特許第6281402号(P6281402)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6281402-電源システム 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6281402
(24)【登録日】2018年2月2日
(45)【発行日】2018年2月21日
(54)【発明の名称】電源システム
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/04 20160101AFI20180208BHJP
   H01M 8/0612 20160101ALI20180208BHJP
   H01M 8/00 20160101ALI20180208BHJP
   H01M 8/10 20160101ALN20180208BHJP
【FI】
   H01M8/04 Z
   H01M8/0612
   H01M8/00 A
   !H01M8/10
【請求項の数】8
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-91055(P2014-91055)
(22)【出願日】2014年4月25日
(65)【公開番号】特開2015-210916(P2015-210916A)
(43)【公開日】2015年11月24日
【審査請求日】2017年3月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003160
【氏名又は名称】東洋紡株式会社
(72)【発明者】
【氏名】前田 健作
(72)【発明者】
【氏名】山下 全広
(72)【発明者】
【氏名】勝間 祥行
(72)【発明者】
【氏名】北村 幸太
【審査官】 清水 康
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−236988(JP,A)
【文献】 特開2009−076286(JP,A)
【文献】 実開昭54−006432(JP,U)
【文献】 特開2007−322100(JP,A)
【文献】 特開2010−010021(JP,A)
【文献】 特開2012−002119(JP,A)
【文献】 特開2013−069263(JP,A)
【文献】 特開2006−046239(JP,A)
【文献】 特開2002−203584(JP,A)
【文献】 特開平10−255829(JP,A)
【文献】 特開2009−064755(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0248057(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/00 − 8/2495
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、出力が2〜300Wの範囲である燃料電池と、該燃料電池を収納する筐体(A)と、二次電池と、燃料タンクから構成され、該燃料電池は外部から取り入れた酸素を含む空気と該燃料タンクから供給される燃料の化学反応により発電することで該二次電池を充電し、かつ該二次電池から外部に電力が供給され、該二次電池から外部への電力供給は、直接、DC/DCコンバーター、及びDC/ACインバーターからなる群より選ばれる1種以上の手段によって行われる電源システムにおいて、二次電池と燃料タンクの少なくとも一方が該筐体(A)とは異なる1つまたは複数の筐体群(B)に分割収納されており、該筐体(A)の外壁面に設けられる前記燃料電池が発電するために必要な空気を取り入れる吸気口を地面から2m以上高い位置に有し、かつ該筐体群(B)の重心位置は該筐体(A)の重心位置より低い位置なるように設置されていることを特徴とする電源システム。
【請求項2】
前記燃料タンクに収納される燃料が液体燃料であり、前記燃料タンクは燃料を貯蔵する1つ以上のメイン燃料タンクと、燃料電池へ燃料供給ラインが接続した1つ以上のサブ燃料タンクと、該メイン燃料タンクから該サブ燃料タンクへの燃料を移送するポンプを有する燃料移送ラインから構成されており、該メイン燃料タンクが燃料電池を収納する前記筐体(A)とは異なる1つまたは複数の前記筐体群(B)に含まれる筐体に収納されることを特徴とする請求項1に記載の電源システム。
【請求項3】
前記サブ燃料タンクの総容量が前記メイン燃料タンクの総容量以下であり、かつ前記サブ燃料タンクの総容量が10L以下であることを特徴とする請求項2に記載の電源システム。
