特許第6281092号(P6281092)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6281092
(24)【登録日】2018年2月2日
(45)【発行日】2018年2月21日
(54)【発明の名称】高温耐性熱硬化素材の処理方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 79/04 20060101AFI20180208BHJP
   C08L 71/10 20060101ALI20180208BHJP
   C08L 79/08 20060101ALI20180208BHJP
   C08L 81/00 20060101ALI20180208BHJP
【FI】
   C08L79/04 A
   C08L71/10
   C08L79/08 B
   C08L81/00
【請求項の数】8
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-521146(P2015-521146)
(86)(22)【出願日】2013年7月11日
(65)【公表番号】特表2015-522100(P2015-522100A)
(43)【公表日】2015年8月3日
(86)【国際出願番号】IN2013000430
(87)【国際公開番号】WO2014033735
(87)【国際公開日】20140306
【審査請求日】2016年7月8日
(31)【優先権主張番号】2018/MUM/2012
(32)【優先日】2012年7月12日
(33)【優先権主張国】IN
(73)【特許権者】
【識別番号】515008612
【氏名又は名称】ケキ ホルムスジ ガルダ
【氏名又は名称原語表記】GHARDA Keki Hormusji
(74)【代理人】
【識別番号】100083286
【弁理士】
【氏名又は名称】三浦 邦夫
(74)【代理人】
【識別番号】100166408
【弁理士】
【氏名又は名称】三浦 邦陽
(72)【発明者】
【氏名】ケキ ホルムスジ ガルダ
(72)【発明者】
【氏名】プラカシュ ディー トリヴェディ
(72)【発明者】
【氏名】トゥシャー アール パリダ
(72)【発明者】
【氏名】アミトクマール ビラダー
【審査官】 横山 法緒
(56)【参考文献】
【文献】 特開平02−296834(JP,A)
【文献】 特開2012−126922(JP,A)
【文献】 特開昭63−277265(JP,A)
【文献】 特開平04−226566(JP,A)
【文献】 特開平03−041150(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00−101/14
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下から構成される:
a.内部粘度(I.V.)1.0〜2.5のポリ(2,5-ベンズイミダゾール)(ABPBI)、及び
b.該ポリ(2,5-ベンズイミダゾール)(ABPBI)のガラス遷移温度よりガラス遷移温度が低く内部粘度0.2〜1.5である少なくとも一つの結合剤
を含み、
温度範囲400℃〜600℃、圧力範囲1000psi〜10000psiで圧縮された耐温性に優れる重合体組成物において、
同組成物は以下の特徴を有する。
i.ガラス遷移温度範囲150〜480℃、
ii.ポリ(2,5-ベンズイミダゾール)(ABPBI)対結合剤比の範囲95:5〜5:95。
【請求項2】
請求項1に請求される重合体組成物であり、その結合剤がポリエーテルケトン(PEK)、ポリアリールエーテルケトン(PAEK)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)ポリエーテルケトンケトン(PEKK)、及び、ポリエーテルスルフォン(PES)ら構成される群の中から選択されるもの。
【請求項3】
ポリ(2,5-ベンズイミダゾール)(ABPBI)と少なくとも一種の結合剤から成る耐温性に優れる重合体組成物の製造方法であって、該方法は、
ポリ(2,5-ベンズイミダゾール)(ABPBI)と少なくとも一種の結合剤を混合して混合物を得る工程、さらに、
同混合物を温度が400℃〜600℃、時間0.5〜4時間、圧力範囲1000psi〜10000psiで加熱圧縮成形し、これを冷却して、耐温性に優れる重合体組成物をディスク、チップ、板、管、棒状物から構成する群の中から選択する成形品として得る工程から成り、同組成物のガラス遷移温度範囲が150〜480℃であることを特徴とする。
