特許第6281237号(P6281237)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6281237
(24)【登録日】2018年2月2日
(45)【発行日】2018年2月21日
(54)【発明の名称】内燃機関と内燃機関の制御方法
(51)【国際特許分類】
   F02D 41/04 20060101AFI20180208BHJP
   F02D 45/00 20060101ALI20180208BHJP
   F02D 23/02 20060101ALI20180208BHJP
   F02B 33/38 20060101ALI20180208BHJP
   F02B 37/12 20060101ALI20180208BHJP
【FI】
   F02D41/04 380Z
   F02D41/04 380C
   F02D45/00 364E
   F02D23/02 A
   F02D23/02 C
   F02B33/38
   F02B37/12 303Z
【請求項の数】6
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2013-218989(P2013-218989)
(22)【出願日】2013年10月22日
(65)【公開番号】特開2015-81534(P2015-81534A)
(43)【公開日】2015年4月27日
【審査請求日】2016年9月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000170
【氏名又は名称】いすゞ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100066865
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 信一
(74)【代理人】
【識別番号】100066854
【弁理士】
【氏名又は名称】野口 賢照
(74)【代理人】
【識別番号】100117938
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 謙二
(74)【代理人】
【識別番号】100138287
【弁理士】
【氏名又は名称】平井 功
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】石川 直也
【審査官】 山村 秀政
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−274071(JP,A)
【文献】 特開平01−290992(JP,A)
【文献】 特開2004−301043(JP,A)
【文献】 実開昭63−057325(JP,U)
【文献】 特開平10−274070(JP,A)
【文献】 特開昭62−178736(JP,A)
【文献】 特開昭62−023542(JP,A)
【文献】 特開2005−344661(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 41/04
F02B 33/38
F02B 37/12
F02D 23/02
F02D 45/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸気を圧縮する動翼の回転数の増速比を調節する増速比調節機械式過給機を吸気通路に備える内燃機関において、
前記増速比調節機械式過給機を迂回する迂回通路と、この迂回通路を通過する流量を制御する流量調整弁と、前記増速比調節機械式過給機の増速比を切り換える、燃料噴射装置から噴射される燃料噴射量を増減する、及び前記流量調整弁の開度を調節するそれぞれの制御を行う制御装置とを備え、
前記制御装置は、前記増速比調節機械式過給機の増速比を低い増速比から高い増速比に切り換える場合に、増速比の切り換えと同時に、前記増速比調節機械式過給機を駆動するための駆動トルクに対応させて前記燃料噴射量を増加するとともに、前記流量調整弁の開度を全閉から全開へ調節する制御を行い、前記増速比調節機械式過給機の増速比を高い増速比から低い増速比に切り換える場合に、増速比の切り換えと同時に、前記増速比調節機械式過給機を駆動するための駆動トルクに対応させて前記燃料噴射量を減少するとともに、前記流量調整弁の開度を全開から全閉へ調節する制御を行うことを特徴とする内燃機関。
【請求項2】
前記制御装置に、前記増速比調節機械式過給機を駆動するための駆動トルクに対応させて前記燃料噴射量を増減する燃料噴射量制御手段と、前記増速比調節機械式過給機の増速比に応じた前記増速比調節機械式過給機を駆動するための駆動トルクを記憶した複数の駆動トルクマップを設け、
前記燃料噴射量制御手段を、前記増速比調節機械式過給機の増速比が切り換わるときに、増速比に応じた前記駆動トルクマップを参照して、前記増速比調節機械式過給機を駆動するための駆動トルクを算出し、該駆動トルクに相当する追加燃料噴射量を、運転状況により定められる運転状況燃料噴射量に加えた量を前記燃料噴射装置から噴射する量とする制御を行う手段とすることを特徴とする請求項1に記載の内燃機関。
【請求項3】
前記制御装置に、前記増速比調節機械式過給機の増速比に応じた前記流量調整弁の開度を記憶した複数の開度マップを設け、
前記制御装置に、前記増速比調節機械式過給機の増速比が切り換わるときに、増速比に応じた前記開度マップを参照して算出した目標開度に前記流量調整弁の開度を制御する開度制御手段を設けることを特徴とする請求項1又は2に記載の内燃機関。
【請求項4】
吸気を圧縮する動翼の回転数の増速比を調節する増速比調節機械式過給機を吸気通路に備える内燃機関の制御方法において、
