(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
透かし模様が施された模様紙は、その外観の特徴に合わせて包装用、装飾用、印刷用等の分野で幅広く使用されている。紙に施される透かし模様には、模様部分が透けて見える「白透かし」と、模様部分が周囲に比べて黒ずんで見える「黒透かし」とがある。これらの透かし模様は通常、抄紙工程における湿紙の形成段階(ワイヤーパート)において、パルプの坪量を部分的に変化させることによって形成される。ワイヤーパートにおいて、凸型の模様を施した抄紙網を用いた場合、湿紙における該凸型の模様部分に対応する部分に、周辺部に比して厚みの薄い型付けがなされ、その型付けされた部分が、該湿紙を乾燥して得られる紙における白透かしとなる。また、透かし模様の一種として、疑似透かし(ケミカル透かし)などと呼ばれるものが知られている。疑似透かしは、紙等のシートに浸透して光透過率を高める物質、例えば、透明合成樹脂を溶剤に溶解したインキを用いてシートに印刷を施すことによって形成されるものであり、そのインキが付与されてなる印刷部が透かし模様となる。
【0003】
透かし模様が施された模様紙に関し、例えば特許文献1には、6層が抄き合わされて構成された透かし絵柄入り板紙において、その6層のうちの複数の層に白透かしを施すことが記載されており、具体例として第2図(C)には、白透かしを有する色付きでない2層の間に、白透かしを有していない色付きの1層を介在させた透かし絵柄入り板紙が記載されている。尚、特許文献1記載の透かし絵柄入り板紙においては、第2図(C)及び(D)に記載されているように、白透かしを有する一の紙層の白透かしと他の紙層の白透かしとでは平面方向(厚み方向と直交する方向)の位置が異なっている。
【0004】
透かし模様は偽造防止技術にも利用されている。例えば特許文献2には、光透過可能な基材上に一部が相互に重複しない開口部(白透かしとして機能する部分)を有するパターンを形成してなる隠蔽層の積層によるパターンの組み合わせからグラデーションを呈する透かし模様を得ることにより、複写機による偽造を不可能とする偽造防止印刷物が得られることが記載されている。特許文献2記載の偽造防止印刷物の一実施形態は、基材の一方の面に、開口部により構成されるパターンを有する2層の隠蔽層の積層構造を備え、且つ一方の隠蔽層の開口部と他方の隠蔽層の開口部とが一致する部分と一致しない部分とを有し、それによって、光透過度の差が生じるようになされている。尚、特許文献2記載の偽造防止印刷物を構成する隠蔽層は、樹脂を主体とするインキを、グラビア印刷法等の印刷方式又はバーコーター等の塗布方式によって基材上に塗布することで形成されるもので、紙層ではない。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の模様紙は、3層以上の光透過可能な紙層が積層され一体化されて構成されている。本発明の模様紙には、i)3層以上の紙層が湿潤状態で抄き合わされて構成された形態、及びii)3層以上の紙層が接着剤等の接合手段を介して積層一体化された形態が含まれる。前記i)の模様紙は、公知の湿式抄紙法によって製造することができ、該模様紙における厚み方向に隣接する2層の紙層どうしは、接着剤無しで、構成繊維どうしの絡み合い(繊維間水素結合)のみによって積層一体化されている。また、前記ii)の模様紙は、例えば、公知の湿式抄紙法によって製造された3層以上の乾燥状態の紙層(3枚以上の紙)を、接着剤によって互いに貼り合わせることで製造することができる。また、本発明の模様紙には、前記i)の形態と前記ii)の形態とが複合された形態、即ち、抄き合わせによる複数の紙層の積層構造と接着剤を用いた貼り合わせによる複数の紙層の積層構造とを有する形態も含まれる。特に前記i)の抄き合わせによる形態は、紙層間に接着剤が存在しないため、本発明の主たる効果である視覚的特徴が発現しやすく、好ましい。
【0011】
