【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 放送日 平成27年3月20日 放送番組 NHK宮崎放送局 ニュースWAVE宮崎 公開者 NHK宮崎放送局 〔刊行物等〕発行日 平成27年6月4日、刊行物 運動器リハビリテーション第26巻第2号 第27回日本運動器科 学会プログラム・抄録集,第202頁,一般社団法人日本運動器科学会 〔刊行物等〕開催日 平成27年7月4日、集会名、開催場所 第27回日本運動器科学会、宮崎観光ホテル (宮崎県宮崎市松山1−1−1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ロコモティブシンドロームを予防することが質の高い生活を将来実現するために必要不可欠であり、ロコモティブシンドロームに該当する危険性を定量的に評価する方法が求められている。しかし、従来の立ち上がりテストは、高さが異なる台を準備し、被検者が各台からの立ち上がり動作に成功するかをテストするにすぎず、被検者ごとに定量的な評価値を示すものではない。即ち、従来の立ち上がりテストは、被検者の運動器の状態を定量化できていない。
【0011】
なお、立ち上がり動作とは、被検者が着座した状態から立ち上がって立位した状態に変位し、その後立位姿勢を安定させ維持する動作を指す。また、被検者が着座した時点から、立ち上がって立位した後、立位姿勢が安定する時点までを立ち上がり動作期間と呼ぶことがある。
【0012】
また、従来の立ち上がりテストでは立ち上がり動作を複数回に渡って行わなければならず、被検者に掛かる負担が大きい。特に、高齢者の場合、立ち上がり動作における負担は若年者に比べ大きく、複数回のテストを要求すると、疲労によって転倒する危険性もある。
【0013】
本発明は、上記の課題に鑑み、被検者の運動器の状態を定量化するとともに被検者に掛かる負担を軽減することができる運動器評価システム及び運動器評価方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
立ち上がり動作は、身体全体の重心を座面から両足の裏面に移動させると同時に身体を上方へ移動させる必要があることから、大きな関節トルクと正確なバランスコントロールが必要とされる難易度の高い動作である一方、日常生活において基本的かつ重要な動作でもある。本発明者らは、このような立ち上がり動作に着目し、複数人の被検者を対象に立ち上がり動作を実行させ、各種のパラメータを計測したところ、立ち上がり動作に特有の傾向が現れることを見出した。
【0015】
本発明者らはこれに鑑み、立ち上がり動作に基づく新規な指標を定義することを考察し、さらに、この指標を用いて運動器の状態を評価することができないか、考察した。即ち、運動器の状態が異なれば、新規に定義した指標にも差が生じるのではないか、と考察した。
【0016】
かかる考察の下、本発明の運動器評価システムは、
被検者が検出器上に両足を載置した状態で着座した時点から、立ち上がって前記検出器上に立位した後、立位姿勢が安定する時点までの立ち上がり動作期間における荷重と、前記荷重の作用点の前記検出器上における座標である重心座標とを算出する第一の算出部と、
前記立ち上がり動作期間における前記重心座標の変化に基づいて、前記被検者のバランス能力を表す第一の指標を算出し、前記立ち上がり動作期間における前記荷重の変化に基づいて、前記被検者の動作の俊敏性を表す第二の指標を算出する第二の算出部と、
前記第一の指標と前記第二の指標とを用いて、前記被検者の運動器を評価するための第三の指標を算出する第三の算出部と、を備えることを特徴とする。
【0017】
本発明者らは、立ち上がり動作の制御には、下肢筋力等の筋骨格系の制御だけではなく、視覚、前庭、体性感覚等の感覚系の制御や、中枢神経、末梢神経等の神経系の制御も必要になることに着目し、これらの観点から運動器を評価する指標を定義することを考察した。そして、筋骨格系、感覚系及び神経系の3つの制御能力を表す指標として、被検者のバランス能力を表す第一の指標と、被検者の動作の俊敏性を表す第二の指標を新たに定義し、第一の指標と第二の指標から、運動器を評価する新規な指標(第三の指標)を算出する技術を発明した。上記システムによれば、立ち上がり動作の制御に関係する二つの指標を用いて、運動器を評価するための第三の指標が算出される。これにより、第三の指標が定量化されるため、定量的な運動器評価システムを実現できる。
【0018】
また、立ち上がり動作期間は、被検者が検出器上に両足を載置した状態で着座した時点から、立ち上がって前記検出器上に立位した後、立位姿勢が安定する時点までの期間である。即ち、一回の立ち上がり動作が行われる期間に相当する。上記システムによれば、被検者は立ち上がり動作を一回行えば足り、複数回の立ち上がり動作を要求されない。これにより、従来の立ち上がりテストに比べ、被検者に掛かる負担を軽減することができる。
【0019】
また、上記システムにおいて、
前記第一の算出部は、さらに、前記立ち上がり動作期間の開始時から前記重心座標が描く軌跡の長さである重心軌跡長を、前記立ち上がり動作期間の終了時以前の各時点で算出し、
前記第二の算出部は、
前記重心座標に基づいて、前記被検者が着座した状態から立位した状態に切り替わった時点を特定し、
前記立ち上がり動作期間の開始時から終了時までの前記重心軌跡長と、前記立ち上がり動作期間の開始時から特定した前記時点までの前記重心軌跡長との差を用いて、前記第一の指標を算出し、
前記荷重が最小となる時点から最大となる時点までにおける少なくとも二つの時点を用いて、前記第二の指標を算出するものとしても構わない。
【0020】
