特許第6282005号(P6282005)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6282005光酸素酸化による酸化生成物の,改良された製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6282005
(24)【登録日】2018年2月2日
(45)【発行日】2018年2月21日
(54)【発明の名称】光酸素酸化による酸化生成物の,改良された製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07B 61/00 20060101AFI20180208BHJP
   C07C 5/367 20060101ALI20180208BHJP
   C07C 15/02 20060101ALI20180208BHJP
   C07D 493/08 20060101ALI20180208BHJP
   C07C 249/02 20060101ALI20180208BHJP
   C07C 251/24 20060101ALI20180208BHJP
   C07C 315/02 20060101ALI20180208BHJP
   C07C 317/14 20060101ALI20180208BHJP
   C07D 217/02 20060101ALI20180208BHJP
   C07B 33/00 20060101ALI20180208BHJP
【FI】
   C07B61/00 D
   C07C5/367
   C07C15/02
   C07D493/08 B
   C07C249/02
   C07C251/24
   C07C315/02
   C07C317/14
   C07D217/02
   C07B33/00
【請求項の数】10
【全頁数】25
(21)【出願番号】特願2014-46542(P2014-46542)
(22)【出願日】2014年3月10日
(65)【公開番号】特開2015-168667(P2015-168667A)
(43)【公開日】2015年9月28日
【審査請求日】2017年2月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】304023318
【氏名又は名称】国立大学法人静岡大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000205638
【氏名又は名称】大阪有機化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104639
【弁理士】
【氏名又は名称】早坂 巧
(72)【発明者】
【氏名】間瀬 暢之
(72)【発明者】
【氏名】松本 純一
(72)【発明者】
【氏名】赤石 良一
【審査官】 水島 英一郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−151748(JP,A)
【文献】 Tetrahedron,1991年,47,3037-3044,3039頁
【文献】 J. Am. Chem. Soc.,2013年,135,5793-5801,Table 3.
【文献】 J. Org. Chem.,2013年,78,5627-5637,Table 2-4
【文献】 ChemCatChem,2013年,5,134-137,Table 2
【文献】 Journal of Photochemistry and Photobiology A: Chemistry,2002年,153,173-184,Table 4
【文献】 Chem. Eur. J.,2013年,19,5654-5664,Table 3, Table 4, Table 11
【文献】 Angew. Chem. Int. Ed.,2011年,50,3934-3937,Table 1, Table 2
【文献】 Organic Letters,2011年,13(19),5008-5011,Table 1, Table 4
【文献】 Tetrahedron Letters,1976年,39,3541-3542,3541頁
【文献】 Chemical Communications,2011年 1月 4日,47(7),2086-2088,Table 1
【文献】 配管技術,2011年,53(5),48-52,全文
【文献】 日本プロセス化学会 2012サマーシンポジウム 講演要旨集,2012年 6月25日,254頁,2P-34
【文献】 第43回中部化学関係学協会支部連合秋季大会 講演予稿集,2012年11月10日,127頁,1P18
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
CAplus(STN)
REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料有機化合物の光酸素酸化による生成物の製造における,改良された製造方法であって,光照射下におかれた該原料有機化合物含有溶液に酸素含有気体をナノバブルの形で注入して,該溶液中に該酸素含有気体のナノバブルが分散された状態を維持することにより,該原料有機化合物の光酸素酸化反応を進行させて該生成物を得ることを特徴とする製造方法であって,
該原料有機化合物が,α−テルピネン,γ−テルピネン,RCHNH〔式中,Rは,置換基を有していてよい芳香族基を表す。〕,RCHNHR〔式中,Rは前記定義に同じであり,Rは,置換基を有していてよい飽和炭化水素基又は置換基を有していてよい芳香族基を表す。〕,及びスルフィドからなる群より選ばれる1種であり,
該ナノバブルが,5nm以上1000 nm未満の粒子径を有する泡の個数が90%以上のものであり,
該溶液中の光増感剤の濃度が,
該原料有機化合物がα−テルピネン,γ−テルピネン又はスルフィドであるときはこれに対して3mol%以下であり,
該原料有機化合物がRCHNH又はRCHNHRであるときはこれに対して0.1mol%以下であり,
且つ
