特許第6281194号(P6281194)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6281194
(24)【登録日】2018年2月2日
(45)【発行日】2018年2月21日
(54)【発明の名称】空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
   B60C 13/00 20060101AFI20180208BHJP
   B60C 5/14 20060101ALI20180208BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20180208BHJP
【FI】
   B60C13/00 A
   B60C5/14 A
   B60C5/14 Z
   C08L101/00
【請求項の数】6
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2013-139457(P2013-139457)
(22)【出願日】2013年7月3日
(65)【公開番号】特開2015-13489(P2015-13489A)
(43)【公開日】2015年1月22日
【審査請求日】2016年6月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100066865
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 信一
(74)【代理人】
【識別番号】100066854
【弁理士】
【氏名又は名称】野口 賢照
(74)【代理人】
【識別番号】100117938
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 謙二
(74)【代理人】
【識別番号】100138287
【弁理士】
【氏名又は名称】平井 功
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】原 祐一
【審査官】 岩本 昌大
(56)【参考文献】
【文献】 実開平06−042307(JP,U)
【文献】 特開2013−018474(JP,A)
【文献】 実開平07−035109(JP,U)
【文献】 実開昭52−078201(JP,U)
【文献】 特開2013−047010(JP,A)
【文献】 特開2014−037214(JP,A)
【文献】 特開2014−037215(JP,A)
【文献】 特開2013−071572(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/129351(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 13/00
B60C 5/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
空気透過防止機能を有するインナーライナー層をタイヤ内表面に備えた空気入りタイヤにおいて、前記インナーライナー層が熱可塑性樹脂を含む熱可塑性樹脂組成物から構成され、サイドウォール部の外表面に表示部が形成されており、該表示部に前記インナーライナー層の材料に関する情報が表示されていることを特徴とする空気入りタイヤ。
【請求項2】
前記インナーライナー層の空気透過係数が25×10-12cc・cm/cm2・sec・cmHg以下であることを特徴とする請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
前記インナーライナー層の厚さが0.001mm〜0.5mmであることを特徴とする請求項2に記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
前記熱可塑性樹脂がポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリニトリル系樹脂、ポリメタクリレート系樹脂、ポリビニル系樹脂、セルロース系樹脂、フッ素系樹脂、イミド系樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【請求項5】
前記熱可塑性樹脂組成物がエラストマーを含むことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【請求項6】
