(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記特許文献のようにインバータ部と圧縮機のケーシングとを近接して配置する場合には、インバータ部が有するスイッチング素子とケーシングとの絶縁を担保する必要がある。しかしながら、前記特許文献では、スイッチング素子とケーシングとの絶縁についての工夫は特には開示されていない。
【0005】
本発明は前記の問題に着目してなされたものであり、電力変換装置と圧縮機を有した圧縮機システムにおいて、電力変換装置が有するパワーモジュールと、圧縮機のケーシングとの絶縁性を担保できるようにするとことを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記の課題を解決するため、第1の態様は、
圧縮機(40)と、
スイッチング素子(13a)が封入されたパワーモジュール(50)と、を備え、
前記パワーモジュール(50)は、所定の面が前記スイッチング素子(13a)を放熱させる放熱面(52)として構成されるとともに、他の所定の面が、複数のリードピン(51)が並ぶピン配置面(56)として構成され、前記放熱面(52)が、前記圧縮機(40)のケーシング(41)に向いて配置され、
前記ピン配置面(56)には、並んだ前記リードピン(51)を境界として前記放熱面(52)の側に、前記リードピン(51)の列に沿いつつ該ピン配置面(56)から突出する突部(53)が一体的に設けられ
、
前記パワーモジュール(50)は、該パワーモジュール(50)の熱を前記圧縮機(40)に伝える熱伝導部材(60)を介して、前記圧縮機(40)のケーシング(41)に熱的に接続され、
前記熱伝導部材(60)は、前記放熱面(52)の一部分と密着していることを特徴とする。
【0007】
この構成では、放熱面(52)とリードピン(51)との間において、突部(53)が沿面絶縁距離の一部を構成する。
【0008】
また、この構成では、熱伝導部材(60)を介してパワーモジュール(50)がケーシング(41)に放熱する。
【0009】
また、第2の態様は、第1の態様において、
前記リードピン(51)は、前記ピン配置面(56)から張り出した張出部分(51a)を有し、
前記突部(53)は、前記リードピン(51)の張り出し量よりも高く突出していることを特徴とする。
【0010】
この構成では、突部(53)によって、リードピン(51)と圧縮機(40)のケーシング(41)とを結ぶ直線経路(P1)が遮られる。
【0011】
また、第3の態様は、第1又は第2の態様において、
前記パワーモジュール(50)は、前記圧縮機(40)のケーシング(41)において該圧縮機(40)の吐出ガスに曝される部分に対応した、該ケーシング(41)の外面(F)に放熱するように、該ケーシング(41)に熱的に接続されていることを特徴とする。
【0012】
この構成では、圧縮機(40)において結露の可能性がない部位にパワーモジュール(50)が放熱する。
【0013】
また、第4の態様は、第1から第3の態様の何れかにおいて、
前記スイッチング素子(13a)は、シリコンカーバイドを主材料とした半導体素子を有することを特徴とする。
【0014】
この構成では、パワーモジュール(50)を比較的高温で動作させることが可能になる
。
【発明の効果】
【0015】
第1の態様によれば、電力変換装置が有するパワーモジュールと、圧縮機のケーシングとの絶縁性を担保することが可能になる。
【0016】
また、第2の態様によれば、より確実にパワーモジュールと圧縮機のケーシングとの絶縁性を担保することが可能になる。
【0017】
また、第3の態様によれば、パワーモジュールの結露が防止される。
【0018】
また、第4の態様によれば、圧縮機の高温部で、パワーモジュールを冷却することが可能になる。
【0019】
また、第
1の態様によれば、空間絶縁距離を増大させることが可能になる。また、パワーモジュールと圧縮機のケーシングとを容易に熱的に接続することが可能になる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。なお、以下の実施形態は、本質的に好ましい例示であって、本発明、その適用物、あるいはその用途の範囲を制限することを意図するものではない。
【0022】
《発明の実施形態》
図1は、本発明の実施形態の圧縮機システムの縦断面図である。この圧縮機システム(1)は、例えば、空気調和装置の冷媒回路(図示は省略)に用いる。圧縮機システム(1)では、圧縮機(40)が電力変換装置(10)から電力供給されている。
