【文献】
Eric J. Houser,Rational materials design of sorbent coatings for explosives: applications with chemical sensors.,TALANTA,2001年,54(3),pp 469-485
【文献】
Eric J. Houser,Sorbent coatings for detection of explosives vapor: applications with chemical sensors,Proceedings of the SPIE, Detection and Remediation Technologies for Mines and Minelike Targets IV,1999年,Vol. 3710,pp. 394-401
【文献】
Miki Murata,Synthesis of aryltriethoxysilanes via rhodium(I)-catalyzed cross-coupling of aryl electrophiles with,TETRAHEDRON,2007年,63(19),pp. 4087-4094
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
シロキサン結合を含む高分子化合物(以下、ポリシロキサン高分子化合物と呼ぶことがある)は、その高い耐熱性および透明性等を活かし、コーティング材料および封止材として、半導体分野で使用されている。
【0003】
近年、レジスト材料への耐熱性の要求が高まり、アルカリ現像液に可溶なポリシロキサン高分子化合物が開発されてきた。尚、アルカリ現像液には、通常、フォトリソグラフィーにおいて、濃度2.38質量%のテトラメチルアンモニウムヒドロキシド水溶液が用いられる。
【0004】
例えば、特許文献1には、アルカリ可溶性基含有シロキサン単位、および酸解離性基を有しないアルカリ不溶性基含有シロキサン単位を含むことを特徴とするアルカリ可溶なポリシロキサン樹脂が開示されている。本ポリシロキサン樹脂は、KrFエキシマレーザー(248nm)より短波長、例えば、F
2エキシマレーザー(157nm)やEUV(真空紫外線13nm)を光源とするプロセスに有用であり、高解像性で断面形状の良好なレジストパターンを形成可能なポジ型レジスト組成物とされている。
【0005】
アルカリ現像液に可溶とする手段としては、ポリシロキサン高分子化合物に酸性基を導入することが挙げられる。このような酸性基としては、フェノール基、カルボキシル基、フルオロカルビノール基等が挙げられる。しかし、フェノール基またはカルボキシル基を含むポリシロキサン高分子化合物は、高温下で使用すると透明性劣化および着色等、耐熱性に劣ることが知られている。
【0006】
ポリシロキサン高分子化合物に、酸性基であるフルオロカルビノール基、例えば、ヘキサフルオロイソプロパノール基{2−ヒドロキシ−1,1,1,3,3,3−フルオロイソプロピル基[−C(CF
3)
2OH]、以下、HFIP基と呼ぶことがある}を導入したポリシロキサン高分子化合物が特許文献2と特許文献3に開示されている。
【0007】
特許文献2にはHFIP基を有する有機珪素化合物(R
3Si−CH
2−CH
2−CH
2−C(CF
3)
2OH)の製造方法が開示されている。当該有機珪素化合物はCH
2=CH−CH
2−C(CF
3)
2OHで表わされるHFIP基を有する化合物と、炭素数1〜3のアルコキシ基を含むトリアルコキシシランをヒドロシリル化することによって得られる。
【0008】
特許文献3には、シロキサンのみからなる主鎖に、炭素数1〜20の直鎖状、分岐状、環状もしくは有橋環状の2価の炭化水素基を介して、フルオロカルビノール基が結合した高分子化合物が開示されている。
【0009】
特許文献2に記載の有機珪素化合物は、HFIP基と珪素原子Siの間にエチレン結合(−CH
2−CH
2−)を含み、特許文献3に記載の高分子化合物は、HFIP基とシロキサン主鎖の珪素原子間に脂肪族炭化水素基を介していることから耐熱性が損なわれるという問題がある。
【0010】
上記耐熱性の問題を解決するためには、熱的安定性に優れたHFIP基を有する芳香環を直接シロキサン主鎖中の珪素原子に導入することが有効であると考えられる。
【0011】
非特許文献1には、シリル基を直接芳香環に結合させて芳香族珪素化合物を得る手段として、芳香族ハロゲン化合物と金属ケイ素を直接反応させる方法、およびグリニャール反応を用いる方法が記載されている。しかしこれらの方法では、HFIP基のような反応中に副反応を起こし易い置換基を含有した芳香族珪素化合物を得ることは困難であり、特定の化学構造の芳香族珪素化合物のみしか得ることができない。
【0012】
非特許文献1〜2および特許文献4において、芳香族ハロゲン化合物とヒドロシリル(Si−H)基を含む化合物(以下、ヒドロシリル化合物と呼ぶことがある)を原料化合物とし、遷移金属触媒を用いて芳香族珪素化合物を合成する方法が開示されている。
【0013】
また、非特許文献2ではヒドロキシ(OH)基を含有した芳香族珪素化合物の合成について開示されている。また特許文献4では、本製造法を、安価な芳香族塩素化合物を原料として行う手法が開示されている。
【0014】
また、HFIP基含有芳香族ハロゲン化合物の合成法が、特許文献5、および非特許文献3及び4に開示されている。
【発明を実施するための形態】
【0039】
本発明のHFIP基含有珪素化合物およびその製造方法、次いで本発明のHFIP基含有珪素化合物の重合反応によって得られるHFIP基含有ポリシロキサン高分子化合物について順を追って説明する。
【0040】
1. HFIP基含有珪素化合物
[一般式(1)で表されるHFIP基含有珪素化合物]
本発明の一般式(1)で表されるHFIP基含有珪素化合物(1)について説明する。
【化11】
【0041】
(式中、R
1は水素原子、炭素数1〜10の直鎖状、炭素数3〜10の分岐状もしくは炭素数3〜10の環状のアルキル基、炭素数2〜10の直鎖状、炭素数3〜10の分岐状もしくは炭素数3〜10の環状のアルケニル基、または炭素数6〜10のアリール基であり、アルキル基、アルケニル基またはアリール基中の水素原子の全てまたは一部がフッ素原子と置換されていてもよく、R
