特許第6281908号(P6281908)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6281908
(24)【登録日】2018年2月2日
(45)【発行日】2018年2月21日
(54)【発明の名称】凍結に耐える注射装置
(51)【国際特許分類】
   A61M 5/315 20060101AFI20180208BHJP
   A61M 5/24 20060101ALI20180208BHJP
【FI】
   A61M5/315
   A61M5/24
【請求項の数】1
【外国語出願】
【全頁数】33
(21)【出願番号】特願2014-165929(P2014-165929)
(22)【出願日】2014年8月18日
(62)【分割の表示】特願2012-518997(P2012-518997)の分割
【原出願日】2010年7月8日
(65)【公開番号】特開2014-237038(P2014-237038A)
(43)【公開日】2014年12月18日
【審査請求日】2014年9月16日
【審判番号】不服2016-12731(P2016-12731/J1)
【審判請求日】2016年8月24日
(31)【優先権主張番号】09164871.7
(32)【優先日】2009年7月8日
(33)【優先権主張国】EP
(31)【優先権主張番号】61/224,538
(32)【優先日】2009年7月10日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】596113096
【氏名又は名称】ノボ・ノルデイスク・エー/エス
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】ボム, ラーシュ, モーテン
(72)【発明者】
【氏名】エンガールド, クリスチャン, ペーター
(72)【発明者】
【氏名】オステルガールド, ブライアン
(72)【発明者】
【氏名】イェンセン, ヤコブ, コレルプ
【合議体】
【審判長】 長屋 陽二郎
【審判官】 熊倉 強
【審判官】 平瀬 知明
(56)【参考文献】
【文献】 特表2008−541907(JP,A)
【文献】 特表2002−515268(JP,A)
【文献】 特開2007−68630(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/057378(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 5/315
A61M 5/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
医療用の注射装置であって、
−液状の薬剤を収容しており、出口および可動壁を備えている容積可変のリザーバと、
−前記リザーバの容積を減少させて前記液状の薬剤の1回分の投薬量を吐き出させるべく前記可動壁を第1の方向に変位させるように構成されたアクチュエータ部材と前記アクチュエータ部材を前記第1の方向へ移動させるように構成された駆動構成を備えており、前記液状の薬剤の1回分の投薬量を注射するように動作することができる注射機構と、
−前記アクチュエータ部材を前記第1の方向と反対である第2の方向へ移動させるための連結機構と
を備えており、
前記アクチュエータ部材がしきい値未満の大きさの第1の力に曝されているときは、前記アクチュエータ部材の前記第2の方向への移動を防止し、前記アクチュエータ部材が前記しきい値以上の大きさの第2の力に曝されると、前記アクチュエータ部材の前記第2の方向への可逆的な移動を許すように構成され、
前記第2の力が前記可動壁を介して前記アクチュエータ部材に作用し、
前記連結機構が、前記アクチュエータ部材が前記第1の力に曝されているときは前記駆動構成に係合し、前記アクチュエータ部材が前記第2の力に曝されたときに前記駆動構成との係合を可逆的に解除するように構成された係合構造を備えている、注射装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液状の薬剤を投与するための注射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
注射ペンなどの注射装置が、治療上の処置を必要とする者が自身で液状の薬剤を投与するために広く使用されている。多くの注射装置は、装置のそれぞれの投薬量設定機構および注射機構の動作時に、固定または可変の量の薬剤を繰り返し設定および注射することができる。一部の注射装置は、あらかじめ満たされた薬剤リザーバ(複数回の注射可能な投薬量を提供するための充分な量の薬剤を収容している)が装てんされるように構成されている。リザーバが空になったとき、ユーザが空のリザーバを新しいリザーバと交換することで、注射装置を何度も使用することができる。他の注射装置は、ユーザへと届けられるときにすでに満たされており、薬剤リザーバが空になるまで使用することができるにすぎない。種々の注射装置は、典型的には、制御された運動のピストンロッドを使用してピストンをリザーバ内で前進させることによって薬剤を吐き出す。
【0003】
注射装置が正確な投与量を送り出すためには、ピストンロッドが、注射機構の作動に続くピストンロッドの駆動の動作の最中に常に、リザーバ内のピストンに接触していることが必要である。しかしながら、注射装置の運搬および取り扱いの最中に、ピストンロッドとピストンとの間に望ましくない遊びが持ち込まれる恐れがあり、この遊びを、注射の前に例えばプライミング作業を実行することによって取り除かなければならない。特定の注射装置は、ピストンロッドが注射装置において近位側へと(すなわち、後方へと)移動することを防止する一方向の連結機構を備えている。例として、WO2004/006997が、2列の鋸歯を有するピストンロッドを備えており、鋸歯が保持部の阻止用の舌に順に係合して任意の軸方向の位置においてピストンロッドの戻りの移動を阻止する投薬装置を開示している。このような戻り止めの構成は、ひとたびピストンロッドとピストンとが最初に当接させられたならば、これら2つの構成部品の間の遊びの可能性を実質的に取り除く。
【0004】
液状の薬剤を収容している注射装置が、何らかの理由で液状の薬剤の凝固点を下回る温度に曝された場合、液体がリザーバ内で膨張し、ピストンを含むリザーバの壁へと比較的大きな圧力を生じさせる。結果として、ピストンロッドとピストンとの間に遊びが存在しない場合には、ピストンロッド駆動部が、ピストンロッドを介してピストンからの比較的大きな後方への力に曝される。特にラチェットおよび爪からなる一方向の駆動機構を使用する注射装置において、ピストンロッドとピストンロッド駆動部との間の結合が、そのような大きな力に耐えることができず、装置の重要な構成部品の破損につながり、結果として機能不良の恐れが生じ、または装置が使い物にならなくなる可能性がある。
【0005】
一部の液状の薬剤は、所望の治療効果を維持するために、特定の温度限界の範囲内で保管されなければならない。例えば、細菌の増殖を避けるために、一部の液状の薬剤は、冷蔵保存されなければならない。しかしながら、薬剤の容器が誤ってきわめて活発な冷却素子のあまりに近くに置かれた場合、薬剤の凍結が生じる可能性がある。この問題は、高温の気候で生活している者に特に関係がある。液状の薬剤そのものが凍結によって駄目にならない場合、封入している送出装置も駄目にならないことが、ユーザが薬剤を無駄にすることを避けることができるため、好都合であると考えられる。したがって、中身の薬剤の凝固点を下回る温度に耐えることができ、すなわちリザーバ内で薬剤が膨張しても損傷を来して使用不能になることがない注射装置を提供することが望まれる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
以上に鑑み、本発明の目的は、液状の薬剤の1回分または複数回分の投薬量を確実/一貫的かつ高い正確さで投与することができる注射装置を提供することにある。
【0007】
本発明のさらなる目的は、薬剤を収容しているリザーバの一時的な膨張を、注射機構を傷めることなく、かつ装置の投薬量の正確さに影響を及ぼすことなく許容する注射装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の開示において、上述の目的のうちの1つ以上に対処し、または以下の開示および典型的な実施形態の説明から明らかな目的に対処する態様および実施形態が説明される。
【0009】
本発明の一態様においては、液状の薬剤を投与するための注射装置であって、液状の薬剤を収容するように構成され、出口および可動壁を備えている容積可変のリザーバと、前記可動壁を第1の方向に変位させるように構成されたアクチュエータ部材を備えている注射手段とを備えており、前記アクチュエータ部材へと第2の方向に作用する力(例えば、単一の力、結果として生じる力、力の分布)に応答して前記アクチュエータ部材の前記第2の方向への可逆的な移動を許すように構成された注射装置が提供される。
【0010】
本発明の特定の実施形態においては、前記第2の方向は、前記第1の方向と反対であるか、または少なくとも実質的に反対である。
【0011】
例えば相変化につながる温度の低下に起因して薬剤がリザーバにおいて膨張する場合、力が可動壁を介してアクチュエータ部材に作用し、注射装置の構成が、注射手段に損傷を生じさせることなく第2の方向への可動壁の変位を許す。
【0012】
注射手段または少なくともその構成要素を、第2の方向に作用する力に応答して第2の方向に変形または変位し、第2の方向に作用する力が止んだことに応答して元の状態へと弾性的に戻るように構成することができる。
【0013】
注射装置は、アクチュエータ部材を第1の方向に付勢するための付勢手段をさらに備えることができる。これは、第2の方向に作用する変位の力が止んだときに、アクチュエータ部材が元の位置へと自動的に戻ることを可能にできる。
【0014】
典型的な実施形態においては、付勢手段が注射手段の一部を形成することで、追加の構成部品を必要とすることなく、液状の薬剤の1回分の投薬量を自動的に注射すること、および第2の方向に作用する力が止んだときにアクチュエータ部材を元の位置へと自動的に戻すこと、の両方が可能な注射装置がもたらされる。
【0015】
注射手段は、注射機構であってよく、例えば付勢手段からの付勢力をアクチュエータ部材へと伝えるように構成された操作部材の駆動構成をさらに備えることができる。駆動構成を、単一の可動な駆動要素で構成することができ、または駆動構成は、例えば可動の駆動要素および固定の要素など、複数の相互作用する要素を備えてもよい。具体的には、駆動構成は、アクチュエータ部材に対して一方向に相対移動でき、別の方向においてはアクチュエータ部材に係合してアクチュエータ部材を従動させることができる形式であってよい。
【0016】
本発明の一実施形態においては、注射機構が、第2の方向に作用する力に応答して付勢手段の付勢に逆らって第2の方向にアクチュエータ部材および/または駆動の機構を変位させることができ、第2の方向に作用する力が止んだときにアクチュエータ部材および/または駆動構成を実質的に初期の位置へと戻すように構成される。特に、アクチュエータ部材が、注射の際に可動壁を変位させるときに可動壁に当接または係合するように構成された接触面を備え、注射機構が、第2の方向に作用する力に応答して前記接触面を出口に対して第1の位置から第2の位置へと変位させることができ、第2の方向に作用する力が止んだときに前記接触面を実質的に第1の位置へと戻すように構成される。
【0017】
付勢手段は、注射装置内の弾性的に変形可能な幾何学的構成、注射装置の弾性的に変形可能な幾何学的構成、またはばね部材などのエネルギー手段であってよく、または実際のところ、力伝達手段および/もしくはアクチュエータ部材を特定の方向(例えば、リザーバの出口へと向かう方向)に付勢するために適した任意の手段であってよい。
【0018】
リザーバは、軸方向に変位可能なピストンを備えるカートリッジなど、可動壁を有する剛体容器であってよい。あるいは、リザーバが、圧縮可能な袋などの可撓な容器であってよく、または一部分が剛体であって一部分が可撓である容器であってよい。
【0019】
注射装置は、着脱式のキャップと、キャップが注射装置に取り付けられるときにキャップに当接または係合するように構成されたキャップ受け入れ部とをさらに備えることができる。キャップは、キャップ受け入れ部を介して注射機構と結合するためのインターフェイスを備えることができる。インターフェイスは、駆動の機構または駆動の機構に接続された介在の部品に当接または係合するように構成された接触の点または面であってよい。