該光増感剤が,ローズベンガル,メチレンブルー,及び5,10,15,20−テトラフェニルポルフィンからなる群より選ばれるものであ
該原料有機化合物(M)と該生成物(P)とが,下記の組合せになるもの:
(i) M:α−テルピネン,P:p−シメン
(ii) M:RCHNH,P:RCH=NCH
〔式中,Rは,置換基を有していてよい芳香族基を表す。〕
(iii) M:RCHNHR,P:RCH=NHR
〔式中,Rは前記定義に同じであり,Rは,置換基を有していてよい飽和炭化水素基又は置換基を有していてよい芳香族基を表す。〕
(iv) M:スルフィド,P:スルホキシド
より選ばれるものである,製造方法。
製造方法。
【請求項2】
光照射のための光源が水銀灯,ハロゲンランプ,LEDランプ及び白熱電球から選ばれるものである,請求項1の製造方法。
【請求項3】
の芳香環部分が炭素数6〜10を有するものである,請求項1又は2の製造方法。
【請求項4】
の置換基が,R−,RO−及びXからなる群より選ばれるものであり,ここにRは1個又は2個以上のハロゲン若しくはヒドロキシル基で置換されていてもよい炭素数1〜6の飽和炭化水素基を表すか,又は1個又は2個以上のハロゲン若しくはヒドロキシル基で置換されていてもよいフェニル基を表し,Xはハロゲンを表すものである,請求項1〜の何れかの製造方法。
【請求項5】
が,置換基を有していてよい炭素数1〜10の飽和炭化水素基,又は置換基を有していてよい炭素数6〜10の芳香族基を表すか,又はRがRと結合して環を形成していてよい飽和炭化水素基を表すものである,請求項1〜の何れかの製造方法。
【請求項6】
の置換基が,R−,RO−及びXからなる群より選ばれるものであり,ここにRは1個又は2個以上のハロゲン若しくはヒドロキシル基で置換されていてもよい炭素数1〜6の飽和炭化水素基を表すか,又は1個又は2個以上のハロゲンで置換されていてもよいフェニル基を表し,Xはハロゲン若しくはヒドロキシル基を表すものである,請求項1〜の何れかの製造方法。
【請求項7】
該原料有機化合物(M)と該生成物(P)とが,(M)置換基を有してよい1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリンと(P)置換基を有してよい3,4−ジヒドロイソキノリンである,請求項1〜の何れかの製造方法。
【請求項8】
該スルフィド及びスルホキシドが,それぞれR−S−R及びR−SO−R〔式中,R,Rは,同一又は異なって,置換基を有していてよい飽和炭化水素基,又は置換されていてよい芳香族基を表す〕で示されるものである,請求項1〜の何れかの製造方法
【請求項9】
該飽和炭化水素基が,炭素数1〜10のものであり,該芳香族基の芳香環部分が炭素数6〜10のものである,請求項の製造方法。
【請求項10】
又はRの置換基が,R−,RO−又はXを表し,Rは1個又は2個以上のハロゲン若しくはヒドロキシル基で置換されていてもよい炭素数1〜6のアルキル基を表し,Xはハロゲン若しくはヒドロキシル基を表すものである,請求項の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,一般的には有機化合物の酸化による化合物の製造方法に関し,特に光酸素酸化を用いた製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機化合物の溶液に酸素(空気)雰囲気下に光照射して行う光酸素酸化反応はよく知られており,種々の酸化生成物の製造に適用が可能である。光酸素酸化反応は,一重項酸素による酸化反応であり,反応促進の必要上触媒として光増感剤を添加して行われる。一般に,光増感剤は,光照射を受けてそれ自身が一重項励起状態になり速やかに三重項酸素に復帰する際に,基底状態の酸素(三重項)にエネルギーを移転し,一重項酸素へと励起させる働きをし,それにより光酸素酸化反応を促進させる。
【0003】
しかしながら,光増感剤は,高価であり目的生成物の製造コストを大きく上昇させる要因となるため,産業規模での使用には適さない。また目的生成物にとっては不純物でもあるから,可能であれば使用量を減らすことが好ましく,使用せずに済むのであれば尚更好ましい。
【0004】
また,スルフィドの酸化に関しては,一重項酸素による酸化は,スルホキシドに止まらず,更にスルホンにまで酸化されて,これら双方を結果として与える場合が大半であり,スルホキシドで反応を停止させる選択的酸化は困難である(非特許文献1)。別の方法として,過酸化物を用いてスルフィドを酸化することによるスルホキシドの一般的合成法においても,過酸化物の当量数コントロールでスルホキシドへの選択的酸化を狙っても,スルホンまで酸化が進行してしまい易いため,スルホキシド選択的な合成は容易でない(非特許文献2)。
【0005】
光酸素酸化反応の分野ではないが,マイクロバブル或いはマイクロナノバブルと呼ばれる直径が数十μm〜数百nmの気泡を用いると酸素によるアルコールの酸化反応や,Pd等の触媒を用いた接触水素化反応が,常温,常圧下に,機械的撹拌を要することなく効率的に進行することが知られている(非特許文献3〜7)。また,そのような微細な気泡を生じさせるための装置も知られ,複数のメーカーにより市販されている。
【0006】
マイクロナノバブルに関しては,更に,2−エチルアントラキノンを含有する溶液をマイクロリアクター中に流しつつ,マイクロリアクター内において,水素を含んだガスを濾過膜を介しマイクロバブルの形で溶液中に導入し,マイクロバブルを分散させた溶液を固定化された触媒のカラムに導入して2−エチルアントラヒドロキノンへと還元する方法も知られている(非特許文献8)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】To, W.-P.; Liu, Y.; Lau, T.-C.; Che, C.-M. Chem.-Eur. J. 2013, 19 (18), 5654-5664.
【非特許文献2】Crich, D.; Banerjee, A.; Yao, Q. J. Am. Chem. Soc. 2004, 126 (45), 14930-14934.
