特許第6281023号(P6281023)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6281023赤外線カットフィルタ、撮像装置、及び赤外線カットフィルタの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6281023
(24)【登録日】2018年1月26日
(45)【発行日】2018年2月14日
(54)【発明の名称】赤外線カットフィルタ、撮像装置、及び赤外線カットフィルタの製造方法
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/22 20060101AFI20180205BHJP
   G02B 5/26 20060101ALI20180205BHJP
   H01L 27/14 20060101ALI20180205BHJP
【FI】
   G02B5/22
   G02B5/26
   H01L27/14
【請求項の数】10
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2017-517813(P2017-517813)
(86)(22)【出願日】2016年7月8日
(86)【国際出願番号】JP2016003254
(87)【国際公開番号】WO2017006571
(87)【国際公開日】20170112
【審査請求日】2017年3月30日
(31)【優先権主張番号】特願2015-137675(P2015-137675)
(32)【優先日】2015年7月9日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004008
【氏名又は名称】日本板硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107641
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 耕一
(74)【代理人】
【識別番号】100163463
【弁理士】
【氏名又は名称】西尾 光彦
(72)【発明者】
【氏名】久保 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】新毛 勝秀
【審査官】 濱野 隆
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−052482(JP,A)
【文献】 特開2009−242650(JP,A)
【文献】 特開2011−203467(JP,A)
【文献】 特開2014−197170(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/22
G02B 5/26
H01L 27/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
赤外線カットフィルタであって、
当該赤外線カットフィルタのカットオフ波長に対し50nm小さい波長と前記カットオフ波長に対し50nm大きい波長との間の波長域で、波長の増加に従って、分光透過率が70%以上から50%以下に低下するように有機色素を含有している、有機色素含有層と、
ホスホン酸銅の微粒子を含有しているホスホン酸銅含有層と、を備え、
450nm〜600nmの波長域の全体において70%以上の分光透過率を有し、
800nm〜1000nmにおける平均透過率が5%以下である、
赤外線カットフィルタ。
【請求項2】
500nm〜580nmの波長域の全体において80%以上の分光透過率を有する、請求項1に記載の赤外線カットフィルタ。
【請求項3】
前記カットオフ波長は、620nm〜680nmの波長域にある、請求項1又は2に記載の赤外線カットフィルタ。
【請求項4】
前記カットオフ波長より100nm大きい波長における分光透過率が3%以下である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の赤外線カットフィルタ。
【請求項5】
前記有機色素含有層の厚みは、0.5μm〜5μmである、請求項1〜のいずれか1項に記載の赤外線カットフィルタ。
【請求項6】
当該赤外線カットフィルタの厚み方向において、前記有機色素含有層と前記ホスホン酸銅含有層との間に形成された中間保護層をさらに備えた、請求項1〜のいずれか1項に記載の赤外線カットフィルタ。
【請求項7】
前記中間保護層は、ポリシロキサンを含む、請求項に記載の赤外線カットフィルタ。
【請求項8】
前記中間保護層は、エポキシ樹脂を含む、請求項又はに記載の赤外線カットフィルタ。
【請求項9】
請求項1〜のいずれか1項に記載の赤外線カットフィルタと、
前記赤外線カットフィルタを透過した光が入射する撮像素子と、を備えた、
撮像装置。
【請求項10】
赤外線カットフィルタの製造方法であって、
前記赤外線カットフィルタは、
当該赤外線カットフィルタのカットオフ波長に対し50nm小さい波長と前記カットオフ波長に対し50nm大きい波長との間の波長域で、波長の増加に従って、分光透過率が70%以上から50%以下に低下するように有機色素を含有している、有機色素含有層と、
ホスホン酸銅の微粒子を含有しているホスホン酸銅含有層と、を備え、かつ、
450nm〜600nmの波長域の全体において70%以上の分光透過率を有し、
前記赤外線カットフィルタの800nm〜1000nmにおける平均透過率が5%以下であり、
前記有機色素を含有する塗布液をスピンコーティングすることによって前記有機色素含有層を形成する、
赤外線カットフィルタの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、赤外線カットフィルタ、撮像装置、及び赤外線カットフィルタの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
デジタルカメラなどの撮像装置において、撮像素子として、CCD(Charge Coupled Device)やCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)などのSi(シリコン)を用いた半導体素子が使用されている。Siを用いた撮像素子は、赤外線(特に近赤外線)に対する受光感度を有し、人間の視感度とは異なる波長特性を有する。このため、撮像装置において、撮像素子から得られる画像が人間の認識した画像に近づくように、撮像素子の前方に赤外線カットフィルタが配置されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、吸収型カットフィルタ(光吸収素子)と、吸収型カットフィルタの表面に設けられた反射型カットコート(干渉膜)とを備える複合フィルタが記載されている。
【0004】