【0023】
図2は、電力変換装置(10)の構成を示すブロック図である。電力変換装置(10)は、
図2に示すように、コンバータ回路(11)、コンデンサ(12)、インバータ回路(13)、及びPWM制御部(14)を備えている。この電力変換装置(10)は、単相の交流電源(30)から供給された交流電力を所定の周波数の交流電力に変換して、モータ(20)(後述)に供給する。
【0024】
〈コンバータ回路、コンデンサ〉
コンバータ回路(11)は、交流電源(30)に接続され、交流電源(30)からの交流を直流に整流する。この例では、コンバータ回路(11)は、4つのダイオード(11a)がブリッジ状に結線されたダイオードブリッジ回路である。
【0025】
コンデンサ(12)は、コンバータ回路(11)の正及び負の出力ノードの間に接続され、該コンデンサ(12)の両端に生じた直流電圧がインバータ回路(13)の入力ノードに印可されている。なお、この例では、コンデンサ(12)は、コンバータ回路(11)の正極側の出力ノードには、リアクトル(L)を介して接続されている。
【0026】
このコンデンサ(12)は、インバータ回路(13)のスイッチング素子(後述)がスイッチング動作する際に生じるリプル電圧(電圧変動)のみを平滑化可能な静電容量を有している。すなわち、コンデンサ(12)は、コンバータ回路(11)によって整流された電圧(電源電圧に応じて変動する電圧)を平滑化するような静電容量を有さない小容量のコンデンサである。
【0027】
このように比較的小容量のコンデンサ(12)を採用すると、直流電圧が電源周波数の倍数で脈動して電圧利用率が下がるので、電力変換装置(10)とモータ(20)とを繋ぐ配線の電流容量を上げなければいけないという課題がある。それに対し本実施形態では、後に詳述するように、電力変換装置(10)と圧縮機(40)とを一体化(すなわち両者を近接)させることで、配線の電流容量を上げずにモータ(20)への給電を実現している。本実施形態では、この一体化を考慮して、コンデンサ(12)には、セラミックコンデンサを採用した。この一体化の実現(電力変換装置(10)と圧縮機(40)との近接配置)には、圧縮機(40)近傍の高温環境に耐えうるセラミックコンデンサが適しているからである。
【0028】
〈インバータ回路〉
インバータ回路(13)は、コンバータ回路(11)の出力をスイッチングして三相交流(U,V,W)に変換しモータ(20)に供給する。本実施形態のインバータ回路(13)は、複数のスイッチング素子(13a)がブリッジ結線されて構成され、入力ノードがコンデンサ(12)に接続されている。すなわち、インバータ回路(13)には直流電圧が供給されている。このインバータ回路(13)は、三相交流をモータ(20)に出力するために、6個のスイッチング素子(13a)を備えている。
【0029】
詳しくは、インバータ回路(13)は、2つのスイッチング素子(13a)を互いに直列接続した3つのスイッチングレグを備え、各スイッチングレグにおける上アームのスイッチング素子(13a)と下アームのスイッチング素子(13a)との中点が、それぞれモータ(20)の各相のコイル(後述)に接続されている。なお、各スイッチング素子(13a)には、還流ダイオード(13b)が逆並列接続されている。そして、インバータ回路(13)は、これらのスイッチング素子(13a)のオンオフ動作によって、コンバータ回路(11)から入力された直流電圧をスイッチングして三相交流電圧に変換し、モータ(20)へ供給する。このオンオフ動作の制御はPWM制御部(14)が行う。
【0030】
インバータ回路(13)を構成するスイッチング素子(13a)は、この例では、シリコンカーバイド(SiC)を主材料とした半導体素子によって構成されている。そして、これらのスイッチング素子(13a)は、絶縁性のある樹脂を用いた、いわゆるデュアルインラインパッケージに封入されて、1つのパワーモジュール(50)として構成されている。
図3に、パワーモジュール(50)の斜視図を示す。このパワーモジュール(50)の一面(
図3では上面)は、内部のスイッチング素子(13a)から放熱させる放熱面(52)として機能する。
【0031】
また、
図3に示すように、パワーモジュール(50)の2つの側面には、リードピン(51)の列が、それぞれ、設けられている。なお、以下では、パワーモジュール(50)において、複数のリードピン(51)が並んでいる面をピン配置面(56)と呼ぶことにする。
