特許第6281927号(P6281927)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6281927水中酸素溶解装置およびこれを用いた水中酸素溶解方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6281927
(24)【登録日】2018年2月2日
(45)【発行日】2018年2月21日
(54)【発明の名称】水中酸素溶解装置およびこれを用いた水中酸素溶解方法
(51)【国際特許分類】
   B01F 1/00 20060101AFI20180208BHJP
   B01F 3/04 20060101ALI20180208BHJP
【FI】
   B01F1/00 A
   B01F3/04 C
【請求項の数】6
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2017-167580(P2017-167580)
(22)【出願日】2017年8月31日
【審査請求日】2017年9月27日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】515288203
【氏名又は名称】株式会社安原設備工業
(74)【代理人】
【識別番号】100111132
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100179729
【弁理士】
【氏名又は名称】金井 一美
(72)【発明者】
【氏名】安原 隆浩
(72)【発明者】
【氏名】大内 光徳
【審査官】 菊地 寛
(56)【参考文献】
【文献】 特許第5936168(JP,B2)
【文献】 特開2015−077570(JP,A)
【文献】 特開2005−034814(JP,A)
【文献】 特公昭50−003021(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01F 1/00
B01F 3/04
B01F 5/04
C02F 3/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の流体の一部の流れ方向を変化させる流れ変化部を有する周壁と、この周壁で囲まれる底部と、この底部に設けられる落下孔を備える箱型タンクと、
前記第1の流体を前記箱型タンクの内部に注入する第1の注入管と、
第2の流体を前記箱型タンクの前記内部に注入する第2の注入管と、
前記落下孔に連通する下降管を備え、
前記第1の注入管は、その第1の開口部が前記流れ変化部の内側の上方に開口し、
前記第2の注入管は、その第2の開口部が前記落下孔の上方に開口し、
前記下降管は、前記箱型タンクの前記内部に注入された前記第1の流体及び前記第2の流体が前記落下孔に流入する際に、この落下孔を上方開口端とする空洞が形成されることで、この空洞の周囲の空気が前記空洞を介して前記第1の流体及び前記第2の流体へ吸引され、前記第1の流体及び前記第2の流体に気泡が形成されることを特徴とする水中酸素溶解装置。
【請求項2】
前記周壁は、複数の前記流れ変化部を有し、
前記底部は、その中心部の周辺に複数の前記落下孔が設けられ、
前記下降管は、複数の前記落下孔とそれぞれ連通して複数設けられ、
前記第1の注入管及び前記第2の注入管は、それぞれ複数の前記落下孔と同数設置され、
複数の前記第2の注入管は、複数の前記落下孔の中心軸を挟んで、複数の前記第1の注入管の反対側にそれぞれ開口することを特徴とする請求項1に記載の水中酸素溶解装置。
【請求項3】
前記周壁は、複数の前記流れ変化部を有し、
前記底部は、その中心部に1個の前記落下孔が設けられ、
前記下降管は、1個の前記落下孔と連通して1個設けられ、
前記第1の注入管及び前記第2の注入管は、それぞれ前記落下孔の中心軸を中心として互いにそれぞれ第1の角度をなすように前記落下孔の周方向に沿って複数配置され、
複数の前記第2の注入管は、それぞれ前記中心軸を中心として複数の前記第1の注入管と異なる位相に配置されることを特徴とする請求項1に記載の水中酸素溶解装置。
【請求項4】
前記第1の開口部を通過する前記第1の流体の単位時間当たりの流量である第1の流量率が、前記第2の開口部を通過する前記第2の流体の単位時間当たりの流量である第2の流量率以上となるように、前記第1の流量率及び前記第2の流量率のうち、少なくともいずれか一方を調節する流量率調節手段を備えることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の水中酸素溶解装置。
【請求項5】
第1の流体の流れ方向を変化させる流れ変化部を有する周壁と、この周壁で囲まれる底部と、この底部に設けられる落下孔を備える箱型タンクの内部に、前記第1の流体、及び第2の流体を第1の注入管及び第2の注入管を介してそれぞれ注入する注入工程と、
前記落下孔に連通する下降管において、前記箱型タンクの前記内部に注入された前記第1の流体及び前記第2の流体が前記落下孔に流入する際に、この落下孔を上方開口端とする空洞が形成されることで、この空洞の周囲の空気が前記空洞を介して前記第1の流体及び前記第2の流体へ吸引され、前記第1の流体及び前記第2の流体に気泡が形成される気泡形成工程を備え、
前記第1の注入管は、その第1の開口部が前記流れ変化部の内側の上方に開口し、
前記第2の注入管は、その第2の開口部が前記落下孔の上方に開口することを特徴とする水中酸素溶解方法。
【請求項6】
前記注入工程の前に、前記第1の開口部を通過する前記第1の流体の単位時間当たりの流量である第1の流量率が、前記第2の開口部を通過する前記第2の流体の単位時間当たりの流量である第2の流量率以上となるように、前記第1の流量率及び前記第2の流量率のうち、少なくともいずれか一方を調節する流量率調節工程を備えることを特徴とする請求項5に記載の水中酸素溶解方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水質改善のための水中酸素溶解装置およびこれを用いた水中酸素溶解方法に係り、特に、複数の流体の組み合わせによって空洞と圧力の変化を発生させ、この空洞と圧力の変化を利用して流体中へ気体を取り込むことにより、水中に溶解した酸素の濃度を増加させる水中酸素溶解装置およびこれを用いた水中酸素溶解方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、浄化設備や湖沼、ため池、ダム等の閉塞域における水質改善を目的に、水中に溶解する酸素の濃度を増加させる技術が利用されている。このような技術としては、「気泡」を利用したものが代表的である。これは、例えば、多孔質の散気管に圧縮空気を送気する方法や、回転羽根や気体噴流の回転によるせん断流を形成しその中に空気を送気する方法、あるいはマイクロバブルやナノバブルを発生させる方法が実施されている。
