特許第6282113号(P6282113)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6282113
(24)【登録日】2018年2月2日
(45)【発行日】2018年2月21日
(54)【発明の名称】触媒
(51)【国際特許分類】
   B01J 23/89 20060101AFI20180208BHJP
   H01M 4/86 20060101ALI20180208BHJP
   H01M 4/90 20060101ALI20180208BHJP
   H01M 8/10 20160101ALI20180208BHJP
【FI】
   B01J23/89 M
   H01M4/86 M
   H01M4/90 M
   H01M8/10
【請求項の数】15
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2013-522302(P2013-522302)
(86)(22)【出願日】2011年7月21日
(65)【公表番号】特表2013-534181(P2013-534181A)
(43)【公表日】2013年9月2日
(86)【国際出願番号】GB2011051386
(87)【国際公開番号】WO2012017226
(87)【国際公開日】20120209
【審査請求日】2014年7月1日
【審判番号】不服2016-12827(P2016-12827/J1)
【審判請求日】2016年8月25日
(31)【優先権主張番号】1012982.3
(32)【優先日】2010年8月3日
(33)【優先権主張国】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】512269535
【氏名又は名称】ジョンソン、マッセイ、フュエル、セルズ、リミテッド
【氏名又は名称原語表記】JOHNSON MATTHEY FUEL CELLS LIMITED
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】セオバルド, ブライアン ロナルド チャールズ
(72)【発明者】
【氏名】ボール, サラ キャロライン ボール
(72)【発明者】
【氏名】オマリー, レイチェル ルイーズ
(72)【発明者】
【氏名】トンプセット, デーヴィッド
(72)【発明者】
【氏名】ハーズ, グラハム アラン
【合議体】
【審判長】 大橋 賢一
【審判官】 山崎 直也
【審判官】 豊永 茂弘
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−238510(JP,A)
【文献】 特開平6−132034(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J21/00-38/74
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Xがニッケル、コバルト、クロム、銅、チタン又はマンガンであり、Yがタンタル又はニオブである燃料電池で使用するための白金合金触媒PtXYにおいて、合金中において白金の原子パーセントが24−30at%であり、Xの原子パーセントが55−72at%であり、Yの原子パーセントが1−19.5at%であることを特徴とする白金合金触媒PtXY。
【請求項2】
Yがタンタルである請求項1に記載の白金合金触媒PtXY。
【請求項3】
Xがニッケル、コバルト、クロム又は銅である請求項1又は2に記載の白金合金触媒PtXY。
【請求項4】
Xがニッケル又はコバルトである請求項3に記載の白金合金触媒PtXY。
【請求項5】
Xがコバルトである請求項4に記載の白金合金触媒PtXY。
【請求項6】
Xがコバルトであり、Yがタンタルである請求項1に記載の白金合金触媒PtXY。
【請求項7】
Xがニッケルであり、Yがタンタルである請求項1に記載の白金合金触媒PtXY。
【請求項8】
触媒が支持されていない請求項1から7のいずれか一項に記載の白金合金触媒PtXY。
【請求項9】
触媒が伝導性支持材料に支持されている請求項1から7のいずれか一項に記載の白金合金触媒PtXY。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか一項に記載の白金合金触媒PtXYを含む電極。
【請求項11】
電極がカソードである請求項10に記載の電極。