【請求項4】
請求項で請求される方法であり、この場合同結合剤は少なくとも一種の、ガラス遷移温度がポリ(2,5-ベンズイミダゾール)(ABPBI)のガラス遷移温度より低い化合物である。
【請求項5】
請求項で請求される方法であり、その結合剤がポリエーテルケトン(PEK)、ポリアリールエーテルケトン(PAEK)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)ポリエーテルケトンケトン(PEKK)、及び、ポリエーテルスルフォン(PES)ら構成される群の中から選択されるもの。
【請求項6】
請求項で請求される方法であり、ポリ(2,5-ベンズイミダゾール)(ABPBI)の内部粘度(I.V.)は1.0〜2.5である方法。
【請求項7】
請求項で請求される方法であり、結合剤の内部粘度が0.2〜1.5である方法。
【請求項8】
請求項で請求される方法であり、ポリ(2,5-ベンズイミダゾール)(ABPBI)対結合剤の比は95:5〜5:95の範囲である方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は高温耐性熱硬化素材に関する。本発明はさらに高温耐性熱硬化素材を原料とする物品の調製プロセスに関する。
【背景技術】
【0002】
ABPBIまたはポリベンズイミダゾール(PBI)は次の分子式で表される熱硬化性重合体である:
-(C7H4N2)n-
この物質は比重範囲1.28-1.33の無臭で、茶色ないし黒色の固体である。水及び有機溶媒に不溶であり、氷点・融点ともに無い。この重合体はガラス遷移温度(Tg)が高く500℃まで融解温度が存在しないため最大500℃までは溶融加工不可能である。従ってこの重合体は極めて耐温性に優れるものの、加工が困難である。
ABPBIはさらに薬品耐性に優れる(引火しない)ほか、優れた紡織性能及び触感性のよい繊維に加工可能である。消防庁や宇宙局等多様な分野に応用可能な例外的物性を有するにも拘わらず、従来、加工が困難なため前駆物質としては利用が進んでいなかった。従来は溶液流涎被膜としての用途が見られているのみであり、リン酸含浸陽子交換燃料電池用膜としては評価されたことがある。従ってこの独自で有用な重合体を加工可能にする効果的解決法に対する必要性は明白である。
【0003】
以下の用語や句は本発明においては以下の意味において使用されるものとする。ただし、これらが使用される文脈上別途の意味で使用される場合を除く。
「耐温性」とは、熱により物体または材料が寸法や構造が変化されないことを意味する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的のうち少なくとも一つの実施例に対して適合された一部のものを以下に説明する。
本発明は耐温性に優れる熱硬化性重合体を得ることを目的とする。
本発明の目的は耐温性に優れる熱硬化性重合体の工業用途を増大させることである。
本発明のさらに一つの目的は耐温性に優れる熱硬化性重合体を加工可能にする際この物質に内在的な物理的特性としての障壁を克服することにある。
本発明のさらに一つの目的は耐温性に優れる熱硬化性重合体の加工困難性という課題に取り組むことである。
本発明のさらに一つの目的は加工が容易な耐温性に優れる熱硬化性重合体の製造方法を提供することである。
本発の明のさらに別の目的は耐熱・耐薬品性に優れる一般的工業製品の製造用前駆物質の提供にある。
本発明のさらに別の目的及び差別化点は以下の説明により明らかとなるが、本発明の範囲をこれにより限定することは意図されていない。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一つの特徴においては以下から構成される耐温性に優れる重合体組成物が提供される。
a.内部粘度(I.V.)1.0〜2.5のポリ(2,5-ベンズイミダゾール)(ABPBI)、
b.ポリ(2,5-ベンズイミダゾール)(ABPBI)のガラス遷移温度よりガラス遷移温度が低く内部粘度0.2〜1.5である少なくとも一つの結合剤
を含み、温度範囲400℃〜600℃、圧力範囲1000psi〜10000psiで圧縮された組成物であって以下の特徴を有する。
i.ガラス遷移温度範囲150〜480℃、
ii.ポリ(2,5-ベンズイミダゾール)(ABPBI)対結合剤比の範囲95:5〜5:95。
【0006】
本発明の一実施例において、ポリ(2,5-ベンズイミダゾール)(ABPBI)対結合剤比は95:5〜50:50の範囲である。
