特許第6281636号(P6281636)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6281636
(24)【登録日】2018年2月2日
(45)【発行日】2018年2月21日
(54)【発明の名称】ゴム−金属積層ガスケット素材
(51)【国際特許分類】
   F16J 15/08 20060101AFI20180208BHJP
   C09K 3/10 20060101ALI20180208BHJP
   C08J 7/00 20060101ALI20180208BHJP
   C23C 16/26 20060101ALI20180208BHJP
   C23C 16/50 20060101ALI20180208BHJP
【FI】
   F16J15/08 Q
   C09K3/10 M
   C09K3/10 Z
   C08J7/00 306
   C23C16/26
   C23C16/50
【請求項の数】6
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2016-513759(P2016-513759)
(86)(22)【出願日】2015年4月10日
(86)【国際出願番号】JP2015061239
(87)【国際公開番号】WO2015159818
(87)【国際公開日】20151022
【審査請求日】2016年10月7日
(31)【優先権主張番号】特願2014-84274(P2014-84274)
(32)【優先日】2014年4月16日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004385
【氏名又は名称】NOK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100066005
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 俊夫
(74)【代理人】
【識別番号】100114351
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 和子
(72)【発明者】
【氏名】古賀 晶子
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 昭寛
【審査官】 山田 康孝
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−047479(JP,A)
【文献】 特開平02−029484(JP,A)
【文献】 特開平01−252686(JP,A)
【文献】 特開2000−006308(JP,A)
【文献】 特開2008−081239(JP,A)
【文献】 特開平10−053870(JP,A)
【文献】 特開2009−084453(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16J 15/08
C09K 3/10
C08J 7/00
C23C 16/26
C23C 16/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ素ゴムまたはニトリルゴムを金属板に積層せしめたゴム-金属積層ガスケット素材のゴム層外表面に、不飽和炭化水素ガスを用いて高周波電源から出力300W以上の高周波電力を供給するプラズマCVD法によって、シリコンウェハ上でのナノインデンテーション硬さが10GPa以上で、かつ膜厚200nm以上である非晶質炭素膜を形成させたゴム-金属積層ガスケット素材。
【請求項2】
不飽和炭化水素ガスが、アセチレンガス、エチレンガスまたはプロピレンガスである請求項1記載のゴム-金属積層ガスケット素材。
【請求項3】
ゴム層と金属板との間に接着剤層を有する請求項1または2記載のゴム-金属積層ガスケット素材。
【請求項4】
ゴム層が接着剤成分を含有している請求項1または2記載のゴム-金属積層ガスケット素材。
【請求項5】
エンジンのシリンダーヘッドガスケットとして用いられる請求項1または2記載のゴム-金属積層ガスケット素材。
【請求項6】
