(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
エッチングによって有機半導体膜をパターン加工する工程が、炭化水素系溶剤または芳香族系溶剤を用いたウェットエッチングにより有機半導体膜をパターン加工する工程である、請求項6乃至請求項9のいずれか1項に記載の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の膜形成用組成物およびそれを用いた有機半導体の製造方法について説明する。尚、本発明の膜形成用組成物は膜形成用のフッ素樹脂に加え、溶液として塗布するためのフッ素系溶剤を含む。
1.フッ素樹脂
本発明の膜形成用組成物が含むフッ素樹脂は、
一般式(1)
【0028】
(式中、R
1は、それぞれ独立に、水素原子、フッ素原子、メチル基またはトリフルオロメチル基である。R
2は、それぞれ独立に、炭素数1〜15の直鎖状、炭素数3〜15の分岐鎖状または炭素数3〜15の環状の炭化水素基であり、炭化水素基中の水素原子がフッ素原子で置換されていてもよく、繰り返し単位中に少なくとも1個のフッ素原子を含む。)で表わされる繰り返し単位を含む。
【0029】
繰り返し単位(1)がフッ素原子を含むことで、当該フッ素樹脂はフッ素系溶剤との親和性があり、また繰り返し単位(1)が主鎖に隣接して、極性基であるエステル結合を有しているために、フッ素樹脂を塗布成膜したフッ素樹脂膜は柔軟性に富み、平坦でひび割れのないフッ素樹脂膜を得ることができる。さらに、側鎖にフッ素化された炭化水素基を有するために、当該フッ素樹脂はフッ素系溶剤への溶解性に優れ、およびエッチング溶剤への耐性に優れる。
【0030】
尚、単量体の合成のしやすさから、R
2は炭素数2〜14の直鎖状、炭素数3〜6の分岐鎖状の炭化水素基で、炭化水素基中の水素原子の少なくとも1個がフッ素原子で置換されているものが好ましい。
【0031】
R
2は、具体的には、直鎖状の基であれば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基または炭素数10〜14の直鎖状アルキル基を例示することができる。R
2において、酸素に直接結合している炭素原子以外の炭素原子に結合している水素原子はフッ素原子で置換されていてもよい。
R
2は、直鎖状の基であれば、下記一般式(4)
【0033】
(Xは水素原子またはフッ素原子である。nは1〜4の整数であり、mは1〜14の整数である。)で表わされる基が好ましい。単量体の合成の容易さから、nは好ましくは1〜2の整数である。
【0034】
またR
2は、具体的には、分岐鎖状の基であれば、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロイソプロピル基、1−(トリフルオロメチル)−2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロピル基、1,1−ビス(トリフルオロメチル)−2,2,2−トリフルオロエチル基または1,1−ビス(トリフルオロメチル)エチル基を例示することができる。
【0035】
本発明の膜形成用組成物が含むフッ素樹脂は、一般式(1)で表わされる繰り返し単位の1種または2種以上を含む。加えて、一般式(1)で表わされる以外の構造の繰り返し単位を含んでもよい。
【0036】
本発明の膜形成用組成物が含むフッ素樹脂は、例えば下記一般式(5)
【0038】
(式中、R
1、R
2は、一般式(1)と同じである。)
で表される構造のアクリル酸エステル誘導体を単量体として重合することで得られる。
【0039】
単量体として使用できるアクリル酸エステル誘導体は、一般式(5)で表される化合物であればよい。
【0040】
一般式(5)においてR
2が分岐鎖状の場合は、例えば、下記に示す、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン−2−オール(分子式:CF
3CH(OH)CF
3)、1,1,1,3,3,4,4,4−オクタフルオロブタン−2−オール(分子式:CF
3CH(OH)CF
2CF
3)、2−トリフルオロメチル−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン−2−オール(分子式:(CF
3)
3COH)または2−トリフルオロメチル−1,1,1−トリフルオロプロパン−2−オール(分子式:(CF
3)
2(CH
3)COH)からそれぞれ誘導されるアクリレート、メタクリレート、α−フルオロメタクリレートまたはα−トリフルオロメチルアクリレートを例示することができ、好ましく用いることができる。
【0042】
一般式(5)においてR
2が直鎖状の場合は、具体例として、下記一般式(6)
【0044】
(6)
(式中、R
6は、水素原子、フッ素原子、メチル基またはトリフルオロメチル基である。R
7は、水素原子またはフッ素原子である。nは1から4の整数である。mは1から14の整数である。)で表わされる単量体を例示することができる。
【0045】
一般式(6)において、単量体の合成の容易さから、nは1〜3の整数であることが好ましく、mは1〜14の整数であることが好ましい。
【0046】
一般式(6)において、単量体の合成の容易さから、R
6は水素原子またはメチル基が好ましい。
【0047】
これら単量体が重合してなるフッ素樹脂のフッ素含有率は、フッ素樹脂の全質量に対して、30質量%以上、65質量%以下、より好ましくは40質量%以上、55質量%以下である。フッ素含有率がこの範囲内であれば、フッ素系溶剤に溶解し易い。
【0048】
本発明の膜形成用組成物が含むフッ素樹脂の分子量は、重量平均分子量にて、好ましくは2,000以上、200,000以下、より好ましくは3,000以上、15,000以下である。分子量がこれより小さいとエッチング溶剤への耐性が不足し、分子量がこれより大きいとフッ素系溶剤への溶解性が不足し塗布によるフッ素樹脂膜形成が困難になる。
【0049】
前記一般式(6)で表わされる単量体において、R
6、R
7、nおよびmは下表1〜3に示す組み合わせが好ましく採用され、特に下表1で示されるNo.2〜9、11、12、15、16、19、下表2で示されるNo.40、43,44、47〜55、57、58、および下表3で示されるNo.85、88、91、92、94〜103、105は、さらに好ましい。
【0053】
本発明の膜形成用組成物が含むフッ素樹脂は、前記一般式(5)で表わされる単量体を1種または2種以上重合して得られる。
また、フッ素樹脂のフッ素系溶剤に対する溶解性が損なわれない範囲で、前記一般式(5)で表わされる単量体以外の単量体を原料に加えてもよい。フッ素樹脂の全質量に対して、好ましくは10質量%以下である。
【0054】
例えば、α位が置換されたもしくは無置換のアクリル酸エステル、α−オレフィン、含フッ素オレフィンまたはカルボン酸ビニルエステルを例示することができる。これら単量体は水素原子の少なくとも1個がフッ素化されていてもよい。アクリル酸エステルとしては、アクリル酸、メタクリル酸、α−フルオロアクリル酸もしくはα−トリフルオロメチルアクリル酸のメチルエステル、エチルエステル、プロピルエステル、イソプロピルエステル、ブチルエステル、イソブチルエステル、ターシャリーブチルエステル、ペンチルエステル、イソペンチルエステル、ヘキシルエステル、シクロヘキシルエステル、シクロヘキシルメチルエステル、2−ヒドロキシエチルエステル、2−ヒドロキシプロピルエステル、3−ヒドロキシプロピルエステル、4−ヒドロキシシクロヘキシルエステル、4−(ヒドロキシメチル)シクロヘキシルメチルエステル、ボルニルエステル、イソボルニルエステル、ノルボルニルエステル、メトキシメチルエステル、メトキシエチルエステル、エトキシエチルエステル、エトキシエトキシエチルエステルまたはメトキシエトキシエチルエステルを例示することができる。カルボン酸ビニルエステルとしては酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、カプロン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、パルミチン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、ピバリン酸ビニル、クロロ酢酸ビニル、メタクリル酸ビニルまたは安息香酸ビニルを例示することができる。
【0055】
本発明の膜形成用組成物が含む好ましいフッ素樹脂は、具体的には、以下の繰り返し単位の中の少なくともいずれか一つの繰り返し単位を含むフッ素樹脂である。
【0057】
[重合方法、精製方法]
