(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
グリースは、その基油や増ちょう剤により分類されることが多い。中でも、パーフルオロポリエーテル油をポリテトラフルオロエチレン等のフッ素系ポリマーや無機増ちょう剤により増ちょうさせたグリースをフッ素グリースと呼ぶ。フッ素グリースは、高価なものであるが、その基油に由来する優れた性能により、潤滑性、耐熱性、酸化安定性、対樹脂性、対ゴム性、低発塵性、耐薬品性といった非常に多機能を誇るグリースである。
【0003】
このフッ素グリースは、特に、家電製品等の精密でデリケートな部分に使用されることが多い。家電製品は、製品によっては10年以上をノーメンテナンスで取り扱うため、フッ素グリースの多機能性は要求仕様を十分満足させうる。
【0004】
ところが、上述のようにフッ素グリースは非常に多機能なグリースであるものの、汎用に使用される石鹸グリースに比べて、油拡散(油滲み)が大きいといった欠点を有している。この油拡散によって電気接点部位やレンズ部位に油が付着すると、作動不良等を起こす可能性がある。このような油拡散は、基油の粘度、基油と適用部材との濡れ性、適用部材の表面形状に大きく依存する。
【0005】
グリースの油拡散防止に関する技術として、例えば特許文献1に記載の技術が知られている。この特許文献1には、合成潤滑油にフッ素系の界面活性剤を配合することによって、グリースからの滲み出し抑制を達成することが記載されている。しかしながら、ここで用いられる拡散防止剤は、パーフルオロポリエーテル油に対して効果が認められない。
【0006】
一方、フッ素グリースの基油拡散防止策として、例えば特許文献2には、フッ素グリースにシリコーン油を0.1〜50重量%混合した非拡散性のフッ素グリース組成物が開示されている。しかしながら、パーフルオロポリエーテル油とシリコーン油とでは、相溶性がなく、また比重差が大きいことから、潤滑剤表面に対してシリコーン油のブリード現象、すなわち離しょうが大きくなる。また、潤滑性に乏しいシリコーン油を含むことから、特に金属対金属での耐荷重能が低下してしまい、その配合量によってはパーフルオロポリエーテル油の持つ耐荷重能を低下させてしまう。さらには、シリコーン油中の低分子量シロキサン成分が揮発して、接点障害を与える可能性があるため、接点部位には使用し難いといった問題がある。
【0007】
このように、パーフルオロポリエーテル油の高い性能を維持しながら、油滲みを防止する技術は存在しない。パーフルオロポリエーテル油及びそのパーフルオロポリエーテル油を含有させたフッ素グリースの適用範囲は、各分野の発展と共に大きく拡がっており、高性能であり、且つ、油滲みの小さい潤滑剤が求められている。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明に係る拡散防止剤、並びにその拡散防止剤を配合したフッ素系潤滑油組成物及びフッ素グリース組成物の具体的な実施形態(以下、「本実施の形態」という。)について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において変更が可能である。
【0023】
1.拡散防止剤
2.潤滑剤組成物(フッ素系潤滑油組成物、フッ素グリース組成物)
3.実施例
【0024】
≪1.拡散防止剤≫
(1−1.拡散防止剤の構成、並びに作用)
本実施の形態に係る拡散防止剤は、パーフルオロポリエーテル油を含むフッ素系潤滑油及びパーフルオロポリエーテル油を増ちょう剤で増ちょうさせたフッ素グリース(以下、「潤滑剤」と総称することがある。)に添加して用いられるものである。拡散防止剤は、潤滑剤に含まれるパーフルオロポリエーテル油の拡散を防止するためのものである。
【0025】
具体的に、本実施の形態に係る拡散防止剤は、有効成分として下記の式(I)〜(VI)から選択されるフッ素化合物を1種以上含有する。
【0032】
ここで、上記式(I)〜(VI)におけるパーフルオロエーテル基(Rf)はC
nF
2n+1O(CF
2CF
2O)
mCF
2CH
2―である(n=1〜4、m=0〜2)。
【0033】