【0020】
着脱式のキャップを、注射装置の非使用時に注射装置の出口部分(針保持部またはジェット注射ノズルなど)を覆うように構成することができる。これにより、着脱式のキャップが、例えば針保持部に取り付けられた針を保護し、針の突き刺しを防止し、さらには液状の薬剤が誤ってこぼれることを防止することができる。投薬量の注射が望まれるときに、キャップを取り外し、針保持部を露出させることができる。
【0021】
キャップ受け入れ部は、キャップが注射装置に取り付けられるときに着脱式のキャップを受け入れて保持するように構成された注射装置の一部分であってよい。
【0022】
キャップ受け入れ部は、バヨネットジョイント、ねじ山付きの部位、スナップロック、など、キャップを保持するための手段を備えることができる。キャップ受け入れ部を、キャップが注射装置の遠位部または出口部分を覆うべく注射装置に取り付けられるときにキャップを受け入れるように構成することができる。あるいは、キャップ受け入れ部を、キャップが注射装置の近位部に取り付けられるときにキャップを受け入れるように構成することができる。
【0023】
注射装置は、例えば全体としての長手軸を定める円筒形の形態、箱状の形態、または他の適切な形態のハウジングをさらに備えることができる。本発明の特定の実施形態においては、キャップをキャップ受け入れ部から取り外すことで、アクチュエータ部材および/または駆動構成が軸方向の変位を被る。
【0024】
本発明の別の態様においては、液状の薬剤を投与するための機械式の注射装置が提供され、そのような注射装置が、液状の薬剤を収容しており、出口および可動壁を備えている容積可変のリザーバと、前記可動壁を第1の方向に変位させるように構成されたアクチュエータ部材およびアクチュエータ部材を第1の方向に付勢するための付勢手段を備えている注射機構と、を備えており、注射機構が、前記可動壁へと第2の方向に作用する力に応答して前記可動壁の第2の方向への可逆な移動を可能にするように構成されている。
【0025】
本発明の一実施形態においては、注射機構が、可動壁への第2の方向の力の印加に応答して可動壁が第1の位置から第2の位置へと第2の方向に移動でき、力が止んだときに付勢手段に蓄えられたエネルギーを利用して可動壁を第2の位置から実質的に第1の位置へと第1の方向に移動させるように構成される。これにより、荷重が終了したときに、可動壁および注射機構が自動的に、すなわちユーザが注射装置のいかなる部分も操作することなく、それぞれの初期状態に復帰することが保証される。
【0026】
アクチュエータ部材は、例えば別の構成部品がアクチュエータ部材に接触または相互作用する運搬時または投薬量の設定時など、注射装置の通常の使用環境のもとで、第2の方向の力に曝される可能性がある。しかしながら、投薬量の正確さを保証するためには、アクチュエータ部材が可動壁に対して制御されずに移動することを、不可能にすることが重要である。なぜならば、アクチュエータ部材が可動壁に対して制御されずに移動できると、後の注射の際に両者の同期移動が不可能になるからである。
【0027】
したがって、本発明のさらなる態様においては、液状の薬剤を投与するための機械式の注射装置が提供され、そのような注射装置は、液状の薬剤を収容するように構成され、出口および可動壁を備えている容積可変のリザーバ、前記可動壁の第1の方向の変位を生じさせるように構成されたアクチュエータ部材と、前記アクチュエータ部材の移動を生じさせるように構成された駆動構成と、前記アクチュエータ部材の前記第1の方向への付勢を生じさせる随意による付勢手段とを備えている注射機構、ならびに前記アクチュエータ部材の少なくとも第2の方向への移動に影響を及ぼす連結機構(例えば、係合構造を備えている)を備えている。係合構造は、注射機構(例えば、アクチュエータ部材および/または駆動構成の1つ以上の部品)との結合および注射機構からの切り離しそれぞれに適しており、注射装置は、アクチュエータ部材に作用する力がしきい値未満の大きさである場合には、この力に応答してのアクチュエータ部材の第2の方向への移動を防止すべく、係合構造と注射機構(例えば、アクチュエータ部材)とを結合させ、アクチュエータ部材に作用する力がしきい値以上の大きさである場合には、この力に応答してのアクチュエータ部材の第2の方向への可逆的な移動を許すべく、係合構造と注射機構とを可逆に切り離すように構成されている。
【0028】
そのような構成は、第1の方向および第2の方向の両方について、可動壁およびアクチュエータ部材の完全に同期した移動を提供する。これにより、たとえアクチュエータ部材が例えば投薬量の設定に関連する比較的小さな力に曝された場合(この場合には、アクチュエータ部材が可動壁から離れるように第2の方向に移動することがない)や、アクチュエータ部材がリザーバ内の薬剤の膨張に起因する比較的大きな力に曝された場合(この場合には、アクチュエータ部材が可動壁とともに第2の方向に移動し、薬剤が元の密度へと戻るときに可動壁と一緒に元に戻る)でも、投薬量の正確さが注射装置の寿命の最後まで維持されることが保証される。
【0029】
係合構造とアクチュエータ部材との可逆な切り離しは、係合構造とアクチュエータ部材とを非破壊的に切り離すことで、係合構造とアクチュエータ部材とが後に互いに作用的に結合できることを保証することを含む。
【0030】
いくつかの実施形態においては、駆動の機構は、アクチュエータ部材と相互作用し、アクチュエータ部材を付勢手段の影響下で第1の方向に押すように構成される。この相互作用は、例えば一方向のラチェット機構またはアクチュエータ部材と駆動構成との間の螺合を含むことができ、前者の場合には、駆動構成が、アクチュエータ部材と係合してアクチュエータ部材を第1の方向に引きずるように構成され、後者の場合には、例えば駆動部材の回転によってアクチュエータ部材の第1の方向への平行移動が生じる。
【0031】
注射装置は、ハウジングをさらに備えることができ、係合構造が、アクチュエータ部材のハウジングに対する第2の方向への移動を防止するために、ハウジングとアクチュエータ部材との間の結合をもたらすことができ、結合は、アクチュエータ部材へと第2の方向に作用するしきい値以上の大きさの力に応答して、ハウジングとアクチュエータ部材とを可逆に切り離すように構成されている。
【0032】
本発明の一実施形態においては、アクチュエータ部材が歯を備えており、係合構造が、アクチュエータ部材にしきい値未満の力が第2の方向に加わるときは歯と係合して第2の方向へのアクチュエータ部材の移動を防止し、アクチュエータ部材にしきい値以上の力が第2の方向に加わるときには歯との係合を可逆的に解除するように構成されたそらすことができる爪である。
【0033】
他の実施形態においては、アクチュエータ部材が、例えば駆動構成の可動部分の時計方向の回転が、アクチュエータ部材の時計方向の回転ならびに駆動構成の固定部分を通っての平行移動による前進につながるようなやり方で、駆動構成の固定部分に位置する該当のねじ山と係合し、かつ駆動構成の可動部分に対して回転に関して固定されるねじ山を備えている。ハウジングの内壁に周状に配置された歯が、接触力がアクチュエータ部材がしきい値未満の第2の方向の力に曝される場合に相当する特定の大きさを下回る限りにおいて、ハウジングと駆動構成の可動部分との間の相対回転運動が一方向については許されるが、反対の方向については阻止されるように、駆動構成の可動部分のそらすことができる爪と係合するように構成される。アクチュエータ部材がしきい値以上の第2の方向の力に曝される場合に、そらすことができる爪とこの爪に接触する歯が可逆に外れ、前記反対の方向の回転を許し、結果としてアクチュエータ部材が駆動の機構の固定部分との螺合によって第2の方向に可逆に平行移動できるように構成される。
【0034】
さらに別の実施形態においては、アクチュエータ部材が、注射装置のナット部材に係合するねじ棒である。係合は、(例えば)棒の時計方向の回転がナット部材との相互作用によって平行移動に変換されるような係合である。ナット部材が、セルフロックのねじ山部分を保持する可撓顎を備えている。これは、棒に第2の方向の軸方向の力(または、平行移動の力)が加わる場合に、棒がねじ山によって反時計方向に後方へと回転することによって第2の方向に移動することが、不可能であることを意味する。しかしながら、棒にしきい値以上の第2の方向の力が加わると、可撓顎が棒から離れるように撓むことで、ねじ山部分がロッドとの係合から外れ、ロッドが回転せずに第2の方向に移動できるようになる。力が止むと、可撓顎が元の位置に復帰し、棒が再びナット部材に螺合する。
【0035】
注射装置は、ただ1回分の投薬量の薬剤だけを送り出すことができる形式の注射装置であってよい。あるいは、注射装置が、1回分の投薬量の薬剤を繰り返し設定および送出できる形式の注射装置であってよい。その場合には、注射装置が、投薬量を設定すべく動作することができる投薬量設定手段をさらに備える。特定の実施形態においては、注射装置が、所定の投薬量を繰り返し設定および送出することができる。
【0036】
投薬量設定手段は、投薬量が設定されるときに作動する注射装置の一部である。投薬量設定手段は、注射装置の構成要素を、注射機構の作動時に所与の量の薬剤が送り出されるような相対位置に位置させる機構を備えている。注射機構は、作動時に設定された投薬量の注射を生じさせる注射装置の一部である。注射機構は、注射機構の作動によってアクチュエータ部材が移動することで、ピストンがリザーバの内部をリザーバからの液状の薬剤の吐出(例えば、リザーバに取り付けられた針アセンブリの針を介する)を生じさせる方向に移動するようなやり方で、リザーバの可動壁(例えば、ピストン)と協働するように構成された力伝達要素(例えば、可動のアクチュエータ部材)を備えている。投薬量設定機構および注射機構は、1つ以上の構造および/または機能要素を共有することができる。
【0037】
付勢手段は、蓄えたエネルギーを投薬量の薬剤の注射の際に放出するように機能するエネルギー手段を備えることができ、放出されるエネルギーが、投薬量の注射を生じさせる。エネルギー手段を、投薬量の設定の際にエネルギー手段にエネルギーが蓄えられるようなやり方で投薬量設定手段に接続することができる。
【0038】
エネルギー手段は、ばね部材を備えることができ、そのようなばね部材を、例えばばねの圧縮または引き伸ばしによって中心軸に沿って蓄勢されるように構成することができる。これに代え、またはこれに加えて、ばねを、例えばばねのそれぞれの端部を相互にねじることによって中心軸を中心にして蓄勢されるように構成することができる。
【0039】
アクチュエータ部材の駆動構成は、駆動部材の移動によってエネルギー手段によるエネルギーの貯蔵および/もしくは放出が生じ、ならびに/または反対に、エネルギー手段からのエネルギーの放出によって駆動部材の移動が生じるようなやり方で、エネルギー手段に接続された駆動部材を備えることができる。その点で、エネルギー手段は、駆動部材を特定の平行移動の方向および特定の回転の方向の両方に付勢すべく、回転による応力があらかじめ加えられた圧縮ばねを備えることができる。したがって、駆動部材が、ばね圧縮要素としても機能することができる。あるいは、エネルギー手段が、例えば各々が平行移動および回転運動に必要なエネルギー部分をもたらすことができる2つ以上のばね(例えば、平行移動のためのエネルギーをもたらすことができる圧縮ばねおよび回転運動のためのエネルギーをもたらすことができるねじりばね)、軸方向に圧縮できるねじり棒、または回転によってあらかじめ応力が加えられた引張ばねを備える構成など、平行移動および回転運動のためにエネルギーを貯蔵および放出することができる他の構成を備えることができる。
【0040】
アクチュエータ部材は、一組の軸方向に間隔を空けて位置する歯を、1つ以上の係合要素との係合のために備えることができ、駆動部材が、アクチュエータ部材の歯と係合するように構成された係合要素を備えることができる。そのような実施形態においては、投薬量設定手段が投薬量を設定すべく動作するときに、駆動部材がアクチュエータ部材に対する相対移動を被ることで、係合要素がアクチュエータ部材の歯との係合から外れるように動かされ、アクチュエータ部材に沿って動かされて、より近位側に位置する歯を過ぎる。その後に注射機構が設定された投薬量を注射すべく作動するとき、係合部材がたった今過ぎた歯に係合し、駆動部材が、アクチュエータ部材を伴いつつハウジング内を遠位方向に移動する。