【非特許文献3】酒井拓磨他,中部化学関係学協会連合秋季大会後援予稿集,第43巻第127頁(2012年)
【非特許文献4】酒井拓磨他,日本プロセス化学会サマーシンポジウム講演要旨集,第2012巻第254-255頁(2012年)
【非特許文献5】酒井拓磨他,日本プロセス化学会サマーシンポジウム講演要旨集,第2012巻第137-137頁(2012年)
【非特許文献6】間瀬暢之他,配管技術,第53巻第5号第48-52頁(2011年)
【非特許文献7】N. Mase, et al., Chem. Commun, Vol. 47, p. 2086-2088 (2011).
【非特許文献8】J. Tan et al., AIChE Journal, Vol. 58, No. 5, p. 1326-1335 (2012).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記背景の下で,本発明の目的は,有機化合物の光酸素酸化反応において,従来の方法に比べ,常温,常圧下に高い速度と効率で反応を進行させることができ,光増感剤の使用も低減し又は不要にすることのできる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は,光酸素酸化反応において,反応に用いる酸素ガス又は空気を,1μmより小さい粒径を有する微細な気泡(ナノバブル)の形で反応溶液中に供給すると,常温,常圧で,非常に効率的に,光増感剤の使用量をごく微量とし又は光増感剤を使用しないでも,光酸素酸化反応を効率よく行わせることができることを見出した。また予想外にも,原料化合物と目的生成物との関係によっては,光増感剤量の調節により主生成物を選択できること,更には,スルフィドのスルホキシドへの高度に選択的な酸化が可能となることも見出した。以下に示す本発明は,これらの発見に基づき更に検討を重ねて完成されたものである。
【0010】
1.原料有機化合物の光酸素酸化による生成物の製造における,改良された製造方法であって,光照射下におかれた該原料有機化合物含有溶液に酸素含有気体をナノバブルの形で注入して,該溶液中に該酸素含有気体のナノバブルが分散された状態を維持することにより,該原料有機化合物の光酸素酸化反応を進行させて該生成物を得ることを特徴とする,製造方法。
2.該溶液が,光増感剤を含むものである,上記1の製造方法。
3.該光増感剤が,ローズベンガル,メチレンブルー,エオシンY,フルオレッセイン,p−ベンゾキノ,ルブレン,5,10,15,20−テトラフェニルポルフィン,及び遷移金属錯体からなる群より選ばれるものである,上記1又は2の製造方法。
4.該溶液中の光増感剤の濃度が,該原料有機化合物に対して3mol%以下である,上記1〜3の何れかの製造方法。
5.該溶液が光増感剤を含まないものである,上記1の製造方法。
6.光照射のための光源が水銀灯,ハロゲンランプ,LEDランプ及び白熱電球から選ばれるものである,上記1〜5の何れかの製造方法。
7.該原料有機化合物(M)と該生成物(P)とが,下記の組合せになるもの:
(i) M:α−テルピネン,P:アスカリドール及び/又はp−シメン
(ii) M:RCHNH,P:RCH=NCH
〔式中,Rは,置換基を有していてよい芳香族基を表す。〕
(iii) M:RCHNHR,P:RCH=NHR
〔式中,Rは上記定義に同じであり,Rは,置換基を有していてよい飽和炭化水素基又は置換基を有していてよい芳香族基を表す。〕
(iv) M:スルフィド,P:スルホキシド
より選ばれるものである,上記1〜6の何れかの製造方法。
8.Rの芳香環部分が炭素数6〜10を有するものである,上記7の製造方法。
9.Rの置換基が,R−,RO−及びXからなる群より選ばれるものであり,ここにRは1個又は2個以上のハロゲン若しくはヒドロキシル基で置換されていてもよい炭素数1〜6の飽和炭化水素基を表すか,又は1個又は2個以上のハロゲン若しくはヒドロキシル基で置換されていてもよいフェニル基を表し,Xはハロゲンを表すものである,上記7又は8の製造方法。
10.Rが,置換基を有していてよい炭素数1〜10の飽和炭化水素基,又は置換基を有していてよい炭素数6〜10の芳香族基を表すか,又はRがRと結合して環を形成していてよい飽和炭化水素基を表すものである,上記7〜9の何れかの製造方法。
11.Rの置換基が,R−,RO−及びXからなる群より選ばれるものであり,ここにRは1個又は2個以上のハロゲン若しくはヒドロキシル基で置換されていてもよい炭素数1〜6の飽和炭化水素基を表すか,又は1個又は2個以上のハロゲンで置換されていてもよいフェニル基を表し,Xはハロゲン若しくはヒドロキシル基を表すものである,上記7〜10の製造方法。
12.該原料有機化合物(M)と該生成物(P)とが,(M)置換基を有してよい1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリンと(P)置換基を有してよい3,4−ジヒドロイソキノリンである,上記7〜11の何れかの製造方法。
