(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第1封止膜および前記第2封止膜の前記少なくとも一方の全域において、Si−Hに由来する水素濃度の前記合計に対する割合が55%以上である、請求項1に記載の有機ELデバイス。
前記第1封止膜および前記第2封止膜の各々のSi−Hに由来する水素濃度とN−Hに由来する水素濃度の合計が、前記第3封止膜のSi−Hに由来する水素濃度とN−Hに由来する水素濃度の合計よりも高い、請求項1に記載の有機ELデバイス。
【発明を実施するための形態】
【0009】
<経緯>
窒化シリコン膜は、熱CVD(Chemical Vapor Deposition)、Cat−CVD、表面波プラズマCVD等を用いて成膜される。ここで熱CVDでは、高温雰囲気で成膜するため、成膜中の膜表面に付着した窒化シリコンの前駆体(原料ガスのSiH
4から生成されたSiH
xおよび原料ガスのNH
3から生成されたNH
x)が適切な位置まで移動しやすい。そのため窒化シリコン膜の膜密度が高くなり、その結果、窒化シリコン膜のガスバリア性が高くなる。また、高温雰囲気で成膜すると、シリコンと水素の結合(以下、「Si−H」と記載する)および窒素と水素の結合(以下、「N−H」と記載する)が切れやすく、窒化シリコン膜に残留する水素濃度が低くなる。一方、低温雰囲気で成膜すると、成膜中の膜表面に付着した窒化シリコンの前駆体が適切な位置まで移動しにくい。そのため窒化シリコン膜の膜密度が低くなり、その結果、窒化シリコン膜のガスバリア性が低くなる。また、低温雰囲気で成膜すると、Si−HおよびN−Hが切れにくく、窒化シリコン膜に残留する水素濃度が高くなる(例えば、特許文献1、段落0016〜0018参照)。
【0010】
上記従来の知見によれば、窒化シリコン膜内の水素濃度とガスバリア性との間に相関関係があると考えられる。発明者は、これを検証するために、窒化シリコン膜内の水素濃度が異なる9種類のサンプルを作製し、各サンプルの水蒸気透過率を測定した。
図1に、各サンプルの水素濃度と水蒸気透過率の測定結果を示す。水蒸気透過率は、窒化シリコン膜のガスバリア性を指標するパラメータである。水蒸気透過率が低いほど、窒化シリコン膜のガスバリア性が高いことを示す。
【0011】
しかしながら、同図によると、水素濃度(Total)と水蒸気透過率との間に有意な相関関係を見出すことはできない。即ち、従来の知見に反して、窒化シリコン膜内の水素濃度とガスバリア性との間には相関関係が見られないという結果が得られた。そこで、発明者は、水素濃度(Total)以外に、窒化シリコン膜のガスバリア性に影響を与える要因があると考え、鋭意検討した。その結果、窒化シリコン膜のSi−Hに由来する水素濃度とN−Hに由来する水素濃度との合計に対するSi−Hに由来する水素濃度の割合とガスバリア性との間に緊密な相関関係を見出すことができた。本発明の一態様に係る窒化シリコン膜は、このような新たな知見に基づくものである。
【0012】
<本発明の一態様>
本発明の一態様に係る封止膜は、窒化シリコンを主成分とする封止膜において、Si−Hに由来する水素濃度とN−Hに由来する水素濃度の合計が3E22atoms/cm
3以上であり、Si−Hに由来する水素濃度の前記合計に対する割合が40%以上である。これにより、良好なガスバリア性およびクラック耐性を得ることができる。
【0013】
上記封止膜において、Si−Hに由来する水素濃度の前記合計に対する割合が60%以上であることとしてもよい。これによりガスバリア性をさらに良好にすることができる。
【0014】
上記封止膜において、N−Hに由来する水素濃度の前記合計に対する割合が45%以下であることとしてもよい。これにより、良好な耐候性を得ることができる。
【0015】
上記封止膜において、N−Hに由来する水素濃度の前記合計に対する割合が30%以下であることとしてもよい。これにより、耐候性をさらに良好にすることができる。
【0016】
本発明の一態様に係る有機ELデバイスは、第1封止膜と、前記第1封止膜と対向する第2封止膜と、前記第1封止膜と前記第2封止膜との間に配された有機EL素子と、を備える。前記第1封止膜および前記第2封止膜の少なくとも一方が、窒化シリコンを主成分とし、Si−Hに由来する水素濃度とN−Hに由来する水素濃度の合計が3E22atoms/cm
3以上であり、Si−Hに由来する水素濃度の前記合計に対する割合が40%以上である。これにより、良好なガスバリア性およびクラック耐性を得ることができる。
【0017】
上記有機ELデバイスは、さらに、前記第1封止膜の前記有機EL素子とは反対側に配された第1樹脂基板と、前記第2封止膜の前記有機EL素子とは反対側に配された第2樹脂基板と、前記第2封止膜と前記有機EL素子との間に配された、窒化シリコンを主成分とする第3封止膜と、を備えてもよい。この場合に、前記第1および第2封止膜のSi−Hに由来する水素濃度の前記合計に対する割合が、前記第3封止膜のSi−Hに由来する水素濃度の前記合計に対する割合よりも高いこととしてもよい。第1封止膜および第2封止膜は、第3封止膜に比べて外部から水分が浸入しやすい位置に存在する。外部から水分が浸入しやすい位置に存在する封止膜のガスバリア性を高めることで、有機ELデバイスの長寿命化を図ることができる。
