(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0015】
[発明の原理]
複数の主制御系において、それらの調整されるべき平衡点が共通しているとは限らない対象を想定して、まず複数の主制御系における平衡点の差を整理し、次に平衡点の差を整理する処理で得られた整理操作量をセレクタにより合成し、その後に特許文献1に開示された処理(操作量の調整)を適用することを、基本原理とする。この基本原理によれば、複数の主制御系における平衡点の差のみを最前段での整理の対象とすることで、全体の演算量が必要以上に増えないようにすることができる。基本原理によれば、平衡点条件の優先度の高い整理操作量を選択するセレクタを備えることで、安定した主制御系からの実質的な操作量である整理操作量の選択方法・組合せ方法を決定する操作になるので、扱いやすい。そして、優先度の高いものに対応できるのであれば、実用価値の高いマルチループ制御系適用方法になる。
【0016】
発明者は、以上のような基本原理に基づき、主制御系が複数系統であり、主制御の整定状態での望ましい操作量出力である平衡点を調整するための副制御系が1系統のみというマルチループ制御系において、省エネルギーを実現することができる協調動作装置および方法を提案した(特願2013−020129)。特願2013−020129において協調動作装置の適用例として説明したセントラル空調システムでは、複数のゾーンの室内温度制御のための主制御系である複数の給気風量制御系と、複数の主制御系の平衡点を調整するための副制御系である給気温度制御系とを有しており、各主制御系の操作量(給気風量)と望ましい平衡点を示す操作量設定値との差である整理操作量を主制御系毎に算出することにより、各主制御系における平衡点の差を整理し、整理操作量をセレクタで合成して、合成後の操作量に対して特許文献1に開示された処理を適用することで、平衡点を望ましい値に調整するようにしている。
【0017】
特願2013−020129で提案した協調動作装置では、複数の主制御系のみがマルチ化の対象である。つまり、平衡点の差を整理する程度で済むような同質の主制御系のみを扱うことを、設計上の前提としている。
しかしながら、セントラル空調システムでは、給気風量の制約は個別の主制御系のみとは限らず、さらなる多様化対応が求められている。例えば、各主制御系の操作量(給気風量)をそれぞれ個別に望ましい値に調整するだけでなく、各主制御系の操作量とは別の平衡点、具体的には各主制御系の個々の操作量(給気風量)の総和である総操作量(総風量)を望ましい値に調整することが求められている。
【0018】
このように、各主制御系の望ましい操作量出力である平衡点とは別に、総操作量のような平衡点が存在するシステムに対しては、特願2013−020129で提案した協調動作装置を適用することはできない。
本発明では、このようなシステムに適用可能な協調動作装置および方法を実現するため、上記のセレクタに総操作量(総風量)も取り込むことで、総操作量(総風量)も含めた平衡点調整ができるようにする。
【0019】
ただし、特願2013−020129で提案した協調動作装置では、平衡点の差を整理する程度で済むもののみを扱うことができる。総操作量(総風量)の望ましい値である第2の平衡点(総風量設定値)は、各主制御系の操作量(給気風量)の望ましい値である第1の平衡点(風量設定値)の数倍の数値になるはずであるので、単純に第2の平衡点と第1の平衡点の差を整理するだけでは、総風量設定値と風量設定値をセレクタでほぼ公平に扱っているとは言い難い状態になる。
【0020】
そこで、発明者は、総操作量のとり得る数値範囲を操作量のとり得る数値範囲に合わせるために、総操作量に関する数値を倍率変換することに想到した。この倍率変換には、総操作量設定値(総風量設定値)を利用してもよいし、任意の係数を利用してもよい。なお、より汎用的で扱いが簡易な構成としては、操作量に係わる全ての調整対象の数値について対応する設定値との差を算出した後に、その差を設定値で除算して正規化することが好ましい。
【0021】
[
参考例]
以下、本発明の
