特許第6280079号(P6280079)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6280079
(24)【登録日】2018年1月26日
(45)【発行日】2018年2月14日
(54)【発明の名称】電線付き端子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01R 43/048 20060101AFI20180205BHJP
   H01R 4/18 20060101ALI20180205BHJP
   H01R 4/62 20060101ALI20180205BHJP
【FI】
   H01R43/048 Z
   H01R4/18 A
   H01R4/62 A
【請求項の数】3
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2015-102589(P2015-102589)
(22)【出願日】2015年5月20日
(65)【公開番号】特開2016-219231(P2016-219231A)
(43)【公開日】2016年12月22日
【審査請求日】2016年8月10日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006895
【氏名又は名称】矢崎総業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】509046572
【氏名又は名称】浜松ナノテクノロジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100175536
【弁理士】
【氏名又は名称】陸名 智之
(72)【発明者】
【氏名】宮川 大亮
(72)【発明者】
【氏名】川上 友則
【審査官】 楠永 吉孝
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−033378(JP,A)
【文献】 特開平11−237346(JP,A)
【文献】 特開2011−113708(JP,A)
【文献】 特開2013−222637(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/132538(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01R 43/00〜43/28
H01R 4/18
H01R 4/62
G01N 21/64
G01N 21/84〜21/958
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電線の樹脂被覆を除去して導体露出部を形成する電線加工工程と、
前記導体露出部の位置に端子金具を接続して電線・端子接続部を形成する電線・端子接続工程と、
前記電線・端子接続部を覆う封止部を形成するため、紫外線硬化性樹脂からなり且つ紫外線のエネルギーを受けて発光する封止材を前記電線・端子接続部に供給する封止材供給工程と、
前記封止材に前記紫外線を照射してUV硬化させる封止材硬化工程とを含んで製造するとともに、
該封止材硬化工程として、前記紫外線の照射により発光した状態の前記封止材を光学フィルタにて外乱光を除去しつつカメラにて撮影し、且つ、該カメラにて撮影した画像から前記封止材の供給エリアの良否を判別する
ことを特徴とする電線付き端子の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の電線付き端子の製造方法において、
前記封止材硬化工程として、前記カメラにて撮影した前記画像から前記封止材中の気泡の有無を判別する
ことを特徴とする電線付き端子の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の電線付き端子の製造方法において、
前記電線・端子接続工程として、前記導体露出部を前記端子金具の導体加締め片にて加締めてなる導体加締め部分と、該導体加締め部分周辺の非加締め部分と、前記導体露出部近傍の前記樹脂被覆を前記端子金具の被覆加締め片にて加締めてなる被覆加締め部分とを含む範囲で前記電線・端子接続部を形成し、該電線・端子接続部を覆うように前記封止部を形成する
