(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6280345
(24)【登録日】2018年1月26日
(45)【発行日】2018年2月14日
(54)【発明の名称】回転変動吸収ダンパ
(51)【国際特許分類】
F16F 15/126 20060101AFI20180205BHJP
F16F 15/12 20060101ALI20180205BHJP
F16H 55/36 20060101ALI20180205BHJP
【FI】
F16F15/126 B
F16F15/12 S
F16H55/36 A
F16H55/36 H
【請求項の数】3
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2013-228025(P2013-228025)
(22)【出願日】2013年11月1日
(65)【公開番号】特開2015-86991(P2015-86991A)
(43)【公開日】2015年5月7日
【審査請求日】2016年10月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004385
【氏名又は名称】NOK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100071205
【弁理士】
【氏名又は名称】野本 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100179970
【弁理士】
【氏名又は名称】桐山 大
(72)【発明者】
【氏名】成田 信彦
(72)【発明者】
【氏名】関根 政勝
【審査官】
葛原 怜士郎
(56)【参考文献】
【文献】
特開2007−107637(JP,A)
【文献】
実開平04−049247(JP,U)
【文献】
特開平08−233033(JP,A)
【文献】
国際公開第2005/005865(WO,A1)
【文献】
特開2007−002916(JP,A)
【文献】
特開2007−132360(JP,A)
【文献】
特開2006−194262(JP,A)
【文献】
特開2004−108528(JP,A)
【文献】
特開2007−170476(JP,A)
【文献】
特開2014−211225(JP,A)
【文献】
欧州特許出願公開第01382886(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 15/12
F16F 15/126
F16H 55/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハブと、その外周側に配置された環状質量体との間に第一の弾性体が一体に接着され、
前記環状質量体に設けたスラストサポータに支持されたスラストベアリングにより軸方向変位が規制されると共に前記環状質量体に回転可能に支持されて外周面に複数のV溝を有するプーリと、前記環状質量体との間に第二の弾性体が一体に接着され、
前記環状質量体側と前記ハブ側との間に、前記ハブの基準面に対する前記プーリのV溝の軸方向位置を修正することができるように、前記環状質量体側と前記ハブ側とを軸方向両側へ相対移動可能とする圧入嵌合面を有する
ことを特徴とする回転変動吸収ダンパ。
【請求項2】
ハブが、第一の弾性体の内周側に接着されたスリーブと、このスリーブに圧入嵌合されたハブ本体からなり、軸方向両側へ相対移動可能な圧入嵌合面が、前記スリーブと前記ハブ本体との圧入嵌合面からなることを特徴とする請求項1に記載の回転変動吸収ダンパ。
【請求項3】
環状質量体及びスラストサポータが、第一の弾性体の外周側に接着されたスリーブの外周面に圧入嵌合され、軸方向両側へ相対移動可能な圧入嵌合面が、前記スリーブと前記環状質量体本体及び前記スラストサポータとの圧入嵌合面からなることを特徴とする請求項1に記載の回転変動吸収ダンパ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関等の回転機器に設けられてトルクを伝達すると共にその回転変動を吸収してベルト駆動を平滑化する回転変動吸収ダンパに関する。
【背景技術】
【0002】
回転変動吸収ダンパとして、従来から例えば