前記増速比調節機械式過給機の増速比を低い増速比から高い増速比に切り換える場合に、増速比の切り換えと同時に、前記増速比調節機械式過給機を駆動するための駆動トルクに対応させて燃料噴射装置から噴射される燃料噴射量を増加するとともに、前記増速比調節機械式過給機を迂回する迂回通路を通過する流量を制御する流量調整弁の開度を全閉から全開へ調節する制御をし、
前記増速比調節機械式過給機の増速比を高い増速比から低い増速比に切り換える場合に、増速比の切り換えと同時に、前記増速比調節機械式過給機を駆動するための駆動トルクに対応させて燃料噴射装置から噴射される燃料噴射量を減少するとともに、前記流量調整弁の開度を全開から全閉へ調節する制御をすることを特徴とする内燃機関の制御方法。
【請求項5】
前記増速比調節機械式過給機の増速比が切り換わるときに、増速比に応じた複数の駆動トルクマップのうちの一つを参照して、前記増速比調節機械式過給機を駆動するための駆動トルクを算出し、該駆動トルクに相当する追加燃料噴射量を算出し、運転状況により定められる運転状況燃料噴射量に前記追加燃料噴射量を加えた量を前記燃料噴射装置から噴射する量とすることを特徴とする請求項4に記載の内燃機関の制御方法。
【請求項6】
前記増速比調節機械式過給機の増速比が切り換わるときに、増速比に応じた前記流量調整弁の開度を記憶した複数の開度マップのうちの一つを参照して、前記流量調整弁の開度を算出した目標開度にすることを特徴とする請求項4又は5に記載の内燃機関の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関と内燃機関の制御方法に関し、より詳細には、内燃機関により駆動され、吸気を圧縮する動翼の回転数の増速比を調節する増速比調節機械式過給機を、吸気通路に備える内燃機関と内燃機関の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
増速比を調節する増速比調節機械式過給機としては、ルーツ送風機の過給機の回転軸に歯数の異なる二種の過給機歯車を取付け、過給機歯車の一つをワンウェイクラッチを介して機関のクランク軸に連結し、他の過給機歯車をクラッチを介してワンウェイクラッチの入力軸に接続した装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
この装置は、機関のアイドリングから中速域の場合は、クラッチを接状態にして、過給機を高増速比で駆動し、機関の中速から高速域の場合は、クラッチを断状態にして、過給機を低増速比で駆動している。また、高増速比から低増速比に切り換わる際に、ワンウェイクラッチにより不感帯(ヒステリシスともいう)を設けている。
【0004】
しかしながら、この装置を内燃機関に設けて使用すると、機械式過給機の増速比を切り換えたときに、増速比の切り換えに伴う問題が生じる。例えば、増速比を切り換えたときに、機械式過給機を駆動するための駆動トルクが変化することから、エンジンのクランク軸の出力が変化するという問題がある。また、増速比を切り換えたときに、機械式過給機による過給圧が一気に変化して、内燃機関の吸気を正確に目標過給圧にできないという問題もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実開昭63−143727号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記の問題を鑑みてなされたものであり、その課題は、増速比調節機械式過給機の増速比を切り換えたときに発生する問題を解消して、過給圧を内燃機関の運転領域の全域に渡って高めることができる内燃機関と内燃機関の制御方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するための本発明の内燃機関は、吸気を圧縮する動翼の回転数の増速比を調節する増速比調節機械式過給機を吸気通路に備える内燃機関において、前記増速比調節機械式過給機を迂回する迂回通路と、この迂回通路を通過する流量を制御する流量調整弁と、前記増速比調節機械式過給機の増速比を切り換える、燃料噴射装置から噴射される燃料噴射量を増減する、及び前記流量調整弁の開度を調節するそれぞれの制御を行う制御装置とを備え、前記制御装置は、前記増速比調節機械式過給機の増速比を低い増速比から高い増速比に切り換える場合に、増速比の切り換えと同時に、前記増速比調節機械式過給機を駆動するための駆動トルクに対応させて前記燃料噴射量を増加するとともに、前記流量調整弁の開度を全閉から全開へ調節する制御を行い、前記増速比調節機械式過給機の増速比を高い増速比から低い増速比に切り換える場合に、増速比の切り換えと同時に、前記増速比調節機械式過給機を駆動するための駆動トルクに対応させて前記燃料噴射量を減少するとともに、前記流量調整弁の開度を全開から全閉へ調節する制御を行うことを特徴とする。
【0008】
なお、ここでいう増速比調節機械式過給機とは、内燃機関により駆動し、ルーツ式、又はリショルム式などの二つのロータが噛み合い送風する機械式過給機のことであって、内燃機関の回転数に対する、過給機の回転数の比である増速比を調節可能な機械式過給機のことをいう。
【0009】
この構成によれば、増速比調節機械式過給機を駆動するための駆動トルクに相当する分を含むように燃料噴射量を増減して、増速比調節機械式過給機の増速比の切り換え時のトルク変化を少なくできるので、増速比調節機械式過給機の駆動トルクが変化しても、内燃機関のクランク軸の出力が変化することを抑制することができる。
【0010】
これにより、内燃機関のクランク軸の出力を変化させずに、増速比調節機械式過給機により内燃機関の吸気の過給圧を内燃機関の運転域の全域に渡って高めることができるので、低排出ガス、低燃費、及び運転手の運転性向上を図ることができる。
【0011】