【0018】
上記有機ELデバイスは、さらに、前記第1封止膜の前記有機EL素子とは反対側に配された第1樹脂基板と、前記第2封止膜の前記有機EL素子とは反対側に配された第2樹脂基板と、前記第2封止膜と前記有機EL素子との間に配された、窒化シリコンを主成分とする第3封止膜と、を備えてもよい。この場合に、前記第1封止膜および前記第2封止膜の各々のSi−Hに由来する水素濃度とN−Hに由来する水素濃度の合計が、前記第3封止膜のSi−Hに由来する水素濃度とN−Hに由来する水素濃度の合計よりも高いこととしてもよい。第1封止膜および第2封止膜は、第3封止膜に比べて、有機ELデバイスを撓ませた場合に曲率が大きくなる。有機ELデバイスを撓ませた場合に曲率が大きくなる封止膜の耐クラック性を高めることで、有機ELデバイスの長寿命化を図ることができる。
【0019】
上記有機ELデバイスは、さらに、前記第1封止膜の前記有機EL素子とは反対側に配された第1樹脂基板と、前記第2封止膜の前記有機EL素子とは反対側に配された第2樹脂基板と、前記第2封止膜と前記有機EL素子との間に配された、窒化シリコンを主成分とする第3封止膜と、を備えてもよい。前記有機EL素子の出射光が、前記第1樹脂基板を介して外部に取り出される場合、前記第1封止膜のN−Hに由来する水素濃度の前記合計に対する割合が、前記第3封止膜のN−Hに由来する水素濃度の前記合計に対する割合よりも低く、前記第3封止膜のN−Hに由来する水素濃度の前記合計に対する割合が、前記第2封止膜のN−Hに由来する水素濃度の前記合計に対する割合よりも低いこととしてもよい。この場合、第1封止膜は第3封止膜よりも外光が入射しやすい位置に存在する。また、第3封止膜は第2封止膜よりも外光が入射しやすい位置に存在する。外光が入射しやすい位置に存在する封止膜の耐候性を高めることで、有機ELデバイスの長寿命化を図ることができる。また、前記有機EL素子の出射光が、前記第2樹脂基板を介して外部に取り出される場合、前記第2封止膜のN−Hに由来する水素濃度の前記合計に対する割合が、前記第3封止膜のN−Hに由来する水素濃度の前記合計に対する割合よりも低く、前記第3封止膜のN−Hに由来する水素濃度の前記合計に対する割合が、前記第1封止膜のN−Hに由来する水素濃度の前記合計に対する割合よりも低いこととしてもよい。この場合、第2封止膜は第3封止膜よりも外光が入射しやすい位置に存在する。また、第3封止膜は第1封止膜よりも外光が入射しやすい位置に存在する。外光が入射しやすい位置に存在する封止膜の耐候性を高めることで、有機ELデバイスの長寿命化を図ることができる。
【0020】
上記有機ELデバイスは、さらに、前記第1封止膜と前記有機EL素子との間に配され、前記有機EL素子に電気的に接続された、酸化物半導体膜を含む薄膜トランジスタと、を備えてもよい。この場合、前記第1封止膜のSi−Hに由来する水素濃度とN−Hに由来する水素濃度の合計が、前記第2封止膜のSi−Hに由来する水素濃度とN−Hに由来する水素濃度の合計よりも低いこととしてもよい。酸化物半導体膜に水素が導入された場合、酸化物半導体膜の電気的性質が変質してしまう。これは、酸化物半導体膜を含む薄膜トランジスタでは、閾値シフトなどの不具合の原因となる。第1封止膜は、第2封止膜よりも酸化物半導体膜に近い位置に存在する。酸化物半導体膜に近い位置に存在する封止膜の全体の水素濃度を低くすることで、酸化物半導体膜に水素が導入される可能性を低減することができる。
【0021】
上記有機ELデバイスは、さらに、前記薄膜トランジスタと前記有機EL素子との間に配された、窒化シリコンを主成分とする第3封止膜を備えてもよい。この場合に、前記第3封止膜のSi−Hに由来する水素濃度とN−Hに由来する水素濃度の合計が、前記第2封止膜のSi−Hに由来する水素濃度とN−Hに由来する水素濃度の合計よりも低いこととしてもよい。第3封止膜は、第2封止膜よりも酸化物半導体膜に近い位置に存在する。酸化物半導体膜に近い位置に存在する封止膜の全体の水素濃度を低くすることで、酸化物半導体膜に水素が導入される可能性を低減することができる。
【0022】
本発明の一態様に係る可撓性基板は、樹脂基板と前記樹脂基板上に配された封止膜とを含み、前記封止膜は、窒化シリコンを主成分とし、Si−Hに由来する水素濃度の、Si−Hに由来する水素濃度とN−Hに由来する水素濃度の合計に対する割合が40%以上である。これにより、良好なガスバリア性を得ることができる。
【0023】
上記可撓性基板において、Si−Hに由来する水素濃度の、Si−Hに由来する水素濃度とN−Hに由来する水素濃度の合計に対する割合が60%以上であることとしてもよい。これにより、ガスバリア性をより良好にすることができる。