しかし、上記のような技術では、例えば、気体圧縮用の大型コンプレッサー等を必要とするため、装置が大掛かりになる。その結果、消費電力量やメンテナンスの手間が膨大なものになるという課題や、多孔質の散気管に備えられる細孔が水中の微粒子や不純物によって閉塞され気泡の発生効率が低下する等の課題があった。
そこで、このような課題を解決する目的で、近年、簡易な構成で消費電力量等を抑制可能でありながら、気泡を効率良く発生させることが可能な気泡発生装置に関する技術が開発されており、それに関して既に発明が開示されている。
【0003】
本願出願人によって出願された特許文献1には、「水中酸素溶解装置およびこれを用いた水中酸素溶解方法」という名称で、自然流下によって形成される渦に空気が吸引されて気泡が発生し、超音波発振器でこの気泡を圧壊させる水中酸素溶解装置等に関する発明が開示されている。
以下、特許文献1に開示された発明について、図8を参照しながら特許文献1中に開示される符号をそのまま用いて説明する。図8(a)及び図8(b)は、それぞれ従来技術に係る水中酸素溶解装置を構成する円筒タンクの内部に注入された流体の作用を説明するための平面図及び縦断面図である。
図8(a)に示すように、水中酸素溶解装置1は、その内部に自然落下によって注入される流体10が、底部2bに設けられる落下孔2aの上方で周回しつつこの落下孔2aに流入し、渦11となって形成される円筒タンク2と、その上端3aが落下孔2aに連通するとともにその側壁3bに複数の吸気孔6が穿設される直管型の内管3と、この内管3の周囲に設けられ内管3との間で閉鎖空間13を形成するとともにこの閉鎖空間13へ空気を流入する空気流入手段7が設けられる外管4と、からなり、内管3を通過する際に複数の吸気孔6等を介し、空気が渦の周囲から流体10へ吸引され、この流体10に気泡が形成される円筒型の下降管5と、この下降管5の鉛直下方に配置され、気泡が形成された流体10が落下し貯留される箱型の貯留槽(図示せず)と、貯留槽の内部に浸漬され、貯留槽に貯留された流体10へ向かって超音波を発射することで気泡が圧壊される超音波発振器(図示せず)と、を備える。
このような水中酸素溶解装置1によれば、円筒タンク2と下降管5により、流体10の自然流下によって、流体10の内部に多くの気泡を形成することができる。すなわち、従来技術のような多孔質管やコンプレッサー等が不要であることから、装置が大掛かりになることを防止可能である。そのため、安価に製造可能であるとともに、消費エネルギーを抑制可能である。
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の発明では、円筒タンク2の内部で渦11を形成するには、円筒タンク2に投入する流体10の量と、円筒タンク2に貯留された流体10の水位(すなわち、円筒タンク2の直径)及び円筒タンク2の落下孔2aに連通する内管3の直径、の三者の条件をバランスさせる必要がある。そのため、酸素を大量の流体10の中へ短時間に溶解させようとして円筒タンク2に投入する流体10の量を増加する場合には、円筒タンク2の直径と、内管3の直径も増大させなければならない。これとともに、超音波振動子と発振器も大型化させる必要が出てくるため、超音波発振器を駆動するための電力量が増加する。その結果、消費エネルギーを抑制可能でありながら効率的に酸素を溶解するという課題が解決困難となるおそれがある。
【0005】
また、内管3の直径を増大させると、流体10が渦11の状態を維持しつつ内管3の横断面全体を満たしながら内管3を下降することが困難となる。これは、図8(b)に示すように、内管3を流下する流体10中には、複数の空洞(斜線部)がランダムに発生して負圧が形成されない部分が発生していることによるものと考えられる。このような場合では、流体10が内管3を流下する際に、流体10中へ空気が吸引され難くなり、気泡の形成効率が低下してしまうという課題が発生する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第5936168号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、このような従来の事情に対処してなされたものであり、消費エネルギーを抑制可能でありながら、流体中での気泡の形成効率が良好であって、この気泡に含まれる酸素を大量の流体の中へ短時間に溶解させることが可能な水中酸素溶解装置およびこれを用いた水中酸素溶解方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、第1の発明は、第1の流体の一部の流れ方向を変化させる流れ変化部を有する周壁と、この周壁で囲まれる底部と、この底部に設けられる落下孔を備える箱型タンクと、第1の流体を箱型タンクの内部に注入する第1の注入管と、第2の流体を箱型タンクの内部に注入する第2の注入管と、落下孔に連通する下降管を備え、第1の注入管は、その第1の開口部が流れ変化部の内側の上方に開口し、第2の注入管は、その第2の開口部が落下孔の上方に開口し、下降管は、箱型タンクの内部に注入された第1の流体及び第2の流体が落下孔に流入する際に、この落下孔を上方開口端とする空洞が形成されることで、この空洞の周囲の空気が空洞を介して第1の流体及び第2の流体へ吸引され、第1の流体及び第2の流体に気泡が形成されることを特徴とする。
【0009】
このような構成の発明において、第1の注入管の第1の開口部が開口する流れ変化部の「内側の上方」は、流れ変化部の内側付近の上方であれば、一箇所に限定されない。第2の注入管の第2の開口部が開口する落下孔の「上方」も、落下孔付近の上方であれば、一箇所に限定されない。
上記構成の発明においては、箱型タンクの内部に注入された第1の流体は、底部に衝突してその流れの方向を変え、放射状に拡散しようとする。
この放射状に拡散しようとする第1の流体は、大まかには、周壁の内側に衝突しない流れと、周壁の内側に衝突してその流れの方向を変化させ、周壁の内側に沿って進む流れを形成する。なお、第1の流体の一部の流れ方向を元の方向と異なる方向に変化させることが可能な、周壁の一部分が流れ変化部である。
周壁の内側に衝突しない流れは、底部に沿って落下孔に流入しようとする。また、周壁の内側に衝突してその流れの方向を変化させた流れは、周壁の内側に沿って進んだ結果、互いに衝突する。後者の流れの流れ方向は、この衝突により、落下孔が存在する方向に変化する。
【0010】
また、第2の注入管は、その第2の開口部が落下孔の上方に開口することから、第2の注入管から注入された第2の流体によって、後者の流れの進行が遮られることになる。そのため、後者の流れは、第2の流体の周囲に沿って回り込むように進行する一対の分岐流を形成する。
そして、一対の分岐流は、第2の流体からやや離隔した位置において、互いに合流しようとする。
