(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記接合部は、該接合部の厚さD(μm)に対する前記複合粒子の平均粒径R(μm)の比R/Dが0.015以上0.4以下の範囲である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の接合体。
前記接合工程では、前記接合部の厚さD(μm)に対する前記複合粒子の平均粒径R(μm)の比R/Dが0.015以上0.4以下の範囲で前記積層体を作製する、請求項9〜11のいずれか1項に記載の接合体の製造方法。
前記接合工程では、前記第1部材と前記第2部材との熱膨張係数の差が4.0ppm/K以上である前記第1部材と前記第2部材とを用いる、請求項9〜12のいずれか1項に記載の接合体の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0011】
次に、本発明を実施するための形態を図面を用いて説明する。
図1は、本発明の一実施形態である接合体20の構成の概略の一例を示す説明図である。
図2は、接合体20Bの構成の概略の一例を示す説明図である。
図3は、酸化物セラミックスの多孔質セラミックスへの侵入深さを求める説明図である。
図1に示すように、本発明の接合体20は、多孔質のセラミックスからなる第1部材22と、金属からなる第2部材24と、複合粒子31が分散し第1部材22と第2部材24とを接合する遷移金属の酸化物セラミックスの接合部30と、を備えている。この接合体20では、接合部30が第1部材22の細孔23に入り込んだ構造を有している。あるいは、
図2に示すように、本発明の接合体20Bは、緻密材からなる第1部材22Bと、緻密材からなる第2部材24Bと、複合粒子31Bが分散し第1部材22Bと第2部材24Bとを接合する遷移金属の酸化物セラミックスの接合部30Bと、を備えている。即ち、第1部材及び第2部材は、多孔質材としてもよいし、緻密材としてもよい。また、接合体は、多孔質材と多孔質材とを接合したものとしてもよいし、多孔質材と緻密材とを接合したものとしてもよいし、緻密材と緻密材とを接合したものとしてもよい。以下、本実施形態の接合体について説明する。
【0012】
接合対象である第1部材又は第2部材は、多孔質セラミックスであるものとしてもよい。多孔質セラミックスは、多孔質であるセラミックスであれば特に限定されない。多孔質とは、その表面に開気孔を有するものであればよく、例えば、気孔率が10体積%以上であるものとしてもよく、20体積%以上が好ましく、40体積%以上であるものがより好ましい。また、簡便に作製する観点からは、気孔率は、90体積%以下であることが好ましい。多孔質セラミックスの気孔率は、その用途などに応じて適宜選択すればよい。この多孔質セラミックスの平均細孔径は、例えば、1μm以上300μm以下の範囲が好ましい。この範囲では、接合部の酸化物セラミックスが多孔質セラミックスの細孔内に侵入しやすく、より強固に接合することができる。この平均細孔径は、5μm以上がより好ましく、10μm以上が更に好ましい。また、この平均細孔径は、100μm以下がより好ましく、50μm以下が更に好ましい。なお、多孔質セラミックスの気孔率や平均細孔径は、水銀圧入法で測定した結果をいうものとする。
【0013】
この多孔質セラミックスは、例えば、炭化ケイ素、炭化チタン、炭化ジルコニウム、炭化ホウ素などの炭化物、窒化珪素、窒化アルミニウム、窒化チタン、窒化ジルコニウムなどの窒化物、サイアロンなどの酸窒化物、ケイ化モリブデンなどのケイ化物、リン酸ジルコニウムなどから選択される1以上の無機材料を含んで形成されているものとしてもよい。また、多孔質セラミックスは、例えば、コージェライト、ムライト、ゼオライト、チタン酸アルミニウム、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化ケイ素及び酸化マグネシウムなどから選択される1以上の無機材料を含んで形成されているものとしてもよい。多孔質セラミックスの形状は、特に限定されないが、その用途に応じて選択することができ、例えば、板状、円筒状、ハニカム状などが挙げられ、流体が流通可能な構造であるものとしてもよい。具体的には、この多孔質セラミックスは、流体の流路となる複数のセルを形成する隔壁部を備えたハニカム構造体であるものとすることが好ましい。この多孔質セラミックスは、金属部材と接合される場合には、例えば、導電性を有するものとしてもよい。この場合、多孔質セラミックスは、SiCと、SiCを結合するSiとを含み、このSiCとこのSiとにより細孔が形成されている複合材料であるものとすることが好ましい。このSi結合SiCセラミックスでは、導電性を有するため、例えば、電極としての金属部材を接合することがあり、本発明を適用する意義が高い。
【0014】
接合対象である第1部材又は第2部材は、緻密材であるものとしてもよい。緻密材は、気孔率の低い緻密な部材であれば特に限定されず、例えば、金属部材としてもよいし、緻密なセラミックスとしてもよい。緻密材は、例えば、気孔率が5体積%以下であるものとしてもよく、1体積%以下が好ましく、0.5体積%以下であるものがより好ましい。金属部材は、典型金属、遷移金属など、金属からなるものであれば特に限定されないが、例えば、導電性の高いものが好ましい。遷移金属では、Fe、Co、Ni、Cuなどの金属及び合金が好ましい。また、用途に応じては、Pt、Auなどの貴金属を用いるものとしてもよい。この金属部材は、電極であるものとしてもよく、この場合、Cr−Ni−Fe系合金(SUS304)やCr−Fe系合金(SUS430)などのステンレス鋼などが好適に用いられる。この金属部材は、少なくともFeとCrとを含む合金であることが好ましく、少なくともFeが70質量%以上90質量%未満であり、Crが10質量%以上30質量%未満の合金であることがより好ましい。材質的に安定であり、導電性が良好だからである。金属部材の形状は、板状など、用途に応じて適宜選択することができる。緻密なセラミックスとしては、例えば、上記多孔質セラミックスで挙げた材質のいずれかを緻密に焼結したものとしてもよいし、多孔質セラミックスの気孔に充填材や含浸材などを充填した部材としてもよいし、複数種の金属を含む複合酸化物部材としてもよい。充填した部材としては、具体的には、多孔質のSiCの気孔に金属Siを含浸させたSi含浸SiC焼結体などが挙げられる。この材料では、熱伝導性がよく、且つ金属Siにより導電性がよい。また、複合酸化物部材としては、例えば、LaCrO