【0024】
上記可撓性基板において、Si−Hに由来する水素濃度とN−Hに由来する水素濃度の合計が3E22atoms/cm
3以上であることとしてもよい。これにより、良好なクラック耐性を得ることができる。
【0025】
本発明の一態様に係る封止膜の製造方法は、窒化シリコンを主成分とする封止膜を、表面波プラズマを利用した化学気相成長法により製造する製造方法であって、シランの流量に対するアンモニアの流量の比率を1.0以上2.0以下とする。これにより、Si−H水素濃度比が40%以上である封止膜、即ち、良好なガスバリア性を有する封止膜を得ることができる。
【0026】
上記封止膜の製造方法において、さらに、前記封止膜が形成される樹脂基板の温度を120℃以下に維持することとしてもよい。これにより、樹脂基板が熱により変質することを抑制することができる。
【0027】
本発明の一態様に係る封止膜は、窒化シリコンを主成分とする封止膜において、Si−Hに由来する水素濃度の、Si−Hに由来する水素濃度とN−Hに由来する水素濃度の合計に対する割合が60%以上であることとしてもよい。これにより、ガスバリア性をより良好にすることができる。
【0028】
上記封止膜において、Si−Hに由来する水素濃度の、Si−Hに由来する水素濃度とN−Hに由来する水素濃度の合計に対する割合が60%以上であることとしてもよい。これにより、ガスバリア性をより良好にすることができる。
【0029】
<用語の定義>
本明細書では、窒化シリコン膜内のSi−Hに由来する水素濃度を、「Si−H水素濃度」と称する。窒化シリコン膜内のN−Hに由来する水素濃度を、「N−H水素濃度」と称する。窒化シリコン膜内のSi−H水素濃度とN−H水素濃度の合計を「全体の水素濃度」と称する。全体の水素濃度に対するSi−H水素濃度の割合を「Si−H水素濃度比」と称する。全体の水素濃度に対するN−H水素濃度の割合を「N−H水素濃度比」と称する。
【0030】
<実施の形態1>
図2および
図3に、水素濃度の異なる9種類のサンプルの水素濃度および水蒸気透過率の測定結果を示す。
【0031】
各サンプルは、原料ガスとしてシラン(SiH
4)とアンモニア(NH
3)を用いた表面波プラズマCVD(SWP−CVD)法で作製されている。各サンプルの水素濃度は、表面波プラズマCVD装置への投入電力、SiH
4流量およびNH
3流量を変化させることで、任意に変化させることができる。例えば、投入電力を大きくするほど、全体の水素濃度は低下し、Si−H水素濃度は低下し、N−H水素濃度は増加する傾向がある。また、SiH
4流量を増加させると、Si−H水素濃度が増加し、N−H水素濃度が低下する傾向がある。さらに、NH
3流量を増加させると、Si−H水素濃度が低下し、N−H水素濃度が増加する傾向がある。
【0032】
Si−H水素濃度およびN−H水素濃度は、フーリエ変換型赤外分光(FT−IR)の手法で測定した。本手法では、これらの水素濃度を個別に測定することができる。そして、これらの合計を全体の水素濃度(Total)とした。各サンプルとしては、シリコン基板上に400nm〜500nmの窒化シリコン膜を成膜したものを用いた。
【0033】
水蒸気透過率は、カルシウム腐食法で測定した。各サンプルとしては、樹脂基板上に500nmの窒化シリコン膜を成膜したものを用いた。実験環境は、温度が60℃で湿度が90%RHとした。本明細書中の水蒸気透過率の値は全て温度が60℃で湿度が90%RHでの値を記している。なお、これまでの知見に基づき、温度が60℃で湿度が90%RHでの測定値は、温度が25℃で湿度が50%RH(室内環境)での値の20倍として換算できる。
【0034】
図3によると、全体の水素濃度と水蒸気透過率との間に有意な相関関係を見出すことはできない。例えば、サンプル3、4を対比すると、全体の水素濃度は略同じであるものの、水蒸気透過率は大きく異なる。また、Si−H水素濃度と水蒸気透過率との間にも有意な相関関係を見出すことはできない。例えば、サンプル1、5を対比すると、Si−H水素濃度は略同じであるものの、水蒸気透過率は大きく異なる。以上より、全体の水素濃度、Si−H水素濃度の何れも、水蒸気透過率との間に有意な相関関係を見出すことができないことが分かる。
【0035】
一方、Si−H水素濃度比と水蒸気透過率との間には有意な相関関係を見出すことができる。
図4に、各サンプルのSi−H水素濃度比と水蒸気透過率の測定結果を示す。同図によると、Si−H水素濃度比が高くなるほど、水蒸気透過率が低下することが分かる。従って、窒化シリコン膜のガスバリア性は、窒化シリコン膜内の全体の水素濃度には依存せず、Si−H水素濃度比に依存することが明らかとなった。
【0036】
