特許第6279957号(P6279957)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6279957
(24)【登録日】2018年1月26日
(45)【発行日】2018年2月14日
(54)【発明の名称】フロントフォーク
(51)【国際特許分類】
   F16F 9/32 20060101AFI20180205BHJP
   F16F 9/06 20060101ALI20180205BHJP
   B62K 25/08 20060101ALI20180205BHJP
【FI】
   F16F9/32 L
   F16F9/06
   F16F9/32 C
   B62K25/08 C
【請求項の数】3
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-74115(P2014-74115)
(22)【出願日】2014年3月31日
(65)【公開番号】特開2015-197128(P2015-197128A)
(43)【公開日】2015年11月9日
【審査請求日】2017年2月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000146010
【氏名又は名称】株式会社ショーワ
(74)【代理人】
【識別番号】100080296
【弁理士】
【氏名又は名称】宮園 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100141243
【弁理士】
【氏名又は名称】宮園 靖夫
(72)【発明者】
【氏名】池田 大輔
【審査官】 杉山 豊博
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−275912(JP,A)
【文献】 特開2012−211627(JP,A)
【文献】 特開2013−104497(JP,A)
【文献】 特開2011−058526(JP,A)
【文献】 特開平10−159886(JP,A)
【文献】 特開2003−172395(JP,A)
【文献】 実開平02−135734(JP,U)
【文献】 特開2011−163537(JP,A)
【文献】 特開2004−293660(JP,A)
【文献】 特開2015−190585(JP,A)
【文献】 特開2015−190595(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 9/32
B62K 25/08
F16F 9/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピストン及びこのピストンを支持するロッドと、
上記ピストンが摺動自在に収容され、かつ上記ピストンで第1油貯留室と第2油貯留室とに区画された長手状のシリンダ空間と、
このシリンダ空間の外周に形成された油流路室と、
シリンダ上部に設けられ、かつ第1油貯留室と油流路室とを連通する連通孔と、
上記シリンダ空間と油流路室との下部を封止固定するホルダ部材と、
上記ロッドを支持するキャップ部材と、
上記第2油貯留室の第1下部開口と上記油流路室の第2下部開口に両側が接続された減衰力発生手段とを備え、
圧縮時に上記ピストンの押圧力で第1下部開口より押し出される作動油を上記減衰力発生手段を経由させ、減衰力を付与してから第2下部開口、油流路室から上記連通孔を介して第1油貯留室に循環させ、
伸長時に上記ピストンの引圧力で上記第1油貯留室内の作動油を上記連通孔を介して油流路室から第2下部開口より押し出される作動油を減衰力発生手段を経由させ、減衰力を付与してから上記第1下部開口より第2油貯留室に循環させ、
上記油流路室の外周側にリング状の外緩衝室を形成するとともに、この外緩衝室の内外周を摺動する筒状のリング体よりなるリングピストン部材を設け、かつ、上記キャップ部材側より上記外緩衝室方向に延長するとともに先端側で、上記リング体を保持する保持筒を設けるように構成したフロントフォークであって、
上記リング体により区画された上部空間と下部空間とを連通する空気流路を上記リング体に設けるとともに、上記下部空間内の内周及び外周に密接されるリング状の摺動部材を設け上記リング体により摺動部材を下部空間の底部方向に押圧可能としたことを特徴とするフロントフォーク。
