(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
所定周期で周波数が変わる送信信号と、該送信信号に基づく送信波の物体での反射波を受信した受信信号との差分周波数から得られるピーク信号を前記送信信号の周波数が上昇する第1期間と周波数が下降する第2期間とで抽出する抽出手段と、
前記第1期間のピーク信号と、前記第2期間のピーク信号とを所定条件に基づきペアリングするペアリング手段と、
前記ピーク信号をペアリングしたペアデータに基づいて、物標の位置を含む物標情報を導出する導出手段と、
を備えるレーダ装置であって、
前記ペアリング手段は、ペアリングの対象となる前記第1期間のピーク信号、および、前記第2期間のピーク信号の複数のパラメータ値と、前記第1期間のピーク信号および前記第2期間のピーク信号とが正しい組み合わせでペアリングされた正常ペアデータの領域と、前記第1期間のピーク信号および前記第2期間のピーク信号とが誤った組み合わせでペアリングされたミスペアデータの領域とを区分して前記ペアリングの正誤を判別する判別関数とに基づいて、前記ペアデータのペアリングの正誤の程度を示す判別得点を算出し、前記ペアデータの前記判別得点が所定の得点範囲内となる場合に、今回の処理と時間的に連続する過去の処理で導出された前記物標の中に、前記判別関数を用いた判別結果の情報を有する今回の処理のペアデータと時間的に連続する関係を有する物標である過去連続物標が存在するか否かの情報を用いて、前記複数のペアデータの中から前記正常ペアデータを選択すること、
を特徴とするレーダ装置。
【発明を実施するための形態】
【0045】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施の形態について説明する。以下に示す実施の形態は例示であり、本願発明の技術的範囲をこれらに限定するものではない。
【0046】
<第1の実施の形態>
<1.構成等>
<1−1.車両全体図>
図1は、車両CRの全体図である。車両CRは本実施形態の車両制御システム10に含まれるレーダ装置1と、車両制御装置2とを主に備える。車両CRはレーダ装置1を車両前方のフロント部分に備えている。このレーダ装置1は、一回の走査で走査範囲SCの範囲を走査して、車両CRの進行方向に対応する車両CRと物標との距離である縦距離を導出する。また、レーダ装置1は車両CRの横方向に対応する車両CRと物標との距離である横距離を導出する。なお、横距離は車両CRに対する物標の角度の情報を用いて導出される。このように、レーダ装置1は車両CRに対する物標の縦距離および横距離を含む物標の位置を導出する。また、レーダ装置1は、車両CRの速度に対する物標の速度である相対速度を導出する。
【0047】
なお、
図1のレーダ装置1はその搭載位置を車両前方のフロント部分としているが、前方のフロント部分に限らず、後述する車両制御装置2の車両CRの制御目的に応じて物標を導出できる位置であれば、車両CRの後方フロント部分、および、車両CRの側方のサイドミラー等、他の搭載位置であってもよい。
【0048】
また、車両CRは、車両CRの内部に車両制御装置2を備える。この車両制御装置2は、車両CRの各装置を制御するECU(Electronic Control Unit)である。
【0049】
<1−2.システムブロック図>
図2は、車両制御システム10のブロック図である。車両制御システム10は、レーダ装置1と車両制御装置2とが電気的に接続され、主にレーダ装置1で導出された物標の位置および相対速度の物標情報を車両制御装置2に出力する。つまり、レーダ装置1は、車両CRに対する物標の縦距離、横距離、および、相対速度の情報である物標情報を車両制御装置2に出力する。そして、車両制御装置2が物標情報に基づき車両CRの各種装置の動作を制御する。また、車両制御装置2は、車速センサ40、および、ステアリングセンサ41などの車両CRに設けられる各種センサと電気的に接続されている。さらに、車両制御装置2はブレーキ50、および、スロットル51などの車両CRに設けられる各種装置と電気的に接続されている。
【0050】
ここで、レーダ装置1の車両CRの周辺に存在する物体の物標情報は次のように導出される。レーダ装置1は、周波数変調された送信信号に係る送信波を射出し、送信波が物標に反射することによって到来する反射波を受信信号として受信し、受信信号から物標情報を導出する。そして、レーダ装置1が導出した物標情報に基づき車両制御装置2は、ブレーキ50の操作、および、スロットル51の開度の調整を行うための制御信号などを車両各部に出力する。
【0051】
次にレーダ装置1の構成について説明する。レーダ装置1は、主に信号生成部11、発振器12、送信アンテナ13、受信アンテナ14、ミキサ15、AD(Analog to Digital)変換器16、および、信号処理部17により構成される。
【0052】
信号生成部11は、後述する送信制御部107の制御信号に基づいて、例えば三角波状に電圧が変化する変調信号を生成する。
【0053】
発振器12は、電圧で発振周波数を制御する電圧制御発振器であり、信号生成部11で生成された変調信号に基づき所定の周波数帯の信号(例えば、76.5GHzを中心周波数とする周波数帯の信号)を周波数変調し、送信信号として送信アンテナ13に出力する。
【0054】
送信アンテナ13は、送信信号に係る送信波を車両外部に出力する。本実施の形態のレーダ装置1は送信アンテナ13a、および、送信アンテナ13bの2本の送信アンテナを有している。送信アンテナ13a、および、13bは、切替部131のスイッチングにより所定の周期で切替えられ、発振器12と接続された送信アンテナ13から送信波が連続的に車両外部に出力される。
【0055】
切替部131は、発振器12と送信アンテナ13との接続を切替えるスイッチであり、送信制御部107の信号により送信アンテナ13a、および、送信アンテナ13bのいずれかの送信アンテナと発振器12とを接続する。
【0056】
受信アンテナ14は、送信アンテナ13から連続的に送信される送信波が物体に反射した反射波を受信する複数のアレーアンテナである。本実施の形態では、受信アンテナ14a(ch1)、14b(ch2)、14c(ch3)、および、14d(ch4)の4本の受信アンテナを備えている。なお、受信アンテナ14a〜14dのそれぞれのアンテナは等間隔に配置されている。
【0057】
ミキサ15は、各受信アンテナに設けられている。ミキサ15は、受信信号と送信信号とを混合する。そして、受信信号と送信信号との混合により送信信号と受信信号との両方の信号の差の信号であるビート信号が生成されて、AD変換器16に出力される。
【0058】
ここで、ビート信号を生成する送信信号と受信信号について、
図3を用いてFM−CW(Frequency Modulated Continuous Wave)の信号処理方式を例に説明する。なお、本実施形態では、以下にFM−CWの方式を例に説明を行うが、送信信号の周波数が上昇するUP区間と、送信信号の周波数が下降するDOWN区間のような複数の区間を組み合わせて物標を導出する方式であれば、このFM−CWの方式に限定されない。
【0059】
また、下記に記載の数式や
図3に示すFM−CWの信号とビート周波数についての各記号は以下に示すものである。f
r:距離周波数、f
d:速度周波数、f
o:送信波の中心周波数、△F:周波数偏移幅、f
m:変調波の繰り返し周波数、c:光速(電波の速度)、T:車両CRと物標との電波の往復時間、f
s:送信/受信周波数、f
b:ビート周波数、R:縦距離、V:相対速度、f
up:UP区間のビート周波数、f
dn:DOWN区間のビート周波数、θ
m:物標の角度、θ
up:UP区間のピーク信号に対応する角度、θ
dn:DOWN区間のピーク信号に対応する角度。
【0060】
<1−3.FM−CWの信号処理>
図3は、レーダ装置1の送信信号および受信信号を主に示す図である。
図3上図は、FM−CWの送信信号および受信信号の信号波形を示す図である。また、
図3下図は、送信信号と受信信号との差分周波数により生じるビート周波数を示す図である。
図3上図の横軸は時間、縦軸は周波数を示している。
図3上図の実線で示す送信信号は、所定周期で周波数が変化する性質を有しており、周波数が上昇するUP区間と、所定の周波数まで上昇した後に所定の周波数まで下降するDOWN区間とがある。そして、送信信号は、所定の周波数まで下降した後に再度所定の周波数まで上昇をするように一定の変化を繰り返す。また、受信信号は、送信アンテナ13から出力された送信波が物体にあたって反射した反射波となり、この反射波を受信アンテナ14が受信して
図3の破線で示すような受信信号となる。受信信号についても送信信号と同じようにUP区間とDOWN区間とが存在する。
【0061】
また、車両CRと物標との縦距離に応じて、送信信号に比べて受信信号に時間的な遅れ(T=2R/c)が生じる。さらに、車両CRと物標との間に速度差を有する場合は、送信信号に比べて受信信号が周波数fsの軸に平行にシフトする。このドップラーシフト分がfdとなる。
【0062】
図3下図は横軸を時間、縦軸を周波数として、UP区間の送信信号および受信信号の差分周波数、および、DOWN区間の送信信号および受信信号の差分周波数であるビート周波数を示す図である。
【0063】
ここで、車両CRに対する物標の縦距離は(1)式により導出され、車両CRに対する物標の相対速度は(2)式により導出される。また、車両CRに対する物標の角度は(3)式により導出される。そして、(3)式により導出された角度と物体の縦距離の情報から三角関数を用いた演算により、車両CRに対する物標の横距離が導出される。
【0066】
【数3】
図2に戻り、AD変換器16は、アナログ信号であるビート信号を所定周期でサンプリングして、複数のサンプリングデータを導出する。そして、サンプリングされたデータを量子化することで、アナログデータのビート信号をデジタルデータに変換して、デジタルデータを信号処理部17に出力する。なお、AD変換器16もミキサ15と同様に各受信アンテナに設けられている。
【0067】
