(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記係数設定部は、前記電動フォークリフトの前記情報として、フォークの高さを検出する揚高センサからの検出値を受けることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載のフォークリフト用モータ駆動装置。
前記係数設定部は、前記電動フォークリフトの前記情報として、フォークに積載される荷物の重量を検出する荷重センサからの検出値を受けることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載のフォークリフト用モータ駆動装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
フォークリフトは、あらかじめ定められた車線を走行する一般車両と異なり、自由な空間において大きな転舵角、つまり小さな回転半径で使用されるケースが多く、また、路面状態が悪いフィールドで使用されることも想定される。かかる事情に加えて車両前方に重い荷物を搭載するというその構造的特性から、フォークリフトは、走行中、特に加速時や減速時に、ピッチ軸(左右方向軸)周りに車体が前後に揺動するピッチングという現象が起こる。ピッチングは運転者に不快感を与えるばかりでなく、それが原因で、横滑り、荷崩れ等が発生する恐れもある。
【0005】
本発明者は、ピッチングの抑制について検討した結果、以下の課題を認識するに至った。フォークリフトの重心位置は、荷物の重量、あるいは荷物の高さなど、さまざまな要因に応じて変化する。重心位置を考慮せずに、ピッチングの抑制制御を行うと、重心位置に応じてある状況においては制御過多となり、ある状況においては制御不足となりうる。なおかかる認識を当業者の一般的な技術常識ととらえてはならない。
【0006】
本発明はかかる状況においてなされたものであり、そのある態様の例示的な目的のひとつは、さまざまな状況下で、ピッチングを抑制可能なフォークリフトの走行モータの駆動装置の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のある態様は、電動フォークリフトに搭載され、駆動輪に動力を伝達する走行モータを制御するモータ駆動装置に関する。モータ駆動装置は、走行モータのトルクを指示するトルク指令値を生成するトルク指令値生成部と、電動フォークリフトの車体のピッチ軸周りのピッチ角加速度を検出するピッチング検出部と、電動フォークリフトの状態に応じて第1係数を設定する係数設定部と、ピッチング検出部により検出されたピッチ角加速度に第1係数を乗算し、第1補正値を生成する第1乗算器と、トルク指令値に、第1補正値を合成するピッチング補正部と、を備える。
【0008】
この態様によると、ピッチ軸周りの角加速度にもとづいて、走行モータのトルクを補正することにより、ピッチングを抑制することができる。また、第1係数(ゲイン)を、フォークリフトの状態に応じて適応的に変化させることにより、係数を固定した場合に起こる問題を解決できる。
【0009】
ピッチング検出部は、ピッチ角加速度に加えて、電動フォークリフトの車体のピッチ軸周りのピッチ角速度を検出し、モータ駆動装置は、ピッチング検出部により検出されたピッチ角速度に第2係数を乗算し、第2補正値を生成する第2乗算器をさらに備えてもよい。ピッチング補正部は、トルク指令値に、第1補正値および第2補正値を合成してもよい。
ピッチ軸周りの角加速度に加えて、ピッチ軸周りの角速度にもとづいて、左右の走行モータのトルクを補正することにより、より適切にピッチングを抑制することができる。
【0010】
係数設定部は、電動フォークリフトの状態に応じて第2係数を設定してもよい。第1係数に加えて第2係数も、電動フォークリフトの状態に応じて適応的に変化させることにより、係数を固定した場合に起こる問題を解決できる。
【0011】
本発明の別の態様もまた、モータ駆動装置である。モータ駆動装置は、走行モータのトルクを指示するトルク指令値を生成するトルク指令値生成部と、電動フォークリフトの車体のピッチ軸周りのピッチ角速度を検出するピッチング検出部と、電動フォークリフトの状態に応じて第2係数を設定する係数設定部と、ピッチング検出部により検出されたピッチ角速度に第2係数を乗算し、第2補正値を生成する第2乗算器と、トルク指令値に、第2補正値を合成するピッチング補正部と、を備える。