【請求項4】
前記サブ燃料タンク内燃料の上限または下限液面位置を検知し、該検知により前記メイン燃料タンクから前記サブ燃料タンクへの燃料移送を開始または停止する制御機構を有することを特徴とする請求項2又は3のいずれかに記載の電源システム。
【請求項5】
前記燃料を移送するポンプが前記サブ燃料タンクと前記メイン燃料タンクとを繋ぐ前記燃料移送ラインの配管長さに対して、前記サブ燃料タンクよりも前記メイン燃料タンクに近い位置に設置されることを特徴とする請求項2乃至4のいずれかに記載の電源システム。
【請求項6】
前記燃料電池を収納する筐体(A)の全体重量が30kg以下であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の電源システム。
【請求項7】
前記燃料電池はダイレクトメタノール型燃料電池、或いはメタノール改質型燃料電池であることを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の電源システム。
【請求項8】
請求項7に記載の電源システムから供給された電力を用いて作動する計測又は観測システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、商用電源の使用が困難な場所において使用される燃料電池を含む電源システムに関するものであり、特に冬季に積雪量数mを記録するような多雪地域に設置した場合でも好適に長期間メンテナンスレスに使用でき、かつ設置における負担を低減することが可能な電源システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
これまで、電源システム、特に屋外で独立電源として使用する電源システムの例として二次電池を用いたものが多数提案されている。例えば、可搬式のリチウムイオン電池は多数市販されているが、長期間連続的に使用するためには、二次電池の容量を増やすしかない。特に屋外で計測又は監視システムに使用する例としてCO計測(特許文献1)、温度などの環境計測(特許文献2)、災害の検知(特許文献3)などが挙げられるが、二次電池は一度放電すると充電する必要があるという問題がある。また電池容量に比例して重くなるため、可搬性に乏しいという問題もあった。
【0003】
また、二次電池に電気エネルギーを補給するために、風力発電装置や太陽光発電を組み合わせることも多数提案されているが、自然エネルギーを利用した発電システムであるため、安定的な電源確保が困難であった。
【0004】
そのような問題を解決するために、長期間の電源供給を目的として、例えばリチウムイオン電池とメタノールを燃料とする燃料電池を組み合わせた電源(特許文献4、特許文献5)が紹介されているが、要素技術の検討であり、実際に屋外、特に積雪環境下で電源システムとして使用するところまで検討されたものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2012―83294号公報
【特許文献2】特開2009―89605号公報
【特許文献3】特開2001―283348号公報
【特許文献4】特許第4564940号公報
【特許文献5】特許第4583010号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、冬季に積雪量数mを記録するような多雪地域に設置した場合でも燃料電池を停止させることなく安定して運転でき、かつ設備設置の負担を低減し、さらに設備自体に使用される消費電力を抑えることで長期間燃料補充せず使用できる電源システム提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明は、次に示す電源システム並びに計測又は監視システムを提供する。
【0008】
(1)少なくとも、出力が2〜300Wの範囲である燃料電池と、該燃料電池を収納する筐体(A)と、二次電池と、燃料タンクから構成され、該燃料電池は外部から取り入れた酸素を含む空気と該燃料タンクから供給される燃料の化学反応により発電することで該二次電池を充電し、かつ該二次電池から外部に電力が供給され、該二次電池から外部への電力供給は、直接、DC/DCコンバーター、及びDC/ACインバーターからなる群より選ばれる1種以上の手段によって行われる電源システムにおいて、二次電池と燃料タンクの少なくとも一方が該筐体(A)とは異なる1つまたは複数の筐体群(B)に分割収納されており、該筐体(A)の外壁面に設けられる前記燃料電池が発電するために必要な空気を取り入れる吸気口を地面から2m以上高い位置に有し、かつ該筐体群(B)の重心位置は該筐体(A)の重心位置より低い位置なるように設置されていることを特徴とする電源システムである。
