(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、加算回数などのパラメータの値は、磁気共鳴信号の収集量に直結するため、磁気共鳴信号のSNRに影響し、ひいては得られる画像の画質に影響を及ぼす。さらに、磁気共鳴信号の適正なSNRを担保するためには、加算回数の変化量に応じてマトリクスサイズ(matrix size)すなわち画像の解像度を変える必要があるが、それも手動で行わなければならない。つまり、所望のスキャン時間で良好な画質の画像が得られるようパラメータの値を最適化する場面において、現状では、操作者の経験や勘に頼らざるを得ず、経験の浅い操作者の場合には、良好な画質を安定して得られない場合や、調整に手間取る場合がある。特に、被検体の体内における水分子の拡散運動を画像化した拡散強調画像(Diffusion Weighted Image:DWI)を得る撮像法では、パラメータ値の調整の難易度が高く、その傾向は顕著である。
【0006】
このような事情により、磁気共鳴装置におけるスキャン条件、特には所望のスキャン時間で良好な画質の画像を得るためのパラメータ値の最適化を、操作者の経験や勘に頼ることなく容易にかつ安定に行うことができる技術が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の観点の発明は、
所望のスキャン時間の指定を受け付ける受付手段と、
前記指定の前に設定されている第1のスキャン条件を基に、スキャン時間またはスキャンにより得られる信号の信号雑音比に影響を及ぼすパラメータの値を調整することにより、スキャン時間が前記所望のスキャン時間と許容範囲内にて近似または一致し、かつ、前記信号の相対的な信号雑音比(SN比、S/N、またはSNRと同義)の最低値が前記第1のスキャン条件に基づいて見積もられた前記信号の相対的な信号雑音比の最低値と許容範囲内にて近似または一致するような第2のスキャン条件を探索する探索手段と、を備えたスキャン条件決定装置を提供する。
【0008】
ここで、スキャン時間に関する許容範囲は、例えば、1秒(sec)とすることができる。また、信号雑音比に関する許容範囲は、例えば、5%とすることができる。これらの許容範囲は、任意に設定が可能であり、これらの例に限定されない。
【0009】
第2の観点の発明は、
前記パラメータが、加算回数、y軸方向解像度、繰返時間、およびデータ収集パス回数(data acquisition path time or acquisition)の少なくとも1つを含む、上記第1の観点のスキャン条件決定装置を提供する。
【0010】
第3の観点の発明は、
前記探索手段が、
前記第1のスキャン条件に基づいて、該第1のスキャン条件にてスキャンした場合に得られる信号の相対的な信号雑音比の最低値を見積もる第1の見積手段と、
前記第1のスキャン条件を初期状態とし、その後更新される暫定的なスキャン条件に基づいて、該スキャン条件にてスキャンした場合のスキャン時間を見積もる第2の見積手段と、
前記暫定的なスキャン条件に基づいて、該スキャン条件にてスキャンした場合に得られる信号の相対的な信号雑音比の最低値を見積もる第3の見積手段と、
前記暫定的なスキャン条件によるスキャン時間と前記所望のスキャン時間との差分が許容範囲内に収まり、かつ、前記暫定的なスキャン条件による相対的な信号雑音比の最低値と前記第1のスキャン条件による相対的な信号雑音比の最低値との差分が許容範囲内に収まるまで、前記暫定的なスキャン条件に含まれる、加算回数、y軸方向解像度、繰返時間およびデータ収集パス回数の調整を繰返す繰返手段とを有する、上記第2の観点のスキャン条件決定装置を提供する。
【0011】
第4の観点の発明は、
前記第1のスキャン条件が、拡散強調画像を得るためのスキャン条件である、上記第3の観点のスキャン条件決定装置を提供する。
【0012】
第5の観点の発明は、
前記第3の見積手段が、次式を用いて相対的な信号雑音比の値を求める、上記第4の観点のスキャン条件決定装置を提供する。
【0013】
ここで、eは指数関数、bはb値、Dは拡散係数、NEXは加算回数、yresはy軸方向解像度をそれぞれ表している。
【0014】
第6の観点の発明は、