【請求項2】
上記空気流路は上記リング体の内周に形成され、かつ、上部空間から下部空間方向に延長する凹溝よりなることを特徴とする請求項1に記載のフロントフォーク。
【請求項3】
上記摺動部材は内外周に設けた凹溝に嵌合されるシール材を有することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のフロントフォーク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フロントフォークに関し、特に、空気ばねの採用により圧側行程における反力調整を容易にしたフロントフォークに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、二輪車のフロントフォークには、引用文献1に開示されるように、フォーク本体を圧縮方向及び伸張方向に付勢する懸架ばねを用いてダンパ効果を得るものがある。
しかし、このばねを採用するものにあっては、ばね自体の固有振動によって、自励振動や高周波領域での振動吸収性能があまり良いとは言えず、またこのばねによる反力調整に際してばね自体を他の固有振動のものと取り替えなければならない手間を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−293660号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、このような問題を解消するためになされたもので、特定部位に空気ばねを採用することで、自励振動や高周波領域での振動吸収性を改善可能とし、かつ、反力調整を改善可能としセッティング作業性を効率化するとともに軽量化を図るものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するための本発明に係るフロントフォークの構成として、ピストン及びこのピストンを支持するロッドと、上記ピストンが摺動自在に収容され、かつ上記ピストンで第1油貯留室と第2油貯留室とに区画された長手状のシリンダ空間と、このシリンダ空間の外周に形成された油流路室と、シリンダ上部に設けられ、かつ第1油貯留室と油流路室とを連通する連通孔と、上記シリンダ空間と油流路室との下部を封止固定するホルダ部材と、上記ロッドを支持するキャップ部材と、上記第2油貯留室の第1下部開口と上記油流路室の第2下部開口に両側が接続された減衰力発生手段とを備え、圧縮時に上記ピストンの押圧力で第1下部開口より押し出される作動油を上記減衰力発生手段を経由させ、減衰力を付与してから第2下部開口、油流路室から上記連通孔を介して第1油貯留室に循環させ、伸長時に上記ピストンの引圧力で上記第1油貯留室内の作動油を上記連通孔を介して油流路室から第2下部開口より押し出される作動油を減衰力発生手段を経由させ、減衰力を付与してから上記第1下部開口より第2油貯留室に循環させ、上記油流路室の外周側にリング状の外緩衝室を形成するとともに、この外緩衝室の内外周を摺動する筒状のリング体よりなるリングピストン部材を設け、かつ、上記キャップ部材側より上記外緩衝室方向に延長するとともに先端側で、上記リング体を保持する保持筒を設けるように構成したフロントフォークであって、上記リング体により区画された上部空間と下部空間とを連通する空気流路を上記リング体に設けるとともに、上記下部空間内の内周及び外周に密接されるリング状の摺動部材を設け上記リング体により摺動部材を下部空間の底部方向に押圧可能としたので、減衰力発生手段により十分な減衰力を得ることができブレーキング時や定常走行時などの走行状態に関わらず好適な減衰力が得られるだけでなく、空気ばねとしての下部空間内の圧縮力による反力をリング体に伝えることができ、したがって特定部位に空気ばねを採用することにより、フロントフォークの重量を軽量化するとともに、従来のような金属ばねで生じる自励振動や高周波領域での振動吸収性を改善可能とし、かつ、反力特性を改善可能とし空気圧によるセッティング作業の効率化を図ることができる。
【0006】
また、本発明に係るフロントフォークの他の構成として、上記空気流路は上記リング体の内周に形成され、かつ、上部空間から下部空間方向に延長する凹溝よりなるので、上部空間や下部空間の圧力に応じて空気流路を流れる空気の流れを規制しつつリング体に所期の圧力を付与することにより所望の緩衝性能を得ることができる。