(2)前記燃料タンクに収納される燃料が液体燃料であり、前記燃料タンクは燃料を貯蔵する1つ以上のメイン燃料タンクと、燃料電池へ燃料供給ラインが接続した1つ以上のサブ燃料タンクと、該メイン燃料タンクから該サブ燃料タンクへの燃料を移送するポンプを有する燃料移送ラインから構成されており、該メイン燃料タンクが燃料電池を収納する前記筐体(A)とは異なる1つまたは複数の前記筐体群(B)に含まれる筐体に収納されることを特徴とする(1)に記載の電源システムである
(3)前記サブ燃料タンクの総容量が前記メイン燃料タンクの総容量以下であり、かつ前記サブ燃料タンクの総容量が10L以下であることを特徴とする(2)に記載の電源システムである。
(4)前記サブ燃料タンク内燃料の上限または下限液面位置を検知し、該検知により前記メイン燃料タンクから前記サブ燃料タンクへの燃料移送を開始または停止する制御機構を有することを特徴とする(2)又は(3)のいずれかに記載の電源システムである。
(5)前記燃料を移送するポンプが前記サブ燃料タンクと前記メイン燃料タンクとを繋ぐ前記燃料移送ラインの配管長さに対して、前記サブ燃料タンクよりも前記メイン燃料タンクに近い位置に設置されることを特徴とする(2)乃至(4)のいずれかに記載の電源システムである。
(6)前記燃料電池を収納する筐体(A)の全体重量が30kg以下であることを特徴とする(1)乃至(5)のいずれかに記載の電源システムである。
(7)前記燃料電池はダイレクトメタノール型燃料電池、或いはメタノール改質型燃料電池であることを特徴とする(1)乃至(6)のいずれかに記載の電源システムである。
(8)(7)に記載の電源システムから供給された電力を用いて作動する計測又は観測システムである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によると、冬季に積雪量数mを記録するような多雪地域において、積雪による空気吸入口の閉塞を防止できるため、燃料電池を停止させる恐れがなく、安定して発電可能な電源システムを構築することが可能である。さらに燃料の補充回数を減らせるため、設置後長期間メンテナンスレスに運用可能である。また積雪量が数mとなる多雪地域においても、燃料電池の発電に必要な空気の取り込む吸気口を積雪面より上側になるように設置されることにより、電源システム設置にかかる負担を低減することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の設置方法、及び電源システムの構成例である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
多くの電源としては、商用電源が利用されているが、場所によっては商用電源の使用が困難であるという問題が有る。そのような商用電源への接続が困難である場合に、電力供給手段として独立電源が求められるが、例えば二次電池によるものは、特に可搬タイプの場合、持ち運べる重量に制限があるため、供給できる電力は僅かである。一方、太陽電池や風力発電などの自然エネルギーを利用した電源と二次電池を組み合わせた電源システムはすでに提案されているが、太陽電池や風力発電は、積雪や降雨などの天候不順、及び周囲環境によって日照時間が減少、或いは風の強弱などにより、発電量もそれに応じて変動してしまう問題があり、両者を組み合わせた電源システムは、安定性に問題があった。
【0012】
また、その他の独立電源として、例えばメタノールを燃料とする燃料電池と蓄電池を組み合わせた電源も検討されているが、要素技術を検討したものであり、具体的に天候や気温の変化が大きな屋外での使用を考えて検討されている例はほとんどない。特に積雪環境化における設置方法を検討した例はほとんど見られない。
【0013】
本発明における電源システムは、実際に、特に冬季屋外での使用を踏まえた燃料電池と二次電池を組み合わせた電源システムに関するものである。また電源システムを使った計測及び観測システムである。
【0014】