図3に示すようなものが知られている。この回転変動吸収ダンパは、自動車の内燃機関のクランクシャフトに設けられるクランクプーリとして使用されるものであって、不図示のクランクシャフトに取り付けられてこのクランクシャフトと一体的に回転するハブ100と、このハブ100の外周側に配置されたダイナミックダンパ部110及びカップリング部120を備える。
【0003】
ダイナミックダンパ部110は、ハブ100の外筒部101と、その外周に配置した環状質量体111を、第一の弾性体112を介して弾性的に連結した構造を有する。
【0004】
いっぽう、カップリング部120は、ハブ100の外筒部101にラジアルベアリング125を介して回転自在に支持されたプーリ121を、このプーリ121の軸方向一端から内径方向へ向けて延在された内向きフランジ部121aとハブ100の内筒部102に嵌着されたカップリングサポータ122の間に加硫接着された第二の弾性体123を介して弾性的に連結した構造を有する。また、ハブ100の内筒部102に嵌着されたスラストサポータ124とプーリ121の内向きフランジ部121aの間には、スラストベアリング126が介在されている。
【0005】
そしてこの回転変動吸収ダンパは、第一の弾性体112と環状質量体111で構成されるダイナミックダンパ部110が、所定の振動数域において円周方向へ共振することによる動的吸振効果によって、クランクシャフトの捩り振動のピークを低減すると共に、クランクシャフトからハブ100へ入力された駆動トルクを、カップリング部120における第二の弾性体123の円周方向剪断変形作用によって回転変動を吸収しながらプーリ121へ伝達し、このプーリ121に巻き掛けられたベルトの駆動を平滑化するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2012−202471号公報
【特許文献2】特開2007−107637号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ここで、プーリ121に巻き掛けられるベルトはVリブドベルトと呼ばれるものであって、プーリ121の外周面に形成された複数の平行V溝121bに圧接して駆動力伝達に必要な大きな摩擦力を得るための複数のリブがベルト駆動方向へ互いに平行に形成されている。クランクプーリの場合、不図示のクランクシャフトと軸方向に衝合するハブ100のボス部103における背面側(内燃機関側)の端面103aが、寸法精度の基準面となり、この端面103aからプーリ121のV溝121bまでの軸方向距離を高精度で規定している。
【0008】
しかしながらクランクプーリに回転変動吸収ダンパを採用した場合、回転変動吸収ダンパは構成部品が多く、各部品の寸法公差の積み重ねによって、ハブ100のボス部103の端面103aに対するプーリ121のV溝121bの軸方向位置精度を確保しにくい問題がある。すなわち、例えば
図3に示すような構成を備える従来の回転変動吸収ダンパの場合、ハブ100のボス部103とプーリ121との間に、スラストサポータ124及びスラストベアリング126が介在するため、これらの部材をハブ100に組み付ける際に、嵌合位置の公差のほかに、ハブ100のボス部103の寸法公差、スラストベアリング126の寸法公差、プーリ121の内向きフランジ部121aの寸法公差などが重なり、プーリ121のV溝121bの軸方向位置精度の悪化を招くことになる。
【0009】
そして、このようなプーリ121のV溝121bの軸方向位置精度によって、
図4に示すように、プーリ121とベルト200の間に軸方向に対するミスアライメントδがあると、プーリ121の回転とそれに伴うベルト200の走行において、ベルト200のリブ200aがV溝121bに咬み込まれて行く過程で、リブ200aがV溝121bの内側面に連続的に擦れ合ってスティック−スリップを生じ、ベルト駆動力の低下や異音の発生をきたすという問題がある。
【0010】
しかもこの種の回転変動吸収ダンパは、プーリ121のV溝121bの軸方向位置精度不良が、ハブ100のボス部103に対するスラストサポータ124の圧入の際の押し込み量不足に起因するものである場合、スラストサポータ124をさらに押し込むことでV溝121bの軸方向位置精度を修正することは可能であるが、押し込みすぎによる軸方向位置精度不良は、構造上修正不可能だった。
【0011】