【0012】
この態様によると、ピッチ軸周りの角速度にもとづいて、左右の走行モータのトルクを補正することにより、適切にピッチングを抑制することができる。また、第2係数を、フォークリフトの状態に応じて適応的に変化させることにより、係数を固定した場合に起こる問題を解決できる。
【0013】
係数設定部は、電動フォークリフトの状態として、電動フォークリフトの重心位置およびイナーシャの少なくとも一方と相関を有する情報を受け、係数に反映させてもよい。
これにより、電動フォークリフトの重心位置に応じて係数を適切に設定できる。
【0014】
係数設定部は、電動フォークリフトの状態として、フォークの高さを検出する揚高センサからの検出値を受けてもよい。フォークの高さ、言い換えれば荷物の高さを検出することにより、重心の上下方向の移動およびイナーシャの変化を、ピッチング制御に反映させることができる。
【0015】
係数設定部は、電動フォークリフトの状態として、フォークに積載される荷物の重量を検出する荷重センサからの検出値を受けてもよい。
荷物の重量を検出することにより、重心の前後方向の移動およびイナーシャの変化を、ピッチング制御に反映させることができる。
【0016】
ピッチング検出部は、ピッチ角速度を検出するジャイロセンサを含んでもよい。
【0017】
電動フォークリフトは、左駆動輪と右駆動輪それぞれに動力を伝達する左走行モータおよび右走行モータを備えてもよい。モータ駆動装置は、電動フォークリフトの目標速度を示す速度指令値にもとづいて左走行モータおよび右走行モータを制御するものであり、トルク指令値生成部は、速度指令値、転舵角、左走行モータの現在の速度を示す左速度検出値および右走行モータの現在の速度を示す右速度検出値にもとづき、左走行モータのトルクを指示する左トルク指令値および右走行モータのトルクを指示する右トルク指令値を生成するよう構成され、ピッチング補正部は、左トルク指令値および右トルク指令値それぞれを補正してもよい。
【0018】
ピッチング検出部は、左速度検出値および右速度検出値にもとづき、車体の加速度、または車輪の角加速度を示す加速度検出値を生成する第2演算部と、左トルク指令値および右トルク指令値にもとづき、車体の合成加速度、または車輪の角加速度を指示する合成加速度指令値を生成する第3演算部と、加速度検出値と合成加速度指令値の差分に応じて、ピッチ角速度の推定値を生成する第4演算部と、ピッチ角速度の推定値を微分し、ピッチ角加速度を生成する第1演算部と、を含んでもよい。
ピッチングは、トルクの指令に対して、実際の車体の挙動が遅れた場合に発生する。この態様によれば、左右の速度検出値から、現在の車体の加速度を計算し、左右のトルク指令値から、車体の加速度(トルク)の目標値を計算し、それらの差分を計算することにより、ピッチングの大きさを推定することができ、高価なジャイロセンサが不要となる。
【0019】
ある態様のモータ駆動装置は、トルク指令値を所定のトルクリミットカーブに応じて定まる上限値以下に制限するトルクリミット部をさらに備えてもよい。ピッチング補正部は、トルクリミット部の後段に設けられてもよい。
トルクリミット部より前段では、トルク指令値は上限値より高い場合が多いため、トルクリミット部の前段でピッチング補正を行っても、最終的なトルク指令に反映されない可能性がある。そこでピッチング補正部をトルクリミット部の後段に設けることにより、補正値を確実に実際のトルクに反映させることができる。
【0020】
本発明の別の態様は、フォークリフトに関する。フォークリフトは、駆動輪と、駆動輪に動力を伝達する走行モータと、走行モータを駆動する上述のいずれかのモータ駆動装置と、を備える。
【0021】
なお、以上の構成要素の任意の組み合わせや本発明の構成要素や表現を、方法、装置、システムなどの間で相互に置換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、さまざまな状況下においてピッチングを抑制できる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明を好適な実施の形態をもとに図面を参照しながら説明する。各図面に示される同一または同等の構成要素、部材、処理には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、実施の形態は、発明を限定するものではなく例示であって、実施の形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは、必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。
