(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
工程(I)において、アミド化反応に先立ち、カルボキシ基含有セルロース繊維を水溶性有機溶媒又はアミンと混合して蒸留又は濾過を行い、含水量を0.1〜10質量%にする工程を含む、請求項1に記載の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の微細セルロース繊維複合体の分散液の製造方法は、酸化セルロース繊維に特定のアミド化反応を行う工程〔工程(I)〕と得られた反応物に特定の精製工程を行う工程〔工程(II)〕を含むことに特徴を有する。
【0011】
〔工程(I)〕
工程(I)では、含水量が0.1質量%以上のカルボキシ基含有セルロース繊維に、炭化水素基を有する第1級又は第2級アミンを接触させて、加圧下、90℃以上の条件下にてアミド化反応を行い、炭化水素基がアミド結合を介して連結してなる微細セルロース繊維複合体を得る。
【0012】
<カルボキシ基含有セルロース繊維>
(含水量)
本発明でアミド化反応に供される原料のカルボキシ基含有セルロース繊維(以降、酸化セルロース繊維ともいう)は、ピラノース環中の6位炭素のみが酸化されてカルボキシ基に変換した構造を有するものであり、酸化セルロース繊維の生産性の観点から、含水量が0.1質量%以上、好ましくは30質量%以上、より好ましくは50質量%以上である。また、上限値は特に設定されないが、好ましくは95質量%以下、より好ましくは90質量%以下である。本発明では、酸化セルロース繊維中に水分が存在することにより、得られる酸化セルロース繊維のアミド化物(微細セルロース繊維複合体)の樹脂への分散性が向上する。通常アミド化反応は脱水反応であるから、原料の水分が少ないほど進行しやすいと考えられるところ、特定の水分量を有する原料を用いることで分散性の良い複合体が得られることは予想外の結果である。かかる理由は明らかではないが、反応時に凝集物が生成しにくいことが要因の一つと考えられる。なお、セルロース繊維の含水量は、後述の実施例に記載の方法に従って測定することができる。
【0013】
原料として用いる酸化セルロース繊維は、公知の方法に従って調製することができ、例えば、木材パルプ等の天然セルロース繊維を、2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジン−N−オキシル(TEMPO)触媒の下で酸化処理することにより得られる。
【0014】
酸化セルロース繊維は、金属塩型のカルボキシ基を有するものであっても良く、酸型のカルボキシ基(COOH)を有するものであっても良い。工業的な取扱の観点から酸型が好ましく、金属塩型は塩酸等の酸により酸型に変換することが望ましい。なお、かかる酸化セルロース繊維は、公知の方法、例えば、特開2011−140632号公報に記載の方法に従って調製して用いてもよい。
【0015】
また、酸化セルロース繊維は、前記酸化処理の後、微細化処理を行ったものであってもよい。よって、本発明における酸化セルロース繊維には、微細化処理を行った酸化微細セルロース繊維も含まれる。微細化処理としては公知の方法が特に限定なく用いられ、例えば、酸化処理物を水等の溶媒中に分散させて公知の分散機、例えば、離解機、叩解機、低圧ホモジナイザー、高圧ホモジナイザー、グラインダー、カッターミル、ボールミル、ジェットミル、短軸押出機、2軸押出機、超音波攪拌機、家庭用ジューサーミキサー等を用いて処理することができる。
【0016】
(平均繊維径)
工程(I)で原料として用いる酸化セルロース繊維の平均繊維径は、均一な繊維径を持つ微細セルロース繊維複合体を調製する観点から、好ましくは1nm以上、より好ましくは1.3nm以上、さらに好ましくは1.6nm以上、さらに好ましくは1.8nm以上、よりさらに好ましくは2nm以上である。また、樹脂中に含有させてシート状の樹脂成形体とした時の機械的強度を十分に向上させる観点から、好ましくは200nm以下、より好ましくは100nm以下、さらに好ましくは50nm以下、さらに好ましくは30nm以下、よりさらに好ましくは20nm以下である。該平均繊維径が1nm以上であると、繊維径を揃えることが容易であり、また該平均繊維径が200nm以下であると、得られる微細セルロース繊維複合体を樹脂に配合した際の機械的強度の向上効果が良好である。なお、セルロース繊維の平均繊維径は、後述の実施例に記載の方法に従って測定することができる。
【0017】
(カルボキシ基含有量)
工程(I)で原料として用いる酸化セルロース繊維のカルボキシ基含有量は、該繊維を構成するセルロース中のカルボキシ基の中で、酸塩基滴定されるものの量を意味する。前記カルボキシ基含有量は、本発明により得られる微細セルロース繊維複合体を含有するシート状の樹脂成形体の引っ張り強度及び破断伸度の観点から、好ましくは0.1mmol/g以上、より好ましくは0.4mmol/g以上、さらに好ましくは0.6mmol/g以上、さらに好ましくは0.8mmol/g以上、さらに好ましくは1.0mmol/g以上、さらに好ましくは1.2mmol/g以上である。また、得られる微細セルロース繊維複合体の取り扱い性を向上させる観点から、好ましくは3mmol/g以下、より好ましくは2mmol/g以下、さらに好ましくは1.8mmol/g以下、さらに好ましくは1.6mmol/g以下である。その詳細な理由は明確ではないが、工程(I)で原料として用いる酸化セルロース繊維のカルボキシ基含有量が上記範囲内であれば、工程(I)におけるアミド化率が向上することで、得られる微細セルロース繊維複合体は樹脂中での分散性に優れると考えられる。そのため、当該微細セルロース繊維複合体を含有するシート状の樹脂成形体は引っ張り強度及び破断伸度が高いと考えられる。なお、セルロース繊維のカルボキシ基含有量は、後述の実施例に記載の方法に従って測定することができる。
【0018】
<アミン化合物>
本発明では、炭化水素基を有する第1級又は第2級アミンを用いる。これらのアミン化合物は、前記酸化セルロース繊維表面に存在するカルボキシ基と選択的に結合して、炭化水素基を有するアミド基に置換することで、該繊維表面を疎水化させる。これにより、樹脂と配合した時に該樹脂中での分散性に優れるものとなり、得られる樹脂組成物が本来有する透明性を維持しながら、機械的強度及び耐熱性を向上することができる。また、炭化水素基がアミド結合を介して表面に導入されることでセルロース繊維の耐熱性が向上し、高温での混練に十分耐えることが可能になり、樹脂中での分散性が向上することで、樹脂組成物の機械的強度及び耐熱性が向上するものと考えられる。
【0019】
炭化水素基は、飽和炭化水素基及び不飽和炭化水素基のいずれでもよいが、副反応を抑制する観点及び安定性の観点から、飽和炭化水素基であることが好ましい。また、該炭化水素基は、直鎖状又は分岐状の炭化水素基であることが好ましい。炭化水素基の炭素数は、取り扱い性の観点から、1以上が好ましく、2以上がより好ましく、3以上がさらに好ましい。また、入手容易性の観点から、30以下が好ましく、18以下がより好ましく、16以下がさらに好ましく、12以下がさらに好ましく、8以下がさらに好ましく、5以下がよりさらに好ましい。好適な炭化水素基としては、炭素数が1の炭化水素基、炭素数が好ましくは2〜30、より好ましくは2〜18、さらに好ましくは2〜12、さらに好ましくは3〜8、よりさらに好ましくは3〜5の、飽和又は不飽和の、直鎖状又は分岐状の炭化水素基が挙げられる。
