【実施例1】
【0014】
図1に示されるように、半導体装置1は、炭化珪素の半導体層10、半導体層10の裏面を被覆するドレイン電極22、半導体層10の表面を被覆するソース電極24及び半導体層10の表層部に設けられているトレンチゲート30を備える。トレンチゲート30は、半導体層10の表面から深さ方向(半導体層10の表面に直交する方向であり、紙面上下方向)に伸びる。
図1では、1つのトレンチゲート30のみを図示するが、半導体層10には、複数のトレンチゲート30が設けられている。複数のトレンチゲート30は、半導体層10の深さ方向に沿って観測したときに(半導体層10を平面視したときに)、ストライプ状に配置されていてもよく、島状に分散配置されていてもよい。トレンチゲート30は、ゲート電極32及びゲート絶縁膜34を有する。ゲート絶縁膜34は、ゲート電極32を被覆する。
【0015】
半導体層10は、n
+型のドレイン領域12、n
-型のドリフト領域14、p型のp型半導体領域15、p型のボディ領域16及びn
+型のソース領域18を有する。ドレイン領域12は、半導体層10の裏層部に設けられており、ドレイン電極22にオーミック接触する。ドリフト領域14は、ドレイン領域12とボディ領域16の間に設けられており、トレンチゲート30の側面30aに接する。ドリフト領域14は、半導体層10に他の半導体領域を形成した残部である。p型半導体領域15は、トレンチゲート30の底面30bに接する。この例のp型半導体領域15は、ドリフト領域14によってボディ領域16から分離されており、その電位がフローティングである。この例に代えて、p型半導体領域15は、ボディ領域16に接するように構成されていてもよい。ボディ領域16は、半導体層10の表層部に設けられており、ドリフト領域14とソース領域18の間に設けられており、トレンチゲート30の側面30aに接する。ボディ領域16は、図示しない断面に設けられているp
+型のボディコンタクト領域を介してソース電極24に電気的に接続する。ソース領域18は、半導体層10の表層部に設けられており、トレンチゲート30の側面30aに接し、ソース電極24にオーミック接触する。このように、半導体層10には、MOSFETを構成する半導体構造が形成されている。
【0016】
p型半導体領域15は、第1p型半導体領域15a及び第2p型半導体領域15bを含む。第1p型半導体領域15aは、トレンチゲート30の底面30bに接し、トレンチゲート30の底面30bから浅い位置に設けられている。第1p型半導体領域15aは、トレンチゲート30の幅方向(対向する側面30aを結ぶ方向であり、以下、横方向ともいう)において、第2p型半導体領域15bよりも幅広に形成されている。第2p型半導体領域15bは、第1p型半導体領域15aに接し、トレンチゲート30の底面30bから深い位置に設けられている。第1p型半導体領域15aにはp型不純物としてボロンが導入されており、第2p型半導体領域15bにはp型不純物としてアルミニウムが導入されている。炭化珪素においては、ボロンの拡散係数がアルミニウムの拡散係数よりも大きい。なお、第1p型半導体領域15aは、ボロンの濃度が少なくとも1×10
16cm
-3以上であるのが望ましく、一例では、ボロンの濃度が1×10
16〜1×10
18cm
-3となる範囲として画定される。同様に、第2p型半導体領域15bは、アルミニウムの濃度が少なくとも1×10
16cm
-3以上であるのが望ましく、一例では、アルミニウムの濃度が1×10
16〜1×10
18cm
-3となる範囲として画定される。
【0017】
第1p型半導体領域15aは、トレンチゲート30の底面30bの端部30cの下方にも配置されており、トレンチゲート30の底面30bの端部30cから側方に突出する。第2p型半導体領域15bは、半導体層10の深さ方向に沿って観測したときに、第1p型半導体領域15aの存在範囲の一部に収まるように配置されている。さらに、第2p型半導体領域15bは、半導体層10の深さ方向に沿って観測したときに、トレンチゲート30の底面30bの存在範囲の一部に収まるように配置されている。このように、p型半導体領域15は、トレンチゲート30の底面30bから浅い位置ではトレンチゲート30の底面30bの端部30cの下方に配置されるように横方向に広がり、トレンチゲート30の底面30bから深い位置では横方向の広がりが抑えられながら深さ方向に広がる、即ち、断面T字状の形態を有する。
【0018】
図2及び
図3に、第1p型半導体領域15aの横方向の広がりが、半導体装置1の耐圧及びオン抵抗に与える影響を示す。トレンチゲート30の底面30bの端部30cを基準Aとしたときに、トレンチゲート30の幅方向の距離をXとし、トレンチゲート30の底面30bの端部30cから側方に突出する向きを正とし、その逆を負とする。
図3に示されるように、基準Aに対して−0.15μm〜+0.20μmの範囲では、半導体装置1の耐圧は高く維持され、半導体装置1のオン抵抗は低く維持される。特に、基準Aに対して正であり、且つ0.20μm以下の場合、即ち、第1p型半導体領域15aがトレンチゲート30の底面30bの端部30cから側方に突出しているとともにその突出長さが0.20μm以下であると、半導体装置1の耐圧及びオン抵抗の双方が優れた特性を有することができる。