ことを特徴とする電線付き端子の製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電線及び端子金具における異種金属同士の接続部分に防食部を形成してなる電線付き端子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、自動車に搭載される機器間を電気的に接続するために、車両にはワイヤハーネスが配索される。ワイヤハーネスは、電線束と、この電線束の端末に配設される各種のコネクタとを備えて構成される。ワイヤハーネスのコネクタは、絶縁性のコネクタハウジングと、このコネクタハウジングの端子収容室に収容される複数の導電性の端子金具とを備えて構成される。端子金具は、電線束を構成する電線の端末に配設される。電線は、一般的に銅電線(導体が銅製又は銅合金製の撚り線になるもの)が用いられ、そして、この銅電線の端末を皮剥した後に端子金具が圧着により接続される。尚、端子金具は、母材が銅電線の導体と同じ銅製又は銅合金製であり、メッキが施されることもある。
【0003】
近年、銅資源の不足に加え、車両の軽量化、材料のリサイクルの容易性を考慮して、銅電線に替えてアルミ電線が用いられることもある(アルミ電線とは、本明細書において、導体がアルミニウム製又はアルミニウム合金製のものを称する)。しかしながら、アルミ電線は、銅電線を構成する導体の材料である銅に比べて表面に形成される酸化被膜が厚く、アルミ電線においては、この導体と端子金具(圧着端子)との間の接触抵抗が比較的高くなる傾向にあることが知られる。そこで、アルミ電線の導体と圧着端子との間の接触抵抗を低減するために、圧着端子に形成される一対の導体加締め片にて導体を強く加締めて圧縮率を高くする方法が採用される。この方法によれば、アルミ電線の導体を強く加締めることにより、導体を構成する各素線の酸化被膜を破壊することができる。すなわち、導体と圧着端子との間の接触抵抗を低減することができる。
【0004】
ところで、アルミニウム材と銅材との接触部分、別な言い方をすれば異種金属同士の接触部分は、この接触部分に水分が介在すると、アルミニウム及び銅の両金属が水中にイオンとして溶け込んで両者の間に電位差などが生じて電食が起こることが知られる。尚、アルミ電線の導体と、銅製又は銅合金製の圧着端子とを電気的、機械的に接続すると、圧着端子の導体加締め片による導体の圧着部分では、高圧縮になる圧着であることから浸水が防止され、結果、電食の発生が回避される。けれども、導体加締め片による導体の圧着部分に対し端子軸方向(電線延在方向)の位置では、導体が一部露出した状態にあることから、ここに水分が付着して上記圧着部分にまで達してしまうと、圧着部分が恰も電解溶液に浸漬された状態になって、イオン化傾向が大きい金属であるアルミニウムが溶解して電食が進んでしまうという虞がある。そこで、導体の露出部分に対する水分の付着や、圧着部分に対する浸水を防止するため、従来においては図10に示すような防食部115(封止部)が形成される(例えば、下記特許文献1参照)。
【0005】
図10において、引用符号101はアルミ電線、引用符号102は圧着端子を示す。アルミ電線101は、アルミニウム製又はアルミニウム合金製の導体103と、この導体103を覆う絶縁性の樹脂被覆104とを備えて構成される。アルミ電線101は、樹脂被覆104の端部を除去して導体露出部105が形成される。一方、圧着端子102は、雌形の端子金具であって、銅製又は銅合金製の金属板をプレス加工することにより、図示形状に形成される。圧着端子102は、矩形筒状の電気接触部106と、加締め部107と、これら電気接触部106及び加締め部107を連結する連結部108とを有する。加締め部107には、導体露出部105を載置するための載置部109と、この載置部109に載置された導体露出部105を加締めるための導体加締め片110と、導体露出部105の近傍の樹脂被覆104を加締めるための被覆加締め片111とが形成される。
【0006】
上記構成及び構造において、導体露出部105を導体加締め片110にて加締めてなる導体加締め部分112と、導体露出部105の近傍の樹脂被覆104を被覆加締め片111にて加締めてなる被覆加締め部分113とを含んで電線・端子接続部118が形成される。尚、導体加締め部分112においては、導体露出部105の長さと導体加締め片110の幅との関係から、非加締め部分114が生じてしまう。そこで、この非加締め部分114を覆うような状態で、電線・端子接続部118には防食部115(封止部)が形成される。防食部115は、二つのディスペンサーの各ノズル116から防食材117(封止材)をそれぞれ滴下し、そして、この滴下にて塗布された防食材117を硬化させることにより形成される。尚、防食材117としては、シリコーンゴムが採用される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2011−113708号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記従来技術にあっては、二つのディスペンサーの各ノズル116から防食材117をそれぞれ滴下し、そして、この滴下にて塗布された防食材117を硬化させて防食部115が形成される。従来例の形成方法では、防食材117の硬化に時間が掛かり液だれやヒケが生じれば製造性に影響を来してしまうという問題点を有する。また、防食材117の塗布範囲が正確でない場合、防食部115の形成が不十分になってしまうという問題点を有する。