【0007】
また、本発明に係るフロントフォークの他の構成として、上記摺動部材は、内外周に設けた凹溝に嵌合されるシール材を有するので、簡単な構成で圧力室を空気ばねとして機能させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】フロントフォークの断面図である。
図2】フロントフォークの要部断面図である。
図3】フロントフォークの要部斜視図である。
図4】フロントフォークの要部断面図である。
図5】減衰力発生機構及び温度補償機構の要部断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
図1は本発明に係るフロントフォークの一実施形態を示す断面図であり、図2図4はその要部拡大断面図、図3は要部斜視図である。各図において、1は車軸側に取付けられるホルダ部材であり、このホルダ部材1は、車軸取付孔1aに貫通される車軸を締め付ける締付けボルト1bを有し、このホルダ部材1の側部側に、後述の減衰力発生機構70及び温度補償機構130を有する。なお、1iはブレーキキャリパ取付部、1tは車速センサ取付部、1yは割部である。車軸取付孔1aに図示しない車軸を挿入してボルト1bを締め付けることで割部1yを狭くして車軸をホルダ部材1を固定する。このホルダ部材1と車体側キャップ部材12との間で伸縮自在な長手状のフロントフォーク本体Sが保持される。後述の上部油室F1、下部油室F2、間隙5、減衰力発生機構70、温度補償機構130等に作動油が封入されるなお、27は、ホルダ部材1の側部において突出するように上下一対に形成され、車輪外周の一部を被い保護するフェンダーを固定するためのフェンダー取付部である。
【0010】
上記フロントフォーク本体Sの内部には、中心軸に沿って細筒体よりなるロッド2が位置される。このロッド2の先端側にピストン3が取り付けられ、このロッド2はシリンダ4の上側の開口より挿通される。このロッド2の下部先端は、ピストン3の上部穴3aにねじ止めして固定される。ピストン3の下端外周には、スライド封止部材3gが取り付けられるので、ピストン3は内シリンダとしてのシリンダ4の内周とで封止状態を保ちつつ上下にスライド自在となっている。なお、ピストン3によりシリンダ4の内部空間(シリンダ空間)Fが、第1油貯留室としての上部油室F1と第2油貯留室としての下部油室F2とに区画される。
【0011】
20はガイド筒であり、このガイド筒20は、下端がホルダ部材1の穴1nに封止状態で嵌合されて上方に突出し、その上端外周に筒状のガイド21がねじ部22により螺着して被せられ、このガイド21の上部内周の溝23にシール部材24が取り付けられ、ガイド21によりロッド2と別体のガイドロッド25がガイド筒20の内部方向に進退可能となっている。ガイドロッド25は、ガイド21によりガイドされてガイド筒20内を上下方向に移動することで、ピストン3を中心軸に沿って直線状に導く。ガイド21の外周には、作動油流通路30が形成されるので、下部油室F2内の作動油は、ピストン3より下部側で、かつガイドロッド25の外周及びガイド筒20の外周とで圧力に変化はない。
【0012】
シリンダ4は、上記ガイド21より大径となっており、その下端側は、ホルダ部材1の穴1xに封止状態で螺合され、その上端側に連通孔Jを有する。上記ホルダ部材1より突出する保持筒40mの内周には、外シリンダ7の下端側が封止状態で嵌合される。なお、内シリンダとしてのシリンダ4と、外シリンダ7との間には間隙5が形成される。この間隙5は、連通孔Jを介して上部油室F1の作動油を後述の減衰力発生機構70に流通させるための油流路室Rとして機能する。また、ピストン3より下部側の下部油室F2の底部側には第1下部開口42が形成され、また間隙5の底部側には第2下部開口43が形成される。
第1下部開口42は、ホルダ部材1の内周においてシリンダ4の下端よりも下側にリング状に形成されたリング溝42aの一部より延長する孔44を介して減衰力発生機構70の一端45側に接続され、第2下部開口43はリング溝43aから孔47を介して減衰力発生機構70の他端48側に接続される。
【0013】