また、前者の流れも、一対の分岐流によって、その進行が遮られる。これにより、第2の流体の側方には、いずれの流れも存在しない領域が出現することとなる。この流れが存在しない領域が空洞であって、この空洞は、落下孔の高さ付近を上方開口端とし、下降管を貫通するように形成されることとなる。
【0011】
第1の流体と第2の流体が落下孔に流入した以降は、第2の流体の鉛直方向成分の流速が大きいことから、空洞のうち、第2の流体が接する部分付近の圧力が低くなる。
したがって、空洞のうち、第2の流体が接する部分付近に強い負圧領域が形成される。そのため、この負圧領域を介して、周囲の空気が第1の流体及び第2の流体へ吸引され、この第1の流体及び第2の流体に気泡が形成される。
【0012】
次に、第2の発明は、第1の発明において、周壁は、複数の流れ変化部を有し、底部は、その中心部の周辺に複数の前記落下孔が設けられ、下降管は、複数の落下孔とそれぞれ連通して複数設けられ、第1の注入管及び第2の注入管は、それぞれ複数の落下孔と同数設置され、複数の第2の注入管は、複数の落下孔の中心軸を挟んで、複数の第1の注入管の反対側にそれぞれ開口することを特徴とする。
このような構成の発明においては、複数の第2の注入管は、それぞれ、複数の落下孔の中心軸を挟んで、複数の第1の注入管の反対側に開口するため、空洞は、第2の注入管から注入された第2の流体毎に、その落下孔の中心軸側にそれぞれ形成される。
上記構成の発明においては、第1の発明の作用に加えて、1個の落下孔について1個の空洞が形成される。すなわち、落下孔と同数の空洞が形成されるので、それぞれの空洞を介して周囲の空気が第1の流体及び第2の流体中に吸引される。
【0013】
さらに、第3の発明は、第1の発明において、周壁は、複数の流れ変化部を有し、底部は、その中心部に1個の落下孔が設けられ、下降管は、1個の落下孔と連通して1個設けられ、第1の注入管及び第2の注入管は、それぞれ落下孔の中心軸を中心として互いにそれぞれ第1の角度をなすように落下孔の周方向に沿って複数配置され、複数の第2の注入管は、それぞれ中心軸を中心として複数の第1の注入管と異なる位相に配置されることを特徴とする。
このような構成の発明においては、1個の落下孔について複数の空洞が形成される。そして、複数の空洞は、落下孔の中心軸を中心として第2の注入管と同じ位相に配置される。
上記構成の発明においては、第1の発明の作用に加えて、1個の落下孔について複数の空洞が形成されるので、それぞれの空洞を介して周囲の空気が第1の流体及び第2の流体中に吸引される。
【0014】
そして、第4の発明は、第1乃至第3のいずれかの発明において、第1の開口部を通過する第1の流体の単位時間当たりの流量である第1の流量率が、第2の開口部を通過する第2の流体の単位時間当たりの流量である第2の流量率以上となるように、第1の流量率及び第2の流量率のうち、少なくともいずれか一方を調節する流量率調節手段を備えることを特徴とする。
このような構成の発明においても、前述したように、一対の分岐流は、第1の開口部から注入される第1の流体に起因したものである。
よって、上記構成の発明においては、第1乃至第3のいずれかの発明の作用に加えて、流量率調節手段によって、第1の流量率が、第2の流量率以上となるよう調節されることにより、一対の分岐流の流量を一定以上に確保することができる。そのため、空洞が確実に形成されることになる。
【0015】
そして、第5の発明は、第1の流体の流れ方向を変化させる流れ変化部を有する周壁と、この周壁で囲まれる底部と、この底部に設けられる落下孔を備える箱型タンクの内部に、第1の流体、及び第2の流体を第1の注入管及び第2の注入管を介してそれぞれ注入する注入工程と、落下孔に連通する下降管において、箱型タンクの内部に注入された第1の流体及び第2の流体が落下孔に流入する際に、この落下孔を上方開口端とする空洞が形成されることで、この空洞の周囲の空気が空洞を介して第1の流体及び第2の流体へ吸引され、第1の流体及び第2の流体に気泡が形成される気泡形成工程を備え、第1の注入管は、その第1の開口部が流れ変化部の内側の上方に開口し、第2の注入管は、その第2の開口部が落下孔の上方に開口することを特徴とする。
このような構成の発明においては、第1の発明の作用と同様の作用を有する。
【0016】
そして、第6の発明は、注入工程の前に、注入工程の前に、第1の開口部を通過する第1の流体の単位時間当たりの流量が、第2の開口部を通過する第2の流体の単位時間当たりの流量以上となるように、第1の流体の単位時間当たりの流量及び第2の流体の単位時間当たりの流量のうち、少なくともいずれか一方を調節する流量率調節工程を備えることを特徴とする。
このような構成の発明においては、第1の発明の作用に加えて、流量率調節工程において、第1の開口部を通過する第1の流体の単位時間当たりの流量が、第2の開口部を通過する第2の流体の単位時間当たりの流量以上となるように調節することで、一対の分岐流の流量が確保され、空洞が確実に形成される。すなわち、流量率調節工程は、気泡形成工程を実現するための準備段階として実施される。
【発明の効果】
【0017】
第1の発明によれば、落下孔が設けられる箱型タンクと、第1及び第2の注入管と、下降管によって、下降管を貫通する1つの空洞を形成することができる。この空洞は、強い負圧領域を有することから、流体中での気泡の形成効率が良好である。
より詳細には、第1の発明は、特許文献1に係る従来技術のように、流体が渦の状態を維持しつつ下降管の内管の横断面全体を満たしながら下降管を下降するという作用を有するものではない。よって、下降管の内径を大きくした場合であっても、前述したような、第1の流体及び第2の流体が下降管を流下する際に、これらの流体中へ空気が吸引され難くなり、気泡の形成効率が低下してしまうという不利益が発生しない。
すなわち、第1の発明によれば、第1の流体及び第2の流体の流量をそれぞれ増加させた場合であっても、空洞を確実に形成することができる。そのため、空洞を介して第1の流体及び第2の流体中に、空気を大量に吸引し多くの気泡を発生させ、気泡に含まれていた酸素を短時間に溶解させることが可能である。
しかも、第1の発明によれば、電力を消費する機器を使用する必要がないため、消費エネルギーを抑制可能でありながら、上記の酸素溶解効果を実現させることが可能である。
【0018】
第2の発明によれば、第1の発明の効果に加えて、落下孔と、第1の注入管及び第2の注入管の数をそれぞれ増加させたり、増加させた落下孔等を所望の位置に配設したりすることができる。これにより、複数の空洞を形成可能であり、これらの空洞を介して大量の空気を第1の流体及び第2の流体中に吸引することができる。したがって、単位時間当たりに形成される気泡の数を大幅に増加させることができる。
【0019】