【0009】
さらに、上記従来技術にあっては、塗布された防食材117の中に気泡が存在してこれが防食材117の硬化の際に破裂した場合には、防食部115の機能が損なわれてしまうという問題点を有する。
【0010】
本発明は、上記した事情に鑑みてなされたもので、製造性が良く封止性の高い(防食性や防水性の高い)電線付き端子の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するためになされた請求項1に記載の本発明の電線付き端子の製造方法は、電線の樹脂被覆を除去して導体露出部を形成する電線加工工程と、前記導体露出部の位置に端子金具を接続して電線・端子接続部を形成する電線・端子接続工程と、前記電線・端子接続部を覆う封止部を形成するため、紫外線硬化性樹脂からなり且つ紫外線のエネルギーを受けて発光する封止材を前記電線・端子接続部に供給する封止材供給工程と、前記封止材に前記紫外線を照射してUV硬化させる封止材硬化工程とを含んで製造するとともに、該封止材硬化工程として、前記紫外線の照射により発光した状態の前記封止材を光学フィルタにて外乱光を除去しつつカメラにて撮影し、且つ、該カメラにて撮影した画像から前記封止材の供給エリアの良否を判別することを特徴とする。
【0012】
このような特徴を有する本発明によれば、電線・端子接続部に供給された封止材に紫外線を照射すると、この紫外線が照射された封止材は短時間で硬化するようになる。また、紫外線が照射された封止材は発光するようになる。封止材の供給エリアの良否判別をしようとする場合、封止材が発光した状態とそうでない状態とでは、前者の方が封止材の識別をし易くすることができるのは勿論である。本発明では、封止材が発光することから、封止材の供給エリアの良否判別がし易く且つ確実になる。また、本発明では、光学フィルタにて外乱光が除去されることから、封止材の供給エリアの良否判別が更にし易く且つ確実になる。
【0013】
請求項2に記載の本発明は、請求項1に記載の電線付き端子の製造方法において、前記封止材硬化工程として、前記カメラにて撮影した前記画像から前記封止材中の気泡の有無を判別することを特徴とする。
【0014】
このような特徴を有する本発明によれば、紫外線の照射により封止材が発光することから、発光した封止材の画像から防食材中の気泡の有無を判別することが可能になる。
【0015】
請求項3に記載の本発明は、請求項1又は2に記載の電線付き端子の製造方法において、前記電線・端子接続工程として、前記導体露出部を前記端子金具の導体加締め片にて加締めてなる導体加締め部分と、該導体加締め部分周辺の非加締め部分と、前記導体露出部近傍の前記樹脂被覆を前記端子金具の被覆加締め片にて加締めてなる被覆加締め部分とを含む範囲で前記電線・端子接続部を形成し、該電線・端子接続部を覆うように前記封止部を形成することを特徴とする。
【0016】
このような特徴を有する本発明によれば、導体加締め部分及びこの周辺の非加締め部分と、被覆加締め部分とを含んで電線・端子接続部が形成されるようになる。そして、この後の工程において、比較的広い範囲で覆うように封止部が形成されるようになる。
【0023】
尚、上記請求項1、2に記載の本発明は、電線をアルミ電線、端子金具をアルミ電線に対し異種金属となるもの、封止材を防食材、封止部を防食部、として対象を限定すれば、次のような特徴になる。すなわち、「アルミニウム製又はアルミニウム合金製の導体と、該導体を覆う絶縁性の樹脂被覆とを備える電線の、前記樹脂被覆を除去して導体露出部を形成する電線加工工程と、前記導体露出部の位置に、母材が銅製又は銅合金製の端子金具を接続して電線・端子接続部を形成する電線・端子接続工程と、前記電線・端子接続部を覆う防食部を形成するため、紫外線硬化性樹脂からなり且つ紫外線のエネルギーを受けて発光する防食材を前記電線・端子接続部に供給する防食材供給工程と、前記防食材に前記紫外線を照射してUV硬化させる防食材硬化工程とを含んで製造するとともに、該防食材硬化工程として、前記紫外線の照射により発光した状態の前記防食材を光学フィルタにて外乱光を除去しつつカメラにて撮影し、且つ、該カメラにて撮影した画像から前記防食材の供給エリアの良否を判別することを特徴とする電線付き端子の製造方法。」、「前記防食材硬化工程として、前記カメラにて撮影した前記画像から前記防食材中の気泡の有無を判別することを特徴とする電線付き端子の製造方法。」になる。