【0041】
本発明の一実施形態においては、注射機構が、アクチュエータ部材にしきい値以上の力が第2の方向に加わるのに応答して駆動部材が第2の方向に或る距離だけ移動でき、アクチュエータ部材への力が止んだときに駆動部材が元の位置へと戻るように構成される。ひとたびしきい値に達すると、アクチュエータ部材が移動して駆動部材に係合し、駆動部材をばね部材の付勢力に逆らって第2の方向に付勢する。これにより、駆動部材がばね部材をさらに圧縮し、ばね部材が、平衡状態が生じるまで平行移動のための追加のエネルギーを蓄える。アクチュエータ部材への力が止むと、ばね部材が、蓄えた余分なエネルギーを放出し、駆動部材を再び当初のアクチュエータ部材との係合の位置へと第1の方向に移動させる。この戻りの変位の際に、駆動部材がアクチュエータ部材を従動させ、アクチュエータ部材が可動壁を従動させる。
【0042】
案内手段を、駆動部材および/またはアクチュエータ部材の移動を案内するために設けることができる。案内手段は、ハウジングの一部を形成することができ、またはハウジングに対して固定された位置を有する別個の要素を備えることができる。これに代え、またはこれに加えて、案内手段は、ハウジングに対して移動することができる要素を備えることができる。
【0043】
案内手段を、駆動部材およびアクチュエータ部材が相対移動の一部において純粋な平行移動の相対運動を実行でき、相対移動の別の一部において平行移動と回転運動との組み合わせの相対運動を実行できるように、構成することができる。案内手段は、駆動部材を明確な軸方向の位置に支持するための第1の当接面または第1の保持用の台地と、駆動部材を別の明確な軸方向の位置に支持するための第2の当接面または第2の保持用の台地とを備えることができる。一特定の実施形態においては、第1の保持用の台地と第2の保持用の台地との間の軸方向の距離が、注射の際の駆動部材の軸方向の変位に相当する。
【0044】
あるいは、案内手段を、例えば注射の際の駆動部材の回転運動の最大の範囲を定めるように構成することができる。その場合、案内手段は、駆動部材または駆動部材に回転に関して連動する別の部品のための回転ストッパを備えることができる。
【0045】
本発明の特定の実施形態においては、キャップは、駆動部材または駆動部材に組み合わせられた中間の要素へと力を伝達することができる環状の縁を備えており、キャップがキャップ受け入れ部において注射装置に取り付けられたときに、駆動部材がキャップ受け入れ部に対してアクチュエータ部材との係合から外れる特定の位置をとるように強制される。キャップが注射装置に取り付けられている限りにおいて、駆動部材は、付勢手段の付勢力に逆らってこの位置に保持される。
【0046】
キャップがキャップ受け入れ部から取り外されることで、駆動部材が変位を被り、アクチュエータ部材と係合するように強いられ、アクチュエータ部材を可動壁に当接するように移動させて、可動壁に付勢力を作用させることができる。これに代え、またはこれに加えて、キャップがキャップ受け入れ部から取り外されることで、アクチュエータ部材が可動壁を変位させてもよい。
【0047】
本発明のまたさらなる態様においては、出口および可動壁を備えるリザーバと、可動壁の第1の方向への移動を生じさせるように構成されたアクチュエータ部材と、柔軟な係合構造と、柔軟な係合構造と順次に係合するいくつかの構造的な凹凸を有する本体表面とを備えており、少なくとも1つの構造的な凹凸が、柔軟な係合構造にしきい値未満の大きさの力が第1の方向とは実質的に反対の第2の方向に加わるときは、柔軟な係合構造と本体表面との間に固定の係合をもたらし、柔軟な係合構造にしきい値以上の大きさの力が第2の方向に加わるときは、柔軟な係合構造と本体表面の係合が非破壊的に外れるよう、本体表面に対して鈍角に位置する接触面を備えている薬剤送出装置が提供される。
【0048】
構造的な凹凸は、本体表面のくぼみおよび/または突起であってよい。
【0049】
本体表面は、アクチュエータ部材の表面であってよい。あるいは、本体表面が、薬剤送出装置の他の部分の表面であってよい。
【0050】
注射装置を構成するシステムは、通常は動力部およびリザーバという2つの部分を含んでおり、動力部は、注射機構と随意による投薬量設定機構とを備え、注射装置の第1の本体部分に収容され、リザーバは、リザーバホルダと称されることが多い注射装置の第2の本体部分に埋め込まれる。
【0051】
本発明のまたさらなる態様においては、アクチュエータ部材および付勢手段を有する注射機構を備える動力部と、液状の薬剤を収容しており、可動壁を備えている容積可変のリザーバとを備えており、アクチュエータ部材および可動壁が、第1の方向に一緒に変位でき、動力部が、可動壁へと第2の方向に作用する力に応答してアクチュエータ部材と可動壁とが一緒に第2の方向に可逆に変位することを許すように構成されているシステムが提供される。
【0052】
第2の方向は、第1の方向とは反対であってよい。さらに、力は、可動壁に作用することができる。
【0053】
動力部は、アクチュエータ部材との解除可能な係合のための係合構造をさらに備えることができ、係合構造は、アクチュエータ部材にしきい値未満の大きさの力が加わる場合には、アクチュエータ部材と係合してアクチュエータ部材および可動壁が一緒に第2の方向に変位することを防止し、アクチュエータ部材にしきい値以上の大きさの力が加わる場合には、アクチュエータ部材との係合から可逆に外れてアクチュエータ部材および可動壁が一緒に第2の方向に可逆に変位することを許すように構成されている。
【0054】
リザーバおよび動力部を、分離不能に組み合わせることができ、その場合には、注射装置において、リザーバを別のリザーバと交換することが不可能である。これは、ひとたび元のリザーバが空になり、または最後の1回分の投薬量が完全に注射されたならば、装置全体が再使用不可能であり、廃棄されなければならないことを意味する。リザーバの動力部からの分離の試みが成功しても、リザーバホルダまたはリザーバホルダと動力部との間の接続の破壊ゆえに、注射装置が使用できないようになる。
【0055】
本発明の上述の態様および実施形態に関して、アクチュエータ部材および/または可動壁についてそれぞれ許される第2の方向への可逆的な移動が、非破壊的であることに注意すべきである。これを、この文脈において、注射装置の全体的な機能(例えば、注射または投薬量の設定の実行)に不可欠な注射装置のいかなる部品または部材も、前記移動の結果として壊れたり、他のかたちで破壊されたりすることがないことを意味すると、解釈すべきである。換言すると、注射装置が複数回分の投薬量の薬剤を送り出すことができる形式の注射装置である場合に、装置が、該当の1つ以上の構成要素の戻りの移動に続いて、リザーバに残る薬剤の量に対応して、複数回の投薬量の設定および注射のサイクルを実行できる。注射装置が1回限りの形式の注射装置である場合には、装置が、該当の1つ以上の構成要素の戻りの移動に続いて、薬剤の1回分の投薬量の注射を実行することができる。
【0056】
しきい値を、特定の力がアクチュエータ部材へと第2の方向に作用するときにしきい値に達するように、例えば相互に接触する構成要素の間の摩擦の関係および取り合い面の構成を選択することによって、製造者があらかじめ設定することができる。その点で、しきい値は、基本的に任意に設定することが可能である。
【0057】
相互に接触する構成要素の間の摩擦の関係を、相互作用する構成部品の材料の選択によって確立することができる。一実施形態においては、相互作用する構成部品が、プラスチックで製作される。
【0058】
互いに取り合う表面の構成は、歯のそれぞれの角度および/または係合構造の特定の設計を含むことができる。この点で、1つ以上の歯を、歯付き部材の本体表面に対して鈍角にすることができる。これは、例えばアクチュエータ部材が係合構造に約2〜5Nの力を生じさせる場合など、取り合いの領域における接触力が比較的小さい限りにおいて、係合構造と歯付き部材との間のしっかりとした係合をもたらす。しかしながら、接触力がさらに大きいと、斜めの歯ゆえに係合構造と歯付き部材の係合が滑って外れることができる。係合構造が或る程度柔軟である場合、係合構造が撓んで係合が外れ、それぞれの歯を過ぎた後で係合構造が弾性的に元に戻る。
【0059】
本発明の一実施形態においては、しきい値が、ばね部材の付勢の軸方向の力またはトルクに等しい。これにより、係合構造が歯から外れ、アクチュエータ部材が第2の方向に移動するとき、ばね部材が、初期の圧縮もしくはねじりの状態を超えて圧縮され、またはねじられる。
【0060】
しかしながら、しきい値そのものを製造者が知る必要がないことに注意すべきである。しきい値は、しきい値が注射装置の所望の特徴(例えば、係合構造が少なくとも投薬量の設定の際にアクチュエータ部材の第2の方向への移動を防止することができるなど)を得るために充分な特定の最小値よりも大きくなることが保証されるように注射装置を設定することを製造者が選択できるという意味で、しきい値「区間」であってよい。これにより、係合構造がアクチュエータ部材との係合から外れるように動いてアクチュエータ部材の第2の方向の変位が可能になる力の正確な大きさを製造者が知らなくても、注射装置が本明細書において説明されるとおりに機能する。注射装置の所望の特徴を得るために充分な最小値を、実験によって割り出すことができ、随意により安全マージンを含むように選択することができる。
【0061】
上述のような構成は、薬剤が意図的または誤って薬剤の凍結が生じる温度に曝されても、注射装置の構成(例えば、注射機構の設定)ゆえに可動壁が薬剤の注射のための方向とは別の方向に移動することができるため、薬剤が装置に損傷を生じることなくリザーバにおいて自由に膨張できるという効果を有する。さらに、注射の際に送り出される薬剤の量が、アクチュエータ部材と駆動部材との間の堅固な係合および第1の保持用の台地と第2の保持用の台地との間の距離だけに依存するため、この構成により、薬剤の凍結および解凍後に注射される投薬量が、そのようでない場合と同じであることが保証される。これは、薬剤の解凍後に、アクチュエータ部材および駆動部材が、ユーザが注射装置を操作したときに構成部品に通常の状況下で加わると考えられる移動と同じ移動が加わるように、案内部材に対して位置するからである。具体的には、駆動部材およびアクチュエータ部材が、駆動部材が第1の保持用の台地に位置するときにしっかりと係合する。換言すると、薬剤の凍結が、注射装置の投薬量の正確さに影響を及ぼすことがない。
【0062】
本発明の文脈においては、用語「機械式の注射装置」を、電気モータによって駆動される注射装置と反対に、機械的に動作する注射装置を意味するものと解釈すべきである。
【0063】
本発明の文脈において、用語「アクチュエータ部材」は、駆動力をリザーバの可動壁へと伝達する機械的な要素を指して使用される。「アクチュエータ部材」は、ロッドおよびロッドの足を備えることができ、ロッドの足が、可動壁に物理的に接触する要素である。ロッドおよびロッドの足を、2つの別々の部品として製作することができ、または1つの一体の構成要素として製作することができる。あるいは、「アクチュエータ部材」が、足を持たないロッドを備え、その場合には、ロッドそのものが可動壁に物理的に接触するように構成される。リザーバが軸方向に変位することができるピストンを備えているカートリッジ式のリザーバである場合には、「アクチュエータ部材」は、足を有しても有さなくてもよいピストンロッドであってよい。用語「アクチュエータ部材」が、例えば板またはダイアフラムなど、駆動力を可動壁へと伝達するための他の適切な構造も包含することに、注意すべきである。
【0064】
本発明の文脈においては、用語「液状の薬剤」を、例えば溶液または懸濁液などの液体の状態にある薬剤を意味するものと解釈すべきである。
【0065】
本発明の文脈においては、用語「所定の投薬量」を、投薬量設定手段の作動時に特定の固定の投薬量が設定され、すなわち任意の投薬量を設定することはできないようなやり方で解釈すべきである。しかしながら、所定の投薬量は、最初に注射装置を選択された投薬量に設定することができ、その後に投薬量設定手段がこの選択された投薬量を投薬量設定手段が作動するたびに設定するという意味で、可変であってもよい。用語「所定の投薬量」が、注射装置がプライミング機能を有してもよいということを排除していないことに注意すべきである。
