特許第6279927号(P6279927)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6279927絶縁ゲート型スイッチング素子を製造する方法及び絶縁ゲート型スイッチング素子
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6279927
(24)【登録日】2018年1月26日
(45)【発行日】2018年2月14日
(54)【発明の名称】絶縁ゲート型スイッチング素子を製造する方法及び絶縁ゲート型スイッチング素子
(51)【国際特許分類】
   H01L 29/78 20060101AFI20180205BHJP
   H01L 29/12 20060101ALI20180205BHJP
   H01L 21/336 20060101ALI20180205BHJP
【FI】
   H01L29/78 652E
   H01L29/78 652T
   H01L29/78 653A
   H01L29/78 658A
   H01L29/78 658E
【請求項の数】4
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2014-27750(P2014-27750)
(22)【出願日】2014年2月17日
(65)【公開番号】特開2015-153948(P2015-153948A)
(43)【公開日】2015年8月24日
【審査請求日】2016年8月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】特許業務法人快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】添野 明高
(72)【発明者】
【氏名】竹内 有一
(72)【発明者】
【氏名】副島 成雅
【審査官】 綿引 隆
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−147228(JP,A)
【文献】 特開2014−236189(JP,A)
【文献】 特開2001−250947(JP,A)
【文献】 特開2012−99601(JP,A)
【文献】 特開2012−69933(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 29/78
H01L 21/336
H01L 29/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁ゲート型スイッチング素子を製造する方法であって、
第1導電型の第1領域を有する半導体基板の表面に第2導電型不純物を注入することによって、前記半導体基板のうちの前記表面に露出する範囲に第2導電型の第2領域を形成する工程と、
前記第2領域を形成した後に、前記表面上に前記第2領域よりも第2導電型不純物濃度が低い第2導電型の第3領域をエピタキシャル成長により形成する工程と、
前記第3領域に接しており、前記第2領域及び前記第3領域によって前記第1領域から分離されている第1導電型の第4領域を形成する工程と、
前記第4領域、前記第3領域及び前記第2領域を貫通して前記第1領域に達するトレンチを形成する工程と、
前記トレンチ内に、絶縁膜と、前記第2領域及び前記第3領域に対して前記絶縁膜を介して対向するトレンチゲート電極を形成する工程、
を有し、
前記第2領域と前記第3領域が、前記第2領域が前記第3領域によって前記第4領域から分離され、前記第3領域が前記第2領域によって前記第1領域から分離されるように形成される、方法。
【請求項2】
前記第3領域の第1導電型不純物濃度が、前記第1領域の第1導電型不純物濃度より低い請求項1の方法。
【請求項3】
絶縁ゲート型スイッチング素子であって、
第1導電型の第1領域と、
前記第1領域上に形成されている第2導電型の第2領域と、
前記第2領域上に形成されており、前記第2領域よりも第2導電型不純物濃度が低い第2導電型の第3領域と、
前記第3領域に接しており、前記第2領域及び前記第3領域によって前記第1領域から分離されている第1導電型の第4領域と、
前記第4領域、前記第3領域及び前記第2領域を貫通して前記第1領域に達するトレンチと、
前記トレンチ内に配置されている絶縁膜と、
前記トレンチ内に配置されており、前記第2領域及び前記第3領域に対して前記絶縁膜を介して対向するトレンチゲート電極、
を有しており、
前記第1領域及び前記第2領域の第1導電型不純物濃度が略一定であり、
前記第2領域の厚み方向における第2導電型不純物濃度分布が、極大値を有しており、
