特許第6281904号(P6281904)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6281904
(24)【登録日】2018年2月2日
(45)【発行日】2018年2月21日
(54)【発明の名称】コンデンサ素子
(51)【国際特許分類】
   H01G 4/015 20060101AFI20180208BHJP
   H01G 4/18 20060101ALI20180208BHJP
【FI】
   H01G4/24 321A
【請求項の数】5
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2014-36637(P2014-36637)
(22)【出願日】2014年2月27日
(65)【公開番号】特開2015-162560(P2015-162560A)
(43)【公開日】2015年9月7日
【審査請求日】2016年8月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004606
【氏名又は名称】ニチコン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086737
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 和秀
(72)【発明者】
【氏名】堀口 岳
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼垣 甲児
(72)【発明者】
【氏名】小澤 利彰
(72)【発明者】
【氏名】林 達也
【審査官】 小池 秀介
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭58−103113(JP,A)
【文献】 特開2000−008156(JP,A)
【文献】 特開平08−273968(JP,A)
【文献】 特開平07−050219(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G4/00−4/015
4/02−4/10
4/14−4/22
4/224
4/255−4/40
13/00−17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘電体フィルムの表面に金属蒸着電極を形成した金属化フィルムを巻回または積層して扁平率0.7以上の扁平体に構成された金属化フィルム多層体と、この金属化フィルム多層体の軸方向両端面に接続した電極引出し部と、前記金属化フィルムの表面における蒸着部が複数の分割電極とヒューズ部からなる保安機構を有し、
前記金属化フィルムの表面は、分離される状態で展開する絶縁スリットによって仕切られた前記分割電極群および隣接する前記絶縁スリット間に形成された前記ヒューズ部群を含む蒸着エリアと、前記絶縁スリット群を含む非蒸着エリアとに分けられており、
さらに、前記蒸着エリアの合計面積に対する前記非蒸着エリアの合計面積の割合が0.09以下に設定され、
前記蒸着エリアは、前記金属化フィルムの長さ方向に連続する電極部としての連続電極領域と、前記金属化フィルムの長さ方向に沿って前記絶縁スリット配列用の間隔を置く状態で前記分割電極群を配列する分割電極領域とからなり、かつ個々の前記分割電極が前記ヒューズ部において前記連続電極領域に繋がっており、
前記非蒸着エリアは、前記金属化フィルムの長さ方向に沿って前記分割電極配列用の間隔を置く状態で複数の絶縁スリットが配列され、
前記金属化フィルムの長さ方向に沿った前記連続電極領域と前記分割電極領域とが前記金属化フィルムの幅方向で交互に複数組配列されているコンデンサ素子。
【請求項2】
前記絶縁スリットは、前記金属化フィルムの長さ方向に対して交差する方向に沿って細長く延在する細幅長尺スリット部と、この細幅長尺スリット部の端部から隣接する細幅長尺スリット部の端部との間で前記ヒューズ部を介在させるべく前記金属化フィルムの幅方向に対して交差する方向に延出される細幅短尺スリット部とから構成されている請求項1に記載のコンデンサ素子。
【請求項3】
前記絶縁スリットは、そのパターン幅が0.3〜0.5mmであり、金属化フィルムの長さ方向の単位長60mm当たりの配列本数が10本以下に設定されている請求項1または請求項2に記載のコンデンサ素子。
【請求項4】
前記誘電体フィルムは厚さが6μm以上のポリプロピレンフィルムである請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載のコンデンサ素子。
【請求項5】
前記誘電体フィルムは厚さが4μm以上のポリエチレンテレフタレートフィルムである請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載のコンデンサ素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は金属化フィルムの扁平な多層体に構成され、金属化フィルム上の金属蒸着電極が保安機構(ヒューズ動作による絶縁破壊回避)を有しているコンデンサ素子に関する。すなわち、誘電体フィルムの表面に金属蒸着電極を形成した金属化フィルムを巻回または積層して構成された金属化フィルム多層体と、この金属化フィルム多層体の軸方向両端面に接続した電極引出し部(メタリコン)とを有し、金属化フィルムの表面における蒸着部が複数の分割電極とヒューズ部からなる保安機構を有しているコンデンサ素子に関する。本発明は金属化フィルム多層体として扁平率0.7以上の扁平体に構成されたものを対象とする。
【背景技術】
【0002】
産業機械用、車両用等の金属化フィルムコンデンサの素材であるコンデンサ素子は概略次のような工程を経て作製される。すなわち、誘電体フィルムと金属蒸着電極からなる金属化フィルムを巻回して円筒状の金属化フィルム多層体(巻回体)を構成する。次に、この金属化フィルム多層体を直径方向にプレスして小判形の扁平柱状体とする。次に、この扁平柱状体の軸方向両端に金属微粒子の溶射による電極引出し部(メタリコン)を形成してコンデンサ素子を得る。
