特許第6282134号(P6282134)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6282134
(24)【登録日】2018年2月2日
(45)【発行日】2018年2月21日
(54)【発明の名称】PPEを含む積層板
(51)【国際特許分類】
   C08L 71/12 20060101AFI20180208BHJP
   C08K 5/3477 20060101ALI20180208BHJP
   C08J 5/24 20060101ALI20180208BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20180208BHJP
【FI】
   C08L71/12
   C08K5/3477
   C08J5/24CEZ
   B32B27/00 103
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-27773(P2014-27773)
(22)【出願日】2014年2月17日
(65)【公開番号】特開2015-151491(P2015-151491A)
(43)【公開日】2015年8月24日
【審査請求日】2016年12月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100077517
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 敬
(74)【代理人】
【識別番号】100087413
【弁理士】
【氏名又は名称】古賀 哲次
(74)【代理人】
【識別番号】100108903
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 和広
(74)【代理人】
【識別番号】100142387
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 都子
(74)【代理人】
【識別番号】100135895
【弁理士】
【氏名又は名称】三間 俊介
(72)【発明者】
【氏名】大谷 尚史
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 正朗
【審査官】 大▲わき▼ 弘子
(56)【参考文献】
【文献】 特開平08−085754(JP,A)
【文献】 特開平08−085755(JP,A)
【文献】 特開2011−074123(JP,A)
【文献】 特開2005−105062(JP,A)
【文献】 特開2007−302876(JP,A)
【文献】 特開2013−194137(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 71/12
B32B 27/00
C08J 5/24
C08K 5/3477
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリフェニレンエーテル(A)と、有機溶剤(B)と、架橋性化合物の架橋体とを含む、積層板であって、
該有機溶剤(B)は、以下(a)〜():
(a)1気圧における沸点が、120℃以上であること、
(b)オクタノール/水分配係数LogPOWが、0.04以上、4.00以下であること
(c)該積層板中に含まれる量が、0.01質量%以上、1質量%以下であること、及び
(d)シクロヘキサノン及び/又はシクロペンタノンであること、
を満足する、積層板。
【請求項2】
前記架橋性化合物が、分子内に2個以上のビニル基を持つ化合物である、請求項に記載の積層板。
【請求項3】
前記架橋性化合物が、トリアリルイソシアヌレートである、請求項に記載の積層板。
【請求項4】
前記ポリフェニレンエーテル(A)の数平均分子量が、8000以上である、請求項1〜のいずれか一項に記載の積層板。
【請求項5】
請求項1〜のいずれか一項に記載の積層板の製造方法であって、
(1)前記ポリフェニレンエーテル(A)と、前記有機溶剤(B)と、架橋性化合物とを含む積層板前駆体を調製する工程、及び
(2)該積層板前駆体を加熱硬化させ、積層板を得る工程
を含む、積層板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリフェニレンエーテル(PPE)を含む積層板、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、情報ネットワーク技術の著しい進歩、情報ネットワークを活用したサービスの拡大により、電子機器には情報量の大容量化、処理速度の高速化が求められている。デジタル信号を大容量かつ高速に伝達するためには信号の波長を短くするのが有効であり、信号の高周波化が進んでいる。しかし、高周波領域の電気信号は配線回路で減衰されやすい。そのため、伝送特性の良いプリント配線板が必要とされている。
【0003】
ポリフェニレンエーテル(PPE)は、誘電率及び誘電正接が低いという誘電特性を有しており、高周波特性に優れるため、高周波数帯を利用する電子機器のプリント配線板用の材料として好適である。PPEは熱可塑性樹脂であるため、基板材料として使用する際は、寸法安定性や耐熱性を付与する目的で架橋剤と合わせて使用するのが一般的である。更に、プリント配線板用途に所望される難燃性や機械特性を付与するため、難燃剤や無機フィラーなどと併用される。
【0004】
例えば、以下の特許文献1及び2には、熱可塑性であるPPEを、架橋性モノマーであるトリアリルイソシアヌレートやトリアリルシアヌレート、シアン酸エステルと組み合わせることで硬化性樹脂組成物とし、それを用いて、PPE由来の良好な電気特性を有する積層板とする技術が開示されている。また、例えば、以下の特許文献3及び4には、難燃性及び機械特性を付与するために、難燃剤や、無機フィラーをPPEと併用した積層板に関する技術が記載されている。
