(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して説明する。
本発明のゴム用コーティング剤(以下、単に「コーティング剤」ともいう)は、
(a)(メタ)アクリレート系モノマー、
(b)パーフルオロアルキル基含有モノマー、および
(c)ポリオルガノシロキサン鎖含有モノマーを主たるモノマー成分とする共重合体(以下、「パーフルオロアルキル基およびポリオルガノシロキサン鎖含有共重合体」とも略称する。)を含むことが主たる特徴である。
【0012】
[(A)パーフルオロアルキル基及びポリオルガノシロキサン鎖含有共重合体]
【0013】
<(a)(メタ)アクリレート系モノマー>
(メタ)アクリレート系モノマーは、特に限定はされず、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソアミル(メタ)アクリレート、n−ヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等が挙げられる。なかでも、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソアミル(メタ)アクリレート、n−ヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート等のアルコール残基が炭素数1〜12の直鎖状または分岐鎖状のアルキル基であるアルキル(メタ)アクリレートが好ましく、より好ましくはアルキル基の炭素数が1〜4のアルキル(メタ)アクリレートであり、特に好ましくは、アルキル基の炭素数が1〜4のアルキルメタクリレートであり、最も好ましくは、メチルメタクリレート、エチルアクリレート等である。
【0014】
かかる(メタ)アクリレート系モノマーは1種または2種以上を使用することができる。なお、2種以上を使用する場合、メチルメタクリレート、エチルアクリレートの併用等が好適である。
【0015】
<(b)パーフルオロアルキル基含有モノマー>
パーフルオロアルキル基含有モノマーは、パーフルオロアルキル基を有するモノエチレン性不飽和モノマーであれば、特に限定はされないが、以下の式(I)で表される、パーフルオロアルキル基含有(メタ)アクリレート系モノマーが好ましい。
【0017】
(式中、R
1は水素又はメチル基を表し、R
2は炭素数が1〜4の直鎖状または分岐鎖状のアルキレン基を表し、R
fは炭素数が3〜12の直鎖状または分岐鎖状のパ−フルオロアルキル基を表す。)
【0018】
該式(I)のパーフルオロアルキル基含有(メタ)アクリレート系モノマーにおいて、R
2で表される炭素数が1〜4の直鎖状または分岐鎖状のアルキレン基は、炭素数が1〜2であるのが好ましい。また、R
fで表される炭素数が3〜12の直鎖状または分岐鎖状のパーフルオロアルキル基は、炭素数が5〜7が好ましく、より好ましくは炭素数が6であり、また、直鎖状であるのが好ましい。パーフルオロアルキル基の炭素数が5〜7であることで塗膜の低摩擦性の点でより優れた効果を発揮し、かつ、人体への悪影響の懸念がなくなる。
【0019】
該式(I)のパーフルオロアルキル基含有(メタ)アクリレート系モノマーの具体例としては、例えば、
CH
2=CH−COO−CH
2−(CF
2)
6−CF
3、
CH
2=CH−COO−CH
2−CH
2−(CF
2)
6−CF
3、
CH
2=C(CH
3)−COO−CH
2−(CF
2)
6−CF
3、
CH
2=C(CH
3)−COO−CH
2−CH
2−(CF
2)
6−CF
3、
CH
2=C(CH
3)−COO−CH
2−CF(CF
3)
2
等が挙げられる。
【0020】
本発明において、パーフルオロアルキル基含有モノマーは、1種または2種以上を使用することができる。
【0021】
<(c)ポリオルガノシロキサン鎖含有モノマー>
ポリオルガノシロキサン鎖含有モノマーは、ポリオルガノシロキサン鎖を有するモノエチレン性不飽和モノマーであれば、特に限定はされないが、以下の式(II)で表される、ポリオルガノシロキサン鎖含有(メタ)アクリレート系モノマーが好ましい。
【0023】
(式中、R
3は水素原子またはメチル基を表し、R