以上のような拡散防止剤によれば、上述したフッ素化合物を有効成分として含有することにより、パーフルオロポリエーテル油を含有したフッ素系潤滑剤の特性を損なわせることなく、油拡散(油滲み)を効果的に防止することができる。また、拡散防止剤は、シリコーン油のようにパーフルオロポリエーテル油の耐荷重能を低下させることもない。そして、この拡散防止剤を含有させた潤滑油やグリース(潤滑剤)は、より万能な潤滑剤として様々な箇所に適用することができる。具体的には、例えば家電製品等における電気接点部位やレンズ部位等の特に油滲みが問題となる部位に対しても、油拡散が生じないため作動不良等を起こさず、良好に適用することができる。このことから、拡散防止剤を添加した潤滑剤を種々の製品に組み込んで長寿命の製品を提供することが可能となる。
【0034】
(1−2.パーフルオロポリエーテル油(基油)、並びに油拡散のメカニズム)
ここで、基油としてのパーフルオロポリエーテル油は、例えば下記一般式(1)〜(4)で表される構造を有するものを挙げることができる。具体的には、例えば、Krytoxシリーズ(デュポン株式会社製)、Fomblin Yシリーズ(ソルベイスペシャリティポリマーズジャパン製)、Fomblin Mシリーズ(ソルベイスペシャリティポリマーズジャパン製)、Fomblin Wシリーズ(ソルベイスペシャリティポリマーズジャパン製)、Fomblin Zシリーズ(ソルベイスペシャリティポリマーズジャパン製)、デムナムSシリーズ(ダイキン工業株式会社製)等の市販品を使用することができる。
【0035】
F―(CFCF
3―CF
2―O―)
n―CF
2―CF
3 一般式(1)
(なお、一般式(1)中のnは、0又は正の整数である。)
CF
3―(O―CFCF
3―CF
2)
p―(O―CF
2―)
q―O―CF
3
一般式(2)
(なお、一般式(2)中のp及びqは、それぞれ独立に、0又は正の整数である。)
F―(CF
2―CF
2―CF
2―O―)
r―CF
2―CF
3 一般式(3)
(なお、一般式(3)中のrは、0又は正の整数である。)
CF
3―(O―CF
2―CF
2―)
s―(O―CF
2―)
t―O―CF
3
一般式(4)
(なお、一般式(4)中のs及びtは、それぞれ独立に、0又は正の整数である。)
【0036】
パーフルオロポリエーテル油の粘度は、油拡散に大きく影響を及ぼす因子である。粘度が高くなるとパーフルオロポリエーテル油自身の持つ低温性が悪くなってしまう。そのため、本実施の形態に係る拡散防止剤は、その粘度が40℃で10〜600mm
2/sの範囲であるパーフルオロポリエーテル油に対して特に好適に用いることができる。また、パーフルオロポリエーテル油の化学構造については何ら縛られるものではなく、上述した一般式(3)(4)のような直鎖タイプ及び一般式(1)(2)のような側鎖タイプの両方に対して好適に用いることができる。
【0037】
基油として潤滑剤に含有させるパーフルオロポリエーテル油の拡散は、その基油が下地表面(潤滑剤適用箇所表面)の微小の粗さを介して毛細管現象によって伸び拡がることで生じるものと考えられる。ほとんどの下地表面には、少なからず粗さが存在するため、油拡散が嫌われる部位ではその拡散を効果的に防止することが必須となる。また、油の拡散距離は、油の粘性に大きく依存する。
【0038】
(1−3.油拡散防止のメカニズム)
本実施の形態に係る拡散防止剤は、以下のメカニズムにより油拡散を防止すると考えられる。すなわち、上述した拡散防止剤をパーフルオロポリエーテル油又はパーフルオロポリエーテル油を含むフッ素グリースに配合させると、その拡散防止剤が先行的に下地表面をコーティングする。このとき、拡散防止剤に含まれるフッ素化合物中のカルボキシル基やヒドロキシル基といった極性基が下地表面側に配向して、パーフルオロポリエーテル基が大気側を向く。一方で、パーフルオロポリエーテル油に残った拡散防止剤は、極性基が大気側を向くようになる。すると、この極性基が下地表面に先行してコーティングされたパーフルオロポリエーテル基と反発するようになり、これによってパーフルオロポリエーテル油の拡散を防ぐと考えられる。
【0039】
(1−4.配合量)
この拡散防止剤の配合量としては、特に限定されるものではなく、パーフルオロポリエーテル油の化学構造や物性に応じて適宜決定することが好ましい。具体的には、例えば潤滑剤に対して0.1〜10質量%程度の割合で配合することができる。なお、配合量が少なすぎると、油拡散の防止効果が十分に発現されない可能性があり、一方で配合量が多すぎると、拡散防止効果が頭打ちになるとともに、潤滑油成分の割合が少なくなるため潤滑性が低下する可能性がある。