3基材料やBaTiO
3基材料、LaMnO
3基材料、LaCoO
3基材料、NaCoO
4基材料、Ca
3Co
4O
9基材料、LaNiO
3基材料、SrTiO
2基材料などの導電性セラミックス材が挙げられる。なお、「基材料」とは、例えば、アルカリ金属元素、アルカリ土類金属及び価数の異なる元素により一部が置換された材料をも含む趣旨である。具体的には、LaMnO
3基材料では、(La
0.9Sr
0.1)MnO
3などである。これらの材料は、燃料電池(例えばSOFC)用材料、熱電素子材料及びセンサ材料などに用いることができる。
【0015】
本発明の接合部は、1以上の遷移金属を含む酸化物セラミックスからなり第1部材と第2部材とを接合するものである。導電性を有する第1部材と導電性を有する第2部材とを接合する場合、遷移金属酸化物は導電性を有するため、接合部に好ましい。遷移金属としては、例えば、Fe、Co、Ni、Mn、Cu、Ti、V、Zr、Nb、Mo、Ta、Wから選ばれる1以上を含むことが好ましく、Fe、Ni、Mn、Cuなどが、より好ましい。例えば、酸化物セラミックスは、Fe
2O
3や、NiO、MnO
2、CuOのうち1以上であるものとしてもよい。この酸化物セラミックスは、その用途に応じて、導電性を有していてもよいし、導電性を有していないものとしてもよい。例えば、第1部材と第2部材とを固定するのみであれば、酸化物セラミックスは導電性を有していなくてもよい。また、導電性を有する第1部材と第2部材とを接合する際には、酸化物セラミックスは導電性を有するものとする。ここで、「導電性を有する」とは、電気伝導率が10
-6S/cm以上であるものをいうものとし、「導電性を有しない」とは、例えば、電気伝導率が10
-6S/cm未満であるものをいうものとする。
【0016】
本発明の接合部には、酸化物セラミックスに比して高いヤング率及び低い熱膨張係数(CTE)を有する、接合部に複合させる複合粒子(添加粒子)が分散している。この複合粒子は、例えば、酸化物セラミックスに対して50%以上高いヤング率を有していることが好ましく、100%以上高いヤング率を有していることがより好ましい。この複合粒子は、例えば、酸化物セラミックスに対して5%低い熱膨張係数を有していることが好ましく、20%低い熱膨張係数を有していることがより好ましい。このように、高ヤング率で低熱膨張係数を有してると、強固な接合部を形成することができる。この複合粒子は、高ヤング率及び低熱膨張係数を有していれば特に限定されないが、例えば、SiC、Al
2O
3、Si
3N
4、ZrO
2(部分安定化ジルコニアも含む)、ムライトのうちいずれか1以上であるものとしてもよい。このうち、SiCやAl
2O
3などが好ましい。具体的には、酸化物セラミックスがFe
2O
3であるときに、複合粒子がSiCやAl
2O
3であることが好ましい。なお、Fe
2O
3はヤング率が120〜150GPa程度であり、室温から800℃での熱膨張係数が11〜14ppm/K程度である。また、SiCはヤング率が350〜450GPa程度であり、熱膨張係数が4〜4.5ppm/K程度である。また、Al
2O
3はヤング率が250〜400GPa程度であり、熱膨張係数が6.5〜8.0ppm/K程度である。複合粒子は、例えば、平均粒径Rが1μm以上100μm以下の範囲であることが好ましい。この範囲では、接合部の強度をより向上することができ、好ましい。複合粒子は、平均粒径Rが5μm以上60μm以下の範囲であることがより好ましく、10μm以上30μm以下の範囲であることが更に好ましい。原料粒子の平均粒径は、レーザ回折/散乱式粒度分布測定装置を用い、水を分散媒として測定したメディアン径(D50)をいうものとする。
【0017】
本発明の接合部は、接合部の厚さD(μm)に対する複合粒子の平均粒径R(μm)の比R/Dが0.015以上0.4以下の範囲であることが好ましい。この比R/Dがこの範囲では、接合強度をより高めることができ、好ましい。接合部は、例えば、その厚さDが10μm以上500μm以下の範囲で形成されているものとしてもよいし、50μm以上350μm以下の範囲で形成されているものとしてもよい。厚さDが10μm以上では、接合部が十分存在し接合性をより高めることができる。また、厚さDが500μm以下では、接合部がより十分酸化するため接合性をより高めることができる。また、接合部は、複合粒子が接合部全体のうち5体積%以上60体積%以下の範囲で含まれていることが好ましい。この範囲では、接合強度をより高めることができ、好ましい。この複合粒子の含有量は、10体積%以上50体積%以下の範囲で含まれていることがより好ましく、15体積%以上40体積%以下の範囲で含まれていることが更に好ましい。
【0018】
本発明の接合部は、多孔質セラミックスである第1部材と第2部材との間に介在し、多孔質セラミックスの細孔内に侵入し、この多孔質セラミックスと第2部材とを接合する酸化物セラミックスとしてもよい。この酸化物セラミックスが多孔質セラミックスの細孔に侵入する構造を有すると、接合強度をより高めることができ好ましい。この酸化物セラミックスが多孔質セラミックスの細孔に侵入した深さ(侵入深さ)は、10μm以上であることが好ましい。接合強度をより高めることができるからである。この侵入深さは、15μm以上であることがより好ましく、20μm以上であることが更に好ましい。また、この侵入深さは、50μm以下の範囲であることが好ましい。この侵入深さの測定方法について説明する。
図3に示すように、多孔質セラミックスである第1部材22、第2部材24及び酸化物セラミックスである接合部30が同時に観察できる断面を鏡面研磨する。この研磨した面を電子顕微鏡(SEM)により200倍の倍率で観察し、微構造写真を撮影する。次に、撮影した画像において、第2部材24の下端の線と平行な線を、多孔質セラミックスの最上部に接するように引く。この線を基準線(
図3の一点鎖線)とし、侵入深さ0とする。次に、基準線を6等分し、これに直交する直線を5本引き、測定線(
図3の線(1)〜(5))とする。基準線と測定線の交点を始点とし、酸化物セラミックスの下端と交わった点を終点とし、この長さを5本の測定線について測定する。撮影した倍率に応じたこれら5本の長さを求め、その平均を侵入深さとする。
【0019】
