特許第6282105号(P6282105)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6282105アルミニウム製のボディと複合材料製のボディとを備えた自転車の構成部品、および該構成部品の製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6282105
(24)【登録日】2018年2月2日
(45)【発行日】2018年2月21日
(54)【発明の名称】アルミニウム製のボディと複合材料製のボディとを備えた自転車の構成部品、および該構成部品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B60B 21/00 20060101AFI20180208BHJP
   C25D 11/08 20060101ALI20180208BHJP
   C25D 11/16 20060101ALI20180208BHJP
   B62M 3/00 20060101ALI20180208BHJP
【FI】
   B60B21/00 J
   C25D11/08
   C25D11/16
   B60B21/00 D
   B62M3/00 A
【請求項の数】18
【外国語出願】
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2013-263450(P2013-263450)
(22)【出願日】2013年12月20日
(65)【公開番号】特開2014-122031(P2014-122031A)
(43)【公開日】2014年7月3日
【審査請求日】2016年10月19日
(31)【優先権主張番号】MI2012A002229
(32)【優先日】2012年12月21日
(33)【優先権主張国】IT
(73)【特許権者】
【識別番号】592072182
【氏名又は名称】カンパニョーロ・ソシエタ・ア・レスポンサビリタ・リミタータ
【氏名又は名称原語表記】CAMPAGNOLO SOCIETA A RESPONSABILITA LIMITATA
(74)【代理人】
【識別番号】100087941
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 修司
(74)【代理人】
【識別番号】100086793
【弁理士】
【氏名又は名称】野田 雅士
(74)【代理人】
【識別番号】100112829
【弁理士】
【氏名又は名称】堤 健郎
(74)【代理人】
【識別番号】100154771
【弁理士】
【氏名又は名称】中田 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100155963
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 大輔
(72)【発明者】
【氏名】ファブリス・パオロ
(72)【発明者】
【氏名】フェルトリン・マウリ
【審査官】 高島 壮基
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−046052(JP,A)
【文献】 特開昭61−125901(JP,A)
【文献】 特開2011−093526(JP,A)
【文献】 特開平06−321167(JP,A)
【文献】 特開2007−196227(JP,A)
【文献】 特開昭62−257714(JP,A)
【文献】 特開2005−015898(JP,A)
【文献】 特開昭62−183541(JP,A)
【文献】 特表2008−530362(JP,A)
【文献】 特開2001−219705(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60B 21/00
B62M 3/00
C25D 11/08
11/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自転車の構成部品(10,110)であって、
アルミニウム製の第1のボディ(22,220)と、
複合材料製の第2のボディ(24,240)と、を備え、
前記第2のボディ(24,240)が、前記第1のボディ(22,220)の第1の表面部位(23a,230a)とカップリングしており、
前記第1の表面部位(23a,230a)は、酸素除去表面処理(deoxidation surface treatment)が施された後、当該第1の表面部位(23a,230a)の少なくとも一部に、前記第1のボディ(22,220)と前記第2のボディ(24,240)とを接着する接着性物質が適用されており、
前記第1のボディ(22,220)の第2の表面部位(23b、230b)は、酸化表面処理が施された後、酸化物のフィックス処理(fixing) が行われている、自転車の構成部品(10,110)。
【請求項2】
請求項1に記載の自転車の構成部品(10,110)において、前記第1のボディ(22,220)と前記第2のボディ(24,240)との接着は、水中に1500時間浸漬させた後の、せん断応力に対する抵抗力の減少が、20MPa以下である、自転車の構成部品(10,110)。
【請求項3】
請求項1または2に記載の自転車の構成部品(10,110)において、前記第1のボディ(22,220)と前記第2のボディ(24,240)との接着は、せん断応力に対する最初の抵抗力が、35MPa超を確保する、自転車の構成部品(10,110)。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載の自転車の構成部品(110)において、前記第1のボディ(220)が、右クランクアームアセンブリ(110)のピン(220)であり、前記第2のボディ(240)が、当該右クランクアームアセンブリ(110)の右クランクアーム(240)である、自転車の構成部品(110)。
【請求項5】
請求項1から3のいずれか一項に記載の自転車の構成部品(10)において、前記第1のボディ(22)が、自転車用のリムの径方向外側の環状部材(22)であり、前記第2のボディ(24)が、当該自転車用のリム(10)の径方向内側の環状部材(24)である、自転車の構成部品(10)。
【請求項6】
請求項5に記載の自転車の構成部品(10)において、前記第1のボディ(22)が、ベース面(22a)および両側の側面(22b)を有しており、
−前記ベース面(22a)に、さらには、前記両側の側面(22b)のそれぞれの径方向内側の周部分(22e)に、前記第1の表面部位(23a)が形成されており、