本発明は、少なくとも、出力が2〜300Wの範囲である燃料電池と、該燃料電池を収納する筐体(A)と、二次電池と、燃料タンクから構成され、該燃料電池は外部から取り入れた酸素を含む空気と該燃料タンクから供給される燃料の化学反応により発電することで該二次電池を充電し、かつ該二次電池から外部に電力が供給され、該二次電池から外部への電力供給は、直接、DC/DCコンバーター、及びDC/ACインバーターからなる群より選ばれる1種以上の手段によって行われる電源システムにおいて、二次電池と燃料タンクの少なくとも一方が該筐体(A)とは異なる1つまたは複数の筐体群(B)に分割収納されており、該筐体(A)の外壁面に設けられる前記燃料電池が発電するために必要な空気を取り入れる吸気口を地面から2m以上高い位置に有し、かつ該筐体群(B)の重心位置は該筐体(A)の重心位置より低い位置となるように設置することを特徴とする電源システムである。
【0015】
燃料電池は、電解質としてプロトン伝導性のイオン交換膜を用い、その表面に触媒電極微粒子とガス拡散電極が直接接合されており、このイオン交換膜−電極接合体のアノード側に水素ガスやメタノールなど化石燃料を供給し、カソード側に酸素を含むガス、例えば酸素や空気を供給することで、触媒作用により電気を取り出せる化学反応を使った発電システムである。化学反応による発電のため、内燃機関と異なり、カルノーサイクルに支配されない、高効率発電が可能である。内燃機関による発電の場合、騒音がうるさく、また排ガスに一酸化炭素、窒素酸化物、硫黄酸化物などの有害物質が多量に混入する可能性があるので、電源システムには適さない。
【0016】
燃料電池の出力としては、5Wから300Wの範囲が好ましく、さらに好ましくは20W〜250Wの範囲であり、さらに好ましくは40W〜200Wの範囲である。出力が5Wに満たない場合、電力供給量が不足する可能性がある。一方300Wを越える場合は、消費燃料が多く、かつ重量も増加するので、屋外で使用する電源システムには向かない傾向にある。
【0017】
本発明においては、燃料電池の起動には電力を使用するため、二次電池と接続して、起動時に二次電池に蓄えられた電力を使用するが、一度燃料電池が起動すれば、燃料電池から二次電池に電気を供給することが可能となる。そのため、二次電池のみからなる可搬型電源システムでは、二次電池の容量がなくなると全く使えなくなる問題があったが、燃料電池と接続することで、二次電池への充電が可能となるため、長期間電力を供給することができ、可搬型電源システムの動作時間を長くすることができ、ひいてはより安定性の高いシステムを提供することができる。また家庭用燃料電池の場合、商用電源から起動に必要な電力を賄う構成が採用されているが、このような系では、屋外で使用する電源システムとしては好ましくない傾向にある。
【0018】
燃料電池と連結する二次電池としては、鉛蓄電池、ニッケル水素電池、ニッケルカドミウム電池、リチウムイオン電池、リチウムポリマー電池、バナジウム電池、などが好適な例として挙げられる。特に好ましくは、鉛蓄電池、ニッケルカドミウム電池あるいはリチウムイオン電池である。鉛蓄電池やニッケルカドミウム電池は信頼性の高い電池であり、本発明の屋外用の電源システムにおいて信頼性の高いものを提供することに有効である。リチウムイオン電池は小型化が可能なため、持ち運びに優れるといったメリットを提供することができる。また、二次電池としては、繰返し充放電に耐久性があるものが好ましく、温度特性も考慮すると、鉛蓄電池やニッケルカドミウム電池が好ましく、特に本発明に好ましい二次電池は鉛蓄電池、中でもディープサイクルタイプの鉛蓄電池である。
【0019】
前記二次電池の容量としては、用途に応じて適宜選択可能であるが、20時間率容量として5Ah〜300Ahのものを使用することが好ましい傾向にある。特に好ましくは、10Ah〜150Ahである。5Ah以下であると、電池の容量が不足する傾向にあり、300Ahを越えると重くなりすぎる傾向にある。一例として、45Wの場合10Ah〜100Ah、110Wの場合50Ah〜200Ah、が一つの目安である。燃料電池の出力に対して二次電池の容量が小さすぎると直ぐに充電が完了し、ON/OFFの頻度が高くなるため好ましくなく、大きすぎると満充電に至らず必要以上に燃料を消費する傾向にある。
【0020】
燃料電池を二次電池と組合せ、二次電池を電力バッファとして用い、二次電池の充電状態の変化や稼動条件の変化をモニタリングしながら、燃料電池を運転することは本発明の電源システムとして好ましい。二次電池の電圧が降下して下限設定値A以下になった場合に前記燃料電池による発電によって二次電池への充電を行い、前記二次電池の電圧が上昇して上限設定値B以上になった場合に前記燃料電池による発電を停止し二次電池への充電を停止する機構を有することで、二次電池を常に設定範囲の充電状態を保つことが可能となり、かつ、不必要に燃料電池を動かす必要がなくなるため、必要最小限の燃料消費で運転することが可能となる。そのため燃料を有効に使うことが可能となり、長時間電気を供給することができる。よって常時安定的に、信頼性の高い電源として動作させることが可能である。