13.該スルフィド及びスルホキシドが,それぞれR−S−R及びR−SO−R
〔式中,R,Rは,同一又は異なって,置換基を有していてよい飽和炭化水素基,又は置換されていてよい芳香族基を表す〕で示されるものである,上記7〜12の何れかの製造方法
14.該飽和炭化水素基が,炭素数1〜10のものであり,該芳香族基の芳香環部分が炭素数6〜10のものである,上記13の製造方法。
15.R又はRの置換基が,R−,RO−又はXを表し,Rは1個又は2個以上のハロゲン若しくはヒドロキシル基で置換されていてもよい炭素数1〜6のアルキル基を表し,Xはハロゲン若しくはヒドロキシル基を表すものである,上記14の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば,原料有機化合物の光酸素酸化による生成物の製造において,常圧で効率的に反応を行わせることができる。また反応溶液の加温(60℃等)も特に必要なく,常温で行え,光増感剤の使用量をごく微量にしても,反応を効率よく行わせることが可能となり,更には,光増感剤を使用しないことさえも可能となる。更に,本発明は,光酸素酸化により複数の生成物を与える原料化合物の場合には,従来副生成物としてしか得られなかった化合物を,光増感剤の種類及び濃度等の条件選択により主生成物として選択的に得る可能性を提供するほか,広範な種々のスルフィドのスルホキシドへの高度に選択的な酸化を可能にする。
また,本発明によれば,スルフィドのスルホキシドへの選択的酸化が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は,本発明で使用する光酸素酸化反応装置の概念図である。
図2図2は,ナノバブル発生装置で形成されるバブルの粒子径分布を示すグラフである。
【0013】
本明細書において,「ナノバブル」とは,液体中の気体の微細な泡であって,泡の全個数に対して,5nm以上1000 nm未満の粒子径を有する泡の個数が90%以上であるものをいい,好ましくは,50〜500 nmの粒子径を有する泡の個数が90%以上であるものを,更に好ましくは,50〜400 nmの粒子径を有する泡の個数が90%以上であるものをいう。
【0014】
本明細書において「酸素含有気体」とは,酸素ガス,空気,酸素ガスと空気の混合物,不活性気体(即ち,窒素等のように,光酸素酸化反応に影響を及ぼさない気体)と酸素との混合気体をいう。
【0015】
本明細書において「光照射」における「光」は,その光の照射により原料有機化合物の光酸素酸化が進行する限り,特に限定されない。通常は,紫外線を含む光とすればよいが紫外線は必須ではない。光源として水銀灯(高圧水銀灯,低圧水銀灯)の他,ハロゲンランプ,LEDランプ,白熱電球等も用いることができるが,これに限られない。
【0016】
光酸素酸化反応は,熱反応と異なり,光により励起された酸素分子によって引き起こされるから,反応溶液を加熱,加温する必要はなく,反応は室温で行えばよい。反応溶液の温度は,例えば,10〜30℃であってよい。
【0017】
本発明によれば,反応系の加圧は不要であり,単に常圧で反応させるだけで速やかに反応を進行させることができるが,勿論,加圧をすれば更に反応速度を更に高めることも可能である。
【0018】
原料有機化合物と用いる光増感剤にもよるが,本発明によれば,光増感剤の添加量が微量でも反応を速やかに進行させることができるため,原料有機化合物の量に対しモル比で,例えば,0.01〜0.001%程度まで,光増感剤の添加量を削減することができる。また,原料有機化合物によっては,光増感剤の使用の必要性もなくなる(例えば,スルフィドの,スルホキシドへの酸化)。
【0019】
本発明において,光増感剤としては,光酸素酸化に用いられることが従来知られている何れのものも使用できる。汎用のものとしては,例えば,ローズベンガル,メチレンブルー,エオシンY,フルオレッセイン,p−ベンゾキノ,ルブレン,5,10,15,20−テトラフェニルポルフィン,及び遷移金属錯体が挙げられるが,これらに限定されない。遷移金属錯体としては,例えば,[Ru(bpy)]2+錯体,[Ir(dtb−bpy)(ppy)]錯体,[Ir(dfppy)]錯体等が挙げられるが,これらに限定されない。
【0020】
本発明において光酸化反応に付す溶液中の原料有機化合物の濃度には,特に限定はない。従って,濃度は,用いる溶媒における原料有機化合物の溶解性,光照射に用いる光源からの光強度,原料有機化合物の溶液中における励起光の減衰の程度,反応生成物の溶解度,求める反応効率,取り扱い易さ等の要素を考慮して,適宜設定すればよい。例えば,0.01〜0.5M等とすることができるが,これに限られない。
【0021】
