(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
試料を通過させて試料中の特定成分を分離させる分離層を有する分離容器、及び、前記分離層により抽出された試料を回収する回収容器を含む複数の容器を保持する容器保持部と、
前記容器保持部により保持されている容器を搬送する搬送部と、
前記搬送部により搬送された前記分離容器及び前記回収容器が設置される設置空間が形成された濾過部と、
前記設置空間内に負圧を負荷することにより、前記分離容器内の試料を前記分離層で分離させる負圧負荷部と、
前記設置空間内に負圧が負荷される前、又は、負圧が負荷されているときに、前記分離容器の一部と前記濾過部の一部とが密着して密閉状態を形成するように、前記分離容器を前記設置空間側に押圧する押圧部とを備えたことを特徴とする前処理装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1には、圧力負荷機構の構成の一例として、バキュームラックと真空ポンプを用いた引圧方式の構成が示されている。しかしながら、引圧によって試料を抽出するような構成では、大気圧に対する圧力差が大き過ぎる場合に、液体試料が気化するおそれがある。例えば、メタノールなどのように沸点が低い溶媒を使用した試料の場合には、引圧によって試料の蒸気圧よりも圧が下がるため、試料が沸騰し、外部に漏れ出してしまうなどの問題が生じるおそれがある。
【0006】
また、引圧によって試料を抽出する場合、引圧状態に遷移させる過程で分離容器や回収容器に振動が生じ、気密状態を確保することができない場合がある。このような場合には、引圧状態へと良好に遷移させることができず、試料を良好に抽出することができなくなるおそれがある。
【0007】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、試料が抽出される過程で試料が激しく気化することにより成分に変化を与えたり、沸騰により容器からこぼれたりするのを防止することができる前処理装置及びこれを備えた分析システムを提供することを目的とする。また、本発明は、試料が抽出される過程で気密状態を確保することができる前処理装置及びこれを備えた分析システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る前処理装置は、容器保持部と、搬送部と、濾過部と、負圧負荷部とを備える。前記容器保持部は、試料を通過させて試料中の特定成分を分離させる分離層を有する分離容器、及び、前記分離層により抽出された試料を回収する回収容器を含む複数の容器を保持する。前記搬送部は、前記容器保持部により保持されている容器を搬送する。前記濾過部には、前記搬送部により搬送された前記分離容器及び前記回収容器が設置される設置空間が形成されている。前記負圧負荷部は、前記設置空間内に負圧を負荷することにより、前記分離容器内の試料を前記分離層で分離させる。前記負圧負荷部は、前記分離層で分離した試料が前記回収容器内で沸点に達しない圧力値を設定値として減圧し、前記設置空間内の圧力を制御する。
【0009】
このような構成によれば、設置空間内に負圧を負荷して試料を抽出する際に、分離層で分離した試料が回収容器内で沸点に達しない圧力値を設定値として、設置空間内の圧力が制御される。したがって、設置空間内の圧力が低くなり過ぎることがなく、試料が抽出される過程で激しく気化したり、沸騰するのを防止することができるため、試料がして外部に漏れ出すといったことがない。
【0010】
前記負圧負荷部には、前記設置空間内の圧力を自動又は手動で設定された圧力値に制御する圧力調整バルブが含まれていてもよい。これにより、圧力調整バルブを用いて設置空間内の圧力を適切に制御することができる。
【0011】
前記前処理装置は、使用環境の温度の入力を受け付ける入力受付部をさらに備えていてもよい。この場合、前記負圧負荷部は、入力された使用環境の温度に基づいて設定される圧力値を設定値として、前記設置空間内の圧力を制御してもよい。
【0012】
このような構成によれば、入力された使用環境の温度に基づいて適切な圧力値を設定し、その設定値に基づいて設置空間内の圧力を良好に制御することができる。この場合、例えばアントワンの式などのように、蒸気圧と沸点温度との関係を表す式を用いて圧力値を設定すれば、より適切な設定値で設置空間内の圧力を制御することができる。
【0013】
前記入力受付部は、使用環境の標高の入力をさらに受け付けてもよい。この場合、前記負圧負荷部は、入力された使用環境の温度及び標高に基づいて設定される圧力値を設定値として、前記設置空間内の圧力を制御してもよい。
【0014】
このような構成によれば、入力された使用環境の温度及び標高に基づいて適切な圧力値を設定し、その設定値に基づいて設置空間内の圧力を良好に制御することができる。特に、ゲージ圧を基準に圧力値を設定する場合には、使用環境の標高に応じてゲージ圧が変化するため、使用環境の温度だけでなく標高も考慮して圧力値を設定することにより、より適切な設定値で設置空間内の圧力を制御することができる。
【0015】
前記前処理装置は、圧力センサと、報知部とをさらに備えていてもよい。前記圧力センサは、前記設置空間内の圧力を検知する。前記報知部は、前記圧力センサにより検知される圧力値が設定値未満となった場合に、その旨を報知する。
【0016】
このような構成によれば、設置空間内の圧力値が設定値未満となった場合に、抽出された試料が設置空間内で沸騰するおそれがある旨を分析者に報知することができる。したがって、試料が沸騰していることに分析者が気付かないまま前処理が実行されるのを防止することができる。
【0017】
また、本発明に係る前処理装置は、容器保持部と、搬送部と、濾過部と、負圧負荷部と、押圧部とを備える。前記容器保持部は、試料を通過させて試料中の特定成分を分離させる分離層を有する分離容器、及び、前記分離層により抽出された試料を回収する回収容器を含む複数の容器を保持する。前記搬送部は、前記容器保持部により保持されている容器を搬送する。前記濾過部には、前記搬送部により搬送された前記分離容器及び前記回収容器が設置される設置空間が形成されている。前記負圧負荷部は、前記設置空間内に負圧を負荷することにより、前記分離容器内の試料を前記分離層で分離させる。前記押圧部は、前記設置空間内に負圧が負荷される前、又は、負圧が負荷されているときに、前記設置空間内の前記分離容器を前記設置空間側に押圧する。