【0020】
炭化水素基の具体例としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、2−エチルヘキシル基、デシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、オクタデシル基等が挙げられる。
【0021】
かかる炭化水素基を有する第1級アミンとしては、具体的にはメチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ペンチルアミン、ヘキシルアミン、ヘプチルアミン、オクチルアミン、2−エチルヘキシルアミン、デシルアミン、ドデシルアミン、トリデシルアミン、テトラデシルアミン、オクタデシルアミン等が挙げられる。得られる樹脂組成物の透明性及び機械的強度の観点から、炭素数1〜12の第1級アミンが好ましく、具体的にはメチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ペンチルアミン、ヘキシルアミン、ヘプチルアミン、オクチルアミン、2−エチルヘキシルアミン、デシルアミン、ドデシルアミンが挙げられる。より好ましくは炭素数1〜8の第1級アミンであり、具体的にはメチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ペンチルアミン、ヘキシルアミン、ヘプチルアミン、オクチルアミンが挙げられ、さらに好ましくは炭素数3〜5の第1級アミンであり、具体的には、プロピルアミン、ブチルアミン、ペンチルアミンが挙げられる。
【0022】
前記第2級アミンとしては、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジイソプロピルアミン、ジオクチルアミン、ジデシルアミン、ジドデシルアミン、ジテトラデシルアミン、ジオクタデシルアミン等が挙げられる。
【0023】
前記炭化水素基を有する第1級又は第2級アミンは、単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの中では、カルボキシ基との反応性の観点から、好ましくは炭素数1〜18、より好ましくは炭素数1〜16、さらに好ましくは炭素数2〜12、さらに好ましくは炭素数3〜8、さらに好ましくは炭素数3〜5の直鎖状又は分岐状の炭化水素基を有する第1級アミンが好ましい。
【0024】
アミンの使用量は、反応性の観点から、カルボキシ基含有セルロース繊維に含有されるカルボキシ基1molに対して、好ましくは1mol以上、より好ましくは5mol以上、さらに好ましくは10mol以上、さらに好ましくは30mol以上、さらに好ましくは50mol以上であり、好ましくは300mol以下、より好ましくは200mol以下、さらに好ましくは150mol以下である。該アミン量が1mol以上であれば、カルボキシ基との反応性が良好でかつ反応制御が容易であり、150mol以下であれば、生産性および製造コストの観点から好ましい。なお、前記範囲に含まれる量のアミンを一度に反応に供しても、分割して反応に供してもよい。
【0025】
<反応条件>
本発明においては、前記カルボキシ基含有セルロース繊維とアミンとの反応は、加圧下、90℃以上の条件下にて行う。具体的には、例えば、カルボキシ基含有セルロース繊維とアミンを耐圧反応容器内に投入し、容器内を窒素置換した後、加圧加温条件にて反応を行う。反応時は攪拌を行ってもよいが、製造設備によっては、攪拌をせずに加熱処理を行ってもなんら問題はない。なお、前記反応時に公知の縮合剤を用いることができるが、反応性および製造コストの観点から、用いないことが好ましい。
【0026】
反応温度は、アミド化の反応性の観点から、90℃以上、好ましくは100℃以上、より好ましくは110℃以上である。また、上限は特に設定されないが、生成物の着色抑制の観点から、180℃以下が好ましい。
【0027】
反応時の圧力は、アミド化の反応性の観点から、好ましくは0.05MPa以上、より好ましくは0.1MPa以上、さらに好ましくは0.3MPa以上、さらに好ましくは0.5MPa以上である。また、上限は特に設定されないが、製造設備の負担低減の観点から、好ましくは2MPa以下であり、より好ましくは1.5MPa以下であり、さらに好ましくは1.2MPa以下である。
【0028】
反応時間は、用いるアミンの種類や量、反応温度、圧力、用いる反応容器の形状や攪拌の有無等に応じて適宜設定することができる。例えば、1〜20時間である。
【0029】
<前処理>
また、本発明においては、アミド化の反応性を向上させる観点及び得られる微細セルロース繊維複合体の分散性を向上させる観点から、カルボキシ基含有セルロース繊維をアミド化反応に先立って、水溶性有機溶媒又はアミンにて前処理したものを用いてもよい。具体的には、アミド化反応に先立ち、カルボキシ基含有セルロース繊維を水溶性有機溶媒又はアミン中に分散攪拌した後、蒸留又は濾過する方法により、水分量を調整することができる。蒸留又は濾過操作は、過度の濃縮による凝集物の発生を避けるため、残留するカルボキシ基含有セルロース繊維の固形分が好ましくは80質量%以下、より好ましくは70質量%以下、更に好ましくは60質量%以下に保たれるように行う。このように水溶性有機溶媒又はアミンと混合することで、アミド化反応前のカルボキシ基含有セルロース繊維は、含水量が好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは1質量%以上、さらに好ましくは3質量%以上であり、また、好ましくは10質量%以下、より好ましくは8質量%以下、さらに好ましくは6質量%以下とすることができる。カルボキシ基含有セルロースの水分量を調整することで、凝集を抑えつつカルボキシ基とアミンの脱水反応性を向上させることができ、分散性に優れる微細セルロース繊維複合体が得られるものと推察される。前処理操作は繰り返し行うことができる。なお、前処理で用いる水溶性有機溶媒はそのまま残留してもよく、アミンは続くアミド化反応工程におけるアミンとして用いられてもよい。
【0030】
前処理で用いる水溶性有機溶媒としては、炭素数1〜6のアルコール類、炭素数3〜4のケトン類、テトラヒドロフラン、エチレングリコールジメチルエーテル等のエーテル類、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、アセトニトリル等が挙げられる。また、前処理で用いるアミンとしては、前記したアミド化反応に用いるアミン類が挙げられる。これらは、単独で又は2種以上を混合して用いてもよい。前処理で用いる水溶性有機溶媒又はアミンの使用量は、カルボキシ基含有セルロース繊維を分散できる有効量であればよく、特に制限はないが、水分の除去性を向上させる観点から、カルボキシ基含有セルロース繊維に対して、好ましくは2質量倍以上、より好ましくは5質量倍以上であり、好ましくは50質量倍以下、より好ましくは20質量倍以下である。ここでいう使用量とは、複数の水溶性有機溶媒又はアミンを用いる場合は、合計使用量を意味する。