第3領域の第2導電型不純物濃度が略一定であり、
前記第2領域が前記第3領域によって前記第4領域から分離されており、前記第3領域が前記第2領域によって前記第1領域から分離されている、絶縁ゲート型スイッチング素子。
【請求項4】
前記第3領域の第1導電型不純物濃度が、前記第1領域の第1導電型不純物濃度より低い請求項3の絶縁ゲート型スイッチング素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書が開示する技術は、絶縁ゲート型スイッチング素子に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、nベース層と、pベース層と、nエミッタ層と、ゲート電極を有するIGBTが開示されている。pベース層は、p型不純物濃度が高い高濃度pベース層と、p型不純物濃度が低い低濃度pベース層を有している。高濃度pベース層はnベース層に接しており、低濃度pベース層はnエミッタ層に接している。ゲート電極にオン電位を印加すると、pベース層にチャネルが形成されて、nベース層からnエミッタ層に向かって電子が流れる。このIGBTでは、コレクタ‐エミッタ間電圧が高くなると、高濃度pベース層の電位が上昇し、高濃度pベース層に形成されているチャネルがピンチオフし、IGBTに流れる電流が飽和する。このため、このIGBTは、短絡耐量が高い。なお、特許文献1では、IGBTに高濃度pベース層を設けた技術について説明しているが、MOSFET等のような他の絶縁ゲート型スイッチング素子に高濃度pベース層を設けても、短絡耐量を向上させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−250947号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した高濃度pベース層は、通常、半導体基板に対して所定の深さにp型不純物を注入することで形成される。p型不純物を注入する際には、注入されたp型不純物が通過した半導体層内に多数の欠陥が形成される。すなわち、高濃度pベース層よりも浅い位置に存在する低濃度pベース層内に多数の欠陥が形成される。低濃度pベース層は、チャネルが形成される領域である。チャネルに多数の欠陥が存在していれば、チャネル移動度が低下し、素子のオン抵抗が上昇してしまう。
【0005】
したがって、本明細書では、絶縁ゲート型スイッチング素子において、高い短絡耐量と高いチャネル移動度を実現する技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した問題に対し、高濃度pベース層と低濃度pベース層をエピタキシャル成長によって形成することが考えられる。この方法によれば、低濃度pベース層に欠陥が形成されることを抑制することができる。しかしながら、エピタキシャル成長によって高濃度pベース層を形成すると、高濃度pベース層の不純物濃度を正確に制御することが困難となる。その結果、絶縁ゲート型スイッチング素子を量産する際に、高濃度pベース層の不純物濃度のばらつきが大きくなり、これによってゲート電圧の閾値のばらつきが大きくなるという問題が生じる。したがって、本明細書では、以下の絶縁ゲート型スイッチング素子の製造方法を提案する。
【0007】
本明細書が開示する絶縁ゲート型スイッチング素子の製造方法は、第1導電型の第1領域を有する半導体基板の表面に第2導電型不純物を注入することによって、前記半導体基板のうちの前記表面に露出する範囲に第2導電型の第2領域を形成する工程と、前記第2領域を形成した後に、前記表面上に前記第2領域よりも第2導電型不純物濃度が低い第2導電型の第3領域をエピタキシャル成長により形成する工程と、前記第3領域に接しており、前記第2領域及び前記第3領域によって前記第1領域から分離されている第1導電型の第4領域を形成する工程と、前記第2領域及び前記第3領域に対して絶縁膜を介して対向するトレンチゲート電極を形成する工程を有する。
【0008】
この方法により製造される絶縁ゲート型スイッチング素子では、第2領域と第3領域にチャネルが形成される。この製造方法では、まず、第2導電型不純物注入によって、第2導電型不純物濃度が高い第2領域を形成する。そして、その後に、第2領域上に、エピタキシャル成長によって第2導電型不純物濃度が低い第3領域を形成する。第3領域が第2領域よりも後に形成されるため、第2領域を形成する際に第3領域に欠陥が形成されない。したがって、この方法により製造された絶縁ゲート型スイッチング素子は、チャネル移動度が高い。また、この方法により製造される絶縁ゲート型スイッチング素子では、チャネルの一部が第2導電型不純物濃度が高い第2領域に形成される。このため、この絶縁ゲート型スイッチング素子は短絡耐量が高い。また、この方法では、第2導電型不純物を注入することによって第2領域を形成するので、第2領域の第2導電型不純物濃度を正確に制御することができる。したがって、この方法によって製造される絶縁ゲート型スイッチング素子は、ゲート電圧の閾値のばらつきが小さい。