信号処理部17は、CPU171、および、メモリ172を備えるコンピュータであり、AD変換器16から出力されたビート信号をFFT処理して周波数ごとの変換信号を生成し、複数の変換信号の中から所定の信号レベルの閾値を超えるピーク信号を抽出する。そして、信号処理部17は、UP区間のピーク信号とDOWN区間のピーク信号とをペアリングして複数のペアデータを生成し、複数のペアデータの中から正しい組み合わせでペアリングされたペアデータである正常ペアデータを選択する。なお、信号処理部17は複数のペアデータの中から正常ペアデータを選択する場合、ペアリングの対象のUP区間のピーク信号とDOWN区間のピーク信号との複数のパラメータ値と、ペアリングの正誤を判別する判別関数とを用いて正常ペアデータを選択する。以下では、信号処理部17がペアリング処理において正常ペアデータを選択する処理を詳細に説明する。
【0068】
<1−4.正常ペアデータの選択>
図4は、UP区間のピーク信号を示す図である。また、
図5は、DOWN区間のピーク信号を示す図である。
図4および
図5は横軸を周波数、縦軸を電力とし、FFT処理後の変換信号の波形を示している。
【0069】
信号処理部17は、
図4に示すUP区間の変換信号のうち所定の信号レベルの閾値shを超える信号をUP区間のピーク信号として抽出する。例えば、信号処理部17は閾値-32.55dBを超える信号をUP区間のピーク信号(ピーク信号Pu1、Pu2、Pu3、Pu4・・・・・Pun)として抽出する。なお、信号レベルは所定の電力を基準とし、その比率をdBを単位として示した値となる。
【0070】
また、信号処理部17は、
図5に示すDOWN区間の変換信号のうち閾値shを超える信号をDOWN区間のピーク信号として抽出する。例えば、信号処理部17は閾値-32.55dBを超える信号をDOWN区間のピーク信号(ピーク信号Pd1、Pd2、Pd3、Pd4・・・・・Pdm)として抽出する。
【0071】
次に、信号処理部17は一方の区間のピーク信号を基準ピーク信号として、基準ピーク信号と他の区間の全てのピーク信号とを個別にペアリングして複数のペアデータを生成する。例えば、信号処理部17は、
図5に示すDOWN区間のピーク信号(例えば、ピーク信号Pd1)を基準ピーク信号として、このピーク信号Pd1とUP区間の全てのピーク信号(ピーク信号Pd1、Pd2、Pd3、Pd4・・・・・Pdn)とのペアデータを個別に生成する。
【0072】
そして、信号処理部17は、生成された複数のペアデータのうち各ペアデータを構成するDOWN区間のピーク信号Pd1が有する複数のパラメータ値と、ペアリングの対象となったUP区間のピーク信号(例えば、ピーク信号Pu1)が有する複数のパラメータ値とを判別関数に代入して判別得点を算出する。この判別関数はペアリングの正誤を判別するためのものであり、判別得点はペアリングの正誤の程度を示す値であるが詳細は後述する。
【0073】
信号処理部17は、複数のペアデータの中から判別得点の最も高いペアデータを正常ペアデータとして選択する。このように、信号処理部17は、正常ペアデータの選択において一次関数である判別関数を用いて判別得点を算出する処理を行うことで、行列演算を用いてマハラノビス距離を算出する処理等と比べて、正常ペアデータ選択の精度を向上させ、かつ、ペアリング処理の処理時間を短縮できる。その結果、車両制御装置2の車両制御の精度が向上し、処理時間も短縮できる。
【0074】
そして、DOWN区間の一つのピーク信号であるピーク信号Pd1を基準ピーク信号とする正常ペアデータを選択が処理が終了した場合、次に信号処理部17はDOWN区間の他のピーク信号(例えば、ピーク信号Pd2)を基準ピーク信号としてUP区間の全てのピーク信号とのペアリングを行い、判別関数に基づいて正常ペアデータを選択する。このように信号処理部17はDOWN区間の全てのピーク信号(ピーク信号Pu1、Pu2、Pu3、Pu4・・・・・Pun)を順次基準ピーク信号としてペアデータの生成および正常ペアデータの選択を行う。なお、これまでの説明ではDOWN区間のピーク信号を基準ピーク信号としたが、UP区間のピーク信号を基準ピーク信号として、UP区間の各基準ピーク信号に対する全てのDOWNピーク信号をペアリングの対象としてもよい。
【0075】
なお、UP区間およびDOWN区間の各ピーク信号は、ピーク信号のパワー(以下、「ピークパワー」という。)、ピーク信号の位相情報に基づく角度(以下、「ピーク角度」という。)、ピーク信号の位相情報に基づきビームフォーマ法、Capon法等のアレーアンテナによる角度推定法によって得られる反射波の角度分布である角度スペクトラムパワー(以下、「角度パワー」という。)を有する。そして、信号処理部17が行う物標の角度推定方式によっては、1つのピーク信号から複数の物標の角度情報を分離できる場合がある。その場合1つのピーク信号は、複数の物標に対応するピークパワー、ピーク角度、角度パワーのパラメータを有する。例えば、DOWN区間のピーク信号Pd1とUP区間のPu1とがそれぞれ3つの物標情報を持つとすれば、UP区間のピーク信号Pu1は各物標ごとに3つのピーク信号に分離され、DOWN区間のピーク信号もPd1は各物標ごとに3つのピーク信号に分離される。そして、UP区間のピーク信号とDOWN区間のピーク信号との全ての組み合わせのペアデータが生成される。したがってUP区間およびDOWN区間の全てのピーク信号が3つの物標情報をもつとすれば、UP区間のピーク信号がn個、DOWN区間のピーク信号がm個であるため組み合わせは3n×3mとなる。
【0076】
さらに、UP区間のピーク信号とDOWN区間のピーク信号とで構成されるペアデータのパラメータは、例えば、次のような7つのパラメータを有する。詳細にはペアデータは、(i)UP区間のピークパワー、(ii)DOWN区間のピークパワー、(iii)ピークパワー差、(iv)UP区間の角度パワー、(v)DOWN区間の角度パワー、(vi)角度パワー差、および、(vii)角度差の7つのパラメータを有する。次にこの7つのパラメータを用いた判別関数の導出方法について説明する。なお、以下では、この7つのパラメータが7つの変数となって判別関数を構成するが、パラメータの数(変数の数)は一例であり、パラメータの数(変数の数)を変更してもよい。
【0077】
<1−5.判別関数の説明>
図6は、判別関数の導出方法を説明する図である。
図6上図および下図には横軸をUP区間のピークパワー、縦軸を角度差とするペアデータの2つのパラメータを軸とするグラフが示されている。そして、
図6上図は、ペアリングされたペアデータのうち正常ペアデータを丸印(●)、ミスペアデータを三角印(△)で示し、それぞれのペアデータの有するパラメータ値の座標位置に各印がプロットされている。なお、正常ペアデータ、および、ミスペアデータは、判別関数を算出するためにレーダ装置1を製造する前に試験的に導出される。
【0078】
ここで、正常ペアデータ、および、ミスペアデータのパラメータには次のような特徴がある。ペアデータのUPピークパワーが比較的大きい場合は、角度差があるときでも正常ペアデータとなる。具体的には、物標からの反射波の反射レベルが高い場合でも、その反射レベルに対応するUPピークパワーは、最大で約0dB以内のパワーとなり、その場合の角度差が約3deg以内のときにペアデータは正常ペアデータとなる。また、ペアデータのUPピークパワーが比較的小さい場合に対して角度差が比較的大きい場合は、ミスペアデータとなる。具体的には、UPピークパワーが-44dBと比較的パワーが低い場合に、その場合の角度差が約1.0degを超えるときはペアデータはミスペアデータとなる。このようにUPピークパワーおよび角度差は正常ペアデータとミスペアデータとを区分する条件を有しており、ペアデータの他のパラメータも正常ペアデータとミスペアデータとを区分する条件を有している。そして、これらの条件に基づいて算出された関数が判別関数となる。
【0079】
つまり、
図6下図に示すように、UPピークパワーと角度差のパラメータにおいて、正常ペアデータである丸印の群とミスペアデータである三角印の群とを区分けする境界線Fuが設けられ、境界線Fuを数式で示した判別関数がペアデータの正誤を判別する基準となる。境界線Fuは(4)式で示され、判別関数は(5)式で示される。そして、(5)式の判別関数がメモリ172の判別データ172aとしてレーダ装置1の製造時にメモリ172に記録される。なお、ピークパワーは所定の電力を基準とし、その比率をdBを単位として示した値となる。
【0081】
【数5】
ここで、(5)式の判別関数は、上述の7つのパラメータのうちの2つのパラメータ(UP区間のピークパワーと角度差)を変数(x
1およびx
2)とした関数であり、2つの変数(x
1、x
2)がそれぞれの係数(a
1,a
2)を有し、定数項a
0備える関数となっている。言い換えると、判別関数の係数や定数項は正誤の境界を示す境界線Fuの傾きや境界線Fuと縦軸との交点によって定まる。なお、パラメータの数を増加させた場合(例えば、2つのパラメータから3つ以上のパラメータに増加させた場合)は、それに伴い判別関数の係数および変数の数が増加する。例えば、7つのパラメータの場合は、7つの変数と係数とを有する(6)式となる。そして、判別関数から導出される値は正規化され判別得点として用いられる。
【0082】
【数6】
なお、以下の説明では、説明を簡略化させるために引き続き2つのパラメータ(2つの変数)に基づく説明を行う。
図7は、判別関数に基づく正常ペアデータの選択を説明する図である。
図7上図および
図7下図は、
図6と同様に横軸をUP区間のピークパワー、縦軸を角度差とするペアデータの2つのパラメータを軸とするグラフが示されている。
【0083】
図7上図は、判別関数に対応する境界線Fuにより区分される2つの領域を示している。つまり、
図7上図は、正常ペアデータの領域である正常領域STと、ミスペアデータの領域である誤り領域MIとのそれぞれの領域を示している。このため、信号処理部17によりペアリングされたペアデータのパラメータの値が境界線Fuよりも上側の誤り領域MIに含まれる場合は、ペアデータはミスペアデータの可能性がある。なお、この誤り領域MI内の座標位置に対応するパラメータ値を判別関数に代入した場合は、判別得点がマイナスの値となる。そのため、判別得点がマイナスの場合、ペアデータはミスペアデータの可能性が比較的高くなる。
【0084】