詳細は後述するが、被検者が着座した状態から立位した状態に切り替わった時点とは、被検者が椅子から離れた瞬間である。上記システムによれば、第二の算出部は、被検者が椅子から離れた瞬間から立ち上がり動作期間の終了時までに重心座標が描く軌跡の長さによって、バランス能力を表す第一の指標を算出できる。
【0021】
また、上記システムによれば、第二の算出部は、荷重が最小となる時点から最大となる時点までにおける少なくとも二つの時点によって、被検者の動作の俊敏性を表す第二の指標を算出できる。
【0022】
また、上記システムにおいて、
前記第二の算出部は、
前記立ち上がり動作期間の開始時から終了時までの前記重心軌跡長と、前記立ち上がり動作期間の開始時から特定した前記時点までの前記重心軌跡長との差の逆数を、前記第一の指標として算出し、
少なくとも二つの前記時点と、少なくとも二つの前記時点における前記荷重と、を用いて得られる前記荷重の変化速度を、前記第二の指標として算出するものとしても構わない。
【0023】
上記システムによれば、第二の算出部は、立ち上がり動作期間の開始時から終了時までの重心軌跡長と、立ち上がり動作期間の開始時から特定した時点までの重心軌跡長との差の逆数によって、第一の指標を算出できる。また、第二の算出部は、荷重が最小となる時点から最大となる時点までにおける少なくとも二つの時点と、少なくとも二つの時点における荷重と、を用いて得られる荷重の変化速度によって、第二の指標を算出できる。
【0024】
また、上記システムにおいて、
前記第二の算出部は、
前記立ち上がり動作期間の開始時から終了時までの前記重心軌跡長と、前記立ち上がり動作期間の開始時から特定した前記時点までの前記重心軌跡長との差の逆数を、前記第一の指標としてを算出し、
前記荷重が最小となる時点から最大となる時点までに要する時間の逆数を、前記第二の指標としてを算出するものとしても構わない。
【0025】
上記システムによれば、第二の算出部は、立ち上がり動作期間の開始時から終了時までの重心軌跡長と、立ち上がり動作期間の開始時から特定した時点までの重心軌跡長との差の逆数によって、第一の指標を算出できる。また、第二の算出部は、荷重が最小となる時点から最大となる時点までに要する時間の逆数によって、第二の指標を算出できる。
【0026】
また、上記システムにおいて、
前記第二の算出部は、前記第一の指標と前記第二の指標とを積算することによって前記第三の指標を算出するものとしても構わない。
【0027】
また、上記システムにおいて、
立ち上がり動作期間は、前記被検者と前記検出器とが一定の位置関係を満たすように前記被検者が着座した時に開始するものとしても構わない。
【0028】
従来の立ち上がりテストでは、被検者の体格差が立ち上がり動作の成否に影響しやすく、判定結果の精度が低いという問題がある。具体的に、身長差がある二十代の被検者ふたりを例に説明する。
【0029】
一人は身長が180cmでもう一人は140cmとした場合、20cmの台から立ち上がる難易度を考えると、180cmの被検者の方が140cmの被検者に比べて難易度が高い。しかし、従来の立ち上がりテストでは、180cmの被検者が片足で20cmの台から立ち上がることができなかった場合、身長が比較的高いために立ち上がり動作の難度が上昇し、立ち上がりに失敗した可能性があるにも拘わらず、被検者は、将来ロコモティブシンドロームに該当する危険性が高い、と判定される。逆に、140cmの被検者が片足で20cmの台から立ち上がることができた場合、身長が比較的低いために立ち上がり動作の難度が低下し、立ち上がりに成功した可能性があるにも拘わらず、被検者は、将来ロコモティブシンドロームに該当する危険性が低い、と判定される。即ち、従来の立ち上がりテストは、被検者の立ち上がり動作の難易度を考慮できていない。
【0030】
これに対し、上記システムによれば、立ち上がり動作において被検者と検出器とが一定の位置関係を満たす。そのため、被検者ごとに立ち上がり動作の難易度を同等にすることができ、従来の立ち上がりテストより精度の高い評価値を得ることができる。
【0031】
また、上記システムにおいて、
前記運動器評価システムは、前記検出器と運動器評価装置とを含み、
前記運動器評価装置は、
前記第一の算出部と、
前記第二の算出部と、
前記第三の算出部と、
を含むものとしても構わない。
【0032】
また、本発明の運動器評価方法は、
被検者が検出器上に両足を載置した状態で着座した時点から、立ち上がって前記検出器上に立位した後、立位姿勢が安定する時点までの立ち上がり動作期間における荷重と、前記荷重の作用点の前記検出器上における座標である重心座標とを算出する第一の算出ステップと、
前記立ち上がり動作期間における前記重心座標の変化に基づいて、前記被検者のバランス能力を表す第一の指標を算出し、前記立ち上がり動作期間における前記荷重の変化に基づいて、前記被検者の動作の俊敏性を表す第二の指標を算出する第二の算出ステップと、
前記第一の指標と前記第二の指標とを用いて、前記被検者の運動器を評価するための第三の指標を算出する第三の算出ステップと、
前記第三の指標に基づいて、前記被検者の運動器を評価する評価ステップと、を備えることを特徴とする。
【0033】
上記方法によれば、運動器の状態を定量化するとともに被検者に掛かる負担を軽減することができる運動器評価方法を実現できる。
【発明を実施するための形態】
【0035】
(第一実施形態)
[構成]
図1を参照して本発明の運動器評価システムの一実施形態の構成を説明する。運動器評価システム100は、椅子110と、検出器120と、運動器評価装置130とを備える。本実施形態では、椅子110及び検出器120は別体に構成されているが、椅子110が検出器120を備えるよう一体に構成されてもよい。
【0036】