この接合部において、第1部材又は第2部材と、酸化物セラミックスとの界面の反応層は、3.0μm以下であることが好ましく、1.0μm以下であることがより好ましく、0.1μm以下であることが更に好ましい。第1部材と第2部材とを接合部で接合する接合処理を行う際に、加熱を行うと、第1部材及び/又は第2部材と、酸化物セラミックスとが反応し、複合相が生成することがある。このような複合相を含む反応層はできる限り少ない方が好ましく、この反応層は存在しないことが、更に好ましい。この反応層の厚さは、
図3に示した侵入深さの測定と同様に行うことができる。具体的には、接合体の断面を3000倍の倍率でSEM−EDXにて観察し、この画像の界面を5等分する界面に垂直な垂線(測定線)を5本引き、界面に生成した反応層の下限と上限と、測定線の交点との間の長さを測定し、5カ所の平均を反応層の厚さとする。
【0020】
本発明の接合部は、その気孔率が90体積%以下であることが好ましく、50体積%以下であることがより好ましく、30体積%以下であることが更に好ましい。酸化物セラミックスは、緻密体である方が接合強度の観点からは、より好ましい。この接合部は、その気孔率が5体積%以上であることが好ましく、10体積%以上であることがより好ましく、20体積%以上であることが更に好ましい。酸化物セラミックスは、気孔を有する方が応力緩和の面からは、より好ましい。また、第1及び第2部材が多孔質セラミックスである場合、接合部は、酸化物セラミックスが細孔内に侵入した侵入部とこの侵入部以外の部分である非侵入部とを含む。この非侵入部の気孔率は、60体積%以下であることが好ましく、50体積%以下であることがより好ましく、30体積%以下であることが更に好ましい。酸化物セラミックスは、緻密体である方が、接合強度の観点からは、より好ましい。この気孔率の下限は0体積%である。また、侵入部の酸化物セラミックスの気孔率は、50体積%以下であることが好ましい。多孔質セラミックスに侵入した酸化物セラミックスは、それ以外の接合部に比してより緻密であることが、接合強度の観点からは、より好ましい。この多孔質セラミックスの細孔内部に侵入した酸化物セラミックスの気孔率は、30体積%以下であることがより好ましく、20体積%以下であることが更に好ましい。この気孔率の下限は0体積%である。この酸化物セラミックスの気孔率の算出方法を説明する。上述のようにSEMにより撮影した微構造写真の画像を画像解析ソフトを用いて画像解析することにより、酸化物セラミックスの気孔率を求めるものとする。まず、接合部のうち酸化物セラミックスが細孔内に侵入していない非侵入部の場合、微構造写真から、接合部のうち面積0.5×10
-6m
2の部分を任意に選択し、二値化処理を行い、細孔と酸化物セラミックスとの像を区別する。二値化処理を行う条件は、得られた画像に応じて、適宜設定するものとし、例えば経験的に求めた値を用いるものとする。この二値化処理した画像により、酸化物セラミックスとその細孔とを分離し、その面積比を算出することで気孔率とする。なお、この断面の面積比は、体積比にほぼ相当するものとして気孔率(体積%)とする。また、接合部のうち酸化物セラミックスが細孔内に侵入している侵入部の場合、微構造写真から、上述した基準線と多孔質セラミックスとに挟まれた範囲のうち接合部を含む領域を、合計面積が1.5×10
-8m
2となるよう任意に選択し、二値化処理を行い、細孔と酸化物セラミックスとの像を区別する。そして、上記非侵入部と同様に、この二値化処理した画像により、酸化物セラミックスとその細孔とを分離し、その面積比を算出することで気孔率とする。なお、緻密体である第1及び第2部材を接合した接合体では、非侵入部及び侵入部を区別することなく、上述した画像解析により、酸化物セラミックスの気孔率を求めるものとする。
【0021】
本発明の接合部において、酸化物セラミックスは、酸化前の体積Xに対する酸化後の体積Yの比である体積変化比Y/Xが0.7以上であることが好ましい。この体積変化比Y/Xは、1.3以上であることがより好ましく、1.6以上であることが更に好ましい。例えば、多孔質セラミックスを接合する場合、この体積変化比が大きいほど、酸化による膨張などで多孔質セラミックスの細孔内に酸化物セラミックスが侵入しやすく好ましい。例えば、体積変化比Y/Xは、Fe
2O
3/Feが2.14、CuO/Cuが1.77、Mn
2O
3/Mnが2.22、NiO/Niが1.62、MgO/Mgが0.79、Al
2O
3/Alが1.28である。
【0022】
本発明の接合部において、酸化物セラミックスは、主成分としての遷移金属である第1成分の他に、金属元素である第2成分を含有することが好ましい。接合部が第2成分を含むと、酸化物セラミックスの第1成分の酸化物(主酸化物とも称する)に第2成分が固溶することなどによって導電性が更に付与され、加熱使用による導電性の低下などをより抑制でき、好ましい。また、接合部が第2成分を含むと、接合部の電気抵抗をより低減することができ、発熱が起きにくく、好ましい。この第2成分は、例えば、酸化物セラミックスの第1成分の価数と異なる価数の金属元素であることが好ましく、第1成分と同種の金属としてもよいし、異種の金属であるものとしてもよい。この第2成分は、例えば、Li,Na,K,Ga,Si,Zr,Ti,Sn,Nb,Sb及びTaのうち1以上の元素であることが好ましい。この接合部は、例えば、第1成分を含む原料に第2成分を含む化合物(第2化合物とも称する)を添加して作製されているものとしてもよい。この第2化合物は、導電助材としてもよい。この第2化合物は、炭酸塩、酸化物、水酸化物、硝酸塩であるものとしてもよく、このうち炭酸塩や酸化物であるものとしてもよい。第2成分の含有量は、例えば、接合部の元素のモル量基準で、0.2mol%以上であることが好ましく、0.5mol%以上であることがより好ましく、1.0mol%以上であることが更に好ましい。また、この含有量は、50mol%以下であることが好ましく、30mol%以下であることが好ましく、15mol%以下であることが更に好ましい。具体的には、酸化物セラミックスの主酸化物がFe
2O
3であるときに、第2化合物は、例えば、同種元素ではFe
3O
4やFeO、異種元素ではTiO
2、SnO
2、Nb
2O
5、SiO
2、ZrO
2などが挙げられる。また、主酸化物がCuOやNiOであるときには、第2化合物は、例えば、Li
2CO
3やNa
2CO
3、K
2CO
