(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
上記ユビキリン2特異抗体は、下記(1)または(2)に記載のポリペプチドを用いて誘導され、かつ当該ポリペプチドに特異的に結合する抗体である、請求項2に記載の検出キット:
(1)配列番号1に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチド;
(2)上記(1)の部分ポリペプチド。
上記ユビキリン2を検出するための試薬が、下記(3)〜(5)のいずれかのポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドを含む、請求項1に記載の検出キット:
(3)配列番号2に示される塩基配列からなるポリヌクレオチド;
(4)配列番号2に示される塩基配列からなるポリヌクレオチドのアンチセンス鎖;および
(5)上記(3)または(4)の部分塩基配列からなるポリヌクレオチド。
上記尿路上皮癌は、腎盂癌、尿管癌、および膀胱癌から選択されるいずれか1つ以上であり、上記扁平上皮癌は子宮頸癌および食道癌から選択されるいずれか1つ以上である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の検出キット。
上記ユビキリン2特異抗体は、下記(1)または(2)に記載のポリペプチドを用いて誘導され、かつ当該ポリペプチドに特異的に結合する抗体である、請求項8に記載の自動診断装置:
(1)配列番号1に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチド;
(2)上記(1)の部分ポリペプチド。
上記ユビキリン2を検出するための試薬が、下記(3)〜(5)のいずれかのポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドを含む、請求項7に記載の自動診断装置:
(3)配列番号2に示される塩基配列からなるポリヌクレオチド;
(4)配列番号2に示される塩基配列からなるポリヌクレオチドのアンチセンス鎖;および
(5)上記(3)または(4)の部分塩基配列からなるポリヌクレオチド。
上記尿路上皮癌は、腎盂癌、尿管癌、および膀胱癌から選択されるいずれか1つ以上であり、上記扁平上皮癌は子宮頸癌および食道癌から選択されるいずれか1つ以上である、請求項6〜11のいずれか1項に記載の自動診断装置。
上記ユビキリン2特異抗体は、下記(1)または(2)に記載のポリペプチドを用いて誘導され、かつ当該ポリペプチドに特異的に結合する抗体である、請求項15に記載のデータ取得方法:
(1)配列番号1に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチド;
(2)上記(1)の部分ポリペプチド。
上記ユビキリン2を検出するための試薬が、下記(3)〜(5)のいずれかのポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドを含むことを特徴とする、請求項14に記載のデータ取得方法:
(3)配列番号2に示される塩基配列からなるポリヌクレオチド;
(4)配列番号2に示される塩基配列からなるポリヌクレオチドのアンチセンス鎖;および
(5)上記(3)または(4)の部分塩基配列からなるポリヌクレオチド。
上記尿路上皮癌は、腎盂癌、尿管癌、および膀胱癌から選択されるいずれか1つ以上であり、上記扁平上皮癌は子宮頸癌および食道癌から選択されるいずれか1つ以上である、請求項13〜18のいずれか1項に記載のデータ取得方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上述のように、尿路上皮癌の診断には、膀胱鏡や尿管鏡などの内視鏡を用い、病変組織を採取して病理組織学的に検討することが最も確実で有用であるが、患者の苦痛が強く、また経済的負担も大きい。
【0012】
一方、尿中剥離細胞から癌細胞の有無を観察して診断する尿細胞診は安価かつ簡便であり特異度も高い検査法であるが、診断精度(感度)が低いという致命的な問題点がある。尿細胞診において、癌細胞であると断定できない擬陽性の細胞が見出された場合、次のステップとして内視鏡による病理組織学的診断を行う必要が生じ得る。ただし、内視鏡を体内に挿入したとしても、最終的に癌組織を見出すことができなければ、正確な診断を行うことができず、最悪の場合、癌が疑われる臓器を全摘出しなければならないケースも生じ得る。
【0013】
一般に、癌診断において癌マーカーが利用されることが多いが、現時点で、尿路上皮癌の診断に有効な癌マーカーが未だ見出されていないのが現状である。
【0014】
そこで本発明者らは、尿路上皮癌の診断に有効な手段を検討し、ROSが尿路上皮癌の癌マーカーとして利用し得ることを明らかにした(非特許文献4を参照のこと。)。しかし、非特許文献4に記載された方法には、(a)ROSを標識するには採取直後の生細胞が必要であること、(b)ROSは不安定であるため標識後すぐに暗室下で検討する必要があること、(c)ROS陽性細胞の確認には蛍光顕微鏡が必要である一方、形態的特徴は光学顕微鏡にて観察するため両者の対比検討が困難であること、などが実用化を進める上でいくつかの障壁の存在が明らかとなった。
【0015】
したがって、現時点で、患者の痛みを伴わない非侵襲性で、且つ診断精度の高い尿路上皮癌の診断システムは存在しないといえる。そこで本発明は、患者の痛みを伴わない非侵襲性で、且つ診断精度の高い尿路上皮癌の診断システムの構築を行うことを目的とした。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、上記課題を解決するためにROSに代わる尿路上皮癌の新規癌マーカーを探索した結果、驚くべきことにALSの発症に関与するタンパク質である、ユビキリン2が尿路上皮癌細胞で特異的に高発現することを発見した。本発明者らは、ユビキリン2に対する特異抗体を作製し、免疫細胞染色やフローサイトメトリー法により解析した結果、(1)ユビキリン2は正常細胞ではほとんど発現しないのに対して、尿路上皮癌細胞では細胞質や核を中心に過剰発現すること、および(2)癌細胞内ではユビキリン2が持続的に高発現しているため、細胞染色の安定性が極めて高く、癌細胞を正確に識別できるということが分かった。これにより、上述の問題点を補う、高い感度と高い特異度とを併せ持つ、非侵襲的な尿細胞診断システムが構築される。また、ユビキリン2は尿路上皮癌のみならず、扁平上皮癌に対する癌マーカーとして利用し得ることも、本発明者らは見出した。
【0017】
すなわち本発明は、以下の発明を包含する。
【0018】
本発明にかかる尿路上皮癌および扁平上皮癌の検出キットは、上記課題を解決するために、試料中のユビキリン2を検出するための試薬を含むことを特徴としている。
【0019】
また本発明にかかる尿路上皮癌および扁平上皮癌の検出キットにおいて、上記ユビキリン2を検出するための試薬は、ユビキリン2特異抗体を含むものであってもよい。
【0020】
また本発明にかかる尿路上皮癌および扁平上皮癌の検出キットにおいて、上記ユビキリン2特異抗体は、下記(1)または(2)に記載のポリペプチドを用いて誘導され、かつ当該ポリペプチドに特異的に結合する抗体であってもよい。
(1)配列番号1に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチド。
(2)上記(1)の部分ポリペプチド。
【0021】
また本発明にかかる尿路上皮癌および扁平上皮癌の検出キットにおいて、上記ユビキリン2を検出するための試薬は、下記(3)〜(5)のいずれかのポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドを含むものであってもよい。
(3)配列番号2に示される塩基配列からなるポリヌクレオチド。(4)配列番号2に示される塩基配列からなるポリヌクレオチドのアンチセンス鎖。
(5)上記(3)または(4)の部分塩基配列からなるポリヌクレオチド。
【0022】
また本発明にかかる尿路上皮癌および扁平上皮癌の検出キットにおいて、上記尿路上皮癌は、腎盂癌、尿管癌、および膀胱癌から選択されるいずれか1つ以上であってもよく、上記扁平上皮癌は子宮頸癌および食道癌から選択されるいずれか1つ以上であってもよい。
【0023】
一方、本発明にかかる尿路上皮癌および扁平上皮癌の自動診断装置は、上記課題を解決するために、試料中のユビキリン2を検出するためのユビキリン2検出部を備えることを特徴としている。
【0024】
本発明にかかる尿路上皮癌および扁平上皮癌の自動診断装置において、上記ユビキリン2検出部は、ユビキリン2を検出するための試薬で処理された試料からの発色、発光または蛍光を検出し得るものであってもよい。
【0025】
また本発明にかかる尿路上皮癌および扁平上皮癌の自動診断装置において、上記ユビキリン2を検出するための試薬が、ユビキリン2特異抗体を含むものであってもよい。
【0026】
また本発明にかかる尿路上皮癌および扁平上皮癌の自動診断装置において、上記ユビキリン2特異抗体は、下記(1)または(2)に記載のポリペプチドを用いて誘導され、かつ当該ポリペプチドに特異的に結合する抗体であってもよい。
(1)配列番号1に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチド。
(2)上記(1)の部分ポリペプチド。
【0027】
また本発明にかかる尿路上皮癌および扁平上皮癌の自動診断装置において、上記ユビキリン2を検出するための試薬は、下記(3)〜(5)のいずれかのポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドを含むものであってもよい。
(3)配列番号2に示される塩基配列からなるポリヌクレオチド。
(4)配列番号2に示される塩基配列からなるポリヌクレオチドのアンチセンス鎖。
(5)上記(3)または(4)の部分塩基配列からなるポリヌクレオチド。
【0028】
また本発明にかかる尿路上皮癌および扁平上皮癌の自動診断装置において、上記試料は生体から取得された試料であってもよい。
【0029】
また本発明にかかる尿路上皮癌および扁平上皮癌の自動診断装置において、上記尿路上皮癌は、腎盂癌、尿管癌、および膀胱癌から選択されるいずれか1つ以上であってもよく、上記扁平上皮癌は子宮頸癌および食道癌から選択されるいずれか1つ以上であってもよい。
