特許第6282006号(P6282006)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6282006
(24)【登録日】2018年2月2日
(45)【発行日】2018年2月21日
(54)【発明の名称】鋼管の製造方法およびその製造装置
(51)【国際特許分類】
   B21D 5/01 20060101AFI20180208BHJP
   B21C 37/08 20060101ALI20180208BHJP
【FI】
   B21D5/01 S
   B21C37/08 E
   B21D5/01 L
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-71360(P2014-71360)
(22)【出願日】2014年3月31日
(65)【公開番号】特開2015-193013(P2015-193013A)
(43)【公開日】2015年11月5日
【審査請求日】2016年9月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000199810
【氏名又は名称】川崎油工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001542
【氏名又は名称】特許業務法人銀座マロニエ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】三輪 俊博
(72)【発明者】
【氏名】牛尾 富造
(72)【発明者】
【氏名】粕谷 光
【審査官】 貞光 大樹
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−206800(JP,A)
【文献】 登録実用新案第3007920(JP,U)
【文献】 特開2005−329414(JP,A)
【文献】 特開平5−331968(JP,A)
【文献】 米国特許第3914972(US,A)
【文献】 米国特許第3613427(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21D 5/01
B21C 37/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
板材を、その送り方向に沿い2個所で支持する1対のダイと、このダイの支持相互間にて該板材を押圧するパンチとにより、該板材に3点曲げベンディングプレスを施してオープン管とした後、該オープン管の幅端面を相互に突き合わせ接合することにより鋼管を製造する方法において、
前記ダイとして、無給油タイプの軸受けを構成するブッシングを介して支持され、前記板材に前記パンチによる押圧力が付加された時および該押圧力が除去された時においてのみ回転するローラを備えたダイを用いることを特徴とする鋼管の製造方法。
【請求項2】
板材を、その送り方向に沿い2個所で支持するダイと、このダイの支持相互間にて該板材を押圧して該板材に3点曲げベンディングプレスを施してオープン管とするパンチと、該オープン管の幅端面を相互に突き合わせ接合することによって鋼管とする接合手段とを備えた鋼管の製造装置であって、
前記ダイは、前記パンチの押圧中心側に向け斜め上向きに開放する2つの凹所を有する受台と、この受台の各凹所に無給油タイプの軸受けを構成するブッシングを介して配置され、前記板材に前記パンチによる押圧力が付加された時およびその押圧力が除去された時においてのみ該各凹所において回転可能なローラからなることを特徴とする鋼管の製造装置。
【請求項3】
前記受台の凹所は、前記ローラの胴部のほぼ半分の領域において面接触する支持面を有することを特徴とする請求項2に記載した鋼管の製造装置。
【請求項4】
前記ブッシングは、銅合金鋳物系の部材または含油軸受け用の部材から構成され、前記ローラの胴部に面と面で接触可能なものであることを特徴とする請求項2または3に記載した鋼管の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、3点曲げベンディングプレスにより、板材をその送給方向に沿い逐次押圧して曲げ変形させることによって、例えば、ラインパイプ等に使用される大径、かつ厚肉の鋼管を効率的に製造する鋼管の製造方法およびその製造装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ラインパイプ等に使用される大径、かつ厚肉の鋼管を製造する技術としては、所定の長さ、幅、板厚を有する鋼板を、U字状にプレス加工し、次いで、О字状にプレス成形したのちその端部を、溶接により突き合わせ接合することによって鋼管となし、さらに真円度を高めるべく、その径を拡大(いわゆる拡管)するようにした、いわゆるUOE成形技術が広く普及している。