また、上記の内燃機関において、前記制御装置に、前記増速比調節機械式過給機の増速比に応じた前記増速比調節機械式過給機を駆動するための駆動トルクを記憶した複数の駆動トルクマップを設け、前記燃料噴射量制御手段を、前記増速比調節機械式過給機の増速比が切り換わるときに、増速比に応じた前記駆動トルクマップを参照して、前記増速比調節機械式過給機を駆動するための駆動トルクを算出し、該駆動トルクに相当する追加燃料噴射量を、運転状況により定められる運転状況燃料噴射量に加えた量を前記燃料噴射装置から噴射する量とする制御を行う手段とするように構成されることが望ましい。
【0012】
この構成によれば、増速比に応じた駆動トルクマップに応じて、増速比調節機械式過給機を駆動するための駆動トルクに相当する追加燃料噴射量を正確に算出し、燃料噴射量を決定するので、増速比調節機械式過給機の増速比の切り換え時のトルク変化を少なくすることができる。
【0013】
なお、増速比調節機械式過給機を駆動するための駆動トルクは、機械損失と過給仕事の和となる。ここで、機械損失は内燃機関の回転数により求め、過給仕事は、吸入空気量と過給圧により求める。よって、増速比調節機械式過給機の駆動トルクマップは、吸気の過給圧、増速比調節機械式過給機の前後の圧力比、燃料噴射量、又は内燃機関の出力トルクと、内燃機関の回転数とに基づくマップとなる。この駆動トルクマップは、増速比調節機械式過給機の性能により定められる。
【0014】
加えて、上記の内燃機関において、前記増速比調節機械式過給機を迂回する迂回通路と、該迂回通路を通過する流量を制御する流量調整弁とを備えると共に、前記制御装置に、前記増速比調節機械式過給機の増速比に応じた前記流量調整弁の開度を記憶した複数の開度マップを設け、前記制御装置に、前記増速比調節機械式過給機の増速比が切り換わるときに、増速比に応じた前記開度マップを参照して算出した目標開度に前記流量調整弁の開度を制御する開度制御手段を設けることが望ましい。
【0015】
この構成によれば、増速比に応じた開度マップに基づいて、増速比が切り換わるときに流量調整弁の開度を制御するので、過給圧が大幅に変化することを回避して、過給圧を目標過給圧に近づけることができる。
【0016】
詳しくは、開度制御手段を、内燃機関の回転数と内燃機関の出力する出力トルクに基づいた目標過給圧が記憶された目標過給圧マップを参照して算出された目標過給圧となるように流量調整弁の開度をフィードバックで制御する手段と、増速比調節機械式過給機の増速比が切り換わるときに、増速比に応じた開度マップを参照して、算出した目標開度になるように流量調整弁の開度をフィードフォワードで制御する手段とするとよい。
【0017】
この場合には、流量調整弁の開度を増速比に対してフィードフォワードで制御し、目標過給圧に対してフィードバックで制御することで、過給圧を内燃機関の回転数と内燃機関の出力トルクに基づいた目標過給圧にすることができる。
【0018】
そして、上記の課題を解決するための本発明の内燃機関の制御方法は、吸気を圧縮する動翼の回転数の増速比を調節する増速比調節機械式過給機を吸気通路に備える内燃機関の
制御方法において、前記増速比調節機械式過給機の増速比を低い増速比から高い増速比に切り換える場合に、増速比の切り換えと同時に、前記増速比調節機械式過給機を駆動するための駆動トルクに対応させて燃料噴射装置から噴射される燃料噴射量を増加するとともに、前記増速比調節機械式過給機を迂回する迂回通路を通過する流量を制御する流量調整弁の開度を全閉から全開へ調節する制御をし、前記増速比調節機械式過給機の増速比を高い増速比から低い増速比に切り換える場合に、増速比の切り換えと同時に、前記増速比調節機械式過給機を駆動するための駆動トルクに対応させて燃料噴射装置から噴射される燃料噴射量を減少するとともに、前記流量調整弁の開度を全開から全閉へ調節する制御をすることを特徴とする方法である。
【0019】
また、上記の内燃機関の制御方法において、前記増速比調節機械式過給機の増速比が切り換わるときに、増速比に応じた複数の駆動トルクマップのうちの一つを参照して、前記増速比調節機械式過給機を駆動するための駆動トルクを算出し、該駆動トルクに相当する追加燃料噴射量を算出し、運転状況により定められる運転状況燃料噴射量に前記追加燃料噴射量を加えた量を前記燃料噴射装置から噴射する量とすることが望ましい。
【0020】
加えて、上記の内燃機関の制御方法において、前記増速比調節機械式過給機の増速比が切り換わるときに、増速比に応じた複数の駆動トルクマップのうちの一つを参照して、前記増速比調節機械式過給機を駆動するための駆動トルクを算出し、該駆動トルクに相当する追加燃料噴射量を算出し、運転状況により定められる運転状況燃料噴射量に前記追加燃料噴射量を加えた量を前記燃料噴射装置から噴射する量とすることが望ましい。
【発明の効果】
【0021】
本発明の内燃機関と内燃機関の制御方法によれば、増速比調節機械式過給機を駆動するための駆動トルクに相当する分を含むように燃料噴射量を増減して、増速比調節機械式過給機の増速比の切り換え時のトルク変化を少なくできるので、増速比調節機械式過給機の駆動トルクが変化しても、内燃機関のクランク軸の出力が変化することを抑制することができる。
【0022】
また、増速比に応じた開度マップに基づいて、増速比が切り換わるときに流量調整弁の開度を制御するので、過給圧が大幅に変化することを回避して、過給圧を目標過給圧に近づけることができる。
【0023】
これにより、増速比調節機械式過給機を切り換えるときに発生する問題を解消して、増速比調節機械式過給機により内燃機関の吸気の過給圧を内燃機関の運転域の全域に渡って目標過給圧とすることができるので、低排出ガス、低燃費、及び運転手の運転性向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明に係る実施の形態の内燃機関の構成を示す図である。