サンプル5、6、8、9は、カルシウムの腐食速度が速く、十分な精度で水蒸気透過率を測定することが困難であった。このような窒化シリコン膜は、封止膜としては実用的ではない。一方、サンプル1、4、7は、十分な精度で水蒸気透過率を測定することができた。この程度であれば、窒化シリコン膜は、封止膜として実用的であると言える。従って、窒化シリコン膜のSi−H水素濃度比は40%以上であることが好ましい。さらに、サンプル2、3の水蒸気透過率は、カルシウム腐食法の測定限界である2E−04g/m
2/dayに迫る程度まで低減されている。従って、窒化シリコン膜のSi−H水素濃度比が60%以上であることが、より好ましい。
【0037】
次に、Si−H水素濃度比、N−H水素濃度比および膜密度の関係を示す。
図5に示すように、サンプル3、4を対比すると、全体の水素濃度が同じでも、Si−H水素濃度比が高いほど(N−H水素濃度が低いほど)膜密度が高くなることが分かる。この理由は、以下のように推察することができる。
【0038】
シリコンの結合手は4つであるのに対し、窒素の結合手は3つである。シリコンの場合、結合手の1つに水素が結合していた場合、隣接する原子(シリコンまたは窒素)との結合に寄与する結合手は3つである。一方、窒素の場合、結合手の1つに水素が結合していた場合、隣接する原子(シリコンまたは窒素)との結合に寄与する結合手は2つである。隣接する原子との結合に寄与する結合手が多いほど、膜密度が高くなると考えられる。そのため、全体の水素濃度が同じでも、Si−H水素濃度比が高いほど膜密度が高くなると言える。
【0039】
水素が残留すると、理想的な構造であるSi
3N
4の構造が乱れて膜密度が低減してしまう。そして、これはガスバリア性の低下につながる。しかしながら、発明者の新たな知見によると、窒化シリコン膜内に残留する水素濃度が同じでも、窒化シリコン膜内のSi−H水素濃度比を高めることで、膜密度の低減を抑制することができ、良好なガスバリア性を確保することができる。
【0040】
なお、各サンプルの成膜条件は、次の通りである。反応炉内の圧力を10Paとし、投入電力を0.75kW以上1.2kW以下とすることでプラズマを安定的に発生させた。その上で、SiH
4に対するNH
3の流量比を1.0以上2.0以下の範囲とした。その結果、Si−H水素濃度比が40%以上となるサンプルを得ることができた。
【0041】
また、発明者の別の実験により、窒化シリコンの厚みが250nmのサンプルでも上記と同等の結果が得られることが判明した。一般的には、窒化シリコン膜の厚みが厚くなるほど、ガスバリア性が高くなると考えられる。従って、窒化シリコンの厚みが250nm以上の場合に、Si−H水素濃度比が40%以上であれば、十分なガスバリア性を確保することができると言える。
【0042】
以上より、窒化シリコン膜内の全体の水素濃度に対するSi−Hの水素濃度を40%以上とすることで、良好なガスバリア性の窒化シリコン膜を得ることができる。
【0043】
また、Si−H水素濃度比は、表面波プラズマCVD装置への投入電力、SiH
4流量およびNH
3流量を変化させることで、任意に変化させることができる。表面波プラズマCVDは、低温雰囲気で窒化シリコン膜を成膜することができるので、窒化シリコン膜の下地に様々な樹脂基板を利用することができる。これは、樹脂基板と封止膜とを含む可撓性基板を得るのに好都合である。特に基板温度を120℃以下とすることで、樹脂基板の変質を抑制することができる。
【0044】
図6(a)は、窒化シリコン膜内の全体の水素濃度と、可撓性基板に成膜した窒化シリコン膜を曲率半径5mm(R=5mm)で曲げた場合のクラックの有無の測定結果とを示す図である。
図6(b)は、可撓性基板に成膜した窒化シリコンのサンプルを示す図である。
図6(c)は、測定の状況を示す図である。
【0045】
この測定結果により、窒化シリコン膜内に含まれる全体の水素濃度が高い場合、具体的には全体の水素濃度が3E22atoms/cm
3以上である場合に、クラック耐性に優れた窒化シリコン膜になることがわかる。
【0046】
なお、プラズマが安定的に発生するように反応炉内の圧力および投入電力を調整することで、全体の水素濃度を調整することが出来る。これらの圧力および投入電力を調整し、SiH
4に対するNH
4の流量比を1.0以上2.0以下の範囲として窒化シリコン膜を成膜した。これにより、窒化シリコン膜内の全体の水素濃度が3E22atoms/cm
3以上であり、Si−H水素濃度比が40%以上である窒化シリコン膜を得ることができる。
【0047】
発明者は、さらに、容量結合型プラズマCVD(CCP−CVD)法で窒化シリコン膜を成膜し、表面波プラズマCVDで成膜した窒化シリコン膜と比較し、それぞれの成膜手法による窒化シリコン膜の水素濃度と膜密度の関係を調べた。
図7は、CCP−CVD法で成膜した窒化シリコン膜内の膜密度の測定結果を示す図である。同図のサンプル12と
図5のサンプル4を対比すると、膜密度は略同じである。
図5には記載されていないが、サンプル4の成膜温度は100℃である。これに対し、サンプル12の成膜温度は180℃である。これらから、サンプル4は、低温成膜でありながら、従来の成膜方法であるCCP−CVD法を用いた高温成膜と同程度の膜密度、即ち、ガスバリア性を有することが分かる。