−前記両側の側面(22b)のそれぞれの径方向外側の周部分(22f)に、前記リムの制動トラックが形成された、自転車の構成部品(10)。
【請求項7】
自転車の構成部品(10,110)を製造する方法であって、
前記構成部品は、アルミニウム製の第1のボディ(22,220)と、複合材料製の第2のボディ(24,240)とを備えるものであり、
−前記第1のボディ(22,220)の第1の表面部位(23a,230a)に、酸素除去表面処理(deoxidation surface treatment)を施す工程と、
−このように処理された前記第1の表面部位(23a,230a)の少なくとも一部に、接着性物質を適用する工程と、
−前記第1のボディ(22,220)と前記第2のボディ(24,240)とを、前記第1の表面部位(23a,230a)の前記少なくとも一部でカップリングさせる工程と、を含み、当該製造方法は、さらに、前記第1のボディ(22,220)の少なくとも第2の表面部位(23b、230b)に、酸化表面処理(oxidation surface treatment) を施した後、酸化物のフィックス処理(fixing)を行う工程を含む、自転車の構成部品の製造方法。
【請求項8】
請求項7に記載の自転車の構成部品の製造方法において、前記酸素除去表面処理が、硫酸クロム酸混液を用いた酸攻撃処理(FPL)である、自転車の構成部品の製造方法。
【請求項9】
請求項8に記載の自転車の構成部品の製造方法において、陽極酸化処理を含んでおり、当該陽極酸化処理は、(1)酸化物厚さが4μm以下となるクロム酸を用いた陽極酸化処理(CAA)または(2)リン酸を用いた陽極酸化処理(PAA)を含む、自転車の構成部品の製造方法。



【請求項10】
請求項7から9のいずれか一項に記載の自転車の構成部品の製造方法において、前記酸化表面処理が、硫酸を用いた陽極酸化処理(SAA)である、自転車の構成部品の製造方法。
【請求項11】
請求項7から10のいずれか一項に記載の自転車の構成部品の製造方法において、さらに、前記接着性物質を適用する工程の前に、前記第1の表面部位(23a,230a)に防食塗料を適用する工程を含む、自転車の構成部品の製造方法。
【請求項12】
請求項7から11のいずれか一項に記載の自転車の構成部品の製造方法において、前記酸化表面処理を、前記酸素除去表面処理よりも前に施す、自転車の構成部品の製造方法。
【請求項13】
請求項7から12のいずれか一項に記載の自転車の構成部品の製造方法において、さらに、前記第1のボディ(22,220)の前記第1の表面部位(23a,230a)に前記酸素除去表面処理を施す工程よりも前に、第1の保護体(30,300)で前記第2の表面部位(23b、230b)を覆う工程を含む、自転車の構成部品の製造方法。
【請求項14】
請求項13に記載の自転車の構成部品の製造方法において、前記第1のボディ(22)が、自転車用のリム(10)の径方向外側の環状部材(22)であり、当該径方向外側の環状部材(22)は、両側の側面(22b)の間に形成されたタイヤ(14)用の着座部(20)を有しており、
前記第2の表面部位(23b)を覆う工程が、−充填体(28)を前記着座部(20)に挿入する副工程、ならびに−取り除き可能な保護膜(30)を前記充填体(28)および前記径方向外側の環状部材(22)のうちの径方向外側の周部分に適用する副工程を有する、自転車の構成部品の製造方法。
【請求項15】
請求項14に記載の自転車の構成部品の製造方法において、前記径方向外側の環状部材(22)が、インフレーションバルブ(15)用の孔を有しており、
当該製造方法が、さらに、前記充填体(28)を前記着座部に挿入する副工程よりも前に、第1のマスク(26a)で前記孔を覆う工程、を含む、自転車の構成部品の製造方法。
【請求項16】
請求項7から15のいずれか一項に記載の自転車の構成部品の製造方法において、前記第1のボディ(22)の少なくとも第2の表面部位(23b)に酸化表面処理を施す工程が、−当該酸化表面処理を前記第1の表面部位(23a)および前記第2の表面部位(23b)に施し、陽極酸化物を形成する副工程、ならびに−前記第1の表面部位(23a)から前記陽極酸化物の少なくとも一部を除去する副工程を有する、自転車の構成部品の製造方法。
【請求項17】
請求項7から13のいずれか一項に記載の自転車の構成部品の製造方法において、前記第1のボディ(220)が、右クランクアームアセンブリ(110)の中空のピン(220)であり、
当該製造方法が、さらに、前記酸素除去表面処理を施す工程よりも前に、前記中空のピン(220)の両側の端面を閉塞する工程、を含む、自転車の構成部品の製造方法。
【請求項18】
請求項7から13および請求項17のいずれか一項に記載の自転車の構成部品の製造方法において、さらに、前記第1のボディ(220)の少なくとも第2の表面部位(230b)に酸化表面処理を施す工程よりも前に、第2の保護体(134)で前記第1の表面部位(230a)を覆う工程を含む、自転車の構成部品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム製のボディと複合材料製のボディとを備え、複合材料製のボディがアルミニウム製のボディの表面部位とカップリングしている自転車の構成部品に関する。
【0002】
本明細書および添付の特許請求の範囲において、「アルミニウム製のボディ」とは、任意のアルミニウム系合金で構成されたボディのことを指す。
【0003】
本明細書および添付の特許請求の範囲において、「複合材料製のボディ」とは、構造繊維を高分子材料のマトリクス中に組み込んだボディのことを指し、例えば、カーボン繊維やガラス繊維を熱可塑性ポリマー樹脂又は熱硬化性ポリマー樹脂に組み込んだものが挙げられる。
【0004】
本発明は、さらに、前述した自転車の構成部品の製造方法に関する。
【0005】
説明を分かり易くするために、本明細書では、本発明にかかる自転車の構成部品の具体例として、右クランクアームアセンブリおよび自転車用のリムの2つについて言及する。しかしながら、本発明にかかる自転車の構成部品の例は、必ずしもこれらに限定されない。
【0006】
右クランクアームアセンブリの場合、アルミニウム製のボディはピンであり、複合材料製のボディは右クランクアームである。具体的には、そのようなピンは、自転車用のボトムブラケットアセンブリのシャフトまたはハーフシャフトである。シャフトであれば、その一端が右クランクアームと連結し、その他端が左クランクアームと連結する。ハーフシャフトであれば、その一端が右クランクアームと連結し、その他端が別のハーフシャフトの一端と連結する。この別のハーフシャフトの他端が、左クランクアームと連結している。