図2図1の増速比調節機械式過給機の構成を示し、増速比が低増速比の状態を示す図である。
図3図1の増速比調節機械式過給機の構成を示し、増速比が高増速比の状態を示す図である。
図4図1の内燃機関の制御マップを示す図である。
図5図1の開度制御手段を示す図である。
図6図1の燃料噴射量制御手段を示す図である。
図7】本発明に係る実施の形態の内燃機関の制御方法を示す具体例である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明に係る実施の形態の内燃機関と内燃機関の制御方法について説明する。
【0026】
なお、図1では、この実施の形態のエンジン(内燃機関)1は、車両に搭載されているものとして説明するが、必ずしも、車両に搭載されるものに限定されない。また、エンジン1は、直列四気筒のディーゼルエンジンとして説明するが、本発明は、ガソリンエンジンでも適用することができ、その気筒の数や配列は特に限定されない。
【0027】
図1の例に示すように、実施の形態のエンジン1は、エンジン本体3の吸気通路4に吸気スロットル5とターボチャージャー(以下、T/C)6のコンプレッサ6aとインタークーラー7とを備え、排気通路8にT/C6のタービン6bと排気ガス浄化装置9とを備える。
【0028】
このエンジン1に設けられる過給システム2は、前述の吸気通路4に設けられると共に、コンプレッサ6aの下流側に配置された増速比調節機械式過給機(以下、S/C)10と、S/C10を迂回するバイパス通路(迂回通路)11と、バイパス通路11の流量を調節するバイパスバルブ(流量調整弁)12とを備えて構成される。
【0029】
そして、このエンジン1は、エンジン本体3の図示しないインジェクタ(燃料噴射装置)から噴射される燃料の噴射量と、S/C10の増速比と、バイパスバルブ12の開度を調節する制御を行うECU(制御装置)13とを備えて構成される。
【0030】
図2に示すように、動力伝達機構15は、クランク軸14にクラッチプーリー16を設け、増速比切換機構30の主駆動軸31にプーリー17を設け、クラッチプーリー16とプーリー17との間にはベルト18が掛けられて構成されており、増速比切換機構30を介してクランク軸14からの動力をS/C10に伝達している。
【0031】
クラッチプーリー16は、ECU13により制御され、S/C10を駆動しない場合には、クラッチプーリー16を断状態にすることで、エンジン1のクランク軸14に掛かるS/C10のフリクションを低減することができる。
【0032】
S/C10は、S/C本体20と増速比切換機構30とを備える。S/C本体20は、ケーシング21内に設けられた互いに咬合する雌雄一対のスクリューロータ(動翼)22を備えて構成され、増速比切換機構30は、図2に示すS/C本体20のスクリューロータ22の雄用スクリューロータ23をエンジン1の回転数に対して低増速比RLOWで回転させる低増速比伝達経路32と、図3に示す雌用スクリューロータ24をエンジン1の回転数に対して高増速比RHIGHで回転させる高増速比伝達経路33を備えて構成される。
【0033】
S/C本体20の一例を説明すると、ケーシング21は、円筒状に形成された雄用ハウジング25と、雄用ハウジング25よりも小さい円筒状に形成された雌用ハウジング26を備え、その雄用ハウジング25と雌用ハウジング26は内部が連通するように形成される。
【0034】
雄用ハウジング25内には、ケーシング21にベアリングを介して回転可能に支持された雄用ロータ軸27と、その雄用ロータ軸27に固定された雄用スクリューロータ23を備える。雌用ハウジング26内には、ケーシング21にベアリングを介して回転可能に支持された雌用ロータ軸28と、その雌用ロータ軸28に固定された雌用スクリューロータ24を備える。また、このS/C本体20は、雄用スクリューロータ23の歯溝と雄用ハウジング25との間の空間が密閉され、雌用スクリューロータ24の歯溝と雌用ハウジング26との間の空間も密閉されるように構成される。
【0035】
上記の構成により、このS/C10は、雄用スクリューロータ23と雌用スクリューロータ24が互いに逆向きに回転した状態で、吸気をケーシング21内に通過させて、雄用スクリューロータ23と雌用スクリューロータ24との歯溝内の密閉空間で吸気を圧縮する。
【0036】
増速比切換機構30の一例を説明すると、低増速比伝達経路32は、主駆動軸31と一体に回転する低増速比駆動軸34と、低増速比駆動軸34の回転数よりも雄用ロータ軸27の回転数の方が大きくなった場合に、低増速比駆動軸34と雄用ロータ軸27との間を切断するワンウェイクラッチ(不感帯発生装置)35を備えて構成される。
【0037】
この低増速比伝達経路32は、図2に示すように、クラッチ(増速比切換装置)36の断接状態に関わらずに、低増速比駆動軸34が主駆動軸31と一体となって回転し、ワンウェイクラッチ35を介してS/C本体20の雄用ロータ軸27を主駆動軸31と同じ回転数で回転しようとする。クラッチ36が断状態の場合に、雄用スクリューロータ23を主駆動軸31と同じ回転数で回転して、雌用スクリューロータ24を主駆動軸31と同じ回転数で回転させる。そして、低増速比駆動軸34の回転数よりも雄用ロータ軸27の回転数の方が大きくなった場合に、ワンウェイクラッチ35により低増速比駆動軸34と雄用ロータ軸27との間が切断される。
【0038】
高増速比伝達経路33は、ECU13により断接を制御され、接状態になると主駆動軸31と高増速比駆動軸37との間の動力伝達を行うクラッチ36と、クラッチ36により主駆動軸31と一体に回転する高増速比駆動軸37の回転数を増速してS/C本体20の雌用ロータ軸28に伝達する高増速比変速段38及び39とを備えて構成される。