【0025】
本明細書において、「部材Aが、部材Bと接続された状態」とは、部材Aと部材Bが物理的に直接的に接続される場合のほか、部材Aと部材Bが、それらの電気的な接続状態に実質的な影響を及ぼさない、あるいはそれらの結合により奏される機能や効果を損なわせない、その他の部材を介して間接的に接続される場合も含む。
同様に、「部材Cが、部材Aと部材Bの間に設けられた状態」とは、部材Aと部材C、あるいは部材Bと部材Cが直接的に接続される場合のほか、それらの電気的な接続状態に実質的な影響を及ぼさない、あるいはそれらの結合により奏される機能や効果を損なわせない、その他の部材を介して間接的に接続される場合も含む。
【0026】
図1は、フォークリフトの外観を示す斜視図である。フォークリフト600は、車体(シャーシ)602、フォーク604、昇降体(リフト)606、マスト608、車輪610、612を備える。マスト608は車体602の前方に設けられる。昇降体606は、油圧アクチュエータ(
図1に不図示、
図3の116)などの動力源によって駆動され、マスト608に沿って昇降する。昇降体606には、荷物を支持するためのフォーク604が取り付けられている。
【0027】
図2は、フォークリフトの操縦パネル700の一例を示す図である。操縦パネル700は、イグニッションスイッチ702、ステアリングホイール704、リフトレバー706、アクセルペダル708、ブレーキペダル710、ダッシュボード714、前後進レバー712を備える。
【0028】
イグニッションスイッチ702は、フォークリフト600の起動用のスイッチである。ステアリングホイール704は、フォークリフト600の操舵を行うための操作手段である。リフトレバー706は、昇降体606を上下に移動させるための操作手段である。アクセルペダル708は、走行用の車輪の回転を制御する操作手段であり、ユーザが踏み込み量を調節することでフォークリフト600の走行が制御される。ユーザがブレーキペダル710を踏み込むと、ブレーキがかかる。前後進レバー712は、フォークリフト600の走行方向を、前進と後進で切りかえるためのレバーである。そのほか、図示しないインチングペダルが設けられてもよい。
【0029】
続いて、フォークリフト600の構成を、走行、荷役、操舵それぞれについて説明する。
図3は、デュアルモータ式のフォークリフト600の電気系統、機械系統の構成を示すブロック図である。ECU(電子制御コントローラ)110は、フォークリフト600全体を制御するためのプロセッサである。
【0030】
電池106は、P線およびN線の間に、電池電圧V
BATを出力する。
第1電力変換装置100、第2電力変換装置102、第3電力変換装置104は、モータ駆動装置300を構成する。モータ駆動装置300は、ECU110からの、第1制御指令値S1〜第3制御指令値S3にもとづき、走行モータM1L、M1R、荷役モータM2、ステアリングモータM3それぞれを駆動する。第1電力変換装置100、第2電力変換装置102、第3電力変換装置104はそれぞれ、電池電圧V
BATを受け、3相交流信号に変換して、対応するモータM1L、M1R、M2、M3に供給する。
【0031】
(走行)
ECU110は、前後進レバー712からの前進、後進を指示する信号と、アクセルペダル708からの、踏み込み量に応じた走行操作量を示す信号を受け、それに応じた第1制御指令値S1を第1電力変換装置100に出力する。第1電力変換装置100は、第1制御指令値S1に応じて左走行モータM1L、右走行モータM1Rそれぞれに供給する電力を制御する。第1制御指令値S1は、走行モータM1の目標速度を指示する速度指令値と相関を有する。駆動輪である左前輪(左駆動輪)610Lは、左走行モータM1Lの動力により回転し、右前輪(右駆動輪)610Rは、右走行モータM1Rの動力により回転する。
【0032】
(荷役)