前記エラストマーがジエン系ゴム及びその水添物、オレフィン系ゴム、含ハロゲンゴム、シリコンゴム、フッ素ゴム、ブロック共重合体からなる群より選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項に記載の空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤに関する情報をタイヤ外表面に表示した空気入りタイヤに関し、更に詳しくは、従来では表示されていなかった有益な情報をタイヤ外表面に表示するようにした空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
空気入りタイヤにおいて、サイドウォール部の外表面には、通常、メーカー名や商品ブランドのほか、タイヤサイズを含むタイヤ基本情報が刻印されている。このような情報は、表示ラベルに印刷され、その表示ラベルをサイドウォール部の外表面に貼着することで表示される場合もある(例えば、特許文献1参照)。また、他の情報提供手段として、温度変化に起因するタイヤの取り扱いについてユーザーに注意を促すために、温度変化を利用した警告ラベルをタイヤ外表面に貼り付けることも提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0003】
上述のようにタイヤ外表面に表示される各種の情報はいずれも空気入りタイヤの構造や特性を把握する上で有益である。しかしながら、従来では表示されていなかった情報の中にも有益なものがあり、それら情報をタイヤ外表面に表示することでユーザーの利便性を高めることが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−319843号公報
【特許文献2】特開2006−123704号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、インナーライナー層の特徴をタイヤ外側から判別可能にすることにより、タイヤ特性を容易に把握し、パンク修理を適切に実施することやタイヤ内圧を適切な値に設定することを促進するようにした空気入りタイヤを提供することにある。
【0006】
本発明の他の目的は、タイヤに採用された独自の構造又は独自の材料をタイヤ外側から判別可能にすることにより、タイヤ特性を容易に把握することを可能にした空気入りタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するための本発明の空気入りタイヤは、空気透過防止機能を有するインナーライナー層をタイヤ内表面に備えた空気入りタイヤにおいて、前記インナーライナー層が熱可塑性樹脂を含む熱可塑性樹脂組成物から構成され、サイドウォール部の外表面に表示部が形成されており、該表示部に前記インナーライナー層の材料に関する情報が表示されていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明では、空気透過防止機能を有するインナーライナー層をタイヤ内表面に備えた空気入りタイヤにおいて、インナーライナー層に関する情報をタイヤ外表面に表示し、インナーライナー層の特徴をタイヤ外側から判別可能にすることにより、タイヤ特性を容易に把握することができ、その結果、パンク修理を行う際にインナーライナー層の特徴に応じてパンク修理を適切に実施することができ、また、インナーライナー層の特徴に応じてタイヤ内圧を適切な値に設定することができる。
【0010】
インナーライナー層の空気透過係数は25×10-12cc・cm/cm2・sec・cmHg以下であることが好ましい。また、インナーライナー層の厚さは0.001mm〜0.5mmであることが好ましく、更には0.01mm〜0.3mmであることが好ましい。このように空気透過防止機能が高く薄いインナーライナー層はパンク修理時やタイヤ内圧充填時に注意が必要であるので、その情報を表示することには大きな意義がある。なお、空気透過係数はJIS K7126「プラスチックフィルム及びシートの気体透過度試験法」に準拠して30℃の温度条件で測定した値である。
【0011】
インナーライナー層は熱可塑性樹脂を含む熱可塑性樹脂組成物から構成されることが好ましい。この場合、熱可塑性樹脂はポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリニトリル系樹脂、ポリメタクリレート系樹脂、ポリビニル系樹脂、セルロース系樹脂、フッ素系樹脂、イミド系樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種であると良い。
【0012】