請求項5記載のゴム-金属積層ガスケット素材よりなるエンジンのシリンダーヘッドガスケット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム-金属積層ガスケット素材に関する。さらに詳しくは、例えばシリンダーヘッドガスケットなどとして好適に用いられるゴム-金属積層ガスケット素材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、エンジンのシリンダーヘッドガスケットにはゴム金属積層板が用いられている。ここで、ゴム金属積層板としては、金属板上にゴム組成物をコーティングして積層したものが用いられているが、かかるゴム表面上に何ら表面処理が施されていないものを用いた場合には、常温においても耐摩耗性が悪く、特にシリンダーヘッドガスケットとして使用した場合、摩滅して漏れが発生する可能性がある。これに対して、本出願人は先に、フッ素ゴム表面を液状ポリブタジエンの水酸基含有物、その硬化剤としてのポリブタジエンイソシアネート基含有物およびポリオレフィン樹脂有機溶媒分散液よりなる表面処理剤で被覆することを提案している(特許文献1)。この場合には、常温下における耐摩耗性は良好ではあるものの、熱による老化後は耐摩耗性が低下する傾向にあり、高温環境下で使用されるガスケット用途へ適用するためには、さらなる機能の向上が期待されている。
【0003】
特許文献2には、自動車用シール材の基体の有機材料からなる膜を形成すべき面に、耐摩耗性、潤滑性のあるDLC(Diamond like carbon)膜をプラズマCVD法により形成したものが開示されているが、DLC膜形成の前処理としてフッ素終端処理または水素終端処理することが必要とされ、これによって炭素膜とシール材基体との密着性が向上するとされている。
【0004】
また、特許文献3にも、高分子基材表面に密着性にすぐれたDLC膜を形成する技術として、高分子基材とDLC膜との間に炭素中間層膜を形成させることが提案され、かかる中間層膜を形成しない場合に、DLC膜が剥離してしまうことが比較例1として示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3,316,993号公報
【特許文献2】特許第3,637,912号公報
【特許文献3】特開2005−2377号公報
【特許文献4】特開2000−272045号公報
【特許文献5】特開2004−76699号公報
【特許文献6】特開2004−76911号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、フッ素ゴムまたはニトリルゴムを金属板に積層せしめたゴム-金属積層ガスケット素材において、高温使用下におけるシール相手面との摩擦による摩耗、摩滅が低減されたものを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる本発明の目的は、フッ素ゴムまたはニトリルゴムを金属板に積層せしめたゴム-金属積層ガスケット素材のゴム層外表面に、不飽和炭化水素ガスを用いて高周波電源から出力300W以上の高周波電力を供給するプラズマCVD法によって、シリコンウェハ上でのナノインデンテーション硬さが10GPa以上、好ましくは15GPa以上で、かつ膜厚200nm以上、好ましくは400nm以上である非晶質炭素膜を形成させたゴム-金属積層ガスケット素材によって達成される。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係るゴム-金属積層ガスケット素材は、ゴム層外表面に不飽和炭化水素ガスを用いたプラズマCVD法によって成膜した、シリコンウェハ上でのナノインデンテーション硬さが10GPa以上で、好ましくは15GPa以上、かつ膜厚200nm以上、好ましくは400nm以上である非晶質炭素膜を形成させることにより、前記特許文献2に記載される如き非晶質炭素膜の形成前のフッ素ガス、水素ガス等を用いた終端処理の有無にかかわらず、常温下における摩擦係数の低減および耐摩耗性を向上させる。また、膜組成が炭素であるため、ポリマーコートの場合のような熱による変質がないことから、高温環境下における耐摩耗性の向上、高温条件下での固着性の低減を図ることができるといったすぐれた効果を奏する。かかる特性を有するゴム-金属積層ガスケット素材は、エンジンのシリンダーヘッドガスケットなどとして好適に用いられる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