図4に、ピン配置面(56)の配列方向に沿ってパワーモジュール(50)を見た図(正面図と呼ぶ)を示す。
図4に示すように、各ピン配置面(56)のリードピン(51)は、ピン配置面(56)から張り出した張出部分(51a)を有している。これらのリードピン(51)は、後述する配線基板(80)にハンダによって電気的に接続される。
【0032】
そして、これらのピン配置面(56)には、リードピン(51)の列を境界として放熱面(52)の側に、リードピン(51)の列に沿いつつ該ピン配置面(56)から突出する突部(53)が一体的に設けられている。この例では、リードピン(51)が2列、すなわちピン配置面(56)が2面あるので、突部(53)も2つ設けられている。これら突部(53)のピン配置面(56)からの高さ(H)は、リードピン(51)の張り出し量(h)よりも高い。すなわち、突部(53)は、リードピン(51)の張り出し量(h)よりも高く突出している(
図4参照)。
【0033】
〈圧縮機の構成〉
圧縮機(40)は、
図1に示すように、中空で密閉型のケーシング(41)を備えている。ケーシング(41)は、例えば鉄等の金属材料で構成されている。また、ケーシング(41)の下側寄り(
図1における下側。以下同様)には、吸入管(42)が接続され、天板部に吐出管(43)が接続されている。吐出管(43)は、天板部を上下に貫通しており、その下端部がケーシング(41)の内部空間に開口している。
【0034】
ケーシング(41)内には、モータ(20)と圧縮機構(44)とが収容されている。モータ(20)は、ケーシング(41)内の上部寄りの空間に配置されている。この例では、モータ(20)には、IPM(Interior Permanent Magnet)モータを採用している。
【0035】
一方、圧縮機構(44)は、ケーシング(41)内の下部寄りの空間に配置されている。本実施形態では、圧縮機構(44)には、ロータリー型の圧縮機を採用している。圧縮機構(44)は、モータ(20)の駆動軸(21)によって回転駆動されて、吸入管(42)から冷媒を吸入し、それを圧縮した後に、ケーシング(41)内に吐出する。つまり、本実施形態の圧縮機(40)は、ケーシング(41)の内部空間が高圧冷媒で満たされる、いわゆる高圧ドーム型の圧縮機である。圧縮機構(44)から吐出された冷媒は、吐出管(43)から吐出され、圧縮機(40)が接続されている冷媒回路(図示を省略)を流れる。
【0036】
そして、この例では、
図1に示すように、電力変換装置(10)は、電装品箱(70)に収容され、電装品箱(70)は、圧縮機(40)の側部に取り付けられている。すなわち、この例では、電力変換装置(10)は、圧縮機(40)に一体化されている。
【0037】
〈電力変換装置と圧縮機との一体化〉
図5は、圧縮機システム(1)における電力変換装置(10)付近の横断面を模式的に示す。
図5に示すように、電力変換装置(10)は、配線基板(80)に実装されている。具体的に、配線基板(80)には、パワーモジュール(50)、コンデンサ(12)、リアクトル(L)、PWM制御部(14)が実装されている。また、配線基板(80)からは、配線(81)が引き出されている。この配線(81)は、インバータ回路(13)が出力した交流電力をモータ(20)に供給するものであり、ケーシング(41)の外面(F)に設けられたコネクタ(45)に接続されている。ケーシング(41)内では、コネクタ(45)とモータ(20)とが配線(図示を省略)で接続されている。
【0038】
配線基板(80)は、スペーサ(図示は省略)などを用いて電装品箱(70)の底面に固定されている。この電装品箱(70)は、一面に開口(72)が設けられた箱状の部材であり、その開口(72)からはパワーモジュール(50)の放熱面(52)が覗いている。そして、電装品箱(70)は、その開口(72)が圧縮機(40)のケーシング(41)の外面(F)に向く向きで、ケーシング(41)の外面(F)にブラケット(71)によって固定されている。その際、パワーモジュール(50)の放熱面(52)は熱伝導部材(60)に密着させられている。この熱伝導部材(60)は、パワーモジュール(50)の熱(すなわちスイッチング素子(13a)の熱)を圧縮機(40)に伝えるものであり、ケーシング(41)の外面(F)に密着して固定されている。熱伝導部材(60)は、例えば、銅やアルミニウムなどの伝熱性に優れた材料で構成されている。
【0039】