【0007】
自転車用のリムの場合、アルミニウム製のボディは径方向外側の環状部材(ring)であり、複合材料製のボディは径方向内側の環状部材である。これら2つの環状部材が、自転車用のリムを形成する。このリムには、タイヤ(典型的に、径方向外側の環状部材側)およびスポーク(典型的に、径方向内側の環状部材側)が取り付けられる。
【背景技術】
【0008】
自転車の構成部品であって、2種類の相異なる材料のボディ(典型的には、アルミニウムと、カーボン繊維を高分子材料のマトリクス中に組み込んだものとの2種類)を備えたものは、さらなる軽量化、良好な機械強度および信頼性という、自転車(特に、競走用の自転車)に対する市場の要望に応えることができる。これは、高い機械性能(例えば、クランクアームアセンブリのピンの場合)および/または特殊な機械性能(例えば、自転車用のリムの径方向外側の環状部材の場合であって、典型的にリムの制動トラック(braking track)が形成される部分など)が確実に必要とされる構成要素にアルミニウムを使用し、残りの構成要素に複合材料を使用することによって達成される。これにより、さらに、自転車の構成部品を最大限に軽量化することもできる。
【0009】
既知のとおり、当該技術分野では、アルミニウム製のボディの腐食を防止するために、そのボディの表面に酸化処理を施すことが要求される。
【0010】
例えば、自転車用のリムの場合、そのリムの環状部材(annular element)は、タイヤを取り付ける際に用いる液状物質(liquid)による腐食作用や、場合によってはタイヤシーラント製品による腐食作用に耐えなければならない。同様に、右クランクアームアセンブリの場合、そのアセンブリのピンは、水、泥などによる腐食作用や、ボトムブラケットアセンブリの潤滑製品による腐食作用に耐えなければならない。
【0011】
また、既知のとおり、当該技術分野では、アルミニウム製のボディのうち、複合材料製のボディと接着・カップリングさせる表面に、下地処理を施すことが要求される。
【0012】
例えば、自転車用のリムの場合、アルミニウム製の径方向外側の環状部材に対し、複合材料製の径方向内側の環状部材との確実かつ安定した接着を長期間保証する、適切な接着性物質を適用しなければならない。同様に、右クランクアームアセンブリの場合、アルミニウム製のピンに対し、複合材料製の右クランクアームとの確実かつ安定した接着を長期間保証する、適切な接着性物質を適用しなければならない。
【0013】
出願人は、アルミニウム製のボディに対して酸化表面処理(oxidation surface treatment)を実行した後、酸化物のフィックス処理(fixing of the oxide)を実行することにより、耐食性に関して優れた効果が得られることに気付いた。
【0014】
そのような酸化表面処理は、例えば、
1)硫酸を用いた陽極酸化処理(SAA)、
2)酸化物厚さが8μm以上となるクロム酸を用いた陽極酸化処理(CAA)、または
3)プラズマ電解酸化処理(PEO)、
であってもよい。
【0015】
その後のフィックス処理は、例えば、酢酸ニッケルを用いたフィックス処理、HOを用いた高温フィックス処理、またはその他の低温フィックス系であってもよい。
【0016】
出願人は、アルミニウム製のボディに対して酸素除去表面処理(deoxidation surface treatment)を実行することにより、接着性に関して優れた効果が得られることに気付いた。
【0017】
そのような処理は、例えば、硫酸クロム酸混液を用いた酸攻撃処理(FPL)である。好ましくは、これに加えて、酸化物厚さが4μm以下となるクロム酸を用いた陽極酸化処理(CAA)、より好ましくはリン酸を用いた陽極酸化処理(PAA)が実行される。
【0018】
しかしながら、出願人は、酸化表面処理と上記酸素除去表面処理との相性が良くない場合が多いことに気付いた。例えば、硫酸を用いた陽極酸化処理が施された表面に、上記酸素除去表面処理を施すと、形成されていた表面保護酸化物(以降、陽極酸化物と称する場合がある)が劣化する。反対に、上記酸素除去表面処理が施された表面に、硫酸を用いた陽極酸化処理を施すということは、その表面の接着信頼性及び接着強度に関する接着性能を犠牲にすることを意味する。
【0019】
つまり、自転車の構成部品において、上記酸素除去表面処理に重ねて硫酸を用いた陽極酸化処理を実行したり、硫酸を用いた陽極酸化処理に重ねて上記酸素除去表面処理を実行したりすると、耐食性に関する利点と接着性能に関する利点との両方が失われることになる。
【0020】
出願人は、上述した相性の悪さがあるので、硫酸を用いた陽極酸化処理には、サンドブラスト処理、溶剤を用いた洗浄処理、または特定の水溶液を用いた洗浄処理を組み合わせるのが常套であることに気付いた。しかし、出願人は、特定の水溶液を用いた洗浄処理では被処理表面に最適な接着特性を付与することができない点にも気付いた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
本発明の根底をなす技術的課題は、アルミニウム製のボディと複合材料製のボディとを備えた自転車の構成部品について、腐食の防止およびアルミニウム製のボディと複合材料製のボディとの接着の両方に関して、最適な特性を得ることである。
【課題を解決するための手段】
【0022】
出願人は、アルミニウム製のボディと複合材料製のボディとの接着が、アルミニウム製のボディの極めて限られた部分で生じるので、接着下地処理をボディのそのような部分だけに限定しても、接着性に関して優れた効果が十分に得られることに気付いた。出願人は、さらに、アルミニウム製のボディのそのような部分に対する特定の防食処理を省いたとしても、また、防食処理によってアルミニウム製のボディのそのような部分に表面保護酸化物を形成したとして、この部分の表面保護酸化物が劣化したり除去されたりしても、耐食性に関して優れた効果が得られることに気付いた。
【0023】
したがって、出願人は、自転車の構成部品のアルミニウム製のボディに対して酸化表面処理と酸素除去表面処理の両方を適用し、具体的には:(i)アルミニウム製のボディのうち、複合材料製のボディとカップリング(coupling)する部位にのみ酸素除去表面処理を行い、アルミニウム製のボディの残りの部位には酸化表面処理を行う;か、あるいは、(ii)アルミニウム製のボディの全体に酸化表面処理を行った後、酸素除去処理を行う;ことにより、前述した技術的課題を解決できることに気付いた。
【0024】