特許文献2には、赤外線吸収体と赤外線反射体とが接着されて形成されている赤外線カットフィルタが記載されている。赤外線吸収体は、赤外線吸収ガラスの一主面に反射防止膜(ARコート)が形成されることによって作製されている。赤外線吸収ガラスは、銅イオン等の色素を分散させた青色ガラスである。反射防止膜は、赤外線吸収ガラスの一主面に対して、MgF2からなる単層、Al22とZrO2とMgF2とからなる多層膜、及びTiO2とSiO2とからなる多層膜のいずれかの膜を真空蒸着装置によって真空蒸着することによって形成されている。また、赤外線反射体は、透明基板の一主面に赤外線反射膜が形成されることによって作製されている。赤外線反射膜は、TiO2などの高屈折率材料からなる第1薄膜と、SiO2などの低屈折率材料からなる第2薄膜とが交互に複数積層された多層膜である。赤外線反射膜は、真空蒸着によって形成されている。
【0005】
特許文献3には、透明樹脂中に所定のジイモニウム系色素を含有する近赤外線吸収層を有する光学フィルムが記載されている。特許文献3の表1によれば、実施例に係る光学フィルムの850nmにおける近赤外線の透過率は10%を超えている。
【0006】
特許文献4には、所定のリン酸エステル化合物及び銅イオンより成る成分を含有し、リン原子の含有量が銅イオン1モルに対して0.4〜1.3モルであり、銅イオンの含有量が2〜40重量%である近赤外線光吸収層を備えた、光学フィルタが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001−42230号公報
【特許文献2】国際公開第2011/158635号
【特許文献3】特開2008−165215号公報
【特許文献4】特開2001−154015号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1の反射型カットコート及び特許文献2の赤外線反射膜のように、干渉膜による反射を利用して赤外線をカットする場合、赤外線遮断特性が光線の入射角によって変化する可能性がある。このため、例えば、得られた画像の周辺部分で青みが強くなるなど、得られた画像の中心部分における色味と、得られた画像の周辺部分における色味とが異なる現象が発生する可能性がある。また、反射を利用して赤外線をカットするコーティングは、多くの場合は、真空蒸着又はスパッタリングなどによって形成する必要があり、赤外線カットフィルタの製造が煩雑である。
【0009】
特許文献3に記載の技術において、所定のジイモニウム系色素が吸収可能な赤外線の波長域は限られているので、所望の赤外線吸収特性を実現するために、所定のジイモニウム系色素以外の色素を近赤外線吸収層に含有させることが考えられる。しかし、複数の色素を透明樹脂に分散させることは、それらの色素が相互作用することにより、困難な場合もある。
【0010】
特許文献4に記載の近赤外線光吸収層のみでは所望の光学特性を実現しにくい場合もある。
【0011】
本発明は、かかる事情に鑑み、反射型の赤外線カットフィルタ又は反射型の赤外線カットコーティングと併用されなくても所望の光学特性を実現でき、かつ、容易に製造できる、赤外線カットフィルタを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、
赤外線カットフィルタであって、
当該赤外線カットフィルタのカットオフ波長に対し50nm小さい波長と前記カットオフ波長に対し50nm大きい波長との間の波長域で、波長の増加に従って、分光透過率が70%以上から50%以下に低下するように有機色素を含有している、有機色素含有層と、
ホスホン酸銅の微粒子を含有しているホスホン酸銅含有層と、を備えた、
赤外線カットフィルタを提供する。
【0013】
また、本発明は、
上記の赤外線カットフィルタと、
前記赤外線カットフィルタを透過した光が入射する撮像素子と、を備えた、
撮像装置を提供する。
【0014】
また、本発明は、
赤外線カットフィルタの製造方法であって、
前記赤外線カットフィルタは、
当該赤外線カットフィルタのカットオフ波長に対し50nm小さい波長と前記カットオフ波長に対し50nm大きい波長との間の波長域で、波長の増加に従って、分光透過率が70%以上から50%以下に低下するように有機色素を含有している、有機色素含有層と、
ホスホン酸銅の微粒子を含有しているホスホン酸銅含有層と、を備え、
前記有機色素を含有する塗布液をスピンコーティングすることによって前記有機色素含有層を形成する、
赤外線カットフィルタの製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0015】
上記の赤外線カットフィルタは、反射型の赤外線カットフィルタ又は反射型の赤外線カットコーティングと併用されなくても所望の光学特性を実現できる。すなわち、カットオフ波長近傍の波長域で分光透過率が急激に低下し、かつ、赤外線の広い波長域(例えば、800nm〜1100nm)で高い赤外線吸収特性を有するという光学特性を実現できる。また、有機色素含有層及びホスホン酸銅含有層は、真空蒸着及びスパッタリングなどの方法によらずに形成できるので、上記の赤外線カットフィルタは、容易に製造できる。上記の赤外線カットフィルタの製造方法によれば、赤外線カットフィルタのカットオフ波長を容易にかつ細かく調整できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の実施形態に係る赤外線カットフィルタの断面図
図2】本発明の変形例に係る赤外線カットフィルタの断面図
図3】本発明の変形例に係る赤外線カットフィルタの断面図
図4】本発明の変形例に係る赤外線カットフィルタの断面図
図5】本発明の変形例に係る赤外線カットフィルタの断面図
図6】本発明の変形例に係る赤外線カットフィルタの断面図
図7】本発明の実施形態に係る撮像装置を示す図
図8】実施例1に係る赤外線カットフィルタの分光透過率スペクトルを示す図
図9】実施例2に係る赤外線カットフィルタの分光透過率スペクトルを示す図
図10】実施例3に係る赤外線カットフィルタの分光透過率スペクトルを示す図
図11】実施例4に係る赤外線カットフィルタの分光透過率スペクトルを示す図
図12】比較例1に係る赤外線カットフィルタの分光透過率スペクトルを示す図
図13】比較例2に係る赤外線カットフィルタの分光透過率スペクトルを示す図
図14】比較例3に係る赤外線カットフィルタの分光透過率スペクトルを示す図
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。なお、以下の説明は、本発明の一例に関するものであり、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0018】