参考例について図面を参照して説明する。本
参考例は、より汎用的で扱いが簡易な構成として実現する例である。
図1は本
参考例に係る制御装置である協調動作装置の構成を示すブロック図、
図2は本
参考例に係る制御系のブロック線図である。協調動作装置は、n(nは2以上の整数)個の主制御部1−1〜1−nと、操作量拡張部2と、操作量拡張部2が生成するm(mは2以上の整数)個の変数毎に設けられたm個の正規化部3−1〜3−mと、セレクタ4と、操作量調整制御部5とから構成される。
【0022】
各主制御部1−i(i=1〜n)は、それぞれ設定値SP_Aiを入力する設定値入力部10−iと、制御量PV_Aiを入力する制御量入力部11−iと、設定値SP_Aiと制御量PV_Aiに基づいて操作量MV_Ai(第1の操作量)を算出する制御演算部12−i(第1の制御演算手段)と、操作量MV_Aiを対応する主制御系のアクチュエータに出力する操作量出力部13−i(第1の操作量出力手段)とを備えている。
【0023】
操作量拡張部2は、主制御部1−i毎に設けられた操作量取得部20−iと、操作量MV_Aiからm個の操作量系変数MV_Cj(j=1〜m)を生成する操作量系変数生成部21(変数生成手段)と、操作量系変数MV_Cjを出力する操作量系出力部22−jとを備えている。
【0024】
各正規化部3−j(j=1〜m)は、それぞれ操作量系変数MV_Cjの整定状態での望ましい値である平衡点を示す操作量系設定値SP_Cjを入力する操作量系設定値入力部30−jと、操作量系変数MV_Cjを取得する操作量系変数取得部31−jと、操作量系変数MV_Cjと操作量系設定値SP_Cjとの差を算出して、さらに操作量系設定値SP_Cjなどの係数で正規化した正規化操作量MV_Cej(第2の操作量)を算出する正規化操作量算出部32−j(操作量算出手段)と、正規化操作量MV_Cejを出力する正規化操作量出力部33−jとを備えている。
【0025】
セレクタ4は、正規化部3−j毎に設けられた正規化操作量取得部40−jと、m個の正規化操作量MV_Cejを小さい順あるいは大きい順に並び替える整列部41と、整列部41によって並び替えられた正規化操作量MV_Cejに対して加重演算を行なうことにより正規化操作量MV_Cejを合成する合成部42と、合成部42による合成操作量MV_CS(第3の操作量)を出力する合成操作量出力部43とを備えている。
【0026】
操作量調整制御部5は、所定の操作量設定値SP_BS=0を入力する操作量設定値入力部50と、セレクタ4から出力された合成操作量MV_CSを取得する合成操作量取得部51と、合成操作量MV_CSに基づいて調整操作量MV_BS(第4の操作量)を算出する調整制御演算部52(第2の制御演算手段)と、調整制御演算部52による調整操作量MV_BSを副制御系のアクチュエータに出力する調整操作量出力部53(第2の操作量出力手段)とを備えている。
【0027】
図2はn=4、m=4の場合の制御系の構成を示している。
図2における6−1〜6−4は主制御系のアクチュエータ、7は副制御系のアクチュエータ、8−1〜8−4は制御対象である。主制御部1−1とアクチュエータ6−1と制御対象8−1とが第1の主制御系を構成し、主制御部1−2とアクチュエータ6−2と制御対象8−2とが第2の主制御系を構成し、主制御部1−3とアクチュエータ6−3と制御対象8−3とが第3の主制御系を構成し、主制御部1−4とアクチュエータ6−4と制御対象8−4とが第4の主制御系を構成している。また、操作量調整制御部5とアクチュエータ7とが副制御系を構成している。
【0028】
以下、本
参考例の協調動作装置の動作を
図3を参照して説明する。各主制御部1−i(i=1〜n)の設定値SP_Aiは、オペレータなどによって設定され、設定値入力部10−iを介して制御演算部12−iに入力される(
図3ステップS100)。
各主制御部1−iの制御量PV_Aiは、センサなどによって計測され、制御量入力部11−iを介して制御演算部12−iに入力される(
図3ステップS101)。
【0029】
各主制御部1−iの制御演算部12−iは、設定値SP_Aiと制御量PV_Aiに基づいて、以下の伝達関数式のようなPID制御演算を行って操作量MV_Aiを算出する(
