特許第6281656号(P6281656)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6281656
(24)【登録日】2018年2月2日
(45)【発行日】2018年2月21日
(54)【発明の名称】車両用ブレーキ
(51)【国際特許分類】
   F16D 65/22 20060101AFI20180208BHJP
   B60T 13/74 20060101ALI20180208BHJP
   F16H 25/20 20060101ALI20180208BHJP
   F16H 1/08 20060101ALI20180208BHJP
   F16D 121/24 20120101ALN20180208BHJP
   F16D 125/40 20120101ALN20180208BHJP
   F16D 125/48 20120101ALN20180208BHJP
   F16D 125/60 20120101ALN20180208BHJP
【FI】
   F16D65/22
   B60T13/74 G
   F16H25/20 E
   F16H1/08
   F16D121:24
   F16D125:40
   F16D125:48
   F16D125:60
【請求項の数】2
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2017-129847(P2017-129847)
(22)【出願日】2017年6月30日
(62)【分割の表示】特願2016-195045(P2016-195045)の分割
【原出願日】2016年9月30日
(65)【公開番号】特開2017-172809(P2017-172809A)
(43)【公開日】2017年9月28日
【審査請求日】2017年7月7日
(31)【優先権主張番号】特願2015-209219(P2015-209219)
(32)【優先日】2015年10月23日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】301065892
【氏名又は名称】株式会社アドヴィックス
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】特許業務法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岩田 明大
(72)【発明者】
【氏名】石丸 善隆
(72)【発明者】
【氏名】玉田 悠貴郎
(72)【発明者】
【氏名】近田 崇
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 陽成
【審査官】 杉山 悟史
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−152044(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/053333(WO,A1)
【文献】 特表2003−510531(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/025010(WO,A1)
【文献】 特開2014−226005(JP,A)
【文献】 特表2014−504711(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 49/00 − 71/04
B60T 13/00 − 13/74
F16H 1/08
F16H 25/20
F16D 121/24
F16D 125/40
F16D 125/48
F16D 125/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホイールを制動すべく制動部材を移動させる作動部材と、
モータと、
前記モータによって回転される回転部材と、
雄ねじ部と雌ねじ部との噛み合いにより前記回転部材の回転に伴って直動し前記作動部材を移動させる直動部材と、
少なくとも前記回転部材を収容したハウジングと、
前記ハウジングまたは前記ハウジングに支持された部材に設けられたスラスト面と、
前記回転部材を前記スラスト面に押し付ける押圧部材と、
を備え、
前記スラスト面は、前記ホイールの制動時に前記回転部材からその制動にかかる反力を受ける面であり、
前記押圧部材は、前記ホイールが制動状態となる制動位置から前記ホイールが非制動状態となる非制動位置に向けて前記直動部材が動くときに、前記回転部材に前記スラスト面側への軸力を与え、
前記作動部材は、前記直動部材に引かれて移動し、前記ホイールを制動させる、車両用ブレーキ。
【請求項2】
前記押圧部材は、前記回転部材と噛み合い当該回転部材を前記スラスト面に押し付けるヘリカルギヤである、請求項1に記載の車両用ブレーキ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、車両用ブレーキに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、運動変換機構においてモータの回転をケーブルの直動に変換し、直動するケーブルによってブレーキシューを動かすことにより制動状態を得る車両用ブレーキが知られている(例えば、特許文献1)。特許文献1では、例えば、運動変換機構の回転部材とハウジングとの間で皿ばねが圧縮されることにより、モータの回転負荷が高まるよう構成されている。この場合、制御装置は、モータの回転負荷に応じた駆動電流により、例えば、直動部材やケーブルが、所定位置、例えば可動範囲の境界位置にあることを、検知することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2014−504711号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の皿ばねを回転部材とハウジングとの間で圧縮する構成では、例えば、皿ばねの位置によっては車両用ブレーキが大型化するなどの、不都合が生じる虞もあった。そこで、本発明の課題の一つは、例えば、より不都合の少ない新規な構成を有した車両用ブレーキを得ることである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の車両用ブレーキは、例えば、ホイールを制動すべく制動部材を移動させる作動部材と、モータと、前記モータによって回転される回転部材と、雄ねじ部と雌ねじ部との噛み合いにより前記回転部材の回転に伴って直動し前記作動部材を移動させる直動部材と、少なくとも前記回転部材を収容したハウジングと、前記ハウジングまたは前記ハウジングに支持された部材に設けられたスラスト面と、前記回転部材を前記スラスト面に押し付ける押圧部材と、を備え、前記スラスト面は、前記ホイールの制動時に前記回転部材からその制動にかかる反力を受ける面であり、前記押圧部材は、前記ホイールが制動状態となる制動位置から前記ホイールが非制動状態となる非制動位置に向けて前記直動部材が動くときに、前記回転部材に前記スラスト面側への軸力を与え、前記作動部材は、前記直動部材に引かれて移動し、前記ホイールを制動させる。