図7のサンプル11と
図5のサンプル3を対比すると、膜密度は略同じである。
図5には記載されていないが、サンプル3の成膜温度が100℃である。これに対し、サンプル11の成膜温度は300℃である。これらから、サンプル3は、低温成膜でありながら、高温成膜と同程度の膜密度、即ち、ガスバリア性を有することが分かる。
【0048】
発明者は、別途、窒化シリコン膜の耐候性試験を行なった。具体的には、加熱処理前後の窒化シリコン膜の水蒸気透過率の変化、紫外線照射処理前後の窒化シリコン膜の水蒸気透過率の変化を調べた。
図8および
図9に耐候性試験の結果を示す。
図8によると、加熱処理前後では水蒸気透過率はあまり変化しないが、紫外線照射処理前後では水蒸気透過率が大きく変化することが判明した。また、
図9によると、N−H水素濃度がSi−H水素濃度よりも加熱処理および紫外線照射処理で変化しやすいことが判明した。これらから、紫外線が照射されるとN−Hの結合が切れて、ガスバリア性が低下する方向に窒化シリコン膜が変質してしまうことが推察される。従って、窒化シリコン膜の耐候性を高めるには、N−H水素濃度比を低減することが望ましい。
【0049】
従来、窒化シリコン膜のガスバリア性を高めるには、高温成膜により膜密度を高める方法が採用されている。しかしながら、樹脂基板上に窒化シリコン膜を成膜する場合、樹脂基板の変質を避けるため、窒化シリコン膜を低温で成膜することが好ましい。低温とは、例えば、200℃以下、より好ましくは120℃以下である。また、高温成膜では窒化シリコン膜の応力が大きくなり、樹脂基板が反りやすい傾向になる。これは、応力の大きさが成膜温度と室温の温度差の影響を受けるためである。樹脂基板が反ることで、窒化シリコン膜にクラックが生じる恐れがある。さらに、高温成膜では原料ガスの分解が加速されるため、窒化シリコン膜内に水素が残留しにくくなり、その結果、クラック耐性を持たせにくい。
【0050】
これに対して、本実施の形態の窒化シリコン膜は、低温成膜でありながら高温成膜と同程度のガスバリア性を発揮することができる。また、上述の通り、窒化シリコン膜のクラック耐性は、Si−H水素濃度比(N−H水素濃度比)ではなく、全体の水素濃度により決まることが判明している。
【0051】
以上より、窒化シリコン膜を低温成膜で得て、さらにガスバリア性、クラック耐性および耐候性を高めるには、全体の水素濃度を3E+22atoms/cm
3以上としつつ、N−H水素濃度比を45%以下、好ましくは30%以下とすればよい。裏返して表現すると、Si−H水素濃度比が55%以上、好ましくは70%以上とすればよい。全体の水素濃度を3E+22atoms/cm
3以上とすることで、クラック耐性を高めることができる。N−H水素濃度比を45%以下とすることで、サンプル4と同程度またはそれ以上のガスバリア性および耐候性を得ることができる。N−H水素濃度比を30%以下とすることで、サンプル3と同程度またはそれ以上のガスバリア性および耐候性を得ることができる。
【0052】
図10は、窒化シリコン膜の加熱温度と窒化シリコン膜内の水素濃度の関連を示す図である。
図10(a)は成膜法がCCP−CVDで成膜温度が380℃の条件で成膜したサンプル、
図10(b)は成膜法がCCP−CVDで成膜温度が180℃の条件で成膜したサンプル、
図10(c)は成膜法がSWP−CVDで成膜温度が室温の条件で成膜したサンプルを示す。本実験は、各成膜条件で窒化シリコン膜を成膜し、成膜された窒化シリコン膜を各温度で1時間加熱し、加熱後の窒化シリコン膜の水素濃度を測定したものである。成膜温度は基板温度を測定した。
【0053】
容量結合型プラズマCVD法で成膜温度が380℃のサンプルでは、窒化シリコン膜を350℃まで加熱しても水素濃度の変化は見られない。成膜温度が180℃のサンプルでは、窒化シリコン膜を200℃以上に加熱すると水素濃度の変化が見られる。これによると、成膜温度が高くなると加熱処理による水素濃度の変化が生じる温度が高くなることが分かる。表面波プラズマCVD法で基板温度が室温のサンプルでは、窒化シリコン膜を250℃以上に加熱すると水素濃度の変化が見られる。表面波プラズマCVD法では基板温度が室温の場合のデータしかないが、容量結合型プラズマCVD法の傾向を鑑みると、基板温度が室温より高くなると、加熱処理による水素濃度の変化が生じる温度も250℃より高くなると考えられる。そして、表面波プラズマCVD法では基板温度が室温のサンプルでさえ、容量結合型プラズマCVD法で基板温度が180℃のサンプルよりも加熱処理による水素濃度の変化が生じる温度が高い。
【0054】
有機ELデバイスに窒化シリコン膜を適用する場合、有機ELデバイスの製造工程中に窒化シリコン膜が劣化するのを避けることが望まれる。表面波プラズマCVD法を採用することで、水素濃度の変化の生じにくい窒化シリコン膜を作製することができる。また、
