(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明のレンズ成形型の一実施形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は、2つのレンズ10、20を光軸方向に当接させて重ね合わせることにより調芯を行ったレンズ群を示す光軸方向断面図である。同図に示すように、一方のレンズ10には、外周部に円錐台状のテーパ面13Aが形成され、他方のレンズ20には、外周部に逆円錐台状のテーパ面23Aが形成されている。テーパ面13Aとテーパ面23Aのそれぞれは、光軸15を中心に対称に設けられている。そして、これらレンズ10、20のテーパ面13A、23A同士を当接させることにより、レンズ10、20の軸が同軸となっている。
【0011】
図2は、本実施形態のレンズ成形型によりプレス成形されて製造されたガラスレンズ10の光軸方向断面図である。同図に示すように、ガラスレンズ10は、一方の面(
図1の上側の面、以下、上面という)が凹面であり、他方の面(
図1の下側の面、以下、下面という)が凸面のガラスレンズであり、
図1における上方側のレンズ10である。
【0012】
レンズ10は、集光または拡散などのレンズとしての機能を有する光学機能部11と、光学機能部11の径方向外周に形成された平坦部12と、平坦部12の径方向外周に形成されたレンズテーパ部13と、レンズテーパ部の径方向外周に形成されたコバ部14とを備える。
【0013】
光学機能部11は、上面11Aが球面状の凹状に形成されており、下面11Bが球面状の凸状に形成されている。平坦部12は、その上下面がともに平坦に形成されている。レンズテーパ部13は、上面が、平坦部12の上面に連続して平坦に形成されており、下面が円錐台形状に形成されている。コバ部14は、その上下面が平坦に形成されている。レンズテーパ部13は、光軸15を中心に対称に設けられている。コバ部14の端面16は自由表面となっている。自由表面は成形型が当接していないため、不定型の曲面となっている。また、コバ部14のテーパ部13の外周端(コバ部14の付け根)からの突出し量は、ガラスレンズの形状精度を向上させるとともにガラスプリフォーム(被成形体)の体積ばらつきを吸収するために、コバ部14の上面と下面間の距離をA1とすると、A1の2.0倍以下が好ましく、A1の1.5倍以下がより好ましく、A1の1.0倍以下がさらに好ましい。
【0014】
図3は、ガラスレンズ10をプレス成形するための成形型を示す鉛直断面図であり、
図4は成形型30の成形面近傍を拡大して示す鉛直断面図である。
図3に示すように、本実施形態の成形型30は、上型40と、下型50と、胴型60と、により構成される。上型40及び下型50は円柱状に形成されており、胴型60は円筒状に形成されている。上型40及び下型50は胴型60内に収容されており、上型40の下面と下型50の上面とが対向している。ガラスレンズを成形する際には、上型40と下型50との間にプリフォーム(被成形体)が配置される。この状態でプレス装置のプレスヘッドにより上型40をプレスすると、プレスヘッドは胴型60の上端部に当接する。このため、プレス時において、上型40の下面と下型50の上面とは所定の距離を開けて、離間している。プレス時に上型40の下面と下型50の上面とを離間させることにより、プレス後のガラスレンズの端面が自由表面となるため、ガラスプリフォームの体積ばらつきを吸収することができる。
【0015】
図4に示すように、上型40の下面には、下型50に向かって凸な球面状の光学機能部形成凸面56が形成されている。この光学機能部形成凸面56は、レンズ10の光学機能部11の上面11Aの凹状形状に対応している。上型40の下面の光学機能部形成凸面56の径方向外側には、外側環状面57が形成されている。この外側環状面57は、レンズ10の平坦部12、レンズテーパ部13、及びコバ部14の上面に対応している。
【0016】
下型50の上面には、凹部51が形成されており、凹部51の径方向外周には平坦な外側環状面55が形成されている。凹部51の底部には、上型40に向かって球面凹状の光学機能部形成凹面52が形成されている。この球面状の光学機能部形成凹面52の形状は、レンズ10の光学機能部11の下面11Bの球面形状に対応している。光学機能部形成凹面52の径方向外側には、平坦な内側環状面53が形成されている。この内側環状面53は、レンズ10の平坦部12の下面に対応している。内側環状面53の径方向外側には逆円錐台状のテーパ面54が形成されている。このテーパ面54は、レンズテーパ部13の下面に対応している。なお、テーパ面54はレンズの光軸を含む断面において、直線状を呈している。