【0066】
本明細書において、特定の態様または特定の実施形態への言及(例えば、「一態様」、「第1の態様」、「一実施形態」、「典型的な実施形態」、など)は、それぞれの態様または実施形態に関して説明される個々の特徴、構造、または特性が、少なくとも本発明のその1つの態様または実施形態に含まれるが、必ずしも本発明のすべての態様または実施形態に含まれるわけではないことを意味する。しかしながら、本発明の種々の態様および実施形態に関して説明される特徴、構造、および/または特性の任意の組み合わせが、本明細書においてそのようではないと示されず、あるいは明らかに文脈から矛盾しない限り、本発明に包含されることを強調しておかなければならない。
【0067】
本明細書におけるあらゆるすべての例または例示の言葉(例えば、「・・・など」など)の使用は、本発明を分かりやすくしようとするものにすぎず、特にそのようでないと請求項に記載されない限り、本発明の技術的範囲を限定するものではない。さらに、明細書におけるいかなる言葉または表現も、請求項に規制されていない要素を本発明の実施に必須のものとして示していると解釈されてはならない。
【0068】
以下で、本発明を、図面を参照してさらに説明する。
【図面の簡単な説明】
【0069】
図1】最初の注射の前の本発明の実施形態による注射装置の断面図である。
図2図1の注射装置の断面図であり、キャップが取り外され、装置がプライミングされている。
図3図1の注射装置の断面図であり、最初の注射の後である。
図4図1の注射装置の断面図であり、キャップが再び取り付けられ、装置が装てんされている。
図5図1の注射装置について、図1に相当する状況の別の断面図である。
図6図1の注射装置について、図2に相当する状況の別の断面図である。
図7】ハウジング部分の断面斜視図であり、案内手段を詳細に示している。
図8図1の注射装置において使用される押し要素の斜視図である。
図9図1の注射装置において使用される駆動部材の斜視図である。
図10】aおよびbは、図1の注射装置において使用されるピストンロッドの種々の斜視図である。
図11図1の注射装置において使用されるばね保持要素の斜視図である。
図12図1の注射装置において使用される連結要素の斜視図である。
図13図1の注射装置において使用される注射ボタンの斜視図である。
図14】注射機構の部品の斜視図であり、駆動部材、ピストンロッド、ばね、ばね保持要素、および連結要素の間の関係を示している。
図15】注射ボタンおよび押し要素を含む図14の注射機構の斜視図である。
図16】投薬量の設定および注射の際の駆動部材の動きの二次元表現である。
図17】1回分の投薬量の終わりの状況における図1の注射装置の断面図であり、駆動部材をハウジングの窓を通して視認することができる。
図18】a〜cは、注射装置の乗り越えることができる一方向の機構の実施形態の断面図である。
図19】aおよびbは、注射装置の乗り越えることができる一方向の機構の別の実施形態の斜視図である。
図20a】本発明の別の実施形態による注射装置の断面図である。
図20b図20aの注射装置の一部分の拡大図である。
図21図20aの注射装置における乗り越えることができる一方向の機構の斜視図である。
図22】本発明のまた別の実施形態による注射装置の断面図である。
図23図22の注射装置における乗り越えることができる一方向の部品の斜視図である。 図において、同様の構造は、主に同様の参照番号によって特定されている。
【発明を実施するための形態】
【0070】
以下で、「時計方向」および「反時計方向)」ならびに「近位側」および「遠位側」などといった相対的な表現が使用される場合、それらは添付の図を基準にしており、必ずしも実際の使用の状況を指しているわけではない。図示の図は、略図であるため、種々の構造体の配置およびそれらの相対的な寸法は、あくまでも例示の目的だけを果たすように意図されている。
【0071】
図1は、本発明の典型的な実施形態による注射装置100を示している。注射装置100は、製造者から届けられたままの装てん状態にあり、すなわち未だ注射に使用されていない。注射装置100は、ハウジング102と、液状の薬剤を収容するカートリッジ104を支持するためのカートリッジ保持部103とを備えている。液状の薬剤は、カートリッジ104内を軸方向に移動することができるピストン108と、カートリッジの筒状の壁140と、薬剤出口141を覆うセルフシール膜142との間に位置している。液状の薬剤は、ピストン108がカートリッジ104内を前進させられるときに、針ハブインターフェイス143を介して注射装置100に取り付けられた注射針106を通って流れるように意図されている。キャップ115が、ハウジング102のキャップ受け入れ部109に取り付けられることで、カートリッジ104を保護し、薬剤出口141を覆う。ハウジング102に対して軸方向に往復移動することができる注射ボタン105が、ハウジング102の遠位端から突き出す位置に示されている。
【0072】
ピストンロッド107が、ピストンロッド足147を介してピストン108へと取り付けられるとともに、注射ボタン105へと作動可能に接続されており、キャップ115が取り外され、注射ボタン105がハウジング102に対して押されるとき、ピストンロッド107がハウジング102を通って或る距離だけ軸方向に前進し、ピストン108を同じ距離だけカートリッジ104内で移動させ、所望の量の薬剤を出口141を通って注射する。
【0073】
ピストンロッド107の移動は、注射ボタン105のらせん状の軌道(図示しない)に係合している連結リング130と、連結リング130に係合しており、ピストンロッド107に係合してピストンロッド107へと駆動力を伝達するように構成されたドライバ110とによって実現される。ドライバ110は、平行移動および回転運動の両方のためにエネルギーを貯蔵および放出することができるあらかじめねじられた圧縮ばねであるばね111によって駆動される。ばね111の一端が、平行移動および回転の両方に関してハウジング102に対して固定されたばねベース160に保持され、ばね111の他端が、ドライバ110に、ばね111とドライバ110とが力およびトルクの両方をやり取りできるようなやり方で係合している。したがって、ドライバ110は、ハウジング102に対して平行移動および回転運動の両方を実行することができる。ばね111を、例えば2つの端部を半回転または1回転だけ互いにねじることによって、例えば注射装置100の組み立て時にあらかじめねじっておくことができる。投薬量の設定および注射の際に、ドライバ110の移動は、案内部材120と、1対のスナップアーム118を介してドライバ110に係合する押し要素112とによって案内される。ドライバ110は、ドライバ110が遠位方向に移動するときはピストンロッド107上の歯119に係合し、ドライバ110が近位方向に移動するときは歯119に乗り上げるように構成されたそらすことができる爪176を備えている。図1においては、爪176が最も遠位側の歯191から離れており、すなわちドライバ110がピストンロッド107に係合していない。
【0074】
図2においては、キャップ115が、キャップ受け入れ部109から取り外されている。これにより、最初に爪176がばね111によって遠位方向に押されて最も遠位側の歯191に係合し、続いてピストンロッド107がドライバ110に連動してピストン108をカートリッジ104内でわずかな距離(図示しない)だけ変位させることで、注射装置100の自動プライミングがもたらされている。自動プライミングの流れを、以下でさらに詳しく説明する。
【0075】
図3は、最初の注射の後の注射装置100を示している。注射ボタン105がハウジング102へと押され、結果としてばね111の作動およびピストン108の設定された投薬量に対応した移動がもたらされている。
【0076】
図4において、キャップ115が、キャップ受け入れ部109において注射装置100に再び取り付けられており、結果として1回分の投薬量が設定されている。再取り付けの際に、キャップ115が押し要素112に当接し、押し要素112を近位側へと移動させる。これにより、ドライバ110が近位方向に動かされ、ばね111が軸方向に圧縮される。爪176が、近位方向に或る距離だけ持ち上げられ、今やピストンロッド107上の次の歯192の近位側に位置しており、両者の間に小さなすき間がもたらされている。
【0077】
図5は、注射装置100を、キャップ115がキャップ受け入れ部109に取り付けられた最初の注射の前の別の断面図にて示している。キャップ115が、キャップ115の外面とハウジング102の内面との間の螺合(図示しない)によって取り付けられた位置に保持されている。キャップ115は、押し要素112の1対の接触足116に当接する環状(round−going)のキャップ縁182を有している。キャップ縁182が、接触足116に力を作用させ、これが2つの脚113を介してドライバ110に伝えられる。ドライバ110は、ばね111に係合しているため、ばね111によって押し要素112へと付勢されている。したがって、押し要素112が、キャップ115がキャップ受け入れ部109に取り付けられているとき、キャップ115へと付勢されている。
【0078】
ドライバ110は、案内部材120との界面を通じてドライバ110の移動を制御するように構成された1対のスライド部材173を備えている。図5において、ドライバ110は、案内部材120に接していない。これを、それぞれのスライド部材173の接触足174と案内部材120の投薬量シェルフ123との間の小さなすき間によって見て取ることができる。
【0079】
図5は、ハウジング102ののぞき窓199と、フック162(ばねベース160のハウジング102に対する回転および平行移動の固定をもたらす)によって占められた開口161とをさらに示している。一対のスナップアーム168が、連結リング130を平行移動に関してばねベース160に固定している。
【0080】
図6は、キャップ115の除去後の注射装置100を示している。キャップ115の取り外しの結果として、ばね111がスライド部材173を押して動かして投薬量シェルフ123に当接させていることを、見て取ることができる。
【0081】
図7は、案内部材120をさらに詳しく示しているハウジング102の断面斜視図である。分かりやすくするために、カートリッジ保持部103の近位端が、図から取り除かれている。案内部材120は、キャップ115のキャップ受け入れ部109からの除去後にドライバ110を支持するように構成された投薬量シェルフ123を備えている。縦方向の案内面124が、投薬量シェルフ123の縁128から投薬量ストッパ125まで続いている。1対の半径方向にそらすことができるクリックフィンガ126(1つだけしか図示しない)が、案内部材120に設けられており、各々のクリックフィンガ126が、ピストンロッド107との係合のための先端127を有している。案内部材120は、いくつかのスペーサ186によってハウジング102から離されてハウジング102内に同心に配置されている。突起187が、キャップ115上のらせん状の軌道部分と係合するように遠位側のハウジング縁185の付近に設けられている。この係合は、キャップ115がキャップ受け入れ部109に取り付けられたときに、キャップ115のハウジング102への軸方向の固定をもたらす。
【0082】
図8は、投薬量の設定の際にドライバ110がスライドする2つのらせん状の案内部分117を示している押し要素112の斜視図である。脚113が、ハウジング102においてそれぞれのスペーサ186の間に配置されることで、スペーサ186が、接触面114との接触によって押し要素112をハウジング102に対して回転に関して固定する。しかしながら、この構成において、押し要素112は、ハウジング102に対して軸方向に移動することができる。
【0083】
図9は、おおむね筒状の本体170を備えている駆動部材110の斜視図であり、この筒状の本体170が、近位端部分から延びる2つの半径方向反対向きの縦長のスリット171を有しており、各々のスリット171が、縦長の接触面172に隣接している。段部177が、筒状の本体170を、案内部材120の案内面を移動するように構成された2つのスライド部材173を備えている遠位部に接続している。スライド部材173は、縦長の案内面124のうちの一方にそれぞれ接触するそれぞれのスライド面175を有している。爪176が、爪176がスライド部材173と同じ平行移動および/または回転運動を被り、その逆も然りであるように、スライド部材173に堅固に接続されている。段部177が、ばね111とドライバ110との間の軸方向の力の交換のための物理的な境界面をもたらす。ばね保持部179が、ばね311とドライバ310との間のトルクの交換のための物理的な境界面をもたらす。らせん状の軌道178が、押し要素112のスナップアーム118と相互作用し、ドライバ110の押し要素112に対する回転運動を可能にするように構成されている。