4は炭素数が1〜4の直鎖状または分岐鎖状のアルキレン基を表し、R
Sは、式(III):
【0025】
[式中、R
5は炭素数が1〜4の直鎖状または分岐鎖状のアルキル基を表し、R
6は炭素数が1〜4の直鎖状もしくは分岐鎖状のアルキル基または水素原子を表し、nは1〜500の整数を表す。]で表されるポリオルガノシロキサン鎖を表す。)
【0026】
該式(II)のポリオルガノシロキサン鎖含有(メタ)アクリレート系モノマーにおいて、R
4で表される炭素数が1〜4の直鎖状または分岐鎖状のアルキレン基は、炭素数が1〜3であるのが好ましい。また、R
Sのポリオルガノシロキサン鎖におけるR
5が表す炭素数が1〜4の直鎖状または分岐鎖状のアルキル基は、メチル基、エチル基が好ましく、特に好ましくはメチル基である。また、R
6が表す炭素数が1〜4の直鎖状または分岐鎖状のアルキル基は、n−プロピル基、n−ブチル基、イソプロピル基、t−ブチル基が好ましく、特に好ましくはn−ブチル基である。
R
Sのポリオルガノシロキサン鎖の分子量は塗膜の低摩擦性の観点から1,000〜10,000が好ましい。すなわち、式(III)中の1〜500の整数を表すnは、好ましくはポリオルガノシロキサン鎖の分子量が1,000〜10,000となる数である
【0027】
本発明において、ポリオルガノシロキサン鎖含有モノマーは1種または2種以上を使用することができる。
【0028】
本発明において、(A)パーフルオロアルキル基及びポリオルガノシロキサン鎖含有共重合体は、(a)(メタ)アクリレート系モノマー、(b)パーフルオロアルキル基含有モノマーおよび(c)ポリオルガノシロキサン鎖含有モノマーを主たるモノマー成分とする共重合体であり、典型的には、(a)(メタ)アクリレート系モノマー、(b)パーフルオロアルキル基含有モノマーおよび(c)ポリオルガノシロキサン鎖含有モノマーの3種のモノマーからなる共重合体である。なお、(a)〜(c)の3種のモノマーからなる共重合体に、(d)他のモノマーがさらに共重合した共重合体であってもよい。
【0029】
(d)他のモノマーは、エチレン性不飽和モノマーであれば特に限定されず、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレンなどの芳香族ビニル化合物;(メタ)アクリルアミド、ダイアセトンアクリルアミドなどの不飽和カルボン酸のアミド類;マレイン酸、フマル酸、イタコン酸またはこれらの誘導体;ビニルピロリドンなどの複素環式ビニル化合物;塩化ビニル、アクリロニトリル、ビニルエーテル、ビニルケトン、ビニルアミドなどのビニル化合物;エチレン、プロピレンなどのα−オレフィンなどを挙げることができる。これらは1種または2種以上を用いることができる。
【0030】
パーフルオロアルキル基及びポリオルガノシロキサン鎖含有共重合体における、(a)(メタ)アクリレート系モノマー、(b)パーフルオロアルキル基含有モノマー、(c)ポリオルガノシロキサン鎖含有モノマーの共重合比((a)/(b)/(c))は、重量比で、0.4〜0.7/0.2〜0.4/0.1〜0.3が好ましい。かかる共重合比を離れて、(a)(メタ)アクリレート系モノマーの割合が多くなると、塗膜の柔軟性(曲げ性)が低下する傾向となり、(a)(メタ)アクリレート系モノマーの割合が少なくなると、塗膜の低摩擦性が低下する傾向となる。また、かかる共重合比を離れて、(b)パーフルオロアルキル基含有モノマーの割合が多くなると、塗膜の低摩擦性の持続性が低下する傾向となり、(b)パーフルオロアルキル基含有モノマーの割合が少なくなると、塗膜の柔軟性(曲げ性)が低下する傾向となる。また、かかる共重合比を離れて、(c)ポリオルガノシロキサン鎖含有モノマーの割合が多くなると、塗膜の柔軟性(曲げ性)が低下する傾向となり、(c)ポリオルガノシロキサン鎖含有モノマーの割合が少なくなると、塗膜の耐摩耗性が傾向する傾向となる。
当該共重合比((a)/(b)/(c))はより好ましくは、0.45〜0.55/0.25〜0.35/0.15〜0.25である。
【0031】