前記暫定的なスキャン条件が、対応するb値が互いに異なる複数のスキャンを行うためのものであり、
前記第2の見積手段が、前記複数のスキャンの各々に対するスキャン時間の合算値を前記暫定的なスキャン条件によるスキャン時間として見積もり、
前記第3の見積手段が、前記複数のスキャンの各々に対する相対的な信号雑音比の値を求め、該求められた相対的な信号雑音比の値の中で最も低い値を前記暫定的なスキャン条件による相対的な信号雑音比の最低値として見積もる、上記第4の観点または第5の観点のスキャン条件決定装置を提供する。
【0015】
第7の観点の発明は、
前記繰返手段が、
前記所望のスキャン時間が前記第1のスキャン条件によるスキャン時間より小さい場合に、相対的な信号雑音比の値が最も高いb値に対応するスキャンの加算回数を減らし、前記第3の見積手段により見積もられた相対的な信号雑音比の最低値が前記第1のスキャン条件による相対的な信号雑音比の最低値に近づくよう、前記y軸方向解像度を調整し、スキャン時間が短くなるよう繰返時間とデータ収集パス回数とを調整するという処理を繰り返す、上記第6の観点のスキャン条件決定装置を提供する。
【0016】
第8の観点の発明は、
前記繰返手段が、
前記所望のスキャン時間が前記第1のスキャン条件によるスキャン時間より大きい場合に、前記特徴量の値が最も低いb値に対応するスキャン条件の加算回数を増やし、前記第3の見積手段により見積もられた前記特徴量の最低値が前記第1のスキャン条件による前記特徴量の最低値に近づくよう、前記y軸方向解像度を調整し、スキャン時間が短くなるよう繰返時間とデータ収集パス回数とを調整するという処理を繰り返す、上記第6の観点または第7の観点のスキャン条件決定装置を提供する。
【0017】
第9の観点の発明は、
前記第1のスキャン条件が、予め記憶されているスキャン条件である、上記第1の観点から第8の観点のいずれか一つの観点のスキャン条件決定装置を提供する。
【0018】
第10の観点の発明は、
上記第1の観点から第9の観点のいずれか一つの観点のスキャン条件装置を備えた磁気共鳴装置を提供する。
【0019】
第11の観点の発明は、
所望のスキャン時間の指定を受け付ける受付ステップ(step)と、
前記指定の前に設定されている第1のスキャン条件を基に、スキャン時間またはスキャンにより得られる信号の信号雑音比に影響を及ぼすパラメータの値を調整することにより、スキャン時間が前記所望のスキャン時間と許容範囲内にて近似または一致し、かつ、スキャンにより得られる信号の相対的な信号雑音比の最低値が前記第1のスキャン条件に基づいて見積もられた前記信号の相対的な信号雑音比の最低値と許容範囲内にて近似または一致するような第2のスキャン条件を探索する探索ステップと、を有するスキャン条件決定方法を提供する。
【0020】
第12の観点の発明は、
所望のスキャン時間の指定を受け付ける受付処理と、
前記指定の前に設定されている第1のスキャン条件を基に、スキャン時間またはスキャンにより得られる信号の信号雑音比に影響を及ぼすパラメータの値を調整することにより、スキャン時間が前記所望のスキャン時間と許容範囲内にて近似または一致し、かつ、スキャンにより得られる信号の相対的な信号雑音比の最低値が前記第1のスキャン条件に基づいて見積もられた前記信号の相対的な信号雑音比の最低値と許容範囲内にて近似または一致するような第2のスキャン条件を探索する探索処理と、をコンピュータ(computer)に実行させるためのプログラム(program)を提供する。
【発明の効果】
【0021】
上記観点の発明によれば、スキャン時間が所望のスキャン時間であり、かつ、スキャンにより得られる信号の信号雑音比が事前に設定されているスキャン条件によるものと同等レベルで担保されるスキャン条件を自動で探索するので、操作者は、このようなスキャン条件を手動で最適化する作業を省くことができ、スキャン条件の最適化を容易にかつ安定に行うことができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、発明を実施するための形態について説明する。なお、発明は、以下の形態に限定されることはない。
【0024】
図1は、発明の一実施形態である磁気共鳴イメージング装置の概略図である。
【0025】