【0005】
このような積層板の材料としては、良好な電気特性を保つために、耐吸水性に優れた材料を選択して用いる。高周波領域では、わずかな吸水劣化でも、積層板は電気特性が著しく悪化し、特性が大きく損なわれるためである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭61−287739号公報
【特許文献2】特公昭61−018937号公報
【特許文献3】特開昭63−25035号公報
【特許文献4】特開平8−231847号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来技術においては、電気特性の経時的な悪化を防ぐことができていないのが現状である。この原因は定かではないが、積層板における、材料同士の界面、架橋剤の未架橋部分、歪部分等にて発生する、わずかな吸水劣化が一因だと予想される。特許文献1〜4に記載された技術においても、このような観点について、なお改善の余地があった。
【0008】
かかる状況下、本発明が解決しようとする課題は、電気特性の経時的悪化を防ぎ、PPE本来の良好な電気特性が持続する、高周波用プリント基板の材料として好適に用いられる、積層板及びその製法を提供することである。
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討し実験を重ねた結果、積層板中の溶剤の存在態様を制御することで、上記課題を解決した積層板を実現しうることを見出し、かかる知見に基づき、本発明を完成するに至ったものである。
すなわち、本発明は以下の通りである。
【0010】
[1] ポリフェニレンエーテル(A)と、有機溶剤(B)とを含む、積層板であって、
該有機溶剤(B)は、以下(a)〜(c):
(a)1気圧における沸点が、120℃以上であること、
(b)オクタノール/水分配係数LogPOWが、0.04以上、4.00以下であること、及び
(c)該積層板中に含まれる量が、0.01質量%以上、1質量%以下であること、
を満足する、積層板。
[2] 前記有機溶剤(B)が、シクロヘキサノン及び/又はシクロペンタノンである、[1]に記載の積層板。
[3] 架橋性化合物の架橋体を含む、[1]又は[2]に記載の積層板。
[4] 前記架橋性化合物が、分子内に2個以上のビニル基を持つ化合物である、[3]に記載の積層板。
[5] 前記架橋性化合物が、トリアリルイソシアヌレートである、[4]に記載の積層板。
[6] 前記ポリフェニレンエーテル(A)の数平均分子量が、8000以上である、[1]〜[5]のいずれかに記載の積層板。
[7] [1]〜[6]のいずれかに記載の積層板の製造方法であって、
(1)前記ポリフェニレンエーテル(A)と、前記有機溶剤(B)と、架橋性化合物とを含む積層板前駆体を調製する工程、及び
(2)該積層板前駆体を加熱硬化させ、積層板を得る工程
を含む、積層板の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、良好な電気特性を経時的に持続できる積層板が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための例示の形態(以下、「実施の形態」と略記する。)について詳細に説明する。尚、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0013】
本実施形態の積層板は、ポリフェニレンエーテル(A)(以下、PPE(A)、又は単にPPEともいう。)を含む。PPEは、好ましくは、下記一般式(1):
【0014】
【化1】
【0015】
{式中、R1、R2、R3及びR4は、各々独立して、水素原子、ハロゲン原子、置換基を有してもよいアルキル基、置換基を有してもよいアルコキシ基、置換基を有してもよいアリール基、置換基を有してもよいアミノ基、ニトロ基又はカルボキシル基を表す。}で表される繰返し構造単位を含む。
【0016】
PPEの具体例としては、例えば、ポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレンエーテル)、ポリ(2−メチル−6−エチル−1,4−フェニレンエーテル)、ポリ(2−メチル−6−フェニル−1,4−フェニレンエーテル)、ポリ(2,6−ジクロロ−1,4−フェニレンエーテル)等、更に、2,6−ジメチルフェノールと他のフェノール類(例えば、2,3,6−トリメチルフェノール、2−メチル−6−ブチルフェノール等)との共重合体、及び、2,6−ジメチルフェノールとビフェノール類又はビスフェノール類とをカップリングさせて得られるポリフェニレンエーテル共重合体、等が挙げられ、好ましい例は、ポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレンエーテル)である。
【0017】
尚、本開示において、PPEは、置換又は非置換のフェニレンエーテル単位構造から構成されるポリマーを意味するが、更に他の共重合成分を含んでもよい。また、末端は水酸基に限らず、公知の方法で変性を施したものでもよい。
【0018】
PPEの配合量としては、積層板の有機物成分100質量%の内、25質量%以上が好ましい。より好ましくは、30質量%以上、更に好ましくは、35質量%以上である。また、上限としては、好ましくは80質量%以下、より好ましくは75質量%以下、更に好ましくは、70質量%以下である。25質量%以上であれば、良好な電気特性が得られる傾向となり好ましい。また、80質量%以下であれば、良好な耐熱性や機械特性が得られる傾向となり好ましい。