そして、ペアデータのパラメータの値が境界線Fuよりも下側の正常領域STに含まれる場合、ペアデータは正常ペアデータの可能性がある。なお、この正常領域ST内の座標位置に対応するパラメータ値を判別関数に代入した場合は、判別得点がプラスの値となる。そのため、判別得点がプラスの場合、ペアデータは正常ペアデータの可能性が比較的高くなる。また、判別得点が±0点の場合、ペアデータのパラメータに基づく座標位置は、境界線Fu上の座標位置となる。
【0085】
次に、
図7下図は、レーダ装置1の製造後の車両走行時に信号処理部17が導出したペアデータのパラメータ値を判別関数に代入した結果、ペアデータが正常領域ST、および、誤り領域MIのいずれの領域に属するかの例を示している。そして、
図7下図と、上述の(5)式の係数a
1およびa
2をa
1=+0.05、a
2=-1.0とし、定数項a
0をa
0=+3.0とした(7)式とを例に、各ペアデータの複数のパラメータと判別関数とに基づく正常ペアデータの選択について以下に説明する。
【0086】
【数7】
図7下図には、ペアデータPud1、Pud2、Pud3、および、Pud4の4つのペアデータが示されている。これらの複数のペアデータは、信号処理部17が
図4に示したDOWN区間のピーク信号Pd1とUP区間のピーク信号Pu1、Pu2、Pu3、および、Pu4とを個別にペアリングしたデータであり、DOWN区間のピーク信号Pd1とUP区間の全てのピーク信号とを個別にペアリングした複数のペアデータの一部を示すものである。そして、各ピーク信号のパラメータの値(Pud1:UPピークパワー−36dB、角度差2.5deg、Pud2:UPピークパワー−20dB、角度差1.8deg,Pud3:UPピークパワー−16dB、角度差1.5deg、Pud4:UPピークパワー−44dB、角度差4.0deg)から、ペアデータPud2、および、Pud3が正常領域ST内に含まれ、ペアデータPud1、および、Pud4が誤り領域MI内に含まれている。なお、上記2つのパラメータのうち角度差は絶対値で示されている。
【0087】
そして、信号処理部17は、各ペアデータの各パラメータの値を(6)式の判別関数の対応する変数に代入して、ペアデータのペアリングの正誤の程度を示す判別得点を導出する。その結果、ペアデータPud1〜Pud4は、判別得点が−1.3点(Pud1)、+0.2点(Pud2)、+0.7点(Pud3)、−3.2点(Pud4)となる。この判別得点は、上述のようにペアデータの座標位置が境界線Fuの線上となる場合の点数が±0点となり、点数が大きくなればなる程正常ペアデータである可能性が高くなり、点数が小さくなればなる程、誤りペアデータである可能性が高くなる。
【0088】
そのため、ペアデータPud1〜Pud4の複数のペアデータのうち最も判別得点の点数が高いペアデータPud3(+0.7点)が正常ペアデータである可能性が最も高くなり、信号処理部17はペアデータPud3を正常ペアデータとして選択する。このように、信号処理部17は、正常ペアデータの選択において一次関数である判別関数を用いて判別得点を算出する処理を行うことで、行列演算を用いてマハラノビス距離を算出する処理等と比べて、正常ペアデータ選択の精度を向上させ、かつ、信号処理部17の処理負荷を軽減できる。その結果、車両制御装置2の車両制御の精度が向上し、処理時間も短縮できる。また、定量的に正しい組み合わせのペアデータを選択できる。
【0089】
ここで、例えば、実験によりマハラノビス距離を用いて正常ペアデータを選択した場合と、判別関数を用いて正常ペアデータを導出した場合とにおいて、パラメータの数が3つ(例えば、ピークパワー差、角度差、角度パワー差)のときと、パラメータの数が7つ(例えば、(i)UP区間のピークパワー、(ii)DOWN区間のピークパワーピーク、(iii)ピークパワー差、(iv)UP区間の角度パワー、(v)DOWN区間の角度パワー、(vi)角度パワー差、および、(vii)角度差)のときとを比較する。その結果、パラメータの数が3つのときは、正常ペアデータをミスペアと判別する確率が41%であるのに対して、パラメータを増加させ7つとしたときは正常ペアデータをミスペアと判別する確率が15%(−26%)となり、ペアリングの正誤判別において大幅な改善がみられる。
【0090】
そして、7つのパラメータを用いるマハラノビス距離(行列演算)に基づいて正常ペアデータを導出した場合と比べて、同じ7つのパラメータを用いる判別関数(一次関数)により算出される判別得点基づいて正常ペアデータを導出した場合は、信号処理部17の処理時間は約1/8(12.5%)に減少する。このため、ペアリングの精度を向上させるためにパラメータの数を増加させた場合に、判別関数に基づいて正常ペアを導出することで、ペアリングの精度の向上と共に正常ペアデータの導出における信号処理部17の処理負荷が軽減され、その結果、車両制御装置2の車両制御の精度が向上し、処理時間も短縮できる。
【0091】
なお、他のペアデータに関して最も判別得点の点数の低いペアデータPud4(−3.2点)が、ミスペアデータの可能性が最も高いペアデータとなる。言い換えると、境界線Fuで区分けされるそれぞれの領域において、境界線Fuからの距離が離れれば離れるほど、その領域が示すペアデータの状態(正常ペアデータ、および、ミスペアデータのいずれかの状態)の可能性が高くなる。具体的には、ペアデータPud2とPud3は共に正常領域STに属するが、正常ペアデータの可能性はペアデータPud2よりもPud3が高い。また、ペアデータPud1とペアデータPud4とは共に誤り領域MIに属するが、ミスペアデータの可能性はペアデータPud1よりもPud4が高い。
【0092】
図2に戻りCPU171は、メモリ172に記録された各種プログラムに基づいて、各種の演算処理を行う。例えば、上述のペアリング処理において判別関数に基づく正常ペアデータを選択する処理を行う。
【0093】
メモリ172は、CPU171により実行される各種演算処理などの実行プログラムを記録する。また、メモリ172は、信号処理部17が導出した複数の物標情報を記録する。例えば、過去の処理、および、今回の処理において導出された物標情報(物標の縦距離、横距離、および、相対速度)を記録する。さらに、メモリ172は、ペアリング処理において用いる判別関数のデータである判別データ172aを記録する。
【0094】
送信制御部107は信号処理部17と接続され、信号処理部17からの信号に基づき、変調信号を生成する信号生成部11に制御信号を出力する。また送信制御部107は、信号処理部17からの信号に基づき、送信アンテナ13a、および、送信アンテナ13bのいずれかの送信アンテナと発振器12とが接続する切替部131に制御信号を出力する。
【0095】
車両制御装置2は、車両CRの各種装置の動作を制御する。つまり、車両制御装置2は、車速センサ40、および、ステアリングセンサ41などの各種センサから情報を取得する。そして、車両制御装置2は、各種センサから取得した情報、および、レーダ装置1の信号処理部17から取得した物標情報に基づき、ブレーキ50、および、スロットル51などの各種装置を作動させて車両CRの挙動を制御する。
【0096】
車両制御装置2による車両制御の例としては次のようなものがある。車両制御装置2は、車両CRの障害物への衝突に備え、車両CRの乗員を保護する制御を行う。詳細には、車両CRが障害物に衝突する危険性がある場合に、車両CRのユーザに対して図示しない警報器を用いて警告の表示を行ったり、車両CRのブレーキ50を制御して車両CRの速度を低下させるPCS(Pre-crash safety system)の制御を行う。さらに、車両制御装置2は車室内のシートベルトにより乗員を座席に固定、または、ヘッドレストを固定して衝突時の衝撃による車両CRのユーザへのダメージを軽減するPCS制御を行う。
【0097】
車速センサ40は、車両CRの車軸の回転数に基づいて車両CRの速度に応じた信号を出力する。車両制御装置2は、車速センサ40からの信号に基づいて、現時点の車両速度を取得する。
【0098】
ステアリングセンサ41は、車両CRのドライバーの操作によるステアリングホイールの回転角を検知し、車両CRの車体の角度の情報を車両制御装置2に送信する。
【0099】
ブレーキ50は、車両CRのドライバーの操作により車両CRの速度を減速させる。また、ブレーキ50は、車両制御装置2の制御により車両CRの速度を減速させる。例えば、車両CRと前方車両との距離を一定の距離に保つように車両CRの速度を減速させる。
【0100】
スロットル51は、車両CRのドライバーの操作により車両CRの速度を加速させる。また、スロットル51は、車両制御装置2の制御により車両CRの速度を加速させる。例えば、車両CRと前方車両との距離を一定の距離に保つように車両CRの速度を加速させる。
【0101】
<2.処理フローチャート>
<2−1.全体処理>
図8〜
図9は、信号処理部17が行う物標情報の導出の処理フローチャートである。信号処理部17は送信波を生成する指示信号を送信制御部107に出力する(ステップS101)。そして、信号処理部17から指示信号が入力された送信制御部107により信号生成部11が制御され、送信信号に対応する送信波が生成される。生成された送信波は、車両外部に出力される。なお、送信アンテナ13は送信信号における一のUP区間および一のDOWN区間を1周期とした場合に、1周期目に対応する送信波は一方の送信アンテナ13aから車両外部に出力され、2周期目に対応する送信波は他方の送信アンテナである送信アンテナ13bから車両外部に出力される。
【0102】
次に、送信波が物標に反射することによって到来する反射波を受信アンテナ14が受信し、反射波に対応する受信信号と送信信号とがミキサ15によりミキシングされ、送信信号と受信信号との差分の信号であるビート信号が生成される。そして、アナログ信号であるビート信号がAD変換器16によりデジタルデータに変換され、信号処理部17に入力される。
【0103】
信号処理部17は、デジタルデータのビート信号に対してFFT処理を行い(ステップS102)、変換信号を生成する。
【0104】
次に、信号処理部17は、FFT処理したUP区間およびDOWN区間の変換信号のうち閾値shを超える変換信号をピーク信号として抽出する(ステップS103)。なお、この処理でUP区間およびDOWN区間の各区間の全てのピーク信号が抽出され、UP区間およびDOWN区間のピーク信号数が確定する。
【0105】