単量体を重合させて、本発明の膜形成用組成物が含むフッ素樹脂を得るには、例えば一般的に知られるラジカル重合を用いることができ、具体的には、アゾ化合物、過酸化物、過硫酸化合物またはレドックス系化合物等のラジカル開始剤をラジカル反応の開始剤として用い重合させることができる。重合反応において、単量体と開始剤以外に溶媒を用いてもよい。重合溶媒として種々の有機物を用いることができ、例えば、酢酸エチル、酢酸ブチルもしくはプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のエステル、アセトン、2−ブタノンもしくはシクロヘキサノン等のケトン、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテルもしくはテトラヒドロフラン等のエーテル、ベンゼンもしくはトルエン等の芳香族炭化水素、ヘキサン、ヘプタンもしくはシクロヘキサン等の炭化水素、またはそれら有機溶媒の水素原子の少なくとも1個がハロゲン原子により置換されたものを例示することができる。また、膜形成用組成物の溶剤である前記フッ素系溶剤も重合溶媒として用いることができる。反応系の全質量に対する、重合時の単量体濃度は、好ましくは1質量%以上、95質量%以下で、より好ましくは10質量%以上、80質量%以下である。この範囲より単量体の濃度が低いと重合反応の反応率が低下し、この範囲より濃度が高いと重合溶液の粘度が高くなり製造が困難になる。
【0058】
反応後には精製を行い未反応の単量体を低減することが望ましい。精製方法としては、減圧操作もしくは加熱による残存単量体の留去、貧溶媒を用いた再沈殿操作、重合物溶液に対する液−液洗浄操作または重合物固体を溶剤中で攪拌して洗浄する方法等を用いることができる。これらの方法を組み合わせて使用してもよい。
2.フッ素系溶剤
本発明の膜形成用組成物が含むフッ素系溶剤は、含フッ素炭化水素または含フッ素エーテルを含むフッ素系溶剤である。
【0059】
フッ素系溶剤が、含フッ素炭化水素として、炭素数4〜8の、直鎖状、分岐鎖状環状の炭化水素であり、炭化水素中の水素原子の少なくとも1個がフッ素原子で置換された含フッ素炭化水素を含むフッ素系溶剤である、請求項2に記載の膜形成用組成物。
【0060】
また、フッ素系溶剤が、含フッ素エーテルとして、一般式(2)
R
3−O−R
4 (2)
(式中、R
3とR
4は、それぞれ独立に、炭素数1〜15の直鎖状、炭素数3〜15の分岐鎖状または炭素数3〜15の環状の炭化水素基であり、化合物中の水素原子の少なくとも1個がフッ素原子で置換されている。)で表わされる含フッ素エーテルを含むフッ素系溶剤であることが好ましい。
【0061】
さらに、フッ素系溶剤は、一般式(3)
R
5−OH (3)
(式中、R
5は、炭素数1〜15の直鎖状、炭素数3〜15の分岐鎖状または炭素数3〜15の環状の炭化水素基であり、炭化水素基中の水素原子の少なくとも1個がフッ素原子で置換されている。)で表される含フッ素アルコールをさらに含むフッ素系溶剤を含んでいてもよい。
【0062】
本発明の膜形成用組成物が含むフッ素系溶剤は、前述のフッ素樹脂を溶解させるものであればよい。フッ素系溶剤のフッ素含有量に特に制限は無いが、速やかに溶解させるには、フッ素系溶剤の全質量に対して、50質量%以上、70質量%以下、より好ましくは55質量%以上70質量%以下である。70質量%を超えると前述のフッ素樹脂が十分溶解しなくなる。また、50質量%より少ないと、有機半導体膜上に塗布または印刷する際、有機半導体膜の表面を溶解または膨潤することがある。本発明の膜形成用組成物が含むフッ素系溶剤として、以下に示す含フッ素炭化水素または含フッ素エーテルを好ましく用いることができる。
[含フッ素炭化水素系溶剤]
含フッ素炭化水素はオゾン破壊係数が低く、本発明の膜形成用組成物が含むフッ素系溶剤として好ましい。特に、炭素数4〜8の、直鎖状、分岐鎖状または環状の炭化水素で、水素原子の少なくとも1個がフッ素原子で置換されているようなものは塗布しやすく好ましい。
【0063】
このような含フッ素炭化水素として具体的には、ブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロペンタンまたはシクロヘキサンの水素原子の少なくとも1個がフッ素原子で置換されたものを例示することができる。具体的に示せば、例えば、CH
3CF
2CH
2CF
3、CF
3CHFCHFCF
2CF
3、CF
3CF
2CF
2CF
2CF
2CH
2CH
2CH
3並びに下式
【0065】
の含フッ素炭化水素を例示することができる。
【0066】
含フッ素炭化水素の沸点は、膜形成用組成物を塗布する際の基板温度よりも高い必要があり、好ましくは塗布温度より20℃以上、さらに好ましくは50℃以上である。含フッ素炭化水素の沸点が、膜形成用組成物を塗布する際の基板温度より低いと、塗布作業中に含フッ素炭化水素が急速に揮発し、形成されるフッ素樹脂膜に十分な平坦性を得難い。また、用いられる含フッ素炭化水素は、沸点が200℃以下であることが好ましく、さらに好ましくは180℃以下である。含フッ素炭化水素の沸点が200℃以下であると、膜形成用組成物を塗布形成したフッ素樹脂膜から、加熱により含フッ素炭化水素を蒸発除去しやすい。
【0067】
前記含フッ素炭化水素のうち、特に好ましい沸点を有する例として、以下を例示することができる。
【0068】
CF
3CHFCHFCF
2CF
3(三井・デュポンフロロケミカル株式会社製、バートレルXF、沸点55℃)
下式
【0070】
の含フッ素炭化水素(日本ゼオン株式会社製、ゼオローラH、沸点83℃)
CF
3CF
2CF
2CF
2CF
2CH
2CH
2CH
3(旭硝子株式会社製、アサヒクリンAC−6000、沸点114℃)
なお、バートレルは三井・デュポンフロロケミカル株式会社のフッ素系溶剤の商品名、ゼオローラは日本ゼオン株式会社のフッ素系溶剤(HFC類)およびアサヒクリンは旭硝子株式会社のフッ素系溶剤の商品名で市販されており、上記商品名は、各々商標登録されている。
[含フッ素エーテル]
また、オゾン破壊係数の低さから、フッ素系溶剤として含フッ素エーテルを使用することができる。特に、下記一般式(2)で表される含フッ素エーテルを含む溶剤を用いることが好ましい。
【0071】
R
3−O−R
4 …(2)
(式中、R
3は、炭素数1〜15の直鎖状、炭素数3〜15の分岐鎖状または炭素数3〜15の環状の炭化水素基であり、炭化水素基中の水素原子の少なくとも1個がフッ素原子で置換されていてもよい。R
4は炭素数1〜15の直鎖状、炭素数3〜15の分岐鎖状または炭素数3〜15の環状の炭化水素基であり、基中の水素原子の少なくとも1個がフッ素原子で置換されている。)
一般式(2)において、R
3とR
4で表される2基の置換基が同一でないものが前記フッ素樹脂の溶解性が高く好ましい。
【0072】
一般式(2)においてR
3は、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ビニル基、アリル基またはメチルビニル基が好ましい。これら炭化水素基中の水素原子の少なくとも1個がフッ素原子に置換されていてもよい。
【0073】
一般式(2)においてR
4は、具体的に、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、セカンダリーブチル基、ターシャリーブチル基、1−ペンチル基、2−ペンチル基、3−ペンチル基、1−ヘキシル基、2−ヘキシル基、3−ヘキシル基、1−ヘプチル基、2−ヘプチル基、3−ヘプチル基、1−オクチル基、2−−オクチル基、3−オクチル基、1−ノニル基、2−ノニル基、1−デシル基、2−デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロペンチルメチル基またはシクロヘキシルメチル基を例示することができる。これら炭化水素基中の水素原子の少なくとも1個がフッ素原子に置換されている。また、これら炭化水素基は不飽和結合を有していてもよい。
【0074】
含フッ素エーテルの沸点は、膜形成用組成物を塗布する際の基板温度よりも高い必要があり、好ましくは塗布温度より20℃以上、さらに好ましくは50℃以上高い。含フッ素エーテルの沸点が、膜形成用組成物を塗布する際の基板温度より低いと、塗布作業中に含フッ素脂肪族エーテルが急速に揮発し、形成されるフッ素樹脂膜に十分な平坦性を得難い。また、用いられる含フッ素エーテルは、沸点が200℃以下であることが好ましく、さらに好ましくは180℃以下である。含フッ素エーテルの沸点が200℃以下であると、膜形成用組成物を塗布形成したフッ素樹脂膜から、加熱により含フッ素エーテルを蒸発除去しやすい。
【0075】