磁気共鳴イメージング(MRI:Magnetic Resonance Imaging)装置100は、磁場発生装置2、テーブル(table)3、クレードル(cradle)4、受信コイル(receiving coil)5などを有している。
【0026】
磁場発生装置2は、被検体13が収容されるボア(bore)21と、超伝導コイル22と、勾配コイル23と、送信コイル24とを有している。超伝導コイル22は静磁場B0を印加し、勾配コイル23は、周波数エンコード方向(frequency encode direction)、位相エンコード方向(phase encode direction)、およびスライス(slice)選択方向に勾配磁場を印加する。また、送信コイル24はRFパルス(Radio Frequency Pulse)を送信する。なお、超伝導コイル22の代わりに、永久磁石を用いてもよい。また、周波数エンコード方向は、x軸方向ともいい、位相エンコード方向は、y軸方向ともいう。
【0027】
クレードル4は、テーブル3からボア21に移動できるように構成されている。クレードル4によって、被検体13はボア21に搬送される。
【0028】
受信コイル5は、被検体13の撮像部位13aに取り付けられている。受信コイル5は、撮像部位13aからの磁気共鳴信号を受信する。撮像部位13aは、例えば、頭部、胸部、腹部などが考えられる。
【0029】
MRI装置100は、さらに、シーケンサ(sequencer)6、送信器7、勾配磁場電源8、受信器9、中央処理装置10、入力装置11、および表示装置12を有している。
【0030】
シーケンサ6は、中央処理装置10の制御を受けて、スキャンを実行するための情報を送信器7および勾配磁場電源8に送る。具体的には、シーケンサ6は、中央処理装置10の制御を受けて、RFパルスの情報(中心周波数、バンド幅など)を送信器7に送り、勾配磁場の情報(勾配磁場の強度など)を勾配磁場電源8に送る。
【0031】
送信器7は、シーケンサ6から送られた情報に基づいて、送信コイル24を駆動する駆動信号を出力する。
【0032】
勾配磁場電源8は、シーケンサ6から送られた情報に基づいて、勾配コイル23を駆動する駆動信号を出力する。
【0033】
受信器9は、受信コイル5で受信された磁気共鳴信号を信号処理し、中央処理装置10に伝送する。
【0034】
中央処理装置10は、シーケンサ6および表示装置12に必要な情報を伝送したり、受信器9から受け取った信号に基づいて画像を再構成したりするなど、MRI装置100の各種の動作を実現するように、MRI装置100の各部の動作を制御する。
【0035】
また、中央処理装置10は、スキャン条件記憶部101、スキャン条件呼出部102、スキャン時間指定受付部103、スキャン条件探索部104などを有している。
【0036】
スキャン条件記憶部101は、1つまたは複数のスキャン条件を記憶している。スキャン条件記憶部101は、本例では、少なくとも、拡散強調画像を得るためにある程度最適化されたスキャン条件を記憶している。この拡散強調画像を得るためのスキャン条件は、例えば、MRI装置の提供元が用意したもの、あるいは、使用者側がそれをベース(base)に若干の変更を加えたものである。なお、スキャン条件は、プロトコル(protocol)などとも呼ばれる。
【0037】
スキャン条件呼出部102は、スキャン条件記憶部101に記憶されているスキャン条件を読み出して設定する。設定されるスキャン条件を、ここでは、第1のスキャン条件R1とする。本例では、拡散強調画像を得るためにある程度最適化されたものを読み出す。スキャン条件の読出しは、操作者14による操作に応答して行うようにしてもよいし、スキャン条件決定画面を表示させる際に自動的に行うようにしてもよい。
【0038】
スキャン時間指定受付部103は、操作者14による所望のスキャン時間STdの指定を受け付ける。
【0039】