2は、それぞれ独立に、炭素数1〜4の直鎖状または炭素数3もしくは4の分岐状のアルキル基であり、aは1〜5、aaは1〜3、mは0〜2およびnは1〜3の整数であり、aa+m+n=4である。)
HFIP基およびアルコキシシリル基が芳香環に直接結合したHFIP基含有珪素化合物(1)を重合させてなる、以下の一般式(6)で表される繰り返し単位を含むHFIP基含有ポリシロキサン高分子化合物(6)は、高い耐熱性とアルカリ可溶性を示す。
【化12】
【0042】
(式中、R
1は水素原子、炭素数1〜10の直鎖状、炭素数3〜10の分岐状もしくは炭素数3〜10の環状のアルキル基、炭素数2〜10の直鎖状、炭素数3〜10の分岐状もしくは炭素数3〜10の環状のアルケニル基、または炭素数6〜10のアリール基であり、アルキル基、アルケニル基またはアリール基中の水素原子の全てまたは一部がフッ素原子と置換されていてもよく、アルキル基、アルケニル基またはアリール基中の水素原子の全てまたは一部がフッ素原子と置換されていてもよく、aは1〜5、aaは1〜3、mは0〜2、およびnは1〜3の整数であり、aa+m+n=4である。)
尚、HFIP基含有珪素化合物(1)およびHFIP基含有ポリシロキサン高分子化合物(6)において、R
1としては、具体的には、メチル基、エチル基、フェニル基を例示することができる。mは好ましくは0である。R
2としては、具体的には、メチル基、エチル基、イソプロピル基等を例示することができ、好ましくはメチル基もしくはエチル基(−C
2H
5、以下、Etと表わすことがある)である。nは好ましくは3である。aは1または2、aaは1であることが好ましい。
【0043】
[一般式(2)で表されるHFIP基含有珪素化合物]
製造容易性の観点から、HFIP基含有珪素化合物(1)に含まれるHFIP基含有アリール基の数は1個であることが好ましく、具体的には、一般式(2)で表されるHFIP基含有珪素化合物(2)であることが好ましい。
【化13】
【0044】
(式中、R
1は、水素原子、または炭素数1〜10の直鎖状、炭素数3〜10の分岐状もしくは炭素数3〜10の環状のアルキル基、炭素数2〜10の直鎖状、炭素数3〜10の分岐状もしくは炭素数3〜10の環状のアルケニル基、または炭素数6〜10のアリール基であり、アルキル基、アルケニル基またはアリール基中の水素原子の全てまたは一部がフッ素原子と置換されていてもよく、R
2は、それぞれ独立に、炭素数1〜4の直鎖状または炭素数3もしくは4の分岐状のアルキル基であり、aは1〜5、mは0〜2およびnは1〜3の整数であり、m+n=3である。)
HFIP基およびアルコキシシリル基が芳香環に直接結合したHFIP基含有珪素化合物(2)を重合させてなる、以下の一般式(7)で表される繰り返し単位を含むHFIP基含有ポリシロキサン高分子化合物(7)は、高い耐熱性とアルカリ可溶性を示す。
【化14】
【0045】
(式中、R
1は水素原子、炭素数1〜10の直鎖状、炭素数3〜10の分岐状もしくは炭素数3〜10の環状のアルキル基、炭素数2〜10の直鎖状、炭素数3〜10の分岐状もしくは炭素数3〜10の環状のアルケニル基、または炭素数6〜10のアリール基であり、アルキル基、アルケニル基またはアリール基中の水素原子の全てまたは一部がフッ素原子と置換されていてもよく、aは1〜5、mは0〜2、およびnは1〜3の整数であり、m+n=3である。)
[一般式(3)で表されるHFIP基含有珪素化合物]
HFIP基含有珪素化合物(1)の中でも、さらに好ましくは、以下の一般式(3)で表される、HFIP基含有珪素化合物(3)である。
【化15】
【0046】
(式中、R
2は、炭素数1〜4の直鎖状または炭素数3、4の分岐状のアルキル基であり、aは1〜5の整数である。)
具体的には、本発明のHFIP基含有珪素化合物として、以下の式(3−1)で表されるHFIP基含有化合物(3−1)、式(3−2)で表されるHFIP基含有化合物(3−2)、および式(3−3)で表されるHFIP基含有化合物(3−3)を示すことができる。
【化16】
【0047】
尚、Etはエチル基(−CH
2CH
3)であり、以下、同様である。
【0048】
2. HFIP基含有珪素化合物の製造方法
本発明は、一般式(4)
【化17】
【0049】
(式中、Xは塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、−OSO
2(p−C
6H
4CH
3)基または−OSO
2CF
3基であり、aは1〜5の整数である。)
で表されるHFIP基含有芳香族化合物(4)、および
一般式(5)
【化18】
【0050】
(式中、R
1は水素原子、炭素数1〜10の直鎖状、炭素数3〜10の分岐状もしくは炭素数3〜10の環状のアルキル基、炭素数2〜10の直鎖状、炭素数3〜10の分岐状もしくは炭素数3〜10の環状のアルケニル基、または炭素数6〜10のアリール基であり、アルキル基、アルケニル基またはアリール基中の水素原子の全てまたは一部がフッ素原子と置換されていてもよく、R
2は、それぞれ独立に、炭素数1〜4の直鎖状または炭素数3、4の分岐状のアルキル基であり、aaは1〜3、mは0〜2およびnは1〜3の整数であり、aa+m+n=4である。)
で表されるヒドロシリル基含有珪素化合物(5)を、遷移金属触媒の存在下で反応させて、
一般式(1)
【化19】
【0051】
(式中、R
1は水素原子、炭素数1〜10の直鎖状、炭素数3〜10の分岐状もしくは炭素数3〜10の環状のアルキル基、炭素数2〜10の直鎖状、炭素数3〜10の分岐状もしくは炭素数3〜10の環状のアルケニル基、または炭素数6〜10のアリール基であり、アルキル基、アルケニル基またはアリール基中の水素原子の全てまたは一部がフッ素原子と置換されていてもよく、R
2は、それぞれ独立に、炭素数1〜4の直鎖状または炭素数3、4の分岐状のアルキル基であり、aは1〜5、aaは1〜3、mは0〜2およびnは1〜3の整数であり、aa+m+n=4である。)
で表されるHFIP基含有珪素化合物(1)を得る製造方法である。
【0052】
本方法において、以下の反応式に示すように、HFIP基含有珪素化合物(1)は、一般式(4)で表されるHFIP基含有芳香族化合物(4)と、一般式(5)で表されるヒドロシリル基含有珪素化合物(5)を、有機溶剤中で遷移金属触媒下に加熱し、反応させることで得られる。
【化20】