好ましい含フッ素エーテルの例として、1,1,2,3,3,3−ヘキサフルオロ−1−(2,2,2−トリフルオロエトキシ)プロパン、1,1,2,3,3,3−ヘキサフルオロ−1−(2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロポキシ)プロパン、1,1,2,3,3,3−ヘキサフルオロ−1−(2,2,3,3−テトラフルオロプロポキシ)プロパンまたは2,2,3,3,3−ペンタフルオロ−1−(1,1,2,2−テトラフルオロエトキシ)プロパンを例示することができる。これら含フッ素エーテルの製造方法は、特開2002−201152公報に記載されている。
【0076】
好ましい沸点を有する含フッ素エーテルとして、以下の化合物を例示することができる。
C
3F
7OCH
3、C
4F
9OCH
3、C
4F
9OC
2H
5
【0080】
これらは、住友スリーエム株式会社より、商品名、ノベック7000、ノベック7100、ノベック7200、ノベック7300、ノベック7500、ノベック7600として市販されており入手可能である。本発明の膜形成用組成物に用いることが可能である。尚、ノベックは商標である。
【0081】
好ましい沸点を有する、市販の含フッ素エーテルとしては、さらに三井デュポンフロロケミカル株式会社製、商品名バートレルスープリオンまたはバートレルシネラを例示することができ、入手可能である。
[含フッ素アルコール]
本発明の膜形成用組成物が含むフッ素系溶剤は、フッ素樹脂に対する溶解性をさらに向上させるために、上記、含フッ素炭化水素系溶剤または含フッ素エーテル以外に、下記一般式(3)で表される含フッ素アルコールを含んでいてもよい。フッ素系溶剤の全質量に対して、好ましくは45質量%以下、より好ましくは30質量%以下である。
【0082】
R
5−OH …(3)
(式中、R
5は、炭素数1〜15の直鎖状、炭素数3〜15の分岐鎖状または炭素数3〜15の環状の炭化水素基であり、炭化水素基中の水素原子の少なくとも1個がフッ素原子で置換されている。)
含フッ素アルコールは、化学的な安定性が優れることから、前記一般式(3)のうち、水酸基に隣接する炭素にフッ素原子が置換されていないものが好ましい。
【0083】
前記一般式(3)で表される含フッ素アルコールのうち、R
5が炭素数1〜8の直鎖状、炭素数3〜10の分岐鎖状または炭素数3〜10の環状の炭化水素基であり、炭化水素基中に含まれるフッ素原子の個数が水素原子数の個数以上であるものが、塗布しやすい。
【0084】
R
5は、具体的に、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、セカンダリーブチル基、ターシャリーブチル基、1−ペンチル基、2−ペンチル基、3−ペンチル基、1−ヘキシル基、2−ヘキシル基、3−ヘキシル基、1−ヘプチル基、2−ヘプチル基、3−ヘプチル基、1−オクチル基、2−−オクチル基、3−オクチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロペンチルメチル基またはシクロヘキシルメチル基を例示することができる。これら炭化水素基中の水素原子の少なくとも1個がフッ素原子に置換されている。
【0085】
含フッ素アルコールは、フッ素樹脂に対する溶解性が優れることから、前記一般式(3)で表される化合物中のフッ素原子の個数が水素原子の個数以上であることが好ましい。
【0086】
さらに、前記一般式(3)で表される含フッ素アルコールのうち、下記一般式(7)または下記一般式(8)で表される含フッ素アルコールは化学的に安定であり、より好ましく本発明の膜形成用組成物に使用することができる。
【0087】
R
8−CH
2−OH …(7)
(式中、R
8は、炭素数1〜7の直鎖状、炭素数3〜9の分岐鎖状または炭素数3〜9の環状の含フッ素炭化水素基である。)
【0089】
(式中、R
9およびR
10はそれぞれ独立に、炭素数1〜4の直鎖状、炭素数3〜6の分岐鎖状または炭素数3〜6の環状の炭化水素基であり、炭化水素基中に含まれるフッ素原子の個数が水素原子の個数以上である。)
一般式(7)において、R
8は、具体的に、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、セカンダリーブチル基、ターシャリーブチル基、1−ペンチル基、2−ペンチル基、3−ペンチル基、1−ヘキシル基、2−ヘキシル基、3−ヘキシル基、1−ヘプチル基、2−ヘプチル基、3−ヘプチル基、2−−オクチル基、3−オクチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロペンチルメチル基またはシクロヘキシルメチル基であり、その水素原子の少なくとも1個がフッ素原子に置換されたものを例示することができる。これら含フッ素炭化水素基中に含まれるフッ素原子の個数は水素原子の個数より2以上多いことが好ましい。
【0090】
一般式(8)において、R
9およびR
10が炭素数1〜3の直鎖状であるものが合成しやすく好ましい。
【0091】
R
9およびR
10は、具体的に、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、セカンダリーブチル基、ターシャリーブチル基、2−ペンチル基、3−ペンチル基、2−ヘキシル基、3−ヘキシル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基またはシクロペンチルメチル基であり、その水素原子の少なくとも1個がフッ素原子に置換されたものを例示することができ、これら炭化水素基中に含まれるフッ素原子の個数が水素原子の個数以上である。
【0092】
含フッ素アルコールは、沸点が膜形成用組成物を塗布する際の基板温度よりも高く、好ましくは塗布温度より20℃以上、さらに好ましくは50℃以上である。含フッ素アルコールの沸点が、膜形成用組成物を塗布する際の基板温度より低いと、塗布作業中に含フッ素脂肪族アルコールが急速に揮発し、形成されるフッ素樹脂膜に十分な平坦性が得られない。また、用いられる含フッ素アルコールは、沸点が200℃以下であることが好ましく、さらに好ましくは、180℃以下であればさらに好ましい。含フッ素アルコールの沸点が200℃より高いと、膜形成用組成物を塗布形成したフッ素樹脂膜から、加熱により溶剤を蒸発除去することが難しい。
【0093】
本発明の膜形成用組成物が含むフッ素系溶剤において、前記のような沸点範囲にある含フッ素アルコールには、例えば、1,1,1、3,3,3−ヘキサフルオロ−2−プロパノール、2,2,2−トリフルオロエタノール、2,2,3,3−テトラフルオロプロパノール、2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロパノール、2,2,3,4,4,4−ヘキサフルオロブタノール、2,2,3,3,4,4,4−ヘプタフルオロブタノール、2,2,3,3,4,4,5,5−オクタフルオロペンタノール、2,2,3,3,4,4,5,5,5−ノナフルオロペンタノール、3,3,4,4,5,5,6,6,6−ノナフルオロヘキサノール、2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7−ドデカフルオロヘプタノール、2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,7−トリデカフルオロヘプタノール、3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8−トリデカフルオロオクタノール、(1,2,2,3,3,4,4,5−オクタフルオロシクロペンチル)メタノール、(1,2,2,3,3,4,4,5−オクタフルオロシクロペンチル)エタノールまたは2−(1,2,2,3,3,4,4,5−オクタフルオロシクロペンチル)プロパン−2−オールを例示することができ、これらの溶剤を2種以上混合して使用してもよい。
【0094】
これらの溶剤の中でも有機材料を浸さず、本発明の膜形成用組成物が含むフッ素樹脂を十分に溶解するものとして、2,2,2−トリフルオロエタノール、2,2,3,3−テトラフルオロプロパノール、2,2,3,4,4,4−ヘキサフルオロブタノールまたは2,2,3,3,4,4,5,5−オクタフルオロペンタノールが、本発明の膜形成用組成物において使用するのに、特に好ましい含フッ素アルコールである。
[他溶剤]
また、本発明の膜形成用組成物が含むフッ素系溶剤には、有機材料の溶解または湿潤等の影響がなければ、上記含フッ素炭化水素、含フッ素エーテル並びに含フッ素アルコール以外に、粘度調整、沸点調整およびフッ素樹脂の溶解度調整の目的で、フッ素を含有しないアルカン、エーテル、アルコール、エステル、ケトンまたは芳香族炭化水素等を加えてもよい。フッ素系溶剤を含む溶剤の全質量に対して、好ましくは20質量%以下である。
【0095】