【0006】
上記車両用ブレーキによれば、例えば、押圧部材によって、回転部材がスラスト面に押し付けられることにより、回転部材の位置や姿勢の変化が抑制され、ひいては回転部材の位置や姿勢の変化に基づく音や振動が生じ難い。
【0007】
また、上記車両用ブレーキでは、例えば、上記押圧部材は、上記回転部材と噛み合い当該回転部材を上記スラスト面に押し付けるヘリカルギヤである。よって、例えば、ヘリカルギヤを有した比較的簡素な構成によって押圧部材を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、実施形態の車両用ブレーキの車両後方からの例示的かつ模式的な背面図である。
図2図2は、実施形態の車両用ブレーキの車幅方向外方からの例示的かつ模式的な側面図である。
図3図3は、実施形態の車両用ブレーキの移動機構による制動部材の動作の例示的かつ模式的な側面図であって、非制動状態での図である。
図4図4は、実施形態の車両用ブレーキの移動機構による制動部材の動作の例示的かつ模式的な側面図であって、制動状態での図である。
図5図5は、第1実施形態の車両用ブレーキに含まれる駆動機構の例示的かつ模式的な断面図であって、非制動状態での図である。
図6図6は、第1実施形態の車両用ブレーキに含まれる駆動機構の例示的かつ模式的な断面図であって、制動状態での図である。
図7図7は、図5のVII−VII断面図である。
図8図8は、第2実施形態の車両用ブレーキに含まれる駆動機構の例示的かつ模式的な断面図である。
図9図9は、第1実施形態の変形例の車両用ブレーキに含まれる駆動機構の例示的かつ模式的な断面図である。
図10図10は、第3実施形態の車両用ブレーキに含まれる駆動機構の例示的かつ模式的な断面図であって、非制動状態での図である。
図11図11は、図10の一部の拡大図である。
図12図12は、第3実施形態の変形例の車両用ブレーキに含まれる駆動機構の一部の例示的かつ模式的な断面図である。
図13図13は、第3実施形態の図12とは別の変形例の車両用ブレーキに含まれる駆動機構の一部の例示的かつ模式的な断面図である。
図14図14は、第3実施形態の図12,13とは別の変形例の車両用ブレーキに含まれる駆動機構の一部の例示的かつ模式的な断面図である。
図15図15は、第3実施形態の図12〜14とは別の変形例の車両用ブレーキに含まれる駆動機構の一部の例示的かつ模式的な断面図である。
図16図16は、第3実施形態の図12〜15とは別の変形例の車両用ブレーキに含まれる駆動機構の一部の例示的かつ模式的な断面図である。
図17図17は、Rと相対値Tl/Ttとの相関関係を示す例示的かつ模式的なグラフである。
図18図18は、μeと相対値Tl/Ttとの相関関係を示す例示的かつ模式的なグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の例示的な実施形態が開示される。以下に示される実施形態の構成、ならびに当該構成によってもたらされる作用および結果(効果)は、一例である。本発明は、以下の実施形態に開示される構成以外によっても実現可能である。また、本発明によれば、構成によって得られる種々の効果(派生的な効果も含む)のうち少なくとも一つを得ることが可能である。
【0010】
以下の実施形態や変形例には、同様の構成要素が含まれている。よって、以下では、同様の構成要素には共通の符号が付与されるとともに、重複する説明が省略される場合がある。また、本明細書において、序数は、部品や部位等を区別するために便宜上付与されており、優先順位や順番を示すものではない。
【0011】
また、図1〜4では、便宜上、車両前後方向の前方が矢印Xで示され、車幅方向(車軸方向)の外方が矢印Yで示され、車両上下方向の上方が矢印Zで示される。
【0012】
また、以下では、車両用ブレーキの一例であるブレーキ装置2が、左側の後輪(非駆動輪)に適用された場合が例示されるが、本発明は、他の車輪にも同様に適用可能である。
【0013】
(第1実施形態)
(ブレーキ装置の構成)
図1は、ブレーキ装置2の車両後方からの背面図である。図2は、ブレーキ装置2の車幅方向外方からの側面図である。図3は、ブレーキ装置2の移動機構8によるブレーキシュー3(制動部材)の動作を示す側面図であって、非制動状態での図である。図4は、ブレーキ装置2の移動機構8によるブレーキシュー3の動作を示す側面図であって、制動状態での図である。
【0014】
図1に示されるように、ブレーキ装置2は、円筒状のホイール1の周壁1aの内側に収容されている。ブレーキ装置2は、所謂ドラムブレーキである。図2に示されるように、ブレーキ装置2は、前後に離間した二つのブレーキシュー3を備えている。二つのブレーキシュー3は、図3,4に示されるように、円筒状のドラム4の内周面4aに沿って円弧状に伸びている。ドラム4は、車幅方向(Y方向)に沿う回転中心C回りに、ホイール1と一体に回転する。ブレーキ装置2は、二つのブレーキシュー3を、円筒状のドラム4の内周面4aに接触するよう移動させる。これにより、ブレーキシュー3とドラム4との摩擦によって、ドラム4ひいてはホイール1が制動される。ブレーキシュー3は、制動部材の一例である。
【0015】
ブレーキ装置2は、ブレーキシュー3を動かすアクチュエータとして、油圧によって動作するホイールシリンダ51(図2参照)と、通電によって作動するモータ120(図5参照)と、を備えている。ホイールシリンダ51およびモータ120は、それぞれ、二つのブレーキシュー3を動かすことができる。ホイールシリンダ51は、例えば、走行中の制動に用いられ、モータ120は、例えば、駐車時の制動に用いられる。すなわち、ブレーキ装置2は、電動パーキングブレーキの一例である。なお、モータ120は、走行中の制動に用いられてもよい。
【0016】