椅子110は高さを調節可能である。評価者は、被検者が椅子110に着座したとき、被検者の脛が検出器120に対して所定の角度θ(例えば70度)になるように椅子110の高さを調節する。椅子110の高さが調節されると、被検者は、椅子110に着座し、立ち上がり動作を行う。
【0037】
なお、椅子110の高さを変えることなく、厚みの異なる複数枚の板を準備し、検出器120の下にこの板を設置することで、被検者と検出器120との位置関係を調節するようにしてもよい。
【0038】
被検者は、検出器120の上面に両足を載置した状態で椅子110に腰かける。その後、立ち上がって検出器120上に立位し、立位姿勢を整える。検出器120は例えばロードセルのようなセンサ(図示略)を複数個備える。センサは、立ち上がり動作に際し被検者が検出器120に掛ける圧力の分力を計測する。被検者が検出器120に掛ける圧力は、被検者の動作に伴い変動する。そのため、各センサが計測する分力も、被検者の動作に伴い変動する。センサは、立ち上がり動作期間中、被検者が掛ける圧力の分力を計測する。
【0039】
検出器120には、
図2に示すようなXY座標系が定められている。
図2には、被検者の両足の裏面についても模式的に表している。X軸及びY軸は検出器120の上面内で直交する軸であり、それぞれ検出器120の上面の中心Oを通る。
【0040】
検出器120は、運動器評価装置130と電気的に接続されている。検出器120は、各センサが計測した分力と、各センサの位置座標を運動器評価装置130の制御部140に出力する。なお、検出器120と運動器評価装置130は、WiFi(登録商標)、Bluetooth(登録商標)、赤外線通信等の無線通信によって接続されていてもよい。検出器120は、例えばフォースプレート、重心動揺計、又はヘルスメータ等の装置によって構成される。
【0041】
運動器評価装置130は、制御部140と表示部150と操作部160とを備える。運動器評価装置130は、例えばPCによって構成される。
【0042】
制御部140は、図示しないCPU、記憶装置を含み、各機器からの信号の入力や各機器への信号の出力を行う。また、制御部140は、被検者が将来ロコモティブシンドロームに該当する危険性を示すロコモ成績L(以下、「ロコモ成績L」と呼ぶ)を算出する。制御部140は、ロコモ成績Lに基づき、被検者の現在の運動器の状態を評価する。ロコモ成績L及び制御部140の詳細は後述する。なお、ロコモ成績Lが第三の指標に対応する。
【0043】
表示部150は、例えばLCD等の表示パネルにより構成される。表示部150は、ロコモ成績L、及び評価メッセージ(後述)等を表示する。
【0044】
操作部160は、例えばキーボードにより構成される。操作部160は、ロコモ成績Lの算出指示を、制御部140に出力する。制御部140は、操作部160から算出指示を入力されると、ロコモ成績Lの算出処理を開始する。なお、例えばタッチパネルのように表示部150及び操作部160が一体に構成されていてもよい。
【0045】
続いて、制御部140について説明する。制御部140は、第一の算出部141と第二の算出部142と第三の算出部143と評価部145とを備える。第一の算出部141は、検出器120から各センサが計測した分力と各センサの位置座標を取得する。第一の算出部141は、センサが計測した分力を利用して、予め定められた計算式による演算を行う。例えば、複数個のセンサが計測した分力の和を計算する。以後、この計算式による演算結果を荷重Pと呼ぶ。荷重Pとは、立ち上がり動作に際し被検者が検出器120に掛ける圧力に対応する力である。荷重Pは、被検者の動作に伴い変動する。第一の算出部141は、立ち上がり動作期間中、荷重Pを算出する。
【0046】
さらに、第一の算出部141は、荷重Pの作用点(COP:Center Of Pressure)のX座標及びY座標を算出する。
【0047】
第一の算出部141は、例えば、各センサが計測した分力及び各センサの位置座標を利用して、荷重Pの作用点のX座標及びY座標を算出する。なお、算出のための計算式は、検出器120が備えるセンサの個数や配置によって定まる。荷重Pの作用点のX座標及びY座標の算出は周知の技術であるため、ここでは詳細を割愛する。以後、荷重Pの作用点を重心と呼び、荷重Pの作用点の座標を重心座標と呼ぶことがある。
【0048】
荷重Pの作用点(即ち、重心)は、被検者の動作に伴い変動する。そのため、荷重Pの作用点の座標(即ち、重心座標)も被検者の動作に伴い変動する。第一の算出部141は、立ち上がり動作期間中、重心座標を算出する。
【0049】
さらに、第一の算出部141は、立ち上がり動作により重心座標が描く軌跡の長さ(以下、「重心軌跡長D」と呼ぶ)を算出する。具体的には、第一の算出部141は、立ち上がり動作期間の開始時から、重心軌跡長を、立ち上がり動作期間の終了時以前の各時点で算出する。即ち、第一の算出部141は、立ち上がり動作期間中の各時点で、重心軌跡長を算出する。
【0050】
図3に重心座標が描く軌跡の一例を示す。
図3に示す例は、立ち上がり動作開始時点から終了時点までに重心座標が描いた軌跡である。
図3における横軸は上述のX軸であり、縦軸は上述のY軸である。第一の算出部141は、
図3に示す軌跡を線積分していくことで重心軌跡長を計測する。なお、
図3に示す例は、被検者が若年者であるときの重心の軌跡である。
【0051】
以上のように、第一の算出部141は、立ち上がり動作期間における荷重P、重心座標X、Yを算出し、立ち上がり動作期間中の各時点につき、重心軌跡長Dを算出する。第一の算出部141は、荷重P、重心座標X、Y、及び重心軌跡長Dのそれぞれを立ち上がり動作期間内の時点tと対応付けて運動器評価装置130の記憶部(図示略)に記憶する。
【0052】