第3の発明によれば、第1の発明の効果に加えて、1個の落下孔の周辺に所望する数の第1の注入管及び第2の注入管を設置することができる。これにより、1本の下降管に形成される空洞の数を増加させることができるため、単位時間当たりに形成される気泡の数を増加させることが可能である。
【0020】
第4の発明によれば、第1乃至第3のいずれかの発明の効果に加えて、流量率調節手段によって、一対の分岐流の流量を一定以上に確保することができるので、空洞を確実に形成可能である。したがって、第1及び第2の流体中に気泡の形成効率を高い状態に維持することができる。
【0021】
第5の発明によれば、第1の発明の効果と同様の効果を発揮可能である。
【0022】
第6の発明によれば、第5の発明の効果に加えて、第4の発明の効果と同様の効果を発揮可能である。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】実施例1に係る水中酸素溶解装置の構成図である。
図2】(a)は箱型タンクの平面図であり、(b)は(a)におけるA−A線断面図である。
図3】実施例1に係る水中酸素溶解装置を構成する下降管の図1におけるB−B線矢視断面の拡大図である。
図4】実施例1に係る水中酸素溶解装置の溶解酸素濃度を従来技術と比較した結果である。
図5】実施例1の第1の変形例に係る水中酸素溶解装置を構成する箱型タンクの平面図である。
図6】実施例1の第2の変形例に係る水中酸素溶解装置を構成する箱型タンクの平面図である。
図7】実施例2に係る水中酸素溶解方法の工程図である。
図8】(a)及び(b)は、それぞれ従来技術に係る水中酸素溶解装置を構成する円筒タンクの内部に注入された流体の作用を説明するための平面図及び縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0024】
本発明の実施の形態に係る実施例1の水中酸素溶解装置について、図1乃至図6を用いて詳細に説明する。図1は、実施例1に係る水中酸素溶解装置の構成図である。
図1に示すように、本実施例に係る水中酸素溶解装置1は、周壁2と、この周壁2で囲まれる底部3と、この底部3に設けられる平面視で円形状をなす落下孔4を備える箱型タンク5と、第1の流体50を箱型タンク5の内部5aに注入する第1の注入管6と、第2の流体51を箱型タンク5の内部5aに注入する第2の注入管7と、落下孔4に連通する直管型の下降管8を備える。なお、第1の流体50及び第2の流体51として、例えば、浄化設備や湖沼、ため池、ダム等に貯留された水が対象にされるが、これ以外の流体が対象とされても良い。
【0025】
このうち、周壁2は、平面視で円形状の落下孔4の中心点x2を中心としてその外形が円形状をなしており(図2(a)参照)、第1の流体50の一部の流れ方向を変化させる流れ変化部2aを有する。
また、第1の注入管6は、その第1の開口部6aが流れ変化部2aの内側の上方に開口する円筒であり、第2の注入管7は、その第2の開口部7aが落下孔4の上方に開口する円筒である。なお、第1の注入管6の内径サイズと、第2の注入管7の内径サイズは等しい。しかし、次に説明する流量率調節手段9,10によって、第1の開口部6aを通過する第1の流体50の流量率と、第2の開口部7aを通過する第2の流体51の流量率は、適宜調節可能である。
この構成に関し、より詳細に説明すると、水中酸素溶解装置1は、第1の開口部6aを通過する第1の流体50の単位時間当たりの流量である第1の流量率FRが、第2の開口部7aを通過する第2の流体51の単位時間当たりの流量である第2の流量率FR以上となるように、第1の流量率FR及び第2の流量率FRを調節する流量率調節手段9,10を備える。具体的には、流量率調節手段9,10は、第1の注入管6及び第2の注入管7の途中にそれぞれ備えられる手動開閉バルブである。また、第1の流体50の流量及び第2の流体51の流量は、いずれも体積又は重量で表される。
したがって、水中酸素溶解装置1においては、流量率調節手段9によって流量率を調節された第1の流体50が、第1の開口部6aを通過して箱型タンク5の内部5aへ自然落下する。加えて、流量率調節手段10によって流量率を調節された第2の流体51が、第2の開口部7aを通過して箱型タンク5の内部5aへ自然落下する。
【0026】
次に、下降管8は、その上端12aが落下孔4に連通するとともにその側壁12bに複数の吸気孔11が穿設される内管12と、この内管12の周囲に設けられ内管12との間で閉鎖空間14を形成するとともにこの閉鎖空間14へ空気を流入する空気流入手段15が設けられる外管13と、からなる。なお、内管12及び外管13は、いずれも円筒直管である。
このうち、複数の吸気孔11は、内管12の長手方向に沿って、一定間隔を空けながら複数段設けられる。ただし、この段数については、特に具体的な制限はない。また、空気流入手段15としては、例えば、空気流入量調整バルブが用いられ、閉鎖空間14への空気の流入量を自在に調節可能である。したがって、第1の流体50及び第2の流体51が内管12を通過する際に、空気流入手段15及び複数の吸気孔11を介し、周囲の空気が第1の流体50及び第2の流体51へ吸引される。
さらに、下降管8は、後述するように、箱型タンク5の内部5aに注入された第1の流体50及び第2の流体51が落下孔4に流入する際に、この落下孔4を上方開口端52aとする空洞52(図3参照)が形成されることで、周囲の空気が空洞52を介して第1の流体50及び第2の流体51へ吸引され、第1の流体50及び第2の流体51に気泡が形成される。
【0027】
次に、図2を用いて、実施例1に係る水中酸素溶解装置を構成する箱型タンクの内部に、第1の流体及び第2の流体が注入された場合の作用について説明する。図2(a)は箱型タンクの平面図であり、図2(b)は(a)におけるA−A線断面図である。なお、図1で示した構成要素については、図2においても同一の符号を付して、その説明を省略する。さらに、図2(b)においては、空気流入手段の図示を省略する。
図2(a)に示すように、箱型タンク5の内部5aにおいて、第1の注入管6(図1参照)の中心軸が底部3に投影された点x1と、点x1を通り第1の注入管6の中心軸と直交する平面と落下孔4の中心軸との交点(以下、中心点x2という。)を結ぶ直線をXとするとともに、この直線Xと落下孔4の中心軸の双方に直交し、かつ中心点x2を通る直線をYとする。
図2(a)及び図2(b)に示すように、第1の注入管6を介して箱型タンク5の内部5aに注入された第1の流体50は、底部3に衝突してその流れの方向を変え、水平方向Hに沿って点x1を中心として放射状に拡散しようとする。なお、第1の注入管6及び第2の注入管7は、それぞれの中心軸が鉛直方向Vに対して平行となるように設置されている。