ブレーキ装置2は、図1,2に示されるように、円盤状のバックプレート6を備えている。バックプレート6は、回転中心Cと交差した姿勢で設けられる。すなわち、バックプレート6は、回転中心Cと交差する方向に略沿って、具体的には回転中心Cと直交する方向に略沿って、広がっている。図1に示されるように、ブレーキ装置2の構成部品は、バックプレート6の車幅方向の外側および内側の双方に設けられている。バックプレート6は、ブレーキ装置2の各構成部品を直接的または間接的に支持する。すなわち、バックプレート6は、支持部材の一例である。また、バックプレート6は、車体との不図示の接続部材と接続される。接続部材は、例えば、サスペンションの一部(例えば、アーム、リンク、取付部材等)である。図2に示されるバックプレート6に設けられた開口部6bは、接続部材との結合に用いられる。なお、ブレーキ装置2は、駆動輪および非駆動輪のいずれにも用いることができる。なお、ブレーキ装置2が駆動輪に用いられる場合、図2に示されるバックプレート6に設けられた開口部6cを不図示の車軸が貫通する。
【0017】
<ホイールシリンダによるブレーキシューの作動>
図2に示されるホイールシリンダ51や、ブレーキシュー3等は、バックプレート6の車幅方向外方に配置されている。ブレーキシュー3は、バックプレート6に移動可能に支持されている。具体的には、図3に示されるように、ブレーキシュー3の下端部3aが、回転中心C11回りに回転可能に、バックプレート6(図2参照)に支持されている。回転中心C11は、ホイール1の回転中心Cと略平行である。また、図2に示されるように、ホイールシリンダ51は、バックプレート6の上端部に支持されている。ホイールシリンダ51は、車両前後方向(図2の左右方向)に突出可能な二つの不図示の可動部(ピストン)を有する。ホイールシリンダ51は、加圧に応じて、二つの可動部を突出させる。突出した二つの可動部は、それぞれ、ブレーキシュー3の上端部3bを押す。二つの可動部の突出により、二つのブレーキシュー3は、それぞれ、回転中心C11(図3,4参照)回りに回転し、上端部3b同士が車両前後方向に互いに離間するように移動する。これにより、二つのブレーキシュー3は、ホイール1の回転中心Cの径方向外方に移動する。各ブレーキシュー3の外周部には、円筒面に沿う帯状のライニング31が設けられている。よって、二つのブレーキシュー3の、回転中心Cの径方向外方への移動により、図4に示されるように、ライニング31とドラム4の内周面4aとが接触する。ライニング31と内周面4aとの摩擦によって、ドラム4ひいてはホイール1(図1参照)が制動される。また、図2に示されるように、ブレーキ装置2は、復帰部材32を備えている。復帰部材32は、ホイールシリンダ51によるブレーキシュー3を押す動作が解除された場合に、二つのブレーキシュー3を、ドラム4の内周面4aと接触する位置(制動位置Pb、図4参照)からドラム4の内周面4aと接触しない位置(非制動位置Pn、初期位置、図3参照)へ動かす。復帰部材32は、例えば、コイルスプリング等の弾性部材であり、各ブレーキシュー3に、もう一方のブレーキシュー3に近付く方向の力、すなわち、ドラム4の内周面4aから離れる方向の力を与える。
【0018】
(移動機構の構成および移動機構によるブレーキシューの作動)
また、ブレーキ装置2は、図3,4に示される移動機構8を備えている。移動機構8は、モータ120を含む駆動機構100(図5参照)の作動に基づいて、二つのブレーキシュー3を非制動位置Pnから制動位置Pbに移動させる。移動機構8は、バックプレート6の車幅方向外方に設けられている。移動機構8は、レバー81と、ケーブル82と、ストラット83と、を有する。レバー81は、二つのブレーキシュー3のうち一方、例えば図3,4では左側のブレーキシュー3Lと、バックプレート6との間で、当該ブレーキシュー3Lおよびバックプレート6にホイール1の回転中心Cの軸方向に重なるように、設けられている。また、レバー81は、ブレーキシュー3Lに、回転中心C12回りに回転可能に支持されている。回転中心C12は、ブレーキシュー3Lの、回転中心C11から離れた側(図3,4では上側)の端部に位置され、回転中心C11と略平行である。ケーブル82は、レバー81の、回転中心C12から遠い側の下端部81aを、他方、例えば図3,4では右側のブレーキシュー3Rに近付く方向に、動かす。ケーブル82は、バックプレート6に略沿って移動する。また、ストラット83は、レバー81と当該レバー81が支持されるブレーキシュー3Lとは別のブレーキシュー3Rとの間に介在し、レバー81と当該別のブレーキシュー3Rとの間で突っ張る。また、レバー81とストラット83との接続位置P1は、回転中心C12と、ケーブル82とレバー81との接続位置P2と、の間に設定されている。ケーブル82は、ブレーキシュー3を移動させる作動部材の一例である。
【0019】
このような移動機構8において、ケーブル82が引かれて図4の右方へ動くことにより、レバー81が、ブレーキシュー3Rに近付く方向へ動くと(矢印a)、レバー81はストラット83を介してブレーキシュー3Rを押す(矢印b)。これにより、ブレーキシュー3Rは、非制動位置Pn(図3)から回転中心C11回りに回転し(図4の矢印c)、ドラム4の内周面4aと接触する制動位置Pb(図4)へ動く。この状態では、ケーブル82とレバー81との接続位置P2は力点、回転中心C12は支点、レバー81とストラット83との接続位置P1は作用点に相当する。さらに、ブレーキシュー3Rが、内周面4aに接触した状態で、レバー81が図4の右方、すなわち、ストラット83がブレーキシュー3Rを押す方向へ動くと(矢印b)、ストラット83が突っ張ることにより、レバー81はストラット83との接続位置P1を支点として、レバー81の動く方向とは逆方向、すなわち、図3,4での反時計回りに回転する(矢印d)。これにより、ブレーキシュー3Lは、非制動位置Pn(図3)から回転中心C11回りに回転し、ドラム4の内周面4aと接触する制動位置Pb(図4)へ動く。このようにして、移動機構8の作動により、ブレーキシュー3L,3Rは、いずれも非制動位置Pn(図3)から制動位置Pb(図4)へ動く。なお、ブレーキシュー3Rがドラム4の内周面4aに接触した以降の状態では、レバー81とストラット83との接続位置P1が支点となる。なお、ブレーキシュー3L,3Rの移動量は微少であって、例えば、1mm以下である。
【0020】
(駆動機構)