図1に戻って説明を続ける。第一の算出部141は、時点tと対応付けた荷重P、重心座標Y、及び重心軌跡長Dを第二の算出部142に出力する。なお、第一の算出部141は、重心座標Xを第二の算出部142に出力しない。後述のように、第二の算出部142は、重心座標Xを利用することなく演算を行うことができるためである。なお、第一の算出部141が重心座標Xを第二の算出部142に出力する実施形態であってもよい。
【0053】
第二の算出部142は、第一の算出部141から取得した荷重P及び荷重Pに対応する時点tをt−P座標にプロットしていき荷重Pの時間変化を表すグラフを作成する。また、重心座標Y及び重心座標Yに対応する時点tをt−Y座標にプロットしていき重心座標Yの時間変化を表すグラフを作成する。また、重心軌跡長D及び重心軌跡長Dに対応する時点tをt−D座標にプロットしていき重心軌跡長Dの時間変化を表すグラフを作成する。
【0054】
図4に立ち上がり動作期間における荷重P、重心座標Y、及び重心軌跡長Dのそれぞれの時間変化を表すグラフの一例を示す。
図4において、横軸は時点tを示し、縦軸は荷重(kg)、重心座標(cm)、重心軌跡長(cm)を示す。なお、
図4に示す例は、被検者が若年者であるときのグラフである。
【0055】
図4に示すように、立ち上がり動作開始直後のtが0〜t(P
min)の間では、荷重Pは低下する。
図4の例では、t(P
min)=0.670(s)である。立ち上がり動作開始直後では、立ち上がり動作に対する反動により、被検者の両足の裏面の一部が検出器120から一時的に離れるためである。この反動により、荷重Pは、最小値P
minまで低下する。反動が無くなると、被検者の起立しようとする力が検出器120に働くことにより、荷重Pは上昇し始め、最大値P
maxまで到達する。荷重Pが最小値P
minから最大値P
maxまで到達する間に、被検者は椅子110から離れる。その後、被検者は立位姿勢を整える。そのため、荷重Pは、被検者の体重に相当する一定値に収束する。
【0056】
重心座標Yが最小値Y
minを取る時点t(以下、t(Y
min))は、被検者が椅子110から離れた瞬間に相当する。被検者の足のつま先側を前方、踵側を後方とすると、t(Y
min)は、重心が最も後方となるときである。即ち、t(Y
min)は、立ち上がり動作において被検者が最も安定していない瞬間と言うことができ、椅子110から離れた瞬間と定義できる。
図4の例では、t(Y
min)は0.795(s)であり、tが0〜0.795(s)の間では被検者は椅子110に着座した状態であり、tが0.795(s)以降では被検者は検出器120上に立位した状態である。なお、被検者が椅子110から離れた瞬間が、被検者が着座した状態から立位した状態に切り替わった時点に対応する。
【0057】
図4に示すように、重心軌跡長Dは、tの経過とともに上昇する。特に、tが0〜0.795(s)の着座状態では、重心軌跡長Dは著しく上昇する。tが0〜0.795(s)の間は、被検者は着座状態から立位状態に向かって身体が大きく動作することから、重心の変動の幅が大きいためである。これに対し、tが0.795(s)以降の立位状態では、重心軌跡長Dは緩やかに上昇する。着座状態から立位状態へ変化した後では、被検者は立位姿勢を整える程度の動作をするにすぎず、重心の変動の幅が小さいためである。
【0058】
第二の算出部142は、荷重P、重心座標Y、及び重心軌跡長Dのそれぞれの時間変化を表すグラフを表示部150に出力する。表示部150は、
図4に示すようなグラフを表示する。なお、
図4に示すようなグラフを表示部150に表示しない実施形態であってもよい。この場合、第二の算出部142は、荷重P、重心座標Y、及び重心軌跡長Dのそれぞれの時間変化のグラフを作成しなくてもよい。
【0059】
第二の算出部142は、検出器120から入力された荷重P、重心座標Y、及び重心軌跡長Dの中から、以下の特徴量を取り出す。
【0060】
第二の算出部142は、重心座標Yの最小値Y
minを取り出し、これに対応する時点t(Y
min)を取り出す。続いて、t(Y
min)における重心軌跡長D(以下、D(t(Y
min))を取り出す。また、t(Y
min)から3秒後のt(Y
min)+3における重心軌跡長D(t(Y
min)+3)を取り出す。そして、以下の式によりバランス能力を表す指標B(以下、B)を算出する。なお、指標Bが第一の指標に対応する。
【0062】
上述のように、t(Y
min)は、被検者が椅子110から離れた瞬間と定義できる。また、t(Y
min)+3は、立ち上がり動作が十分に完了した時点、即ち、立ち上がり動作期間が終了している時点と定義できる。t=t(Y
min)+3では、荷重Pは、被検者の体重の値で安定しており、被検者は立位姿勢を整え終わって静止している状態と言えるためである。
【0063】
以上より、D(t(Y
min)+3)とD(t(Y
min))の差は、被検者が椅子110から離れた時から立ち上がり動作が完了した時までに、被検者の重心がどれだけ変動したかを表す。D(t(Y
min)+3)とD(t(Y
min))の差が小さいほど、重心の変動は小さく、被検者のバランス能力が良いと言える。本実施形態では、Bは、D(t(Y
min)+3)とD(t(Y
min))の差の逆数である。そのため、Bが大きいほど、被検者のバランス能力は良い。
【0064】
なお、下肢筋力等の筋骨格系の制御、体性感覚等の感覚系の制御、末梢神経等の神経系の制御のうち、少なくとも一つの制御能力が良いことを、ここではバランス能力が良いと表現している。
【0065】
また、第二の算出部142は、荷重Pの最大値P
max及び最小値P
minを取り出し、それぞれに対応する時点t(以下、t(P
max)、t(P
min))を取り出す。そして、以下の式により被検者の動作の俊敏性を表す指標S(以下、S)を算出する。なお、指標Sが第二の指標に対応する。