しかし、第1の注入管6は、その第1の開口部6a(図1参照)が周壁2の内側の上方に開口することから、放射状に拡散しようとする第1の流体50は、大まかには、周壁2の内側に衝突しない流れfと、周壁2の内側に衝突してその流れの方向を変化させ、一例として、周壁2の内側に沿って直線Yを横切って進む流れfが形成される。なお、第1の流体50の一部の流れ方向を元の方向と異なる方向に変化させることが可能な、周壁2の一部分が流れ変化部2aである。この流れ変化部2aは、本実施例の場合、平面視で滑らかに湾曲した形状であるが、第1の流体50の一部の流れ方向を変化させ得る限り、多角形状であっても良い。
【0028】
図2(a)に示すように、流れfと流れfの流れ方向は、直線Xに関し、それぞれ対称的となる。したがって、流れf,fは、直線Xに関し対称的なまま底部3に沿って落下孔4に流入しようとする。また、流れf,fは、直線Yを横切って周壁2の内側に沿って進んだ結果、直線X上で互いに衝突することで、二回目の流れ方向の変化を起こす。これにより、流れf,fの流れ方向は、落下孔4に向かうよう変化し、流れf,fとなる。その後、この流れf,fは、落下孔4に流入しようとする。
【0029】
また、第2の注入管7は、その第2の開口部7aが落下孔4の上方に開口する(図1参照)ことから、直線X上には、第2の流体51が鉛直方向Vに沿って流下している。よって、この第2の流体51によって、流れf,fの進行が遮られることになる。そのため、図2(a)に示すように、流れf,fは、流れf,fが二回目にその流れ方向を変化させた位置側から、第2の流体51の周囲に沿って回り込むように進行する一対の分岐流f,f(白抜矢印)を形成する。
このように、一対の分岐流f,fは、第1の開口部6aから注入される第1の流体50に起因したものである。そのため、仮に、第1の流体50の流量率FRが第2の流体51の流量率FRより低い場合には、流れf,fが、第2の流体51の周囲に沿って回り込むように進行し難くなってしまうおそれがある。したがって、流量率調節手段9,10によって、第1の流量率FRが、第2の流量率FR以上となるよう調節されることにより、一対の分岐流f,fの流量を一定以上に確保することができる。
【0030】
この一対の分岐流f,fは、第2の注入管7の中心軸が底部3に投影された点x3と落下孔4の中心点x2を結ぶ直線X´に関し、対称的な流れとなる。なお、本実施例の場合、直線X´は直線Xと一致する直線である。
そして、一対の分岐流f,fは、第2の流体51から点x1の方向にやや離隔した位置において互いに合流しようとする。一方、第2の流体51の大部分は、直接落下孔4に流入する。
また、第1の注入管6から注入された第1の流体50の一部である流れf,fは、底部3に沿って落下孔4に流入しようとするが、第2の流体51と一対の分岐流f,fによって、その進行が遮られる。
このように第2の流体51等によって流れf,fの進行が遮られることと、一対の分岐流f,fが、第2の流体51から点x1の方向にやや離隔した位置で互いに合流しようとすることによって、第2の流体51の側方のうち、点x1寄りの側方には、いずれの流れも存在しない領域が出現する。
【0031】
ここで、図3を用いて、実施例1に係る水中酸素溶解装置において形成される空洞について説明する。図3は、実施例1に係る水中酸素溶解装置を構成する下降管の図1におけるB−B線矢視断面の拡大図である。なお、図1及び図2で示した構成要素については、図3においても同一の符号を付して、その説明を省略する。さらに、図3においては、空気流入手段の図示を省略する。
図3に示すように、第2の流体51の側方において、いずれの流れも存在しない領域が空洞52である。空洞52は、落下孔4が設けられる高さ付近を上方開口端52aとし、下降管8の内管12を貫通するように細長形状をなして形成される。なお、内管12の内部において、空洞52以外の空間(斜線部)は、内管12を流下する第1の流体50及び第2の流体51で満たされている。
【0032】
再び、図2(a)に戻ると、第1の注入管6が注入した第1の流体50は、一部の流れf,fが底部3に沿って落下孔4に流入し、残りの流れf,fが流れf,fへの変化を経て一対の分岐流f,fに変化した後に、落下孔4に流入する。また、第2の注入管7が注入した第2の流体51は、大部分が直接落下孔4に流入する。したがって、図2(b)に示すように、第1の流体50と第2の流体51は落下孔4に流入し、空洞52の周囲を流下して下降管8の内管12を通過する。
【0033】
しかし、第1の流体50と第2の流体51が内管12を通過するとき、第2の流体51の鉛直方向V成分の流速vが大きいことから、空洞52のうち、図2(b)の負圧Pのグラフに示すように、第2の流体51が接する部分付近の圧力Pが低くなるので、この部分付近に空気がより強く吸引される。なお、第1の注入管6が注入した第1の流体50の鉛直方向V成分の流速vは、流速vよりも小さいため、空洞52のうち、第2の注入管7が接する部分付近の圧力Pは、圧力Pよりも低いものとなる。
したがって、下降管8の内管12は、内部5aに注入された第1の流体50及び第2の流体51が落下孔4に流入する際に、この落下孔4を上方開口端52aとする空洞52(図3参照)が形成されることで、周囲の空気が空洞52を介して第1の流体50及び第2の流体51へ吸引され、第1の流体50及び第2の流体51に気泡が形成されることとなる。
【0034】
そして、気泡が形成された第1の流体50及び第2の流体51は、内管12を通過して落下した後に完全に混合し合うことで形成される混合流体中で、気泡が拡散する。気泡は拡散するにつれ徐々に消滅し、気泡に含まれていた酸素が混合流体中に溶解する。なお、混合流体は、一定容積を有する貯留槽に投入される他、湖沼や水路等に直接投入されても良い。また、混合流体が貯留槽等に投入された後、気泡に対して超音波を照射し、この気泡を圧壊可能な構成にしても良い。
【0035】
次に、実施例1に係る水中酸素溶解装置と従来技術との効果を比較した実験結果について、図4を用いて詳細に説明する。図4は、実施例1に係る水中酸素溶解装置の溶解酸素濃度を従来技術と比較した結果である。
図4は、実施例1に係る水中酸素溶解装置及び従来技術にかかるばっき装置(以下、装置αという。)を水道水に対して使用した場合の、酸素の飽和度(%)を時間を追って計測した結果を示すグラフであって、横軸が使用開始からの経過時間T(分)、縦軸が飽和度(%)である。そして、グラフ中の丸印が実施例1に係る水中酸素溶解装置1、四角印が従来技術に係る装置αの結果をそれぞれ示している。なお、飽和度(%)は[{計測時の酸素濃度(mg/L)/飽和酸素濃度(mg/L)}×100]で算出され、使用された水道水の量は、水中酸素溶解装置1及び装置αともに20(L)である。また、計測時の酸素濃度(mg/L)として、溶存酸素計が実測した酸素濃度(mg/L)に水温補正を行った値を用いた。
【0036】