【請求項12】
請求項1から9のいずれか一項に記載の白金合金触媒PtXYを含むデカール転写基板。
【請求項13】
請求項1から9のいずれか一項に記載の白金合金触媒PtXYを含む触媒被覆膜。
【請求項14】
請求項1から9のいずれか一項に記載の白金合金触媒PtXYを含むリン酸燃料電池。
【請求項15】
請求項1から9のいずれか一項に記載の白金合金触媒PtXYを含むプロトン交換膜燃料電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な三元系白金合金触媒と、特に燃料電池、例えばプロトン交換膜燃料電池(PEMFC)における酸素還元触媒としての、該触媒の用途に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、電解質により離間した2つの電極を含む電気化学的電池である。燃料、例えば水素、アルコール、例えばメタノール又はエタノール、又はギ酸がアノードに供給され、酸化剤、例えば酸素又は空気がカソードに供給される。電気化学的反応が電極で起こり、燃料及び酸化剤の化学エネルギーが電気エネルギー及び熱に転換される。電極触媒がアノードにおける燃料の電気化学的酸化とカソードにおける酸素の電気化学的還元を促進するために使用される。
【0003】
燃料電池は、通常、使用される電解質の性質に従って分類される。プロトン交換膜(PEM)燃料電池では、電解質は固体ポリマー膜である。膜は電子的に絶縁性であるが、イオン的に伝導性である。PEM燃料電池では、膜はプロトン伝導性であり、アノードで生じるプロトンは、膜を通ってカソードまで輸送され、そこで酸素と結合して水を形成する。
【0004】
PEM燃料電池の主要成分は、膜電極接合体(MEA)として知られており、本質的に五層からなる。中心層は高分子イオン伝導膜である。イオン伝導膜のいずれかの側には、特定の電解反応のために設計された電極触媒を含んでいる電極触媒層が存在する。最後に、各電極触媒層に隣接して、ガス拡散層が存在する。ガス拡散層は、反応体が電極触媒層に到達することを可能にしなければならず、電気化学的反応により生じる電流を伝導しなければならない。よって、ガス拡散層は多孔性で電気的に伝導性でなければならない。
【0005】
常套的には、MEAは、以下に概説する多くの方法により構築できる:
(i)電極触媒層をガス拡散層に適用してガス拡散電極を形成することができる。2つのガス拡散電極を、イオン伝導膜のいずれかの側に配し、互いに積層して5層MEAを形成する;
(ii)電極触媒層をイオン伝導膜の両面に適用して触媒被覆イオン伝導膜を形成することができる。続いて、ガス拡散層を触媒被覆イオン伝導膜の両面に適用する。
(iii)MEAは、イオン伝導膜の一側に電極触媒層を、その電極触媒層に隣接してガス拡散層を、そしてイオン伝導膜の他側にガス拡散電極を被覆して、形成することができる。
【0006】
典型的には、殆どの用途に対して十分な電力を提供するためには、何十又は何百ものMEAが必要とされるので、複数のMEAが集合化されて燃料電池スタックが作製される。MEAを分離するためにはフィールドフロープレートが使用される。該プレートはいつかの機能を果たす。つまり、MEAに対する反応体の供給;生成物の除去;電気的接続の提供;及び物理的支持体の提供である。
【0007】
燃料酸化及び酸素還元のための電極触媒は、典型的には、白金あるいは一又は複数の他の金属との合金とされた白金をベースにしている。白金又は白金合金触媒は、非支持でナノメートルサイズの粒子(例えばメタルブラック)の形態であり得、又は支持材料(支持された触媒)上への離散した非常に大きな表面積のナノ粒子として堆積させることができる。また電極触媒は、支持材料上に堆積された被膜又は拡張フィルムの形態でもありうる。改良された活性及び/又は安定性を有し、よって高価な白金触媒をより効率的に利用する触媒、特に酸素還元触媒に対して絶えない探究がなされている。これにより、燃料電池の性能が増加し、触媒の充填量(よってコスト)が低減し、又は双方の利点が組み合わさる。
【発明の概要】
【0008】
電気化学電池に使用される場合、特にPEM燃料電池における酸素還元触媒として使用される場合、従来の触媒と比較して改良された活性とまた寿命安定性を示す触媒を提供することが本発明の目的である。
【0009】