図5は、駆動機構100の非制動状態での断面図である。図6は、駆動機構100の制動状態での断面図である。
【0021】
図1,5,6に示される駆動機構100は、上述した移動機構8を介して、二つのブレーキシュー3を、非制動位置Pnから制動位置Pbへ動かす。駆動機構100は、バックプレート6の車幅方向内方に位置され、バックプレート6に固定されている。図2〜4に示されるケーブル82は、バックプレート6に設けられた不図示の開口部を貫通している。
【0022】
図5に示されるように、駆動機構100は、ハウジング110、モータ120、減速機構130、および運動変換機構140を備えている。
【0023】
ハウジング110は、モータ120、減速機構130、および運動変換機構140を支持している。ハウジング110は、複数の部材を含んでいる。複数の部材は、例えばねじ等の不図示の結合具によって結合され、一体化されている。ハウジング110内には、壁部111によって囲まれた収容室Rが設けられている。モータ120、減速機構130、および運動変換機構140は、収容室R内に収容され、壁部111によって覆われている。ハウジング110は、ベースや、支持部材、ケーシング等と称されうる。なお、ハウジング110の構成は、ここで例示されたものには限定されない。
【0024】
モータ120は、アクチュエータの一例であって、ケース121と、ケース121内に収容された収容部品と、を有する。収容部品には、例えば、シャフト122の他、ステータや、ロータ、コイル、磁石(不図示)等が含まれる。シャフト122は、ケース121から、モータ120の第一の回転中心Ax1に沿ったD1方向(図5の右方)に突出している。モータ120は、制御信号に基づく駆動電力によって駆動され、シャフト122を回転させる。シャフト122は、出力シャフトと称されうる。なお、以下では、説明の便宜上、図5での右方はD1方向の前方と称され、図5での左方はD1方向の後方またはD1方向の反対方向と称される。
【0025】
減速機構130は、ハウジング110に回転可能に支持された複数のギヤを含む。複数のギヤは、例えば、第一ギヤ131、第二ギヤ132、および第三ギヤ133である。減速機構130は、回転伝達機構と称されうる。
【0026】
第一ギヤ131は、モータ120のシャフト122と一体に回転する。第一ギヤ131は、ドライブギヤと称されうる。
【0027】
第二ギヤ132は、第一の回転中心Ax1と平行な第二の回転中心Ax2周りに回転する。第二ギヤ132は、入力ギヤ132aと出力ギヤ132bとを含む。入力ギヤ132aは、第一ギヤ131と噛み合っている。入力ギヤ132aの歯数は、第一ギヤ131の歯数よりも多い。よって、第二ギヤ132は、第一ギヤ131よりも低い回転速度に減速される。出力ギヤ132bは、入力ギヤ132aに対してD1方向の後方(図5では左方)に位置されている。第二ギヤ132は、アイドラギヤと称されうる。
【0028】
第三ギヤ133は、第一の回転中心Ax1と平行な第三の回転中心Ax3周りに回転する。第三ギヤ133は、第二ギヤ132の出力ギヤ132bと噛み合っている。第三ギヤ133の歯数は、出力ギヤ132bの歯数よりも多い。よって、第三ギヤ133は、第二ギヤ132よりも低い回転速度に減速される。第三ギヤ133は、ドリブンギヤと称されうる。なお、減速機構130の構成は、ここで例示されたものには限定されない。減速機構130は、例えば、ベルトやプーリ等を用いた回転伝達機構のような、ギヤ機構以外の回転伝達機構であってもよい。
【0029】
運動変換機構140は、回転部材141と、直動部材142とを有している。
【0030】
回転部材141は、第三の回転中心Ax3回りに回転する。回転部材141は、小径部141aと、小径部141aよりも外径の大きい大径部141bと、を有する。小径部141aは、回転部材141のうちD1方向の反対方向に位置された部位であり、筒状に構成されている。大径部141bは、回転部材141のうちD1方向に位置された部位である。大径部141bは、底壁部141b1と、側壁部141b2とを有する。底壁部141b1は、小径部141aのD1方向の端部から径方向に張り出し、円環状かつ板状に構成されている。側壁部141b2は、底壁部141b1の周縁部からD1方向に延び、円筒状に構成されている。側壁部141b2は、周壁部、筒状壁部と称されうる。大径部141bには、D1方向に向けて開放された凹部141b3が設けられている。
【0031】
大径部141bの側壁部141b2には、第三ギヤ133の歯が設けられている。すなわち、回転部材141は、第三ギヤ133でもある。第三ギヤ133の歯が設けられた部位は、被駆動部の一例である。凹部141b3内には、ハウジング110の筒状部112が収容されている。凹部141b3内では、筒状部112のD1方向の反対方向の端部112aと底壁部141b1との間に、スラストベアリング143が位置されている。スラストベアリング143は、第三の回転中心Ax3の軸方向の荷重を受ける。スラストベアリング143は、図5の例では、スラストころ軸受であるが、これには限定されない。大径部141bひいては回転部材141は、ハウジング110に、スラストベアリング143を介して回転可能に支持されている。
【0032】
小径部141aは、ハウジング110の第一孔部113aに収容されている。第一孔部113aの断面は略円形である。第一孔部113aは、第三の回転中心Ax3の軸方向に沿って延びている。
【0033】
回転部材141には、小径部141aおよび底壁部141b1を貫通する円形断面の貫通孔141cが設けられている。貫通孔141cには、雌ねじ部145aが設けられている。
【0034】
直動部材142は、第三の回転中心Ax3に沿って延び、回転部材141を貫通している。直動部材142は、棒状部142aと、連結部142bとを有する。
【0035】
棒状部142aは、回転部材141の貫通孔141c、回転部材141の大径部141bの凹部141b3、およびハウジング110の筒状部112に設けられた第二孔部113b内に挿入されている。第二孔部113bの断面は、略円形である。第二孔部113bは、第一孔部113aに対してD1方向の前方に位置され、第三の回転中心Ax3の軸方向に沿って延びている。棒状部142aの断面は略円形である。棒状部142aには、回転部材141の雌ねじ部145aと噛み合う雄ねじ部145bが設けられている。
【0036】
連結部142bは、連結部材146によって、ケーブル82の端部82aと連結されている。連結部材146は、図7に示されるように、ケーブル82の端部82aおよび連結部142bを貫通している。連結部材146は、例えばピンである。