本発明の模様紙を構成する紙層は、湿潤状態で抄き合わせが可能な単層構造のシート状物であり、繊維を主成分とし、公知の湿式抄紙法によって製造することができる。紙層中における繊維の含有量は、紙層の全質量に対して、通常80質量%以上である。紙層には、必要に応じ、繊維以外の他の成分、例えば、澱粉、ポリアクリルアミド、ポリアミンポリアミドエピクロルヒドリン等の紙力増強剤又は定着剤、サイズ剤、填料、濾水歩留り向上剤、耐水化剤、定着剤、消泡剤、スライムコントロール剤等の1種又は2種以上が含有されていても良い。紙層の坪量は、特に制限されず、模様紙の用途等に応じて適宜調整すれば良いが、通常、好ましくは10〜300g/m
2、更に好ましくは10〜100g/m
2である。本発明の模様紙を構成する複数の紙層は、互いに坪量が同じでも良く、異なっていても良い。また模様紙の坪量は、通常、好ましくは30〜400g/m
2、更に好ましくは50〜200g/m
2である。
【0012】
本発明の模様紙を構成する紙層に含まれる繊維としては、湿式抄造される紙に通常用いられる繊維(親水性繊維)を特に制限なく用いることができ、例えば、針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)、広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP)、針葉樹晒サルファイトパルプ(NBSP)等の木材漂白化学パルプ;砕木パルプ(GP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)、ケミカルサーモメカニカルパルプ(BCTMP)等の機械パルプ;麻、竹、藁、ケナフ、三椏、楮、木綿等の非木材パルプ;古紙パルプ等が挙げられ、これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの天然パルプ又は古紙パルプに加えて、必要に応じ、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート等の樹脂からなる合成繊維を用いることもできる。
【0013】
本発明の模様紙は、透かし模様を有する紙層のみが2層以上積層されてなる積層構造を有する。即ち、この積層構造を構成する複数の紙層は全て、透かし模様を有している。本発明に係る透かし模様は、紙層の形成材料(繊維)が存在していない材料欠如部分、又は周辺部に比して厚みの薄い薄層部分を含んで構成されている。材料欠如部分は、紙層を厚み方向に貫通する開口部であり、薄層部分は、紙層の形成材料(繊維)が周辺部(高坪量部)に比して少量の低坪量部である。本発明に係る透かし模様は、材料欠如部分及び薄層部分の両方を含んでいても良く、具体例として、材料欠如部分の周囲に薄層部分が位置する透かし模様が挙げられる。
【0014】
本発明に係る透かし模様(材料欠如部分、薄層部分)は、公知の白透かしの形成方法に準じて形成することができる。具体的には、透かし模様に対応する部分に凹凸部が取り付けられた抄紙網、あるいは透かし模様に対応する部分が樹脂等で塞がれることで紙原料(繊維)の透過性が阻害された抄紙網を、円網抄紙機の円網シリンダーや長網抄紙機のダンディロールの上網等の、湿式抄紙機のワイヤーパートで用いる抄紙網(ワイヤー)として用いる方法が挙げられる。また、別の透かし模様の形成方法として、長網抄紙機や円網抄紙機等の公知の湿式抄紙機のワイヤーパートで形成した湿紙を、透かし模様に対応した凹凸部を外面に有するロール(プレスロール、サクションロール等)の該外面で押圧する方法が挙げられる。
【0015】
本発明の模様紙の主たる特徴の1つとして、平面視において、前記積層構造の厚み方向の位置が異なる複数の透かし模様が重複する部分と重複しない部分とが混在している点が挙げられる。即ち、本発明の模様紙は、前記積層構造を構成する透かし模様を有する複数の紙層のうちの1層における透かし模様と他の1層における透かし模様とが部分的に重複している部分(透かし模様重複部)を有している。この透かし模様重複部を構成する透かし模様の数は2つに限定されず、3つ以上でも良い。また、透かし模様重複部は、後述する模様紙10(
図1参照)における透かし模様重複部20のように、紙層における透かし模様の無い部分(非透かし模様部)を介在させずに厚み方向に隣接する複数の透かし模様のみから構成されるものに限定されず、厚み方向の位置が異なる2つの透かし模様の間に非透かし模様部が介在しているものであっても良い。