【0031】
反応時のカルボキシ基含有セルロース繊維とアミンの混合物の含水量は、アミド化の反応性の観点から、60質量%以下が好ましく、50質量%以下がより好ましく、40質量%以下がさらに好ましい。また、樹脂への分散性の観点から、0.3質量%以上が好ましく、1質量%以上がより好ましい。
【0032】
かくして、酸化セルロース繊維にアミド化反応を行って、炭化水素基がアミド結合を介して連結してなる微細セルロース繊維複合体が得られる。炭化水素基がアミド結合を介して連結してなる微細セルロース繊維複合体における炭化水素基の平均結合量は、樹脂への分散性の観点から、好ましくは0.1mmol/g以上、より好ましくは0.2mmol/g以上、さらに好ましくは0.4mmol/g以上である。また、着色および副生物の抑制の観点から、好ましくは2mmol/g以下、より好ましくは1.5mmol/g以下、さらに好ましくは1.0mmol/g以下である。
【0033】
また、炭化水素基の導入率は、樹脂への分散性の観点から、好ましくは微細セルロース繊維のカルボキシ基に対して5モル%以上、より好ましくは10モル%以上、さらに好ましくは15モル%以上である。また、着色および副生物の抑制の観点から、好ましくは90モル%以下、より好ましくは70モル%以下、さらに好ましくは50モル%以下である。なお、本発明において、炭化水素基の平均結合量(mmol/g)及び導入率(モル%)は、具体的には後述の実施例に記載の方法で求められる。
【0034】
得られた反応物は、次の精製工程である工程(II)に供する。
【0035】
〔工程(II)〕
工程(II)では、工程(I)で得られた微細セルロース繊維複合体を、沸点が50℃以上の有機溶媒の存在下にて、蒸留及び濾過洗浄からなる群より選ばれる1種又は2種の処理を行って、未反応アミン及び水を除去し、固形分含有量が60質量%以下の微細セルロース繊維複合体の分散液を得る。分散液の分散媒には沸点が50℃以上の有機溶媒が含まれていることが好ましく、非水分散液となることが好ましい。本明細書において「非水」とは、主たる分散媒、好ましくは分散媒の50質量%以上が水以外であることを意味する。
【0036】
工程(I)で得られた炭化水素基がアミド結合を介して連結してなる微細セルロース繊維複合体は、未反応のアミンや水分等を含有するので、これらを除去するために後処理を行う。後処理の方法としては、例えば、蒸留、濾過、遠心分離、透析、乾燥等を挙げることができるが、本発明では、特定の有機溶媒の存在下にて、固形分含有量が特定量となるように、蒸留及び濾過洗浄からなる群より選ばれる1種又は2種の処理を行うことにより、セルロース繊維を凝集させることなく、未反応アミンと水の除去が効率的に行われ、樹脂への分散性が高く、色相にも優れる、微細セルロース繊維複合体の分散液を得ることが可能となる。
【0037】
工程(II)で用いる有機溶媒は、沸点が50℃以上のものであればよい。具体的には、イソプロピルアルコール、アセトン、メタノール、エタノール、プロピルアルコール、ブタノール、ヘキサンが挙げられる。これらは、単独で又は2種以上組み合わせて用いることができ、なかでも、洗浄性の観点から、イソプロピルアルコール、エタノール、及びアセトンからなる群より選ばれる1種又は2種以上が好ましい。工程(II)で用いる有機溶媒は、工程(I)にて前処理のために水溶性溶剤を用いた場合は、その水溶性溶媒を用いることができる。
【0038】
工程(II)で得られる分散液は、固形分含有量が60質量%以下、好ましくは50質量%以下、より好ましくは30質量%以下となる状態で得られる。固形分含有量が60質量%以下となる状態を維持することで、得られる微細セルロース繊維複合体が凝集することなく解繊しやすいことから、樹脂への分散性に優れるという効果が奏される。
【0039】
本発明において前記有機溶媒存在下にて精製する方法としては、蒸留する方法、及び濾過洗浄する方法が挙げられる。
【0040】
蒸留方法としては、前記有機溶媒を用いるのであれば特に限定はないが、蒸留後の分散液そのものの固形分含有量が60質量%以下となる方法が好ましい。例えば、工程(I)で得られた微細セルロース繊維複合体を前記有機溶媒中に分散させたものを固形分含有量が前記範囲を超えない範囲で蒸留すればよい。
【0041】
蒸留時の有機溶媒の使用量は、アミン、水の除去性の観点から、固形分に対して好ましくは2質量倍以上、より好ましくは10質量倍以上である。また、経済性の観点から、固形分に対して好ましくは100質量倍以下、より好ましくは50質量倍以下が好ましい。
【0042】
蒸留方法としては、例えば、加圧蒸留、常圧蒸留、減圧蒸留等が挙げられるが、製造設備の負担の観点から、常圧蒸留および減圧蒸留が好ましい。また、蒸留する際には、アミンの除去効率の観点から、用いる有機溶媒はイソプロピルアルコールまたはエタノールが好ましく、工程(II)で用いる有機溶媒中のイソプロピルアルコールまたはエタノール含有量は、好ましくは50質量%以上、より好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは実質的に100質量%である。
【0043】
蒸留時の温度は、用いる溶媒の沸点や反応容器の種類等に応じて適宜設定することができる。アミンの除去性の観点から、好ましくは30℃以上、より好ましくは50℃以上、さらに好ましくは60℃以上である。また、上限は特に設定されないが、生成物の着色抑制の観点から、180℃以下が好ましい。
【0044】
蒸留時の圧力は、アミンの除去性の観点から、減圧下とすることが好ましく、好ましくは70kPa以下、より好ましくは50kPa以下、さらに好ましくは30kPa以下である。
【0045】
蒸留時間は、用いる溶媒の種類、生成物の着色の程度、精製の程度に応じて適宜設定することができる。例えば、0.5〜20時間である。
【0046】
濾過洗浄方法においては、前記有機溶媒を用いるのであれば特に限定はないが、洗浄後の濾過残渣を洗浄液によって分散させた分散液の固形分含有量が60質量%以下となる方法が好ましい。例えば、工程(I)で得られた微細セルロース繊維複合体を前記有機溶媒中に分散攪拌したものから固形分をフィルター上に濾別し、フィルター上の固形分に対して洗浄液を通液させることによる濾過洗浄を行い、前記固形分含有量となるよう洗浄液に分散させればよい。なお、濾過洗浄方法では、濾過効率の観点から、工程(I)で得られた微細セルロース繊維複合体を最初に分散させる有機溶媒としてはアセトンが好ましい。濾過操作は、残留する微細セルロース繊維複合体の固形分が、過度の濃縮による凝集物の発生を避けるため、好ましくは80質量%以下、より好ましくは70質量%以下、更に好ましくは60質量%以下を保つように行う。
【0047】