図3ステップS102)。
MV_Ai=(100/PB_Ai){1+(1/TI_Ais)+TD_Ais}
×(SP_Ai−PV_Ai) ・・・(1)
式(1)において、PB_Aiは比例帯、TI_Aiは積分時間、TD_Aiは微分時間、sはラプラス演算子である。
【0030】
各主制御部1−iの操作量出力部13−iは、制御演算部12−iによって算出された操作量MV_Aiを対応する主制御系のアクチュエータ6−iに出力する(
図3ステップS103)。設定値入力部10−iと制御量入力部11−iと制御演算部12−iと操作量出力部13−iとは主制御部1−i毎に設けられているので、ステップS100〜S103の処理は主制御部1−i毎に個別に実施されることになる。
【0031】
次に、操作量拡張部2の操作量取得部20−iは、それぞれ対応する主制御部1−iの操作量出力部13−iから操作量MV_Aiを取得する(
図3ステップS104)。
操作量系変数生成部21は、操作量に係わる調整対象の変数である操作量系変数MV_Cj(j=1〜m)を生成する(
図3ステップS105)。操作量系変数MV_Cjとしては、例えば操作量MV_Aiがある。また、別の操作量系変数MV_Cjとしては、操作量MV_Aiの総和である総操作量MV_Cmがある。
【0033】
さらに、別の操作量系変数MV_Cjとしては、一部の操作量MV_Aiの加算量がある。
各操作量系出力部22−jは、それぞれ操作量系変数MV_Cjを出力する(
図3ステップS106)。
【0034】
次に、操作量系変数MV_Cjの調整されるべき平衡点を示す操作量系設定値SP_Cj(j=1〜m)は、オペレータなどによって設定され、各正規化部3−jの操作量系設定値入力部30−jを介して正規化操作量算出部32−jに入力される(
図3ステップS107)。
各正規化部3−jの操作量系変数取得部31−jは、操作量拡張部2のそれぞれ対応する操作量系出力部22−jから操作量系変数MV_Cjを取得する(
図3ステップS108)。
【0035】
各正規化部3−jの正規化操作量算出部32−jは、それぞれ操作量系変数MV_Cjとこれに対応する操作量系設定値SP_Cjとの差を操作量系設定値SP_Cjなどの係数で正規化した値を、正規化操作量MV_Cejとして算出する(
図3ステップS109)。
MV_Cej=(MV_Cj−SP_Cj)/SP_Cj ・・・(3)
【0036】
各正規化操作量算出部32−jは、m個の平衡点の差異を正規化することを目的として設けられたものである。正規化操作量MV_Cejは、各主制御部1−iが出力した操作量MV_Aiから生成された操作量系変数MV_Cjと操作量系設定値SP_Cjが示す平衡点との差を正規化したものであり、実質的に制御偏差に類似の数量である。
【0037】
ただし、正規化操作量MV_Cejは、式(3)の算出式に限られる数量ではなく、式(4)に示すように任意の係数Yjによって正規したものでもよいし、式(5)に示すように任意の係数Zjによって正規したものでもよい。
MV_Cej=(MV_Cj−SP_Cj)Yj ・・・(4)
MV_Cej=(MV_Cj−SP_Cj)/Zj ・・・(5)
【0038】
各正規化部3−jの正規化操作量出力部33−jは、正規化操作量算出部32−jによって算出された正規化操作量MV_Cejをセレクタ4に出力する(
図3ステップS110)。操作量系設定値入力部30−jと操作量系変数取得部31−jと正規化操作量算出部32−jと正規化操作量出力部33−jとは正規化部3−j毎に設けられているので、
図3のステップS107〜S110の処理は正規化部3−j毎に個別に実施されることになる。
【0039】
次に、セレクタ4の各正規化操作量取得部40−jは、それぞれ対応する正規化部3−jの正規化操作量出力部33−jから正規化操作量MV_Cejを取得する(
図3ステップS111)。
整列部41は、正規化操作量MV_Cejを小さい順あるいは大きい順に並び替えて、並び替え後の正規化操作量MV_CXk(k=1〜m)を得る(
図3ステップS112)。
【0040】
