【実施例】
【0015】
(第1実施例)
図1は、第1実施例の絶縁ゲート型の電界効果トランジスタ20の分解斜視図を示す。ただし、y-z面よりも手前側の構造の図示を省略している。
図2は、電界効果トランジスタ20の
図1のx−z断面を示し、
図3はx1−z断面を示し、
図4はy-z断面を示している。
図2〜3では、
図1では図示されていないドレイン電極16が示されている。
図1において、2か所に図示されているy軸が実際には重なっており、2か所に図示されているy1軸が実際には重なっている。図示のx軸は負固定電荷導入領域14を通過しており、x1軸は隣接する一対の負固定電荷導入領域14の間を通過している。
【0016】
図1〜
図4において、参照番号は下記を示している。
2:ゲート電極:ソース電極6とドレイン電極16の間をy方向に延びている。
4:ゲート絶縁膜:ゲート電極2の下面と側面を覆い、ゲート電極2とソース電極6の間を絶縁し、ゲート電極2と電子供給層10の間を絶縁し、ゲート電極2と電子走行層12の間を絶縁し、ゲート電極2とドレイン電極16の間を絶縁している。
6:ソース電極:電子供給層10に接している。
8:スペーサ膜:絶縁膜で形成されており、ゲート電極2と電子供給層10の間を絶縁するとともに、ゲート電極2と電子供給層10の離反距離を増大させる。
10:電子供給層:AlGaNで形成されている。後記のように、電子走行層がGaNで形成されている場合、一般に、Al
xIn
yGa
1−x−yNを用いることができる。0≦x<1であり、0≦y<1であり、0≦1−x−y<1である。
12:電子走行層:GaNで形成されている。AlGaNのバンドギャップ>GaNのバンドギャップである。一般に、バンドギャップが大きい窒化物半導体とバンドギャップが小さい窒化物半導体の組み合わせによって、電子供給層10と電子走行層12を形成することができる。本実施例では、i型GaNで電子走行層12を形成する。i型GaNに代えてn型GaNを用いてもよい。電子走行層12の一部12aは、ゲート絶縁膜4を介してゲート電極2の下面に対向しており、チャネル領域となる。
14:負固定電荷導入領域:ゲート絶縁膜4を介してゲート電極2に対向する範囲にある電子走行層12(=チャネル領域12a)の一部に、負固定電荷導入領域14が形成されている。チャネル領域12aをy軸に沿って(ゲート電極2の長手方向に)観察すると、負固定電荷導入領域14が所定の距離L15をおいて出現する。
15:非導入領域:隣接する一対の負固定電荷導入領域14,14の間にあり、負固定電荷が導入されていない。
16:ドレイン電極:電子供給層10に接している。
17:ゲート電極2に電圧を印加しない状態で形成される空乏層。
【0017】
図1〜4の第1実施例では、スペーサ膜8の上面から電子供給層10の下面(=電子走行層12の上面)に達するリセスが形成され、そのリセスの壁面(底面と側面)がゲート絶縁膜4で覆われ、壁面がゲート絶縁膜4で覆われたリセス内にゲート電極2が充填されている。リセスの底面に電子走行層12が露出している。電子層走行層12の上面が、ゲート絶縁膜4に直接に接している。
複数個の負固定電荷導入領域14が、電子走行層12のリセス底面に露出する範囲に形成されている。隣接する一対の負固定電荷導入領域14,14の間の間隔では、電子層走行層12を形成するi型またはn型のGaNに負固定電荷が導入されておらず、非導入領域15となる。非導入領域15は、ゲート絶縁膜4を介してゲート電極2の下面に対向しており、ゲート電極2の電位に依存して空乏化した状態と空乏化しない状態の間で変化する。電子走行層12のうちの非導入領域15にチャネルが形成される。
負固定電荷導入領域14は、電子走行層12の一部に形成されるチャネル領域12aの一部に、F,Cl,C,Mg,Zn,Feの一種類または複数種類を導入することで形成することができる。あるいは、負固定電荷導入領域14を形成する範囲において電子走行層12をエッチングして凹所を設け、その凹所内にp型半導体(例えばp型の多結晶シリコンあるいはp型のGaN)を形成してもよい。凹所内にFなどの負イオンを含む絶縁体を形成してもよい。
チャネル領域12aを提供する電子走行層12にn型GaN層を用いる場合、ゲート電極に閾値以上の電圧を印加しない状態では空乏層が広がり、ゲート電極に閾値以上の電圧を印加したときには高い電子移動度を実現するために、不純物濃度が高すぎないことが好ましい。電子走行層12の不純物濃度<負固定電荷導入領域14の不純物濃度であることが好ましく、電子走行層12の不純物濃度<0.1×負固定電荷導入領域14の不純物濃度であることがさらに好ましい。
【0018】
ゲート電極2に電圧を印加しない状態では、負固定電荷導入領域14から非導入領域15内に向けてy方向に空乏層が伸びる。第1実施例では、