【0016】
図1には、本発明の模様紙の一実施形態である前記特徴を備えた模様紙10が示されている。模様紙10は、光透過可能な3層の紙層11,12,13が湿潤状態で抄き合わされて構成されており、これら3層のうちの厚み方向に隣接する2層の紙層11,12は、何れも透かし模様を有しているのに対し、残りの1層の紙層13は、透かし模様を有しておらず、紙層13全体に亘って厚み(坪量)が均一である。即ち、紙層11,12からなる2層構造は、前記の「透かし模様を有する紙層のみが2層以上積層されてなる積層構造」である。
【0017】
図1中、模様紙10の一面側を形成する紙層11には、符号11Wで示す透かし模様(前記材料欠如部分)が2つ形成され、模様紙10の厚み方向中央に位置する紙層12には、符号12Wで示す透かし模様が2つ形成されている。紙層11の2つの透かし模様11Wと紙層12の2つの透かし模様12Wとは1対1で対応しており、且つそれぞれの透かし模様の対応関係において、透かし模様11Wと透かし模様12Wとは、全部が重複せずに部分的に重複している。その結果、模様紙10には、
図1(b)に示す如き紙層11側(透かし模様を有している紙層側)からの平面視において、両透かし模様11W,12Wの重複部分を含む透かし模様重複部20と、透かし模様11Wにおける透かし模様12Wと重複しない部分を含む透かし模様非重複部21と、透かし模様12Wにおける透かし模様11Wと重複しない部分を含む透かし模様非重複部22と、透かし模様11W,12Wを含まない透かし模様非存在部23とが混在する。模様紙10においては、透かし模様重複部20、透かし模様非重複部21,22、透かし模様非存在部23の順で厚みが薄く、透かし模様非存在部23が最も厚みが厚い。
【0018】
そして、模様紙10においては、この厚みの薄い順即ち、透かし模様重複部20、透かし模様非重複部21,22、透かし模様非存在部23の順で、光透過性が高い。従って、模様紙10の一面又は他面を透過光で目視観察したとき、即ち、光源と観察者との間に模様紙10をその一面又は他面が観察者と対向するように介在配置したときに、光透過性が最も高い透かし模様重複部20は、透過光によって相対的に明るく(色相にもよるが、例えば白っぽく)見え、光透過性が最も低い透かし模様非存在部23は、透過光によって相対的に暗く(色相にもよるが、例えば黒っぽく)見え、透かし模様非重複部21,22はこれらの中間の明るさで見える。
【0019】
また、模様紙10に存在する2種類の透かし模様非重複部21,22は、光透過性は互いに同レベルであるが、
図1に示すように、それらを構成する透かし模様11W,12W又は非透かし模様部の厚み方向における位置が互いに異なるため、観察者の視認角度によって見え方が異なる。即ち、透かし模様非重複部21は、透かし模様として、模様紙10の一面側を形成する紙層11に形成された透かし模様11Wのみを含むのに対し、透かし模様非重複部22は、透かし模様として、模様紙10の厚み方向中央に位置する紙層12に形成された透かし模様12Wのみを含み、該透かし模様12Wは非透かし模様部によって被覆されており、透かし模様非重複部21と透かし模様非重複部22とでは、透かし模様又は非透かし模様部の位置が異なっているところ、この透かし模様非重複部21,22間の違いに起因して、模様紙10を紙層11側(透かし模様を有している紙層側)から目視で観察した場合、反射光のみによって目視観察可能な視認角度では、透かし模様非重複部21のみが見え、反射光及び透過光の両方によって目視観察可能な視認角度では、透かし模様非重複部22のみが見え、透過光のみによって目視観察可能な視認角度では、透かし模様非重複部21,22の両方が見えるようになり得る。つまり、透かし模様非重複部21に適した視認角度と、透かし模様非重複部22に適した視認角度とは、一部が重複する場合はあるが、完全に同一とはならない。ここでいう、「透かし模様非重複部21に適した視認角度」とは、透かし模様非重複部21が目視で明確に観察できる視認角度を意味し、透かし模様非重複部22についても同じである。