そして、信号処理部17はUP区間およびDOWN区間のそれぞれの区間において、ピーク信号に基づいて角度演算を行う(ステップS104)。詳細には信号処理部17は、所定の角度導出処理のアルゴリズムによって物標の角度を導出する。例えば、角度導出処理のアルゴリズムは、ESPRIT(Estimation of Signal Parameters via Rotational Invariance Techniques)であり、各受信アンテナ14a〜14dにおける受信信号の位相差の情報から相関行列の固有値、および、固有ベクトル等が演算されて、UP区間のピーク信号に対応する角度θ
upと、DOWN区間のピーク信号に対応する角度θ
dnとが導出される。なお、UP区間およびDOWN区間の各ピーク信号がペアリングされた場合に、上述の(3)式により物標の角度が導出される。
【0106】
次に、信号処理部17はUP区間およびDOWN区間のピーク信号をペアリングし(ステップS105)、ペアリングされた複数のペアデータから判別関数に基づいて正常ペアデータを選択する。そして、信号処理部17は、正常ペアデータから上述の(1)式、および、(2)式に基づいて車両と物標との縦距離、および、相対速度の演算を行う(ステップS106)。ここで、ステップS105のペアリング処理の詳細な処理内容を
図10のフローチャートを用いて説明する。
【0107】
<2−2.ペアリング処理>
図10は、ペアリング処理における正常ペアデータ選択の処理フローチャートである。ペアリング処理において、最初に信号処理部17は、ペアリングの対象となるピーク信号の組み合わせを決定する(ステップS201)。具体的には、
図5に示したDOWN区間のピーク信号(ピーク信号Pd1)を基準ピーク信号として、
図4に示したUP区間の全てのピーク信号(ピーク信号Pu1〜Pun)を個別にペアリングの対象とする複数の組み合わせを決定する。
【0108】
次に信号処理部17は、メモリ172から判別データ172aを読み出し、判別データ172aの判別関数に対応する変数にピーク信号の複数のパラメータ(例えば、7つのパラメータ)の値を代入して判別得点を算出する(ステップS202)。
【0109】
そして、信号処理部17は判別得点に基づいて正常ペアデータが存在するか否かを判定する(ステップS203)。その結果、例えば、正常ペアデータであることの条件(判別得点の点数が正(プラス)の最も高い点数のペアデータである等)を満たすペアデータが存在する場合(ステップS203でYes)、当該条件を満たすペアデータを正常ペアデータとして選択する(ステップS204)。
【0110】
そして、信号処理部17は、UP区間のピーク信号とDOWN区間のピーク信号との全ての組み合わせに対して正常ペアデータの選択の処理が終了しているか否かを判定し(ステップS205)、処理が終了していない場合(ステップS205でNo)は、ステップS201のペアデータの組み合わせ決定の処理に戻り、DOWN区間の次のピーク信号(例えば、ピーク信号Pd1の次のピーク信号Pd2)を基準ピーク信号とし、UP区間の全てのピーク信号との組み合わせを決定する(ステップS201)。
【0111】
なお、ステップS205の処理において、全ての組み合わせに対して正常ペアデータの選択が終了している場合(ステップS205でYes)、信号処理部17は処理を終了する。このように、信号処理部17は、正常ペアデータの選択において一次関数である判別関数を用いて判別得点を算出する処理を行うことで、行列演算を用いてマハラノビス距離を算出する処理等と比べて、正常ペアデータ選択の精度を向上させ、かつ、信号処理の処理負荷を軽減できる。その結果、車両制御装置2の車両制御の精度が向上し、処理時間も短縮できる。
【0112】
ステップS203に戻り、正常ペアデータの条件を満たすペアデータが存在しない場合(ステップS203でNo)、信号処理部17は上述のステップS204の正常ペアデータの選択処理の終了後と同様に、ピーク信号の全ての組み合わせに対して正常ペアデータの選択の処理が終了しているか否かを判定し(ステップS205)、処理が終了していない場合(ステップS205でNo)は、ステップS201のペアデータの組み合わせ決定の処理に戻る。そして、ステップS205の処理において、全組み合わせに対して正常ペアデータの選択処理が終了している場合(ステップS205でYes)は、処理を終了する。
【0113】
次に、
図9のステップS107に戻り、信号処理部17は、今回の物標導出処理によりペアリングされたデータ(以下、「今回ペアデータ」という。)と、過去の物標導出処理により導出された物標情報に基づき、今回ペアデータを予測したデータ(以下、「予測ペアデータ」という。)との間に時間的に連続する関係が存在するか否かの判定処理を行う。そして、両者に時間的に連続する関係が存在する場合は、今回ペアデータと予測ペアデータとの間でフィルタリング処理を行い、フィルタリングされたペアデータ(以下、「過去対応ペアデータ」という。)を今回の処理の物標情報として導出する(ステップS107)。ここで、両者に時間的に連続する関係がある場合とは、例えば、今回ペアデータと予測ペアデータとの縦距離、横距離、および、相対速度における差の値が所定値以内の場合である。なお、所定値以内に複数の今回ペアデータが存在する場合、最も予測ペアデータとの差の値が小さい今回ペアデータが前回の処理の物標情報と時間的に連続する関係を有することとなる。
【0114】
そして、時間的に連続する関係(以下、「連続性」という)が両者に有る場合、つまり、判定処理の結果、今回ペアデータと前回処理の物標情報とに連続性がある場合、信号処理部17は、例えば、縦距離について予測ペアデータの縦距離に0.5の値の重み付けを行い、今回ペアデータの縦距離に0.5の値の重み付けを行って、両方の値を足し合わせたものを今回の物標導出処理の過去対応ペアデータの縦距離として導出する。なお、相対速度および角度についても予測ペアデータと今回ペアデータとの所定の重み付けの処理を行う。
【0115】
また、信号処理部17は、今回ペアデータと予測ペアデータとの縦距離、横距離、および、相対速度の差の値が所定値以内ではない場合、今回ペアデータと前回処理の物標情報とに連続性がないと判定する。そして、このように連続性がないと判定されたペアデータは今回の物標導出処理において初めて導出されたデータ(以下、「新規ペアデータ」)となる。なお、新規ペアデータの場合は、新規ペアデータの距離、相対速度、角度、および、信号レベルが今回の物標導出処理における一つの物標の距離、相対速度、角度、および、信号レベルの情報となる
次に、信号処理部17は、複数の物標情報に対して一つの物体に対応する物標情報にまとめる処理を行う(ステップS108)。これは、例えば、レーダ装置1の送信アンテナ13から送信波を射出した場合、送信波が前方車両に反射するとき、受信アンテナ14に受信される反射波は複数存在する。つまり、同一物体における複数の反射点からの反射波が受信アンテナ14に到来する。その結果、信号処理部17はそれぞれの反射波に基づき位置の異なる物標情報を複数導出するが、もともとは一つの物体(例えば、車両)の物標情報なので、各物標情報を一つにまとめて同一物体の物標情報として取り扱う処理が行われる。そのため、複数の物標情報の各相対速度が略同一で、各物標情報の縦距離および横距離が所定範囲内であれば、信号処理部17は複数の物標情報を同一物体における物標情報とみなし、当該複数の物標情報を一つの物標に対応する物標情報にまとめる結合処理を行う。
【0116】
そして、信号処理部17は、ステップS108の処理で結合処理された物標情報を車両制御装置2に出力する(ステップS109)。ここで、車両制御装置2には、複数回の物標導出処理における判定処理により所定回数以上の連続性を有する物標情報が出力される。例えば、複数回の物標導出処理の中で、3回の連続性を有する物標情報の出力フラグがON状態とされ、車両制御装置2に出力される。
【0117】
具体的には、例えば、時間的に連続して行われる5回の物標導出処理のうち1回目は、信号処理部17がある物体に対応する正常ペアデータを導出した場合を○印、導出していない場合を×印とする。そして、2回目以降は、信号処理部17がある物体と同一物体に対応する正常ペアデータを導出した(連続性あり)場合を○印、導出していない(連続性なし)場合を×印とする。
【0118】
このように時系列で5回の物標導出処理の正常ペアデータの導出状況をみた場合、1回目○→2回目○→3回目×→4回目×→5回目○のように、複数回の物標導出処理のうち連続性がない場合(例えば、3回目で同一物体に対応する正常ペアデータが導出されていない場合)を含むときでも、信号処理部17は次のように車両制御装置2への出力処理を行う。
【0119】
つまり、信号処理部17は、過去の物標導出処理(例えば、3回目を今回の物標導出処理とした場合の1回目および2回目の物標導出処理)で連続性があると判定された正常ペアデータについては、当該正常ペアデータと同一の物体に対応する正常ペアデータ(3回目の物標導出処理の正常ペアデータ)が導出されていなくとも、3回目の物標導出処理で正常ペアデータが導出されたものと仮定する処理(以下、「外挿処理」という。)を行う。
【0120】
この外挿処理により3回目の物標導出処理では、実際は正常ペアデータが導出されていない場合でも、信号処理部17が所定条件により擬似的な正常ペアデータを作り出す。その結果、3回目の物標導出処理では判定処理の結果が保留となる。つまり、2回目の物標導出処理の物標情報が、2回の連続性ありの状態を保ったまま次の物標導出処理の判定処理の結果によって、正常ペアデータの物標情報が車両制御装置2に出力されるか否かが決定される。
【0121】
なお、次の4回目も3回目と同様に判定処理の結果が保留となり(4回目×)、5回目の物標導出処理において、4回目の外挿処理により作り出された正常ペアデータと、5回目の物標導出処理で導出された正常ペアデータとが連続性を有する(5回目○)こととなる。そのため、同一物体の正常ペアデータが1回目、2回目、および、5回目の物標導出処理の結果、3回の連続性を有することとなり、当該正常ペアデータの物標情報が車両制御装置2に出力される。
【0122】