洗浄液としては、洗浄性の観点から、前記有機溶媒以外に水を用いることもでき、水と前記有機溶媒との混合溶媒として、例えば、アセトンと水の混合溶媒として用いることができる。混合溶媒における水の割合としては、着色物質の除去のしやすさの観点から、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上、さらに好ましくは15質量%以上であり、濾過性の観点から、好ましくは60質量%以下、より好ましくは50質量%以下、さらに好ましくは30質量%以下である。
【0048】
また、工程(I)で得られた微細セルロース繊維複合体を有機溶媒中に分散攪拌したものから固形分をフィルター上に濾別したものを、上記洗浄液中に分散させて、分散液から固形分をフィルター上に濾別する操作を繰り返して濾過洗浄することもできる。着色物質の除去のしやすさの観点から、上記洗浄液中に分散させて固形分をフィルター上に濾別する操作を1回又は2回以上繰り返すことにより洗浄を行うことが好ましい。2回以上洗浄を行う場合には、洗浄ごとに異なる洗浄液を用いてもよく、例えば、含水混合溶媒で1回又は2回以上洗浄を行った後、有機溶媒のみで1回又は2回以上洗浄を行うことができ、最終洗浄溶媒にて分散させることができる。
【0049】
洗浄時の洗浄液の使用量は、濾過性、操作性の観点から、固形分に対して好ましくは1質量倍以上、より好ましくは10質量倍以上である。また、経済性の観点から、好ましくは1000質量倍以下、より好ましくは100質量倍以下である。ここでいう、洗浄液の使用量とは、濾過洗浄に用いた洗浄液の合計使用量を意味する。
【0050】
本発明においては、蒸留方法と濾過洗浄方法の少なくとも一方で精製を行えばよいが、蒸留方法と濾過洗浄方法の両方法を行って精製することもでき、その順番はいずれが先でも構わない。なお、分散液に用いる分散媒は、蒸留や濾過洗浄に用いた有機溶媒と同一又は異種の溶媒を用いることができ、例えば、蒸留時の有機溶媒又は濾過洗浄時の洗浄液から固形分をフィルター上に濾過し、その後、例えば、フタル酸エステルやコハク酸エステル、アジピン酸エステルといった多価カルボン酸エステル等の有機溶媒に固形分を分散することで、微細セルロース繊維複合体の分散液を得ることができる。また、蒸留方法と濾過洗浄方法のいずれの精製を行った場合においても、得られた分散液が固形分含有量が60質量%以下となるのであれば、公知の方法に従って濃縮等をさらに行ってもよい。
【0051】
かくして、高価な試薬を用いずとも、未反応アミンと水が除去された、微細セルロース繊維複合体の分散液を効率よく得ることができる。
【0052】
精製後の微細セルロース繊維複合体における炭化水素基は、精製時の処理によってわずかに離脱し得るが、工程(I)後の炭化水素基の平均結合量及び導入率にほぼ等しいとみなせる。
【0053】
得られる微細セルロース繊維複合体のカルボキシ基含有量は、引張弾性率及び透明性の観点から、好ましくは0.10mmol/g以上、より好ましくは0.20mmol/g以上、さらに好ましくは0.30mmol/g以上である。また、耐熱性(成型時の着色の少なさ)の観点から、好ましくは3mmol/g以下、より好ましくは2mmol/g以下、さらに好ましくは1.5mmol/g以下である。
【0054】
また、微細セルロース繊維複合体の平均繊維径は、耐熱性(成型時の着色の少なさ)の観点から、好ましくは0.1nm以上、より好ましくは0.5nm以上、さらに好ましくは1nm以上、さらに好ましくは3nm以上、よりさらに好ましくは5nm以上である。また、引張弾性率及び透明性の観点から、好ましくは200nm以下、より好ましくは100nm以下、さらに好ましくは50nm以下、さらに好ましくは20nm以下、よりさらに好ましくは10nm以下である。
【0055】
微細セルロース繊維複合体の分散液のガードナー色相は、好ましくは20以下、より好ましくは10以下、さらに好ましくは6以下である。なお、セルロース繊維のガードナー色相は、後述の実施例に記載の方法に従って測定することができる。
【0056】
本発明により得られる微細セルロース繊維複合体の分散液の一例としては、例えば、セルロース繊維に、炭素数が1〜16の炭化水素基が平均結合量0.1mmol/g以上でアミド結合を介して連結した、平均繊維径が0.1〜200nmである微細セルロース繊維複合体の分散液が挙げられる。
【0057】
また、本発明により得られる微細セルロース繊維複合体の分散液は、色相がよく、また、樹脂への分散性が高く、樹脂へ分散させることで引張弾性率を向上させることから、微細セルロース繊維複合体の分散液を樹脂と混練し、機械強度に優れる樹脂組成物を調製することができる。例えば、本発明により得られた微細セルロース繊維複合体の分散液は、生産効率の観点から、溶媒を除去せずにそのまま、例えば蒸留時又は濾過洗浄時に用いた溶媒に含浸した湿潤状態のまま、あるいは、樹脂への分散性を向上する観点から、蒸留時の有機溶媒又は濾過洗浄時の洗浄液から固形分をフィルター上に濾過し、例えば、フタル酸エステルやコハク酸エステル、アジピン酸エステルといった多価カルボン酸エステル等の樹脂に配合された場合に可塑剤として使用可能な有機溶媒に固形分を分散してから、樹脂へ混合することもできる。よって、本発明はまた、微細セルロース繊維複合体の分散液とポリエステル樹脂を含有する樹脂組成物を提供する。
【0058】
<ポリエステル樹脂>
ポリエステル樹脂としては、特に限定はないが、生分解性を有していることが好ましく、生分解性ポリエステル樹脂が好ましい。具体的には、ポリヒドロキシブチレート、ポリカプロラクトン、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート/アジペート、ポリエチレンサクシネート、ポリ乳酸樹脂、ポリグリコール酸、ポリジオキサノン、ポリ(2−オキセタノン)等の脂肪族ポリエステル樹脂;ポリブチレンサクシネート/テレフタレート、ポリブチレンアジペート/テレフタレート、ポリテトラメチレンアジペート/テレフタレート等の脂肪族芳香族コポリエステル樹脂;デンプン、セルロース、キチン、キトサン、グルテン、ゼラチン、ゼイン、大豆タンパク、コラーゲン、ケラチン等の天然高分子と上記の脂肪族ポリエステル樹脂あるいは脂肪族芳香族コポリエステル樹脂との混合物等が挙げられる。これらのなかでも、加工性、経済性、入手性、及び物性に優れることから、ポリブチレンサクシネート及びポリ乳酸樹脂が好ましく、ポリ乳酸樹脂がより好ましい。なお、本明細書において「生分解性」とは、自然界において微生物によって低分子化合物に分解され得る性質のことであり、具体的には、JIS K6953(ISO14855)「制御された好気的コンポスト条件の好気的かつ究極的な生分解度及び崩壊度試験」に基づいた生分解性のことを意味する。
【0059】
ポリ乳酸樹脂としては、市販されているポリ乳酸樹脂(例えば、Nature Works社製:商品名 Nature Works PLA/NW3001D、NW4032D、トヨタ自動車社製:商品名 エコプラスチックU'z S−09、S−12、S−17等)の他、乳酸やラクチドから合成したポリ乳酸が挙げられる。強度や耐熱性の向上の観点から、光学純度90%以上のポリ乳酸樹脂が好ましく、例えば、比較的分子量が高く、また光学純度の高いNature Works社製ポリ乳酸樹脂(NW4032D等)が好ましい。