【0037】
図7は、図5のVII−VII断面図である。図7に示されるように、ハウジング110の筒状部112に設けられた第二孔部113bの内面には、溝部113eが設けられている。溝部113eは、第三の回転中心Ax3に沿って略一定の幅および深さで延びている。溝部113eは、第三の回転中心Ax3を挟んだ二箇所に設けられている。溝部113eには、連結部材146の長手方向の端部が挿入されている。溝部113eの第三の回転中心Ax3の周方向の幅は、連結部材146の長手方向の端部の幅よりも、僅かに大きく設定されている。よって、連結部材146と溝部113eの周方向の面とが当接することにより、連結部材146ひいては直動部材142の第三の回転中心Ax3回りの回転が制限される。また、図6に示されるように、連結部材146は、凹部141b3内に移動可能である。すなわち、連結部材146は、直動部材142が制動位置Pbに位置されている状態で、凹部141b3内に位置されている。また、図7に示される溝部113eのD1方向の面113dは、連結部材146がD1方向に移動するのを制限している。面113dは、ストッパや、位置制限部と称されうる。なお、直動部材142とケーブル82とを結合する構造は、図7の例には限定されない。
【0038】
このような構成において、モータ120のシャフト122の回転が、減速機構130を介して回転部材141に伝達され、回転部材141が回転すると、回転部材141の雌ねじ部145aと直動部材142の雄ねじ部145bとの噛み合い、および溝部113eにおけるハウジング110による直動部材142の回転の制限により、直動部材142は、第三の回転中心Ax3の軸方向に沿って非制動位置Pn(図5)と制動位置Pb(図6)との間で移動する。
【0039】
ハウジング110の筒状部112のうち、溝部113eが設けられた部位は、連結部材146ひいては直動部材142の第三の回転中心Ax3回りの回転を制限する回転制限部の一例であり、連結部材146ひいては直動部材142を第三の回転中心Ax3の軸方向に沿って案内するガイド部の一例でもある。
【0040】
(モータ回転負荷増大機構)
図5に示されるように、直動部材142のD1方向の後方(図5の左方)の端部には、ねじ等の結合具153によって、円板状の支持部材152が結合されている。第一孔部113aにおいて、支持部材152と大径部141bの底壁部141b1との間には、コイルスプリング151が設けられている。コイルスプリング151は、小径部141aおよび直動部材142を囲う状態で第三の回転中心Ax3に沿って延びる螺旋状に構成されている。コイルスプリング151は、第一の弾性部材の一例である。コイルスプリング151は、付勢部材や、反発部材と称されうる。弾性部材は、例えばエラストマ等、コイルスプリング以外の弾性部材であってもよい。
【0041】
モータ120の回転によって、直動部材142がD1方向の前方(図5の右方)へ移動した場合において、例えば、連結部材146と図7に例示される面113dとの接触によって、直動部材142のD1方向への移動が制限されると、回転部材141は、モータ120の回転駆動によって回転しようとするのにも拘わらず、直動部材142のD1方向への移動(直動)が制限される状態となる。このため、回転部材141は、回転部材141の雌ねじ部145aと直動部材142の雄ねじ部145bとの噛み合いにより、直動部材142からD1方向の後方(図5の左方)へ反力を受ける。この場合、本実施形態では、コイルスプリング151が、直動部材142と一体化された支持部材152と回転部材141の底壁部141b1とによって挟まれ、弾性的に圧縮される。コイルスプリング151の弾性的な圧縮反力の増大により、雌ねじ部145aおよび雄ねじ部145bにおけるねじ面の法線方向の力が増大するため、雌ねじ部145aと雄ねじ部145bとの摩擦抵抗トルクが増大し、これによりモータ120の負荷トルクが増大する。したがって、例えば、モータ120の制御装置(不図示)は、モータ120の駆動電流等によって負荷トルクを検出することにより、直動部材142のD1方向の前方への移動が制限された所定状態であることを検知することができる。すなわち、本実施形態では、主として回転部材141に軸方向に弾性的な反力を与える弾性部材としてのコイルスプリング151によって、モータ回転負荷増大機構が構成されている。
【0042】
以上説明したように、本実施形態では、回転部材141と直動部材142とが、モータ回転負荷増大機構を構成する第一の弾性部材としてのコイルスプリング151を、弾性的に圧縮する。よって、本実施形態によれば、例えば、第一の弾性部材の位置の制約によって他の部品も含めた部品のレイアウトの自由度が低下したり、第一の弾性部材の圧縮反力を受けるための剛性を高めるためにハウジング110の壁部111の厚みを局所的に増大したりといった、回転部材141とハウジング110との間で第一の弾性部材が圧縮される構成によって生じていた不都合な事象を、回避できる。
【0043】
また、本実施形態では、図5に示されるように、コイルスプリング151は、直動部材142、回転部材141の小径部141a、および雌ねじ部145aを囲うように設けられている。よって、本実施形態によれば、例えば、直動部材142、小径部141a、雌ねじ部145a、およびコイルスプリング151を、比較的近付けて配置することができる。よって、例えば、この部分における部品の密集度が高まりやすい。よって、駆動機構100、ひいてはブレーキ装置2が、より小型にされやすい。
【0044】
また、本実施形態では、第一の弾性部材としてコイルスプリング151を用いることで、第一の弾性部材、駆動機構100、ひいてはブレーキ装置2の製造の手間やコストが、より低減されやすい。
【0045】
(第2実施形態)
図8に示される本実施形態の駆動機構100Aは、第1実施形態の駆動機構100と同様の構成を備えている。よって、本実施形態によっても、上記第1実施形態と同様の構成に基づく同様の結果が得られる。
【0046】
ただし、本実施形態では、第一の弾性部材として、板バネ151Aが設けられている。また、支持部材152Aは、カップ状に構成され、底壁部152aと、側壁部152bとを有している。底壁部152aは、円板状に構成され、直動部材142のD1方向の後方(図8の左方)の端部に、ねじ等の結合具153によって結合されている。側壁部152bは、筒状であり、底壁部152aの周縁部からD1方向に延びている。第一孔部113aにおいて、支持部材152Aの側壁部152bのD1方向の端部と大径部141bの底壁部141b1との間に、板バネ151Aが設けられている。なお、側壁部152bには、D1方向の端部からD1方向の反対方向に延びるスリットや、貫通孔等の開口部が設けられてもよい。