このように信号処理部17は、所定回数以上の連続性のある正常ペアデータの物標情報を車両制御装置2に出力する。しかし、複数回の物標導出処理の中では、車両CRおよび物標の少なくともいずれかが移動しているため、送信波が反射する物標の箇所によっては、物標からの反射波の受信レベルが一時的に低下して、前回の物標導出処理で導出されていた正常ペアデータが一時的に導出されない場合もある。このような場合も考慮して、車両制御装置2への出力条件として、例えば、レーダ装置1は、2回までの外挿処理を含めた3回の連続性がある条件(以下、「第1条件」という。)を満たす正常ペアデータの出力フラグをON状態とし、車両制御装置2への出力対象としている。なお、仮に5回目の物標導出処理で連続性がない(5回目:×)場合に外挿処理を行うと、外挿処理を3回行ったこととなり、車両制御装置2への出力条件である第1条件を満たさない。このため、6回目の物標導出処理で連続性がある(6回目:○)場合でも正常ペアデータの出力フラグはOFF状態となり、正常ペアデータの物標情報は車両制御装置2へ出力されない。
【0123】
<第2の実施の形態>
次に、第2の実施の形態について説明する。第2の実施の形態の車両制御システム10におけるレーダ装置1の信号処理部17は、今回の物標導出処理による複数のペアデータに対して、判別関数に基づいて正常ペアを選択する場合に、時間的に過去の物標導出処理により導出された物標情報も用いて正常ペアデータを選択する処理を行う。つまり、今回の処理と時間的に連続する過去の処理で導出された物標の中に、今回の処理のペアデータと時間的に連続する関係を有する物標(以下、「過去連続物標」という。)が存在する場合は、判別関数を用いた判別結果の情報(例えば、判別得点の情報)を有する今回の処理のペアデータ(以下、「判別後ペアデータ」という。)は正常ペアデータである可能性が高く、過去連続物標が存在しない場合は、判別後ペアデータはミスペアデータである可能性がある。そのため過去連続物標が存在する判別後ペアデータは、判別得点を+側に補正(加算)し、過去連続物標が存在しない判別後ペアデータは、判別得点を−側に補正(減算)する。これにより判別関数を用いただけでは正常ペアデータの選択が困難な場合でも過去の処理の物標情報に基づいて、より正確なペアリングが行える。
【0124】
このように信号処理部17は、過去の処理で導出された物標の中に過去連続物標が存在するか否かの情報を用いて、複数のペアデータの中から正常ペアデータを選択する処理を行う。第2の実施の形態の車両制御システム10の構成および処理は、第1の実施の形態とほぼ同様であるが、このように判別関数だけでなく過去連続物標の情報も用いて正常ペアデータを選択する点で異なる。以下、
図11および
図12を用いて相違点を中心に説明する。
<3.構成等>
図11は、判別関数に基づいて算出した判別得点と、判別後ペアデータの過去連続物標の存在の有無により修正した判別得点とを示す図である。詳細には、
図11の修正前得点の欄には、第1の実施の形態の
図7下図を用いて説明したペアデータPud1、Pud2、Pud3、および、Pud4の判別得点(ペアデータPud1:-1.3点、Pud2:+0.2点,Pud3:+0.7点、Pud4:-3.2点)が示されている。
【0125】
そして、
図11の修正後得点の欄には、信号処理部17が今回の物標導出処理で導出したペアデータPud1〜Pud4に対して、過去の物標導出処理で導出した物標情報のうち判別後ペアデータと時間的に連続する関係を有する過去連続物標が存在するか否かに応じて、判別得点を加減算した値が示されている。点数の加減算は例えば、過去連続物標が存在する場合は3.0点を加算し、過去連続物標が存在しないときは3.0点を減算する。
【0126】
例えば、判別後ペアデータであるペアデータPud1、および、Pud3には過去連続物標が存在し、判別後ペアデータであるペアデータPud2、および、Pud4には過去連続物標が存在しないとする。その結果、信号処理部17は、ペアデータPud1を-1.3点から+1.7点とし、ペアデータPud2を+0.2点から-2.8点とする処理を行う。また、信号処理部17はペアデータPud3を+0.7点から+3.7点とし、ペアデータPud4を-3.2点から-6.2点とする処理を行う。その結果、信号処理部17は最も判別得点の高いペアデータPud3を正常ペアデータとして選択する。
【0127】
図12は、過去連続物標の存在の有無に応じたペアデータの座標位置の変化の例を示す図である。
図12では、第1の実施の形態の
図7下図に示したペアデータPud1〜Pud4の各ペアデータに対して過去連続物標が存在するか否かに応じて、各ペアデータの座標位置の変化の例を示している。具体的には、過去連続物標が存在するペアデータPud1は、誤り領域MIから境界線Fuを超えて正常領域ST内に座標位置が変化している。その結果、誤った組み合わせでペアリングされた可能性のあるペアデータから、正しい組み合わせでペアリングされた可能性のあるペアデータへとペアリングの正誤に関するペアデータの状態が変化している。また、ペアデータPud1と同様に過去連続物標が存在するペアデータPud3は、正常領域ST内において、境界線Fuに対する距離が更に遠くなり、正常にペアリングされたペアデータである可能性をより高めている。
【0128】
これに対して、過去連続物標が存在しない、つまり、今回の処理で初めて検出された新規ペアデータであるペアデータPud2は、正常領域STから境界線Fuを超えて誤り領域MI内に座標位置が変化している。その結果、正しい組み合わせでペアリングされた可能性のあるペアデータから誤った組み合わせでペアリングされた可能性のあるペアデータへペアリングの正誤に関するペアデータの状態が変化している。また、ペアデータPud2と同様に過去連続物標が存在しないペアデータPud4は、誤り領域MI内において、境界線Fuに対する距離が更に遠くなり、誤った組み合わせでペアリングされたペアデータである可能性をより高めている。
【0129】
このように信号処理部17は、過去の処理で導出された物標の中に判別後ペアデータに対して時間的に連続する関係を有する物標である過去連続物標が存在するか否かに応じて、複数のペアデータから正常ペアデータを選択する。これにより、判別関数を用いただけでは正常ペアデータの選択が困難な場合でも過去処理の物標情報に基づいて、より正確なペアリングを行える。なお、この処理は第1の実施の形態の
図10で説明したペアリングの判別得点算出(ステップS202)処理で行われる。
【0130】
また、このような過去連続物標の存在の有無により判別得点を修正する処理は、ペアデータの判別得点が所定の得点範囲内(例えば、-1.0点から+1.0点まで)となる場合に行ってもよい。言い換えると境界線Fuの近傍の座標位置のペアデータに対してのみ過去連続物標の存在の有無により判別得点を修正する処理行うようにしてもよい。これにより、全てのペアデータに対して過去連続物標が存在するか否かの情報を用いて、正常ペアデータを選択する処理を行う場合と比べて、信号処理部17のペアリグ処理における処理負荷を軽減できる。
【0131】
なお、過去連続物標が存在しない新規ペアデータの場合は、ミスペアデータである可能性と、正常ペアデータである可能性の両方の可能性があるため、判別得点の−側の補正(減算)を行わないようにしてもよい。
<4.判別得点が所定の得点範囲内の場合の処理>
次に、信号処理部17がペアデータの判別得点が所定の範囲内となる場合に、過去連続物標が存在するか否かに応じて、複数のペアデータから正常ペアデータを選択する処理について、
図13および
図14を用いて説明する。
【0132】
図13および
図14は、判別得点が所定の得点範囲内の場合の正常ペアデータの選択処理のフローチャートである。そして、この
図13および
図14のフローチャートは、第1の実施の形態の
図10で説明したペアリング処理のフローチャートに対してステップS211およびステップS212を追加したものである。
【0133】
ステップS202において、信号処理部17は判別関数に基づいて判別得点を算出する。そして、信号処理部17は複数のペアデータの中に判別得点が所定の得点範囲内(-1.0点〜+1.0点)のペアデータが存在するか否かを判定する(ステップS211)。所定の得点範囲内とは、ペアデータが境界線Fuの近傍に位置し、正常ペアデータおよびミスペアデータのいずれのペアデータにもなり得る可能性がある得点範囲、換言すれば、正常ペアデータかミスペアデータかの判定に疑義が生じる可能性のあるボーダーラインとなる得点範囲である。即ち、境界線Fuの近傍の座標位置に存在するペアデータは、正常ペアデータおよびミスペアデータのいずれのペアデータにもなり得る可能性がありペアデータの状態が確定していないとして、信号処理部17は、判別後ペアデータ以外のデータ(過去の物標導出処理の物標情報)をも用いて、正常ペアデータおよびミスペアデータのいずれのペアデータであるかを判定する。
【0134】
そして、信号処理部17は、判別得点が所定の得点範囲内の場合(ステップS211でYes)は、判別得点を修正する処理を行う(ステップS212)。具体的には、信号処理部17は、ペアデータに対する過去連続物標が存在する場合は判別得点を3.0点加算し、ペアデータに対する過去連続物標が存在しない場合は判別得点を3.0点減算する。これにより、正しい組み合わせ、または、誤った組み合わせの可能性のあるペアデータをより定量的な情報に基づいて選択できる。そして、信号処理部17は、判別得点に基づいて第1の実施の形態と同様に最も高い正(プラス)の判別得点を有するペアデータが存在するか否かを判定する(ステップS203)処理等を行う。
【0135】
<第3の実施の形態>
次に、第3の実施の形態について説明する。第3の実施の形態の車両制御システム10におけるレーダ装置1の信号処理部17は、複数のペアデータに対して、判別関数に基づいて判別得点を導出する場合に、カメラ(後述する
図15に示すカメラ42)に撮影された撮影画像中の物体の像(以下、「物体像」という。)をも考慮して、正常ペアデータを選択する処理を行う。
【0136】
つまり、信号処理部17は、カメラ42により撮影された撮影画像中に判別後ペアデータに対応する物体像が存在するか否かの情報を用いて、複数の判別後ペアデータの中から正常ペアデータを選択する。これにより、判別関数を用いただけでは正常ペアデータの選択が困難な場合でも、レーダ装置1とは異なる別の装置の情報に基づいてより正確なペアリングが行える。第3の実施の形態の車両制御システムの10の構成および処理は、第1の実施の形態とほぼ同様であるが、上述のように判別関数だけでなくカメラ42で撮影された撮影画像中の物体像も用いて正常ペアデータを選択する点で異なる。以下、