【0060】
また、本発明において、ポリ乳酸樹脂として、樹脂組成物の強度と可撓性の両立、耐熱性及び透明性の向上の観点から、ステレオコンプレックスポリ乳酸樹脂を用いてもよい。
【0061】
ステレオコンプレックスポリ乳酸樹脂は、異なる異性体を主成分とする乳酸成分を用いて得られた2種類のポリ乳酸からなるポリ乳酸樹脂であり、ステレオコンプレックスポリ乳酸樹脂を構成する一方のポリ乳酸〔以降、ポリ乳酸(A)と記載する〕は、L体90モル%以上100モル%以下、D体を含むその他の成分0モル%以上10モル%以下を含有する。他方のポリ乳酸〔以降、ポリ乳酸(B)と記載する〕は、D体90モル%以上100モル%以下、L体を含むその他の成分0モル%以上10モル%を含有する。なお、L体及びD体以外のその他の成分としては、2個以上のエステル結合を形成可能な官能基を持つジカルボン酸、多価アルコール、ヒドロキシカルボン酸、ラクトン等が挙げられ、また、未反応の前記官能基を分子内に2つ以上有するポリエステル、ポリエーテル、ポリカーボネート等であってもよい。
【0062】
ステレオコンプレックスポリ乳酸樹脂における、ポリ乳酸(A)とポリ乳酸(B)の質量比〔ポリ乳酸(A)/ポリ乳酸(B)〕は、10/90以上、90/10以下が好ましく、20/80以上、80/20以下がより好ましく、40/60以上、60/40以下がさらに好ましい。
【0063】
また、本発明におけるポリ乳酸樹脂は、ポリ乳酸樹脂以外の生分解性ポリエステル樹脂やポリプロピレン等の非生分解性樹脂とポリ乳酸樹脂とのブレンドによるポリマーアロイとして含有されていてもよい。
【0064】
ポリエステル樹脂における、ポリ乳酸樹脂の含有量は、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上、さらに好ましくは実質的に100質量%である。
【0065】
また、ポリエステル樹脂の含有量は、樹脂組成物中、50質量%以上が好ましく、60質量%以上がより好ましく、70質量%以上がさらに好ましい。
【0066】
本発明の樹脂組成物には、前記ポリエステル樹脂及び微細セルロース繊維複合体の分散液以外に、さらに、可塑剤、結晶核剤を含有することができる。
【0067】
<可塑剤>
可塑剤としては、従来からの可塑剤であるフタル酸エステルやコハク酸エステル、アジピン酸エステルといった多価カルボン酸エステル、グリセリン等脂肪族ポリオールの脂肪酸エステル等が挙げられる。なかでも、分子内に2個以上のエステル基を有するエステル化合物であって、該エステル化合物を構成するアルコール成分の少なくとも1種が水酸基1個当たり炭素数2〜3のアルキレンオキサイドを平均0.5〜5モル付加したアルコールであるエステル化合物が好ましく、具体的には、特開2008−174718号公報及び特開2008−115372号公報に記載の可塑剤が例示される。なお、本発明では、微細セルロース繊維複合体を良好に分散させる観点から、微細セルロース繊維複合体の分散媒として可塑剤を、予め微細セルロース繊維複合体の分散液と混合させて含有させることができる。
【0068】
可塑剤の含有量は、樹脂組成物からなるシート状の樹脂成形体の耐熱性、透明性、成形性を向上させる観点から、ポリエステル樹脂100質量部に対して、好ましくは1質量部以上、より好ましくは5質量部以上であり、好ましくは30質量部以下である。
【0069】
<結晶核剤>
結晶核剤としては、天然又は合成珪酸塩化合物、酸化チタン、硫酸バリウム、リン酸三カルシウム、炭酸カルシウム、リン酸ソーダ等の金属塩やカオリナイト、ハロイサイト、タルク、スメクタイト、バーミキュライト、マイカ等の無機系結晶核剤の他、エチレンビス脂肪酸アミドやプロピレンビス脂肪酸アミド、ブチレンビス脂肪酸アミド等や、フェニルホスホン酸金属塩等の有機系結晶核剤が挙げられる。これらのなかでも、透明性向上の観点から、有機系結晶核剤が好ましく、エチレンビスステアリン酸アミドやエチレンビスオレイン酸アミド等のエチレンビス脂肪酸アミド、プロピレンビス脂肪酸アミド、ブチレンビス脂肪酸アミド等のアルキレンビス脂肪酸アミドがより好ましく、エチレンビス12-ヒドロキシステアリン酸アミド等のアルキレンビスヒドロキシ脂肪酸アミドがさらに好ましい。
【0070】
結晶核剤の含有量は、シート状の樹脂成形体の透明性向上の観点から、ポリエステル樹脂100質量部に対して、好ましくは0.01質量部以上であり、より好ましくは0.1質量部以上であり、また、好ましくは5質量部以下、より好ましくは1質量部以下である。
【0071】
本発明の樹脂組成物は、前記以外の他の成分として、充填剤(無機充填剤、有機充填剤)、加水分解抑制剤、難燃剤、酸化防止剤、炭化水素系ワックス類やアニオン型界面活性剤である滑剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、防曇剤、光安定剤、顔料、防カビ剤、抗菌剤、発泡剤等を、本発明の効果を損なわない範囲で含有することができる。また同様に、本発明の効果を阻害しない範囲内で他の高分子材料や他の樹脂組成物を添加することも可能である。
【0072】
本発明の樹脂組成物は、ポリエステル樹脂及び微細セルロース繊維複合体の分散液を含有するものであれば特に限定なく調製することができ、例えば、ポリエステル樹脂及び微細セルロース繊維複合体の分散液、さらに必要により各種添加剤を含有する原料を、密閉式ニーダー、1軸もしくは2軸の押出機、オープンロール型混練機等の公知の混練機を用いて溶融混練して調製することができる。なお、微細セルロース繊維複合体の分散液は、精製時に用いた有機溶媒に含浸した状態で用いることができる。原料は、予めヘンシェルミキサー、スーパーミキサー等を用いて均一に混合した後に、溶融混練に供することも可能である。なお、樹脂組成物を調製する際にポリエステル樹脂の可塑性を促進させるため、超臨界ガスを存在させて溶融混合させてもよい。
【0073】
溶融混練温度は、樹脂組成物の成形性及び劣化防止を向上する観点から、ポリエステル樹脂の融点(Tm)以上であり、好ましくはTm℃以上、Tm+100℃以下の範囲であり、より好ましくはTm℃以上、Tm+50℃以下の範囲である。例えば、好ましくは170℃以上であり、好ましくは240℃以下、より好ましくは220℃以下である。溶融混練時間は、溶融混練温度、混練機の種類によって一概には決定できないが、15秒間以上900秒間以下が好ましい。
【0074】
得られた溶融混練物は、結晶化速度をより向上させる観点から、溶融混練後に、溶融混練物を冷却してもよい。冷却温度は、好ましくは20℃以上であり、好ましくは120℃以下、より好ましくは100℃以下である。冷却時間は、好ましくは2秒間以上、より好ましくは5秒間以上であり、好ましくは90秒間以下、より好ましくは60秒間以下である。なお、該冷却に際して、溶融混練物を公知の方法に従って成形してから冷却してもよい。
【0075】