上記熱可塑性樹脂組成物は、熱可塑性樹脂に加えて、エラストマーを含むことが好ましい。熱可塑性樹脂は、一般的にタイヤを構成するゴムに比べて弾性率が高く、クラックを生じたり接着不良による剥離を生じ易いが、熱可塑性樹脂組成物にエラストマーを配合することにより、これらの欠点を補うことができる。この場合、エラストマーはジエン系ゴム及びその水添物、オレフィン系ゴム、含ハロゲンゴム、シリコンゴム、フッ素ゴム、ブロック共重合体からなる群より選ばれる少なくとも1種であると良い。
【0013】
また、本発明では、独自の構造又は独自の材料を採用した空気入りタイヤにおいて、独自の構造又は独自の材料に関する情報をタイヤ外表面に表示し、タイヤに採用された独自の構造又は独自の材料をタイヤ外側から判別可能にすることにより、タイヤ特性を容易に把握することができる。
【0014】
本発明において、「独自の構造又は独自の材料に関する情報」とは、メーカー名、ブランド名(商品名)、タイヤサイズ〔幅、扁平率、構造(ラジアル/バイアス)、リム径、ロードインデックス、速度記号、タイヤ外径等〕、タイヤ装着方向、セリアルナンバー、認証、タイヤカテゴリー(ウィンター、オールシーズン)、チューブ/チューブレス、スリップサインの位置、補強材の材質(スチールラジアル等)を除く、メーカーが独自に採用したタイヤの構造又は材料に関する情報を意味する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の実施形態からなる空気入りタイヤを示す子午線半断面図である。
図2】本発明の実施形態からなる空気入りタイヤを示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の構成について添付の図面を参照しながら詳細に説明する。図1及び図2は本発明の実施形態からなる空気入りタイヤを示すものである。
【0017】
図1に示すように、本実施形態の空気入りタイヤは、トレッド部1と、該トレッド部1の両側に配置された一対のサイドウォール部2と、これらサイドウォール部2のタイヤ径方向内側に配置された一対のビード部3とを備えている。一対のビード部3,3間にはカーカス層4が装架されている。このカーカス層4は、各ビード部3に配置されたビードコア5の廻りにタイヤ内側から外側に巻き上げられている。また、ビードコアの外周上にはゴム組成物からなるビードフィラー6が配置されている。
【0018】
一方、トレッド部1におけるカーカス層4の外周側には複数層のベルト層7が埋設されている。これらベルト層7はタイヤ周方向に対して傾斜する複数本の補強コード含み、かつ層間で補強コードが互いに交差するように配置されている。ベルト層7において、補強コードのタイヤ周方向に対する傾斜角度は例えば10°〜40°の範囲に設定されている。更に、ベルト層7の外周側にはタイヤ周方向に配向する補強コードを含むベルト補強層8が設けられている。ベルト補強層8において、補強コードのタイヤ周方向に対する傾斜角度は例えば5°以下に設定されている。
【0019】
また、タイヤ内表面には空気透過防止機能を有するインナーライナー層9がカーカス層4に沿って設けられている。このインナーライナー層9は、一般的なブチルゴムを主体とするゴム組成物から構成されるものではなく、ブチルゴムよりも優れた空気透過防止機能を有する独自の材料から構成されている。インナーライナー層9は、例えば、熱可塑性樹脂を含む熱可塑性樹脂組成物から構成することが可能であるが、それ以外にも、タイヤ内面に蒸着された金属やセラミックスから構成することも可能である。いずれにしても、インナーライナー層9の空気透過係数は25×10-12cc・cm/cm2・sec・cmHg以下、より好ましくは、10×10-12cc・cm/cm2・sec・cmHg以下であると良い。また、インナーライナー層9の厚さは0.001mm〜0.5mm、より好ましくは、0.01mm〜0.3mmであると良い。
【0020】
上述のように空気透過防止機能を有するインナーライナー層9をタイヤ内表面に備えた空気入りタイヤにおいて、タイヤ外表面にはインナーライナー層9に関する情報を表示するための表示部10が形成されている。図1及び図2に示すように、表示部10はサイドウォール部2の外表面に配置され、サイドウォール部2の外表面から窪んだ凹部11と該凹部11の底面に貼り付けられたラベル12とから構成されている。このラベル12にはインナーライナー層9に関する情報が文字、数字、記号、絵柄等を用いて表示されている。例えばインナーライナー層9が「YAL」(登録商標)と称される独自の材料(熱可塑性樹脂を含む熱可塑性樹脂組成物)から構成される場合、それに関する情報として、例えば「YAL Inside」という表示が行われる。表示部10は一対のサイドウォール部2のいずれか一方に設けるようにしても良く、両方に設けるようにしても良い。