【0017】
上述した通り、プレス時において上型40の下面と下型50の上面とは所定の距離を開けて、離間している。ここで、プレス時における上型40の外側環状面57と、下型50の外側環状面55との距離(以下、コバ厚という)をA1とし、上型40の光学機能部形成凸面56と、下型50の光学機能部形成凸面56の外縁における距離(以下、テーパ高さという)をA0とする。この場合に、本実施形態では、コバ厚A1/テーパ高さA0が1/3以下である。さらに、本実施形態では、A1の下限は、10〜50μmの間の値となっている。A1の上限は、成形されるレンズ形状により適宜調整される。また、テーパ面54の光軸に対する角度θ(以下、テーパ角という)は、10°〜30°の間の値となっている。
【0018】
本実施形態によれば、このように下型50に形成された凹部51において、光学機能部形成凹面52の外周にテーパ面54が設けられているため、ガラスレンズ10の光学機能部11の径方向外側に調芯のためのレンズテーパ部13を形成することができる。
【0019】
また、本実施形態によれば、コバ厚A1/テーパ高さA0が1/3以下であるため、プレス時に上型40の外側環状面57と下型50の外側環状面55との間の空間内に、ガラスプリフォームが侵入しにくくなる。このため、ガラスプリフォームが凹部51内で拘束され、プレス圧がガラスプリフォームに充分に加わり、成形型内に空隙が生じるのを防止し、ガラスレンズの高い形状精度を達成できる。
【0020】
さらに、ガラスレンズのコバ厚に対して、テーパ面を大きくとることができるため、他のレンズと重ね合わせて光学系を形成する際の調芯性を向上することができる。
【0021】
なお、本実施形態の成形型によれば、上述した通り、形状精度、調芯性が向上することを実験により確かめたので以下説明する。
本実験では、上述した成形型においてコバ厚A1/テーパ高さA0を1/4(実施例1)、1/3(実施例2)、1/2(比較例1)としてガラスレンズを成形した場合における、形状精度、調芯性、及び、応力集中によるクラック等の有無について実験を行った。
【0022】
図5は、本実験の結果を示す表である。同図に示すように、実施例1(A1/A0=1/4)及び実施例2(A1/A0=1/3)では、高い形状精度及び調芯性が達成された。また、ガラスレンズをプレス成形する際に、コバ部の付け根は、応力が集中しやすいため、クラックが発生しやすい。しかしながら、実施例1及び実施例2では、このようなクラックが発生することがなく、応力集中を緩和できていることがわかった。
【0023】
これに対して、比較例1(A1/A0=1/2)では、プレス時に上型40の外側環状面57と下型50の外側環状面55との間の空間内にガラスプリフォームが流出するため、プレス圧がガラスプリフォームに充分に伝わらず、形状精度が低下した。また、テーパ面の厚さが小さいため、他のレンズと重ね合わせて光学系を形成する際の調芯性も低下した。さらに、比較例1では、プレス成形する際に、コバ部の付け根にクラックの発生が確認された。
【0024】
以上の通り、本実験により、コバ厚A1/テーパ高さA0を1/3以下とすることにより、形状精度、調芯性が向上することが確認された。
【0025】
さらに、発明者らは、下型50に形成されたテーパ面54のテーパ角θが調芯性に及ぼす影響を検討するべく、コバ厚A1/テーパ高さA0が、1/5、1/4、1/3、1/2の各条件について、テーパ角θを10°、20°、30°、40°、50°、60°とした場合の調芯性を実験的に調べた。
図6は、各条件における調芯性を示す表である。
【0026】
同図に示すように、コバ厚A1/テーパ高さA0が1/5の場合には、全てのテーパ角(10〜60°)で、良好な調芯性が得られた。これに対して、コバ厚A1/テーパ高さA0が1/4の場合には、テーパ角が10〜50°では良好な調芯性が得られたものの、テーパ角が60°では調芯性が低下した。また、コバ厚A1/テーパ高さA0が1/3の場合には、テーパ角が10〜30°では良好な調芯性が得られたものの、テーパ角が40〜60°では、調芯性が低下した。さらに、コバ厚A1/テーパ高さA0が1/2の場合には、テーパ角が10〜50°では調芯性が低く、テーパ角が60°では、調芯性が不十分であった。
【0027】
上記の実験により、コバ厚A1/テーパ高さA0が1/5の場合には、テーパ角は10〜60°が好ましく、コバ厚A1/テーパ高さA0が1/4の場合には、テーパ角は10〜50°が好ましく、コバ厚A1/テーパ高さA0が1/3の場合には、テーパ角は10〜30°が好ましいことがわかった。
