【実施例】
【0034】
[製造例1]本発明の抽出物の製造
抽出物原料である後発酵茶の酢酸エチルエキスは、以下の通り製造した。
50gの碁石茶茶葉を500mLのDDWに加え、120℃で20分間加熱し、茶葉をろ過して抽出液を得た。得られた抽出液に等量のヘキサンを加え、室温で3時間撹拌した。分液ロートを用いてヘキサン相と水相を分離し、水相に等量の酢酸エチルを加えて室温で12時間撹拌した。分液ロートを用いて酢酸エチル相と水相を分離し、酢酸エチル相をエバポレーターで完全に乾燥させた。酢酸エチル相の乾燥重量を測定後、10mg/mlとなるようにDDWに溶解して酢酸エチルエキスとした。
また、プーアル茶茶葉についても同様の条件及び工程で酢酸エチルエキスを得た。
【0035】
[試験例1]プーアル茶及び碁石茶の各溶媒分画エキスの血管平滑筋弛緩作用の測定
ラット大腿動脈の内皮細胞を除去した血管平滑筋標本を用いて、血管平滑筋の微細張力を測定する飯塚らの方法(Iizuka et al., InsP3, but not novel Ca
2+ releasers, contributes to agonist-initiated contraction in rabbit airway smooth muscle, J. Physiol., 1998 Sep 15; 511(Pt 3): 915-33)により、プーアル茶(一段発酵茶)及び碁石茶(二段発酵茶)の各溶媒分画エキスの血管平滑筋弛緩作用の測定を行った。
まず、血管平滑筋組織としてラット大腿動脈平滑筋を使用した。摘出した大腿動脈を短冊状に切り出し、血管内皮細胞と結合組織を取り除き張力測定装置にセットした。血管平滑筋組織の弛緩には正常細胞外液(NES)を用いた。また、収縮には155mMのカリウムを含む高カリウム細胞外液(KES)を用いた。以下の手順で血管平滑筋組織を弛緩・収縮させ、
図1に示すチャートの1〜4の各時点における張力を測定した。
(1)平滑筋組織の張力を安定させるために、細胞外液をKESに交換し3分間収縮させ、その後NESに交換し弛緩させた。この操作を3回繰り返して完全に弛緩させた。この時点の張力を「1.基準」とする。
(2)細胞外液をKESに交換し、平滑筋の持続性の収縮が安定したら、細胞外液に各溶媒分画エキス(10mg/ml)を4μL又は12μL添加して張力の変化を観察した。持続性の収縮が安定した時点の張力を「2.前収縮」とし、各溶媒分画エキス添加後の張力を「3.弛緩」とする。
(3)細胞外液を各溶媒分画エキスが添加されていない別のKESに交換し、張力の変化を観察した。この時点での張力を「4.後収縮」とする。
(4)各溶媒分画エキスについて(2)及び(3)を行い、張力の変化を観察した。
平滑筋組織の張力変化を表すT値は以下の計算式に基づき計算した。
T値=([3.弛緩]−[1.基準値])/{([2.前収縮]+[4.後収縮])/2−[1.基準値]}
T値が1以上の場合には収縮効果があることを意味し、1以下の場合には弛緩効果があることを意味する。
結果を
図2に示す。
【0036】
図2から明らかなように、本発明の抽出物は、他の茶葉又は他の溶媒を用いて得た抽出物に比して優れた血管平滑筋弛緩作用を有していることが明らかとなった。特に、抽出溶媒として酢酸エチルを用いて得た抽出物(酢酸エチル分画エキス)は、他の溶媒を用いて得た抽出物に比して特に優れた血管平滑筋弛緩作用を有していることが明らかとなった。
【0037】
[試験例2]プーアル茶及び碁石茶の酢酸エチル分画エキスの血管平滑筋弛緩作用の測定
ラット大腿動脈の内皮除去血管平滑筋を用いて、プーアル茶の酢酸エチル分画エキス、碁石茶の酢酸エチル分画エキス及びGABA含有緑茶(製品名:ナチュラルケア、大正製薬)を累積的に添加した場合の血管平滑筋弛緩作用を飯塚らの方法により測定した具体的には、血管内皮を除去したラットの大腿動脈の血管平滑筋に、プーアル茶と碁石茶の酢酸エチル分画エキス(10mg/ml)をそれぞれ4μlずつ5分おきに累積添加した。一方で、GABA含有緑茶(ナチュラルケア)を4μlずつ加算投与した。結果を
図3に示す。
【0038】
図3から明らかなように、プーアル茶と碁石茶の酢酸エチル分画エキスを投与した場合には、それぞれ濃度依存的に血管平滑筋は弛緩するが、GABA含有緑茶を投与した場合には血管平滑筋の弛緩は見られなかった。この結果から、プーアル茶と碁石茶の酢酸エチル分画エキスは、血管平滑筋に直接作用してその弛緩作用を示すと考えられる。
【0039】
[試験例3]塩酸ヒドララジンとの血管平滑筋弛緩作用の比較
末梢血管に直接作用する降圧剤である塩酸ヒドララジンと碁石茶の酢酸エチル分画エキスの血管平滑筋弛緩作用を試験例1と同様の手順で測定し、比較を行った。塩酸ヒドララジンは、作用機序は不明であるが、臨床において動脈の平滑筋を弛緩することにより、末梢の血管を拡張させ、血圧を下げる降圧剤として知られている。
【0040】
図4から明らかなように、本発明の碁石茶の酢酸エチル分画エキスは、塩酸ヒドララジン及びGABA含有緑茶(製品名:ナチュラルケア、大正製薬)に比して優れた血管平滑筋弛緩作用を有していることが明らかとなった。
【0041】
[試験例4]連続投与試験による非観血式血圧測定