【0009】
上述した方法においては、前記第3領域の第1導電型不純物濃度が、前記第1領域の第1導電型不純物濃度より低くてもよい。
【0010】
この構成によれば、第3領域のチャネル移動度をさらに向上させることができる。
【0011】
また、本明細書は、新たな絶縁ゲート型スイッチング素子を提供する。この絶縁ゲート型スイッチング素子は、第1導電型の第1領域と、前記第1領域上に形成されている第2導電型の第2領域と、前記第2領域上に形成されており、前記第2領域よりも第2導電型不純物濃度が低い第2導電型の第3領域と、前記第3領域に接しており、前記第2領域及び前記第3領域によって前記第1領域から分離されている第1導電型の第4領域と、前記第2領域及び前記第3領域に対して絶縁膜を介して対向するトレンチゲート電極を有する。前記第1領域及び前記第2領域の第1導電型不純物濃度が略一定であり、前記第2領域の厚み方向における第2導電型不純物濃度分布が、極大値を有しており、第3領域の第2導電型不純物濃度が略一定である。
【0012】
この絶縁ゲート型スイッチング素子は、上述した方法によって製造することができる。したがって、この絶縁ゲート型半導体素子は、短絡耐量が高く、チャネル移動度が高い。また、この絶縁ゲート型スイッチング素子を量産したときに、ゲート電圧の閾値にばらつきが生じ難い。なお、この絶縁ゲート型スイッチング素子においても、前記第3領域の第1導電型不純物濃度が、前記第1領域の第1導電型不純物濃度より低くてもよい。なお、上記の「略一定」とは、各領域内の不純物濃度の最大値と最小値の差が、一般的な製造誤差レベル未満であることを意味する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】半導体装置10の縦断面図。
図2図1のII−II線における不純物濃度分布を示すグラフ。
図3】半導体装置10の製造方法の説明図。
図4】半導体装置10の製造方法の説明図。
図5】半導体装置10の製造方法の説明図。
図6】半導体装置10の製造方法の説明図。
図7】半導体装置10の製造方法の説明図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1に示す半導体装置10は、SiCからなる半導体基板12を有している。半導体基板12の表面には、表面電極14が形成されている。半導体基板12の裏面には、裏面電極18が形成されている。
【0015】
半導体基板12には、ソース領域22、ボディコンタクト領域24、低濃度ボディ領域26、高濃度ボディ領域27、ドリフト領域28、ドレイン領域30及びゲートトレンチ34が形成されている。
【0016】
ソース領域22は、高濃度にn型不純物(本実施形態では窒素)を含むn型領域である。ソース領域22は、半導体基板12の上面に露出する範囲に形成されている。ソース領域22は、表面電極14に対してオーミック接続されている。
【0017】
ボディコンタクト領域24は、高濃度にp型不純物(本実施形態ではアルミニウム)を含むp型領域である。ボディコンタクト領域24は、ソース領域22が形成されていない位置において半導体基板12の上面に露出するように形成されている。ボディコンタクト領域24は、表面電極14に対してオーミック接続されている。
【0018】
低濃度ボディ領域26は、低濃度にp型不純物を含むp型領域である。低濃度ボディ領域26のp型不純物濃度は、ボディコンタクト領域24のp型不純物濃度よりも低い。低濃度ボディ領域26は、ソース領域22及びボディコンタクト領域24の下側に形成されており、これらの領域に接している。
【0019】
高濃度ボディ領域27は、比較的高濃度にp型不純物を含むp型領域である。高濃度ボディ領域27のp型不純物濃度は、ボディコンタクト領域24のp型不純物濃度よりも低い。また、高濃度ボディ領域27のp型不純物濃度は、低濃度ボディ領域26のp型不純物濃度よりも高い(より詳細には、高濃度ボディ領域27のp型不純物濃度の平均値が、低濃度ボディ領域26のp型不純物濃度の平均値よりも高い)。高濃度ボディ領域27は、低濃度ボディ領域26の下側に形成されており、低濃度ボディ領域26に接している。高濃度ボディ領域27は、低濃度ボディ領域26によって、ソース領域22から分離されている。