以上を踏まえて、本発明の第1の構成は、自転車の構成部品に関する。この自転車の構成部品は、−アルミニウム製の第1のボディと、−複合材料製の第2のボディと、を備え、前記第2のボディが、前記第1のボディの第1の表面部位とカップリングしており、前記第1の表面部位は、酸素除去表面処理が施された後、当該第1の表面部位の少なくとも一部に、前記第1のボディと前記第2のボディとを接着する接着性物質が適用されており、前記第1のボディの第2の表面部位は、酸化表面処理が施された後、酸化物のフィックス処理が行われている。
【0025】
本発明の第2の構成は、自転車の構成部品を製造する方法に関する。この構成部品は、アルミニウム製の第1のボディと、複合材料製の第2のボディとを備えるものであり、その製造方法は、−前記第1のボディの第1の表面部位に酸素除去表面処理を施す工程と、−このように処理された前記第1の表面部位の少なくとも一部に、接着性物質を適用する工程と、−前記第1のボディと前記第2のボディとを、前記第1の表面部位の前記少なくとも一部でカップリングさせる工程と、を含み、当該製造方法は、さらに、前記第1のボディの少なくとも第2の表面部位に、酸化表面処理を施した後、酸化物のフィックス処理を行う工程を含む。
【0026】
本発明のいずれの態様も、後述する少なくとも1つの好適な構成を含み得る。
【0027】
好ましくは、前記酸素除去表面処理は、硫酸クロム酸混液を用いた酸攻撃処理(FPL)である。
【0028】
好ましくは、酸化物厚さが4μm以下となるクロム酸を用いた陽極酸化処理(CAA)、より好ましくはリン酸を用いた陽極酸化処理(PAA)もまた行われる。
【0029】
好ましくは、クロム酸を用いた前記陽極酸化処理は、酸化物が3μm以下の厚さに達するまで、より好ましくは酸化物が2μm以下の厚さに達するまで施される。
【0030】
好ましくは、前記酸化表面処理は、硫酸を用いた陽極酸化処理(SAA)である。
【0031】
好ましくは、前記第1のボディと前記第2のボディとの接着は、水中に1500時間浸漬させた後の、せん断応力に対する抵抗力の減少が、20MPa以下、より好ましくは18MPa以下、さらに好ましくは10MPa以下、なおいっそう好ましくは5MPa以下である。
【0032】
有利なことに、本発明で得られる接着は、せん断応力に対する抵抗力の減少が、前述した酸素除去処理と異なる処理(例えば、サンドブラスト処理、溶剤を用いた洗浄処理など)を利用して得られる接着の場合よりも小さい。
【0033】
好ましくは、前記第1のボディと前記第2のボディとの接着は、せん断応力に対するイニシャルの抵抗力が、35MPa超を、より好ましくは40MPa超を、さらに好ましくは約45MPaを確保する。
【0034】
有利なことに、本発明で得られる接着は、せん断応力に対するイニシャルの抵抗力が、前述した酸素除去処理と異なる下地処理(例えば、前述したサンドブラスト処理、溶剤を用いた洗浄処理など)を接着面に施したうえで得られる接着の場合よりも遥かに高くなる。
【0035】
本発明の第1の好ましい実施形態において、前記第1のボディは、右クランクアームアセンブリのピンであり、前記第2のボディは、当該右クランクアームアセンブリの右クランクアームである。
【0036】
好ましくは、この第1の実施形態において、前記第1の表面部位が、前記ピンを前記右クランクアームに螺合させるねじ部を具備している。
【0037】
本発明の第2の好ましい実施形態において、前記第1のボディは、自転車用のリムの径方向外側の環状部材であり、前記第2のボディは、当該自転車用のリムの径方向内側の環状部材である。
【0038】
好ましくは、この第2の実施形態において、前記第1のボディは、ベース面および両側の側面を有しており、前記ベース面と、前記両側の側面のそれぞれの径方向内側の周部分とに、前記第1の表面部位が形成されている。
【0039】
好ましくは、前記両側の側面のそれぞれの径方向外側の周部分に、前記リムの制動トラックが形成されている。
【0040】
有利なことに、制動トラックが前記アルミニウム製のボディに形成されていることにより、極めて効率よく制動を行うことが可能になる。
【0041】
好ましくは、前記接着性物質が適用されるよりも前に、前記第1の表面部位に防食塗料が適用される。
【0042】
好ましくは、前記酸化表面処理は、前記酸素除去処理よりも前に施される。
【0043】
このような作業手順は、作業性の観点からみて好都合である。
【0044】
好ましくは、前記酸素除去表面処理が施されるよりも前に、第1の保護体で前記第2の表面部位が覆われる。
【0045】
これにより、有利なことに、前記酸素除去表面処理を施す際に使用される物質と前記第2の表面部位とが接触するのを防止することができる。
【0046】
好ましくは、前記径方向外側の環状部材の前記両側の側面の間に、タイヤ用の着座部が形成されている。
【0047】
好ましくは、上述した本発明の第2の好ましい実施形態において、前記着座部に充填体が挿入され、前記充填体および前記径方向外側の環状部材のうちの径方向外側の周部分に、取り除き可能な保護膜が適用されることにより、第1の保護体で前記第2の表面部位が覆われる。
【0048】
好ましくは、前記保護膜は、塗布乾燥された液状のポリマーである。例えば、そのような塗料は、粘度が約50ポアズ、比重が約1.026g/cmの、約45%キシレン溶液中ポリマーである。一具体例として、「Mask Acid」(Turco Italiana社製)と称される塗料を使用することができる。
【0049】
好ましくは、前記保護膜は、前記ポリマー液体塗料が入った槽に前記径方向外側の環状部材を部分的に浸漬することによって適用される。具体的には、前記径方向外側の環状部材のうちの径方向外側の部分のみが前記槽中に浸される。この径方向外側の環状部材を回転させることにより、前記ポリマー液体塗料が、前述した径方向外側の周部分の全体にわたって塗付される。
【0050】
好ましくは、前記径方向外側の環状部材が、インフレーションバルブ(空気入れバルブ)用の孔を有している。
【0051】
好ましくは、前記充填体が前記タイヤ用の着座部に挿入されるよりも前に、第1のマスクで前記孔が覆われる。
【0052】
有利なことに、このような第1のマスクにより、後続の前記酸素除去表面処理で使用される物質が前記タイヤ用の着座部の内側に入るのを防止することができる。
【0053】
好ましくは、前記径方向外側の環状部材は、電気接点用の領域を有している。
【0054】
好ましくは、前記領域は、前記酸化表面処理が施されるよりも前に、第2のマスクで覆われる。
【0055】