【0024】
また、上記請求項1、2に記載の本発明は、封止材を防水材、封止部を防水部、として対象を限定すれば、次のような特徴になる。すなわち、「電線の樹脂被覆を除去して導体露出部を形成する電線加工工程と、前記導体露出部の位置に端子金具を接続して電線・端子接続部を形成する電線・端子接続工程と、前記電線・端子接続部を覆う止水部を形成するため、紫外線硬化性樹脂からなり且つ紫外線のエネルギーを受けて発光する止水材を前記電線・端子接続部に供給する止水材供給工程と、前記止水材に前記紫外線を照射してUV硬化させる止水材硬化工程とを含んで製造するとともに、該止水材硬化工程として、前記紫外線の照射により発光した状態の前記止水材を光学フィルタにて外乱光を除去しつつカメラにて撮影し、且つ、該カメラにて撮影した画像から前記止水材の供給エリアの良否を判別することを特徴とする電線付き端子の製造方法。」、「前記止水材硬化工程として、前記カメラにて撮影した前記画像から前記止水材中の気泡の有無を判別することを特徴とする電線付き端子の製造方法。」になる。
【発明の効果】
【0027】
請求項1に記載された本発明によれば、紫外線硬化性樹脂からなる封止材を採用することから、このような封止材に対し紫外線を照射すれば、封止材を短時間で硬化させることができるという効果を奏する。すなわち、封止部を短時間で形成することができるという効果を奏する。そして、封止部を短時間で形成することができれば、液だれやヒケなく形成することもできるという効果を奏する。また、本発明によれば、紫外線のエネルギーを受けて発光する封止材を採用することから、封止材の供給エリアに係る良否判別をし易くすることができるという効果を奏する。また、本発明によれば、封止材の発光状態を画像化することから、封止材の供給エリアに係る良否判別を確実に行うことかできるという効果を奏する。また、本発明によれば、封止材とカメラとの間に光学フィルタを介在させるように配置することから、外乱光を除去しつつ封止材の発光状態を画像化することができ、結果、このような画像を用いれば、封止材の供給エリアに係る良否判別をより一層確実に行うことができるという効果を奏する。封止材の供給が良好であれば、封止部を十分な状態で形成することができるという効果を奏する。従って、以上のような本発明によれば、製造性が良く封止性の高い電線付き端子の製造方法を提供することができるという効果を奏する。
【0028】
請求項2に記載された本発明によれば、封止材に紫外線を照射し発光させた状態で画像化すれば、封止材中の気泡の有無を判別することができるという効果を奏する。そして、封止材中に気泡が存在しないと判別できれば、封止部の形成状態が十分であるとすることができ、以て信頼性の高い電線付き端子の製造をすることができるという効果を奏する。従って、本発明によれば、より良い製造方法を提供することができるという効果を奏する。
【0029】
請求項3に記載された本発明によれば、導体加締め部分及びこの周辺の非加締め部分と、被覆加締め部分とを含んで電線・端子接続部を形成し、これを封止部にて覆うようにすることから、従来例よりも広い範囲で覆うように封止部を形成することができるという効果を奏する。従って、本発明によれば、より良い製造方法を提供することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1】本発明の製造方法に係る電線付き端子を示す斜視図である。
図2図1のA−A線断面図である。
図3】防食部を形成する前の電線付き端子の斜視図である。
図4図3のB−B線断面図である。
図5】本発明の製造方法を説明するための電線付き端子の斜視図である。
図6図5のA−A線断面図である。
図7】本発明の製造方法に係る工程説明図である。
図8イヤハーネスを構成するコネクタの斜視図である。
図9図8のコネクタハウジングの図であり、(a)は斜視図、(b)はC−C線断面図である。
図10】従来例の電線付き端子の図であり、(a)は斜視図、(b)はD−D線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
電線付き端子は、アルミ電線と、圧着端子とを備えて構成される。アルミ電線は、アルミニウム製又はアルミニウム合金製の導体と、この導体を覆う絶縁性の樹脂被覆とを備えて構成される。アルミ電線は、樹脂被覆を除去して導体露出部が形成される(電線加工工程)。圧着端子は、圧着部分としての加締め部を有し、この加締め部には、導体加締め片及び被覆加締め片が形成される。電線付き端子は、導体露出部に加締め部を圧着して電線・端子接続部が形成される(電線・端子接続工程)。そして、この電線・端子接続部を覆うようにして防食部が形成される。防食部としては、紫外線硬化性樹脂からなり且つ紫外線のエネルギーを受けて発光する防食材を電線・端子接続部に供給するとともに(防食材供給工程)、防食材に紫外線を照射しUV硬化させて形成される(防食材硬化工程)。
