(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6281816
(24)【登録日】2018年2月2日
(45)【発行日】2018年2月21日
(54)【発明の名称】半導体層の形成方法
(51)【国際特許分類】
H01L 51/30 20060101AFI20180208BHJP
H01L 51/05 20060101ALI20180208BHJP
H01L 51/40 20060101ALI20180208BHJP
H01L 29/786 20060101ALI20180208BHJP
H01L 21/336 20060101ALI20180208BHJP
C09D 11/00 20140101ALI20180208BHJP
【FI】
H01L29/28 220A
H01L29/28 100A
H01L29/28 250H
H01L29/28 310A
H01L29/78 618B
H01L29/78 618A
C09D11/00
【請求項の数】5
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2014-51173(P2014-51173)
(22)【出願日】2014年3月14日
(65)【公開番号】特開2015-176954(P2015-176954A)
(43)【公開日】2015年10月5日
【審査請求日】2017年1月27日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22年度よりの、独立行政法人科学技術振興機構、地域卓越研究者戦略的結集プログラム「先端有機エレクトロニクス国際研究拠点」に係る委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】304036754
【氏名又は名称】国立大学法人山形大学
(74)【代理人】
【識別番号】100101878
【弁理士】
【氏名又は名称】木下 茂
(72)【発明者】
【氏名】時任 静士
(72)【発明者】
【氏名】南 豪
(72)【発明者】
【氏名】熊木 大介
(72)【発明者】
【氏名】福田 憲二郎
【審査官】
竹口 泰裕
(56)【参考文献】
【文献】
特表2009−540605(JP,A)
【文献】
特開2006−100519(JP,A)
【文献】
特開2006−093539(JP,A)
【文献】
国際公開第2003/089515(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L27/28、51/00、51/05−51/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(化1)で表されるフェニルボロン酸誘導体が、官能基Yとの結合で粒子表面に固定されている金属ナノ粒子を用いることを特徴とする半導体層の形成方法。
【化1】
(式中、Yは、スルフィド、アミン及びカルボン酸のうちのいずれかである。)
【請求項2】
前記金属ナノ粒子が、粒径1〜100nmであり、金、銀、銅、アルミニウム、ニッケルもしくは鉄、又は、これらの2種以上の合金からなることを特徴とする請求項1記載の半導体層の形成方法。
【請求項3】
前記金属ナノ粒子と、芳香族性テトラオール類又は芳香族性テトラアミン類の化合物とが含まれるインクを用いることを特徴とする請求項1又は2に記載の半導体層の形成方法。
【請求項4】
前記インクを塗布した後、アニーリングすることにより、含ホウ素π共役有機半導体連結型金属ナノ粒子が構築され、半導体層が得られることを特徴とする請求項3に記載の半導体層の形成方法。
【請求項5】
前記半導体層が、有機トランジスタのソース・ドレイン電極間の半導体層であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の半導体層の形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機エレクトロニクス分野において有用な材料に関し、特に、有機化合物で修飾された金属ナノ粒子を用いた半導体層の形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の有機トランジスタは、一般に、活性層である有機半導体層がπ共役分子で構成されている。このため、電子移動の機構としては、原子や分子が整然と配列した結晶系等において結晶格子の特定方向にキャリアが流れるバンド伝導よりも、個々の分子間を飛び跳ねるように伝わっていくホッピング伝導が支配的である。
このようなホッピング伝導が、電子移動度が低いことの原因となっていた。
【0003】
これに対しては、近年、低い電子移動度を改善するために、有機化合物と金属ナノ粒子との複合化が試みられている。
例えば、特許文献1,2には、コロイド法やガス中蒸発法を用いて製造した金属微粒子の分散液に有機半導体化合物を添加して、金属ナノ粒子の調製及び半導体有機分子との複合化を分散液中でそのまま行う方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4736324号公報
【特許文献2】特開2006−93539号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、溶液中での調製は、煩雑な操作工程が必要であり、例えば、金属ナノ粒子の調製時に用いられる還元剤が残留し、良好な移動度が得られないといった課題がある。これは、金属ナノ粒子と半導体有機分子との複合体を溶液系外に取り出すことができないため、精製が不十分となることに起因する。