【0030】
一方、本発明にかかる尿路上皮癌および扁平上皮癌の診断のためのデータ取得方法は、生体から取得された試料中のユビキリン2を検出することを特徴としている。
【0031】
また本発明にかかる尿路上皮癌および扁平上皮癌の診断のためのデータ取得方法は、ユビキリン2を検出するための試薬を用いて試料中のユビキリン2を検出する方法であってもよい。
【0032】
また本発明にかかる尿路上皮癌および扁平上皮癌の診断のためのデータ取得方法において、上記ユビキリン2を検出するための試薬は、ユビキリン2特異抗体を含むものであってもよい。
【0033】
また本発明にかかる尿路上皮癌および扁平上皮癌の診断のためのデータ取得方法において、上記ユビキリン2特異抗体は、下記(1)または(2)に記載のポリペプチドを用いて誘導され、かつ当該ポリペプチドに特異的に結合する抗体であってもよい。
(1)配列番号1に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチド。
(2)上記(1)の部分ポリペプチド。
【0034】
また本発明にかかる尿路上皮癌および扁平上皮癌の診断のためのデータ取得方法において、上記ユビキリン2を検出するための試薬は、下記(3)〜(5)のいずれかのポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドを含むものであってもよい。
(3)配列番号2に示される塩基配列からなるポリヌクレオチド。
(4)配列番号2に示される塩基配列からなるポリヌクレオチドのアンチセンス鎖。
(5)上記(3)または(4)の部分塩基配列からなるポリヌクレオチド。
【0035】
また本発明にかかる尿路上皮癌および扁平上皮癌の診断のためのデータ取得方法において、上記生体から取得された試料は尿であってもよい。
【0036】
また本発明にかかる尿路上皮癌および扁平上皮癌の診断のためのデータ取得方法において、上記尿路上皮癌は、腎盂癌、尿管癌、および膀胱癌から選択されるいずれか1つ以上であってもよく、上記扁平上皮癌は子宮頸癌および食道癌から選択されるいずれか1つ以上であってもよい。
【0037】
一方、本発明にかかる尿路上皮癌および扁平上皮癌に対する抗癌物質のスクリーニング方法は、被験物質を接触させた尿路上皮癌細胞または扁平上皮癌細胞のユビキリン2の発現量と、被験物質を接触させていない尿路上皮癌細胞または扁平上皮癌細胞のユビキリン2の発現量とを比較し、ユビキリン2の発現量を減少させる効果を有する被験物質を選択することを特徴としている。
【0038】
一方、本発明にかかる尿路上皮癌および扁平上皮癌に対する抗癌剤は、ユビキリン2の発現を阻害する物質を含むことを特徴としている。
【0039】
また本発明にかかる尿路上皮癌および扁平上皮癌に対する抗癌剤は、上記ユビキリン2の発現を阻害する物質が、ユビキリン2遺伝子またはその部分ポリヌクレオチドのsiRNAであってもよい。
【0040】
一方、本発明にかかる抗癌剤用添加剤は、尿路上皮癌および扁平上皮癌の抗癌剤と共に用いられ、該抗癌剤に対する癌細胞の感受性を高めるための抗癌剤用添加剤であって、ユビキリン2の発現を阻害する物質を含むことを特徴としている。
【0041】
また本発明にかかる尿路上皮癌および扁平上皮癌に対する抗癌剤用添加剤において、上記ユビキリン2の発現を阻害する物質は、ユビキリン2遺伝子またはその部分ポリヌクレオチドのsiRNAであってもよい。
【発明の効果】
【0042】
本発明によれば、患者から採取した尿検体中のユビキリン2を検出するのみで、尿路上皮癌の診断を行うことができる。しかも、高い診断精度および高い特異性をもって、尿路上皮癌の診断を行うことができる。よって、本発明によれば、患者の痛みを伴わない非侵襲性で、且つ診断精度の高い尿路上皮癌の診断手段を提供することができる。
【0043】
またユビキリン2は、食道癌や子宮頸癌等の扁平上皮癌の診断にも利用可能である。
【0044】
なお、ユビキリン2以外のユビキリンファミリーに属するユビキリン1や4について癌との関連性については知られている(特許文献1−5を参照のこと。)。但し、ユビキリン1は前立腺癌、肺癌、または乳癌の腫瘍抗原として知られており、ユビキリン4は結腸直腸癌の発症の診断に利用可能であることが知られているに過ぎず、尿路上皮癌とは全く異なる癌である。ユビキリン2と癌(特に尿路上皮癌)との関連性についてはこれまで一切知られていない。ユビキリン2は、むしろ神経疾患系に関連するタンパクとして注目されている(非特許文献5を参照のこと)。よってこのようなユビキリン2が、尿路上皮癌の癌マーカーとして利用可能であることを、当業者は予想することができない。なお、ユビキリン2は子宮頸癌や食道癌等の扁平上皮癌の癌マーカーとしても利用可能である。
【0045】
さらにユビキリン2の発現を抑制することによって、尿路上皮癌細胞のアポトーシスを誘導し得ること、および化学療法に適用される小胞体ストレス剤に対する癌細胞の感受性を高める効果があることを、本発明者らは明らかにした。つまり、ユビキリン2をターゲットとすることによって、尿路上皮癌や扁平上皮癌に対する新規な治療方法を提供し得るということを、本発明者らは明らかにした。これらの効果は、本発明が奏する顕著且つ有利な効果に他ならない。
【発明を実施するための形態】
【0047】
以下、本発明について詳しく説明するが、本発明の範囲はこれらの説明に拘束されることはなく、以下の例示以外についても、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更実施し得る。また、本明細書中に記載された公知文献の全てが、本明細書中において参考として援用される。
【0048】
なお、本明細書中で使用される場合、用語「ポリペプチド」は、「ペプチド」または「タンパク質」と交換可能に使用される。ポリペプチドは、天然供給源より単離されても、組換え生成されても、化学合成されてもよい。また、本明細書中で使用される場合、用語「ポリヌクレオチド」は、「遺伝子」、「核酸」または「核酸分子」と交換可能に使用され、ヌクレオチドの重合体が意図される。また、「遺伝子」には、DNAのみならず、RNA(例えばmRNA)をも含む意味である。本明細書中で使用される場合、用語「塩基配列」は、「遺伝子配列」、「核酸配列」または「ヌクレオチド配列」と交換可能に使用され、デオキシリボヌクレオチド(A、G、CおよびTと省略される)の配列として示される。
【0049】
〔1.ユビキリン2を用いた尿路上皮癌および扁平上皮癌の検出〕
本発明者らの独自の検討によって、ユビキリン2が、尿路上皮癌(腎盂癌、尿管癌、膀胱癌)および扁平上皮癌(食道癌、子宮頸癌等)の病変組織において特異的に高発現していることを見出した。そして、このユビキリン2が、尿路上皮癌および扁平上皮癌の癌マーカー(「腫瘍マーカー」ともいう。)として利用することができるということを、本発明者らが初めて明らかにした。つまり、本発明は、ユビキリン2を尿路上皮癌や扁平上皮癌の癌マーカーとして利用することを要旨としている。
【0050】
ユビキリン2は、ユビキチン関連タンパク質として知られており、ユビキリンファミリー(ユビキリン1−4)に属する。ユビキリン2については、近年、ALSの発症に関与するタンパク質であることが、明らかにされた(非特許文献5を参照のこと。)。ユビキリン2についてはその遺伝子がクローニングされており、そのcDNA(mRNA)の塩基配列が、遺伝子データベースGenBankにおいてアクセッションナンバー:BC069237.1として登録されている。ユビキリン2のアミノ酸配列を配列番号1に示し、ユビキリン2遺伝子のcDNAの塩基配列を配列番号2に示す。
【0051】
なお、ユビキリン2のアミノ酸配列は配列番号1に示されるものに限定されるものではなく、その変異体も含まれ得る。すなわちユビキリン2をコードするユビキリン2遺伝子の起源や、突然変異によって生じ得る変異タンパク質も、本発明の説明におけるユビキリン2に含まれ得る。換言すれば、配列番号1に示されるアミノ酸配列において、1個もしくは数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加されたアミノ酸配列を有し、ユビキリン2活性(つまり、神経細胞内の欠陥または損傷のあるタンパク質の再生利用を促す活性)を有する変異タンパク質も、本発明の説明におけるユビキリン2に含まれ得る。上記「1個もしくは数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加された」とは、特に限定されるものではないが、部位特異的突然変異誘発法等の公知の変異タンパク質作製法により置換、欠失、挿入、及び/又は付加できる程度の数(好ましくは10個以下、より好ましくは7個以下、さらに好ましくは5個以下)のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加されるものであることを意味する。
【0052】
本発明においては、生体から取得された試料(尿、唾液、痰、血液、細胞、組織等)においてユビキリン2の発現を検出することによって、その試料(または試料が取得された生体)は癌である可能性が高いと判定する(診断する)ことができる。
【0053】
生体から取得された試料(「生体試料」という。)は、特に限定されるものではなく、非侵襲的に取得された生体試料(つまり、患者等の生体に傷をつけることなく採取可能な試料。「非侵襲的生体試料」ともいう。)であっても、侵襲的に取得された生体試料(つまり、患者等の生体に傷をつけて採取する試料。「侵襲的生体試料」ともいう。)であってもよい。非侵襲的生体試料としては、例えば尿、血液(血清、血しょう)、体液、リンパ液、消化器分泌液などが挙げられる。また侵襲的生体試料としては、内視鏡や手術などで取得された病変組織が挙げられる。ただし、患者への負担を考慮すれば、尿などの非侵襲的生体試料であることがより好ましい。
【0054】
なお、本発明の説明における生体試料の起源としてはヒトのみならず、尿路上皮癌または扁平上皮癌を発症し得る生体であれば特に限定されるものではなく、例えばイヌ、ネコ、ヒツジ、ヤギ、マウス、ラット、ウサギ、ウシ、ウマ、ブタを始めとする哺乳動物全般、が挙げられる。
【0055】
ここで尿路上皮癌を検出する際の生体試料としては、膀胱,尿管,腎盂から内視鏡等を用いて侵襲的に取得された病変組織や、非侵襲的生体試料である尿が挙げられる。尿中には剥離してきた細胞(尿中剥離細胞)が含まれるため、この細胞についてユビキリン2を検出すれば、尿路上皮癌の診断を行うことができる。