前記フッ素系溶剤と沸点が近いことから、例えば、以下の溶剤を加えることができる。アルカンは炭素数5〜12の、直鎖状、分岐状または環状の物が好ましく、具体的には、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ウンデカン、ドデカン、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン、メチルシクロペンタンまたはメチルシクロヘキサンを例示できる。ケトンは炭素数5〜12の物が好ましく、具体的には、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、アセトン、2−ブタノン、2−ペンタノン、3−ペンタノン、3−メチル−2−ブタノン、2−ヘキサノン、2−メチル−4−ペンタノン、2−ヘプタノンまたは2−オクタノンを例示することができる。エーテルは、炭素数4〜16の、直鎖状、分岐状または環状のものが好ましく、例えば、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、ジイソブチルエーテル、ジターシャリーブチルエーテル、ジペンチルエーテル、ジイソペンチルエーテル、ジヘキシルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテルまたはトリエチレングリコールジエチルエーテルを例示することができる。アルコールとしては炭素数1〜10の直鎖状、炭素数3〜10の分岐状または炭素数3〜10の環状のアルキル基に、水酸基が1〜3個置換されたものがよく、具体的には、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、イソブタノール、ターシャリーブタノール、1−ペンタノール、2−ペンタノール、イソペンタノール、4−メチル−2−ペンタノール、1−ヘキサノール、2−ヘキサノール、エチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテルまたはジエチレングリコールモノエチルエーテルを例示することができる。エステルとしては炭素数1〜12のものが好ましく、具体的には酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、酢酸ペンチル、酢酸ヘキシル、乳酸メチル、乳酸エチル、酪酸メチル、酪酸エチル、酪酸プロピルまたはプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートを例示することができる。芳香族炭化水素としては炭素数6〜12のものが好ましく、具体的には、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、トリメチルベンゼン、クメンまたはジエチルベンゼンを例示することができる。
[本発明の膜形成用組成物に用いるフッ素系溶剤]
本発明の膜形成用組成物に用いる好ましいフッ素系溶剤として、例えば、単独溶剤としては、C
4F
9OCH
3、C
4F
9OC
2H
5、CF
3CF
2CF
2CF
2CF
2CH
2CH
2CH
3、バートレルスープリオン、またはノベック7300を例示することができ、混合溶剤としては、C
4F
9OCH
3と2,2,3,3,4,4,5,5−オクタフルオロペンタノールを質量比100:0.01〜70:30で混合した溶剤、C
4F
9OCH
3と2,2,2−トリフルオロエタノールを質量比100:0.01〜70:30で混合した溶剤、C
4F
9OCH
3と2,2,3,4,4,4−ヘキサフルオロブタノールを質量比100:0.01〜70:30で混合した溶剤、C
4F
9OCH
3と(1,2,2,3,3,4,4,5−オクタフルオロシクロペンチル)エタノールを質量比100:0.01〜70:30で混合した溶剤、C
4F
9OCH
2CH
3と2,2,3,3−テトラフルオロプロパノールを質量比100:0.01〜70:30で混合した溶剤、CF
3CF
2CF
2CF
2CF
2CH
2CH
2CH
3と2,2,2−トリフルオロエタノールを質量比、100:0.01〜70:30で混合した溶剤、CF
3CF
2CF
2CF
2CF
2CH
2CH
2CH
3と2,2,3,3,4,4,5,5−オクタフルオロペンタノールを質量比100:0.01〜70:30で混合した溶剤、CF
3CF
2CF
2CF
2CF
2CH
2CH
2CH
3と2,2,2−トリフルオロエタノールを質量比100:0.01〜70:30で混合した溶剤、CF
3CF
2CF
2CF
2CF
2CH
2CH
2CH
3と2,2,3,3,4,4,5,5-オクタフルオロペンタノールを質量比100:0.01〜70:30で混合した溶剤、CF
3CF
2CF
2CF
2CF
2CH
2CH
2CH
3と2,2,3,4,4,4−ヘキサフルオロブタノールを質量比100:0.01〜70:30で混合した溶剤、バートレルスープリオンと2,2,3,3,4,4,5,5−オクタフルオロペンタノールを質量比100:0.01〜70:30で混合した溶剤、ノベック7300と2,2,3,3−テトラフルオロプロパノールを質量比0.01〜70:30で混合した溶剤、またはノベック7300と2,2,3,3,4,4,5,5−オクタフルオロペンタノールを質量比100:0.01〜70:30で混合した溶剤を例示することができる。
3.膜形成用組成物
[組成]
本発明の膜形成用組成物に含まれるフッ素樹脂とフッ素系溶剤の組成比は、フッ素系溶剤100質量部に対してフッ素樹脂が0.1質量部以上、25質量部以下、好ましくは0.5質量部以上、20質量部以下である。フッ素樹脂が0.1質量部より少ないと形成されるフッ素樹脂膜が薄くなり有機半導体を十分に保護できない。フッ素樹脂が25質量部より多いと均一に塗布成膜することが困難になる。
本発明の膜形成用組成物に含まれるフッ素樹脂のフッ素含有率は、30質量%以上、65質量%以下であり、且つフッ素系溶剤のフッ素含有率が50質量%以上、70質量%以下であることが好ましい。フッ素含有率がこの範囲内であれば、フッ素系溶剤に溶解し易い。
【0096】
量%以上、70質量%以下、より好ましくは55質量%以上、70質量%以下である。70質量%を超えると前述のフッ素樹脂が十分溶解しなくなる。また、50質量%より少ないと、有機半導体膜上に塗布または印刷する際、有機半導体膜の表面を溶解または膨潤することがある。
[添加剤]
本発明の膜形成用組成物には、塗布対象である有機物を浸かさない程度において上記のフッ素樹脂および溶剤以外の成分を添加剤として含有させることができる。
【0097】
例えば、塗布性、レベリング性、成膜性、保存安定性または消泡性等を向上させる目的で、界面活性剤等の添加剤を配合することができる。具体的には、市販されている界面活性剤である、DIC株式会社製の商品名メガファック、品番F142D、F172、F173もしくはF183、住友スリーエム株式会社製の商品名フロラード、品番、FC−135、FC−170C、FC−430もしくはFC−431、AGCセイミケミカル株式会社製の商品名サーフロン、品番S−112、S−113、S−131、S−141もしくはS−145、または東レ・ダウコーニングシリコーン株式会社製、商品名、SH−28PA、SH−190、SH−193、SZ−6032もしくはSF−8428が挙げられる。これらの界面活性剤の配合量は、樹脂組成物中の樹脂100質量部に対して、通常、5質量部以下である。尚、メガファックはDIC株式会社のフッ素系添加剤(界面活性剤・表面改質剤)の商品名、フロラードは住友スリーエム株式会社製のフッ素系界面活性剤の商品名およびサーフロンはAGCセイミケミカル株式会社のフッ素系界面活性剤の商品名であり、各々商標登録されている。
【0098】
また、硬化剤を配合することもできる。用いる硬化剤は特に限定されず、例えば、メラミン硬化剤、尿素樹脂硬化剤、多塩基酸硬化剤、イソシアネート硬化剤またはエポキシ硬化剤を例示することができる。具体的には、イソホロンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネートもしくはジフェニルメタンジイソシアネート等のイソシアネート類、およびそのイソシアヌレート、ブロックイソシアネートもしくはビュレト体等、アルキル化メラミン、メチロールメラミン、イミノメラミン等のメラミン樹脂もしくは尿素樹脂等のアミノ化合物、またはビスフェノールA等の多価フェノールとエピクロルヒドリンとの反応で得られる2個以上のエポキシ基を有するエポキシ硬化剤を例示することができる。これらの硬化剤の配合量は、樹脂組成物中の樹脂100質量部に対して、通常、35質量部以下である。
4.有機半導体膜