図4に示すように、隣接する一対の負固定電荷導入領域14,14から、その間隔に延びる一対の空乏層17(+y方向に伸びる空乏層と、−y方向に伸びる空乏層)が連続する。すなわち、一対の負固定電荷導入領域14の間の距離L15<空乏層17が連続する距離の関係におかれている。
そのために、この実施例では、バンドギャップが大きい窒化物半導体からなる電子供給層10とバンドギャップが小さい窒化物半導体からなる電子走行層12のヘテロ接合界面に生じる二次元電子ガスが空乏層17によって分断され、ソース電極6とドレイン電極16間に電流が流れない。
ゲート電極2に閾値電圧以上の電圧を印加すると、非導入領域15内に伸びていた空乏層17が収縮し、非導入領域15内に電子の移動経路(チャネル)が開き、電子がソース電極6とドレイン電極16の間を移動する。一対の負固定電荷導入領域14,14の間に存在する非導入領域15は、ゲート電極2の電圧によって、キャリアが移動できる状態と移動できない状態の間で変化する。
図1〜
図4の構造では、窒化物半導体からなる電子走行層12の一部である非導入領域15にチャネルが形成される。非導入領域15では電子の移動度が高いために、オン抵抗が低くなる。
図1〜4に示す負固定電荷導入領域14は、ゲート電極2が延びている方向(y方向)に沿って断続的に配置されている。ゲート絶縁膜4を介してゲート電極2に対向するチャネル領域12aをゲート電極2が延びている方向に沿って観測したときに、負固定電荷が導入されている領域14と負固定電荷が導入されていない領域15が交互に出現する関係になっている。
【0019】
第1実施例のトランジスタ20では、ゲート電極2に閾値以上の電圧を印加しない状態では、非導入領域15に空乏層17が広がる。非導入領域15の長さ(=隣接する一対の負固定電荷導入領域14,14間の距離)L15を調整することで、空乏層が収縮して非導入領域15をキャリアが移動できる状態に変化するときのゲート電圧(すなわち閾値電圧)を調整することができる。間隔を狭めれば閾値電圧がプラス側に向けて引き上げられる。一つの具体例では、隣接する一対の負固定電荷導入領域14間の距離L15を1μm以下としたときに閾値電圧がプラス電圧となり、ノーマリオフの特性に調整できた。
【0020】
第1実施例のトランジスタ20では、ゲート電極2に閾値以上の電圧を印加すると、空乏層が収縮して非導入領域15を電子が移動できる状態となる。非導入領域15は、i型GaNで形成されており、電子の移動度が高い。オン抵抗は低い。
第1実施例のトランジスタ20では、負固定電荷導入領域14を部分的に設ける。
図11の構造では、負固定電荷導入領域14を全面的に設ける。
前者の場合、隣接する一対の負固定電荷導入領域14の間の領域(非導入領域15)では、電子が移動しやすい。負固定電荷導入領域14を部分的に設けることによるオン抵抗の上昇幅は小さい。
後者の場合、負固定電荷導入領域14に反転層が形成し、その反転層を電子が移動する現象を利用する。負固定電荷導入領域14を通過する電子は、負固定電荷導入領域14に導入されているイオン不純物によって散乱され、オン抵抗が大きく上昇する。
第1実施例の構造によるオン抵抗の増加は、
図11の構造による場合のオン抵抗の上昇よりも格段に低い。
負固定電荷導入領域14を部分的に設ける場合、負固定電荷導入領域14には反転層を形成する必要がなく、負固定電荷導入領域14に導入する負固定電荷の濃度を濃くすることができる。負固定電荷導入領域14の濃度と非導入領域15の長さL15を調整することによって、高い閾値電圧と低いオン抵抗を実現することができる。
【0021】
第1実施例では、リセスが、電子供給層10の下面(=電子走行層12の上面)に達している。しかしながら、本明細書に記載の技術は、リセスの深さに限定されない。
図10の(A)では、リセス底面が電子供給層10の上面に一致している。(B)ではリセス底面が電子供給層10の中間深さに達している。(A)と(B)の場合は、ゲート絶縁膜4と電子供給層10を介してゲート電極2に対向する範囲の電子走行層12(本明細書でいうチャネル領域)をゲート電極2が延びている方向に沿って観測したときに、負固定電荷導入領域14と非導入領域15が交互に出現することになる。これもまた、本明細書でいうゲート絶縁膜を介してゲート電極に対向するチャネル領域に負固定電荷導入領域と非導入領域が交互に出現する関係に含まれる。(A)の構造では、負固定電荷導入領域14を設けることによって閾値電圧がプラス側に向けて引き上げられるが、ヘテロ接合界面に形成される二次元電子ガスの濃度と負固定電荷の濃度の関係から、閾値電圧をプラス電圧にまでシフトさせることができない場合がある。ノーマリオフのためには、後記する(C)(D)が好ましい。