上記外シリンダ7の上端内周側には、ロッドガイド6の下部外周が螺合して固着される。このロッドガイド6の内周側にはスライドシール6aが設けられ、このスライドシール6aによりロッド2の外周が摺動状態で封止される。6bは、ロッドガイド6の外周と外シリンダ7の内周とを封止するためのシールである。ロッドガイド6の下部側内周には、ロッド2の外周との摺動を支持するリング状のスライドスリーブ6dが圧入して取り付けられる。ロッドガイド6の下面には、リング材6cが位置される。このリング材6cの下端には、ばね座6fが設けられる。ばね座6fの内周にはスライドスリーブ6eが圧入して取り付けられ、ばね座6fがロッド2の外周を摺動可能となるように構成される。
【0014】
ロッド2の所定位置の外周には、ストッパ2gが位置される。このストッパ2gは、ロッド2の外周に図外の固定手段で固定されたストッパホルダ2nに螺合する止め具2mと一体化される。上記ストッパ2gはロッド2が下方に摺動する場合に、ピストン3が一定位置まで移動したときにロッドガイド6の上端に当接してピストン3及びロッド2の下方向への移動を規制する。
【0015】
ロッドガイド6のやや下部側に位置するピストン3の上部側外周は、テーパー状となったばね座3bとなっている。ばね座6fとばね座3bとの間にばね50が装着される。この場合、ばね50の上部がばね座6fの外周に、ばね50の下部がばね座3bの外周に取り付けられる。なお、ピストン3の下部側の穴3dにガイドロッド25の上端外周がねじ止めにより嵌合されて、ガイドロッド25はピストン3を介してロッド2と同軸で一体となる。
【0016】
また、保持筒40mの外周には外シリンダ7の外周とで一定間隔のスペース8を形成するように、最外シリンダ9の根元側内周が封止、嵌着される。スペース8は、外緩衝室Mを形成するもので、後述のリングピストン部材14により上部空間16と下部空間17とに区画される。なお、1qは、最外シリンダ9の内周と保持筒40mとの外周とを封止するOリングである。この場合、外シリンダ7はシリンダ4より上方が僅かだけ延長しているが、最外シリンダ9はシリンダ4及び外シリンダ7よりも相当程度長く上方に延長するように寸法設定されている。
【0017】
11は大径の摺動筒であり、最外シリンダ9の外周を囲むように最外シリンダ9の上端側からホルダ部材1方向にかけて延長して、先端内周側に、最外シリンダ9の外周とで気密を保持する封止部材10を有している。摺動筒11の内周には、最外シリンダ9との摺動を可能に互いを支持する軸受11a;11bが上部側及び下部側のそれぞれに設けられる。これによりホルダ部材1に取り付けられる車軸側チューブとしての最外シリンダ9、車体側に取り付けられる車体側チューブとしての摺動筒11とが互いに摺動自在に構成される。
【0018】
摺動筒11の上端内周は、キャップ部材12の基部12nより突出する筒部12fの外周にねじ止めされる。基部12nの穴12aに空転状態で調整ボルト(支持体)12bが取り付けられる。12mは調整ボルト位置決めリングであって、ばね12oの付勢力により、調整ボルト12bを上向きに付勢して調整ボルト12bの位置決めをする。
調整ボルト12bの筒体12cの上部外周には、調整ボルト12bの回転とともに回転する円筒状の筒体12sが取り付けられる。筒体12sの外周には、筒体12sの軸線方向に沿って延長する図示しない溝が形成される。また、筒体12sの外周には、前述の溝の延長方向に沿って移動可能に形成された凸部を内周側に有する円環状のリング体12tが設けられる。リング体12tの外周には、筒部12fの内周に形成されたねじ溝と螺合するねじ溝が形成されている。
また、この調整ボルト12bの筒体12cの下部外周の螺合部には、仕切り片12dを有する吊り筒体12eの上部内周が螺着される。吊り筒体12eの仕切り片12dより下部筒体12gの内周にロッド2の上端外周がねじ部12kを介して螺着される。吊り筒体12eの外周には、この吊り筒体12eの外周を軸線方向に沿って移動するリング状の鍔部12iを備える。この鍔部12iの下面側には、ハット状の保持体12jが設けられ、この保持体12jの外周に保持筒13の上端内周が螺着される。保持筒13はスペース8方向に延長し、その先端側にリングピストン部材14が設けられる。なお、13mは保持筒13に形成された軽量化及び空気の流通を図る長孔である。
【0019】