従来,α−テルピネンの光酸素酸化によって主生成物としてアスカリドールが,副生成物としてp-シメンが得られることが知られているが,添加する光増感剤の種類及び濃度の選択により,アルカリドールとシメンの何れか一方を主生成物として効率的に得ることが本発明者らにより見出された。例えば,光増感剤としてローズベンガル又はメチレンブルーをα−テルピネンに対し例えば15モル%付近の量で用いた場合,本発明によっても従来と同様にアルカリドールが主生成物として得られるが,光増感剤としてローズベンガルをより少ない量(α−テルピネンに対し,例えば,1〜3モル%)で用いると,p−シメンを,アルカリドールより数倍〜数十倍多く主生成物として得ることができる。光増感剤存在下における光酸素酸化反応において,酸素をナノバブルの形で供給することにより従来とは逆の主生成物を製造し得るのは従来の知見から説明できず,予想外のことであり,その機構は今のところ明らかではない。
【0022】
本発明によれば,上記のα−テルピネンからアスカリドール又はp−シメンへの製造の他に,例えば以下の反応を高い効率で行わせることができる。
(1)γ−テルピネンの酸化によるp−シメンの製造。
(2)第一級アミンRCHNH〔Rは,置換基を有していてよい芳香族基を表す。〕の脱水素化ホモカップリングによるイミンRCH=NHRの製造。
ここに,Rは,その芳香環部分が炭素数6〜10を有するものであることが好ましく,フェニル基又はナフチル基であることが更に好ましい。
芳香環部分の置換基としては,R−,RO−及びX(ハロゲン)からなる群より選ばれるものが好ましい。ここにRは1個又は2個以上のハロゲン若しくはヒドロキシル基で置換されていてもよい炭素数1〜6,より好ましくは炭素数1〜4,更に好ましくは炭素数1〜3の飽和炭化水素基を表すか,1個又は2個以上のハロゲン若しくはヒドロキシル基で置換されていてもよいフェニル基を表す。使用できるハロゲンとしては,フッ素,塩素,臭素,及びヨウ素が挙げられる。
(3)第二級アミンRCHNHR〔Rは上記定義に同じ。Rは置換基を有していてよい飽和炭化水素基又は置換基を有していてよい芳香族基を表す。〕の脱水素化によるイミンRCH=NHRの製造。
ここにRは,置換基を有していてよい好ましくは炭素数1〜10,より好ましくは炭素数1〜6,更に好ましくは炭素数1〜4の飽和炭化水素基を表すか,又は置換基を有していてよい好ましくは炭素数6〜10の芳香族基(例えば,フェニル基,ナフチル基)を表すか,又はRは,Rと結合して環を形成していてよい飽和炭化水素基(例えばエチレン基)を表す。
が有することがある置換基は,好ましくはR−,RO−及びX(ハロゲン)からなる群より選ばれるものであり,ここにRは1個又は2個以上のハロゲン若しくはヒドロキシル基で置換されていてもよい炭素数1〜6,好ましくは炭素数1〜4,より好ましくは炭素数1〜3の飽和炭化水素基を表すか,1個又は2個以上のハロゲン若しくはヒドロキシル基で置換されていてもよいフェニル基を表し,Xはハロゲンを表す。ハロゲンとしては,フッ素,塩素,臭素,及びヨウ素が挙げられる。
(5)スルフィドのスルホキシドへの選択的酸化。
ここに,該スルフィド及びスルホキシドは,それぞれR−S−R及びR−SO−R〔式中,R,Rは,同一又は異なって,置換基を有していてよい飽和炭化水素基,又は置換されていてよい芳香族基を表す〕で示される。飽和炭化水素基としては,好ましくは炭素数1〜10,より好ましくは炭素数1〜6,更に好ましくは炭素数1〜4のものであり,芳香族基としては,好ましくは炭素数6〜10のもの(例えば,フェニル基,ナフチル基)である。
又はRが置換基を有するときは,その置換基は,好ましくは,R−,RO−,X(ハロゲン)又はヒドロキシル基であり,Rは,1個又は2個以上のハロゲン若しくはヒドロキシル基で置換されていてもよい好ましくは炭素数1〜6,より好ましくは炭素数1〜4,更に好ましくは炭素数1〜3の飽和炭化水素基である。
【0023】
反応に用いる溶媒は,原料有機化合物を所望の濃度(通常,0.1M程度)まで溶解させることができ,光増感剤を添加する場合にはそれも溶解させることができるものであれば,特に制限はない。例えば,有機溶媒であり,特にメタノール,エタノール,n−プロパノール,イソプロパノール酢酸エチル,アセトニトリル,テトラヒドロフラン及びこれらの2種以上の混合溶媒が手軽に使用できるものとして挙げられるが,それらに限定されない。
【実施例】
【0024】
以下,実施例を参照して本発明を更に具体的に説明するが,本発明がそれらの実施例に限定されることは意図しない。
【0025】
〔反応装置〕
図1は,本発明で使用する反応装置の概念図である。図において,1はナノバブル発生装置であり,3は流量制御装置であり,ナノバブル発生装置1に供給する酸素含有気体(酸素ガス,空気等)の流量を制御している。5は反応容器であり,中に反応溶液7が収容されている。反応溶液7は,原料有機化合物の溶液であり,場合により更に光増感剤も含む。反応容器5には光源である高圧水銀灯9(100W)が取り付けられており,応溶液7に光照射する。
【0026】