3などが挙げられる。なお、「主酸化物」とは、接合部の構成化合物のうち最も含有量が多い酸化物をいい、例えば、接合部の40mol%以上の酸化物としてもよいし、50mol%以上の酸化物としてもよいし、70mol%以上の酸化物としてもよい。
【0023】
また、導電性を有する第1部材及び第2部材を接合した本発明の接合体は、電気伝導率が、10
-6S/cm以上であることが好ましい。また10
-3S/cm以上であることがより好ましく、10
-2S/cm以上であることが更に好ましい。電気伝導率は、高いほど導電性に優れ接合体として効率良く電気を利用できる。この電気伝導率は、材料の構成上、上限は10
3S/cm程度といえる。電気伝導率は、接合体に電極を焼き付けたものを測定試料とし、2端子法にて測定するものとする。
【0024】
また本発明の接合体は、第1部材と第2部材との接合性が高いことが好ましい。接合性が高いとは、第1部材及び第2部材と接合部である酸化物セラミックスとの界面に剥離や、多孔質セラミックス、金属部材、接合部である酸化物セラミックスにクラックの発生が認められないことをいうものとする。接合性の評価方法を説明する。本発明の接合体を樹脂で包含し、ダイヤモンドスラリー等で鏡面程度まで研磨し観察試料を作製する。次に、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて1500倍以上の倍率で観察して、多孔質セラミックス及び金属部材と接合部との剥離や、多孔質セラミックス、金属部材、接合部におけるクラックの発生を確認する。この確認結果に基づいて、第1部材と第2部材との接合性を評価することができる。
【0025】
本発明の接合体は、第1部材と第2部材との接合強度が5.0MPa以上であることが好ましい。また、この接合強度は5.5MPa以上がより好ましく、10MPa以上が更に好ましい。接合強度は高ければ高いほど強固に接合し、信頼性が高まるため好ましいが、材料の構成上、上限は500MPa程度といえる。この接合強度は、引張試験(JIS−R1606に準拠)により評価した値とする。
【0026】
本発明の接合体は、遷移金属の粉体と、この遷移金属の酸化物に比して高いヤング率及び低い熱膨張係数を有する複合粒子とを混合した金属原料を、第1部材と第2部材との間に配置した積層体を作製し、この積層体を酸化性雰囲気中、遷移金属酸化物の融点より低い温度範囲で焼成することにより形成された酸化物セラミックスにより第1部材と第2部材とを接合する接合工程を経て作製されているものとしてもよい。この工程では、焼成によって金属原料が酸化して得られた酸化物セラミックスにより接合部が形成される。焼成する接合温度は、接合部の材質に応じて好適な範囲が設定されるが、400℃以上がより好ましく、500℃以上がより好ましく、600℃以上が更に好ましい。また、接合温度は、900℃以下が好ましく、850℃以下がより好ましく、800℃以下が更に好ましい。この接合温度は、十分酸化する観点からはより高い方が好ましく、エネルギー消費の観点からはより低い方が好ましい。本発明の接合体において、接合部は、平均粒径が1μm以上40μm以下である遷移金属の粉体を用いて作製されているものとしてもよい。この接合部の平均粒径は、30μm以下が好ましく、10μm以下がより好ましい。また、この平均粒径は、3μm以上であることが好ましく、5μm以上がより好ましい。複合粒子の平均粒径は、上述した範囲、例えば、平均粒径が1μm以上100μm以下の範囲であることが好ましい。
【0027】
本発明の接合体は、第1部材と第2部材との熱膨張係数の差が4.0ppm/K以上であるものとしてもよい。熱膨張係数の差が比較的大きい部材を接合した接合体であっても、酸化物セラミックスの接合部により、接合強度や導電性を保つことができる。特に、繰り返し加熱して使用される接合体においても、接合強度及び導電性を保つことができる。この熱膨張係数の差は、6.0ppm/K以上であるものとしてもよいし、12ppm/K以下であるものとしてもよい。例えば、熱膨張係数は、Cr−Ni−Fe系合金(SUS304)では18.7ppm/Kであり、Cr−Fe系合金(SUS430)では12ppm/K、Si結合SiC焼結体では4.5ppm/、Al
2O
3では7.0ppm/Kである。
【0028】
本発明の接合体は、第1部材と第2部材とを接合した構造を有するものとすれば特に限定されず、例えば、ハニカム構造体、熱電素子、セラミックスヒーター、酸素やNOxなどのガス検出センサー、燃料電池などに用いることができる。例えば、ハニカム構造体においては、金属部材に電圧を印加することによりハニカム構造体を加熱するものなどに好適に用いられる。
図4は、接合体20の一例であるハニカム構造体40の説明図である。このハニカム構造体40は、電極端子45に電圧を印加することによりハニカム基材41を加熱するよう構成されている。このハニカム構造体40は、ハニカム基材41と、第1部材22に相当しハニカム基材41に比して高い導電性を有する高導電性多孔質部42と、第2部材24に相当し高導電性多孔質部42に接合された金属電極44と、金属電極44に接続された電極端子45とを備えている。上述の
図1に示した接合体20と同様に、接合部30は、複合粒子31が分散し、高導電性多孔質部42と金属電極44とを接合する、1以上の遷移金属を含む酸化物セラミックスである。このとき、接合部30は、例えば、導電性を有する金属酸化物であるものとしてもよい。なお、ハニカム基材41と高導電性多孔質部42との導電性の違いは、例えば、金属の含有量の違いによるものとしてもよい。例えば、ハニカム構造体がSi結合SiCセラミックスにより形成されている場合、高導電性多孔質部42はSiの含有量がより多いものとしてもよい。
【0029】
次に、本発明の接合体の製造方法について説明する。本発明の接合体の製造方法は、例えば、第1部材及び第2部材を作製する基材作製工程と、第1部材及び第2部材の間に接合部を形成しこれらを接合する接合工程と、を含むものとしてもよい。なお、第1部材及び第2部材を別途用意し、基材作製工程を省略するものとしてもよい。
【0030】
[基材作製工程]