【0003】
金属化フィルムの優れた機能に自己回復機能(セルフヒーリング)がある。それは、誘電体フィルムの弱点部に絶縁破壊が生じたとき、放電エネルギーにより絶縁破壊部周辺の蒸着電極が飛散することにより自動的に絶縁を回復(クリアリング)させる機能である。しかし、高温・高電圧では絶縁破壊数が増えて自己回復機能を超えてしまう絶縁破壊となり、フィルム重ね合わせ方向で対向する側の金属化フィルム上の蒸着金属と導通してしまう(ショート状態に陥る)。そこで、分割電極とヒューズ部からなる保安機構を構成した金属化フィルムコンデンサが提唱されるようになった。
【0004】
金属化フィルムコンデンサにおける保安機構は対向電極の欠陥部が過電圧印加などによって絶縁破壊を起こしたときに安全性を確保するためのメカニズムである。保安機構は次のように構成される。誘電体フィルム上の金属蒸着電極を複数に分割し、分割電極の集合体とする。隣接する分割電極どうしの境界部には絶縁スリット(電界を形成しない余白部:非蒸着部)が形成される。隣接する分割電極どうしは、絶縁スリットによる境界部で隣接する分割電極と分割電極や連続電極部(他電極部)との間の繋ぎ部であるヒューズ部(蒸着金属)で電気的に接続されている。対向する金属化フィルムの蒸着電極どうし間でショート状態となり得る異常が発生すると、当該分割電極にヒューズ部を介して大きな電流が流れ込み、そのときの発熱でヒューズ部の蒸着電極を飛散させ、ヒューズ部を溶断する。その結果として、その分割電極を他の分割電極群から絶縁分離し、トラブルがそれ以上進行しないようにする。このような保安機構によってコンデンサ素子のショートを防止し、発煙、発火、破壊を未然に防止する。また、絶縁破壊箇所を含む分割電極を電気的に切り離すので、静電容量の減少が抑制される。
【0005】
以上のように高い安全性が確保される保安機構付きの金属化フィルムコンデンサにあっては、分割電極面積を小さくするほどヒューズ部動作による容量減少を抑制できる。しかし、細分化し過ぎると、分割電極のエネルギー低下のためにヒューズ部動作がしにくくなる。この現象は温度が高くなるほど顕著になる。また、分割電極面積が小さいほどヒューズ部の数が増加するが、ヒューズ部は高抵抗であることから発熱量が増加し、耐電圧性能や保安性能が低下する。そこで、金属蒸着部を〔分割電極領域〕と〔連続電極領域〕とに分ける方式が考案された(例えば特許文献1(特開2005−12082号公報)参照)。
【0006】
ところで、金属蒸着電極に保安機構を有するコンデンサ素子にあっては、蒸着エリア(分割電極群・ヒューズ部群、連続電極領域)と非蒸着エリア(絶縁スリット群、絶縁マージン)とに区画する状態で金属化フィルム上に金属蒸着によって電極を形成するに当たり、予め非蒸着エリアにマスキングオイルを塗布しておいた上で蒸着するようにしている(特許文献2(特開2000−208360号公報)、特許文献3(特開2010−182848号公報)参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−12082号公報
【特許文献2】特開2000−208360号公報
【特許文献3】特開2010−182848号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
保安機構用の分割電極・ヒューズ部の形成に必要な絶縁スリット(非蒸着エリア)の形成の元になるマスキングオイルは金属蒸着後に金属化フィルム上から除去するようにしている。しかし、微量のオイル残渣が生じることは避けがたい。ところで、金属化フィルムコンデンサの体積効率をアップするため金属化フィルム多層体の扁平化が行われるが、扁平率を高いものにするにはフィルムの重なり部分どうしがスムーズな相対的滑りを起こすことが必要である。つまり、金属化フィルム多層体の高い扁平加工性が重要である。しかし、オイル残渣があると、重なり合うフィルムどうし間に分子間力が発生してフィルム間の摩擦係数が増大し、フィルムの重なり部分どうしの滑りがスムーズに行われにくくなり、コンデンサ素子の扁平加工性を阻害する。特に、近時、ユーザーからの強い要望があり、また本発明でも対象とする扁平率0.7以上のコンデンサ素子の作製においては良好な扁平加工性を確保するのがむずかしいものとなっている。
【0009】
誘電体フィルムの厚さはコンデンサ素子の耐電圧性能に関係し、要求される耐電圧性能が高くなるほど誘電体フィルムの厚さを厚くする必要がある。また、コンデンサ素子の定格電圧が高くなるほど非蒸着部を形成するための絶縁スリットのパターン幅を太くする必要がある。耐電圧を高くするには絶縁スリットのパターン幅はそれ相応に太いものが必要となる。それは次の理由による。隣接する分割電極どうしは絶縁スリットによって仕切られるが、絶縁スリットのパターン幅は隣接する分割電極間で放電が発生しない太さに設定されていなければならない。コンデンサ素子の定格電圧が高くなれば、それに応じて絶縁スリットのパターン幅は太いものとなる。絶縁スリットのパターンを形成するのは前述のとおりマスキングオイルである。パターン幅が太いほどオイル残渣の量も多くなる。
【0010】
定格電圧の高圧化に応じた耐電圧の増大のためには、保安機構における絶縁スリットのパターン幅の増大化が必要で、それに伴ってオイル残渣が増加し、摩擦係数が増大し、フィルムの重なり部分どうしの滑りが悪化してコンデンサ素子の扁平加工性を阻害する。その結果、コンデンサ素子の内部に小さな空洞であるス(鬆)が発生したり、金属化フィルム多層体における各層にしわ・歪が生じたり、あるいは扁平化された先巻フィルムによる薄肉扁平巻芯部に屈折・屈曲が発生したりする。
【0011】