【0020】
ドリフト領域28は、低濃度にn型不純物を含むn型領域である。ドリフト領域28のn型不純物濃度は、ソース領域22のn型不純物濃度よりも低い。ドリフト領域28は、高濃度ボディ領域27の下側に形成されている。ドリフト領域28は、高濃度ボディ領域27に接しており、高濃度ボディ領域27によって低濃度ボディ領域26から分離されている。
【0021】
ドレイン領域30は、高濃度にn型不純物を含むn型領域である。ドレイン領域30のn型不純物濃度は、ドリフト領域28のn型不純物濃度よりも高い。ドレイン領域30は、ドリフト領域28の下側に形成されている。ドレイン領域30は、ドリフト領域28に接しており、ドリフト領域28によって高濃度ボディ領域27から分離されている。ドレイン領域30は、半導体基板12の下面に露出する範囲に形成されている。ドレイン領域30は、裏面電極18に対してオーミック接続されている。
【0022】
半導体基板12の上面には、複数のゲートトレンチ34が形成されている。各ゲートトレンチ34は、ソース領域22と低濃度ボディ領域26と高濃度ボディ領域27を貫通し、ドリフト領域28に達するように形成されている。各ゲートトレンチ34内には、ゲート絶縁膜34aと、ゲート電極34bが形成されている。ゲートトレンチ34の内面は、ゲート絶縁膜34aによって覆われている。ゲートトレンチ34内には、ゲート電極34bが充填されている。ゲート電極34bは、半導体基板12の表面から高濃度ボディ領域27よりも深い位置まで伸びている。ゲート電極34bは、ゲート絶縁膜34aを介して、ソース領域22、低濃度ボディ領域26、高濃度ボディ領域27及びドリフト領域28と対向している。ゲート電極34bは、ゲート絶縁膜34aによって、半導体基板12から絶縁されている。ゲート電極34bの上面は、絶縁層34cによって覆われている。絶縁層34cによって、ゲート電極34bは表面電極14から絶縁されている。
【0023】
図2は、図1のII−II線に沿った不純物濃度分布を示している。すなわち、半導体基板12の厚み方向における低濃度ボディ領域26、高濃度ボディ領域27及びドリフト領域28内の不純物濃度分布を示している。
【0024】
低濃度ボディ領域26内では、n型不純物濃度が略一定の濃度N1で分布している。高濃度ボディ領域27及びドリフト領域28内では、n型不純物が略一定の濃度N2で分布している。濃度N2は濃度N1より高い。すなわち、低濃度ボディ領域26のn型不純物濃度の平均値は、高濃度ボディ領域27及びドリフト領域28のn型不純物濃度の平均値よりも低い。低濃度ボディ領域26内では、p型不純物濃度が略一定の濃度N3で分布している。高濃度ボディ領域27内では、p型不純物濃度が、ピーク濃度N4を有するように分布している。すなわち、高濃度ボディ領域27の上端の深さでは、p型不純物濃度は濃度N3である。高濃度ボディ領域27の上端からドリフト領域28側に向かうに従って、p型不純物濃度が徐々に上昇する。p型不純物濃度は、高濃度ボディ領域27の略中央の深さにおいてピーク濃度N4となる。ピーク濃度N4の深さから下側では、p型不純物濃度はドリフト領域28側に向かうに従って徐々に低下する。ドリフト領域28内では、p型不純物濃度は略ゼロとなっている。なお、濃度N1、N2、N3は各領域内で一定であることが好ましいが、現実的には濃度N1、N2、N3に誤差範囲のばらつきが生じる。各不純物濃度のばらつきは、(最大値−最小値)/{(最小値+最大値)/2}により定義することができる。低濃度ボディ領域26のn型不純物濃度N1のばらつきは、±10%以内であることが好ましい。低濃度ボディ領域26のp型不純物濃度N3のばらつきは、±10%以内であることが好ましい。高濃度ボディ領域27及びドリフト領域28内のn型不純物濃度のばらつきは、±7%以内であることが好ましい。
【0025】