【0040】
上述したように、パーフルオロポリエーテル油の拡散はその粘度に依存する。そのため、基油として配合させたパーフルオロポリエーテル油の粘度に応じて拡散防止剤の配合量を変化させることが好ましい。一般的に、パーフルオロポリエーテル油は、その粘度が低いほど拡散しやすくなることから、拡散防止剤の配合量を多くする必要がある。この傾向を上述の拡散防止メカニズムに照らすと、潤滑剤を適用した下地の接触表面では、拡散防止剤の表面コーティングと基油の拡散が競争している状態となり、油の粘度が低いほど流動性がよくなるために拡散防止剤が表面をコーティングする前に基油拡散が起こる可能性がある。そのため、粘度が低いパーフルオロポリエーテル油の場合には、拡散防止剤の配合量を多くするように調整することが好ましい。
【0041】
具体的に、例えば40℃における動粘度が100mm
2/s未満のパーフルオロポリエーテル油の場合は、拡散防止剤を潤滑剤に対して0.1〜10質量%程度の割合で配合させることが好ましく0.1〜5.0質量%程度の割合で配合させることがより好ましい。また、40℃の基油の動粘度が100mm
2/s以上のパーフルオロポリエーテル油の場合は、拡散防止剤を潤滑剤に対して0.1〜5.0質量%程度の割合で配合させることが好ましく、0.1〜3.0質量%程度の割合で配合させることがより好ましい。
【0042】
基油は温度により、粘度低下を起こすため、温度によって拡散防止性能は変化する。グリース中の基油および増ちょう剤は耐熱性に優れるため問題となり難いが、拡散防止剤成分は分子量の違い等により、熱により分解する場合がある。よって、当該組成物を使用する場合は、仕様温度範囲を理解しておく必要がある。例えば、家電製品の場合は上限を80℃、下限を−40℃と設定する場合が多い。80℃での使用の場合、当該組成物はいずれも耐熱性に優れるが、特に化合物(I)および/または化合物(II)を使用するのが好ましい。
【0043】
≪2.潤滑剤組成物(潤滑油組成物、グリース組成物)≫
(2−1.潤滑剤組成物について)
本実施の形態に係る潤滑剤組成物としては、基油としてのパーフルオロエーテル油に、上述した拡散防止剤を含有してなるフッ素系潤滑油組成物、及び更に増ちょう剤を添加したフッ素グリース組成物がある。
【0044】
パーフルオロポリエーテル油としては、上述したように、一般式(1)〜(4)で表される構造を有するものを挙げることができる。その中でも、粘度が40℃で10〜600mm
2/sの範囲であるものを用いることが、より効果的に油拡散を防止できるという観点から好ましい。
【0045】
フッ素グリース組成物とする場合、パーフルオロポリエーテル油を増ちょうさせる増ちょう剤としては、特に限定されるものではないが、ポリテトラフルオロエチレンを使用することが好ましい。ポリテトラフルオロエチレンは、パーフルオロポリエーテル油との親和性が高く、またそれ自身も高い潤滑性を有する。
【0046】
その中でも、平均粒径が10.0μm以下のポリテトラフルオロエチレンを使用することが好ましい。ポリテトラフルオロエチレンの粒径が細かいほど、パーフルオロポリエーテル油との接触面積が大きくなるため、パーフルオロポリエーテル油の油分離を小さくする効果が認められる。平均粒径が10.0μmより大きい粒径のポリテトラフルオロエチレンを用いた場合、パーフルオロポリエーテル油との接触面積が小さくなり、すなわち親和力が小さくなる。そのため、同量配合した場合でも、平均粒径が10.0μm以下のものに比べて油分離が多く、またちょう度が大きくなり流動性が増すためにフッ素グリース組成物の適用部からの流出が起こり易くなる。ポリテトラフルオロエチレンの配合量を増やすことで、グリースのちょう度及び油分離量の低減は可能であるが、グリース中の固体成分比が大きくなってしまうため、グリースの粘性が増大し、ハンドリング及び低温下でのトルクが増大してしまう。このように、ポリテトラフルオロエチレンとしては、その粒径の細かいものほどパーフルオロポリエーテル油との親和力が大きくなるため好ましく、平均粒径が10.0μm以下、より好ましくは0.1μm〜5.0μmのものを使用する。
【0047】