従って、本発明は、Xが遷移金属(白金、パラジウム又はイリジウムを除く)であり、Yが酸性環境下でXよりも滲出性が少ない遷移金属(白金、パラジウム又はイリジウムを除く)である白金合金触媒PtXYにおいて、合金中において白金の原子パーセントが20.5−40at%であり、Xの原子パーセントが40.5−78.5at%であり、Yの原子パーセントが1−19.5at%であることを特徴とする白金合金触媒を提供する。適切には、白金の原子パーセントは24−30at%、Xの原子パーセントは55−72at%、Yの原子パーセントは3−16at%である。
【0010】
特定の遷移金属の相対的滲出性は、熱力学的安定性及び電気化学シリーズの文脈で記載されている場合がある;しかしながら、pH及び電位の範囲を超える電磁波耐性及び不動態化の領域の存在を含む実用的貴重性(Practical Nobility)は、電気化学的応用分野における挙動に対するより良い指針である。個々の金属のプールベダイアグラムは、pH及び電位の関数としての安定した電気化学相の詳細なマッピングを表し、安定種が、異なった遷移金属に対する特定の条件下で比較してクロスすることを可能にする。このような図は、Pourbaix Atlas of Electrochemical Equilibria in Aqueous Solutions(National Association of Corrosion Engineersにより出版)に見出すことができる。またこのテキストは、熱力学及び実用的貴重性の順における43の異なる金属の分類を含んでいる。例として、選択された金属に対するこの順位のサブセットは次の通りである:
最も安定Nb=Ta>Ir〜Pt>Ti>Cu>Cr>Fe>Ni>Co最小の安定
【0011】
よって、容易に滲出可能な遷移金属、例えばCo、Fe及びNi=Xは、低pH<2のウインドウ及び0と1.2V間の電位対RHEによって表される燃料電池の操作条件下でX2+又はX3+イオンとして安定しており、よって、酸性電解質中においてナノ粒子触媒の表面から容易に滲出する。これに対して、滲出性が少ない金属Cu、Crは電磁波耐性を保持しており、又は必要とされるpH及び電位範囲のある部分にわたって不動態化しており、高安定性を有するある種の元素Ta、Nb=Yは、これらのpH及び電位範囲内で不動態化Y形態で安定しており、貴金属はまた高い安定性を示すが、Ptのみは酸性条件下で0.9V以上で腐食を被る。
【0012】
これらの分類は、典型的には、本発明の三元系ナノ粒子触媒よりも純粋な遷移金属元素の金属基板の挙動に関連しており、よって、ある種の金属の相対的滲出性及び滲出度合いは、ひとたび成分が小ナノ粒子内で組合せられると上述のシリーズとはことなり得;最終的には特定の組成物についての測定が、金属の滲出性を精確に特徴付けるためには必要とされる。
【0013】
適切には、合金中の白金の原子パーセントは、24−30at%である。
【0014】
適切には、合金中のXの原子パーセントは、55−72at%である。
【0015】
適切には、合金中のYの原子パーセントは、3−16at%である。
【0016】
適切には、Xは、ニッケル、コバルト、クロム、銅、チタン又はマンガンであり;より適切には、ニッケル、コバルト、クロム又は銅であり;好ましくはニッケル又はコバルトである。
【0017】
適切には、Yはタンタル又はニオブである。
【0018】
本発明の一実施態様では、Xが上述の通り(適切には、ニッケル、コバルト、クロム、銅、チタン又はマンガン)であるPtXTa合金であって、白金のパーセントが20.5−40at%、Taのパーセントが1−19.5at%、Xのパーセントが40.5−78.5at%であることを特徴とするPtXTa合金が提供される。適切には、白金の原子パーセントは24−30at%、Xのパーセントは55−72at%、Taのパーセントは3−16at%である。
【0019】
本発明の第2の実施態様では、Xが上述の通り(適切には、ニッケル、コバルト、クロム、銅、チタン又はマンガン)であるPtXNb合金であって、白金のパーセントが20.5−40at%であり、Nbのパーセントが1−19.5at%であり、Xのパーセントが40.5−78.5at%であることを特徴とするPtXNb合金が提供される。適切には、白金の原子パーセントは24−30at%であり、Xのパーセントは55−72at%であり、Nbのパーセントは3−16at%である。
【0020】