【実施例】
【0035】
以下、図面を参照しながら実施例を説明する。図1は本発明の製造方法に係る電線付き端子を示す斜視図である。また、図2図1のA−A線断面図、図3は防食部を形成する前の電線付き端子の斜視図、図4図3のB−B線断面図である。さらに、図5は本発明の製造方法を説明するための電線付き端子の斜視図、図6図5のA−A線断面図、図7は本発明の製造方法に係る工程説明図である。この他、図8はワイヤハーネスを構成するコネクタの斜視図、図9図8のコネクタハウジングの図である。
【0036】
<電線付き端子1の構成について>
図1及び図2において、引用符号1は本発明の製造方法に係る電線付き端子を示す。電線付き端子1は、アルミ電線2(電線)と、このアルミ電線2の端末に配設される圧着端子3(端子金具)とを備えて構成される。また、電線付き端子1は、アルミ電線2及び圧着端子3における異種金属同士の接続部分に防食部4(封止部、防水部)を有するように構成される。尚、本実施例の電線付き端子1は、アルミ電線2の端末に圧着端子3を配設してなるものであるが、例えばアルミ電線2の中間に適宜形状の端子金具を配設してもよいものとする。
【0037】
<アルミ電線2の構成及び構造について>
図1ないし図4において、アルミ電線2は、断面円形状で且つ曲げの力を加えた時に元の状態に戻ろうとする反力が発生するような柔軟性を有するものが採用される。アルミ電線2は、導体5と、樹脂被覆6とを備えて構成される。
【0038】
導体5は、断面円形状の複数本の素線(符号省略)を撚り合わせて形成される。この素線は、アルミニウム製又はアルミニウム合金製である。すなわち、導体5は、アルミニウム製又はアルミニウム合金製のものである。導体5は、所定の導体断面積を有する。そして、この導体断面積の部分がアルミ電線2の電線長の分だけ存在する。アルミニウム材は、比重が2.70g/cmであり、後述する銅材の比重が8.96g/cmであることから、アルミ電線2は軽量であって長尺な車載用電線として使用されれば燃費効率の向上等に有効である。
【0039】
尚、アルミニウム材は、電気化学反応における標準電極電位が−1.676Vであり、また、後述する銅材の標準電極電位は+0.340Vである。これらの電位差は大きなものであり、そのためアルミニウム材と銅材との間に水分が浸入して滞留してしまうと、アルミニウム、銅、及び電解質水溶液により電池が形成される。そして、この電池の陽極になる方、すなわち導体5の方に異種金属接触腐食(ガルバニック腐食、電食)が発生してしまうことになる。このようなことから、電食を防ぐための防食部4が必要になるのは勿論である。
【0040】
樹脂被覆6は、所謂絶縁体であって、絶縁性を有する樹脂材料を導体5の外側に押出成形することにより断面円形状に形成される。上記樹脂材料としては、公知の様々な種類のものが採用可能である。例えば、ポリ塩化ビニル樹脂やポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂などの高分子材料から適宜選択される。
【0041】
以上のようなアルミ電線2は、この端末において樹脂被覆6が所定長さ分だけ除去されて導体露出部7が形成される。
【0042】
<圧着端子3の構造について>
図1ないし図4において、圧着端子3は、雌形の端子金具であって、母材が銅製又は銅合金製の金属板をプレス加工することにより、例えば図示形状に形成される(雄形の端子金具であってもよいものとする)。尚、特に図示しないが、上記母材の表面にメッキが施されるものとする。メッキは、異種金属接触部分になる銅材とアルミニウム材との間に介在することになる。圧着端子3は、電気接触部8と、加締め部9と、これら電気接触部8及び加締め部9を連結する連結部10とを有する。
【0043】
電気接触部8は、図示しない相手端子金具との電気的な接続部分であって、断面長方形の筒形状に形成される。電気接触部8の内部には、相手端子金具のタブに対する挿入空間が形成される。また、タブが挿入されると弾性的に接触する弾性接触片11が形成される。電気接触部8における引用符号12は、後述するコネクタハウジング52のランス54に引っ掛かり係止される被係止部を示す。
【0044】