合成部42は、整列部41により並び替えられた正規化操作量MV_CXkに対して次式のような加重演算(加重平均演算)を行ない、合成操作量MV_CSを得る(
図3ステップS113)。これにより、合成部42は、実質的に正規化操作量MV_Cejを選択的に合成する。
【0042】
式(6)において、αkは予め定められた加重であり、加重αk(j=1〜m)の合計は1.0である。例えば、整列部41が正規化操作量MV_Cejを小さい順に並び替えたとして、最も小さい正規化操作量MV_Ce1に対応する加重α1を1.0、その他の正規化操作量MV_Ce2〜MV_Cemに対応する加重α2〜αmを0とすれば、合成部42は最小値選択部として機能する。また、整列部41が正規化操作量MV_Cejを大きい順に並び替えたとして、最も大きい正規化操作量MV_Ce1に対応する加重α1を1.0、その他の正規化操作量MV_Ce2〜MV_Cemに対応する加重α2〜αmを0とすれば、合成部42は最大値選択部として機能する。
合成操作量出力部43は、合成部42によって算出された合成操作量MV_CSを操作量調整制御部5に出力する(
図3ステップS114)。
【0043】
次に、操作量調整制御部5の操作量設定値入力部50は、所定の操作量設定値SP_BS=0を調整制御演算部52に入力する(
図3ステップS115)。
合成操作量取得部51は、セレクタ4から合成操作量MV_CSを取得する(
図3ステップS116)。
【0044】
周知のとおり、PID制御演算は、設定値から制御量を引いた制御偏差が0になるように操作量を算出する演算である。後述する調整制御演算部52でのPID制御演算では、合成操作量MV_CSを制御量として扱う。ここで、本
参考例では、式(3)〜式(5)に示したように正規化操作量算出部32−jにおいて操作量系変数MV_Cjと操作量系設定値SP_Cjとの差を正規化した正規化操作量MV_Cejを算出しており、この正規化操作量MV_Cejが合成部42で合成されて、合成操作量MV_CSとして調整制御演算部52に入力されるようになっている。上記のとおり調整制御演算部52でのPID制御演算では、合成操作量MV_CSを制御量として扱うが、合成操作量MV_CSは制御偏差に類似の数量として算出されているので、合成操作量MV_CSに対応する操作量設定値を改めて与える必要はない。したがって、操作量設定値入力部50が入力する操作量設定値SP_BSは常に0に設定されている。
【0045】
調整制御演算部52は、操作量設定値SP_BS=0と合成操作量MV_CSに基づいて、以下の伝達関数式のようなPID制御演算を行って調整操作量MV_BSを算出する(
図3ステップS117)。
MV_BS=(100/PB_B){1+(1/TI_Bs)+TD_Bs}
×(0−MV_CS) ・・・(7)
式(7)において、PB_Bは比例帯、TI_Bは積分時間、TD_Bは微分時間、sはラプラス演算子である。上記のとおり、制御偏差の演算部分は、操作量設定値SP_BS=0と合成操作量MV_CSとの差(0−MV_CS)となっている。
【0046】
調整操作量出力部53は、調整制御演算部52によって算出された調整操作量MV_BSを対応する副制御系のアクチュエータ7に出力する(
図3ステップS118)。
以上のようなステップS100〜S118の処理が、例えばオペレータからの指令によって制御が終了するまで(
図3ステップS119においてYES)、制御周期毎に繰り返し実行される。
【0047】
以上のように、本
参考例では、主制御部1−1〜1−nによって算出された操作量MV_A1〜MV_Anから操作量に係わる調整対象の変数である操作量系変数MV_C1〜MV_Cmを生成し、操作量系変数MV_C1〜MV_Cmと望ましい平衡点を示す操作量系設定値SP_C1〜SP_Cmとの差を正規化した値である正規化操作量MV_Ce1〜MV_Cemを算出することにより、各平衡点の差異を正規化し、正規化操作量MV_Ce1〜MV_Cemを合成して、合成操作量MV_CSに基づいて調整操作量MV_BSを算出して副制御系のアクチュエータに出力することにより、平衡点を望ましい値に調整することができる。したがって、操作量系変数MV_C1〜MV_Cmの一部として、各主制御系の操作量MV_A1〜MV_Anを設定すれば、主制御系が複数系統であり、副制御系が1系統のみというマルチループ制御系において、省エネルギーを実現することができる。