【0006】
一方、ガス中蒸発法は、気相法を用いるプロセスであり、金属を蒸発させるために高温処理が必要であり、また、この方法でも金属ナノ粒子は溶剤中で得られ、溶剤置換を繰り返し行う必要があり、実用的観点から望ましい方法であるとは言い難い。
【0007】
したがって、実用的観点からは、溶液プロセスにより金属ナノ粒子を調製することが望ましく、また、十分に精製された金属ナノ粒子と半導体有機分子とを効果的に複合化させることが求められている。
【0008】
本発明は、上記技術的課題を解決するためになされたものであり、金属ナノ粒子と半導体有機分子とを効果的かつ簡便に複合化することができる金属ナノ粒子を用いた半導体層の形成方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る半導体層の形成方法は、下記(化1)で表されるフェニルボロン酸誘導体が、官能基Yとの結合で粒子表面に固定されている金属ナノ粒子を用いることを特徴とする。
【0010】
【化1】
【0011】
(化1)において、Yは、スルフィド、アミン及びカルボン酸のうちのいずれかである。
【0012】
このような金属ナノ粒子は、簡便に精製することができるため、これを用いることにより、安定的な半導体層を構成することが可能となる。
【0013】
前記金属ナノ粒子は、粒径1〜100nmであり、金、銀、銅、アルミニウム、ニッケルもしくは鉄、又は、これらの2種以上の合金からなるが好ましい。
電子移動度の向上を図る上では、このような金属ナノ粒子が好適に適用される。
【0014】
また、本発明に係る半導体層の形成方法においては、前記金属ナノ粒子と、芳香族性テトラオール類又は芳香族性テトラアミン類の化合物とが含まれるインクを用いることが好ましい。
このようなインクによれば、インクを安定的な状態で保持することができ、塗布プロセスにおいて金属ナノ粒子とπ共役分子が複合化され、安定的な半導体層を形成することができる。
【0015】
前記インクを塗布した後、アニーリングすることにより、含ホウ素π共役有機半導体連結型金属ナノ粒子が構築され、半導体層が得られることがより好ましい。
このような方法によれば、低温でのアニーリング時に金属ナノ粒子とπ共役分子の複合化が行われるため、複合化工程を簡略化することができ、半導体層を簡便に形成することができる。
【0016】
前記半導体層は、有機トランジスタのソース・ドレイン電極間の半導体層として好適に適用することができる。
このような半導体層によれば、金属ナノ粒子を用いた有機トランジスタ製造の簡略化が図られ、また、トランジスタにおける電子移動度の向上が期待される。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、塗布プロセスにおいて、金属ナノ粒子とπ共役分子を効果的かつ簡便に複合化させることができ、半導体層を安定的に得ることができる。
したがって、本発明に係る半導体層の形成方法は、金属ナノ粒子を用いた有機トランジスタ等の有機エレクトロデバイスの製造に好適に適用することができ、また、デバイス性能の向上も期待される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明に係る有機トランジスタの一例の概略断面図である。
【
図2】本発明に係る含ホウ素π共役有機半導体連結型金属ナノ粒子を概略的に示した模式図である。
【
図3】塗布プロセスにおける金属ナノ粒子と含ホウ素π共役分子との複合化の機構を示した模式図である。(a)はインク中での分子構造、(b)はアニーリング後(半導体層中)の分子構造を示したものである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明について、より詳細に説明する。
本発明に係る半導体層の形成方法は、上記(化1)で表されるフェニルボロン酸誘導体が、官能基Yとの結合で粒子表面に固定されている金属ナノ粒子を用いるものである。
このような金属ナノ粒子は、簡便に精製することができ、π共役分子との複合化に適している。したがって、これを用いることにより、溶液プロセスで含ホウ素π共役有機半導体連結型金属ナノ粒子を構築することができ、半導体層を安定的に形成することができる。
【0020】
前記(化1)において、Yは、スルフィド、アミン及びカルボン酸のうちのいずれかである。フェニルボロン酸誘導体は、このように、スルフィド、アミン又はカルボン酸(カルボシキル基)を介して、金属ナノ粒子の表面に化学吸着又は物理吸着により固定された状態となっている。例えば、前記フェニルボロン酸誘導体の溶液中に金属ナノ粒子を分散させた後、乾燥させることにより、金属ナノ粒子表面にフェニルボロン酸誘導体を固定させた状態とすることができる。
【0021】
前記金属ナノ粒子は、塗布プロセスにおける適用を考慮し、電子移動度の向上を図る観点から、粒径が1〜100nmであり、また、金、銀、銅、アルミニウム、ニッケルもしくは鉄、又は、これらの2種以上の合金からなることが好ましい。
前記粒径が1nm未満では、取り扱いが困難であり、一方、100nm超の場合は、金属による導電性が大きくなり、良好な半導体特性が得られ難くなる。
【0022】
また、前記金属ナノ粒子は、これと芳香族性テトラオール類又は芳香族性テトラアミン類の化合物とが含まれるインクとして用いられることが好ましい。
このようなインクは、前記金属ナノ粒子が凝集することなく、インクを安定的な状態で保持することができ、また、従来のように金属ナノ粒子のための還元剤が溶液中に残留することがない。