有利なことに、このような第2のマスクにより、前記電気接点用の領域において(前記酸化表面処理により生み出される)表面保護酸化物(最適な電気的接触を妨げる)が形成するのを防止することができる。
【0056】
好ましくは、前記第2のマスクは、前記保護膜が塗付されるよりも前に取り除かれる。
【0057】
これにより、有利なことに、前記保護膜を、前記リムの前記径方向外側の環状部材のうちの径方向外側の周部分の全体にわたって一様に塗設することができる。
【0058】
好ましくは、上述した本発明の第2の好ましい実施形態において、前記酸化表面処理が、前記第1の表面部位および前記第2の表面部位に施されて、前記リムの前記径方向外側の環状部材の全体に陽極酸化物が形成される。その後、前記酸素除去除去表面処理が施されるよりも前に、前記第1の表面部位から前記陽極酸化物の少なくとも一部が除去される。
【0059】
好ましくは、上述した本発明の第1の好ましい実施形態において、前記ピンが中空であり、前記酸素除去表面処理が施されるよりも前に、この中空のピンの両側の端面が閉塞される。これにより、前記酸素除去表面処理で使用される物質が前記ピンの内側空間(cavity)の内部に入って、当該酸素除去表面処理に先立って酸化表面処理で形成された陽極酸化物を攻撃するのを防止することができる。
【0060】
好ましくは、前記第1のボディの前記第2の表面部位に前記酸化表面処理が施されるよりも前に、第2の保護体で前記第1の表面部位が覆われる。
【0061】
これにより、有利なことに、前記酸化表面処理で使用される物質と前記第1の表面部位とが接触するのを防止することができる。
【0062】
本発明のさらなる特徴および利点は、添付の図面を参照しながら行う好ましい実施形態についての以下の詳細な説明から明らかになる。後述する好ましい実施形態は、例示的なものであり、本発明を限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0063】
図1a】本発明にかかる自転車用のリムを備えた、自転車の車輪を示す概略斜視図である。
図1b図1aの自転車の車輪の詳細を示す概略拡大斜視図である。
図1c】タイヤを取り付けていない状態の、前記自転車用のリムの一部を示す概略拡大径方向断面図である。
図2】一製造工程における、図1aの自転車用のリムの径方向外側の環状部材を示す概略斜視図である。
図3図2の工程よりも後の製造工程における、前記径方向外側の環状部材を示す概略斜視図である。
図4図3の工程よりも後の製造工程における、前記径方向外側の環状部材の詳細を示す概略拡大斜視図である。
図5図4の工程よりも後の製造工程における、前記径方向外側の環状部材を示す概略斜視図である。
図6図5の製造工程における、前記径方向外側の環状部材を示す概略拡大径方向断面図である。
図7図5の工程よりも後の製造工程における、前記径方向外側の環状部材を示す概略斜視図である。
図8】本発明にかかる右クランクアームアセンブリを示す概略斜視図である。
図9】一製造工程における、図8の右クランクアームアセンブリのピンを示す概略斜視図である。
図10図9の工程よりも後の製造工程において、前記ピンに保護体を取り付けた状態を示す概略斜視図である。
図11図10の保護体を示す概略拡大斜視図である。
図12図10よりも後の時点での前記ピンを、保護体を省略して示す概略斜視図である。
図13図12よりも後の製造工程における、前記ピンを示す概略斜視図である。
図14図12よりも後の製造工程における、前記ピンを示す他の概略斜視図である。
図15図12よりも後の製造工程における、前記ピンを示すさらなる他の概略斜視図である。
図16図12よりも後の製造工程における、前記ピンを示すさらなる他の概略斜視図である。
図17図12よりも後の製造工程における、前記ピンを示すさらなる他の概略斜視図である。
図18図12よりも後の製造工程における、前記ピンを示すさらなる他の概略斜視図である。
図19】複合材料製のボディと接着される前にアルミニウム製のボディに実行される処理の種類をそれぞれ異ならせた場合の、水中に浸漬させた時間に対する、せん断応力に対する抵抗力の変化を表したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0064】
まず、図1a、図1b、図1cおよび図2図7を参照する。これらの図には、本発明にかかる自転車の構成部品の第1の実施形態をなす、自転車用のリム(およびその構成要素)(全部をまとめて符号10で表す)が描かれている。
【0065】
図1aおよび図1bに、リム10を備えた自転車の車輪12を示す。リム10には、タイヤ14が取り付けられている。このリム10は、スポーク18を介してハブ16と連結している。符号18は、図中のスポークの一部のみに付している。
【0066】
リム10は、アルミニウム製の径方向外側の環状部材22と複合材料製の径方向内側の環状部材24とで構成された環状構造を有する。
【0067】
より具体的に述べると、タイヤ14は、径方向外側の環状部材22のうちの径方向外側の部分に形成された着座部20に取り付けられている。各スポーク18は、その径方向外側の端部18aが、径方向内側の環状部材24のうちの径方向内側の部分に形成された、対応する着座部(図示せず)に収容されている。
【0068】
径方向外側の環状部材22および径方向内側の環状部材24には、タイヤ14のインフレーションバルブ(空気入れバルブ)15を挿入する孔が開けられている。より具体的に述べると、インフレーションバルブ15は、径方向外側の環状部材22の着座部20に形成された孔(図示せず)に収容されている。
【0069】
径方向内側の環状部材24は、径方向外側の環状部材22の表面部位23aとカップリングしている。径方向外側の環状部材22の残りの表面部位には、符号23bを付している。
【0070】
図1cに示すように、径方向外側の環状部材22は、ベース面22aおよび両側の側面22bを有する。
【0071】
側面22b同士は、ベース面22aだけでなく、ベース面22aの径方向外側に設けられた中間面22cによっても互いに連結している。
【0072】
中間面22cは、着座部20の底部分を形成している。運転中は、両側の側面22bのうちの軸方向内側の上端部22dにより、タイヤ14が着座部20に保持される。
【0073】
表面部位23aは、ベース面22aと、両側の側面22bのそれぞれの径方向内側の周部分22eと、に形成されている。
【0074】
両側の側面22bのそれぞれの径方向外側の周部分22fに、リム10の制動トラックが形成されている。
【0075】