【0067】
上述のように、t(P
min)は、立ち上がり動作に対する反動が無くなり、被検者が起立しようとする力が検出器120に働く瞬間である。即ち、荷重Pが上昇し始める時点である。t(P
max)は、被検者が起立しようとする最大の力が検出器120に働く瞬間であり、荷重Pの上昇が終了する時点である。
【0068】
以上より、t(P
max)とt(P
min)の差は、被検者が起立しようとする力を作用し続ける時間(以下、「荷重時間」と呼ぶ)と定義できる。荷重時間が短いほど、荷重Pが最小値から最大値まで上昇するのに要する時間が短く、被検者は俊敏性に富む。本実施形態では、Sは、t(P
max)とt(P
min)の差の逆数である。そのため、Sが大きいほど、被検者は俊敏性に富む。
【0069】
なお、下肢筋力等の筋骨格系の制御、体性感覚等の感覚系の制御、末梢神経等の神経系の制御のうち、少なくとも一つの制御能力が良いことを、ここでは俊敏性に富むと表現している。
【0070】
第二の算出部142は、算出したB及びSを第三の算出部143に出力する。第三の算出部143は、B、Sを積算することによってロコモ成績Lを算出する。即ち、L=B×Sである。第三の算出部143は、算出したロコモ成績Lを評価部145に出力する。
【0071】
BとSには所謂トレードオフの関係がある。具体的には、立ち上がり動作が素早く行われる場合、Sが比較的大きい値となる一方、身体をコントロールすることが難しくなり、バランスが損なわれ、Bが比較的小さい値となる。また、立ち上がり動作がゆっくりと行われる場合、Sが比較的小さい値となる一方、身体のコントロールが容易であり、バランスを保つことができ、Bが比較的大きい値となる。運動器の状態が良好である場合、BとSを比較的大きな値で両立させることができる。これに鑑み、LをBとSの積算により定義した。
【0072】
評価部145は、ロコモ成績Lを用いて、被検者の現在の運動器の状態を評価する。制御部140は、図示しない記憶装置にロコモ成績Lと年齢の関係を示す回帰式を記憶している。この回帰式は、予め年齢が異なる数十人の被検者に立ち上がり動作を実行させ、ロコモ成績Lを取得しておき、ロコモ成績Lを横軸、年齢を縦軸に取って回帰直線を求めることによって導出される。年齢が高いほど、被検者はバランス能力及び動作の俊敏性に欠ける傾向があり、Lは小さい値を取る。そのため回帰直線は、負の傾きを持つ一次関数で表される。
【0073】
評価部145は、操作部160から、被検者の実年齢を入力される。評価部145は、記憶装置から上述の回帰式を読み出し、被検者のロコモ成績Lに対する年齢(以下、「ロコモ年齢」と呼ぶ)を算出する。評価部145は、実年齢とロコモ年齢を比較し、被検者の現在の運動器の状態を評価する。実年齢がロコモ年齢以上であれば、被検者の現在の運動器の状態は良好であり、将来ロコモティブシンドロームに該当する危険性が低い、と評価する。実年齢がロコモ年齢未満であれば、被検者の現在の運動器の状態は良好とは言えず、将来ロコモティブシンドロームに該当する危険性が高い、と評価する。例えば、実年齢が35歳である場合に、ロコモ年齢が28歳と算出されたとき、将来ロコモティブシンドロームに該当する危険性が低い、と評価される。逆に、ロコモ年齢が40歳と算出されたとき、将来ロコモティブシンドロームに該当する危険性が高い、と評価される。
【0074】
評価部145は、ロコモ成績L、ロコモ年齢、及び評価メッセージを表示部150に出力する。表示部150はロコモ成績L、ロコモ年齢、評価メッセージを表示する。評価メッセージとは、例えば、実年齢がロコモ年齢未満である場合は「ロコモの危険度大です。運動を心がけましょう。」というメッセージであり、実年齢がロコモ年齢以上である場合は「ロコモの危険度小です。この調子で運動を続けて下さい。」というメッセージである。
【0075】
[評価方法]
図5を参照して本発明の運動器評価システムの一実施形態における評価方法を説明する。被検者は、両腕を胸の位置で組み、両足を検出器120上に載置して、椅子110に着座する。このとき、被検者は、踵からつま先に向かう方向が検出器120のY軸方向と平行になるように両足を載置する。なお、ここで言う平行とは、踵からつま先に向かう方向がY軸方向に完全に平行である場合に限らず、Y軸に対し0〜30度の角度を成す場合も含む。そして、被検者は両腕を組んだまま椅子110から立ち上がり、検出器120上に立位し、5秒間静止して立位姿勢を維持する。
【0076】
上述のように、運動器評価装置130は、立ち上がり動作期間における荷重P、重心座標X、Yを算出し、立ち上がり動作期間中の各時点につき、重心軌跡長Dを算出する。そして、運動器評価装置130は、算出した荷重P、重心座標Y、及び重心軌跡長Dを用いて、ロコモ成績Lを算出し、被検者の現在の運動器の状態を評価する。
【0077】
このように、運動器評価システム100によれば、被検者は、一回の立ち上がり動作を行うだけで運動器の評価を得られる。そのため、被検者に掛かる負担を従来の立ち上がりテストに比べ軽減できる。
【0078】
また、上述のように、バランス能力を表す指標Bと動作の俊敏性を表す指標Sの積算によりロコモ成績Lが算出される。これにより、運動器の状態を評価する指標をロコモ成績Lとして定量化することができる。
【0079】
また、上述のように、被検者と検出器120とが一定の位置関係を満たすよう椅子110の高さが調節される。これにより、立ち上がり動作の難易度を被検者ごとに同等にすることができるため、被検者の立ち上がり動作の難易度を考慮した評価値を算出できる。
【0080】
[評価例]
図3、4、6、7を参照して被検者が若年者である場合と高齢者である場合の重心軌跡長Dとロコモ成績Lについて説明する。