また、前記インクを用いれば、塗布プロセスにおいて金属ナノ粒子とπ共役分子が複合化され、半導体層を安定的に形成することができる。
【0023】
前記インクに混合される芳香族性テトラオール類又は芳香族性テトラアミン類の化合物としては、具体的には、ナフタレン−2,3,6,7−テトラオール、ナフタレン−1,2,5,6−テトラアミン等が挙げられる。
【0024】
前記インクの溶媒は、前記芳香族性テトラオール類又は芳香族性テトラアミン類の化合物が溶解するものであり、また、塗布プロセスにおいて、アニーリング時に揮発するものが用いられる。例えば、クロロホルム、テトラヒドロフラン等が好適に用いられる。
【0025】
前記インクは、塗布プロセスにおいて、金属ナノ粒子と半導体有機分子との連結(架橋)により半導体膜の形成を可能とするものである。具体的には、前記インクを塗布した後、アニーリングすることにより、含ホウ素π共役有機半導体連結型金属ナノ粒子が構築され、半導体層が得られることが好ましい。
このような方法によれば、低温でのアニーリングにより金属ナノ粒子とπ共役分子の複合化が可能であるため、複合化工程を簡略化することができ、半導体層を簡便に形成することができる。
前記アニーリングは、200℃以下で行うことができ、好ましくは、100℃以下とすることができる。このような低温でのアニーリングによって半導体層を形成可能であることは、コスト及び効率の点からも有利である。
【0026】
前記インクの塗布方法は、特に限定されるものではなく、例えば、スピンコート、バーコート、スプレーコート等による塗布、スクリーン印刷、グラビアオフセット印刷、凸版反転印刷、インクジェット印刷等の各種印刷機によるプリント等により行うことができる。
【0027】
図1に、アニーリング後の膜中の金属ナノ粒子と半導体有機分子とが連結された状態を模式的に示す。
図1に示すように、金属ナノ粒子1同士の間で、該金属ナノ粒子表面に固定されたフェニルボロン酸誘導体と前記インク中に混合された芳香族性テトラオール類又は芳香族性テトラアミン類の化合物との連結構造2が構築され、架橋された状態となる。このように架橋された金属ナノ粒子は、半導体特性を示すものとなる。
【0028】
上記のようにして形成される半導体層は、有機トランジスタのソース・ドレイン電極間の半導体層として好適に適用することができる。
このような半導体層によれば、金属ナノ粒子を用いた有機トランジスタ製造の簡略化が図られると同時に、金属ナノ粒子と含ホウ素π共役分子とを複合化した半導体層を備えた新規の有機トランジスタが得られる。
【0029】
図2に、本発明に係る有機トランジスタの断面構造の一例を示す。なお、本発明においては、トランジスタ構造は、
図2に示すようなボトムゲート型に限定されるものではなく、トップゲート型でもよく、また、トップコンタクト型、ボトムコンタクト型のいずれでもよい。
図2においては、基板3上に、ゲート電極4が設けられ、その上に、ゲート絶縁層5が形成されている。その上に、ソース・ドレイン電極6,7が設けられており、両電極間に半導体層8が形成されている。
本発明においては、この半導体層8が、前記インクの塗布及びアニーリングにより、半導体膜として形成される。なお、半導体層8は、単層でも複数層でもよく、少なくともそれらのうちの1層が、前記インクを用いて形成されたものである。
【0030】
前記半導体層以外の構成材料は、有機トランジスタにおいて通常用いられているものでよく、特に限定されないが、基板としては、ガラス、セラミックス、金属等の無機材料や、ポリエチレンナフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン、ポリイミド、ポリパラキシリレン(パリレン(登録商標))等の樹脂、紙等の有機材料等を適用することができ、フレキシブルな基板にも対応可能である。
また、ゲート電極材料としては、例えば、アルミニウム、銀、金、銅、チタン、ITO、PEDOT:PSS等が、ソース・ドレイン電極材料としては、金、銀、銅、白金、アルミニウム、PEDOT:PSS等の導電性高分子が挙げられる。
また、ゲート絶縁層の構成材料としては、例えば、シリカ、アルミナ、自己組織化単分子膜(SAM)、ポリスチレン、ポリビニルフェノール、ポリビニルアルコール、ポリメチルメタクリレート、ポリジメチルシロキサン、ポリシルセスキオキサン、イオン液体、ポリテトラフルオロエチレン(テフロン(登録商標)AF、サイトップ(登録商標))等が挙げられる。
【0031】
以下、
図3を参照して、本発明に係る半導体層の形成方法の具体例の一例を示す。ただし、本発明は該具体例に限定されるものではない。
図3は、該具体例の塗布プロセスにおける金属ナノ粒子と含ホウ素π共役分子との複合化の機構を模式的に示したものである。
まず、テトラヒドロフランに、フェニルボロン酸被覆型金ナノ粒子とナフタレン−2,3,6,7−テトラオールを加えて混合し、インクを調製する(
図3(a)参照)。
ガラス基板上にアルミニウムによりゲート電極を形成した後、ポリビニルフェノールによりゲート絶縁膜を形成する。次に、金によりソース・ドレイン電極をパターニング形成する。
そして、前記インクを厚さ100nmでスピンコート法により塗布した後、これを100℃でアニーリングする。これにより、粒子間でボロン酸エステルが構築され、架橋することにより半導体層が形成される(
図3(b)参照)。
【符号の説明】
【0032】
1 金属ナノ粒子
2 連結構造
3 基板
4 ゲート電極
5 ゲート絶縁層
6 ソース電極
7 ドレイン電極
8 半導体層