本文脈において、「at%」は原子パーセント、すなわちPt、X及びYの合計のアトム又はmolに基づく百分率を意味する;如何なる付加的な非金属成分(例えば炭素)も考慮されない。「合金」なる用語は、X及びY金属の少なくともある程度の相互作用及びPt格子中への取り込みがあることを意味するが、取り込み(特にY金属)は、全合金粒子にわたって必ずしも均一ではない。
【0021】
合金中の金属の原子パーセントは、当業者に知られている標準的な手順;例えばサンプルの湿式化学分析分解処理と続く誘導結合プラズマ(ICP)発光分光分析法により測定可能である。
【0022】
本発明の触媒は、非支持触媒(例えばメタルブラック)として、又は支持触媒(すなわち支持材料に分散したもの)として、燃料電池において使用することができる;好ましくは、本発明の触媒は、支持触媒として使用される。適切には、PtXY合金の量は、支持触媒の全重量に基づき5−80wt%、好ましくは20−80wt%である。本発明に係る支持触媒において、PtXY合金は、適切には伝導性支持材料、例えば伝導性炭素、例えばオイルファーネスブラック、超伝導性ブラック、アセチレンブラック、又はその熱処理及び黒鉛化バージョン、又はカーボンナノファイバー又はナノチューブに分散される。また、触媒が必要な電気伝導性を呈するように表面全体に十分に付着されるならば、非伝導性支持材料、例えば無機金属酸化物粒子を使用することもできる。本発明の触媒は、好ましくは、伝導性炭素材料に分散されたPtXY合金から本質的になる。例示的な炭素には、アクゾ・ノベル・ケトジェン(Akzo Nobel Ketjen)EC300J、カボット・バルカン(Cabot Vulcan)XC72R、及び黒鉛化XC72R、及びデンカ(Denka)アセチレンブラックが含まれる。一実施態様では、炭素支持体は耐腐食性炭素支持体である。「耐腐食性」とは、炭素材料が、アクゾ・ノベル・ケトジェンEC300Jのような大表面積炭素よりも少なくとも20倍耐腐食性があり、カボット・バルカンXC72Rよりも少なくとも10倍耐腐食性があることを意味し、ここで炭素腐食率は、電気化学的電池中において高電位(>1V対RHE)での定電位保持試験中に測定される。腐食電流及び炭素腐食反応の生成物としての二酸化炭素発生の速度の測定をモニターし、種々の炭素タイプと比較する目的で炭素重量損失へ転換されうる。このような手順及び種々の炭素タイプに対する結果は、J. Power Sources 171, (2007), 18-25及びそこの文献に記載されている。
【0023】
本発明は、本発明の触媒の製造方法をさらに提供する。本発明の触媒は、例えば水中に炭素支持体を分散させてスラリーを形成し、溶解した白金塩をこのスラリーに添加することを含む、溶液法から化学的堆積により調製することができる。別個に、成分Yの塩は適切な溶媒、例えば濃酸(例えば塩酸)又はアルコール(例えばエタノール)に溶解され、成分Xの塩の溶液に添加される。X及びYを含む溶液は白金/炭素の懸濁液に添加される。触媒は濾過により回収され、洗浄され、乾燥される。ついで、触媒サンプルは、不活性(例えばN)又は還元(例えばH)雰囲気下、高温でアニールされる。触媒を作製するための代替的な化学堆積法は、当業者に知られているであろう。これらは、類似した方法の使用を含むが、熱い水溶液に可溶性である代替の白金及び卑金属前駆体を用いることも含む。炭素支持体上に金属を沈殿させるために他のアルカリ類を使用することもできる。金属の堆積の順の変動を使用することができ、又は全てを同時に堆積させることもできる。また、他の化学的堆積調製法は、金属塩が、金属塩の水溶液又は有機溶液のいずれかを使用して炭素支持体に吸着され、溶媒が除去される初期湿式法を含む。さらなる他の方法は、商業的に入手可能な炭素支持白金触媒を用いて開始し、上述の一又は他の方法により卑金属を堆積させるものである。最終的に触媒を形成させるために、金属の堆積後に単離した材料を還元し、合金にしなければならない。これは、未還元前駆体が、還元及び合金化が起こる温度まで不活性雰囲気中で加熱される炭素熱プロセスの使用により達成可能である。また、この工程は、還元(例えば、N中5%のH)雰囲気下で実施することもできる。金属ナノ粒子を調製するために使用される方法もまた用いることができる。この場合、金属塩は、界面活性剤の存在下、ホウ化水素のような適切な還元剤により還元され、得られたナノ粒子は炭素支持体に吸着される。物理的気相成長法(例えば、スパッタコーティング、又は真空蒸発)、化学蒸着、電着又は無電解メッキ等、溶液からの化学堆積の代替プロセスにより、本発明の触媒を製造することもできる。これらの調製経路では、本発明の必要な合金触媒を製造するために如何なる最終処理を実施することも必要ではない場合がある。