金属板としては、ステンレス鋼板、軟鋼板、アルミニウム板、アルミニウムダイキャスト板等が用いられ、好ましくはSUS304、SUS301、SUS301H、SUS430等のステンレス鋼板が用いられる。その板厚は、ガスケット用途であるので、一般に約0.1〜2mm程度のものが用いられる。
【0010】
金属板とゴムとの接着のためには、一般には金属板上に接着剤層が形成される。接着剤としては、ゴムを接着できるものであれば特に制限なく使用することができるが、例えば市販品であるロードファーイースト社製品ケムロックAP-133、東洋化学研究所製品メタロックS-2、ロームアンドハース社製品メガム3290-1等のシラン系のフッ素ゴム用接着剤、あるいは有機金属化合物を含有しているシラン系接着剤などが用いられる。接着剤は、好ましくは脱脂処理した金属板上に浸せき、噴霧、はけ刷り、ロールコートなどの方法によって、目付量約10〜1,000mg/m2となるように塗布され、室温下で乾燥した後、約100〜250℃で約1〜20分間程度焼付処理される。
【0011】
さらに、ゴムとしてフッ素ゴムが用いられる場合には、ノボラック型エポキシ樹脂、p-非置換フェノールから導かれたノボラック型フェノール樹脂、2-エチル-4-メチルイミダゾールを含有してなる上塗り接着剤を組み合わせたものなどを使用することができ(特許文献4〜6参照)、またゴムとしてニトリルゴムが用いられる場合には、一般に市販品、例えば東洋化学研究所製品メタロックN31、ロームアンドハース社製品シクソン715、ロードファーイースト社製品ケムロックTS1677-13、ケムロック202等のフェノール樹脂系接着剤が上塗り接着剤として塗布される。これらの上塗り接着剤は、約1〜15μmの膜厚で塗布され、金属板上に直接適用される接着剤と同様の乾燥、焼付処理が行われる。
【0012】
また、接着剤層の形成を特に行うことなく、ゴムコンパウンドの溶剤溶液中に上記の如き接着剤成分を添加することで、金属板とゴムとを接着することもでき、その配合内容は特に限定されるものではないが、例えば後記のような配合例Iの接着剤成分を添加したフッ素ゴムコンパウンドが示される。
【0013】
フッ素ゴムとしては、ポリオール架橋性およびパーオキサイド架橋性のいずれも使用することができ、得られるゴム層が硬度(デュロメーターA;瞬時)80以上(ISO 48に対応するJIS K6253準拠:1997)、圧縮永久歪(100℃、22時間)が50%以下(ISO 815に対応するJIS K6262準拠:2006)のものであれば足り、特に配合内容が限定されるものではないが、例えば後記のような配合例II〜IVのフッ素ゴムコンパウンドが示される。
【0014】
ポリオール架橋性フッ素ゴムとしては、一般にフッ化ビニリデンと他の含フッ素オレフィン、例えばヘキサフルオロプロペン、ペンタフルオロプロペン、テトラフルオロエチレン、トリフルオロクロロエチレン、フッ化ビニル、パーフルオロ(メチルビニルエーテル)等の少くとも一種との共重合体または含フッ素オレフィンとプロピレンとの共重合体などが挙げられ、これらのフッ素ゴムは、ポリオール系架橋剤および架橋促進剤によってポリオール架橋される。
【0015】
ポリオール系架橋剤としては、例えば2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン〔ビスノールA〕、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)パーフルオロプロパン〔ビスフェノールAF〕、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルホン〔ビスフェノールS〕、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)メタン〔ビスフェノールF〕、ビスフェノールA-ビス(ジフェニルホスフェート)、4,4′-ジヒドロキシジフェニル、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ブタンなどが挙げられ、好ましくはビスフェノールA、ビスフェノールAFなどが用いられる。これらはまた、アルカリ金属塩あるいはアルカリ土類金属塩の形であってもよい。これらのポリオール系架橋剤は、一般にフッ素ゴム100重量部当り約0.5〜15重量部、好ましくは約0.5〜6重量部の割合で用いられる。
【0016】