本発明の膜形成用組成物を用いて加工する有機半導体膜について説明する。有機半導体膜の材料としては、公知のものを用いることができる。有機半導体としては、ペンタセン、アントラセン、テトラセン、フタロシアニン等の有機低分子、ポリアセチレン系導電性高分子、ポリパラフェニレンおよびその誘導体、ポリフェニレンビニレンおよびその誘導体等のポリフェニレン系導電性高分子、ポリピロールおよびその誘導体、ポリチオフェンおよびその誘導体、ポリフランおよびその誘導体等の複素環系導電性高分子、またはポリアニリンおよびその誘導体等のイオン性導電性高分子等の有機半導体、有機電荷移動錯体を例示することができる。
【0099】
特に、本発明の有機半導体製造方法においては、炭化水素系溶剤または芳香族溶剤をエッチング溶剤として用いたウェットエッチングにより除去可能な有機半導体材料が好ましい。そのような有機半導体材料として、アントラセン、テトラセン並びにペンタセンなどの多環縮合芳香族炭化水素、フタロシアニン等の有機低分子、ポリアセチレン系導電性高分子、ポリパラフェニレンおよびその誘導体、ポリフェニレンビニレンおよびその誘導体等のポリフェニレン系導電性高分子、ポリピロールおよびその誘導体、ポリチオフェンおよびその誘導体、ポリフランおよびその誘導体等の複素環系導電性高分子を例示することができる。本発明の有機半導体製造方法は、特に多環縮合芳香族炭化水素に好ましく適用できる。
5.有機半導体の製造方法
本発明の有機半導体素子の製造において、有機半導体膜を所望の半導体回路に微細加工する際に半導体膜を保護するため、有機半導体膜上にフッ素樹脂膜を設けることを行う。
【0100】
有機半導体素子の製造における有機半導体回路の形成は、フォトリソグラフィー法のみならず、凸版、凹版、平版、スクリーン印刷、またはインプリント法等を用いた印刷法でフッ素樹脂膜にパターンを転写した後、有機半導体膜をエッチング処理しパターン加工することが行われる。
先ず、本発明の膜形成用組成物を用い有機半導体上に形成したフッ素樹脂膜のパターン加工について説明する。
【0101】
本発明の膜形成用組成物は、基板上に形成された有機半導体膜上に湿式塗布によりフッ素樹脂膜を形成することが可能であり、フォトリソグラフィー法、インプリント法または印刷法によって、フッ素樹脂膜にパターンを形成できる。有機半導体膜上に塗布被覆し、パターン加工すれば、続く炭化水素系溶剤または芳香族系溶剤を使用したウェットエッチングによって、有機半導体膜にそのパターンを転写することが可能である。このように本発明を用いれば、有機半導体膜に微細加工を行うことが可能である。
【0102】
また、本発明の膜形成用組成物は、印刷法またはインクジェット法によって直接に有機材料上にパターンを形成することが可能であり、続く炭化水素系溶剤または芳香族系溶剤を使用したウェットエッチングによって有機材料にパターンを転写することが可能である。印刷法またはインクジェット法によって直接フッ素樹脂膜にパターンを形成する場合には、膜形成用組成物をインクとして用いる。印刷法としては、凸版印刷、凹版印刷、グラビア印刷、平板印刷、スクリーン印刷、熱転写印刷または反転オフセット印刷を例示できる。
【0103】
芳香族系溶剤をエッチャントとして使用する際、エッチング時にフッ素樹脂膜はエッチャントに不溶または難溶である必要性がある。また、フッ素樹脂膜は、エッチング後は有機半導体回路上から剥離されるか、または残される。剥離の際、フッ素樹脂膜は、有機半導体回路を劣化させないことが好ましい。有機半導体膜回路にフッ素樹脂膜を残す際は、有機半導体による回路パターンを短絡させることなきよう、絶縁膜として機能することが好ましい。
【0104】
有機半導体膜をパターン加工する際に、有機半導体回路を保護するための膜を形成する膜形成用組成物およびその膜には、(1)有機半導体膜上に膜形成が容易である、(2)有機半導体回路を劣化および短絡させずに有機半導体パターン上から除去できる、(3)有機半導体回路の電気特性に支障をおよぼさない絶縁性を有する、または(4)エッチャントである芳香族系溶剤に容易に浸され難い等のことが求められる。
【0105】
本発明の膜形成用組成物を用い形成したフッ素樹脂膜は、有機半導体の製造において、必要に応じて特定のフッ素系溶剤で溶解除去することが可能である。溶解除去する際に使用できる溶剤は、有機半導体に与える影響が小さければ、膜形成用組成物に含まれるものと同じフッ素系溶剤を用いてもよく、フッ素樹脂に対する溶解性がより大きい等の理由で別のフッ素系溶剤を使用してもよい。
【0106】
溶解除去の方法としては、本発明の膜形成用組成物を用い形成したフッ素樹脂膜を有する基板をフッ素系溶剤に浸漬する、基板を垂直もしくは傾斜させた状態でフッ素系溶剤をかけ流す、基板をスピンコーターで回転させながら剥離溶剤をかけ流す、または剥離溶剤の飽和蒸気雰囲気としたチャンバー内に基板を置く方法を例示できる。溶解除去に用いるフッ素系溶剤の質量は、フッ素樹脂膜の全質量に対して、好ましくは5倍以上、より好ましくは10倍以上である。フッ素系溶剤の使用量が少ないとフッ素樹脂膜の除去が不十分になる。また、本発明の膜形成用組成物を用い形成したフッ素樹脂膜は絶縁性を有することから、溶解除去せずに半導体素子に残置しても半導体回路の特性を損なうことはない。
【0107】
本発明の膜形成用組成物は、有機材料を溶解、膨潤すること等のない特定のフッ素系溶剤を用い、且つこれに溶解するフッ素樹脂を含有させたことを特徴とする。
【0108】
本発明の膜形成用組成物が含むフッ素樹脂は、適度なガラス転移温度を有し、加工し易く、成膜し易く、高い耐熱性を有することから、有機半導体素子の層間絶縁膜として好適に採用される。
[本発明の有機半導体素子の製造方法の一例]
図1を用い、膜形成用組成物を使用した有機半導体の製造方法を具体的に説明するが、本発明の膜形成用組成物を用いる、有機半導体の製造方法はこれに限定されるものではない。
【0109】
先ず、
図1(A)に示すように、基板1上に、有機半導体溶液を塗布または蒸着することによって、有機半導体膜からなる有機半導体膜2を形成する。
【0110】
次いで、
図1(B)に示すように、本発明の膜形成用組成物を用い、有機半導体膜2の上にフッ素樹脂膜3を形成する。
【0111】
膜形成用組成物は、ディップコート、スプレーコート、スピンコート、バーコート、アプリケーターまたはロールコーター等による塗布することができ、有機半導体膜2の上に塗布し溶剤を含む塗膜とした後、自然乾燥させてフッ素樹脂膜3を形成する。
【0112】
その後、基板1を加温し、フッ素樹脂膜3をベーキング加工することができる。ベーキングにおける加熱温度は250℃以下である。250℃以上加熱する必要はなく、より好ましい温度は、溶剤の沸点にもよるが、10℃以上、150℃以下である。10℃よりも低いと乾燥に長時間を要し、150℃よりも高いと形成されるフッ素樹脂膜3の表面の均一性が損なわれることがある。また加熱時間は30秒以上、15分以下である。30秒より短いと、フッ素樹脂膜3中に溶剤が残存すること懸念があり、15分以上に長くする必要はない。
【0113】
次いで、
図1(C)に示すように、リソグラフィ、またはインプリント、凸版印刷、凹版印刷、グラビア印刷、平板印刷、スクリーン印刷、熱転写印刷もしくは反転オフセット印刷等の印刷法、またはインクジェット法等を用いて、フッ素樹脂膜3をパターン加工する。
【0114】
リソグラフィによる、本発明の膜形成用組成物からなるフッ素樹脂膜3のパターン加工では、当該フッ素樹脂膜の上層に図示しないフォトレジスト膜を成膜する。例えば、フッ素樹脂膜3を侵さない溶剤を用いてフォトレジストを塗布する、またはドライフィルムレジストを貼り付ける方法によりフォトレジスト膜の成膜が可能である。塗布によりフォトレジスト膜を成膜する場合、フッ素樹脂膜3を侵さない炭化水素系溶剤および芳香族系溶剤を用いることが好ましい。次に、フォトレジスト膜にフォトマスクを介して露光を行いパターン加工し、溶剤を用いたウェットエッチング、反応性イオンエッチング、またはガスエッチングにてフッ素樹脂膜3および有機半導体膜2をパターン加工する。
【0115】
印刷法によるフッ素樹脂膜3のパターン加工では、フッ素樹脂膜3にパターンを印刷原版から転写する。転写の方法は、印刷原版の凹凸をフッ素樹脂膜3に押し付ける方法、印刷原版の凸部のみをフッ素樹脂膜3に押し付けフッ素樹脂膜3を除去する方法を例示することができる。印刷原版からフッ素樹脂膜3へパターンを転写する際は、フッ素樹脂膜3を加熱または溶剤の膨潤により軟化させて容易に形状変化させることが好ましい。
【0116】
インクジェット法によるフッ素樹脂膜3のパターン加工では、フッ素樹脂膜3を残したい部位にエッチング耐性を有する材料をインクジェットにより塗布し、塗布していない部位のフッ素樹脂膜3をエッチングによりパターン加工する。パターン加工の方法として、溶剤を用いたウェットエッチング、反応性イオンエッチング、またはガスエッチングを例示することができる。
【0117】