【0018】
このような構成によれば、設置空間内に負圧が負荷される前、又は、負圧が負荷されているときに、設置空間内の分離容器を押圧部により設置空間側に押圧し、分離容器の周囲に隙間が生じるのを防止することができる。これにより、上記隙間から設置空間内に空気が流入するのを防止することができるため、試料が抽出される過程で設置空間の気密状態を確保することができる。
【0019】
前記押圧部は、前記搬送部により構成されていてもよい。
【0020】
このような構成によれば、容器を搬送するための搬送部を用いて、設置空間内の分離容器を設置空間側に押圧することができるため、押圧部を別途設ける必要がない。したがって、構成を簡略化することができるとともに、製造コストを低減することができる。
【0021】
本発明に係る分析システムは、前記前処理装置と、前記前処理装置において抽出された試料が導入される液体クロマトグラフと、前記前処理装置及び前記液体クロマトグラフを連動させて自動制御する制御部とを備える。
【0022】
また、本発明に係る分析システムは、前記前処理装置と、前記前処理装置において抽出された試料が導入される質量分析装置と、前記前処理装置及び前記質量分析装置を連動させて自動制御する制御部とを備える。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、設置空間内の圧力が低くなり過ぎることがなく、試料が抽出される過程で沸騰するのを防止することができる。また、本発明によれば、分離容器又は回収容器の周囲に隙間が生じて、当該隙間から設置空間内に空気が流入するのを防止することができるため、試料が抽出される過程で設置空間の気密状態を確保することができる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
図1は、本発明の一実施形態に係る分析システムの構成例を示す概略正面図である。この分析システムは、前処理装置1、LC(液体クロマトグラフ)100及びMS(質量分析装置)200を備えており、前処理装置1により前処理を実行した試料が、LC100及びMS200に順次導入されて分析が行われる。すなわち、本実施形態に係る分析システムは、前処理装置1に液体クロマトグラフ質量分析装置(LC/MS)が接続された構成となっている。ただし、このような構成に限らず、LC100又はMS200のいずれか一方が省略されることにより、前処理装置1により前処理を実行した試料が、LC100又はMS200のいずれか一方にのみに導入されるような構成であってもよい。
【0026】
前処理装置1は、例えば全血、血清、濾紙血、尿などの生体由来の試料に対して、試料分注、試薬分注、攪拌、濾過といった各種の前処理を行う。これらの前処理により抽出された試料は、LC100に備えられたオートサンプラ101を介してLC100に導入される。LC100には、カラム(図示せず)が備えられており、当該カラム内を試料が通過する過程で分離された試料成分が、MS200に順次導入される。MS200は、LC100から導入された試料をイオン化するイオン化部201と、イオン化された試料を分析する質量分析部202とを備えている。
【0027】
前処理装置1には、例えばタッチパネルを含む操作表示部1aが備えられている。分析者は、操作表示部1aの表示画面に対する操作により、前処理装置1の動作に関する入力を行うことができるとともに、操作表示部1aの表示画面に表示された前処理装置1の動作に関する情報を確認することができる。ただし、タッチパネル式の操作表示部1aが設けられた構成に限らず、例えば液晶表示器により構成される表示部と、操作キーなどにより構成される操作部とが、別々に設けられた構成であってもよい。
【0028】
図2は、前処理装置1の構成例を示す平面図である。この前処理装置1では、分離容器50と回収容器54の組からなる前処理キットを試料ごとに1組用いて、各前処理キットに対して設定された前処理項目(試料分注、試薬分注、攪拌、濾過など)が実行される。前処理装置1には、各前処理項目を実行するための複数の処理ポートが設けられており、試料が収容された前処理キットをいずれかの処理ポートに設置することで、その前処理キットに収容されている試料に対して、各処理ポートに対応する前処理項目が実行されるようになっている。
【0029】
処理ポートとしては、各前処理項目に対応付けて、濾過ポート30、分注ポート32、廃棄ポート34、攪拌ポート36a、温調ポート38,40、転送ポート43及び洗浄ポート45などが設けられている。これらの各処理ポートは、複数種類の前処理をそれぞれ実行する複数の前処理部を構成している。ここで、前処理項目とは、分析者が指定した分析項目を実行するために必要な前処理の項目である。
【0030】
前処理キットを構成する分離容器50及び回収容器54は、搬送部としての搬送アーム24によって各処理ポート間で搬送される。搬送アーム24の先端側には、分離容器50及び回収容器54を保持するための保持部25が形成されている。搬送アーム24の基端部側は、鉛直軸29を中心に回転可能に保持されている。搬送アーム24は水平方向に延びており、鉛直軸29を中心に回転することにより、保持部25が水平面内で円弧状の軌道を描くように移動する。分離容器50及び回収容器54の搬送先である各処理ポートや、その他のポートは、全て保持部25が描く円弧状の軌道上に設けられている。
【0031】
前処理キットには、試料容器6から試料が分注される。試料が収容された試料容器6は、試料設置部2に複数設置することができ、サンプリング部としてのサンプリングアーム20により各試料容器6から試料が順次採取される。試料設置部2には、複数の試料容器6を保持するサンプルラック4が、円環状に並べて複数設置される。試料設置部2は、水平面内で回転することにより、各サンプルラック4を周方向に移動させる。これにより、所定のサンプリング位置に各試料容器6を順次移動させることができる。ここで、サンプリング位置は、サンプリングアーム20の先端部に設けられたサンプリングノズル20aの軌道上に位置しており、当該サンプリング位置においてサンプリングノズル20aにより試料容器6から試料が採取される。