動物における血圧上昇抑制作用を検証するために、雄性高血圧自然発症ラット(SHR)を用いた連続投与試験による非観血式血圧測定を行った。具体的には、試料として、プーアル茶(一段発酵茶)及び碁石茶(二段発酵茶)の酢酸エチル分画エキス、GABA含有緑茶(製品名:ナチュラルケア、大正製薬)を用い、コントロールとしてDDWを用いて、以下の方法により行った。それぞれ一群につき6匹のSHRに対し、6週齢目より胃ゾンデを用いて熱水抽出物エキス(10mg)を経口投与し、さらに13週齢目よりプーアル茶と碁石茶それぞれの酢酸エチル分画エキス、GABA含有緑茶及びDDWをそれぞれ1mgずつ経口投与した。血圧測定は、午前中に非観血式自動血圧測定装置BP−98A(株式会社Softron製)を用いて、保定温度38℃でtail-cuff法にて収縮期及び拡張期血圧を各群1匹につき3回ずつ測定した。結果を
図5に示す。
【0042】
図5から明らかなように、13週齢目よりプーアル茶又は碁石茶の酢酸エチル分画エキスを投与した群において、収縮期血圧がコントロール及びGABA含有緑茶に対して有意に減少した。
【0043】
[試験例5]単回投与試験による非観血式血圧測定
動物における血圧上昇抑制作用を検証するために、雄性高血圧自然発症ラット(SHR)を用いた単回投与試験による非観血式血圧測定を行った。具体的には、試料として、プーアル茶(一段発酵茶)及び碁石茶(二段発酵茶)の酢酸エチル分画エキスを用いて、以下の方法により行った。それぞれ一群につき4匹の21週齢SHRにおいて、試料投与前の収縮期及び拡張期血圧をBP−98A血圧計(株式会社Softron製)にて各6回測定し
た。続いて、胃ゾンデによりプーアル茶と碁石茶の酢酸エチル分画エキスをそれぞれ1mgずつ経口投与し、投与後4、8、24及び28時間目の収縮期血圧を測定した。結果を
図6に示す。
【0044】
図6から明らかなように、プーアル茶の酢酸エチル分画エキスを投与した場合には、4時間後に投与前に比べて約10mmHg血圧が低下し、さらにその後約8時間にわたり血圧低下作用が持続した。また、碁石茶の酢酸エチル分画エキスを投与した場合には、8時間後に投与前に比べて約30mmHg近く血圧が低下し、さらにその後20時間以上にわたり血圧低下作用が持続した。
【0045】
[試験例6]正常ウィスターラットを用いた観血式血圧測定
正常ウィスターラットを用いた観血式血圧測定を行った。具体的には、24週齢の正常ウィスターラットをウレタン麻酔し、気道確保後、頸動脈に留置したカニューレを動物用ディスポ血圧トランスジューサに接続し、Quad Bridgeアンプを介することで、血圧変化
を電圧変化に変換した。血圧の測定及び記録はADINSTRUMENTS社のPowerLabシステムを使
用した。変換された電圧はADコンバーターPowerLab 4/25により1/100秒間隔でデジ
タルデータとしてコンピューターに記録した。記録されたデータは、水銀血圧計を用いて測定した圧力の実測値を基準としてmmHgに校正した。碁石茶の酢酸エチル分画エキス(10mg/ml)を生理食塩水にて1/1000倍希釈、1/100倍希釈、1/10倍希釈したもの、及び原液をそれぞれ30分おきに0.1 ml大腿静脈に投与し、投与
後、10分の収縮期及び拡張期血圧を測定した。測定したチャートとデータを
図7に示す。
【0046】
図7から明らかなように、最も薄い濃度の1/1000倍希釈のエキスを投与した場合には、投与後10分で収縮期血圧が約12mmHg低下し、1/100倍希釈のエキスでは約16mmHg、1/10倍希釈のエキスでは約18mmHg低下し、エキスの濃度が高くなるに従い血圧は低下した。なお、原液を投与した場合には、1/10倍希釈のエキスを投与した場合に比してさらなる血圧の低下は観察されなかった。これは、エキスの濃度が1/100〜1/10程度で血圧低下作用が頭打ちになるためであると考えられる。
【0047】
[試験例7]後発酵茶の平滑筋弛緩作用の比較
碁石茶(高知県)、天狗黒茶(愛媛県)、阿波番茶(徳島県)、バタバタ茶(富山県)及びプーアル茶の酢酸エチル分画エキスを製造例1と同様の方法で調製し、それぞれの血管平滑筋弛緩作用を試験例1と同様の手順で測定し、比較を行った。
【0048】
図8から明らかなように、碁石茶やプーアル茶以外の後発酵茶の酢酸エチル分画エキスも、碁石茶やプーアル茶と同様に血管平滑筋に直接作用して血管を弛緩させる作用を有していることが明らかとなった。
【0049】
[試験例8]後発酵茶のアンギオテンシン変換酵素(ACE)阻害能の比較
碁石茶、プーアル茶、阿波番茶、バタバタ茶及び天狗黒茶のそれぞれの酢酸エチル分画エキスについて、ACE kit-WST(同仁化学)を用いてACE阻害活性測定を行った。ポジ
ティブコントロールとしては臨床で使用されているAlaceprilを用い、同時に測定した。
【0050】
図9から明らかなように、後発酵茶の酢酸エチル分画エキスにはACEに対する阻害活
性がある事がわかった。特にプーアル茶、バタバタ茶及び天狗黒茶の酢酸エチル分画エキスには比較的強いACE阻害効果があることがわかった。
【0051】
以上の結果の通り、本発明の抽出物の投与により血圧上昇を抑制することができる。