図1に示すように、赤外線カットフィルタ1aは、有機色素含有層10と、ホスホン酸銅含有層20とを備えている。有機色素含有層10は、所定の有機色素を含有している。これにより、有機色素含有層10の分光透過率は、赤外線カットフィルタ1aのカットオフ波長に対し50nm小さい波長と赤外線カットフィルタ1aのカットオフ波長に対し50nm大きい波長との間の波長域で、波長の増加に従って、70%以上から50%以下に低下する。一方、有機色素含有層10の分光透過率は、赤外線カットフィルタ1aのカットオフ波長に対し100nm小さい波長と赤外線カットフィルタ1aのカットオフ波長に対し100nm大きい波長との間の波長域で、波長の増加に従って、80%以上から20%以下に低下してもよい。ここで、「カットオフ波長」とは、赤外線カットフィルタ1aの分光透過率が波長の増加に従って低下する近赤外光領域近傍の可視光領域又は近赤外光領域において、赤外線カットフィルタ1aの分光透過率が50%になる波長を意味する。同様に、赤外線カットフィルタ1a以外の赤外線カットフィルタの「カットオフ波長」は、赤外線カットフィルタの分光透過率が波長の増加に従って低下する近赤外光領域近傍の可視光領域又は近赤外光領域において、赤外線カットフィルタの分光透過率が50%になる波長を意味する。ホスホン酸銅含有層20は、ホスホン酸銅の微粒子を含有している。ここで、「微粒子」とは、平均粒子径が5nm〜200nmである粒子を意味する。平均粒子径は、例えば、走査型電子顕微鏡で50個以上のホスホン酸銅の微粒子を観察することによって求めることができる。
【0019】
ホスホン酸銅含有層20がホスホン酸銅の微粒子を含有していることにより、ホスホン酸銅含有層20は、赤外線の広い波長域(例えば、800nm〜1100nm)で高い赤外線吸収特性を有する。換言すると、赤外線カットフィルタ1aは、ホスホン酸銅含有層20を備えることにより、赤外線の広い波長域、特に800nm〜1000nmの波長域で、低い分光透過率(例えば、平均5%以下)を有する。一方、ホスホン酸銅含有層20の分光透過率は、赤外線カットフィルタ1aのカットオフ波長近傍の波長域で、波長の増加に従って急激に低下しない場合がある。しかし、赤外線カットフィルタ1aがホスホン酸銅含有層20に加えて有機色素含有層10を備えていることにより、赤外線カットフィルタ1aの分光透過率は、赤外線カットフィルタ1aのカットオフ波長近傍の波長域で、波長の増加に従って急激に低下する。これにより、赤外線カットフィルタ1aは、反射型の赤外線カットフィルタ又は反射型の赤外線カットコーティングと併用されなくても、例えばデジタルカメラなどの撮像装置にとって望ましい光学特性を有する。
【0020】
赤外線カットフィルタ1aのカットオフ波長は、例えば、620nm〜680nmの波長域にある。赤外線カットフィルタ1aのカットオフ波長がこの波長域にある場合、赤外線カットフィルタ1aによって、デジタルカメラなどの撮像装置にとって望ましい光学特性を実現できる。なぜなら、少しでも多くの可視光域の光線を透過させることができ、少しでも多くの有害な赤外線域の光線をカットできるからである。また、デジタルカメラなどの撮像装置にとって、より望ましい光学特性を実現するために、赤外線カットフィルタ1aがさらに以下の(1)、(2)、及び(3)の光学特性を満たしていることが望ましい。
(1)450nm〜600nmの波長域における分光透過率が高い(例えば、70%以上の分光透過率)。これにより、可視域の分光透過率が高いことによって明るい画像を得ることができる。
(2)カットオフ波長に対し100nm大きい波長における分光透過率が低い(例えば、5%以下、望ましくは3%以下の分光透過率)。この条件を満足することによって、赤外線域の光線の透過率が狭い波長域で急激に低下し、かつ、より多くの可視光域の光線を透過させることが可能となり、明るい画像を得やすくなる。
(3)800〜1100nmの波長域における分光透過率が低い(例えば、5%以下、望ましくは2%以下の分光透過率)。赤外線域の光について、より多くの光量をカットすることができ、当然望まれる特性である。
【0021】
有機色素含有層10に含有される有機色素は、特に制限されず、シアニン系色素、フタロシアニン系色素、スクアリリウム系色素、ジイモニウム系色素、及びアゾ系色素などの有機色素の中から、有機色素含有層10が上記の光学特性を有するのに適した赤外線吸収特性を有する有機色素を選択できる。例えば、赤外線カットフィルタ1aのカットオフ波長が620nm〜680nmの波長域にある場合、有機色素含有層10に含有される有機色素として、吸収極大波長が650nm〜900nmである有機色素を使用でき、吸収極大波長が700nm〜850nmである有機色素を望ましく使用できる。有機色素含有層10に含有される有機色素は、透明ガラス基板及び透明ガラス基板上に有機色素含有層10を形成する材料と同一種類の材料で形成された層のみを有する赤外線カットフィルタのカットオフ波長が、赤外線カットフィルタ1aのカットオフ波長より大きく、かつ、620nm〜720nmの波長域になるような、有機色素であることが望ましい。これにより、赤外線カットフィルタ1aのカットオフ波長が620nm〜680nmの波長域に現れやすい。有機色素含有層10において、一種類の有機色素が含有されていてもよいし、二種類以上の有機色素が含有されていてもよい。なお、有機色素含有層10に含有される有機色素の種類は、例えば、有機色素含有層10の分光透過率が450nm〜600nmの波長域において平均80%以上であるように、選択される。
【0022】
有機色素含有層10に含有されている有機色素の質量は、例えば、有機色素含有層10の最終固形分全体の質量の0.3%〜8%である。これにより、赤外線カットフィルタ1aがより確実に所望の光学特性を発揮できる。
【0023】
有機色素含有層10は、例えば、マトリクス樹脂に有機色素が分散していることによって形成されている。有機色素含有層10のマトリクス樹脂は、可視光線及び近赤外線に対して透明であり、かつ、有機色素を分散可能な樹脂である。有機色素含有層10のマトリクス樹脂としては、例えば、ポリエステル、ポリアクリル、ポリオレフィン、ポリカーボネート、ポリシクロオレフィン、及びポリビニルブチラールなどの樹脂を使用できる。
【0024】
