(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6280054
(24)【登録日】2018年1月26日
(45)【発行日】2018年2月14日
(54)【発明の名称】種子活力のモジュレーション
(51)【国際特許分類】
C12N 15/09 20060101AFI20180205BHJP
A01H 1/00 20060101ALI20180205BHJP
A01H 5/00 20180101ALI20180205BHJP
C12Q 1/68 20180101ALI20180205BHJP
A01H 5/10 20180101ALI20180205BHJP
【FI】
C12N15/00 AZNA
A01H1/00 A
A01H5/00 A
C12Q1/68 A
A01H5/10
【請求項の数】20
【全頁数】51
(21)【出願番号】特願2014-559190(P2014-559190)
(86)(22)【出願日】2013年2月27日
(65)【公表番号】特表2015-508663(P2015-508663A)
(43)【公表日】2015年3月23日
(86)【国際出願番号】EP2013053845
(87)【国際公開番号】WO2013127809
(87)【国際公開日】20130906
【審査請求日】2016年2月4日
(31)【優先権主張番号】12157514.6
(32)【優先日】2012年2月29日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】500584309
【氏名又は名称】シンジェンタ パーティシペーションズ アクチェンゲゼルシャフト
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100077517
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 敬
(74)【代理人】
【識別番号】100087871
【弁理士】
【氏名又は名称】福本 積
(74)【代理人】
【識別番号】100087413
【弁理士】
【氏名又は名称】古賀 哲次
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100150810
【弁理士】
【氏名又は名称】武居 良太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100192201
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 佐知子
(72)【発明者】
【氏名】ウィリアム エドワード フィンチ−サベージ
(72)【発明者】
【氏名】カール モリス
(72)【発明者】
【氏名】ガイ キャメロン バーカー
(72)【発明者】
【氏名】トンコ ゲルハルト ブルッヒンク
(72)【発明者】
【氏名】ポール ファン デン ウィンガールト
【審査官】
松岡 徹
(56)【参考文献】
【文献】
特開2011−155840(JP,A)
【文献】
Finch Savage, William、他,Towards a genetic understanding of seed vigour in small-seeded crops using natural variation in Brassica oleracea,Plant science,2010年 7月 1日,179 (6),582-589
【文献】
MORRIS Karl et al.,Trait to gene analysis reveals that allelic variation in three genes determines seed vigour,New Phytologist,2016年,Vol.212, Issue 4,Pages 964-976
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N
A01H
C12Q
UniProt/GeneSeq
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
a.配列番号3(BolC.VG1.aのGD33バージョン)に示されるヌクレオチド配列を含む核酸分子;
b.配列番号4(BolC.VG2.aのGD33バージョン)に示されるヌクレオチド配列を含む核酸分子;
c.遺伝コードの縮重によりa)又はb)に定義されるヌクレオチド配列と同じポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含む核酸分子
からなる群から選択される核酸分子を含み、
a)〜c)のいずれかに定義される前記核酸分子は、アブラナ属植物または植物部分中での発現時に増加された種子活力に導くポリヌクレオチド。
【請求項2】
a.配列番号6(BolC.VG2.bのトランケートされたGD33対立遺伝子)に示されるヌクレオチド配列を含む核酸分子;
b.遺伝コードの縮重によりa)またはb)に定義されるヌクレオチド配列と同じポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含む核酸分子
からさらになる群から選択される核酸分子を含み、
a)又はb)に定義される前記核酸分子は、アブラナ属植物または植物部分中での発現時に増加された種子活力に導く、請求項1に記載のポリヌクレオチド。
【請求項3】
a.配列番号3、配列番号4および配列番号6を含む群に示される配列のいずれかと少なくとも90%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含む核酸分子;
b.配列番号3、配列番号4および配列番号6を含む群に示される配列のいずれかと少なくとも95%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含む核酸分子;
c.配列番号3、配列番号4および配列番号6を含む群において示される配列のいずれかと少なくとも98%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含む核酸分子;
d.遺伝コードの縮重によりa)〜d)のいずれかに定義されるヌクレオチド配列と同じポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含む核酸分子
からなる群から選択される核酸分子を含み、
a)〜d)のいずれかに定義される前記核酸分子は、アブラナ属植物または植物部分中での発現時に増加された種子活力に導く、ポリヌクレオチド。
【請求項4】
前記増加された種子活力表現型は、増加された発芽速度、増加された実生発生速度、増加された種子発芽の斉一性、増加された実生発生の斉一性、増加された種子発芽の割合、増加された外部環境および/もしくは母体条件に対する種子の耐性、増加されたABAに対する感受性または増加されたABAの含有率を含む群において選択されるさらなる表現型を特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載のポリヌクレオチド。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載のポリヌクレオチドを含む発現カセット。
【請求項6】
請求項5に記載の発現カセットを含むベクター分子。
【請求項7】
種子活力を増加するための、請求項1〜4のいずれか一項に記載のポリヌクレオチドの使用。
【請求項8】
交配を介してまたは植物形質転換技術により遺伝子移入すること、およびアブラナ属植物または植物部分中で請求項1〜6のいずれか一項に記載のポリヌクレオチド、発現カセットまたはベクター分子を発現させることを含む、アブラナ属植物の種子活力を増加する方法。
【請求項9】
a.請求項1〜4のいずれか一項に記載のポリヌクレオチドを含有することが確認された第1のアブラナ属植物を得ること;
b.前記第1のアブラナ属植物を、前記ポリヌクレオチドを欠くことが確認された第2のアブラナ属植物と交配すること;および
c.前記第2のアブラナ属植物により送達された種子と比較して増加された種子活力を示す交配から生じたアブラナ属植物種子を同定すること
を含む、増加された種子活力を有する種子を生産する方法。
【請求項10】
ゲノム内に請求項1〜4のいずれか一項に記載のポリヌクレオチドを含む遺伝子移入物を含有し、前記ポリヌクレオチドを含まないアブラナ属植物または植物部分と比較して種子活力の増加を示す栽培アブラナ属植物または植物部分。
【請求項11】
ゲノム内に請求項1〜4のいずれか一項に記載のポリヌクレオチドを含む遺伝子移入物を含有し、前記ポリヌクレオチドを含まないアブラナ属植物の種子と比較して増加された種子活力を示す栽培アブラナ属植物の種子。
【請求項12】
請求項1〜4のいずれか一項に記載のポリヌクレオチドの存在または不存在を試験すべきアブラナ属植物または植物部分において検出することを含む、増加された種子活力を有するアブラナ属植物または植物部分を選択する方法。
【請求項13】
候補アブラナ属植物または植物部分を、請求項1〜4のいずれか一項に記載のポリヌクレオチドを含む群から選択される選択ツールと接触させることを含む、増加された種子活力を有するアブラナ属植物または植物部分を選択する方法。
【請求項14】
ヤセイカンラン(Brassica oleracea)、セイヨウアブラナ(Brassica napus)、ブラッシカ・ラパ(Brassica rapa)、ブラッシカ・カンペストリス(Brassica campestris)、セイヨウカラシナ(Brassica juncea)、クロガラシ(Brassica nigra)、ハクサイ(Brassica pekinensis)、チンゲンサイ(Brassica chinensis)、ターサイ(Brassica rosularis)を含む群において選択される、請求項10又は11に記載の栽培アブラナ属植物、植物部分または種子。
【請求項15】
前記栽培アブラナ属植物、植物部分または種子が雑種アブラナ属植物、植物部分または種子である、請求項10、11または14のいずれか一項に記載の栽培アブラナ属植物、植物部分または種子。
【請求項16】
請求項1〜4のいずれか一項に記載のポリヌクレオチドをアブラナ属植物または植物部分のゲノム中に導入することを含む、増加された種子活力を有するアブラナ属植物または植物部分を得る非生物学的方法。
【請求項17】
(a)請求項1〜4のいずれか一項に記載のポリヌクレオチドを含有することが確認された第1のアブラナ属植物を得ること;(b)前記第1のアブラナ属植物を、前記ポリヌクレオチドを欠くことが確認された第2のアブラナ属植物と交配すること;および(c)増加された種子活力を示し、前記ポリヌクレオチドを含有する前記交配から生じたアブラナ属植物を同定することを含む、請求項12に記載の方法。
【請求項18】
前記ポリヌクレオチドの存在を、分子マーカーの使用により、特に前記ポリヌクレオチドを含有する遺伝子座内または外側の位置中に物理的に局在する分子マーカーにより確認する、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記ポリヌクレオチドの存在を、少なくとも2つの分子マーカーの使用により、特に前記ポリヌクレオチドを含有する遺伝子座をフランキングしている位置中に物理的に局在する少なくとも2つの分子マーカーにより確認する、請求項17に記載の方法。
【請求項20】
任意のタイプの被覆剤により被覆されている、請求項11に記載の栽培アブラナ属植物の種子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に、種子活力のモジュレーションを可能とする、特に種子活力を向上させる、より特定すると、発芽速度のモジュレーションを可能とするポリヌクレオチドに関する。本発明はまた、前記ポリヌクレオチドを含む植物種子に関する。さらに、植物種子を生産する方法、植物種子の発芽および活力を改善する方法、トランスジェニック植物ならびに改善された発芽および活力特徴を有する種子を生長させる植物を生産するための本発明のポリヌクレオチドの使用も本発明内で提供される。本発明の植物は、特に、アブラナ属(Brassica)、より特定すると、ヤセイカンラン(Brassica oleracea)に関する。
【背景技術】
【0002】
種子バッチから得られる斉一の使用可能な植物の数により定義される種子品質は、先進の園芸市場においていっそうより重要な形質になってきている。苗の栽培は、それらの市場における高度に技術的な活動であり、したがって、種子品質に関する要求は高い。信頼性のある一貫した高い種子品質がそれに要求される。さらに、不利な条件下での発芽は、重要な種子品質形質である。これは、種子変種の商業的成功のためのある要求が一貫した頑健な種子品質であることを意味する。しかしながら、現在、市販変種の種子品質は、常に安定で予測可能であるわけではない。
【0003】
種子品質パラメータは、種子発達の間の母体環境条件により高度に影響を受ける。必要とされる種子の体積および商業的実現性を考慮すると、それらの条件の限定された制御のみが可能であるにすぎない。したがって、種子品質の一貫性は、母体条件についての感受性により限定される。研究は、母体環境が全ての種子品質パラメータ、例として、斉一性および不利な条件下での発芽に潜在的に影響し得ることを示している。したがって、母体条件の影響の減少は、先進および発展途上市場の両方において利点を提供するより一貫した頑健な種子品質に導く。
【0004】