【0020】
このように、模様紙10においては、厚み方向の位置が異なる複数の透かし模様11W,12Wが重複する部分20と重複しない部分21,22とが混在することによって、それらの部分20,21,22間の厚み差に起因する光透過度の差と、厚み方向の位置の違いに起因する視認角度の差とが生じるため、透かし模様11W,12Wにおいて複数の階調表現が可能であり、観察者の視認角度によって透かし模様が異なり、意匠性が高い。ここで、「観察者の視認角度によって透かし模様が異なる」とは、観察者が模様紙の視認角度を変化させつつこれを観察した場合に、透かし模様の消失若しくは出現又は色変化が起きたと観察者が認識することを意味する。尚、ここでいう「色変化」には、色相の変化のみならず、同一色相における濃淡の変化も含まれる。
【0021】
また、模様紙10の透かし模様11W,12W(透かし模様重複部20、透かし模様非重複部21,22)は、湿式抄紙法によって形成された紙層11,12に形成されているため、特許文献2に記載の如き、樹脂を主体とするインキを印刷方式又は塗布方式によって塗布してなる樹脂層に形成されている場合と比べて、目視したときの風合い(見た感じ)が、ぼんやりとしていて(はっきりとしておらず)、しなやか(やわらか)で、高級感のある風合いとなる。従って模様紙10は、前述した複数の階調表現が可能である点と相俟って、極めて特徴的な外観を有しており、その外観の特徴を活かして、包装用紙、装飾用紙、印刷用紙、偽造防止用紙等として好適に使用することができる。尚、図示の形態では透かし模様11W,12Wは前記材料欠如部分であったが、透かし模様11W,12Wが前記薄層部分であっても同様の効果が奏される。
【0022】
本発明の模様紙を構成する紙層は着色しても良い。紙層が天然パルプを主体とする無着色のものであれば、その無着色の紙層の色は通常、白色又は白色に近い色(準白色)であるが、紙層の原材料として染料や顔料等の着色料を用いることで、白色又は準白色以外の任意の色に着色することができる。紙層をそのような色に着色することで、透かし模様のカラー化が可能となり、それによって模様紙の意匠性が一層向上し得る。
【0023】
また、本発明の模様紙は、前述したように、透かし模様における複数の階調表現が可能であるため、紙層の色として2色以上を選択すると、その選択色の合成が可能となり、観察者が認識する色の数は3色以上となり得、より特徴的な視覚的効果を奏し得る。例えば、
図1に示す3層構造の模様紙10において、模様紙10の外面を形成する紙層11,13の色を何れも黄色とし、これら両紙層11,13に挟まれた紙層12の色を青色とした場合において、模様紙10を
図1(b)に示す如く、紙層11側(透かし模様を有している紙層側)から目視観察すると、透かし模様重複部20は、紙層13の黄色が透過光によって白っぽくなるために白色に見え、紙層11の透かし模様11Wのみからなる透かし模様非重複部21は、これと重複する紙層12の非透かし模様部の色である青色に見え、透かし模様12Wのみからなる透かし模様非重複部22は、これと重複する紙層11の非透かし模様部の色である黄色に見え、透かし模様非存在部23は、紙層11,13それぞれの非透かし模様部の色である黄色と紙層12の非透かし模様部の色である青色との合成により緑色に見える。
【0024】
このような、模様紙を目視観察したときの紙層の色の合成による視覚的効果をより一層高めて意匠性を向上させる観点から、相対的に厚み方向の内方に位置する紙層の方が外方に位置する紙層よりも色が濃いことが好ましい。つまり、相対的に厚み方向の内方に位置する紙層の色は濃色、相対的に厚み方向の外方に位置する紙層は淡色であることが好ましい。従って、3層以上の紙層が積層されてなる模様紙の少なくとも最外層は淡色が好ましいということになる。例えば、
図1に示す3層構造の模様紙10であれば、厚み方向の最外層に位置する紙層11,13が淡色(黄色)、厚み方向中央に位置する紙層12が濃色(青色)であることが好ましい。
【0025】
ここでいう、濃色と淡色の組み合わせには、1)対比する2色が互いに同色(同一色相)の組み合わせと、2)対比する2色の色相が互いに異なる組み合わせとが含まれる。