ナノバブル発生装置1と反応容器5とは,一方の先端が反応溶液7中に浸漬されている2本のパイプ11,12で繋がれており,ナノバブル発生装置1,パイプ11,反応容器5及びパイプ12で,循環系が構成されている。ナノバブル発生装置1は,反応容器内5内の反応溶液7をパイプ12を通して吸引し,流量制御装置3から所定流量で供給される酸素(酸素ガス又は空気等。図中「Air/O2」で示されている。)をナノバブルの形で反応溶液に加えてパイプ11を通して吐出し,反応容器5内の反応溶液7に戻すように構成されている。反応時間中に連続運転されるナノバブル発生装置1により,反応容器5内の反応溶液7は,酸素を含んだナノバブルが濃厚に懸濁した液となる。この状態の反応溶液7に,高圧水銀灯9からの光が照射され,原料有機化合物は,基底状態から光照射により励起された一重項酸素による酸化を受けて生成物を与える。
【0027】
ナノバブル発生装置1としては,マイクロ・ナノバブル発生装置MA3FS〔株式会社アスプ〕を用いた。ナノバブル発生装置は,液体にガスを注入し,ガス/液体混合物の流れにスタティックミキサーで剪断力を加えて液体の分割を繰り返すことで,液体中にナノバブルを作り出す機能を有する。
【0028】
〔バブル粒子径の測定〕
ナノバブル発生装置により形成される泡の粒子径は,ナノ粒子測定装置(NanoSight,日本カンタム・デザイン(株))により行った。測定条件は次のとおりとした。
・溶媒:酢酸エチル
・気体:空気
・ナノバブル吐出圧力:0〜1.0 MPa
・液体流量:112 mL/分
・気体流量:3 mL/分
測定の結果,測定し得た最少サイズ3nmの粒子径から泡の存在が確認された。結果を図2に示す。図において,横軸は泡の粒子径を,縦軸は,気液混合流体1mLあたりの各粒子径を有する泡の個数である(図では,約50nm以下の粒子径範囲では,グラフが横軸に接近しているため泡の個数は判別できない。)。形成された泡は実質上全数(100%)が5〜500 nmの粒子径を有しており,50〜400 nmの粒子径を有する泡が泡の全個数の95%を優に超えている。
【0029】
〔実施例1〕 α−テルピネンの光酸素酸化−1
【0030】
【化1】
【0031】
α−テルピネン(I)の光酸素酸化により主生成物アスカリドール(II)と副生成物p−シメン(III)が生じることが知られている。酸素原として空気をナノバブルの形で反応溶液に連続的に導入しつつ,常圧(1気圧)下にて,高圧水銀灯で反応液に光照射することによる光酸素酸化を,次のとおりに試みた。
α−テルピネンの0.1M/メタノール溶液50mLに,α−テルピネンの量に対し15モル%の量の光増感剤(ローズベンガル又はメチレンブルー)を添加し,空気をナノバブルの形で連続的に導入しつつ反応溶液温度30℃で表1に記載の時間,光酸素酸化反応に付した。なお光照射には,内部照射型光化学反応装置UVL−100HA(理工科学産業社製)(水冷式100W高圧水銀灯)を用い,光源を反応溶液中に浸漬させて照射を行った(内部照射)。
【0032】
反応終了後の反応液をショートカラム(酢酸エチル,SiO:1g,NaSO:10mg)にて濾過し,得られた溶液をガスクロマトグラフィーにかけ,各ピーク面積から,何らかの生成物へのα−テルピネンの転化率(反応による消費率)と,生成物中におけるアスカリドール及びp−シメンの各割合とを求めた。結果を表1に示す。
【0033】
【表1】
【0034】
表1に示すように,光増感剤としてローズベンガル又はメチレンブルーを原料であるα−テルピネンに対して15モル%用いた場合,0.5〜6時間の反応により何れも原料の転化率は99%を超えおり,反応は既に実質的に完了していた。また主生成物はアルカリドールであった。
【0035】
〔実施例2〕 α−テルピネンの光酸化−2
表2に示すように,原料であるα−テルピネンの濃度を0.1〜0.025M/メタノールの範囲で設定し,光増感剤としてローズベンガルを原料に対して1.0又は3.0モル%で添加し,常圧下にて,内部照射しつつ反応溶液温度30℃で0.5〜1時間,実施例1と同様に空気のナノバブルを導入しつつ,反応を行った。反応終了後,実施例1と同様にして,転化率と,成物中のアスカリドール及びp−シメンの各割合とを求めた。結果を表2に示す。
【0036】
【表2】
【0037】
表2に見られるように,光増感剤としてローズベンガルの添加量を原料に対し1.0又は3.0モル%という量に減らしても,反応溶液温度30℃,1時間の反応(No.1,No.2)のみならず0.5時間の反応(No.3,No.4)でも,原料の転化率は全て99%を超えており,反応は既に完了していた。また,予想外にもp−シメンが主生成物として得られ,アスカリドールの生成量は僅かであった。
【0038】
〔実施例3〕 γ−テルピネンの光酸素酸化−1
【0039】
【化2】
【0040】
γ−テルピネン(IV)の光酸素酸化によるp−シメン(III)の製造を,常圧下にて種々の条件で行った。反応後,実施例1と同様にして生成物をガスクロマトグラフィーにかけ,γ−テルピネンの転化率を求めた。反応の条件及び結果を表3に示す。なお,表3の気体導入欄中,「BAB(空気)」は反応液中に(ナノバブルの形態ではなく)単なる一般的なバブリングで空気を吹き込むものであり,「BAL(空気)」は,空気で含ませた風船を反応容器に繋いで,反応容器中の気相側に空気を供給するものである。