(A)パーフルオロアルキル基及びポリオルガノシロキサン鎖含有共重合体は、(a)〜(c)のモノマー、或いは、(a)〜(d)のモノマーを、塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法等の任意の方法で重合することで得られる。溶液重合における溶媒には、例えば、トルエン、酢酸エチル、メチルエチルケトン、アセトンなどを使用できる。重合反応温度は60〜80℃程度が好ましい。反応時間は、特に限定されないが、例えば5〜24時間程度である。重合開始剤は特に限定されず、例えば、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ系開始剤、過酸化ベンゾイル等の有機過酸化物系開始剤、過酸化物と還元剤を併用したレドックス系開始剤、光重合開始剤などを使用できる。なお、共重合体の形態は特に限定されず、ランダム共重合体、ブロック共重合体のいずれであってもよいが、コーティング剤の均一性の観点からランダム共重合体が好適である。
【0032】
(A)パーフルオロアルキル基及びポリオルガノシロキサン鎖含有共重合体の分子量としては、数平均分子量で10,000〜200,000が好ましく、20,000〜30,000がさらに好ましい。ここでいう数平均分子量とは、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)法により求められる値のことである。
【0033】
本発明のコーティング剤は、通常、(A)パーフルオロアルキル基及びポリオルガノシロキサン鎖含有共重合体を含む溶液乃至分散液の状態で使用される。一般的には、重合反応後、濾過、洗浄等の精製操作を経て得られた共重合体を適当な溶媒に溶解乃至分散させることでコーティング剤を調製するが、溶液重合によって共重合体を得た場合は、重合反応液をそのままコーティング剤として使用してもよい。
【0034】
コーティング剤における溶媒は特に限定はされないが、例えば、クロロホルム、ジクロロメタン、塩化メチレン、トリクロロエチレン、二塩化エチレン、1,2−ジクロロエタン、テトラクロロエタン、クロロベンゼンなどのクロロ炭化水素系溶媒、パーフルオロ−tert−ブタノール、ヘキサフルオロ−2−メチルイソプロパノール、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロイソプロパノール等のフッ素含有分岐アルコール系溶媒、N−メチルピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミドなどの含窒素極性溶媒、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)、ジエチルケトン、アセトフェノン、シクロヘキサノンなどのアルキルケトン系溶媒、安息香酸メチル、安息香酸エーテル、安息香酸ブチルなどの安息香酸エステル系溶媒、ベンゼン、トルエン、キシレンおよびソルベントナフサなどの芳香族炭化水素系溶媒、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルなどのグリコールエーテル系溶媒、メチルセロソルブアセテート、メトキシプロピルアセテート、カルビトールアセテート、ブチルカルビトールアセテートなどのグリコールエステル系溶媒、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、1,3−ジオキソラン、メチルt−ブチルエーテルなどのエーテル系溶媒、ジメチルスルホキシド、ジメチルスルホンなどのスルホキシド・スルホン系溶媒、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、フェノール、クレゾール、ポリエチレングリコールなどのアルコール・フェノール系溶媒、ノルマルヘキサン、シクロヘキサン、ノルマルヘプタン、イソオクタン、ノルマルデカンなどの炭化水素系溶媒などが挙げられる。中でも、基材に対するコーティング剤の浸透及びウレタン樹脂との相溶性の点から、アルキルケトン系溶媒が好ましく、MEKが特に好ましい。
【0035】
コーティング剤中の(A)パーフルオロアルキル基及びポリオルガノシロキサン鎖含有共重合体の含有量は、摺動性の観点から、コーティング剤全体に対して0.5重量%以上が好ましく、1.0重量%以上がより好ましい。また、柔軟性の観点から、コーティング剤全体に対して10重量%以下が好ましく、5重量%以下がより好ましい。