【0003】
しかし、上記UOE成形技術では、鋼板をプレス加工してU字状、О字状に成形する工程において高いプレス圧力を必要とすることから大掛かりなプレス機械を使用せざるを得ない状況にある。
【0004】
このため、最近では、この種の鋼管を製造するに当たっては、プレス圧力を軽減する技術の検討がなされている。
【0005】
この点に関する先行技術としては、板材を、下型(ダイス)により2箇所で支持し、この下型の相互間に上型を押し込んで該板材に3点曲げプレスを施してその曲げ形状を制御するようにした、特許文献1に開示の如きプレス成形技術が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11―129031号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、上記従来のプレス成形技術においては、上型によって板材が押し込まれたときに、当該板材が下型の外表面に沿って摺動するため、表面疵の発生が不可避であり、しかも、板材の摺動に伴い下型の摩耗も避けられないことから、その交換を比較的短期間のうちに行う必要があった。
【0008】
そこで、本発明の目的は、板材における表面疵の発生を抑制しつつ長期にわたって安定したベンディングプレスにより真円度の高い鋼管を効率的に製造することができる方法とその製造装置を提案するところにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、板材を、その送り方向に沿い2個所で支持するダイと、このダイの支持相互間にて該板材を押圧するパンチとにより、該板材に3点曲げベンディングプレスを施してオープン管とした後、該オープン管の幅端面を相互に突き合せ接合することによって鋼管を製造する方法において、前記ダイとして、無給油タイプの軸受けを構成するブッシングを介して支持され、前記板材に前記パンチによる押圧力が付加された時およびその押圧力が除去された時においてのみ回転可能なローラを備えたダイを用いることを特徴とする鋼管の製造方法である。
【0010】
なお、本発明において、オープン管とは、板材を円筒状に成形して互いに向かい合う幅端面の相互間にギャップが形成されている管体、すなわち、幅端面が相互に溶接されていない状態の管体をいうものとする。また、パンチによる押圧力が付加された時とは、パンチが板材に接触し所定の角度にまで曲げられるまでの間のことであり、その押圧力が除去された時とは、板材が所定の角度にまで曲げられたのちにおいて、パンチが板材から離れるまでの間をいうものとする。とくに、パンチが板材から離れる時は、板材のスプリングバックによりローラは押圧力が付加された時とは逆向きに回転することになる。
【0011】
また、本発明は、板材を、その送り方向に沿い2個所で支持するダイと、このダイの支持相互間にて該板材を押圧して該板材に3点曲げベンディングプレスを施してオープン管とするパンチと、該オープン管の幅端面を相互に突き合せ接合することによって鋼管とする接合手段とを備えた鋼管の製造装置であって、前記ダイは、前記パンチの押圧中心側に向けて斜め上向きに開放する2つの凹所を有する受台と、この受台の各凹所に無給油タイプの軸受けを構成するブッシングを介して配置され、前記板材に前記パンチによる押圧力が付加された時およびその押圧力が除去された時においてのみ該各凹所において回転するローラからなることを特徴とする鋼管の製造装置である。
【0012】
上記の構成からなる鋼管の製造装置においては、受台の凹所にローラの胴部のほぼ半分の領域において面接触する支持面を形成しておくこと、また、受台の凹所に、銅合金鋳物系の部材または含油軸受け用の部材から構成され、前記ローラの胴部に面と面で接触可能なブッシングを配置しておくことが本発明の課題解決のための具体的手段として好ましい。
【発明の効果】
【0013】