【0019】
また、第1p型半導体領域15aは、トレンチゲート30の側面30aに接していない。トレンチゲート30の側面30aは、半導体装置1がオンするときにチャネルが形成される部分である。半導体装置1は、p型半導体領域15を備えるものの、このチャネルが形成される部分にp型半導体領域15が存在しないので、オン抵抗の増大が抑えられている。
【0020】
第2p型半導体領域15bは、横方向において、第1p型半導体領域15aよりも幅狭で形成されている。例えば、従来技術のp型半導体領域は、等方的に熱拡散して形成されているので、この第2p型半導体領域15bに対応する深さにおいて、横方向に大きく広がる形態を有している。このため、従来の半導体装置では、ドリフト領域を流れる電流の電流経路が狭くなり、オン抵抗が増大する。一方、半導体装置1では、第2p型半導体領域15bの横方向の広がりが抑えられているので、ドリフト領域14を流れる電流の電流経路が広く確保され、オン抵抗が低い。さらに、第2p型半導体領域15bは、深さ方向に広がる形態を有しており、半導体装置1の耐圧が高く維持される。
【0021】
次に、半導体装置1の製造方法のうちのp型半導体領域15を形成する製造工程を説明する。p型半導体領域15を形成する工程以外の製造工程については、既知の製造工程を利用することで、半導体装置1を製造することができる。
【0022】
まず、
図4に示されるように、炭化珪素の半導体層10を準備する。半導体層10の表層部には、ボディ領域16及びソース領域18が形成されている。
【0023】
次に、
図5に示されるように、CVD技術を利用して、半導体層10の表面にTEOS膜42を堆積する。TEOS膜42の厚みは、約1.5μmである。なお、TEOS膜42は、特許請求の範囲に記載のマスクの一例である。次に、TEOS膜42に開口42aを形成し、半導体層10の表面を露出させる。次に、ドライエッチング技術を利用して、TEOS膜42の開口42aにおいて露出する半導体層10の表面から深さ方向に伸びるトレンチ31を形成する。トレンチ31は、その側面が深さ方向に対して傾斜しており、断面先細りの形状を有する。トレンチ31は、ソース領域18及びボディ領域16を貫通してドリフト領域14に達する。
【0024】
次に、
図6に示されるように、イオン注入技術を利用して、TEOS膜42の開口42aを通過してトレンチ31内に向けてボロンイオン5aを照射する。ボロンイオン5aは、注入エネルギーが60〜240keVの低エネルギーであり、ドーズ量が2.0〜2.5×10
15cm
-2で照射される。ボロンイオン5aは、トレンチ31の底面の下方において、深さが0.4μm以下となるように多段で照射される。このとき、ボロンイオン5aは、トレンチ31の側面にも導入される。
【0025】
次に、
図7に示されるように、ケミカルドライエッチング技術を利用して、トレンチ31の側面及び底面の一部を切削する。切削する厚みは、約60nmである。これにより、トレンチ31の側面においては、ボロンイオンが導入された範囲の大部分又は完全に切削により除去される。トレンチ31の底面においては、ボロンイオンが導入された範囲の大部分が残る。トレンチ31の側面のp型不純物の濃度は、切削前と比べて、所望の閾値となる濃度(5.0×10
15cm
-3)にまで低下する。
【0026】
次に、
図8に示されるように、イオン注入技術を利用して、TEOS膜42の開口42aを通過してトレンチ31内に向けてアルミニウムイオン5bを照射する。アルミニウムイオン5bは、注入エネルギーが240〜900keVの高エネルギーであり、ドーズ量が2.0〜2.5×10
13cm
-2で照射される。アルミニウムイオン5bは、トレンチ31の底面の下方において、深さが0.3〜0.8μmの範囲となるように多段で照射される。トレンチ31の側面は、切削したことにより、TEOS膜42の開口42aを画定する面から後退した位置に存在する。このため、トレンチ31の側面は、アルミニウムイオン5bの照射方向に沿って観測すると、TEOS膜42によって遮蔽されている。したがって、アルミニウムイオン5bは、トレンチ31の側面には導入されず、トレンチ31の底面に選択的に導入される。
【0027】
次に、
図9に示されるように、TEOS膜42を除去した後に活性化アニールを実施し、導入したボロンイオン5a及びアルミニウムイオン5bを活性化させる。ボロンイオン5aが活性化した領域が第1p型半導体領域15aとなり、アルミニウムイオン5bが活性化した領域が第2p型半導体領域15bとなり、これにより、p型半導体領域15が形成される。このとき、ボロンイオン5aは、拡散係数が大きく、約2μm熱拡散する。一方、アルミニウムイオン5bは、拡散係数が小さく、ほとんど拡散しない。これにより、p型半導体領域15は、断面T字状の形態を有することができる。
【0028】