【0036】
本発明のコーティング剤には、得られる塗膜のゴム基材への密着性の向上等を目的として、ポリウレタン樹脂、ポリイソシアネートおよびシランカップリング剤等を配合することができる。
【0037】
[(B)ポリウレタン樹脂]
本発明に使用するポリウレタン樹脂は、一液型ポリウレタン樹脂であっても、二液型ポリウレタン樹脂であってもよい。ポリウレタン樹脂は、ポリイソシアネート、ポリオール、及び必要により鎖伸長剤を反応させた重合体である。
【0038】
ポリイソシアネートとしては、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、2,2’−ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4−トルエンジイソシアネート、2,6−トルエンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルエーテルジイソシアネート、2,2’−ジフェニルプロパン−4,4’−ジイソシアネート、3,3’−ジメチルジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネート、4,4’−ジフェニルプロパンジイソシアネート、1,2−フェニレンジイソシアネート、1,3−フェニレンジイソシアネート、1,4−フェニレンジイソシアネート、1,4−ナフタレンジイソシアネート、1,5−ナフタレンジイソシアネート、3,3’−ジメトキシジフェニル−4,4’−ジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネート、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート、1,4−テトラメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート等の脂肪族ジイソシアネート、o−キシレンジイソシアネート、m−キシレンジイソシアネート、p−キシレンジイソシアネート、テトラメチルキシレンジイソシアネート等の芳香脂肪族ジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、水素添加トルエンジイソシアネート、水素添加キシレンジイソシアネート、水素添加ジフェニルメタンジイソシアネート、水素添加テトラメチルキシレンジイソシアネート等の脂環族ジイソシアネート等が挙げられる。また、これらジイソシアネートのアダクト変性体、ビュレット変性体、イソシアヌレート変性体、ウレトンイミン変性体、ウレトジオン変性体、カルボジイミド変性体等のいわゆる変性ポリイソシアネートも使用できる。ポリイソシアネートは1種または2種以上を使用できる。
【0039】
ポリオールの例は、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオール等である。
【0040】
ポリエーテルポリオールとしては、多価アルコール類、多価フェノール類、アミン類、ポリカルボン酸類等のアルキレンオキサイド付加物が挙げられる。多価アルコール類としては、例えば、2価アルコール類(エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、ネオペンチルグリコール等);並びに、3〜8価またはそれ以上のアルコール類(グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ソルビトール、ショ糖等)が挙げられる。多価フェノール類としては、例えば、ハイドロキノン、ビスフェノール類(ビスフェノールA、ビスフェノールF等)、フェノール化合物のホルマリン低縮合物(ノボラック樹脂、レゾールの中間体)が挙げられる。