【0039】
この高増速比伝達経路33は、図3に示すように、クラッチ36が接状態の場合に、高増速比駆動軸37が主駆動軸31と一体となって回転し、高増速比変速段38及び39を介して、主駆動軸31の回転数よりも高い回転数で、雌用ロータ軸28を回転させる。そして、雌用スクリューロータ24を主駆動軸31の回転数よりも高い回転数で回転して、雄用スクリューロータ23を主駆動軸31の回転数よりも高い回転数で回転させる。このとき、ワンウェイクラッチ35により低増速比駆動軸34と雄用ロータ軸27との間が切断される。
【0040】
上記の構成により、この増速比切換機構30は、クラッチ36を断状態にするとS/C10の増速比を低増速比RLOWとし、クラッチ36を接状態にするとS/C10の増速比を高増速比RHIGHとすることができる。
【0041】
また、クラッチ36を断状態にした場合に、S/C10の増速比が低増速比RLOWとなるように構成することで、クラッチ36に予期せぬ異常が発生した場合に、S/C10の回転数が許容回転数を超えることを回避することができる。
【0042】
加えて、低増速比駆動軸34と高増速比駆動軸37は、二重管のように構成され、中空上の高増速比駆動軸37に低増速比駆動軸34を挿通するように構成されると、増速比切換機構30を従来技術のものよりも小型化することができる。
【0043】
ここで、低増速比RLOWと高増速比RHIGHについて、図4を参照しながら説明する。
【0044】
図4に示すように、低増速比RLOWは、エンジン1の運転領域が高出力高回転領域と低出力領域の一部の領域の両方の領域を含む低増速比領域A1の場合に切り換えられる増速比であり、動力伝達機構15のプーリー比に基づいて定められる増速比である。よって、クランク軸14に設けられるクラッチプーリー16と主駆動軸31に設けられるプーリー17のプーリー比を、クランク軸14の回転数に対して高くする。
【0045】
この低増速比RLOWは、トルクカーブL1の定格点PPMAX(エンジン1の出力、つまり馬力が最大となる点)で、S/C10の圧力比が最大となるように設定される。吸
気の過給圧は、エンジン回転数と出力トルクに基づいて制御されるため、定格点PPMAXで圧力比が最大となるように設定すると、低増速比領域A1の全域で必要な過給圧とすることができる。
【0046】
また、この低増速比RLOWは、過給圧を高める必要がない低出力領域では、S/C10のスクリューロータ22の回転数を低く維持して、エンジン1の駆動損失を低減することができる。低増速比RLOWの場合のS/C10の駆動力は高増速比RHIGHの場合の駆動力と比べて低くなるので、燃費を向上することができる。
【0047】
高増速比RHIGHは、エンジン1の運転領域が高出力低回転領域を含む高増速比領域A2の場合に切り換えられる増速比であり、高増速比変速段38及び39のギヤ比に基づいて定められる。そのため、高増速比駆動軸37に設けられるギヤ38と雌用ロータ軸28に設けられるギヤ39のギヤ比を、主駆動軸31の回転数に対して高くする。
【0048】
この高増速比RHIGHは、トルクカーブL1のトルク点PTMAX(エンジン1の最大トルクとなる点)で、S/C10の圧力比が最大となるように設定される。トルク点PTMAXで圧力比が最大となるように設定すると、高増速比領域A2の全域で必要な過給圧とすることができる。
【0049】
そして、低増速比RLOWと高増速比RHIGHとの間の領域には、不感帯(ヒステリシス)領域A3を設けて構成する。この不感帯領域A3は、低増速比伝達経路32と高増速比伝達経路33の切り換え時に、つまりクラッチ36の断接時に発生する。
【0050】
例えば、高増速比伝達経路33から低増速比伝達経路32に切り換える場合に、クラッチ36を断状態にする。このとき、スクリューロータ22は慣性力で回転し続けながら回転数が低下する。そして、スクリューロータ22、詳しくは雄用ロータ軸27の回転数の低下に伴って、ワンウェイクラッチ35が噛み合い始め、低増速比駆動軸34により雄用ロータ軸27を回転させる。
【0051】
この慣性力によりスクリューロータ22が回転する領域が不感帯領域A3となる。低増速比伝達経路32から高増速比伝達経路33に切り換える場合も同様である。
【0052】
更に、過給圧を必要としない非過給領域A4を設ける。この非過給領域A4では、クラッチプーリー16を断状態にして、S/C10のフリクションを低減することができる。
【0053】
S/C10は、増速比を上記の低増速比RLOWと高増速比RHIGHに切り換えることで、S/C10の回転数を最適にするように制御することができるので、S/C10の回転数を許容回転数を下回る回転数に抑えながら、エンジン1の運転領域の全域に渡って、過給圧BPを高めることができる。
【0054】
また、高増速比RHIGHから低増速比RLOWに切り換えることで、圧力比が最大となった後に、その圧力比が維持されたままS/C10のスクリューロータ22の回転数が上がることを回避することができ、S/C10のスクリューロータ22が許容回転数を超えることを回避して、S/C10が破損することを防止することができる。
【0055】
加えて、低増速比RLOWと高増速比RHIGHの間に不感帯領域A3を設けることで、増速比を切り換える制御の不安定性を無くすことができる。
【0056】
図1に示すように、ECU13は、電気回路によってエンジン1の制御を担当している電気的な制御を総合的に行うマイクロコントローラである。本発明では、主にエンジン1
の燃料噴射量Qfinや、過給システム2の過給圧BPを制御して、エンジン1の出力を制御しており、エンジン回転数Neを検知する回転数センサ41と、過給圧BPを検知するMAPセンサ42と、燃料噴射量Qfinを定めるアクセルペダルのアクセル開度APSを検知するアクセル開度センサ43と接続されている。