通常の場合同結合剤は、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリアリールエーテルケトン(PAEK)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)ポリエーテルケトンケトン(PEKK)、及び、ポリエーテルスルフォン(PES)ら構成される群の中から選択する
本発明の別の特徴においてはポリ(2,5-ベンズイミダゾール)(ABPBI)と少なくとも一種の結合剤から成る耐温性に優れる重合体組成物の調製方法を提供する。該方法は以下の手順から構成される。
-ポリ(2,5-ベンズイミダゾール)(ABPBI)と少なくとも一種の結合剤を混合して乾燥粉の混合物を作る。
さらに、
-同混合物を温度が400℃〜600℃、処理時間0.5〜4時間、圧力範囲1000psi〜10000psiで圧縮金型中にて加熱圧縮処理する。これを冷却し、耐温性に優れる重合体組成物をディスク、チップ、板、管、棒状物から構成する群の中から選択する成形品として取得する。この際同組成物はガラス遷移温度範囲150〜480℃であることを特徴とする。
【0007】
通常の場合、同結合剤は少なくとも一種の、ガラス遷移温度がポリ(2,5-ベンズイミダゾール)(ABPBI)のガラス遷移温度より低い化合物である。
通常の場合、同結合剤は、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリアリールエーテルケトン(PAEK)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)ポリエーテルケトンケトン (PEKK)、及び、ポリエーテルスルフォン(PES)ら構成される群の中から選択する。
通常の場合、ポリ(2,5-ベンズイミダゾール)(ABPBI)の内部粘度(I.V.)は1.0〜2.5である。
通常の場合、上記結合剤の内部粘度は0.2〜1.5である。
【0008】
本発明の一実施例において、ポリ(2,5-ベンズイミダゾール)(ABPBI)対結合剤の比は95:5〜95:5の範囲である。本発明のさらに一実施例において、ポリ(2,5-ベンズイミダゾール)(ABPBI)対結合剤の比は95:5〜50:50の範囲である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の実施例及びその多様な特徴並びに有利性を以下ではここに記載される実施例に限ることなくこれらの実施例を参照として用い説明する。周知の成分及び処理技術の説明は実施例を不要に複雑にすることを避けるためにここでは省略する。本発明で使用される実施例はここに記載されている実施例の実施方法の理解の一助とするため及びここに記載されている実施例の実施を当該分野の技能を有する者が容易に行えるようにするためにのみ掲載している。従って、実施例はここに記載の実施例の範囲を限定するものとして解釈することはできない。
【0010】
具体的実施例について以下で説明される内容は現状の知識を応用した場合に他者が容易に当該実施例の多様な応用のために基本的考え方から乖離せずとも変更及び/または適合可能なように本実施例の汎用性を開示したものである。従ってこうした適合や変更は開示された同実施例の意味及び範囲において理解すべきであるとともに理解されることが意図されている。本説明で使用される句や用語の用法は説明の目的のためであり記述内容のみに限定するためではない。従って、ここに説明される実施例は好適な実施例に基いて説明されており、当該分野の技能を有する者は同実施例がここに説明される実施例の発想及び範囲内で変更した場合において実践可能であることを認識可能である。
【0011】
ABPBIは最大500℃までは溶融加工不可能な熱硬化性重合体である。これはこの物質のガラス遷移温度(Tg)が485℃と極めて高く融点(Tm)が500℃に及ぶためである。従って同重合体が加工困難であるが高温下において極めて安定した物質であることが明白である。
【0012】
本発明はこの重合体の加工困難性の課題に取り組んだ。本発明の発明者らはABPBI熱可塑性重合体を一種類の結合剤と混合することにより加工可能にしうることを発見した。ABPBIと混合される同結合剤はABPBI重合体の軟化温度を下げる。軟化温度の低下によりABPBIの加工が可能になる。同混合物は容易に加工が可能であり、シールリング、シール、スラストベアリング等の物品の製造に応用できる。このため石油・ガス産業での高温、高硬度、薬品耐性及び火炎耐性用途にきわめて有用でありうる。
【0013】