架橋促進剤としては、第4級ホスホニウム塩またはそれと活性水素含有芳香族化合物との等モル分子化合物などが用いられ、好ましくは第4級ホスホニウム塩が用いられる。第4級ホスホニウム塩としては、一般式
(R1R2R3R4P)+X-
R1〜R4:炭素数1〜25のアルキル基、アルコキシル基、アリー
ル基、アルキルアリール基、アラルキル基またはポリオキシ
アルキレン基であり、あるいはこれらの内2〜3個がNまたはP
と共に複素環構造を形成することもできる
X-:Cl-、Br-、I-、HSO4-、H2PO4-、RCOO-、ROSO2-、CO3- -
のアニオン
で表わされる化合物、具体的にはテトラフェニルホスホニウムクロライド、ベンジルトリフェニルホスホニウムブロマイド、ベンジルトリフェニルホスホニウムクロライド、トリオクチルベンジルホスホニウムクロライド、トリオクチルメチルホスホニウムクロライド、トリオクチルエチルホスホニウムアセテート、テトラオクチルホスホニウムクロライドなどが用いられる。
【0017】
これらの第4級ホスホニウム塩は、フッ素ゴム100重量部当り約0.1〜10重量部、好ましくは約0.5〜5重量部の割合で用いられる。
【0018】
また、パーオキサイド架橋性フッ素ゴムとしては、例えば分子中にヨウ素および/または臭素を有するフッ素ゴムが挙げられ、これらのフッ素ゴムは一般にパーオキサイド架橋に用いられている有機過酸化物によって架橋される。
【0019】
有機過酸化物としては、例えばジクミルパーオキサイド、クメンヒドロパーオキサイド、p-メタンヒドロパーオキサイド、2,5-ジメチルヘキサン-2,5-ジヒドロパーオキサイド、ジ第3ブチルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキシド、m-トルイルパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(第3ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(第3ブチルパーオキシ)ヘキシン-3、1,3-ジ(第3ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、2,5-ジメチル-2,5-ジベンゾイルパーオキシヘキサン、(1,1,3,3-テトラメチルブチルパーオキシ)2-エチルヘキサノエート、第3ブチルパーオキシベンゾエート、第3ブチルパーオキシラウレート、ジ(第3ブチルパーオキシ)アジペート、ジ(2-エトキシエチルパーオキシ)ジカルボナート、ビス-(4-第3ブチルシクロヘキシルパーオキシ)ジカルボナート等が、パーオキサイド架橋性フッ素ゴム100重量部当り0.5〜10重量部、好ましくは1〜5重量部の割合で用いられる。
【0020】
有機過酸化物によるパーオキサイド架橋に際しては、多官能性不飽和化合物が併用されることが好ましい。かかる多官能性不飽和化合物としては、トリ(メタ)アリルイソシアヌレート、トリ(メタ)アリルシアヌレート、トリアリルトリメリテート、N,N´-m-フェニレンビスマレイミド、ジアリルフタレート、トリス(ジアリルアミン)-s-トリアジン、亜リン酸トリアリル、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、1,3-ポリブタジエン等の機械的強度、圧縮永久歪などを改善させる多官能性不飽和化合物が、パーオキサイド架橋性フッ素ゴム100重量部当り約0.1〜20重量部、好ましくは約0.5〜10重量部の割合で用いられる。ここで、(メタ)アリルとは、アリルまたはメタアリルを指している。同様に、(メタ)アクリレートとは、アクリレートまたはメタクリレートを指している。
【0021】
(配合例I)
フッ素ゴム(デュポン社製品バイトンA-200) 100重量部
MTカーボンブラック(N990) 20 〃
ホワイトカーボン(東ソーシリカ社製品ニップシールER) 10 〃
酸化マグネシウム(協和化学製品マグネシア#30) 5 〃
土状黒鉛(日電カーボン製品A-O) 30 〃
加硫剤(デュポン社製品キュラティブ#30) 10.7 〃
加硫促進剤(デュポン社製品キュラティブ#20) 5.8 〃
エポキシ基含有シランカップリング剤 4.6 〃
(東レダウコーニング製品SH-6040)
エポキシ変性フェノール樹脂 34.5 〃
(大日本インキ化学製品エピクロンN695)
(配合例II)
フッ素ゴム(デュポン社製品バイトンE60C) 100重量部
MTカーボンブラック(CANCARB LIMITED社製品) 30 〃