【0053】
(式中、Xは塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、−OSO
2(p−C
6H
4CH
3)基または−OSO
2CF
3基であり、R
1は水素原子、炭素数1〜10の直鎖状、炭素数3〜10の分岐状もしくは炭素数3〜10の環状のアルキル基、炭素数2〜10の直鎖状、炭素数3〜10の分岐状もしくは炭素数3〜10の環状のアルケニル基、または炭素数6〜10のアリール基であり、アルキル基、アルケニル基またはアリール基中の水素原子の全てまたは一部がフッ素原子と置換されていてもよく、R
2は、それぞれ独立に、炭素数1〜4の直鎖状または炭素数3、4の分岐状のアルキル基であり、aは1〜5、aaは1〜3、mは0〜2およびnは1〜3の整数であり、aa+m+n=4である。)
具体的には、反応容器内にHFIP基含有芳香族化合物(4)およびヒドロシリル基含有珪素化合物(5)と、遷移金属触媒、有機溶剤、塩基、添加剤を採取、混合し、加熱して反応を行い、反応物を蒸留精製することでHFIP基含有珪素化合物(1)を得ることができる。
【0054】
反応および原料化合物、反応生成物、触媒、有機溶剤および反応条件等について、以下に説明する。
【0055】
[HFIP基含有芳香族化合物]
HFIP基含有芳香族化合物(4)の具体例としては、下記の一般式(4−1)で表されるHFIP基含有芳香族化合物(4−1)、一般式(4−2)で表されるHFIP基含有芳香族化合物(4−2)、一般式(4−3)で表されるHFIP基含有芳香族化合物(4−3)を例示することができる。
【化21】
【0056】
(式中、Xは塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、−OSO
2(p−C
6H
4CH
3)基または−OSO
2CF
3基である。)
HFIP基含有芳香族化合物(4−1)〜(4−3)の各式中のXが臭素原子(Br)である場合については、以下の先行文献に合成方法がそれぞれ記載されている。具体的には、特許文献5にHFIP基含有芳香族化合物(4−1)の合成方法が記載されており、非特許文献3にHFIP基含有芳香族化合物(4−2)、非特許文献4にHFIP基含有芳香族化合物(4−3)の合成方法が記載されている。
【0057】
合成のし易さから、HFIP基含有芳香族化合物(4)中のXは臭素原子であることが好ましい。
【0058】
前記反応式に示すように、HFIP基含有珪素化合物(1)は、HFIP基含有芳香族化合物(4)とヒドロシリル基含有珪素化合物(5)から得られる。HFIP基含有芳香族化合物(4)とヒドロシリル基含有珪素化合物(5)の組み合わせは特に限定されない。以下に、ヒドロシリル基含有珪素化合物(5)としてトリエトキシシランを用いる場合を例示する。このとき、HFIP基含有芳香族化合物(4)としてHFIP基含有芳香族化合物(4−1)〜(4−3)を用いると、下記式(3−1)〜(3−3)で表されるHFIP基含有珪素化合物(3−1)〜(3−3)をそれぞれ得ることができる。
【化22】
【0059】
[ヒドロシリル基含有珪素化合物]
ヒドロシリル基含有珪素化合物(5)は、モノアルコキシシラン、ジアルコキシシランまたはトリアルコキシシランから選ぶことができる。
【0060】
モノアルコキシシランとしては、例えば、メトキシシラン、エトキシシラン、イソプロポキシシラン、エトキシジメチルシラン、メトキシジメチルシラン、エトキシメチルシランまたはメトキシメチルシランを例示することができる。ジアルコキシシランとしては、例えば、ジエトキシシラン、ジメトキシシラン、ジエトキシメチルシラン、ジメトキシメチルシラン、ジエトキシフェニルシランまたはジメトキシフェニルシランを例示することができる。トリアルコキシシランとしては、例えば、トリエトキシシラン、トリメトキシシラン、トリイソプロポキシシランを例示することができる。
【0061】
中でも、トリエトキシシラン、トリメトキシシラン、ジエトキシメチルシランまたはジメトキシメチルシランが好ましい。これらの化合物は入手が容易であり、また、これらの化合物を原料とするHFIP基含有珪素化合物においては、重合反応によって、比較的高分子量体のHFIP基含有ポリシロキサン高分子化合物を得ることができる。
【0062】
[遷移金属触媒]
本反応に用いる遷移金属触媒は、第8族〜第10族元素の単体、例えば、鉄、コバルト、ニッケル、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウムまたは白金、およびその有機金属錯体、金属塩または金属酸化物を例示することができる。
【0063】
本発明のHFIP基含有珪素化合物(1)が高収率で得られることから、具体的には、クロロ(1,5−シクロオクタジエン)ロジウム(I)ダイマー、ビス(アセトニトリル)(1,5−シクロオクタジエン)ロジウム(I)テトラフルオロボラート、ビス(1,5−シクロオクタジエン)ロジウム(I)テトラフルオロボラート、ビス(トリフェニルホスフィン)ロジウム(I)カルボニルクロリド、パラジウム(II)ジクロリド、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(0)−クロロホルム付加体、ビス(トリ−tert−ブチルホスフィン)パラジウム(0)、酢酸パラジウム(II)または酸化白金(IV)が好ましい例として挙げられる。遷移金属触媒の使用量は、特に限定されるものではない。HFIP基含有芳香族化合物(4)1モルに対して、0.001モル以上、0.1モル以下が好ましい。
【0064】
[有機溶剤]
本反応に用いる有機溶剤は、原料化合物が溶解する溶媒であればよい。具体的には、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン、ジメチルスルホキシド、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、ジエチルエーテルまたはジイソプロピルエーテルを例示することができる。
【0065】
[塩基]