【0021】
上記のような空気入りタイヤでは、空気透過防止機能を担持するインナーライナー層9が一般的なブチルゴムからなるものに比べて薄いため、パンク修理の際に過度に削られると空気透過防止機能が損なわれ、場合によっては、インナーライナー層9の下側に位置するカーカス層4が傷付けられてしまうことがある。しかしながら、インナーライナー層9に関する情報をタイヤ外表面に表示し、インナーライナー層9の特徴をタイヤ外側から判別可能にすることにより、タイヤ特性を容易に把握することができ、その結果、パンク修理を行う際にインナーライナー層9の特徴に応じてパンク修理を適切に実施することができる。
【0022】
また、インナーライナー層9がエア漏れを生じ難い素材から構成される場合であっても、空気入りタイヤをホイールに組み付けた状態ではタイヤ外側からインナーライナー層9の特徴を認識することができないので、ユーザーが燃費改善を目的として空気圧を高めに設定することがある。このような場合、空気圧が高い状態のまま保持されると制動性能が悪化することがある。しかしながら、インナーライナー層9に関する情報をタイヤ外表面に表示し、インナーライナー層9の特徴をタイヤ外側から判別可能にすることにより、タイヤ特性を容易に把握することができ、インナーライナー層9の特徴に応じてタイヤ内圧を適切な値に設定することができる。つまり、空気透過防止性能が優れたインナーライナー層9を備えた空気入りタイヤでは、その空気圧を過度に高くする必要がないのである。
【0023】
図1及び図2に示す実施形態においては、表示部10を凹部11と該凹部11の底面に貼り付けられたラベル12とから構成した場合について説明したが、表示部10の構造は特に限定されるものではない。例えば、サイドウォール部2に凹部11を設けずにラベル12を貼り付けたり、サイドウォール部2にインナーライナー層9に関する情報を刻印したりすることも可能である。
【0024】
以下、本発明でインナーライナー層の構成材料として使用される熱可塑性樹脂組成物について説明する。熱可塑性樹脂組成物は、少なくとも熱可塑性樹脂を含むものであるが、これに加えて、エラストマーを含むことが好ましい。
【0025】
本発明で使用される熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリアミド系樹脂〔例えば、ナイロン6(N6)、ナイロン66(N66)、ナイロン46(N46)、ナイロン11(N11)、ナイロン12(N12)、ナイロン610(N610)、ナイロン612(N612)、ナイロン6/66共重合体(N6/66)、ナイロン6/66/610共重合体(N6/66/610)、ナイロンMXD6(MXD6)、ナイロン6T、ナイロン6/6T共重合体、ナイロン66/PP共重合体、ナイロン66/PPS共重合体〕及びそれらのN−アルコキシアルキル化物〔例えば、ナイロン6のメトキシメチル化物、ナイロン6/610共重合体のメトキシメチル化物、ナイロン612のメトキシメチル化物〕、ポリエステル系樹脂〔例えば、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンイソフタレート(PEI)、PET/PEI共重合体、ポリアリレート(PAR)、ポリブチレンナフタレート(PBN)、液晶ポリエステル、ポリオキシアルキレンジイミドジ酸/ポリブチレンテレフタレート共重合体などの芳香族ポリエステル〕、ポリニトリル系樹脂〔例えば、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリメタクリロニトリル、アクリロニトリル/スチレン共重合体(AS)、(メタ)アクリロニトリル/スチレン共重合体、(メタ)アクリロニトリル/スチレン/ブタジエン共重合体〕、ポリメタクリレート系樹脂〔例えば、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、ポリメタクリル酸エチル〕、ポリビニル系樹脂〔例えば、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール(PVA)、ビニルアルコール/エチレン共重合体(EVOH)、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)、ポリ塩化ビニル(PVC)、塩化ビニル/塩化ビニリデン共重合体、塩化ビニリデン/メチルアクリレート共重合体、塩化ビニリデン/アクリロニトリル共重合体〕、セルロース系樹脂〔例えば、酢酸セルロース、酢酸酪酸セルロース〕、フッ素系樹脂〔例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリフッ化ビニル(PVF)、ポリクロルフルオロエチレン(PCTFE)、テトラフロロエチレン/エチレン共重合体(ETFE)〕、イミド系樹脂〔例えば、芳香族ポリイミド(PI)〕等を好ましく用いることができる。