半導体基板12内には、上述した構成によって、MOSFETが形成されている。ゲート電極34bに閾値以上の電圧を印加することで、ゲート絶縁膜34a近傍の低濃度ボディ領域26及び高濃度ボディ領域27(すなわち、ソース領域22とドリフト領域28に挟まれた範囲の低濃度ボディ領域26及び高濃度ボディ領域27)にチャネル32が形成される。チャネル32が形成されることで、電子が、ソース領域22からドリフト領域28に流れることが可能となる。ゲート電圧を閾値以下に低下させると、チャネル32が消失し、ソース領域22からドリフト領域28に電子が流れなくなる。すなわち、MOSFETがオフする。本実施形態の半導体装置10では、以下に説明するように、MOSFETの飽和チャネル電流が低く抑えられている。すなわち、MOSFETがオンしている際にソース‐ドレイン間に非常に高い電圧が印加されると、高濃度ボディ領域27の電位が上昇する。すると、高濃度ボディ領域27とゲート電極34bの間の電位差が閾値未満となるため、高濃度ボディ領域27にチャネル32を維持することができなくなり、高濃度ボディ領域27内においてチャネル32がピンチオフする。これによって、チャネル32に流れる電流が飽和する。このように、このMOSFETは、飽和チャネル電流が低く、したがって、短絡耐量が高い。
【0026】
次に、半導体装置10の製造方法について説明する。まず、図3に示すSiCからなるn型の半導体基板50を用意する。半導体基板50内では、n型不純物が、上述したドリフト領域28と略同じ濃度で均一に分布している。
【0027】
まず、半導体基板50の表面52に、p型不純物をイオン注入する。次に、半導体基板50を熱処理することで、注入されたp型不純物を拡散させ、活性化させる。これによって、図4に示すように、半導体基板50内の表面52に露出する範囲に、p型の高濃度ボディ領域27が形成される。高濃度ボディ領域27より下側のn型領域は、ドリフト領域28に相当する。
【0028】
上記のように、高濃度ボディ領域27はp型不純物のイオン注入によって形成されるので、高濃度ボディ領域27内では図2に示すようにp型不純物がピーク値N4を有するように、ガウス分布状に分布する。また、高濃度ボディ領域27は、n型の半導体基板50にp型不純物を注入して形成された領域であるので、図2に示すように高濃度ボディ領域27内のn型不純物濃度はドリフト領域28と同様に均一となる。
【0029】
次に、図5に示すように、半導体基板12の表面(すなわち、高濃度ボディ領域27上)に、SiCからなるp型層26aをエピタキシャル成長により形成する。後に詳述するが、p型層26aの一部は、低濃度ボディ領域26となる。ここでは、図2に示すように、p型層26a(すなわち、低濃度ボディ領域26)のp型不純物濃度が濃度N3で略一定となり、p型層26a(すなわち、低濃度ボディ領域26)のn型不純物濃度が濃度N1で略一定となるように、エピタキシャル成長の工程条件を調整する。エピタキシャル成長によれば、図2の低濃度ボディ領域26内の分布のように各不純物濃度が略一定の値で分布するようにp型層26aを形成することができる。
【0030】
次に、イオン注入及び熱拡散によって、図6に示すように、p型層26aの表面に露出する範囲に、ソース領域22及びボディコンタクト領域24を形成する。p型層26aのうち、ソース領域22及びボディコンタクト領域24とならなかった下側の領域が、低濃度ボディ領域26となる。
【0031】
次に、図7に示すように、ゲートトレンチ34、ゲート絶縁膜34a及びゲート電極34bを形成する。その後、表面側の必要な加工(表面電極14の形成等)を形成し、裏面側の必要な加工(裏面研磨、裏面電極18の形成等)を行うことで、図1の半導体装置10が完成する。
【0032】
上述した製造方法では、イオン注入によって図4に示すように高濃度ボディ領域27を形成した後に、高濃度ボディ領域27上に低濃度ボディ領域26をエピタキシャル成長させる。このため、低濃度ボディ領域26は、高濃度ボディ領域27を形成するためのイオン注入によってダメージを受けていない(すなわち、高濃度ボディ領域27を形成するためのイオン注入によって低濃度ボディ領域26に結晶欠陥が形成されていない)。また、図6に示すようにイオン注入によってソース領域22及びボディコンタクト領域24を形成する工程でも、低濃度ボディ領域26にはイオンが注入されておらず、この工程でも低濃度ボディ領域26にほとんど結晶欠陥が形成されていない。このため、低濃度ボディ領域26内に存在する結晶欠陥は極めて少ない。上述したように、低濃度ボディ領域26にはチャネル32が形成される。低濃度ボディ領域26内に存在する結晶欠陥が極めて少ないので、低濃度ボディ領域26に形成されるチャネル32の移動度は非常に高い。したがって、この半導体装置10は、オン電圧が低い。
【0033】
また、上述した製造方法では、低濃度ボディ領域26のn型不純物濃度が、半導体基板50のn型不純物濃度よりも低くなるように低濃度ボディ領域26を形成する。チャネル32に存在するn型不純物は、電子を散乱するため、チャネル32の移動度を低下させる。半導体装置10では、低濃度ボディ領域26のn型不純物濃度が半導体基板50のn型不純物濃度よりも低くなっていることによっても、低濃度ボディ領域26に形成されるチャネル32の移動度が向上されている。これによって、半導体装置10のオン電圧がより低減されている。