上記の構成からなる本発明の鋼管の製造方法によれば、板材を、その送り方向に沿い2個所で支持するダイと、このダイの支持相互間にて該板材を押圧するパンチとにより、該板材に3点曲げベンディングプレスを施して幅端面の相互間にギャップが形成されたオープン管とした後、該オープン管の幅端面を相互に突き合せ接合することによって鋼管を製造するに当たり、ダイとして、板材にパンチによる押圧力が付加された時およびその押圧力が解除された時においてのみ回転可能なローラを備えたダイを用いるようにしたため、板材の押し込み、押込み力の解除に追随してローラが回転することとなり、該板材がダイの上で摺動することがなくなる。これにより、板材表面にすり疵が生じたり、ダイの摩耗が抑制される。また、該ローラは、パンチによる押圧力が付加されない限り回転することがない(板材をローラに単に載置しただけでは回転しない)ため、板材の、ローラ上での不用意な移動(位置ずれ)が回避され、パンチにより押圧すべき箇所がずれるのを防止することができ、真円度の高い鋼管の製造が可能となる。
【0014】
ここに真円度とは、鋼管の断面形状がどれだけ円に近いかを表す指標である。具体的には、例えば、製造された鋼管の任意の管長位置で管を周方向に12等分あるいは24等分して対向する位置での外直径を測定し、それらのうちの最大径と最少径をそれぞれDmax、Dminとした場合に、真円度=Dmax−Dminで定義される。真円度が0に近いほど、鋼管の断面形状が完全な円に近い形状であることを示している。
【0015】
また、上記の構成からなる本発明の鋼管の製造装置によれば、ダイを、パンチの押圧中心側に向けて斜め上向きに開放する2つの凹所を有する受台と、この受台の各凹所に配置され、板材にパンチによる押圧力が付加された時およびその押圧力が除去された時にのみ該凹所において回転可能なローラとによって構成することにより、該板材がダイの上で摺動するのを避けることができるため、該板材にすり疵が生じることがないうえ、ダイの磨耗も軽減される。また、パンチによる押圧力が付加される前に板材がローラ上で移動するのを避けることができるため、目標とする箇所をパンチにより正確に押し込むことが可能となり、真円度の高い鋼管を得ることができる。
【0016】
また、本発明の鋼管の製造装置によれば、前記受台の凹所に、ローラの胴部のほぼ半分の領域において接触する支持面を設けたため、パンチによる板材の押し込み力を確実に受けることが可能であり、また、ローラが凹所から抜け出すのを回避することができる。
【0017】
さらに、本発明の鋼管の製造装置によれば、受台の凹所に、銅合金鋳物系の部材または含油軸受け用の部材から構成され、ローラの胴部に面と面で接触可能なブッシングを配置したため、パンチの押圧力が付加された時と該押圧力が除去された時にローラを受台の凹所で確実に回転させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明に従う鋼管の製造装置のうち3点曲げベンディングプレスを行う部分の構成を模式的に示した図である。
図2図1に示した製造装置により板材に3点曲げベンディングプレスを行う状況を示した図である。
図3】ダイを構成するローラを拡大して示した図である。
図4】板材に3点曲げベンディングプレスを施してオープン管にするまでの工程を段階的に示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を図面を用いてより具体的に説明する。
図1は、本発明に従う鋼管の製造装置の実施の形態のうち3点曲げベンディングプレスを行う部分を模式的に示した外観斜視図であり、図2は、その正面を拡大して示した図である。
【0020】
図における符号1は、板材Sの送給方向(送り方向)に沿って該板材Sを2個所で支持するダイである。このダイ1は、パンチの押圧中心P側(図2参照)に向けて互いに逆向きに斜め上向きに開放された凹所tをそれぞれ有する受台1a、1bと、各受台1a、1bの凹所tにそれぞれ配置される無駆動式の2つのローラ1c、1dから構成されている。この例では、受台を2つ設け、それぞれの受台1a、受台1bに1つずつ凹所tを設けた場合について示したが、受台を単一部材で構成し、そこに間隔をおいて2つの凹所tを設けることもできる。
【0021】
また、符号2は、受台1a、1bの凹所tにそれぞれ配置され、ローラ1c、1dの胴部に面と面で接触するブッシングである。このブッシング2は、無給油タイプの軸受けを構成するものであって、板材Sをその上に単に載置しただけでは、ローラ1c、1dが回転することはないが、板材Sを曲げ変形させるような大きな力(押圧力)が加えられた時とその力が除去された時(パンチが板材から離れる時)においてのみ該ローラ1c、1dが回転するようになっている。
【0022】