【0056】
一方、扁平上皮癌は、食道・口腔・舌・咽頭・声帯・気管・気管支・喉頭・肛門・女性の外陰部・膣・子宮頚部・子宮膣部などにおいて見られる癌であるが、食道癌などの一部の扁平上皮癌については非侵襲的に取得された痰や唾液が生体試料として利用可能であるが、基本的には侵襲的に取得された病変組織が生体試料として利用され得る。
【0057】
生体試料中のユビキリン2の検出方法は特に限定されるものではなく、公知の方法を用いて適宜実施することが可能である。例えば、ユビキリン2特異抗体(ユビキリン2と特異的に結合し得る抗体)を用いて検出する方法が挙げられる。上記ユビキリン2特異抗体は、ポリクローナル抗体であってもよいし、モノクローナル抗体であってもよい。またユビキリン2特異抗体は完全な抗体分子のみならず、例えば、FabおよびF(ab’)
2フラグメントのような抗体フラグメントであってもよい。FabおよびF(ab’)
2フラグメントは完全な抗体のFc部分を欠いており、循環によってさらに迅速に除去され、そして完全な抗体の非特異的組織結合をほとんど有し得ないため(Wahlら、J.Nucl.Med.24:316−325(1983))、好ましく用いることができる。
【0058】
なお、上記ユビキリン2特異抗体は、市販品であっても、自作したものであってもよい。ユビキリン2特異抗体は市販されており、例えば、Santa Cruz社(米国)から購入することができる。
【0059】
上記ユビキリン2特異抗体の作製は、例えば、ユビキリン2の全長またはその部分断片を抗原として、従来公知の方法により作製されたものであってもよい。上記ユビキリン2の部分断片(「ユビキリン2の部分ポリペプチド」ともいう。)は、免疫原性を有するものであり、その特異抗体を誘導し得るものであればよい。ここで、ユビキリン2の部分断片のペプチド数は特に限定されるものではないが、7アミノ酸以上が好ましく、10アミノ酸以上がさらに好ましい。
【0060】
ユビキリン2特異抗体(モノクローナル抗体)を生産する方法としては、特に限定されるものではなく、例えば、抗原でマウスを免疫した後、そのマウス脾臓リンパ球とマウス由来のミエローマ細胞とを融合させてなる抗体産生ハイブリドーマにより、モノクローナル抗体を得ればよい。ハイブリドーマの生産方法は、従来公知の方法、例えば、ハイブリドーマ法(Kohler, G. and Milstein, C., Nature 256, 495-497(1975))、トリオーマ法、ヒトB−細胞ハイブリドーマ法(Kozbor, Immunology Today 4, 72(1983))、およびEBV−ハイブリドーマ法(Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy, Alan R Liss, Inc., 77-96(1985))等を利用することが可能であり、特に限定されるものではない。
【0061】
また、上記抗原としては、ポリペプチドであれば特に限定されるものではないが、抗原決定基とする物質をキャリアタンパク質に結合してなる抗原タンパク質が用いられてもよい。具体的には、上記抗原がハプテンであれば、抗体の産生等を誘導する能力をもたないため、抗体を産生することができないが、抗原を異種由来のタンパク質などの生体高分子からなる担体と共有結合させて抗原タンパク質を得て、これで免疫すれば、抗体産生を誘導することができる。上記担体としては、特に限定されるものではなく、オボアルブミン、γグロブリン、ヘモシアニン等、この分野で従来公知の各種タンパク質を好適に用いることができる。また、モノクローナル抗体は遺伝子組換え技術等によっても生産することができる。
【0062】
また、ユビキリン2特異抗体(ポリクローナル抗体)を生産する方法としては、実験動物に抗原(ユビキリン2またはその部分断片)を接種し感作させ、その体液から抗体成分を精製して取得する方法を挙げることができる。なお、免疫させる動物としては、マウス、ラット、ウサギ、サル、ウマ等の従来公知の実験動物を用いることができ、特に限定されるものではない。また、抗原を接種し感作させる場合、その間隔や量についても常法にしたがって適宜行うことができる。
【0063】
また、ユビキリン2特異抗体を用いて、生体試料におけるユビキリン2を検出する際には、自体公知の免疫学的測定法を用いて実施することができる。上記免疫学的測定法としては、例えばフローサイトメトリー法、RIA法、ELISA法(固相酵素免疫検定法)、蛍光抗体法等の公知の免疫学的測定法を挙げることができる。また、上述した以外にも、例えば、ウェスタンブロッティング法、酵素免疫測定法、抗体による凝集や沈降や溶血反応を観察する方法、抗体アレイ法、組織免疫染色や細胞免疫染色などの形態学的検出法も必要に応じて利用することができる。
【0064】
上記の測定法の内、より感度が高く、簡便であるという点から、ELISA法が好ましい。例えばELISA法は、生体試料に含まれるタンパク質をマルチウェルプレート(「マイクロタイタープレート」ともいう。)に固定し、その後、ユビキリン2特異抗体を用いて、ユビキリン2のタンパク質濃度を検出する方法である。例えば、ユビキリン2に結合したユビキリン2特異抗体を、アルカリフォスファターゼまたはペルオキシダーゼ標識抗IgG抗体などを2次抗体として用いて検出すればよい。またELISA法は、サンドイッチ法であってもよい。
【0065】
他方、ウェスタンブロット法は、生体試料をSDS−ポリアクリルアミド電気泳動で分離させた後、ニトロセルロース膜などに転写し、ユビキリン2特異抗体によって、ユビキリン2のタンパク質濃度を検出する方法である。ユビキリン2に結合したユビキリン2特異抗体を、例えば、
125I−標識プロテインA、ペルオキシダーゼ標識抗IgG抗体などを2次抗体として用いて検出すればよい。ユビキリン2のタンパク質濃度は、例えば、デンシトメーター等を用いて得られるシグナル強度を確認することにより測定され得る。すなわち、シグナル強度が強いほどユビキリン2のタンパク質濃度が高いと判断される。また、必要に応じて検量線を作成し、これを用いて生体試料中のユビキリン2濃度が測定され得る。
【0066】
ユビキリン2は尿路上皮癌または扁平上皮癌において特異的に高発現しているタンパク質であるため、本発明においては、上記のようにして測定された生体試料中にユビキリン2が検出されれば、生体試料中に尿路上皮癌または扁平上皮癌が存在する可能性があると判断(診断)することができる。また、被検体由来の生体試料中のユビキリン2のタンパク質濃度と、健常者由来の生体試料中のユビキリン2のタンパク質濃度とを測定および比較し、前者が有意に高かった場合に、尿路上皮癌や扁平上皮癌が存在する可能性があると判断してもよい。なお、健常者由来の生体試料中のユビキリン2のタンパク質濃度は毎回測定してもよいが、あらかじめ測定された健常者由来の生体試料中のユビキリン2のタンパク質濃度を利用し、これと被検体由来の生体試料のユビキリン2のタンパク質濃度とを比較し、後者が有意に高かった場合に、尿路上皮癌や扁平上皮癌が存在する可能性があると判断してもよい。さらに、生体試料中の尿路上皮癌または扁平上皮癌の有無を判断し得る境界値(カットオフ値)をあらかじめ設定しておいて、被検体由来の生体試料中の濃度が当該境界値より高いかどうかで、生体試料中の尿路上皮癌または扁平上皮癌の有無を判断してもよい。ここで、上記境界値は、用いられる生体試料や、癌の種類によって変動し得るために限定されるものではないが、本明細書の記載を参酌した当業者であれば過度の試行錯誤を必要とすることなく設定することができる。
【0067】
本発明における生体試料中のユビキリン2の検出は、上記タンパク質レベルの検出のみならず、遺伝子レベルの検出によっても行うことができる。つまり、本発明におけるユビキリン2の検出は、ユビキリン2遺伝子のmRNA量を測定することによって、ユビキリン2タンパク質の発現レベルを検出するという態様であってもよいということである。ユビキリン2は尿路上皮癌または扁平上皮癌において特異的に高発現しているタンパク質であるため、生体由来試料におけるユビキリン2遺伝子のmRNAを検出するのみによって、生体試料中に尿路上皮癌や扁平上皮癌が存在する可能性があると判断することができる。また、本発明においては、被験体由来の生体試料におけるユビキリン2遺伝子のmRNA量と、健常者由来の生体試料におけるユビキリン2遺伝子のmRNA量とを測定および比較してもよい。そして、前者の発現レベルが高い場合に、被検体由来の生体試料中に尿路上皮癌や扁平上皮癌が存在する可能性があると判断することができる。
【0068】
なお、健常者由来の生体試料におけるユビキリン2遺伝子のmRNA量は、毎回測定してもよいが、あらかじめ測定された健常者由来の生体試料中のユビキリン2遺伝子のmRNA量を用いてもよい。さらに、被検体中の尿路上皮癌または扁平上皮癌の有無を判断し得る境界値(カットオフ値)をあらかじめ設定しておいて、被検体由来の生体試料中のmRNA量が当該境界値より高いかどうかで被検体由来試料中の消化器癌の有無を判断してもよい。
【0069】
mRNA量を測定する方法としては、所望のmRNA量を測定できる方法であれば特に限定されず、公知の方法から適宜選択して用いることができる。例えば、上記、ユビキリン2遺伝子のmRNA、またはそれらのcDNAまたはそれらの相補鎖の一部からなるポリヌクレオチドであって、ユビキリン2遺伝子のRNAまたはcDNAに部位特異的に結合(ハイブリダイズ)するポリヌクレオチドを含むプライマーやプローブを用いた方法が挙げられる。
【0070】
具体的には、上記プライマーやプローブを標識し、当該標識を検出することにより、上記mRNAまたはcDNAを検出することができる。そして、当該標識のシグナナル強度を調べることによりmRNA量を測定することができる。上記標識としては特に限定されないが、例えば、