前記1)の場合、対比する2色において不透明度が相対的に低い方が淡色、不透明度が相対的に高い方が濃色である。この不透明度は、JIS P 8148で規定する方法による測定値で表すことができ、該測定値が相対的に小さい方が淡色、相対的に大きい方が濃色である。
前記2)の場合の濃色と淡色の組み合わせの具体例としては、青色(濃色)と黄色(淡色)、赤色(濃色)と黄色(淡色)、青色(濃色)と白色(淡色)、赤色(濃色)と白色(淡色)、等が挙げられる。
【0026】
本発明においては、透かし模様の平面視形状やパターンは特に制限されず、任意に設定することができる。例えば平面視において、所定方向に延びる線状の透かし模様が他列に形成されたパターンでも良く(
図2参照)、あるいは円形状、四角形形状等の閉じた形状の透かし模様が平面方向において散点状に分布したパターンでも良い(
図3参照)。ここでいう「閉じた形状」とは、透かし模様の平面視における輪郭線の始点と終点とが一致して、円、楕円、多角形等の二次元的に閉じた領域を形成することにより得られる形状を意味する。
図2及び
図3には、本発明の模様紙の実施形態、特に透かし模様パターンの実施形態が示されている。
図2及び
図3に示す実施形態については、
図1に示す模様紙10と異なる構成部分を主として説明し、同様の構成部分は同一の符号を付して説明を省略する。特に説明しない構成部分は、模様紙10についての説明が適宜適用される。
【0027】
図2に示す模様紙10Aにおいては、透かし模様11W,12Wがそれぞれ平面視直線状であり、その直線状の透かし模様11W,12Wは互いに交差あるいは直交する方向に連続的に延び、透かし模様全体として格子状をなしている。模様紙10Aにおいては、直線状の透かし模様11W,12Wの交点が透かし模様重複部20であり、直線状の透かし模様11W,12Wにおける該交点以外の部分が透かし模様非重複部21,22であり、直線状の透かし模様11W,12Wに囲まれた部分(格子の目の部分)が透かし模様非存在部23である。
【0028】
図3に示す模様紙10Bにおいては、透かし模様11W,12Wがそれぞれ閉じた形状であり、より具体的には平面視円形状である。模様紙10Bにおいては、模様紙10Bの外面を形成する紙層11(
図1参照)に存する多数の円形状の透かし模様11W(透かし模様非重複部21)が同心円状に配置されて1つの透かし模様パターンAを構成していると共に、紙層11よりも厚み方向の内側に位置する紙層12(
図1参照)に存する多数の円形状の透かし模様12W(透かし模様非重複部22)が該パターンAよりも大きな同心円状に配置されて1つの透かし模様パターンBを構成しており、両パターンA,Bどうしが一部重なっている。模様紙10Bにおいては、円形状の透かし模様11W,12Wの重複部分が透かし模様重複部20であり、円形状の透かし模様11W,12Wにおける該重複部分以外の部分が透かし模様非重複部21,22であり、円形状の透かし模様11W,12W以外の部分が透かし模様非存在部23である。また、模様紙10Bにおいては、透かし模様パターンAを構成する透かし模様11W(透かし模様非重複部21)と、透かし模様パターンBを構成する透かし模様12W(透かし模様非重複部22)とで、平面視における大きさ即ち面積が異なっており、前者の方が後者に比して面積が大きい。
【0029】
模様紙10A,10Bは何れも、透かし模様11W,12Wにおいて複数の階調表現が可能であり、観察者の視認角度によって透かし模様が異なり、意匠性が高いものであるが、特に模様紙10Bは、模様紙10Aよりもさらに視覚的効果に優れており、模様紙10Bは、「(1)模様紙10Bを透かし模様非重複部21のみに適した視認角度で観察した場合は、透かし模様非重複部21が透かし模様非重複部22よりも目視で明確に観察でき、(2)模様紙10Bを透かし模様非重複部22のみに適した視認角度で観察した場合は、透かし模様非重複部22が透かし模様非重複部21よりも目視で明確に観察でき、(3)模様紙10Bを、透かし模様非重複部21及び22の両方に適した視認角度で観察した場合は、両透かし模様非重複部21,22が共に目視で明確に観察できる。」