予測可能で斉一な実生定着は、持続性および利益性の両方を示す作物の生産に不可欠である。この予測可能性の重要な一因は、種子休眠および活力により直接影響される種子の発芽性能である。休眠自体(一般に許容可能な条件における発芽の欠如)は、多くの作物種について実際上の問題とはみなされないが、低い種子活力(実際に不十分な種子性能)は、全ての作物において、発生する実生の数だけでなく、実生発生の時期および斉一性にも大きく影響する。この効果は、コスト効率性および要求される投入量を決定する作物生産の多くの局面に対する大きな影響を有し、市場性のある収穫高に対する直接的な作物に固有の影響も存在する(Finch−Savage,1995)。低い種子活力は、多くの種類の種子劣化および損傷から生じ得、このことは、大きな商業的重要性を有する。しかしながら、種子が劣化し始める前に種子の初期活力の固有の差異も存在するが、この遺伝的、分子および生理学的基礎の理解は不十分のままである。
【0005】
変化した種子発芽性能を有する表現型を示す多くの遺伝子における突然変異が同定されており、それらは発芽の制御の現時点での理解を発展させるのに有用である(Finch−Savage and Leubner−Metzger,2006;Holdsworth et al.,2008a and 2008bにより概説されている)。しかしながら、野生型または作物種子におけるそれらの遺伝子の相対的影響は、ほとんど理解されておらず、種子活力についての判別試験を基礎を形成する明確な候補は、明らかにされていない。実験室誘導突然変異に対する遺伝的変異の代替的源は、天然集団および作物遺伝子型において利用可能である。この変異を使用して種子活力に関連するQTLを同定し、次いでそれらの形質に影響する候補遺伝子は、実際上重要な遺伝子を同定するための経路を提供し得る。
【0006】
天然および作物植物変異は両方とも、トマト(Foolad et al.,1999)、ヤセイカンラン(Brassica oleracea)(Bettey et al.,2000,Finch−Savage et al.,2005)およびシロイヌナズナ属(Arabidopsis)(Groot et al.,2000,Clerkx et al.,2004)における様々な種子活力形質の定量的遺伝子分析において開発されている。種子発芽速度のQTLは、3つ全ての種において同定されている。発芽速度に関する健常未熟種子における休眠と低い種子活力との区別は、存在する場合、理解されておらず、同一の基礎を有し得る(Hilhorst and Toorop,1997)。多くの場合、例えば、シロイヌナズナ属(Arabidopsis)において、生理学的休眠は絶対的ではなく、種子は条件付きで休眠性であり、すなわち、発芽は、緩慢である傾向があり、限定された環境範囲においてのみ可能であるにすぎない。休眠が次第に失われる場合、発芽は加速する傾向があり、より広範な環境において可能になり、したがって、活力の増加のように現れ得る。
【0007】
種子発芽の定着および種子休眠の調節を構成する因子のうち、周知の植物ホルモンのアブシジン酸(ABA)が重要な役割を担う。ABAは、種子発芽および種子成熟プロセスに特に不可欠である(概説については、Finkelstein et al.2002参照)。それというのも、それはある期間の種子休眠の確立を担うためである。蕾に関して、種子は、例えば、冬季または乾季の開始前に季節外れの温暖な条件の間に未熟に発芽しないことが重要である。種子中のABAは、この休眠を強化する。休眠は、種子が長期寒波および/または他の適切な環境信号に曝露された場合ならびに発芽を支持するための十分な水が存在する場合にのみ解除される。ABAは、種子活力におけるその役割に加え、植物体の多くの重要な局面、例として、生物脅威ならびに旱魃および乾燥のような非生物ストレスに対する生理学的応答も調節する。
【0008】
したがって、母体条件から独立していかなる外部環境条件であろうとより一定速度において発芽する種子を提供するため、より信頼性のある一貫した種子活力を有する種子;特に、時期規定された斉一の発芽速度を有する種子が長期にわたり必要とされている。このような増加された種子活力は、種子が所与の製剤(化学製剤、生物製剤)により被覆される場合において特に興味深い。それというのも、通常、種子発芽の遅延が観察されるためである。結果的に、種子活力を向上させる、より特定すると、種子発芽の速度および斉一性を向上させる配列を含む種子が、殺虫剤および殺真菌剤を依然として施与しながら被覆処理の効果を中和させるために最重要である。
【0009】
さらに、多くの局面において、種子活力の増加は極めて有用で望ましい形質である一方、一部の場合、種子活力の減少に大きな関心が持たれると考えられる。特に、胎生種子において、種子活力の減少は有益であり得る。胎生は、依然として母体植物上に存在する間または乾燥前の種子の発芽と定義され、未成熟および完全成熟種子の両方で生じ得る。胎生は、多くの異なる作物種、例として、アブラナ属(Brassica)作物において観察されている(Ruan et al.2000)。したがって、種子活力を減少させ得る配列を含む種子は、不所望な胎生表現型を、除去しないにせよ、遅延させ得る。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
したがって、Bettey et al.(2000)によりヤセイカンラン(B.oleracea)において同定された種子発芽速度QTLのSOG1(Speed Of Germination 1)をスパンする小さい遺伝子移入領域を含有する植物を集団から同定したこと、ならびに特に種子活力のモジュレーションに関与する、特に種子の発芽速度の調節に関与する対応遺伝子を実証および同定したことは、そのような技術水準における本発明者らの功績である。特に、それらの遺伝子、およびそれらの対応配列を、改変された種子活力表現型を示す種子(または種子を送達する植物)を得るためのツールとして使用することができることが実証される。特に、遺伝子配列を新たなバックグラウンド中に導入して種子活力をモジュレートすることができる。より特定すると、遺伝子配列を使用して種子がより早期に、より斉一に、外部環境条件から独立して、母体条件にかかわらず発生する新規植物を遺伝子操作することができる。さらに、前記遺伝子配列を種子中のABA含有率および/またはABAに対する種子応答を改変し、それにより種子休眠に関する種子挙動ならびに種貯蔵タンパク質および脂質合成に影響を与えるためのツールとして使用することができる。
【課題を解決するための手段】
【0011】
したがって、第1の実施形態において、本発明は、
a.配列番号1(BolC.VG1.aのA12バージョン)に示されるヌクレオチド配列を含む核酸分子;
b.配列番号2(BolC.VG2.aのA12バージョン)に示されるヌクレオチド配列を含む核酸分子;
c.配列番号3(BolC.VG1.aのGD33バージョン)に示されるヌクレオチド配列を含む核酸分子;
d.配列番号4(BolC.VG2.aのGD33バージョン)に示されるヌクレオチド配列を含む核酸分子;
e.相補鎖がa)〜d)のいずれかの核酸分子にハイブリダイズするヌクレオチド配列を含む核酸分子;
f.遺伝コードの縮重によりa)〜e)のいずれかに定義されるヌクレオチド配列から逸脱するヌクレオチド配列を含む核酸分子;
からなる群から選択される核酸分子を含み、
a)〜f)のいずれかに定義される前記核酸分子は、植物または植物部分中での発現時に改変された種子活力に導くポリヌクレオチド、特に単離されたポリヌクレオチドを提供する。
【0012】
第2の実施形態において、本発明は、
a.配列番号5(BolC.VG2.bのトランケートされたA12対立遺伝子)に示されるヌクレオチド配列を含む核酸分子;
b.配列番号6(BolC.VG2.bのトランケートされたGD33対立遺伝子)に示されるヌクレオチド配列を含む核酸分子;
c.相補鎖がa)〜b)のいずれかの核酸分子にハイブリダイズするヌクレオチド配列を含む核酸分子;
d.遺伝コードの縮重によりa)〜c)のいずれかに定義されるヌクレオチド配列から逸脱するヌクレオチド配列を含む核酸分子;
からさらになる群から選択される核酸分子を含み、
a)〜d)のいずれかに定義される前記核酸分子は、植物または植物部分中での発現時に改変された種子活力に導く、実施形態1によるポリヌクレオチド、特に単離ポリヌクレオチドを提供する。
【0013】
第3の実施形態において、本発明は、
a.配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5および配列番号6を含む群に示される配列のいずれかと少なくとも60%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含む核酸分子;
b.配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5および配列番号6を含む群に示される配列のいずれかと少なくとも80%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含む核酸分子;
c.配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5および配列番号6を含む群に示される配列のいずれかと少なくとも90%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含む核酸分子;
d.配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5および配列番号6を含む群に示される配列のいずれかと少なくとも95%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含む核酸分子;
e.配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5および配列番号6を含む群において示される配列のいずれかと少なくとも98%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含む核酸分子;
f.相補鎖がa)〜e)のいずれかの核酸分子にハイブリダイズするヌクレオチド配列を含む核酸分子;
g.遺伝コードの縮重によりa)〜f)のいずれかに定義されるヌクレオチド配列から逸脱するヌクレオチド配列を含む核酸分子;
からなる群から選択される核酸分子を含み、
a)〜g)のいずれかに定義される前記核酸分子は、植物または植物部分中での発現時に改変された種子活力に導く、ポリヌクレオチド、特に単離されたポリヌクレオチドを提供する。
【0014】
第4の実施形態において、本発明は、改変された種子活力表現型は、改変された発芽速度、改変された実生発生速度、改変された種子発芽の斉一性、改変された実生発生の斉一性、改変された種子発芽の割合、改変された外部環境および/もしくは母体条件に対する種子の耐性、改変されたABAに対する感受性または改変されたABAの含有率を含む群において選択されるさらなる表現型を特徴とする、第1、第2または第3の実施形態によるポリヌクレオチドに関する。
【0015】
第5の実施形態において、本発明は、
a.配列番号3に示されるヌクレオチド配列を含む核酸分子;
b.配列番号4に示されるヌクレオチド配列を含む核酸分子;
c.配列番号6に示されるヌクレオチド配列を含む核酸分子;
d.相補鎖がa)〜c)のいずれかの核酸分子にハイブリダイズするヌクレオチド配列を含む核酸分子;
e.遺伝コードの縮重によりa)〜d)のいずれかに定義されるヌクレオチド配列から逸脱するヌクレオチド配列を含む核酸分子;
を含む群において選択される核酸分子を含み、
a)〜e)のいずれかに定義される前記核酸分子は、植物または植物部分中での発現時に増加された種子活力に導く、ポリヌクレオチド、特に単離ポリヌクレオチドに関する。
【0016】
本発明に関連して、表現「増加された種子活力」は、種子がより早く発芽し、したがってより活力を示すという意味で種子の発芽速度を改変することができることを意味する。1つの特定の実施形態において、発芽速度は増加され、本発明によるポリヌクレオチドを含まない種子と比較して種子のゲノム中の本発明によるポリヌクレオチドの存在の結果より早く発芽する種子を得ることを可能とする。このような増加された発芽速度は、有意により早期の実生発生をもたらし、したがって、向上された柔軟性および種々の環境に対するより良好な適応を有する種子を提供する。同定された2つの遺伝子は、有意な発芽表現型を有し、それらの遺伝子が異なる程度で発芽の調節因子であることを示すことが見出された。本発明による配列番号3および配列番号4(遺伝子のGD33対立遺伝子)のポリヌクレオチドに対応する対立遺伝子は、増加された種子活力の表現型に対応し、したがって、それが既に遺伝子移入された植物種子の発芽速度の改変および増加された発芽速度を可能とすることが証明された。
【0017】
第6の実施形態において、本発明は、増加された種子活力表現型は、増加された発芽速度、増加された実生発生速度、増加された種子発芽の斉一性、増加された実生発生の斉一性、増加された種子発芽の割合、増加された外部環境および/もしくは母体条件に対する種子の耐性、減少されたABAに対する感受性または減少されたABAの含有率を含む群において選択されるさらなる表現型を特徴とする、第5の実施形態によるポリヌクレオチドに関する。
【0018】
第7の実施形態において、本発明は、
a.配列番号1に示されるヌクレオチド配列を含む核酸分子;
b.配列番号2に示されるヌクレオチド配列を含む核酸分子;
c.配列番号5に示されるヌクレオチド配列を含む核酸分子;
d.相補鎖がa)〜c)のいずれかの核酸分子にハイブリダイズするヌクレオチド配列を含む核酸分子;