【0021】
また前記下限設定値A及び上限設定値Bがいずれも変更可能であることで、二次電池の状態に適した運転が可能となる。鉛蓄電池における目安としては、−20℃の場合、下限設定値Aは10.5〜13.0V、上限設置値Bは13.5〜14.7Vの範囲である。
【0022】
二次電池からは、直接或いはDC/DCインバーター或いはDC/ACインバーターの少なくとも一つを介して外部に電気を供給する仕組みであることが必要である。DC/DCインバーター或いはDC/ACインバーターの種類は任意のものを選ぶことができる。好ましいDC/DCインバーター或いはDC/ACインバーターは、出力10W〜350Wの範囲のDC/DCインバーター或いはDC/ACインバーターである。出力が10W未満であると電源として出力が足りない傾向にあり、350Wを越えるようなDC/DCインバーター或いはDC/ACインバーターは、待機電力が大きく、燃料消費速度が速く、かつ筐体内部への放熱も大きいため好ましくない。なおDC/ACインバーターのAC出力としては正弦波のでるものが特に好ましい傾向にあるが、制限されるものではない。
【0023】
燃料タンクは、燃料電池の発電に必要な燃料を保管するものである。燃料タンクの材質は、ステンレス、アルミニウム合金などの金属製から、ポリエチレン、ポリプロピレンなどの樹脂製などがあり、保管する燃料の種類により適したものを選択することが好ましい。また燃料タンクの容量は、外部機器で消費される電力量と電源システムを設置する期間から決定することが必要であるが、可搬性を考慮した場合、燃料タンク重量は20kg以下であることが好ましい。総重量が20kgを超える燃料を保管する場合は、1つ当たりの燃料タンク重量が20kg以下になるように複数に分割して保管することが好ましい。
【0024】
本発明において燃料電池および二次電池、燃料タンクは一つ以上の筐体に収納されていることを特徴とする。電源システムを屋外で使う場合には、風雨等の環境にさらされるため、筐体内に設置することが好ましい。重量の制限を減らすために、二つ以上の筐体に分けて運搬できるようにすることは、好ましい構成である。各筐体の重量は特に制限を受けるものではないが、山間部などへの運搬を考慮すると各100kg以下であることが好ましい。重量が100kgを越える場合、電源システムとして持ち運びが困難となる傾向にある。より好ましくは40kg以下であり、さらには25kg以下である。
【0025】
本発明においては、二次電池と燃料タンクの少なくとも一方が、燃料電池を収納する筐体(A)とは異なる1つまたは複数の筐体群(B)に分割収納されており、該筐体(A)の外壁面に設けられる前記燃料電池が発電するために必要な空気を取り入れる吸気口を地面から2m以上高い位置に有し、かつ該筐体群(B)の重心位置は該筐体(A)の重心位置より低い位置なるように設置することを特徴としている。これは多雪地域に設置する場合を想定しており、燃料電池を収納する筐体の吸気口の設置高さは予想される積雪面の高さより高くすることを目的としている。積雪が2m以上の場合において、電源システムの構成部品がすべて組み込まれた高重量な筐体を2m以上に設置することは高所作業となることから作業性が悪く、装置の構成上からもその位置に設置する必要がない。そのため、電源システムの構成部品を複数の筐体に分割収納し、燃料電池を収納している筐体のみを高い位置に設置することで、安全かつ簡単に燃料電池をより高所に設置でき、設置の作業負担を軽減することが可能である。また燃料タンクや二次電池をより低い位置に設置することにより、燃料タンクや二次電池の容量を増加させた場合でも電源システム全体の重心を下げることができ、設置の安定性を向上させることが可能である。積雪面の高さとしては、設置地域の過去の観測データや気象予測情報などを参照して推定された値を用いることができる。積雪面の高さにはバラツキがあるため、推定された値に対し、1.1〜1.2倍の高さに設置することが好ましい。なお設置する場所において、特に雪の吹き溜まりなどが生じる場合には、推定された値の1.5倍以上の高さに設置することが好ましい。筐体の設置方法には特に制限を受けるものではないが、設置コストを考慮すると地面埋め込み型の単管ポール等の支持柱を設けて筐体をそのポール側面に据え付けて固定する方法が好ましい。また高い位置への設置の作業性を考慮した場合、燃料電池を収納する筐体の全体重量は30kg以下であることが好ましく、さらには20kg以下であることが好ましい。