図15〜
図18を用いて相違点を中心に説明する。
<5.構成等>
図15は、第3の実施の形態の車両制御システム10を示すものである。車両制御システム10の外部の構成には、カメラ42が設けられている。このカメラ42は、車両CRの前端(例えば、フロントバンパー近傍)に設けられ、その光軸は車両CRの直進方向に向けられる。カメラ42のレンズには例えば、魚眼レンズなどの広角レンズが採用され、所定の画角を有している。そして、このカメラ42が撮影した撮影画像が車両制御装置2に取得され、車両制御装置2が撮影画像中の物体像を画像認識し、物体像に対応する現実の物体の位置や相対速度などの情報を導出する。なお、車両制御装置2は、単一のレンズの一台のカメラであるカメラ42から画像を取得することを例に説明を行うが、複数のレンズのカメラから画像を取得してもよい。また、車両制御装置2は、複数台のカメラから画像を取得してもよい。
【0137】
図16は、カメラ42が撮影した撮影画像PTの例を示す図である。撮影画像PTには車線LAを走行する前方車両に対応する物体像である車両像91が表示されている。車両制御装置2は、撮影画像PTの車両像91を公知の手法により画像認識し、車両像91の画像上の位置から車両像91の進行方向の距離を導出する。例えば、車両制御装置2は、画素ごとに所定の距離が割り当てられた撮影画像PTにおいて、車両像91のリアバンパー近傍に位置する認識領域Knの下側のエッジReが、撮影画像PT中のどの座標位置に存在するかに応じて車両像91に対応する前方車両の距離を導出する。
【0138】
また、車両制御装置2は、車両像91の画像上の位置から車両像91の横方向の距離を導出する。例えば、車両制御装置2は、画素ごとに所定の距離が割り当てられた撮影画像PTにおいて、車両像91の一部である左右のリアタイヤ近傍に位置する認識領域Knの左側エッジWaと右側エッジWbとのそれぞれのエッジが撮影画像PT中のどの座標位置に存在するか応じて、車両像91に対応する前方車両の横方向の距離を導出する。
【0139】
なお、左右のエッジの画像上の位置が導出されることで、車両像91に対応する前方車両の横方向の距離は、この左右のエッジ間の距離に対応する特定の範囲を有することとなる。そのため、後述するレーダ装置1の信号処理部17が導出するペアデータに対応する物体像が存在するか否かの判定を行う場合、ペアデータの横距離がこの特定の範囲を有する横方向の距離範囲に含まれる場合、判別後ペアデータに対応する物体像が存在するか否かを判定する一つの条件を満たすこととなる。
【0140】
また、車両制御装置2は、時間的に連続する複数の撮影画像中の車両像91の座標位置の変化から前方車両の相対速度を導出する。
【0141】
そして、撮影画像中の車両CRの前方車両に対する車両進行方向の距離は、レーダ装置1の信号処理部17がペアリング処理により導出する物標の縦距離に対応し、撮影画像中の車両CRの前方車両に対する横方向の距離範囲は、信号処理部17がペアリング処理により導出する物標の横距離に対応する。また、前方車両の相対速度は、信号処理部17がペアリング処理により導出する相対速度に対応する。そして、上述の第2の実施の形態で説明したのと同様に、信号処理部17は、判別後ペアデータの縦距離、横距離、および、相対速度と略同一の値を示す物体像が撮影画像中に存在する場合は、その判別後ペアデータは正常ペアデータである可能性が高いため判別得点を加算する。また、信号処理部17は、判別後ペアデータの縦距離、横距離、および、相対速度と略同一の値を示す物体像が撮影画像中に存在しないときは、その判別後ペアデータはミスペアデータである可能性が高いため判別得点を減算する。
【0142】
つまり、カメラ42により撮影された撮影画像中に判別後ペアデータに対応する物体像が存在するか否かの情報を用いて、複数のペアデータの中から正常ペアデータを選択する。これにより、判別関数を用いただけでは正常ペアデータの選択が困難な場合でも、レーダ装置1とは異なる別の装置で導出した物体の存在の有無に応じて、正確なペアリングが行える。また、正しい組み合わせ、または、誤った組み合わせの可能性のあるペアデータをより定量的な情報に基づいて選択できる。なお、この処理は第1の実施の形態の
図10で説明したペアリング処理の判別得点算出(ステップS202)で行われる。
【0143】
<6.判別得点が所定の得点範囲内の場合の処理>
また、このような物標像の存在の有無により判別得点を修正する処理は、ペアデータの判別得点が第2の実施の形態で説明した所定の得点範囲内(例えば、-1.0点から+1.0点まで)となる場合に行ってもよい。言い換えると境界線Fuの近傍の座標位置のペアデータに対してのみ物体像の存在の有無により判別得点を修正する処理行うようにしてもよい。これにより、判別関数を用いた判別結果の情報を有するペアデータに対して常に物体像が存在するか否かに応じて、正常ペアデータを選択する処理を行う場合と比べて、信号処理部17のペアリグ処理における処理負荷を軽減できる。
<7.物体像の情報を用いたペアリング処理>
次に、判別後ペアデータの判別得点が所定の範囲内となる場合に、物体像が存在するか否かに応じて、複数の判別後ペアデータの中から正常ペアデータが選択される処理について、
図17および
図18を用いて説明する。なお、この処理は第2の実施の形態において
図13および
図14を用いて説明した処理と略同様であり、異なる点を中心に説明する。
【0144】
図17および
図18は、判別得点が所定の得点範囲内の場合の正常ペアデータの選択処理のフローチャートである。信号処理部17は複数のペアデータの中に判別得点が所定の得点範囲内(-1.0点〜+1.0点)のペアデータが存在するか否かを判定する(ステップS221)。
【0145】
次に、信号処理部17は、判別得点が所定の得点範囲内の場合(ステップS221でYes)は、判別得点を修正する処理を行う(ステップS222)。具体的には、信号処理部17は、車両制御装置2から撮影画像PT内に存在する物体像のデータを入手し、判別関数を用いた判別結果の情報を有するペアデータに対する物体像が撮影画像PT内に存在するか否かを判定する。
【0146】
そして、信号処理部17は判別後ペアデータに対応する物体像が存在する場合、判別得点を3.0点加算する。また、信号処理部17は判別後ペアデータに対応する物体像が撮影画像PT内に存在しない場合、判別得点を3.0点減算する。これにより、正しい組み合わせ、または、誤った組み合わせの可能性のあるペアデータをより定量的な情報に基づいて選択でき、正確なペアリングを行える。そして、信号処理部17は、判別得点に基づいて第1の実施の形態と同様に正しい組み合わせでペアリングされた正常ペアデータが存在するか否かを判定する(ステップS203)処理等を行う。
【0147】
<第4の実施の形態>
次に、第4の実施の形態について説明する。上述の第1の実施の形態では、複数のペアデータのうち判別得点が最も高いペアデータをUP区間のピーク信号とDOWN区間のピーク信号とが正しい組み合わせでペアリングされた可能性が最も高いペアデータとして説明した。しかし、複数のペアデータのうち判別得点が最も高いペアデータであっても、両区間のピーク信号の組み合わせが誤っているときがある。
【0148】
詳細には、判別関数に基づき判別得点が算出されるペアデータは、判別関数のパラメータ値であるUP区間のピークレベルと、DOWN区間のピークレベルとが比較的高い場合、他のパラメータ(例えば、ピークパワー差、UP区間の角度パワー、DOWN区間の角度パワー、角度パワー差、および、角度差)の判別得点への影響を含めても判別得点が比較的高い点数となる場合がある。そのため、両区間のピークレベルが比較的高い場合、両区間のピーク信号の組み合わせが誤っていても判別得点は比較的高い点数となり、当該ペアデータが正しい組み合わせでペアリングされたデータ(正常ペアデータ)として選択される可能性がある。
【0149】
また、複数のペアデータのうち判別得点が最も高いペアデータが誤り領域MIに含まれて判別得点がマイナスの値のときでも、両区間のピーク信号の組み合わせが正しい可能性がある。
【0150】
詳細には、判別関数に基づき判別得点が算出されるペアデータは、判別関数のパラメータ値であるUP区間のピークレベルと、DOWN区間のピークレベルとが比較的低い場合、他のパラメータの判別得点への影響を含めても判別得点が比較的低い得点となる場合がある。そのため、両区間のピークレベルが比較的低い場合、両区間のピーク信号の組み合わせが正しいときでも判別得点は比較的低い点数となり、当該ペアデータが誤った組み合わせでペアリングされたデータ(ミスペアデータ)と判別される可能性がある。
【0151】
そのため、第4の実施の形態では、信号処理部17が正常ペアデータとされたペアデータのUP区間のピーク信号のピークパワーと、DOWN区間のピーク信号のピークパワーとに基づいて、ペアデータの組み合わせの正誤を判別する境界である境界線Fu付近に所定範囲を有する低信頼領域を設定する。そして、信号処理部17は、正常ペアデータが低信頼領域の範囲に含まれる場合に、正常ペアデータの物標情報をレーダ装置1から車両制御装置2に出力する出力条件を変更する。以下では、第1の実施の形態との相違点を中心に詳細に説明する。
<8.構成等>
図19は、第4の実施の形態の車両制御システム1のブロック図である。
図19のメモリ172は、第1の実施の形態の(5)式に示した判別関数のデータである判別データ172aに加えて、信号処理部17が低信頼領域を設定する際に用いるデータである領域データ172bを記録する。
【0152】
次に、領域データ172bを用いた低信頼領域の設定について
図20〜
図23を用いて説明する。
図20は、領域データ172bの一例を示す図である。この領域データ172bは、平均ピークパワーと低信頼領域の範囲とのデータを有している。平均ピークパワーは、UP区間のピークパワーとDOWN区間のピークパワーとの平均の値であり、信号処理部17が(8)式により導出する。
【0153】
【数8】
そして、
図20には、平均ピークパワーに対応する低信頼領域の範囲が示されている。低信頼領域の範囲は、判別関数の境界付近に設けられる低信頼領域の広さを示すものである。具体的には、平均ピークパワーが−55dB未満〜−45dB以上の場合、低信頼領域の範囲は境界線Fuを±0としたときの−3.5以上0未満の幅を有する範囲となる。つまり、判別得点の絶対値3.5点分の幅を有する範囲が設定される。