【0057】
また、このECU13は、S/C駆動決定手段M1と開度制御手段M2と燃料噴射量制御手段M3とを備えると共に、図4に示すエンジン制御マップMAP1、図5に示す目標過給圧マップMAP2、高増速比用開度マップMAP3、低増速比用開度マップMAP4、図6に示す運転状況燃料噴射量マップMAP5、高増速比用駆動トルクマップMAP6、低増速比用駆動トルクマップMAP7、及びトルク噴射量変換マップMAP8を備えて構成される。
【0058】
S/C駆動決定手段M1は、エンジン回転数Neと燃料噴射量Qfinから定められるエンジン1の出力トルクTeに基づいた、図4のエンジン制御マップMAP1を参照して、エンジン1の運転領域を判定し、S/C10の駆動及び増速比を決定する手段である。
【0059】
詳しくは、エンジン制御マップMAP1を参照して、エンジン1の運転領域を判定し、運転領域に合わせてクラッチプーリー16を断状態にするか、又はクラッチプーリー16を接状態にするかを決定し、且つクラッチ36を断状態にして、S/C10の増速比を低増速比RLOWにするか、又はクラッチ36を接状態にして、高増速比RHIGHにするかを決定する手段である。
【0060】
開度制御手段M2は、MAPセンサ42で検知される過給圧BPを目標過給圧BP’にするようにバイパスバルブ12の開度αを制御する手段である。詳しくは、S/C10の増速比を切り換えたときに、高増速比用開度マップMAP3、又は低増速比用開度マップMAP4を参照して、バイパスバルブ12の開度αをフィードフォワードで調節する手段と、エンジン1に吸気される過給圧BPを、目標過給圧マップMAP2から求まる目標過給圧BP’にするように、バイパスバルブ12の開度αをフィードバックで調節する手段である。
【0061】
目標過給圧マップMAP2は、エンジン回転数Neと燃料噴射量Qfinに基づいた目標過給圧BP’が記憶されたマップである。
【0062】
また、高増速比用開度マップMAP3、及び低増速比用開度マップMAP4はそれぞれ、増速比に応じたエンジン回転数Neと燃料噴射量Qfinに基づいたバイパスバルブ12の目標開度α’が記憶されたマップである。高増速比用開度マップMAP3は、低増速比RLOWから高増速比RHIGHに切り換えられたときに、バイパスバルブ12の目標開度α’を全開側、好ましくは全開にするとよく、低増速比用開度マップMAP4は、高増速比RHIGHから低増速比RLOWに切り換えられたときに、バイパスバルブ12の目標開度α’を全閉側、好ましくは全閉にするとよい。
【0063】
燃料噴射量制御手段M3は、S/C10を駆動するための駆動トルクTS/Cの変化に合わせて燃料噴射量Qfinを増減する手段である。詳しくは、運転状況燃料噴射量マップMAP5の運転状況燃料噴射量QAPSに追加燃料噴射量QS/Cを加えた量を燃料噴射量Qfinとする手段である。
【0064】
この追加燃料噴射量QS/Cは、増速比に応じた高増速比用駆動トルクマップMAP6又は低増速比用駆動トルクマップMAP7を参照して、算出されたS/C10を駆動するための駆動トルクTS/Cを、トルク噴射量変換マップMAP8を用いて変換した噴射量である。
【0065】
運転状況燃料噴射量マップMAP5は、エンジン回転数Neとアクセル開度APSに基づいた運転状況燃料噴射量QAPSが記憶されたマップであり、この運転状況燃料噴射量QAPSは、運転状況により定められる噴射量である。
【0066】
高増速比用駆動トルクマップMAP6、及び低増速比用駆動トルクマップMAP7のそれぞれは、増速比に応じた、エンジン回転数Neと過給圧BPに基づいたS/C10を駆動するための駆動トルクTS/Cが記憶されたマップである。高増速比用駆動トルクマップMAP6に記憶された駆動トルクTS/Cは、低増速比用駆動トルクマップMAP7に記憶された駆動トルクTS/Cよりも大きく設定され、つまり、追加燃料噴射量QS/Cは、高増速比RHIGHの場合に大きい値になり、低増速比RLOWの場合に小さい値になる。
【0067】
トルク噴射量変換マップMAP8は、駆動トルクTS/Cから追加燃料噴射量QS/Cに変換するためのマップである。
【0068】
そして、本発明の実施の形態のエンジン1の制御方法は、S/C10を駆動するための駆動トルクTS/Cに応じてインジェクタから噴射される燃料噴射量Qfinを増減することを特徴とする方法である。特に、この実施の形態では、S/C10の増速比を切り換えたときに、増速比に応じた燃料噴射量Qfinとバイパスバルブ12の開度αを制御することを特徴とする方法である。
【0069】
まず、エンジン1の運転領域を判定する。ここでは、図4に示すエンジン制御マップMAP1を参照してエンジン回転数Neと燃料噴射量Qfinから定められるエンジン1の出力する出力トルクTeから、エンジン1の運転領域を判定する。
【0070】
次に、S/C10の駆動と増速比を決定する。ここでは、エンジン1の運転領域が、低増速比領域A1であれば、クラッチプーリー16を接状態にして、且つ増速比切換機構30のクラッチ36を断状態にして、S/C10の増速比を低増速比RLOWにし、高増速比領域A2であれば、クラッチプーリー16を接状態にして、且つクラッチ36を接状態にして、S/C10の増速比を高増速比RHIGHにし、エンジン1の運転領域が非過給領域A4であれば、クラッチプーリー16を断状態にして、S/C10の駆動を停止する。
【0071】
次に、燃料噴射量Qfinとバイパスバルブ12の開度αを制御するが、これらの制御は、増速比を切り換えたときのフィードフォワード制御となり、バイパスバルブ12の開度αについては、フィードバック制御も用いる。
【0072】