リフトレバー706の傾きによって、昇降体606の上下動が制御される。ECU110は、リフトレバー706の傾きを検出し、傾きに応じた荷役操作量を示す第2制御指令値S2を第2電力変換装置102に出力する。第2電力変換装置102は、第2制御指令値S2に応じた電力を荷役モータM2に供給し、その回転を制御する。昇降体606は、油圧アクチュエータ116と連結される。油圧アクチュエータ116は、荷役モータM2が生成する回転運動を、直線運動に変換し、昇降体606を制御する。
【0033】
(操舵)
エンコーダ122は、ステアリングホイール704の回転角を検出し、回転角を示す信号をECU110に出力する。ECU110は、回転角に応じた第3制御指令値S3を第3電力変換装置104に出力する。第3電力変換装置104は、第3制御指令値S3に応じた電力をステアリングモータM3に供給し、その回転数を制御する。転舵輪である後輪612は、タイロッド126を介してギアボックス124と連結される。ステアリングモータM3の回転運動は、油圧アクチュエータ118およびギアボックス124を介して、タイロッド126に伝達され、操舵が制御される。
【0034】
図4(a)、(b)は、デュアルモータ式のフォークリフト600を模式的に示す図である。Lはホイールベース、Trfは前トレッド、Trrは後トレッド、nl(rpm)は左駆動輪610Lの速度を、nr(rpm)は右駆動輪610Rの速度を、Vl(m/s)は左駆動輪610Lの速度を、Vr(m/s)は右駆動輪610Rの速度を示す。
【0035】
転舵輪である後輪612L、612Rは、アッカーマンステアリング機構によって転舵角が制御可能となっている。後輪612L、612Rそれぞれの車軸の交点が、車体の回転中心Oとなり、回転中心Oは、転舵角δrに応じて、前輪610L、610Rの軸上を左右に移動する。本実施の形態では、転舵角δrを右後輪の回転角として定義しているが、当業者には、転舵角δrの定義がそれには限定されないことが理解される。転舵角δrは、
図4(a)に示す左旋回時に正、
図4(b)に示す左旋回時に負をとるものとする。
ρxは、回転中心Oと、前輪610L、610Rの中点(車体代表点Xという)の距離である。
【0036】
このフォークリフト600のステアリング機構は、回転中心Oが、前輪610L、610Rの間に移動することを許容する。この場合、左右の駆動輪610L、610Rは逆回転するよう制御される。
【0037】
図5は、実施の形態にモータ駆動装置300(第1電力変換装置100)の構成を示すブロック図である。モータ駆動装置300は、速度分配部200、トルク指令値生成部202、トルクリミット部208、インバータ210、速度センサ220、回転数/速度(n/V)変換器221L、221R、転舵角センサ222、ピッチング検出部230、第1乗算器240、第2乗算器242、ピッチング補正部244、係数設定部280を備える。
【0038】
速度センサ220は、レゾルバとも称され、左走行モータM1L、右走行モータM1Rそれぞれの回転速度nl、nrを検出する。n/V変換器221L、221Rは、回転速度nl、nrに、タイヤの周長、減速ギア比などに応じた係数を乗算することにより、左駆動輪610Lの車輪速度(左速度検出値)Vl、右駆動輪610Rの車輪速度(右速度検出値)Vrを計算する。転舵角センサ222は、転舵角δrを検出する。
【0039】
速度分配部200およびトルク指令値生成部202は、速度指令値Vref、転舵角θr、左走行モータM1Lの現在の速度を示す左速度検出値Vrおよび右走行モータM1Rの現在の速度を示す右速度検出値Vlにもとづき、左走行モータM1Lのトルクを指示する左トルク指令値Tlcomおよび右走行モータM1Rのトルクを指示する右トルク指令値Trcomと、を生成する。
【0040】
具体的には、速度分配部200は、アクセルの操作量に応じた速度指令値Vrefを受ける。速度分配部200は、現在の転舵角δrに応じて、左走行モータM1Lの目標速度である左速度指令値Vlrefと、右走行モータM1Rの目標速度である右速度指令値Vrrefを以下の式にもとづいて計算する。
【0041】
1. δr=0 (直進)
Vlref=Vrref=Vref
【0042】
2. δr>0 (左旋回)
Vrref=Vref
Vlref=(ρx−Trf/2)/(ρx+Trf/2)×Vref
ただし、ρx=L/tan(δr)−Trr/2である。
【0043】
3. δr<0 (右旋回)
Vrref=(ρx−Trf/2)/(ρx+Trf/2)×Vref
Vlref=Vref