上述のリング体12tと鍔部12iとの間には、保持筒13の上下方向の移動を可能にするための筒状の保持筒押圧体12pと、筒状の押圧体支持リング12qとが設けられる。保持筒押圧体12pは、押圧体支持リング12qの内周側に設けられ、押圧体支持リング12qと一体となるように、押圧体支持リング12qの内周と外周との間に設けられた保持手段により円周方向に沿って互いに回転可能であるが軸線方向には移動不能に保持される。一体となった保持筒押圧体12p及び押圧体支持リング12qは、押圧体支持リング12qの開放端面がリング体12tの下面と当接し、保持筒押圧体12pの開放端面が鍔部12iの上面と当接する。
これにより、調整ボルト12bを回転することで、リング体12tが筒部12f内周のねじに沿って回転し、上下方向に移動することにより、保持筒押圧体12p及び押圧体支持リング12qが上下動することで、鍔部12i及び保持体12jを介して保持筒13の上下位置が調整される。
【0020】
図2図3において、リングピストン部材14は、ピストン3の位置よりもやや下方に位置するように、保持筒13の下端側に設けられる。上記リングピストン部材14は上記外シリンダ7の外周7aと、最外シリンダ9の内周9bとの間のスペース8を上部空間16と、下部空間17とに区画するリング体15を備える。
リング体15は、基部15cを保持筒13の先端側15w内周のねじ部15xを介して螺入されて取り付けられ、基部15cより下端側が上記保持筒13の下端より突出し、その外周側に最外シリンダ9の内周9bに摺接する外シール15eを備えている。これにより保持筒13の上下動にともなって、リング体15はピストン3と同じ位置関係を保って最外シリンダ9の内周を上下に摺動する。
【0021】
上記リングピストン部材14のリング体15には、上記上部空間16と下部空間17とを連通する空気流路40が設けられる。この空気流路40はリング体15の内周に、上部空間16,下部空間17方向に延長する凹溝を形成してなる。
【0022】
また、リング体15より下側の下部空間17内の内周及び外周に密接されるリング状の摺動部材41が設けられる。この摺動部材41は、内周及び外周に設けた凹溝41a,41bに嵌合されるシール材41cを有する。この摺動部材41は、空気流路40の先端面に当接可能になっている。また、一端がロッドガイド6に取り付けられた筒体よりなる規制手段49が、ホルダ部材1方向に一定長さ分延長し、この規制手段49の先端の接触により摺動部材41の上方向の移動を一定位置に規制する。
【0023】
上記下部空間17は摺動部材41より下部の圧力室17Aに区画される。すなわち、外緩衝室Mは、摺動部材41より下側の圧力室17Aと摺動部材41より上側の圧力室上側室17Bとに区画される。この圧力室17Aには、ホルダ部材1側に設けた空気バルブ1Aからの空気が連通路1Nを介して送られて、内圧が所定の大きさに設定される。
【0024】
リング体15は、基部15cより下端側が上記保持筒13の下端より突出し、突出部15dの外周側に最外シリンダ9の内周9bに摺接する外シール15eを備えている。これにより保持筒13の上下動により、リング体15はピストン3と同じ位置関係を保って上下に摺動する。
【0025】
以上の構成により、ピストン3を収容するシリンダ4の内部空間により緩衝室Bが形成され、外シリンダ7と最外シリンダ9との間のスペース8によりリング状となった外緩衝室Mが形成される。
【0026】
次に、減衰力発生機構70及び温度補償機構130の構成を説明する。図4は、減衰力発生機構70及び温度補償機構130を示す要部拡大断面図である。
上記減衰力発生機構70は、圧側行程では一端45側からの作動油に減衰力を与えて他端48側から流出させ、伸側行程で他端48側からの作動油に減衰力を与えて一端45側より流出させることで圧側及び伸側行程におけるフロントフォーク本体Sの動作に減衰力を付与する。
【0027】
減衰力発生機構70は中心筒体70aと、この中心筒体70aの両側外周に固着された円板状の仕切板70b,70cと、一端45側の仕切板70bに形成された貫通孔70dを塞ぐように仕切板70bの他端48側に取り付けられた圧側減衰バルブ70eと、他端48側の仕切板70cに形成された貫通孔70gを塞ぐように仕切板70cの一端45側に取り付けられた伸側減衰バルブ70hと、圧側減衰バルブ70eと伸側減衰バルブ70hとの間の空間よりなる中間室70iと、中心筒体70aの中心に位置される針弁70jとを備える。