アミン類としては、アンモニア;アルカノールアミン類(モノ−、ジ−もしくはトリエタノールアミン、イソプロパノールアミン、アミノエチルエタノールアミン等);炭素数1〜20のアルキルアミン類(メチルアミン、エチルアミン、オクチルアミン等);炭素数2〜6のアルキレンジアミン類(エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン等);アルキレン基の炭素数が2〜6のポリアルキレンポリアミン類(ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン等);炭素数6〜20の芳香族アミン類(アニリン、フェニレンジアミン、ジアミノトルエン、キシリレンジアミン、メチレンジアニリン、ジフェニルエーテルジアミン等);炭素数4〜15の脂環式アミン類(イソホロンジアミン、シクロヘキシレンジアミン等);並びに炭素数4〜15の複素環式アミン類(ピペラジン、N−アミノエチルピペラジン等)等が挙げられる。ポリカルボン酸類としては、脂肪族ポリカルボン酸類(コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、マレイン酸、フマル酸等);芳香族ポリカルボン酸類(フタル酸、テレフタル酸、トリメリト酸等])が挙げられる。アルキレンオキサイドとしては、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、1,2−、1,4−、2,3−ブチレンオキサイド等挙げられる。
【0041】
ポリエステルポリオールとしては、ジオールとジカルボン酸との縮合反応で得られるポリエステルポリオール、ラクトン系ポリエステルポリオールなどが挙げられる。
【0042】
ジオールとジカルボン酸との縮合反応で得られるポリエステルポリオールは、通常、C
1−3アルキル基を有していてもよいC
2−8アルカンジオールと、炭素数3〜10程度の脂肪族ジカルボン酸や芳香族ジカルボン酸との反応により得られる二官能性で末端水酸基を有するポリエステルジオールである。このようなポリエステルポリオールとしては、具体的には、ポリエチレンアジペート、ポリエチレン・ブチレンアジペート、ポリブチレンアジペート、ポリプロピレンアジペート、ポリヘキサメチレンアジペート、ポリネオペンチレンアジペート、3−メチル−1,5−ペンタンジオールとアジピン酸との縮合物、2,4,4−トリメチル−1,6−ヘキサンジオール及び/又は2,2,4−トリメチル−1,6−ヘキサンジオールとアジピン酸との縮合物、テレフタル酸と1,6−ヘキサンジオール又は3−メチル−1,5−ペンタンジオールとの縮合物、テレフタル酸とイソフタル酸及び/又はアジピン酸と1,6−ヘキサンジオール又は3−メチル−1,5−ペンタンジオールとの縮合物などが挙げられる。
【0043】
ラクトン系ポリエステルポリオールとしては、短鎖のポリオールを開始剤として、ラクトン類を開環付加重合したポリエステルポリオールなどが例示できる。短鎖のポリオールとしては、2価アルコール、トリメチロールプロパン、グリセリン等などが使用でき、ラクトン類としては、例えば、β−プロピオラクトン、γ−ブチロラクトン(GBL)、γ−バレロラクトン、δ−バレロラクトン、γ−カプロラクトン、δ−カプロラクトン、ε−カプロラクトンなどのC
3−10ラクトンなどが挙げられる。これらのラクトン類は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらのラクトン類のうち、バレロラクトンやカプロラクトンなどのC
4−8ラクトン、特に、工業性や経済性などの点から、ε−カプロラクトンなどのカプロラクトンが好ましい。
【0044】
ポリカーボネートポリオールとしては、アルキレンカーボネート、ジアルキルカーボネート、ジアリールカーボネートなどの炭酸エステルを原料に用いる。アルキレンカーボネートとしては、エチレンカーボネート、トリメチレンカーボネート、1,2−プロピレンカーボネート、1,2−ブチレンカーボネート、1,3−ブチレンカーボネート、1,2−ペンチレンカーボネートなどがある。またジアルキルカーボネートとしては、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジ-n−ブチルカーボネートなどが、ジアルキレンカーボネートとしては、ジフェニルカーボネートなどがある。そのなかでも、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネートを用いるのが好ましい。