有機色素含有層10の厚みは、例えば、0.5μm〜5μmである。これにより、赤外線カットフィルタ1aがより確実に所望の光学特性を発揮できる。有機色素含有層10の厚みが大きくなると、有機色素含有層10において、光線の吸収率が増加し、光線の透過率が減少する。このため、有機色素含有層10の厚みが大きくなると、赤外線カットフィルタ1aのカットオフ波長は短くなりやすい。このように、有機色素含有層10の厚みを変更することによって赤外線カットフィルタ1aのカットオフ波長を調整できる。例えば、有機色素含有層10の厚みが上記の範囲にあると、赤外線カットフィルタ1aが所望のカットオフ波長を有しやすい。有機色素含有層10の厚みは、例えば、有機色素含有層10を形成するための塗布液の塗布条件を変更することによって調整できる。特に、有機色素含有層10を形成するための塗布液をスピンコーティングする場合、スピンコータの回転数を変更することによって有機色素含有層10の厚みを調整できる。例えば、スピンコータの回転数が小さいと、有機色素含有層10の厚みを比較的厚くできる。有機色素含有層10を形成するための塗布液をスピンコーティングする場合、スピンコータの回転数を細かく調整することによって、赤外線カットフィルタ1aのカットオフ波長を細かく調節できる。
【0025】
ホスホン酸銅含有層20に含有されているホスホン酸銅の微粒子は、例えば、メチルホスホン酸銅、エチルホスホン酸銅、プロピルホスホン酸銅、ブチルホスホン酸銅、ペンチルホスホン酸銅、ビニルホスホン酸銅、及びフェニルホスホン酸銅からなる群から選ばれる少なくとも一つのホスホン酸銅によって形成されている。
【0026】
ホスホン酸銅含有層20は、例えば、マトリクス樹脂にホスホン酸銅の微粒子が分散していることによって形成されている。ホスホン酸銅含有層20のマトリクス樹脂は、可視光線及び近赤外線に対し透明であり、かつ、ホスホン酸銅の微粒子を分散可能な樹脂である。ホスホン酸銅は、比較的極性が低い物質であり、疎水性材料に良好に分散する。このため、ホスホン酸銅含有層20のマトリクス樹脂として、例えば、アクリル基、エポキシ基、又はフェニル基を有する樹脂を用いることができる。特に、ホスホン酸銅含有層20のマトリクス樹脂として、フェニル基を有する樹脂を用いることが望ましい。この場合、ホスホン酸銅含有層20のマトリクス樹脂が高い耐熱性を有する。また、ポリシロキサン(シリコーン樹脂)は、熱分解しにくく、可視光線及び近赤外線に対して高い透明性を有し、耐熱性も高いので、光学素子の材料として有利な特性を有する。このため、ホスホン酸銅含有層20のマトリクス樹脂として、ポリシロキサンを用いることも望ましい。ホスホン酸銅含有層20のマトリクス樹脂として使用可能なポリシロキサンの具体例としては、KR−255、KR−300、KR−2621−1、KR−211、KR−311、KR−216、KR−212、及びKR−251を挙げることができる。これらはいずれも信越化学工業社製のシリコーン樹脂である。
【0027】
ホスホン酸銅含有層20の分光透過率は、800nm〜1100nmの波長域において例えば10%以下であり、望ましくは5%以下である。ホスホン酸銅含有層20の分光透過率は、例えば、透明ガラス基板及び透明ガラス基板上にホスホン酸銅含有層20を形成する材料と同一種類の材料で形成された層のみを有する赤外線カットフィルタを用いて測定できる。ホスホン酸銅含有層20に含有されているホスホン酸銅の微粒子の質量は、例えば、ホスホン酸銅含有層20の最終固形分全体の質量の15%〜45%である。これにより、赤外線カットフィルタ1aがより確実に所望の光学特性を発揮できる。
【0028】
ホスホン酸銅含有層20に含有されているホスホン酸銅の微粒子の平均粒子径は、例えば、5nm〜200nmであり、望ましくは5nm〜100nmである。ホスホン酸銅の微粒子の平均粒子径が5nm以上であれば、ホスホン酸銅の微粒子の微細化を行うための特段の工程を必要とせず、ホスホン酸銅の構造が破壊されることを防止できる。また、ホスホン酸銅の微粒子の平均粒子径が200nm以下であれば、ミー散乱等の光の散乱の影響をほとんど受けず、光線の透過率が低下することを防止でき、撮像装置で形成される画像のコントラスト及びヘイズ等の性能が低下することを防止できる。また、ホスホン酸銅の微粒子の平均粒子径が100nm以下であれば、レイリー散乱の影響が低減されるので、ホスホン酸銅含有層の可視光域に対する透明性がより高くなる。このため、ホスホン酸銅含有層20が赤外線カットフィルタ1aにとってさらに望ましい特性を有する。
【0029】
ホスホン酸銅含有層20の厚みは、例えば、40μm〜200μmである。これにより、赤外線カットフィルタ1aがより確実に所望の光学特性を発揮できる。これにより、例えば、800nm〜1100nmの波長域における赤外線カットフィルタ1aの分光透過率を5%以下に低減でき、450nm〜600nmの波長域における赤外線カットフィルタ1aの分光透過率を高く(例えば、70%以上)保つことができる。
【0030】
図1に示すように、赤外線カットフィルタ1aは、例えば透明基板50をさらに備える。透明基板50は、可視光線及び近赤外線に対して透明なガラス又は樹脂でできた基板である。赤外線カットフィルタ1aにおいて、透明基板50の一方の主面上に有機色素含有層10が形成され、透明基板50に接する有機色素含有層10の一方の主面に対して反対側に位置する有機色素含有層10の他方の主面上にホスホン酸銅含有層20が形成されている。この場合、例えば、有機色素含有層10は、ホスホン酸銅含有層20の形成に先立って形成される。場合によっては、有機色素含有層10の形成に使用される成分が、ホスホン酸銅含有層20が発揮すべき特性を低下させる可能性がある。しかし、赤外線カットフィルタ1aによれば、有機色素含有層10がホスホン酸銅含有層20の形成に先立って形成されることによって、有機色素含有層10においてホスホン酸銅含有層20が発揮すべき特性を低下させる成分の多くが除去されている可能性が高い。このため、赤外線カットフィルタ1aによれば、ホスホン酸銅含有層20が発揮すべき特性が低下することを抑制できる。
【0031】
有機色素含有層10は、例えば、以下のようにして形成できる。まず、マトリクス樹脂及び有機色素を溶媒に添加して有機色素含有層10用の塗布液を調製する。調製した塗布液をスピンコーティング又はディスペンサによる塗布により基板上に塗布して有機色素含有層10用の塗膜を形成する。その後、この塗膜に対し所定の加熱処理を行って塗膜を硬化させる。このようにして、有機色素含有層10を形成できる。望ましくは、有機色素を含有する塗布液をスピンコーティングすることによって有機色素含有層10を形成する。この場合、スピンコータの回転数を調節することにより、有機色素含有層10の厚みを細かく調整できる。これにより、赤外線カットフィルタ1aのカットオフ波長を容易にかつ細かく調整できる。
【0032】