この点を図14を用いて説明する。図14はコンデンサ素子における金属化フィルム多層体9の正面図である。プレスによるコンデンサ素子の扁平化の際あるいは扁平化後に、外装フィルム5の内側にあってコンデンサ素子の大部分をなす中間部のフィルム巻回体6の部分において、小さな空洞であるス(鬆)21が発生し、フィルム巻回体6の巻回各層にしわ・歪22が生じたり、あるいは扁平化された先巻フィルムによる薄肉扁平巻芯部2aに屈折・屈曲23が発生し、扁平成形性が阻害される。そして、このように扁平成形性が阻害されると、コンデンサの耐電圧特性が低下(電圧印加時に静電容量が変化)してしまう。また、交流電圧印加時(特に高周波時)にリプル電流(脈流)の発生によりコンデンサ自体に振動を生じ、"鳴き"と称する作動音(うなり)が増大するという問題がある。これらの問題は、体積効率向上のためにコンデンサ素子の扁平率が大きくなるにつれて次第に厳しいものとなる。扁平率が高くなるほどフィルム重なり部分の相対滑りに抵抗が増大し、扁平成形性に支障が出やすいからである。そして、耐電圧増強に伴う絶縁スリットのパターン幅の増大化に起因してオイル残渣が増加するにつれて扁平成形性に支障が出やすくなる。
【0012】
しかし、そうであるからといってオイル残渣を減らすべく絶縁スリットのパターン幅を細くすれば、保安機構の発動によって他の分割電極群から絶縁分離されたはずのトラブル対象の分割電極と隣接する分割電極との間で放電現象が発生してしまい、結局、本来の保安機構に支障を来すことになってしまう。
【0013】
上記したように高い耐電圧性能を確保するためには誘電体フィルムの厚さを相応に厚くし、絶縁スリットのパターン幅を相応に太くしておかなければならない一方で、絶縁スリットのパターン幅を相応に太くすればオイル残渣が増加して扁平加工性が劣化し、ス(鬆)、しわ・歪、屈折・屈曲の発生、耐電圧特性低下(静電容量変化)、作動音増大を招くといった二律背反に陥る。
【0014】
そしてこれまでの経験に照らし合わせると、定格電圧上比較的に薄い誘電体フィルムを用いたコンデンサ素子にあっては、上記のような矛盾は目立つものではなく、また、扁平率が0.7より小さい金属化フィルム多層体を用いたコンデンサ素子にあっても、上記のような矛盾は目立つものではなかった。しかるに、近時の厳しいスペック(仕様)要求に応えるべく、厚みを比較的に厚くした誘電体フィルムであって扁平率が0.7以上ある高扁平な金属化フィルム多層体を用いるコンデンサ素子にあっては、上記の矛盾が無視できないほどに顕現化することが分かった。
【0015】
本発明はこのような事情に鑑みて創作したものであり、相当に高い扁平性の要請に応えることが条件となっているなかで、保安機構のための絶縁スリットに関連するオイル残渣にかかわらず、扁平加工性が良好で耐電圧特性に優れ、作動音が抑制されたコンデンサ素子を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、次の手段を講じることにより上記の課題を解決する。
【0017】
すなわち、本発明によるコンデンサ素子は、誘電体フィルムの表面に金属蒸着電極を形成した金属化フィルムを巻回または積層して扁平率0.7以上の扁平体に構成された金属化フィルム多層体と、この金属化フィルム多層体の軸方向両端面に接続した電極引出し部と、前記金属化フィルムの表面における蒸着部が複数の分割電極とヒューズ部からなる保安機構を有し、前記金属化フィルムの表面は、分離される状態で展開する絶縁スリットによって仕切られた前記分割電極群および隣接する前記絶縁スリット間に形成された前記ヒューズ部群を含む蒸着エリアと、前記絶縁スリット群を含む非蒸着エリアとに分けられており、さらに、前記蒸着エリアの合計面積に対する前記非蒸着エリアの合計面積の割合が0.09以下に設定され、
前記蒸着エリアは、前記金属化フィルムの長さ方向に連続する電極部としての連続電極領域と、前記金属化フィルムの長さ方向に沿って前記絶縁スリット配列用の間隔を置く状態で前記分割電極群を配列する分割電極領域とからなり、かつ個々の前記分割電極が前記ヒューズ部において前記連続電極領域に繋がっており、
前記非蒸着エリアは、前記金属化フィルムの長さ方向に沿って前記分割電極配列用の間隔を置く状態で複数の絶縁スリットが配列され、
前記金属化フィルムの長さ方向に沿った前記連続電極領域と前記分割電極領域とが前記金属化フィルムの幅方向で交互に複数組配列されていることを特徴としている。
【0018】
ここで、蒸着エリアの合計面積に対する非蒸着エリアの合計面積の割合とは、〔非蒸着エリアの合計面積〕/〔蒸着エリアの合計面積〕で定義されるもので、その略称としては「非蒸着面積割合」を用いることとする。
【0019】
金属化フィルムの表面は蒸着エリアと非蒸着エリアとに分かれている。蒸着エリアについては、少なくとも分割電極群とヒューズ部群を含み、コンデンサ素子の形式によっては、フィルムの長さ方向に沿って延在する単数または複数の連続電極領域も含むことがある。ここで扁平体である金属化フィルム多層体の扁平率を0.7以上とするのは、所要の高い体積効率を確保したいとの要請に
応ずるべく扁平性を充分に高くすることを意味している。
【0020】
以上のような要件を前提として有するコンデンサ素子について、本発明では蒸着エリアの合計面積に対する非蒸着エリアの合計面積の割合である非蒸着面積割合を0.09以下に設定したことを特徴としている。0.09以下の非蒸着面積割合ゆえに、相当に高い扁平性の要請に応えることが条件となっているなかで、保安機構のための絶縁スリットに関連するオイル残渣の発生が避けがたいにもかかわらず、そのオイル残渣の量をコンデンサ素子の扁平加工性・耐電圧特性に支障を来さない程度まで充分に減らすことができる。
また、連続電極領域はフィルム長さ方向に沿って連続する状態で展開される金属蒸着電極の領域であり、金属化フィルム多層体の軸方向端面の電極引出し部(メタリコン)に対して電気的に接続されるべくフィルム側縁に沿った第1の連続電極領域と、金属化フィルムの側縁に対しては臨むことなくフィルム幅方向での中間位置(非側縁位置)でフィルム長さ方向に展開する単数または複数の第2の連続電極領域との組み合わせとなっている。分割電極領域はフィルム幅方向で連続電極領域に隣接し、かつ並行する状態で展開されている。第1の連続電極領域と第2の連続電極領域を区別しないときはいずれも単に連続電極領域と呼ぶことにして、この連続電極領域と分割電極領域とを並行に隣接させる状態で交互に配列したものとなっている。