図10の結果から、窒化シリコン膜の成膜工程以降の工程では、窒化シリコン膜の温度が250℃を超えないようにすることが好ましく、200℃を超えないようにするとより好ましい。
【0055】
<実施の形態2>
以下、実施の形態1に係る封止膜を備えた電子デバイスの構成を説明する。実施の形態2の電子デバイスは、電子素子として有機EL素子を備える有機ELデバイスである。
【0056】
図11は、本発明の実施の形態2に係る有機ELデバイスの構造を示す断面図である。
【0057】
有機ELデバイス100は、第1可撓性基板110、有機EL素子120、第2可撓性基板130および封止層140を備える。
【0058】
第1可撓性基板110は、樹脂基板111および封止膜112を備える。樹脂基板111は、例えば、ポリイミド、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、シクロオレフィンポリマー(COP)からなる。封止膜112は、実施の形態1で説明した窒化シリコン膜である。
【0059】
有機EL素子120は、第1電極121、有機EL層122および第2電極123を備える。第1電極121は、例えば、光反射性の導電材料からなる。このような材料として、例えば、アルミニウム、銀、アルミニウム合金および銀合金を利用することができる。有機EL層122は、有機材料からなる発光層を含む。また、必要に応じて正孔注入層、正孔輸送層、電子注入層、電子輸送層を含むこととしてもよい。第2電極123は、例えば、光透過性の導電材料からなる。このような材料として、例えば、ITO(Indium Tin Oxide)またはIZO(Indium Zinc Oxide)を利用することができる。
【0060】
第2可撓性基板130は、樹脂基板131および封止膜132を備える。樹脂基板131は、例えば、ポリイミド、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、シクロオレフィンポリマー(COP)からなる。封止膜132は、実施の形態1で説明した窒化シリコン膜である。
【0061】
封止層140は、例えば、光透過性の樹脂材料からなる。このような材料として、例えば、アクリル樹脂、エポキシ樹脂を利用することができる。
【0062】
このように、第1可撓性基板110と第2可撓性基板130の両方が実施の形態1で説明した窒化シリコン膜を含む。これにより、良好なガスバリア性を確保でき、有機ELデバイスの長寿命化を図ることができる。
【0063】
なお、
図12および
図13に示すように、第1可撓性基板110と第2可撓性基板130の一方に窒化シリコン膜を含むこととしてもよい。
図12の有機ELデバイス200では、第2可撓性基板230は、樹脂基板であり、封止層240が封止膜241と樹脂層242とを含む。封止膜241は、実施の形態1で説明した窒化シリコン膜である。樹脂層242は、例えば、光透過性の樹脂材料からなる。このような材料として、例えば、アクリル樹脂、エポキシ樹脂を利用することができる。
図13の有機ELデバイス300では、第2可撓性基板330は、樹脂基板である。
【0064】
また、
図14の有機ELデバイス400に示すように、第1可撓性基板110、第2可撓性基板130および封止層240が、それぞれ封止膜112、132および241を備えることとしてもよい。この場合、封止膜112、132および241の少なくとも1つが実施の形態1で説明した窒化シリコン膜であることとしてもよい。
【0065】
なお、封止膜112および132のSi−H水素濃度比が封止膜241のSi−H水素濃度比よりも高いこととしてもよい。封止膜112および132は、封止膜241に比べて外部から水分が浸入しやすい位置に存在する。外部から水分が浸入しやすい位置に存在する封止膜のガスバリア性を高めることで、有機ELデバイスの長寿命化を図ることができる。
【0066】
また、封止膜112および132の全体の水素濃度が封止膜241の全体の水素濃度よりも高いこととしてもよい。封止膜112および封止膜132は、封止膜241に比べて、有機ELデバイスを撓ませた場合に曲率が大きくなる。有機ELデバイスを撓ませた場合に曲率が大きくなる封止膜の耐クラック性を高めることで、有機ELデバイスの長寿命化を図ることができる。
【0067】
また、有機ELデバイス400は、有機EL素子120の出射光が樹脂基板111を介して外部に取り出されるボトムエミッション型としてもよいし、有機EL素子120の出射光が樹脂基板131を介して外部に取り出されるトップエミッション型としてもよい。
【0068】
ボトムエミッション型の場合、封止膜112のN−H水素濃度比が封止膜241のN−H水素濃度比よりも低く、封止膜241のN−H水素濃度比が封止膜132のN−H水素濃度比よりも低いこととしてもよい。ボトムエミッション型の場合、封止膜112は封止膜241よりも外光が入射しやすい位置に存在する。また、封止膜241は封止膜132よりも外光が入射しやすい位置に存在する。外光が入射しやすい位置に存在する封止膜の耐候性を高めることで、有機ELデバイスの長寿命化を図ることができる。