ローラ1c、1dに押圧力が付加された時とその押圧力が除去された時においてのみ回転することにより、パンチの、押圧すべき箇所の位置ずれを起こすことがなくなるうえ、板材Sのベンディングプレス中において生じていたすり疵の発生を防止するとともに、ダイ1の摩耗をも抑制することができる。
【0023】
ブッシング2としては、それ自体の強度を確保するとともに、パンチによる押圧力が付加された時、該押圧力が除去された時にローラを確実に回転させることができるように、銅合金鋳物系の部材あるいは含油軸受け用の部材を適用することができる。
【0024】
ここに、銅合金鋳物系の部材としては、具体的に、高力黄銅鋳物(Cu−Zn−Mn−Fe−Al系)、アルミニウム青銅鋳物(Cu−Al−Fe−Ni−Mn系)等が適用可能である。
【0025】
また、含油軸受け用の部材としては、上記高力黄銅鋳物やアルミニウム鋳物に自己潤滑性能を付加したような材料等が適用可能である。
【0026】
この実施の形態では、凹所tにブッシング2を設けて板材Sに押圧力が加えられた場合およびその押圧力が除去された場合においてのみローラ1c、1dを回転させるようにしたが、ブッシング2と同様の機能を凹所tに直に付与することができる場合には該ブッシング2の設置は不要となる。
【0027】
なお、本発明では、板材Sに押圧力が加えられた場合およびその押圧力が除去された場合においてのみローラ1c、1dを回転させるために、ローラ1c、1d、ブッシング2の材質を適宜選択してその相互間に適切な摩擦抵抗を付与することになるが、板材Sに押圧力が加えられた場合およびその押圧力が除去された場合においてローラ1c、1dを確実に回転させるため、ブッシング2とローラ1c、1dとの間で回転抵抗を調整することができる制動機構を別途に設けておくことも可能であり、この点については限定されない。
【0028】
ブッシング2を設ける場合、あるいは、該ブッシング2と同様の機能を凹所tに直に付与する場合のいずれにおいても、ローラ1c、1dの胴部に接触する支持面nは、該胴部のほぼ半分の領域において接触させておくのが好ましい。これにより、パンチによる押圧力を確実に受け止めることができるとともに、ローラ1c、1dの凹所tからの抜け出しを回避することができる。ローラ1c、1dの凹所tからの抜け出しを確実に回避するためには、ローラ1c、1dの胴部に接触する支持面nについては、該ローラ1c、1dの胴部の半分を超える領域において接触させることが好ましい。ただし、ローラ1c、1dの胴部に接触する支持面nの該胴部に対する割合が過大になると、ローラ1c、1dの露出面積が小さくなり、被成形材である板材をローラ1c、1dに接触させるために凹所tの形状を設計する際の自由度が小さくなる。このため、ローラ1c、1dの胴部に接触する支持面nの該胴部に対する割合は70%以下とすることが好ましく、60%以下とすることがより好ましく、55%以下とすることがさらに好ましい。
【0029】
ローラ1c、1dの胴部に接触する支持面nについては該胴部の半分未満の領域において接触するようにしてもよく、これにより、ローラ1c、1dをその径方向に移動させて凹所tへの組み付け、あるいは凹所tからの取り出しが可能となり、ローラ1c、1dの効率的な取替えを行うことができる。ただし、ローラ1c、1dの胴部に接触する支持面nの該胴部に対する割合が過小であると、ローラ1c、1dの、凹所tからの不用意な抜け出しが発生するおそれもある。このため、ローラ1c、1dの胴部に接触する支持面nの該胴部に対する割合は、好ましくは40%以上とするのがよく、より好ましくは45%以上とすることが、さらに好ましくは48%以上とするのがよい。
【0030】
なお、支持面nを、ローラ1c、1dの胴部の半分未満の領域において接触させる場合には、ローラ1c、1dの、凹所tからの不用意な抜け出しを防止する観点から、脱落防止部材(ボルトによって着脱自在に係止可能な脱落防止板等)を追加してもよい。脱落防止部材を追加する場合であっても、ローラ1c、1dに接触する支持面nの該胴部に対する割合が過小である場合には、脱落防止部材を大型で堅固なものにしなければならなくなるため、上記同様、ローラ1c、1dの胴部に対する割合は、好ましくは40%以上とすることが、より好ましくは45%以上とすることが、さらに好ましくは48%以上とするのがよい。
【0031】