酸化マグネシウム(協和化学製品マグネシア#30) 10 〃
架橋剤(デュポン社製品ダイアックNo.3) 3 〃
(配合例III)
フッ素ゴム(デュポン社製品バイトンE45) 100重量部
メタけい酸カルシウム(NYCO Minerals社製品) 40 〃
MTカーボンブラック(CANCARB LIMITED社製品) 2 〃
酸化マグネシウム(協和化学製品マグネシア#150) 6 〃
水酸化カルシウム(近江化学工業製品) 3 〃
架橋剤(デュポン社製品キュラティブ#30) 2 〃
架橋促進剤(同社製品キュラティブ#20) 1 〃
(配合例IV)
フッ素ゴム(ダイキン製品ダイエルG901) 100重量部
メタけい酸カルシウム(NYCO Minerals社製品) 20 〃
MTカーボンブラック(CANCARB LIMITED社製品) 20 〃
酸化マグネシウム(マグネシア#150) 6 〃
水酸化カルシウム(近江化学工業製品) 3 〃
トリアリルイソシアヌレート(日本化成製品) 1.8 〃
有機過酸化物(日本油脂製品パーヘキサ25B) 0.8 〃
【0022】
ニトリルゴムとしては、NBRまたは水素化NBRが用いられ、(水素化)ニトリルゴム100重量部当り約0.05〜5重量部のイオウ、テトラメチルチウラムモノスルフィド等のイオウ系加硫剤を用いたコンパウンドとして使用することもできるが、好ましくは約0.05〜10重量部の有機過酸化物を架橋剤として使用した未加硫ニトリルゴムコンパンドとして用いられる。かかるパーオキサイド架橋系の未加硫ニトリルゴムコンパウンドとしては、例えば次のような配合例が示される。この場合にも、有機過酸化物と共に、トリアリルイソシアヌレートによって代表される多官能性不飽和化合物約0.05〜10重量部を併用することが好ましい。
【0023】
(配合例V)
NBR(中高ニトリル;JSR製品N237) 100重量部
HAFカーボンブラック 10 〃
SRFカーボンブラック 40 〃
粉末状セルロース 10 〃
酸化亜鉛 10 〃
ステアリン酸 1 〃
マイクロクリスタリンワックス 2 〃
老化防止剤(大内新興化学製品ODA-NS) 4 〃
可塑剤(バイエル社製品ブカノールOT) 5 〃
有機過酸化物(日本油脂製品パーヘキサ25B) 6 〃
N,N-m-フェニレンジマレイミド 1 〃
(配合例VI)
NBR(JSR製品N235S) 100重量部
SRFカーボンブラック 80 〃
炭酸カルシウム 80 〃
粉末状シリカ 20 〃
酸化亜鉛 5 〃
老化防止剤(大内新興化学製品ノクラック224) 2 〃
トリアリルイソシアヌレート 2 〃
1,3-ビス(第3ブチルパーオキシ)イソプロピルベンゼン 2.5 〃
可塑剤(バイエル社製品ブカノールOT) 5 〃
【0024】
約5〜120μm程度の厚さの片面架橋物層を形成せしめるように塗布された未架橋ゴム層は、室温乃至約100℃の温度で約1〜15分間程度乾燥し、有機溶剤として用いられたメタノール、エタノールなどのアルコール類、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン類またはこれらの混合溶剤などを揮発させた後、約150〜230℃で約0.5〜30分間加熱架橋し、必要に応じて加圧して架橋することも行われる。
【0025】
金属板上に接着剤層を介して形成されたゴム層外表面には、プラズマCVD法を適用することによって非晶質炭素膜が成膜される。
【0026】
プラズマCVD処理は不飽和炭化水素ガスを用いて行われ、非晶質炭素膜の膜厚が約200〜2000nm、好ましくは約400〜1000nmとなるような条件下で行われる。非晶質炭素膜の成膜方法としては、公知の方法をそのまま用いることができ、例えばゴム金属積層ガスケットを低圧プラズマ処理装置の真空槽内の電極上に静置し、真空槽内を真空度が約5〜50Pa程度となるまで排気した後、真空度が約6〜100Pa程度となるまでアセチレンガス、エチレンガス、プロピレンガスなどの不飽和炭化水素ガスを導入し、真空槽内の圧力を約6〜100Paに保ちながら、周波数40kHzまたは13.56MHzなどの高周波電源から例えば出力約300W以上、好ましくは約300〜3000Wの高周波電力を供給し、他方の電極に約0.1〜60分間程度高周波電圧を印加して、炭化水素ガスをプラズマ化してゴム金属積層板上に非晶質炭素膜を形成させることによって行うことができる。なお、出力については装置の大きさにもよるためこの範囲に限定されないが、例えば200W程度と出力が低い場合には、高温環境下における耐摩耗性の向上を図ることができない。
