特許第6281742号(P6281742)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6281742
(24)【登録日】2018年2月2日
(45)【発行日】2018年2月21日
(54)【発明の名称】パワーコンディショナシステム
(51)【国際特許分類】
   G05F 1/70 20060101AFI20180208BHJP
   H02M 7/48 20070101ALI20180208BHJP
【FI】
   G05F1/70 A
   H02M7/48 R
【請求項の数】1
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2014-4081(P2014-4081)
(22)【出願日】2014年1月14日
(65)【公開番号】特開2015-132988(P2015-132988A)
(43)【公開日】2015年7月23日
【審査請求日】2016年12月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091281
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 雄一
(72)【発明者】
【氏名】佐賀 翔直
(72)【発明者】
【氏名】片山 統弘
【審査官】 栗栖 正和
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−200111(JP,A)
【文献】 特開平05−019878(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05F 1/70
H02M 7/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
発電設備による発電電力を、電力変換装置を備えたパワーコンディショナを介して配電系統に供給するパワーコンディショナシステムにおいて、
前記発電設備から出力される有効電力を検出する出力電力検出手段と、
前記出力電力検出手段により検出された有効電力が力率制御開始電力設定値以下であるときは前記パワーコンディショナの運転力率を100[%]とし、前記有効電力が前記パワーコンディショナの定格出力に等しい時に前記運転力率が所定の設定力率になるように前記パワーコンディショナに対する無効電力指令を生成する運転力率制御手段と、
を有し、
前記運転力率制御手段は、
前記出力電力検出手段により検出された有効電力と前記力率制御開始電力設定値との電力差を求める減算手段と、
前記力率制御開始電力設定値と前記設定力率とに基づいて前記パワーコンディショナの有効電力−無効電力特性の傾きを補正する傾き補正演算手段と、
前記電力差と前記傾きとを乗算する第1の乗算手段と、
前記乗算手段の乗算結果を上下限値により制限するリミッタと、
前記リミッタの出力に、前記設定力率から予め演算した力率ゲインを乗じて前記無効電力指令を生成する第2の乗算手段と、
を備えたことを特徴とするパワーコンディショナシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽光発電設備、風力発電設備、燃料電池発電設備、火力発電設備等が、電力変換装置を備えたパワーコンディショナを介して配電系統に連系されるパワーコンディショナシステムに関し、詳しくは、パワーコンディショナの運転力率を制御する技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、太陽光発電設備等を、パワーコンディショナを介して配電系統に連系させて負荷に電力を供給することが行われている。この種の発電設備が配電系統に無秩序に連系されると、系統を介して発電設備に及ぼす影響が大きくなると共に、電力品質の維持、保守運用の対応が困難になることが予想される。そこで、所定の電力品質を保ちながら発電設備を系統に連系可能とするために必要な技術要件が、経済産業省により「系統連系規程」(JEAC9701−2006(社団法人日本電気協会))として策定されている。
【0003】
上記「系統連系規程」によれば、逆潮流がない場合の受電点の力率は原則85[%]以上とされ、系統の電圧上昇を防止するために系統側から見て進み力率(発電設備側から見て遅れ力率)にならないようにすることが規定されている。
これらの原則を遵守しつつ、より多くの有効電力を系統に供給するために、発電設備の運転力率を85[%]付近に保とうとする動きが見られる。
【0004】