図6は、被検者が高齢者である場合に、立ち上がり動作開始時点から終了時点までに重心座標が描いた軌跡の一例である。若年者の重心の軌跡を表す
図3と比較する。若年者の重心軌跡長Dは20.48(cm)であり、高齢者の重心軌跡長Dは31.63(cm)である。このように、若年者は高齢者に比べて重心軌跡長Dが短いことが分かる。即ち、若年者は、立ち上がり動作において重心の変動の幅が高齢者に比べて小さく、バランス能力が良いことが分かる。
【0081】
図7は、被検者が高齢者である場合に、立ち上がり動作期間における荷重P、重心座標Y、及び重心軌跡長Dのそれぞれの時間変化を表すグラフの一例である。
図7に示す高齢者は、Y
minは−7.50(cm)、t(Y
min)は0.718(s)、D(t(Y
min)+3)は71.11(cm)、D(t(Y
min))は39.48(cm)であった。よって、バランス能力を表す指標Bが3.16(1/m)と算出された。また、P
maxは100.42(kg)、t(P
max)は0.843(s)、P
minは2.15(kg)、t(P
min)は0.546(s)であった。よって、動作の俊敏性を表す指標Sが3.37(1/S)と算出された。従って、ロコモ成績Lが10.64となった。
【0082】
これに対し、
図4に示す若年者は、Y
minは−9.00(cm)、t(Y
min)は0.795(s)、D(t(Y
min)+3)は44.09(cm)、D(t(Y
min))は22.30(cm)であった。よって、Bが4.59(1/m)と算出された。また、P
maxは72.9(kg)、t(P
max)は0.920(s)、P
minは3.52(kg)、t(P
min)は0.670(s)であった。よって、Sが4.00(1/S)と算出された。従って、ロコモ成績Lが18.36となった。若年者は、高齢者に比べてB、Sともに大きく、ロコモ成績Lが高いことが分かる。
【0083】
[検証]
図8を参照して、ロコモ成績Lの有用性について説明する。被検者として、健常な高齢者15名と若年者22名の計37名を対象とし、各被検者に立ち上がり動作を実行させ、運動器評価システム100により荷重P、重心座標X、Y、重心軌跡長Dの時間変化を計測した。すると、若年者にも高齢者にも同じような波形パターンが見られ、立ち上がり動作特有の波形パターンが存在することが分かった。なお、高齢者15名の平均年齢は、61.5歳であり、若年者22名の平均年齢は、26.2歳である。
【0084】
運動器評価システム100により、各被検者のロコモ成績Lを算出し、高齢者15名及び若年者22名のロコモ成績Lの平均値を求めた。
図8に示すように、高齢者のロコモ成績Lの平均値は、12.15であり、若年者のロコモ成績Lの平均値は、16.13であった。
【0085】
図8に示す結果を仮説検定に基づき検証する。まず、ロコモ成績Lについて高齢者群と若年者群の間に有意差がないという帰無仮説を立てる。そして、マン・ホイットニーのU検定により、有意確率Pを算出する。マン・ホイットニーのU検定について詳細は割愛する。
【0086】
仮説検定によれば、有意水準αと有意確率Pを比較し、P<αである場合、帰無仮説が棄却される。一方、P>αである場合、帰無仮説は棄却されない。なお、有意水準αは典型的には0.05である。
【0087】
図8に示すように、マン・ホイットニーのU検定によれば、有意確率Pは0.006となった。従って、P(=0.006)<α(=0.05)となり、帰無仮説は棄却される。即ち、高齢者のロコモ成績と若年者のロコモ成績の間には有意差があり、高齢者のロコモ成績Lは若年者のロコモ成績Lに比べ、有意に低い値を示し、逆に、若年者のロコモ成績Lは高齢者のロコモ成績Lに比べ、有意に高い値を示す、と言える。以上より、加齢に伴う運動器機能の低下をロコモ成績Lによって検出できたため、運動器評価システム100の有用性が示された。
【0088】
(第二実施形態)
続いて、本発明の運動器評価システムの第二実施形態について説明する。第二実施形態は、第一実施形態と、被験者の動作の俊敏性を表す指標の算出方法が異なる。以下、第二実施形態における被験者の動作の俊敏性を表す指標を、指標Saと表記する。
【0089】
[構成]
図9に第二実施形態の運動器評価システム200を示す。運動器評価システム200は、椅子110と、検出器120と、運動器評価装置130aとを備える。第二実施形態の運動器評価システム200は、第一実施形態の運動器評価システム100と、運動器評価装置130に代わり運動器評価装置130aを備える点で異なり、他の構成は同様である。以下、運動器評価装置130aについて説明する。
【0090】
運動器評価装置130aは、第一実施形態の運動器評価装置130と、制御部140に代わり制御部140aを備える点のみ異なる。制御部140aは、第一の算出部141aと、第二の算出部142aと、第三の算出部143aと、評価部145aとを備える。
【0091】
第一の算出部141aは、第一実施形態における第一の算出部141と、荷重Pに代わり、荷重P´を算出する点で異なり、他の点は同様である。即ち、第一の算出部141aは、立ち上がり動作期間における荷重P´、重心座標X、Y、を算出するとともに、立ち上がり動作期間中の各時点につき、重心軌跡長Dを算出する。なお、荷重P´とは、荷重Pを被検者の体重で除したものである。荷重P´の単位は「BW(bodyweight)」である。このように、第一の算出部141aは、荷重Pの体重に対する割合である荷重P´を算出する。被検者ごとに体重が異なるためである。なお、第一の算出部141aは、第一実施形態の第一の算出部141のように、荷重Pを算出しても構わない。
【0092】