【0069】
トップエミッション型の場合、封止膜132のN−H水素濃度比が、封止膜241のN−H水素濃度比よりも低く、封止膜241のN−H水素濃度比が、封止膜112のN−H水素濃度比よりも低いこととしてもよい。トップエミッション型の場合、封止膜132は封止膜241よりも外光が入射しやすい位置に存在する。また、封止膜241は封止膜112よりも外光が入射しやすい位置に存在する。外光が入射しやすい位置に存在する封止膜の耐候性を高めることで、有機ELデバイスの長寿命化を図ることができる。
【0070】
また、
図15の有機ELデバイス500に示すように、第2可撓性基板130が存在せず、封止層240が有機EL素子120の上面側の封止を担うこととしてもよい。
【0071】
また、有機EL素子は、単数ではなく複数存在してもよい。例えば、ディスプレイ用途の有機ELデバイスでは、有機EL素子が複数存在しており、1つの有機EL素子が1つのサブピクセルを構成する。
図16に、ディスプレイ用途の有機ELデバイスの構成を例示する。同図には、1つ分のサブピクセルが現われている。有機ELデバイス600は、封止膜112上に薄膜トランジスタ10を備える。薄膜トランジスタ10は、ゲート電極11、ゲート絶縁膜12、ソースドレイン電極13、酸化物半導体膜14を含む。酸化物半導体膜14は、例えば、IGZO(Indium Gallium Zinc Oxide)等からなる。有機ELデバイス600は、さらに、薄膜トランジスタ10を被覆する封止膜15と、封止膜15上に配された層間絶縁膜16とを備える。封止膜15および層間絶縁膜16は、コンタクトホール16aを有する。有機ELデバイス600は、さらに、層間絶縁膜16上の隔壁17で区画された領域に有機EL素子120を備える。有機EL素子120は、第1電極121、有機EL層122および第2電極123を含む。第1電極121の一部がコンタクトホール16a内に入り込み、薄膜トランジスタ10のソースドレイン電極13に接続されている。有機EL層122は、正孔注入層21、正孔輸送層22、有機発光層23および電子輸送層24を含む。有機ELデバイス600は、さらに、有機EL素子120上に封止層240を備え、封止層240上に封止膜132を備える。封止層240は、封止膜241と樹脂層242を備える。
【0072】
上述の通り、有機ELデバイス600は、封止膜112、15、241、132を備える。これらが実施の形態1で説明した窒化シリコン膜であることとしてもよい。
【0073】
なお、封止膜112の全体の水素濃度が、封止膜132の全体の水素濃度よりも低いこととしてもよい。酸化物半導体膜14に水素が導入された場合、酸化物半導体膜14の電気的性質が変質してしまう。これは、薄膜トランジスタ10の閾値シフトなどの不具合の原因となる。封止膜112は、封止膜132よりも酸化物半導体膜14に近い位置に存在する。酸化物半導体膜14に近い位置に存在する封止膜の全体の水素濃度を低くすることで、酸化物半導体膜14に水素が導入される可能性を低減することができる。
【0074】
また、封止膜15の全体の水素濃度が、封止膜132の全体の水素濃度よりも低いこととしてもよい。封止膜15は、封止膜132よりも酸化物半導体膜14に近い位置に存在する。酸化物半導体膜14に近い位置に存在する封止膜の全体の水素濃度を低くすることで、酸化物半導体膜14に水素が導入される可能性を低減することができる。
【0075】
次に、有機ELデバイスの製造方法を説明する。
図17は、本発明の実施形態に係る有機ELデバイスの製造過程を示す断面図である。
【0076】
まず、樹脂基板111上に封止膜112が形成された第1可撓性基板110を用意する(
図17(a))。封止膜112は、窒化シリコン膜であってもよく、実施の形態1で説明した成膜方法で形成されてもよい。
【0077】
第1可撓性基板110上に、公知の方法を用いて、有機EL素子120を形成する(
図17(b))。有機EL素子120は、第1電極121、有機EL層122および第2電極123は、それぞれ、真空蒸着法、スパッタリング法、塗布法などで形成される。
【0078】
有機EL素子120上に、封止膜241を形成する(
図17(c))。封止膜241は、窒化シリコン膜であってもよく、実施の形態1で説明した成膜方法で形成されてもよい。
【0079】
封止膜241上に樹脂層242を形成し、さらに樹脂層242上に第2可撓性基板130を貼り付ける(
図17(d))。第2可撓性基板130の封止膜132は、窒化シリコン膜であってもよく、実施の形態1で説明した成膜方法で形成されてもよい。
【0080】
図18、
図19は、本発明の実施形態の変形例5に係る有機ELデバイスの製造過程を示す図である。
【0081】
封止膜112上に、公知の方法を用いて、薄膜トランジスタ10を形成する(