【0041】
【表3】
【0042】
表3に見られるように,メタノールを溶媒とし,ローズベンガル(RB)を光増感剤として,ナノバブルの代わりに通常のバブリングにより空気を導入したNo.3及びバルーンによるNo.4では,2時間の反応後における原料の転化率が,それぞれ34%及び4%と低かった。これに対し,ナノバブルを用いたものでは,光増感剤を添加していないNo.14でさえ,49%の転化率を示した。
【0043】
ナノバブルを用い,光増感剤をローズベンガル,溶媒をメタノールとして反応を行った全てのもの(No.1,2,5,10)は,1〜2時間で既に反応は実質的に完了(転化率>99%)していた。光増感剤としてローズベンガルを用いもの同士で比較すると,用いた溶媒のうちメタノール,THF/メタノール(5/1),及びイソプロパノール/メタノール(5/1)も同等に優れており(全て,転化率>99%),このことはメタノール,イソプロパノール及びTHFが同等に優れた溶媒として使用できることを示している。但し,酢酸エチル/メタノール(5/1)やアセトニトリル/メタノール(5/1)を溶媒とした場合も,転化率75%が得られているから,これらの溶媒も使用でき,特に,メタノールに溶解しにくい原料で光酸素酸化反応を行う場合における溶媒候補となる。
【0044】
何れもナノバブルを用いたもののうち,ローズベンガル以外の光増感剤として5,10,15,20−テトラフェニルポルフィン(TPP)を用いたもの(No.12)では,2時間の反応で原料の転化率は75%であり,メチレンブルー(MB)を用いたもの(No.11)では65%,p−ベンゾキノンを用いたもの(No.13)では62%であった。このことから,ナノバブルによる空気(又は酸素)の導入下の光酸素酸化反応において,これらの光増感剤のうちローズベンガルが取り分け優れていることが明らかである。但し,他の光増感剤も,光増感剤を用いないNo.14での結果より高い原料転化率を示していることから,ナノバブル導入下の光酸素酸化反応において有利に使用できる。
【0045】
〔実施例4〕 第一級アミンの脱水素化とホモカップリングによるイミンの製造−1
【0046】
【化3】
【0047】
窒素原子にメチレン基が結合しているタイプの式Z−CH−NH〔Zは,任意の基を表す。〕の第一級アミンの一例として, 上記のアミン(V)を選び,実施例1〜2と同様にして,常圧下,反応溶液温度30℃にて,ナノバブルの形での空気又は酸素の供給下に光酸素酸化反応を行い,原料の転化率又はイミン(VI)の収率を調べた。光増感剤としてはローズベンガル又はTPPを用いた。なお,反応溶液にはデカン(10μM)を添加しておき,ガスクロマトグラフィーに際し,これを内部標準物質として原料であるベンジルアミンの定量を行った。反応の条件及び結果を次の表4に示す。
【0048】
【表4】
【0049】
表4に見られるように,光増感剤としてローズベンガルを原料に対し僅か0.1モル%使用して,反応溶液温度30℃では0.3時間(18分)の反応で,転化率99%超が達成されていた(No.2)。また更に低い0.01モル%の使用では,1時間で転化率99%が達成されていた(No.3)。更に一桁低い0.001モル%の使用では,4時間で転化率70%に達していたが(No.5),これは光増感剤無添加のもの(No.6,7)の74%,47%と実質的に異ならないと考えられる。このことは寧ろ,ナノバブルの形で空気(又は酸素)を導入しつつ行う光酸素酸化によれば,光増感剤を加えないでも酸化反応が実質的に進行することを示している。
【0050】
また,光増感剤がTPPである場合,原料に対しごく微量の0.001モル%の使用でも,4時間でイミン収率99%が達成されていた(No.12)。
【0051】
〔実施例5〕 第一級アミンの脱水素化とホモカップリングによるイミンの製造−2
【0052】
【化4】
【0053】
実施例4において原料としたベンジルアミンに代えて,メチル基,メトキシ基,クロロ基又はトリフルオロメチル基をフェニル基上に有するベンジルアミンを原料として,実施例4と同様に光酸素酸化を試みた。比較のため,同時に,ナノバブル(NB)に代えて通常のバブリング(BAB)によっても同様に反応を試みた。原料化合物,反応条件及び結果を次の表5に示す。
【0054】
【表5】
【0055】
表5に見られるように,何れの置換基を有するベンジルアミンにおいても,ナノバブルの形で空気を導入しつつ行う光酸素酸化が,通常のバブリングによるものに比べてはるかに高い転化率を示した。
【0056】
〔実施例6〕 第二級アミンの脱水素化によるイミンの製造
【0057】
【化5】
【0058】
1.N−ベンジルプロパン−2−アミン(XI)のイミン(XII)化
【0059】
【化6】
【0060】