スキャン条件探索部104は、スキャン時間が、指定された所望のスキャン時間STdであり、画質が良好な拡散強調画像が得られるよう最適化されたスキャン条件を探索する。より具体的には、所望のスキャン時間STdの指定の前に設定されている第1のスキャン条件R1を基に、加算回数NEX、y軸方向解像度yres、繰返時間TR、およびデータ収集パス回数Acqの値を調整することにより、スキャン時間が所望のスキャン時間STdと許容範囲内にて近似または一致し、かつ、スキャンにより得られる磁気共鳴信号のSNRの最低値が第1のスキャン条件R1に基づいて見積もられた磁気共鳴信号の相対的なSNRの最低値と許容範囲内にて近似または一致するような第2のスキャン条件を探索する。
【0040】
スキャン条件探索部104は、基準SNR見積部105、暫定スキャン時間見積部106、暫定SNR見積部107、およびパラメータ調整繰返部108を有している。
【0041】
基準SNR見積部105は、スキャン条件を最適化する前の元の第1のスキャン条件R1にてスキャンした場合に得られる磁気共鳴信号の相対的なSNRの最悪値(最低値)SNRmin1を見積もり、これを磁気共鳴信号の相対的なSNRの基準として記憶する。
【0042】
暫定スキャン時間見積部106は、暫定的なスキャン条件Rtempに基づいて、このスキャン条件にてスキャンした場合に要するスキャン時間を、暫定的なスキャン時間STtempとして見積もる。暫定的なスキャン条件Rtempとは、スキャン時間を最適化する前の元の第1のスキャン条件R1を初期状態とし、その後、最適化された第2のスキャン条件R2を探索する際に更新されるスキャン条件である。
【0043】
暫定SNR見積部107は、暫定的なスキャン条件Rtempに基づいて、このスキャン条件にてスキャンした場合に得られる磁気共鳴信号の相対的なSNRを、b値ごとに算出する。
【0044】
パラメータ調整繰返部108は、磁気共鳴信号の相対的なSNRを上記基準としたSNRmin1とほぼ同じレベルで保持しつつ、暫定的なスキャン時間STtempが所望のスキャン時間STdに十分近づくまで、暫定的なスキャン条件Rtempにおける特定のパラメータの値に対して調整を繰り返す。より詳しくは、暫定的なスキャン条件Rtempによる暫定的なスキャン時間STtempと所望のスキャン時間STdとの差分が許容範囲内に収まり、かつ、暫定的なスキャン条件Rtempによる磁気共鳴信号の相対的なSNRの最低値SNRmin_tempと、初期状態であった元の第1のスキャン条件R1による相対的なSNRの最低値SNRmin1との差分が許容範囲内に収まるまで、暫定的なスキャン条件Rtempに含まれる、加算回数NEX、y軸方向解像度yres、繰返時間TR、およびデータ収集パス回数Acqの調整を繰返す。
【0045】
中央処理装置10は、例えばコンピュータによって構成されており、所定のプログラムを実行させることにより、これら各部として機能する。なお、スキャン時間指定受付部103、スキャン条件探索部104、基準SNR見積部105、暫定スキャン時間見積部106、暫定SNR見積部107、およびパラメータ調整繰返部108は、それぞれ、発明における指定受付手段、探索手段、第1の見積手段、第2の見積手段、第3の見積手段、および繰返手段の一例である。
【0046】
入力装置11は、操作者14の操作に応じて、種々の命令を中央処理装置10に入力する。表示装置12は種々の情報を表示する。
【0047】
図2は、スキャンを行うときのMRI装置100の処理フロー(flow)を示す図である。
【0048】
ステップ(step)S1では、スキャン条件決定画面の表示操作を受け付ける。具体的には、操作者14が、先ず、表示装置12に、拡散強調画像取得用のスキャン条件を決定するときの画面(スキャン条件決定画面)を表示させる操作を行う。入力装置11は、その操作を受け付け、操作情報を中央処理装置10に送る。
【0049】
ステップS2では、スキャン条件を読み出す。具体的には、スキャン条件読出部102が、スキャン条件決定画面の表示に先んじて、スキャン条件記憶部101に予め記憶されているスキャン条件を読み出して設定する。ここで読み出されて設定される第1のスキャン条件R1は、拡散強調画像を取得するために用意されたものであり、各パラメータの値がある程度最適化されている。例えば、各パラメータの値は、スキャンによって収集される磁気共鳴信号のSNRやスキャンに要するスキャン時間、画像の解像度など、種々の要素が適当にバランスされている。
【0050】