【0026】
本発明で使用されるエラストマーとしては、例えば、ジエン系ゴム及びその水添物〔例えば、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、エポキシ化天然ゴム、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR、高シスBR及び低シスBR)、ニトリルゴム(NBR)、水素化NBR、水素化SBR〕、オレフィン系ゴム〔例えば、エチレンプロピレンゴム(EPDM、EPM)、マレイン酸変性エチレンプロピレンゴム(M−EPM)、ブチルゴム(IIR)、イソブチレンと芳香族ビニル又はジエン系モノマー共重合体、アクリルゴム(ACM)、アイオノマー〕、含ハロゲンゴム〔例えば、Br−IIR、Cl−IIR、イソブチレンパラメチルスチレン共重合体の臭素化物(Br−IPMS)、クロロプレンゴム(CR)、ヒドリンゴム(CHR)、クロロスルホン化ポリエチレンゴム(CSM)、塩素化ポリエチレンゴム(CM)、マレイン酸変性塩素化ポリエチレンゴム(M−CM)〕、シリコンゴム〔例えば、メチルビニルシリコンゴム、ジメチルシリコンゴム、メチルフェニルビニルシリコンゴム〕、含イオウゴム〔例えば、ポリスルフィドゴム〕、フッ素ゴム〔例えば、ビニリデンフルオライド系ゴム、含フッ素ビニルエーテル系ゴム、テトラフルオロエチレン−プロピレン系ゴム、含フッ素シリコン系ゴム、含フッ素ホスファゼン系ゴム〕、ブロック共重合体〔例えば、スチレン−ブタジエン−スチレントリブロックポリマー(SBS)及びその水添物(SEBS)、スチレン−イソプレン−スチレントリブロックポリマー(SIS)及びその水添物(SEPS)、スチレン−イソブチレン−スチレントリブロックポリマー(SIBS)、ポリアミドとポリエーテルの共重合体(TPAE)、ポリエステルとポリエーテルの共重合体(TPEE)〕等を好ましく使用することができる。
【0027】
前記した特定の熱可塑性樹脂とエラストマーとの相溶性が異なる場合は、第3成分として適当な相溶化剤を用いて両者を相溶化させることができる。ブレンド系に相溶化剤を混合することにより、熱可塑性樹脂とエラストマーとの界面張力が低下し、その結果、分散相を形成しているゴム粒子径が微細になることから両成分の特性はより有効に発現されることになる。そのような相溶化剤としては、一般的に熱可塑性樹脂及びエラストマーの両方又は片方の構造を有する共重合体、或いは熱可塑性樹脂又はエラストマーと反応可能なエポキシ基、カルボニル基、ハロゲン基、アミノ基、オキサゾリン基、水酸基等を有した共重合体の構造をとるものとすることができる。これらは混合される熱可塑性樹脂とエラストマーの種類によって選定すればよいが、通常使用されるものには、無水マレイン酸変性ポリプロピレン、無水マレイン酸変性エチレン−エチルアクリレート共重合体、エポキシ変性エチレンメタクリレート共重合体、エポキシ変性スチレン−ブタジエン−スチレン共重合体、スチレン/エチレン−ブチレンブロック共重合体(SEBS)及びそのマレイン酸変性物、EPDM、EPDM/スチレン又はEPDM/アクリロニトリルグラフト共重合体及びそのマレイン酸変性物、スチレン/マレイン酸共重合体、反応性フェノキシン等を挙げることができる。かかる相溶化剤の配合量には特に限定はないが、好ましくは、ポリマー成分(熱可塑性樹脂とエラストマーとの合計)100重量部に対して、0.5〜20重量部が良い。また、この相溶化剤により、分散相のゴム粒子径は10μm以下、更には5μm以下、特に0.1〜2μmとすることが好ましい。
【0028】
熱可塑性樹脂とエラストマーを含む熱可塑性樹脂組成物において、特定の熱可塑性樹脂とエラストマーとの組成比は、特に限定されるものではなく、熱可塑性樹脂のマトリクス中にエラストマーが不連続相として分散した構造をとるように適宜決めればよいが、好ましい範囲は重量比90/10〜15/85である。
【0029】