連続電極領域と分割電極領域とをフィルム幅方向で交互に配列する理由は次のとおりである。重ね合わされた上下一対の金属化フィルムにおいて、例えば上側の金属化フィルムでの配列が幅方向の一側から他側にかけて〔連続電極領域〕、〔分割電極領域〕、〔連続電極領域〕、〔分割電極領域〕の順になっているとすると、下側の金属化フィルムでの配列は上記とは逆の〔分割電極領域〕、〔連続電極領域〕、〔分割電極領域〕、〔連続電極領域〕の順となる。上下方向での対向関係を示すと、上側〔連続電極領域〕:下側〔分割電極領域〕の対向、上側〔分割電極領域〕:下側〔連続電極領域〕の対向、上側〔連続電極領域〕:下側〔分割電極領域〕の対向、上側〔分割電極領域〕:下側〔連続電極領域〕のような対向関係が生じている。なお、上側〔分割電極領域〕:下側〔分割電極領域〕の対向関係も生じ得るが、それはここでの議論の対象とはしない。いずれにしても、〔連続電極領域〕と〔分割電極領域〕との対向関係が生じているが、いま、〔連続電極領域〕において金属化フィルムの自己回復能力を超えた絶縁破壊が生じたとする。つまり、上下方向で〔連続電極領域〕と〔分割電極領域〕との間の電気的導通が生じたとして、〔分割電極領域〕に存在するある分割電極に対して同一フィルム面内の〔連続電極領域〕からヒューズ部を介して電流が流れ込む。そしてそのヒューズ部が動作して蒸着電極が飛散する結果、当該分割電極を他の分割電極から切り離すことになる。これにより、前記の絶縁破壊・電気的導通の発生にかかわらず、最初に絶縁破壊を起こした〔連続電極領域〕における対向蒸着電極間の絶縁を自動的に回復し(ショートを回避し)、コンデンサとしての機能を維持する。これが連続電極領域と分割電極領域とをフィルム幅方向で交互に配列する理由である。
従来、このような連続電極領域・分割電極領域の並列配列方式のコンデンサ素子において、非蒸着面積割合(=非蒸着エリア合計面積/蒸着エリア合計面積)が扁平加工性・耐電圧特性に与える影響について考察がなされておらず、それが要因となって絶縁スリットに関連するオイル残渣の量がコンデンサ素子の扁平加工性・耐電圧特性上の限度を超えることとなっていた。しかるに、本発明の上記の態様によれば、連続電極領域・分割電極領域の並列配列方式のコンデンサ素子において、その発生が避けがたいオイル残渣の量につき扁平加工性・耐電圧特性に支障を来さない程度まで少なくして、扁平加工性だけでなく耐電圧特性も優れたものにすることが可能となった(詳しくは、後述する実施例で説明する。)。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、相当に高い扁平性の要請に応えることが条件となっているなかで、保安機構のための絶縁スリットに関連するオイル残渣にかかわらず、扁平加工性が良好で耐電圧特性に優れ、作動音が抑制されたコンデンサ素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の実施例のコンデンサ素子における金属化フィルムの一部を切り取って示す平面図(a)、図1(a)におけるII−II線での断面図(b)、III−III線での断面図(c)
図2】本発明の実施例のコンデンサ素子における重ね合わされた2シートの金属化フィルムを示す平面図(a)、図2(a)におけるII−II線での断面図(b)
図3】本発明の実施例のコンデンサ素子における分割電極と絶縁スリットの詳細を示す拡大平面図
図4】本発明の実施例のコンデンサ素子の保安機構を説明する斜視図
図5】本発明の実施例のコンデンサ素子における2シート重ねの金属化フィルムの巻回の様子を示す斜視図
図6】本発明の実施例のコンデンサ素子における金属化フィルム多層体の正面図(a)、薄肉扁平巻芯部の正面図(b)
図7】本発明の実施例のコンデンサ素子の斜視図
図8】本発明の実施例のコンデンサ素子の製造過程を示す正面図
図9】本発明の実施例のコンデンサ素子の製造過程を示す正面図
図10】本発明の実施例のコンデンサ素子の静電容量変化率による耐電圧試験結果の図
図11】本発明の実施例のコンデンサ素子と比較例のコンデンサ素子における金属化フィルムの一部を切り取って示す平面図
図12】本発明の別の実施例のコンデンサ素子における金属化フィルムの一部を切り取って示す平面図
図13】本発明のさらに別の実施例のコンデンサ素子における金属化フィルムの一部を切り取って示す平面図
図14】コンデンサ素子における金属化フィルム多層体の正面図
【発明を実施するための形態】
【0023】
上記構成の本発明のコンデンサ素子には、次のようないくつかの好ましい態様がある。
【0030】
前記の絶縁スリットについては、金属化フィルムの長さ方向に対して交差する方向に沿って細長く延在する細幅長尺スリット部と、この細幅長尺スリット部の端部から隣接する細幅長尺スリット部の端部との間でヒューズ部を介在させるべく金属化フィルムの幅方向に対して交差する方向に延出される細幅短尺スリット部とから構成されている態様のものが好ましい。この態様における絶縁スリットは直線状スリット部と細幅短尺スリット部とを構成要素としている。
【0031】
「金属化フィルムの長さ方向に対して交差する方向」について、典型的にはフィルム幅方向(フィルム長さ方向に対する直角方向)であるが、広くはフィルム幅方向に対してある角度をもって斜交する方向であってもよきものとする。同様に、「金属化フィルムの幅方向に対して交差する方向」について、典型的にはフィルム長さ方向(フィルム幅方向に対する直角方向)であるが、広くはフィルム長さ方向に対してある角度をもって斜交する方向であってもよきものとする。
【0032】
直線状スリット部の方向と細幅短尺スリット部の方向とは交差するが、その交差の角度については直角であってもよいし、直角以外の任意の角度であってもよい。この交差の角度が直角の場合は、絶縁スリットの形状は典型的には「I字形」または「T字形」で、分割電極の形状は典型的には矩形(直角四辺形:正方形および長方形)となり、また、交差の角度が直角以外の場合は、絶縁スリットの形状は典型的には「ミュラー・リヤー形(所定長さの線分の両端に内向きの矢羽根を有する形状)」で、分割電極の形状は典型的には六角形となる。
【0033】
また、前記の絶縁スリットについては、そのパターン幅を0.3〜0.5mmとし、金属化フィルムの長さ方向の単位長60mm当たりの配列本数を10本以下に設定する態様が好ましい。