本発明は、以上のような点に鑑みてなされたものであって、その技術的課題は、組み立てた後のプーリのV溝の軸方向位置精度不良を、容易に修正可能な回転変動吸収ダンパを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上述した技術的課題を有効に解決するための手段として、請求項1の発明に係る回転変動吸収ダンパは、ハブと、その外周側に配置された環状質量体
との間に第一の弾性体が一体に接着され、前記環状質量体に設けたスラストサポータに支持されたスラストベアリングにより軸方向変位が規制されると共に前記環状質量体に回転可能に支持され
て外周面に複数のV溝を有するプーリと、前記環状質量体
との間に第二の弾性体が一体に接着さ
れ、前記環状質量体側と前記ハブ側との間に、
前記ハブの基準面に対する前記プーリのV溝の軸方向位置を修正することができるように、前記環状質量体側と前記ハブ側を軸方向両側へ相対移動可能とする圧入嵌合面を有するものである。
【0013】
上記構成の回転変動吸収ダンパは、スラストサポータとスラストベアリングの嵌合公差や、スラストサポータ、スラストベアリング、プーリ、ハブの各寸法公差などが重なることによって、ハブに対するプーリのV溝の軸方向位置精度不良があった場合に、環状質量体側とハブ側とを、両者間に位置する圧入嵌合面で軸方向へ適宜相対移動させることによって、前記V溝の軸方向位置を修正することができる。
【0014】
請求項2の発明に係る回転変動吸収ダンパは、請求項1に記載された構成において、ハブが、第一の弾性体の内周側に接着されたスリーブと、このスリーブに圧入嵌合されたハブ本体からなり、軸方向両側へ相対移動可能な圧入嵌合面が、前記スリーブと前記ハブ本体との圧入嵌合面からなるものである。
【0015】
請求項3の発明に係る回転変動吸収ダンパは、請求項
1に記載の構成において、環状質量体及びスラストサポータが、第一の弾性体の外周側に接着されたスリーブの外周面に圧入嵌合され、軸方向両側へ相対移動可能な圧入嵌合面が、前記スリーブと前記環状質量体本体及び前記スラストサポータとの圧入嵌合面からなるものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る回転変動吸収ダンパによれば、ハブに対するプーリのV溝の軸方向位置精度不良があっても、これを修正することができるため、プーリとベルトの間での軸方向へのミスアライメントに起因するスティック−スリップや、これによるベルト駆動力の低下及び異音の発生を有効に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明に係る回転変動吸収ダンパの好ましい第一の実施の形態を、軸心Oを通る平面で切断して示す半断面図である。
【
図2】本発明に係る回転変動吸収ダンパの好ましい第二の実施の形態を、軸心Oを通る平面で切断して示す半断面図である。
【
図3】従来の技術に係る回転変動吸収ダンパの一例を、軸心Oを通る平面で切断して示す半断面図である。
【
図4】プーリとベルトの間で軸方向へのミスアライメントを生じている状態を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係る回転変動吸収ダンパの好ましい実施の形態を、
図1を参照しながら説明する。なお、以下の説明において「正面側」とは、図における左側であって車両のフロント側のことであり、「背面側」とは各図おける右側であって不図示の内燃機関が存在する側のことである。
【0019】
まず
図1は、本発明に係る回転変動吸収ダンパの第一の実施の形態を示すもので、図中の参照符号1は、不図示の自動車用内燃機関のクランクシャフトに取り付けられるハブである。このハブ1は、金属材料の鋳造により製作されたものであって、クランクシャフトの軸端が挿入されるボス部11と、このボス部11の正面側の端部から外径側へ延びる中間部12と、その外周から正面側へ向けてボス部11と同心の円筒状に延びる外周筒部13からなる。11aはボス部11の内周面に形成されたキー溝である。
【0020】
ハブ1の外周筒部13の外周面には、金属製のスリーブ14が圧入嵌合されている。このスリーブ14は単純な円筒状に形成されたものであって、このスリーブ14の軸方向両端と、ハブ1の外周筒部13の軸方向両端は軸方向両側(正面側及び背面側)へ開放されており、この実施の形態においては、前記外周筒部13とスリーブ14の圧入嵌合面10が、特許請求の範囲に記載された「環状質量体側とハブ側とを軸方向両側へ相対移動可能とする圧入嵌合面」に相当するものである。