本発明において、熱可塑性樹脂とエラストマーを含む熱可塑性樹脂組成物には、インナーライナー層としての必要特性を損なわない範囲で前記した相溶化剤などの他のポリマーを混合することができる。他のポリマーを混合する目的は、熱可塑性樹脂とエラストマーとの相溶性を改良するため、材料の成型加工性をよくするため、耐熱性向上のため、コストダウンのため等があり、これに用いられる材料としては、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリスチレン(PS)、ABS、SBS、ポリカーボネート(PC)等を例示することができる。また、一般的にポリマー配合物に配合される充填剤(炭酸カルシウム、酸化チタン、アルミナ等)、カーボンブラック、ホワイトカーボン等の補強剤、軟化剤、可塑剤、加工助剤、顔料、染料、老化防止剤等をインナーライナー層としての必要特性を損なわない限り任意に配合することもできる。
【0030】
また、エラストマーは熱可塑性樹脂との混合の際、動的に加硫することもできる。動的に加硫する場合の加硫剤、加硫助剤、加硫条件(温度、時間)等は、添加するエラストマーの組成に応じて適宜決定すればよく、特に限定されるものではない。
【0031】
加硫剤としては、一般的なゴム加硫剤(架橋剤)を用いることができる。具体的には、イオウ系加硫剤としては粉末イオウ、沈降性イオウ、高分散性イオウ、表面処理イオウ、不溶性イオウ、ジモルフォリンジサルファイド、アルキルフェノールジサルファイド等を例示でき、例えば、0.5〜4phr〔本明細書において、「phr」は、エラストマー成分100重量部あたりの重量部をいう。以下、同じ。〕程度用いることができる。
【0032】
また、有機過酸化物系の加硫剤としては、ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルヒドロパーオキサイド、2,4−ジクロロベンゾイルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5−ジメチルヘキサン−2,5−ジ(パーオキシルベンゾエート)等が例示され、例えば、1〜20phr程度用いることができる。
【0033】
更に、フェノール樹脂系の加硫剤としては、アルキルフェノール樹脂の臭素化物や、塩化スズ、クロロプレン等のハロゲンドナーとアルキルフェノール樹脂とを含有する混合架橋系等が例示でき、例えば、1〜20phr程度用いることができる。
【0034】
その他として、亜鉛華(5phr程度)、酸化マグネシウム(4phr程度)、リサージ(10〜20phr程度)、p−キノンジオキシム、p−ジベンゾイルキノンジオキシム、テトラクロロ−p−ベンゾキノン、ポリ−p−ジニトロソベンゼン(2〜10phr程度)、メチレンジアニリン(0.2〜10phr程度)が例示できる。
【0035】
また、必要に応じて、加硫促進剤を添加してもよい。加硫促進剤としては、アルデヒド・アンモニア系、グアニジン系、チアゾール系、スルフェンアミド系、チウラム系、ジチオ酸塩系、チオウレア系等の一般的な加硫促進剤を、例えば、0.5〜2phr程度用いることができる。
【0036】
具体的には、アルデヒド・アンモニア系加硫促進剤としては、ヘキサメチレンテトラミン等、グアジニン系加硫促進剤としては、ジフェニルグアジニン等、チアゾール系加硫促進剤としては、ジベンゾチアジルジサルファイド(DM)、2−メルカプトベンゾチアゾール及びそのZn塩、シクロヘキシルアミン塩等、スルフェンアミド系加硫促進剤としては、シクロヘキシルベンゾチアジルスルフェンアマイド(CBS)、N−オキシジエチレンベンゾチアジル−2−スルフェンアマイド、N−t−ブチル−2−ベンゾチアゾールスルフェンアマイド、2−(チモルポリニルジチオ)ベンゾチアゾール等、チウラム系加硫促進剤としては、テトラメチルチウラムジサルファイド(TMTD)、テトラエチルチウラムジサルファイド、テトラメチルチウラムモノサルファイド(TMTM)、ジペンタメチレンチウラムテトラサルファイド等、ジチオ酸塩系加硫促進剤としては、Zn−ジメチルジチオカーバメート、Zn−ジエチルジチオカーバメート、Zn−ジ−n−ブチルジチオカーバメート、Zn−エチルフェニルジチオカーバメート、Te−ジエチルジチオカーバメート、Cu−ジメチルジチオカーバメート、Fe−ジメチルジチオカーバメート、ピペコリンピペコリルジチオカーバメート等、チオウレア系加硫促進剤としては、エチレンチオウレア、ジエチルチオウレア等を挙げることができる。
【0037】
また、加硫促進助剤としては、一般的なゴム用助剤を併せて用いることができ、例えば、亜鉛華(5phr程度)、ステアリン酸やオレイン酸及びこれらのZn塩(2〜4phr程度)等が使用できる。
【0038】