この工程では、基材を作製する。例えば、第1部材が多孔質セラミックス又は緻密セラミックスであるときには、原料を混合し、所定の成形方法で成形し成形した成形体を焼成することにより基材を作製するものとしてもよい。この多孔質セラミックスは、例えば、炭化ケイ素、炭化チタン、炭化ジルコニウム、炭化ホウ素などの炭化物、窒化珪素、窒化アルミニウム、窒化チタン、窒化ジルコニウムなどの窒化物、サイアロンなどの酸窒化物、ケイ化モリブデンなどのケイ化物、リン酸ジルコニウムなどから選択される1以上の無機材料を含んで形成するものとしてもよい。また、多孔質セラミックスは、例えば、コージェライト、ムライト、ゼオライト、チタン酸アルミニウム、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化ケイ素及び酸化マグネシウムなどから選択される1以上の無機材料を含んで形成するものとしてもよい。この工程では、例えば、骨材である無機材料と、造孔材と、分散媒と、を混合して坏土やスラリーを調整してもよい。このとき、多孔質セラミックスの気孔率や平均細孔径は、上述した範囲、例えば、気孔率は10体積%以上の範囲、平均細孔径は1μm以上300μm以下の範囲になるように原料配合を調製することが好ましい。また、この工程では、多孔質セラミックスの気孔に含浸材を含浸する処理を行い、第1部材とするものとしてもよい。この含浸処理は、例えば、多孔質セラミックスの上に含浸基材を形成し、含浸基材が溶融する温度で加熱するものとしてもよい。多孔質セラミックスが、Si結合SiC焼結体であるときに、含浸材は金属Siとしてもよい。
【0031】
この工程では、第1及び第2部材が金属部材であるときには、所定の形状に金属を加工するものとしてもよい。金属部材としては、典型金属、遷移金属など、金属からなるものであれば特に限定されないが、例えば、導電性の高いものが好ましい。遷移金属では、Fe、Co、Ni、Cuなどの金属及び合金が好ましい。また、用途に応じては、Pt、Auなどの貴金属を用いるものとしてもよい。この金属部材は、例えば、板状に加工するものとしてもよい。
【0032】
この工程で作製する第1部材と第2部材とは、その熱膨張係数の差が4.0ppm/K以上であるものとしてもよいし、6.0ppm/K以上であるものとしてもよい。熱膨張係数の差が比較的大きい部材を接合した接合体であっても、複合粒子が分散した酸化物セラミックスの接合部により、接合強度や導電性を保つことができる。特に、繰り返し加熱して使用される接合体においても、接合強度及び導電性を保つことができる。
【0033】
この基材作製工程について、例えば、多孔質セラミックスとしてSi結合SiCセラミックス(複合材料)を作製する場合について具体的に説明する。この場合、例えば、SiC粉末とSi粉末とを所定の体積割合で混合し、水などの分散媒、造孔材に加えて、更に、これに有機バインダ−等を添加して混練し、可塑性の坏土を形成することができる。造孔材としては、のちの焼成により焼失するものが好ましく、例えば、澱粉、コークス、発泡樹脂などを用いることができる。バインダーとしては、例えばセルロース系などの有機系バインダーを用いることが好ましい。分散剤としては、エチレングリコールなどの界面活性材を用いることができる。この多孔質セラミックスは、例えば、セルが並んで配設される形状の金型を用いて上述した任意の形状に押出成形することによりハニカム成形体として形成するものとしてもよい。得られたハニカム成形体は、乾燥処理、仮焼処理、焼成処理を行うことが好ましい。仮焼処理は、焼成温度よりも低い温度でハニカム成形体に含まれる有機物成分を燃焼除去する処理である。焼成温度は、1400℃以上1500℃以下とすることができ、1430℃以上1450℃以下が好ましい。焼成雰囲気は特に限定されないが、不活性雰囲気が好ましく、Ar雰囲気がより好ましい。このような工程を経て、焼結体であるハニカム基材(Si結合SiCセラミックス)を得ることができる。
【0034】
[接合工程]
この工程では、まず、遷移金属の粉体と、複合粒子とを混合した金属原料を、第1部材と第2部材との間に配置した積層体を作製する。次に、この積層体を酸化性雰囲気中、上記遷移金属の酸化物の融点より低い温度範囲で焼成することにより、遷移金属が酸化し、複合粒子が分散している酸化物セラミックスにより第1部材と第2部材とを接合する接合部を形成する。第1部材及び第2部材は、上述したいずれかの部材を用いるものとすればよい。なお、酸化性雰囲気とは、酸素を含む雰囲気としてもよく、大気、及び大気に酸素や不活性ガス、水蒸気などのうち1以上を添加した気体としてもよい。遷移金属粉体は、例えば、Fe、Co、Ni、Mn、Cu、Ti、V、Zr、Nb、Mo、Ta、Wから選ばれる1以上を含むことが好ましく、Fe、Ni、Mn、Cuなどが、より好ましい。この遷移金属粉体は、例えば、平均粒径が1μm以上40μm以下の範囲のものを用いることが好ましい。この範囲では、適切な接合強度が得られやすい。この接合部の原料の平均粒径は、30μm以下が好ましく、10μm以下がより好ましく、5μm以下が更に好ましい。また、この平均粒径は、3μm以上であることがより好ましい。なお、金属酸化物の粉体は、加熱処理によっても第1部材及び第2部材との接合が十分でないため、接合部の原料としては適切でない。複合粒子は、上述したように、SiC、Al
2O
3、Si
3N
4、ZrO
2(部分安定化ジルコニアも含む)、ムライトのうちいずれか1以上であるものとしてもよく、このうち、SiCやAl
2O
3などが好ましい。この複合粒子は、平均粒径Rが1μm以上200μm以下の範囲であるものを用いることがより好ましく、5μm以上60μm以下の範囲が更に好ましい。この工程では、遷移金属粉体と複合粒子と、場合によってはバインダーを溶媒に加えて混合したペーストを作製し、このペーストを金属原料として第1及び/又は第2部材に塗布する。溶媒は、例えば、テルピネオールなどの有機溶媒を用いることができる。複合粒子は、例えば、接合部の全体に対して5体積%以上60体積%以下の範囲となるように遷移金属粉体に添加することが好ましい。この複合粒子の添加量は、10体積%以上50体積%以下の範囲がより好ましく、15体積%以上40体積%以下の範囲が更に好ましい。ペーストの塗布厚さは、接合部の厚さに合わせて適宜設定すればよい。
【0035】