【0021】
スリーブ14の外周側には環状質量体2が配置されており、この環状質量体2と前記スリーブ14は、第一の弾性体3を介して円周方向相対変位可能に弾性的に連結され、これによってダイナミックダンパ部Dが構成されている。
【0022】
詳しくは、環状質量体2は、慣性質量の大きいプーリ支持環21と、このプーリ支持環21に圧入嵌合されたカップリングサポータ22及びスラストサポータ23からなる。
【0023】
このうちプーリ支持環21は金属からなるものであって、スリーブ14と略同等の軸方向長さを有する内周筒部21aと、その正面寄りの位置から外径側へ展開した円盤部21bと、さらにこの円盤部21bの外径端部から背面側へ延びる外周筒部21cからなり、軸心Oを通る平面で切断した形状(図示の断面形状)が略コ字形をなす。
【0024】
また、カップリングサポータ22は金属板の打ち抜きプレス等によって製作されたものであって、プーリ支持環21の内周筒部21aにおける正面寄り(円盤部21b寄り)の外周面に圧入嵌合された取付筒部22aと、その正面側の端部から正面側へ倒れた円錐面状をなして展開した外向きフランジ部22bからなる。
【0025】
また、スラストサポータ23は金属板の打ち抜きプレス等によって製作されたものであって、プーリ支持環21の内周筒部21aにおける背面寄りの外周面に圧入嵌合された取付筒部23aと、その背面側の端部から円盤状に展開した支持フランジ部23bからなる断面略L字形をなす。
【0026】
第一の弾性体3は、EPDM(エチレンプロピレンゴム)などのゴム状弾性材料(ゴム材料又はゴム状弾性を有する合成樹脂材料)からなるものであって、ハブ1側のスリーブ14の外周面と、環状質量体2におけるプーリ支持環21の内周筒部21aの内周面に一体的に加硫接着されている。すなわちこの第一の弾性体3は、不図示の金型に、スリーブ14とプーリ支持環21を互いに同心的にセットし、型締めによってスリーブ14の外周面とプーリ支持環21の内周面との間に画成される環状のキャビティに、成形用ゴム材料を充填して加熱・加圧することによって、加硫成形と同時に前記スリーブ14の外周面及びプーリ支持環21の内周面に加硫接着したものである。
【0027】
ダイナミックダンパ部Dの捩り方向固有振動数は、第一の弾性体3のばね定数と、プーリ支持環21、カップリングサポータ22及びスラストサポータ23を含む環状質量体2の慣性質量によって、クランクシャフトの捩れ角が最大となる所定の振動数域、言い換えればクランクシャフトの捩り方向固有振動数と合致するように同調されている。
【0028】
参照符号4はプーリである。このプーリ4は金属からなるものであって、環状質量体2におけるプーリ支持環21の外周筒部21cに耐摩耗性に優れた低摩擦材料で円筒状に成形されたラジアルベアリング5を介して支持されたプーリ本体41と、その背面側の端部から環状質量体2におけるスラストサポータ23の支持フランジ部23bの正面側を内径側へ延びる内向きフランジ部42とからなる。プーリ本体41の外周面には互いに平行な複数のV溝41aが形成されており、不図示の無端ベルトが巻き掛けられるようになっている。
【0029】
環状質量体2におけるカップリングサポータ22の外向きフランジ部22bと、その背面側から軸方向に対向するプーリ4の内向きフランジ部42は、略円筒状に延びる第二の弾性体6を介して、円周方向相対変位可能に弾性的に連結されており、これによって、カップリング部Cが構成されている。
【0030】
第二の弾性体6は、EPDMなどのゴム状弾性材料からなるものであって、カップリングサポータ22の外向きフランジ部22bと、プーリ4の内向きフランジ部42に一体的に加硫接着されている。すなわちこの第二の弾性体6は、不図示の金型にカップリングサポータ22とプーリ4を同心的にセットし、型締めによってこのカップリングサポータ22の外向きフランジ部22bとプーリ4の内向きフランジ部42との間に画成されるキャビティに、成形用ゴム材料を充填して加熱・加圧することによって、加硫成形と同時に前記外向きフランジ部22bと内向きフランジ部42に加硫接着したものである。
【0031】