32Pに代表される放射性物質のほか、フルオレセインに代表される蛍光物質を用いることができる。上記プライマーおよび/またはプローブとして使用するポリヌクレオチドは、例えば、配列番号2に示されるユビキリン2遺伝子の塩基配列を元に、従来公知の方法により設計され得る。例えば、ユビキリン2遺伝子の塩基配列から、DNAプローブとして適当な長さのDNAプローブを作製し、蛍光標識等の標識を適宜付与することによりプローブを作製することができる。また上記プローブとしては、ユビキリン2遺伝子のアンチセンス鎖の全長配列または部分配列からなる検出用のプローブも採用し得る。なお、目的のmRNA(cDNA)を特異的に増幅させるプライマーとして利用可能なポリヌクレオチドは、当該mRNA(cDNA)を特異的に検出するためのプローブとして使用可能であることは当業者にとって周知であるため、この知見を元にプローブとして利用可能なポリヌクレオチドを設計することも可能である。
【0071】
なお、上記プローブの作製に際して、ユビキリン2遺伝子とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする条件としては、例えば、42℃でのハイブリダイゼーション、および1×SSC(0.15M NaCl、0.015M クエン酸ナトリウム)、0.1%のSDS(Sodium dodecyl sulfate)を含む緩衝液による42℃での洗浄処理を挙げることができ、より好適には、65℃でのハイブリダイゼーション、および0.1×SSC、0.1%のSDSを含む緩衝液による65℃での洗浄処理を挙げることができる。なお、ハイブリダイゼーションのストリンジェンシーに影響を与える要素としては、上記温度条件以外に種々の要素があり、当業者であれば種々の要素を組み合わせて、上記例示したハイブリダイゼーションのストリンジェンシーと同等のストリンジェンシーを実現することが可能である。また上記「ストリンジェントな条件」とは、少なくとも90%以上の同一性、好ましくは少なくとも95%以上の同一性、最も好ましくは97%の同一性が配列間に存在する時にのみハイブリダイゼーションが起こる条件であるともいえる。
【0072】
また、mRNAまたはcDNAに部位特異的に結合するポリヌクレオチドを含むプライマーやプローブを用いてmRNAを検出する公知の方法としては、例えば、RT−PCR法、リアルタイムRT−PCR法、コンペティティブPCR法、in Situ ハイブリダイゼーション法、in Situ PCR法、DNAアレイ法、ノーザンブロット法などを挙げることができる。
【0073】
RT−PCR(Reverse transcribed-Polymerase chain reaction)法とは、ユビキリン2遺伝子のmRNAを鋳型とし、逆転写酵素反応によりcDNAを合成後、PCRによるDNAの増幅を行う方法(参考文献:Kawasaki,E.S.,et al.,Amplification of RNA.In PCR Protocol,A Guide to methods AND applications,Academic Press,Inc.,SanDiego,21-27(1991))である。なお、DNAの増幅反応は特に限定されるものではなく、当業者は適宜最適な条件を検討の上、採用することができる。また、ユビキリン2遺伝子の増幅領域は、必ずしも全長である必要はなく、増幅産物の確認に支障が無ければ、当該遺伝子の一部領域であってもよい。増幅されたDNA量(mRNA量に相当する)は、例えば、上記DNA増幅反応液をアガロースゲル電気泳動に供した後、目的増幅断片に特異的にハイブリダイズするプローブを用いることで検出することができる。一方、十分量の増幅産物が得られる場合には、アガロースゲル電気泳動を行った後、ゲルをEtBr染色し、増幅ポリヌクレオチドの位置とその蛍光強度により確認することも可能である。
【0074】
さらに、RT−PCTの際に、リアルタイムモニタリング試薬を用いることによりリアルタイムRT−PCR法を行うことができる。リアルタイムRT−PCR法は、増幅産物の生成過程をリアルタイムでモニタリングし、解析する方法である。そのため、増幅産物の増幅量が飽和する前に増幅反応をストップすることができる。したがって、ユビキリン2遺伝子のmRNA量をより正確に測定することができる。上記リアルタイムモニタリング試薬としては、例えば、SYBR(登録商標:Molecular Probes社)Green、TaqMan(登録商標:Applied Biosystems社)プローブ等が挙げられる。
【0075】
RT−PCR法を行うに際しては、ユビキリン2遺伝子を増幅するためのセンスプライマーおよびアンチセンスプライマーからなる1対のプライマーセットを用いる。
【0076】
また、本発明におけるユビキリン2の検出は、インベーダ(Invader(登録商標))法を利用して簡便に行うこともできる。例えば、ユビキリン2遺伝子に特異的にハイブリダイズする塩基配列と酵素切断部位とを有するシグナルプローブを設計し、生体試料から抽出したトータルRNA(cDNAでも構わない)、インベーダオリゴ(Invader(登録商標) Oligo)、クリベース酵素(Cleavase(登録商標) Enzyme)、およびフレットプローブ(FRET Probe)とともに所定の温度、所定の時間(例えば、63℃、2時間等)反応させることにより行うことができる。なお、具体的な実験手法や条件については、下記参考文献を参照して適宜行うことができる(参考文献:(i) T. J. Griffin et al., Proc Natl Acad Sci U S A 96, 6301-6 (1999) 、(ii) M. W. Kaiser et al., J Biol Chem 274, 21387-94 (1999) 、(iii) V. Lyamichev et al., Nat Biotechnol 17, 292-6 (1999) 、(iv) R. W. Kwiatkowski et al., Mol Diagn 4, 353-64 (1999) 、(v) J. G. Hall et al., Proc Natl Acad Sci U S A 97, 8272-7 (2000) 、(vi) M. Nagano et al., J Lipid Res 43, 1011-8 (2002) 等参照)。上記のように、インベーダ法を利用すれば、遺伝子増幅の必要がない場合もあり、迅速かつ低コストでユビキリン2の検出を行うことができる。なお、市販のインベーダ法キットを利用すれば、より一層簡便に本発明を実施できる。
【0077】
またノーザンハイブリダイゼーション法によってもユビキリン2遺伝子のmRNA量を測定し得る。この場合、生体試料より抽出された一定量の粗RNA試料を分子量等による分画後ナイロンフィルター等に固定し、検出対象となるユビキリン2遺伝子のmRNAとプローブとを接触させ、当該mRNAにハイブリダイズした上記プローブを検出することによりmRNA量の測定を実施することができる。
【0078】
またin Situ ハイブリダイゼーション法によるユビキリン2遺伝子のmRNA量の検出は、例えば、以下の方法で行うことができる。例えば、ユビキリン2遺伝子またはその部分配列を標識したものを検出用プローブとして用い、スライドグラス上の生体試料の標本に直接分子雑種を形成させて、その部分を検出することにより簡易に行うことができる。具体的には、スライドグラス上に生体試料の薄切片(パラフィン切片、凍結切片など)を調製し、これに標識した検出用プローブをハイブリダイズさせ、ノーザンハイブリダイゼーション法と同じように、検出用プローブを洗い落とし、写真用エマルジョンを塗布し、露光する。現像後、銀粒子の分布から、ハイブリダイズした場所を特定する。より具体的な実験手法や条件については、下記参考文献を用いて適宜行うことができる(参考文献:(i)「in situハイブリダイゼーション法」、(1995年7月)、古庄敏行、井村裕夫監修、金原出版(株)発行、932頁〜937頁、(ii)「in situハイブリダイゼーションによる遺伝子発現の解析」、「遺伝子工学実験」、(1991年5月)、野村慎太郎著、(社)日本アイソトープ協会発行、221頁〜232頁等参照)。in situハイブリダイゼーション法には、ラジオアイソトープ(主として
3H)標識したDNAを検出用プローブとして、その座位をオートラジオグラフィーで検出する方法と、標識された検出用プローブの蛍光シグナルを蛍光顕微鏡下で検出する方法があるが、いずれの方法を用いてもよい。
【0079】
またDNAアレイ法によるユビキリン2遺伝子のmRNA量の検出は、例えば、以下の方法で行うことができる。支持体上にユビキリン2遺伝子のcDNAまたはその部分配列を固定化し、生体試料から調製したmRNAまたはcDNAとハイブリダイズさせる。この際、上記mRNAまたはcDNAを蛍光標識等することにより、支持体上に固定化したcDNAまたはその部分配列と試料から調製したRNAまたはcDNAとのハイブリダイゼーションを検出することができる。
【0080】
mRNA量の測定は、例えば、上述の方法で検出したmRNAまたはcDNAに対してデンシトメーター等を用いて得られるシグナル強度を確認することにより実施することができる。すなわち、シグナル強度が強いほどmRNAまたはcDNAの量が高いと判断できる。
【0081】
DNAアレイは、例えば、米国Affymetrix社のDNAマイクロアレイやスタンフォード(Stanford)型のDNAマイクロアレイ等、その他半導体製造で用いられる微細加工技術を用いてシリカ基板上に直接オリゴヌクレオチドを化学合成するDNAマイクロアレイを含む従来公知のあらゆるタイプのマイクロアレイを好適に用いることができ、その具体的な大きさ、形状、システム等については特に限定されるものではない。上記ユビキリン2検出用DNAマイクロアレイは、本発明の実施に利用されるものであり、本発明が意図する範囲に含まれる。
【0082】
上述の通り、本発明はユビキリン2を尿路上皮癌および扁平上皮癌の癌マーカーとして利用することによって、尿路上皮癌および扁平上皮癌の検出(診断)することができるということを要旨とするものである。上記尿路上皮癌としては、腎盂癌、尿管癌、膀胱癌が例示され、上記扁平上皮癌としては、子宮頸癌、食道癌、皮膚癌、舌癌が例示される。
【0083】
そして本発明は、例えば、尿路上皮癌および扁平上皮癌の検出キットにかかる発明(以下「本発明の検出キット」という。)を包含する。本発明の検出キットは、試料中のユビキリン2を検出するための試薬を含むことを特徴としている。ここで、上記「試料」としては上記で説示した「生体試料」が挙げられる。生体試料の説明については既述のとおりである。
【0084】