【0084】
図10aは、ピストンロッド107の2つの側面を示す斜視図である。いくつかの歯119が、第1の側面においてピストンロッド107に沿って分布しており、隣り同士の2つの歯119の間の距離は、分布の全体にわたって一定である。歯119は、投薬量の注射の際にドライバ110に係合するように構成されており、爪176が歯119に係合し、ピストンロッド107と一緒に前方へと移動する。さらに、第2の側面には、より小さな歯195の集団が、ピストンロッド107に沿って一様に分布している。注射の際に、一方のクリックフィンガ126の先端127が歯195に乗り上げ、注射の進行の聴覚による確認をもたらす。
【0085】
図10bは、ピストンロッド107の他の2つの側面を示す斜視図である。第1の側面の反対側の第3の側面において、いくつかの歯119が、第1の側面における分布と同様のやり方で分布している。第4の側面には、いくつかの歯196が分布しており、歯196は、歯119よりも小さいが、歯195よりも大きい。隣り同士の2つの歯196の間の距離は、ピストンロッド107の第1および第3の側面の隣り同士の2つの歯119の間の距離に等しい。しかしながら、歯196は、歯119から軸方向にずらされている。注射の終わりにおいて、他方のクリックフィンガ126の先端127が、歯196に乗り上げ、投薬量の完了の聴覚による確認をもたらす。歯196が歯195よりも大きいため、クリックフィンガ126が歯196に乗り上げるときにもたらされるクリック音は、他方のクリックフィンガ126が歯195に乗り上げるときにもたらされるクリック音から、聴覚的に識別可能である。歯196およびクリックフィンガ127の先端は、ピストンロッド107の案内部材120に対する近位方向への移動を防止するラチェット/爪機構をもたらすように構成されている。
【0086】
図11は、ばね111の一端をハウジング102に対して恒久的な位置に保持するように構成されたばねベース160の斜視図である。ばねベース160は、2つの半径方向反対向きに位置するアーム164を有しており、各々のアーム164が、ハウジング102のそれぞれの開口161との係合のためのフック162を備えている。フック162と開口161との間の係合により、ばねベース160は、ハウジング102に完全に固定され、すなわちばねベース160のハウジング102に対する回転運動および平行移動の実行が防止される。ボス部材165が、ばね111の近位端を保持し、ドライバ110の軸方向の移動を制限するために設けられている。ばねベース160は、連結リング130に当接するように構成された近位面163と、連結リング130をばねベース160に対して軸方向について固定する1対のスナップアーム168とをさらに備えている。さらに、突起167が、注射ボタン105との相互作用のために設けられている。
【0087】
図12は、注射ボタン105をドライバ110に連結するように構成された連結リング130の斜視図である。連結リング130は、近位面131および遠位面132と、2つの半径方向において向かい合う隆起133とを有しており、隆起133が、ドライバ110の筒状の本体170の接触面172と相互作用して、連結リング130とドライバ110との間に回転に関する主従関係をもたらすように構成されている。使用時、隆起133および接触面172が、連結リング130が時計方向に回転させられるときにドライバ110が時計方向に回転させられ、ドライバ110が反時計方向に回転させられるときに連結リング130が反時計方向に回転させられるように、対をなして当接する。連結リング130の遠位面132が、ばねベース160の近位面163に当接するように構成され、連結リング130の近位面131に、スナップアーム168が係合するように構成されており、すなわち連結リング130が軸方向についてばねベース160に固定される。連結リング130およびドライバ110は、スリット171の長さによって限定された相対の平行移動を実行することができる。2つの突起134が、注射ボタン105との結合のために設けられている。さらに、連結リング130の材料の厚さが、ばねベース160に関して連結リング130の回転方向の遊びをもたらすために、周方向において変化している。この点に関し、スナップアーム168が、連結リング130がばねベース160に対して回転するときにそれぞれの壁135および136の間をスライド可能である。
【0088】
図13は、注射装置100の操作者とのやり取りのための押し面152を備えている注射ボタン105の斜視図である。注射ボタン105は、それぞれがらせん状の軌道151および縦方向のスリット157を備えている2つのフランジ153をさらに備えている。らせん状の軌道151は、それぞれの突起134と取り合って注射ボタン105の平行移動を連結リング130の回転運動に変換し、その逆も然りであるように構成されている。さらに、それぞれのアーム164と取り合う2つのすき間154が設けられ、注射ボタン105のばねベース160に対する回転運動を防止しつつ、注射ボタン105のばねベース160に対する平行移動を可能にしている。ばねベース160がハウジング102に対して回転に関して固定されているため、注射ボタン105は、ハウジング102に対して平行移動のみが可能である。縦方向のスリット157が、それぞれの突起167をスライド可能に占めるように構成されている。したがって、注射ボタン105のばねベース160に対する平行移動は、近位方向については突起167と縦方向のスリット157のそれぞれの遠位端との間の相互作用によって限定され、遠位方向についてはアーム164のそれぞれの近位端とすき間154のそれぞれの近位端との間の相互作用によって制限される。
【0089】
図14は、ドライバ110と、ばね111と、連結リング130と、ばねベース160と、ピストンロッド107とからなるアセンブリを示す斜視図である。特に、図14は、連結リング130とばねベース160との間の軸方向について固定された結合を示している。
【0090】
図15は、注射ボタン105と、ドライバ110と、ばね111と、連結リング130と、ばねベース160と、押し要素112と、ピストンロッド107とからなるアセンブリを示す斜視図であり、注射ボタン105とドライバ110との間の機能的な接続を示している。この図は、ばねベース160に対して完全に押し込まれた状態にあり、すなわち投薬量の注射直後に相当する位置にある注射ボタン105を示している。ばねの近位端(図示しない)が、ばねベース160に保持され、ばねの遠位端が、ばね保持部179においてドライバ110につながっている。ばねベース160がハウジング102に固定され、したがって動くことができないため、あらかじめねじられたばね111が、ドライバ110を注射ボタン105から見て反時計方向に付勢している。
【0091】
注射の手順において、押し面152が押されることで、注射ボタン105がばねベース160に向かって下方へと押される。注射ボタン105がばねベース160に対して回転せぬように固定されているため、この下方移動は、純粋に平行移動である。注射ボタン105の平行移動の際に、突起134が、らせん状の軌道151を移動する。この係合により、注射ボタン105の移動が連結リング130の回転運動へと変換され、連結リング130が回転に関してドライバ110に係合しているため、ドライバ110も回転する。らせん状の軌道151は、注射ボタン105がばねベース160に向かって押されるときに、連結リング130(したがって、ドライバ110)が注射ボタン105から見て時計方向に(すなわち、ばね111の回転の付勢に逆らって)回転するように配置されている。
【0092】
図16は、それぞれのスライド部材173およびピストンロッド107について、注射装置100のプライミング、注射、および装てんの際のお互いおよびハウジング102の案内部材120に対する移動パターンの二次元表示である。図16の表現は、スライド部材173の接触足174および爪176がハウジング102に対して軸方向に整列していると仮定している。これは、必ずしも当てはまらない可能性がある。しかしながら、ここでは、分かりやすくするために、ドライバ110のそのような特定の構成を選択する。案内部材120が、2つのスライド部材173が同時に移動する2組の案内面を備えることを、理解すべきである。しかしながら、このそれぞれの案内面に沿ったスライド部材173の移動は同一であるため、一方だけが示される。種々の移動が、以下でさらに詳しく説明される。
【0093】
図17は、注射後の注射装置100の断面図である。押し要素112の脚113を、図7および8においては、窓199を通して見ることができた一方で、今やドライバ110の段部177を視認できることを、見て取ることができる。押し要素112とドライバ110との間の境界は、注射が完全に完了した地点(すなわち、設定された薬剤の投薬量の全体がカートリッジ104から吐き出された時点)においてのみドライバ110が窓199を通して視認可能になるように配置されている。ドライバ110は、ユーザが所望の投薬量が実際に送り出されたか否かを窓を通して確認できるよう、押し要素112とは異なる色を有している。ユーザが注射ボタン105を押し下げた数秒後でも窓がドライバ110の色で完全に満たされない場合、それは、送出に対して妨げが生じ、投薬量が完了していないことを知らせている。この実施形態においては、ドライバ110が緑色であって、押し要素112が黒色である。しかしながら、これら2つの構造要素について、それらを視覚的に区別することができる限りにおいて、任意の色の組み合わせを考えることができる。
【0094】
図17においては、クリックフィンガ126の先端127が、投薬量の完了について聴覚による知らせをさらにもたらす投薬量終了のクリック歯196をちょうど過ぎていることも、見て取ることができる。これにより、短い聴覚によるクリック音と長続きする視覚的な色の変化という2つの異なる投薬量終了インジケータがもたらされ、ユーザの安全性が高められる。
【0095】
図18a〜cは、案内部材120とピストンロッド107’との間の結合の断面図を示している。ピストンロッド107’は、図1の注射装置に関して示したピストンロッド107に類似しており、唯一の相違は、ピストンロッド107’が両側に投薬量終了クリック歯196を備えている点にある。図18aは、案内部材120に対するピストンロッド107’の最も遠位側の位置または出発位置を示している。この位置は、注射装置が未だ使用されていない状況に相当し、すなわち最初の投薬量が注射される前の状況に相当する。1対の前歯197が、クリックフィンガ126の遠位側に位置しており、近位方向へのピストンロッド107’の軸方向の移動に限界をもたらしている。ピストン(図示されていない)が、ピストンロッド足(やはり図示されていない)を介して、遠位方向へのピストンロッド107’の軸方向の変位に限界をもたらしている。歯197のそれぞれの近位側を向いた表面が、ピストンロッド107’の本体の表面に対して鈍角ψ(図18bにおいて最もよく見て取ることができる)にあり、それぞれの先端127の遠位側を向いた表面に対して鋭角にある。この構成は、ピストンロッド107’に特定のしきい値を上回る力が加わるときにのみ越えることができるピストンロッド107’とハウジング102との間の一方向の結合をもたらす。ピストンロッド107’に作用する近位側(または、後方)への力がしきい値よりも小さい限りにおいて、歯197と先端127との間の係合が、ピストンロッド107’の後方への移動を防止する。しかしながら、この力が、例えばカートリッジ104内で薬剤が凍結および膨張してピストン108に大きな後方への圧力を作用させる結果として、しきい値よりも大きくなると、クリックフィンガ126が半径方向に撓み、ピストンロッド107’が案内部材120に対して近位側へと変位できるようになる。これを、図18bに見て取ることができる。図18cにおいては、先端127が歯197を完全に過ぎており、ピストンロッド107’が、案内部材120に対してさらに後方へと移動することができる。クリックフィンガ126は、元の力が加わっていない位置へと弾性的に復帰している。