ステップS3では、スキャン条件決定画面を表示する。具体的には、中央処理装置10が、スキャン条件決定画面を表示装置12に表示させる。スキャン条件決定画面には、ステップS2で設定された第1のスキャン条件R1を構成する多数のパラメータの値が表示される。
【0051】
図3は、スキャン条件決定画面の一例を示す図である。
【0052】
図3の例では、第1のスキャン条件R1を構成する多数のパラメータについて入力欄または表示欄が示されている。これら多数のパラメータの入力欄または表示欄には、第1のスキャン条件R1を構成する各パラメータの値やそれらの値から算出される値が初期値としてそれぞれ表示されている。
【0053】
多数のパラメータには、例えば、撮影断面(Scan Plane)、周波数エンコード方向のFOV(Freq. FOV)、スライス厚(Slice Thickness)、スライス間隔(Spacing)、周波数エンコード方向(Freq. Dir)、繰返時間(TR)、スライス枚数(#Slices)、エコー時間(TE)、一回のスキャンで設定可能なエコー時間の数(# of TE(s) Per Scan)、エコートレイン長(echo train length)、反転時間(Inv. time)、周波数エンコード方向のマトリクス(matrix)の数(Frequency)またはx軸方向解像度(xres)、位相エンコード方向のマトリクスの数(Phase)またはy軸方向解像度(yres)、加算回数(NEX)、バンド幅(Band Width)、データ収集パス回数(Acquisition)などが含まれる。
【0054】
また、多数のパラメータには、b値(b value)と呼ばれるパラメータが含まれる。b値は、拡散強調画像を得るためのスキャン条件において重要なパラメータであり、MPG(Motion Probing Gradient)を印加する強さを表したもの(単位はs/mm
2)である。b値が大きいほど、拡散がより強調された画像が得られる。2つ以上の異なるb値にて撮像すれば、T2の影響を排除して、見かけの拡散係数(apparent diffusion coefficient:ADC)を求めることができる。本例では、b値が互いに異なる2つの拡散強調画像を得ることを想定する。また、加算回数NEXは、b値ごとに別々に設定し、その他のパラメータの値は共用することを想定する。したがって、本例にて扱うスキャン条件は、第1の拡散強調画像を得るための第1のb値b1と第1の加算回数NEX1とによるスキャンと、第2の拡散強調画像を得るための第2のb値b2と第2の加算回数NEX2とによるスキャンとを行うためのものとなる。
【0055】
なお、第1のスキャン条件R1を構成するパラメータの値に関し、第1のb値b1と第2のb値b2は、例えば、50と500である。第1の加算回数NEX1と第2の加算回数NEX2は、例えば、1と2である。y軸方向解像度yresは、例えば、128、データ収集パス回数Acqは、例えば、1である。
【0056】
ここで、パラメータとして、スキャン時間、b値、加算回数、y軸方向解像度、繰返時間、およびデータ収集パス回数に着目する。
【0057】
スキャン条件決定画面には、スキャン時間ST、第1のb値b1、および第2のb値b2の値をそれぞれ入力するための入力欄C1〜C3が表示されている。また、スキャン条件決定画面には、第1の加算回数NEX1、第2の加算回数NEX2、y軸方向解像度yres、繰返時間TR、およびデータ収集パス回数Acqの値をそれぞれ表示するための表示欄C4〜C8が表示されている。
【0058】
スキャン時間ST、第1のb値b1、および第2のb値b2については、これらの入力欄C1〜C3を用いて直接的に値を入力・設定することができる。第1の加算回数NEX1、第2の加算回数NEX2、y軸方向解像度yres、繰返時間TR、およびデータ収集パス回数Acqについては、操作者14が直接的に値を入力・設定することはできない。
【0059】
ステップS4では、所望のスキャン時間STdの指定を受け付ける。具体的には、操作者14が、スキャン時間STの入力欄C1に、所望のスキャン時間STdを入力して指定する。スキャン時間指定受付部103は、その指定を受け付け、指定された所望のスキャン時間STdを、スキャン時間の目標に設定する。
【0060】