加締め部9は、アルミ電線2との電気的な接続部分であって、本実施例の端子金具は圧着端子3であることから、圧着により接続可能な部分に形成される。具体的には、アルミ電線2の導体露出部7を載置するための載置部13と、この載置部13に載置された導体露出部7を加締めるための一対の導体加締め片14と、導体露出部7の近傍の樹脂被覆6を加締めるための一対の被覆加締め片15とを有する部分に形成される。尚、載置部13は底板と称することもある。また、導体加締め片14はワイヤバレルと称することもある。さらに、被覆加締め片15はインシュレーションバレルと称することもある。
【0045】
一対の導体加締め片14と一対の被覆加締め片15は、端子軸方向に所定の間隔をあけて配置される。また、一対の導体加締め片14と一対の被覆加締め片15は、加締め前の形状が共に略V字状になる形状に形成される。尚、一対の導体加締め片14が導体露出部7を加締め、一対の被覆加締め片15が樹脂被覆6を加締めることから、これらは加締め対象の形状や外周長の差に合わせて異なる幅や突出長さで形成される。
【0046】
以上のような加締め部9に対し導体露出部7が圧着されると、引用符号16で示すような電線・端子接続部が形成される。電線・端子接続部16は、導体露出部7を一対の導体加締め片14にて加締めてなる導体加締め部分17と、この導体加締め部分17の周辺の非加締め部分18と、導体露出部7の近傍の樹脂被覆6を一対の被覆加締め片15にて加締めてなる被覆加締め部分19とを含んで形成される。
【0047】
連結部10は、端子軸方向に所定長さでのびる略樋形状に形成される。連結部10の端子軸方向一端には、電気接触部8が連成される。また、連結部10の端子軸方向他端には、加締め部9が連成される。
【0048】
<防食部4について>
図1及び図2において、防食部4は、電食を防止するため電線・端子接続部16を水密に覆う部分として形成される。具体的には、図中の矢印を上下・左右・前後と定義すると、加締め部9の上側(導体加締め部分17及び非加締め部分18の上側)、加締め部9の下側(載置部13の下側)、加締め部9の左側・右側、加締め部9の前側(導体加締め部分17の前側)、被覆加締め部分19の後側、を覆う部分として防食部4が形成される。別な言い方をすれば、電線・端子接続部16の前後と、電線・端子接続部16の端子軸回り全周にわたって覆う部分として防食部4が形成される。防食部4は、この形成方法に特徴を有する。以下、防食部4の形成方法について、電線付き端子1の製造方法に係る説明の中で詳細にふれることにする。
【0049】
<電線付き端子1の製造方法について>
図5ないし図7において、電線付き端子1は、次のような工程を経て製造される。すなわち、電線加工工程S1と、電線・端子接続工程S2と、防食材供給工程S3(封止材供給工程、防水材供給工程)と、防食材硬化工程S4(封止材硬化工程、防水材硬化工程)とを順に経て製造される。防食材供給工程S3と防食材硬化工程S4は、防食部4を形成するための工程(形成方法)である。
【0050】
電線加工工程S1では、アルミ電線2の端末に導体露出部7を形成することが行われる。具体的には、樹脂被覆6を所定長さ分だけ除去して導体5を露出させて導体露出部7を形成することが行われる。
【0051】
電線・端子接続工程S2では、導体露出部7の位置に圧着端子3の加締め部9を配置して、この後に圧着接続により電線・端子接続部16を形成することが行われる。圧着においては、圧着機のアンビルとクリンパとによるプレス、すなわち加締めが行われる。加締め部9に対し導体露出部7が圧着されると、導体加締め部分17と、非加締め部分18と、被覆加締め部分19とが形成される。
【0052】
防食材供給工程S3では、防食材20(封止材、防水材)を電線・端子接続部16に供給することが行われる。防食材供給工程S3では、次のような構成の防食材供給装置が使用される。防食材供給装置は、金属製ノズル21を有するディスペンサー(静電併用型ディスペンサー)と、金属製ノズル21及び圧着端子3の間に電圧を印加する電圧印加部22と、上記ディスペンサーや電圧印加部22を制御する制御部とを含んで構成される。
【0053】
防食材20は、液状の紫外線硬化性樹脂が採用される。また、防食材20としては、紫外線のエネルギーを受けて発光するものが採用される。このような防食材20は、本発明において、金属製ノズル21及び圧着端子3の間に電圧が印加されると、液表面にプラスの電荷が誘起される。尚、金属製ノズル21及び圧着端子3の間に印加される電圧は、本実施例において3kV程度である。一方、圧着端子3の側には、マイナスの電荷が誘起される。
【0054】