上記原則を遵守するための力率制御の一例を、図5に示す。なお、図5のシステムは、配電系統に風力発電設備を連系させたものであり、例えば非特許文献1に記載されている。
図5に示すパワーコンディショナシステムは、風力発電設備11と、この発電設備11から出力される交流電力を交流/直流/交流変換して配電系統30に供給するパワーコンディショナ21と、パワーコンディショナ21から出力される有効電力を有効電流として検出する出力電力検出部40と、検出した有効電力からパワーコンディショナ21の運転力率を制御する運転力率制御部50と、を備えている。なお、配電系統30には負荷(図示せず)が接続されている。
【0005】
運転力率制御部50は、上下限リミッタ51、力率ゲイン演算器52及び乗算器53を備え、上下限リミッタ51により上下限値を制限された有効電流と、力率ゲイン演算器52により演算された力率ゲインと、を乗算器53にて乗算し、その乗算結果を無効電力指令(無効電流指令)としてパワーコンディショナ21に入力する。パワーコンディショナ21では、この無効電力指令に従って電力変換を行い、無効電力を制御して運転力率を所定値に維持している。
【0006】
周知のように、パワーコンディショナ21の運転力率cosθ(θは力率角)は数式1によって求められる。なお、数式1において、Pはパワーコンディショナ21が出力する有効電力、Qは無効電力である。
【数1】
ここで、Q/P=Gを力率ゲインとして定義すると、数式1は数式2となる。
【数2】
また、力率ゲインGは、数式3のように表すことができる。
【数3】
【0007】
図5の力率ゲイン演算器52は、数式3の演算により、目標とする設定力率(例えば、cosθ=0.85)を実現するための力率ゲインGを演算する。
乗算器53は、力率ゲインGと、上下限リミッタ51から出力される有効電流に対応した有効電力Pとを乗算し、Q=P×Gにより無効電力Qを求め、これを無効電力指令としてパワーコンディショナ21に与える。パワーコンディショナ21は無効電力指令に従って半導体スイッチング素子を動作させることにより、図6に示すように運転力率cosθを所定値(例えば85[%])以上に制御している。
なお、上述した運転力率の制御方法は、配電系統30に連系される発電設備の種類に関わりなく、例えば太陽光発電設備や燃料電池発電設備等が連系される場合も同様である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】甲斐隆章,藤本敏朗,「太陽光・風力発電と系統連系技術」,P72〜73等,平成22年10月,株式会社オーム社
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、前述の「系統連系規程」によれば、パワーコンディショナの運転力率は、発電設備の出力精度や出力電力検出部の検出精度とは無関係に設定されている。このため、例えば、風力発電設備11の出力精度や出力電力検出部40の検出精度によっては、パワーコンディショナ21の運転力率が「系統連系規程」により定められている力率85[%]未満になる場合がある。特に、低出力時には無効電力誤差の有効電力に対する割合が大きくなるため、力率が85[%]%未満になる可能性が高くなる。
【0010】
そこで、本発明の解決課題は、発電設備の出力精度や出力電力検出部の検出精度に左右されずに、「系統連系規程」により定められた所定の運転力率を維持することができるパワーコンディショナシステムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、請求項1に係る発明は、発電設備による発電電力を、電力変換装置を備えたパワーコンディショナを介して配電系統に供給するパワーコンディショナシステムにおいて、
前記発電設備から出力される有効電力を検出する出力電力検出手段と、
前記出力電力検出手段により検出された有効電力が力率制御開始電力設定値以下であるときは前記パワーコンディショナの運転力率を100[%]とし、前記有効電力が前記パワーコンディショナの定格出力に等しい時に前記運転力率が所定の設定力率になるように前記パワーコンディショナに対する無効電力指令を生成する運転力率制御手段と、
を有し、
前記運転力率制御手段は、
前記出力電力検出手段により検出された有効電力と前記力率制御開始電力設定値との電力差を求める減算手段と、
前記力率制御開始電力設定値と前記設定力率とに基づいて前記パワーコンディショナの有効電力−無効電力特性の傾きを補正する傾き補正演算手段と、
前記電力差と前記傾きとを乗算する第1の乗算手段と、
前記乗算手段の乗算結果を上下限値により制限するリミッタと、