また上記「ユビキリン2を検出するための試薬(以下「検出試薬」)」としては、試料中のユビキリン2を検出し得る全ての物品を意味するものであるが、例えば、上記で説示した「ユビキリン2特異抗体」が上記検出試薬に含まれ得る。ユビキリン2特異抗体が上記検出試薬に含まれることによって、試料中のユビキリン2をタンパク質レベルで検出することができる。上記ユビキリン2特異抗体は、特に限定されるものではないが、例えば下記(1)または(2)に記載のポリペプチドを用いて誘導され、かつ当該ポリペプチドに特異的に結合する抗体が挙げられる。
(1)配列番号1に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチド。
(2)上記(1)の部分ポリペプチド。
なお、ユビキリン2特異抗体の説明については既述のとおりである。「(1)の部分ポリペプチド」とは、(1)に記載されているポリペプチドの全長を除く、部分断片を意味する。
【0085】
また上記検出試薬としては、下記(3)〜(5)のいずれかのポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドが挙げられる。これらのポリヌクレオチドを、例えばプローブとして用いることによって、試料中のユビキリン2を遺伝子レベルで検出することができる。ユビキリン2の遺伝子レベルでの検出については既述のとおりである。
(3)配列番号2に示される塩基配列からなるポリヌクレオチド;
(4)配列番号2に示される塩基配列からなるポリヌクレオチドのアンチセンス鎖;および、
(5)上記(3)または(4)の部分塩基配列からなるポリヌクレオチド。
【0086】
上記「(3)または(4)の部分塩基配列からなるポリヌクレオチド」とは、(3)または(4)のポリヌクレオチドの全長を除く、一部のポリヌクレオチド(「部分ポリヌクレオチド」)を意味する。なお、部分ポリヌクレオチドの長さは、プローブが当該部分ポリヌクレオチドにハイブリダイズでき得る程度の長さを有していれば特に限定されるものではない。
【0087】
本発明の検出キットには、試料中のユビキリン2の検出に用いられるあらゆる試薬(例えば、二次抗体、発色試薬、ブロッキング試薬、リン酸緩衝液等の緩衝液、DNAポリメラーゼ、等)や器具(マイクロタイタープレート、マイクロチューブ、DNAマイクロアレイ、抗体アレイ、サーマルサイクラー、蛍光顕微鏡、等)等が含まれ得る。またユビキリン2の検出方法、試薬、機器等に関するマニュアル(取扱説明書)が含まれていてもよい。
【0088】
また、本発明は尿路上皮癌および扁平上皮癌の自動診断装置にかかる発明(以下「本発明の自動診断装置」という。)をも包含する。そして、本発明の自動診断装置は、少なくとも、「試料中のユビキリン2を検出するためのユビキリン2検出部」を備えている。
【0089】
ユビキリン2検出部は、試料中のユビキリン2を自動的に検出するように構成されていれば特に限定されるものではないが、例えば、ユビキリン2を検出するための試薬(例えばユビキリン2特異抗体等)で処理された試料からの発光または蛍光を検出し得るように構成されていてもよい。なお、ユビキリン2を検出するための試薬については、既述のとおりである。
【0090】
本発明の自動診断装置におけるユビキリン2の検出原理は、例えば、ELISA法やフローサイトメトリー法等を利用して行うことが可能である。例えば尿を生体試料として用いて、尿中剥離細胞中のユビキリン2を検出する場合、尿をユビキリン2特異抗体と接触させた後、二次抗体を接触させ、その後発色試薬で発色を行った試料を、本発明の自動診断装置にアプライする。本発明の自動診断装置にはユビキリン2検出部として吸光光度計が備えられており、ELISA法の原理により、尿試料中のユビキリン2を検出することができる。また本発明の自動検出装置には、ユビキリン2検出部としてフローサイトメーターが備えられており、フローサイトメトリー法の原理により、尿試料中のユビキリン2を検出することができる。
【0091】
なお、本発明の自動診断装置では、上記の通り、ユビキリン2を検出するための試薬と生体試料との処理を手動で行った後、検出のみ自動で行われるように構成されていてもよいが、ユビキリン2を検出するための試薬と生体試料との処理を含む全ての操作を自動で行われるように構成されていてもよい。この場合は、本発明の自動診断装置には、ユビキリン2検出試薬による生体試料の処理を自動で行う「試料処理部」が備えられている。試料処理部が備えられていることにより、試料を本発明の自動診断装置に投入するだけで診断のためのデータを取得することができるため、より簡便に且つハイスループットの診断を行うことが可能となる。
【0092】
また本発明の自動診断装置には、ユビキリン2検出部で取得されたデータ(例えば発色強度、蛍光強度等)からユビキリン2の濃度を計算したり、ユビキリン2検出部で取得されたデータ(例えば発色強度、蛍光強度等)と健常者のデータと比較したりする「データ処理部」や、あらかじめインプットしておいたカットオフ値から癌の可能性を判断(診断)を行う「データ判定部」が備えられていてもよい。本発明の自動診断装置に上記構成が備えられていることにより、試料を本発明の自動診断装置に投入するだけで、癌の診断まで自動で行うことができるため、さらに簡便に且つハイスループットの診断を行うことが可能となる。
【0093】
また、本発明の自動診断装置には、種々の検体の診断データをストックしておく「データ記憶部」が備えられていてもよい。本発明の自動診断装置に上記構成が備えられていることにより、患者の経過観察や、過去の症例との比較などを行うことができる。
【0094】
さらに、本発明の自動診断装置には、診断データを各種ネットワークを介して端末間で情報交換ができる「ネットワーク処理部」が備えられていてもよい。本発明の自動診断装置に上記構成が備えられていることにより、患者と医師とが遠距離にいる場合であっても医師が診断結果を知ることができたり、担当医師間のデータ共有が容易にできたり、転院先との連携が容易且つ正確にできたりする等のメリットを享受できる。
【0095】
上記本発明の検出キットや自動診断装置によれば尿路上皮癌や扁平上皮癌の診断を行うことができるが、本発明は、生体から取得された試料中のユビキリン2を検出することを特徴とする、尿路上皮癌および扁平上皮癌の診断のためのデータ取得方法をも包含する。なお、本発明のデータ取得方法は、人間等の生体から採取したもの(例:血液、尿、皮膚、髪の毛、細胞、組織)を処理する方法、又はこれを分析するなどして各種データを収集する方法に該当する。本発明のデータ取得方法により取得されたデータをもとに、医師が尿路上皮癌や扁平上皮癌の診断を行う。
【0096】
本発明のデータ取得方法は、特に限定されるものではないが、ユビキリン2を検出するための試薬を用いて試料中のユビキリン2を検出する工程(以下「検出工程」という。)を含み得る。検出工程は、生体試料におけるユビキリン2のタンパク質レベルでの検出、または遺伝子レベルの検出により行うことができる。その説明については上述のとおりである。また、検出工程における上記ユビキリン2を検出するための試薬についても、上述の「検出試薬」の説明を援用することができる。
【0097】
〔2.ユビキリン2を用いた尿路上皮癌および扁平上皮癌の治療〕
本発明者らは、後述の実施例2および3に示すように、尿路上皮癌においてユビキリン2の発現を抑制することによって、(i)尿路上皮癌のアポトーシスを誘導し得ること、および(ii)尿路上皮癌の抗癌剤に対する感受性を高めることができることを、in vitro(試験管内実験)において確認した。
【0098】
このため、ユビキリン2の発現を抑制し得る物質は、尿路上皮癌および扁平上皮癌に対する抗癌剤、または癌細胞の抗癌剤に対する感受性を高めるための物質となり得る。よって、本発明は、尿路上皮癌および扁平上皮癌に対する抗癌物質のスクリーニング方法(本発明のスクリーニング方法)も提供し得る。なお、上記「抗癌物質」は、抗癌剤のみならず、癌細胞の抗癌剤に対する感受性を高めるための物質(抗癌剤用添加剤)を意味する。
【0099】
ここで本発明のスクリーニング方法は、被験物質を接触させた尿路上皮癌細胞または扁平上皮癌細胞のユビキリン2の発現量と、被験物質を接触させていない尿路上皮癌細胞または扁平上皮癌細胞のユビキリン2の発現量とを比較し、ユビキリン2の発現量を減少させる効果を有する被験物質を選択することを特徴としている。
【0100】
ユビキリン2の発現量の測定方法は、上述の〔1.ユビキリン2を用いた尿路上皮癌および扁平上皮癌の検出〕の項におけるユビキリン2の検出方法を参照することにより実施することができる。例えば、被験物質を接触させた尿路上皮癌細胞または扁平上皮癌細胞を含む試料、および被験物質を接触させていない尿路上皮癌細胞または扁平上皮癌細胞を含む試料について、ユビキリン2特異抗体を用いたELISA法やフローサイトメトリー法を実施することにより、試料中のユビキリン2の発現量を測定することができる。
【0101】
そして、両者のユビキリン2の発現量を比較し、前者のユビキリン2の発現量が後者に比較して減少していれば、そのとき使用した被験物質は、抗癌物質である可能性が高いと判断することができる。
【0102】
なお、被験物質と、尿路上皮癌細胞または扁平上皮癌細胞との接触条件は、被験物質や尿路上皮癌細胞または扁平上皮癌細胞の種類、これらの状態に応じて最適な条件を検討の上、採用すればよい。
【0103】
ユビキリン2の発現を阻害し得る物質としては特に限定されるものではないが、例えば、ユビキリン2遺伝子またはその部分ポリヌクレオチドのsiRNAが挙げられる。siRNA(short interference RNA, small interfering RNA)は、目的の遺伝子の発現をRNAiの原理によって抑制することができるものであればその塩基配列は特に限定されるものではない。
【0104】
本明細書において「siRNA」とは、stRNA(small temporal RNA)、およびshRNA(short hairpin RNA)をも含む意味である。またsiRNAの塩基配列の設計は発現抑制を所望する遺伝子の塩基配列情報をもとにして、公知の方法によって行われ得る。現在、siRNAを設計する際に用いられるソフトウェアが市販されており、効率の観点から当該ソフトウェアを用いて設計することが好ましい。市販のソフトウェアとしては、例えばRNAi社製(http://www.rnai.co.jp/)のsiDirect
TM等が挙げられる。
【0105】