金属製ノズル21及び圧着端子3の間に電圧が印加されると、防食材20の液の界面は電気力線の方向に静電的な力で引っ張られる。すなわち、金属製ノズル21から電線・端子接続部16に向かう方向に電荷を帯びた状態で防食材20が引き寄せられる。防食材20が引っ張られると(引き寄せられると)、この防食材20は金属製ノズル21における先端部の濡れ上がりのない状態で電線・端子接続部16に接触する。具体的には、電界が集中する部分まで連続する略糸引き状態になって接触する。
【0055】
防食材供給工程S3では、防食材20の供給にあたり金属製ノズル21を図5及び図6の矢印X、Y、Z方向に移動させる。防食材20は、電荷を帯びた状態で供給されることから、このような防食材20は静電気力によって電線・端子接続部16に引き寄せられ、この後に供給位置の反対側まで回り込むような状態で供給される。すなわち、上側から供給されても電線・端子接続部16の下側まで回り込むような全周にわたって防食材20が供給される。電線・端子接続部16の全周にわたって供給された防食材20は、静電気力による引き寄せの力が作用して液だれすることなくその場に留まるようになる。この他、防食材20は、非加締め部分18における導体5の素線内に浸透して留まるようにもなる。
【0056】
防食材硬化工程S4では、電線・端子接続部16の全周にわたって供給された防食材20に対し紫外線(UV光)を照射してUV硬化させることが行われる。防食材20は、液状の紫外線硬化性樹脂からなることから、例えばUVライト23の紫外線照射によるエネルギーを受けると、上記留まった状態を保持しながら短時間で硬化する。この時、防食材20は液だれやヒケなく硬化する。防食材20が硬化すると、電線・端子接続部16を水密に覆う防食部4の形成が完了する。すなわち、電線付き端子1の製造が完了する。
【0057】
防食材硬化工程S4において、防食材20は紫外線のエネルギーを受けて発光することから、この発光した状態の防食材20を利用して、電線・端子接続部16に供給された防食材20の供給エリアが良いか悪いか判別するようなことが行われる。すなわち、供給エリアの良否判別が行われる。供給エリアの良否判別には、良否判別装置が用いられる。この良否判別装置は、カメラ24と、光学フィルタ25と、図示しないカメラ制御部と、良否判別部26とを含んで構成される。
【0058】
良否判別装置は、紫外線のエネルギーを受けて防食材20が発光すると、この発光した状態の防食材20をカメラ24にて撮影し、そして、撮影画像をもとに良否判別部26にて防食材20の供給エリアが良いか悪いかを判別し、例えば表示器等によって判別結果を出力する。尚、良否判別装置は、防食材20とカメラ24との間に光学フィルタ25を介在させるように配置する。これは、紫外線を照射した時に生じる外乱光を除去しつつ、発光した状態の防食材20を鮮明に画像化するためである。
【0059】
良否判別装置は、発光した状態の防食材20を画像化した後、この画像から防食材20中の気泡の有無を判別することも同時に行う。この判別は良否判別部26にて行う。また、良否判別装置は、判別結果を上記表示器によって同時に出力することも行う。防食材20の中に気泡が存在しないと判別できれば、防食材20の硬化の際に気泡が破裂するようなことがないのは勿論である。
【0060】
防食部4は、上記説明から分かるように、十分な状態で形成することができる。また、防食部4は、最大幅がW1、最大高さがH1になるような形状に形成することができる。これは、防食材20が上述の如く略糸引き状態になって供給されることから、供給量を精度良く管理することが可能になり、結果、防食部4の形状が安定するからである。また、防食材20の供給エリアが良いか悪いかを判別した上で形成されるからでもある。防食部4の形状が安定することは、以下で説明するコネクタ51の組み付けに有効である。
【0061】
<電線付き端子1の使用例について>
図8において、電線付き端子1は、ワイヤハーネスの端末に配設されるコネクタ51の一構成部品として使用される。コネクタ51は、一対の電線付き端子1の他に、絶縁性を有するコネクタハウジング52を備えて構成される。
【0062】
図8及び図9において、コネクタハウジング52は、樹脂成形品であって矩形の箱形状に形成される。コネクタハウジング52の内部には、一対の端子収容室53が形成される。端子収容室53は、コネクタハウジング52の前面から後面までを貫通するように形成される。端子収容室53には、電線付き端子1の圧着端子3(被係止部12)を引っ掛けて係止するためのランス54が形成される。また、端子収容室53には、圧着端子3が当接するストッパ部55と、図示しない相手端子金具のタブが挿入されるタブ挿入口56とが形成される。
【0063】