【0028】
圧側減衰バルブ70eと伸側減衰バルブ70hとの間には、円板状のリング体80aが設けられる。リング体80aには、厚さ方向中央部分に、内周から外周にかけて径方向に貫通する複数の貫通孔80bが放射状に形成される。また、この貫通孔80bに対応するように中心筒体70aには、この中心筒体70aを径方向に貫通する貫通孔80cが設けられている。中心筒体70aの中央孔80dは一端45側が小径孔80eとなり、反対側が大径孔80fとなり、小径孔80eの他端48側で針弁70jの先端のテーパ80gとで間隙90aを形成する角部90bが形成される。また、針弁70jの根元側にテーパ部材90fが設けられ、このテーパ部材90fのテーパとで間隙90cを形成する角部90dが形成される。
【0029】
針弁70jは、調整機構90eにより進退自在に微調整される。なお、91aは貫通孔70mを一端45側から塞ぐチェック弁、91bは貫通孔70nを他端48側から塞ぐチェック弁である。圧側減衰バルブ70e、伸側減衰バルブ70h、チェック弁91a,91bはいずれも弾性薄板を複数重ねて層状化して構成される。このような減衰力発生機構70は、ホルダ部材1の側部にフロントフォーク本体Sに対して傾斜して設けられる。
【0030】
以上の構成によれば、圧側行程では、一端45側からの作動油L1が、貫通孔70dから流入し圧側減衰バルブ70eを押し開いて中間室70iに供給されるとともに小径孔80eにも先端側から流入し、間隙90aを介して中央孔80dの貫通孔80cからリング体80aの貫通孔80bを介して中間室70iに供給される。中間室70iの作動油は、貫通孔70nを介してチェック弁91bを押し開いて、他端48方向に供給され、孔47、間隙5から連通孔Jを経由して上部油室F1に導かれる。
また、伸側行程時では、他端48側からの作動油L2は、貫通孔70gから流入し、伸側減衰バルブ70hを押し開いて中間室70iに供給されるとともに大径孔80fに連通する孔93から中央孔80dの貫通孔80cを介して中間室70iに供給される。中間室70iの作動油は、貫通孔70mからチェック弁91aを押し開いて一端45方向に供給され、下部油室F2に導かれる。
【0031】
上述の減衰力発生機構70による減衰力の発生動作において、作動油の温度変化による作動油の体積変化は、中間室70iに開口する通路115を介して温度補償機構130に導かれることで、温度補償がなされる。温度補償機構130は、通路115が開口する油溜室132と、位置が変位自在に設けられたフリーピストン133により区画される加圧室134を反対側に備え、加圧室134内に封入されたガスの圧力と減衰力発生機構70側の作動油の圧力とのバランスをフリーピストン133を変位させることにより、油溜室132に作動油を流入出させて、減衰力発生機構70側の作動油の容積を一定に維持して、外気温度や、フロントフォーク本体Sの動作による作動油の温度上昇などに依存しない安定した減衰力が得られるように構成されている。
【0032】
以上の構成においてこのフロントフォーク本体Sの動作を以下説明する。この場合上部油室F1、下部油室F2、間隙5、減衰力発生機構70、油溜室132からなる緩衝室Bには作動油が充填され、外緩衝室Mを構成する上部空間16及び下部空間17のみが空洞となっている。また、空気バルブ1Aにより、下部空間17の圧力室17Aの空気圧は、所定の圧力レベルに設定されているものとする。
[圧側行程]
車体側と車軸側に取り付けられたフロントフォーク本体Sが収縮する圧側行程では、キャップ部材12がホルダ部材1方向に移動することで、リング体15がホルダ部材1方向に移動し、リング体15の下端が規制手段49の下端から突出すると、摺動部材41がリング体15で下部方向に押圧されてホルダ部材1方向に移動し、下部空間17の摺動部材41の下方の圧力室17Aの空気が圧縮されて空気圧が高くなる。一方、圧力室17Aの空気圧は所定の圧力に設定されているので、摺動部材41の移動を阻止するように動作し、このようにしてキャップ部材12、ロッド2、ピストン3等のホルダ部材1方向への動きに反力が与えられる。したがって、下部空間17の圧力室17Aの空気圧を調整すれば、所望の減衰力の緩衝性能を得ることができる。
【0033】