上記にようにして設計されたsiRNAの合成は、公知の自動ヌクレオチド合成器によって行われ得る。なお現在、siRNAの設計から合成までを、企業に委託することが可能である。委託先としては、Ambion社、Invitrogen社、QIAGEN社、Dharmacon社等が挙げられる。後述する実施例では、ユビキリン2のsiRNAとして配列番号4に示すものを用いて実験を行った。なお本発明においては、ユビキリン2のsiRNAとして機能するものであれば配列番号4に示すものに限定されないことは、当業者であれば当然に理解する事項である。
【0106】
本発明は、本発明のスクリーニング方法で見出されたユビキリン2の発現を阻害する物質(以下「ユビキリン2阻害物質」という)や、ユビキリン2のsiRNAを含む、尿路上皮癌および扁平上皮癌に対する抗癌剤(以下「本発明の抗癌剤」という。)を提供する。
【0107】
本発明の抗癌剤は、上記ユビキリン2阻害物質や、ユビキリン2のsiRNAを少なくとも含むものであればよいが、薬学的に許容できる所望の担体と組み合わせて組成物とすることができる。担体としては、例えば、滅菌水、生理食塩水、緩衝剤、植物油、乳化剤、懸濁剤、塩、安定剤、保存剤、界面活性剤、徐放剤、他のタンパク質(BSAなど)、トランスフェクション試薬(リポフェクション試薬、リポソーム等を含む)等が挙げられる。さらに、使用可能な担体としては、グルコース、ラクトース、アラビアゴム、ゼラチン、マンニトール、デンプンのり、マグネシウムトリシリケート、タルク、コーンスターチ、ケラチン、コロイドシリカ、ばれいしょデンプン、尿素、ヒアルロン酸、コラーゲン等の細胞外マトリックス物質、ポリ乳酸、リン酸カルシウム担体などが挙げられる。
【0108】
また、本発明の抗癌剤がsiRNAを含む場合、siRNAのほか、siRNAを細胞へ導入する際に用いられる公知の試薬、例えばLipofectamine 2000 (Invitrogen社製), RNAiFect
TM Transfection Reagent (QIAGEN社製)等が含まれていてもよい。上記の試薬等が含まれていることで、siRNAの細胞への導入効率が向上するとともに、siRNAの安定性が向上するからである。
【0109】
また本発明の抗癌剤を製剤化する場合の剤型は制限されず、たとえば溶液(注射剤)、マイクロカプセル、錠剤などであってよい。投与は全身または局所的に行い得るが、全身投与による副作用や効果の低下がある場合には、局所投与することが好ましい。
【0110】
ここで、臨床適用のための上記本発明の抗癌剤の投与条件は、常法のモデル動物系等を用いて適宜決定することができる。すなわち、モデル動物を用いて投与量、投与間隔、投与ルートを含む投与条件を検討し、適切な予防または治療効果を得られる条件を決定することができる。
【0111】
また、患者への投与は、各種細胞や疾患等の性質に応じて、例えば外科的、経皮的、鼻腔内的、経気管支的、筋内的、腹腔内、静脈内、関節内、皮下、脊髄腔内、脳室内、または経口的に行われうるがそれらに限定されない。投与は全身的または局所的にされ得るが、全身投与による副作用が問題となる場合には病変部位への局所投与が好ましい。投与量、投与方法は、本医薬の有効成分の組織移行性、治療目的、患者の体重や年齢、症状などにより変動するが、当業者であれば適宜選択することが可能である。
【0112】
治療対象となる個体は、原則としてヒトを対象としているが、これ以外にも、愛玩動物(ペット)用の治療用の用途へ使用してもよい。愛玩動物としては、例えば、マウス、ラット、ウサギ、ネコ、イヌ、サル、ウマ、ヒツジ、ウシなどの非ヒト哺乳動物およびその他の脊椎動物を挙げることができる。
【0113】
また本発明は、尿路上皮癌および扁平上皮癌の抗癌剤と共に用いられ、該抗癌剤に対する癌細胞の感受性を高めるための抗癌剤用添加剤(以下「本発明の添加剤」という。)をも提供する。本発明の添加剤には、スクリーニング方法で見出されたユビキリン2阻害物質や、ユビキリン2のsiRNAが含まれ得る。本発明の添加剤は、従来公知の抗癌剤に添加して製剤化してもよいし、添加剤単独で製剤化され、従来公知の抗癌剤と共に使用されてもよい。
【0114】
ここで、本発明は特に限定されるものではないが、尿路上皮癌の抗癌剤としては、ゲムシタビン(イーライリリー社製)が挙げられる。また扁平上皮癌の抗癌剤としては、シスプラチン(ヤクルト社製)が挙げられる。また実施例3で用いたタプシガルギンなどの小胞体ストレス剤も、抗癌剤として利用可能である(参考文献:実験医学,2009年3月号 Vol.27 No.4,「Protein Homeostasisを解明する 小胞体ストレスと疾患」、Cancer Frontier 2008 Vol.10 3.小胞体ストレスとがん治療 (齋藤さかえ・冨田章弘))。
【0115】
〔3.本発明の応用例〕
またユビキリン2特異抗体を用いることにより、生体内の尿路上皮癌または扁平上皮癌の病変組織の局在を調べることができる。そして、この技術を応用すれば、尿路上皮癌または扁平上皮癌の病変組織が局在している患部に対して的確な治療を施すことができ、効率的な治療を実現することができる。例えば、従来の腫瘍切除手術においては、腫瘍の範囲が明確でない場合に、腫瘍を完全に切除するため、腫瘍の疑いのある範囲を含めて比較的広範囲を切除せざるを得ない場合があったが、ユビキリン2特異抗体を利用することによって切除範囲を明確に特定することができ、標的の腫瘍のみを効率的に切除することが可能となる。
【0116】
ユビキリン2により病変組織を標識化する方法としては、公知の蛍光抗体法が挙げられる。蛍光抗体法は、ユビキリン2特異抗体を蛍光標識し、病変組織に結合させて、癌組織を標識化する方法(直接蛍光抗体法)であっても、病変組織に未標識のユビキリン2特異抗体を結合させた後に、標識化した二次抗体(抗免疫グロブリン抗体)を結合させて癌組織を標識化する方法(間接蛍光抗体法)であってもよい。
【0117】
なお、本発明は、以下のように表現することができる。
【0118】
本発明にかかる尿路上皮癌および扁平上皮癌の検出キットは、上記課題を解決するために、試料中のユビキリン2を検出するための試薬を含むことを特徴としている。
【0119】
また本発明にかかる尿路上皮癌および扁平上皮癌の検出キットにおいて、上記ユビキリン2を検出するための試薬は、ユビキリン2特異抗体を含むものであってもよい。
【0120】
また本発明にかかる尿路上皮癌および扁平上皮癌の検出キットにおいて、上記ユビキリン2特異抗体は、下記(1)または(2)に記載のポリペプチドを用いて誘導され、かつ当該ポリペプチドに特異的に結合する抗体であってもよい。
(1)配列番号1に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチド。
(2)上記(1)の部分ポリペプチド。
【0121】
また本発明にかかる尿路上皮癌および扁平上皮癌の検出キットにおいて、上記ユビキリン2を検出するための試薬は、下記(3)〜(5)のいずれかに示される塩基配列を有するポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドを含むものであってもよい。
(3)配列番号2に示される塩基配列を有するポリヌクレオチド。
(4)配列番号2に示される塩基配列を有するポリヌクレオチドのアンチセンス鎖。
(5)上記(3)または(4)の部分塩基配列。
【0122】
また本発明にかかる尿路上皮癌および扁平上皮癌の検出キットにおいて、上記尿路上皮癌は、腎盂癌、尿管癌、および膀胱癌から選択されるいずれか1つ以上であってもよく、上記扁平上皮癌は子宮頸癌および食道癌から選択されるいずれか1つ以上であってもよい。
【0123】
一方、本発明にかかる尿路上皮癌および扁平上皮癌の自動診断装置は、上記課題を解決するために、試料中のユビキリン2を検出するためのユビキリン2検出部を備えることを特徴としている。
【0124】
本発明にかかる尿路上皮癌および扁平上皮癌の自動診断装置において、上記ユビキリン2検出部は、ユビキリン2を検出するための試薬で処理された試料からの発色、発光または蛍光を検出し得るものであってもよい。
【0125】
また本発明にかかる尿路上皮癌および扁平上皮癌の自動診断装置において、上記ユビキリン2を検出するための試薬が、ユビキリン2特異抗体を含むものであってもよい。
【0126】
また本発明にかかる尿路上皮癌および扁平上皮癌の自動診断装置において、上記ユビキリン2特異抗体は、下記(1)または(2)に記載のポリペプチドを用いて誘導され、かつ当該ポリペプチドに特異的に結合する抗体であってもよい。
(1)配列番号1に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチド。
(2)上記(1)の部分ポリペプチド。
【0127】
また本発明にかかる尿路上皮癌および扁平上皮癌の自動診断装置において、上記ユビキリン2を検出するための試薬は、下記(3)〜(5)のいずれかに示される塩基配列を有するポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドを含むものであってもよい。
(3)配列番号2に示される塩基配列を有するポリヌクレオチド。
(4)配列番号2に示される塩基配列を有するポリヌクレオチドのアンチセンス鎖。
(5)上記(3)または(4)の部分塩基配列。
【0128】
また本発明にかかる尿路上皮癌および扁平上皮癌の自動診断装置において、上記試料は生体から取得された試料であってもよい。
【0129】
また本発明にかかる尿路上皮癌および扁平上皮癌の自動診断装置において、上記尿路上皮癌は、腎盂癌、尿管癌、および膀胱癌から選択されるいずれか1つ以上であってもよく、上記扁平上皮癌は子宮頸癌および食道癌から選択されるいずれか1つ以上であってもよい。
【0130】
一方、本発明にかかる尿路上皮癌および扁平上皮癌の診断のためのデータ取得方法は、生体から取得された試料中のユビキリン2を検出することを特徴としている。
【0131】
また本発明にかかる尿路上皮癌および扁平上皮癌の診断のためのデータ取得方法は、ユビキリン2を検出するための試薬を用いて試料中のユビキリン2を検出する方法であってもよい。
【0132】
また本発明にかかる尿路上皮癌および扁平上皮癌の診断のためのデータ取得方法において、上記ユビキリン2を検出するための試薬は、ユビキリン2特異抗体を含むものであってもよい。
【0133】