、というような視覚的効果を発現しやすく、意匠性が非常に高い。つまり、模様紙10Bは、それを見る角度によって、透かし模様パターンAが透かし模様パターンBよりも明確になったり、あるいはその逆になったりし、また、両パターンA,Bの一方のみが見え他方は見えない、というような視覚的効果を発現し得る。この模様紙10Bの特徴的な視覚的効果は、特に前述した、「相対的に厚み方向の内方に位置する紙層の方が外方に位置する紙層よりも色が濃い」という構成の採用によって、一層発現しやすく且つ優れたものとなる。
【0030】
このように、模様紙10Bが特に視覚的効果に優れる理由は定かではないが、透かし模様11W,12Wが所定方向に連続した形状である模様紙10Aとの対比から、1)透かし模様11W,12Wが平面視において閉じた形状であること、及び2)各透かし模様11W,12Wの面積が比較的小さいことが、模様紙10Bの優れた視覚的効果に寄与していると推察される。従って、本発明の模様紙の好ましい一実施形態として、「模様紙の平面視において、閉じた形状の複数の透かし模様が存在し、各透かし模様の面積が800mm
2以下である」ものが挙げられる。ここで、「閉じた形状」については、前述した通りであり、図示の如き円形に制限されず、楕円形、多角形等から適宜選択可能である。また、閉じた形状の透かし模様の面積は、前述した視覚的効果の発現しやすさと透かし模様11W,12Wの視認性とのバランスの観点から、好ましくは1〜200mm
2、さらに好ましくは3〜100mm
2である。
【0031】
また、本発明者らの知見によれば、模様紙10Bの外面を形成する紙層11(最外層)に存する透かし模様11W(最外側透かし模様)の面積が、該紙層11よりも厚み方向内側に位置する紙層12に存する透かし模様12W(内側透かし模様)の面積と同じか、又はそれよりも大きいと、前述した特徴的な視覚的効果が発現しやすい。従って、本発明の模様紙の好ましい他の一実施形態として、「模様紙の外面を形成する紙層に存する透かし模様である、最外側透かし模様(例えば透かし模様11W)と、それよりも厚み方向内側の紙層に存する透かし模様である、内側透かし模様(例えば透かし模様12W)とは、面積が同じか、又は該最外側透かし模様の方が該内側透かし模様よりも面積が大きい」ものが挙げられる。前記最外側透かし模様の面積と前記内側透かし模様の面積との比率は、前者/後者として、好ましくは1〜100、さらに好ましくは2〜30である。尚、ここでいう「内側透かし模様」は、「模様紙の外面を形成する最外層以外の紙層」に存する透かし模様であり、
図1に示す紙層12Wの如き、最外層に隣接する紙層に存する透かし模様に制限されない。
【0032】
本発明は前記実施形態に制限されず、本発明の趣旨を変更しない範囲において種々変更可能である。例えば、
図1に示す模様紙10は、透かし模様の無い紙層13を含んで構成されていたが、本発明の模様紙は、光透過可能な紙層が3層以上積層され一体化され、且つ透かし模様を有する紙層のみが2層以上積層されてなる積層構造を有していれば良く、透かし模様の無い紙層を含まず、該模様紙を構成する複数の紙層は全て透かし模様を含んでいるものでも良い。
また、模様紙10においては、透かし模様の無い紙層13の片面側のみに、透かし模様を有する紙層のみが2層以上積層されてなる積層構造(紙層11,12の2層構造)が配されていたが、透かし模様の無い紙層の両面側それぞれに該積層構造が配されている形態も本発明に含まれる。その場合、透かし模様の無い紙層の一面側及び他面側それぞれの積層構造において、前述したように、複数の透かし模様が重複する部分と重複しない部分とが混在していれば良い。
また、特に、本発明の模様紙を偽造防止用紙として使用する場合には、公知の偽造防止用紙と同様に、偽造防止機能を有する部材を含有させても良い。そのような偽造防止機能部材としては、例えば、紫外線の照射で蛍光発色する顔料、真珠顔料、これらの顔料が練り込まれた合成繊維、帯状のスレッド、不織布、フィルム等が挙げられる。
前述した一の実施形態のみが有する部分は、すべて適宜相互に利用できる。