得られた樹脂組成物は、本発明により得られた分散液に含まれる微細セルロース繊維複合体を含有することから、引っ張り弾性率に優れることから、シート化してシート状の樹脂成形体を調製することができる。よって、本発明はまた、本発明の樹脂組成物をシート化してなる、シート状の樹脂成形体を提供する。
【0076】
本発明のシート状の樹脂成形体は、得られた樹脂組成物を押出成形、射出成形、又はプレス成形することによって調製することができる。
【0077】
押出成形では、加熱した押出機に充填された本発明の樹脂組成物を溶融させた後にTダイから押出すことで、シート状の樹脂成形体を得ることができる。また、このシート状の樹脂成形体を直ぐに冷却ロールに接触させ、シートを樹脂組成物のTg以下に冷却することでシートの結晶性を調整し、その後、冷却ロールから引き離し、それらを巻き取りロールにて巻き取り、シート状の樹脂成形体としてもよい。なお、押出機に充填する際に、本発明の樹脂組成物を構成する原料、例えば、ポリエステル樹脂及び微細セルロース繊維複合体の分散液、さらに必要により各種添加剤を含有する原料を充填して溶融混練後、押出し成形してもよい。
【0078】
押出機の温度は、樹脂組成物を均一に混合し、且つポリエステル樹脂の劣化を防止する観点から、好ましくは170℃以上、より好ましくは175℃以上、さらに好ましくは180℃以上であり、好ましくは240℃以下、より好ましくは220℃以下、さらに好ましくは210℃以下である。また冷却ロールの温度は、樹脂組成物の結晶性を調整する観点から、40℃以下が好ましく、30℃以下がより好ましく、10℃以下がさらに好ましい。
【0079】
また押出速度は、樹脂組成物の結晶性を調整する観点から、好ましくは0.5m/分以上、より好ましくは1m/分以上、さらに好ましくは2m/分以上であり、好ましくは200m/分以下、より好ましくは150m/分以下、さらに好ましくは100m/分以下である。
【0080】
射出成形では、例えば、本発明の樹脂組成物を、シリンダー温度を好ましくは180℃以上であり、好ましくは220℃以下、より好ましくは210℃以下に設定した射出成形機を用いて、所望の形状の金型内に充填し、シート状に成形することができる。
【0081】
プレス成形では、例えば、シート形状を有する枠で本発明の樹脂組成物を囲みプレス成形して調製することができる。
【0082】
プレス成形の温度と圧力としては、例えば、好ましくは170℃以上、240℃以下の温度、5MPa[abs]以上、30MPa[abs]以下の圧力の条件下、より好ましくは175℃以上、220℃以下の温度、10MPa[abs]以上、25MPa[abs]以下の圧力の条件下、さらに好ましくは180℃以上、210℃以下の温度、10MPa[abs]以上、20MPa[abs]以下の圧力の条件下でプレスすることができる。プレス時間は、プレスの温度と圧力によって一概には決定することができないが、好ましくは1分間以上であり、好ましくは10分間以下、より好ましくは7分間以下、さらに好ましくは5分間以下である。
【0083】
また前記条件でプレスした後直ぐに、好ましくは0℃以上、40℃以下の温度、0.1MPa[abs]以上、30MPa[abs]以下の圧力の条件下、より好ましくは10℃以上、30℃以下の温度、0.2MPa[abs]以上、20MPa[abs]以下の圧力の条件下、さらに好ましくは10℃以上、20℃以下の温度、0.3MPa[abs]以上、10MPa[abs]以下の圧力の条件下でプレスして冷却することが好ましい。この温度条件によるプレスにより、本発明の樹脂組成物をそのTg以下に冷却して結晶性を調整するため、プレス時間は、プレスの温度と圧力によって一概には決定することができないが、好ましくは1分間以上であり、好ましくは10分間以下、より好ましくは7分間以下、さらに好ましくは5分間以下である。上記の冷却の後、さらに樹脂組成物のガラス転移点以上、融点以下の温度に保持することで、樹脂の結晶化度を調整することができる。
【0084】
シート状の樹脂成形体は、加工性の観点から、その厚さは好ましくは0.1mm以上、より好ましくは0.2mm以上、さらに好ましくは0.3mm以上であり、好ましくは1.5mm以下、より好ましくは1.4mm以下、さらに好ましくは1.2mm以下である。
【0085】
かくして得られた本発明のシート状の樹脂成形体は、引張弾性率及び破断伸度に優れ、各種用途、例えば、各種日用品包装用フィルム(パウチ、ピロー)、シート(ブリスターパック)に好適に用いることができる。
【実施例】
【0086】
以下、実施例及び比較例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は下記実施例に制限されるものではない。
【0087】
〔酸化セルロース繊維及び微細セルロース繊維複合体の平均繊維径〕
酸化セルロース繊維又は微細セルロース繊維複合体に水を加えて、その濃度が0.0001質量%の分散液を調製し、該分散液をマイカ(雲母)上に滴下して乾燥したものを観察試料として、原子間力顕微鏡(AFM、Nanoscope III Tapping mode AFM、Digital instrument社製、プローブはナノセンサーズ社製Point Probe (NCH)を使用)を用いて、該観察試料中のセルロース繊維の繊維高さを測定する。その際、該セルロース繊維が確認できる顕微鏡画像において、酸化セルロース繊維又は微細セルロース繊維複合体を5本以上抽出し、それらの繊維高さから平均繊維径を算出する。
【0088】
〔酸化セルロース繊維及び微細セルロース繊維複合体のカルボキシ基含有量〕
乾燥質量0.5gの酸化セルロース繊維又は微細セルロース繊維複合体を100mLビーカーにとり、イオン交換水もしくはメタノール/水=2/1の混合溶媒を加えて全体で55mLとし、そこに0.01M塩化ナトリウム水溶液5mLを加えて分散液を調製し、酸化セルロース繊維又は微細セルロース繊維複合体が十分に分散するまで該分散液を攪拌する。この分散液に0.1M塩酸を加えてpHを2.5〜3に調整し、自動滴定装置(東亜ディーケーケー社製、商品名「AUT−50」)を用い、0.05M水酸化ナトリウム水溶液を待ち時間60秒の条件で該分散液に滴下し、1分ごとの電導度及びpHの値を測定し、pH11程度になるまで測定を続け、電導度曲線を得る。この電導度曲線から、水酸化ナトリウム滴定量を求め、次式により、酸化セルロース繊維又は微細セルロース繊維複合体のカルボキシ基含有量を算出する。
カルボキシ基含有量(mmol/g)=水酸化ナトリウム滴定量×水酸化ナトリウム水溶液濃度(0.05M)/セルロース繊維の質量(0.5g)
【0089】
〔微細セルロース繊維複合体の炭化水素基の平均結合量及び導入率〕
微細セルロース繊維複合体中の炭化水素基の平均結合量を下記式により算出する。
炭化水素基の結合量(mmol/g)=炭化水素基導入前の微細セルロース繊維中のカルボキシ基含有量(mmol/g)−炭化水素基導入後の微細セルロース繊維中のカルボキシ基含有量(mmol/g)
炭化水素基の導入率(モル%)={炭化水素基の結合量(mmol/g)/炭化水素基導入前の微細セルロース繊維中のカルボキシ基含有量(mmol/g)}×100