熱可塑性樹脂とエラストマーを含む熱可塑性樹脂組成物の製造方法は、予め熱可塑性樹脂とエラストマー(ゴムの場合は未加硫物)とを2軸混練押出機等で溶融混練し、連続相(マトリックス)を形成する熱可塑性樹脂中に分散相(ドメイン)としてエラストマーを分散させることによる。エラストマーを加硫する場合には、混練下で加硫剤を添加し、エラストマーを動的加硫させてもよい。また、熱可塑性樹脂またはエラストマーへの各種配合剤(加硫剤を除く)は、上記混練中に添加してもよいが、混練の前に予め混合しておくことが好ましい。熱可塑性樹脂とエラストマーの混練に使用する混練機としては、特に限定はなく、スクリュー押出機、ニーダ、バンバリミキサー、2軸混練押出機等が使用できる。中でも熱可塑性樹脂とエラストマーの混練およびエラストマーの動的加硫には、2軸混練押出機を使用するのが好ましい。更に、2種類以上の混練機を使用し、順次混練してもよい。溶融混練の条件として、温度は熱可塑性樹脂が溶融する温度以上であればよい。また、混練時の最高剪断速度は1000〜7500sec-1であるのが好ましい。混練全体の時間は30秒から10分、また加硫剤を添加した場合には、添加後の加硫時間は15秒から5分であるのが好ましい。上記方法で製作されたポリマー組成物は、射出成形、押出し成形等、通常の熱可塑性樹脂の成形方法によって所望の形状にすればよい。
【0039】
このようにして得られる熱可塑性樹脂組成物は、熱可塑性樹脂のマトリクス中にエラストマーが不連続相として分散した構造をとる。かかる構造をとることにより、インナーライナー層に十分な柔軟性と連続相としての樹脂層の効果により十分な剛性を併せ付与することができると共に、エラストマーの多少によらず、成形に際し、熱可塑性樹脂と同等の成形加工性を得ることができる。
【0040】
熱可塑性樹脂組成物のJIS K7100により定められるところの標準雰囲気中におけるヤング率は、特に限定されるものではないが、好ましくは1〜500MPa、より好ましくは10〜300MPaにするとよい。
【0041】
上記熱可塑性樹脂組成物はシート又はフィルムに成形して単体で用いることが可能であるが、隣接するゴムとの接着性を高めるためには、隣接ゴムに水酸基、カルボキシル基、エポキシ基、アミノ基、メチロール基、ハロゲン基、イミノ基等の官能基を持ったポリマーを使用するか、フェノール系化合物、ビスマレイミド系化合物等の反応性化合物を配合するとよい。一方、隣接するゴムとの接着性を高めるために接着層を積層しても良い。この接着層を構成する接着用ポリマーの具体例としては、分子量100万以上、好ましくは300万以上の超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)、エチレンエチルアクリレート共重合体(EEA)、エチレンメチルアクリレート樹脂(EMA)、エチレンアクリル酸共重合体(EAA)等のアクリレート共重合体類及びそれらの無水マレイン酸付加物、ポリプロピレン(PP)及びそのマレイン酸変性物、エチレンプロピレン共重合体及びそのマレイン酸変性物、ポリブタジエン系樹脂及びその無水マレイン酸変性物、スチレン−ブタジエン−スチレン共重合体(SBS)及びそのエポキシ変性物、無水マレンン酸変性物、スチレン−エチレン−ブタジエン−スチレン共重合体(SEBS)、フッ素系熱可塑性樹脂、ポリエステル系熱可塑性樹脂などを挙げることができ、必要に応じてタッキファイヤー等の低分子量化合物を配合することで容易に密着させることができる。これらは常法に従って例えば樹脂用押出機によって押し出してシート状又はフィルム状に成形することができる。接着層の厚さは特に限定されないが、タイヤ軽量化のためには厚さが少ない方がよく、5μm〜150μmが好ましい。
【0042】
上述した実施形態ではインナーライナー層に特定の材料を使用した場合に、そのインナーライナー層に関する情報をタイヤ外表面に表示する場合について説明したが、本発明では、独自の構造又は独自の材料を採用した空気入りタイヤにおいて、独自の構造又は独自の材料に関する情報をタイヤ外表面に表示することができる。タイヤに採用された独自の構造又は独自の材料をタイヤ外側から判別可能にすることができるので、タイヤ特性を容易に把握することができる。
【0043】
独自の構造又は独自の材料としては、例えば、樹脂シートをタイヤ内部に埋設した構造、ゴム組成物に添加された特定の材料(例えば、オレンジオイル)、タイヤ全体を天然素材から構成した構造等が挙げられる。これら外見からは判断できない特徴事項を表示することにより、それに応じてタイヤの取り扱いや手入れ等を適切に行うことができる。
【符号の説明】
【0044】
1 トレッド部
2 サイドウォール部
3 ビード部
10 表示部
11 凹部
12 ラベル
図1
図2