図4において、使用開始時点(経過時間T=0)での飽和度46(%)から、飽和度95(%)までに増加するまでの経過時間Tに注目すると、実施例1に係る水中酸素溶解装置1は、経過時間Tは10(分)であった。これに対し、装置αでは、経過時間Tは160(分)であった。すなわち、水中酸素溶解装置1では、装置αと比較して、上記の経過時間Tが、(T/T)=1/16に短縮された。
このように、水中酸素溶解装置1によれば、単位時間当たりに酸素を水道水中に溶存させる能力が極めて高いという点において、装置αと比較して顕著な優位性を発揮する結果となった。
【0037】
以上説明したように、本実施例の水中酸素溶解装置1によれば、落下孔4が設けられる箱型タンク5と、第1の注入管6と、第2の注入管7と、下降管8によって、落下孔4を上方開口端52aとし、下降管8の内管12を貫通する空洞52を形成することができる。この空洞52のうち、第2の流体51が接する部分付近に強い負圧領域が形成されることから、少なくとも第2の流体51中での気泡の形成効率が良好である。加えて、内管12では、空気流入手段15及び複数の吸気孔11を介し、周囲の空気が第1の流体50及び第2の流体51へ吸引されるので、内管12を通過して落下した第1の流体50及び第2の流体51が混合された混合流体中に、大量の気泡を発生させることができる。
【0038】
また、本実施例の水中酸素溶解装置1は、特許文献1に係る従来技術のように、流体が渦の状態を維持しつつ下降管の内管の横断面全体を満たしながら下降管を下降するという作用を有するものではない。よって、本実施例の水中酸素溶解装置1において、下降管8の内管12を流下する第1の流体50及び第2の流体51の流量を増加させるために内管12の内径を大きくした場合であっても、内管12を流下する第1の流体50及び第2の流体51中に、複数の空洞がランダムに発生して負圧領域が形成されず、その結果空気が吸引されないといった不利益が発生しない。
【0039】
すなわち、水中酸素溶解装置1によれば、内管12を流下する第1の流体50及び第2の流体51の流量をそれぞれ増加させた場合であっても、空洞52を確実に形成することができる。そのため、空洞52を介して第1の流体50及び第2の流体51中に、空気を大量に吸引し多くの気泡を発生させることが可能である。これらの気泡は第1の流体50と第2の流体51の混合流体中で拡散するにつれ徐々に消滅し、気泡に含まれていた酸素が混合流体中に溶解することから、大量の第1の流体50及び第2の流体51の中へ酸素を極めて短時間に溶解させることが可能である。
【0040】
しかも、水中酸素溶解装置1によれば、超音波発振器やコンプレッサーといった電力を消費する機器を使用する必要がないため、消費エネルギーを抑制可能でありながら、上記の酸素溶解効果を実現させることが可能である。
また、流量率調節手段9,10により、一対の分岐流f,fの流量を一定以上に確保することができるので、空洞52を確実に形成することができる。したがって、第1の流体50及び第2の流体51中における気泡の形成効率を高い状態に維持することができる。また、第1の注入管6及び第2の注入管7がそれぞれ注水する流量が時間的に変動した場合であっても、酸素の溶解量を一定以上に保つことができる。
このように、水中酸素溶解装置1によれば、簡易な構成でありながら、図4に示したように、従来技術と比較して、水中に対する酸素の溶解効率を顕著に向上させることが可能である。
【0041】
次に、実施例1の第1の変形例に係る水中酸素溶解装置について、図5を用いて説明する。図5は、実施例1の第1の変形例に係る水中酸素溶解装置を構成する箱型タンクの平面図である。なお、図1乃至図4で示した構成要素については、図5においても同一の符号を付して、その説明を省略する。
図5に示すように、実施例1の第1の変形例に係る水中酸素溶解装置1aにおいて、箱型タンク16の周壁17は、その外形が平面視で楕円形状をなし、楕円の長軸両端に相当する位置にそれぞれ流れ変化部17a,17a´を有する。底部18は、その中心部18aの周辺に、この中心部18aを挟んで対称的な位置に落下孔19,19´が設けられる。また、下降管8は、複数の落下孔19,19´とそれぞれ連通して合計2本設けられる。すなわち、落下孔19,19´毎に1本の下降管8が設けられる。
【0042】
また、第1の注入管6及び第2の注入管7(図1参照)は、それぞれ複数の落下孔19,19´と同数の2本設置される。すなわち、落下孔19,19´毎に1本の第1の注入管6と、1本の第2の注入管7が設けられる。
第1の注入管6,6は、底部18を平面視した場合に、落下孔19,19´の各中心軸を挟んで、第2の注入管7,7の反対側にそれぞれ開口する。したがって、落下孔19の中心軸を挟んで、第1の流体50及び第2の流体51が箱型タンク16の内部16aに注入され、かつ落下孔19´の中心軸を挟んで、第1の流体50及び第2の流体51が箱型タンク16の内部16aに注入される。水中酸素溶解装置1aにおけるこの他の構成は、実施例1の水中酸素溶解装置1の構成と同様である。
【0043】
次に、水中酸素溶解装置1aの作用について、説明する。
図5に示すように、箱型タンク16の内部16aにおいて、第1の注入管6,6の中心軸が底部18にそれぞれ投影された点x3,x3´と、点x3,x3´を通り第1の注入管6,6の中心軸と直交する平面と落下孔19,19´の中心軸との交点(以下、中心点x4,x4´という。)を結ぶ直線をXとするとともに、この直線Xと落下孔19,19´の中心軸の双方に直交し、かつ底部18の中心部18aを通る直線をYとする。
内部16aのうち、直線Yを境界とした右側領域では、実施例1の水中酸素溶解装置1と同様に、周壁17の内側に衝突しない流れmと、流れ変化部17aの内側に衝突してその流れの方向を変化させて進む流れmが形成される。
【0044】
また、内部16aのうち、直線Yを境界とした左側領域でも同様に、周壁17の内側に衝突しない流れnと、流れ変化部17a´の内側に衝突してその流れの方向を変化させて進む流れnが形成される。なお、流れmと流れnの流れ方向は、直線Yに関して互いに対称的である。また、流れmと流れnの流れ方向も直線Yに関して互いに対称的である。
【0045】
次に、流れmと流れnは、それぞれ落下孔19,19´に直接流入しようとするが、流れmと流れnは、直線Y上で互いに衝突して直線Xに向かうよう変化し、それぞれ流れmと流れnとなる。
さらに、流れmと流れnは、直線Xに関して対称的に形成されるので、流れm,mは、直線X上で互いに衝突して落下孔19に向かうよう変化し、流れm,mとなる。同様に、流れn,nは、直線X上で互いに衝突して落下孔19´に向かうよう変化し、流れn,nとなる。
【0046】
また、第2の注入管7,7の第2の開口部7a,7aが落下孔19,19´の上方にそれぞれ開口するため、直線Y上に流下する第2の流体51,51によって、流れm,mと流れn4,の進行がそれぞれ遮られることになる。そのため、流れm,mは、直線Yから、第2の流体51の周囲に沿って回り込むように進行する一対の分岐流m,m(白抜矢印)を形成する。流れn,nについても同様に、一対の分岐流n,n(白抜矢印)を形成する。