【0026】
さらに本発明においては、燃料タンクに収納される燃料が液体燃料である場合、燃料を貯蔵する1つ以上のメイン燃料タンクと、燃料電池へ燃料供給ラインが接続した1つ以上のサブ燃料タンクに燃料タンクを分割し、メイン燃料タンクからサブ燃料タンクへの燃料を移送するポンプを含む燃料供給ラインを設けることができる。これにより燃料電池と燃料タンクを異なる筐体に収納してそれらを上下方向に離して設置する場合、電源の重量と電力消費量の軽減が可能である。例えば、燃料電池が燃料タンクから燃料を吸い上げるシステムの場合、サブ燃料タンクを燃料電池の近くに設置することで燃料電池がサブ燃料タンクからの燃料吸い上げに必要な吸込み圧を小さくできるため、より小型のポンプを選定することが可能である。サブ燃料タンクは燃料電池を含む筐体に入れることが好ましいが、燃料電池を含む筐体の重量と設置作業性を考慮して、異なる筐体に収納することも可能である。燃料電池を含む筐体とは異なる筐体にサブ燃料タンクを収納する場合は、前述のポンプを小型化できるメリットを生かすため、サブ燃料タンクを収納する筐体を燃料電池を含む筐体から遠ざけず、最大でも50cm以内に設置することが好ましい。またサブ燃料タンクは、高い位置への設置作業性を考慮して容量10L以下にすることが好ましい。
【0027】
またサブ燃料タンク内燃料の上限または下限液面位置を検知し、この検知によりメイン燃料タンクからサブ燃料タンクへの燃料移送の開始または停止する機能を持たせることができる。燃料移送のON/OFFを制御することにより、空のサブ燃料タンクへメイン燃料タンクから燃料補充するときにのみ燃料移送ポンプを動作させ、間欠運転させることができる。これにより、燃料移送ポンプの稼動時間を少なくし、消費電力を抑えることが可能である。液面位置の検知方法としては特に制限を受けるものではないが、例えば静電容量型、超音波型、レーザー変位型、フロート型など公知の液面センサを使用することができるし、組み合わせても良い。特に直接燃料に触れず、プラスチックタンクの場合にはタンク外面から検知可能であり、消費電力が少ないことから、静電容量型の液面センサを用いることが好ましい。
【0028】
燃料移送ポンプはメイン燃料タンクとサブ燃料タンクとを繋ぐ燃料移送ラインの配管長さに対して、サブ燃料タンクよりもメイン燃料タンクに近い位置に設置されることを特徴とする。一般にポンプは吸い上げ圧よりも押し上げ圧の方を高くしやすいため、燃料移送ポンプを下方に設置されるメイン燃料タンクに近い位置に設置することで、燃料移送ポンプを小型にできる。選定するポンプの種類にもよるが、燃料移送ポンプとメイン燃料タンクの設置距離は50cm以下であることが好ましい。メイン燃料タンクからサブ燃料タンクへ燃料を移送するポンプとしては、特に制限を受けるものではなく、例えば遠心式、斜流式、軸流式、ダイヤフラム式、電磁式、ピストン式などの公知のものを使用することができるし、組み合わせても良い。
【0029】
メイン燃料タンクからサブ燃料タンクへ燃料移送するポンプの制御方法としては特に制限を受けるものではないが、例えば以下の(1)〜(3)の方法が挙げられる。
(1)サブ燃料タンクに上限液面センサと下限液面センサを設けて、下限センサONで燃料移送ポンプをON、上限液面センサONで燃料移送ポンプをOFFとする方法
(2)サブ燃料タンクに上限液面センサを、燃料移送ポンプに動作タイマを設け、上限液面センサONで燃料移送ポンプをOFFと動作タイマをリセットし、一定時間経過後タイマによりポンプをONにする方法
(3)サブ燃料タンクに下限液面センサを、燃料移送ポンプに動作タイマを設け、下限液面センサONで燃料移送ポンプをONと動作タイマをリセットし、一定時間経過後タイマによりポンプをOFFにする方法
前記(1)〜(3)は電源システム仕様や設置状況に応じて選択でき、複数を組み合わせても良い。
【0030】
本発明における燃料電池としては、特に限定されるものではないが、特に燃料にはメタノールを用いることが好ましい。積雪時の寒冷な環境でも凍結せず、取扱性に優れることに加え、高エネルギー密度のため、長期間駆動する場合良好な燃料といえる。従って燃料電池としては、ダイレクトメタノール型燃料電池、或いはメタノール改質型燃料電池が好ましい。ここでいうダイレクトメタノール型燃料電池は、メタノール或いは希釈したメタノールを燃料電池に供給することで動作する燃料電池であり、メタノール改質型燃料電池は、メタノールを一旦改質器を経由させることで少なくとも水素を取り出し、その水素を燃料電池に供給することで動作する燃料電池のことである。