図10の(C)では、リセス底面が電子供給層10の下面に一致している。すなわち第1実施例で説明したものである。(D)ではリセス底面が電子走行層12の中間深さに達している。(C)と(D)の場合は、ゲート絶縁膜4を介して(電子供給層10を介さないで)ゲート電極2に対向する電子走行層12(チャネル領域)をゲート電極2が延びている方向に沿って観測したときに、負固定電荷導入領域14と非導入領域15が交互に出現することになる。本明細書でいうゲート絶縁膜を介してゲート電極に対向するチャネル領域に負固定電荷導入領域と非導入領域が交互に出現する関係に含まれている。
リセスが、電子走行層12の上面に達するか、あるいはそれよりも深く、チャネル領域を提供する電子走行層12が、電子供給層10を介することなく、ゲート絶縁膜4のみを介してゲート電極2に対向していると、閾値電圧をプラス電圧にシフトさせてノーマリオフに調整し易い。(C)または(D)の構造によると、トランジスタに求められる仕様を満たせることが多い。
【0022】
(第2実施例)
図5は、第2実施例のトランジスタの平面図を示す。説明済みの部材と同一または類似部材には同一の参照番号を用い、重複説明を省略する。
図5と
図6において、線分Aはリセスの底面のソース電極6側の境界線を示し、線分Bはリセスの底面のドレイン電極16側の境界線を示している。実際には、ゲート絶縁膜4の膜厚が
図6に図示されているものよりも薄いので、線分Aはゲート電極2の下面のソース電極6側の境界線であり、線分Bはゲート電極2の下面のドレイン電極16側の境界線であるということができる。
図5と
図6に示す第2実施例では、負固定電荷導入領域14aが、平面視したときに三角形をなす形状となっている。線分Bに沿って隣接する一対の負固定電荷導入領域14a間の距離L15Bを測定すると短く、線分Bから線分Aに近づくほどその距離が増大する。線分Aに沿った位置にまで負固定電荷導入領域14aが達していないために、線分Aに沿って隣接する一対の負固定電荷導入領域14a間の距離を測定すると、その距離が無限大に引き伸ばされていることがわかる。
図6に示す横型のトランジスタの場合、線分Bの近傍に位置する電子走行層12に電界集中が生じやすい。第2実施例では、電界集中が生じやすい位置では負固定電荷導入領域14aが密に配置されており、集中しやすい電界を効果的に緩和している。第2実施例では電界集中の発生が抑えられ、耐圧を高めることができる。
図5の平面図を多数の単位面積に分割し、その単位面積に含まれる負の固定電荷の量(電荷密度に対応する)を想定する。その場合、線分Bに沿って計測した平均電荷密度が最大となり、線分BからA側に近づくほど平均電荷密度は小さくなる。ゲート電極2の下面のソース電極6側の境界線Aからゲート電極の下面のドレイン電極16側の境界線Bに近づくにつれて前記の平均電荷密度が増大する関係となる負固定電荷導入領域14aを形成することで、トランジスタの耐圧を向上させることができる。
【0023】
(第3実施例)
図7に示す実施例では、負固定電荷導入領域14bが、線分Aから離れ、線分Bに接近した位置に形成されている。すなわち線分B側に偏った位置に形成されている。この実施例によっても、線分Bの近傍にある電子走行層12に生じやすい電界集中が、線分Bの近傍では密に配置されている負固定電荷導入領域14bによって効果的に緩和される。このために耐圧を高めることができる。
【0024】
(第4実施例)
ゲート電極に閾値以上の電圧を印加していない状態でも、ソース電極とドレイン電極間に微弱電流が流れ続ける。本明細書ではこの微弱電流をリーク電流という。第4実施例では、リーク電流を減らすことができる。
第4実施例では、電子走行層12の下面下に、高抵抗層18を設け、負固定電荷導入領域14cがゲート絶縁膜4の下面から高抵抗層18の上面にまで達している。すると電子走行層12のほぼ全域に空乏層が広がり、リーク電流が厳しく抑制される。
高抵抗層18は、C,FeまたはZnを添加したGaN層で形成することができる。あるいは電子走行層12を形成する窒化物半導体よりも大きなバンドギャップを持つ窒化物半導体で形成することができる。電子走行層12がGaNで形成されていれば、例えばAlGaN層が高抵抗層18となる。
第4実施例では、負固定電荷導入領域14cが高抵抗層18にまで到達しているが、負固定電荷導入領域14cが高抵抗層18に完全に到達しなくてもよい。負固定電荷導入領域14cが高抵抗層18に接近しているという関係でもリーク電流を抑制することができる。
【0025】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
また、本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成し得るものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。