図4は、所望のスキャン時間入力後のスキャン条件決定画面の一例を示す図である。本例では、スキャン時間の入力欄C1に所望のスキャン時間STdとして「0:16」(0分16秒)が入力されている。
【0061】
ステップS5では、スキャン条件を探索する。具体的には、スキャン条件探索部104が、スキャン時間が所望のスキャン時間STdであり、良好な画質の拡散強調画像が得られるよう最適化された第2のスキャン条件R2を探索する。このスキャン条件探索処理の詳細については、後述する。
【0062】
ステップS6では、本スキャン条件を設定する。中央処理装置10が、探索された第2のスキャン条件R2を本スキャン条件として設定する。
【0063】
ステップS7では、スキャンを行う。具体的に、中央処理装置10が、本スキャン条件に基づいて各部を制御することにより、スキャンを実行させる。
【0064】
ステップS8では、画像を再構成する。具体的には、中央処理装置10が、スキャンによって得られた磁気共鳴信号のデータに基づいて、第1のb値b1による第1の拡散強調画像、および第2のb値b2による第2の拡散強調画像を生成する。また、中央処理装置10は、これら2つの拡散強調画像に基づいて、各位置の拡散係数を画像化したADCマップ(Apparent Diffusion Coefficient map)を生成する。
【0065】
ステップS9では、画像を表示する。具体的には、中央処理装置10が、表示装置12を制御して、生成された画像を画面に表示させる。
【0066】
ここで、上記のスキャン条件探索処理について詳しく説明する。このスキャン条件探索処理では、スキャン時間STが、操作者14によって指定された所望のスキャン時間STdであり、かつ、磁気共鳴信号の相対的なSNRが、所望のスキャン時間STdが指定される前に設定されている第1のスキャン条件R1による磁気共鳴信号の相対的なSNRの最低値SNRmin1とほぼ同レベルで担保されるような第2のスキャン条件R2を探索する。
【0067】
具体的には、スキャン条件探索部105が、第1のスキャン条件R1を基準に、加算回数NEX、y軸方向解像度yres、繰返時間TR、およびデータ収集パス回数Acqの値を調整することにより、スキャン時間STが所望のスキャン時間STdと許容範囲内にて一致し、かつ、磁気共鳴信号の相対的なSNRの最低値が、第1のスキャン条件R1により見積もられた最低値SNRmin1と許容範囲内にて一致するような第2のスキャン条件R2を探索する。
【0068】
以下、このスキャン条件探索処理の流れについて説明する。
【0069】
図5は、スキャン条件探索処理のフローを示す図である。
【0070】
ステップP1では、暫定的なスキャン条件を設定する。具体的には、スキャン条件探索部104が、第1のスキャン条件R1を初期状態とし、後に更新される暫定的なスキャン条件Rtempを設定する。
【0071】
ステップP2では、暫定的なSNRおよび基準SNRを見積もる。具体的には、基準SNR見積部105が、暫定的なスキャン条件Rtempに基づき、このスキャン条件にてスキャンした場合に得られる磁気共鳴信号の相対的なSNRの最悪値(最低値)を見積もる。なお、この時点では、暫定的なスキャン条件Rtempは初期状態にあり、第1のスキャン条件R1そのものである。つまり、ここで見積もられた磁気共鳴信号の相対的なSNRの最悪値(最低値)は、第1のスキャン条件R1による相対的なSNRの最悪値となる。ここでは、この値を、基準SNRmin1として記憶する。
【0072】
一般的に、磁気共鳴信号の相対的なSNRの値は、例えば次式を用いて求めることができる。
【0073】
ここで、eは指数関数、bはb値、Dは拡散係数、NEXは加算回数、yresはy軸方向解像度をそれぞれ表している。拡散係数Dは、典型的な値、例えば0.001と仮定する。
【0074】
本例では、暫定的なスキャン条件Rtempは、第1のb値b1によるスキャンと、第2のb値b2によるスキャンとを行うためのものである。また、加算回数NEXは、b値ごとに用意されているので、暫定的なスキャン条件Rtempには、第1のb値b1によるスキャンに対する第1の加算回数NEX1_tempと、第2のb値b2によるスキャンに対する第2の加算回数NEX2_tempとが含まれる。そこで、ここでは、次式を用いて、暫定的なスキャン条件Rtempにおける第1のb値b1に対応したスキャンによる磁気共鳴信号の相対的なSNR(SNR1temp)と、第1のスキャン条件R1における第2のb値b2に対応したスキャンによる磁気共鳴信号の相対的なSNR(SNR2temp)とを求める。