本発明の特徴のうち一つに従って、ポリ(2,5-ベンズイミダゾール)(ABPBI)及び少なくとも一種の結合剤から構成される温度400℃〜600℃、圧力1000psi〜10000psiで圧縮して得る耐温性に優れる重合体組成物を提供する。この重合体組成物はガラス遷移温度範囲150℃〜480℃であることを特徴とする。
結合剤及びこの重合体組成物に使用する結合剤の量はポリ(2,5-ベンズイミダゾール)(ABPBI)の軟化温度をABPBIの加工が可能になる程度まで低下させうるように選択する。
さらに、ABPBIを加工可能にする工程においては結合剤のガラス遷移温度がABPBIのガラス遷移温度より低いことが必要であることが同実験を通して判明した。又さらに、同結合剤がABPBIと結合する機能性がABPBIのガラス繊維温度及び軟化温度の低下の程度を決定する上で重要な役割を果たす。
【0014】
この種の結合剤は以下に限定されることなく以下を含んでいる:ポリエーテルケトン (PEK)、ポリアリールエーテルケトン(PAEK)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルケトンケトン (PEKK)、硫化ポリフェニレン(PPS)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリエーテルスルフォン(PES)、及び、ポリフェニルスルフォン(PPSU)。結合剤の使用量も最終材料/物品の用途により異なる。従って、一方では用途に依存し、他方ではABPBIを加工可能にする点に依存し、ABPBI対結合剤の比は95:5から5:95まで多様に存在しうる。本発明の一実施例に従うと、ポリ(2,5-ベンズイミダゾール)(ABPBI)対結合剤比は95:5〜50:50の範囲である。
さらに、この重合体組成物の個別成分の量と組み合わせるABPBI及び結合剤の内部粘度(I.V.)は組成される重合体組成物の化学的及び物理的特性に影響を及ぼす。
【0015】
一実施例において、内部粘度1.2のABPBIと内部粘度1.0のポリエーテルケトンを95:5の比で混合した混合物から成る組成物の物性は内部粘度1.8のABPBIと内部粘度1.0のポリエーテルケトンを90:10の比で混合した混合物からなる組成物の物性とは異なる。
従って、既定特性を持つ重合体組成物を取得するには、ABPBIの内部粘度を1.0〜2.5に、結合剤の内部粘度を0.2〜1.5と、異なりうる。
【0016】
本発明の別の特徴に従うと、ポリ(2,5-ベンズイミダゾール)(ABPBI)と少なくとも一種の結合剤から成る耐温性に優れる重合体組成物の製造方法を提供する。本発明方法に従って調製されるこの重合体組成物はガラス遷移温度範囲150℃〜480℃である。
第一の手順では、内部粘度1.0〜2.5のABPBIと結合剤の微粉末を高速ブレンダーの中で混合して乾燥混合物を得る。ABPBIと混合する結合剤のガラス遷移温度はポリ(2,5-ベンズイミダゾール)(ABPBI)のガラス遷移温度より低く、内部粘度が0.2〜1.5である。使用する結合剤は以下の物を含むが、これらに限定するものではない。PEKまたはPAEK、PEEK、PEKK、PPS、PEI、PESとPPSU、これを個別にまたは混合して使用する。ABPBIと結合剤の混合比を95:5〜50:50に維持すると最適な結果を得る。
第二の手順において、同混合物を金型に注入し、圧縮成形機内においてセラミックバンドヒーターで温度範囲400℃〜600℃、圧力範囲1000psi〜10000psiで0.5〜4時間加圧加熱する。
最後に圧縮プレスの中の金型を冷却してから重合体組成物を離型する。こうして得られる耐温性に優れる重合体組成物はディスク、チップ、板、管、棒状物等類似形状の物品に限定されることなくこれらの物を含んだ任意の形状にすることができる。
【0017】
本発明をさらに以下の非限定的実施例に基いて説明する。これらの実施例は説明目的のためにのみ記載されるのであり、本発明の範囲を限定するものと解釈されてはならない。
【0018】
実施例1:
ABPBI重合体(I.V.(内部粘度)1.8)の粒径 < 100ミクロンの微粉末100gを内径110mmの圧縮円形金型(外部バンドヒーターで電気加熱)に注入した。次に金型を50トン圧縮プレス(LABTECH LPS-50)に搭載し、同粉末を3時間、500℃、圧力2000psiで圧縮成形プレスにより加工した。次に成形品を120℃まで冷却し、金型からディスクを離型した。直径110mm、厚み5-6mmのディスクをそこから離型し以下の試験に掛けた。同ディスクは超硬であり暗緑色であった。しかし表面全体はひび割れた状態であった。それ以外の表面は滑らかで光沢があったが、丸鋸で切断すると内部は融合ないし溶融せずに材料の粉末状態のままであった。また、切断した際ディスクは小さい破片に粉砕された。縁は手で押しただけでもひび割れが深い箇所では欠け落ちた。