ホスホン酸銅含有層20は、例えば、以下のようにして形成できる。酢酸銅などの銅の塩をテトラヒドロフラン(THF)などの所定の溶媒に添加して超音波処理などにより溶解させ、さらにリン酸エステルを添加してA液を調製する。また、THFなどの所定の溶媒にエチルホスホン酸などのホスホン酸を加えて撹拌し、B液を調製する。A液とB液とを混合した溶液を室温で十数時間攪拌する。その後、溶液にトルエンなどの所定の溶媒を加え、所定の温度で加熱処理を行って溶媒を揮発させる。次に、遠心分離によって溶液中の不純物を除去し、トルエンなどの所定の溶媒を加え、所定の温度で加熱処理を行って溶媒を揮発させる。このようにして、ホスホン酸銅の微粒子の分散液を調製する。次に、ホスホン酸銅の微粒子の分散液にシリコーン樹脂などのマトリクス樹脂を加えて撹拌する。このようにして、ホスホン酸銅含有層20用の塗布液を調製する。調製した塗布液をスピンコーティング又はディスペンサによる塗布により基板上に塗布してホスホン酸銅含有層20用の塗膜を形成する。その後、この塗膜に対して所定の加熱処理を行って塗膜を硬化させる。このようにして、ホスホン酸銅含有層20を形成できる。
【0033】
別の実施形態によれば、赤外線カットフィルタ1aは、図2に示す、赤外線カットフィルタ1bのように変更されてもよい。赤外線カットフィルタ1bにおいて、透明基板50の一方の主面上にホスホン酸銅含有層20が形成され、透明基板50に接するホスホン酸銅含有層20の一方の主面に対して反対側に位置するホスホン酸銅含有層20の他方の主面上に有機色素含有層10が形成されている。この場合、例えば、ホスホン酸銅含有層20は、有機色素含有層10の形成に先立って形成される。場合によっては、ホスホン酸銅含有層20の形成に使用される成分が、有機色素含有層10が発揮すべき特性を低下させる可能性がある。しかし、赤外線カットフィルタ1bによれば、ホスホン酸銅含有層20が有機色素含有層10の形成に先立って形成されることによって、ホスホン酸銅含有層20において有機色素含有層10が発揮すべき特性を低下させる成分の多くが除去されている可能性が高い。このため、赤外線カットフィルタ1bによれば、有機色素含有層10が発揮すべき特性が低下することを抑制できる。
【0034】
さらに別の実施形態によれば、赤外線カットフィルタ1aは、図3に示す、赤外線カットフィルタ1cのように変更されてもよい。赤外線カットフィルタ1cにおいて、透明基板50の一方の主面上にホスホン酸銅含有層20が形成され、透明基板50の他方の主面上に有機色素含有層10が形成されている。この場合、有機色素含有層10とホスホン酸銅含有層20との相互作用により、有機色素含有層10又はホスホン酸銅含有層20が発揮すべき特性が低下することを抑制できる。
【0035】
さらに別の実施形態によれば、赤外線カットフィルタ1aは、図4に示す、赤外線カットフィルタ1dのように変更されてもよい。赤外線カットフィルタ1dは、中間保護層30(パッシベーション層)を備えている点を除いて、赤外線カットフィルタ1aと同様の構成を有する。中間保護層30は、赤外線カットフィルタ1dの厚み方向において、有機色素含有層10とホスホン酸銅含有層20との間に形成されている。赤外線カットフィルタ1dにおいては、有機色素含有層10が中間保護層30よりも透明基板50に近い位置に配置され、かつ、中間保護層30がホスホン酸銅含有層20よりも透明基板50に近い位置に配置されている。なお、赤外線カットフィルタにおいて、ホスホン酸銅含有層20が中間保護層30よりも透明基板50に近い位置に配置され、かつ、中間保護層30が有機色素含有層20よりも透明基板50に近い位置に配置されていてもよい。
【0036】
有機色素含有層10とホスホン酸銅含有層20とが接触している場合、場合によっては、有機色素含有層10とホスホン酸銅含有層20との相互作用により、有機色素含有層10が発揮すべき特性又はホスホン酸銅含有層20が発揮すべき特性が低下する可能性がある。例えば、有機色素含有層10上にホスホン酸銅含有層20を形成する場合、ホスホン酸銅の微粒子に含まれる不純物の除去が不十分であると、有機色素含有層10に含まれる有機色素がその不純物の影響を受ける可能性がある。また、ホスホン酸銅含有層20上に有機色素含有層10を形成する場合、有機色素含有層10の形成に使用される硬化剤、触媒、又は架橋促進剤等の成分がホスホン酸銅含有層20の特性に影響を及ぼす可能性がある。赤外線カットフィルタ1dによれば、中間保護層30によって、有機色素含有層10とホスホン酸銅含有層20との相互作用が防止され、有機色素含有層10が発揮すべき特性又はホスホン酸銅含有層20が発揮すべき特性が低下することを防止できる。
【0037】
中間保護層30を形成する材料は、有機色素含有層10とホスホン酸銅含有層20との相互作用を防止できる限り特に制限されないが、中間保護層30は、例えば、ポリシロキサンを含んでいる。これにより、中間保護層30が高い耐熱性を有する。中間保護層30に含有されるポリシロキサンの質量は、例えば、中間保護層30の全体の質量に対して50%〜99.5%である。
【0038】
中間保護層30は、例えば、エポキシ樹脂を含む。この場合、中間保護層30はポリシロキサンを含んでいてもよいし、中間保護層30はポリシロキサンを含んでいなくてもよい。これにより、中間保護層30の緻密性が向上する。中間保護層30に含有されるエポキシ樹脂の質量は、例えば、中間保護層30の最終固形分全体の質量に対して0.5%〜50%である。
【0039】
中間保護層30の厚みは、例えば、0.3μm〜5μmである。これにより、有機色素含有層10とホスホン酸銅含有層20との相互作用を確実に防止しつつ、赤外線カットフィルタ1dの厚みが大きくなることを抑制できる。
【0040】
中間保護層30は、例えば、以下のようにして形成できる。まず、所定の溶媒にポリシロキサンの原料及びエポキシ樹脂を添加して所定時間攪拌することによって、中間保護層30用の塗布液を調製する。この場合、例えば、中間保護層30用の塗布液を調製する過程で所定のアルコキシシランの加水分解重縮合反応を進行させることによってポリシロキサンが生成されてもよい。次に、中間保護層30用の塗布液を、スピンコーティングにより既に形成されている有機色素含有層10又はホスホン酸銅含有層20上に塗布して、中間保護層30用の塗膜を形成する。次に、中間保護層30用の塗膜に対して所定の加熱処理を行って、塗膜を硬化させる。このようにして、中間保護層30を形成できる。
【0041】
さらに別の実施形態によれば、赤外線カットフィルタ1aは、図5に示す、赤外線カットフィルタ1eのように変更されてもよい。赤外線カットフィルタ1eは、有機色素含有層10とホスホン酸銅含有層20との間に中間保護層30が配置されていることに加えて、赤外線カットフィルタ1eの表面に反射防止膜40を備えている点を除いて、赤外線カットフィルタ1aと同様の構成を有している。これにより、可視光域の透過率が向上するので、例えば、赤外線カットフィルタ1eをデジタルカメラなどの撮像装置に用いた場合に、明るい画像を得ることができる。なお、場合によっては、中間保護層30は省略されてもよいし、図2に示すように、ホスホン酸銅含有層20が有機色素含有層10よりも透明基板50に近い位置に配置されていてもよい。
【0042】