熱伝導部材(60)を設ける位置は、本実施形態では、圧縮機(40)が吐出した冷媒(吐出ガス)の温度となる部分(以下、説明の便宜のため高温部と呼ぶ)を選択している。この例では、ケーシング(41)の内面で圧縮機(40)の吐出ガスに曝される部分に対応した、該ケーシング(41)の外面(F)に設けられている。これを
図1で見ると、この圧縮機システム(1)では、ケーシング(41)内部のモータ(20)よりも上方の空間(S)に熱伝導部材(60)が面するように、ケーシング(41)の外面(F)に該熱伝導部材(60)が固定されている。この空間(S)内は、圧縮機構(44)が吐出した冷媒で満たされている。つまり、熱伝導部材(60)は、圧縮機(40)で最も高温になる部位に取り付けられているのである。換言すると、本実施形態では、パワーモジュール(50)は、前記圧縮機(40)のケーシング(41)において該圧縮機(40)の吐出ガスに曝される部分に対応した、該ケーシング(41)の外面(F)に放熱するように、該ケーシング(41)に熱的に接続されているのである。なお、一般的な空気調和装置では、圧縮機(40)の吐出ガスの温度(吐出温度)は、125℃程度になる。
【0040】
一方、SiCを主材料として構成されたスイッチング素子(13a)は、吐出ガスよりも高温(例えば200℃)でも動作可能である。つまり、圧縮機(40)において最も高温な部位でもパワーモジュール(50)を冷却することができるのである。しかも、圧縮機(40)の高温部は、結露の心配がなく、パワーモジュール(50)のような電子部品を密着させても結露による不具合発生の懸念がない。
【0041】
〈圧縮機システムにおける絶縁性〉
パワーモジュール(50)と圧縮機(40)のケーシング(41)との絶縁性は、絶縁距離で評価でき、その絶縁距離には、いわゆる空間絶縁距離と沿面絶縁距離との2種類がある。
【0042】
図6は、圧縮機システム(1)における絶縁距離を説明する図である。本実施形態では、リードピン(51)(詳しくは張出部分(51a))とケーシング(41)の外面(F)とを直線的に結ぶ経路(P1)は、パワーモジュール(50)の突部(53)によって遮られている。そのため、本実施形態における空間絶縁距離(D1)は、無限大と考えられる。
【0043】
一方、沿面絶縁距離(D2)は、パワーモジュール(50)の表面を伝って、リードピン(51)から伝熱伝導部材(60)に至る最短経路(P0)の長さである。
図6では、最短経路(P0)を太い実線で示してある。この実施形態では、突部(53)も沿面絶縁距離(D2)を構成している。詳しくは、圧縮機システム(1)では、
図6に示すように、パワーモジュール(50)のピン配置面(56)において、リードピン(51)の付け根から突部(53)に至るまでの経路が沿面絶縁距離(D2)の一部を構成する。また、パワーモジュール(50)では、突部(53)の表面も沿面絶縁距離(D2)の一部を構成する。つまり、本実施形態では、例えば、本実施形態のような突部(53)を有していないもの(説明の便宜のため従来例と呼ぶ)の沿面絶縁距離と比べ、突部(53)の表面に構成された経路分を余分の沿面絶縁距離として確保できる。なお、この例では、熱伝導部材(60)は、放熱面(52)の全面には密着しておらず、リードピン(51)と熱伝導部材(60)とをパワーモジュール(50)の表面伝いに結ぶ最短経路(P0)は放熱面(52)を通過している。そのため、放熱面(52)の一部も沿面絶縁距離(D2)の一部を構成する。
【0044】
〈本実施形態における効果〉
以上の通り、本実施形態によれば、従来例よりも絶縁距離をより長くすることが可能になる。したがって、電力変換装置(10)と圧縮機(40)を有した圧縮機システム(1)において、電力変換装置(10)が有するパワーモジュール(50)と、圧縮機(40)のケーシング(41)との絶縁性を担保することが可能になる。
【0045】
《その他の実施形態》
なお、突部(53)の高さ(H)は、リードピン(51)の張り出し量(h)よりも低くてもよい。この場合は、空間絶縁距離は上記のように無限大にはならないものの、例えば熱伝導部材(60)の厚さを調整することなどによって、十分な空間絶縁距離を確保することが可能である。
【0046】
また、パワーモジュール(50)に封入したスイッチング素子(13a)の数は例示であり、前記の例には限定されない。
【0047】
また、スイッチング素子(13a)の主材料として採用したシリコンカーバイドも例示であり、その他に例えばGaN、ダイヤモンドといったワイドバンドギャップ半導体を採用することが考えられる。
【0048】
また、熱伝導部材(60)は、必須ではない。