また、上述したように、増ちょう剤としては、ポリテトラフルオロエチレンに限られるものではなく、パーフルオロポリエーテル油と親和性の高いものは好適に使用することができる。具体的には、例えば、ポリテトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン−四フッ化エチレン共重合体、ポリビニリデンフルオライド等が挙げられる。また、その用途によっては、シリカエアロゲル、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、酸化亜鉛、硫化亜鉛、タルク、グラファイト、二硫化モリブデン、メラニンシアヌル酸付加物、超高分子量ポリエチレン等の粉体を使用することもできる。これらの増ちょう剤についても、油分離が小さく、適度なちょう度及びグリースの粘性が得られる粒径及び配合量とする。増ちょう剤の配合量は、上述したように平均粒径や増ちょう剤の種類によっても異なるが、フッ素グリース組成物の全体に対して1〜50質量%であり、例えば一般的なポリテトラフルオロエチレンの場合は10〜50質量%程度、シリカエアロゲルの場合は1〜10質量%程度である。
【0048】
なお、フッ素系潤滑油及びフッ素グリース組成物には、潤滑性を向上するための固体潤滑剤をはじめ摩擦調整剤、金属腐食防止剤、防錆剤といった種々の添加剤を配合することができる。
【0049】
(2−2.潤滑剤組成物の製造方法)
この潤滑剤組成物は、周知の一般的な方法により製造することができる。具体的には、例えばフッ素グリース組成物の場合、基油のパーフルオロエーテル油と増ちょう剤とを混練してグリース基剤を作製し、得られたグリース基剤に上述した拡散防止剤を所定量添加して分散させる。また、必要に応じて各種の添加剤を加えて混練する。これにより、拡散防止剤を配合させた非拡散性のフッ素グリース組成物を得ることができる。
【0050】
フッ素系潤滑油組成物の場合には、基油のパーフルオロエーテル油に拡散防止剤を所定量添加して撹拌する。また、必要に応じて各種の添加剤を加えて混練する。これにより、拡散防止剤を配合させた非拡散性のフッ素系潤滑油組成物を得ることができる。
【0051】
混練処理や分散処理に際しては、例えば3本ロールミル、万能撹拌機、ホモジナイザー、コロイドミル等の周知の撹拌・分散処理装置を用いて行うことができる。なお、上述のように各成分を順に添加して混練することに限られず、各成分を同時に混練してもよい。
【実施例】
【0052】
≪3.実施例≫
以下に本発明の優位性をより明確にする目的で、本発明を適用した実施例について説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0053】
<拡散防止剤>
拡散防止剤の作製方法を説明する。
【0054】
(拡散防止剤A)
【化13】
【0055】
まず、50mLナスフラスコに、撹拌子、1H‐,1H‐Perfluoro‐3,6,9‐trioxatridecan‐1‐ol(5.48g、10.0mmol)、クロロホルム(安定剤にアミレン使用のもの)(20mL)、m‐キシリレンジイソシアナート(0.986g、5.24mmol)、ジラウリン酸ジブチルすず(45μL、0.75μmol)を加え、室温で6日間撹拌した。次に、反応溶液を40℃で加熱しながらエバポレーターで乾固しない程度に濃縮後、メタノール(30mL)を加え40℃で30分間激しく撹拌し、混合液を冷蔵庫中に1時間静置した。次に、上澄みをデカンテーションで除去し、再度メタノール(30mL)を加え加熱撹拌後、冷蔵庫中に2時間静置した。そして、上澄みをデカンテーションで除去し、沈殿部をエバポレーター及び真空ポンプで濃縮・乾燥し、目的の拡散防止剤A(5.54g、4.32mmol)を得た。
【0056】
(拡散防止剤B)
【化14】
【0057】
まず、50mLナスフラスコに、撹拌子、1H‐,1H‐Perfluoro‐3,6,9‐trioxatridecan‐1‐ol(5.48g、10.0mmol)、クロロホルム(安定剤にアミレン使用のもの)(20mL)、トリレンジイソシアナート(2,4‐,2,6‐異性体混合物)(0.878g、5.04mmol)、ジラウリン酸ジブチルすず(45μL、0.75μmol)を加え、室温で6日間撹拌した。次に、反応溶液を40℃で加熱しながらエバポレーターで乾固しない程度に濃縮後、メタノール(30mL)を加え40℃で30分間激しく撹拌し、混合液を冷蔵庫中に1時間静置した。次に、上澄みをデカンテーションで除去し、再度メタノール(30mL)を加え加熱撹拌後、冷蔵庫中に2時間静置した。そして、上澄みをデカンテーションで除去し、沈殿部をエバポレーター及び真空ポンプで濃縮、乾燥し、拡散防止剤B(5.13g,4.04mmol)を得た。