反射防止膜40は、単層膜又は積層多層膜である。反射防止膜40が単層膜である場合、反射防止膜40は、低い屈折率を有する材料でできている。反射防止膜40が積層多層膜である場合、反射防止膜40は、低い屈折率を有する材料の層と高い屈折率を有する材料の層とを交互に積層することによって形成されている。反射防止膜40を形成する材料は、例えば、SiO2、TiO2、及びMgF2などの無機材料又はフッ素樹脂などの有機材料である。反射防止膜40を形成する方法は、特に制限されず、反射防止膜40を形成する材料の種類に応じて、真空蒸着、スパッタリング、CVD(Chemical Vapor Deposition)、及びスピンコーティング又はスプレーコーティングを利用したゾルゲル法のいずれかを用いることができる。なお、赤外線カットフィルタ1eの厚み方向両側の表面に反射防止膜40が形成されていてもよい。これにより、より明るい画像を得ることができる。
【0043】
反射防止膜40は、反射防止機能に加えて、例えば、赤外線カットフィルタを湿気又は高温のガスから保護する機能を有していてもよい。
【0044】
さらに別の実施形態によれば、赤外線カットフィルタ1aは、図6に示す、赤外線カットフィルタ1fのように変更されてもよい。赤外線カットフィルタ1fは、中間保護層30及び反射防止膜40に加えて、有機色素含有層10用の下地層11及びホスホン酸銅含有層20用の下地層21を備えている点を除いて、赤外線カットフィルタ1aと同様の構成を有している。なお、場合によっては、中間保護層30及び反射防止膜40の少なくともいずれかは省略されてもよく、図2に示すように、ホスホン酸銅含有層20が有機色素含有層10よりも透明基板50に近い位置に配置されていてもよい。
【0045】
下地層11及び下地層21は、それぞれ、シランカップリング剤又はチタンカップリング剤を、スピンコーティング、ダイコーティング、又はディスペンサを用いた塗布によって塗布面に塗布して塗膜を形成し、この塗膜を乾燥させることによって形成できる。下地層11によって有機色素含有層10の密着強さを高めることができ、下地層21によってホスホン酸銅含有層20の密着強さを高めることができる。これにより、赤外線カットフィルタ1fが高い信頼性を有する。なお、場合によっては、下地層11及び下地層21のいずれかのみが形成されていてもよい。
【0046】
さらに別の実施形態によれば、赤外線カットフィルタ1aは、デジタルカメラなどの撮像装置に使用される。図7に示すように、撮像装置100は、赤外線カットフィルタ1aと、撮像素子2と、を備えている。撮像素子2は、例えば、CCD又はCMOSなどの固体撮像素子である。撮像装置100は、撮像レンズ3をさらに備えている。図7に示すように、被写体からの光は、撮像レンズ3によって集光され、赤外線カットフィルタ1aによって赤外線がカットされた後、撮像素子2に入射する。このため、色再現性の高い良好な画像を得ることができる。撮像装置100は、赤外線カットフィルタ1aに代えて、赤外線カットフィルタ1b〜1fのいずれかを備えていてもよい。
【実施例】
【0047】
実施例により、本発明をより詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されない。
【0048】
<実施例1>
ホスホン酸銅含有層用の塗布液を以下のようにして調製した。酢酸銅1.8gと、溶媒としてのテトラヒドロフラン(THF)72gとを混合し、超音波洗浄及び遠心分離によって溶解していない酢酸銅を除去して、酢酸銅溶液を得た。次に、酢酸銅溶液60gに、リン酸エステル(第一工業製薬社製、製品名:プライサーフA208F)を1g加えて撹拌し、A液を得た。また、エチルホスホン酸0.63gにTHF6gを加えて撹拌し、B液を得た。次に、A液を攪拌しながらA液にB液を加え、室温で16時間攪拌した。次に、この溶液にトルエン12gを加えた後、85℃の環境で3時間かけて溶媒を揮発させた。次に、この溶液にトルエン24gを加えた後、遠心分離によって不純物を除去し、さらにトルエン36gを加えた。次に、この溶液を85℃の環境で10時間かけて溶媒を揮発させた。このようにして、ホスホン酸銅の微粒子の分散液5.4gを調製した。ホスホン酸銅の微粒子の分散液中のホスホン酸銅の微粒子の平均粒子径を、動的光散乱法によって測定した。この測定の結果、ホスホン酸銅の微粒子の分散液中のホスホン酸銅の微粒子の平均粒子径は、75nmであった。測定装置として大塚電子株式会社製の粒径アナライザFPAR−1000を用いた。ホスホン酸銅の微粒子の分散液5.4gに対して、シリコーン樹脂(信越化学工業社製、製品名:KR−300)5.28gを加えて1時間撹拌した。このようにして、ホスホン酸銅含有層用の塗布液を得た。
【0049】
有機色素含有層用の塗布液を以下のようにして調製した。シクロペンタノン20gに、有機色素としてのYKR−2900(山本化成株式会社製、吸収極大波長:830nm)0.10gを加えて1時間攪拌した。次に、ポリビニルブチラール樹脂(住友化学株式会社製、製品名:エスレックKS−10)2gを加えて1時間撹拌し、その後、2,4−ジイソシアン酸トリレン1gをさらに加えて撹拌し、有機色素含有層用の塗布液を得た。
【0050】
76mm×76mm×0.21mmの寸法を有するホウケイ酸ガラスでできた透明ガラス基板(Schott社製、製品名:D263)の表面に有機色素含有層用の塗布液をスピンコーティング(回転数:500rpm)によって塗布し、塗膜を形成した。この塗膜に対し140℃で60分間の条件で加熱処理を行って塗膜を硬化させ、有機色素含有層を形成した。有機色素含有層の厚みは、約1.4μmであった。最終的に有機色素含有層に含まれる有機色素成分の質量は、化学量論的に有機色素含有層の最終固形分全体の質量の約3.2%であった。次に、有機色素含有層の表面の60mm×60mmの範囲にディスペンサを用いてホスホン酸銅含有層用の塗布液0.88gを塗布して塗膜を形成した。85℃で7時間、125℃で3時間、及び150℃で1時間の条件で塗膜に対して加熱処理を行い、塗膜を硬化させ、ホスホン酸銅含有層を形成した。最終的にホスホン酸銅含有層におけるホスホン酸銅微粒子の質量は、化学量論的に最終固形分全体の質量の約33%であった。このようにして、実施例1に係る赤外線カットフィルタを作製した。実施例1に係る赤外線カットフィルタにおける有機色素含有層及びホスホン酸銅含有層からなる部分の厚みは約123μmであった。
【0051】
実施例1に係る赤外線カットフィルタの分光透過率を測定した。この測定には、紫外可視分光光度計(日本分光株式会社製、製品名:V−670)を用い、入射角を0°(度)に設定した。測定結果を表1及び図8に示す。
【0052】