その際、基板1を加温し、パターン加工されたフッ素樹脂膜3をベーキング加工することもできる。ベーキングにおける加熱温度は250℃以下である。250℃以上加熱する必要はなく、より好ましい温度は、溶剤の沸点にもよるが、10℃以上、150℃以下である。10℃よりも低いと乾燥に長時間を要し、150℃よりも高いと形成されるフッ素樹脂膜3の表面の均一性が損なわれたることがある。また加熱時間は30秒以上、15分以下である。30秒より短いと、フッ素樹脂膜3中に溶剤が残存すること懸念があり、15分以上に長くする必要はない。パターン加工されたフッ素樹脂膜3は有機半導体膜層2に対するウェットエッチング工程においてパターン加工される部位の有機半導体膜2を保護する。
【0118】
次いで、
図1(D)に示すように、ウェットエッチングにより有機半導体膜層2にパタ
−ン2bを形成する。具体的には、基板1と有機半導体膜2、およびパターン加工された
フッ素樹脂膜3を炭化水素系溶剤もしくは芳香族系溶剤に浸漬する、または炭化水素系溶剤もしくは芳香族系溶剤をかけ流す等の方法により、パターン加工されたフッ素樹脂膜3で被覆されていない部位の有機半導体膜2を溶解除去する。こうすることによって、フッ素樹脂膜3に形成されたパターンは有機半導体膜2に転写されパターン2bが得られる。
【0119】
さらに、
図1(E)に示すように、フッ素系溶剤を使用してフッ素樹脂膜3を溶解除去することが可能である。使用する溶剤としては、例えば、膜形成用組成物が含む、フッ素系溶剤と同じ溶剤を使用することができる。溶解除去方法としては、基板1をフッ素系溶剤に浸漬する方法、基板を垂直もしくは傾斜させた状態でフッ素系溶剤をかけ流す方法、基板1をスピンコーターで回転させながらフッ素系溶剤をかけ流す方法、またはフッ素系溶剤の飽和蒸気雰囲気としたチャンバー内に基板1を置く方法を例示することができる。フッ素樹脂膜3は層間絶縁膜として機能することもできる。
6.装置の洗浄方法
フッ素樹脂膜を形成するために膜形成用組成物に含まれるフッ素樹脂は、ケトン、エーテル並びにカルボン酸エステルへ溶解するため、これらの有機溶剤を用いることでフッ素樹脂膜3の形成に用いた塗布装置の洗浄を行うことができる。洗浄方法は装置の形状や装置が置かれた環境等によって決まるが、装置を洗浄用有機溶剤に浸漬する、装置に洗浄有機溶剤をスプレーして流す、または装置に洗浄用有機溶剤をスプレーした後にふき取る等の方法を例示することができる。
7.本発明の特徴
本発明の膜形成用組成物は、有機材料を溶解、膨潤すること等のない特定のフッ素系溶剤を用い、且つこれに溶解するフッ素樹脂を含有させたことを特徴とする。
【0120】
本発明の膜形成用組成物は、有機半導体膜上に塗布した際、有機半導体膜を溶解または膨潤し浸すことがないので、有機半導体膜上に上へ湿式成膜し塗膜を形成できる。且つ当該フッ素樹脂膜は、フォトリソグラフィー、印刷またはインプリントを用いてパターン加工し、次いで有機半導体膜をウェットエッチングする際、炭化水素系溶剤または芳香族系溶剤等のエッチャントに浸されることなく有機半導体膜をパターン加工することができる。また、本発明の膜形成用組成物に含まれるフッ素系溶剤は、有機半導体膜上に塗布した際、有機半導体膜を溶解または膨潤し浸すことがないので、有機材料上へフッ素樹脂膜の湿式塗布ができる。且つ当該膜は、フォトリソグラフィー、印刷、例えばインプリント法を用いて、パターン加工して、有機半導体膜をウェットエッチングする際、炭化水素系溶剤または芳香族系溶剤等のエッチャントに浸されることなく有機半導体膜をパターン加工することができる。このように、本発明の膜形成用組成物を用いれば、基板上の有機半導体膜に微細加工し、回路パターンとすることが可能であり、有機半導体素子の製造に好適に使用できる。
【0121】
さらに、本発明の膜形成用組成物が含むフッ素樹脂は、適度なガラス転移温度を有し、加工し易く、成膜し易く、高い耐熱性を有することから、有機半導体素子の層間絶縁膜として好適に採用される。
【実施例】
【0122】
以下、本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明は以下の実施例によって、限定されるものではない。
[フッ素樹脂の合成]
本発明の実施例では、特に記載のない限り以下の方法でフッ素樹脂の合成を行った。
【0123】
反応容器として、容量50mLのガラス製ナスフラスコを使用した。所定量のアクリル酸エステル誘導体と、重合溶媒として2−ブタノン、および開始剤としてのジメチル2,2−アゾビス(2−メチルプロピオネート)(品名、V−601、和光純薬工業株式会社製)を反応容器内に計り取り、冷却管を取り付け攪拌しつつ窒素により反応容器内を置換した。その後に、80℃に温度調節された油浴で反応容器ごと6時間加熱した。加熱終了後に、ロータリーエバポレータを用いて使用した単量体全質量の1.5倍まで反応液を濃縮し、得られた濃縮液を反応に用いた単量体全質量の15倍量のヘプタンと混合し、沈殿物を得、濾過により採取した。沈殿物をオイルポンプにより減圧した乾燥機で、65℃に加熱し乾燥させフッ素樹脂を得た。
【0124】
得られたフッ素樹脂について、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を測定し、重量平均分子量Mwと分子量分散Mw/Mn(重量平均分子量Mwを数平均分子量Mnで除算したもの)を算出した。GPCには、東ソー株式会社製、機種名 HLC−8320を用い、同じく、東ソー株式会社製カラム(品名、TSKgel GMH
XL)を3本直列に繋ぎ、展開溶媒としてテトラヒドロフランを用い、検出器に屈折率差検出器を用い測定した。得られたフッ素樹脂中のフッ素含有量は、核磁気共鳴装置(型式JNM−ECA400、日本電子株式会社製)により測定したフッ素19核の核磁気共鳴スペクトルから算出した。具体的には、フッ素樹脂25mg〜35mgと内部標準としての1,4−ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン5mg〜10mgを秤量し、それらを重水素化アセトン0.5gに溶解させたものについて測定したフッ素19核の核磁気共鳴スペクトルにおけるアクリル酸エステル誘導体由来のピーク強度と内部標準由来のピーク強度の比をアクリル酸エステル誘導体由来の繰り返し単位の含量に換算した。
[フッ素樹脂合成例1]
メタクリル酸2,2,3,3−テトラフルオロプロピル5.00g(25.0mmol)、2−ブタノン10.0g、および開始剤0.575g(2.50mmol)を反応容器内に採取し、上記[フッ素樹脂の合成]に記載の方法によりラジカル重合した。その結果、以下の式(9)で表される繰り返し単位を含むフッ素樹脂1を4.90g得た。使用した単量体の質量を基準とした収率は98質量%であった。重量平均分子量Mwは11,000、分子量分散Mw/Mnは1.34であった。樹脂中のフッ素含有量は38質量%であった。
【0125】
【化14】
【0126】
[フッ素樹脂合成例2]
メタクリル酸2,2,3,3,4,4,5,5−オクタフルオロペンチル5.00g(16.7mmol)、2−ブタノン10.0g、および開始剤0.384g(1.67mmol)を反応容器内に採取し、上記[フッ素樹脂の合成]に記載の方法によりラジカル重合した。その結果、式(10)で表される繰り返し単位を含むフッ素樹脂2を4.00g得た。使用した単量体の質量を基準とした収率は80質量%であった。重量平均分子量Mwは15,000、分子量分散Mw/Mnは1.67であった。樹脂中のフッ素含有量は51質量%であった。
【0127】
【化15】
【0128】
[フッ素樹脂合成例3]
メタクリル酸2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7−ドデカフルオロヘプチル5.00g(12.5mmol)、2−ブタノン10.0g、および開始剤0.288g(1.25mmol)を反応容器内に採取し、上記[フッ素樹脂の合成]に記載の方法によりラジカル重合した。その結果、以下の式(11)で表される繰り返し単位を含むフッ素樹脂3を3.65g得た。使用した単量体の質量を基準とした収率は73質量%であった。重量平均分子量Mwは13,000、分子量分散Mw/Mnは1.49であった。樹脂中のフッ素含有量は57質量%であった。
【0129】
【化16】
【0130】
[フッ素樹脂合成例4]
メタクリル酸2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロピル5.00g(22.9mmol)、2−ブタノン10.0g、開始剤0.528g(2.29mmol)を反応容器内に採取し、上記[フッ素樹脂の合成]に記載の方法によりラジカル重合した。その結果、以下の式(12)で表される繰り返し単位を含むフッ素樹脂4を2.70g得た。使用した単量体の質量を基準とした収率は54質量%であった。重量平均分子量Mwは9,500、分子量分散Mw/Mnは1.48であった。樹脂中のフッ素含有量は44質量%であった。