e.遺伝コードの縮重によりa)〜d)のいずれかに定義されるヌクレオチド配列から逸脱するヌクレオチド配列を含む核酸分子;
を含む群において選択される核酸分子を含み、
a)〜e)のいずれかに定義される前記核酸分子は、植物または植物部分中での発現時に減少された種子活力に導く、ポリヌクレオチド、特に単離ポリヌクレオチドに関する。
【0019】
第8の実施形態において、本発明は、先行の実施形態のいずれかのポリヌクレオチドを含む発現カセットを提供する。
【0020】
第9の実施形態において、本発明は、第8の実施形態による発現カセットを含むベクター分子を提供する。
【0021】
第10の実施形態において、本発明は、種子活力を改変するための、実施形態1〜3によるポリヌクレオチドの使用に関する。
【0022】
第11の実施形態において、本発明は、交配を介してまたは植物形質転換技術により遺伝子移入すること、および植物または植物部分中で実施形態1〜10のいずれかのポリヌクレオチド、発現カセットまたはベクター分子を発現させることを含む、種子活力を改変する方法に関する。
【0023】
第12の実施形態において、本発明は、
a.実施形態1〜7のいずれかのポリヌクレオチドを含有することが確認された第1の植物を得ること;
b.前記第1の植物を、前記ポリヌクレオチドを欠くことが確認された第2の植物と交配すること;および
c.第2の植物により送達された種子と比較して改変された種子活力を示す交配から生じた植物種子を同定すること
を含む、改変された種子活力を有する種子を生産する方法に関する。
【0024】
第13の実施形態において、本発明は、ゲノム内に実施形態1〜9のいずれかのポリヌクレオチド、発現カセットまたはベクター分子を含む遺伝子移入物を含有し、前記ポリヌクレオチドも、発現カセットも、ベクター分子も含まない植物または植物部分と比較して種子活力の改変を示す植物または植物部分に関する。
【0025】
第14の実施形態において、本発明は、ゲノム内に実施形態5によるポリヌクレオチドを含む遺伝子移入物を含有し、前記ポリヌクレオチドを含まない植物または植物部分により送達された種子と比較して増加された種子活力を示す植物または植物部分に関する。
【0026】
第15の実施形態において、本発明は、ゲノム内に実施形態7によるポリヌクレオチドを含む遺伝子移入物を含有し、前記ポリヌクレオチドを含まない植物または植物部分により送達された種子と比較して減少された種子活力を示す植物または植物部分に関する。
【0027】
第16の実施形態において、本発明は、実施形態1〜7のいずれかによるポリヌクレオチドの存在または不存在を試験すべき植物または植物部分において検出することを含む、改変された種子活力を有する植物または植物部分を選択する方法を提供する。
【0028】
第17の実施形態において、本発明は、候補植物または植物部分を、実施形態1〜7のいずれかのポリヌクレオチドを含む群から選択される選択ツールと接触させることを含む、改変された種子活力を有する植物または植物部分を選択する方法を提供する。
【0029】
第18の実施形態において、本発明は、栽培植物または栽培植物部分であり、ヤセイカンラン(Brassica oleracea)、セイヨウアブラナ(Brassica napus)、ブラッシカ・ラパ(Brassica rapa)、ブラッシカ・カンペストリス(Brassica campestris)、セイヨウカラシナ(Brassica juncea)、クロガラシ(Brassica nigra)、ハクサイ(Brassica pekinensis)、チンゲンサイ(Brassica chinensis)、ターサイ(Brassica rosularis)、ルッコラ(Eruca vesicaria)、キバナスズシロ(Eruca sativa)、ダイコン(Raphanus sativus)、コショウソウ(Lepidium sativum)、オランダガラシ(Nasturtium officinale)、ワサビ(Wasabia japonica)を含む群において選択される、先行の請求項のいずれかによる植物または植物部分に関する。
【0030】
第19の実施形態において、本発明は、実施形態1〜7のいずれかによるポリヌクレオチドを植物または植物部分のゲノム中に導入することを含む、改変された種子活力を有する植物または植物部分を得る非生物学的方法を提供する。
【0031】
実施形態20において、本発明は、(a)実施形態1〜7のいずれかのポリヌクレオチドを含有することが確認された第1の植物を得ること;(b)前記第1の植物を、前記ポリヌクレオチドを欠くことが確認された第2の植物と交配すること;および(c)改変された種子活力を示し、前記ポリヌクレオチドを含有する交配から生じた植物を同定することを含む、実施形態16による方法に関する。
【0032】
実施形態21において、本発明は、ポリヌクレオチドの存在を、分子マーカーの使用により、特にポリヌクレオチドを含有する遺伝子座内または外側の位置中に物理的に局在する分子マーカーにより確認する、実施形態20による方法に関する。
【0033】
実施形態22において、本発明は、ポリヌクレオチドの存在を、少なくとも2つの分子マーカーの使用により、特にポリヌクレオチドを含有する遺伝子座をフランキングしている位置中に物理的に局在する少なくとも2つの分子マーカーにより確認する、実施形態20による方法に関する。
【0034】
実施形態23において、本発明は、任意のタイプの被覆剤により被覆されている、実施形態1から7によるポリヌクレオチドを含む種子に関する。
【0035】
実施形態24において、本発明は、雑種植物である、実施形態13〜18による植物または植物部分に関する。
【0036】
実施形態25において、本発明は、NCIMBにおいてNCIMB41951の寄託番号のもと寄託された種子、またはその後代から得られる、実施形態24による植物または植物部分に関する。
【発明を実施するための形態】
【0037】
上記実施形態によるポリヌクレオチド配列は、異なる種子活力表現型を有するヤセイカンラン(Brassica oleracea)植物中で同定され、それから単離された。本発明によるポリヌクレオチド配列を有する対立遺伝子を、異なる種子品質および異なる種子活力を有する植物中に遺伝子移入した。本発明によるポリヌクレオチド配列のいずれかの遺伝子移入の結果、種子活力が有意に改変され、結果的に植物または植物部分の品質、特に植物の種子品質、特に種子活力が、発芽速度により明らかにされたとおり、有意に改変された。一実施形態において、種子は、特に低温条件においてより良好におよびより迅速に発芽し得、そのことは、より頑健な種子品質を示す。実施形態5によるポリヌクレオチド配列の遺伝子移入は、種子生産環境に対する感受性の低い植物の種子品質を得ることを可能とする。このことは、本発明によるポリヌクレオチド配列の遺伝子移入が、慣用の種子生産からの一貫した種子品質の送達を可能とすることを意味する。
【0038】
市販の栽培植物、特に栽培アブラナ属(Brassica)植物、より特定すると、栽培ヤセイカンラン(Brassica oleracea)植物中での本発明によるポリヌクレオチド配列の導入は、十分な種子品質を有する種子のより信頼性のある生産を確保する。このことは、操作柔軟性を顕著に増加させる。
【0039】
本発明によるポリヌクレオチド配列のいずれかを含む雑種種子は、特に不利な条件下でより斉一な苗立を示す。このことは、明らかに市販の種子製品に価値を付加する。
【0040】
種子寄託詳細
以下の種子試料を、ブダペスト条約の規定に基づき、Syngenta Participations AGの名称で、NCIMB,Ferguson Building,Craibstone Estate,Bucksburn,Aberdeen AB21 9YA,Scotland,UKに2012年4月4日に寄託した。
NCIMB41950ヤセイカンラン(Brassica oleracea)A12
NCIMB41951ヤセイカンラン(Brassica oleracea)SL101
【0041】
定義
本出願の範囲内で使用される技術用語および表現は、一般に、以下に本明細書で特に記載のない限り、植物における遺伝子操作、植物の育種および栽培の関連分野においてそれらに一般に適用される意味が付与される。
【0042】
本明細書および付属の特許請求の範囲において使用される単数形「a」、「an」、および「the」は、文脈が特に明記しない限り、複数形の参照対象を含む。したがって、例えば「植物」への言及は1つ以上の植物を含み、「細胞」への言及は、細胞、組織などの混合物を含む。
【0043】
「栽培植物」、特に「栽培アブラナ属(Brassica)植物」、より特定すると、「栽培ヤセイカンラン(Brassica oleracea)植物」は、本発明の範囲内で、もはや天然状態でないが、人間の手入れにより発育され、人間の使用および/または生長目的および/または消費のための植物を指すことが理解される。「栽培植物」、特に「栽培アブラナ属(Brassica)植物」、より特定すると、「栽培ヤセイカンラン(Brassica oleracea)植物」は、自然形質および/またはそれらの自然遺伝の一部として本発明の対象である形質を含む野生型種を除外することがさらに理解される。
【0044】
「対立遺伝子」は、本発明の範囲内で、遺伝子または任意の種類の同定可能な遺伝エレメントの異なる形態と同一または関連する種々の遺伝単位の択一的またはバリアント形態を指すことが理解され、それらは、相同染色体中の同一遺伝子座に位置するために遺伝的形質が択一的である。このような択一的またはバリアント形態は、単一ヌクレオチド多型、挿入、逆位、転座もしくは欠失の結果、または例えば、化学的もしくは構造的改変により引き起こされる遺伝子調節、転写調節もしくは翻訳後修飾/調節の結果であり得る。2倍体細胞または生物において、所与の遺伝子または遺伝エレメントの2つの対立遺伝子は、典型的には、一対の相同染色体上で対応する遺伝子座を占有する。
【0045】
遺伝子の「トランケートされた」対立遺伝子は、本発明の範囲内で、その全長遺伝子対立遺伝子相当物と比較して単一または複数の部分的ヌクレオチド配列を損失した遺伝子の対立遺伝子を表わすことを意味する。
【0046】
質的形質に関連する対立遺伝子は、種々の遺伝単位の択一的またはバリアント形態、例として、単一遺伝子もしくは複数の遺伝子またはそれらの産物またはさらには分裂し、もしくは遺伝子座により表わされる表現型に寄与する遺伝因子により制御される遺伝子と同一または関連するものを含み得る。
【0047】
本明細書において使用される用語「マーカー対立遺伝子」は、表現型形質の変異性に寄与する染色体上の対立遺伝子を含有する遺伝子座を位置付けるためのマーカーとして使用される場合、本明細書において上記で定義される遺伝単位の択一的またはバリアント形態を指す。
【0048】
本明細書において使用される用語「育種」、およびその文法的変形物は、後代個体を発生させる任意のプロセスを指す。育種は、有性もしくは無性、またはそれらの任意の組合せであり得る。例示的な非限定的なタイプの育種には、交配、自家受粉、倍加半数体誘導体生成、およびそれらの組合せが含まれ、それらの全ては当業者に公知の技術である。
【0049】
「戻し交配」は、本発明の範囲内で、雑種後代を親の1つに戻して繰り返し戻し交配するプロセスを指すことが理解される。異なる反復親を後続の戻し交配において使用することができる。組換え系統は、戻し交配から生じた子孫を自家受粉することにより生産することができる。
【0050】
「遺伝子座」は、本発明の範囲内で、形質に寄与する遺伝子または任意の他の遺伝エレメントもしくは因子を含む染色体上の領域を指すことが理解される。
【0051】
「遺伝子移入」(または遺伝子移入された)は、本発明の範囲内で、ある種からの核酸の遺伝子もしくはセグメントの、別種の遺伝子プール中への移動、またはある系統から核酸の遺伝子もしくはセグメントの、同一種内の別系統の遺伝子プール中への移動を指すことが理解される。遺伝子移入は、有性交配、有性交雑によりまたは遺伝子形質転換により達成することができる。
【0052】
本明細書において使用される「マーカー遺伝子座」は、個体ゲノム中に存在し、関心対象の1つ以上の遺伝子座に関連するヌクレオチドまたはポリヌクレオチド配列を含み、形質に寄与する遺伝子または任意の他の遺伝エレメントもしくは因子を含み得る染色体上の領域を指す。「マーカー遺伝子座」は、ゲノム配列と相補的なポリヌクレオチド配列、例えば、プローブとして使用される核酸の配列を含む染色体上の領域も指す。
【0053】
本発明の目的のため、用語「分離」または「共分離」は、形質についての対立遺伝子およびマーカーについての対立遺伝子は、それらが同一染色体上で物理的に密接するため、一緒に伝達される傾向があり(それらの物理的近接のためそれらの間の組換えは低減)、同一染色体上のそれらの近接の結果としてそれらの対立遺伝子の非機会的結合をもたらすという事実を指す。「共分離」は、少なくとも1つが遺伝的であることが公知であり、偶然により容易に説明することができない単一植物内の2つ以上の形質の存在も指す。
【0054】
本明細書において使用される語句「遺伝子マーカー」または「マーカー」は、関心対象の1つ以上の遺伝子座に関連する個体ゲノム(例えば、個体ゲノム中に存在するヌクレオチドまたはポリヌクレオチド配列)の特徴を指す。一部の実施形態において、遺伝子マーカーは、状況に応じて関心対象の集団における多型性であり、または多型により占有される遺伝子座である。遺伝子マーカーには、多くの他の例のうち、例えば、単一ヌクレオチド多型(SNP)、インデル(すなわち、挿入/欠失)、単純配列反復(SSR)、制限断片長多型(RFLP)、ランダム増幅多型DNA(RAPD)、開裂増幅多型配列(CAPS)マーカー、多様性アレイ技術(DArT)マーカー、および増幅断片長多型(AFLP)が含まれる。遺伝子マーカーは、例えば、表現型形質の変異性に寄与する染色体上の対立遺伝子を含有する遺伝子座を位置付けるために使用することができる。語句「遺伝子マーカー」または「マーカー」は、ゲノム配列に相補的なポリヌクレオチド配列、例えば、プローブとして使用される核酸の配列も指し得る。