【0096】
図19aは、ピストンロッドとハウジングとの間の一方向の結合の別の設計を示している。この実施形態においては、クリックフィンガ126’’の構成が異なる点を除いて上述した案内部材120と同じ全体的特徴を有している案内部材120’’と、投薬量終了クリック歯196’’の構成が異なる点を除いて上述したピストンロッド107と同じ全体的特徴を有しているピストンロッド107’’とが、クリックフィンガ126’’と歯196’’との間の係合ゆえにピストンロッド107’’が案内部材120’’に対して後方へと(図の左方へと)移動することができない状況にて示されている。歯196’’が傾けられており、すなわちピストンロッド107’’の横軸Tに対して斜めにされている。ピストンロッド107’’に作用する後方へと向いた力が特定のしきい値よりも小さい限りは、クリックフィンガ126’’と歯196’’との間の係合が、ピストンロッド107’’の案内部材120’’に対する後方移動を阻止するために充分である。
【0097】
図19bは、ピストンロッド107’’に作用する後方への力がしきい値を超えた状況におけるス19aの構成を示している。これにより、クリックフィンガ126’’が側方へと撓むことで先端127’’が歯の斜めの表面を移動し、最終的に歯196’’とクリックフィンガ126’’との間の係合が外れ、ピストンロッド107’’が案内部材120’’に対して後方へと移動できるようになっている。ひとたび歯196’’がクリックフィンガ126’’を過ぎると、クリックフィンガ126’’は、ピストンロッド107’’の長手軸に平行な元の位置へと弾性的に復帰する。
【0098】
以下で、注射装置100の使用の状況を説明する。
【0099】
図1および5に示されている注射装置100は、キャップ115が取り付けられた非使用の状態にある。キャップ115は、キャップ受け入れ部109において注射装置100に取り付けられている限りにおいて、キャップの縁182によって押し要素112の接触足116に接触し、押し要素112が遠位方向へと軸方向に移動することがないようにしている。押し要素112は、ドライバ110に当接しており、押し要素112の軸方向における位置が、ハウジング102内のドライバ110の軸方向における位置を決定している。キャップ115がキャップ受け入れ部109に取り付けられるとき、ドライバ110の接触足174が、案内部材120の投薬量シェルフ123から離れるように近位方向に持ち上げられる。この位置において、キャップ115は、軸方向に圧縮されてドライバ110へと遠位方向への力を作用させるばね111の付勢に対抗し、遠位方向へのドライバ110の軸方向の移動を防止する。爪176が、それぞれの歯191から離れており、ドライバ110とピストンロッド107との間の小さなすき間をもたらしている。
【0100】
ユーザは、注射の実行が必要であるとき、キャップ115を注射装置100から取り外す。注射針106が針ハブインターフェイス143に取り付けられている場合、以下が生じる。キャップ115から押し要素112への近位方向へと向いた力が取り除かれ、ばね111が解放され、ドライバ110を遠位方向へと、スライド部材173の接触足174が投薬量シェルフ123に達するまで移動させる。これが生じるとき、ドライバ110は停止し、ばね111が、新たなわずかに減った圧縮状態に保持される。ドライバ110が堅固な構造であるがゆえに、スライド部材173の移動が爪176に直接反映され、爪176が、対応する距離だけ遠位方向に移動する。この移動の最中のどこかの地点で、爪176が1対の歯191に係合し、ピストンロッド107をわずかな距離だけ引きずって移動させる。図16から見て取ることができるとおり、キャップ115をキャップ受け入れ部109から取り除くことで、スライド部材173、したがってドライバ110および爪176の遠位方向への移動Dが生じる。爪176および歯191(分かりやすくするため、図16においては歯192として示されている)の係合は、ドライバ110が距離D−Eだけ移動したときに生じ、したがって歯191(図16における歯192)の遠位方向への移動(すなわち、ピストンロッド107の遠位方向への移動)は、Eである。
【0101】
ピストンロッドの足147とピストン108との間に初期の遊びが存在しない場合、ピストンロッド107の移動の全体がピストン108へと伝えられ、すなわちピストン108が距離Eだけ移動する。しかしながら、ピストンロッドの足147とピストン108との間に初期の遊びδ(図示されていない)が存在する場合には、ピストン108の移動量はE−δである。
【0102】
いずれの場合も、キャップ115をキャップ受け入れ部109から取り外すことで、カートリッジ104内でピストン108が自動的に前進し、少量の薬剤が注射針106を通って吐き出される。このようにして注射針106の空気が自動的に取り除かれ、ピストンロッドの足147とピストン108との間の適切な当接が保証されることで、注射装置100は、投薬量の薬剤を注射するためにすぐに使用できる状態である。
【0103】
ユーザは、皮膚を貫いて注射針106を挿入し、押し面152へと力を加え、注射ボタン105をハウジング102に向かって下方へと押す。これにより、ばねベース160のアーム164の近位端とすき間154の近位端とが当接するまで、注射ボタン105がハウジング102に対して純粋な平行移動で遠位方向に移動する。この注射ボタン105の移動の際に、突起167が、縦方向のスリット157のそれぞれの遠位端に位置する位置から、縦方向のスリット157のそれぞれの近位端に位置する位置まで、縦方向のスリット157を移動する。さらに、突起134が、やはり近位方向にらせん状の軌道151を移動する。注射ボタン105がハウジング102に対して回転に関して固定されているため、このらせん状の軌道151に沿った突起134の移動により、連結リング130がばねベース160に対して時計方向に回転する。連結リング130とドライバ110との間の回転に関する主従関係ゆえに、連結リング130の回転が、ドライバ110へと直接伝達される。したがって、ドライバ110が、ばね保持部179に働くばね111の回転付勢に逆らって時計方向に回転させられる。
【0104】
ドライバ110は、ハウジング102に対して回転するとき、押し要素112および案内部材120に対しても回転する。スライド部材173が、縁128に達するまで投薬量シェルフ123に沿ってスライドする。スライド部材173が縁128を過ぎるとき、ばね111が軸方向の保持から解放され、ドライバ110を遠位方向に押すことによって、スライド部材173が投薬量ストッパ125の端部に達するまで縦長の案内面124を移動する。スライド部材173は、縦長の案内面124に沿って移動しているとき、および投薬量ストッパ125の端部に位置しているときの両方において、ドライバ110を反時計方向に付勢しているばね111のねじりの力によって縦長の案内面124へと付勢されている。これは、ドライバ110が投薬位置の終わりに位置しているとき、ハウジング102に対して回転できないことを意味する。ドライバ110がハウジング102に対して回転できず、連結リング130についても同様であり、連結リング130がハウジング102に対して回転できないため、注射ボタン105が、ハウジング102に対する自身の軸方向の位置を維持するように強いられる。換言すると、ひとたびユーザが注射機構を作動させると、注射ボタン105がハウジング102に対して押し込まれた状態のままである。
【0105】
ドライバ110の遠位方向への移動の際に、爪176によって引きずられるピストンロッド107、ひいてはピストン108が、ユーザへと届けるべき所望の量の薬剤に相当する距離H(図16を参照)だけ変位する。ピストンロッド107がハウジング102に対して変位することで、クリックフィンガ126のうちの1つが、歯195の集団に乗り上げ、注射が実際に進行中である旨の聴覚による知らせをユーザへともたらす。このようにして、投薬量の送出の過程において、ピストンロッド107は、E+Hに等しい総距離Aだけ変位する。ピストンロッド107、ドライバ110、および案内部材120は、EがHよりもはるかに小さく、すなわちプライミング量が常に治療用の投薬量よりもわずかであるような互いの配置および構成を有している。
【0106】
ドライバ110は、ハウジング102内を遠位方向に移動するとき、押し要素112を同じ方向に押す。最初に、注射が進行中である限りにおいて、押し要素112が、ユーザが窓199を通して眺めたときにユーザにとって視認可能である。しかしながら、スライド部材173が移動して投薬量ストッパ125の端部に当接するまさにその時点で、ドライバ110が押し要素112を窓199を完全に過ぎて押し、結果としてドライバ110だけが、ユーザが窓199を通して眺めたときにユーザにとって視認可能である。ドライバ110が緑色であり、押し要素112が黒色であるため、投薬量の完了時に窓199の色が変わり、注射が妨げなく終わったことをユーザに知らせる。同時に、クリックフィンガ126の先端127が投薬量クリック歯196の端部に乗り上げ、投薬量が最後まで実行されたことをユーザにやはり知らせる聞き取り可能なクリック音をもたらす。
【0107】
ユーザがキャップ115を取り除いたときに注射針が針ハブインターフェイス143に取り付けられていない場合、ドライバ110が、爪176が歯191に係合し、ピストンロッドの足147がピストン108に当接するまで、ばね111によって遠位方向に押される。ピストンロッドの足147とピストン108との間に初期の遊びが存在しないならば、ドライバ110の遠位方向への移動は、D−Eである(図16を参照)。ピストンロッドの足147とピストン108との間に初期の遊びδ(図示されていない)が存在する場合、ドライバ110の遠位方向への移動は、D−E+δである。いずれの場合も、ピストンロッド107がピストンロッドの足147を介してピストン108に圧力を加えるが、ピストン108は、カートリッジ104の中身の非圧縮性ゆえに動くことがない。しかしながら、カートリッジ104は、ユーザが注射針106を針ハブインターフェイス143に取り付けるまでは、ドライバ110に一定の力を作用させるばね111ゆえに加圧されたままである。注射針106が膜142を貫くと、カートリッジ104内の超過の圧力が解放され、結果としてばね111が、スライド部材173が投薬量シェルフ123に達するまでドライバ110をさらに遠位方向へと押すことができる。この時点で、ドライバ110が停止し、ばね111が、新たなわずかに減った圧縮状態に保持される。これにより、上述の状況と同様に、ピストン108が距離E(ピストンロッドの足147とピストン108との間に初期の遊びが存在しない場合)または距離E−δ(ピストンロッドの足147とピストン108との間に初期の遊びが存在する場合)のいずれかだけ移動し、少量の薬剤をカートリッジ104から吐き出させる。今や注射装置100が自動的にプライミングされており、続く注射の手順は、上述した手順と同一である。
【0108】
注射後にキャップ115をキャップ受け入れ部109へと再び取り付けることで、次の投薬量が、以下で説明されるとおりに設定される。
【0109】
キャップ115をキャップ受け入れ部109へと再び取り付ける最中のいずれかの時点において、キャップの縁182が脚113の接触足116に当接し、キャップの縁182が注射装置100の近位端に向かってさらに徐々に動かされるにつれて、押し要素112も近位方向に移動する。この押し要素112の近位方向への移動により、ドライバ110が、ばね111の軸方向の付勢に逆らって近位側へと移動する。これにより、ドライバ110が窓199から離れるように押され、スライド部材173が、投薬量ストッパ125の端部から縁128に向かって縦長の案内面124を移動する。スライド部材173が距離Hだけ移動し、縁128に達するとき、ばね111の回転の付勢が、ドライバ110をハウジング102に対して反時計方向に回転させる。この回転の際に、ドライバ110は、押し要素112上のらせん状の案内部117に沿ってスライドする。ドライバ110がらせん状の案内部117を移動するとき、爪176が、平行移動および回転運動の組み合わせにて、次の1対の歯192の直下の位置から歯192のわずかに上方の位置へと距離Dだけ近位方向に移動する。これにより、小さなすき間が爪176と歯192との間に導入される(すき間の軸方向の長さは、装てんプロセスによってピストンロッドの足147とピストン108との間に遊びが導入されているか否かに左右される)。