【0076】
そして、暫定的なスキャン条件Rtempによる磁気共鳴信号の相対的なSNRの最悪値(最低値)SNRmin_tempを、次式を用いて求める。
【0077】
SNRmin_temp=min{SNR1temp,SNR2temp} …(4)
ここで、minは最小値を取る関数である。
【0078】
上述したように、暫定的なスキャン条件Rtempは、この時点で初期状態であるから、初めに設定された第1のスキャン条件R1そのものである。そこで、ここで求めたSNRmin_tempを、第1のスキャン条件R1による磁気共鳴信号の相対的なSNRの最悪値(最低値)SNRmin1として記憶する。
【0079】
ステップP3では、暫定的なスキャン時間を見積もる。具体的には、暫定スキャン時間見積部106が、暫定的なスキャン条件Rtempに基づいて暫定的なスキャン時間STtempを見積もる。暫定的なスキャン時間STtempは、第1のb値b1に対応したスキャンによるスキャン時間STtemp_b1と、第2のb値b2に対応したスキャンによるスキャン時間STtemp_b2との合算値となる。
【0080】
ステップP4では、暫定的なスキャン時間STtempから目標となる所望のスキャン時間STdを減算して、その差に相当する時間差ΔSTを求める。
【0081】
ΔST=STtemp−STd …(5)
【0082】
ステップP5では、時間差ΔST>0という条件を満たすか否かを判定する。満たすときは、スキャン時間STがより短くなるようなパラメータ値の調整が必要であると判断し、ステップP6に進む。一方、満たさないときは、スキャン時間STがより長くなるようなパラメータ値の調整が必要であると判断し、ステップP7に進む。
【0083】
ステップP6では、スキャン時間STを短くするための調整を行う。具体的には、暫定的なスキャン条件Rtempにおいて、見積もられた相対的なSNRが最も高いスキャンにおける加算回数NEXを1だけ減らす。言い換えると、見積もられた相対的なSNRが最も高いb値に対応する加算回数NEXを1だけ減らす。これは、暫定的なスキャン条件Rtempにおいて、磁気共鳴信号のSNRに最も余裕のあるスキャンに対する加算回数NEXを減らすことにより、そのSNRを下げる代わりにスキャン時間STを短くする調整を行うことを意味する。この処理を終えたら、ステップP8に進む。
【0084】
ステップP7では、スキャン時間STを長くするための調整を行う。具体的には、暫定的なスキャン条件Rtempにおいて、見積もられた相対的なSNRが最も低いスキャンにおける加算回数NEXを1だけ増やす。言い換えると、見積もられた相対的なSNRが最も低いb値に対応する加算回数NEXを1だけ増やす。これは、暫定的なスキャン条件Rtempにおいて、磁気共鳴信号のSNRに最も余裕のないスキャンに対する加算回数NEXを増やすことにより、そのSNRを上げる代わりにスキャン時間STを長くする調整を行うことを意味する。この処理を終えたら、ステップP8に進む。
【0085】
ステップP8では、暫定SNR見積部107が、暫定的なスキャン条件Rtempに基づき、b値ごとに磁気共鳴信号の相対的なSNRを算出する。
【0087】
そして、暫定的なスキャン条件Rtempによる磁気共鳴信号の相対的なSNRの最悪値(最低値)SNRmin_tempを求める。
【0088】
SNRmin_temp=min{SNR1temp,SNR2temp} …(8)
【0089】
ステップP9では、ステップP8で算出された、b値ごとの相対的なSNRのうちの最悪値が、初期状態の第1のスキャン条件R1による相対的なSNRの最悪値、すなわち基準SNRmin1と、所定の許容範囲内で近似または一致するよう、y軸方向解像度yresを調整する。ここでの許容範囲は、例えば、基準SNRmin1の5%とすることができる。ちなみに、x軸方向解像度xres(周波数エンコード方向のマトリクス数Freq)は、画像の歪に影響するため、ここでは変化させない。