【0055】
「遺伝子マーカー」または「マーカー」は、それが関連する遺伝子座内または外側に存在する(すなわち、それぞれ遺伝子内または遺伝子外である)染色体上の位置中に物理的に局在し得る。換言すると、「遺伝子マーカー」または「マーカー」は典型的には、関心対象の遺伝子座に対応する遺伝子または例えば遺伝子外側の制御エレメント内の機能的突然変異の染色体上の局在が同定されておらず、「遺伝子マーカー」または「マーカー」と関心対象の遺伝子座との間のゼロ以外の組換え率が存在する場合に用いられる一方、本開示の主題は、遺伝子座の境界内(例えば、遺伝子に対応するゲノム配列内、例えば、限定されるものではないが、遺伝子のイントロンまたはエキソン内の多型)に物理的に存在する「遺伝子マーカー」または「マーカー」を用いることもできる。本開示の主題の一部の実施形態において、1つ以上の「遺伝子マーカー」または「マーカー」は、1〜10のマーカーを含み、一部の実施形態において、1つ以上の遺伝子マーカーは、11以上の遺伝子マーカーを含む。
【0056】
本明細書において使用される用語「遺伝子型」は、細胞または生物の遺伝子構成を指す。個体の「1組の遺伝子マーカーについての遺伝子型」は、個体のハプロタイプ中に存在する1つ以上の遺伝子マーカー遺伝子座についての規定の対立遺伝子を含む。当分野において公知のとおり、遺伝子型は、遺伝子座が関連であろうと非関連であろうと、および/または連鎖であろうと非連鎖であろうと、単一遺伝子座または複数の遺伝子座に関連し得る。一部の実施形態において、個体の遺伝子型は、遺伝子の1つ以上が関心対象の表現型の発現に関与するという点で関連する1つ以上の遺伝子に関連する。したがって、一部の実施形態において、遺伝子型は、量的形質の1つ以上の遺伝子座における個体内に存在する1つ以上の対立遺伝子の概略を含む。一部の実施形態において、遺伝子型は、ハプロタイプに関して表現される。
【0057】
本明細書において使用される用語「連鎖」、およびその文法的変形は、一部の実施形態において、対立遺伝子の物理的近接の結果として、対立遺伝子の伝達が独立する場合に偶然により予期されるよりも多く一緒に分離する同一染色体上の異なる遺伝子座における対立遺伝子の傾向を指す。
【0058】
例えば、本明細書において使用される「ポリヌクレオチド配列」は、天然または組換えにより生成されたタイプの核酸および/またはヌクレオチド配列の全ての形態ならびに化学合成された核酸/ヌクレオチド配列を指す。この用語は、核酸アナログおよび核酸誘導体、例えば、ロックドDNA、RNA、cDNA、PNA、オリゴヌクレオチドチオホスフェートおよび置換リボオリゴヌクレオチドなども包含する。さらに、用語「ポリヌクレオチド配列」は、ヌクレオチドまたはヌクレオチドアナログを含む任意の分子も指す。語句「核酸」または「ポリヌクレオチド」は、ヌクレオチドのストリングに対応させることができるモノマー単位の任意の物理的ストリング、例として、DNAまたはRNAポリマー中に取り込むことができる合成、非天然または変化ヌクレオチド塩基を場合により含有するヌクレオチドのポリマー(例えば、典型的なDNA、cDNAまたはRNAポリマー)、改変オリゴヌクレオチド(例えば、生物RNAまたはDNAに典型的でない塩基を含むオリゴヌクレオチド、例えば、2’−O−メチル化オリゴヌクレオチド)などを指す。用語「ポリヌクレオチド」は、本明細書において、糖、リン酸およびプリンまたはピリミジンのいずれかである塩基を含有するモノマー(ヌクレオチド)から構成される一本鎖もしくは二本鎖、多重鎖、またはそれらの組合せであり得る高分子量のポリマー分子を指すことが理解される。特に記載のない限り、本開示の主題の特定の核酸配列は、明示される任意の配列に加えて相補的配列を場合により含み、またはコードする。
【0059】
好ましくは、用語「ポリヌクレオチド配列」は、核酸分子、すなわち、デオキシリボ核酸(DNA)および/またはリボ核酸(RNA)を指す。本発明に関する「ポリヌクレオチド配列」は、当業者に公知の合成的化学法もしくは組換え技術の使用により作製することができ、または天然源から単離することができ、またはそれらの組合せによるものである。DNAおよびRNAは、非天然ヌクレオチドを場合により含み得、一本鎖または二本鎖であり得る。「ポリヌクレオチド配列」は、センスおよびアンチセンスDNAおよびRNA、すなわち、DNAおよび/またはRNA中のヌクレオチドの規定の配列に相補的であるポリヌクレオチド配列も指す。さらに、用語「ポリヌクレオチド配列」は、DNAもしくはRNAまたはそれらのハイブリッドまたは技術水準において公知のその任意の修飾物を指し得る(修飾物の例については、例えば、米国特許第5525711号明細書、米国特許第4711955号明細書、米国特許第5792608号明細書または欧州特許第302175号明細書参照)。ポリヌクレオチド配列は一本鎖または二本鎖、直線または環状、天然または合成であり得、いかなるサイズによる限定もされない。例えば、ポリヌクレオチド配列は、ゲノムDNA、cDNA、mRNA、アンチセンスRNA、リボザイムまたはそのようなRNAをコードするDNAまたはキメロプラスト(chimeroplast)(Gamper,Nucleic Acids Research,2000,28,4332−4339)であり得る。前記ポリヌクレオチド配列は、プラスミドまたはウイルスDNAもしくはRNAの形態であり得る。「ポリヌクレオチド配列」は、技術水準の改変、例えば、ホスホチオエートまたはペプチド核酸(PNA)のいずれかが含まれるオリゴヌクレオチドも指し得る。
【0060】
「ポリヌクレオチド断片」は、所与のポリヌクレオチド分子または「ポリヌクレオチド配列」の一部である。高等植物において、デオキシリボ核酸(DNA)は、遺伝材料である一方、リボ核酸(RNA)は、DNA内に含有される情報のタンパク質への転移に関与する。「ゲノム」は、生物のそれぞれの細胞中に含有される遺伝材料の全体である。
【0061】
特に記載のない限り、本発明の特定の核酸配列は、保存的に改変されたそのバリアント(例えば、縮重コドン置換物)および相補的配列も明示される配列と同様に黙示的に包含する。具体的には、縮重コドン置換物は、1つ以上の選択(または全ての)コドンの3番目の位置が混合塩基および/またはデオキシイノシン残基により置換されている配列を生成することにより達成することができる(Batzer et al.,1991;Ohtsuka et al.,1985;Rossolini et al.,1994)。ポリヌクレオチドという用語は、核酸、ヌクレオチド配列と同義に使用され、それには遺伝子、cDNA、および遺伝子によりコードされるmRNAなどが含まれ得る。
【0062】
本発明のポリヌクレオチドは、単離された形態で提供されることが理解される。用語「単離された」は、開示および本明細書において特許請求されるポリヌクレオチドが、それが実際に天然相当物を有する場合、その天然状況において生じるポリヌクレオチドでないことを意味する。したがって、以下にさらに記載される本発明の他の化合物は、単離されていることが理解される。本発明のポリヌクレオチドは、植物ゲノムに関して特許請求される場合、ゲノム中の挿入側および挿入側におけるフランキング配列により天然相当物と区別される。
【0063】
本明細書において使用される用語「遺伝子」は、生物学的機能に関連する核酸の任意のセグメントを指す。したがって、遺伝子は、コード配列および/またはそれらの発現に要求される調節配列を含む。例えば、遺伝子は、mRNAもしくは機能的RNAを発現し、または規定のタンパク質をコードし、調節配列を含む核酸断片を指す。遺伝子は、例えば、別のタンパク質についての認識配列を形成する非発現DNAセグメントも含む。遺伝子は、種々の源から、例として、関心対象の源からクローニングし、または公知のもしくは推定配列情報から合成して得ることができ、所望のパラメータを有するように設計された配列を含み得る。
【0064】
「マーカーに基づく選択」は、本発明の範囲内で、例えば、選択的育種プログラムにおいて所望の(または不所望の)形質についての遺伝子を担持する植物を使用する(または回避する)ことができるように、遺伝子マーカーを使用して核酸が所望の形質に関連する植物から1つ以上の核酸を検出して所望の(または不所望の)形質についての遺伝子を担持する植物を同定することを指すことが理解される。「マーカー遺伝子」は、選択可能またはスクリーニング可能な形質をコードする。
【0065】
本発明の範囲内で使用される選択マーカーは、例えば、単一ヌクレオチド多型(SNP)マーカー、インデル(すなわち、挿入/欠失)マーカー、単純配列反復(SSR)マーカー、制限断片長多型(RFLP)マーカー、ランダム増幅多型DNA(RAPD)マーカー、開裂増幅多型配列(CAPS)マーカー、多様性アレイ技術(DArT)マーカー、および増幅断片長多型(AFLP)マーカーからなる群から選択することができる。
【0066】
例えば、RFLPは、規定の短い制限部位において染色体DNAを切断する制限酵素の使用を伴い、多型は、部位間の重複もしくは欠失、または制限部位における突然変異から生じる。
【0067】
RAPDは、無名DNA断片の株特異的アレイを生成するために、任意配列の単一プライマーによる低ストリンジェンシーポリメラーゼ連鎖反応(PCR)増幅を利用する。本方法は、微量のDNA試料のみを要求し、多数の多型遺伝子座を分析する。
【0068】
AFLPは、PCRの使用前の制限酵素による細胞DNAの消化、および規定の断片を増幅するためのプライマー中の選択的ヌクレオチドを要求する。この方法を用いると、電気泳動技術を使用して得られた断片を可視化し、1つのプライマー組合せ当たり最大100の多型遺伝子座を計測することができ、それぞれの試験について少量のDNA試料のみが要求される。
【0069】
SSR分析は、真核生物のゲノム全体にわたり広く分散するDNAマイクロサテライト(短鎖反復)配列に基づき、それを、選択的に増幅させて単純配列反復の変異を検出する。SSR分析については微量のDNA試料のみが要求される。SNPは、点突然変異を効率的に捕らえるPCR伸長アッセイを使用する。本手順は、1つの試料当たり少量のDNAを要求する。上記方法の1または2つを、典型的なマーカーに基づく選択育種プログラムにおいて使用することができる。
【0070】
植物ゲノムの多型領域をスパンするヌクレオチド断片の増幅を達成する最も好ましい方法は、その二本鎖形態における多型を定義する近位配列にハイブリダイズし得る順方向プライマーおよび逆方向プライマーを含むプライマー対を使用するポリメラーゼ連鎖反応(「PCR」)(Mullis et al.,Cold Spring Harbor Symp.Quant.Biol.51:263 273(1986))を用いる。本明細書において開示されるとおり、そのようなプライマーは、精細マッピング、マップに基づくクローニングおよび発現分析に使用することができる。
【0071】
「マイクロサテライトまたはSSR(単純配列反復)マーカー」は、本発明の範囲内で、植物のゲノム全体にわたり遺伝子座において見出され、高度に多型である見込みを有する、DNA塩基の短い配列の多数の反復からなる遺伝子マーカーの1種を指すことが理解される。
【0072】
「PCR(ポリメラーゼ連鎖反応)」は、本発明の範囲内で、比較的大量のゲノムのDNAまたはサブセットの規定の領域を産生し、それにより、それらの領域に基づく種々の分析を可能とする方法を指すことが理解される。
【0073】
「PCRプライマー」は、本発明の範囲内で、DNAの規定領域のPCR増幅において使用される一本鎖DNAの比較的短い断片を指すことが理解される。
【0074】
「表現型」は、本発明の範囲内で、遺伝的に制御された形質の区別可能な特徴を指すことが理解される。
【0075】
本明細書において使用される語句「表現型形質」は、個体のゲノム、プロテオームおよび/またはメタボロームと環境との相互作用から生じる個体の外観または他の検出可能な特徴を指す。
【0076】
「多型」は、本発明の範囲内で、例えば、選択的スプライシング、DNAメチル化などを介して得られる遺伝子、遺伝子マーカー、または遺伝形質もしくは遺伝子産物の2つ以上の異なる形態の集団における存在を指すことが理解される。
【0077】
本明細書において使用される「プローブ」は、規定の標的分子または細胞構造を認識し、それに結合し得、したがって、その標的分子または構造の検出を可能とする、原子または分子の群を指す。特に、「プローブ」は、分子ハイブリダイゼーションにより相補的配列の存在を検出し、それを定量するために使用することができる、標識DNAまたはRNA配列を指す。
【0078】
ハイブリダイズし得るこのようなポリヌクレオチド配列は、本明細書に記載のポリヌクレオチド配列またはその部分もしくは逆相補物を使用することにより、例えば、標準的方法に従うハイブリダイゼーションにより同定および単離することができる(例えば、Sambrook and Russell(2001),Molecular Cloning:A Laboratory Manual,CSH Press,Cold Spring Harbor,NY,USA参照)。例えば、列挙される配列番号1、2もしくは3に示されるものと同一もしくは実質的に同一のヌクレオチド配列を含むヌクレオチド配列、またはその部分/断片をハイブリダイゼーションプローブとして使用することができる。ハイブリダイゼーションプローブとして使用される断片は、通常の合成技術により調製される合成断片でもあり得、その配列は、本発明によるヌクレオチド配列のものと実質的に同一である。