端子収容室53は、コネクタハウジング52の後面において、幅がW2、高さがH2で開口するように形成される。幅W2は、防食部4の最大幅W1よりも大きく(W2>W1)、また、高さH2も防食部4の最大高さH1より大きい(H2>H1)。つまり、防食部4を有する電線付き端子1であっても、端子収容室53に対する圧着端子3の収容は問題ない。
【0064】
コネクタハウジング52の外側には、図示しない相手コネクタに対するガイドリブ57と、ロッキングアーム58とが形成される。
【0065】
<電線付き端子1のまとめ及び効果について>
以上、図1ないし図9を参照しながら説明してきたように、電線付き端子1は、アルミ電線2と、圧着端子3とを備えて構成される。アルミ電線2は、アルミニウム製又はアルミニウム合金製の導体5と、この導体5を覆う絶縁性の樹脂被覆6とを備えて構成される。アルミ電線2は、樹脂被覆6を除去して導体露出部7が形成される(電線加工工程S1)。一方、圧着端子3は、圧着部分としての加締め部9を有し、この加締め部9には、一対の導体加締め片14及び被覆加締め片15が形成される。電線付き端子1は、導体露出部7に加締め部9を圧着して電線・端子接続部16が形成される(電線・端子接続工程S2)。そして、この電線・端子接続部16を覆うようにして防食部4が形成される。
【0066】
防食部4は、紫外線硬化性樹脂からなり且つ紫外線のエネルギーを受けて発光する防食材20を電線・端子接続部16に供給することにより形成される(防食材供給工程S3)。また、防食部4は、防食材20に対し紫外線をUVライト23にて照射しUV硬化させて形成される(防食材硬化工程S4)。UVライト23による紫外線の照射の際には、光学フィルタ25にて外乱光を除去しつつカメラ24にて撮影がなされる。そして、カメラ24にて撮影された画像から防食材20の供給エリアの良否が判別されるとともに、防食材20中の気泡の有無も判別される。
【0067】
電線付き端子1及びこの製造方法によれば、上記の如く紫外線硬化性樹脂からなる防食材20を採用することから、このような防食材20に対し紫外線を照射すれば、防食材20を短時間で硬化させることができる。すなわち、防食部4を短時間で且つ液だれやヒケなく形成することができる。
【0068】
また、電線付き端子1及びこの製造方法によれば、紫外線のエネルギーを受けて発光する防食材20を採用することから、防食材20の供給エリアに係る良否判別をし易くすることができる。また、電線付き端子1及びこの製造方法によれば、防食材20の発光状態を画像化することから、防食材20の供給エリアに係る良否判別を確実に行うことかできる。また、電線付き端子1及びこの製造方法によれば、防食材20とカメラ24との間に光学フィルタ25を介在させるように配置することから、外乱光を除去しつつ防食材20の発光状態を画像化することができ、結果、このような画像を用いれば、防食材20の供給エリアに係る良否判別をより一層確実に行うことができる。すなわち、防食材20の供給が良好であれば、防食部4を十分な状態で形成することができる。
【0069】
また、電線付き端子1及びこの製造方法によれば、防食材20に紫外線を照射し発光させて画像化すれば、防食材20中の気泡の有無を判別することができる。そして、防食材20中に気泡が存在しないと判別できれば、防食部4の形成状態が十分であるとすることができる。
【0070】
従って、本発明によれば、製造性が良く防食性の高い電線付き端子1の製造方法を提供することができるという効果を奏する。
【0071】
本発明は本発明の主旨を変えない範囲で種々変更実施可能なことは勿論である。
【符号の説明】
【0072】
1…線付き端子、 2…アルミ電線(電線)、 3…圧着端子(端子金具)、 4…防食部(封止部、防水部)、 5…導体、 6…樹脂被覆、 7…導体露出部、 8…電気接触部、 9…加締め部、 10…連結部、 11…弾性接触片、 12…被係止部、 13…載置部、 14…導体加締め片、 15…被覆加締め片、 16…電線・端子接続部、 17…導体加締め部分、 18…非加締め部分、 19…被覆加締め部分、 20…防食材(封止材、防水材)、 21…金属製ノズル、 22…電圧印加部、 23…UVライト、 23…UVライト、 24…カメラ、 25…光学フィルタ、 26…良否判別部、 51…コネクタ、 52…コネクタハウジング、 53…端子収容室、 54…ランス、 55…ストッパ部、 56…タブ挿入口、 57…ガイドリブ、 58…ロッキングアーム、 S1…電線加工工程、 S2…電線・端子接続工程、 S3…防食材供給工程(封止材供給工程、防水材供給工程)、 S4…防食材硬化工程(封止材硬化工程、防水材硬化工程)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10