反応を円滑に進行させるには、副生する酸を捕捉するための塩基を反応系に共存させることが好ましい。具体的には、トリエチルアミン、ジエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、ピリジン、炭酸カリウム、酢酸カリウム、リン酸カリウム、水酸化カリウム、水酸化ナトリウムまたは水酸化リチウムを例示することができる。塩基の量は、副生する酸を補足できれば特に限定されるものではない。HFIP基含有芳香族化合物(4)1モルに対して、0.1モル以上、10モル以下であることが好ましい。
【0066】
[添加剤]
式中のXがヨウ素原子以外であるHFIP基含有芳香族化合物(4)を本反応に用いる場合、具体的には、Xが臭素原子、塩素原子、−OSO
2(p−C
6H
4CH
3)基または−OSO
2CF
3基である場合、反応系の中へヨウ素イオンを含む添加剤を加えることにより反応速度を高めることができる。添加剤は、具体的には、テトラブチルアンモニウムヨージド、テトラプロピルアンモニウムヨージド、テトラエチルアンモニウムヨージド、テトラメチルアンモニウムヨージド、テトラヘキシルアンモニウムヨージド、ヨウ化カリウムまたはヨウ化ナトリウムを例示することができる。
【0067】
[反応温度]
本反応における反応温度は、室温(本発明において約20℃とする)から120℃の範囲が好ましい。
【0068】
3. HFIP基含有ポリシロキサン高分子化合物
[一般式(6)で表されるHFIP基含有ポリシロキサン高分子化合物]
一般式(6)で表される繰り返し単位を含む、本発明のHFIP基含有ポリシロキサン高分子化合物(6)について説明する。
【化23】
【0069】
(式中、R
1は水素原子、炭素数1〜10の直鎖状、炭素数3〜10の分岐状もしくは炭素数3〜10の環状のアルキル基、炭素数2〜10の直鎖状、炭素数3〜10の分岐状もしくは炭素数3〜10の環状のアルケニル基、または炭素数6〜10のアリール基であり、アルキル基、アルケニル基またはアリール基中の水素原子の全てまたは一部がフッ素原子と置換されていてもよく、アルキル基、アルケニル基またはアリール基中の水素原子の全てまたは一部がフッ素原子と置換されていてもよく、R
2は、それぞれ独立に、炭素数1〜4の直鎖状または炭素数3、4の分岐状のアルキル基であり、aは1〜5、aaは1〜3、mは0〜2、およびnは1〜3の整数であり、aa+m+n=4である。)
式(6)中のO
n/2は、ポリシロキサン高分子化合物の表記として一般的に使用されるものである。本発明のHFIP基含有ポリシロキサン高分子化合物は、以下の式(6−1)〜式(6−3)のいずれかの構造を含む。式(6−1)は式(6)中のnが1、式(6−2)はnが2、式(6−3)はnが3の場合を表したものである。n=1の場合は式(6−1)であり、ポリシロキサン高分子化合物においてポリシロキサン鎖の末端に位置する。
【0070】
式(6−1)、式(6−2)および式(6−3)の構造は、ポリシロキサン鎖で相互に混合していても、即ち、共存していてもよい。
【化24】
【0071】
上記式(6−1)〜(6−3)中、R
1aは、以下の式(6−4)で表される1価の有機基であり、R
1bおよびR
1cは、以下の式(6−4)で表される1価の有機基または前記R
1で表わされる有機基である。また波線と交差する線分は結合位置を表す。
【化25】
【0072】
(式中、aは1〜5の整数である。)
本発明のHFIP基含有ポリシロキサン高分子化合物の分子量は、ポリスチレン換算による重量平均分子量で表して、1000以上、200000以下であることが好ましい。
【0073】
本発明のHFIP基含有ポリシロキサン高分子化合物(6)のHFIP基の含有率は、アルカリ溶解性を付与できれば特に限定されるものではないが、アルカリ溶解性という観点では、珪素素原子1個に対して0.1〜5個を含むことが好ましい。
【0074】
[一般式(7)で表されるHFIP基含有ポリシロキサン高分子化合物]
HFIP基含有ポリシロキサン高分子化合物(6)において、製造のしやすさより、含まれるHFIP基含有アリール基は1個であることが好ましく、一般式(7)で表される繰り返し単位を含むHFIP基含有珪素化合物(7)であることが好ましい。
【化26】
【0075】
(式中、R
1は水素原子、炭素数1〜10の直鎖状、炭素数3〜10の分岐状もしくは炭素数3〜10の環状のアルキル基、炭素数2〜10の直鎖状、炭素数3〜10の分岐状もしくは炭素数3〜10の環状のアルケニル基、または炭素数6〜10のアリール基であり、アルキル基、アルケニル基またはアリール基中の水素原子の全てまたは一部がフッ素原子と置換されていてもよく、aは1〜5、mは0〜2およびnは1〜3の整数であり、m+n=3である。)
[一般式(7−1)、一般式(7−2)または一般式(7−3)で表される繰り返し単位を含むHFIP基含有ポリシロキサン高分子化合物]
具体的には、以下の一般式(7−1)で表される繰り返し単位を含むHFIP基含有ポリシロキサン高分子化合物(7−1)、以下の一般式(7−2)で表される繰り返し単位を含むHFIP基含有ポリシロキサン高分子化合物(7−2)、または以下の一般式(7−3)で表される繰り返し単位を含むHFIP基含有ポリシロキサン高分子化合物(7−3)を例示することができる。
【化27】
【0076】
(式中、R
1は水素原子、炭素数1〜10の直鎖状、炭素数3〜10の分岐状もしくは炭素数3〜10の環状のアルキル基、炭素数2〜10の直鎖状、炭素数3〜10の分岐状もしくは炭素数3〜10の環状のアルケニル基、または炭素数6〜10のアリール基であり、アルキル基、アルケニル基またはアリール基中の水素原子の全てまたは一部がフッ素原子と置換されていてもよく、mは0〜2の整数、nは1〜3の整数であり、m+n=3である。)
【化28】
【0077】
(式中、R
1は水素原子、炭素数1〜10の直鎖状、炭素数3〜10の分岐状もしくは炭素数3〜10の環状のアルキル基、炭素数2〜10の直鎖状、炭素数3〜10の分岐状もしくは炭素数3〜10の環状のアルケニル基、または炭素数6〜10のアリール基であり、アルキル基、アルケニル基またはアリール基中の水素原子の全てまたは一部がフッ素原子と置換されていてもよく、mは0〜2の整数、nは1〜3の整数であり、m+n=3である。)
【化29】
【0078】
(式中、R
1は水素原子、炭素数1〜10の直鎖状、炭素数3〜10の分岐状もしくは炭素数3〜10の環状のアルキル基、炭素数2〜10の直鎖状、炭素数3〜10の分岐状もしくは炭素数3〜10の環状のアルケニル基、または炭素数6〜10のアリール基であり、アルキル基、アルケニル基またはアリール基中の水素原子の全てまたは一部がフッ素原子と置換されていてもよく、mは0〜2の整数、nは1〜3の整数であり、m+n=3である。)