【0032】
サンプリングアーム20は、基端部側に設けられた鉛直軸22を中心に水平面内で回転可能であるとともに、鉛直軸22に沿って鉛直方向に上下動可能である。サンプリングノズル20aは、サンプリングアーム20の先端部において鉛直下方に向かって保持されており、サンプリングアーム20の動作に応じて、水平面内で円弧状の軌道を描く移動又は鉛直方向への上下動が行われる。
【0033】
サンプリングノズル20aの軌道上で、かつ搬送アーム24の保持部25の軌道上となる位置には、分注ポート32が設けられている。分注ポート32は、未使用の分離容器50に対してサンプリングノズル20aから試料を分注するためのポートである。未使用の分離容器50は、搬送アーム24によって分注ポート32に搬送される。
【0034】
サンプルラック4が円環状に並べて配置された試料設置部2の中央部には、試薬容器10を設置するための試薬設置部8が設けられている。試薬設置部8に設置された試薬容器10内の試薬は、試薬アーム26によって採取される。試薬アーム26は、その基端部が搬送アーム24と共通の鉛直軸29によって支持されており、当該鉛直軸29を中心に水平面内で回転可能であるとともに、鉛直軸29に沿って鉛直方向に上下動可能である。試薬アーム26の先端部には、試薬添加ノズル26aが鉛直下方に向かって保持されており、当該試薬添加ノズル26aは、試薬アーム26の動作に応じて、水平面内で搬送アーム24の保持部25と同一の円弧状の軌道を描く移動又は鉛直方向への上下動が行われる。
【0035】
試薬設置部8は、試料設置部2とは独立して水平面内で回転可能となっている。試薬設置部8には、複数の試薬容器10が円環状に並べて配置され、試薬設置部8が回転することによって各試薬容器10が周方向に移動する。これにより、所定の試薬採取位置に所望の試薬容器10を移動させることができる。ここで、試薬採取位置は、試薬アーム26の先端部に設けられた試薬添加ノズル26aの軌道上に位置しており、当該試薬採取位置において試薬添加ノズル26aにより試薬容器10から試薬が採取される。試薬容器10内の試薬は、試薬添加ノズル26aにより吸入された後、分注ポート32に設置された分離容器50に対して分注されることにより、当該分離容器50内の試料に添加される。
【0036】
分離容器50及び回収容器54は、試料設置部2や試薬設置部8とは異なる位置に設けられた容器保持部12により保持されている。容器保持部12には、未使用の分離容器50及び回収容器54が重ねられた状態の複数組の前処理キットが、円環状に並べて配置される。容器保持部12には、水平面内で回転する回転部14と、当該回転部14に対して着脱可能な複数の容器ラック16とが備えられている。
【0037】
各容器ラック16には、複数の前処理キットを保持することができる。複数の容器ラック16は、回転部14上に円環状に並べて設置される。円環状に並べて配置された複数の容器ラック16により、複数の前処理キットを保持する円環状の保持領域が形成される。回転部14は、水平面内で回転することにより、各容器ラック16を保持領域の周方向に変位させる。これにより、複数の前処理キットを所定の搬送位置に順次移動させることができる。ここで、搬送位置は、搬送アーム24の先端部に設けられた保持部25の軌道上に位置しており、当該搬送位置において保持部25により分離容器50又は回収容器54が保持され、搬送先のポートへと搬送される。
【0038】
このように、複数の容器ラック16に分割して前処理キットを保持することにより、各容器ラック16を回転部14に対して個別に着脱することが可能になる。これにより、いずれかの容器ラック16に保持された分離容器50又は回収容器54に対する処理が行われている場合であっても、他の容器ラック16を着脱して別の作業を行うことができるため、前処理効率を向上させることができる。
【0039】
ただし、分離容器50及び回収容器54は、容器ラック16を介して容器保持部12により保持されるような構成に限らず、例えば容器保持部12に直接保持されるような構成であってもよい。また、分離容器50及び回収容器54は、互いに重ね合せられた状態で容器保持部12により保持されるような構成に限らず、分離容器50及び回収容器54が個別に保持されるような構成であってもよい。さらに、複数の容器ラック16は、円環状に並べて配置されるような構成に限らず、例えば円弧状に並べて配置されるような構成であってもよい。この場合は、円環状ではなく、円弧状の保持領域に複数の分離容器50及び回収容器54が保持される。
【0040】
容器保持部12には、異なる分離性能を有する分離層が設けられた複数種類(例えば2種類)の分離容器50を分析者が設置しておくことができる。これらの分離容器50は、試料の分析項目に応じて使い分けられ、分析者によって指定された分析項目に応じた分離容器50が容器保持部12から選択されて搬送される。ここで、分析項目とは、前処理装置1で前処理が施された試料を用いて引き続き行われる分析の種類であり、例えばLC100又はMS200により実行される分析の種類である。
【0041】
図3Aは、分離容器50の構成例を示す側面図である。
図3Bは、
図3Aの分離容器50の平面図である。
図3Cは、
図3BのA−A断面を示す断面図である。
図4Aは、回収容器54の構成例を示す側面図である。
図4Bは、
図4Aの回収容器54の平面図である。
図4Cは、
図4BのB−B断面を示す断面図である。
図5は、分離容器50及び回収容器54が重ね合せられた状態の前処理キットを示す断面図である。
【0042】
分離容器50は、
図3A〜
図3Cに示すように、試料や試薬を収容する内部空間50aを有する円筒状の容器である。内部空間50aの底部には、分離層52が設けられている。分離層52とは、例えば試料を通過させて特定成分と物理的又は化学的に反応することで、試料中の特定成分を選択的に分離させる機能を有する分離剤又は分離膜である。
【0043】