【0079】
本明細書において使用される用語「ハイブリダイズする」は、慣用のハイブリダイゼーション条件、好ましくは、5×SSPE、1%SDS、1×Denhardts溶液が溶液として使用され、および/またはハイブリダイゼーション温度が35℃〜70℃、好ましくは、65℃であるハイブリダイゼーション条件を指す。ハイブリダイゼーション後、洗浄を好ましくは、最初に2×SSC、1%SDS、続いて、0.2×SSCにより、35℃〜75℃、特に45℃〜65℃であるが、特に59℃の温度において実施する(SSPE、SSC、およびDenhardts溶液の定義に関して、上記Sambrook et al.参照)。例えば、前掲のSambrook et alに記載される高ストリンジェンシーのハイブリダイゼーション条件が特に好ましい。特に好ましいストリンジェントなハイブリダイゼーション条件は、例えば、ハイブリダイゼーションおよび洗浄を上記のとおり65℃において行う場合に存在する。例えば、45℃においてハイブリダイゼーションおよび洗浄が実施される非ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件は、比較的好ましくなく、35℃においてはさらに比較的好ましくない。
【0080】
「配列相同性または配列同一性」は、本明細書において同義に使用される。2つ以上の核酸またはタンパク質配列に関する用語「同一」もしくはパーセント「同一性」は、以下の配列比較アルゴリズムの1つを使用して、または目視検査により計測して最大一致について比較およびアラインされる場合、同一であり、または同一であるアミノ酸残基またはヌクレオチドの規定の割合を有する2つ以上の配列または部分配列を指す。例えば、この用語は、本明細書において、別の、好ましくは全ヌクレオチド配列と少なくとも50%、55%、60%、好ましくは、少なくとも70%、75%、より好ましくは、少なくとも80%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94、95%、96%、97%、98%、さらに最も好ましくは、少なくとも99%の相同性、すなわち、配列同一性を有するヌクレオチド配列に関して使用される。
【0081】
相互に比較すべき2つの配列が長さの点で異なる場合、配列同一性は、好ましくは、より長い配列のヌクレオチド残基と同一であるより短い配列のヌクレオチド残基の割合を指す。本明細書において使用される、2つの配列間のパーセント同一性/相同性は、2つの配列の最適なアラインメントのために導入されることが必要とされるギャップの数、およびそれぞれのギャップの長さを考慮して、配列により共有される同一位置の数の関数である(すなわち、%同一性=同一位置の数/位置の総数×100)。配列の比較および2つの配列間のパーセント同一性の決定は、本明細書において以下に記載される数学的アルゴリズムを使用して達成することができる。例えば、配列同一性は、コンピュータプログラム、例えば、Bestfitプログラム(Wisconsin Sequence Analysis Package,Version 8 for Unix,Genetics Computer Group,University Research Park,575 Science Drive Madison,WI 53711)を使用して慣用的に決定することができる。Bestfitは、Smith and Waterman,Advances in Applied Mathematics 2(1981),482−489の局所相同性アルゴリズムを利用して2つの配列間の最大配列同一性を有するセグメントを見出す。Bestfitまたは別の配列アラインメントプログラムを使用して特定の配列が例えば、本発明の参照配列と95%の同一性を有するか否かを決定する場合、パラメータは、好ましくは、同一性の割合が参照配列の全長にわたり計算されるように、および参照配列中のヌクレオチドの総数の最大5%の相同性ギャップが許容されるように調整される。Bestfitを使用する場合、いわゆる任意選択のパラメータは、好ましくは、それらのプリセットされた(「デフォルト」)値で放置される。所与の配列と上記の本発明の配列との間の比較で見られるずれは、例えば、付加、欠失、置換、挿入、または組換えにより引き起こされ得る。このような配列比較は、好ましくは、プログラム「fasta20u66」(William R.Pearsonおよびthe University of Virginiaによる1998年9月のバージョン2.0u66;W.R.Pearson(1990),Methods in Enzymology 183,63−98、添付の例、およびhttp://workbench.sdsc.edu/も参照)により実施することもできる。この目的のため、「デフォルト」パラメータ設定を使用することができる。
【0082】
2つの核酸配列が実質的には同一であるということは、2つの分子がストリンジェントな条件下で相互にハイブリダイズすることを別に示す。語句:「〜に特異的にハイブリダイズすること」は、特定のヌクレオチド配列が複雑な混合物(例えば細胞全体の)DNAまたはRNA中に存在する場合、ストリンジェントな条件下でその特定のヌクレオチド配列にのみ分子が結合、二本鎖形成またはハイブリダイズすることを指す。「実質的に結合する」は、プローブ核酸と標的核酸との間の相補的ハイブリダイゼーションを指し、ハイブリダイゼーション媒体のストリンジェンシーを低減させることにより適合させることができる小規模のミスマッチを包含して標的核酸配列の所望の検出を達成する。
【0083】
核酸ハイブリダイゼーション実験、例えば、サザンおよびノザンハイブリダイゼーションに関する「ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件」および「ストリンジェントなハイブリダイゼーション洗浄条件」は、配列依存的であり、異なる環境パラメータ下で異なる。より長い配列は、より高い温度において特異的にハイブリダイズする。核酸のハイブリダイゼーションの詳細な指針は、Tijssen(1993)Laboratory Techniques in Biochemistry and Molecular Biology−Hybridization with Nucleic Acid Probes part I chapter 2“Overview of principles of hybridization and the strategy of nucleic acid probe assays”Elsevier,New Yorkに見出される。一般に、高度にストリンジェントなハイブリダイゼーションおよび洗浄条件は、定義されるイオン強度およびpHにおいて、規定の配列について熱融解点よりも約5℃低くなるように選択される。典型的には、「ストリンジェントな条件」下で、プローブは、その標的部分配列にハイブリダイズするが、他の配列にはハイブリダイズしない。
【0084】
熱融解点は、(定義されるイオン強度およびpH下で)標的配列の50%が、完全一致プローブにハイブリダイズする温度である。極めてストリンジェントな条件は、特定のプローブについての融解温度(T.sub.m)と等しくなるように選択される。サザンまたはノザンブロットにおけるフィルタ上での100を超える相補的残基を有する相補的核酸のハイブリダイゼーションのためのストリンジェントなハイブリダイゼーション条件の例は、42℃において1mgのヘパリンを有する50%のホルムアミドであり、ハイブリダイゼーションは一晩実施される。高度にストリンジェントな洗浄条件の例は、72℃における約15分間の0.15MのNaClである。ストリンジェントな洗浄条件の例は、65℃における15分間の0.2倍のSSC洗浄である(SSC緩衝液の説明については、以下、Sambrook参照)。多くの場合、高ストリンジェンシー洗浄に先行して、バックグラウンドプローブシグナルを除去するために低ストリンジェンシー洗浄が行われる。例えば、100を超えるヌクレオチドの二本鎖のための中程度のストリンジェンシー洗浄の例は、45℃における15分間の1倍のSSCである。例えば、100を超えるヌクレオチドの二本鎖のための低ストリンジェンシー洗浄の例は、40℃における15分間の4〜6倍のSSCである。短いプローブ(例えば、約10〜50のヌクレオチド)について、ストリンジェントな条件は、典型的には、約1.0M未満のNaイオンの塩濃度、典型的には、pH7.0〜8.3の約0.01〜1.0MのNaイオン濃度(または他の塩)を伴い、温度は、典型的には、少なくとも約30℃である。ストリンジェントな条件は、脱安定化剤、例えば、ホルムアミドの添加により達成することもできる。一般に、特定のハイブリダイゼーションアッセイにおいて非関連プローブについて観察されるものの2倍(またはそれを超える)のシグナルとノイズとの比は、特異的ハイブリダイゼーションの検出を示す。ストリンジェントな条件下で相互にハイブリダイズしない核酸は、それらがコードするタンパク質が実質的に同一である場合、依然として実質的に同一である。これは、例えば、核酸のコピーが遺伝コードにより許容される最大のコドン縮重を使用して作出される場合に生じる。
【0085】
「植物」は、任意の発生段階における任意の植物、特に種子植物である。
【0086】
本明細書において使用される「植物部分」は、植物の構造的および/または機能的下位単位、例として、限定されるものではないが、本明細書において以下に定義される植物細胞、植物組織、植物材料、植物器官、収穫可能な植物部分などを指す。
【0087】
「収穫可能な植物部分」は、植物の部分であり、任意の好適な時期において収穫され、工業的使用または消費のためにさらに加工することができる植物の部分、例として、花、果実、葉、種子、繊維などを指す。
【0088】
「植物細胞」は、プロトプラストおよび細胞壁を含む、植物の構造的および生理学的単位である。植物細胞は、単離された単一組織もしくは培養細胞の形態であり、または、より高度に組織化された単位、例えば、植物組織、植物器官、もしくは植物全体などの部分としての形態であり得る。
【0089】
「植物細胞培養物」は、植物単位、例えば、プロトプラスト、細胞培養細胞、植物組織中の細胞、花粉、花粉管、胚珠、胚嚢、接合子、および種々の発生段階における胚などの培養物を意味する。
【0090】
「植物材料」または「植物から得られる植物材料」は、葉、茎、根、花もしくは花部、果実、花粉、卵細胞、接合子、種子、挿穂、細胞もしくは組織培養物、または植物の任意の他の部分もしくは産物を指す。
【0091】
「植物器官」は、植物の明確な可視的に構造化および分化した部分、例えば、根、茎、葉、花芽、または胚である。
【0092】
本明細書において使用される「植物組織」は、構造的および機能的単位に組織化された植物細胞の群を意味する。植物体または培養物中の植物の任意の組織が含まれる。この用語には、限定されるものではないが、植物全体、植物器官、植物種子、組織培養物、ならびに構造的および/または機能的単位に組織化された植物細胞の任意の群が含まれる。上記に列挙される、またはそうでなければこの定義により包含される任意の規定のタイプの植物組織と併せた、またはその不存在下でのこの用語の使用は、いかなる他のタイプの植物組織も除外するものではない。
【0093】
本明細書において使用される用語「集団」は、共通の遺伝的由来を共有する植物の遺伝的に異種の回収物を意味する。
【0094】
本明細書において使用される用語「変種」または「栽培品種」は、構造的な特徴および性能により同一種内の他の変種から識別することができる類似の植物の群を意味する。
【0095】
本明細書において使用される用語「植物形質転換技術」は、規定の形質を宿主植物中に付与するトランス遺伝子の導入に関する。トランス遺伝子は、宿主植物ゲノム中に取り込まれ、将来世代にわたり安定的に遺伝される。正確な調節配列、すなわち、プロモーターおよびターミネーターを関心対象の遺伝子に付加し、次いで、適切なベクターを使用してDNAを植物細胞培養物に移す。一部の実施形態において、本明細書において上記のトランス遺伝子の存在の選択を可能とする遺伝子を選択マーカーに結合させる。植物組織を形質転換したら、トランス遺伝子を含有する細胞を選択し、植物全体に戻す再生を実施する。
【0096】
植物形質転換は、当該植物の種に応じて、関心対象の配列の発現に適した植物宿主を作製する、要求される代理機能を有する植物宿主を生成する多数の異なる手法において実施することができる。例えば、アグロバクテリウム属(Agrobacterium)媒介形質転換を使用して本発明による植物を形質転換することができる。この形質転換法の範囲内で、植物または植物組織(例えば、葉)を小片、例えば、10×10mmに切断し、アグロバクテリウム属(Agrobacterium)により担持されるTiプラスミドベクターを含有する懸濁アグロバクテリウム属(Agrobacterium)を含有する液体中で10分間浸漬する(米国特許第5,591,616号明細書;米国特許第4,940,838号明細書;米国特許第5,464,763号明細書)。植物を選択発根および発芽培地上に配置すると、植物は再生長する。
【0097】