4. HFIP基含有ポリシロキサン高分子化合物の製造方法
本発明のHFIP基含有ポリシロキサン高分子化合物(6)、(7)、(7−1)、(7−2)または(7−3)は、前記HFIP基含有珪素化合物(1)〜(3)が加水分解し、重縮合反応することによって得られる。本加水分解および重縮合反応は、アルコキシシランの加水分解および縮合反応における一般的な方法で行うことができる。具体的には、HFIP基含有珪素化合物(1)〜(3)を反応容器内に採取した後、本HFIP基含有珪素化合物(1)〜(3)を加水分解するための水、重縮合反応を進行させるための酸触媒および反応溶媒を反応器内に加え、次いで反応溶液を室温で、または加熱しつつ撹拌し、加水分解および重縮合反応を進行させることで、本発明のHFIP基含有ポリシロキサン高分子化合物が得られる。
【0079】
反応を加熱しながら行う場合には、反応系中の未反応原料、水、酸または反応溶媒が反応系外へと留去されることを防ぐために、反応容器を閉鎖系にするか、コンデンサーを取り付け、反応系を還流させることが好ましい。縮合反応に必要な時間は、酸触媒の種類にもよるが通常3時間〜24時間、反応温度は室温〜180℃である。反応後は、HFIP基含有ポリシロキサン高分子化合物のハンドリングの観点から、反応系内に残存する水、生成するアルコール、および、酸触媒を、HFIP基含有ポリシロキサン高分子化合物から除去するのが好ましい。前記水、アルコール、酸触媒の除去は、抽出作業で行ってもよいし、トルエンなどの反応に悪影響を与えない溶媒を反応系内に加え、ディーン・スターク管で共沸除去してもよい。
【0080】
[水]
本発明の HFIP基含有ポリシロキサン高分子化合物を得るための加水分解および重縮合反応において、使用する水は、原料のHFIP基含有芳香族珪素化合物が有するアルコキシ基全モル数に対するモル比で表して、0.5モル以上、5.0モル以下である。0.5モルを下回ると加水分解が効率よく進行せず、5.0モルを上回るとゲル化する等、ハンドリングが困難となりやすい。
【0081】
[酸触媒]
重縮合反応において用いる酸触媒は、無機酸としては、具体的には、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸またはホウ酸が例示することができ、有機酸としては、具体的には、酢酸、トリフルオロ酢酸、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、ギ酸、シュウ酸、マレイン酸、カンファースルホン酸、ベンゼンスルホン酸またはトシル酸を例示することができる。
【0082】
[反応溶媒]
重縮合反応において用いる反応溶媒はアルコール系溶剤が好適である。具体的には、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、t−ブチルアルコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノ−n−プロピルエーテル、プロピレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、プロピレングリコールモノ−t−ブチルエーテル、3−メトキシ−1−ブタノールまたは3−メチル−3−メトキシ−1−ブタノールを例示することができる。
【0083】
[抽出溶媒]
重縮合反応後に系中の縮合物であるHFIP基含有ポリシロキサン高分子化合物(6)の抽出溶媒として用いられる有機溶剤は、HFIP基含有ポリシロキサン高分子化合物(6)を溶解し、抽出作業できるものであれば特に限定されるものではない。具体的には、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、クロロホルム、ジクロロメタン、酢酸エチル、トルエンなどを例示することができる。
【0084】
[固体乾燥剤]
反応系を有機溶剤で抽出洗浄後、必要に応じて、抽出液に溶解している微量の水を固体乾燥剤を用いて除去してもよい。用いる固体乾燥剤は、特に限定されるものではない。具体的には、硫酸マグネシウム、硫酸ナトリウム、硫酸カルシウムまたは合成ゼオライトを例示することができる。
【0085】
[他のアルコキシシラン]
また、HFIP基含有ポリシロキサン高分子化合物(6)の製造において、アルカリ現像液に対する溶解性、耐熱性などの物性を調整する目的で、アルコキシシランである一般式(1)で表されるHFIP基含有芳香族珪素化合物に加えて、他のジアルコキシシラン、トリアルコキシシランまたはテトラアルコキシシランと共重合してもよい。
【0086】
前記ジアルコキシシランとしては、具体的には、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジメチルジプロポキシシラン、ジメチルジフェノキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、ジエチルジエトキシシラン、ジエチルジプロポキシシラン、ジエチルジフェノキシシラン、ジプロピルジメトキシシラン、ジプロピルジエトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、ジフェニルジフェノキシシラン、ビス(3,3,3−トリフルオロプロピル)ジメトキシシランまたはメチル(3,3,3−トリフルオロプロピル)ジメトキシシランを例示することができる。
【0087】
前記トリアルコキシシランとしては、具体的には、メチルトリメトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、プロピルトリメトキシシラン、イソプロピルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、プロピルトリエトキシシラン、イソプロピルトリエトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、メチルトリプロポキシシラン、エチルトリプロポキシシラン、プロピルトリプロポキシシラン、イソプロピルトリプロポキシシラン、フェニルトリプロポキシシラン、メチルトリイソプロポキシシラン、エチルトリイソプロポキシシラン、プロピルトリイソプロポキシシラン、イソプロピルトリイソプロポキシシラン、フェニルトリイソプロポキシシラン、トリフルオロメチルトリメトキシシラン、ペンタフルオロエチルトリメトキシシラン、3,3,3−トリフルオロプロピルトリメトキシシランまたは3,3,3−トリフルオロプロピルトリエトキシシランを例示することができる。