【0131】
【化17】
【0132】
[フッ素樹脂合成例5]
メタクリル酸2,2,3,3,4,4,4−ヘプタフルオロブチル5.00g(18.6mmol)、2−ブタノン10.0g、および開始剤0.429g(1.86mmol)を反応容器内に採取し、上記[フッ素樹脂の合成]に記載の方法によりラジカル重合した。その結果、以下の式(13)で表される繰り返し単位を含むフッ素樹脂5を3.40g得た。使用した単量体の質量を基準とした収率は68質量%であった。重量平均分子量Mwは11,000、分子量分散Mw/Mnは1.35であった。樹脂中のフッ素含有量は50質量%であった。
【0133】
【化18】
【0134】
[フッ素樹脂合成例6]
メタクリル酸2,2,3,3,4,4,5,5,5−ノナフルオロペンチル5.00g(15.7mmol)、2−ブタノン10.0g、および開始剤0.362g(1.57mmol)を反応容器内に採取し、上記[フッ素樹脂の合成]に記載の方法によりラジカル重合した。その結果、以下の式(14)で表される繰り返し単位を含むフッ素樹脂6を3.20g得た。使用した単量体の質量を基準とした収率は64質量%であった。重量平均分子量Mwは6,400、分子量分散Mw/Mnは1.32であった。樹脂中のフッ素含有量は54質量%であった。
【0135】
【化19】
【0136】
[フッ素樹脂合成例7]
メタクリル酸3,3,4,4,5,5,6,6,6−ノナフルオロヘキシル5.00g(15.1mmol)、2−ブタノン10.0g、および開始剤0.347g(1.51mmol)を反応容器内に採取し、上記[フッ素樹脂の合成]に記載の方法によりラジカル重合した。その結果、以下の式(15)で表される繰り返し単位を含むフッ素樹脂7を3.25g得た。使用した単量体の質量を基準とした収率は65質量%であった。重量平均分子量Mwは13,000、分子量分散Mw/Mnは1.49であった。樹脂中のフッ素含有量は52質量%であった。
【0137】
【化20】
【0138】
[フッ素樹脂合成例8]
メタクリル酸3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8−トリデカフルオロオクチル5.00g(11.7mmol)、2−ブタノン10.0g、開始剤0.266g(1.17mmol)を反応容器内に採取し、上記[フッ素樹脂の合成]に記載の方法によりラジカル重合した。その結果、以下の式(16)で表される繰り返し単位を含むフッ素樹脂8を3.30g得た。使用した単量体の質量を基準とした収率は66質量%であった。重量平均分子量Mwは4,900、分子量分散Mw/Mnは1.13であった。樹脂中のフッ素含有量は57質量%であった。
【0139】
【化21】
【0140】
[フッ素樹脂合成例9]
メタクリル酸1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロイソプロピル5.00g(21.2mmol)、2−ブタノン10.0g、および開始剤0.488g(2.12mmol)を反応容器内に採取し、上記[フッ素樹脂の合成]に記載の方法によりラジカル重合した。その結果、以下の式(17)で表される繰り返し単位を含むフッ素樹脂9を1.70g得た。使用した単量体の質量を基準とした収率は34質量%であった。重量平均分子量Mwは5,000、分子量分散Mw/Mnは1.64であった。樹脂中のフッ素含有量は48質量%であった。
【0141】
【化22】
【0142】
[フッ素樹脂合成例10]
アクリル酸1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロイソプロピル10.00g(45.0mmol)、2−ブタノン10.0g、および開始剤1.037g(4.50mmol)を反応容器内に採取し、上記[フッ素樹脂の合成]に記載の方法によりラジカル重合した。その結果、以下の式(18)で表される繰り返し単位を含むフッ素樹脂10を9.00g得た。使用した単量体の質量を基準とした収率は90質量%であった。重量平均分子量Mwは29,000、分子量分散Mw/Mnは3.00であった。樹脂中のフッ素含有量は51質量%であった。
【0143】
【化23】
【0144】
[フッ素樹脂合成例11]
メタクリル酸1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロイソプロピル5.15g(21.8mmol)、アクリル酸1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロイソプロピル4.85g(21.8mmol)、2−ブタノン10.0g、および開始剤0.804g(3.49mmol)を反応容器内に採取し、上記[フッ素樹脂の合成]に記載の方法によりラジカル重合した。その結果、以下の式(19)で表される繰り返し単位を含むフッ素樹脂11を9.30g得た。使用した単量体の質量を基準とした収率は93質量%であった。重量平均分子量Mwは5,400、分子量分散Mw/Mnは1.86であった。樹脂中のフッ素含有量は50質量%であった。
【0145】
【化24】
【0146】
[フッ素樹脂合成例12]
メタクリル酸1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロイソプロピル3.97g(16.8mmol)、メタクリル酸ブチル1.03g(7.24mmol)、2−ブタノン10.0g、および開始剤0.111g(0.482mmol)を反応容器内に採取し、上記[フッ素樹脂の合成]に記載の方法によりラジカル重合した。その結果、以下の式(20)で表される繰り返し単位を含むフッ素樹脂12を3.47g得た。使用した単量体の質量を基準とした収率は69質量%であった。重量平均分子量Mwは6,600、分子量分散Mw/Mnは1.47であった。樹脂中のフッ素含有量は38質量%であった。
【0147】
【化25】
【0148】
[フッ素樹脂合成例13]
メタクリル酸1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロイソプロピル3.88g(16.4mmol)、メタクリル酸2−エトキシエチル1.12g(7.08mmol)、2−ブタノン10.0g、および開始剤0.115g(0.499mmol)を反応容器内に採取し、上記[フッ素樹脂の合成]に記載の方法によりラジカル重合した。その結果、以下の式(21)で表される繰り返し単位を含むフッ素樹脂13を3.91g得た。使用した単量体の質量を基準とした収率は78質量%であった。重量平均分子量Mwは16,000、分子量分散Mw/Mnは1.65であった。樹脂中のフッ素含有量は38質量%であった。
【0149】
【化26】
【0150】
[比較のための樹脂合成例1]
メタクリル酸n−ブチル5.00g(35.2mmol)、2−ブタノン10.00g、および開始剤0.162g(0.704mmol)を反応容器内に採取し、上記[フッ素樹脂の合成]に記載の方法によりラジカル重合した。その結果、以下の式(22)で表される繰り返し単位を含むフ樹脂14を0.88g得た。重量平均分子量Mwは16,000、分子量分散Mw/Mnは1.48であった。使用した単量体の質量を基準とした収率は18質量%であった。
【0151】
【化27】
【0152】
[比較のための樹脂合成例2]
メタクリル酸2−エトキシエチル10.00g(63.2mmol)、2−ブタノン10.00g、および開始剤0.225g(0.977mmol)を反応容器内に採取し、上記[フッ素樹脂の合成]に記載の方法によりラジカル重合した。その結果、以下の式(23)で表される繰り返し単位を含む樹脂15を6.21g得た。重量平均分子量Mwは8,000、分子量分散Mw/Mnは1.45であった。使用した単量体の質量を基準とした収率は62質量%であった。
【0153】
【化28】
【0154】
[フッ素樹脂のフッ素系溶剤への溶解性評価]
前記フッ素樹脂1〜13と、比較例のためのフッ素原子を含まない樹脂14および樹脂15とシグマアルドリッチジャパン株式会社より購入したポリ(メチルメタクリレート)(以下、PMMAと呼ぶことがある。ポリスチレン換算重量平均分子量15,000)について、フッ素系溶剤への溶解性を評価した。
<評価方法>
各溶剤へ溶質としてフッ素樹脂を10質量%となるように加えて室温で混合し、固形物析出および懸濁なく溶解しているか、固形物析出および懸濁があり不溶解分があるかを目視にて確認した。
<評価結果>