この工程では、主成分の遷移金属である第1成分や複合粒子などの他に、金属元素である第2成分を含む化合物(第2化合物)を接合部の原料粉体(金属原料)に添加することが好ましい。この第2化合物は、導電助材としてもよい。接合部に第2化合物を添加すると、酸化物セラミックスの主酸化物に第2化合物が固溶することなどによって導電性が更に付与され、加熱使用による導電性の低下などをより抑制でき、好ましい。また、接合部に第2化合物を添加すると、接合部の電気抵抗をより低減することができ、発熱が起きにくく、好ましい。この第2化合物は、例えば、主酸化物の価数と異なる価数の金属元素を含んでいる化合物であることが好ましく、主酸化物と同種の金属を含むものとしてもよいし、異種の金属を含むものとしてもよい。この第2化合物は、例えば、Li,Na,K,Ga,Si,Zr,Ti,Sn,Nb,Sb及びTaのうち1以上の元素を含むことが好ましい。第2化合物は、炭酸塩であるものとしてもよいし、酸化物であるものとしてもよい。第2化合物の添加量は、例えば、接合部のすべての元素のモル量基準で、0.2mol%以上であることが好ましく、0.5mol%以上であることがより好ましく、1.0mol%以上であることが更に好ましい。また、この含有量は、50mol%以下であることが好ましく、30mol%以下であることが好ましく、15mol%以下であることが更に好ましい。具体的には、酸化物セラミックスの主酸化物がFe
2O
3であるときに、第2化合物としては、例えば、同種元素ではFe
3O
4やFeO、異種元素ではTiO
2、SnO
2、Nb
2O
5、SiO
2、ZrO
2などが挙げられる。また、主酸化物がCuOやNiOであるときには、第2化合物は、例えば、Li
2CO
3やNa
2CO
3、K
2CO
3などが挙げられる。
【0036】
接合工程では、第1及び第2部材の移動を制限した状態で積層体を焼成することが好ましい。こうすれば、積層体のずれなどを防止することができる。また、第1及び第2部材と接合部とをより確実に接合することができるものと考えられる。ここで、「移動を制限」とは、例えば、押さえ治具などにより押さえる程度の加重を与えて積層体を固定するものとしてもよい。積極的に加圧して第1部材と第2部材とを固定することも可能であるが、製造工程の簡略化の観点からは、そのような処理を省略する方が好ましい。接合処理は、例えば酸化性雰囲気(例えば大気中)で行うことができる。接合温度(焼成温度)は、400℃以上900℃以下が好ましい。この温度範囲では、遷移金属粉体を酸化物セラミックスに酸化することができる。この接合温度は、接合部の材質に応じて好適な範囲が設定されるが、500℃以上がより好ましく、600℃以上が更に好ましい。また、接合温度は、850℃以下がより好ましく、800℃以下が更に好ましい。この接合温度は、十分酸化する観点からはより高い方が好ましく、エネルギー消費の観点からはより低い方が好ましい。このように、大気中という簡易な雰囲気、且つ900℃以下というより低温で接合処理を行うことができる。また、この工程では、酸化物セラミックスの気孔率が60体積%以下となるように焼成することが好ましく、50体積%以下がより好ましく、30体積%以下が更に好ましい。酸化物セラミックスは、緻密体である方が、接合強度の観点からは、より好ましい。また、この工程では、酸化物セラミックスの気孔率が5体積%以上となるように焼成することが好ましく、10体積%以上となるように焼成することがより好ましく、20体積%以上となるように焼成することが更に好ましい。酸化物セラミックスは、気孔を有すると、応力緩和の面からは、より好ましい。
【0037】
以上説明した本実施形態の接合体及びその製造方法によれば、2つの部材をより簡素に、より信頼性を高めて接合することができる。この理由は、以下のように推察される。例えば、接合部は、酸化物セラミックスであるから、高温、酸素雰囲気下でも安定である。また、比較的反応性に富む遷移金属粉体を接合部の原料とするため、ある程度、第1及び第2部材と反応しやすく、これらの部材の成分を取り込むことにより、この成分が拡散した状態で接合部と第1及び第2部材とを結合できる。その一方、酸化性雰囲気(大気)中での焼成により、遷移金属が酸化することで反応しにくく変化することにより、部材から取り込んだ成分が接合部へ拡散しすぎるのを防ぐことが考えられる。また、接合する部材が多孔質セラミックスである場合は、比較的緻密である酸化物セラミックスが多孔質セラミックスの細孔内に侵入して接合部と多孔質セラミックスとを強固に結合する。更に、接合部には、酸化物セラミックスに比して高いヤング率及び低い熱膨張係数を有する複合粒子が分散しているため、接合部の機械的強度をより高めることができ、これにより、第1部材及び第2部材をより強固に接合することができる。このため、2つの部材をより簡素に、より信頼性を高めて接合することができる。また、本実施形態の接合体では、比較的大きな熱膨張係数の差がある部材を接合することができる。この理由は、例えば、接合部に複合粒子が存在することにより、第1部材と第2部材との間に発生する応力を緩和していることや、接合部の界面で物質移動があることで傾斜的に熱膨張係数が変化していることなどが考えられる。また、本実施形態の接合体では、接合時に真空や不活性ガス雰囲気などの雰囲気制御を要さず、大気中低温で容易に接合することができる。
【0038】
なお、本発明は上述した実施形態に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【実施例】
【0039】
以下には、接合体を具体的に製造した例を実験例として説明する。なお、実験例1〜9が本発明の実施例に相当し、実験例10が比較例に相当する。本実施例では、接合対象である部材として、多孔質セラミックス、緻密セラミックス及び金属部材などを用いた。
【0040】
[多孔質セラミックスの作製]
多孔質セラミックスとして、Si結合SiC焼結体、及びAl
2O
3焼結体を作製した。Si結合SiC焼結体の多孔質セラミックスの原料として、SiC粉末及び金属Si粉末を体積比で38:22となるように混合して「混合粉末」を作製した。上記「混合粉末」に、バインダとしてヒドロキシプロピルメチルセルロース、造孔材としてデンプン、吸水性樹脂を添加すると共に、水を添加して多孔質材料用原料(成形原料)とした。成形原料を混練し円柱状の坏土を作製した。得られた円柱状の坏土を押出し成形機にて押出し成形することによりハニカム状の成形体を作製した。この成形体を、大気雰囲気下120℃にて乾燥し乾燥体を得た。この乾燥体を大気雰囲気下、450℃にて脱脂後、常圧のAr雰囲気下、1450℃で2時間焼成した。このようにして得た、ハニカム状の多孔質セラミックスから10×20×35mmの直方体状の試料を切り出し、基材(多孔質セラミックス)を得た。この基材は、水銀ポロシメーター(マイクロメトリックス社製オートポアIV9520)を用いた水銀圧入法により測定した気孔率が40体積%であり、同様の方法で測定した平均細孔径が10μmであった。Al