非アグロバクテリウム属(Agrobacterium)技術は、プロトプラストまたは細胞による直接的な外因遺伝材料の取り込みを伴う。これらの技術には、限定されるものではないが、PEGまたはエレクトロポレーション媒介取り込み、粒子ボンバードメント媒介送達およびマイクロインジェクションが含まれる。これらの技術の例は、Paszkowski et al.,EMBO J 3,2717−2722(1984)、Potrykus et al.,Mol.Gen.Genet.199,169−177(1985)、Reich et al.,Biotechnology 4:1001−1004(1986)、およびKlein et al.,Nature 327,70−73(1987)に記載されている。それぞれの場合において、標準的技術を使用して形質転換細胞を植物全体に再生させる。例えば、粒子ボンバードメントの範囲内で、金またはタングステンの粒子をDNAにより被覆し、次いで苗細胞または植物胚中に撃ち込む(米国特許第05100792号明細書;欧州特許第00444882B1号明細書;欧州特許第00434616B1号明細書)。一部の遺伝材料は細胞中に留まり、それらを形質転換する。この方法を使用して植物プラスチドを形質転換することもできる。さらに、エレクトロポレーション技術を使用して本発明による植物を形質転換することができる。エレクトロポレーションの間、電気ショックを使用して一過性の孔を細胞膜中に調製し、DNAを細胞に流入させる。本発明の範囲内の別の形質転換技術は、ウイルス形質転換(トランスダクション)であり得る。ここで、所望の遺伝材料を好適な植物ウイルス中にパックし、この改変ウイルスを植物に感染させる。遺伝材料がDNAである場合、それは染色体と組換わって形質転換細胞を産生し得る。しかしながら、ほとんどの植物ウイルスのゲノムは、感染細胞の細胞質中で複製する一本鎖RNAからなる。
【0098】
本発明によるヌクレオチド配列またはベクターによる植物または植物細胞の形質転換または遺伝子操作は、例えば、Sambrook and Russell(2001),Molecular Cloning:A Laboratory Manual,CSH Press,Cold Spring Harbor,NY,USAに記載の標準的方法により実施することができる。さらに、本発明のトランスジェニック植物細胞は、特にpH値、温度、塩濃度、通気、抗生物質、ビタミン、微量元素などに関して、使用される特定の細胞の要求を満たす栄養培地中で培養する。
【0099】
本明細書において使用される用語「ベクター」または「ベクター分子」は、前記ポリヌクレオチドに作動可能に結合している発現制御配列を含み得る発現カセットを含み得る。ベクターは、プラスミドの形態であり得、単独で、または他のプラスミドとの組合せで使用し、トランス遺伝子を植物の遺伝材料中に取り込むための以下に記載の形質転換法を使用して形質転換細胞を提供することができる。さらに、ベクターは、コスミド、ウイルス、バクテリオファージおよび遺伝子操作において一般に使用される他のベクターを含み得る。
【0100】
「トランス遺伝子」は、形質転換によりゲノム中に導入され、安定的に維持される遺伝子を指す。トランス遺伝子は、例えば、形質転換すべき特定の植物の遺伝子と異種または同種のいずれかである遺伝子を含み得る。さらに、トランス遺伝子は、非天然生物中に挿入される天然遺伝子、またはキメラ遺伝子を含み得る。
【0101】
「コード配列」は、規定のアミノ酸配列をコードするDNAまたはRNA配列を指し、非コード配列を除外する。これは、「非中断コード配列」、すなわち、例えば、cDNAにおけるようにイントロンの欠如を構成し得、または適切なスプライスジャンクションにより結合している1つ以上のイントロンを含み得る。「イントロン」は、一次転写物中に含有されるが細胞内のRNAの開裂および再連結を介して除去されてタンパク質に翻訳され得る成熟mRNAを作出するRNAの配列である。
【0102】
本明細書において使用される用語「発現カセット」は、本発明の1つ以上のヌクレオチド配列の発現を制御する調節ヌクレオチド配列と作動可能に結合している本発明の1つ以上のヌクレオチド配列を構成し得る。当分野において公知のとおり、発現カセットは、プロモーター配列(プロモーター)、オープンリーディングフレームまたはその機能的部分、3’非翻訳領域およびターミネーター配列(ターミネーター)からなり得る。カセットは、本明細書において上記のベクター分子の部分であり得る。正確な調節配列を使用する限り、異なる発現カセットを植物または植物細胞中に形質転換することができる。
【0103】
本明細書において使用される用語「プロモーター」は、通常はコード配列の上流(5’)に存在し、RNAポリメラーゼの認識および正確な転写に要求される他の因子の認識を提供することによりコード配列の発現を制御するヌクレオチド配列を指す。「プロモーター」は、TATAボックスおよび転写開始部位を規定するのに役立つ他の配列からなる短いDNA配列である最小プロモーターを含み、それに発現の制御のための調節エレメントが付加される。さらに、「プロモーター」は、コード配列または機能的RNAの発現を制御し得る調節エレメントと最小プロモーターを含むヌクレオチド配列も指す。このタイプのプロモーター配列は、近位およびより遠位の上流エレメントからなり、後者のエレメントはエンハンサーと称されることが多い。したがって、「エンハンサー」は、プロモーター活性を刺激し得、プロモーターの固有のエレメントまたはプロモーターのレベルもしくは組織特異性を向上させるために挿入された異種エレメントであり得るDNA配列である。これは、両方の配向(正常またはフリップ)で作動し得、プロモーターから上流または下流のいずれかに移動した場合であっても機能し得る。エンハンサーおよび他の上流プロモーターエレメントは両方とも、それらの効果を媒介する配列特異的DNA結合タンパク質に結合する。プロモーターは天然遺伝子から全体として誘導することができ、または天然に見出される異なるプロモーターから誘導された異なるエレメントから構成することができ、またはさらには合成DNAセグメントから構成することができる。プロモーターは、生理学的条件または発生条件に応答して転写開始の有効性を制御するタンパク質因子の結合に関与するDNA配列も含有し得る。
【0104】
「開始部位」は、+1位としても定義される、転写配列の部分である第1のヌクレオチドを包囲する位置である。この部位に関して、遺伝子およびその制御領域の全ての他の配列が番号付与される。下流配列(すなわち、3’方向におけるさらなるタンパク質をコードする配列)は正で表示される一方、上流配列(5’方向における制御領域の大部分)は負で表示される。
【0105】
不活性であり、または上流の活性化の不存在下で大幅に低減されたプロモーター活性を有するプロモーターエレメント、特にTATAエレメントは、「最小またはコアプロモーター」と称される。好適な転写因子の存在下で、最小プロモーターは転写を可能とするように機能する。したがって、「最小またはコアプロモーター」は、転写開始に必要とされる全ての基本エレメント、例えばTATAボックスおよび/または開始因子からのみなる。
【0106】
本発明によれば、用語「プロモーター」は、遺伝子の転写を駆動する核酸(例えば、DNA)の調節領域である。プロモーターは、典型的には、それらが調節する遺伝子の近傍で、同一鎖上および上流(センス鎖の5’領域に向かって)に局在する。いくつかのタイプのプロモーターが形質転換の分野において周知であり、それらは、単独で、または他のプロモーターとの組合せで使用することができる他の調節エレメントである。「植物プロモーター」は、植物細胞中で転写を開始させ得るプロモーターである。発生制御下のプロモーターの例には、全ての植物細胞中で発現されないが、特異的器官(例えば、葉または種子)、特異的組織(例えば、胚または子葉)中の1つ以上の細胞タイプ、または特異的細胞タイプ(例えば、葉柔組織または種子貯蔵細胞)中でのみ発現される調節プロモーターに関する「組織特異的プロモーター」が含まれる。これらには、例えば、早期または後期胚発生において、種子または果実の発生における果実の熟成の間、完全に分化した葉において、または老化の発症時に一時的に調節されるプロモーターも含まれる。
【0107】
「細胞タイプ」特異的プロモーターまたは「誘導性プロモーター」とも呼ばれるものは、主として、外的刺激、例えば、化学物質、光、ホルモン、ストレス、または病原体により1つ以上の器官中のある細胞タイプ、例えば、根または葉中の維管束細胞中で発現を駆動する。
【0108】
「構成的発現」は、構成的または調節プロモーターを使用する発現を指す。
【0109】
「条件的」および「調節発現」は、調節プロモーターにより制御される発現を指す。
【0110】
「構成的プロモーター」は、植物の全てのまたはほぼ全ての発生段階の間に植物組織の全てまたはほぼ全てにおいてそれが制御するオープンリーディングフレーム(ORF)を発現し得るプロモーターを指す。転写活性化エレメントのそれぞれは、絶対的な組織特異性を示さないが、転写が最も活性である植物の部分において達成されるレベルの≧1%のレベルにおいてほとんどの植物部分において転写活性化を媒介する。
【0111】
「調節プロモーター」は、構成的ではないが、一時的および/または空間的に調節された様式で遺伝子発現を指向し、組織特異的プロモーターおよび誘導性プロモーターの両方を含むプロモーターを指す。それには、天然および合成配列、ならびに合成および天然配列の組合せであり得る配列が含まれる。異なるプロモーターは、異なる組織もしくは細胞タイプ中で、または発生の異なる段階において、または異なる環境条件に応答して遺伝子の発現を指向し得る。植物細胞において有用な種々のタイプの新規プロモーターが常に発見されており、多数の例をOkamuro et al.(1989)による編集物に見出すことができる。植物において有用な典型的な調節プロモーターには、限定されるものではないが、セーフナー誘導性プロモーター、テトラサイクリン誘導性系由来のプロモーター、サリチル酸誘導性系由来のプロモーター、アルコール誘導性系由来のプロモーター、グルココルチコイド誘導性系由来のプロモーター、病原体誘導性系由来のプロモーター、およびエクジソム(ecdysome)誘導性系由来のプロモーターが含まれる。
【0112】
「作動可能に結合している」は、あるものの機能が他のものにより影響されるような単一核酸断片に対する核酸配列の会合を指す。例えば、調節DNA配列は、調節DNA配列がコードDNA配列の発現に影響するように(すなわち、コード配列または機能的RNAがプロモーターの転写制御下に存在するように)2つの配列が置かれる場合、RNAまたはポリペプチドをコードするDNA配列と「作動可能に結合している」または「会合している」と言及される。コード配列はセンスまたはアンチセンス配向で調節配列に作動可能に結合させることができる。
【0113】
上記に関して、用語「ターミネーター」は、転写のためのゲノムDNA上の遺伝子の端部をマーキングし、したがって、それぞれの遺伝子の転写の終結を開始させるDNA配列の調節領域に関する。
【0114】
本明細書において使用される「発現」は、植物中での内在遺伝子、ORFもしくはその一部またはトランス遺伝子の転写および/または翻訳を指す。例えば、アンチセンス構成物の場合、発現はアンチセンスDNAのみの転写を指し得る。さらに、発現はセンス(mRNA)または機能的RNAの転写および安定な蓄積を指す。発現は、タンパク質の産生も指し得る。
【0115】
「過剰発現」は、正常または未形質転換(非トランスジェニック)細胞または生物体中の発現レベルを超過するトランスジェニック細胞または生物中の発現レベルに関する。
【0116】
「アンチセンス阻害」は、内在遺伝子またはトランス遺伝子からのタンパク質の発現を抑制し得るアンチセンスRNA転写物の産生に関する。
【0117】
「遺伝子サイレンシング」は、ウイルス遺伝子、トランス遺伝子または内在核遺伝子の相同性依存性抑制を指す。遺伝子サイレンシングは、抑制が影響された遺伝子の転写の減少に起因する場合には転写時、または抑制が影響された遺伝子に相同のRNA種の代謝回転(分解)の増加に起因する場合には転写後であり得る(English et al.,1996)。遺伝子サイレンシングには、ウイルス誘導遺伝子サイレンシングが含まれる(Ruiz et al.,1998)。
【0118】
本明細書において使用される用語「BAC」は、細菌人工染色体を意味し、細菌、例えば、大腸菌(E.coli)中の形質転換およびクローニングに使用される機能的稔性プラスミドをベースとするDNA構築物を定義する。BACは、生物、例えば、植物のゲノムを配列決定するために使用することができる。生物DNAの短片をBAC中で挿入物として増幅し、次いで配列決定する。最後に、配列決定された部分をインシリコで再構成し、生物のゲノム配列をもたらす。
【0119】
本明細書において使用される「増加された種子活力」は、斉一な様式で急速に発芽し、発芽の高い割合を達成する;土壌から急速に発生し、発生の高い割合を有する実生を生産する;急速に生長し、種々のストレス、例として、限定されるものではないが、低温に対する優れた耐性を実証する実生を生産する種子の能力を指す。種子活力は、上記パラメータのいずれかおよびそれらの任意の組合せの定量化である。
【0120】
「種子発芽」は、種皮からの幼根の発生と定義される。
【0121】
以下の「発芽速度」は、種子吸水と種皮からの幼根の発生との間で観察される平均時間を指す。
【0122】
本願に従うと、発芽速度は、最終的には、種子発芽の50%を観察するために必要とされる期間を計算することにより計測することができる(結果をT50計測値として表現する)。
【0123】
「増加された発芽速度」は、実施形態5によるポリヌクレオチドを含む種子の発芽と、前記ポリヌクレオチドの1つも含まない種子の発芽との間の有意な観察可能な差と理解すべきである。典型的には、増加された発芽速度は、実施形態5によるポリヌクレオチドを含む種子が、配列番号3も、配列番号4も、配列番号6も含まない種子よりも早期に発芽することを意味する。