第二の算出部142aは、第一実施形態における第二の算出部142と、被験者の動作の俊敏性を表す指標として指標Sに代わり指標Saを算出する点で異なり、他の構成は同様である。なお、第二の算出部142aは、第一実施形態における第二の算出部142と同様に、バランス能力を表す指標として指標Bを算出する。以下、第二の算出部142aが算出する指標Saについて説明する。
【0093】
第二の算出部142aは、第一の算出部141aから、立ち上がり動作期間内の各時点における荷重P´を取得する。第二の算出部142aは、第一の算出部141aから取得した荷重P´のうち、最大値P´maxを取り出す。続いて、第二の算出部142aは、最大値P´maxの90%と25%の大きさを算出する。即ち、第二の算出部142aは、0.90×P´maxと、0.25×P´maxとを算出する。そして、第二の算出部142aは、荷重P´が0.90×P´maxとなる時点t(0.90×P´max)と、荷重P´が0.25×P´maxとなる時点t(0.25×P´max)と、を取得する。そして、第二の算出部142aは、以下の式により、被験者の動作の俊敏性を表す指標Saを算出する。なお、指標Saが第二の指標に対応する。
【0095】
即ち、第二の算出部142aは、時点t(0.25×P´max)と時点t(0.90×P´max)における荷重P´の変化速度を算出する。
【0096】
荷重P´の変化速度が大きいほど、被験者の動作が機敏であると言える。即ち、指標Saが大きいほど、被験者の動作は俊敏性に富む。一方、荷重P´の変化速度が小さいほど、被験者の動作が遅緩であると言える。即ち、指標Saが小さいほど、被験者の動作は俊敏性に欠ける。
【0097】
第二の算出部142aは、算出した指標B及び指標Saを第三の算出部143aに出力する。第三の算出部143aは指標B及び指標Saを積算することによってロコモ成績Laを算出する。即ち、La=B×Saである。第三の算出部143aは、算出したロコモ成績Laを評価部145aに出力する。なお、第三の算出部143aがロコモ成績Laを指標B及び指標Saの積算により算出する理由は第一実施形態と同様であるため説明を省略する。
【0098】
評価部145aは、ロコモ成績Laを用いて、被験者の現在の運動器の状態を評価する。具体的な評価方法は第一実施形態の評価部145と同様であるため説明を省略する。なお、上記のように、ロコモ成績Laは指標B及び指標Saの積算によって算出される。ここで、指標Bが大きいほど被験者のバランス能力は高く、指標Saが大きいほど被験者の動作は俊敏性に富む。従って、被験者の運動器の状態が良好であるほど、ロコモ成績Laは大きい値となる。
【0099】
[評価例]
図10及び
図11を参照して、被検者が若年者である場合と高齢者である場合のロコモ成績Laについて説明する。
【0100】
図10は、被検者が高齢者である場合に、立ち上がり動作期間における荷重P´、重心座標Y、及び重心軌跡長Dのそれぞれの時間変化を表すグラフの一例である。
図10に示す高齢者は、バランス能力を表す指標Bが2.64(1/m)と算出された。また、0.90×P´maxは1.13(BW)、t(0.90×P´max)は1.88(s)、0.25×P´maxは0.31(BW)、t(0.25×P´max)は1.75(s)であった。よって、動作の俊敏性を表す指標Saが6.31(BW/s)と算出された。従って、ロコモ成績Laが16.7(BW/m・s)となった。
【0101】
図11は、被検者が若年者である場合に、立ち上がり動作期間における荷重P´、重心座標Y、及び重心軌跡長Dのそれぞれの時間変化を表すグラフの一例である。
図11に示す若年者は、バランス能力を表す指標Bが4.81(1/m)と算出された。また、0.90×P´maxは1.36(BW)、t(0.90×P´max)は1.06(s)、0.25×P´maxは0.38(BW)、t(0.25×P´max)は0.99(s)であった。よって、動作の俊敏性を表す指標Saが14.0(BW/s)と算出された。従って、ロコモ成績Laが67.3(BW/m・s)となった。
【0102】
上記のように、若年者のSaは高齢者のSaに比べて遥かに大きく、これにより、ロコモ成績Laについても、若年者と高齢者との間で大きな差が出た。
【0103】
[検証]
図12を参照して、ロコモ成績Laの有用性について説明する。被検者として、健常な高齢者27名と若年者25名の計52名を対象とし、各被検者に立ち上がり動作を実行させ、運動器評価システム200により荷重P´、重心座標X、Y、重心軌跡長Dの時間変化を計測した。なお、高齢者27名の平均年齢は、76.7歳であり、若年者25名の平均年齢は、22.3歳である。
【0104】
運動器評価システム200により、各被検者のロコモ成績Laを算出し、高齢者27名及び若年者25名のロコモ成績Laの平均値を求めた。
図12に示すように、高齢者のロコモ成績Laの平均値は、28.2(BW/m・s)であり、若年者のロコモ成績Laの平均値は、47.0(BW/m・s)であった。
【0105】
図12に示す結果を第一実施形態と同様の仮説検定に基づき検証する。
図12に示すように、有意確率Pは0.001より小さい値となった。即ち、高齢者のロコモ成績Laと若年者のロコモ成績Laの間には有意差があり、高齢者のロコモ成績Laは若年者のロコモ成績Laに比べ、有意に低い値を示し、逆に、若年者のロコモ成績Laは高齢者のロコモ成績Laに比べ、有意に高い値を示す、と言える。以上より、加齢に伴う運動器機能の低下をロコモ成績Laによって検出できたため、運動器評価システム200の有用性が示された。
【0106】
特に、第一実施形態のロコモ成績Lでは、有意確率Pは0.006であったのに対し、第二実施形態のロコモ成績Laでは、有意確率Pが第一実施形態に比べてさらに小さい値となった。即ち、第二実施形態のロコモ成績Laによれば、加齢に伴う運動器機能の低下を高精度に検出することができることが示された。本発明者は、このように第二実施形態によればロコモ成績の精度が向上する点につき、以下のように考察している。