図18(a))。
【0082】
薄膜トランジスタ10上に封止膜15を形成する(
図18(b))。封止膜15は、窒化シリコン膜であってもよく、実施の形態1で説明した成膜方法で形成されてもよい。
【0083】
封止膜15上に公知の方法を用いて層間絶縁膜16を形成し、封止膜15および層間絶縁膜16に公知の方法を用いてコンタクトホール16aを形成し、層間絶縁膜16上に公知の方法を用いて第1電極121を形成する(
図18(c))。
【0084】
層間絶縁膜16上に公知の方法を用いて隔壁17を形成し、第1電極121上に有機EL層122を形成し、有機EL層122上に第2電極123を形成する(
図19(a))。これにより、有機EL素子120が形成される。
【0085】
有機EL素子120上に封止膜241を形成する(
図19(b))。封止膜241は、窒化シリコン膜であってもよく、実施の形態1で説明した成膜方法で形成されてもよい。
【0086】
<実施の形態3>
実施の形態3の電子デバイスは、電子素子として光学反射素子を備える光学反射デバイスである。
【0087】
図20は本発明の実施の形態3に係る光学反射素子を示す斜視図である。光学反射デバイス700は、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)の一例である。光学反射デバイス700は、回動軸703を中心として回動する可動部704と、可動部704と接続された駆動部705と、駆動部705と接続された枠体706と、可動部704に設けられた反射部702とを有している。可動部704、駆動部705、枠体706、反射部702が光学反射素子として機能する。
【0088】
反射部702は可動部704の表面に設けられた金属(Ag系材料)等の光を反射する材料よりなる膜により形成され、可動部704に照射された光束を反射する。なお、図示しないが電極が可動部704の表面の外周部に設けられ、駆動部705と接続されて駆動部705を駆動する駆動信号が入力される。
【0089】
駆動部705は、シリコンで形成された基板と、基板上に形成された下部電極と、下部電極上に形成されたPZT(チタン酸ジルコン酸鉛)等の圧電体からなる圧電体層と、圧電体層上に形成された上部電極とを有する。
【0090】
下部電極、圧電体層、上部電極を所望の形状にドライエッチングまたはウェットエッチングによりパターニングした後、ICP(Inductively Coupled Plasma)ドライエッチングにより基板を加工することにより、可動部704、駆動部705、枠体706を形成することができる。
【0091】
下部電極と上部電極の間に電界を印加すると、逆圧電効果によって圧電体層が平面方向に伸縮する。このとき、圧電体層に発生した力が駆動部705の厚み方向のモーメントとして働き、駆動部705が撓む。これにより、駆動部705に接続された可動部704の傾きが変動し、可動部704が回動軸703を中心に回動する。
【0092】
この光学反射素子の上面の一部(図中、網掛けで示される領域)に、実施の形態1に係る窒化シリコン膜を形成し、封止層として用いてもよい。窒化シリコン膜は、光学反射素子の上面のうち、反射部702及び枠体706に設けられた電極取り出し部(パッド部)707を除き、全域に形成されている。つまり、反射部702及び電極取り出し部707は、封止層の非形成領域となっている。封止層の非形成領域は、窒化シリコン膜を光学反射素子の上面に形成した後、フォトリソグラフィ及びエッチングにより窒化シリコン膜を部分的に除去することで形成されている。なお、反射部702については、光学反射素子の上面に窒化シリコン膜を形成し、その上に、反射部702を形成してもよい。
【0093】
このように、実施の形態1に係る窒化シリコン膜を光学反射デバイス700の封止層として用いることで、良好なガスバリア性を確保でき、光学反射素子の水分による劣化を抑制することができる。
【0094】
なお、光学反射素子は、
図21に示す光学反射デバイス800の枠体706の外側に接続された一端を有する駆動部832と、駆動部832の他端に接続された枠体833とをさらに備えていてもよい。駆動部832の他端は枠体833に接続されている。駆動部832は駆動部705と略直交する方向に枠体706に接続されている。駆動部832も駆動部705と同様に、シリコンで形成された基板と、その基板上に形成された下部電極と、下部電極上に形成されたPZT(チタン酸ジルコン酸鉛)等の圧電材料からなる圧電体層と、圧電体層上に形成された上部電極とを有する。駆動部832の下部電極と上部電極の間に電界を印加すると逆圧電効果によって、下部電極と圧電体層と上部電極とが積層された厚み方向と直角の面方向に圧電体層が伸縮する。このとき、圧電体層に発生した力が駆動部832の厚み方向のモーメントとして働き、駆動部832が撓む。これにより、駆動部832に接続された枠体706の傾きが変動し、枠体706が回動軸835を中心に回動する。