【0090】
〔酸化セルロース繊維及び微細セルロース繊維複合体分散液の含水量〕
酸化セルロース繊維又は微細セルロース繊維複合体分散液の含水量は、赤外水分計(ケツト科学研究所社製 FD−720)を用いて乾燥減量%より求める。また、水分以外の揮発分を含有している状態の場合には、気化装置(ヒラヌマ社製 EV−2000)を装着したカールフィッシャー水分計(ヒラヌマ社製 AQV−2200)を用いて測定する。
【0091】
原料の酸化パルプ酸型(日本製紙社製)は、天然セルロースにN−オキシル化合物を作用させて得られるカルボキシ基含有セルロース繊維の70質量%含水物であり、カルボキシ基含有量は1.36mmol/g(固形分あたり)、平均繊維径は18.2nmであった。
【0092】
実施例1(湿潤セルロース繊維複合体の分散液の製造)
1Lビーカーに酸化パルプ酸型25.6gを投入後、プロピルアミン(和光純薬工業社製)100gを仕込み、分散攪拌(10分)後、濾過する作業を3回くりかえし、酸化パルプに含水した水分を除去した。その後、濾過ケーク(酸化パルプ:7.65g、プロピルアミン:51.4g)を耐圧反応容器(120mL容)に移し、プロピルアミン40.6gを加え(全プロピルアミン:92g)、1L窒素置換を5回行った。オイルバスにて150℃に昇温し、無攪拌で5時間反応した。尚、圧力は1.12MPaを示した。反応後冷却し、イソプロピルアルコール(キシダ化学社製、沸点85℃)500mLに分散させ1Lナスフラスコに移した。エバポレーターにて、80℃、200mmHg(27kPa)にてイソプロピルアルコールを留去させながら過剰のプロピルアミンを除去した。更にイソプロピルアルコールの留去を続け、セルロース繊維複合体の湿潤ゲル(分散液)を68.2g得た。得られた湿潤セルロース繊維複合体分散液の乾燥減量%より求めた固形分含有量は11.2質量%であり、固形分あたりのカルボキシ基含有量は0.74mmol/g、平均繊維径は7.9nmであった。また、アミド基の導入量は45.6モル%であった。
【0093】
実施例2(湿潤セルロース繊維複合体の分散液の製造)
1Lビーカーに酸化パルプ酸型25.3gを投入後、プロピルアミン(和光純薬工業社製)100gを仕込み、分散攪拌(10分)後、濾過する作業を3回くりかえし、酸化パルプに含水した水分を除去した。その後、濾過ケーク(酸化パルプ:7.56g、プロピルアミン:57.6g)を耐圧反応容器(120mL容)に移し、プロピルアミン31.2gを加え(全プロピルアミン:88.8g)、1L窒素置換を5回行った。オイルバスにて120℃に昇温し、無攪拌で5時間反応した。尚、圧力は0.90MPaを示した。反応後冷却し、イソプロピルアルコール(キシダ化学社製)500mLに分散させ1Lナスフラスコに移した。エバポレーターにて、80℃、200mmHgにてイソプロピルアルコールを留去させながら過剰のプロピルアミンを除去した。更にイソプロピルアルコールの留去を続け、セルロース繊維複合体の湿潤ゲル(分散液)を68.3g得た。得られた湿潤セルロース繊維複合体分散液の乾燥減量%より求めた固形分含有量は11.7質量%であり、固形分あたりのカルボキシ基含有量は0.91mmol/g、平均繊維径は9.6nmであった。また、アミド基の導入量は33.1モル%であった。
【0094】
実施例3(湿潤セルロース繊維複合体の分散液の製造)
実施例1と同様の耐圧反応容器に、酸化パルプ酸型21.3g、プロピルアミン(和光純薬工業社製)35.7gを仕込み、窒素置換を5回行った。オイルバスにて150℃に昇温し、無攪拌で5時間反応した。尚、圧力は1.05MPaを示した。反応後冷却し、イソプロピルアルコール(キシダ化学社製)500mLに分散させ1Lナスフラスコに移した。エバポレーターにて、80℃、200mmHgにてイソプロピルアルコールを留去させながら過剰のプロピルアミンを除去した。更にイソプロピルアルコールの留去を続け、セルロース繊維複合体の湿潤ゲル(分散液)を65.7g得た。得られた湿潤セルロース繊維複合体分散液の乾燥減量%より求めた固形分含有量は10.5質量%であり、固形分あたりのカルボキシ基含有量は0.87mmol/g、平均繊維径は8.5nmであった。また、アミド基の導入量は36.0モル%であった。
【0095】
実施例4(湿潤セルロース繊維複合体の製造)
実施例1と同様の耐圧反応容器に、酸化パルプ酸型23.0g、プロピルアミン(和光純薬工業社製)30.3gを仕込み、窒素置換を5回行った。オイルバスにて120℃に昇温し、無攪拌で5時間反応した。尚、圧力は0.6MPaを示した。反応後冷却し、イソプロピルアルコール(キシダ化学社製)500mLに分散させ1Lナスフラスコに移した。エバポレーターにて、80℃、200mmHgにてイソプロピルアルコールを留去させながら過剰のプロピルアミンを除去した。更にイソプロピルアルコールの留去を続け、セルロース繊維複合体の湿潤ゲル(分散液)を64.9g得た。得られた湿潤セルロース繊維複合体分散液の乾燥減量%より求めた固形分含有量は11.8質量%であり、固形分あたりのカルボキシ基含有量は1.03mmol/gであった。アミド基の導入量は24.3モル%であった。
【0096】
比較例1(湿潤セルロース繊維複合体の分散液の製造)
実施例1と同様の耐圧反応容器に、予め凍結乾燥させた乾燥酸化パルプ酸型5.0g、プロピルアミン50.8gを仕込み、窒素置換を5回行った。オイルバスにて150℃に昇温し、無攪拌で5時間反応した。尚、圧力は1.43MPaを示した。反応後冷却し、イソプロピルアルコール(キシダ化学社製)500mLに分散させ1Lナスフラスコに移した。エバポレーターにて、80℃、200mmHgにてイソプロピルアルコールを留去させながら過剰のプロピルアミンを除去した。更にイソプロピルアルコールの留去を続け、セルロース繊維複合体の湿潤ゲル(分散液)を47.4g得た。得られた湿潤セルロース繊維複合体分散液の乾燥減量%より求めた固形分含有量は11.4質量%であり、固形分あたりのカルボキシ基含有量は0.53mmol/gであった。アミド基の導入量は61.0モル%であった。
【0097】
比較例2(湿潤セルロース繊維複合体の製造)
実施例1と同様の耐圧反応容器に、酸化パルプ酸型20.1g、プロピルアミン35.6gを仕込み、窒素置換を5回行った。オイルバスにて150℃に昇温し、無攪拌で5時間反応した。尚、圧力は1.10MPaを示した。反応後冷却し、カルボキシ基量を測定した。固形分あたりカルボキシ基含有量は0.95mmol/gであった。カルボキシ基量の減少量からアミド基の導入量は30.1%であった。次いで、イオン交換水/アセトン=2/3(v/v) 300mLにて洗浄濾過を2回、アセトン 300mLにて洗浄濾過を3回行い、濾過ケークを減圧乾燥し、セルロース繊維複合体を6.7g得た。得られたセルロース繊維複合体の固形分濃度は100質量%であった。
【0098】
得られたセルロース繊維複合体について、分散液と樹脂組成物からなるシート状の複合材料をそれぞれ調製し、その特性を下記試験例1〜3に従って評価した。結果を表1及び2に示す。なお、参考例1として、未変性の酸化パルプ酸型をそのまま用いた例についても評価を行った。