分離層52を構成する分離剤としては、例えばイオン交換樹脂、シリカゲル、セルロース、活性炭などを用いることができる。また、分離膜としては、例えばPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)膜、ナイロン膜、ポリプロピレン膜、PVDF(ポリフッ化ビニリデン)膜、アクリル共重合体膜、混合セルロース膜、ニトロセルロース膜、ポリエーテルスルホン膜、イオン交換膜、グラスファイバー膜などを用いることができる。
【0044】
試料中の蛋白質を濾過によって取り除くための除蛋白フィルタ(分離膜)としては、PTFE、アクリル共重合体膜などを用いることができる。この場合、除蛋白フィルタの目詰まりを防止するために、分離層52の上側にプレフィルタ(図示せず)を設けてもよい。このようなプレフィルタとしては、例えばナイロン膜、ポリプロピレン膜、グラスファイバー膜などを用いることができる。プレフィルタは、試料中から粒径の比較的大きい不溶物質や異物を取り除くためのものである。このプレフィルタにより、除蛋白フィルタが粒径の比較的大きい不溶物質や異物によって目詰まりするのを防止することができる。
【0045】
分離容器50の上面には、試料や試薬を注入するための開口50bが形成されている。また、分離容器50の下面には、分離層52を通過した試料を抽出するための抽出口50dが形成されている。分離容器50の外周面の上部には、搬送アーム24の保持部25を係合させるための鍔部50cが周方向に突出するように形成されている。
【0046】
分離容器50の外周面の中央部には、当該分離容器50が回収容器54とともに濾過ポート30に収容されたときに濾過ポート30の縁に接触するスカート部51が設けられている。スカート部51は、分離容器50の外周面から周方向に突出し、そこから下方に延びるように断面L字状に形成されることにより、分離容器50の外周面との間に一定の空間を形成している。
【0047】
回収容器54は、
図4A〜
図4C及び
図5に示すように、分離容器50の下部を収容し、分離容器50の抽出口50dから抽出された試料を回収する円筒状の容器である。回収容器54の上面には、分離容器50の下部を挿入させる開口54bが形成されている。回収容器54の内部には、分離容器50におけるスカート部51よりも下側の部分を収容する内部空間54aが形成されている。回収容器54の外周面の上部には、分離容器50と同様に、搬送アーム24の保持部25を係合させるための鍔部54cが周方向に突出するように形成されている。
【0048】
図5のように分離容器50及び回収容器54が重ね合せられた状態では、回収容器54の上部がスカート部51の内側に入り込む。分離容器50の外径は、回収容器54の内径よりも小さく形成されている。これにより、回収容器54の内部空間54aに収容された分離容器50の外周面と、回収容器54の内周面との間に、僅かな隙間が形成される。容器保持部12には、分離容器50の下部が回収容器54内に収容された状態(
図5の状態)で、分離容器50及び回収容器54が設置される。
【0049】
回収容器54の上面の縁には、3つの切欠き54dが形成されている。したがって、
図5のように分離容器50及び回収容器54が重ね合せられることにより、回収容器54の上面がスカート部51の内面に当接した状態であっても、切欠き54を介して、回収容器54の内側と外側とを連通させることができる。ただし、切欠き54dの数は、3つに限らず、2つ以下であってもよいし、4つ以上であってもよい。また、切欠き54dに限らず、例えば小穴が形成された構成などであってもよい。
【0050】
再び
図2を参照すると、濾過ポート30は、容器保持部12の内側に設けられている。すなわち、濾過ポート30の外周に並べて配置された複数の容器ラック16により、円環状又は円弧状の保持領域が形成されており、当該保持領域に複数の分離容器50及び回収容器54が保持されている。このように、分離容器50及び回収容器54の保持領域が円環状又は円弧状に形成され、その中央部の空きスペースに濾過ポート30の設置スペースを確保することによって、よりコンパクトな構成とすることができる。
【0051】
特に、本実施形態では、分離容器50及び回収容器54が重ねられた状態で保持領域に保持されるため、分離容器50及び回収容器54の保持領域を別々に設ける必要がない。したがって、より多くの分離容器50及び回収容器54を小さい保持領域で保持することができる。これにより、分離容器50及び回収容器54の保持領域を小さくすることができ、さらにコンパクトな構成とすることができる。
【0052】
また、円環状又は円弧状に形成された保持領域の中央部に濾過ポート30を設けることにより、保持領域に保持されている複数の分離容器50及び回収容器54と濾過ポート30の距離を比較的短くすることができる。これにより、分離容器50及び回収容器54を濾過ポート30に搬送する時間を短縮することができるため、前処理効率を向上させることができる。
【0053】
濾過ポート30は、分離容器50内の試料に圧力を付与することにより分離層52で試料を分離させる濾過部を構成している。本実施形態では、例えば2つの濾過ポート30が搬送アーム24の保持部25の軌道上に並べて設けられている。分離容器50及び回収容器54は、
図5のように重ね合せられた状態で各濾過ポート30に設置され、負圧によって分離容器50内の分離層52で分離された試料が、回収容器54内に回収されるようになっている。ただし、分離容器50及び回収容器54は、互いに重ね合せられた状態で各濾過ポート30に設置されるような構成に限らず、分離容器50及び回収容器54が個別に設置されるような構成であってもよい。また、濾過ポート30の数は、2つに限らず、1つであってもよいし、3つ以上であってもよい。
【0054】
攪拌ポート36aは、容器保持部12の近傍に設けられた攪拌部36に、例えば搬送アーム24の保持部25の軌道上に並べて3つ設けられている。攪拌部36は、各攪拌ポート36aを個別に水平面内で周期的に動作させる機構を有している。このような機構により、各攪拌ポート36aに配置された分離容器50内の試料を攪拌することができる。ただし、攪拌ポート36aの数は、3つに限らず、2つ以下であってもよいし、4つ以上であってもよい。
【0055】