【0058】
(拡散防止剤C)
【化15】
【0059】
まず、50mLナスフラスコに、撹拌子、1H‐,1H‐Perfluoro‐3,6,9‐trioxatridecan‐1‐ol(5.48g、10.0mmol)、クロロホルム(安定剤にアミレン使用のもの)(20mL)、4,4’‐ジイソシアン酸メチレンジフェニル(1.25g、4.98mmol)、ジラウリン酸ジブチルすず(45μL、0.75μmol)を加え、室温で6日間撹拌した。次に、反応溶液を40℃で加熱しながらエバポレーターで乾固しない程度に濃縮後、メタノール(30ml)を加え40℃で30分間激しく撹拌し、混合液を冷蔵庫中に1時間静置した。次に、上澄みをデカンテーションで除去し、再度メタノール(30mL)を加え加熱撹拌後、冷蔵庫中に2時間静置した。そして、上澄みをデカンテーションで除去し、沈殿部をエバポレーター及び真空ポンプで濃縮、乾燥し、拡散防止剤C(5.21g、3.87mmol)を得た。
【0060】
(拡散防止剤D)
【化16】
【0061】
まず、50mLナスフラスコに、撹拌子、1H‐,1H‐Perfluoro‐3,6,9‐trioxatridecan‐1‐ol(5.48g、10.0mmol)、クロロホルム(安定剤にアミレン使用のもの)(20mL)、4,4’‐ジイソシアナート‐3,3’‐ジメチルビフェニル(1.31g、4.97mmol)、ジラウリン酸ジブチルすず(45μL、0.75μmol)を加え、室温で6日間撹拌した。次に、反応溶液を40℃で加熱しながらエバポレーターで乾固しない程度に濃縮後、メタノール(30mL)を加え40℃で30分間激しく撹拌し、混合液を冷蔵庫中に1時間静置した。次に、上澄みをデカンテーションで除去し、再度メタノール(30mL)を加え加熱撹拌後、冷蔵庫中に2時間静置した。そして、上澄みをデカンテーションで除去し、沈殿部をエバポレーター及び真空ポンプで濃縮、乾燥し、拡散防止剤D(5.99g、4.40mmol)を得た。
【0062】
(拡散防止剤E)
【化17】
【0063】
まず、50mLナスフラスコに、撹拌子、1H‐,1H‐Perfluoro‐3,6,9‐trioxatridecan‐1‐ol(5.48g、10.0mmol)、クロロホルム(安定剤にアミレン使用のもの)(20mL)、ジイソシアン酸イソホロン(異性体混合物)(1.11g、4.99mmol)、ジラウリン酸ジブチルすず(45μL、0.75μmol)を加え、室温で6日間撹拌した。次に、反応溶液を40℃で加熱しながらエバポレーターで乾固しない程度に濃縮後、メタノール(30mL)を加え40℃で30分間激しく撹拌し、混合液を冷蔵庫中に1時間静置した。次に、上澄みをデカンテーションで除去し、再度メタノール(30mL)を加え加熱撹拌後、冷蔵庫中に2時間静置した。そして、上澄みをデカンテーションで除去し、沈殿部をエバポレーター及び真空ポンプで濃縮、乾燥し、拡散防止剤E(5.44g、4.45mmol)を得た。
【0064】
(拡散防止剤F)
【化18】
【0065】
まず、50mLナスフラスコに、撹拌子、1H‐,1H‐Perfluoro‐3,6,9‐trioxatridecan‐1‐ol(5.48g、10.0mmol)、クロロホルム(安定剤にアミレン使用のもの)(20mL)、ジシクロヘキシルメタン‐4,4’‐ジイソシアナート(1.31g、4.98mmol)、ジラウリン酸ジブチルすず(45μL、0.75μmol)を加え、室温で6日間撹拌した。次に、反応溶液を40℃で加熱しながらエバポレーターで乾固しない程度に濃縮後、メタノール(30mL)を加え40℃で30分間激しく撹拌し、混合液を冷蔵庫中に1時間静置した。次に、上澄みをデカンテーションで除去し、再度メタノール(30mL)を加え加熱撹拌後、冷蔵庫中に2時間静置した。そして、上澄みをデカンテーションで除去し、沈殿部をエバポレーター及び真空ポンプで濃縮、乾燥し、拡散防止剤F(4.82g、3.55mmol)を得た。
【0066】
<潤滑剤組成物>