評価結果を表4〜19に示す。表4〜表16に当発明の範疇に属するフッ素樹脂1〜13の各種フッ素系溶剤への溶解性評価を示す。表17に比較のためのフッ素原子を含まない樹脂14の溶解性評価(比較例1〜4)を示す。表18に比較のためのフッ素原子を含まない樹脂15の溶解性評価(比較例5〜8)および表19にPMMAの溶解性評価(比較例9〜11)を示す。
【0155】
表4〜16に示すように、フッ素樹脂1〜13は、表4〜16中に記載のフッ素系溶剤に溶解した。一方、表17〜18に示すように、フッ素原子を含まない樹脂14は、表17中に記載のフッ素系溶剤に溶解せず、フッ素原子を含まない樹脂15は、表18中に記載のフッ素系溶剤に溶解しなかった。PMMAは、表19中に記載のフッ素系溶剤に溶解しない。尚、表中のノベックは住友スリーエム株式会社製のハイドロフルオロエーテル(HFE)の商品名、バートレルスープリオンは三井・デュポンフロロケミカル株式会社の商品名であり、ノベックおよびバートレルは商標登録されている。
【0156】
【表4】
【0157】
【表5】
【0158】
【表6】
【0159】
【表7】
【0160】
【表8】
【0161】
【表9】
【0162】
【表10】
【0163】
【表11】
【0164】
【表12】
【0165】
【表13】
【0166】
【表14】
【0167】
【表15】
【0168】
【表16】
【0169】
【表17】
【0170】
【表18】
【0171】
【表19】
【0172】
[フッ素樹脂膜の洗浄性評価]
合成例1〜13で得られたフッ素樹脂1〜13および溶剤を含むフッ素樹脂膜について、フッ素を含有しない洗浄用溶剤として2−ブタノン、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートおよび酢酸エチルの3種を用いて、洗浄性評価を行った(実施例60〜72)。
<評価方法>
膜形成用組成物の溶剤としてはノベック7300とバートレルスープリオンと2,2,3,3,4,4,5,5−オクタフルオロペンタノールを質量比2:2:1で混合したものを用いた。膜形成用組成物の樹脂濃度は10質量%とした。具体的な評価方法としては、フッ素樹脂1〜13を含む各々の膜形成組成物をシリコン基板に塗布しフッ素樹脂膜を形成した後に洗浄溶剤に浸し、30秒後に取り上げてエアブローにより乾燥させ、残膜のありなしを光干渉膜厚計(ドイツSentech社製、機種名、FTP500)により評価し、残膜がなければ洗浄可能とした。
<評価結果>
評価結果を表20に示す。表20に示すように、フッ素樹脂1〜13全てについて残膜がなく、3種のフッ素を含有しない洗浄用溶剤で洗浄可能であった。
【0173】
【表20】
【0174】
[フッ素樹脂のウェットエッチング溶剤への耐性評価]
フッ素樹脂1〜13を含むフッ素樹脂膜と比較のためのフッ素原子を含まない樹脂14、15およびPMMAのウェットエッチング溶剤への耐性を評価した。
<評価方法>
具体的には、シリコン基板(直径10cm、自然酸化膜が表面に形成されたもの)上にフッ素樹脂1〜13を含む本発明の膜形成用組成物と比較のためのフッ素原子を含まない樹脂14、15およびPMMAそれぞれ塗布し形成したフッ素樹脂膜をウェットエッチング溶剤に5分間基板ごと浸漬し、浸漬後の膜厚が浸漬前の膜厚の30%以上であれば耐性を有していると判断した。シリコン基板上へのフッ素樹脂膜形成は、フッ素樹脂とフッ素系溶剤の組み合わせで調製した本発明の膜形成用組成物(濃度3質量%)をシリコン基板上にスピンコート法により塗布してから130℃のホットプレート上にて3分間加熱乾燥させることで行った。溶剤としてはC
4F
9OCH
2CH
3とバートレルスープリオンと2,2,3,3,4,4,5,5−オクタフルオロペンタノールを質量比4:4:2で混合したものを用いた。シリコン基板上へのフッ素を含まない樹脂の膜形成は、酢酸ブチルを溶剤として調製した膜形成用組成物(樹脂濃度3質量%)をシリコン基板上にスピンコート法により塗布してから130℃のホットプレート上にて3分間加熱乾燥させることで行った。フッ素樹脂膜の厚さは光干渉膜厚計(ドイツSentech社製、機種名、FTP500)により測定した。フッ素樹脂膜の厚さが150nm以上、300nm以下になるように溶液濃度およびスピンコート条件を調整した。ウェットエッチング溶剤としてはベンゼンとトルエン、およびキシレンの3種を用いた。
<評価結果>
評価の結果、フッ素樹脂1〜13を含むフッ素樹脂膜は全て前記3種のウェットエッチング溶剤に対して耐性を有していた。一方で、比較のためのフッ素原子を含まない樹脂14、15およびPMMAを含む膜は耐性を有していなかった。
[膜の絶縁性評価]
<評価方法>
フッ素樹脂1〜13の電気絶縁性を評価した。具体的には、金属基板(直径7.5cm、SUS316製)上に、本発明の膜形成用組成物を塗布し形成したフッ素樹脂1〜13を含むフッ素樹脂膜の表面に金電極(直径4cmの円形)をスパッタリングにより作製し、基板と電極間に電圧をかけて絶縁破壊が起こるかどうかを評価した。金属基板上へのフッ素樹脂膜の形成は、フッ素樹脂1〜13とフッ素系溶剤の組み合わせで調製した本発明の膜形成用組成物(濃度3質量%)をシリコン基板上にスピンコート法により塗布してから130℃のホットプレート上にて3分間加熱乾燥させることで行った。溶剤としてはC
4F
9OCH
2CH
3とバートレルスープリオンと2,2,3,3,4,4,5,5−オクタフルオロペンタノールを質量比4:4:2で混合したものを用いた。フッ素樹脂膜の厚さが150nm以上、300nm以下になるように膜形成用組成物の濃度およびスピンコート条件を調整した。試験電圧は1.5kV/mmとなるようにフッ素樹脂膜の厚さを元に設定した。
<評価結果>
評価の結果、全てのフッ素樹脂について試験電圧での絶縁破壊は観測されず、絶縁性を有していることが示された。
[有機半導体膜上への本発明の膜形成用組成物の塗布]
フッ素樹脂1〜13の有機半導体膜上への塗れ性を評価した。
<評価方法>
図1に示すように、直径10cmのシリコン基板上に有機半導体膜2を形成し、有機半導体膜2の上に本発明の膜形成用組成物を用いてフッ素樹脂膜3を形成した。ついで基板、断面を光学顕微鏡で観察した。有機半導体膜2とフッ素樹脂膜3が層をなしていることが確認できれば、塗れ性よく塗布可能である。有機半導体膜2を形成する材料には、芳香族炭化水素溶剤に可溶な有機半導体材料の例として、有機低分子の多環芳香族炭化水素であるアントラセンを用いた。
【0175】
具体的には、有機半導体膜2の形成は、濃度0.10質量%のアントラセンのトルエン溶液を調製し、シリコン基板上へキャストして室温で乾燥させることで行い、厚さが100nmの有機半導体膜2としてのアントラセン膜2を得た。フッ素樹脂膜3の形成は、フッ素樹脂1〜4を用い、各々、フッ素系溶剤としてノベック7300と2,2,3,3,4,4,5,5−オクタフルオロペンタノールの質量比7:3の混合溶剤で濃度3質量%に調製し、上記アントラセン膜2を形成済シリコン基板上にスピンコート法により塗布して室温で10分間乾燥させて行った。
<評価結果>
評価の結果、形成したフッ素樹脂1〜13のフッ素樹脂膜3の全てについてアントラセン膜2とフッ素樹脂膜3が層をなしていることが確認され、塗布可能であった。
[本発明のフッ素樹脂膜による有機半導体膜の保護]
フッ素樹脂1〜13のフッ素樹脂膜3が有機半導体膜2としてのアントラセン膜2上からの除去可能かを評価した。有機半導体膜2を形成する材料には、芳香族炭化水素溶剤に可溶な有機半導体材料の例として、有機低分子の多環芳香族炭化水素であるアントラセンを用いた。
<評価方法>
具体的には、前記シリコン基板上にアントラセン膜2を形成し、この上に本発明の膜形成用組成物を用いてフッ素樹脂膜3を形成した。このようにアントラセン膜2と本発明の膜形成用組成物によるフッ素樹脂膜3を積層したシリコン基板を、トルエンに30秒間浸漬した。ついで本シリコン基板を、フッ素樹脂膜3を溶解除去するためのフッ素系溶剤に60秒浸漬した。
【0176】
フッ素樹脂膜3のフッ素系溶剤による溶解除去後に、アントラセン膜2がシリコン基板上に存在し、その厚さが10%以上変化しなければ、トルエンからフッ素樹脂膜3によりアントラセン膜2が保護され、且つフッ素系溶剤が有機半導体膜に影響することなくフッ素樹脂膜3が除去できると判断した。
【0177】
具体的には、フッ素樹脂膜3の形成は、フッ素樹脂1〜13を用い、各々、フッ素系溶剤としてノベック7300と2,2,3,3,4,4,5,5−オクタフルオロペンタノールの質量比7:3の混合溶剤で濃度3質量%に調製し、上記アントラセン膜形成済シリコン基板上にスピンコート法により塗布して室温で10分間乾燥させて行った。
<評価結果>
トルエン30秒浸漬後のフッ素樹脂膜3の溶解除去にフッ素系溶剤であるノベック7200を用いたところ、全てのアントラセン膜2の厚さに10%以上の変化がなく、アントラセン膜2の保護とフッ素樹脂膜3の剥離が可能であった。