【0088】
前記テトラアルコキシシランとしては、具体的には、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシランまたはテトライソプロポキシシランを例示することができる。
【0089】
前記ジアルコキシシラン、トリアルコキシシランまたはテトラアルコキシシランは単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
【0090】
ここで、前記ジアルコキシシラン、トリアルコキシシランおよびテトラアルコキシシランから選ばれる少なくとも1種の化合物を「他のアルコキシシラン」と表す。本発明に当該「他のアルコキシシラン」を用いる場合、その総量は特に限定されないが、HFIP基含有芳香族化合物1モルに対して、0.1〜10モルであることが好ましく、0.2〜5モルであることがさらに好ましい。10モル超であると、アルカリ溶解性を付与できない場合がある。
【0091】
5. HFIP基含有ポリシロキサン高分子化合物を含む膜
本発明のHFIP基含有ポリシロキサン高分子化合物は有機溶剤に溶解し、塗布液として塗布し膜とすることが可能である。その際、必要に応じて酸化安定剤、フィラー、シランカップリング剤、感光剤、光重合開始剤および増感剤等の添加物を加えることが可能である。本発明のHFIP基含有ポリシロキサン高分子化合物を有機溶剤に溶解させ塗布液とした後、ガラス基板、シリコン基板または金属基板等の基体に塗布した後、乾燥させることで膜とする。
【0092】
この際、有機溶剤としては、具体的にプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテル、シクロヘキサノン、乳酸エチル、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、またはN−メチルピロリドン等を例示することができる。
【0093】
前記有機溶剤に本発明のHFIP基含有ポリシロキサンを溶解させる際の、HFIP基含有ポリシロキサン高分子化合物の濃度は、特に限定されるものではない。5質量%以上、50質量%以下の範囲であることが好ましく、さらに好ましくは10質量%以上、40質量%以下である。
【0094】
前記塗布液を塗布する手法としては、特に制限されることなく、スピンコート、バーコーターまたはディップコーティング等の公知の方法を使用することができる。本発明のHFIP基含有ポリシロキサン高分子化合物が室温で液体の場合は、有機溶剤を使用せずに前記方法により、塗布膜を得ることができる。
【0095】
本発明のHFIP基含有ポリシロキサン高分子化合物およびそれより得られる膜が、アルカリ現像液に可溶であることは、その化学構造においてHFIP基を有することによる効果である。さらに、当該化学構造において珪素原子と芳香環が直接結合していることで、本発明のHFIP基含有ポリシロキサン高分子化合物およびそれより得られる膜は耐熱性に優れる。
【0096】
前記塗布膜は、加熱、酸もしくは塩基の添加、または光重合開始剤による縮合等を行うことで、より機械強度および耐溶剤性に優れた硬化膜とすることができる。このうち加熱による硬化において、硬化条件は特に限定されるものではない。温度は100℃以上、350℃以下であることが好ましく、硬化時間は1時間以上、24時間以下であることが好ましい。前記方法により、本発明のHFIP基含有ポリシロキサン高分子化合物がさらに重縮合反応し、網目状の架橋構造を形成することで、硬化膜が得られる。
【0097】
本発明のHFIP基含有ポリシロキサン高分子化合物は、室温で固体または液体であり、液体の場合はポッティング成型、および前記の硬化方法を行うことにより、バルク状の硬化物を得ることができる。
【0098】
本発明のHFIP基含有ポリシロキサン高分子化合物およびそれより得られる膜は、アルカリ現像液に可溶であり、且つ耐熱性に優れることから、半導体用保護膜やディスプレイ用保護膜、レジスト材料に用いることができる。また、そのバルク状の硬化物は、LED用を含む光学系透明封止材、半導体用耐熱封止剤等に用いることができる。
【実施例】
【0099】
本発明における実施例を具体的に示すが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0100】
[分析および評価方法]
合成したHFIP基含有珪素化合物、HFIP基含有ポリシロキサン高分子化合物およびその硬化体の分析および評価方法を以下の(1)〜(5)に示す。
【0101】
(1)核磁気共鳴(NMR:Nuclear Magnetic Resonance)測定
共鳴周波数400MHzの核磁気共鳴装置(日本電子株式会社製、形式AL400)を使用し、
1H−NMR、
19F−NMR、
13C−NMRまたは
29Si−NMRの測定を行うことで、HFIP基含有珪素化合物、HFIP基含有ポリシロキサン高分子化合物の同定を行った。
【0102】
(2)ゲル浸透クロマトグラフ(GPC:Gel Permeation Chromatography)測定
ゲル浸透クロマトグラフ(東ソー株式会社製、HLC−8320GPC)を使用してGPCを測定し、ポリスチレン換算により、HFIP基含有ポリシロキサン高分子化合物の重量平均分子量(Mw:weight−average molecular weight)を算出した。
【0103】
(3)アルカリ現像液に対する溶解性試験
HFIP基含有ポリシロキサン高分子化合物の濃度33質量%のプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート溶液を調製し、ガラス基板またはシリコン基板上に垂らし、スピンコーターを用い400rpmで10秒間保持して塗布し、ホットプレート上で90℃で1分間加熱させた。このようにして得られた塗布膜を、フォトリソグラフィーのアルカリ現像液として用いられる、濃度2.38質量%のテトラメチルアンモニウムヒドロキシド水溶液に浸漬し、目視によって、薄膜の干渉色が認められなかった場合を「溶解」、認められた場合を「不溶」とした。