【0048】
同時に、本
参考例では、操作量系変数MV_C1〜MV_Cmの一部として、各主制御系の操作量MV_A1〜MV_Anの総和である総操作量を設定すれば、総操作量も含めた平衡点調整を実現することができ、各主制御系の望ましい操作量出力である第1の平衡点とは別に、総操作量のような第2の平衡点が存在するシステムに本発明を適用することができる。また、本
参考例では、各主制御系の望ましい操作量出力である第1の平衡点が共通しているものに限らず、これら第1の平衡点が異なるマルチループ制御系にも適用することができる。
【0049】
[
実施の形態]
次に、本発明の
実施の形態について説明する。
図4は本実施の形態に係るセントラル空調システムの構成を示すブロック図である。本実施の形態は、n=4個の主制御系である給気風量制御系と1個の副制御系である給気温度制御系とで構成されるセントラル空調システムに
参考例の協調動作装置を適用した例を示すものである。部屋400には、温度制御したいゾーン405−1〜405−4が4個あり、ゾーン405−1〜405−4毎に給気ダンパ402−1〜402−4(主制御系の給気風量アクチュエータ)が設けられている。空調機401は、副制御系の給気温度アクチュエータを構成している。
【0050】
主制御部1−1〜1−4は、各ゾーン405−1〜405−4に対して給気風量による室内温度制御を行なう。本実施の形態の主制御部1−1〜1−4の構成および動作(
図3ステップS100〜S103)は、
参考例においてn=4とした場合に相当するので、詳細な説明は省略する。室内温度の設定値SP_A1〜SP_A4は、建物管理者や室内居住者などによって設定され、各主制御部1−1〜1−4の設定値入力部10−1〜10−4を介して制御演算部12−1〜12−4に入力される。各ゾーン405−1〜405−4の温度PV_A1〜PV_A4(制御量)は、温度センサ403−1〜403−4によって個別に計測され、各主制御部1−1〜1−4の制御量入力部11−1〜11−4を介して制御演算部12−1〜12−4に入力される。4ゾーン共通の空調機401は、冷房の場合は指定された温度に給気を冷却し、暖房の場合は指定された温度に給気を加熱する。以下では、冷房の場合についてのみ説明する。
【0051】
空調機401から送り出された給気は、ダクト406を通って吹出口407−1〜407−4から各ゾーン405−1〜405−4に供給される。給気温度は、給気温度センサ404によって計測される。給気ダンパ402−1〜402−4は、主制御部1−1〜1−4から出力される操作量MV_A1〜MV_A4に応じて、各ゾーン405−1〜405−4に供給される給気の風量を調節する。空調機401は、操作量調整制御部5から出力される調整操作量MV_BSに応じて、空調機内部の熱交換機を流れる熱媒の量を調節することにより、給気温度を調節する。部屋400から戻される還気は、ダクト408および還気ダンパ409を通り、取入口410から導入された外気と混合されて空調機401に戻される。
【0052】
本実施の形態の操作量拡張部2の構成および動作(
図3ステップS104〜S106)は、
参考例においてn=4、m=5とした場合に相当する。各主制御系での制御可能な最低必要な操作量MV_A1〜MV_A4(給気風量)が、操作量系設定値SP_C1〜SP_C4に対応する操作量系変数MV_C1〜MV_C4、すなわち調整対象の第1の平衡点になる。操作量拡張部2の操作量系変数生成部21は、次式のように操作量系変数MV_C1〜MV_C4を生成する(
図3ステップS105)。
MV_C1=MV_A1 ・・・(8)
MV_C2=MV_A2 ・・・(9)
MV_C3=MV_A3 ・・・(10)
MV_C4=MV_A4 ・・・(11)
【0053】
操作量系設定値SP_C1〜SP_C4は、例えばSP_C1=10m
3/min.、SP_C2=11m