【0034】
実験によれば、保安機構付きで連続電極領域と分割電極領域とが並行配列されるコンデンサ素子について、絶縁スリットのパターン幅を0.3〜0.5mmとし、フィルム長さ方向で単位長60mm当たり配列本数を10本以下にすれば、オイル残渣が充分に削減され、扁平加工性・耐電圧特性に支障を来さない状態で扁平率0.7以上の高扁平な扁平体に形成できることが分かった。
【0035】
前記の誘電体フィルムについては、厚さが6μm以上のポリプロピレンフィルムとするのが好ましい1態様である。また、厚さが4μm以上のポリエチレンテレフタレートフィルムとするのも好ましい1態様である。いずれにしても、フィルム厚さを上記のように設定するのは、コンデンサ素子が使用する定格電圧に関してそれ相応の耐電圧性能を確保するためである。
【0036】
以上のように使用定格電圧相応の耐電圧性能を確保しようとすると、従来、絶縁スリットのパターン幅が太くなってマスキングオイルの残渣量が増加する傾向となっていたが、本発明では連続電極領域と分割電極領域との並行配列構成とし、かつ非蒸着面積割合を0.09以下とすることにより、オイル残渣を効果的に削減して、扁平加工性・耐電圧特性を良好化することが可能となる。
【実施例】
【0037】
以下、本発明にかかわるコンデンサ素子の実施例を図面を参照して説明する。まず、コンデンサ素子の概要を図6図9を用いて説明する。図6(a)は金属化フィルム多層体9の正面図、図6(b)は薄肉扁平巻芯部2aの正面図、図7はコンデンサ素子Cの斜視図、図8(a),(b),(c)および図9(a),(b),(c)はコンデンサ素子Cの製造過程を示す正面図である。これらの図において、1は先巻用フィルム、2は巻芯、2aは薄肉扁平巻芯部、3は金属化フィルム、4は金属化フィルム巻回体、5は外装フィルム、6は複合フィルム巻回体、7は熱溶着箇所、8はシールヒータ、9は金属化フィルム多層体、9aは金属化フィルム多層体9における長径方向に沿った平坦面部、9bは金属化フィルム多層体9の幅方向両側の円弧状曲面部、10は電極引出し部(メタリコン)、Cはコンデンサ素子である。
【0038】
図6および図7に示す薄肉扁平巻芯部2aは元は図8(a)に示す円筒状の巻芯2であったものが図9(a),(b),(c)の過程で扁平化されたものであり、図6(b)に示すようにプラスチックフィルムの重ね巻きの薄肉な扁平体とされたものである。図8(b)に示す金属化フィルム3は誘電体フィルムの片面に金属蒸着電極を形成したもので、これが巻芯2の外周部で多重に巻回されて金属化フィルム巻回体4が構成されている。誘電体フィルムの片面に金属蒸着電極を形成した金属化フィルム3は2シート重ねの状態で巻回されている(3U,3L。詳しくは後述する)。図6図7に示す金属化フィルム巻回体4は細長小判状の扁平体に成形されているが、元は図8(b),(c)に示すように、円筒状の巻芯2の外周部に2シート重ねの金属化フィルム3(3U,3L)を多重に巻回したもので、図9(a),(b),(c)の過程で扁平化されたものである。外装フィルム5は金属化フィルム巻回体4の外周部に多重に巻回されたもので、図6図7の状態では細長小判状の扁平体をなしている。巻芯2(薄肉扁平巻芯部2a)とその外周の金属化フィルム巻回体4とさらにその外周の外装フィルム5とで複合フィルム巻回体6が構成されている。複合フィルム巻回体6においては、図8(c)の過程でシールヒータ8によって外装フィルム5の巻き終わりの複数箇所が熱溶着されている。この熱溶着は外装フィルム5をそれ自身の重なり部分どうしで巻回固定するもので、複数の熱溶着箇所7は細長小判状の複合フィルム巻回体6すなわち金属化フィルム多層体9の周方向で等間隔を隔てて均等に配置されている。細長小判状の金属化フィルム多層体9は、上下方向で対向する長径方向に沿った平坦面部9a,9aと幅方向両側の2つの円弧状曲面部9b,9bからなるが、複数の熱溶着箇所7は上下の平坦面部9a,9aの中央位置に配置されるのが好ましい。
【0039】
細長小判状の金属化フィルム多層体9は図9(a),(b),(c)の過程で複合フィルム巻回体6に対するプレスによって扁平加工されたものである。この金属化フィルム多層体9は、その扁平率が0.7以上となる条件下で扁平加工される。
【0040】
以上のようにして得られた細長小判状の金属化フィルム多層体9は、図7に示すように、その軸方向両端に電極引出し部(メタリコン)10,10が形成され、高扁平のコンデンサ素子Cが得られる。
【0041】
次に、図8および図9を用いて製造の過程を説明する。図8(a)〜(c)と図9(a)〜(c)は製造過程の一連の流れを示す。
【0042】
図8(a)に示すように、先巻用フィルム1を多重に巻回することにより薄肉円筒状の巻芯2を作製する。次に、図8(b)に示すように、巻芯2の外周に対して2シート重ねの金属化フィルム3を多重に巻回することにより、厚肉円筒状の金属化フィルム巻回体4を作製する。金属化フィルム3はポリプロピレン(PP)やポリエチレンテレフタレート(PET)などの誘電体フィルムの片面に金属蒸着電極を形成したものであり、これの2シートを重ね合わせた状態で巻回される(詳しくは後述する)。金属化フィルム巻回体4はコンデンサ素子Cの主部を形成する。
【0043】
次に、図8(c)に示すように、金属化フィルム巻回体4に対して外装フィルム5を多重に巻回することにより厚肉円筒状の複合フィルム巻回体6を作製する。外装フィルム5はコンデンサ素子Cの保護機能を有する。複合フィルム巻回体6は巻芯2と金属化フィルム巻回体4と外装フィルム5との複合体である。
【0044】
次に、図9(a),(b),(c)に示すように、プレス加工により複合フィルム巻回体6に対して直径方向両側から中心軸の方向に向かう押圧力を加え、複合フィルム巻回体6を扁平成形する。図9(a)→図9(b)→図9(c)のようにプレスによる加圧成形が進むにつれて複合フィルム巻回体6の扁平率が次第に大きくなり、細長い小判状の金属化フィルム多層体9が得られる(図9(c)参照)。この金属化フィルム多層体9は加圧成形巻回体であるとも言える。プレスによる加圧成形は、仕上げられた金属化フィルム多層体9において、その扁平率が0.7以上となるように行われる。