【0090】
ステップP10では、暫定的なスキャン時間STtempが最短となるように、繰返時間TRとデータ収集パス回数ACとを最適化する処理を行う。
【0091】
ステップP11では、暫定的なスキャン時間STtempが目的である所望のスキャン時間STdに十分近いか否かを判定する。判定には、例えば、暫定的なスキャン時間STtempが、所望のスキャン時間STdと、所定の許容範囲内で近似または一致するか否かを判定する。つまり、これらスキャン時間の差分の閾値判定等により行う。ここでの許容範囲は、例えば、1秒(sec)とすることができる。この判定において、暫定的なスキャン時間STtempが所望のスキャン時間STdに十分近いと判定された場合には、処理を終了する。十分近いとはいえないと判定された場合には、ステップP4に戻って処理を継続する。
【0092】
このようにして探索された第2のスキャン条件R2を構成する各パラメータの値は、例えば、
図4のスキャン条件決定画面に示されるような値となる。すなわち、第2のスキャン条件R2を構成するパラメータの値に関し、第1のb値b1と第2のb値b2は、例えば、50と500のままである。第1の加算回数NEX1と第2の加算回数NEX2は、例えば、1と1である。y軸方向解像度yresは、例えば、96、データ収集パス回数Acqは、例えば、2である。
図3に示す第1のスキャン条件R1の例との比較では、第2の加算回数NEX2は、2から1に減っている。y軸方向解像度yresは、128から96に減っている。データ収集パス回数Acqは、1から2に増えている。
【0093】
図6は、本提案法により得られた拡散強調画像の例を示す図である。本例は、被検者の腹部における同一スライスの断層像である。第1のb値b1=50、第2のb値b2=500であり、いずれのb値においても一回の息止めで撮像したものである。左側は、第1のb値b1=50のときの画像群、右側は、第2のb値b2=500のときの画像群である。各画像の上部には、スキャン時間(時:分)が記載されている。各画像の下部には、第1のb値b1=50のときの加算回数NEX1と、第2のb値b2=500のときの加算回数NEX2とが記載されている。これらの画像を見ると、本提案法によれば、スキャン時間STを所望のスキャン時間に変更するだけで、加算回数NEX、y軸方向解像度yres、繰返時間TR、およびデータ収集パス回数ACが最適化され、磁気共鳴信号のSNRが適正に担保された良好な画質の画像を安定して得られることが分かる。
【0094】
以上、本実施形態によれば、スキャン時間が、指定された所望のスキャン時間と許容範囲内で一致し、磁気共鳴信号のSNRが、元のスキャン条件によるSNRと許容範囲内で一致するスキャン条件を自動で求めて決定することができ、操作者14は、所望のスキャン時間で良好な画質の画像が得られるスキャン条件を、操作者の経験や勘に頼らずに、容易かつ安定に設定することができる。その結果、操作者の負担が軽減されるだけでなく、スキャン条件の設定に要する時間を削減することができ、また、画像の画質低下によりスキャンのやり直しを行う機会を低減することができ、ワークフロー(workflow)を改善することができる。
【0095】
なお、発明の実施形態は、上記の実施形態に限定されず、発明の趣旨を逸脱しない範囲内において、種々の変形が可能である。
【0096】
例えば、上記の実施形態では、互いに異なる2つb値について撮像を行う場合について説明しているが、互いに異なる3つ以上のb値について撮像を行うようにしてもよい。
【0097】
また例えば、上記の実施形態では、拡散強調画像を得る場合について説明しているが、発明は、その他の画像を得る場合についても適用することができる。
【0098】
また、上記の実施形態は、磁気共鳴イメージング装置であるが、本装置と同様な方法でスキャン条件を決定するスキャン条件決定方法や、スキャン条件決定装置も発明の一実施形態である。また、そのようなスキャン条件決定方法による処理をコンピュータに実行させるためのプログラムや、このようなプログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体もまた、発明の一実施形態である。