【0124】
「改変された発芽速度」は、実施形態1〜7によるポリヌクレオチドを含む種子の発芽と、前記ポリヌクレオチドを1つも含まない種子の発芽との間の有意な観察可能な差と理解すべきである。典型的には、改変された発芽速度は、実施形態1〜7によるポリヌクレオチドを含む種子が、配列番号1も、2も、3も、4も、5も、6も含まない種子よりも異なって発芽することを意味する。
【0125】
本明細書において使用される種子発芽の斉一性は、10%の発芽と90%の発芽との間の時間として表現することができる。この期間が短ければ、種子発芽の斉一性がより良好である。
【0126】
「不利な外的環境条件」は、種子の発芽または実生の発生を阻害し、または延期させる条件である。本発明に関して、とりわけ、低温は、正常な発芽条件に対して不利なものとみなすことができる1つの因子である。
【0127】
「(実生の)発生」は、観察可能な植物の生長を指すことを意味する。
【0128】
「増加された実生発生」は、実施形態5によるポリヌクレオチドを含む種子からの実生の発生と、配列番号3も、4も、6も含まない種子からの実生の発生との間の有意な観察可能な差と理解すべきである。
【0129】
本発明は、以下に記載される関連する配列表とともに以下の非限定的な例からさらに明らかである:
配列番号1:BolC.VG1.a遺伝子(At3g01060遺伝子のヤセイカンラン(Brassica oleracea)オルソログ)のA12DHd対立遺伝子に対応するポリヌクレオチド配列。
配列番号2:BolC.VG2.a遺伝子(At3g01150遺伝子のヤセイカンラン(Brassica oleracea)オルソログ)のA12DHd対立遺伝子に対応するポリヌクレオチド配列。
配列番号3:BolC.VG1.a遺伝子(At3g01060遺伝子のヤセイカンラン(Brassica oleracea)オルソログ)のGD33DHd対立遺伝子に対応するポリヌクレオチド配列。
配列番号4:BolC.VG2.a遺伝子(At3g01150遺伝子のヤセイカンラン(Brassica oleracea)オルソログ)のGD33DHd対立遺伝子に対応するポリヌクレオチド配列。
配列番号5:BolC.VG2.b遺伝子(At3g01150遺伝子のヤセイカンラン(Brassica oleracea)オルソログ)のトランケートされたA12DHd対立遺伝子に対応するポリヌクレオチド配列。
配列番号6:BolC.VG2.b遺伝子(At3g01150遺伝子のヤセイカンラン(Brassica oleracea)オルソログ)のトランケートされたGD33DHd対立遺伝子に対応するポリヌクレオチド配列。
【図面の簡単な説明】
【0130】
【
図1】水上での15℃における置換系統SL101(○)ならびに親系統(A12DHd(■)およびGDDH33(●))からの種子の累積発芽曲線のグラフ表示である。縦線は標準誤差である。
【
図2】SL101(◇)および反復A12DHd(■)親ならびに正逆F
1戻し交配系統(A12DHd×SL101(△)およびSL101×A12DHd(○)の累積発芽曲線のグラフ表示である。縦線は標準誤差である。
【
図3】置換系統SL101(▲)ならびに親系統A12DHd(●)およびGDD33H(■)の種子からの圃場における累積実生発生のグラフ表示である。
【
図4】置換系統SL101(白色棒)ならびに親系統、GDDH33(黒色棒)およびA12DHd(灰色棒)の種子における発芽の間のABAの内在濃度を説明するダイアグラムである。
【
図5】KO系統の遺伝子At3g01060(黒色棒)についての3、および遺伝子At3g01150(灰色棒)についての2における種子発芽速度を説明するダイアグラムである。野生型対照系統(白色棒)は、col0である。
【
図6】温室(よりストレスの多い条件)中での種子生産後の、野生型対照系統Col0(黒色線)と比較したKO系統102(淡灰色線)および18(薄い中程度の灰色線)(遺伝子At3g01060について)ならびにKO系統15(濃い中程度の灰色線)および3(暗灰色線)(遺伝子Atg01150について)における種子発芽速度を説明するダイアグラムである。
【実施例】
【0131】
実施例1
材料および方法
種子生産および系統の比較
種子試料をBirmingham University,UKから、倍加半数体親系統A12DHd(カイラン(var.alboglabra))およびGDDH33(ブロッコリー(var.italica);Rae et al.,1999)に由来する様々なヤセイカンラン(Brassica oleracea)染色体置換系統について入手した。次いで、バルク種子を生産し、置換系統およびGDDH33親の10の個々のレプリケート植物から回収し、置換系統としての反復A12DHd親の20の植物を発芽実験において後者と比較する。植物を、Bettey et al.(2000)により記載されるとおり、温室中で16〜18℃において日中16時間および夜間10〜15℃において10のレプリケートを有するランダム化ブロックに配列させ、光強度が日中16時間の間300wm
2未満である場合、追加の照明(400W高圧ナトリウムランプ;Osram Ltd,St Helens,UK)を供給した。開花前にクロバエを含有する有孔ポリエチレンバッグ中に花序を封入することにより植物を自家受粉させた。種子鞘を封入バッグ内で収穫前に植物上で完全に乾燥させた。種子を清浄し、15%相対湿度および15℃において平衡化し、次いで−20℃において貯蔵してから発芽実験を実施した。湿潤濾紙上での累積発芽を15℃において、上記の10のレプリケート植物(または20、A12DHd)のそれぞれから回収された15の種子の4つのレプリケートについて記録した。従来の研究は、これが十分な種子であることを示している(Bettey et al.,2000)。高頻度の計数を行ってそれらの計測値からの50%の発芽までの時間の正確な計算を可能とした。発芽割合は、全ての種子ロットにおいて高かった。
【0132】
後続の実験において、正逆戻し交配からのF1種子を上記と同一の様式で産生した。蕾受粉を実施して交配を行い、F1をもたらした。親系統からの種子を同時に比較のために生産して種子生産間の環境差の影響を最小化した。さらに、年の異なる時間における多数の場合において、上記のとおり温室中で親A12DHdおよび置換系統SL101の両方のレプリケート植物から種子を生産した。温室加熱、通気および照明設定は上記と同一のままであったが、周囲温度は異なり、それを記録した。
【0133】
発芽アッセイ
置換および親ヤセイカンラン(Brassica oleracea)系統からの50の種子の3つの生物学的レプリケートまたはシロイヌナズナ属(Arabidopsis)野生型および突然変異系統からの50の種子の3〜15の生物学的レプリケートを配置し、水による処理にわたり湿潤を保持された2層の濾紙(Whatman International Ltd.,UK)上で発芽させた。
【0134】
全ての発芽実験において、ランダム化ブロックに配列され、暗所で保持された透明ポリスチレンボックス中で濾紙上の種子を保持した。真菌感染の証拠は観察されず、したがって、種子の発芽への影響を回避するために種子を滅菌しなかった。発芽(幼根発生)を周期的に記録して累積発芽曲線を構築した。
【0135】
圃場発生
ヤセイカンラン(B.oleracea)遺伝子型からの実生発生のより大きい未公開の比較の一部として、親系統GDDH33、A12DHdおよび置換系統SL101の100の種子を、ランダム化ブロックに配列された1mの列で4つのレプリケートで5月31日に蒔いた。種子を15mmの深さの溝に手で蒔き、ふるい分けされた土壌(ふるい孔サイズ<4mm)により被覆し、表面をStanhay種子条播鎮圧輪により1回ロールした。土壌は砂壌土であり、注水を適用して種子発芽および実生発生の間にわたり土壌湿分を維持した。実生発生を実生がもはや発生しなくなるまで規則的な間隔において記録した。
【0136】
ホルモン分析
置換および親系統からの種子の試料を未吸水乾燥種子として採取し、種子を15℃において湿潤濾紙上で24および48時間吸水させた。それぞれの試料は、吸水前に計測して1gの乾燥種子を含有した。試料を直ちに液体窒素中に配置し、凍結乾燥させ、次いで家庭用冷凍庫中に−20℃において抽出まで配置した。試料は10mlの低温(4℃)80%メタノール(20mgl−lのBHTを含有)中であり、次いで500ngのABAおよび100ngのGAスタンダードのそれぞれを添加した。試料を低温キャビネット中で一晩撹拌し、次いで遠心分離した。上清をデカントし、ペレットをさらなる10mlの80%メタノール中で再懸濁させた。試料を4時間撹拌し、遠心分離し、上清を合わせた。上清を水性(約3〜4ml)に蒸発させ、10mlの0.5MのpH8.2リン酸緩衝液を添加し、試料を2×15mlのジクロロメタンにより分配し、ジクロロメタンを廃棄した。水性分画を1Mのリン酸によりpH3に調整し、3×15mlの酢酸エチルにより分配した。
【0137】
合わせた酢酸エチル分画を2×3.5mlのpH3.0の水により洗浄し、蒸発乾固させ、5mlの水中で再溶解させ、pHを8に調整した。次いで、溶液をQMAカートリッジ上にロードし、続いてそれを5mlの15%のメタノールpH8.0により洗浄した。GAおよびABAをQMAカートリッジからC1821カートリッジ上に5%のメタノール中0.2Mのギ酸により直接溶出させた。次いで、C18カートリッジを5mlの20%のメタノールにより洗浄し、試料を5mlの80%のメタノール中で回収し、蒸発乾固させた。次いで、試料をメタノール中で溶解させ、過剰のエーテル性ジアゾメタンによりメチル化した。蒸発乾固後、試料を乾燥酢酸エチル中で再溶解させ、アミノカートリッジに通過させた。得られた試料をABA含有率についてGC−MSにより直接分析し、次いで蒸発乾固させ、BSTFA中で再溶解させてからGA含有率についてGC−MSにより分析した。
【0138】
マーカー分析
プライマー対を、Primer3ソフトウェア(http://gene.pbi.nrc.ca/cgibin/primer/primer3_www.cgi)およびTairからの遺伝子データ(http://www.arabidopsis.org/)を使用してSOG1領域にわたり周期的に拡散している30のシロイヌナズナ属(Arabidopsis)遺伝子モデルに対して設計して200〜700bpのPCR産物を生じさせた。使用されるPCRミックスは、スタンダードであったが、タッチダウンプログラムを使用した。これは、以下のサイクリングパラメータからなるものであった:5分間94℃;次いでそれぞれのサイクルで1度降下する65℃〜55℃における10サイクルのアニーリングと10サイクルにわたる72℃における30秒間の伸長および94℃における30秒間の変性;次いで94℃30秒間、55℃30秒間、72℃45秒間の30サイクル;ならびに72℃における15分間の最終伸長。多型結果を生じさせた遺伝子モデルについてのプライマー配列をマーカーとして選択した(表1)。
【0139】
データ分析
全ての分析は、統計パッケージGenstat5(Payne et al.1993)を使用して実施し、適切なデータを分散分析に供した。
【0140】
結果
裏付けおよび精細マッピングされた連鎖群C1上の発芽速度(SOG1)についてのQTL
置換および親系統を比較する発芽データの分散分析は、GDDH33親がA12DHd親よりも有意に(P<0.001)早く発芽したことを示し、このことは、Bettey et al.(2000)により示されるとおり、陽性発芽速度対立遺伝子がGDDH33により提供されることを裏付ける(
図1)。SOG1QTLをスパンする4つの置換系統(SL101、SL111、SL118、SL119)が存在し、それらの全てはA12DHd親よりも有意に(P<0.005)早い発芽を有した。置換系統SL101は、最小の遺伝子移入領域(1〜9cM;Rae et al.,1999)を有し、それはA12DHdと比較して発芽速度を向上させ、親系統間の発芽速度の差のほとんどの要因であり(
図1)、したがって、SOG1のさらなる試験について選択した。
【0141】
SOG1早発芽表現型は、母体遺伝子型により影響を受けない
発芽速度は、胚により決定されるが、起源が母体であるそれを包囲する組織によっても顕著に影響を受け得る。SL101とA12DHdとの間およびGDDH33とA12DHdとの間の正逆戻し交配を実施してSOG1遺伝子座における母体および接合子遺伝子成分を決定した。それぞれの交配のF1種子および同時に生産された自家受粉親系統の種子からの発芽を記録した。SL101およびA12DHdとの正逆戻し交配からのF1の発芽速度の有意差は存在しなかったが(母体植物としてのSL101およびA12DHdからの花粉ならびにその逆)、3つ全てからの種子の発芽はA12DHdの種子よりも有意に(P<0.01)早かった(
図2)。このことは、より早く発芽するGDDH33対立遺伝子が形質の遺伝に対する遺伝的な母体の影響なしで優勢であり得ることを示し、それが胚に基づくことを裏付ける。
【0142】
発芽速度の差は、圃場における実生発生の時期の差に導く
上記データは、GDDH33およびSL101種子の発芽速度が一定温度条件下でA12DHdのものよりも有意に大きかったことを示す。圃場において、このことは、A12DHdよりも有意に早期のGDDH33およびSL101からの実生発生をもたらした(
図3)。
【0143】
内在ABA濃度は、成熟時に遺伝子型間で異なる