また本発明にかかる尿路上皮癌および扁平上皮癌の診断のためのデータ取得方法において、上記ユビキリン2特異抗体は、下記(1)または(2)に記載のポリペプチドを用いて誘導され、かつ当該ポリペプチドに特異的に結合する抗体であってもよい。
(1)配列番号1に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチド。
(2)上記(1)の部分ポリペプチド。
【0134】
また本発明にかかる尿路上皮癌および扁平上皮癌の診断のためのデータ取得方法において、上記ユビキリン2を検出するための試薬は、下記(3)〜(5)のいずれかに示される塩基配列を有するポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドを含むものであってもよい。
(3)配列番号2に示される塩基配列を有するポリヌクレオチド。
(4)配列番号2に示される塩基配列を有するポリヌクレオチドのアンチセンス鎖。
(5)上記(3)または(4)の部分塩基配列。
【0135】
また本発明にかかる尿路上皮癌および扁平上皮癌の診断のためのデータ取得方法において、上記生体から取得された試料は尿であってもよい。
【0136】
また本発明にかかる尿路上皮癌および扁平上皮癌の診断のためのデータ取得方法において、上記尿路上皮癌は、腎盂癌、尿管癌、および膀胱癌から選択されるいずれか1つ以上であってもよく、上記扁平上皮癌は子宮頸癌および食道癌から選択されるいずれか1つ以上であってもよい。
【0137】
一方、本発明にかかる尿路上皮癌および扁平上皮癌に対する抗癌物質のスクリーニング方法は、被験物質を接触させた尿路上皮癌細胞または扁平上皮癌細胞のユビキリン2の発現量と、被験物質を接触させていない尿路上皮癌細胞または扁平上皮癌細胞のユビキリン2の発現量とを比較し、ユビキリン2の発現量を減少させる効果を有する被験物質を選択することを特徴としている。
【0138】
一方、本発明にかかる尿路上皮癌および扁平上皮癌に対する抗癌剤は、ユビキリン2の発現を阻害する物質を含むことを特徴としている。
【0139】
また本発明にかかる尿路上皮癌および扁平上皮癌に対する抗癌剤は、上記ユビキリン2の発現を阻害する物質が、ユビキリン2遺伝子またはその部分ポリヌクレオチドのsiRNAであってもよい。
【0140】
一方、本発明にかかる抗癌剤用添加剤は、尿路上皮癌および扁平上皮癌の抗癌剤と共に用いられ、該抗癌剤に対する癌細胞の感受性を高めるための抗癌剤用添加剤であって、ユビキリン2の発現を阻害する物質を含むことを特徴としている。
【0141】
また本発明にかかる尿路上皮癌および扁平上皮癌に対する抗癌剤用添加剤において、上記ユビキリン2の発現を阻害する物質は、ユビキリン2遺伝子またはその部分ポリヌクレオチドのsiRNAであってもよい。
【0142】
以下実施例を示し、本発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。もちろん、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、細部については様々な態様が可能であることはいうまでもない。
【実施例】
【0143】
〔実施例1〕ユビキリン2特異抗体を用いた免疫組織染色および免疫細胞染色
(1)実験方法
<ユビキリン2特異抗体の作製>
ユビキリン1特異抗体、ユビキリン2特異抗体、およびユビキリン2特異抗体は、Santa Cruz社より購入されたものを使用した。各特異抗体は500倍に希釈したものを実験に使用した。
【0144】
<免疫組織染色>
患者検体(手術にて摘出した組織サンプル)をホルマリンで固定した後、パラフィンで包埋を行った。切片を作製し、脱パラフィン化、再水和して一次抗体(ユビキリン2特異抗体)と反応させた(4℃、18時間)。続いてペルオキシダーゼ標識2次抗体(ニチレイ社製)をアプライし、酵素特異基質を添加した後に、発色試薬を用いて検体を染色した。
【0145】
<免疫細胞染色:尿検体を用いた手法>
患者から採取した尿検体を用いて塗抹標本を作製した(液状化細胞診標本の作製)。尿検体を95%(v/v)アルコールで固定(室温30分)し、さらに検体を0.5%過酸化水素添加メタノールおよび動物血清と反応させた後に、一次抗体(ユビキリン2特異抗体)と反応させた(室温で30分間)。その後、ビオチン化二次抗体およびペルオキシダーゼ標識ストレプトアビジンと反応させ、発色試薬を用いて染色した。
【0146】
1検体あたり、20個以上の陽性細胞を検出できれば、陽性と判定した。
【0147】
<パパニコロー染色>
尿検体をスライドグラスに塗抹し、95%(v/v)エタノールで固定した。核染色(ヘマトキシリン染色)、および細胞質染色(OG100染色液およびEA100染色液にて染色)を行い、カバーガラスにて検体を封入した。核および細胞質の所見や構造異型から、癌細胞と非腫瘍細胞とを識別した。
【0148】
(2)結果
図1にユビキリン2特異抗体を用いて免疫組織染色を行った結果を示す。
図1の(a)および(b)は正常尿路上皮の結果であり、(c)および(d)は非浸潤性尿路上皮癌(低悪性度)の結果であり、(e)および(f)は浸潤性尿路上皮癌(高悪性度)の結果である。
【0149】
図1において褐色に染色されている箇所は、ユビキリン2が発現している箇所を示しており、正常尿路上皮では染色が見られなかったのに対して(
図1(a)および(b))、尿路上皮癌では褐色に染色されていた(
図1(e),(f))。また悪性度が高い浸潤性尿路上皮癌のみならず(
図1(e)、(f))、悪性度の低い非浸潤性尿路上皮癌についても褐色に染色されていた(
図1(c)、(d))。よって、ユビキリン2は尿路上皮癌に特異的に発現していることが示され、ユビキリン2特異抗体によって尿路上皮癌を検出し得ることが確認された。
【0150】
図2に、病理組織診断によって尿路上皮癌であると診断された患者から取得した尿検体および病変組織を用いて各種染色を行った結果を示す。
図2(a)および(b)は尿中剥離細胞をパパニコロー染色した結果であり、
図2(c)および(d)はユビキリン2特異抗体を用いて免疫細胞染色を行った結果であり、
図2(e)および(f)は患者から取得した病変組織をHE染色した結果である。
【0151】
通常の尿細胞診では異型細胞がみられるものの、癌であるとまでは診断できなかった(
図2(a)および(b))が、同患者の尿中剥離細胞をユビキリン2特異抗体で染色したところ、尿中剥離細胞が褐色に染色された(
図2(c)および(d))。同患者について病理組織診断を行ったところ、非浸潤性尿路上皮癌(低悪性度)であると診断された(
図2(e)および(f))。
【0152】
一方、
図3に、病理組織診断によって非腫瘍性病変であると診断された患者から取得した尿検体および病変組織を用いて各種染色を行った結果を示す。
図3(a)および(b)は尿中剥離細胞をパパニコロー染色した結果であり、
図3(c)および(d)はユビキリン2特異抗体を用いて免疫細胞染色を行った結果であり、
図3(e)および(f)は患者から取得した尿路上皮をHE染色した結果である。
【0153】
通常の尿細胞診では異型細胞がみられるものの、癌であるとまでは診断できなかった(
図3(a)および(b))が、同患者の尿中剥離細胞をユビキリン2特異抗体で染色したところ、尿中剥離細胞は褐色に染色されなかった(
図3(c)および(d))。同患者について病理組織診断を行ったところ、非腫瘍性病変であると診断された(
図3(e)および(f))。
【0154】
図2および3の結果より、通常の尿細胞診では癌であるかどうかを判断できない場合であっても、ユビキリン2特異抗体で免疫染色することにより、癌であるかどうかを判断することができる可能性が確認された。
【0155】
図4に尿中剥離細胞をパパニコロー染色した結果をもとに尿路上皮癌の診断を行った結果(つまり従来の尿細胞診を行った結果)と、尿中剥離細胞をユビキリン2特異抗体で免疫染色した結果をもとに尿路上皮癌の診断を行った結果(つまり本発明にかかる尿細胞診を行った結果)との対比を行った結果を示す。
【0156】
図4(a)は被験者の内訳を示しており、「陰性(正常)」は病理組織診断によって非腫瘍性病変であると診断された患者から取得した尿検体の数(100検体)を示し、「陽性(癌)」は病理組織診断によって尿路上皮癌であると診断された患者から取得した尿検体の数(49検体)を示す。つまり、合計149検体を用いて、従来の尿細胞診および本発明にかかる尿細胞診を実施したことを
図4(a)は示している。なお、
図4(a)中、「高悪性度」は病理組織診断によって悪性度が高いと判断された患者から取得した尿検体の数(27検体)を示し、「低悪性度」は病理組織診断によって悪性度が低いと判断された患者から取得した尿検体の数(22検体)を示す。
【0157】
図4(b)は陽性(癌)の尿検体について、従来の尿細胞診を行った結果である。従来の尿細胞診では、高悪性度の癌検体27検体中20検体を正しく陽性と判断することができた(感度74.1%)。一方、低悪性度の癌検体22検体中5検体しか正しく陽性と判断することができなかった(感度22.7%)。
【0158】
図4(c)は陽性(癌)の尿検体について、本発明にかかる尿細胞診を行った結果である。本発明にかかる尿細胞診では、高悪性度の癌検体27検体中27検体を正しく陽性と判断することができた(感度100%)。一方、低悪性度の癌検体22検体中19検体を正しく陽性と判断することができた(感度86.4%)。
【0159】
図4(d)は陰性(正常)の尿検体について、従来の尿細胞診を行った結果である。従来の尿細胞診では、非腫瘍性病変であるにも関わらず陽性と判断した結果は0%であった。また、判定困難が13検体あった。
【0160】
図4(e)は陰性(正常)の尿検体について、本発明にかかる尿細胞診を行った結果である。本発明にかかる尿細胞診では、尿中剥離細胞の細胞数が少なく判定困難とした例が4%であったが、96%について陰性であると正しく判断した。よって、本発明にかかる尿細胞診の特異度は96%であった。
【0161】
したがって、
図4の結果より、従来の尿細胞診は、悪性度の高い検体では比較的高感度で診断を行うことができるが、悪性度の低い検体では感度が著しく低下してしまうこと、ただし、従来の尿細胞診は、比較的高い特異度を有していることが確認された。これに対して、本発明にかかる尿細胞診によれば、高感度かつ高い特異度をもって尿路上皮癌の診断を行うことが可能であるということが確認された。さらに本発明にかかる尿細胞診では、悪性度が低い検体に対しても高感度に診断することができるという利点が見られた。