前記リミッタの出力に、前記設定力率から予め演算した力率ゲインを乗じて前記無効電力指令を生成する第2の乗算手段と、
を備えたものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、運転力率制御手段が、パワーコンディショナの有効電力に応じて無効電力指令を生成することにより、発電設備の出力精度や出力電力検出部の検出精度に左右されることなく、パワーコンディショナの低出力時から定格出力時に至るまで所定の運転力率を維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の実施形態に係るパワーコンディショナシステムの全体構成を示すブロック図である。
図2】本発明の実施形態の動作を説明するための、パワーコンディショナの有効電力と無効電力との関係を示すグラフである。
図3】本発明の実施形態の動作を説明するための、パワーコンディショナの有効電力と無効電力との関係を示すグラフである。
図4】本発明の実施形態の動作を説明するための、パワーコンディショナの有効電力と無効電力及び運転力率との関係を示すグラフである。
図5】従来のパワーコンディショナシステムの全体構成を示すブロック図である。
図6図5におけるパワーコンディショナの有効電力と無効電力及び運転力率との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図に沿って本発明の実施形態を説明する。
図1は、この実施形態に係るパワーコンディショナシステムの全体構成を示すブロック図であり、図5における構成要素と同一のものには同一の参照符号を付してある。
【0016】
図1に示すパワーコンディショナシステムは、太陽光発電設備12と、この発電設備12から出力される直流電力を直流/交流変換して配電系統30に供給する電力変換装置を備えたパワーコンディショナ22と、パワーコンディショナ22から出力される有効電力を有効電流として検出する出力電力検出部40と、検出した有効電力に基づいて無効電力指令を生成し、パワーコンディショナ21の半導体スイッチング素子を動作させて運転力率を所定値に制御する運転力率制御部50Aと、を備えている。なお、配電系統30には負荷(図示せず)が接続されている。
運転力率制御部50Aは、図5と同様に上下限リミッタ51,力率ゲイン演算器52及び乗算器53を有すると共に、出力電力検出部40の出力側と上下限リミッタ51の入力側との間には、ローパスフィルタ54,力率制御開始電力設定値55,減算器56,傾き補正演算器57及び第1の乗算器58が設けられている。
【0017】
この実施形態の特徴は、出力電力検出部40から出力される有効電力(有効電流)を運転力率制御部50A内のブロック54〜58により調整して上下限リミッタ51に入力し、その出力と力率ゲインとを第2の乗算器53にて乗算して無効電力指令を生成することにより、後述するようにパワーコンディショナ22が出力する有効電力に応じて運転力率を変動制御することにある。これにより、パワーコンディショナ22の定格出力時における設定力率での運転、低出力時の力率100[%]運転を可能にし、太陽光発電設備12の出力精度や出力電力検出部40の検出精度に関わらず「系統連系規程」により定められた所定の力率を維持可能としている。
【0018】
なお、パワーコンディショナ22に接続される発電設備は、図5に示した風力発電設備11でも良いし、燃料電池発電設備、火力発電設備等であっても良い。この場合、発電設備の出力形式(交流または直流)に応じてパワーコンディショナの電力変換方式(交流/直流/交流変換、または直流/交流変換等)が異なるのはいうまでもない。
【0019】
次に、パワーコンディショナ22の運転力率を制御する動作について説明する。
まず、図5図6に示した従来技術において、パワーコンディショナ22の定格を皮相電力で1000[kVA]と仮定したとき、運転力率を85[%]とするには、有効電力を850[kW]、無効電力を526[kVar]出力することが必要である。ここで、例えば出力電力検出部40の検出精度誤差が定格出力の1[%]と仮定した場合、この誤差に相当する無効電力は10[kVar]となり、最大誤差の発生時には無効電力が536[kVar]出力されるため、運転力率は84.5[%]となる。
【0020】
これに対し、パワーコンディショナ22の定格を400[kVA]と仮定したとき、運転力率を85[%]とするには、有効電力を340[kW]、無効電力を210[kVar]出力することが必要である。この場合、出力電力検出部40の検出精度誤差は一定であるとすれば、出力電力検出部40の最大誤差の発生時には無効電力が220[kVar]出力されることになり、その時の運転力率は83.9[%]となる。