【0024】
あるいは、本発明の触媒は、例えば、水に炭素支持体を分散させてスラリーを形成し、このスラリーに、成分Xの塩の溶液と混合した濃酸に溶解した成分Yの塩を添加することを含む、溶液からの化学堆積により調製することができる。前駆材料は濾過により回収され、洗浄され、乾燥される。ついで、材料は、不活性(例えばN)又は還元(例えばH)雰囲気下で高温でアニールされる。この材料は水に再分散されてスラリーを形成し、このスラリーに、溶解した白金塩を添加する。触媒は濾過により回収され、洗浄され、乾燥される。ついで、触媒は、不活性(例えばN)又は還元(例えばH)雰囲気下、高温でアニールされる。
【0025】
あるいは、本発明の触媒は、例えば、水に炭素支持体を分散させ、スラリーを形成させ、このスラリーに、濃酸に溶解した成分Yの塩を添加し、成分Xの塩の溶液と混合することを含む、溶液から化学析出により調製することができる。XとYの堆積が完了した時、前駆物質を回収する代わりに、溶解したPt塩を添加する。触媒は濾過により回収され、洗浄され、乾燥される。ついで、触媒は、不活性(例えばN)又は還元(例えばH)雰囲気において、高温でアニール化される。
【0026】
さらに他の方法は、Ptと成分Yを一緒に堆積させることである。前駆材料は濾過により回収され、洗浄され、乾燥される。ついで、材料は、不活性(例えばN)又は還元(例えばH)雰囲気で高温でアニールされる。この材料は水に再分散されてスラリーを形成させ、このスラリーに成分Xの溶解塩が添加される。触媒は、濾過により回収され、洗浄され、乾燥される。ついで、触媒は、不活性(例えばN)雰囲気下で高温でアニールされる。
【0027】
さらなる態様では、本発明の触媒に、エキソサイツ(例えば、酸性又は塩基性環境で本発明の触媒を処理するか、又は触媒に対して電気化学的サイクリングを実施する)又はインサイツ(例えば、本発明の触媒を含むMEA又は電極の電気化学的サイクリングを実施する)加工処理が施され、触媒粒子の外層から金属Xが滲出するようになる。例えば、液状酸中での触媒粉末の単純な滲出が、PtCo/炭素触媒については、ECS Trans., 11(1) 1267-1278 (2007), S. C. Ball, S. L. Hudson, D. Thompsett 及びB. Theobaldに記載されているように、80℃で24時間、0.5Mの硫酸中で触媒粉末を攪拌し、金属Xを除去することにより、用いられうる。粉末又は電極のいずれかを化学的又は電気化学的に滲出又は脱合金化させる他の方法をまた用いてもよい。
【0028】
適切には、金属Xの40〜95%、好ましくは40〜90%が最初の触媒から滲出する。金属Yの存在は安定剤として作用し、全触媒粒子からXが完全に滲出することを防止し、よって、外層にPtがリッチであり、コアに金属Xがリッチである触媒粒子が得られる。外層からの金属Xの除去のため、外層中のPt格子は張られ、純粋なPt面に対して収縮し、酸素還元に対して向上した活性を生じる。粒子内のYの存在は粒子の低層からのXのさらなる溶解を制限し、改善された活性触媒の長期間にわたる安定性を改善する。
【0029】
加工処理後の触媒は、27−91at%の白金、3−69at%のX、及び1−45at%のY、適切には27−85at%の白金、6−69at%のX、及び1−42at%のYのバルク組成により特徴付けられる。
【0030】
よって、本発明のさらなる態様は、27−91at%の白金、3−69at%のX及び1−45at%のY、適切には27−85at%の白金、6−69at%のX及び1−42at%のYのバルク組成を有する滲出性白金合金触媒を提供するものであり、ここでXは遷移金属(白金、パラジウム又はイリジウムを除く)であり、Yは酸性環境下でXよりも滲出性が少ない遷移金属(白金、パラジウム又はイリジウムを除く)であり、該滲出性白金合金触媒は、白金合金触媒PtXYから40−95%(適切には40−90%)のXが滲出することにより得ることができ、ここでX及びYは滲出性白金合金触媒に対して定義された通りであり、白金の原子パーセントは20.5−40at%であり、Xの原子パーセントは40.5−78.5at%であり、Yの原子パーセントは1−19.5at%である。滲出プロセスは、上述したエキソサイツ又はインサイツ加工処理のいずれかにより実施される。