【0107】
即ち、本発明者は、第二実施形態の指標Saによれば、被験者の動作の俊敏性をより精確に表すことができると考察している。即ち、指標Saによれば同一被験者における測定結果のバラつきを抑制することができ、指標Saを用いてロコモ成績を算出することにより、ロコモ成績の精度が向上したものと考察している。実際に、本発明者が、上記の高齢者27名の指標Saと、若年者25名の指標Saとに対し、仮説検定を行ったところ、
図13に示すように、高齢者の指標Saの平均値は、8.94(BW/s)であり、若年者の指標Saの平均値は、12.14(BW/s)であった。そして、有意確率Pが0.001より小さい値となることが分かった。即ち、高齢者の指標Saと若年者の指標Saとの間には有意差があり、高齢者の指標Saは若年者の指標Saに比べ、有意に低い値を示し、逆に、若年者の指標Saは高齢者の指標Saに比べ、有意に高い値を示すことが確認された。
【0108】
[別実施形態]
以下、別実施形態について説明する。
【0109】
〈1〉本実施形態では、検出器120と運動器評価装置130は別体に構成されているが、これに限らない。即ち、検出器120と運動器評価装置130は一体に構成され、検出器120が運動器評価装置130の構成を備えていてもよい。この場合、被検者が立ち上がり動作を完了し検出器120に立位すると、ロコモ成績Lやロコモ年齢等が検出器120の表示部に表示されてもよい。
【0110】
〈2〉本実施形態では、運動器評価装置130の制御部140は、評価部145を備えるが、評価部145を備えなくてもよい。この場合、評価者は、ロコモ成績Lとロコモ年齢の対応テーブルを予め準備しておき、第三の算出部143によりロコモ成績Lが算出されると、対応テーブルを基にロコモ年齢を導き、被検者の実年齢と比較してもよい。評価者は、比較結果を被検者に口頭で伝えてもよい。
【0111】
〈3〉本実施形態では、評価部145は、回帰式を用いてロコモ年齢を算出し、被検者の実年齢と比較することで運動器の状態を評価するが、これに限らない。即ち、年齢に対するロコモ成績の標準値(以下、標準値)を表す、本実施形態の回帰式とは別の回帰式を予め導出しておくとよい。そして、被検者の実年齢に対する標準値と、実際に算出されたロコモ成績Lとを比較し、ロコモ成績Lが標準値以上であれば、運動器の状態は良好と評価し、標準値未満であれば、運動器の状態は良好ではないと評価してもよい。
【0112】
〈4〉本実施形態では、運動器評価装置130が第一の算出部141、第二の算出部142、及び第三の算出部143を備えるが、これに限らない。即ち、検出器120が、第一の算出部141、第二の算出部142及び第三の算出部143のうち少なくとも一つを備えてもよい。より一般的には、運動器評価システム100が第一の算出部141、第二の算出部142及び第三の算出部143を備えればよい。
【0113】
〈5〉本実施形態では、第二の算出部142は、Bを算出するために、立ち上がり動作が完了した時間をt(Y
min)+3と定義するが、これに限らない。即ち、立ち上がり動作が完了した時間は、t(Y
min)から3秒後に限らず、1秒後でも5秒後であってもよい。より一般的には、荷重Pが変動せず収束している時点であればよい。
【0114】
〈6〉本実施形態では、第二の算出部142は、バランス能力を示す指標Bを重心軌跡長Dを利用して算出したが、これに限らない。例えば、第一の算出部141は、重心軌跡長Dに代わり重心座標の軌跡を囲む矩形の面積(
図14参照)を算出し、第二の算出部142は、t(Y
min)からt(Y
min)+3における重心軌跡を囲む矩形の面積の逆数を用いて指標Bを算出してもよい。より一般的には、指標Bは、立ち上がり動作における被検者の重心の動揺、即ち、重心座標の変動に基づき算出されるとよい。なお、第一の算出部141は、立ち上がり動作期間中の重心座標X、Yのそれぞれの最大値及び最小値を基に矩形を設定するとよい。矩形面積は、重心軌跡長Dに比べ容易に算出できる。そのため、第一の算出部141に掛かる処理負荷を軽減できるという効果がある。
【0115】
なお、重心軌跡長Dは、矩形面積に比べ、重心座標が描く軌跡に忠実な値である。本実施形態は、矩形面積ではなく重心軌跡長Dを用いることでより精密な指標Bを算出できる。
【0116】
〈7〉第二実施形態では、第二の算出部142aは、時点t(0.25×P´max)と時点t(0.90×P´max)における荷重P´の変化速度を、被験者の動作の俊敏性を表す指標Saとして算出したが、これに限らない。例えば、第二の算出部142aは、荷重P´の最大値P´maxの80%と30%の大きさを算出し、荷重P´が0.30×P´maxとなる時点t(0.30×P´max)と、荷重P´が0.80×P´maxとなる時点t(0.80×P´max)における荷重P´の変化速度を指標Saとして算出しても構わない。また、第二の算出部142aは、荷重P´が最大値P´maxとなる時点t(P´max)と、荷重P´が最小値P´minとなる時点t(P´min)における荷重P´の変化速度を指標Saとして算出しても構わない。即ち、第二の算出部142aは、荷重P´が最小値P´minとなる時点t(P´min)から、荷重P´が最大値P´maxとなる時点t(P´max)までの間の任意の二つの時点を特定し、当該二つの時点における荷重P´の変化速度を指標Saとして算出しても構わない。また、第二の算出部142aは、荷重P´が最小値P´minとなる時点t(P´min)から、荷重P´が最大値P´maxとなる時点t(P´max)までの間において、三つ以上の時点を任意に特定し、周知の最小二乗法によって得られる荷重P´の変化速度を指標Saとしても構わない。