【0162】
図5に食道扁平上皮癌患者から採取した病変組織をHE染色およびユビキリン2特異抗体で免疫染色を行った結果を示す。
図5(a)は病変組織をHE染色した結果であり、
図5(b)は同病変組織をユビキリン2特異抗体で免疫染色を行った結果である。
【0163】
図5によれば、ユビキリン2特異抗体によって、尿路上皮癌のみならず、食道扁平上皮癌を検出することができるということが確認された。
【0164】
次に、ユビキリン2以外のユビキリンファミリー(ユビキリン1および4)と、ユビキリン2との比較を行った。
図6は、ユビキリン1,2,または4の特異抗体を用いて、膀胱癌(尿路上皮癌)の病変組織の免疫染色を行った結果を示す。
図6(a)はユビキリン1特異抗体を用いて病変組織の免疫染色を行った結果であり、
図6(b)はユビキリン2特異抗体を用いて病変組織の免疫染色を行った結果であり、
図6(c)はユビキリン4特異抗体を用いて病変組織の免疫染色を行った結果であり、
図6(d)はユビキリン2特異抗体を用いて正常尿路上皮組織の免疫染色を行った結果である。
図6によれば、ユビキリン2特異抗体を用いた場合のみ、膀胱癌の病変組織が褐色に染色されていることが確認された(
図6(b)を参照のこと。)。よって、ユビキリン1や4では膀胱癌を検出することはできないが、ユビキリン2を検出することによって膀胱癌をはっきりと検出することが可能であるということが確認された。
【0165】
図7は、ユビキリン1,2,または4の特異抗体を用いて、子宮頸癌(扁平上皮癌)の病変組織の免疫染色を行った結果を示す。
図7(a)はユビキリン1特異抗体を用いて病変組織の免疫染色を行った結果であり、
図7(b)はユビキリン2特異抗体を用いて病変組織の免疫染色を行った結果であり、
図7(c)はユビキリン4特異抗体を用いて病変組織の免疫染色を行った結果であり、
図7(d)はユビキリン2特異抗体を用いて正常子宮頸部扁平上皮組織の免疫染色を行った結果である。
図7によれば、ユビキリン2特異抗体を用いた場合のみ、子宮頸癌の病変組織が褐色に染色されていることが確認された(
図7(b)を参照のこと。)。よって、ユビキリン1や4では子宮頸癌を検出することはできないが、ユビキリン2を検出することによって子宮頸癌をはっきりと検出することが可能であるということが確認された。
【0166】
図8は、ユビキリン1,2,または4の特異抗体を用いて、食道癌(扁平上皮癌)の病変組織の免疫染色を行った結果を示す。
図8(a)はユビキリン1特異抗体を用いて病変組織の免疫染色を行った結果であり、
図8(b)はユビキリン2特異抗体を用いて病変組織の免疫染色を行った結果であり、
図8(c)はユビキリン4特異抗体を用いて病変組織の免疫染色を行った結果であり、
図8(d)はユビキリン2特異抗体を用いて正常食道組織の免疫染色を行った結果である。
図8によれば、ユビキリン2特異抗体を用いた場合のみ、食道癌の病変組織が褐色に染色されていることが確認された(
図8(b)を参照のこと。)。よって、ユビキリン1や4では食道癌を検出することはできないが、ユビキリン2を検出することによって食道頸癌をはっきりと検出することが可能であるということが確認された。
【0167】
図9に、腎癌の病変組織のHE染色を行った結果(
図9(a)を参照のこと)、およびユビキリン2特異抗体を用いて腎癌の病変組織の免疫染色を行った結果を示す(
図9(b)を参照のこと。)。
【0168】
図10に、肺腺癌の病変組織のHE染色を行った結果(
図10(a)を参照のこと)、およびユビキリン2特異抗体を用いて肺腺癌の病変組織の免疫染色を行った結果を示す(
図10(b)を参照のこと。)。
【0169】
図9および10の結果によれば腎癌および肺腺癌ではユビキリン2はほとんど発現していなかった。このため、ユビキリン2を検出することによって、腎癌や肺腺癌の検出を行うことはできないことが確認された。
【0170】
図11に、大腸腺癌の病変組織のHE染色を行った結果(
図11(a)を参照のこと)、およびユビキリン2特異抗体を用いて大腸腺癌の病変組織の免疫染色を行った結果を示す(
図11(b)を参照のこと。)。
【0171】
図11の結果から大腸腺癌ではユビキリン2の発現は見られたがシグナルは脆弱であった。また大腸腺癌の組織によってはユビキリン2が高発現している病変組織があり(データは示さず。)、ユビキリン2の発現は安定性にかけるものであった。このため、ユビキリン2を検出することによる、大腸腺癌の検出は困難であるということが確認された。
【0172】
図12は、乳癌の病変組織をHE染色、およびユビキリン1,2,または4の特異抗体を用いて免疫染色を行った結果を示す。
図12(a)はHE染色を行った結果であり、
図12(b)はユビキリン2特異抗体を用いて病変組織の免疫染色を行った結果であり、
図12(c)はユビキリン1特異抗体を用いて病変組織の免疫染色を行った結果であり、
図12(d)はユビキリン4特異抗体を用いて病変組織の免疫染色を行った結果である。
【0173】
一方、
図13に正常乳腺をユビキリン2特異抗体で免疫染色を行った結果を示す。なお、
図13(a)および(b)は共に正常乳腺を免疫染色した結果である。
【0174】
図12および13において、乳癌および正常乳腺ともにユビキリン2の高発現が観察された(
図12(b)および
図13を参照のこと。)。またユビキリン2と同様に、乳癌の病変組織において、ユビキリン1および4の高発現が確認された(
図12(c)および(d)を参照のこと。)。よって、ユビキリン2を検出することによって、乳癌を検出することは困難であるということが確認された。
【0175】
図14に、前立腺癌の病変組織または正常前立腺組織をユビキリン2特異抗体で免疫染色した結果を示す。
図14(a)および(c)は前立腺癌の病変組織を免疫染色した結果であり、
図14(b)および(d)は正常前立腺組織を免疫染色した結果である。
【0176】
図14において、前立腺癌の病変組織および正常前立腺組織ともにユビキリン2の高発現が観察された。よって、ユビキリン2を検出することによって、前立腺癌を検出することは困難であるということが確認された。
【0177】
〔実施例2〕ユビキリン2遺伝子発現抑制による効果の検証−1
(1)方法
ヒト尿路上皮癌細胞株 KU7(慶應義塾大学医学部泌尿器科学講座より供与された。)に、コントロールRNA(QIAGEN社製)またはユビキリン2のsiRNAを導入した。なお、ユビキリン2のsiRNAは、ユビキリン2遺伝子の5’-TCCCATAAAGAGACCCTAATA-3’(配列番号3)をTarget sequenceとして合成されたsiRNAを使用した。各RNAの導入はLipofectamine
TMRNAimax(ライフテクノロジー・ジャパン社製)を使用し、Lipofection法によって行われた。
【0178】
RNAが導入された細胞を72時間培養の後に、TUNEL(Terminal deoxynucleotidyl transferase dUTP nick end labeling法:タカラバイオ社製)法により、蛍光顕微鏡下でTUNEL陽性細胞(つまりアポトーシス(apoptosis、細胞死)に陥った細胞)を検出し、全細胞に対する割合を算出した。
【0179】
(2)結果
図15(a)はユビキリン2のsiRNAが導入された細胞をDAPI染色し、細胞の核染色を行った結果を示す。
図15(b)はコントロールRNAが導入された細胞をDAPI染色し、細胞の核染色を行った結果を示す。
図15(a)および(b)ともに、全細胞の核が青く染色されていることが分かる。なお
図15(a)における矢印はDNAの断片化を示している。
【0180】
図15(c)はユビキリン2のsiRNAが導入された細胞をTUNEL染色し、TUNEL陽性細胞(アポトーシスに陥った細胞)を検出した結果を示す。
図15(d)はコントロールRNAが導入された細胞をTUNEL染色し、TUNEL陽性細胞(アポトーシスに陥った細胞)を検出した結果を示す。
図15(c)および(d)において、緑色に発色している細胞がTUNEL陽性細胞(アポトーシスに陥った細胞)である。なお
図15(c)における矢印はTUNEL陽性細胞を示している。
【0181】
図15(e)はDAPI陽性細胞(全細胞数)に対するTUNEL陽性細胞(アポトーシスに陥った細胞数)の割合(図中「アポトーシス率」と表記する。)を算出しグラフにしたものである。
【0182】
図15によれば、ユビキリン2遺伝子を破壊(ノックダウン)することによって、癌細胞にアポトーシス(細胞死)が誘導されていることが確認された。つまり、これは、ユビキリン2遺伝子を破壊(ノックダウン)することによる癌治療効果がin vitro(試験管内実験)において、確認されたことを意味する。
【0183】
〔実施例3〕ユビキリン2遺伝子発現抑制による効果の検証−2
(1)方法
実施例2と同様にしてRNAが導入された細胞を24時間培養した培養液に、小胞体ストレス剤である、タプシガルギン(シグマ社製)を所定の濃度(0.1μM、0.5μM、1μM、2.5μM)となるように添加した。
【0184】
タプシガルギン添加72時間後に、細胞生存アッセイ(MTS assay:プロメガ社製キットを使用。)を行って細胞生存数を求め、薬剤無添加の細胞生存数に対する比率(細胞生存率)を算出した。
【0185】
(2)結果
図16にタプシガルギン添加72時間後の細胞生存率を示す。ユビキリン2遺伝子を破壊(ノックダウン)しない場合、タプシガルギンは細胞毒性をほとんど発揮できない(コントロールRNAの結果を参照のこと。)。一方、ユビキリン2遺伝子を破壊(ノックダウン)した細胞では、タプシガルギンの細胞毒性が顕著に増強された。
【0186】
タプシガルギンなどの小胞体ストレス剤は抗癌剤としての臨床応用が期待されている薬剤であり(参考文献:実験医学,2009年3月号 Vol.27 No.4,「Protein Homeostasisを解明する 小胞体ストレスと疾患」、Cancer Frontier 2008 Vol.10 3.小胞体ストレスとがん治療 (齋藤さかえ・冨田章弘))、ユビキリン2遺伝子を破壊(ノックダウン)することで、化学療法の感受性を高めることができ、より効果的な治療の可能性がin vitro(試験管内実験)において確認された。よって、ユビキリン2遺伝子を破壊(ノックダウン)することで、新たな治療戦略を構築できることが期待される。