【0154】
また、平均ピークパワーが−45dB未満〜―35dB以上の場合、領域の範囲は境界線Fuを±0としたときの−2以上+1未満の幅を有する範囲となる。つまり、判別得点の絶対値3点分の幅を有する範囲(例えば、後述する
図23に示す低信頼領域LTaの範囲)が設定される。
【0155】
さらに、平均ピークパワーが−35dB未満〜−25dB以上の場合、領域の範囲は、境界線Fuを±0としたときの+1以上+2.5未満の幅を有する範囲となる。つまり、判別得点の絶対値1.5点分の幅を有する範囲(例えば、後述する
図22に示す低信頼領域LTの範囲)が設定される。そして、低信頼領域の範囲を長方形の範囲とした場合に、領域の長さに相当する長辺は、UP区間のピークレベルおよび角度差の値に応じた長さとなる。また、領域の幅に相当する短辺は、平均ピークパワーが大きいほどその長さが短くなる。そして、平均ピークパワーが大きいほど低信頼領域の範囲は狭くなる。
【0156】
詳細には、低信頼領域の範囲は、平均ピークパワーが大きいほど、両区間のピーク信号の組み合わせの信頼度が高くなるため、その範囲は狭くなる。これにより、正常ペアデータの物標情報を早期に車両制御装置2に出力できる。言い換えると、平均ピークパワーが小さいほど、両区間のピーク信号の組み合わせの信頼度が低くなるため、その範囲は狭くなる。これにより、車両制御装置2への物標情報の出力を遅らせて正しい組み合わせでペアリングされたか否かの判定を正確に行える。
【0157】
次に、低信頼領域の範囲の設定について具体的に説明する。
図21は、判別関数に基づく正常ペアデータの選択を説明する図であり、第1の実施の形態で説明した
図7下図と同一の図である。
図21のペアデータPud1〜Pud4は、第1の実施の形態で説明したように、判別得点が−1.3点(Pud1)、+0.2点(Pud2)、+0.7点(Pud3)、−3.2点(Pud4)となる。この判別得点は、上述のようにペアデータの座標位置が境界線Fuの線上となる場合の判別得点が±0点となり、点数が大きくなる程(正常領域ST内で境界線Fuから離れる程)正常ペアデータである可能性が高くなり、点数が小さくなる程(誤り領域MI内で境界線Fuから離れる程)、誤りペアデータである可能性が高くなる。
【0158】
そのため、ペアデータPud1〜Pud4の複数のペアデータのうち最も判別得点の点数が高いペアデータPud3(+0.7点)が正常ペアデータである可能性が最も高くなり、信号処理部17はペアデータPud3を正常ペアデータとして選択する。
【0159】
次に、信号処理部17は正常ペアデータPud3のパラメータの値に応じた範囲を有する低信頼領域を設定する。
図22は、低信頼領域の範囲の設定の一例を説明する図である。信号処理部17は、正常ペアデータPud3のパラメータであるUP区間のピークパワーとDOWN区間のピークパワーとに応じて、境界線Fu付近に所定範囲を有する低信頼領域LTを設定する。ここで、正常ペアデータPud3のUP区間のピークパワーは、グラフの横軸の値から−16dBであり、DOWN区間のピークパワーが例えば−34dBとすると、平均ピークパワーは−25dBとなる。そして、信号処理部17は平均ピークパワー−25dBに対応する低信頼領域の範囲を領域データ172bから読み出し、境界線Fuを±0としたときの+1以上+2.5未満の幅を有する長方形の領域である低信頼領域LTを設定する。長方形の領域の短辺に相当する低信頼領域LTの幅は、領域幅SW1に示すように判別得点の絶対値1.5点分の幅となっている。また、長方形の領域の長辺は所定の長さであり、例えば、実際にピークパワーの値が導出される範囲(例えば、−60dB〜0dB)のうち、角度差0deg以上の範囲を含むような長さとなっている。
【0160】
そして、低信頼領域LTの設定により、正常ペアデータPud3が低信頼領域LTの範囲に含まれるため、信号処理部17は、正常ペアデータPud3の物標情報の出力条件を変更する。例えば、信号処理部17は、出力条件を2回までの外挿処理を含めた3回の連続性がある場合に、物標情報を車両制御装置2に出力する条件(第1条件)から、外挿処理を含まない3回の連続性のある条件(以下、「第2条件」という。)に変更する。つまり、信号処理部17は、1回目〜3回目の全ての物標導出処理における判定処理で連続性がある(1回目○→2回目○→3回目○)場合にのみ、車両制御装置2へ物標情報を出力する条件に変更する。これにより、誤った組み合わせでペアリングされた物標情報の出力を抑制し、正しい組み合わせでペアリングされた物標情報を早期に出力できる。
【0161】
また、正常ペアデータのパラメータの値に応じた範囲を有する低信頼領域LTを設定することで、正常ペアデータのUP区間のピーク信号とDOWN区間のピーク信号との組み合わせの信頼性に応じた低信頼領域の範囲を設定できる。
【0162】
なお、信号処理部17が車両制御装置2への物標情報の出力条件を第1条件から第2条件に変更することは、出力条件次のような条件とすることに相当する。正常ペアデータPud3が低信頼領域LTの範囲に含まれる場合は、正常ペアデータPud3が低信頼領域LTの範囲外のとき(例えば、正常ペアデータPud3の座標位置がUPピークパワー0dBおよび角度1degの位置となるような場合で、現在のPud3の位置よりも境界線Fuから更に離れている位置のとき)よりも車両制御装置2への出力を遅らせる条件とすることに相当する。
【0163】
そして、出力条件が第2条件の場合、3回目の物体導出処理における判定処理で連続性がないとき(3回目×)は、仮に4回目の判定処理で連続性があるとき(4回目○)でも、正常ペアデータPud3に基づく物標情報は、車両制御装置2に出力されることはない。その結果、この物標情報が車両制御装置2に出力されるのは、早くとも5回目および6回目の物標導出処理で連続性がある場合に限られる(4回目○→5回目○→6回目○)。これにより、レーダ装置1は、ペアリングの組み合わせに誤りの可能性のある正常ペアデータの正誤判定の精度を向上させられる。
【0164】
なお、信号処理部17は、
図20の領域データ172bのデータに示すように、正常ペアデータの平均ピークパワーが大きいほど低信頼領域の領域幅を狭くする。これにより、正常ペアデータのペアリングの信頼性の高い正常ペアデータを低信頼領域の範囲に含むことなく処理が行える。具体例を挙げると、仮に
図21において、ペアデータPud2、および、ペアデータPud3が存在しない場合、言い換えると、ペアデータが誤り領域MIに存在するペアデータPud1およびPud4のみの場合、信号処理部17は、判別得点がペアデータPud4(−3.2点)よりも高いペアデータPud1(−1.3点)を正常ペアデータとして選択する
このようにペアデータPud1が正常ペアデータとして選択された場合、
図23に示すように信号処理部17は、正常ペアデータPud1のパラメータであるUP区間のピークパワーとDOWN区間のピークパワーとに応じて、境界線Fu付近に所定範囲を有する低信頼領域LTaを設定する。
【0165】
図23は、低信頼領域の範囲の設定の別の例を説明する図である。ここで、正常ペアデータPud1のUP区間のピークパワーは、グラフの横軸の値から−36dBであり、DOWN区間のピークパワーが例えば−38dBとすると、平均ピークパワーは−37dBとなる。そして、信号処理部17は平均ピークパワー−37dBに対応する低信頼領域の範囲を領域データ172bから読み出し、境界線Fuを±0としたときの−2以上+1未満の幅を有する長方形の領域である低信頼領域LTaを設定する。長方形の領域の短辺に相当する低信頼領域LTaの幅は、領域幅SW2に示すように判別得点の絶対値3.0点分の幅となっている。また、長方形の領域の長辺は所定の長さであり、例えば、実際にピークパワーの値が導出される範囲(例えば、−60dB〜0dB)のうち、角度差0deg以上の範囲を含むような長さとなっている。
【0166】
なお、上述の低信頼領域LTおよび低信頼領域LTaが長方形の領域であることは、横軸をUPピークパワー、縦軸を角度差とする2次元の領域における一例の形状として説明した。ここで、判別関数はUPピークパワー、および、角度差を含む複数パラメータ(例えば、7つのパラメータ)の値から導出されるため、実際には、2次元以上の多次元(例えば、7次元)の領域において低信頼領域が設定される。そして、多次元において低信頼領域が設定される場合でも、2次元のときと同様に低信頼領域が設定される。つまり、
図22および
図23の例に示した2次元のときの長方形の領域の長辺が複数(2つ)のパラメータの値に基づき設定され、短辺が境界(境界線Fu)を±0としたときの判別得点に基づき設定されるのと同様に、多次元の場合も複数のパラメータの値と、境界を基準とした判別得点とに基づき、低信頼領域の範囲が設定される。
【0167】
そして、低信頼領域LTaの設定により、正常ペアデータPud1は低信頼領域LTaの範囲に含まれないため、信号処理部17は、正常ペアデータPud1に基づく物標情報の出力条件を変更しない。つまり、信号処理部17は、正常ペアデータPud1の物標情報を第1条件に基づき車両制御装置2に出力する。言い換えると、信号処理部17は出力条件を変更することなく、車両制御装置2に物標情報を出力する。
【0168】
このように、低信頼領域LTaと低信頼領域LTとを比べた場合、正常ペアデータの平均ピークパワーが大きいほど(例えば、平均ピークパワー−37dB(領域LTa)<−25dB(領域LT))低信頼領域の領域幅は狭くなる(領域幅3.0(領域LTa)>領域幅1.5(領域LT))。その結果、正常ペアデータの平均ピークパワーが大きいほど低信頼領域の範囲も狭くなる。
【0169】
<9.処理フローチャート>
<9−1.ペアリング処理>
次に、第4の実施の形態におけるペアリング処理について、
図24および
図25を用いて説明する。
図24および
図25は、第4の実施の形態のペアリング処理の処理フローチャートである。
図24の処理フローチャートは、第1の実施の形態で説明した
図10の処理フローチャートに、ステップS231〜ステップS235の処理を追加したものである。
【0170】
信号処理部17は、正常ペアデータの条件(判別得点の点数が正(プラス)の最も高い点数のペアデータである等)を満たすペアデータが存在する場合(ステップS203でYes)、当該条件を満たすペアデータを正常ペアデータとして選択する(ステップS204)。