【0045】
コーティング剤中の(B)ポリウレタン樹脂の含有量は、ゴム基材との密着力の観点から、コーティング剤全体に対して2重量%以上が好ましく、5重量%以上がより好ましく、8重量%以上がさらに好ましい。また、塗膜の柔軟性の観点から、コーティング剤全体に対して40重量%以下が好ましく、20重量%以下がより好ましい。
【0046】
[(C)ポリイソシアネート]
なお、上記の(B)ポリウレタン樹脂とともに、ポリイソシアネートを硬化剤として配合することができる。このようなポリイソシアネートとしては上述のポリイソシアネートを挙げることができる。コーティング剤中の(C)ポリイソシアネートの含有量は、コーティング剤中の(B)ポリウレタン樹脂に対して3〜25重量%程度である。
【0047】
[(D)シランカップリング剤]
シランカップリング剤としては、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン例示されるビニル基及びアルコキシ基含有シランカップリング剤;2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシランで例示されるエポキシ基及びアルコキシ基含有シランカップリング剤;p−スチリルトリメトキシシランで例示されるスチリル基及びアルコキシ基含有シランカップリング剤;3−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシランで例示される(メタ)アクリル基及びアルコキシ基含有シランカップリング剤;3−ウレイドプロピルトリエトキシシランで例示されるウレイド基及びアルコキシ含有シランカップリング剤;3−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシランで例示されるメルカプト基及びアルコキシ含有シランカップリング剤;ビス(トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィドで例示されるスルフィド基及びアルコキシ含有シランカップリング剤;3−イソシアネートプロピルトリエトキシシランで例示されるイソシアネート基及びアルコキシ含有シランカップリング剤、ビニルトリアセトキシシランで例示されるビニル基及びアセトキシ含有シランカップリング剤;アリルトリメトキシシランで例示されるアリル基及びアルコキシ含有シランカップリング剤;メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、トリメチルメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリフェノキシシラン、エチルトリメトキシシラン、n−プロピルトリメトキシシラン、ジイソプロピルジメトキシシラン、イソブチルトリメトキシシラン、ジイソブチルジメトキシシラン、イソブチルトリエトキシシラン、n−ヘキシトリメトキシシラン、n−ヘキシトリエトキシシラン、シクロヘキシルメチルジメトキシシラン、n−オクチルトリエトキシシラン、n−デシルトリメトキシシランで例示されるアルキル基及びアルコキシ基含有シランカップリング剤;フェニルトリメトキシシランで例示されるアリール基及びアルコキシ基含有シランカップリング剤;n−オクチルジメチルクロロシランで例示されるアルキル基及びクロロシラン基含有シランカップリング剤;テトラエトキシシランで例示されるアルコキシシランであるシランカップリング剤等が挙げられる。なかでも、エポキシ基及びアルコキシ基含有シランカップリング剤が好ましく、より好ましくは3−グリシドキシプロピルトリエトキシシランである。
シランカップリング剤は1種または2種以上を使用することができる。
【0048】
コーティング剤中の(D)シランカップリング剤の含有量は、ゴム基材との密着力の観点から、コーティング剤全体に対して0.05重量%以上が好ましく、0.1重量%以上がより好ましい。また、摺動性の観点から、コーティング剤全体に対して0.5重量%以下が好ましく、0.4重量%以下がより好ましい。
【0049】