温調ポート38,40は、例えばヒータとペルチェ素子により温度制御された熱伝導性のブロックに設けられており、温調ポート38,40に収容された分離容器50又は回収容器54の温度が一定温度に調節される。温調ポート38は、分離容器50用であり、例えば搬送アーム24の保持部25の軌道上に並べて4つ配置されている。温調ポート40は、回収容器54用であり、分離容器50用の温調ポート38と同様、例えば搬送アーム24の保持部25の軌道上に並べて4つ配置されている。ただし、温調ポート38,40の数は、それぞれ4つに限らず、3つ以下であってもよいし、5つ以上であってもよい。
【0056】
図6Aは、濾過ポート30の構成例を示す平面図である。
図6Bは、
図6AのX−X断面を示す断面図である。
図6Cは、
図6AのY−Y断面を示す断面図である。
図6Dは、濾過ポート30に前処理キットを設置した状態を示す断面図である。
【0057】
濾過ポート30は、例えば凹部からなり、当該凹部が前処理キットを設置するための設置空間30aを構成している。すなわち、搬送アーム24により容器保持部12から搬送された分離容器50及び回収容器54が、
図6Dに示すように、互いに重ねられた状態で設置空間30a内に設置される。このとき、設置空間30aには、まず回収容器54が収容され、その後に回収容器54の内部空間54aに分離容器50の下部が収容される。
【0058】
濾過ポート30内には、回収容器54を挟み込むように保持する保持部材31が設けられている。保持部材31は、例えば上方が開放されたU字状の金属部材であり、上方に延びた2本の腕部が濾過ポート30の内径方向へ弾性的に変位可能な2本の板ばねを構成している。保持部材31の2本の板ばね部分は、例えば上端部と下端部の間の部分において、互いの間隔が最も狭くなるように内側に窪んだ湾曲形状又は屈曲形状となっている。2本の板ばね部分の間隔は、上端部及び下端部では回収容器54の外径よりも大きく、最も間隔が狭い部分では回収容器54の外径よりも小さくなっている。
【0059】
上記のような保持部材31の形状により、濾過ポート30の設置空間30a内に回収容器54が差し込まれた場合には、回収容器54が下降するのに応じて保持部材31の2本の板ばね部分が開き、その弾性力によって回収容器54が設置空間30aに保持される。回収容器54は、保持部材31の2本の板ばね部分により、互いに対向する2方向から均等に押圧され、設置空間30aの中央部に保持される。保持部材31は、設置空間30a内に固定されており、回収容器54が取り出される際に回収容器54とともに浮き上がらないようになっている。
【0060】
濾過ポート30の上面開口部の縁には、弾性力を有するリング状の封止部材60が設けられている。封止部材60は、例えば濾過ポート30の上面開口部の縁に設けられた窪みに嵌め込まれている。封止部材60の材質は、例えばシリコーンゴムやEPDM(エチレン−プロピレン−ジエンゴム)などの弾性材料である。濾過ポート30の設置空間30a内に回収容器54及び分離容器50が設置された場合には、分離容器50のスカート部51の下端が封止部材60に当接し、スカート部51によって設置空間30aが密閉された状態となる。ただし、分離容器50における封止部材60との接触部分は、スカート部51のような形状の部材により構成されるものに限らず、例えばフランジ部などの他の各種形状の接触部により構成することができる。
【0061】
設置空間30aには、濾過ポート30の底面から減圧用の流路56が連通している。流路56には、負圧負荷機構55の流路57が接続されている。負圧負荷機構55は、例えば真空ポンプを含み、設置空間30a内に負圧を負荷する負圧負荷部を構成している。濾過ポート30に分離容器50及び回収容器54が収容された状態で、負圧負荷機構55により設置空間30a内を減圧すれば、設置空間30a内が負圧になる。
【0062】
負圧になった設置空間30aには、回収容器54の切欠き54d、及び、回収容器54の内周面と分離容器50の外周面との隙間を介して、回収容器54の内部空間54aが連通している。分離容器50の上面は大気開放されているため、分離容器50の内部空間50aと回収容器54の内部空間54aとの間に分離層52を介して圧力差が生じる。したがって、分離容器50の内部空間50aに収容されている試料のうち分離層52を通過することができる成分のみが、その圧力差によって分離層52で分離され、回収容器54の内部空間54a側に抽出される。
【0063】
図7は、負圧負荷機構55の構成例を示す概略図である。2つの濾過ポート30は、共通の真空タンク66に接続されている。各濾過ポート30と真空タンク66との間は、それぞれ流路57により接続されており、各流路57には圧力センサ62及び3方バルブ64が設けられている。各濾過ポート30の設置空間30a内の圧力は、各圧力センサ62により検知される。各3方バルブ64は、濾過ポート30と真空タンク66との間を接続した状態、流路57のうち濾過ポート30側を大気開放した状態(
図7の状態)、又は、流路57のうち濾過ポート30側の端部を密閉した状態のいずれかに切り替えることができる。また、各流路57の合流部(真空タンク66側の部分)には、圧力調整バルブ63が設けられている。
【0064】
真空タンク66には、圧力センサ68が接続されるとともに、3方バルブ70を介して真空ポンプ58が接続されている。したがって、3方バルブ70を切り替えることにより、必要に応じて真空タンク66に真空ポンプ58を接続し、真空タンク66内の圧力を調節することができる。
【0065】
いずれかの濾過ポート30において試料の抽出処理を実行する際には、その濾過ポート30と真空タンク66との間を接続し、当該濾過ポート30の設置空間30a内の圧力を検知する圧力センサ62の値が所定値となるように圧力調整バルブ63により調節する。圧力調整バルブ63は、設置空間30a内の圧力が設定された圧力値(設定値)となるように制御する。上記設定値は、後述する前処理装置1の制御部84により自動で設定されてもよいし、分析者により手動で設定されてもよい。その後、流路57のうち当該濾過ポート30側の端部を密閉した状態にする。これにより、濾過ポート30の設置空間30aが密閉系となり、設置空間30a内の減圧状態が維持されることによって、試料の抽出が行われる。
【0066】
再び