【0171】
次に、信号処理部17は正常ペアデータ(例えば、正常ペアデータPud3)のパラメータの値に応じた範囲を有する低信頼領域を設定する(ステップS231)。具体的には、信号処理部17は、正常ペアデータのパラメータであるUP区間のピークパワーとDOWN区間のピークパワーとに応じて、境界線Fu付近に、所定範囲を有する低信頼領域を設定する。
【0172】
正常ペアデータが低信頼領域の範囲内の場合(
図25に示すステップS232でYes)、信号処理部17は、正常ペアデータが低信頼領域内のデータであることを示す低信頼フラグをON状態として(ステップS233)、ステップS234の処理を行う。なお、正常ペアデータが低信頼領域の範囲外の場合(ステップS232でNo)、信号処理部17は、UP区間のピーク信号とDOWN区間のピーク信号との全ての組み合わせに対して正常ペアデータの選択の処理が終了しているか否かを判定する(ステップS205)。
【0173】
ここで、正常ペアデータが低信頼領域の範囲外とは、正常ペアデータが正常領域ST内の場合に正常ペアデータの座標位置が、正常領域ST内に設けられた低信頼領域よりも境界線Fuから離れた位置にあることを意味する。このように正常領域ST内にある正常ペアデータの座標位置が、低信頼領域よりも境界線Fuから離れた位置にある場合は、正常ペアデータのUP区間およびDOWN区間のピークパワーも比較的大きくなり、組み合わせの信頼性が比較的高くなるため、正しい組み合わせでペアリングされたペアデータとして処理が行われる。
【0174】
ステップS234の処理に戻り、信号処理部17は、正常ペアデータが人に相当する物標のペアデータか否かを判定する(ステップS234)。ここで、人に相当する物標とは、例えば、歩行者等の人からの反射波に基づくピーク信号をペアリングした場合に導出される静止物相当の物標であり、人が歩く程度の速度を有する物標をいう。
【0175】
そして、ペアデータが人に相当する物標のペアデータの場合(ステップS234でYes)、信号処理部17は、正常ペアデータの低信頼フラグをON状態からOFF状態に変更する(ステップS235)。本来ならば、このように低信頼領域の範囲内にある正常ペアデータは、出力条件が第1条件から第2条件に変更されため、物標情報の車両制御装置2への出力が比較的遅れる。しかしながら、人に相当する物標の場合、信号処理部17は出力条件を変更することなく第1条件に基づいて物標情報の出力処理を行う。これにより、レーダ装置1は、人に相当する物標の物標情報を車両制御装置2に早期に出力できる。
【0176】
<9−2.判定処理>
次に、第4の実施の形態における物標情報の連続性の判定処理について
図26および
図27を用いて説明する。
図26および
図27は、第4の実施の形態の判定処理の処理フローチャートである。信号処理部17は、正常ペアデータ(例えば、正常ペアデータPud3)の縦距離が所定距離以上(例えば、70m以上)か否かを判定する。信号処理部17は、正常ペアデータの縦距離が70m以上の場合(ステップS301でYes)、正常ペアデータの低信頼フラグがON状態か否かを判定する(ステップS302)。
【0177】
正常ペアデータの低信頼フラグがON状態の場合(ステップS302でYes)、当該正常ペアデータは新規ペアデータとなる。このように所定距離以上離れている低信頼フラグがON状態の正常ペアデータは、次の物標導出処理で同一物体の正常ペアデータが導出されても、判定処理の対象とはしない。つまり、連続性の有無の判定を行わない。その結果、正常ペアデータの物標情報は車両制御装置2に出力されることはない。これにより、レーダ装置1は、出力が不要な物標の処理を行うことなく、処理負荷を軽減できる。なお、信号処理部17は、正常ペアデータの低信頼フラグがOFF状態の場合(ステップS302でNo)、ステップS303の処理を行う。
【0178】
上述のように正常ペアデータの縦距離が70m以上の場合(ステップS301でNo)、および、正常ペアデータの低信頼フラグがOFF状態の場合(ステップS302でNo)のいずれかの場合、ステップS303の処理が行われる。
【0179】
信号処理部17は、正常ペアデータと、前回の物標導出処理で導出された物標情報から正常ペアデータを予測した予測ペアデータとに時間的に連続する関係がある場合(ステップS303でYes)、正常ペアデータと予測ペアデータとをフィルタリングした過去対応ペアデータを導出する(ステップS304)。
【0180】
次に、信号処理部17は、過去対応ペアデータに対応する正常ペアデータの低信頼フラグがON状態か否かを判定する(
図27に示すステップS305)。信号処理部17は、正常ペアデータの低信頼フラグがON状態の場合(ステップS305でYes)、正常ペアデータの物標情報の出力条件を第1条件から第2条件に変更する(ステップS306)。
【0181】
そして、信号処理部17は、正常ペアデータが、第2条件を充足する場合(ステップS307でYes)、正常ペアデータの物標情報の出力フラグをON状態とする(ステップS308)。なお、正常ペアデータが第2条件を充足しない場合(ステップS307でNo)、処理を終了する。これにより、誤った組み合わせでペアリングされた物標情報の出力を抑制し、正しい組み合わせでペアリングされた物標情報を早期に出力できる。
【0182】
ステップS305の処理に戻り、正常ペアデータの低信頼フラグがOFF状態の場合(ステップS305でNo)、信号処理部17は、正常ペアデータが第1条件を充足するか否かを判定する(ステップS309)。信号処理部17は、正常ペアデータが第1条件を充足する場合(ステップS309でYes)、正常ペアデータの物標情報の出力フラグをON状態とする(ステップS308)。なお、正常ペアデータが第1条件を充足しない場合(ステップS309でNo)、処理を終了する。
【0183】
<変形例>
以上、本発明の実施の形態について説明してきたが、この発明は上記実施の形態に限定されるものではなく様々な変形が可能である。以下では、このような変形例について説明する。なお、上記実施の形態で説明した形態、および、以下で説明する形態を含む全ての形態は、適宜に組み合わせ可能である。
【0184】
上記実施の形態において、判別関数、判別得点、および判別得点に加減算する値等は全て一例であり、上記実施の形態に示した値以外の値を用いてもよい。
【0185】
また、上記実施の形態において、
図6下図に示す丸印の正常ペアデータと三角印のミスペアデータとの境界を示す境界線Fuは、正常ペアデータ、および、ミスペアデータの全てのデータを区分けするように設けられている。そして、
図7上図に示すように境界線Fuにより正常領域STと、誤り領域MIとの領域が設けられる。これに対して、一方の領域に他方のデータの一部が存在する場合でも、それぞれのデータの所定割合以上(例えば9割以上)が属するそれぞれの領域(正常領域ST、および、誤り領域MI)に分けられるときは、各領域を区分けするように境界線Fuを設けてもよい。つまり、境界線Fuで区分けした正常領域ST内に三角印のミスペアデータの一部が含まれてもよいし、誤り領域MIに丸印の正常ペアデータの一部が含まれてもよい。
【0186】
また、上記実施の形態において、カメラ42が撮影した撮影画像が車両制御装置2に入力され、車両制御装置2が物体の位置や相対速度の物体像情報の導出を行うとして説明したが、この物体像情報の導出はレーダ装置1の信号処理部17が行うようにしてもよい。つまり、カメラ42が撮影した撮影画像が信号処理部17に入力され、信号処理部17が物体像を画像認識し、物体像に対応する現実の物体の車両進行方向の距離や横方向の距離等を導出してもよい。
【0187】
また、上記実施の形態において、物標情報が出力される車両制御装置2は、レーダ装置1とは別の構成として説明したが、車両制御装置2がレーダ装置1に含まれる構成としてもよい。車両制御装置2がレーダ装置1に含まれる場合も物標情報は、レーダ装置1から車両制御装置2に出力される。
【0188】
また、上記実施の形態において、車両制御装置2は、PCSの制御を行うことを例に説明を行った。これに対して、車両制御装置2は別の制御を行ってもよい。例えば、車両CRが走行する車線内で、車両CRの前方を走行する前方車両を追従対象として走行する制御を行ってもよい。具体的には、車両制御装置2は、車両CRの走行に伴いブレーキ50、および、スロットル51の少なくとも一の装置を制御して、車両CRと前方車両との間で所定の車間距離を確保した状態で車両CRを前方車両に追従走行させる制御であるACC(Adaptive Cruise Control)の制御を行ってもよい。このように車両CRの制御内容が変化した場合、第4の実施の形態における物標情報の判定処理について、
図26に示したステップS301の縦距離が70m以上から、例えば150m以上等に条件が変更される。
【0189】
また、上記実施の形態において、出力条件である第1条件および第2条件の具体的な条件の内容は一例であり、別の条件であってもよい。つまり、第1条件は、所定の連続性を有する物標情報が早期に車両制御装置2に出力される条件であればよい。また、第4の実施の形態で説明した第2条件は、第1条件よりも物標情報の車両制御装置2への出力を遅らせて、ペアデータの組み合わせの正誤の判定の精度を向上させる条件であればよい。
【0190】
また、第4の実施の形態において、低信頼領域の範囲について、
図20等を用いて平均ピークパワーに対応した領域の範囲の一例を説明した。これに対して、低信頼領域の範囲は平均ピークパワーに対応した別の範囲であってもよい。
【0191】
また、上記の実施の形態において、レーダ装置1の角度方向推定はESPRITとして説明したが、これ以外にもDBF(Digital Beam Forming)、PRISM(Propagator method based on an Improved Spatial-smoothing Matrix)、および、MUSIC(Multiple Signal Classification)などのうちいずれか一のアルゴリズムを用いてもよい。
【0192】
また、上記実施の形態において、レーダ装置1は、車両に搭載する以外の各種用途(例えば、飛行中の航空機および航行中の船舶の監視の少なくともいずれか1つ)に用いてもよい。