【0027】
以上の工程によって形成される非晶質炭素膜は、シリコンウェハ上でのナノインデンテーション硬さが10GPa以上、好ましくは15GPa以上で、かつ膜厚が200nm以上、好ましくは400nm以上であるので、金属板としてステンレス鋼板を用いた非晶質炭素膜形成ゴム-金属積層板は、エンジンシリンダーヘッドガスケットとして有効に用いられる。
【0028】
前述した特許文献2の一般的記載には、炭素膜成形に用いられるプラズマ原料ガスとしてアセチレンガスが挙げられてはいるものの、各実施例で用いられているガスはメタンガスのみであり、また基体としてフッ素ゴムを用いることは単なる例示に留まっている。また、前述した特許文献3についても、一般的記載では高分子基材としてフッ素ゴムが、またDLC膜形成に用いられる炭化水素としてアセチレンが例示されてはいるものの、それらは単なる例示に留まっている。
【0029】
本発明では、フッ素ゴムまたはニトリルゴム層の外表面に不飽和炭化水素ガス、好ましくはエチレンガス、プロピレンガスなどの二重結合を有する不飽和炭化水素ガスを用いたプラズマCVD法によって非晶質炭素膜を形成させることにより、高温使用条件下におけるシール相手面との摩擦による摩耗、摩滅が低減されたゴム-金属積層ガスケット素材の提供を可能とするものである。
【0030】
かかる効果は後記各実施例に示されるように、特許文献2〜3とは相違して、DLC膜形成にあたっての前処理(終端処理)あるいは中間層膜形成の有無にかかわらず、フッ素ゴムまたはニトリルゴム層の外表面に不飽和炭化水素ガスを用いたプラズマCVD法によって、シリコンウェハ上でのナノインデンテーション硬さが10GPa以上、好ましくは15GPa以上で、かつ膜厚200nm以上、好ましくは400nm以上である非晶質炭素膜を形成することで発現するものである。
【0031】
従って、本発明ではゴム層の外表面に非晶質炭素膜が形成されていればよく、すなわちゴム表面に終端処理などの前処理を行うことなく直接非晶質炭素膜を形成させたもの、非晶質炭素膜形成前にゴム表面に予めプラズマ改質処理を施したもの、またゴムと非晶質炭素膜との間に中間層膜を設けたもののいずれも包含するものであるが、好ましくは構成の簡素化等の観点からは中間層膜を設けることなくゴム層の外表面上に直接非晶質炭素膜を形成させたものが用いられる。
【0032】
また、アセチレンガス等の不飽和炭化水素ガスによるプラズマCVD処理に先立ち、ゴム層の外表面に前処理を施す場合にも、耐高温粘着性といった観点からは、Ar、N2、H2、O2などの非重合性ガスまたは不活性ガスによるプラズマ処理を行ったりあるいはアセチレンガス等の不飽和炭化水素ガスとArなどの前記非重合性ガスまたは不活性ガスが容積比1〜10:10〜1からなる混合ガスを用いたプラズマ処理を行うこともできる。
【実施例】
【0033】
次に、実施例について本発明を説明する。
【0034】
実施例1
次の手順によって、ゴム金属積層ガスケット素材の作製が行われた。
〔フッ素ゴム金属積層ガスケット素材の作製〕
SUS301ステンレス鋼板(厚さ0.2mm)の表面をメチルエチルケトンで脱脂した後、接着剤成分を添加したフッ素ゴムコンパウンド(前記配合例I)を塗布し、オーブン中にて220℃、3分間の架橋を行って、フッ素ゴム金属積層ガスケット素材(テストピース:80×15×0.2mm)を得た。
〔ニトリルゴム金属積層ガスケット素材の作製〕
SUS301鋼板(厚さ0.2mm)の表面をアルカリ脱脂した後、シラン系下塗り接着剤を目付量250mg/m2となるように塗布し、220℃で5分間の焼付処理を行った。次いで、フェノール樹脂系上塗り接着剤(ロードファーイースト製品ケムロック202)を塗布し、210℃、5分間の焼付処理を行った。その後、SUS301ステンレス鋼板上の上塗り接着剤層上に、ニトリルゴムコンパウンド(前記配合例V)の25重量%混合有機溶剤(トルエン:メチルエチルケトン=重量比9:1)溶液を塗布し、60℃、15分間乾燥させて片面厚さ20μmの未架橋ゴム層を形成させた後、180℃、60kgf/m2(5.88MPa)、10分間の加圧架橋を行って、ニトリルゴム金属積層ガスケット素材(テストピース:80×15×0.2mm)を得た。
【0035】