本発明のコーティング剤は、種々のゴム部材のコーティング剤として使用することができる。コーティング方法はと特に限定されず、スプレー塗布、浸漬塗布、スピンコート、バーコータ等の方法によりゴム部材(ゴム基材)に塗布後、溶媒を揮発(乾燥)させることで、塗膜を形成することができる。乾燥温度は、60〜100℃程度が一般的である。
【0050】
乾燥後の塗膜の厚さは10〜30μm程度が好ましく、15〜20μm程度がより好ましい。塗膜の厚さが大き過ぎると、ゴム部材(ゴム基材)への追従性が悪くなり、塗膜のクラック発生等の問題が生じやすくなる傾向となり、塗膜の厚さが小さ過ぎると、耐摩耗性が低下する傾向となる
【0051】
本発明のコーティング剤の被塗物であるゴムの材質は、特に限定されず、天然ゴム、ニトリルゴム、エチレン−プロピレンゴム、クロロプレンゴム、シリコンゴム、フッ素ゴム等が挙げられるが、ニトリルゴム(NBR)が好適である。また、本発明のコーティング剤の被塗物であるゴムは未加硫ゴムおよび加硫ゴムを含む。また、加硫ゴムは、硫黄加硫による加硫ゴムだけでなく、過酸化物加硫による加硫ゴムを含む。
【0052】
本発明のコーティング剤は特にシール用に好適であり、例えば、NBRからなるシール用のゴム基材(未加硫ゴムの成形体、加硫ゴムの成形体)に、本発明のコーティング剤による塗膜を形成することで、低摩擦性と優れた柔軟性を兼ね備えた表面特性を有するシールを実現することができる。なお、シール用のゴム基材は、NBRに老化防止剤、滑剤、充填剤、可塑剤などの添加剤を配合したゴム組成物の成形体であってもよい。これらの添加剤は、NBRに通常用いられる配合量を適宜選択すればよい。
【実施例】
【0053】
以下、実施例及び比較例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【0054】
[実施例1]
(1)パーフルオロアルキル基及びポリオルガノシロキサン鎖含有共重合体の合成)
モノマーとして、MMA(メチルメタクリレート)、PFEA−6(パーフルオロヘキシルエチルアクリレート)およびPMA−DMSi(ジメチルシロキサン含有メタクリレート)を使用し、共重合組成(MMA/PFEA−6/PMA−DMSi)(重量比)が、0.5/0.2/0.3である、数平均分子量が20,000のランダム共重合体を以下の方法で合成した。なお、PMA−DMSi(ジメチルシロキサン含有メタクリレート)は、式(II)中のR
3がメチル基、R
4がトリメチレン基、R
5がメチル基、R
6がtert−ブチル基、nが分子量が5000の化合物であり、JNC株式社製の市販品(FM−0721(商品名))である。
【0055】
MMA、PFEA−6およびPMA−DMSiを、MMA/PFEA−6/PMA−DMSi(重量比)=0.5/0.2/0.3、モノマー濃度が30重量%となるようにメチルイソブチルケトンに溶解させ、そこに2,2’−アゾビスイソブチルニトリルをモノマー重量に対して0.5重量%になるように添加し、窒素雰囲気下、75℃にて7時間重合反応を行なった。反応後、ポリマー溶液を10倍量(体積)のメタノール中、常温にて再沈殿させた。その後、上澄みを除去し、自然乾燥させることによりパーフルオロアルキル基及びポリオルガノシロキサン鎖含有共重合体を得た。
【0056】
(2)上記(1)で得られたパーフルオロアルキル基及びポリオルガノシロキサン鎖含有共重合体を溶媒であるメチルエチルケトンにて混合し、共重合体濃度が10重量%のコーティング液を調製した。
【0057】
(3)塗膜を有するゴム部材(試料)の作製
NBRからなる、100mm角(平面形状が100mm×100mmの正方形)で、厚さが2mmのゴム基材を、コーティング液にディッピングした後、自然乾燥し、次いで50℃で20分加熱硬化処理を行って、塗膜厚みが15μmのゴム部材(試料)を作製した。
【0058】
[実施例2]
実施例1における(1)のパーフルオロアルキル基及びポリオルガノシロキサン鎖含有共重合体の合成において、共重合組成(MMA/PFEA−6/PMA−DMSi)(重量比)が0.5/0.3/0.2、数平均分子量が20,000の共重合体を合成した以外は実施例1と同様にして、塗膜を有するゴム部材(試料)を作製した。
【0059】
[実施例3]