【0047】
本実施形態によっても、回転部材141と直動部材142とが弾性部材を弾性的に圧縮する構成による効果が得られ、回転部材141とハウジング110との間で弾性部材が圧縮される構成によって生じていた不都合な事象を、回避できる。
【0048】
(第1実施形態の変形例)
図9に示される変形例の駆動機構100Bは、第1実施形態の駆動機構100と同様の構成を備えている。よって、本変形例によっても、上記第1実施形態と同様の構成に基づく同様の結果が得られる。
【0049】
ただし、本変形例では、ハウジング110が、壁部111と壁部114とを含む。壁部114は、壁部111と着脱可能に一体化されている。壁部114を含む部分は、例えば、不図示のねじ等の結合具によって、壁部111と一体化されうる。また、例えば、壁部114を含む部分には、不図示の雄ねじ部または雌ねじ部が設けられ、壁部111を含む部分に設けられた雌ねじ部または雄ねじ部と噛み合って一体化されるよう、構成されうる。壁部111を含む部分は、第一部材、第一部分、第一分割体と称され、壁部114を含む部分は、第二部材、第二部分、第二分割体と称されうる。
【0050】
そして、壁部114を含む部分が、壁部111を含む部分と分離された状態で、直動部材142に結合された支持部材152Bが露出するよう、構成されている。支持部材152Bには、例えば、工具や治具等を差し込むことが可能な不図示の嵌合穴が設けられうる。よって、緊急時等において、回転部材141がロックされているような状態にあっても、作業者は、支持部材152Bに設けられた嵌合穴に工具や治具を嵌めて回すことにより、直動部材142を動かすことができる。なお、支持部材152Bは、手指で回すことができるよう構成されてもよい。
【0051】
また、本変形例では、支持部材152Bが周方向の複数箇所で部分的に径方向に突出し、当該突出部分が、ハウジング110の壁部111と壁部114とに連なって設けられた溝部113eに挿入されている。すなわち、本変形例では、上記第1実施形態の図7に示された構成に替えて、支持部材152Bを含むガイド部および回転制限部が構成されている。すなわち、ハウジング110の壁部111および壁部114のうち、溝部113eが設けられた部位は、支持部材152Bひいては直動部材142の第三の回転中心Ax3回りの回転を制限する回転制限部の一例であり、支持部材152Bひいては直動部材142を第三の回転中心Ax3の軸方向に沿って案内するガイド部の一例でもある。
【0052】
(第3実施形態)
図10は、駆動機構100Cの非制動状態での断面図である。図10に示される本実施形態の駆動機構100Cは、第1実施形態の駆動機構100と同様の構成を備えている。よって、本実施形態によっても、上記第1実施形態と同様の構成に基づく同様の結果が得られる。
【0053】
本実施形態では、回転部材141の構成が、上記実施形態や変形例とは異なっている。回転部材141は、第三の回転中心Ax3回りに回転する。回転部材141は、小径部141aと、小径部141aから径方向外方に張り出したフランジ141eと、フランジ141eから軸方向に延びた周壁141dと、を有する。小径部141aは、D1方向に伸びた筒状に構成されており、当該D1方向にフランジ141eを貫通している。フランジ141eは、小径部141aのD1方向の中央位置から、第三の回転中心Ax3の径方向に円板状に張り出している。また、周壁141dは、フランジ141eの外縁からD1方向に円筒状に延びている。なお、小径部141aは、ハブとも称されうる。また、フランジ141eは、大径部141bまたは底壁部141b1と同様に機能する。
【0054】
周壁141dの外周には、第三ギヤ133の歯が設けられている。すなわち、回転部材141は、第三ギヤ133でもある。第三ギヤ133を軸方向に延びた周壁141dに設けることにより、第三ギヤ133および第二ギヤ132の出力ギヤ132bの面圧を低減することができる。第三ギヤ133の歯が設けられた部位は、被駆動部の一例である。
【0055】
第一ギヤ131、第二ギヤ132、および第三ギヤ133の少なくとも歯部、あるいは全部は、合成樹脂材料によって構成することができる。ただし、これには限定されず、第一ギヤ131、第二ギヤ132、および第三ギヤ133のうち少なくとも一つは、部分的あるいは全体的に金属材料で構成されてもよい。
【0056】
小径部141aは、筒状部112の先端部に収容された円筒状のラジアルベアリング144に挿入されている。小径部141aひいては回転部材141は、ハウジング110に、ラジアルベアリング144を介して回転可能に支持されている。ラジアルベアリング144は、図5の例では、メタルブッシュであるが、これには限定されない。
【0057】
棒状部142aは、ハウジング110の第一孔部113a、回転部材141の貫通孔141c、およびハウジング110の筒状部112に設けられた第二孔部113b内に挿入されている。第二孔部113bの断面は、非円形である。例えば、第二孔部113bの断面は、第三の回転中心Ax3と直交する方向(図5では、紙面の上下方向)に長い長孔状に形成されている。第二孔部113bは、第一孔部113aに対してD1方向の前方に位置され、第三の回転中心Ax3の軸方向に沿って延びている。棒状部142aの断面は略円形である。棒状部142aには、回転部材141の雌ねじ部145aと噛み合う雄ねじ部145bが設けられている。
【0058】
また、筒状部112には、第二孔部113bに面した筒状の内面113cが設けられている。内面113cの断面は、第二孔部113bの長孔状の断面に沿った形状である。内面113cは、第三の回転中心Ax3と直交する方向に延びた平面状の二つのガイド面113ca(図10では、一方のガイド面113caだけが示されている)を有している。二つのガイド面113caは、互いに間隔を空けて位置され、二つのガイド面113caの間に、直動部材142が位置されている。他方、直動部材142の例えば棒状部142aからは、第三の回転中心Ax3の径方向の外方に向けて突起142cが突出している。突起142cの外周は、内面113cに沿った形状に形成されている。突起142cと内面113cとの間には、隙間が設けられ、当該隙間には、グリスが設けられている。突起142cとガイド面113caとが当接することにより、突起142cひいては直動部材142の第三の回転中心Ax3回りの回転が制限される。また、突起142cとガイド面113caとが当接した状態で、ガイド面113caは、突起142cひいては直動部材142を第三の回転中心Ax3の軸方向にガイドする。