ローラ1c、1dが受けるパンチ3の押圧力は、主に斜め下向きであり、上記支持面nの両端部n、nは、図3に示すように、ローラ1c、1dの回転軸心оを通る垂直線をHとした場合に、ローラ1cについては、該垂直線Hを基準にして該回転軸心оの上下で該回転軸心oを中心に反時計周りに例えば、40°〜50°の角度θにして位置させるのが望ましく、また、ローラ1dについては、該垂直線Hを基準にして該回転軸oの上下で該回転軸心oを中心に時計周りに40°〜50°の角度θで位置させるのが望ましい。
【0032】
支持面nの両端部n、nを上記の範囲の角度に設定することにより、ローラ1c、1dの胴部に接触する支持面nが、該胴部の半分の領域において接触することとなり、パンチによる押圧力を確実に受け止めることができるとともに、ローラ1c、1dの凹所tからの抜け出しを回避し得る。
【0033】
また、支持面nの両端部n、nの相互間隔(周方向の長さ)をさらに広げるべく伸長させ、該支持面nをローラ1c、1dの胴部の半分を超えて接触させることも可能であり、この場合、ローラ1c、1dの、凹所tからの抜け出し防止をより確実なものとすることができる。
【0034】
本発明では、パンチによる押圧力が付加された時およびその押圧力が除去された時においてのみ凹所tにおいて回転可能なローラ1c、1dを適用することとしたが、その理由は、例えば、板材Sに接触するだけでローラ1c、1dが回転してしまうと、パンチが板材Sに軽く接触しただけで該板材Sが動いてしまい、該パンチで押圧すべき箇所がずれることも懸念され、これが管の形状、とくに真円度に悪影響を与えることが想定されるからである。
【0035】
また、図における符号3は、ダイ1に近接、離隔する向きに移動可能としたパンチである。パンチ3は、板材Sに加工面Kを直接接触させてダイ1のローラ1c、1dの間で該板材Sを押圧するパンチ先端部3aと、このパンチ先端部3aの背面に同一幅(厚さ)をもって一体的につながり、該パンチ先端部3aを支持するパンチ支持体3bから構成されている。
【0036】
上記パンチ支持体3bは、具体的な構造については図示しないが、その上端部が、油圧シリンダーの如き手段に連結しており、該手段によってダイ1に向け近接、離隔可能であり、パンチ先端部3aに押圧力(プレス荷重)を付与することができるようになっている。なお、パンチ3としては、パンチ先端部3aの幅を、パンチ支持体3bの幅(厚さ)よりも大きくした、略逆T字形状をなすものを用いることができる。この場合、パンチ先端部3aの幅がパンチ支持体3bの幅(厚さ)と同程度になるものに比べ、一回の押圧で、板材に対してより大きな面積を押圧することができるので、押圧回数の低減を図ることが可能となる。
【0037】
さらに、符号4は、板材Sの搬送経路を形成するとともに、パンチ3が板材Sに接触するまで板材Sを支持する役割を果たす搬送ローラ群である。
【0038】
なお、3点曲げベンディングプレスによって得られたオープン管S図4参照)を、その加工部分から効率的に搬出する目的で、図2の紙面垂直方向にオープン管Sを搬送可能とする搬送手段(図示せず)を設けておくことができる。搬送手段としては、例えば、受台1aと受台1bとの間に配置され、該ローラ1c、1dにて支持されるオープン管Sに向けて近接、離隔可能な搬送ローラ群を適用することが可能である。該搬送ローラ群によるオープン管S図2の紙面垂直方向への搬送は、該搬送ローラ群を直接駆動することにより行ってもよいし、該搬送ローラ群に駆動系を設けず、該搬送ローラ群とは別に、オープン管Sの端部をその長手方向に沿って押圧可能な押圧機構を設け、この押圧機構を使用して搬出するようにしてもよい。
【0039】
本発明に係る鋼管の製造装置においては、上記3点曲げベンディングプレスを行う部分の他、プレス加工によって成形されたオープン管Sの開放部(ギャップ)における幅端面を相互に突き合わせた状態で溶接して鋼管とする溶接機(接合手段)を配置する(図示せず)。
【0040】
溶接機としては、例えば、仮付溶接機、内面溶接機、外面溶接機という3種類の溶接機で構成されるものを適用する。係る溶接機において、仮付溶接機は、ケージロールにより突き合わせ面を適切な位置関係で連続的に密着させ、密着部をその全長にわたって溶接するものである。
【0041】
仮付された管は、次に、内面溶接機により突き合わせ部の内面から溶接(サブマージアーク溶接)され、さらに、外面溶接機により突き合わせ部の外面から溶接(サブマージアーク溶接)される。
【0042】
上記溶接機(接合手段)と3点曲げプレスを行う部分との位置関係はとくに限定されず、任意に変更される。
【0043】