3つの遺伝子型の乾燥および吸水種子中のABAの内在濃度をGCMSを使用して計測した。SL101およびGD33の乾燥種子中の、または幼根発生直前の48時間までの吸水の間でABAの内在濃度の有意差は存在しなかった。これらの2つの種子ロットのABA濃度は、最初の24時間にわたり同一のままであり、次いで48時間までにその半分に低落した。対照的に、A12DHdの種子中のABAの内在濃度は、最初に、SL101およびGDDH33よりも3倍高く、次いで吸水の48時間の期間にわたり徐々に低落したが、他の2つの種子ロットを有意に上回るままであった(
図4)。興味深いことに、A12DHdにおいてABAが同一速度において低落し続ける場合、それは72時間後、発芽点で、他の2つの系統においてそれらの発芽直前に見られるものと同一のレベルに達する。
【0144】
本明細書において提示されるGDDH33、SL101およびA12DHD系統についての結果は、より高い内在ABA含有率とより低い発芽速度との間、またはその逆の明確な遺伝的に決定された関係を示す。
【0145】
ヤセイカンラン(Brassica oleracea)における発芽速度形質の定量的遺伝子分析を実施した。
【0146】
上記置換系統SL101を用いたQTLの精細マッピングにより、本発明者らは、最終的に、QTL(Speed Of Germination(SOG1))の根底をなす2つの遺伝子を同定した。この系統SL101は、ヤセイカンラン(Brassica oleracea)における遅発芽親(A12、ケール)のバックグラウンドにおける早発芽親(GD33、ブロッコリー)からのC1のテロメア末端において短い遺伝子移入物を有する。SL101のこの遺伝子移入領域にわたるマーカーを使用する手法により、この区域に沿った30の組換えをBACティリングパス(tilling path)方針の結果、1,300系統内で同定した。この方針は、系統を5つの異なる群および2つの親系統にまとめることを可能とする。次いで、種子発芽をこれらの7つの群にわたり評価し、統計的分析は、より早い発芽がC1のテロメア末端における2つのマーカーに関連することを明らかにした。C1のテロメア末端上での単一BACとのこれらのマーカーの同時局在化を、蛍光インサイチューハイブリダイゼーションによりさらに評価した。BACを配列決定し、12の全長遺伝子がその中に存在することを見出した。
【0147】
これらのアブラナ属(Brassica)遺伝子の推定オルソログが、シロイヌナズナ属(Arabidopsis)においてSOG1QTLが局在している第3染色体の上腕において同定されている(Clerkx et al.2004)。ヤセイカンラン(Brassica oleracea)におけるC1のテロメア末端とシロイヌナズナ属(Arabidopsis)における第3染色体の上腕との間の良好な遺伝的共直線性に基づき(上記および下記参照)、アブラナ属(Brassica)およびシロイヌナズナ属(Arabidopsis)において同定された遺伝子は、種子発芽における共通の機能を共有することを考慮することが妥当である。本発明者らの仮説を強化するため、本発明者らは、アブラナ属(Brassica)において発見されたものの推定オルソログ遺伝子におけるシロイヌナズナ属(Arabidopsis)ノックアウト(KO)突然変異系統を同定した。これらのKO系統の2つが、有意な発芽表現型(対照Col0系統と比較して早い発芽)を有することを見出され、そのことは、それらの遺伝子が発芽の負の調節因子として作用することを示唆する(
図5)。少なくとも2つの異なるKO系統を使用して発芽表現型を評価することおよびそれらの異なるKO系統が発芽速度にかかわらず類似の結果を示したことに留意することが興味深い。結果をよりストレスの多い条件において種子生産後に評価した場合(
図6)、極めて同等であった。
【0148】
したがって、この機能的試験は、種子活力の調節、特に発芽速度の調節におけるAtg01060およびAtg01150遺伝子の役割を裏付けた。したがって、ヤセイカンラン(Brassica oleracea)におけるSOG1QTL内で同定されたこれらの遺伝子のアブラナ属(Brassica)オルソログのBolC.VG1.aおよびBolC.VG1.bは、事実上、種子活力のモジュレーション、より特定すると、アブラナ科(brassicaceae)における種子発芽速度のモジュレーションを可能とするツールとみなすことができる。
【0149】
ヤセイカンラン(B.oleracea)連鎖群C1と、シロイヌナズナ属(Arabidopsis)の第3染色体上腕との間との連関を確認する
上記SL101に対する試験は、連鎖群C1(LGC1)のテロメア末端における単一遺伝子移入領域がSOG1についてのQTLを含有することを示した。目下の試験において、本発明者らは、ヤセイカンラン(B.oleracea)におけるこの領域とシロイヌナズナ属(Arabidopsis)ゲノムとの間の共直線性を確立してこのモデル種に対して実施された詳細なQTL分析との比較を可能とすることを目的とした。既にアブラナ属(Brassica)ゲノムとシロイヌナズナ属(Arabidopsis)との間の多数の連関が示されている(Cogan et al.,2004;Parkin et al.,2005)。
【0150】
特に、LGC1とシロイヌナズナ属(Arabidopsis)との間の連関(Cogan et al.,2004)を利用してさらなる情報マーカーの開発を支援した。このアプローチを使用して、この領域にわたり拡散している30のシロイヌナズナ属(Arabidopsis)遺伝子モデルに対するプライマー対を設計した。これらのプライマーを試験してそれらがヤセイカンラン(B.oleracea)産物を増幅させるか否か、次いでSL101と親系統A12DHdおよびGD33DHdとの間に多型が存在するか否かを決定した(表1)。SL101およびGD33DHdにおいて同一であるが、A12DHdにおけるものとは異なるバンドパターンは、この遺伝子座におけるその存在を示し、したがって、SOG1についてのマーカーとしてのその有用性を示す。シロイヌナズナ属(Arabidopsis)第3染色体の上腕と、ヤセイカンラン(B.oleracea)LGC1のSOG1領域との間の連関を固定する3つの遺伝子モデルについてのプライマーを情報マーカーとして同定した(At3g01190、At3g07130、At3g02420、表1)。共直線性のこの裏付けは、局在する種子性能についてのQTLを有するSOG1と、シロイヌナズナ属(Arabidopsis)ゲノムのこの領域との比較を正当化する。
【0151】
【表1】
【0152】
要するに、これらの結果は、特に種子活力がモジュレートされた植物、より特定すると、発芽速度がモジュレートされた植物を遺伝子操作するために、実施形態1〜23のいずれかによるBolC.VG1.aA12/GD33対立遺伝子またはBolC.VG2.aA12/GD33対立遺伝子またはBolC.VG2.bA12/GD33対立遺伝子のいずれかを使用する可能性を開く。
【0153】
実施例2
種子活力に関連する追加の表現型を明らかにする実験
これらの実験は、GD33対立遺伝子を有する(SL101)または有さない(A12)種子間の発芽特徴の差を明確に示す。
【0154】
系統A12およびSL101の種子は英国原産であり、2009年に南アフリカ共和国において商業種子生産者により複製された。種子の発芽特徴の決定は、Enkhuizen,Netherlandsにおいて2010年初頭に行われた。
【0155】
標準的商業条件下の種子性能
100の種子の2つのレプリケートを、通常の商慣行におけるように土壌により満たした標準トレイ中で蒔いた。トレイを発芽チャンバ中で18℃において暗所で3日間配置した。次いで、トレイを20℃の平均温度を有する温室に移した。蒔いて10日後、正常に発生した実生の数および発生しなかった種子の数を計数した。
【0156】
これらの条件下でのSL101の性能は、A12よりもかなり良好であった(表2)。
【0157】
【表2】
【0158】
紙上での発芽の温度感受性
それぞれのA12およびSL101の100の種子の2つのレプリケートを、10、20または30℃の温度において透明プラスチック発芽ボックス中で湿式濾紙上での条件のそれぞれの組合せについて蒔いた。ボックスを上記温度において暗所において保持し、または蛍光灯下に配置した。
【0159】
発芽を根の突出として計測して毎日計数した。発芽を、追加の発芽が観察されない場合、計測の開始10日後まで計数した。
【0160】
データは、それぞれの条件下で発芽割合がA12と比較してSL101について高かったことを示す(表3)。
【0161】
【表3】
【0162】
紙上での発芽速度
発芽速度を20℃の条件下で明所で測定し、その条件では両方の系統がそれらの最大発芽を有した。1系統当たり50の種子の2つのレプリケートをプラスチック発芽ボックス中で上記条件下で紙上に配置した。t50(発芽種子の50%が発芽するまでの時間)を測定した(表4)。
【0163】
表に示されるとおり、50%の発芽までの時間は、A12と比較してSL101についてかなり短かった。
【0164】
【表4】
【0165】
紙上での発芽の間の低温に対する感受性
1つの処理当たり50の種子の2つのレプリケートを、紙上での発芽試験のために上記のとおり明所で5℃または10℃においてインキュベートした。インキュベーションは、水中またはGA3の1mM溶液中であった。10日後、発芽した種子を取り出した。次いで、残りの発芽しなかった種子を有するボックスを明所で20℃において配置した。さらに5日後、発芽した種子の数を計数した。比較として、A12およびSL101の両方の種子を前処理なしで明所で20℃において発芽させた。これらの種子の発芽割合を10日後に計数した。
【0166】
特に5℃において、2つの系統間で大きな差が存在した(表5)。水中での前処理は、後の明所での20℃におけるA12の発芽を大きく妨害した。このことは、1mMのGA3中での前処理については当てはまらなかった。SL101は、水中5℃における前処理後の発芽のわずかな低減を示したにすぎなかった。
【0167】
【表5】
【0168】
実施例3
雑種種子性能に対する遺伝子型の効果
2つの雄性不稔系統の花を7つの他の系統からの花粉と受粉させることにより、南アフリカ共和国における商業種子生産条件下で雑種種子を生産した。雌性系統1はGD33対立遺伝子を含有し、雌性系統2はA12対立遺伝子を含有した。発芽の間の低温に対する感受性をこれらの種子について試験した。種子を白色蛍光灯中で湿潤濾紙上で5℃において10日間インキュベートした。発芽パーセントを10日後に記録し、発芽しなかった種子を明所で20℃に移した。5日後、発芽した種子の割合を記録した。
【0169】
GD33対立遺伝子を含有する雌性系統上で生産された種子は、5℃においてかなり高い発芽を示し、20℃に移した後に90%を超えて発芽した。GD33対立遺伝子を有さない雌性上で生産された種子は、低い発芽割合を示したにすぎず、20℃に移した後に回復しなかった。
【0170】
【表6】
【0171】
雑種種子の同一バッチからの種子を、白色蛍光灯中で25℃における紙上での発芽試験において試験した。発芽の毎日の計数から、50%の発芽までの時間を計算した(t50)。最終発芽割合を5日後に決定した。全ての雑種は、少なくとも85%の発芽を有し、大多数は95%を超える発芽を有した。GD33対立遺伝子を有する雌性系統上で生産された種子は、平均で約25%早い発芽を示し、それはA12対立遺伝子を有する雌性系統上で生産された種子についての1.80日間に対して1.33日間のより低いt50により示される。
【0172】
【表7】
【0173】
参考文献
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【0174】
配列アラインメント
ヤセイカンラン(Brassica oleracea)VG2遺伝子についてのDNA配列アラインメント。アラインメントは、ClustalWウェブベースプログラム(http://www.genome.jp/tools/clustalw/)を使用して実施し、アノテーションは、ウェブベースプログラムBOXSHADE(http://www.ch.embnet.org/software/BOX_form.html)を使用して描画する。A12_BOLC.VG2.Aは、連鎖群C1のSOG1領域中に局在する遺伝子のA12の全長コピーである。A12_BOLC.VG2.Bは、全長遺伝子の50Kb内で局在する同様の遺伝子のトランケートされたコピーである。同様のアノテーションを使用してGD33ゲノムバックグラウンドにおける同一領域を記載した。
【化1】
【化2】
【化3】
【化4】
【化5】
【化6】
【化7】
【化8】
【化9】
【0175】
GD33およびA12からのVG2ヤセイカンラン(Brassica oleracea)オルソロガスタンパク質のタンパク質配列アラインメント。タンパク質配列は、ウェブベースバイオインフォマティックプログラムFGENESH(http://mendel.cs.rhul.ac.uk/mendel.php?topic=fgen−file)を使用して予測した。
【化10】
【化11】
【0176】
VG1ヤセイカンラン(Brassica oleracea)遺伝子についてのDNA配列アラインメント
【化12】
【化13】
【化14】
【化15】
【0177】
A12およびGD33からのVG1ヤセイカンラン(Brassica oleracea)オルソロガスタンパク質のタンパク質配列アラインメント。タンパク質配列は、ウェブベースバイオインフォマティックプログラムFGENESHを使用して予測した。
【化16】
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]