所望の耐食性を実現するために、径方向外側の環状部材22の表面部位23bに、酸化表面処理、好ましくは硫酸を用いた陽極酸化処理(SAA)が施されて、表面酸化物のフィックス処理、例えば、酢酸ニッケルを用いたフィックス処理により仕上げがなされる。
【0076】
硫酸を用いた陽極酸化処理(SAA)の変形例として、酸化物厚さが8μm以上、好ましくは8μm〜20μmとなるクロム酸を用いた陽極酸化処理(CAA)、あるいは、プラズマ電解酸化処理(PEO)が施されてもよい。
【0077】
径方向外側の環状部材22の表面部位23aに、酸素除去表面処理が施される。これにより、径方向内側の環状部材24との優れた接着を実現することが可能になる。
【0078】
好ましくは、前記酸素除去表面処理は、硫酸クロム酸混液(sulphochromic mixture)を用いた酸攻撃(acid attack)処理(FPL)である。
【0079】
好ましくは、硫酸クロム酸混液を用いた酸攻撃処理(FPL)に加えて、さらに、酸化物厚さが4μm以下、より好ましくは3μm以下、さらに好ましくは2μm以下となるクロム酸を用いた陽極酸化処理(CAA)が施される。
【0080】
より好ましくは、硫酸クロム酸混液を用いた酸攻撃処理(FPL)に加えて、リン酸を用いた陽極酸化処理(PAA)が施される。
【0081】
また、硫酸クロム酸混液の代わりに、アルカリ溶液または硫酸第二鉄溶液が使用されてもよい。
【0082】
その後、表面部位23aに防食塗料が塗付される。例えば、「BR(登録商標)127」(Cytec Industries Inc社製)と称されるプライマーを使用することができる。
【0083】
その後、径方向外側の環状部材22の表面部位23aの、径方向内側の環状部材24とカップリングされる部位に、適切な接着性物質が塗付される。
【0084】
表面部位23aに、前述した酸素除去表面処理の1つによる接着下地処理が施されていることにより、径方向外側の環状部材22と径方向内側の環状部材24との接着は、異なる種類の接着下地処理(例えば、サンドブラスト処理、溶剤を用いた洗浄処理など)を利用した場合に比べて、せん断応力に対する抵抗特性が向上する。
【0085】
図19は、複合材料製の第2のボディと接着される前にアルミニウム製の第1のボディに実行される処理の種類をそれぞれ異ならせた場合の、水中に浸漬させた時間Tに対する、せん断応力に対する抵抗力Rの変化を表したグラフである。
【0086】
より具体的に述べると、グラフ中の5つの曲線A,B,C,DおよびEは、それぞれ、下記の処理を施したものに相当する:
Aは、硫酸クロム酸混液を用いた酸攻撃処理と、リン酸を用いた陽極酸化処理との組合せ(FPL+PAA);
Bは、硫酸クロム酸混液を用いた酸攻撃処理と、酸化物厚さが4μm以下となるクロム酸を用いた陽極酸化処理(FPL+CAA);
Cは、硫酸クロム酸混液を用いた酸攻撃処理(FPL):
Dは、サンドブラスト処理;
Eは、溶剤を用いた洗浄処理。
【0087】
まず注目すべきは、曲線A,BおよびCでは、せん断応力に対するイニシャルの抵抗力が、曲線DおよびEよりも遥かに高い約45MPaという数値から始まっている点である。
【0088】
曲線A,BおよびCは徐々に下降を描く。水中に1500時間浸漬させると、せん断応力に対する抵抗力Rが、曲線Aでは約5MPa減少し、曲線Bでは約10MPa減少し、曲線Cでは約18MPa減少する。これら曲線A,BおよびCの場合の減少は、曲線DおよびEの場合の減少よりも遥かに小さく、本発明の酸素除去表面処理が、他の種類の表面処理よりも効果的であることを証明している。
【0089】
リム10の製造方法は、作業性の観点からみて、後述する図2図7に示す工程を含む。より具体的に述べると、これらの図には、径方向外側の環状部材22に対して実行される処理工程が示されている。
【0090】
まず、径方向外側の環状部材22に対して、ショットブラスト処理/サンドブラスト処理が実行される。この目的のために、径方向外側の環状部材22は、何の保護も設けずにショットブラスト装置/サンドブラスト装置に装入される。ショットブラスト処理/サンドブラスト処理のサイクル時間は、約4分に設定される。好ましくは、「Graninox Pometon Cr/Ni 20」と称されるステンレス鋼グリット(grit)が使用される。
【0091】
図2に示すように、このようにして得られた径方向外側の環状部材22の、インフレーションバルブ15用の孔に対し、マスク26aが適用される。より具体的に述べると、マスク26aは、着座部20の中間面22cのうちの径方向外側の壁に対し、前記孔を覆うようにして適用される。
【0092】
さらに、径方向外側の環状部材22の2つの側面22bの1つにおける軸方向外側の壁のうち、インフレーションバルブ15用の孔の位置に略対応する領域に、マスク26bが適用される。このような領域は、電気接点と協働する領域である。
【0093】
好ましくは、マスク26a,26bは、刷毛でポリマー液体塗料を塗付することによって得られる。より具体的に述べると、既述した「Mask Acid」と称される塗料を使用することができる。このような塗料の乾燥は、空気中で行われるか、あるいは、熱風で加速させて行われる。
【0094】
このようにして準備した径方向外側の環状部材22に対して、硫酸を用いた陽極酸化処理(黒色硫酸陽極酸化処理とも称される)が実行される。好ましくは、さらに、98℃で、酢酸ニッケル水溶液中でのフィックス処理(封孔処理)が実行される。典型的に、(マスク26a,26bで保護される領域を除いて)径方向外側の環状部材22の表面全体に形成する陽極酸化物の層厚は、8〜20μmである。
【0095】
次に、図4に示すように、充填体28が着座部20に挿入される。好ましくは、充填体28は、略矩形(矩形状)の断面を有するエラストマー材の帯体、例えば含フッ素エラストマー材の帯体である。このような帯体は、着座部20の周方向の広がりに相当する長さを有する。これにより、この帯体は、その頭側と尾側の2つの端部同士を繋げてループ状に閉じることができる。好ましくは、着座部20内に配置された充填体28は、周方向の凹部28aを、径方向外側に有する。
【0096】
エラストマー材の帯体は、適切なサイズに切断され、手で着座部20に挿入される。この帯体の2つの端部は、互いに突き合わされる。これら頭側と尾側の2つの端部同士の繋ぎ部分は、刷毛でポリマー液体塗料(具体的には、既述した「Mask Acid」塗料)を適用することによってシールすることができる。
【0097】