2O
3焼結体は、アルミナ粉体を造孔材と共に混練して坏土とし、この坏土をプレス成形し、1400℃で焼結した。この基材は、気孔率が40体積%であり、平均細孔径が10μmであった。
【0041】
金属部材として、ステンレス材(SUS)を用意した。ステンレス材は、Cr−Ni−Fe系合金(SUS304)を用いた。この金属部材は、15×15×0.1mmの平板状に切り出して実験に用いた。また、金属部材は、水銀ポロシメーターを用いた水銀圧入法により測定した気孔率が0.1体積%以下であった。
【0042】
[接合体の作製]
Fe金属粉体と、複合粒子(SiC粒子又はAl
2O
3粒子)と、バインダーとしてのポリビニルブチラール樹脂(PVB)と、溶媒としてのテルピネオールとを混合し、接合材ペーストを作製した。SiC粒子は平均粒径が27.3μmのものを用い、Al
2O
3粒子は平均粒径が12.6μmのものを用いた。この接合材ペーストを、接合対象である2つの部材の上に塗布し、これらをペースト側を内側にして貼り合わせた。貼り合わせたサンプルを大気中80℃で1晩放置し、テルピネオールを十分乾燥させた。このサンプルの上に押さえ治具を載せて2つの部材のずれを規制した状態とし、大気中200〜800℃で焼成(接合)した。
【0043】
[実験例1〜8]
実験例1は、第1部材をSi結合SiC焼結体とし、第2部材をステンレス材とし、接合部の遷移金属粉体を平均粒径5μmのFe粉末とし、第2化合物(導電助材)をTiO
2とし、複合粒子を平均粒径27.3μmのSiC粒子とした。実験例1〜8は、第2化合物をそれぞれ1.0質量%、0.8質量%、0.7質量%、0.6質量%、0.6質量%、0.5質量%、0.4質量%、0質量%添加した。複合粒子は、接合部全体のうち、体積割合で11.9質量%加えて接合部の金属原料とした。実験例2〜7は、接合部の金属原料に含まれる複合粒子をそれぞれ23.3質量%,32.1質量%,44.8質量%,47.8質量%,54.9質量%,64.6質量%とした以外は実験例1と同様とした。実験例8は、複合粒子を平均粒径12.6μmのAl
2O
3とし、接合部全体のうち複合粒子を30質量%加えた以外は、実験例1と同様に作製した。なお、各サンプルの第1部材及び第2部材をまとめて表1に示し、接合部原料の種類、配合比率、接合条件をまとめて表2に示す。
【0044】
[実験例9]
実験例9は、第1部材をアルミナ焼結体とし、遷移金属粉体を平均粒径3μmのFe粉末とし、接合部全体のうち複合粒子を22.0体積%加えた以外は、実験例1と同様に作製した。
【0045】
[実験例10]
実験例10は、複合粒子を用いなかった以外は、実験例1と同様に作製した。
【0046】
【表1】
【0047】
【表2】
【0048】
(接合部の遷移金属粉体の熱分析)
接合体の接合部の遷移金属粉体であるFe粉末の熱分析を行った。なお、接合部として利用可能なNi粉末についても熱分析を行った。測定は、80mgの試料を用い、TG−DTA測定器(リガク製ThremoPlusEVO)を用いて室温から1000℃まで行った。
図5は、接合部の金属原料の熱分析測定結果である。Feは、200℃から発熱し始め、420℃に発熱ピークを示した。Niは、200℃から発熱し始め、550℃に発熱ピークを示した。これらの金属は、400℃以上で加熱すると酸化物になりやすく、好ましいことがわかった。また、発熱による熱量が与えられるから、焼成温度により得られる熱量に比べ、より高い熱量で焼成処理を行うことができるものと推察された。
【0049】
(接合部の結晶相同定)
上記作製した接合体を用い、接合部の酸化物セラミックスの構成結晶相を同定した。測定は、回転対陰極型X線回折装置(理学電機製、RINT)を用い、材料のX線回折パターンを得た。X線回折測定の条件は、CuKα線源、50kV、300mA、2θ=20〜60°とした。また、得られたX線回折データを、MDI社製「X線データ解析ソフトJADE7」を用いて解析した。
【0050】
(接合部の気孔率)
上記作製した接合体を樹脂で包含し、第1部材、第2部材及び接合部が同時に観察できる断面を鏡面研磨した。この研磨した面を電子顕微鏡(SEM;フィリップス社製XL30)により1500倍の倍率で観察し、微構造写真を撮影した 上記撮影した微構造写真の画像を画像解析することにより、接合部の気孔率を測定した。
図6は、実験例1の第1部材、第2部材及び接合部の断面のSEM写真である。画像解析ソフトにはImage−Pro0.5Jを使用した。微構造写真から、接合部の面積0.5×10
-6m
2の領域を任意に選択し、二値化処理を行い、細孔と酸化物セラミックスの像を区別した。この区別した画像により、酸化物セラミックスとその細孔とを分離し、その面積比を算出することで接合部の気孔率とした。なお、この断面の面積比は、体積比にほぼ相当するものとして気孔率(体積%)とした。
【0051】
(界面の反応層厚さ)
上記作成した接合体を用い、接合界面について検討した。第1部材と接合部との界面、又は第2部材と接合部との界面に生成する反応層の厚さは、電子顕微鏡(SEM)で観察して得た画像を用いて測定した。具体的には、樹脂にて包含した接合体をダイヤモンドスラリーにて鏡面研磨したものを観察試料とし、この断面研磨面を3000倍の倍率でSEM−EDXにて観察した。次に、
図3で説明したように、この画像の界面を5等分する界面に垂直な垂線(測定線)を引き、界面に生成した反応層の下限と上限と、測定線の交点との間の長さを測定し、5カ所の平均を反応層厚さとした。SEMにより3000倍の倍率で観察しても、界面に組成差によるコントラストが確認できない場合、反応層は「無し」とした。
【0052】
(接合部での複合粒子量の測定)
接合部に含まれる複合粒子の含有量を測定した。接合部内に含有される複合粒子は、上記のSEMで得た微構造写真を用いた画像解析によって算出した。画像解析ソフトにはImage−Pro0.5Jを使用した。微構造写真から面積0.5×10
-6m
2を任意に選択し、二値化処理を行い、複合粒子と酸化物セラミックスの像を区別した。これより酸化物セラミックスと複合粒子を分離し、その面積割合を算出することで複合粒子の含有量を求めた。なお、この断面の面積比は、体積比にほぼ相当するものとして複合粒子の含有量(体積%)とした。
【0053】
(接合性)