【0034】
また、ゲート電圧の閾値は、チャネル32のうちの最もp型不純物濃度が高い領域のp型不純物濃度によって定まる。上述した実施形態では、高濃度ボディ領域27内のp型不純物濃度のピーク濃度N4によってゲート電圧の閾値が決まる。上述した製造方法では、高濃度ボディ領域27をイオン注入によって形成する。イオン注入によれば、高濃度ボディ領域27のp型不純物濃度(すなわち、ピーク濃度N4)を正確に制御することができる。すなわち、仮に、高濃度ボディ領域27をエピタキシャル成長により形成することを考えた場合、エピタキシャル層の不純物濃度は成長工程における温度の影響によって大きく変動するため、高濃度ボディ領域27の濃度を正確に制御することが困難である。これに対し、上述した実施形態のようにイオン注入によって高濃度ボディ領域27を形成する場合には、エピタキシャル成長によって形成する場合に比べてばらつき要因が小さいため、高濃度ボディ領域27のp型不純物濃度を正確に制御することができる。したがって、上述した実施形態によれば、半導体装置10を量産した場合に、ゲート電圧の閾値のばらつきを抑制することができる。
【0035】
以上に説明したように、実施形態の製造方法及び半導体装置10によれば、MOSFETのチャネル移動度を向上させ、MOSFETの短絡耐量を向上させ、ゲート電圧の閾値のばらつきを抑制することができる。
【0036】
なお、上述した実施例では、MOSFETについて説明したが、IGBT等の他の絶縁ゲート型スイッチング素子に本明細書に開示の技術を適用してもよい。また、上述した実施形態では、半導体基板50がSiCにより構成されていたが、他の半導体材料からなる半導体基板に本明細書に開示の技術を適用してもよい。但し、本明細書に開示の技術は、以下の理由により、SiC製の半導体基板で特に有用である。すなわち、SiC製の半導体基板では、イオン注入により半導体基板に注入された不純物の活性化率が極めて低い。したがって、仮に、低濃度ボディ領域26に不純物がイオン注入された場合を考えると、注入された不純物の多くが活性化せず、低濃度ボディ領域26に結晶欠陥が多く残る。このため、SiC製の半導体基板に本明細書に開示の技術を適用して低濃度ボディ領域26へのイオン注入を回避することで、SiC製の絶縁ゲート型スイッチング素子のチャネル移動度を大きく改善することができる。また、SiC層をエピタキシャル成長させる場合に必要な温度は、約1600℃であり、Si層を成長させる場合の温度(約1100℃)よりもかなり高い。このため、SiC層をエピタキシャル成長させる工程では特に温度の制御が困難であり、このために、エピタキシャル層の不純物濃度にばらつきが生じやすい。したがって、仮に、SiC製の高濃度ボディ領域27をエピタキシャル成長により形成した場合を考えると、高濃度ボディ領域27の不純物濃度にばらつきが生じやすく、その結果、ゲート電圧の閾値にばらつきが生じ易い。これに対し、本明細書に開示の技術を適用して高濃度ボディ領域27をイオン注入により形成すれば、SiC製の高濃度ボディ領域27のp型不純物濃度を正確に制御することが可能となり、ゲート閾値電圧のばらつきを大きく改善することができる。
【0037】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例をさまざまに変形、変更したものが含まれる。
本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組み合わせによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組み合わせに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成するものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【符号の説明】
【0038】
10:半導体装置
12:半導体基板
14:表面電極
18:裏面電極
22:ソース領域
24:ボディコンタクト領域
26:低濃度ボディ領域
26a:p型層
27:高濃度ボディ領域
28:ドリフト領域
30:ドレイン領域
32:チャネル
34:ゲートトレンチ
34a:ゲート絶縁膜
34b:ゲート電極
34c:絶縁層
50:半導体基板
52:表面
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7