ただし、δr≠−π/2のとき、ρx=−L/tan(δr)+Trr/2であり、δr=−π/2のとき、ρx=Trr/2である。
【0044】
なお、速度分配部200は公知の技術を用いればよく、その構成や計算アルゴリズムは上記のそれに限定されない。
【0045】
トルク指令値生成部202は、左速度指令値Vlrefと現在の左速度検出値Vlの誤差に応じて、左走行モータM1Lのトルクを指示する左トルク指令値Tlcomを生成する。同様に、右速度指令値Vrrefと現在の右速度検出値Vrの誤差に応じて、右走行モータM1Rのトルクを指示する右トルク指令値Trcomを生成する。
【0046】
トルク指令値生成部202は、左速度指令値Vlrefと左速度検出値Vlの誤差を生成する減算器204Lと、誤差をPI(比例、積分)制御し、左トルク指令値Tlcomを生成するPI制御部206Lを含む。右輪についても同様である。
【0047】
なお左右のトルク指令値Tlcom、Trcomを演算する方法は、
図5のそれには限定されず、公知の、あるいは将来利用可能な別の方法を利用してもよい。
【0048】
トルクリミット部208には、トルク指令値Tlcom、Trcomの上限値Tlimを規定するトルクリミットカーブTlim(n)がモータの速度nの関数として定義されている。
【0049】
トルクリミット部208は、左トルク指令値Tlcomを、現在の左走行モータM1Lの速度nlおよびトルクリミットカーブTlim(n)に応じて定まる上限値Tllim以下に制限する。同様に、トルクリミット部208は、右トルク指令値Trcomを、現在の右走行モータM1Rの速度nrおよびトルクリミットカーブTlim(n)に応じて定まる上限値Trlim以下に制限する。
【0050】
ピッチング検出部230は、電動フォークリフトの車体のピッチ軸(
図1のY軸)周りのピッチ角加速度を検出する。たとえば、ジャイロセンサ232および第1演算部234を含む。ジャイロセンサ232は、ピッチ角速度ωpを検出する。第1演算部234は、たとえばデジタルハイパスフィルタであり、ジャイロセンサ232の出力を微分し、ピッチ角加速度ωp’を生成する。本実施の形態では、ピッチ角速度ωpおよびピッチ角加速度ωp’は、
図1のY軸の周りにZ軸からX軸に向かう向きを正にとるものとする。
【0051】
第1乗算器240は、ピッチング検出部230により検出されたピッチ角加速度ωp’に第1係数K1を乗算し、第1補正値Tcmp1を生成する。第2乗算器242は、ピッチング検出部230により検出されたピッチ角速度ωpに第2係数K2を乗算し、第2補正値Tcmp2を生成する。
【0052】
ピッチング補正部244は、左トルク指令値Tlrefおよび右トルク指令値Vrrefそれぞれに、第1補正値Tcmp1および第2補正値Tcmp2を合成する。具体的には、加算器246Lは、左トルク指令値Tlrefに、第1補正値Tcmp1および第2補正値Tcmp2を加算し、加算器246Rは、右トルク指令値Trrefに、第1補正値Tcmp1および第2補正値Tcmp2を加算する。
【0053】
インバータ210L、210Rは、ピッチング補正部244から出力されるトルク指令値Tlref’、Trref’にもとづいて走行モータM1L、MIRを駆動する。
【0054】
係数設定部280は、電動フォークリフトの状態に応じて第1係数K1およびK2を設定する。より具体的には係数設定部280は、電動フォークリフトの状態として、電動フォークリフトの重心位置と相関を有する情報を受け、その情報を係数K1、K2の少なくとも一方に反映させる。本実施の形態では、係数設定部280は、係数K1、K2それぞれに、電動フォークリフトの状態を反映させる。
【0055】
たとえば電動フォークリフトは、
図1のフォーク604に積載される荷物の重量を検知する荷重センサ282を備える場合がある。この場合、係数設定部280は、電動フォークリフトの重心位置と相関を有する情報として、荷重センサ282の検出値を利用することができる。
【0056】
また電動フォークリフトは、
図1のフォーク604の高さを検知する揚高センサ284を備える場合がある。この場合、係数設定部280は、電動フォークリフトの重心位置と相関を有する情報として、揚高センサ284の検出値を利用することができる。
【0057】
係数設定部280は、所定の演算式にもとづいて、係数K1、K2を計算しても良いし、予め用意されたテーブルを参照して、係数K1、K2を取得してもよい。また演算処理とテーブル参照を組み合わせてもよい。