次に、図5に示すように、上記処理を実行した径方向外側の環状部材22の、その径方向外側の周部分に対し、取り除き可能な保護膜30が塗付される。この取り除き可能な保護膜30は、径方向外側の環状部材22の所与の表面部位を、後続の酸素除去表面処理で使用される物質から保護することができる。したがって、径方向外側の環状部材22の前述した表面部位23bの一部が、径方向外側の環状部材22のうちの取り除き可能な保護膜30で覆われる上記表面部位に相当する。
【0098】
好ましくは、取り除き可能な保護膜30は、液状のポリマー塗料(例えば、既述した「Mask Acid」塗料)であり、乾燥される。
【0099】
好ましくは、取り除き可能な保護膜30は、上記ポリマー液体塗料が入った槽32に径方向外側の環状部材22のうちの径方向外側の部分のみを浸けることによって塗付される。この径方向外側の環状部材22を回転させることにより、上記ポリマー液体塗料が、径方向外側の環状部材22のうちの前述した径方向外側の周部分の全体にわたって塗付される。
【0100】
この目的のために、径方向外側の環状部材22は、スポーク型の支持体(図示せず)に取り付けられ、所定の速度で回転される。槽32のポリマー液体塗料は、径方向外側の環状部材22の側面22bの約半分の高さまで濡らす。
【0101】
径方向外側の環状部材22を回転させたまま、この環状部材22を槽32から引き上げることにより、余分なポリマー液体塗料を取り除くことができる。
【0102】
次に、このように処理された径方向外側の環状部材22は、乾燥室に送られる。
【0103】
図6に、取り除き可能な保護膜30が、充填体28、および径方向外側の環状部材22のうちの径方向外側の周部分に付着した様子を示す。具体的には、取り除き可能な保護膜30が、径方向外側の環状部材22の側面22bのうちの径方向外側の部分にどのように付着しているかが分かる。
【0104】
この時点で、径方向外側の環状部材22に対して、酸素除去表面処理を実行することができる。好ましくは、この酸素除去表面処理は、硫酸クロム酸混液を用いた酸攻撃処理(FPL)を具備し、より好ましくは、これに加えて、リン酸を用いた陽極酸化処理(PAA)が実行される。
【0105】
その前に、先行する酸化表面処理で生成された陽極酸化物の一部を、径方向外側の環状部材22のうちの径方向内側の環状部材24とカップリングされる表面部位23aから除去する必要がある。
【0106】
この目的のために、部分的な酸洗処理(pickling) が、例えば「Albrite」溶液を用いて、適切な高温溶液中で実行される。
【0107】
より具体的に述べると、径方向外側の環状部材22がフレームに固定される。典型的に、このフレームは、チタン製のフレームである。フレームに固定された径方向外側の環状部材22に対して、約2分間の酸洗サイクルが2回実行された後、脱スマット・リンス工程がさらに実行される。このフレームは、適切に設計することにより、径方向外側の環状部材22を付け直すことなくそのまま後続の酸素除去表面処理でも使用することができる。
【0108】
上記の酸洗工程は、陽極酸化物を完全に除去することができない。典型的には、既に形成されていた陽極酸化物の層のうちの少なくとも70〜80%が除去される。完全な除去は、後続の酸素除去表面処理において達成される。
【0109】
次に、先行する工程でチタン製のフレーム(局所的な電気接点を可能にする)に設置された状態の径方向外側の環状部材22に対して、酸素除去除去表面処理が実行される。典型的には、最初の超音波洗浄工程は行われない。
【0110】
この目的のために、表面部位23aに防食塗料が塗付される(図7)。例えば、既述した「BR(登録商標)127」プライマーを使用することができる。
【0111】
一般的に、上記防食塗料の適用は、スプレーで行われる。この塗料は、特殊な焼成炉内で焼成される。
【0112】
次に、取り除き可能な保護膜30が取り除かれる。典型的には、保護膜30に対し、その下に位置する充填体28を傷付けないようにして刃物で切れ目が入れられる。
【0113】
保護膜30は、径方向外側の環状部材22のアルミニウム面から簡単に剥がすことができる。保護膜30と含フッ素エラストマー材で構成された充填体28との間には、化学結合が事実上存在しない。このような場合には、保護膜30を径方向外側の環状部材22から極めて簡単に取り外すことができる。さらに、充填体28は再利用可能である。
【0114】
次に、マスク26aが、インフレーションバルブ15用の孔から取り除かれる。マスク26aの存在により、酸素除去表面処理で使用される物質がタイヤ14用の着座部20の内側に入って、そこに既に形成されていた陽極酸化物が損傷したり除去されたりしてしまうのを、防止することができる。
【0115】
液状物質(liquid)が着座部20に誤って浸入することによる着座部20の変色の発生がないことが確認されると、リム10が密封袋で包装される。
【0116】
図8図18には、本発明にかかる自転車の構成部品の第2の実施形態をなす、右クランクアームアセンブリ(およびその構成要素)(全部をまとめて符号110で表す)が描かれている。
【0117】
図8に示す右クランクアームアセンブリ110は、アルミニウム製のピン220と、複合材料製の右クランクアーム240とを備える。右クランクアーム240には、複数の歯付きクラウン(toothed crown)112が取り付けられている。
【0118】
より厳密に述べると、ピン220は、自転車用のボトムブラケットアセンブリのシャフトまたはハーフシャフトである。シャフトであれば、その一端が右クランクアーム240と連結し、その他端が左クランクアーム(図示せず)と連結する。ハーフシャフトであれば、その一端が右クランクアーム240と連結し、その他端が別のハーフシャフト(図示せず)の一端と連結する。この別のハーフシャフトの他端が、左クランクアーム(図示せず)と連結している。図8図18に示す例では、ピン220を、自転車用のボトムブラケットアセンブリのシャフトとする。
【0119】
好ましくは、ピン220は、中空のピンである。
【0120】
右クランクアーム240は、ピン220の表面部位230aとカップリングしている。表面部位230aは、ピン220の一方の端部122aに形成されている。表面部位230aは、ピン220を右クランクアーム240に螺合させるねじ部123aを具備してもよい。
【0121】
ピン220の残りの表面部位には、符号230bを付している。
【0122】
ピン220のうちの左クランクアーム(図示せず)と連結する他方の端部122bは、溝付きの表面123bを有する。
【0123】
ピン220の表面部位230bに、前述した任意の酸化表面処理が施される。これにより、所望の耐食性を実現することが可能になる。