【0045】
次に、金属化フィルム3における金属蒸着のパターンについて図1図5を用いて詳しく説明する。
【0046】
図1(a)は金属化フィルム3の一部を切り取って示す平面図、図1(b)は図1(a)におけるII−II線での断面図、図1(c)は図1(a)におけるIII−III線での断面図である。図2(a)は重ね合わされた2シートの金属化フィルム3(3U,3L)を示す平面図、図2(b)は図2(a)におけるII−II線での断面図、図3は分割電極15と絶縁スリット14の詳細を示す拡大平面図、図4は保安機構を説明する斜視図、図5は2シート重ねの金属化フィルム3U,3Lの巻回の様子を示す斜視図である。
【0047】
これらの図において、Xは金属化フィルム3の長さ方向、Yは幅方向である。図1(b)に示すように、金属化フィルム3は誘電体フィルム11の表面に金属蒸着電極12を形成したものである。その金属化フィルム3の表面は図1(a)に示すように、金属蒸着電極12が形成された蒸着エリアAと金属蒸着電極12が形成されていない非蒸着エリアBとに分かれている。蒸着エリアAは図1(a)においてハッチングを施した領域であり、非蒸着エリアBはハッチングを施していない白抜きのI字形およびT字形の絶縁スリット14群ならびに絶縁マージン18の領域である。蒸着エリアAは金属化フィルム3の全面において絶縁スリット14群および絶縁マージン18を除くエリアになる。
【0048】
別の観点から見ると、金属化フィルム3における蒸着エリアAは連続電極領域A1と分割電極領域A2とに分かれている。連続電極領域A1はフィルム長さ方向Xに沿って連続する状態で展開される金属蒸着電極の領域であり、分割電極領域A2はフィルム幅方向Yで連続電極領域A1に隣接し、かつ並行する状態でフィルム長さ方向Xで一定間隔置きに分断された状態に展開された領域である。このようなフィルム長さ方向Xに沿った連続電極領域A1と分割電極領域A2とがフィルム幅方向Yで交互に複数組(図示例では3組、合計6本)配列されている。連続電極領域A1には1列目を形成する第1の連続電極領域A1aと2列目および3列目を形成する第2の連続電極領域A1b,A1cとがある。1列目を形成する第1の連続電極領域A1aはフィルム幅方向Yの一端寄り(図1で+Y側)に位置し、金属化フィルム多層体9の電極引出し部(メタリコン)10に対して電気的に接続されるべきフィルム側縁に沿う連続領域である。2列目および3列目を形成する第2の連続電極領域A1b,A1cは金属化フィルム3の側縁に対しては臨むことなくフィルム幅方向Yでの中間位置(非側縁位置)でフィルム長さ方向Xに展開する連続領域である。1列目を形成する第1の連続電極領域A1aではフィルム端縁に沿って蒸着金属の厚さが他の領域よりも厚いヘビーエッジ部13が形成されている。
【0049】
分割電極領域A2(A2a,A2b,A2c)はフィルム長さ方向Xで一定間隔を置いて分散配置されたフィルム幅方向Yに細長い多数の絶縁スリット14によってフィルム長さ方向Xで分断配置された多数の分割電極15の集合として構成されている。分割電極15と絶縁スリット14の詳細を示す図3のように、個々の分割電極15の形状は長方形となっている(ハッチング参照)。絶縁スリット14は形状的な構造をもち、フィルム幅方向Yに沿って細長く延在する細幅長尺スリット部14aと、この細幅長尺スリット部14aの端部から隣接する細幅長尺スリット部14aの端部との間でヒューズ部16(灰色の塗りつぶし参照)を介在させるべくフィルム長さ方向Xに延出される細幅短尺スリット部14bとから構成されている。分割電極15群とヒューズ部16群との構成をもって保安機構17が形成されている。
【0050】
1列目と2列目の分割電極領域A2a,A2bにおいては、絶縁スリット14は細幅長尺スリット部14aとその両端でフィルム長さ方向Xの両側に延びる細幅短尺スリット部14b,14bから構成され、全体として「I字形」となっている(図3の上段参照)。3列目の分割電極領域A2cにおいては、絶縁スリット14は細幅長尺スリット部14aとその一端のみでフィルム長さ方向Xの両側に延びる細幅短尺スリット部14bから構成され、全体として「T字形」となっている(図3の下段参照)。金属化フィルム3のフィルム幅方向Yにおける一側(図の上側)の側縁は金属化フィルム多層体9の軸方向(フィルム幅方向Y)の一端面に金属溶射によって接続することとなる電極引出し部(メタリコン)10に対して電気的に接続される。これに対して、金属化フィルム3のフィルム幅方向Yにおける他側(図の下側)の側縁は同様の電極引出し部10に対しては電気的に接続されない。もし、金属化フィルム3の両側縁とも電極引出し部に接続されるとなると、重ね合わせ方向で対向する2枚一対の金属化フィルム3U,3L間がショートしてしまうことになって、これは避けなければならない。これを保障するのが絶縁マージン18であり、電極引出し部10に対して電気的に接続されない側つまり図示例では金属化フィルム3の下側の側縁に沿ってフィルム長さ方向Xに連続して展開される非蒸着エリアBとなっている。そして、3列目の「T字形」の絶縁スリット14(非蒸着エリア)はその細幅長尺スリット部14aの他端側(細幅短尺スリット部14bのない側)が絶縁マージン18(非蒸着エリア)に繋がっている。
【0051】
上記のように構成された金属化フィルム3(3U,3L)を2シート用意する。図2に示すように、金属化フィルム3Uに対して金属化フィルム3Lを180°反転した状態で上下2層に重ね合わせる。上層の金属化フィルム3Uにおいては、フィルム幅方向Yのプラス側(+Y)からマイナス側(−Y)にかけて、1列目の連続電極領域A1a、1列目の分割電極領域A2a、2列目の連続電極領域A1b、2列目の分割電極領域A2b、3列目の連続電極領域A1c、3列目の分割電極領域A2c、絶縁マージン18の順で並行している。下層の金属化フィルム3Lにおいては、上層の金属化フィルム3Uとはフィルム幅方向Yでの順序が逆で、フィルム幅方向Yのマイナス側(−Y)からプラス側(+Y)にかけて、1列目の連続電極領域A1a、1列目の分割電極領域A2a、2列目の連続電極領域A1b、2列目の分割電極領域A2b、3列目の連続電極領域A1c、3列目の分割電極領域A2c、絶縁マージン18の順で並行している。