【0110】
ドライバ110が反時計方向に回転すると、接触面172と隆起133とが係合することによって、連結リング130が同様に反時計方向に回転する。連結リング130の回転は、突起134とらせん状の軌道151との間の相互作用ゆえに、ハウジング102から出ようとする近位方向の注射ボタン105の平行移動につながる。このようにして生じる注射ボタン105の軸方向の移動は、縦長のスリット157における突起167の移動によって制限される。突起167が縦長のスリット157の遠位端に達するとき、注射ボタン105はハウジング102からそれ以上は突き出すことができないため、注射ボタン105の移動が停止する。したがって、連結リング130の回転も停止し、ドライバ110の回転も停止する。ばね111が、今や元のあらかじめの応力が加えられた状態に回転に関して保持されている。
【0111】
以下で、図18a〜cに示したとおりのピストンロッド107’と案内部材120との間の乗り越えることができる一方向の結合の機能、および凍結に耐える注射機構に対する関係を、さらに詳しく説明する。したがって、以下の説明においては、注射装置100がピストンロッド107ではなくてピストンロッド107’を備えると仮定する。
【0112】
図1〜5においては、注射装置100が、最初の使用の前の保管の状況にある。爪176が、最も遠位側の歯191の近位側に位置し、クリックフィンガ126が、前歯197の近位側に位置している。注射装置100が運搬され、または他のかたちで荒い取り扱いを被る場合に、ピストンロッド107’は、歯197とクリックフィンガ126との間の係合が特定の比較的小さい値の力に耐えることができる限りにおいて、この係合の地点を越えてハウジング102内へと近位方向に移動することができない。
【0113】
しかしながら、注射装置100が、例えば冷蔵庫のきわめて活発な冷却素子に隣接して置かれるなど、薬剤の凝固点を下回る温度に曝される場合、薬剤が凍結し、カートリッジ104を膨張させる。これが、ピストン108への近位方向の(または、後方への)圧力につながり、ピストン108をカートリッジ104において近位側へと変位させる。これが、ピストン108とピストンロッド足147との間に遊びが存在しない場合、かなり大きな後方への力がピストンロッド107’に加わることに直結する。ピストン108とピストンロッド足147との間に遊びが存在する場合、最初に両者が押し合わせられる。次いで、ピストン108により、ピストンロッド107’が歯197と先端127との間の接触の境界を介してクリックフィンガ126へと後方向きの力を加える。歯197のそれぞれの近位方向を向いた表面が、ピストンロッド107’の本体に対して鈍角ψにあるため、クリックフィンガ126が半径方向外側へと撓み、すなわち案内部材120の内面に向かって撓み、先端127が歯197の縁を過ぎることができるようにピストンロッド107’が充分に後方へと移動するまで、歯197に沿ってスライドする。歯197の縁を過ぎた後で、クリックフィンガ126は、元の半径方向の位置へと弾性的に復帰し、歯197の遠位方向を向いた表面に沿って自由にスライドする。これにより、ピストンロッドは、もはや案内部材120に係止されることなく、最も遠位側の歯191がドライバ110の爪176に係合するまで、さらに後方へと移動することができる。
【0114】
歯191と爪176との間の一方向の相互作用が、ピストンロッド107’がドライバ110に対してさらに後方へと移動することを防止する。しかしながら、ドライバ110が縦長のスリット171ゆえにハウジング102内で軸方向に後方へと移動できるため、力が単にドライバ110へと伝えられ、ドライバ110およびピストンロッド107’が同時にばね111の軸方向の付勢に逆らって後方へと移動する。
【0115】
ある時点で、カートリッジ104内の薬剤の膨張に起因するドライバ110への後方向きの力と、圧縮ばね111からのドライバ110への前方向きの付勢力とが、平衡状態に達することで、ドライバ110およびピストンロッド107’が停止する。ドライバ110およびピストンロッド107’は、薬剤が再び解けるまでこの位置にとどまる。薬剤が再び解けるとき、ピストン108への圧力が緩み、結果としてピストンロッド107’およびドライバ110へと伝わる力が取り除かれる。結果として、圧縮ばね111が、単純にドライバ110をキャップの縁182および押し要素112によって定められる元の軸方向の位置へと戻し、ドライバ110が、この戻りの動きの際に、ピストンロッド107’およびピストン108も移動させる。このようにして、弾性的に復帰するピストンロッド駆動部の構成が、たとえピストン108がピストンロッド107’をハウジング102内で後方へと押しても、注射装置100が損傷しないことを保証する。さらに、ピストンロッド107’が、キャップ115がキャップ受け入れ部109から取り外されたときに正に当初の意図のとおりにピストン108に向かって付勢され、および/または変位させられる動作位置へと戻されるため、低温が注射装置100の投薬量の正確さの低下を引き起こさない。
【0116】
ピストンロッド107’を備える注射装置100が、上述の一方向の結合機構の全体としての機能に影響を及ぼすことなく、片側だけに投薬量終了クリック歯196を有するピストンロッド107を好都合に備えることができることに、注意すべきである。
【0117】
さらに、たとえ前歯197だけが鈍角の歯表面を備えて示されていても、投薬量終了クリック歯196を同様のやり方で構成して、ピストンロッド107とハウジング102との間の乗り越えることができる一方向の結合を、クリックフィンガ126と歯196との間の係合の任意の地点において可能にできることが明らかであることに、注意すべきである。これは、例えば爪176がピストンロッド107に沿ってスライドして1対の歯119に乗り上げる投薬量設定の際のドライバ110とピストンロッド107との間の摩擦力で、ピストンロッド107が案内部材120に対して動くことがない一方で、依然としてしきい値以上の力に応答してピストンロッド駆動部の全体の軸方向の変位が可能であることを保証するために、有意義であり得る。
【0118】
本発明に関して行われた実験により、投薬量の設定を含む注射装置100の運搬および一般的な取り扱いの際に、ピストンロッド107に最大2〜5Nという大きさの近位方向への力が加わる可能性がある一方で、カートリッジ104内の液状の薬剤の凍結の結果として、ピストンロッド107に200〜250Nの範囲の力が加わる可能性があることが示されている。したがって、乗り越えることができる一方向の結合は、少なくとも5Nまでの力に耐えることができると同時に、約200Nの力によるピストンロッド駆動部の変位を可能にしなければならない。それぞれの歯196、197とクリックフィンガ126の先端127との間の境界を、実質的に任意の該当の軸方向に力においてピストンロッド107と案内部材120との間の一方向の結合の可逆な係合の解除を可能にするように設計することができる。それぞれの歯196、197と先端127との間の摩擦の関係が、いつ係合の解除が生じるかに関して決定的であり、すなわち角度ψが、係合の解除のための所望のしきい値を得るために調節すべき1つのパラメータである。
【0119】
注射装置100の通常の運搬および使用に起因する力に応答したピストンロッド107の後方移動について特定の安全マージンを達成するために、角度ψを、後方への力が約15〜25Nであるときに係合の解除が生じるように選択することができる。これは、約110〜130度の角度ψにおおむね相当すると考えられる。
【0120】
図20aは、設定された投薬量の送出の前の本発明の別の実施形態による注射装置200を示しており、図20bは、注射装置200の囲みQで示されている部分の拡大図を示している。注射装置200は、ハウジング202と、液状の薬剤を収容するカートリッジ204を支持するためのカートリッジ保持部203とを備えている。液状の薬剤が、カートリッジ204内を軸方向に移動することができるピストン208と、カートリッジの筒状の壁240と、薬剤出口241を覆うセルフシール膜242との間に位置している。セルフシール膜242を、例えば針ハブインターフェイス243を介する注射装置200への針アセンブリの取り付けに関連して、注射針206によって貫くことができる。液状の薬剤は、ピストン208がピストンワッシャ247を介してピストン208に接触する専用のピストンロッド207によってカートリッジ204内を前進させられるときに、注射針206を通って流れるように意図されている。着脱式のキャップ(図示されていない)が、注射装置200の非使用時に、注射装置200に取り付けられてカートリッジ204を保護し、薬剤出口241を覆うように構成されている。
【0121】
ハウジング202に対して軸方向に往復移動することができる注射ボタン205が、ハウジング202の遠位端から突き出す位置に示されている。注射ボタン205は、ボタンばね259によって近位方向に付勢されている。筒230が、ハウジング202内に配置され、平行移動に関して注射ボタン205に固定されており、すなわち注射ボタン205のすべての軸方向の運動が、筒230へと伝達される。筒230は、トルクばね211の一端へと接続されたドライバ210に平行移動および回転に関して固定されている。さらに、筒230は、投薬量ダイアルボタン255に回転に関して固定されている。トルクばね211の他端は、ハウジング202に固定に配置されたばねベース260に接続されている。これにより、ハウジング202に対する投薬量ダイアルボタン255の回転をドライバ210の回転およびばね211のねじりへと伝えることができる構成がもたらされている。さらに、目盛りドラム221が、投薬量ダイアルボタン255の回転によって設定された投薬量を示すためにハウジング202内に配置されている。目盛りドラム221は、ドライバ210に回転に関して固定され、ねじ山を介してハウジング202に接続されている。投薬量ゼロの位置において、目盛りドラム221は、目盛りドラム221の回転停止を定めるばねベース260に当接する。
【0122】
ドライバ210は、ラチェット機構を介して駆動クラッチ290に接続されており、ラチェット機構が、駆動クラッチ290に対するドライバ210の一方向の回転を許すが、駆動クラッチ290に対するドライバ210の反対方向の回転は阻止する。さらに、ドライバ210および駆動クラッチ290は、平行移動に関して固定されており、すなわちドライバ210のすべての軸方向の移動が、駆動クラッチ290へと伝えられる。
【0123】
駆動クラッチ290は、ハウジング202に回転に関して固定される近位位置と、ハウジング202に対して自由に回転できる遠位位置との間を、軸方向に移動するように構成されている。注射ボタン205、筒230、ドライバ210、および駆動クラッチ290の間の平行移動の関係ゆえに、注射ボタン205が押し下げられるとき、駆動クラッチ290は遠位位置へと移動し、注射ボタン205がボタンばね259によって戻されるとき、駆動クラッチは近位位置へと移動する。目盛りドラム221とばねベース260との間の接触面が、目盛りドラム221とドライバ210との間の接触面、ドライバ210と駆動クラッチ290とを接続するラチェット機構、および近位位置における駆動クラッチ290の回転に関する固定と相俟って、注射装置200の組み立て時にトルクばね211に回転のあらかじめの応力を与えることを可能にする。
【0124】
遠位位置にあるとき、駆動クラッチ290は、ピストンロッド207に対して回転に関して固定された伝達クラッチ276に回転に関して係合する。ピストンロッド207には、ナット280のねじ山部分281がさらに係合しているが、ナット280は、ハウジング202に固定に配置されている。したがって、駆動クラッチ290の回転が、伝達クラッチ276の回転につながり、伝達クラッチ276の回転を介してピストンロッド207の回転につながる。ねじ山部分281が、ピストンロッド207の回転をらせん運動に変換することで、ピストンロッド207が薬剤出口241に対して軸方向に変位する。
【0125】