【0058】
以上がモータ駆動装置300の構成である。
【0059】
続いてその動作を説明する。
(加速動作)
たとえばフォークリフトが静止状態から前方向(X軸方向)に加速すると、ピッチ軸(Y軸)周り負の方向に車体が傾く。このとき、ピッチ角速度ωpは負の値をとる。したがってピッチ角速度ωpに第2係数K2を乗じて得られる第2補正値Tcmp2も負となる。負の第2補正値Tcmp2を、トルク指令値Tlref、Trrefに加算合成することにより、車体を前進させようとするトルクが減少する方向に補正され、ピッチングが抑制される。
【0060】
静止状態から前方向(X軸方向)に加速するとき、ピッチ角速度ωpは負であり、その絶対値は増大するため、ピッチ角加速度ωp’も負の値をとる。したがってピッチ角速度ωp’に第1係数K1を乗じて得られる第1補正値Tcmp1も負となる。負の第1補正値Tcmp1を、トルク指令値Tlref、Trrefに加算合成することにより、車体を前進させようとするトルクが減少する方向に補正され、ピッチングが抑制される。
【0061】
(減速動作)
たとえばフォークリフトが前方向(X軸方向)に走行中にブレーキが踏まれ、減速する。このときピッチ軸(Y軸)周り正の方向に車体が傾く。このとき、ピッチ角速度ωpは正の値をとる。したがってピッチ角速度ωpに第2係数K2を乗じて得られる第2補正値Tcmp2は正となる。正の第2補正値Tcmp2を、トルク指令値Tlref、Trrefに加算合成することにより、停止しようとする車体を前方向に前進させる方向に補正がかかり、ピッチングが抑制される。
【0062】
また減速時には、ピッチ角速度ωpは正であり、その絶対値は増大するため、ピッチ角加速度ωp’も正の値をとる。したがってピッチ角速度ωp’に第1係数K1を乗じて得られる第1補正値Tcmp1も正となる。正の第1補正値Tcmp1を、トルク指令値Tlref、Trrefに加算合成することにより、車体を前進させようとするトルクが減少する方向に補正され、ピッチングが抑制される。
【0063】
ここでは、代表的な加速動作と減速動作について説明したが、車体のピッチングの挙動は、以下の4通りに分けることができる。
1. ωp>0、ωp’>0
2. ωp>0、ωp’<0
3. ωp<0、ωp’>0
2. ωp<0、ωp’<0
【0064】
続いて、係数設定部280を設けたことによる利点を説明する。
図6(a)〜(c)は、フォークリフト600の重心位置が移動する様子を示す図である。
図6(a)は、荷物が積載されない状態を、
図6(b)、(c)は、異なるフォーク604の高さにおいて荷物620が積載された状態を示す。荷物620が積載されない状態における重心Oを基準とすると、荷物620を積載することにより、重心Oは車両前方(X軸方向)に移動し、移動幅は、荷物620の重量が重いほど大きくなる。また、フォーク604の高さが高くなるほど、重心Oの位置は、Z軸方向に移動する。重心の移動にともない、車体のイナーシャも変化する。具体的には、フォーク604の高さが高くなるほど車体イナーシャは大きくなる。したがって、フォーク604の高さが高いほど、係数K1、K2を大きく設定するとよい。
【0065】
図7(a)〜(d)は、
図5のモータ駆動装置300によるピッチング制御を示す図である。
図7(a)は、
図5のモータ駆動装置300における係数と重心位置の関係を示す。
図7(b)、(c)は、
図5のモータ駆動装置300によるピッチング制御を、
図7(d)は、係数を固定したときのピッチング制御を示す。
【0066】
実施の形態に係るモータ駆動装置300の利点は、重心Oの位置にかかわらずに係数K1、K2を固定したときの動作との対比によって明確となる。そこではじめに、係数K1、K2を固定したときの動作を、
図7(b)、(d)を参照して説明する。
【0067】
図7(b)を参照する。ピッチ軸周りに、図中反時計回りのピッチ角速度ω(あるいは角速度)が検出されたとする。また、係数K1、K2は、重心が、基準位置Oにあるときに最適な値に設定されている。
【0068】
このフォークリフト600では、前輪610が駆動輪である。反時計回りの回転モーメントωを打ち消すためには、前輪610が発生するトルクを、その指令値Trefよりも増大させることにより、ピッチ軸を中心として時計周りの回転モーメントωcmpを発生させることができる。
