、上述の課題の一部または全部を解決するために、あるいは、上述の効果の一部または全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。