3/min.、SP_C3=12m
3/min.、SP_C4=13m
3/min.である。本実施の形態の例では、主制御系の操作量MV_A1〜MV_A4(給気風量)は、各主制御系の第1の平衡点の差を整理する程度で済むような同質のものとなる。操作量系設定値SP_C1〜SP_C4は、エネルギー効率と各ゾーンの風量の最低必要量等を考慮して予め決定されるが、操作量系設定値SP_C1〜SP_C4を決定する代表的な理由は、各ゾーンに広く給気が循環して冷暖房の効果を得ることである。
【0054】
一方、各主制御系の操作量MV_A1〜MV_A4(給気風量)の合計である総操作量(総風量)が、操作量系設定値SP_C5に対応する操作量系変数MV_C5、すなわち調整対象の第2の平衡点になる。操作量拡張部2の操作量系変数生成部21は、次式のように操作量系変数MV_C5を生成する(
図3ステップS105)。
MV_C5=MV_A1+MV_A2+MV_A3+MV_A4 ・・・(12)
【0055】
操作量系設定値SP_C5は例えば50m
3/min.である。したがって、総操作量(総風量)は、他の主制御系の操作量MV_A1〜MV_A4(給気風量)と比較した場合に、第1の平衡点と第2の平衡点の差を整理する程度で済むような同質のものではない。操作量系設定値SP_C5は、換気の都合などにより予め決定されるが、操作量系設定値SP_C5を決定する代表的な理由は、部屋400全体の二酸化炭素濃度が高くならないように換気することである。したがって、単純にSP_C1+SP_C2+SP_C3+SP_C4=SP_C5になるとは限らない。
【0056】
本実施の形態の正規化部3−1〜3−4の構成および動作(
図3ステップS107〜S110)は、
参考例においてm=5とした場合に相当するので、説明は省略する。
【0057】
本実施の形態のセレクタ4の構成および動作(
図3ステップS111〜S114)は、
参考例においてm=5とした場合に相当する。4個の主制御系の中で、最も不利な制御状態にあるものは、操作量MV_A1〜MV_A4が最小値を示すものである。よって、セレクタ4は、最小値選択部として機能すればよい。言うまでもなく、セレクタ4には、総操作量(総風量)を正規化した正規化操作量MV_Ce5も入力されるので、操作量MV_A1〜MV_A4を正規化した正規化操作量MV_Ce1〜MV_Ce4よりもMV_Ce5が小さい場合には、MV_Ce5が選択される。
【0058】
操作量調整制御部5の構成および動作(
図3ステップS115〜S118)は、
参考例と同じである。操作量調整制御部5によって算出された調整操作量MV_BSは、副制御系のアクチュエータである空調機401に出力される。主制御系の操作量MV_A1〜MV_A4を増加させるためには調整操作量MV_BSである給気温度を上昇させる必要があり、逆に主制御系の操作量MV_A1〜MV_A4を減少させるためには調整操作量MV_BSである給気温度を下降させる必要がある。一般的には、風量を少なくすれば、搬送動力を小さくすることができるので、省エネルギーに繋がることが知られている。
【0059】
次に、
図5(A)〜
図5(C)、
図6(A)〜
図6(C)に本実施の形態の効果を示すシミュレーション結果を示す。ここでは、主制御系の数をn=4、操作量系変数の数をm=5とし、ゾーン405−1〜405−4の温度PV_A1〜PV_A4を28℃から26℃へ降下させ、さらに26℃から25℃へ降下させた場合の数値をシミュレーションにより求めた。
【0060】
図5(A)〜
図5(C)は特願2013−020129で提案した協調動作装置の動作を示している。特願2013−020129で提案した協調動作装置は、本実施の形態の協調動作装置から操作量拡張部2と正規化部3−1〜3−5とを削除し、主制御部1−1〜1−4とセレクタ4との間に、操作量MV_A1〜MV_A4と操作量設定値(平衡点)との差である整理操作量を主制御系毎に算出する平衡点差整理部を設け、セレクタ4において4個の整理操作量を合成する構成に相当する。
【0061】