【0104】
(4)熱分解温度の測定
後述の実施例4〜8で得られたHFIP基含有ポリシロキサン高分子化合物8〜12と、比較例1〜3で得られた比較用ポリシロキサン高分子化合物1〜3をそれぞれ150℃のオーブンで1時間乾燥した後、熱重量測定(TGA、株式会社リガク製、形式TG8120)を実施し、初期の重量に対して5%の重量損失があった温度を熱分解温度(T
d5)とした。
【0105】
実施例1
[HFIP基含有珪素化合物(3−1)の合成]
HFIP基含有珪素化合物(3−1)を合成するための以下の反応を行った。
【化30】
【0106】
Etはエチル基(−CH
2CH
3)であり、以下、同様である。
【0107】
還流管を取り付けた300mL三口フラスコ内に、予め乾燥させておいた、テトラブチルアンモニウムヨージド、3.69g(10.0mmol)、およびビス(アセトニトリル)(1,5−シクロオクタジエン)ロジウム(I)テトラフルオロボラート、0.1140g(0.30mmol)を室温で採取した。次いで、アルゴン雰囲気下で、脱水処理したN,N−ジメチルホルムアミド、143mL、HFIP基含有芳香族化合物(4−1)、4.89g(10.0mmol)、脱水処理したトリエチルアミン、6.94mL(50.0mmol)、およびトリエトキシシラン3.69mL(20.0mmol)を加え、温度80℃に昇温し3時間攪拌した。反応系を室温まで自然冷却した後、溶媒であるN,N−ジメチルホルムアミドを留去し、次いでジイソプロピルエーテル約50mLを加えた。生じた沈殿に、セライト、次いで活性炭を接触させた後、ジイソプロピルエーテルを留去し反応物を得た。次いで、反応物を、クーゲルロール蒸留装置を用い、温度130℃〜140℃、圧力180Paの条件にて蒸留精製し、無色液体としてHFIP基含有珪素化合物(3−1)、1.82gを収率32%で得た。
【0108】
得られたHFIP基含有珪素化合物(3−1)の、
1H−NMR、
19F−NMR、
13C−NMRおよび
29Si−NMR測定結果を以下に示す。
【0109】
1H−NMR(溶媒CDCl
3(重水素化クロロホルム)、TMS(テトラメチルシラン)):δ8.18(1H,s),8.11(2H,s),3.88(6H,q,J=7.0Hz),3.80(2H,s),1.24(9H,t,J=7.0Hz)
19F−NMR(溶媒CDCl
3,CCl
3F):δ−76.01(s)
13C−NMR(溶媒CDCl
3,TMS):δ134.66(s),133.12(s),130.06(s),127.26(s),122.71(q,J=285.7Hz),77.29(sep,J=29.9Hz),59.25(s),18.12(s)
29Si−NMR(溶媒CDCl
3,TMS,緩和剤クロム(III)アセチルアセトナート):δ−60.38(s)
実施例2
[HFIP基含有珪素化合物(3−2)の合成]
HFIP基含有珪素化合物(3−2)を合成するための以下の反応を行った。
【化31】
【0110】
具体的には、還流管を取り付けた300mL三口フラスコ内に、予め乾燥させておいた、HFIP基含有芳香族化合物(4−2)、6.46g(20.0mmol)、テトラブチルアンモニウムヨージド、7.38g(40.0mmol)、およびビス(アセトニトリル)(1,5−シクロオクタジエン)ロジウム(I)テトラフルオロボラート、0.2280g(0.60mmol)を室温で採取した。次いで、アルゴン雰囲気下で、脱水処理したN,N−ジメチルホルムアミド120mL、脱水処理したトリエチルアミン11.1mL(80.0mmol)、およびトリエトキシシラン7.40mL(40.0mmol)を加え、温度80℃に昇温し4時間攪拌した。反応系を室温まで自然冷却した後、溶媒であるN,N−ジメチルホルムアミドを留去し、次いでジイソプロピルエーテル約200mLを加えた。生じた沈殿に、セライトを接触させて濾過した後、濾液を100mLの水で3回洗浄し、Na
2SO
4を加えて脱水し乾燥させ、さらに濾過した後、溶媒を留去した。反応物である残渣を、クーゲルロール装置を用い、温度140℃〜190℃、圧力200Paの条件にて蒸留精製し、無色液体としてHFIP基含有珪素化合物(3−2)、4.56gを収率56%で得た。
【0111】
得られたHFIP基含有珪素化合物(3−2)の、
1H−NMR、
19F−NMRの測定結果を以下に示す。
【0112】
1H−NMR(溶媒CDCl
3,TMS):δ7.74(4H,dd,J=18.6,8.3Hz),3.89(6H,q,J=7.0Hz),3.57(1H,s),1.26(9H,t,J=7.0Hz)
19F−NMR(溶媒CDCl
3,CCl
3F):δ−75.94(s)
13C−NMR(溶媒CDCl
3):δ134.87(s),133.32(s),132.02(s),125.97(s),122.74(q,J=287.6Hz),77.15(sep,J=29.7Hz),58.95(s),17.98(s)
29Si−NMR(溶媒CDCl
3,緩和剤クロム(III)アセチルアセトナート):δ−58.52(s)
実施例3
[HFIP基含有珪素化合物(3−3)の合成]
HFIP基含有珪素化合物(3−3)を合成するための以下の反応を行った。
【化32】
【0113】
反応は、HFIP基含有芳香族化合物(4−2)の代わりに、HFIP基含有芳香族化合物(4−3)を用いた以外は、実施例2と同様に実施した。反応終了後、実施例2と同様に後処理し、クーゲルロール装置を用いて蒸留精製することにより、無色液体としてHFIP基含有珪素化合物(3−3)、2.84gを収率35%で得た。
【0114】
実施例4
[HFIP基含有珪素化合物(3−1)を原料化合物とする、HFIP基含有ポリシロキサン高分子化合物の合成]
HFIP基含有珪素化合物(3−1)、11.45g(20.0mmol)をメタノールに溶かして全量を57gとした後、水1.08mL(60.0mmol)、4mol/Lの塩酸0.25mLを加え、室温で4時間攪拌した。反応液から溶媒を留去し、以下の式(8)で表される繰り返し単位を含むHFIP基含有ポリシロキサン高分子化合物(8)を無色透明高粘性液体として得た。
【化33】
【0115】
(式中、xは任意の整数を表す。)
実施例5
[HFIP基含有珪素化合物(3−2)を原料とするHFIP基含有ポリシロキサン高分子化合物(9)の合成]