【0047】
そして、直線Yを境界とした右側領域では、一対の分岐流m,mは、直線Xに関し、対称的な流れとなっており、第2の流体51から点x3の方向にやや離隔した位置において、互いに合流しようとする。直線Yを境界とした左側領域に形成された一対の分岐流n,nについても、これと同様に、第2の流体51から点x3´の方向にやや離隔した位置において、互いに合流しようとする。一方、第2の流体51,51の大部分は、直接落下孔19,19´にそれぞれ流入する。
したがって、直線Yを挟んだ両側の領域において、水中酸素溶解装置1の場合と同様に、第2の流体51,51の点x3,x3´寄りの側方に、いずれの流れも存在しない領域である空洞53,53´がそれぞれ出現する。すなわち、落下孔19,19´と同数の空洞53,53´が形成されるので、空洞53を介して周囲の空気が第1の流体50及び第2の流体51に吸引されるとともに、空洞53´を介して周囲の空気が第1の流体50及び第2の流体51に吸引される。
【0048】
このような構成の水中酸素溶解装置1aによれば、複数の空洞53,53´を形成可能であり、これらの空洞53,53´を介して大量の空気を第1の流体50,50及び第2の流体51,51中に吸引することができる。したがって、単位時間当たりに形成される気泡の数を大幅に増加させることができる。
水中酸素溶解装置1aにおけるこの他の作用及び効果は、実施例1の水中酸素溶解装置1の作用及び効果と同様である。
【0049】
さらに、実施例1の第2の変形例に係る水中酸素溶解装置について、図6を用いて説明する。図6は、実施例1の第2の変形例に係る水中酸素溶解装置を構成する箱型タンクの平面図である。なお、図1乃至図5で示した構成要素については、図6においても同一の符号を付して、その説明を省略する。
図6に示すように、実施例1の第2の変形例に係る水中酸素溶解装置1bにおいて、箱型タンク20の周壁21は、その外形が平面視で4個の円が十字形をなすように一部重複してそれぞれ組み合わされた形状であり、十字形の4箇所の端部に相当する位置にそれぞれ流れ変化部21a〜21aを有する。底部22は、その中心部22aを中心として1個の円形状をなす落下孔23が設けられる。また、下降管8は、1個の落下孔23と連通して1個設けられる。
【0050】
次に、第1の注入管6(図1参照)は、底部22を平面視した場合に、落下孔23の中心軸23a、すなわち中心部22aを中心として互いにそれぞれ角度θをなすように落下孔23の周方向に沿って合計4本配置される。なお、合計4本の第1の注入管6の中心軸が底部22にそれぞれ投影された4箇所の点をそれぞれx5〜x8とする。
また、第2の注入管7(図1参照)についても、第1の注入管6と同様に、合計4本配置される。ただし、合計4本の第2の注入管7は、底部22を平面視した場合に、それぞれ中心軸23aを中心として合計4本の第1の注入管6と異なる位相に配置され、その位相の差φの絶対値は、第1の角度θの大きさの1/2である。なお、合計4本の第2の注入管7の中心軸が底部22にそれぞれ投影された4箇所の点を、それぞれx9〜x12とする。水中酸素溶解装置1bにおける。水中酸素溶解装置1bにおけるこの他の構成は、実施例1の水中酸素溶解装置1の構成と同様である。
【0051】
次に、水中酸素溶解装置1bの作用について、説明する。
図6に示すように、箱型タンク20の内部20aにおいて、点x5,x7を通り落下孔23の中心軸23aと直交する平面と点x5,x7との交点を結ぶ直線をXとするとともに、この直線Xと中心軸23aの双方に直交し、かつ中心軸23aを通る直線をYとする。また、直線X,Yを、中心軸23aを中心として時計周りに45度回動させた直線を、それぞれ直線X,Yとする。
内部20aのうち、直線Yを境界とした右側領域では、実施例1の水中酸素溶解装置1と同様に、周壁21の内側に衝突しない流れqと、流れ変化部21aの内側に衝突してその流れの方向を変化させて進む流れqが形成される。
また、内部16aのうち、直線Yを境界とした左側領域でも同様に、周壁21の内側に衝突しない流れrと、流れ変化部21aの内側に衝突してその流れの方向を変化させて進む流れrが形成される。なお、流れqと流れrの流れ方向は、直線Yに関して互いに対称的である。また、流れqと流れrの流れ方向も直線Yに関して互いに対称的である。
【0052】
さらに、内部20aのうち、直線Xを境界とした上側領域では、実施例1の水中酸素溶解装置1と同様に、周壁21の内側に衝突しない流れsと、流れ変化部21aの内側に衝突してその流れの方向を変化させて進む流れsが形成される。
また、内部16aのうち、直線Xを境界とした下側領域でも同様に、周壁21の内側に衝突しない流れtと、流れ変化部21aの内側に衝突してその流れの方向を変化させて進む流れtが形成される。なお、流れsと流れtの流れ方向は、直線Xに関して互いに対称的である。また、流れsと流れtの流れ方向も直線Xに関して互いに対称的である。
ここで、直線Xと直線Yによって区分される4つの領域のうち、右上に位置する領域をSとし、右下に位置する領域をSとする。また、上記4つの領域のうち、左下に位置する領域をSとし、左上に位置する領域をSとする。
【0053】
次に、領域S〜Sにおいて、流れq,流れr,流れs及び流れtは、それぞれ落下孔23に直接流入しようとする。しかし、領域Sにおいて、流れqと流れsは、直線Y上で互いに衝突して落下孔23へ向かうよう変化する。
また、領域Sにおいて、流れqと流れtは、直線X上で互いに衝突して落下孔23へ向かうよう変化する。
さらに、領域Sにおいて、流れtと流れrは、直線Y上で互いに衝突して落下孔23へ向かうよう変化する。
そして、領域Sにおいて、流れrと流れsは、直線X上で互いに衝突して落下孔23へ向かうよう変化する。
【0054】
また、第2の注入管7は、落下孔23の周方向に沿って合計4本配置されるため、直線X,Y上の4箇所に流下する第2の流体51によって、実施例1の水中酸素溶解装置1の場合と同様に、領域Sにおいて、それぞれ第2の流体51の周囲に沿って回り込むように落下孔23に向かって進行する一対の分岐流w,w(白抜矢印)が形成される。領域S〜Sについても同様に、それぞれ一対の分岐流w,w〜w,w(いずれも白抜矢印)が形成される。
したがって、領域S〜Sのそれぞれにおいて、水中酸素溶解装置1の場合と同様に、第2の流体51の点x6寄りの側方に、いずれの流れも存在しない領域である空洞54がそれぞれ出現する。すなわち、1個の落下孔23について4個の空洞54が形成されるので、それぞれの空洞54を介して周囲の空気が第1の流体50及び第2の流体51中に吸引される。
【0055】