【0052】
上層の金属化フィルム3Uの側縁に沿う1列目の連続電極領域A1aに対し、その直下に下層の金属化フィルム3Lの3列目の分割電極領域A2cと絶縁マージン18とが重ね合わせ方向で対向する。上層の金属化フィルム3Uにおける2列目および3列目の連続電極領域A1b,A1cはそれぞれ下層の金属化フィルム3Lにおける2列目および1列目の分割電極領域A2b,A2aに対向している。また、上層の金属化フィルム3Uにおける1列目、2列目および3列目の分割電極領域A2a,A2b,A2cはそれぞれ下層の金属化フィルム3Lにおける3列目、2列目および1列目の連続電極領域A1c,A1b,A1aに対向している。上層の金属化フィルム3Uの絶縁マージン18に対し、その直下に下層の金属化フィルム3Lの側縁の1列目の連続電極領域A1aが重ね合わせ方向で対向している。
【0053】
上記の重ね合わせ方向の対向関係は上層の金属化フィルム3Uを起点として説明したものであるが、下層の金属化フィルム3Lを起点として重ね合わせ方向の対向関係を説明しても全く同様の説明となる。端的に言うと、一方の金属化フィルムにおける分割電極領域は他方の金属化フィルムにおける連続電極領域に対し重ね合わせ方向で対向しているということである。
【0054】
図3に示すように、金属化フィルム3の表面における蒸着部は複数の分割電極15とヒューズ部16からなる保安機構17を有している。金属化フィルム3の表面は、分離される状態で展開する絶縁スリット14(細幅長尺スリット部14aと細幅短尺スリット部14b)によって仕切られた分割電極15群およびヒューズ部16群、さらに連続電極領域A1(A1a,A1b,A1c)を含む蒸着エリアAと、絶縁スリット14群および絶縁マージン18を含む非蒸着エリアBとに分けられている。そして、蒸着エリアAの合計面積SA に対する非蒸着エリアBの合計面積SB の割合すなわち非蒸着面積割合γが0.09またはそれ以下に設定されている。つまり、
非蒸着面積割合γ=非蒸着エリアの合計面積SB /蒸着エリアの合計面積SA ≦0.09
としている。なお、金属化フィルム3の全面積(蒸着エリアAと非蒸着エリアBの合計面積(SA +SB ))に対する非蒸着エリアの合計面積SB の比で捉えると、9/(100+9)=0.0825であるから、
非蒸着面積比=非蒸着エリアの合計面積/全エリア面積≦0.0825
という不等式と等価になる。
【0055】
以上のように非蒸着面積割合γを0.09以下に設定した点に本発明のポイントが現れている。
【0056】
上記のように構成された2シートの上層の金属化フィルム3Uと下層の金属化フィルム3Lとを上記のように重ね合わせた状態で図5図8(b)のように巻回する。あとは、図8図9で説明したようにして、図6図7に示すようなコンデンサ素子Cを得る。
【0057】
このコンデンサ素子Cは、誘電体フィルム11の表面に金属蒸着電極12を形成した金属化フィルム3(3U,3L)を巻回(または積層)して扁平率0.7以上の扁平体に構成された金属化フィルム多層体9と、この金属化フィルム多層体9の軸方向両端面に接続した電極引出し部(メタリコン)10,10とを有し、金属化フィルム3(3U,3L)の表面における蒸着部が分割電極15とヒューズ部16からなる保安機構17を有し、金属化フィルム3(3U,3L)の表面は、分離される状態で展開する絶縁スリット14によって仕切られた分割電極15群およびヒューズ部16群を含む蒸着エリアA(連続電極領域A1(A1a,A1b,A1c)と分割電極領域A2(A2a,A2b,A2c))と、絶縁スリット14群を含む非蒸着エリアB(絶縁スリット14群と絶縁マージン18)とに分けられており、さらに、蒸着エリアAの合計面積SA に対する非蒸着エリアBの合計面積SB の割合である非蒸着面積割合γが0.09以下に設定されている。
【0058】
また、蒸着エリアAは、金属化フィルム3の長さ方向Xに連続する電極部としての連続電極領域A1(A1a,A1b,A1c)と、分割電極15群を金属化フィルム3の長さ方向Xに沿って配列する分割電極領域A2(A2a,A2b,A2c)からなり、かつ個々の分割電極15がヒューズ部16において連続電極領域A1(A1a,A1b,A1c)に繋がっており、非蒸着エリアBは、金属化フィルム3の長さ方向Xに沿って分割電極15の配列用の間隔を置く状態で複数の絶縁スリット14が配列されている。
【0059】
また、金属化フィルム3の長さ方向Xに沿った連続電極領域A1(A1a,A1b,A1c)と分割電極領域A2(A2a,A2b,A2c)とが金属化フィルム3の幅方向Yで交互に複数組配列されている。
【0060】
また、絶縁スリット14は、金属化フィルム3の長さ方向Xに対して交差する方向に沿って細長く延在する細幅長尺スリット部14aと、この細幅長尺スリット部14aの端部から隣接する細幅長尺スリット部14aの端部との間でヒューズ部16を介在させるべく金属化フィルム3の幅方向Yに対して交差する方向に延出される細幅短尺スリット部14b,14bとから構成されている。
【0061】
寸法関係の一例を示すと、次のようなものを挙げることができる。
【0062】
まず、図7に示すコンデンサ素子Cの長径方向の寸法aと短径方向の寸法bとの関係であるが、扁平率(flattening)は、f=(a−b)/a=1−(b/a)で表される(a,bは図6参照)ので、例えばa=150mmとして、扁平率f≧0.7とするには、b≦45mmとする。
【0063】
フィルム幅方向Yの寸法c=100mmとして、連続電極領域A1の幅については、1列目の連続電極領域A1aが13〜17mm、2列目の連続電極領域A1bが6〜10mm、3列目の連続電極領域A1cが6〜10mmとし、絶縁マージン18の幅は2〜5mmとする。絶縁スリット14の長さについては、1列目が22〜26mm、2列目が20〜24mm、3列目が18〜22mmとし、フィルム長さ方向Xで隣接する絶縁スリット14,14のピッチは5.7〜6.3mmとする。絶縁スリット14のパターン幅は0.3〜0.5mmとする。フィルム長さ方向Xにおける絶縁スリット14の配列密度については、単位長を60mmとして、単位長当たり10本以下とする。この本数を比較的に少なめに設定したことが本発明の1つのポイントとなっている。