HFIP基含有珪素化合物(3−2)、8.13g(20.0mmol)をメタノールに溶かして全量を41gとした後、水1.08mL(60.0mmol)、4mol/Lの塩酸0.25mLを加え、室温で4時間攪拌した。反応液から溶媒を留去し、以下の式(9)で表される繰り返し単位を含むHFIP基含有ポリシロキサン高分子化合物(9)を無色透明高粘性液体として得た。
【化34】
【0116】
(式中、xは任意の整数を表す。)
実施例6
[HFIP基含有珪素化合物(3−3)を原料とするHFIP基含有ポリシロキサン高分子化合物(10)の合成]
HFIP基含有珪素化合物(3−3)、1.63g(4.0mmol)をメタノールに溶かして全量を8.2gとした後、水0.216mL(12.0mmol)、4mol/Lの塩酸0.05mLを加え、室温で4時間攪拌した。反応液から溶媒を留去し、以下の式(10)で表される繰り返し単位を含むHFIP基含有ポリシロキサン高分子化合物(10)を無色透明高粘性液体として得た。
【化35】
【0117】
(式中、xは任意の整数を表す。)
実施例7
[HFIP基含有珪素化合物(3−1)を含有するHFIP基含有ポリシロキサン高分子化合物(11)の合成]
50mLのフラスコに、HFIP基含有珪素化合物(3−1)、4.58g(8mmol)、フェニルトリメトキシシラン、6.35g(32mmol)、水、2.16g(120mmol)、酢酸、0.12g(2mmol)を加え、100℃で12時間攪拌した。反応終了後、トルエンを加え、還流(バス温度150℃)させることにより、水、生成するエタノール、メタノール、酢酸を留去し、最後にトルエンを留去することによって、以下の式(11)で表される繰り返し単位を含むHFIP基含有ポリシロキサン高分子化合物(11)を白色固体として得た。
【化36】
【0118】
(式中、yおよびzはモル比を表わし、y/z=20/80である。)
実施例8
[HFIP基含有珪素化合物(3−2)を含有するHFIP基含有ポリシロキサン高分子化合物(12)の合成]
50mLのフラスコに、HFIP基含有珪素化合物(3−2)、5.59g(13.75mmol)、フェニルトリメトキシシラン、2.23g(11.25mmol)、水、1.35g(75mmol)、酢酸、0.075g(1.25mmol)を加え、100℃で12時間攪拌した。反応終了後、トルエンを加え、還流(バス温度150℃)させることにより、水、生成するエタノール、酢酸を留去し、最後にトルエンを留去することによって、以下の式(12)で表される繰り返し単位を含むHFIP基含有ポリシロキサン高分子化合物(12)を白色固体として得た。
【化37】
【0119】
(式中、yおよびzはモル比を表わし、y/z=55/45である。)
表1に、実施例4〜実施例8における原料化合物の質量比を示す。
【0120】
[HFIP基含有ポリシロキサン高分子化合物のアルカリ現像液に対する溶解性評価]
合成したHFIP基含有ポリシロキサン高分子化合物(8)〜(12)の重量平均分子量Mwを測定した。次いで、前述の方法で、アルカリ現像液(濃度2.38質量%のテトラメチルアンモニウムヒドロキシド水溶液)に対する溶解性の評価を行った。結果を以下の表2に示す。HFIP基含有ポリシロキサン高分子化合物(8)〜(12)は、いずれもアルカリ現像液に「溶解」した。
【0121】
[HFIP基含有ポリシロキサン高分子化合物の耐熱性評価]
上記手法に従って、熱分解温度(T
d5)を測定し、HFIP基含有ポリシロキサン高分子化合物(8)〜(12)の熱安定性を評価した。結果を表2に示す。この結果、HFIP基含有ポリシロキサン高分子化合物(8)〜(12)のT
d5は、いずれも390℃以上であり、高い耐熱性を有することが分かった。
【0122】
比較例1
本発明の範疇にないポリシロキサン高分子化合物として、比較用ポリシロキサン高分子化合物1を合成した。フェニルトリエトキシシラン4.80g(20.0mmol)をメタノールに溶かして全量を27gとし、水1.08mL、4mol/Lの塩酸0.25mLを混合し、実施例4と同様の手順で、比較用ポリシロキサン高分子化合物1を得た。得られた比較用ポリシロキサン高分子化合物1のGPC測定から求めたMwは2000であり、アルカリ現像液に対する溶解性を確認したところ、「不溶」であった。
【0123】
比較例2
フェニルトリメトキシシラン、19.83g(100mmol)、水、5.40g(300mmol)、酢酸、0.3g(5mmol)を加え、100℃で12時間攪拌した。反応終了後、トルエンを加え、還流(バス温度150℃)させることにより、水、生成するエタノール、酢酸を留去し、最後にトルエンを留去することによって、比較用ポリシロキサン高分子化合物2を得た。得られた比較用ポリシロキサン高分子化合物2のGPC測定から求めたMwは3500であり、アルカリ現像液に対する溶解性を確認したところ、「不溶」であった。
【0124】
比較例3
下記式(13)で表されるHFIP基含有珪素化合物(13)、4.34g(10.0mmol)をメタノールに溶かして全量を21.74gとした。これと、水0.54gと、4mol/Lの塩酸0.125mLとを混合し、実施例4と同様の手順で、比較用ポリシロキサン高分子化合物3を得た。
【0125】
HFIP基含有珪素化合物(13)およびそれから得られる比較用ポリシロキサン高分子化合物3は、珪素原子と芳香環の間にエチレン結合(−CH
2−CH
2−)を有する。したがって、珪素原子と芳香環が直接結合する本発明のHFIP基含有珪素化合物およびHFIP基含有ポリシロキサン高分子化合物とは異なる。
【化38】
【0126】
得られた比較用ポリシロキサン高分子化合物3のMwは3400であった。アルカリ現像液に対する溶解性を確認したところ、「溶解」であった。また、熱分解温度の測定を行った結果、5%質量減少温度(T
d5)は320℃であった。この結果は、実施例4〜8で得られた本発明のHFIP基含有ポリシロキサン高分子化合物(8)〜(12)の5%質量減少温度(T
d5)よりも低かった。
【0127】
表1に、上記比較例1〜比較例3における原料化合物を示す。
【0128】
表2に、上記比較用ポリシロキサン高分子化合物1〜3におけるGPC測定から求めたMw、アルカリ現像液に対する溶解性、5%質量減少温度(T
d5)を示す。
【表1】
【表2】