図2を参照すると、この前処理装置1には、回収容器54に抽出された試料をオートサンプラ101側に転送するための試料転送部42が備えられている。試料転送部42は、水平面内で一方向(
図2の矢印方向)に移動する移動部44を備えており、当該移動部44の上面に、回収容器54を設置するための転送ポート43が設けられている。移動部44は、例えばラックピニオン機構を有する駆動機構の動作により移動する。
【0067】
オートサンプラ101側への試料の転送を行っていないときには、搬送アーム24の保持部25の軌道上(
図2に実線で示されている位置)に転送ポート43が配置される。この状態で、搬送アーム24による転送ポート43への回収容器54の設置や、転送ポート43からの回収容器54の回収が行われる。
【0068】
オートサンプラ101側への試料の転送を行う際には、抽出された試料を収容している回収容器54が転送ポート43に設置された後、移動部44が前処理装置1の外側方向へ移動し、転送ポート43がオートサンプラ101に隣接する位置(
図2に破線で示されている位置)に配置される。この状態で、オートサンプラ101に設けられたサンプリング用のノズルにより、回収容器54内の試料が吸入される。
【0069】
オートサンプラ101による試料吸入が終了すると、移動部44は元の位置(
図2に実線で示されている位置)に戻され、搬送アーム24によって回収容器54が回収される。使用済みの回収容器54は、搬送アーム24によって廃棄ポート34に搬送され、廃棄される。廃棄ポート34は、搬送アーム24の保持部25の軌道上における分注ポート32の近傍に配置されており、使用済みの分離容器50及び回収容器54が廃棄される。
【0070】
サンプリングノズル20aの軌道上には、当該サンプリングノズル20aの洗浄を行うための洗浄ポート45が設けられている。なお、図示は省略されているが、試薬添加ノズル26aの軌道上には、当該試薬添加ノズル26aの洗浄を行うための洗浄ポートが設けられている。
【0071】
図8は、分析システムの電気的構成の一例を示すブロック図である。以下の説明において「ポート」とは、分離容器50又は回収容器54が設置される濾過ポート30、分注ポート32、攪拌ポート36a、温調ポート38,40及び転送ポート43などの複数種類のポートのうちのいずれかを意味している。
【0072】
前処理装置1に備えられている操作表示部1a、試料設置部2、試薬設置部8、容器保持部12、サンプリングアーム20、搬送アーム24、試薬アーム26、攪拌部36、試料転送部42及び負圧負荷機構55の動作は、制御部84により制御される。制御部84は、例えばCPU(Central Processing Unit)を含み、当該CPUがプログラムを実行することにより、前処理手段84a、処理状況管理手段84b、ランダムアクセス手段84c、入力受付手段84d、圧力値設定手段84e及び報知処理手段84fなどとして機能する。
【0073】
制御部84には、例えばパーソナルコンピュータ(PC)や専用のコンピュータにより構成される演算処理装置90が接続されており、分析者は演算処理装置90を介して前処理装置1を管理することができる。演算処理装置90には、前処理装置1だけでなく、前処理装置1で前処理が施された試料の分析を行うLC100及びMS200や、LC100への試料の注入を行うオートサンプラ101などが接続されており、演算処理装置90により、これらの装置を連動させて自動制御することができるようになっている。
【0074】
既述の通り、試料設置部2には複数の試料容器が設置されており、それらの試料容器に収容されている試料が分離容器50に順次分注され、その試料に対して実行されるべき前処理項目に対応するポートに分離容器50が搬送される。前処理手段84aは、各ポートに分離容器50又は回収容器54が設置されたときに、そのポートにおける所定の処理を実行する。
【0075】
ランダムアクセス手段84cは、各ポートにおける前処理の状況を確認し、そのポートでの前処理が終了した分離容器50を次の前処理を行うためのポートに搬送するように、搬送アーム24の動作を制御する。すなわち、ランダムアクセス手段84cは、各試料に対して次に行うべき前処理項目を確認し、その前処理項目に対応するポートの空き状況を確認し、空きがあればその試料を収容した分離容器50又は回収容器54を当該ポートに搬送させる。また、各試料に対して次に行うべき前処理項目に対応するポートの空きがない場合には、ランダムアクセス手段84cは、そのポートが空き次第、対象の分離容器50又は回収容器54を当該ポートに搬送させる。
【0076】
処理状況管理手段84bは、各ポートの空き状況や各ポートでの処理状況を管理する。各ポートの空き状況は、どのポートに分離容器50又は回収容器54を設置したかを記憶することにより管理することができる。また、各ポートに分離容器50又は回収容器54が設置されているか否かを検知するセンサを設け、そのセンサからの信号に基づいて各ポートの空き状況を管理してもよい。
【0077】
各ポートにおける処理状況は、そのポートに分離容器50又は回収容器54が設置されてから、当該ポートで実行される前処理に要する時間が経過したか否かにより管理することができる。転送ポート43における処理(オートサンプラ101による試料吸入)の状況については、オートサンプラ101側から試料吸入が終了した旨の信号を受信したか否かにより管理してもよい。
【0078】
ここで、濾過ポート30は2つ、攪拌ポート36aは3つ、温調ポート38,40はそれぞれ4つずつ設けられているが、これらの同じ前処理を実行するポート間には優先順位が設定されており、ランダムアクセス手段84cは優先順位の高いポートから順に使用するように構成されている。例えば、試料の濾過を実行する際に、2つの濾過ポート30がいずれも空いている場合には、優先順位の高い濾過ポート30に回収容器54が設置され、その回収容器54上に分離容器50が設置される。
【0079】