【0069】
図7(d)を参照する。
図7(d)では、荷物620の影響で、重心Oが基準位置よりも前方に移動している。この状態で、
図7(b)と同じ重心位置に対応する係数K1、K2を用いたとすると、補正値Tcmpも同量となる。その結果、
図7(d)の状態では、検出されたピッチ角速度ωを打ち消すよりも大きな時計回りの回転モーメントωcmpが発生してしまう。つまり、補正過多となり、車体が時計回りにピッチングしてしまう。
【0070】
続いて、
図7(a)、(b)、(c)を参照して、実施の形態に係るモータ駆動装置300の動作を説明する。
【0071】
このモータ駆動装置300では、
図7(b)、(c)に示すように、重心位置Oに応じて、係数K1、K2を変化させることにより、補正量Tcmpを調節する。具体的には、X軸方向に着目すると、重心Oと前輪610の距離に応じて車体イナーシャが変化し、車体イナーシャに応じて、重心O周りの角速度あるいは角加速度を打ち消すために必要なトルク補正値Tcmpの最適値が変化する。そこで、モータ駆動装置300は、重心Oの位置に応じて、言い換えれば、積載重量に応じて、係数K1、K2を設定する。
【0072】
これにより重心位置によらずに、検出された回転モーメントωと均衡するモーメントωcmpを発生させることができ、ピッチングを抑制することができる。
【0073】
実施の形態に係るモータ駆動装置300によれば、ピッチ角速度ωp、ピッチ角加速度ωp’の両方を利用することにより、1〜4のすべての状況において、ピッチングを抑制できる。
【0074】
また実施の形態では、ピッチング補正部244を、トルクリミット部208の後段に設けることとした。
トルクリミット部208より前段では、トルク指令値Tlcom、Trcomは上限値Trlim、Tllimより高い場合が多いため、トルクリミット部208の前段でピッチング補正を行っても、最終的なトルク指令に反映されない可能性がある。本実施の形態では、ピッチング補正部244をトルクリミット部208の後段に設けることにより、補正値Tcmp1、Tcmp2を確実に実際のトルクTlref’、Trref’に反映させることができる。
【0075】
以上、本発明について、実施の形態をもとに説明した。この実施の形態は例示であり、それらの各構成要素や各処理プロセスの組み合わせにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。以下、こうした変形例について説明する。
【0076】
(変形例1)
実施の形態では、ジャイロセンサ232を用いてピッチ角速度ωpを検出する場合を説明したが、この変形例では、数値演算処理によりピッチ角速度ωp*を推定する。
【0077】
図8は、変形例に係るピッチング検出部230aの構成を示すブロック図である。ピッチング検出部230aは、第2演算部250、第3演算部260、第4演算部270を含む。
【0078】
第2演算部250は、左速度検出値Vlおよび右速度検出値Vrにもとづき、車体の加速度を示す加速度検出値Vx’を生成する。
【0079】
たとえば第2演算部250は、合成部252、ローパスフィルタ254、微分回路256を含む。合成部252は、左速度検出値Vl、右速度検出値Vrにもとづいて、現在の車体の前後方向(X軸方向)の速度Vxを計算する。合成部252の計算アルゴリズムは特に限定されないが、重み付け平均、たとえば加算平均などを利用できる。
Vx=(Vl+Vr)/2
ローパスフィルタ254は、ノイズ除去、演算処理の安定化のために設けられ、省略してもよい。微分回路256は、速度Vxを微分することにより、加速度検出値Vx’を生成する。微分回路256は、ハイパスフィルタであってもよい。
【0080】
第3演算部260は、左トルク指令値Tlcomおよび右トルク指令値Trcomにもとづき、車体の合成加速度を指示する合成加速度指令値Vxcom’を生成する。たとえば第3演算部260は、合成部262、ローパスフィルタ264、ハイパスフィルタ266を含む。合成部262は、左トルク指令値Tlcomおよび右トルク指令値Trcomにもとづき、車体の合成トルクを指示する合成トルク指令値Txcomを計算する。合成部262の計算アルゴリズムは特に限定されないが、たとえば左右のトルク指令値の差分を計算してもよい。
Txcom=Trcom−Tlcom