【0028】
なお、本実施形態では、一方の面が凸状に形成され、他方の面が凹状に形成されたガラスレンズをプレス成形する場合について説明したが、これに限らず、両方の面が凸状または凹状に形成されているガラスレンズであっても、本発明を適用することができる。
【0029】
図7は、レンズの両面に凸状の球面が形成されている実施形態における、成形型の成形面近傍を拡大して示す鉛直断面図である。
同図に示すように、上型140の下面には、球面凹状の光学機能部形成凹面156が形成されている。また、上型140の下面の光学機能部形成凹面156の径方向外側には、外側環状面157が形成されている。
【0030】
下型150の上面には、凹部151が形成されており、凹部151の径方向外周には平坦な外側環状面155が形成されている。凹部151の底部には、球面凹状の光学機能部形成凹面152が形成されている。光学機能部形成凹面152の径方向外側には、逆円錐台状のテーパ面154が形成されている。
【0031】
本実施形態の成形型によっても、
図4を参照して説明した実施形態と同様の効果が得られる。
【0032】
また、
図8は、レンズの両面に凹状の球面が形成されている実施形態における、成形型の成形面近傍を拡大して示す鉛直断面図である。
同図に示すように、上型240の下面には、球面凸状の光学機能部形成凹面256が形成されている。また、上型240の下面の光学機能部形成凹面256の径方向外側には、外側環状面257が形成されている。
【0033】
下型250の上面には、凹部251が形成されており、凹部251の径方向外周には平坦な外側環状面255が形成されている。凹部251の底部には、球面凸状の光学機能部形成凸面252が形成されている。光学機能部形成凸面252の径方向外側には、逆円錐台状のテーパ面254が形成されている。
【0034】
本実施形態の成形型によっても、
図4を参照して説明した実施形態と同様の効果が得られる。
【0035】
また、上記の各実施形態では、球面レンズについて説明したが、これに限らず、非球面のレンズにも本発明を適用できる。
【0036】
また、本実施形態では、2枚のレンズからなるレンズ群におけるレンズを成形する成形型について説明したが、これに限らず、3枚以上のレンズからなるレンズ群におけるレンズを成形する成形型についても本発明を適用できる。
【0037】
なお、上記の各実施形態に係る成形型を用いて、ガラスレンズを製造する製造方法としては、例えば以下の方法が挙げられる。
図3に示す成形型30において、下型50の凹部51内にガラスプリフォーム(不図示)を配置する。成形型30とともにガラスプリフォームを加熱し、ガラスプリフォームが例えば10
5〜10
9dPa・s程度の粘度になるように昇温する。その後、上型40を下降させ、適切なプレス荷重によりプレス成形する。
【0038】
また、ガラスプリフォームを10
5〜10
9dPa・sの粘度相当の温度に昇温させる一方、ガラスプリフォームの粘度で10
9〜10
12dPa・s相当の温度に成形型を昇温しておき、ガラスプリフォームを成形型30内に配置した後に、直ちにプレス成形するようにしてもよい。
【0039】
いずれの場合であっても、プレス成形開始後に冷却を開始し、光学機能部形成面51、56とガラスプリフォームの密着を維持しながら、10
13dPa・s程度の粘度相当の温度までガラスプリフォームを降温させた後に、上型40を上昇させてプレス荷重を解除し、成形体であるレンズの取り出しを行う。
【0040】
最後に、本実施形態を図等を用いて総括する。
本実施形態の成形型は、光学機能部と、光学機能部の周方向外方に形成されたレンズテーパ部と、を備えたガラスレンズをプレス成形するための上型40及び下型50を含むレンズ成形型であって、上型40及び下型50の対向面の外周には、プレス時に互いに対向する外側環状面55、57が形成され、下型50の対向面の外側環状面55の内周側には凹部51が形成され、凹部51は、光学機能部の表面形状に対応する光学機能部形成凹面52と、光学機能部形成凹面52の周方向外方に形成され、レンズテーパ部の表面形状に対応し、底部から頂部に向かって拡がるようなテーパ面54とを有し、プレス時における上型40及び下型50の対向面の外側環状面55、57における距離をA1とし、プレス時における上型40及び下型50の対向面の光学機能部形成凹面52の外縁における距離をA0とした場合に、A1/A0が1/3以下である。