式(IX)においてRがフェニル基,Rがイソプロピル基であるN−ベンジルプロパン−2−アミン(XI)を原料とし,光増感剤としてTPPを原料の0.02モル%使用して,デカン20μMを含むアセトニトリル溶液中で,反応溶液温度30℃にて1時間,上記各実施例と同様にナノバブル(空気)を導入しつつ光照射して,光酸素酸化反応を行った。その結果,対応するイミン(XII)が80%の収率で得られた。また,他の条件を同一として通常のバブリングで空気導入しつつ光酸素酸化反応を1時間行ったところ,イミン(XII)の収率は29%であった。
【0061】
2.テトラヒドロイソキノリン(XIII)のイミン(XIV)化
【0062】
【化7】
【0063】
式(IX)においてRがフェニル基,Rが該フェニル基の第2位に置換しているエチレン基である1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリン(XIII)を原料とし,上記1と同様にして,但し1.5時間,光酸素酸化反応を行い,対応する3,4−ジヒドロイソキノリン(XIV)が88%の収率で得られた。なお,他の条件は同一として通常のバブリングにより光酸素酸化反応を1.5時間行ったところ,イミン(XIV)の収率は50%であった。
【0064】
3.ジベンジルアミン(XV)のイミン(XVI)化
【0065】
【化8】
【0066】
式(IX)においてRがフェニル基,Rがベンジル基であるジベンジルアミン(XV)を原料とし,上記1と同様にして1時間反応を行い,イミン(XVI)が99%の収率で得られた。なお,他の条件は同一として通常のバブリングにより光酸素酸化反応を1時間行ったところ,イミン(XVI)の収率は23%に止まった。
【0067】
〔実施例7〕 スルフィドの光酸素酸化によるスルホキシドの選択的製造
1.チオアニソールの光酸素酸化によるメチルスルフィニルベンゼンの選択的製造−1
【0068】
【化9】
【0069】
原料であるチオアニソール(XVII)を濃度0.1Mでアセトニトリル/メタノール(5/1)に溶解させ,光増感剤は使用せず,内部標準としてデカン10mMを添加して,常圧下に,内部照射しつつ反応溶液温度30℃で3時間,空気をナノバブルの形で導入しつつ,反応を行った。その結果,原料の転化率99%,スルホキシド(XVIII)の収率は78%であった。また,スルホキシド/スルホン(Ph-SO2-Me)の比が(ガスクロマトグラフィーでの面積比)99/1であり,反応はこれら2種の生成物でほぼ完全にスルホキシド選択的であった。
【0070】
2.チオアニソールの光酸素酸化によるメチルスルフィニルベンゼンの選択的製造−2
上記に続き,溶媒,光増感剤の種類,添加量及び有無,反応時間を種々変更して,空気をナノバブルの形で導入しつつ,内部照射による光酸化によるメチルスルフィニルベンゼンの製造を試みた。条件及び結果を次の表6に示す。
【0071】
【表6】
【0072】
表6に見られるように,反応は,光増感剤不使用でもよく進行した。また,光増感剤の有無によらず,RSO/RSO比(スルホキシド/スルホン比)は97/3〜100/0であり,反応は高度にスルホキシド選択的であった。また,原料の転化率は,メタノール,アセトニトリル,これらの混液を用いた場合に特に高かった。
【0073】
3.各種スルフィドの光酸素酸化によるスルホキシドの選択的製造
【0074】
【化10】
【0075】
上記1及び2で,チオアニソールの光酸素酸化で,ナノバブルを用いると,スルフィドからスルホキシドへの高度に選択的な酸化が起こること及び,光増感剤不使用でも反応がよく進行することが確認されたことから,他のスルフィドについて検討した。即ち,表7の各原料化合物を濃度0.1Mでアセトニトリル/メタノール(5/1)に溶解させ,内部標準としてデカン10mMを添加し,光増感剤の存在下又は不存在下に,30℃にて,空気をナノバブル又は通常のバブリングにより供給しつつ,内部照射で光酸素酸化を試みた。結果を併せて表7に示す。
【0076】
【表7】
【0077】
表に見られるとおり,光増感剤なしでも反応は進行し,ナノバブル(NB)による空気(又は酸素)導入下での光酸素酸化では,通常のバブリングによる空気導入下での反応に比べ,著しく高い転化率及びスルホキシド収率が得られた。また,転化率とスルホキシド収率との比較及び表6の結果との対比から,ナノバブルを用いた光酸素酸化においてこれら種々のスルフィドにつき高度にスルホキシド選択的な酸化が起こっていることが分かる。また,この選択性は,窒素原子に結合している基,R及びRが芳香族であるか脂肪族であるかによっては影響を受けていない。このことは,ナノバブルを用いた光酸素酸化によるスルフィドのスルホキシドへの高度に選択的な酸化の,広範な種々のスルフィド全般への適用可能性を示している。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明は,光酸素酸化反応の反応効率を飛躍的向上,光増感剤の使用量低減や不使用,スルフィドのスルホキシドへの選択的光酸素酸化,及び光増感剤量の調節による主生成物の選択の可能性を拓く点で有用である。
【符号の説明】
【0079】
1:ナノバブル発生装置
3:流量制御装置
5:反応容器
7:反応溶液
9:高圧水銀灯
11,12:パイプ
図1
図2