【0064】
そして、以上のような寸法関係のなかで、蒸着エリアAの合計面積SA に対する非蒸着エリアBの合計面積SB の割合である非蒸着面積割合γを0.09以下に設定する。ここで、金属化フィルム3の全面積から3列分の絶縁スリット14群の全面積と絶縁マージン18との全面積を差し引いたものを蒸着エリアAの合計面積SA とする。この蒸着エリアAには、1列目の連続電極領域A1a、2列目の連続電極領域A1b、3列目の連続電極領域A1c、1列目の分割電極領域A2a、2列目の分割電極領域A2b、3列目の分割電極領域A2c、そしてすべてのヒューズ部16が含まれている。蒸着エリアAには絶縁スリット14群と絶縁マージン18とは含まれない。絶縁スリット14群と絶縁マージン18とは非蒸着エリアBを構成する。非蒸着エリアBを構成するのは絶縁スリット14群と絶縁マージン18のみである。
【0065】
誘電体フィルム11の材質をポリプロピレンとするときに定格電圧の関係からフィルム厚さを6μmかそれ以上とし、また所望の体積効率の関係から扁平率を0.7またはそれ以上とする厳しい条件において、所望の高品質の扁平加工性と耐電圧特性を得るための要件は前述のとおり非蒸着面積割合γ(=非蒸着エリア合計面積SB /蒸着エリア合計面積SA )を0.09またはそれ以下に設定することであるが、具体的には上述したような寸法関係のもとで、フィルム長さ方向Xにおける絶縁スリット14の配列密度関係において、単位長(60mm)当たり10本以下とすればよいということである。
【0066】
試験前後の静電容量の変化量(ΔCap)を
ΔCap={(試験後静電容量−初期静電容量)/初期静電容量}×100
と定義して、扁平率fと非蒸着面積割合γとの組み合わせを変えた複数の供試体(テストサンプル)について静電容量変化率ΔCap(%)を調べ、絶対値で5%以内を良好(○)、5%超を不良(×)とした(静電容量は減少するので、ΔCapはマイナス値となる)。図10に耐電圧試験結果を示す。
【0067】
誘電体フィルムとして厚さ6.0μmのPP(ポリプロピレン)を用いて試料を作製し、耐電圧試験は、試験電圧2475VDC、試験時間1分間、周囲温度常温の条件で試料に電圧を印加することで実施した。電圧印加前後の静電容量を測定し、その静電容量変化率ΔCapを求めた。
【0068】
この試験結果によって、本発明では扁平率を0.7以上で非蒸着面積割合を0.09以下と規定した。
【0069】
ちなみに、図11(b)は比較例を示す。図11(a)は比較対照のため図1(a)を再掲したものである。比較例において、フィルム幅方向Yの寸法c=100mm、1列目の連続電極領域A1aの幅17.5mm、2列目の連続電極領域A1bの幅13.5mm、絶縁マージン18の幅は3mm、絶縁スリット14の長さが1列目39mm、2列目27mm、絶縁スリット14のピッチ3mm、絶縁スリット14のパターン幅0.4mmで、フィルム長さ方向Xにおける絶縁スリット14の配列密度は単位長(60mm)当たり14本である。この比較例における非蒸着面積割合γ(=非蒸着エリア合計面積/蒸着エリア合計面積)は0.095である。
【0070】
本発明実施例と比較例との対比において特に重要なことは、金属化フィルム3の単位長当りの分割電極15群の合計面積について、本発明実施例と比較例とで互いに等しく設定してある、換言すれば分割電極領域A2の合計面積を等しく設定してあるという点である。分割電極領域A2の合計面積を一定に保ちながら、単位長当たりの絶縁スリット14の配列密度を異ならせることにより、非蒸着面積割合γを異ならせているのである。
【0071】
比較例についても上記同様の試験を行ったところ、扁平率0.7以上では静電容量変化率において不良(×)の結果を得た。つまり、単位長当たりの絶縁スリット配列密度を一定限度以下に抑えることにより、オイル残渣が充分に減少し、図9の過程を経て細長小判状に扁平加工された金属化フィルム多層体9は、扁平化が進行するにつれて、金属化フィルム巻回体4の内部におけるフィルム重なり部分の相対滑りがスムーズなものとなり、その結果として、その内部の金属化フィルム巻回体4の部分にス(鬆)、しわ・歪や薄肉扁平巻芯部2aの屈折・屈曲などの不具合が発生しなかった。これをもって、扁平成形性に優れ、高い耐電圧性能をもち(電圧印加時に静電容量の変化が少なく)、リプル電流時の作動音の発生も抑制されたコンデンサ素子Cが得られるに至った。したがって、本発明によれば、比較例では未解決であった扁平加工性の劣化、耐電圧特性の劣化(静電容量減少)およびリップル作動音の問題が解消されたのである。
【0072】
なお、上記の実施例以外に、例えば図12に示すように、絶縁スリット14の方向性を斜行タイプにしてもよい。また、図13に示すように、絶縁スリット14をミュラー・リヤー形(所定長さの線分の両端に内向きの矢羽根を有する形状)にしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明は金属化フィルムコンデンサの構成部品として用いられ保安機構付きで高い扁平性が要求されるコンデンサ素子において、絶縁スリット形成のためのマスキングオイルのオイル残渣に対して、扁平加工性・耐電圧特性を向上する技術として有用である。
【符号の説明】
【0074】
3(3U,3L) 金属化フィルム
4 金属化フィルム巻回体
9 金属化フィルム多層体
10 電極引出し部(メタリコン)
11 誘電体フィルム
12 金属蒸着電極
14 絶縁スリット
14a 細幅長尺スリット部
14b 細幅短尺スリット部
15 分割電極
16 ヒューズ部
17 保安機構
18 絶縁マージン
A 蒸着エリア
A1(A1a,A1b,A1c) 連続電極領域
A2(A2a,A2b,A2c) 分割電極領域
B 非蒸着エリア
C コンデンサ素子
X 金属化フィルムの長さ方向
Y 金属化フィルムの幅方向
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14