ローパスフィルタ264は低周波ノイズ除去のために設けられる。ハイパスフィルタ266は走行抵抗成分を除去するために設けられる。ディメンジョン調節部268は、合成トルク指令値Txcomに係数を乗算することにより、そのディメンジョンを加速度に変換し、合成加速度指令値Vxcom’を生成する。
【0081】
第4演算部270は、加速度検出値Vx’と合成加速度指令値Txcomの差分に応じてピッチ角速度ωp*を生成する。たとえば第4演算部270は、調整部271、減算器272および乗算器274を含む。
【0082】
減算器272は、加速度検出値Vx’と加速度指令値Txcomの差分を生成する。乗算器274は、差分に、インダクタンス値に応じた所定の係数Lを乗算することにより、ピッチ角速度ωp*[rad/s
2]を生成する。
【0083】
図9は、角速度と、ピッチング検出部230aにより推定された角速度を示す波形図である。
【0084】
図8のピッチング検出部230aによれば、ジャイロセンサを用いずに、演算処理によってピッチ角速度の推定値ωp*を計算することができる。ピッチ角速度の推定値ωp*を
図5の第1演算部234によって微分すれば、ピッチ角加速度の推定値ωp’*を計算することもできる。
【0085】
この変形例によれば、高価なジャイロセンサが不要となるため、コストを下げることができる。
【0086】
変形例1において、第2演算部250は、車体の前後方向の加速度に代えて、車輪の角加速度を示す加速度検出値ωx’を生成してもよい。この場合、微分回路256の後段にディメンジョン調整部を設け、加速度のディメンジョンを有する信号に、車輪の周長、減速比等に応じた係数を乗算することにより、車輪の角加速度に変換してもよい。
【0087】
また第3演算部260は、車体の合成加速度に代えて、車輪の角加速度を指示する合成加速度指令値ωxcom’を生成してもよい。この場合、ディメンジョン調節部268は、トルクのディメンジョンを有する信号Txcomに、所定の係数を乗算することにより、角加速度のディメンジョンを有する信号ωxcom’に変換し、第4演算部270に出力してもよい。この場合、乗算器274の係数も、併せて変更すればよい。
【0088】
(変形例2)
実施の形態では、ピッチ角加速度ωp’とピッチ角速度ωpの両方を用いてピッチングを抑制する場合を説明したが、本発明はそれには限定されない。たとえばピッチ角加速度ωp’の項が支配的である場合、第2乗算器242を省略してもよい。反対に、ピッチ角速度ωpの項が支配的である場合、第1乗算器240を省略してもよい。
【0089】
(変形例3)
実施の形態では、デュアルモータ式のフォークリフトについて説明したが、本発明はシングルモータ式のフォークリフトにも適用可能である。
図10は、変形例3に係るモータ駆動装置の構成を示すブロック図である。
シングルモータ式のフォークリフトでは、左右の駆動輪に対して共通の走行モータM1が設けられる。この変形例では、速度分配部200は省略することができる。またトルク指令値生成部202、トルクリミット部208、インバータ210、速度センサ220、回転数/速度(n/V)変換器221およびピッチング補正部244は、左右の駆動輪に対して共通の信号に対して、
図5のデュアルモータ式のモータ駆動装置と同様の処理を行う。
【0090】
(変形例4)
また実施の形態では、荷重センサ282、揚高センサ284の検出値を、係数K1、K2に反映させたが、本発明はそれには限定されない。たとえばフォークリフト600には、荷重センサ282、揚高センサ284に加えて、あるいはそれに代えて、フォーク604の傾きを検出するチルトセンサが搭載される場合がある。この場合、係数設定部280は、チルトセンサの検出値を係数に反映させてもよい。
【0091】
また係数設定部280は、複数の係数K1、K2それぞれに、異なる検出値を反映させてもよい。たとえば第1係数K1には、すべてのセンサの検出値を反映させ、第2係数K2には、ひとつのセンサ(たとえば荷重センサ282)の検出値のみを反映させてもよい。あるいは、第1係数K1、第2係数K2のいずれか一方のみに、フォークリフト600の状態を反映させてもよい。
つまり係数設定部280は、フォークリフト600のさまざまな使用状況において、ピッチングが抑制されるように設計すればよい。
(変形例5)
本発明は、電動フォークリフトには限定されず、それと類似する機構を有するさまざまな産業車両に適用できる。