【0031】
本発明の触媒材料及び上述の滲出性触媒は、電極、特に酸電極燃料電池の酸素還元電極(ガス拡散電極)、例えばPAFC又はPEMFCにおける活性成分としての特定の有用性を有している。さらなる態様では、本発明は本発明に係る触媒を含む電極を提供する。好ましい実施態様では、電極はカソードである。触媒は非支持であるか又は支持体、好ましくは電子的に伝導性の支持体に堆積されてもよい。触媒は、十分に確立された技術範囲を使用し、多孔性ガス拡散基板(GDS)に堆積させることができる。PAFC電極では、通常、触媒は、疎水性フルオロポリマー、例えばポリテトラフルオロエチレン(PTFE)の水性懸濁液と混合されて、高分子バインダーとして作用し、得られた凝集材料が、直接濾過、フィルター転写、スクリーン印刷(例えば、米国特許第4185131号に記載)又は乾燥パウダー真空蒸着(米国特許第4175055号)等の技術によりGDSに適用される。PEMFC用途では、触媒はまた水性及び/又は有機溶媒を含むインク、及びプロトン伝導性ポリマーの溶液形態に処方されうる。インクは、噴霧、印刷及びドクターブレード法のような技術を使用して基板に堆積させうる。
【0032】
典型的なガス拡散基板は、不織紙又は炭素繊維と熱硬化性樹脂バインダーの網目構造を含むウェブ(例えば、Toray Industries社(日本)から入手可能なTGP−Hシリーズの炭素繊維紙、又はFreudenberg FCCT KG(独)から入手可能なH2315シリーズ、又はSGL Technologies社(独)から入手可能なSigracet(登録商標)シリーズ、又はBallard Power Systems社から入手可能なAvCarb(登録商標))、又はより炭素布織物を含む。炭素紙、ウェブ又は布は、より湿潤性(親水性)又は耐湿性(疎水性)が増すように、MEAに導入される前にさらなる処理がされてもよい。如何なる処理の性質も、使用される操作条件及び燃料電池のタイプに依存する。基板は、液体懸濁液からの含浸を介して、非晶質カーボンブラック等の材料の導入によって、より湿潤性にすることができ、又はPTFE又はポリフルオロエチレンプロピレン(FEP)等のポリマーのコロイド状懸濁液を基板の多孔質構造に含浸させた後、乾燥させ、ポリマーの融点以上で加熱することにより、さらに疎水性にすることもできる。例えばPEMFCのような応用分野では、微小孔層を、電極触媒層に接触するであろう面上のガス拡散基板に適用されうる。典型的には、微小孔層は、カーボンブラックとポリマー、例えばポリテトラフルオロエチレン(PTFE)の混合物を含む。
【0033】
本発明のさらなる実施態様では、本発明の触媒は、デガール転写基板に適用される。従って、本発明のさらなる態様は、本発明の触媒を含むデガール転写基板を提供する。転写基板は、当業者に知られている任意の適切な転写基板でありうるが、高分子材料、例えばポリテトラフルオロエチレン(PTFE)又はポリプロピレン(特に2軸延伸ポリプロピレン、BOPP)、又はポリマー被覆紙、例えばポリウレタン被覆紙が好ましい。また転写基板はシリコーン放出紙又は金属箔、例えばアルミホイルとすることもできる。ついで、本発明の触媒は、ガス拡散基板、又はPEMFCに応用される場合では、プロトン伝導性膜に移動されて、当業者に知られた技術により、触媒被覆膜(CCM)を形成する。従って、本発明のさらなる態様は、本発明の触媒を含む触媒被覆膜を提供する。
【0034】
本発明の電極は、燃料電池、例えばPEM燃料電池に直接使用され得、ここで電解質は固体のプロトン交換膜である。あるいは、本発明の電極はリン酸燃料電池に使用され得、ここで電解質は支持マトリックス、例えば炭化ケイ素中の液体リン酸である。従って、本発明のさらなる態様は、本発明の電極を含む、燃料電池、特にPEM燃料電池又はリン酸燃料電池を提供する。
【0035】
本発明の触媒はPEM及びリン酸燃料電池における特定の利用性を有しており、この用途に関連してここに詳細に説明しているが、該触媒は他の燃料電池又は他の用途にも使用される。特に本発明の触媒は、ポリベンズイミダゾール(PBI)ドープ燃料電池、直接メタノール型燃料電池(DMFC)及びアルカリ電解質形燃料電池(AFC)にも使用されうる。
また、一実施形態として、以下の発明を含み得る。