バイパスバルブ12の開度αの制御は、まず、図5に示すように、S/C10の駆動の切り換えと及び増速比の切り換えと共に、フィードフォワードマップである高増速比用開度マップMAP3、又は低増速比用開度マップMAP4を切り換える。このときS/C10を駆動しない場合は、バイパスバルブ12の開度αを全閉にする。
【0073】
次に、切り換えた高増速比用開度マップMAP3、又は低増速比用開度マップMAP4を参照して、エンジン回転数Neと燃料噴射量Qfinに基づくバイパスバルブ12の目標開度α’を算出する。次に、バイパスバルブ12の開度αを、この目標開度α’になるように制御する。
【0074】
一方、目標過給圧マップMAP2を参照して、エンジン回転数Neと燃料噴射量Qfinに基づく目標過給圧BP’を算出する。次に、MAPセンサ42で検知した実際の過給
圧BPが目標過給圧BP’になるように、バイパスバルブ12の目標開度α’を算出して、バイパスバルブ12の開度αをフィードバックで制御する。
【0075】
このように、増速比を切り換えるときのフィードフォワード制御と、目標過給圧BP’に対するフィードバック制御の両方を行うことで、増速比を切り換えたときに発生する過給圧BPの大幅な変化を抑制すると共に、過給圧BPを目標過給圧BP’にすることができる。
【0076】
燃料噴射量Qfinの制御は、まず、図6に示すように、運転状況燃料噴射量マップMAP5を参照して、エンジン回転数Neとアクセル開度APSに基づく運転状況燃料噴射量QAPSを算出する。
【0077】
次に、S/C10の駆動の切り換えと及び増速比の切り換えと共に、フィードフォワードマップである高増速比用駆動トルクマップMAP6、又は低増速比用駆動トルクマップMAP7を切り換える。このときS/C10を駆動しない場合は、S/C10を駆動する駆動トルクTS/Cをゼロにする。
【0078】
次に、切り換えた高増速比用駆動トルクマップMAP6、又は低増速比用駆動トルクマップMAP7を参照して、エンジン回転数Neと過給圧BPに基づくS/C10を駆動するための駆動トルクTS/Cを算出する。次に、トルク噴射量変換マップMAP8を参照して、駆動トルクTS/Cに応じた追加燃料噴射量QS/Cを算出する。
【0079】
次に、運転状況燃料噴射量QAPSと追加燃料噴射量QS/Cを加算して、燃料噴射量Qfinを算出し、インジェクタの噴射量が燃料噴射量Qfinになるように制御する。
【0080】
このように、増速比を切り換えるときのフィードフォワード制御を行うことで、増速比を切り換えたときに発生するエンジン1のクランク軸14の出力変化を抑制することができる。
【0081】
上記の制御を、図7を参照しながら具体的に説明する。図7は、図4のVIIで示す矢印の部分のS/C10の増速比が切り換わる切換点Xの近傍での過給圧BP、バイパスバルブ12の開度α、及び燃料噴射量Qfinの変化を示す図であり、この実施の形態のエンジン1を実線で示し、従来技術のエンジンを点線で示している。
【0082】
実施の形態のエンジン1では、S/C10の増速比が低増速比RLOWから高増速比RHIGHに切り換わるときに、バイパスバルブ12の開度αが、高増速比用開度マップMAP3に記憶された開度に制御されるため、切換点Xで全閉から全開になる。これにより、過給圧BPは従来技術のエンジンのように、一気に上昇することなく、目標過給圧BP’に沿って上昇する。
【0083】
また、S/C10の増速比が低増速比RLOWから高増速比RHIGHに切り換わるときに、高増速比用駆動トルクマップMAP6に記憶された駆動トルクTS/Cに相当する分の追加燃料噴射量QS/Cを運転状況燃料噴射量QAPSに追加する。これにより、燃料噴射量Qfinは従来技術のエンジンのように、S/C10を駆動するために必要な駆動トルクTS/C分が不足することなく、高増速比RHIGHになって増加した駆動トルクTS/Cを賄うことができ、エンジン1のクランク軸14の出力を変化させることがない。
【0084】
加えて、S/C10の増速比が低増速比RLOWの場合も、低増速比用駆動トルクマップMAP7に記憶された駆動トルクTS/Cに相当する分の追加QS/Cを運転状況燃料
噴射量QAPSに追加しているので、エンジン1のクランク軸14の出力が低下することがない。
【0085】
この実施の形態のエンジン1には、EGRシステム50を備え、EGRシステム50は、EGR通路51とEGRクーラー52とEGRバルブ53を備える。特に、本発明では、前述した通り、エンジン1の運転領域の全域で過給圧を高めることで、吸気のEGR導入量を増加することができるので、EGRガスをS/C10とバイパス通路11の上流側に環流させるように構成するとよい。
【0086】
本発明の実施の形態のエンジン1、及びその制御方法によれば、S/C10を駆動するための駆動トルクTS/Cに相当する分を含むように燃料噴射量Qfinを増減して、S/C10の増速比の切り換え時のトルク変化を少なくできるので、S/C10の駆動トルクTS/Cが変化しても、エンジン1のクランク軸14の出力が変化することを抑制することができる。
【0087】
これにより、エンジン1のクランク軸14の出力を変化させずに、S/C10によりエンジン1の吸気の過給圧BPを、エンジン1の運転域の全域に渡って目標過給圧BP’とすることができるので、低排出ガス、低燃費、及び運転手の運転性向上を図ることができる。
【0088】
特に、エンジン1の運転領域の全域に渡ってEGR導入量を増加することができ、NTE領域での排気ガスの排出を低減することができる。
【0089】
また、燃料噴射量Qfinとバイパスバルブ12の開度αを増速比に対してフィードフォワードで制御するので、増速比を切り換えたときに発生するエンジン1のクランク軸14の出力の変化や、過給圧BPの大幅な変化を抑制して、エンジン1の運転領域の全域で過給圧BPを高めることができる。
【0090】