液状の薬剤の1回分の投薬量を送り出すためには、まず投薬量ダイアルボタン255を、目盛りドラム221がハウジング202の窓(図示しない)を通して所望の投薬量を表示するまで、時計方向(注射装置200の近位端から見て)に何度か回転させる。これにより、筒230も同様に時計方向に回転し、上述の回転の関係により、ドライバ210も時計方向に回転する。注射ボタン205が押し下げられていないとき、駆動クラッチ290は近位位置にあり、すなわちハウジング202に対する回転が不可能な位置にある。したがて、ドライバ210は、駆動クラッチ290に対して時計方向に回転する。このドライバ210の回転により、トルクばね211が、ドライバ210と固定のばねベース260との間でねじられる。ドライバ210と駆動クラッチ290との間のラチェット接触ゆえに、トルクばね211は、投与量ダイアルを回している最中に元の状態へと復帰することはできず、したがってドライバ210は、注射ボタン205が押し下げられるまで回転付勢されたままである。
【0126】
注射ボタン205がボタンばね259の付勢に逆らって押し下げられるとき、駆動クラッチ290が、上述のように遠位位置へと移動する。この移動の際に、駆動クラッチ290は、伝達クラッチ276に係合するとともに、ハウジング202との係合から外れるようにさらに移動し、トルクばね211が解放される。結果として、トルクばね211からのトルクが、ドライバ210、駆動クラッチ290、および伝達クラッチ276を反時計方向に回転させることで、ピストンロッド207が反時計方向に回転し、ナット280との螺合によってピストン208をカートリッジ204内で前進させる。さらに、トルクばね211が解放されることで、目盛りドラム221がハウジング202内のねじ山に沿って投薬量ゼロの位置へと復帰する。目盛りドラム221およびドライバ210が回転に関して連動しているため、投与量ゼロの位置が、ドライバ210の反時計方向の回転の最大の範囲を定めている。
【0127】
ナット280とピストンロッド207との間の螺合は非固定であり、すなわち近位方向へとピストンロッド207に作用する軸方向の力が、原則として、ピストンロッド207をねじ部281において時計方向に回転させ、薬剤出口241から離れるように移動させる。しかしながら、ハウジング202と伝達クラッチ276との間の結合が、さらに詳しく後述されるようにピストンロッド207の時計方向の回転に抵抗する。
【0128】
図21は、ハウジング202と伝達クラッチ276との間の結合の遠位方向からの斜視図を示している。ハウジング202の内壁に、歯296の周状の帯が設けられており、伝達クラッチ276が、撓むことができるアーム226の形態の弾性構造を有している。薬剤の送出の際に、伝達クラッチ276がハウジングに対して反時計方向(遠位側からの図である図21では、時計方向)に回転し、アーム226が単純に歯296のそれぞれの後ろ側の面298に沿って歯296に乗り上げる。
【0129】
ピストンロッド207が、例えば近位方向への力が加わることによって時計方向に付勢されるとき、伝達クラッチ276も、両者の間の回転関係ゆえに時計方向に付勢される。これは、図21においては、伝達クラッチ276がハウジング202に対して反時計方向に回転しようとする状況に相当する。そのような相対回転に、アーム226と歯296のうちの1つの前側の面294との間の相互作用が抵抗する。この相互作用が、伝達クラッチ276への回転の荷重がしきい値よりも小さい限りにおいて、伝達クラッチ276とハウジング202との間の相対回転を防止する。
【0130】
例えばカートリッジ204内での薬剤の凍結に起因してピストンロッド207にピストン208を介して近位方向への力が加わることで、伝達クラッチ276への回転の荷重がしきい値に達する場合、アーム226が内側へと撓み、前側の面294に乗り上げ、さらに歯の縁を過ぎて後ろ側の面298に沿って下ることで、伝達クラッチ276が回転に関してハウジング202との係合から外れ、ピストンロッド207がハウジング202に対して近位側へと移動することができる。それぞれの前側の面294とハウジング202の内壁との間の角度が、アーム226が反時計方向(図21による)に歯296へと乗り上げる回転の荷重のしきい値を決定する。
【0131】
そのような状況において、駆動クラッチ290が近位位置にある場合(注射ボタン205がハウジング202へと押し下げられていない場合に相当)、伝達クラッチ276が上述のようにハウジング202に対して回転し、ピストンロッド207が注射装置200においてピストン208と一緒に近位方向に移動する。薬剤が解けて収縮することで、ピストンロッド207への近位方向への力が止むと、伝達クラッチ276およびピストンロッド207がそれぞれの位置にとどまる一方で、ピストン208がカートリッジ204内で元の位置へと遠位方向にほぼ引き戻される。これにより、ピストン208とピストンワッシャ247との間に遊びが持ち込まれ、この遊びを、ユーザがプライミング作業を実行することによって手作業で取り除かなければならない。
【0132】
しかしながら、駆動クラッチ290が遠位位置にある場合には、伝達クラッチ276の時計方向(近位端から見て)の回転が、トルクばね211の付勢に逆らって生じることで、トルクばね211に、元のあらかじめの応力が加えられた状態を超えて応力が加えられる。力が維持される限りにおいて、トルクばね211はこのような応力が加えられた状態にとどまるが、力が止むと、トルクばね211は、伝達クラッチ276、したがってピストンロッド207を、注射装置200における元のそれぞれの回転位置および軸方向の位置に戻す。したがって、ピストンロッド207は、ピストンワッシャ247を介してピストン208に接触したままであり、注射装置200の投薬量の正確さが自動的に保証される。注射装置200を、注射ボタン205をボタンばね259の付勢に逆らって押し下げられた位置に保持するユーザによる解除が可能なボタン保持機構(図示されていない)ゆえに、駆動クラッチ290を遠位位置に位置させて保管することができる。
【0133】
図22は、本発明のさらに別の実施形態による注射装置300を示している。注射装置300は、ハウジング302と、液状の薬剤を収容するカートリッジ304を支持するためのカートリッジ保持部303とを備えている。液状の薬剤が、カートリッジ304内を軸方向に移動することができるピストン308と、カートリッジの筒状の壁340と、薬剤出口341を覆うセルフシール膜342との間に位置している。セルフシール膜342を、例えば針アセンブリの注射装置300への取り付けに関連して、注射針(図示されていない)によって貫くことができる。液状の薬剤は、ピストン308がピストンワッシャ347を介してピストン308に接触する専用のピストンロッド307によってカートリッジ304内を前進させられるときに、注射針を通って流れるように意図されている。着脱式のキャップ(図示されていない)が、注射装置300の非使用時に、注射装置300に取り付けられてカートリッジ304を保護し、薬剤出口341を覆うように構成されている。上述の注射装置と対照的に、注射装置300は、自動的な装置ではなく、すなわちカートリッジ304においてピストン308を前進させるために必要な力を、ユーザがもたらさなければならない。
【0134】
大ピッチの雌ねじを定めるらせん状のリブが、ハウジング202の内壁に設けられている。目盛りドラム321の外壁に、この雌ねじに螺合する雄ねじを定めているらせん状の溝が設けられている。ねじ山のピッチ角は、螺合の部分を形成している材料の摩擦の角度を超えており、したがって接続が、部品がお互いに対して軸方向に動かされるときに該当の部品の相対回転を生じさせる非固定式の接続である。
【0135】
投薬量表示数が、設定される投薬量に相当する数字がハウジング302の壁の窓(図示されていない)に表示されるように、目盛りドラム321の外壁に印刷されている。
【0136】
コネクタパイプ322が、目盛りドラム321に同心に配置され、コネクタパイプ322と目盛りドラム321とが連結されていない近位位置と、コネクタパイプ322と目盛りドラム321とが回転に関して連動する遠位位置との間を、目盛りドラム321に対して小さな距離だけ軸方向に移動するように構成されている。この目盛りドラム321に対するコネクタパイプ322の軸方向の移動は、投薬量送出に関して注射装置305の作動中にクラッチ329を介して注射ボタン305によって達成される。さらに、ドライバ310が、コネクタパイプ322に同心に配置されている。ドライバ310は、キー溝によってコネクタパイプ322に係合しており、したがってこれらの構成部品は、回転に関して連動している。ドライバ310は、非円形の断面を有するピストンロッド307とも回転に関して連動している。
【0137】
ピストンロッド307には、ナット380のねじ山部分381が螺合しているが、ナット380は、ハウジング302に固定に配置されている。この螺合は、セルフロッキングであり、すなわちピストンロッド307への直線的な力がピストンロッド307のナット380に対する回転につながらないことを意味する。
【0138】
投薬量の設定時に、目盛りドラム321が、所望の投薬量が窓に表示されるまで時計方向(近位端から見て)に回転させられる。ハウジング302との螺合ゆえに、目盛りドラム321が、ハウジング302の外へと近位方向に送り出される。この時点において、目盛りドラム321およびコネクタパイプ322は、回転に関して切り離されているため、コネクタパイプ322およびドライバ310のどちらも、この作用によって回転することはない。
【0139】
設定された投薬量を放出するために、注射ボタン305がハウジング302に向かって下方に押される。これにより、最初にクラッチ329によってコネクタパイプ322が目盛りドラム321につながるように押され、コネクタパイプ322および目盛りドラム321が回転に関して結合する。さらに注射ボタン305を押し続けることで、目盛りドラム321が反時計方向に回転し、螺合に沿って再び投薬量ゼロの位置へとハウジング302に対して軸方向に移動する。この投薬量ゼロの位置への復帰の際の目盛りドラム321の反時計方向の回転が、コネクタパイプ322、ドライバ310、およびピストンロッド307の反時計方向の回転へと伝えられ、結果としてピストンロッド307が、回転の入力をらせん状の出力へと変換するナット380との螺合ゆえに、カートリッジ304において前進させられる。このようにして、設定された投薬量の全体が、薬剤出口341および注射針を通って吐き出される。注射ボタン305とクラッチ329とは、回転に関して切り離されており、すなわち注射ボタン305は、薬剤の送出時に回転することがない。
【0140】
図23は、ナット380の斜視図であり、ナット本体384および中央に位置するねじ部分381を示している。ねじ部分381は、4つの可撓顎383の中央側に配置されている。可撓顎383は、間隔を空けて位置し、周方向において寸断された筒状部分を構成している。近位方向への力がピストンロッド307に加わる場合、ナット380とピストンロッド307との間のセルフロックの螺合が、力がしきい値未満である限りにおいて、ピストンロッド307のハウジング302に対する近位方向への移動を防止する。しかしながら、カートリッジ304における薬剤の凍結のために力がしきい値に達すると、可撓顎383が半径方向に撓んでねじ部分381がピストンロッド307との螺合から外れ、ピストンロッド307がピストン308と一緒にナット380に対して近位方向に移動できるようになる。
【0141】
薬剤が再び解けることによって力が止むと、可撓顎383が、それぞれの元の位置へと戻り、再びピストンロッド307と係合する。ピストン308が、カートリッジ304内で元の位置へと遠位方向にほぼ引き戻されることで、ピストンワッシャ347とピストン308との間に遊びが残され、この遊びを、ユーザがプライミング作業を実行することによって手作業で取り除かなければならない。
【0142】
このように、本発明による注射装置によれば、収容された薬剤がリザーバ内で凍結して膨張しても、注射機構の重要部品に損傷が生じることがない。さらに、薬剤が再び解けたときに、注射機構が自動的に凍結前の状態を取り戻すことができ、または簡単な手作業によるプライミング作業を実行することによって凍結前の状態を取り戻すことができる。したがって、このような注射装置の投薬量の正確さは、薬剤の一時的な凍結によって損なわれることがない。
図1
図2
図3
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図21
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