【0124】
ピン220の表面部位230aに、前述した任意の酸素除去表面処理が施される。これにより、右クランクアーム240との優れた接着を実現することが可能になる。
【0125】
この場合においても、表面部位230aに、防食塗料、例えば既述した「BR(登録商標)127」プライマーが塗付された後、適切な接着性物質が塗付される。
【0126】
表面部位230aに、前述した任意の酸素除去表面処理による接着下地処理が施されていることにより、ピン220と右クランクアーム240との接着は、異なる種類の接着下地処理を利用した場合に比べて、せん断応力に対する抵抗特性が向上する。この点に関しては、自転車用のリム10、具体的には径方向外側の環状部材22と径方向内側の環状部材24との接着について述べたほぼ同じ検討内容が、そのまま当てはまる。
【0127】
右クランクアームアセンブリ110の製造方法は、作業性の観点からみて、後述する図9図18に示す工程を含む。より具体的に述べると、これらの図には、ピン220に対して実行される処理工程が示されている。
【0128】
図9に示すように、保護体124が、ピン220の溝付きの表面123bのうちの少なくとも一部に対して適用される。典型的には、略円筒(円筒状)のプラグが、ピン220の端部122bに取り付けられる。
【0129】
次に、このようにして準備したピン220に対して、ピーニング(peening)処理が実行される。例えば、このピーニング処理には、直径約0.20mmのセラミック製微小球が使用される。
【0130】
次に、保護体124が取り除かれる。
【0131】
図10に示すように、この時点で、保護体134をピン220のねじ部123aの上側から設置することにより、そのピン220のねじ部123aを覆うことができる。
【0132】
図11に、保護体134をより分かり易く示す。保護体134は、略円筒(円筒状)かつ中空であり、ピン220の端部122aのねじ部123aと合致する雌ねじ部134aを具備している。これにより、保護体134は、ピン220のねじ部123aに螺合させることができる。
【0133】
保護体134は2つのOリング134cを具備しており、各Oリング134cは保護体134の両側の端部のそれぞれに設けられている。これらのOリングにより、後続の酸化表面処理で使用される物質とねじ部123aとが接触するのを防止することができる。
【0134】
このようにして準備したピン220に対して、酸化処理が実行される。好ましくは、さらに、98℃で、酢酸ニッケル水溶液中でのフィックス(封孔)処理が実行される。例えば、(保護体134で保護される領域を除いて)ピン220の表面全体(ピン220の内側空間(hollow portion)も含めて)に形成する陽極酸化物の層厚は、6〜12μmである。
【0135】
次に、保護体134が取り除かれて、図13に示すピン220が得られる。
【0136】
この時点で、ピン220を、さらなる保護体300で覆うことができる。より具体的に述べると、保護体300は、ピン220のうちの酸素除去除去表面処理を施す必要のない表面部位を覆うものである。したがって、図16に示すように、ねじ部123aは唯一覆われない。
【0137】
保護体300は、2つの構成品130a,130bを具備する。
【0138】
構成品130aは、一方の端部130cが閉じられた、略円筒の形状を有している(円筒状である)。この構成品130aは、ピン220に対して当該ピン220の端部122bから(図14)、ピン220のうちのねじ部123a近傍にある環状の突き合わせ面123cに達するまで嵌め込まれる(図15)。図13には、構成品130aが嵌挿される前にピン220に嵌め込まれたOリング130dが描かれている。このOリング130dは、環状の突き合わせ面123cと構成品130aの開いた端部との間に挟まれた状態となる。構成品130aは、固定要素130eを用いて閉じられる(図15)。
【0139】
構成品130bは、略円筒(円筒状)であり、ピン220のうちの当該ピン220の端部122aにおける内側空間(cavity)に向けて挿入される(図15)。構成品130bは、構成品130bとピン220の端部122aとの間に挟まれた状態となるOリング130fを具備している。
【0140】
構成品130a,130bは、プラスチック製のものでもよい。
【0141】
このようにして準備したピン220に対して、酸素除去表面処理が実行される。好ましくは、この酸素除去表面処理は、硫酸クロム酸混液を用いた酸攻撃処理(FPL)であり、より好ましくは、これに加えて、さらに、リン酸を用いた陽極酸化処理(PAA)が実行される。構成品130a,130bの存在により、ピン220の内側空間の、その両側の端面が閉塞される。これにより、酸素除去表面処理で使用される物質が上記内側空間の内部に入って、当該酸素除去表面処理に先立って酸化表面処理で形成された陽極酸化物を攻撃するのを防止することができる。
【0142】
次に、保護体300が取り除かれる。
【0143】
次に、ねじ部123aに防食塗料が塗付される。例えば、既述した「BR(登録商標)127」プライマーを使用することができる。
【0144】
一般的に、上記防食塗料の適用は、スプレーで行われる。ピン220のうちの上記防食塗料が適用されない残りの部分は、予めキャップ136で覆われている。好ましくは、このキャップ136は、金属製のものである。
【0145】
キャップ136は、一方の端部136aが閉じられた、略円筒の形状を有している(円筒状である)。このキャップ136は、ピン220に対して当該ピン220の端部122bから(図17)、ピン220のうちの環状の突き合わせ面123cに達するまで嵌め込まれる(図18)。
【0146】
次に、キャップ136が取り外される。
【0147】
このように処理されたピン220は、右クランクアーム240と螺合・接着可能な状態となる。
【0148】
当然ながら、当業者であれば、特定の要件及びその時々の要件に応えるために、既述した自転車の構成部品および該構成部品の製造方法に対して様々な変更や変形を施すものと思われるが、このような変更及び変形の全ては、添付の特許請求の範囲に規定された本発明の保護範囲内に包含されることに留意されたい。
【0149】
本明細書および添付の特許請求の範囲では、アルミニウムしか言及していないが、既述した内容は、別の金属材料(例えば、マグネシウムおよび/またはマグネシウム系合金など)を使用する場合にも当てはまることに留意されたい。
図1a
図1b
図1c
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19