加えて、S/C10の増速比と、その増速比に応じてバイパスバルブ12の開度αを調節することで、エンジン1の運転状況に関わらずに、S/C10の回転数が最適になるように制御することができるので、S/C10の回転数を許容回転数を下回る回転数に抑えながら、エンジン1の運転領域の全域に渡って、過給圧BPを高めることができる。
【0091】
更に、燃料噴射量Qfinとバイパスバルブ12の開度αを、増速比に応じた各マップを用いて、増速比が切り換わるときに、フィードフォワードで制御することで、増速比を切り換えるときに発生する過給圧BPの変化やエンジン1のクランク軸14の出力の変化を回避するロジックを単純化することができる。
【0092】
なお、この実施の形態のエンジン1は、エンジン本体から排出される排気ガスにより駆動するT/C6のコンプレッサ6aと、エンジン本体3のクランク軸14から動力伝達機構15を介して駆動されるS/C10の両方を用いた二段過給システムを例に説明したが、必ずしもT/C6を設けた二段過給システムとする必要はない。
【0093】
また、上記の実施の形態のS/C本体20は、スクリュー式(リショルム式)の過給機として説明したが、本発明はこれに限定されない。但し、上記の実施の形態のS/C本体20のように回転軸を複数有して、その回転軸毎に異なる増速比とするように構成することが望ましい。
【0094】
加えて、上記の実施の形態のクラッチ36は、主駆動軸31と高増速比駆動軸37とを断接する装置であればよく、油圧式又は電磁式のクラッチなどを用いることができる。ま
た、クラッチ36により主駆動軸31と高増速比駆動軸37との間を断接するように構成したが、主駆動軸31と低増速比駆動軸34との間を断接するように構成することもできる。
【0095】
更に、上記の実施の形態の増速比切換機構30の低増速比伝達経路32と高増速比伝達経路33の構成を逆の構成としてもよい。例えば、低増速比伝達経路にクラッチと低増速比変速段を設け、高増速比伝達経路にワンウェイクラッチを設けて構成する。この場合、低増速比は低増速比変速段のギヤ比により定められ、高増速比は動力伝達機構のプーリー比により定められるため、ギヤ比をエンジン1の回転数に対して低くなるように設定し、プーリー比を上記の実施の形態よりも高く設定する。
【0096】
但し、クラッチ36に予期せぬ異常が発生した場合を考慮すると、上記の実施の形態のように、クラッチ36により主駆動軸31と高増速比駆動軸37との間を断接するように構成することが望ましい。
【0097】
その上、この実施の形態では、EGRシステム50を、T/C6のタービン6bを通過後の排気ガスをコンプレッサ6aの上流側に環流させる低圧EGRシステムとして設けたが、本発明はこれに限定されずに、例えば、T/C6のタービン6bを通過前に排気ガスを、コンプレッサ6aの下流側で、且つS/C10とバイパス通路11の上流側に環流させるEGRシステムとしてもよい。
【0098】
また、上記の実施の形態では、目標過給圧マップMAP2、高増速比用開度マップMAP3、及び低増速比用開度マップMAP4を、エンジン回転数Neと燃料噴射量Qfinに基づくマップを例に説明したが、図4に示すようなエンジン回転数Neとエンジン1の出力トルクに基づくマップとしてもよい。
【0099】
加えて、高増速比用駆動トルクマップMAP6と低増速比用駆動トルクマップMAP7を、エンジン回転数Neと過給圧BPに基づくマップを例に説明したが、過給圧BPの代わりにS/C10の前後の圧力比、燃料噴射量Qfin、エンジン1の出力トルクなどにしてもよい。
【0100】
更に、上記の実施の形態では、S/C10を駆動するために必要な駆動トルクTS/Cを高増速比用駆動トルクマップMAP6、又は低増速比用駆動トルクマップMAP7を参照して求めてから、トルク噴射量変換マップMAP8を用いて追加燃料噴射量QS/Cを算出する例を説明したが、増速比に応じた追加燃料噴射量を記憶した高増速比用追加燃料噴射量マップと低増速比用追加燃料噴射量マップを用いることもできる。
【産業上の利用可能性】
【0101】
本発明の内燃機関は、増速比調節機械式過給機を切り換えるときに発生する問題を解消して、増速比調節機械式過給機により内燃機関の吸気の過給圧を内燃機関の運転域の全域に渡って目標過給圧とすることができるので、ディーゼルエンジンに利用することができる。
【符号の説明】
【0102】
1 エンジン(内燃機関)
2 過給システム
3 エンジン本体
4 吸気通路
5 吸気スロットル
6 T/C(ターボ過給器)
6a コンプレッサ
6b タービン
7 インタークーラー
8 排気通路
9 排気ガス浄化装置
10 S/C(増速比調節機械式過給機)
11 バイパス通路(迂回通路)
12 バイパスバルブ(流量調整弁)
13 ECU(制御装置)
14 クランク軸
15 動力伝達機構
20 S/C本体
21 ケーシング
22 スクリューロータ
30 増速比切換機構
31 主駆動軸
32 低増速比伝達経路
33 高増速比伝達経路
34 低増速比駆動軸
35 ワンウェイクラッチ(不感帯発生装置)
36 クラッチ(増速比切換装置)
37 高増速比駆動軸
38、39 高増速比変速段
41 回転数センサ
42 MAPセンサ
43 アクセル開度センサ
50 EGRシステム
A1 低増速比領域
A2 高増速比領域
A3 不感帯領域
A4 非過給領域
M1 S/C駆動決定手段
M2 開度制御手段
M3 燃料噴射量制御手段
MAP1 エンジン制御マップ
MAP2 目標過給圧マップ
MAP3 高増速比用開度マップ
MAP4 低増速比用開度マップ
MAP5 運転状況燃料噴射量マップ
MAP6 高増速比用駆動トルクマップ
MAP7 低増速比用駆動トルクマップ
MAP8 トルク噴射量変換マップ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7