【0099】
試験例1(粘度)
得られたセルロース繊維複合体を固形分換算で0.05gと、分散媒としてのコハク酸メチルトリグリコールジエステル(花王社製)5gとを混合して、ナノマイザー(NMII−L200−D10、吉田機械工業社製)にて分散処理(10パス)を行って、微細セルロース繊維複合体及び可塑剤を含む、微細セルロース繊維複合体分散液(微細セルロース繊維複合体濃度1質量%)を調製した。得られた分散液の粘度を振動型粘度計(エーアンドデイ株式会社、SV−10)を用いて23°Cで測定した。粘度が10Pa・s以上であれば良好な分散体であることを示す。
【0100】
試験例2(外観)
試験例1で調製した分散液の外観を、目視により「均一」に分散しているか、「分離・沈降」しているかを評価した。
【0101】
試験例3(引張弾性率)
試験例1で調製した微細セルロース繊維複合体分散液5.01gと、ポリ乳酸(Nature works製、商品名:NW4032D)50g(固形分換算)、結晶核剤(日本化成社製、12−ヒドロキシエチレンビスステアリン酸アミド、商品名:スリパックスH)0.15gを順次添加し、混練機(東洋精機社製、商品名:ラボプラストミル)を用いて、回転数50rpm、180℃で10分混練して均一混合物を得た。該均一混合物を、プレス機(東洋精機社製、商品名「ラボプレス」)を用いて、180℃、0.5MPaにて2分、20MPaにて2分、次に15℃、0.5MPaにて1分、さらに80℃、0.5MPaにて1分の条件で順次プレスし、厚さ約0.4mmのシート状の複合材料を製造した。得られた複合材料について弾性率を評価した。
【0102】
得られたシート状の複合材料について、引張圧縮試験機(SHIMADZU社製、商品名「Autograph AGS−X」)を用いて、JIS K7113に準拠して、成形体の引張弾性率及び引張降伏強度をそれぞれ引張試験によって測定した。2号ダンベルで打ち抜いたサンプルを支点間距離80mmでセットし、クロスヘッド速度50mm/minで測定した。引張弾性率が高い方が機械的強度に優れていることを示す。
【0103】
【表1】
【0104】
【表2】
【0105】
表1〜2の結果から明らかなように、本発明の製造方法により得られた分散液に含まれる微細セルロース繊維複合体は分散性に優れ、樹脂に添加した際に、樹脂組成物の機械的強度を著しく向上させることが可能であることがわかる。
【0106】
調製例1(湿潤セルロース繊維複合体の分散液の調製)
実施例3と同様の操作でセルロース繊維複合体を得た。すなわち、実施例1と同様の耐圧反応容器に、酸化パルプ酸型25.0g、プロピルアミン(和光純薬工業社製)50.0gを仕込み、窒素置換を5回行った。オイルバスにて150℃に昇温し、無攪拌で5時間反応した。尚、圧力は1.05MPaを示した。反応後冷却し、カルボキシ基量を測定した。固形分あたりカルボキシ基含有量は0.82mmol/gであった。カルボキシ基量の減少量からアミド基の導入量は39.7モル%であった。次いでアセトンを125g加えて攪拌した後、得られた分散液を4等分して、50gのアセトン分散液を得た。得られた湿潤セルロース繊維複合体分散液を、湿潤セルロース繊維複合体分散液(1)と呼称する。
【0107】
実施例5
湿潤セルロース繊維複合体分散液(1)を、PTFEメンブレンフィルター(アドバンテック社製、型番:「T020A047A」を使用)を用いて減圧濾過分離を行った。その後濾過残渣に対してアセトン(沸点56℃)186gを加えて攪拌し懸濁させて、固形分を濾別する操作を2回行った。第一回目の濾別の際の、濾過開始から100ccの濾液が得られるまでの時間は、4分であった。さらに、フィルター上の濾過残渣に対して、アセトン186gを通液する操作(以下、置換処理という)を2回行い、フィルター上にアセトンを含浸した湿潤セルロース繊維複合体(セルロース繊維複合体分散液ともいう)を8.12g得た。得られた湿潤セルロース繊維複合体の平均繊維径は7.8nmであり、乾燥減量%から求めた固形分濃度は17.6%であった。
【0108】
実施例6
実施例5と同様にしてT020A047Aを用いて得られた減圧濾過残渣に対して、90%アセトン水溶液186gを加えて攪拌し懸濁させて、固形分を濾別する操作を2回行った。第一回目の濾別の際の、濾過開始から100ccの濾液が得られるまでの時間は、3分であった。さらに、フィルター上の濾過残渣に対して、アセトン186gを通液する操作(以下、置換処理という)を2回行い、フィルター上にアセトンを含浸した湿潤セルロース繊維複合体(セルロース繊維複合体分散液)を4.35g得た。得られた湿潤セルロース繊維複合体の平均繊維径は8.1nmであり、乾燥減量%から求めた固形分濃度は26.6%であった。
【0109】
実施例7
実施例5と同様にしてT020A047Aを用いて得られた減圧濾過残渣に対して、80%アセトン水溶液186gを加えて攪拌し懸濁させて、固形分を濾別する操作を2回行った。第一回目の濾別の際の、濾過開始から100ccの濾液が得られるまでの時間は、4分であった。さらに、フィルター上の濾過残渣に対して、アセトン186gを通液する操作(以下、置換処理という)を2回行い、フィルター上にアセトンを含浸した湿潤セルロース繊維複合体(セルロース繊維複合体分散液)を7.06g得た。得られた湿潤セルロース繊維複合体の平均繊維径は7.9nmであり、乾燥減量%から求めた固形分濃度は15.8%であった。
【0110】
実施例8
実施例5と同様にしてT020A047Aを用いて得られた減圧濾過残渣に対して、50%アセトン水溶液186gを加えて攪拌し懸濁させて、固形分を濾別する操作を2回行った。第一回目の濾別の際の、濾過開始から100ccの濾液が得られるまでの時間は、5時間以上であった。さらに、フィルター上の濾過残渣に対して、アセトン186gを通液する操作(以下、置換処理という)を2回行い、フィルター上にアセトンを含浸した湿潤セルロース繊維複合体(セルロース繊維複合体分散液)を6.40g得た。得られた湿潤セルロース繊維複合体の平均繊維径は7.8nmであり、乾燥減量から求めた固形分濃度は15.5%であった。
【0111】
得られたセルロース繊維複合体について、実施例1と同様にして分散液及びシート状の複合材料をそれぞれ調製し、その特性を前記試験例1〜3及び下記試験例4に従って評価した。結果を表3に示す。なお、参考として、実施例3の結果を合わせて示す。
【0112】
試験例4(ガードナー色相)
得られた分散液からガードナー管に必要量量り取り、ガードナー色数標準液と比較することで色相評価を行った。ガードナー色数が小さい場合、色相が良好であると評価することができる。なお、「5より明るい」と「4より暗い」では、「4より暗い」のほうが、明るいことを意味する。
【0113】
【表3】
【0114】
表3の結果から明らかなように、本発明の製造方法により得られた分散液に含まれる微細セルロース繊維複合体は色相および分散性に優れ、樹脂に添加した際に、樹脂組成物の機械的強度を著しく向上させることが可能であることがわかる。