次に、ゴム金属積層ガスケットを低圧プラズマ処理装置の真空槽内の下側電極上にゴム面が上向きとなるように静置し、真空槽内を真空度8Paとなるまで排気した。真空度が10Paとなるまでアセチレンガスを導入し、真空槽内の圧力を約10Paに保ちながら、高周波(40kHz)電源から出力900Wの高周波電力を他方の電極に10分間高周波電圧を印加し、アセチレンガスをプラズマ化してゴム金属積層板上に非晶質炭素膜を形成させた。ここで低圧プラズマCVD処理装置としては、ガス供給部とガス排気装置を外部側面に備えた真空槽の内部上側および下側にそれぞれ上側電極および下側電極を配置し、下側電極が真空槽外部に配置された高周波電源と接続され、上側電極から真空槽外部へアース線が備えられているものが用いられた。また、評価用テストピースとして、表面に同様の非晶質炭素膜が形成された低圧プラズマ処理シリコンウェハテスト片も同じくチャンバーで成膜された。
【0036】
表面に非晶質炭素膜が形成されたゴム-金属積層ガスケット素材(テストピース)を用いて耐熱性の評価が行われた。さらに、表面に非晶質炭素膜が形成されたシリコンウェハテスト片を用いて、非晶質炭素膜の膜厚および膜硬度の評価を行った。
耐熱性評価:ゴム金属積層ガスケット素材を200℃、72時間の空気加熱暴露後、レスカ社製フリクションプレイヤー(FPR-2000)を用い、5mm径のSUJ2製ピン、荷重500g(フッ素ゴムの場合)または荷重5000g(ニトリルゴムの場合)、回転半径40mm、回転速度15rpmの条件下で、角度35.8°の間を往復させ、コートしてあるゴムが剥がれ、金属が露出するまでの往復動回数を測定した
エンジン用シリンダーヘッドガスケットとしては、80回以上であれば使用可能であるが、好ましくは200回以上、より好ましくは300回以上のものが望まれる
膜厚:堀場製作所社製分光エリプソメーター(UVISEL)を用い、シリコンウェハテスト片について、入射角度70度、波長範囲2066〜248nm、スポット径1mm×3mmの楕円の条件下で偏光状況を測定し、シリコンウェハ上の非晶質炭素膜コーティング厚みを算出した
なお、分光エリプソは、直線偏光を入射したとき、サンプルの膜厚(d)や光学定数(屈折率n、消衰係数k)によって偏光状態が変わり、位相が任意にずれた楕円偏光になるが、この偏光状態の変化量を測定し、サンプル膜厚(d)や光学定数(屈折率n、消衰係数k)を求める分析手法である
エンジン用シリンダーヘッドガスケットとしては、200nm以上、好ましくは400nm以上のものが望まれる
膜硬度:アジレンドテクノロジー社製ナノインデンター(G200)を用い、シリコンウェハテスト片について、CSM測定で200nmの深さまで2nmの振幅、0.05/秒の歪で押し込み、深さ50nmでのシリコンウェハ上の非晶質炭素膜のコーティング硬さを算出した
エンジン用シリンダーヘッドガスケットとしては、10GPa以上、好ましくは15GPa以上のものが望まれる
なお、ゴム上に形成された非晶質炭素膜の硬度は、ゴムが弾性体であることで正しく測定することが難しいが、シリコンウェハ上に形成された非晶質炭素膜の硬さを測定することにより、膜自体の硬度を正確に把握することが可能となる。
【0037】
実施例2
実施例1において、低圧プラズマ処理が、アセチレンガスの代わりにエチレンガスを用い、また真空度を20Paにそれぞれ変更して行われた。
【0038】
実施例3
実施例1において、低圧プラズマ処理が、アセチレンガスの代わりにプロピレンガスを用い、また真空度を20Paにそれぞれ変更して行われた。
【0039】
比較例1
実施例1において、高周波電力による低圧プラズマ処理が出力を200Wに変更して行われた。
【0040】
比較例2
実施例2において、高周波電力による低圧プラズマ処理が出力を200Wに変更して行われた。
【0041】
比較例3
実施例3において、高周波電力による低圧プラズマ処理が出力を200Wに変更して行われた。
【0042】
比較例4
実施例1において、低圧プラズマ処理が、アセチレンガスの代わりにメタンガスを用い、また真空度を20Paにそれぞれ変更して行われた。
【0043】
比較例5
比較例4において、高周波電力による低圧プラズマ処理が出力を200Wに変更して行われた。
【0044】
比較例6
実施例1において、高周波電力による低圧プラズマ処理が行われなかった。
【0045】
以上の各実施例および比較例で得られた測定結果は、次の表に示される。