なお、ローラ1c、1dの中心間隔Lは、該ローラ1c、1dを受台1a、1bとともに移動させることで成形すべき鋼管のサイズに応じて適宜変更することが可能であり、中心間隔Lの変更に合わせてそれに適合する加工幅をもつパンチ3に取り換えられる。また、ローラ1c、1dは、ローラ1c、1dの最上端が搬送ローラ群4のパスライン(搬送ローラ群4の最上端を結んだ線)より5mm程度だけ低く設定(図2のδt参照)し、かつ、受台1a、1bの上端よりも例えば10mm程度高くなるように設定(図2のδt参照)するのが好ましく、これにより、材料搬送時の板材Sとローラ1c、1dとの接触を少なくとするとともに板材Sと受台1a、1bの上端との接触を避けることができる利点がある。
【0044】
上記の構成からなる製造装置を用いて鋼管を製造するには、該板材Sをダイ1のローラ1c、1d上に載置し、板材Sを所定の送りピッチで間欠的に送給しながら、図4に示す如き要領で、該板材Sを先端側(幅方向端部)、後端側(幅方向端部)からともにその中央部に向けてパンチ3により逐次押圧していき3点曲げベンディングプレスを行う。
【0045】
そして、該板材Sの中央部を最後に押圧して開放部を有するC字形状のオープン管Sとした後、該オープン管Sを3点曲げベンディングプレスを行う部分から搬出するとともに溶接機の設置位置へと搬送し、溶接機にてオープン管Sの開放部を溶接により突き合わせ接合し、必要に応じてさらにその下流で拡管を施す。
【0046】
なお、図4は、予め端曲げ加工(後述する)を施した板材Sに対して、左列の上から下へ、次いで、中央列の上から下へ、さらに、右列の上から下へと曲げ加工および板材Sの送給を実施することにより右側最下図に示す如きオープン管Sを成形する工程を示した図であって、この図4中、板材Sあるいはパンチ3に付されている矢印は、それぞれの工程における板材Sあるいはパンチ3の移動方向を示している。この場合、板材Sの先端側から10回の押圧(プレス)を行い(前半プレス)、後端側からさらに、10回の押圧を行い(後半プレス)、最後に板材Sの中央部を1回だけ押圧することによりオープン管Sを成形することができるが、本発明では、上記のような加工回数に限定されるものではなく、製造すべき鋼管のサイズに応じて適宜変更される。
【0047】
本発明によれば、上述したように、ダイ1を構成するローラ1c、1dはパンチ3による押圧力が付加された時およびその押圧力が除去された時にのみ回転するため、板材Sの表面にすり疵を発生させるような摺動は起こらず、ローラ1c、1dが板材Sの摺動により摩耗することもない。また、板材Sがローラ1c、1dに支持されているだけでは、該ローラ1c、1dは回転することがないので、目的とする箇所にパンチ3を正確に接触させて板材Sを押し込むことが可能となり、真円度の高い鋼管の製造が可能となる。
【実施例】
【0048】
厚さ31.8mm、幅3650×長さ12000mmのラインパイプ用鋼板(API グレード X100)を用い、直径48インチの鋼管を成形すべく、間隔350mmに設定した上掲図1に示した如き構成になるダイ1(ローラ:直径150mm、長さ13000mm、のステンレス製ローラ、ブッシング:銅合金鋳物系の部材)に載置して、半径400mmになる加工面を有するパンチにより、押圧力(荷重)8500ton、板材送りピッチ200mm、押圧回数55回(先端から27回、後端から27回、中央部で1回)として3点曲げによるベンディングプレスを行い、得られた丸鋼管の品質と、ローラの摩耗状況についての調査を行った。
【0049】
その結果、通常のダイ(固定式)を用いたプレス成形では、板材の処理枚数が増えていくに従ってすり疵の発生が増加し、鋼管の外表面の品質の保持のため、1000本程度でダイの取替えが必要になった。
【0050】
これに対して、本発明に従う装置を用いて鋼管の製造を行った場合、得られた鋼管の外表面にはすり疵の発生は認められず、また、ローラの摩耗についても問題ないことが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明によれば、板材のダイ表面での摺動が避けられるため、すり疵の発生、ダイの摩耗を抑制することが可能となる。
【0052】
また、本発明によれば、所定のピッチで搬送された板材につき、目的とする箇所にパンチを押し込んで3点曲げベンディングプレス加工を行うことが可能であり、真円度の高い鋼管を製造することができる。
【符号の説明】
【0053】
1 ダイ
1a 受台
1b 受台
1c ローラ
1d ローラ
2 ブッシング
3 パンチ
3a パンチ先端部
3b パンチ支持体
4 搬送ローラ群
S 板材
L 間隔
K 加工面
図1
図2
図3
図4