試料の分析を行う際には、分析者が操作表示部1aを操作することにより、前処理装置1の使用環境の温度又は標高を入力することができる。ただし、使用環境の温度又は標高の少なくとも一方は、分析者により入力されるような構成に限らず、例えばセンサにより入力されるような構成であってもよい。入力受付手段84dは、使用環境の温度又は標高の入力を受け付ける入力受付部であり、圧力値設定手段84eは、入力受付手段84dにより入力が受け付けられた使用環境の温度又は標高に基づいて、圧力調整バルブ63の圧力値を設定する。これにより、負圧負荷機構55は、圧力値設定手段84eにより設定された圧力値を設定値として、濾過ポート30の設置空間30a内の圧力を制御することとなる。
【0080】
圧力値設定手段84eによる圧力値の設定方法としては、いわゆるアントワンの式を用いた方法を例示することができる。アントワンの式は、下記式(1)により表される。ただし、Pは圧力[mmHg]、Tは温度[℃]、A,B,Cは定数である。
log
10P=A−B/(C+T) ・・・(1)
【0081】
例えば試料(濾過処理を行う溶液)がメタノールの場合、上記式(1)に含まれる定数は、A=8.07919、B=1581.341、C=239.65となる。したがって、前処理装置1の使用環境の温度が28℃の場合、標準大気圧を760[mmHg]=101.3[kPa]とすると、標準大気圧でのメタノール蒸気圧は、−81.5[kPa]のゲージ圧となる。すなわち、標準大気圧よりも81.5[kPa]だけ低い圧力が、試料が沸点に達しない圧力の下限値となる。
【0082】
このようにして算出された下限値、又は、当該下限値よりも所定量だけ高い圧力が、圧力調整バルブ63の設定値とされる。これにより、設置空間30a内に負圧を負荷して試料を抽出する際に、分離層52で分離した試料が回収容器54内で沸点に達しない圧力値を設定値として、濾過ポート30の設置空間30a内の圧力を制御することができる。これにより、設置空間30a内の圧力が試料の溶媒の蒸気圧よりも下がって溶媒が突沸するのを防ぐことができ、試料が抽出される過程で沸騰して外部に漏れ出すといったことがない。
【0083】
特に、本実施形態では、入力された使用環境の温度に基づいて適切な圧力値を設定し、その設定値に基づいて設置空間30a内の圧力を良好に制御することができる。この場合、上記のような蒸気圧と沸点温度との関係を表すアントワンの式を用いて圧力値を設定すれば、より適切な設定値で設置空間30a内の圧力を制御することができる。
【0084】
ゲージ圧を基準に圧力値を設定する場合には、使用環境の標高に応じてゲージ圧が変化する。例えば、前処理装置1が標高2000mの高地に設置された場合には、気圧が80.659[kPa]であり、メタノール蒸気圧は、−60.9[kPa]のゲージ圧となる。このような場合には、標準大気圧よりも60.9[kPa]だけ低い圧力が、試料が沸点に達しない圧力の下限値となる。したがって、当該下限値、又は、当該下限値よりも所定量だけ高い圧力を圧力調整バルブ63の設定値とすれば、使用環境の温度だけでなく標高も考慮して圧力値を設定することができる。これにより、より適切な設定値で設置空間30a内の圧力を制御することができる。
【0085】
報知処理手段84fは、圧力センサ62からの信号に基づいて、操作表示部1aに対する表示を制御することにより、設置空間30a内の圧力が設定値未満である旨を分析者に報知する。すなわち、報知処理手段84f及び操作表示部1aは、圧力センサ62により検知される圧力値が設定値未満となった場合に、その旨を報知する報知部を構成している。
【0086】
これにより、設置空間30a内の圧力値が設定値未満となった場合に、抽出された試料が設置空間30a内で沸騰するおそれがある旨を分析者に報知することができる。したがって、試料が沸騰していることに分析者が気付かないまま前処理が実行されるのを防止することができる。ただし、報知部は、表示により報知を行うような構成に限らず、例えば音声などの他の態様で報知を行うような構成であってもよい。
【0087】
図9A及び
図9Bは、前処理装置1の動作の一例を示すフローチャートである。
図9A及び
図9Bでは、1つの試料についての前処理の流れのみを示しており、この前処理の動作は他の試料の前処理動作と同時並行的にかつ独立して実行される。「前処理が同時並行的にかつ独立して実行される」とは、ある試料について各ポートで前処理が行われている間も、別の試料を収容した分離容器50又は回収容器54が搬送アーム24により他のポートに搬送され、その試料の前処理が独立して実行されることを意味している。
【0088】
まず、試料に対して分析者が予め指定した分析項目の確認が行われ(ステップS1)、その分析項目を実行するために必要な前処理項目が割り出される。そして、分注ポート32が空いているか否かが確認され、分注ポート32が空いていれば(ステップS2でYes)、その試料を収容するための未使用の分離容器50が搬送アーム24により容器保持部12から取り出され、当該分注ポート32に設置される(ステップS3)。このとき、容器保持部12には分離容器50と回収容器54が重ねられた状態(
図5の状態)で設置されているが、搬送アーム24は、上側の分離容器50のみを保持部25で保持して分注ポート32へ搬送する。
【0089】
その後、分注ポート32内の分離容器50に対して、サンプリングノズル20aにより試料が分注される(ステップS4)。分離容器50に試料を分注したサンプリングノズル20aは、洗浄ポート45において洗浄が行われた後、次の試料の分注に備えることとなる。試料が分注された分離容器50には、その試料に対して実行すべき前処理に応じた試薬が試薬添加ノズル26aにより試薬容器10から分注される(ステップS5)。なお、分離容器50への試薬の分注は、試料の分注の前に実行されてもよい。また、試薬を分注するための試薬分注用ポートを分注ポート32とは別の位置に設けて、その試薬分注用ポートに搬送アーム24で分離容器50を搬送し、当該試薬分注用ポートにおいて試薬の分注が行われるような構成であってもよい。
【0090】
このようにして分離容器50に試料及び試薬が分注された後、攪拌ポート36aの空き状況が確認される(ステップS6)。そして、攪拌ポート36aに空きがあれば(ステップS6でYes)、分注ポート32内の分離容器50が、その空いている攪拌ポート36aへと搬送アーム24により搬送され、攪拌処理が行われる(ステップS7)。この攪拌処理は、予め設定された一定時間だけ行われ、これにより分離容器50内の試料と試薬が混合される。