【0031】
発電可能な電力は、いずれも燃料量に比例するため、運転したい期間に併せて燃料タンクの大きさを変えることができる。燃料タンク内の燃料は50〜99.5%の範囲の濃度のメタノール水溶液であることが好ましい。例えば濃度50%である場合、備蓄量などに規制がないため取り扱いに優れるという長所がある。一方で高濃度になるほど長時間使用可能となる長所がある。より好ましくは90%〜99.5%の範囲である。
【0032】
特にダイレクトメタノール型燃料電池としては、前記高濃度燃料を取り込んだ後、燃料電池本体にて、希釈後、燃料電池スタックに希釈メタノールが供給される構成が好ましい。高濃度のメタノールが燃料電池スタックに流れ込むと、出力低下に繋がる可能性があるため、希釈メタノールの濃度は、0.3%〜10%の範囲であることが特に好ましい。
【0033】
また、前記二次電池に対し、自然エネルギーによる充電機構を有していることを特徴とすることは好ましい構成である。太陽光発電装置、風力発電装置、水力発電装置との組み合わせにより、さらにメンテナンス頻度を低減することができ、さらに長期間の連続駆動が可能になる。特に好ましい組合せは太陽光発電装置である。
【0034】
また本発明の電源システムに接続する機器としては、任意に選ぶことが可能であるが、例えば、雨量計、地震計、温湿度計、地すべりセンサ、濃度計、監視カメラ、赤外線センサ、気圧計、風速計、水位センサ、圧力センサ、変位センサ、風速センサ、地下探査、放射性物質濃度センサ、放射線量センサ、照明、位置センサ、コンピューター、携帯電話等の無線通信機器、などがある。また、画像・音声・データの記録装置など、その他機器と併せて使用することは有用であり、データを、無線通信機器によって送信し、別の場所で遠隔モニタリングすることができる。
【実施例】
【0035】
(実施例)
図1に示す構成において、燃料電池にはSFC社製EFOYPro2400を、また容量5Lのサブ燃料タンク、容量55Lのメイン燃料タンク、12V70Ahのディープサイクル鉛蓄電池、最大吐出量3L/minのダイヤフラムポンプユニットを用いて、電源システムを製作した。燃料電池およびサブタンクはプラスチック製の筐体に収納した状態で全重量は15kgであり、一方メイン燃料タンク、鉛蓄電池、ポンプユニットはアルミ合金製の筐体に収納した状態で全重量は90kgであった。この電源システムを例年積雪2m程度記録する福島県の山中に持ち込み、燃料電池を収納した筐体の給気口高さが3mになるように単管パイプに設置し、11月〜翌4月の積雪がある冬季期間中に合計消費電力15Wのカメラ観測システムに給電を行った。このカメラ観測システムでは電源システムの外観を撮影した。冬季期間中積雪のため設置現場まで立ち入ることができなかったがカメラ情報から燃料電池を収納した筐体は雪に埋もれることが無かったことがわかった。また設置した180日間において電源システムは停止することなく連続でカメラ観測システムを稼動させることができた。
【0036】
(比較例)
実施例と同様の燃料電池、鉛蓄電池を用い、容量60Lの燃料タンクと共にアルミ合金製の筐体に収納した状態で約105kgとなる電源システムを製作した。電源システムは重量があり、実施例と同様に単管ポール上部に設置することができなかったため、電源システムは実施例と同様の場所に地面置きで設置したのち、電源システムを撮影するカメラ観測システムに給電した。設置から30日後電源システムは完全に雪に埋没し、35日目にカメラ観測システムからの情報送信が途絶えた。カメラ観測システムの停止原因は電源システムの雪埋没による燃料電池の窒息であった。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明によると、特に積雪が問題となるような屋外環境においても、良好に起動する燃料電池を用いた発電システムを提供できる。そこため、計測、観測がこれまで困難であった地域における計測、観測が可能となる。
【符号の説明】
【0038】
(1)燃料電池を収納する筐体(A)
(2)燃料タンクまたは二次電池を収納する筐体(B)
(3)燃料電池
(4)二次電池
(5)メイン燃料タンク
(6)サブ燃料タンク
(7)燃料電池の発電に必要な空気を取り込むための給気口
(8)燃料移送ポンプユニット
(9)燃料移送ライン
(10)二次電池充電電力ライン
(11)電源システムを据え付けるための支柱
(12)積雪面
図1