【0019】
実施例2:
実施例1をI.V. 1.2のABPBIを用いて反復した。 同様のディスクを得たがこれも硬く暗緑色であり、離型が困難であった。しかし実施例1の物より多くひび割れがあり、鋸で切断しようとするとさらに脆く欠け落ちた。内部表面は灰色がかっており融解も溶融もなかったことを示していた。
【0020】
実施例3:
ABPBI (I.V. 1.2)の微粉末をPEK (I. V. 1.0, G-PAEK)の微粉末と95:05の割合で高速ブレンダーの中で5分間混合した。混合物を内径110mmの円筒形ディスク金型に注入し、セラミックバンドヒーターで加熱した。次に金型を50トン圧縮プレス(LABTECH LPS-50)に搭載した。粉末を500℃、2000psiで1時間圧縮し、ディスクを冷却後に離型し、必要な試料形状に切断後、動的機械分析で貯蔵弾性率、テーバー磨耗(重量損失)及び硬度の試験を行った。以上のようにして生産されたABPBIのディスクは切断時に粉砕せず、内面は完全に融合していたことが判明した。ディスク表面に目立つひび割れや欠けも観察されなかった。
【0021】
実施例4:
実施例3の試料を圧縮時間2時間で圧縮プレス金型で反復加工した。冷却されたディスクは破損することなく離型でき、丸鋸で切断しても粉砕しなかった。内面は滑らかでありこの条件の下では融合していた。
【0022】
実施例5:
実施例3の試料を圧縮時間3時間で圧縮プレス金型で反復加工した。冷却されたディスクは破損することなく離型でき、丸鋸で切断しても粉砕しなかった。内面は滑らかでありこの条件の下では融合していた。
【0023】
実施例6、7、8 :
実施例3と4、5の試料をI.V 1.8のABPBIをI.V 1.0のPEKと90:10の割合で混合し繰り返し処理した。成形したディスクを旋盤加工し試験用試料を作成した。ABPBI製成形ディスクが超硬であり機械加工が極めて困難であることが判明した。工作機械もディスク切削のため若干摩耗した。ディスク内面は完全に融合し溶融していた。固形化した重合体は外観が粒状でも粉末状でもなかった。
【0024】
実施例 9:
実施例3の試料を温度400℃(実施例7)、450℃ (実施例8)、500℃ (実施例9)で、混合比90% ABPBI、10% PEKにより反復処理した。以上のように調製されたディスクは良好に融合し、硬く試験試料に切断可能であった。
【0025】
実施例10:
実施例3の試料にABPBIの結合剤にPEKではなく5% PEEKを使用して行った。成形を450℃で実施し、ディスクを120℃に冷却後離型した。離型は容易でありディスクはPEKとPEKKを含有する他の全ての組成物の場合の色より明るい色をしていた。
【0026】
実施例11:
実施例3の試料に結合剤としてPEKではなくPEKKを使用した。5% PEKK粉末をI.V. 1.8の95% ABPBI粉末と混合し、金型に注入後、450℃で1時間で圧縮成形した。部品は容易に離型で暗褐色をしていた。ひび割れも無く、機械加工しても破損しなかった。
【0027】
実施例12:
実施例3の試料に結合剤としてPEKではなくPES (ポリエーテルスルフォン)を使用した。5% PES粉末をI.V.1.8の95% ABPBI粉末と混合し、金型に注入後450℃で1時間プレスした。ディスクは離型でき割れの兆候も無かった。
【0028】
実施例13:
内部粘度1.0の5 % PEKではなく内部粘度0.7のPEK(G-PAEK 1400P) 5 %を結合剤として、実施例3に説明されるように使用した。製品は容易に離型でき、テーバー磨耗耐性も良好であった。
【0029】
実施例14〜23:
ABPBI:PEK (I.V.1.0)の95:5の割合の乾燥混合物を調製し、450℃、2000psiで1時間圧縮成形した (実施例14)。
ABPBI:PEKの他の組成物も下記に従い調製し、450℃、2000psiで1時間成形した。
ABPBI:PEK :(90:10) - 実施例15
ABPBI:PEK :(80:20) - 実施例16
ABPBI:PEK :(70:30) - 実施例17
ABPBI:PEK :(60:40) - 実施例18
ABPBI:PEK :(50:50) - 実施例19
ABPBI:PEK :(40:60) - 実施例20
ABPBI:PEK :(30:70) - 実施例21
ABPBI:PEK :(20:80) - 実施例22