接合体の接合性は、接合体断面のSEM観察により評価した。本発明の接合体を樹脂で包含し、ダイヤモンドスラリー等で鏡面程度まで研磨し観察試料を作製した。次に、SEMを用いて1500倍以上の倍率で観察して、第1部材又は第2部材と接合部との剥離や、第1部材、第2部材及び接合部におけるクラックの発生を確認した。その後、以下の基準で評価した。上記剥離及び上記クラックの発生が認められなかった場合を「A」とした。小さな剥離又はクラックが認められた場合を「B」とした。
【0054】
(接合強度)
接合体の接合強度は、第1部材と第2部材との引張試験(JIS−R1606に準拠)により評価した。接合体の第1部材と測定治具と、第2部材と測定治具とをそれぞれ接着し、強度試験機(インストロン社製万能試験機)により引張強度を測定した。その後、以下の基準で評価した。引張強度が5.5MPa以上の場合を「A」、引張強度が5.0MPa以上5.5MPa未満の場合を「B」、引張強度が5.0MPa未満の場合を「C」とした。
【0055】
(電気伝導率)
接合体の電気伝導率は、
図7に示す接合体50を用いて行った。
図7に示すように、20mm×20mmの直方体状の第1部材52と直方体状の第2部材54とを接合部51で接合した接合体に、15mm×15mmのAgペーストを電極55として焼き付けたものを測定試料とした。この接合体の電極に、ソースメーター(ケースレー製、2450型)を接続し、直流2端子法で接合体の電気伝導率を測定した。測定結果を以下の基準で評価した。得られた電気伝導率が10
-2S/cm以上であるものを「A」、10
-3S/cm以上10
-2S/cm未満であるものを「B」、10
-6S/cm以上10
-3S/cm未満であるものを「C」、10
-6S/cm未満、または測定不能であるものを「D」とした。
【0056】
(総合評価)
上記測定結果に応じて、各サンプルを総合評価した。総合評価は、接合強度及び電気伝導率のいずれもが「A」である場合を「A(最良)」とした。また、接合強度及び電気伝導率の少なくとも1以上が「B」以上である場合、即ち2つの評価が「A」「B」の場合、「B」「A」の場合、及び「B」「B」の場合を「B(良)」とした。また、接合強度が「B」以上で電気伝導率が「C」である場合を「C(可)」とした。また、接合強度が「C」又は電気伝導率が「D」である場合を「F(不可)」とした。
【0057】
(結果と考察)
実験例1〜10の測定結果をまとめて表3に示す。表3には、接合部の結晶相及び接合部の体積変化率、複合粒子の量(体積%)、基材中への接合部の侵入深さ(μm)、接合部の気孔率、部材と接合部との反応層厚さ、接合性、接合強度、電気伝導率及び総合評価をまとめて示した。表3に示すように、実験例1〜10は、接合部の結晶相の主相は酸化物層であり、複合粒子も検出された。複合粒子の含有量は、総合評価との関係を考慮すると、5体積%以上60体積%以下の範囲が好ましく、より好ましくは、10体積%以上50体積%以下であると思われた。複合粒子が接合部に含まれる実験例1〜9では、接合強度や総合評価がより高く、より好ましいことがわかった。多孔質セラミックスである第1部材中への接合部の侵入深さは、20μm以上であり、多孔質セラミックスの細孔へ接合材が侵入することにより、これらが強固に接合しているものと認められた。接合部(酸化物セラミックス)のうち酸化物セラミックスが多孔質セラミックスの細孔内に侵入した侵入部以外の部分である非侵入部の気孔率は、35体積%以下であることが好ましいことがわかった。また、基材の細孔に侵入した接合部の気孔率は、30体積%以下であることが好ましく、15体積%以下であることがより好ましく、5体積%以下であることが更に好ましいことがわかった。
【0058】
実験例1〜10において、多孔質セラミックスの第1部材と接合部との間に、部材と接合部とが反応して生成する複合相などを含む反応層は認められなかった。なお、接合部と金属部材との間の界面は、金属部材を構成する成分の一部が酸化物セラミックス中へ拡散することで接合していると考えられる。例えば、界面の元素分析を行った結果、Cr−Ni−Fe系合金(SUS304)とFe
2O
3系接合部の界面では、SUS中のCrと微量成分であるMnとが酸化物セラミックス層へ拡散して接合していることがわかった。また、Si結合SiC焼結体とFe
2O
3系接合部との界面では、Si成分が酸化物セラミックス層へ拡散することで接合していることがわかった。本実施例の接合体では、酸化物に比べ活性な金属を接合部の原料に用いることで、部材と反応しやすく、部材の成分を取り込みやすいと考えられた。また、大気中で焼成しているため、昇温と共に金属が酸化することで反応しにくくなり、取り込んだ部材の成分が接合部へ拡散しすぎるのを防いでいると考えられた。また、接合する部材が多孔質セラミックスである場合は、SEM観察によって、比較的緻密である酸化物セラミックスが多孔質セラミックスの細孔内に侵入して接合部と多孔質セラミックスとを強固に結合することがわかった。また、実験例1〜9では、接合部に複合材の粒子が存在するため、接合部をより強固にすることができると推察された。このため、部材の接合をより好適に行うことができると推察された。
【0059】
また、実験例1〜7では、接合部に導電助材(TiO
2)を含んでおり、電気伝導率が良好であった。即ち、酸化物セラミックスには導電助材(第2化合物)を含むことがより好ましいことがわかった。また、これらの導電助材を添加すると、接合部の抵抗をより低減することができることがわかった。このため、例えば通電部材として接合部を用いる場合、発熱が起きにくく、好ましいことがわかった。また、導電助材を添加すると、酸化物セラミックスに導電助材の元素が固溶することなどによって導電性が更に付与されると考えられ、加熱使用による導電性の低下をより抑制できると推察された。
【0060】
実験例1〜10では、接合部が遷移金属の酸化物セラミックスであるため、好適な導電性を有することがわかった。例えば、酸化物セラミックスの主酸化物がFe酸化物である場合、Fe
3O
4などの異相やFe
2O
3中に導入された酸素欠陥によって導電性を有するものと考えられる。
【0061】
このように、2つの部材と、複合粒子を含みこれらを接合する遷移金属の酸化物セラミックスの接合部と、を備えた接合体は、より簡素により信頼性を高めて接合することができることがわかった。特に、本実施例では、接合時に真空や不活性ガス雰囲気などの雰囲気制御を要さず、大気中、低温で接合できる点が極めて優位であった。
【0062】
【表3】