【0059】
このような構成において、モータ120のシャフト122の回転が、減速機構130を介して回転部材141に伝達され、回転部材141が回転すると、回転部材141の雌ねじ部145aと直動部材142の雄ねじ部145bとの噛み合い、およびガイド面113caによる直動部材142の回転の制限により、直動部材142は、第三の回転中心Ax3の軸方向に沿って非制動位置Pn(図10)と制動位置(不図示)との間で移動する。
【0060】
図11は、図10の一部の拡大図である。本実施形態では、第二ギヤ132の出力ギヤ132bおよび第三ギヤ133は、ヘリカルギヤとして構成されている。出力ギヤ132bは、螺旋状の歯によって、その回転方向に応じて、第三ギヤ133に、D1方向の前方または後方に向けた軸力を与える。
【0061】
一例として、出力ギヤ132bは、一の回転方向に回転することにより、回転部材141にD1方向の前方への軸力を与える。この場合、出力ギヤ132bは、回転部材141のフランジ141eの端面141e1を、スラストベアリング143の面143aに押し付けるとともに、回転部材141およびスラストベアリング143を、筒状部112のD1方向の後方の端部112a(端面)に押し付ける。端面141e1は、被押圧面と称されうる。
【0062】
また、出力ギヤ132bは、上記一の回転方向とは反対の方向(他の回転方向)に回転することにより、回転部材141にD1方向の後方への軸力を与える。この場合、出力ギヤ132bは、回転部材141の周壁141dの端面141d1を、ハウジング110の端面111aに押し付けることができる。端面141d1は、被押圧面または摺動面と称されうる。
【0063】
なお、出力ギヤ132bの螺旋の方向は、例えば、直動部材142が制動位置Pb(不図示)から図10に示される非制動位置Pnへ動く場合の出力ギヤ132bの回転によって、第三ギヤ133にD1方向の前方への軸力を与えるよう、設定される。また、本実施形態では、スラストベアリング143の面143aおよびハウジング110の端面111aは、スラスト面の一例であり、スラストベアリング143は、ハウジング110に支持された部材の一例であり、第二ギヤ132は、押圧部材の一例であり、出力ギヤ132bは、ヘリカルギヤの一例である。
【0064】
本実施形態によれば、出力ギヤ132b(押圧部材)によって、回転部材141が面143aまたは端面111a(スラスト面)に押し付けられることにより、回転部材141の位置や姿勢の変化が抑制され、ひいては回転部材141の位置や姿勢の変化に基づく音や振動が生じ難い。
【0065】
また、図11に示されるように、本実施形態では、コイルスプリング151の端面151aと、フランジ141eの端面141e2との間には、円環状かつ板状のワッシャ154が設けられている。端面151a,141e2と接するワッシャ154の面(両面、摺動面)には、例えば、リン酸マンガン処理や、二硫化モリブデン処理、クロムメッキ処理、ニッケルメッキ処理等のメッキ処理や、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)等の硬質炭化膜を形成する処理、ショット処理のような、摩擦係数を低くする表面処理(低摩擦処理)が施されている。これにより、制動開始にかかるモータ120の起動時(回転開始当初)のトルクおよびこれに続く回転中のトルクを低減することができ、ひいては、モータ120の駆動電流を低減することができる。ワッシャ154は、滑り部材の一例である。なお、摩擦係数による起動時のトルクの低減の原理については、後述する。
【0066】
(第3実施形態の変形例)
図12〜14に示される変形例の駆動機構100D〜100Fは、第3実施形態の駆動機構100Cと同様の構成を備えている。よって、本変形例によっても、上記第3実施形態と同様の構成に基づく同様の結果が得られる。
【0067】
ただし、これらの変形例では、押圧部材として、ウエーブワッシャ161またはスプリングワッシャ162が設けられている。具体的に、図12の変形例では、ウエーブワッシャ161が周壁141dの端面141d1とハウジング110の端面111aとの間に設けられ、図13の変形例では、ウエーブワッシャ161がスラストベアリング143の面143aとフランジ141eの端面141e1との間に設けられ、図14の変形例では、スプリングワッシャ162がスラストベアリング143の面143aとフランジ141eの端面141e1との間に設けられている。図12の構成によれば、ウエーブワッシャ161は、回転部材141にD1方向の前方への軸力を与える。この場合、ウエーブワッシャ161は、端面141e1を、スラストベアリング143の面143aに弾性的に押し付ける。また、図13,14の構成によれば、ウエーブワッシャ161またはスプリングワッシャ162は、回転部材141にD1方向の後方への軸力を与える。この場合、ウエーブワッシャ161またはスプリングワッシャ162は、端面141d1を、ハウジング110の端面111aに弾性的に押し付ける。ウエーブワッシャ161またはスプリングワッシャ162は、第二の弾性部材の一例である。なお、図12の変形例では、ウエーブワッシャ161に替えてスプリングワッシャ162が設けられうる。また、図12〜14のウエーブワッシャ161またはスプリングワッシャ162に替えて、押圧部材として、コーンスプリングや、コイルスプリング、板ばね、エラストマ(ゴム)等、他の弾性部材が設けられうる。
【0068】
図15,16に示される変形例の駆動機構100G,100Hは、第3実施形態の駆動機構100Cと同様の構成を備えている。よって、本変形例によっても、上記第3実施形態と同様の構成に基づく同様の結果が得られる。
【0069】
ただし、図15の変形例では、回転部材141のフランジ141eに、コイルスプリング151の端面151aと接触する端面141e2(支持面)と、端面151aと隙間をあけて面した段差面141e3(底面、凹面)と、が設けられている。回転部材141が回転した場合、端面151aと端面141e2とは摺動するが、端面151aと段差面141e3とは摺動しない。この例では、端面151aは、第一の端部の一例であり、端面141e2は、摺動部の一例であり、段差面141e3は、対面部の一例であり、端面141e2および段差面141e3は、第二の端部の一例である。