そしてこの第二の弾性体6は、クランクシャフトからハブ1及び第一の弾性体3を介して環状質量体2へ入力された駆動トルクを、円周方向剪断変形によって平滑化しながらプーリ4へ伝達するものである。そしてクランクシャフトのトルク変動は、アイドリング以下の低回転領域で大きくなるため、この第二の弾性体6は、ばね定数を極力低くすると共に捩り方向への許容変形量を極力大きくし、また十分なトルク伝達力を確保するため、軸方向及び径方向肉厚が十分に大きなものとなっている。また、カップリングサポータ22の外向きフランジ部22bが円錐面状をなすことによって、第二の弾性体6は軸方向肉厚が外周側ほど増大しており、このため環状質量体2とプーリ4の間で円周方向剪断変形を受けた時に、内周側と外周側とで歪応力がほぼ均一になるようになっている。
【0032】
環状質量体2におけるスラストサポータ23の支持フランジ部23bと、プーリ4の内向きフランジ部42との間には、スラストベアリング7が介在している。このスラストベアリング7は、ラジアルベアリング5と同じく耐摩耗性に優れた低摩擦係数の合成樹脂材料からなるものであって、平ワッシャ状に成形されている。
【0033】
また、当該回転変動吸収ダンパを組み立てる過程で、第二の弾性体6には、スラストベアリング7を介して押圧されるプーリ4の内向きフランジ部42と、カップリングサポータ22の外向きフランジ部22bとの間で、軸方向の適当な予圧縮が与えられている。
【0034】
以上の構成を備える回転変動吸収ダンパは、自動車用内燃機関のクランクシャフトの軸端に、ハブ1のボス部11が装着されることによって、このクランクシャフトと一体的に回転され、その駆動トルクを、プーリ4のプーリ本体41に巻き掛けられた不図示のベルトを介して補機の回転軸に伝達するものである。
【0035】
そして低回転域でクランクシャフトに顕著に発生する回転変動(回転速度の変動)は、ハブ1から第一の弾性体3を介して環状質量体2に伝達されるが、この環状質量体2におけるカップリングサポータ22の外向きフランジ部22bと、プーリ4の内向きフランジ部42との間を連結している第二の弾性体6は、第一の弾性体3に比較して円周方向剪断ばね定数が著しく低いため、入力された回転変動に応じて円周方向へ繰り返し剪断変形され、この回転変動を吸収する。このため、プーリ4のプーリ本体41に巻き掛けられたベルトとのスリップが防止される。
【0036】
また、ダイナミックダンパ部Dは、クランクシャフトの共振によって捩れ角が最大となる振動数域で円周方向に共振し、その共振によるトルクは、入力振動のトルクと方向が逆になる。そしてこのような動的吸振作用によって、クランクシャフトの共振による捩れ角のピークを有効に低減することができる。
【0037】
ここで、上記構成の回転変動吸収ダンパは、ハブ1とプーリ4との間に、スリーブ14、第一の弾性体3、プーリ支持環21、スラストサポータ23及びスラストベアリング7が介在するため、これらの部材の寸法公差や嵌合位置の公差などによって、プーリ4のV溝41aの軸方向位置精度の悪化を招く可能性があるが、このような場合、不図示の治具を用いて、ハブ1に対してスリーブ14を軸方向正面側もしくは背面側へ押圧して適宜相対移動させるか、あるいはスリーブ14に対してハブ1を軸方向正面側もしくは背面側へ押圧して適宜相対移動させることによって、圧入嵌合面10の外周側に配置された、スリーブ14からプーリ4までのすべての部材が、ハブ1に対して軸方向正面側もしくは背面側へ相対移動するため、ハブ1に対するプーリ4のV溝41aの軸方向位置を修正することができる。
【0038】
したがって、プーリ4とこれに巻き掛けられた不図示のベルトの間での軸方向へのミスアライメントに起因するスティック−スリップや、これによるベルト駆動力の低下及び異音の発生を有効に防止することができる。
【0039】
次に
図2は、本発明に係る回転変動吸収ダンパの第二の実施の形態を示すものである。この第二の実施の形態において、上述した第一の実施の形態と異なるところは、特許請求の範囲に記載された「環状質量体側とハブ側とを軸方向両側へ相対移動可能とする圧入嵌合面」が、第一の弾性体3より外周側に位置して設けられていることにある。
【0040】
詳しくは、ハブ1の外周筒部13の外周側には、金属製のスリーブ24が同心的に配置されている。このスリーブ24は単純な円筒状に形成されたものであって、ハブ1の外周筒部13と略同等の軸方向長さを有する。