上述の圧力室17Aの空気圧を高く設定すれば、ロッド2、ピストン3、摺動部材41がホルダ部材1方向に移動しようとする力(反力)を大きく制限でき、圧力室17Aの空気圧を低く設定すれば、
ロッド2、ピストン3、摺動部材41がキャップ部材12方向に移動しようとする力を小さく制限できるので、圧力室17Aの圧力を適宜設定することにより所望の緩衝性能を得ることができる。
また、摺動部材41は圧縮前では規制手段49の先端に当接して停止しており、圧側行程ではリング体15が下降して規制手段49の先端側でリング体15が摺動部材41を押圧し始めるので反力発生のタイミングを規制手段49の長さを調整することにより、リング体15が規制手段49の先端を下方に突き出る前と、下方に突き出た後とにおいて異なる反力が得られることになるため、反力調整が容易となる。
【0034】
また、緩衝室Bではピストン3が下部油室F2内の作動油を加圧して、第1下部開口42よりリング溝42a、孔44を介して減衰力発生機構70内を一端45から他端48に向けて通過させる。この減衰力発生機構70内の通過過程において作動油は、流れに抵抗を受けてから他端48、孔47を介してリング溝43a、第2下部開口43、間隙5、連通孔Jを経由して上部油室F1まで循環する。このように、ピストン3などの圧側行程での減衰力発生機構70の動作により上記減衰による緩衝性能を得ることができる。
なお、減衰力発生機構70内の作動油は、フロントフォーク本体Sの動作状態における油温の変化に基づき、一部が温度補償機構130の油溜室132方向に流れることで、油温変化にともなう作動油の膨張分の容積変化が吸収され、作動油の温度補償がなされている。
【0035】
[伸側行程]
フロントフォーク本体Sが伸長する伸側行程では、リング体15も上昇し、しかもロッド2の外周側空間Nの気圧が低くなり、摺動部材41も圧力室17Aの空気圧でリング体15に追随して上昇する。但し、摺動部材41は、規制手段49の先端に当接した時点で停止される。なお、この上昇に際し、空気流路40を介して空気抜きがなされるのでリング体の上昇がスムーズになされる。
【0036】
また、緩衝室Bではピストン3が上昇して上部油室F1内の油が圧力を受けて、この内部の作動油が連通孔Jから間隙5、第2下部開口43、リング溝43a、孔47を経て減衰力発生機構70の他端48に至り、この減衰力発生機構70で作動油は減衰力を受けて孔44、リング溝42a、第1下部開口42を経由して下部油室F2に循環する。上記減衰力により所定の緩衝性能が得られる。なお、温度上昇により膨張した容積分の作動油は、油溜室132に供給されて作動油の膨張分の温度補償がなされる。また、フロントフォーク本体Sの非動作時や作動油の油温の低下時には、作動油の容積収縮にともない、油溜室132からシリンダ油室F内に作動油が加圧室134の圧力により押し戻される。
【0037】
すなわち、伸側行程ではリング体15の上昇による上部空間16内の空気の圧縮力及び減衰力発生機構70による作動油による減衰力と、空気流路40を流通する空気による減衰力の両者が作用することで、フロントフォーク本体Sの伸長を滑らかに減衰することができる。
【0038】
このように、本発明では外緩衝室Mに伸側,圧側の両行程でリング体15に作用する空気ばねを形成したので、懸架ばねを不要として自励振動や高周波領域での振動吸収力の劣化にあまり配慮する必要がなくなり、さらに反力調整が容易となる。
【0039】
なお、外緩衝室Mのみ空洞として説明したが、本発明では、この外緩衝室M内に作動油を適量封入しても良い。外緩衝室M内に封入する作動油の油量、すなわち油面高さを調整することにより、外緩衝室Mの容積を変化させて外緩衝室Mにおける圧縮比の調整が可能となる。
【符号の説明】
【0040】
1 ホルダ部材、2 ロッド、3 ピストン、4 シリンダ、7 外シリンダ、
9 最外シリンダ、11 摺動筒、12 キャップ部材、13 保持筒、
14 リングピストン部材、15 リング体、16 上部空間、17 下部空間、
17A 圧力室、40 空気流路、41 摺動部材、49 規制手段、
70 減衰力発生機構、130 温度補償機構、F シリンダ空間、
F1 第1油貯留室(上部油室)、F2 第2油貯留室(下部油室)、
J 連通孔、M 外緩衝室、R 油流路室、S フロントフォーク本体。
図1
図2
図3
図4
図5