このような構成の水中酸素溶解装置1bによれば、1個の落下孔23の周辺に所望する数の第1の注入管6及び第2の注入管7を設置することができる。これにより、1本の下降管8に形成される空洞54の数を増加させることができるため、単位時間当たりに形成される気泡の数を増加させることが可能である。また、落下孔の数が1個で済むため、箱型タンク20を容易に製造可能である。
水中酸素溶解装置1bにおけるこの他の作用及び効果は、実施例1の水中酸素溶解装置1の作用及び効果と同様である。
【実施例2】
【0056】
本発明の実施の形態に係る実施例2の水中酸素溶解方法について、図7を用いて詳細に説明する。図7は、実施例2に係る水中酸素溶解方法の工程図である。なお、図1乃至図6で示した構成要素については、図7においても同一の符号を付して、その説明を省略する。
図7に示すように、実施例2に係る水中酸素溶解方法24は、ステップS1の流量率調節工程、ステップS2の注入工程、ステップS3の気泡形成工程、から構成される。また、水中酸素溶解方法24は、例えば、実施例1の水中酸素溶解装置1を使用する場合に適用可能である。そのため、本実施例中で示される符号は、それぞれ図1乃至図3で示した符号を用いている。
ステップS1の流量率調節工程は、第1の開口部6aを通過する第1の注入管6の単位時間当たりの流量である第1の流量率FRが、第2の開口部7aを通過する第2の注入管7の単位時間当たりの流量である第2の流量率FR以上となるように、第1の流量率及FR及び第2の流量率FRを調節する流量率調節工程を備える
したがって、本工程では、箱型タンク5の内部5aにおいて、一対の分岐流f,fの流量が確保され、空洞52が確実に形成されることになる。よって、ステップS3の気泡形成工程における大量の気泡形成に寄与することができる。なお、実施例1では、水中酸素溶解装置1に流量率調節手段9,10が設けられているので、第1の開口部6a及び第2の開口部7aの横断面積の大きさをそれぞれ調節可能である。
【0057】
ステップS2の注入工程は、箱型タンク5の内部5aに、第1の流体50及び第2の流体51を第1の注入管6及び第2の注入管7を介してそれぞれ注入する。
本工程では、図2を用いて説明したように、第1の流体50及び第2の流体51の注入によって、一対の分岐流f,fが形成され、ひいては、第2の流体51の周囲に、強い負圧領域である空洞52を形成可能である。
【0058】
ステップS3の気泡形成工程は、空洞52が形成されることで、周囲の空気が空洞52を介して第1の流体50及び第2の流体51へ吸引され、第1の流体50及び第2の流体51に気泡が形成される。
したがって、第1の流体50と第2の流体51が内管12を通過した後に完全に混合し合うことで形成される混合流体中で、気泡が拡散しながら消滅するため、気泡に含まれていた酸素が混合流体中に溶解し、酸素の溶解濃度を飛躍的に増加させることができる。
以上説明したように、実施例2に係る水中酸素溶解方法24によれば、実施例1の水中酸素溶解装置1と同様の効果を発揮できる。
【0059】
なお、本発明の水中酸素溶解装置1〜1bの構造は実施例に示すものに限定されない。例えば、第1の注入管6及び第2の注入管7は、それぞれ円筒以外にも横断面が多角形状を有する管体が用いられても良い。また、流量率調節手段9,10が備えられる場合、この流量率調節手段9,10が第1の流体50及び第2の流体51の流量を調節可能であるため、第1の注入管6の内径サイズと第2の注入管7の内径サイズの比率は、特に限定されない。
さらに、第1の注入管6の内径サイズと第2の注入管7の内径サイズの比率や箱型タンク5,16,20の容積等を調整することによって空洞52を形成可能である場合には、流量率調節手段9,10のうちのいずれか一方、又は流量率調節手段9,10のいずれもが設けられなくても良い。なお、流量率調節手段9,10のいずれもが設けられない場合には、実施例2の水中酸素溶解方法24のステップS1の流量率調節工程は、省略される。この他、下降管8に設けられる吸気孔11は、省略されてもよい。
【0060】
また、実施例1の第1の変形例である水中酸素溶解装置1aでは、底部18の形状が楕円形状以外にも三角形状や四角形状といった多角形状に形成されるとともに、流れ変化部17a等が底部18の形状に対応可能に備えられても良い。
さらに、実施例1の第2の変形例である水中酸素溶解装置1bでも、底部22の形状が楕円形状や三角形状等の多角形状に形成されるとともに、流れ変化部21a等が底部22の形状に対応可能に備えられても良い。また、流れ変化部21a〜21aは、それぞれ直線X又は直線Yに関して非対称な形状をなしていても良く、このとき、位相の差φの絶対値は第1の角度θの大きさの1/2とならない場合がある。
この他、実施例2の水中酸素溶解方法24は、実施例1の第1及び第2の変形例である水中酸素溶解装置1a,1bを使用する場合にも適用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明は、観賞用水中生物の飼育や研究・商業用生物の養殖を目的に、又は浄化設備や湖沼等の閉塞域における水質改善を目的に、水中に溶解する酸素の濃度を増加させるための水中酸素溶解装置およびこれに用いる水中酸素溶解方法としても利用可能である。
【符号の説明】
【0062】
1,1a,1b…水中酸素溶解装置 2…周壁 2a…流れ変化部 3…底部 4…落下孔 5…箱型タンク 5a…内部 6…第1の注入管 6a…第1の開口部 7…第2の注入管 7a…第2の開口部 8…下降管 9,10…流量率調節手段 11…吸気孔 12…内管 12a…上端 12b…側壁 13…外管 14…閉鎖空間 15…空気流入手段 16…箱型タンク 16a…内部 17…周壁 17a,17a´…流れ変化部 18…底部 18a…中心部 19,19´…落下孔 20…箱型タンク 20a…内部 21…周壁 21a〜21a…流れ変化部 22…底部 22a…中心部 23…落下孔 23a…中心軸 24…水中酸素溶解方法 50…第1の流体 51…第2の流体 52…空洞 52a…上方開口端 53,53´…空洞 54…空洞
【要約】
【課題】消費エネルギーを抑制可能でありながら、流体中での気泡の形成効率が良好であって、この気泡に含まれる酸素を大量の流体の中へ短時間に溶解させることが可能な水中酸素溶解装置およびこれを用いた水中酸素溶解方法を提供する。
【解決手段】第1の流体50の一部の流れ方向を変化させる流れ変化部2aを有する周壁2と、周壁2で囲まれる底部3と、底部3に設けられる落下孔4を備える箱型タンク5と、第1の流体50を箱型タンク5の内部5aに注入する第1の注入管6と、第2の流体51を内部5aに注入する第2の注入管7と、落下孔4に連通する下降管8を備え、第1の注入管6は、第1の開口部6aが流れ変化部2aの内側の上方に開口し、第2の注入管7は、第2の開口部7aが落下孔4の上方に開口する。
【選択図】図1
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