図5(A)は100秒において室内温度設定値SP_A1〜SP_A4=26℃のステップ入力が加わり、さらに1000秒において室内温度設定値SP_A1〜SP_A4=25℃のステップ入力が加わったときの温度PV_A1〜PV_A4(制御量)の変化を示し、
図5(B)はこれらのステップ入力時に主制御部1−1〜1−4から出力される操作量MV_A1〜MV_A4(給気風量)の変化を示し、
図5(C)は総操作量MV_T(総風量)を示している。
【0062】
特願2013−020129で提案した協調動作装置では、結果的に操作量MV_A1〜MV_A4(給気風量)の最低必要量10m
3/min.を維持することのみ行なわれる。室内温度設定値SP_A1〜SP_A4=26℃の時刻1000秒までは、整定状態での総操作量MV_T(総風量)がぎりぎりで50m
3/min.を超えている。一方、1000秒以降の室内温度設定値SP_A1〜SP_A4=25℃の状態では、各主制御系の操作量MV_A1〜MV_A4(給気風量)の最低必要量10m
3/min.を維持することで全体的に風量が減少し、整定状態での総操作量MV_T(総風量)が50m
3/min.未満になる。このように、特願2013−020129で提案した協調動作装置では、総操作量MV_T(総風量)の調整を考慮していないため、総操作量MV_Tを望ましい値に維持することができない。
【0063】
図6(A)〜
図6(C)は本実施の形態の協調動作装置の動作を示しており、
図6(A)は100秒において室内温度設定値SP_A1〜SP_A4=26℃のステップ入力が加わり、さらに1000秒において室内温度設定値SP_A1〜SP_A4=25℃のステップ入力が加わったときの温度PV_A1〜PV_A4(制御量)の変化を示し、
図6(B)はこれらのステップ入力時に主制御部1−1〜1−4から出力される操作量MV_A1〜MV_A4(給気風量)の変化を示し、
図6(C)は操作量系変数MV_C5(総風量)を示している。
【0064】
本実施の形態の協調動作装置では、総操作量を含む操作量系変数MV_C1〜MV_C5の最低必要量を維持することが行なわれる。室内温度設定値SP_A1〜SP_A4=26℃の時刻1000秒までは、整定状態での操作量系変数MV_C5(総風量)がぎりぎりで50m
3/min.を超えるので、結果的に操作量系変数MV_C1〜MV_C4(給気風量)の最低必要量10m
3/min.を維持する平衡点調整の動作になっている。一方、1000秒以降の室内温度設定値SP_A1〜SP_A4=25℃の状態では、操作量系変数MV_C1〜MV_C4(給気風量)の最低必要量10m
3/min.を維持することで全体的に風量が減少するので、整定状態での操作量系変数MV_C5(総風量)の最低必要量50m
3/min.を維持する平衡点調整の動作になっている。
【0065】
なお、本実施の形態では、操作量系変数MV_Cjとして、操作量MV_A1〜MV_A4(給気風量)と、操作量MV_A1〜MV_A4の合計である総操作量(総風量)のみを採用したが、これに限るものではなく、操作量系変数MV_Cjとして、例えば下記のような操作量MV_A1〜MV_A4(給気風量)の部分的加算量を追加することもできる。
MV_C6=MV_A1+MV_A2 ・・・(13)
MV_C7=MV_A3+MV_A4 ・・・(14)
【0066】
このような部分的加算量は、セントラル空調システムの例で言えば、中規模レベルの個別エリアの最低風量を確保しながら室温制御を行ないたい場合などに適用できる。この場合、個々の操作量MV_A1,MV_A2などが操作量系変数MV_Cjに含まれなくてもよい。すなわち、操作量系変数MV_Cjは、全て任意のものが選定可能である。
【0067】
なお、本実施の形態では、セントラル空調システムを例に挙げて説明したが、原理的には各主制御系の操作量とは別の平衡点を扱うような制御系であれば、空調に限らず本発明を適用可能である。
【0068】
参考例および実施の形態で説明した協調動作装置は、CPU、記憶装置及びインタフェースを備えたコンピュータと、これらのハードウェア資源を制御するプログラムによって実現することができる。CPUは、記憶装置に格納されたプログラムに従って
参考例および実施の形態で説明した処理を実行する。