【0070】
また、図16の変形例では、コイルスプリング151の端部に、フランジ141eの端面141e2と接触する端面151aと、端面141e2と隙間をあけて面した傾斜面151bと、が設けられている。回転部材141が回転した場合、端面151aと端面141e2とは摺動するが、傾斜面151bと端面141e2とは摺動しない。この例では、端面151aは、摺動部の一例であり、傾斜面151bは、対面部の一例であり、端面151aおよび傾斜面151bは、第一の端部の一例であり、端面141e2は、第二の端部の一例である。
【0071】
ここで、直動部材142を非制動位置Pnへ向けてD1方向の前方へ動かすことによりコイルスプリング151を弾性的に圧縮するのに必要なトルクTtは、以下の式(1)で表せる。
【数1】
ここに、F:軸力、μs:雌ねじ部145aと雄ねじ部145bとのねじ面の摩擦係数、α:ねじ面のフランク角、p:ねじピッチ、R:コイルスプリング151の端面151aとフランジ141eの端面141e2との接触部分の半径の代表値(有効半径、例えば平均値)、μe:コイルスプリング151の端面151aと端面141e2との接触部分の摩擦係数である。式(1)において、第1項は、ねじ面における摩擦トルクであり、第2項は、締結トルクであり、第3項は、端面151aと端面141e2との摩擦トルクである。式(1)では、ねじを締める状態となるため、第2項の締結トルクの符号が正になる。
【0072】
また、直動部材142を非制動位置PnからD1方向の後方へ動かすことによりコイルスプリング151による弾性的に圧縮状態を解除するのに必要なトルクTlは、以下の式(2)で表せる。
【数2】
式(2)では、ねじを緩める状態となるため、第2項の締結トルクの符号が負になる。
【0073】
本実施形態では、モータ120の駆動電流によって、トルクの所定値が検知され、検知された時点から、モータ120が停止される。すなわち、トルクTtは、トルクの所定値からオーバーランした値となる。トルクのオーバーランは、摩擦トルクが小さいほど大きくなる。したがって、直動部材142を非制動位置PnからD1方向の後方へ動かすのに必要なトルクTlの大小は、トルクTtに対するトルクTlの相対値Tl/Tt(式(3))で評価すべきである。
【数3】
【0074】
ここで、図17は、Rと式(3)の相対値Tl/Ttとの相関関係を示すグラフであり、図18は、μeと式(3)の相対値Tl/Ttとの相関関係を示すグラフである。図17,18からも明らかとなるように、式(3)では、Rおよびμeが小さいほど、相対値Tl/Ttが小さくなる。
【0075】
ここで、図15の変形例では、対面部としての段差面141e3は、摺動部としての端面141e2の径方向外方に位置され、図16の変形例では、対面部としての傾斜面151bは、摺動部としての端面151aの径方向外方に位置されている。このような構成により、上記R、すなわちコイルスプリング151の端面151aとフランジ141eの端面141e2との接触部分の半径の代表値(有効半径、例えば平均値)を、より小さく設定することができる。よって、図17より、図15、16の変形例によれば、トルクTtに対するトルクTlの相対値Tl/Tt、すなわち、制動開始にかかるモータ120の起動時(回転開始当初)のトルクおよびこれに続く回転中のトルクを低減することができることが、理解できよう。
【0076】
また、図18より、上記第3実施形態のように、ワッシャ154の面(両面、摺動面)に対する摩擦係数を低くする表面処理(低摩擦処理)によって上記μeがより小さくなると、トルクTtに対するトルクTlの相対値Tl/Tt、すなわち、制動開始にかかるモータ120の起動時(回転開始当初)のトルクおよびこれに続く回転中のトルクを低減できることが、理解できよう。
【0077】
なお、フランジ141eに傾斜面が設けられてもよいし、コイルスプリング151に段差面が設けられてもよい。また、フランジ141eおよびコイルスプリング151の双方に、対面部が設けられてもよい。
【0078】
以上、本発明の実施形態が例示されたが、上記実施形態は一例であって、発明の範囲を限定することは意図していない。上記実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、組み合わせ、変更を行うことができる。また、各構成や、形状、等のスペック(構造や、種類、方向、形状、大きさ、長さ、幅、厚さ、高さ、数、配置、位置、材質等)は、適宜に変更して実施することができる。
【0079】
例えば、上記実施形態では、ブレーキ装置2は、リーディングトレーリング式のドラムブレーキとして構成されたが、本発明は他の形式のブレーキ装置としても構成することができる。また、一のアクチュエータによるディスクブレーキと他のアクチュエータによるドラムブレーキとを有するブレーキ装置の、当該他のアクチュエータに対応した構成として、本発明を実施することが可能である。また、弾性部材による効果は、直動部材の軸方向の移動が制限される構成を前提とするものではない。
【0080】
また、上記実施形態では、制動部材を移動させる作動部材がケーブル82である構成が例示されたが、作動部材は、ロッドやレバーなど、ケーブル82以外のものであってもよい。また、作動部材は、引っ張るのではなく押すことにより、制動部材を移動させてもよい。
【符号の説明】
【0081】
1…ホイール、2…ブレーキ装置(車両用ブレーキ)、3…ブレーキシュー(制動部材)、82…ケーブル(作動部材)、110…ハウジング、111a…端面(スラスト面)、132…第二ギヤ(押圧部材)、132b…出力ギヤ(ヘリカルギヤ)、141…回転部材、141e2…端面(摺動部、第二の端部)、141e3…段差面(対面部、第二の端部)、142…直動部材、143…スラストベアリング(ハウジングに支持された部材)、143a…面(スラスト面)、151…コイルスプリング(第一の弾性部材)、151A…板バネ(第一の弾性部材)、151a…端面(摺動部、第一の端部)、151b…傾斜面(対面部、第一の端部)、154…ワッシャ(滑り部材)、161…ウエーブワッシャ、162…スプリングワッシャ。
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