図8に示すように、実施例1に係る赤外線カットフィルタは、450nm〜600nmの波長域において70%以上の高い分光透過率を有し、800nm〜1100nmの波長域で5%以下の分光透過率を有していた。また、実施例1に係る赤外線カットフィルタのカットオフ波長は、約663nmであった。さらに、カットオフ波長に対し100nm大きい波長(約763nm)における赤外線カットフィルタの透過率は約1.3%であり、赤外線カットフィルタとして必要とされる、透過率が5%以下であるという条件を満足していた。このため、実施例1に係る赤外線カットフィルタは、デジタルカメラなどの撮像装置にとって望ましい赤外線遮蔽特性を有していることが示唆された。
【0053】
<実施例2>
中間保護層用の塗布液を以下のようにして調製した。エタノール11.5gに、グリシドキシプロピルトリメトキシシラン2.83g、エポキシ樹脂(阪本薬品工業社製、製品名:SR−6GL)0.11g、テトラエトキシシラン5.68g、硝酸のエタノール希釈液(硝酸の濃度:10重量%)0.06g、及び水5.5gをこの順番に加え、約1時間攪拌した。このようにして、中間保護層用の塗布液を得た。
【0054】
76mm×76mm×0.21mmの寸法を有するホウケイ酸ガラスでできた透明ガラス基板(Schott社製、製品名:D263)の表面に実施例1で用いた有機色素含有層用の塗布液をスピンコーティング(回転数:300rpm)によって塗布し、塗膜を形成した。この塗膜に対して140℃で60分間の条件で加熱処理を行い、塗膜を硬化させた。このようにして、有機色素含有層を形成した。有機色素含有層の厚みは約1.8μmであった。次に、有機色素含有層の表面に中間保護層用の塗布液をスピンコーティング(回転数:300rpm)によって塗布し、塗膜を形成した。この塗膜に対して、150℃で20分間の条件で加熱処理を行い、塗膜を硬化させた。このようにして、中間保護層を形成した。中間保護層におけるポリシロキサン成分の最終的な質量は、化学量論的に中間保護層の最終固形分全体の質量の約97%であり、中間保護層におけるエポキシ樹脂の質量は、化学量論的に中間保護層の最終固形分全体の質量の約2.1%であった。中間保護層の厚みは約1.7μmであった。次に、中間保護層の表面の60mm×60mmの範囲にディスペンサを用いて実施例1で使用したホスホン酸銅含有層用の塗布液0.86gを塗布し、塗膜を形成した。この塗膜に対して、85℃で3時間、125℃で3時間、及び150℃で1時間の条件で加熱処理を行って塗膜を硬化させ、ホスホン酸銅含有層を形成した。このようにして、実施例2に係る赤外線カットフィルタを作製した。実施例2の赤外線カットフィルタにおける、有機色素含有層、中間保護層、及びホスホン酸銅含有層からなる部分の厚みは、122μmであった。
【0055】
実施例2に係る赤外線カットフィルタの分光透過率を実施例1と同様にして測定した。結果を表1及び図9に示す。図9に示すように、実施例2に係る赤外線カットフィルタは、450nm〜600nmの波長域において70%以上の高い分光透過率を有し、800nm〜1100nmの波長域で5%以下の分光透過率を有していた。また、実施例2に係る赤外線カットフィルタのカットオフ波長は、約655nmであった。さらに、さらに、カットオフ波長に対し100nm大きい波長(約755nm)における赤外線カットフィルタの透過率は約1.3%であり、赤外線カットフィルタとして必要とされる、透過率が5%以下であるという条件を満足していた。このため、実施例2に係る赤外線カットフィルタは、デジタルカメラなどの撮像装置にとって望ましい赤外線遮蔽特性を有していることが示唆された。
【0056】
<実施例3>
76mm×76mm×0.21mmの寸法を有するホウケイ酸ガラスでできた透明ガラス基板(Schott社製、製品名:D263)の表面の60mm×60mmの範囲にディスペンサを用いて実施例1で使用したホスホン酸銅含有層用の塗布液1gを塗布して塗膜を形成した。この塗膜に対して85℃で3時間、125℃で3時間、及び150℃で1時間の条件で加熱処理を行い、塗膜を硬化させた。このようにしてホスホン酸銅含有層を形成した。次に、ホスホン酸銅含有層の表面に実施例2で使用した中間保護層用の塗布液をスピンコーティング(回転数:300rpm)によって塗布して塗膜を形成した。次に、この塗膜に対して150℃で20分間の条件で加熱処理を行い、塗膜を硬化させた。このようにして中間保護層を形成した。中間保護層の厚みは約1.7μmであった。次に、中間保護層の表面に実施例1で使用した有機色素含有層用の塗布液をスピンコーティング(回転数:200rpm)によって塗布して塗膜を形成した。この塗膜に対し140℃で60分間の条件で加熱処理を行って塗膜を硬化させ、有機色素含有層を形成した。有機色素含有層の厚みは約2.4μmであった。このようにして、実施例3に係る赤外線カットフィルタを作製した。実施例3の赤外線カットフィルタにおける、ホスホン酸銅含有層、中間保護層、及び有機色素含有層からなる部分の厚みは141μmであった。
【0057】
実施例3に係る赤外線カットフィルタの分光透過率を実施例1と同様にして測定した。結果を表1及び図10に示す。図10に示すように、実施例3に係る赤外線カットフィルタは、450nm〜600nmの波長域において70%以上の高い分光透過率を有し、800nm〜1100nmの波長域で5%以下の分光透過率を有していた。また、実施例3に係る赤外線カットフィルタのカットオフ波長は、約648nmであった。さらに、カットオフ波長に対し100nm大きい波長(約748nm)における赤外線カットフィルタの透過率は約0.9%であり、赤外線カットフィルタとして必要とされる、透過率が5%以下であるという条件を満足していた。このため、実施例3に係る赤外線カットフィルタは、デジタルカメラなどの撮像装置にとって望ましい赤外線遮蔽特性を有していることが示唆された。
【0058】
<実施例4>
有機色素含有層用の塗布液を以下のようにして調製した。シクロペンタノン20gに、有機色素としてのKAYASORB CY−40MC(日本化薬株式会社製、吸収極大波長:835nm)0.149gを加えて1時間攪拌した。次に、ポリビニルブチラール樹脂(住友化学株式会社製、製品名:エスレックKS−10)2.0gを加えて1時間撹拌し、その後、2,4−ジイソシアン酸トリレン1.0gをさらに加えて撹拌し、有機色素含有層用の塗布液を得た。
【0059】