(1)Xが遷移金属(白金、パラジウム又はイリジウムを除く)であり、Yが酸性環境下でXよりも滲出性が少ない遷移金属(白金、パラジウム又はイリジウムを除く)である白金合金触媒PtXYにおいて、合金中において白金の原子パーセントが20.5−40at%であり、Xの原子パーセントが40.5−78.5at%であり、Yの原子パーセントが1−19.5at%であることを特徴とする白金合金触媒。
(2)Xが、ニッケル、コバルト、クロム、銅、チタン又はマンガンである(1)に記載の白金合金触媒。
(3)Yがタンタル又はニオブである(1)又は(2)に記載の白金合金触媒。
(4)触媒が支持されていない(1)から(3)のいずれか一項に記載の白金合金触媒。
(5)触媒が伝導性支持材料に支持されている(1)から(3)のいずれか一項に記載の白金合金触媒。
(6)(1)から(5)のいずれか一項に記載の触媒を含む電極。
(7)電極がカソードである(6)に記載の電極。
(8)(1)から(5)のいずれか一項に記載の触媒を含むデカール転写基板。
(9)(1)から(5)のいずれか一項に記載の触媒を含む触媒被覆膜。
(10)(1)から(5)のいずれか一項に記載の触媒を含むリン酸燃料電池。
(11)(1)から(5)のいずれか一項に記載の触媒を含むプロトン交換膜燃料電池。
(12)27−91at%の白金、3−69at%のX及び1−45at%のY、適切には27−85at%の白金、6−69at%のX及び1−42at%のYのバルク組成を有する滲出性白金合金触媒であって、ここでXは遷移金属(白金、パラジウム又はイリジウムを除く)であり、Yは酸性環境下ではXよりも滲出性が少ない遷移金属(白金、パラジウム又はイリジウムを除く)であり、該滲出性白金合金触媒は、白金合金触媒PtXYから40−95%のXを滲出させることにより得ることができ、ここでX及びYは滲出性白金合金触媒に対して定義された通りであり、白金の原子パーセントは20.5−40at%であり、Xの原子パーセントは40.5−78.5at%であり、Yの原子パーセントは1−19.5at%である滲出性白金合金触媒。
【0036】
以下、本発明を、本発明を例証するもので限定するものではない次の実施例を参照してより詳細に説明する。
【実施例】
【0037】
実施例1
五塩化タンタル(16.5g)を濃塩酸(60ml)に溶解させ、水(200ml)に塩化コバルト(II)(43.89g)が入った溶液に添加した。得られた溶液を、水(6L)にケトジェンEC300Jカーボン(35.00g)が分散したスラリーに添加した。攪拌したスラリーを1MのNaOHを用いてpH8に中和した。pHが8で安定したときに、水(500ml)にカリウムテトラクロロプラチナイト(32.18g)が溶解した溶液を添加した。スラリーを60℃まで温めた後、1MのNaOHを、pHが8で安定するまで添加した。スラリーを冷却し、濾過により収集し、水で洗浄し、105℃で乾燥させた。収量=80.7g。
10.0gの生成物を、N中、1000℃でアニールした。収率=7.89g。
金属アッセイ(wt%):Pt=21.3%、Co=15.3%、Ta=12.0%(Pt25.1:Co59.7:Ta15.2at%)。
【0038】
実施例2
五塩化タンタル(5.79g)を濃塩酸(20ml)に溶解させ、水(250ml)に塩化コバルト(II)(54.73g)が入った溶液に添加した。得られた溶液を、水(6L)にケトジェンEC300Jカーボン(35.00g)が分散したスラリーに添加した。攪拌したスラリーを1MのNaOHを用いてpH8に中和した。pHが8で安定したときに、水(500ml)にカリウムテトラクロロプラチナイト(32.18g)が溶解した溶液を添加した。スラリーを60℃まで温めた後、1MのNaOHを、pHが8で安定するまで添加した。スラリーを冷却し、濾過により収集し、水で洗浄し、105℃で乾燥させた。収量74.83g。
10.0gの生成物を、N中、2時間、1000℃でアニールした。収量=7.66g。
金属アッセイ(wt%):Pt=23.3%、Co=20.3%、Ta=2.80%(Pt24.9:Co71.9:Ta3.2at%)。
【0039】
実施例3
カリウムテトラクロロプラチナイトを添加しない以外は、実施例1及び2に記載された手順を使用し、五塩化タンタル(27.5g)、塩化コバルト(II)(54.87g)、及びケトジェンEC300Jカーボン(38.34g)を用いて、サンプルを調製した。10gのサンプルを分離し、実施例1及び2に匹敵する条件下でアニールさせ、CoTa/Cを得た(収量=7.94g)。ついで、上述の堆積技術の一つを使用し、白金を堆積させることができる。