このように、定格が低い時には出力電力検出部40の検出精度誤差の影響が大きくなり、運転力率が設定値の85[%]を下回る可能性が高くなる。
【0021】
そこで、本実施形態では、パワーコンディショナの低出力時には系統電圧も上昇しないため運転力率を100[%]としても問題なく、この期間は所定の力率制御開始電力設定値まで有効電力を出力させ、力率制御開始電力設定値を超える範囲については無効電力を出力させて系統電圧を低下させ、その低下分に応じた有効電力を出力させて定格出力時の運転力率が設定値以上になるように制御することとした。
【0022】
すなわち、まず、無効電力をゼロとしてパワーコンディショナ22の運転力率を100[%]とした時にパワーコンディショナ22が出力可能な有効電力の上限値を、力率制御開始電力設定値55としてセットする。なお、この力率制御開始電力設定値55は、配電系統30の電圧が変化しない限り、パワーコンディショナ22によって決まる一定値である。
【0023】
一方、図1のローパスフィルタ54は、出力電力検出部40から出力された有効電流のリプル成分を除去する。このローパスフィルタ54の出力から力率制御開始電力設定値55を減算器56にて減算することにより、図2に示すごとく、定格出力時の運転力率を85[%]に設定したときの無効電力特性線qを全体的に減少させ、無効電力がゼロのときの有効電力が力率制御開始電力設定値55に一致するような特性線qを得る。言い換えれば、パワーコンディショナ22が出力する有効電力が力率制御開始電力設定値55以上であるときに、無効電力を配電系統30側に出力させるようにする。
【0024】
しかし、図2の特性線qでは、定格出力時に運転力率が85[%]になるだけの無効電力指令を得ることができない。従って、図1の傾き補正演算器57により、図3に示すように、定格出力時に運転力率が85[%]となる無効電力指令を得るための有効電力−無効電力特性の傾きを演算し、この傾きに従って特性線qを補正することにより特性線qを得る。図1における乗算器58の出力は、この特性線qに相当する。
なお、特性線qの傾きは、設定力率(例えば85[%])と力率制御開始電力設定値55とを用いた数式4の演算により求めることができる。この数式4において、力率制御開始電力設定値[%]は、定格出力を100[%]とした時の比率である。
【数4】
【0025】
次に、特性線qによると、有効電力が力率制御開始電力設定値55以下の領域では、運転力率が範囲外の値になってしまうため、図1の上下限リミッタ51により下限値を運転力率が100[%](上限値は85[%])となるような値に制限して乗算器53に出力する。
これにより、ローパスフィルタ54の出力が力率制御開始電力設定値55以下の範囲でも運転力率を100[%]に保つことができ、配電系統30側から見て進み力率になることがない。
【0026】
図1の乗算器53では、従来と同様に、力率ゲイン演算器52により演算した数式3の力率ゲインGを上下限リミッタ51の出力に乗算し、無効電力指令(無効電流指令)を生成する。この無効電力指令に従ってパワーコンディショナ22の半導体スイッチング素子を制御することにより、太陽光発電設備12の出力精度や出力電力検出部40の検出精度に左右されずに、パワーコンディショナ22の運転力率を常に85[%]以上に保つことができる。
なお、図4は、この実施形態によりパワーコンディショナ22から出力される有効電力と無効電力及び運転力率との関係を示す概念的なグラフであり、有効電力が力率制御開始電力設定値55以下の範囲では運転力率を100[%]に保ち、定格出力時に85[%]以上の値を維持することができる。
【0027】
以上のようにこの実施形態によれば、パワーコンディショナ22の運転力率を有効電力に基づいて変動制御することにより、「系統連系規程」により定められた所定の運転力率を実現すると共に配電統の電圧上昇を防止することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明は、太陽光発電設備、風力発電設備、燃料電池発電設備、火力発電設備等の各種の発電設備が配電系統に連系されるパワーコンディショナシステムに利用することができる。
【符号の説明】
【0029】
12:太陽光発電設備
22:パワーコンディショナ
30:配電系統
40:出力電力検出部
50A:運転力率制御部
51:上下限リミッタ
52:力率ゲイン演算器
53,58:乗算器
54:ローパスフィルタ
55:力率制御開始電力量設定値
56:減算器
57:傾き補正演算器
図1
図2
図3
図4
図5
図6