【0091】
攪拌処理中には、濾過ポート30の空き状況が確認される(ステップS8)。そして、濾過ポート30に空きがあれば(ステップS8でYes)、搬送アーム24により回収容器54を濾過ポート30へと搬送する(ステップS9)。このとき濾過ポート30に設置される回収容器54は、攪拌ポート36aにおいて攪拌中の分離容器50と対をなす回収容器54であり、容器保持部12において当該分離容器50と重ねた状態で設置されていた回収容器54である。なお、この攪拌処理中に、搬送アーム24により別の分離容器50や回収容器54を搬送することもできる。
【0092】
攪拌部36における攪拌処理が終了すると、搬送アーム24により攪拌ポート36aから濾過ポート30へと分離容器50が搬送され、
図6Dのように濾過ポート30内の回収容器54上に分離容器50が設置される(ステップS10)。このとき、分離容器50のスカート部51の下端が濾過ポート30の周囲に設けられた封止部材60の上面の高さよりも僅かに(例えば0.1mm程度)低くなるまで、分離容器50が搬送アーム24により設置空間30a側に押圧される。
【0093】
すなわち、搬送アーム24は、濾過ポート30の設置空間30a内に負圧が負荷される前に、設置空間30a内の分離容器50を設置空間30a側(下方)に押圧する押圧部を構成している。搬送アーム24は、設置空間30a内への負圧の負荷が開始されてから所定時間(例えば数秒〜数十秒)が経過するまで、分離容器50を押圧した状態で維持する。ただし、設置空間30a内に負圧が負荷されているときに分離容器50の押圧を開始し、その状態を所定時間(例えば数秒〜数十秒)が経過するまで維持するような構成であってもよい。
【0094】
このように、設置空間30a内に負圧が負荷される前、又は、負圧が負荷されているときに、設置空間30a内の分離容器50を搬送アーム24で設置空間30a側に押圧することにより、封止部材60がスカート部51の下端により押し潰される。これにより、スカート部51の下端と封止部材60との間の気密性が向上し、分離容器50の周囲に隙間が生じるのを防止することができる。したがって、上記隙間から設置空間30a内に空気が流入するのを防止することができるため、試料が抽出される過程で設置空間30aの気密状態を確保することができる。
【0095】
特に、本実施形態では、容器を搬送するための搬送アーム24を用いて、設置空間30a内の分離容器50を設置空間30a側に押圧することができるため、押圧部を別途設ける必要がない。したがって、構成を簡略化することができるとともに、製造コストを低減することができる。ただし、押圧部を搬送アーム24以外の部材により構成することも可能である。
【0096】
分離容器50及び回収容器54が設置された濾過ポート30の設置空間30aには、負圧負荷機構55によって所定の負圧が負荷される。濾過ポート30の設置空間30aに負圧が負荷された状態で一定時間維持されることにより、分離容器50の試料が濾過され、回収容器54に試料が抽出される(ステップS11)。この濾過処理中にも、搬送アーム24により別の分離容器50や回収容器54を搬送することができる。
【0097】
なお、この前処理動作には組み込まれていないが、分離容器50内の試料の攪拌処理後に、分離容器50内の試料を一定時間だけ一定温度下で維持する温調処理が組み込まれている場合もある。その場合には、攪拌処理の終了後、温調ポート38の空き状況が確認され、空きがあれば、その空いている温調ポート38に分離容器50が搬送される。そして、一定時間が経過した後、温調ポート38内の分離容器50が濾過ポート30へと搬送され、当該濾過ポート30内の回収容器54上に設置される。
【0098】
試料の濾過処理が終了した後、3方バルブ64(
図7参照)が切り替えられることにより、濾過ポート30の設置空間30a内が大気圧とされる。そして、使用済みの分離容器50は、搬送アーム24の保持部25により濾過ポート30から取り出され、廃棄ポート34に廃棄される(ステップS12)。
【0099】
その後、転送ポート43の空き状況が確認され、転送ポート43が空いていれば(ステップS13でYes)、濾過ポート30内の回収容器54が搬送アーム24により試料転送部42へと搬送され、転送ポート43上に設置される。そして、移動部44が、隣接配置されたオートサンプラ101側の位置(
図2で破線で示された位置)へ移動することにより、回収容器54がオートサンプラ101側へ転送される(ステップS14)。オートサンプラ101側では、試料転送部42から転送された回収容器54内に対して、サンプリング用ノズルによる試料の吸入が行われる。
【0100】
移動部44は、オートサンプラ101における試料吸入が終了するまでオートサンプラ101側の位置で停止しており、試料吸入が終了した旨の信号をオートサンプラ101から受信すると(ステップS15でYes)、元の位置(
図2に実線で示された位置)に戻る。試料の転送が終了した後、使用済みの回収容器54は、搬送アーム24により転送ポート43から回収され、廃棄ポート34に廃棄される(ステップS16)。
【0101】
なお、この前処理動作には組み込まれていないが、試料の濾過処理後に、回収容器54に抽出された試料を一定時間だけ一定温度下で維持する温調処理が組み込まれている場合もある。その場合には、温調ポート40の空き状況が確認され、空きがあれば、その空いている温調ポート40に回収容器54が搬送される。そして、一定時間が経過した後、温調ポート40内の回収容器54が転送ポート43へと搬送され、試料の転送が行われる。
【0102】
以上の実施形態では、
図2に示すように、容器ラック16に対して前処理キットが2列で保持されるような構成について説明した。しかし、容器ラック16は、前処理キットを1列で保持するような構成であってもよいし、3列以上で保持するような構成であってもよい。
【0103】
前処理装置1の制御部84と演算処理装置90は、別々に設けられた構成に限らず、1つの制御部によって分析システム全体の動作が制御されるような構成であってもよい。また、前処理装置1により前処理が施された後の試料は、LC100又はMS200に導入される構成に限らず、他の装置に導入されるような構成であってもよい。