76mm×76mm×0.21mmの寸法を有するホウケイ酸ガラスでできた透明ガラス基板(Schott社製、製品名:D263)の表面に有機色素含有層用の塗布液をスピンコーティング(回転数:300rpm)によって塗布し、塗膜を形成した。この塗膜に対して140℃で60分間の条件で加熱処理を行い、塗膜を硬化させた。このようにして、有機色素含有層を形成した。有機色素含有層の厚みは約1.9μmであった。最終的に有機色素含有層に含まれる有機色素成分の質量は、化学量論的に有機色素含有層の最終固形分全体の質量の約4.7%であった。次に、有機色素含有層の表面に実施例2で使用した中間保護層用の塗布液をスピンコーティング(回転数:300rpm)によって塗布し、塗膜を形成した。この塗膜に対して、150℃で20分間の条件で加熱処理を行い、塗膜を硬化させた。このようにして、中間保護層を形成した。中間保護層の厚みは約1.7μmであった。次に、中間保護層の表面の60mm×60mmの範囲にディスペンサを用いて実施例1で使用したホスホン酸銅含有層用の塗布液0.60gを塗布し、塗膜を形成した。この塗膜に対して、85℃で3時間、125℃で3時間、及び150℃で1時間の条件で加熱処理を行って塗膜を硬化させ、ホスホン酸銅含有層を形成した。このようにして、実施例4に係る赤外線カットフィルタを作製した。実施例4の赤外線カットフィルタにおける、有機色素含有層、中間保護層、及びホスホン酸銅含有層からなる部分の厚みは、85μmであった。
【0060】
実施例4に係る赤外線カットフィルタの分光透過率を実施例1と同様にして測定した。結果を表1及び図11に示す。図11に示すように、実施例4に係る赤外線カットフィルタは、450nm〜600nmの波長域において70%以上の高い分光透過率を有し、800nm〜1100nmの波長域で平均5%以下の分光透過率を有していた。また、実施例4に係る赤外線カットフィルタのカットオフ波長は、約664nmであった。さらにカットオフ波長に対し100nm大きい波長(約764nm)における透過率は約1.4%であり、赤外線カットフィルタとして必要とされる、透過率5%以下であるという条件を満たしていた。このため、実施例4に係る赤外線カットフィルタは、デジタルカメラなどの撮像装置にとって望ましい赤外線遮蔽特性を有していることが示唆された。
【0061】
<比較例1>
76mm×76mm×0.21mmの寸法を有するホウケイ酸ガラスでできた透明ガラス基板(Schott社製、製品名:D263)の表面の60mm×60mmの範囲にディスペンサを用いてホスホン酸銅含有層用の塗布液0.7gを塗布して塗膜を形成した。85℃で3時間、125℃で3時間、150℃で1時間の条件で塗膜に対して加熱処理を行い、塗膜を硬化させ、ホスホン酸銅含有層を形成した。このようにして、透明ガラス基板にホスホン酸銅含有層のみが形成された比較例1に係る赤外線カットフィルタを得た。比較例1に係る赤外線カットフィルタにおけるホスホン酸銅含有層の厚みは、約91μmであった。
【0062】
比較例1に係る赤外線カットフィルタの分光透過率を実施例1と同様にして測定した。測定結果を表1及び図12に示す。図12に示すように、比較例1に係る赤外線カットフィルタは、450nm〜600nmの波長域で高い分光透過率(80%以上)を有し、800nm〜1100nmの波長域で低い分光透過率(10%以下)を有していた。一方、比較例1に係る赤外線カットフィルタは、カットオフ波長が約718nmであり、撮像素子に使用される赤外線カットフィルタに必要な、カットオフ波長が620nm〜680nmの波長域になければならないという条件を満たしていなかった。このため、ホスホン酸銅含有層のみを有する赤外線カットフィルタによって、デジタルカメラなどの撮像装置に要求される赤外線遮蔽特性を実現することは難しいことが示唆された。
【0063】
<比較例2>
76mm×76mm×0.21mmの寸法を有するホウケイ酸ガラスでできた透明ガラス基板(Schott社製、製品名:D263)の表面に実施例1で使用した有機色素含有層用の塗布液をスピンコーティング(回転数:300rpm)によって塗膜を形成した。この塗膜に対し140℃で60分間の条件で加熱処理を行って塗膜を硬化させ、有機色素含有層を形成した。このようにして、透明ガラス基板に有機色素含有層のみが形成された比較例2に係る赤外線カットフィルタを得た。比較例2に係る赤外線カットフィルタにおける有機色素含有層の厚みは、約1.7μmであった。
【0064】
比較例2に係る赤外線カットフィルタの分光透過率を実施例1と同様にして測定した。測定結果を表1及び図13に示す。図13に示すように、比較例2に係る赤外線カットフィルタにおける有機色素含有層は、350nm〜600nmの波長域では概ね高い分光透過率(70%以上)を有し、約600nm〜約900nmの波長域の光を吸収する特性を有していた。また、比較例2に係る赤外線カットフィルタにおける有機色素含有層は、600nm〜750nmの波長域で、波長の増加に従って、分光透過率が80%以上から10%以下に低下するという特性を有していた。比較例2に係る赤外線カットフィルタのカットオフ波長は、約688nmであり、撮像素子に使用される赤外線カットフィルタに必要な、カットオフ波長が620nm〜680nmの波長域になければならないという条件を満たしていなかった。さらに、比較例2に係る赤外線カットフィルタにおける有機色素含有層は、900nm以上の波長域で、高い透過率を示す特性を有していた。このため、有機色素含有層のみを有する赤外線カットフィルタによって、デジタルカメラなどの撮像装置に要求される赤外線遮蔽特性を実現することは難しいことが示唆された。
【0065】
<比較例3>
76mm×76mm×0.21mmの寸法を有するホウケイ酸ガラスでできた透明ガラス基板(Schott社製、製品名:D263)の表面に実施例4で作製した有機色素含有層用の塗布液をスピンコーティング(回転数:300rpm)によって塗膜を形成した。この塗膜に対し140℃で60分間の条件で加熱処理を行って塗膜を硬化させ、有機色素含有層を形成した。このようにして、透明ガラス基板に有機色素含有層のみが形成された比較例3に係る赤外線カットフィルタを得た。比較例3に係る赤外線カットフィルタにおける有機色素含有層の厚みは、約1.9μmであった。
【0066】
比較例3に係る赤外線カットフィルタの分光透過率を実施例1と同様にして測定した。測定結果を表1及び図14に示す。図14に示すように、比較例3に係る赤外線カットフィルタにおける有機色素含有層は、450nm〜600nmの波長域では概ね高い分光透過率(70%以上)を有し、約600nm〜900nmの波長域の光を吸収する特性を有していた。また、比較例3に係る赤外線カットフィルタにおける有機色素含有層は、約600nm〜750nmの波長域で、波長の増加に従って、分光透過率が80%以上から20%以下に低下するという特性を有していた。一方、比較例3に係る赤外線カットフィルタのカットオフ波長は、620nm〜680nmの間の波長域から外れ、692nm付近に存在していた。また、比較例3に係る赤外線カットフィルタは900nm以上の波長域で、高い透過率を示す特性を有していた。このため、有機色素含有層のみを有する赤外線カットフィルタによって、デジタルカメラなどの撮像装置に要求される赤外線遮蔽特性を実現することは難しいことが示唆された。
【0067】
【表1】
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14