次に、実施例1〜19、比較例1〜3において、上述した拡散防止剤を下記表1〜3に示す配合割合にて含有させた潤滑剤組成物(グリース組成物、潤滑油組成物)を作製した。なお、配合量は「質量%」で表される。
【0067】
ここで、基油となるパーフルオロポリエーテル油Aは、ダイキン工業株式会社製のデムナムS−65を用いた。また、パーフルオロポリエーテル油Bはデュポン株式会社製Krytox GPL 107を用いた。
【0068】
また、増ちょう剤としては、ポリテトラフルオロエチレン(デュポン株式会社製、ZONYL TLP 10F−1)を用いた。
【0069】
フッ素グリース組成物(実施例1〜14)については、以下の方法により作製した。すなわち、パーフルオロポリエーテル油とポリテトラフルオロエチレンとを混練し、拡散防止剤を添加した後、3本ロールミルで分散処理を施して、各グリース組成物を作製した。一方、比較例1〜比較例2のフッ素グリース組成物は、パーフルオロポリエーテル油とポリテトラフルオロエチレンとを混練し、3本ロールミルで分散処理を施し、脱泡することで作製した。
【0070】
フッ素系潤滑油組成物(実施例15〜19)については、以下の方法により作製した。すなわち、パーフルオロポリエーテル油に拡散防止剤を添加し、ディゾルバーを用いて撹拌した後に、脱泡を行って、各フッ素系潤滑油組成物を作製した。一方、比較例3のフッ素系潤滑油組成物は、パーフルオロポリエーテル油をそのまま用いた。
【0071】
<拡散性試験、及び評価>
実施例1〜19及び比較例1〜3にて作製した潤滑剤組成物について、油(パーフルオロエーテル油)拡散についての試験(拡散性試験)を行った。
【0072】
油拡散試験としては、先ず、2000番目のラッピングペーパー上に各グリースを直径16mm、高さ2mmの円柱状に塗布し、60℃の恒温槽内で24時間放置して、円柱状のグリース外周部から外側に滲み出したオイルの短部までの平均距離を求めた。なお、パーフルオロポリエーテル油単体については、10μLの潤滑油を滴下し、25℃の環境下で24時間放置して、放置前の油外周部から滲み出したオイルの短部までの平均距離を求めた。そして、拡散防止剤を配合していない比較例1〜3(ブランク)と比較して、その油の拡散距離がどの程度低減できたかを評価することで行った。なお、実施例1〜10は、比較例1と比較し、実施例11〜14は、比較例2と比較した。
【0073】
なお、下記表1〜3に、それぞれの油拡散試験の結果と、油拡散防止効果の評価を示すが、その評価においては、ブランク(−)と比較して10%以上の拡散距離低減効果があったものを『○』、50%以上の低減効果があったものを『◎』とした。
【0074】
(実施例1〜6(フッ素グリース組成物についての試験))
先ず、実施例1〜6として、基油であるパーフルオロポリエーテル油に上述の拡散防止剤を配合させたフッ素グリース組成物における油拡散防止効果を試験した。下記表1に、グリース組成物の組成と試験結果を示す。
【0075】
【表1】
【0076】
表1に示されるように、拡散防止剤を配合した実施例1〜6のフッ素グリース組成物では、拡散防止剤を配合していない比較例1(ブランク)と比較して、基油であるパーフルオロポリエーテル油の拡散を抑制することが確認された。特に、実施例1、実施例2、実施例5のグリース組成物では、拡散が全くない状態となった。
【0077】
(実施例7〜14(配合量の検討))
次に、実施例7〜14として、上述の表1で示された結果において特に顕著に油拡散防止効果を表した拡散防止剤Aについて、その配合量を変化させたときの拡散性試験を実施した。下記表2に、グリース組成物の組成と試験結果を示す。
【0078】
【表2】
【0079】
表2に示されるように、0.1%の配合より拡散防止効果を発揮した。さらに1.0%以上の配合では拡散が全くない状態を示した。
【0080】
(実施例15〜19(配合量の検討))
次に、実施例15〜19として、基油であるパーフルオロポリエーテル油に特に顕著に油拡散防止効果を表した拡散防止剤Aを配合させたフッ素系潤滑油組成物について、その配合量を変化させたときの拡散性試験を実施した。下記表3に、潤滑油組成物の組成と試験結果を示す。
【0081】
【表3】
【0082】
拡散防止剤Aについてフッ素系潤滑油に添加したところ、いずれも拡散防止効果が認められ、1.0%以上で顕著な拡散防止性能を示した。