ABPBI:PEK :(10:90) - 実施例23

上記すべての実施例において、強靭性に富む完全なディスクを割れや欠けも無く離型でき、種々の試験用試料に切断可能であった。
【0030】
実施例24:
I.V. 1.0の60% PEKとI.V. 1.8の40% ABPBIからなる混合物を500℃、2000psiで1時間圧縮成形した。ディスクを容易に離型できた。表面は極めて滑らかであり、どの縁や表面からも割れや欠けは発生しなかった。テーバー磨耗を数個の試料について分析した。計測値を表1に記載する。
(使用したカッティングディスク:CS-17、負荷:1 Kg、接触面の研削回数:1000周期)
【0031】
(表1)
本発明方法に従い製造されたABPBIディスクの最大5000周期についてのテーバー磨耗比較分析:
【0032】
概して言うと、ABPBIのみではPEKと結合したABPBIより高い摩損度を示した。PEK濃度が高いほど磨損度は低く、磨損耐性はより高い。ABPBIはPEKと結合する母材の重合体粒子フィラーとして機能する。PEK濃度が高いほど結合性能に優れ、磨損度は通常の場合より低い。明記すべきは、結合剤を添加することはABPBIの圧縮成形のために必要である。結合剤にPEEK及びPESを使用しても磨損度は低くなる。従って、流動性が高く溶融性が低い結合剤が潜在的には母材の湿潤性能に優れ、結合性がよい。
低I.V. (0.7)のPEKは高I.V.(1.0)のPEKと比較して結合性が優れることから磨損度が低かった。
【0033】
(表2)
ABPBIとPEK混合物の試料の動的機械分析 (DMA)
【0034】
動的機械分析及び表2に記載の結果より、PEK及びABPBIのガラス遷移温度(Tg)はそれぞれ170℃及び485℃であり、ここにABPBIとPEKの比95:5から成る組成物のTgは464℃、ABPBIとPEKの比40:60から成る組成物のTgが175℃であった。
従って、ABPBIのガラス遷移温度はPEK、PEEK、PEKK、PES、PAEK等の結合剤を混入することにより下がり、生成される重合体組成物が加工可能になる。換言すると、以上のように調製されたABPBI成形品は400℃までは貯蔵弾性率あるいは強靭性が高く高温での有用性があることを示している。
【産業上の利用可能性】
【0035】
高温耐性熱硬化素材即ちABPBIを本発明に従い加工する方法は以下に限定されることなく以下を含む数種類の技術的優位性を有する。
・高温耐性熱硬化素材の内在的な物理的障壁を克服するために簡素だが同時に効果的技術の使用。
・高温耐性熱硬化素材の処理を行うための費用効果的解決法。
・前駆物質を取得するための現在実用されている金属類等を使用する比較的高価な工程に代わる比較的簡素であり費用効果的プロセス。
【0036】
本明細書を一貫して用語「構成」またはその類の表記「成る」あるいは「構成される」は表記されている要素、完全体、手順、あるいは、要素、完全体、または手順の群を含意する一方、その他の要素、完全体、または手順、あるいは、要素、整数、または手順の群を除外するのではないものとして理解されるべきものである。
【0037】
「少なくとも」あるいは「少なくとも一種(一つの)」という表現の使用はその使用が目的の対象物または結果のうち一つまたは複数のものを実現するために本発明の実施例に採用されている通り、一つまたは複数の要素または成分または数量を使用することを意味する。
【0038】
本明細書に記載された文書、動作、材料、装置、品目等についての検討は本明細書においては発明に文脈を付与するための目的のみを持つ。以上の材料のうち任意のものまたは全てが従来技術の基礎を成すまたは本発明に関連する分野において本出願の優先権主張日より前に任意の場所に存在したような一般的常識であったものと認めることを意味してはいない。
種々の物理的パラメータ、寸法、または、数量について表記されている数値は概数にすぎず、同パラメータ、寸法、または、数量に割り当てられた数値より高いまたは低い値が本発明の対象範囲に含まれる。但し、以上とは反する具体的明細書に記載されていない場合に限る。
本明細書においては本発明固有の特徴が相当強調されている一方では、多様な変更が可能であるとともに好適な実施例においては多くの変更が発明の趣旨から乖離することなく可能であることが認識されている。本発明または好適な実施例の性質に施される以上の及び他の変更は本発明に基く当該分野において技能を有する者には自明である。この際本明細書は本発明の説明としてのみ解釈されるべきものであり、開示内容に限定するものとしては解釈されない点を明示的に認識している。