【0041】
ハブ1の外周筒部13とスリーブ24の間には、EPDM(エチレンプロピレンゴム)などのゴム状弾性材料(ゴム材料又はゴム状弾性を有する合成樹脂材料)からなる第一の弾性体3が一体的に加硫接着されている。すなわちこの第一の弾性体3は、不図示の金型に、ハブ1とスリーブ24を互いに同心的にセットし、型締めによってハブ1の外周筒部13の外周面とスリーブ24の内周面との間に画成される環状のキャビティに、成形用ゴム材料を充填して加熱・加圧することによって、加硫成形と同時に前記外周筒部13の外周面及びスリーブ24の内周面に加硫接着したものである。
【0042】
環状質量体2は、スリーブ24と、その外周面に圧入嵌合された慣性質量の大きいプーリ支持環21及びスラストサポータ23と、プーリ支持環21に圧入嵌合されたカップリングサポータ22からなる。そしてこの環状質量体2がハブ1の外周筒部13に第一の弾性体3を介して円周方向相対変位可能に弾性的に連結されることによって、ダイナミックダンパ部Dが構成されている。
【0043】
プーリ支持環21は金属からなるものであって、スリーブ24の外周面における正面寄りの位置に圧入嵌合された内周筒部21aと、その正面寄りの位置から外径側へ展開した円盤部21bと、さらにこの円盤部21bの外径端部から背面側へ延びる外周筒部21cからなり、軸心Oを通る平面で切断した形状(図示の断面形状)が略コ字形をなす。
【0044】
また、カップリングサポータ22は金属板の打ち抜きプレス等によって製作されたものであって、プーリ支持環21の内周筒部21aの外周面に圧入嵌合された取付筒部22aと、その正面側の端部から正面側へ倒れた円錐面状をなして展開した外向きフランジ部22bからなる。
【0045】
また、スラストサポータ23は金属板の打ち抜きプレス等によって製作されたものであって、スリーブ24における背面寄りの外周面に圧入嵌合された取付筒部23aと、その背面側の端部から円盤状に展開した支持フランジ部23bからなる断面略L字形をなす。また、取付筒部23aにおける正面側の端部は、プーリ支持環21の内周筒部21aにおける背面側の端部と衝合している。
【0046】
スリーブ24の正面側の端部とプーリ支持環21の正面側の端部は、正面側へ開放されており、スリーブ24の背面側の端部とスラストサポータ23の背面側の端部は、背面側へ開放されており、スリーブ24とプーリ支持環21及びスラストサポータ23との圧入嵌合面20が、特許請求の範囲に記載された「環状質量体側とハブ側とを軸方向両側へ相対移動可能とする圧入嵌合面」に相当するものである。
【0047】
その他の部分は、基本的に第一の実施の形態と同様に構成することができる。
【0048】
以上の構成を備える第二の実施の形態の回転変動吸収ダンパも、第一の実施の形態と同様の効果を実現するものである。
【0049】
すなわち上記構成の回転変動吸収ダンパは、ハブ1とプーリ4との間に、第一の弾性体3、スリーブ24、スラストサポータ23及びスラストベアリング7が介在するため、これらの部材の寸法公差や嵌合位置の公差などによって、プーリ4のV溝41aの軸方向位置精度の悪化を招く可能性があるが、このような場合、不図示の治具を用いて、スリーブ24と、スラストサポータ23及びこれに軸方向に衝合したプーリ支持環21を、軸方向正面側もしくは背面側へ押圧して適宜相対移動させるか、あるいはスラストサポータ23及びプーリ支持環21に対してスリーブ24を、軸方向正面側もしくは背面側へ押圧して適宜相対移動させることによって、圧入嵌合面20の外周側に配置された、スラストサポータ23及びプーリ支持環21からプーリ4までのすべての部材が、ハブ1に対して軸方向正面側もしくは背面側へ相対移動するため、ハブ1に対するプーリ4のV溝41aの軸方向位置を修正することができる。
【0050】
したがって、プーリ4とこれに巻き掛けられた不図示のベルトの間での軸方向へのミスアライメントに起因するスティック−スリップや、これによるベルト駆動力の低下及び異音の発生を有効に防止することができる。
【符号の説明】
【0051】
1 ハブ
10,20 圧入嵌合面
14,24 スリーブ
2 環状質量体
21 プーリ支持環
22 カップリングサポータ
23 スラストサポータ
3 第一の弾性体
4 プーリ
5 ラジアルベアリング
6 第二の弾性体
7 スラストベアリング