実施例1における(1)のパーフルオロアルキル基及びポリオルガノシロキサン鎖含有共重合体の合成において、共重合組成(MMA/PFEA−6/PMA−DMSi)(重量比)が0.5/0.4/0.1、数平均分子量が20,000の共重合体を合成した以外は実施例1と同様にして、塗膜を有するゴム部材(試料)を作製した。
【0060】
[実施例4]
ポリエステル系ポリウレタン溶液であるサンプレンIB−1700D(三洋化成工業社製商品名、固形分量30%、溶媒:MEK/IPA(イソプロピルアルコール)=45/1)100重量部に対し、ポリイソシアネートであるクロスネートXC−R(大日精化工業社製商品名:固形分量100%)6重量部および3−グリシジルオキシプロピルトリエトキシシラン(モメンティブ社製A1871(商品名))1重量部を配合した。このポリイソシアネート及び3−グリシジルオキシプロピルトリエトキシシランを含有するポリウレタン樹脂溶液と、実施例2で調製したコーティング液と、希釈剤としてのメチルエチルケトンを混合して、パーフルオロアルキル基及びポリオルガノシロキサン鎖含有共重合体1.0重量%、ポリウレタン8.2重量%、ポリイソシアネート0.5重量%、3−グリシジルオキシプロピルトリエトキシシラン0.1重量%を含有するコーティング液を調製した。このコーティング液を使用して、厚さが2mmのゴム基材を、コーティング液にディッピングした後、60℃で10分間乾燥後、150℃で20分加熱硬化処理を行って、塗膜厚みが15μmのゴム部材(試料)を作製した。
【0061】
[比較例1]
パーフルオロアルキル基及びポリオルガノシロキサン鎖含有共重合体に代えて、共重合組成(MMA/PMA−DMSi)(重量比)が0.5/0.5の、数平均分子量が20,000の共重合体を合成した以外は、実施例1と同様にして、塗膜を有するゴム部材(試料)を作製した。
【0062】
[比較例2]
パーフルオロアルキル基及びポリオルガノシロキサン鎖含有共重合体に代えて、共重合組成(MMA/PFEA−6)(重量比)が0.5/0.5の、数平均分子量が20,000の共重合体を合成した以外は、実施例1と同様にして、塗膜を有するゴム部材(試料)を作製した。
【0063】
以上作製した実施例1〜4、比較例1、2のゴム部材(試料)に対して下記の評価試験を実施した。
【0064】
[評価試験]
(1)摩擦試験(動摩擦係数の測定)
JIS−K7125を参考にHEIDON社製の表面性測定器を用いた。水平な試験テーブル上で試験片(任意サイズ)にボール圧子(SUS304)を接点に100gの荷重をかけ、75mm/minで試験片を水平に動かした際のボール圧子と試験片間の摩擦係数を測定した。
【0065】
(2)曲げ試験
サンプルの片端を固定し、別の片端を前後にU字になるまで曲げる操作を100回行なう試験を実施し、塗膜への皺発生の有無を目視で評価した。皺が認められなかったものを合格(○)、皺が認められたものを不合格(×)とした。
【0066】
(3)繰り返し試験(摺動性の評価)
75mm/min、荷重100gの条件(摩擦試験と同条件)にて、同じ所で、ステンレス球を50往復させた際に、目視観察により、跡が残らない場合を合格(○)、跡が残る場合を不合格(×)とした。
【0067】
(4)密着性
JIS K 6850−剛性被着材の引っ張りせん断接着強さ試験方法−を参考に、真鍮板(25mm×60mm)に対しゴム部材(試料)の塗膜面を接着剤(東亞合成社製「アロンアルファ232F」)にて接着し、引張試験の際のせん断剥離力を接着面積で割った値にて評価した。塗膜が剥離する前にゴム基材が破断した場合、塗膜のゴム基材への密着性が極めて良好(○)と判断し、ゴム基材が破断する前に塗膜の剥離箇所が認められた場合と区別した。
【0068】
下記表1が試験結果である。
【0069】
【表1】
【0070】
表1より、パーフルオロアルキル基およびポリオルガノシロキサン鎖含有共重合体を含むコーティング剤はゴム基材の表面に低摩擦性および柔軟性に優れた塗膜を形成することができ、NBRのような表面の摩擦係数が高いゴムに低摩擦性と優れた柔軟性を兼ね備えた表面特性を付与できることが分かる。このため、ゴム基材にNBRを使用して、摺動部用シールを実現することができる。