上記製造方法では、トレンチ31の底面から深い位置に拡散係数の小さいアルミニウムイオンを導入する。これにより、トレンチ31の底面から深い位置に第2p型半導体領域15bを形成することができるので、拡散係数の大きいボロンイオンを深さ方向に広く熱拡散させる必要がない。例えば、従来の製造方法では、拡散係数の大きいボロンイオンを深さ方向に広く熱拡散させる必要があり、この結果、横方向に不必要に広く熱拡散していた。一方、上記製造方法では、拡散係数の大きいボロンイオンは、トレンチ31の底面から浅い位置に導入すればよい。上記製造方法では、トレンチ31の底面から浅い位置に導入されたボロンイオンを、深さ方向に広く熱拡散させることなく、トレンチ31の底面の端部の下方の所望位置に熱拡散させることができる。また、上記製造方法では、ボロンイオンを不必要に熱拡散させる必要がないので、ボロンイオンをトレンチゲート30の側面30aに接しないように活性化アニールを制御することができる。これにより、上記製造方法は、オン抵抗の増大が抑えられた半導体装置を提供することができる。
【0029】
以下、本明細書で開示される技術の特徴を整理する。なお、以下に記す事項は、各々単独で技術的な有用性を有している。
【0030】
本明細書で開示する技術は、トレンチゲートを備える様々な種類の半導体装置に適用することが可能である。例えば、本明細書で開示する技術は、MOSFET又はIGBTに適用することが可能である。本明細書で開示する半導体装置の一実施形態は、トレンチゲート及びp型半導体領域を備える。トレンチゲートは、半導体層の一方の主面から深さ方向に伸びる。トレンチゲートの形態は特に限定されるものではなく、また、そのレイアウトも特に限定されるものではない。p型半導体領域は、トレンチゲートの底面に接する。p型半導体領域は、第1種類のp型不純物を含む第1p型半導体領域及び第2種類のp型不純物を含む第2p型半導体領域を有する。第1p型半導体領域は、第2p型半導体領域よりもトレンチゲート側に配置されている。追加の半導体領域が、第1p型半導体領域とトレンチゲートの底面の間及び/又は第1p型半導体領域と第2p型半導体領域の間に設けられていてもよい。第2p型半導体領域は、深さ方向に沿って観測したときに、第1p型半導体領域の存在範囲の一部に収まるように配置されている。第2種類のp型不純物の拡散係数は、第1種類のp型不純物の拡散係数よりも小さい。
【0031】
第1p型半導体領域は、トレンチゲートの底面に接しており、トレンチゲートの底面の端部よりも側方に突出してもよい。この態様によると、トレンチゲートの底面の端部の電界が緩和され、半導体装置の耐圧が向上する。さらに、この態様の場合、1p型半導体領域がトレンチゲートの底面の端部から側方に突出する長さが、2.0μm以下であるのが望ましい。この態様によると、p型半導体領域が設けられていても、半導体装置のオン抵抗の増大が抑えられる。さらに、この態様の場合、第1p型半導体領域は、トレンチゲートの側面に接しないのが望ましい。この態様によると、p型半導体領域が設けられていても、半導体装置のオン抵抗の増大が抑えられる。
【0032】
第2p型半導体領域は、深さ方向に沿って観測したときに、トレンチゲートの存在範囲の一部に収まるように配置されていてもよい。この態様によると、トレンチの底面から深い位置において、第2p型半導体領域の横方向の広がりが抑えられている。このため、p型半導体領域が設けられていても、電流経路が広く確保され、半導体装置のオン抵抗の増大が抑えられる。
【0033】
本明細書で開示する半導体装置の製造方法は、マスク形成工程、トレンチ形成工程、第1照射工程及び第2照射工程を備える。マスク形成工程では、開口が形成されているマスクを、半導体層の一方の主面に形成する。トレンチ形成工程では、マスクの開口において露出する半導体層の一方の主面から深さ方向に伸びるトレンチを形成する。第1照射工程では、マスクの開口を通過してトレンチ内に向けて第1種類のp型不純物を照射する。第2照射工程では、マスクの開口を通過してトレンチ内に向けて第2種類のp型不純物を照射する。第1照射工程と第2照射工程の実施順序は、特に制限されない。第2種類のp型不純物が、トレンチの底面の下方において、第1種類のp型不純物よりも深い位置に導入される。第2種類のp型不純物の拡散係数は、第1種類のp型不純物の拡散係数よりも小さい。
【0034】
第1照射工程が、前記第2照射工程よりも先に実施されてもよい。この場合、第1照射工程と第2照射工程の間に、マスクを残した状態で、トレンチの底面の下方に導入された第1種類のp型不純物が残るように、トレンチの側面及び底面を除去する除去工程をさらに備えていてもよい。この製造方法によると、第2照射工程では、マスクによってトレンチの側面が遮蔽され、第2種類のp型不純物がトレンチの側面に導入されることが抑えられる。
【0035】
以上、本発明の実施例について詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成し得るものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。