なお、ここでいう有機物成分とは、積層板に含まれる有機物全般を意味する。従って、例えば積層板に無機フィラーや無機基材が含まれる場合はそれらを除いた成分である。
【0019】
PPEの数平均分子量については、特に制限されないが、8000以上が好ましく、より好ましくは8500以上、更に好ましくは9000以上である。上限としては、好ましくは40000以下、より好ましくは30000以下である。
【0020】
PPEの数平均分子量が8000以上であれば、積層板の剥離強度(例えば積層板と銅箔とを積層した場合における銅箔剥離強度)が良好な傾向となるため、好ましい。他方、PPEの数平均分子量が40000以下であれば、成型時の溶融粘度が小さく、良好な成型性を得られる点で望ましい。分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィにより、標準ポリスチレン換算にて測定される値である。
【0021】
本実施形態の積層板は、有機溶剤(B)を含む。有機溶剤(B)は、以下(a)〜(c):
(a)1気圧における沸点が、120℃以上であること、
(b)オクタノール/水分配係数LogPOWが、0.04以上、4.00以下であること、及び
(c)該積層板中に含まれる量が、0.01質量%以上、1質量%以下であること、
を満足する。このような有機溶剤(B)を含むことで、電気特性の経時的な悪化を防ぐことができ、積層板は良好な電気特性を持続的に保有することができる。この原因は定かではないが、疎水性の高い特定の有機溶剤を、積層板中に特定の量存在させるように制御することで、材料同士の界面や、架橋剤の未架橋部分や歪部分等にて発生すると予想される吸水劣化を防ぐためと考えられる。
【0022】
該有機溶剤(B)は、1気圧における沸点が、120℃以上である。好ましくは、125℃以上であり、より好ましくは、130℃以上である。1気圧における沸点が120℃以上であれば、上述のような吸水劣化の防止効果を持続的に保有することができる傾向となり好ましい。沸点が120℃以上であれば、溶剤が過度に揮発せずに効果が持続するためと予想する。また、沸点の上限は特に制限はないが、好ましくは180℃以下である。沸点が180℃以下であれば、過剰に溶剤を残存させることが少なくなる傾向となり、従って、有機溶剤(B)自体に起因する電気特性や耐熱性の悪化が発現しない傾向となり好ましい。
【0023】
該有機溶剤(B)は、オクタノール/水分配係数(LogPow)が、0.04以上4.00以下である。好ましくは、0.04以上3.50以下、より好ましくは、0.08以上3.30以下、更に好ましくは0.10以上、3.00以下である。該分配係数が0.04以上であれば、上述のような吸水劣化の防止効果が良好な傾向となり好ましい。これは、上記範囲の分配係数を有する有機溶剤は、吸水劣化を良好に防ぐことができる疎水性を有するためであると予想される。また、該分配係数が4.00以下であれば、PPEとの親和性が良くなる傾向となり、従って、積層板を製造する際に使用するワニスを作製しやすくなる傾向となり、好ましい。
【0024】
積層板に含まれる該有機溶剤(B)の量は、0.01質量%以上1質量%以下である。好ましくは、0.05質量%以上0.9質量%以下、より好ましくは、0.1質量%以上0.8質量%以下である。
【0025】
該有機溶剤(B)の積層板中の量が0.01質量%以上であれば、上述のような吸水劣化の防止効果が良好な傾向となり、好ましい。また、1質量%以下であれば、該有機溶剤(B)自体に起因する、電気特性や耐熱性の悪化が発現しない傾向となり好ましい。
【0026】
積層板中の有機溶剤(B)の量は、上記(a)及び(b)の特性を満たす溶剤を選択し、積層板の通常の製造方法に取り入れることで、比較的容易に制御できる。例えば、ワニスを用いて塗工を行って積層板を製造する場合、その溶媒又はその溶媒の一部として有機溶剤(B)を用い、乾燥条件を調整して、制御することができる。また、プレス成型工程を経て積層板を製造する場合、圧力、加熱温度、昇温速度等の成型条件を調整して、制御することができる。
【0027】
該有機溶剤(B)としては、上記の特性を備えていれば特に制限されないが、PPEとの親和性の観点から非極性溶媒が好ましく、シクロヘキサノン、シクロペンタノン、、キシレン等を例示できる。中でも、特にシクロヘキサノン及び/又はシクロペンタノンが好ましい。積層板に含まれる有機溶剤(B)の種類は、単独でも複数でも構わない。
【0028】
本実施形態の積層板は、PPE(A)及び有機溶剤(B)の他に、目的に応じて種々の成分を含むことができる。
【0029】
本実施形態の積層板は、架橋性化合物の架橋体を含むことができる。架橋性化合物としては、特に制限はないが、電気特性の観点から、分子内に2個以上のビニル基を有するモノマーや、分子内に2個以上のシアネート基を有する化合物等が挙げられる。
分子内に2個以上のシアネート基を有する化合物としては、例えば、2,2−ビス(4−シアナートフェニル)プロパン、ビス(3,5−ジメチル−4−シアナートフェニル)メタン、2,2−ビス(4−シアナートフェニル)エタン等またはこれらの誘導体等の芳香族系シアネートエステル化合物等が挙げられる。
分子内に2個以上のビニル基を有するモノマーとしては、例えば、トリアリルイソシアヌレート(TAIC)、トリメタリルイソシアヌレート、トリアリルシアヌレート、トリアリルアミン、トリアリルメセート、ジビニルベンゼン、ジビニルナフタレン、ジビニルビフェニル及びそれらの誘導体などが挙げられる。
架橋体化合物としては、架橋後の耐熱性や吸水性の観点から、分子内に2個以上のビニル基を有するものが好ましく、その中でもPPEとの相溶性が良好なTAICが好ましい。
【0030】
架橋体の配合量としては、PPEと架橋体との総量中に占める割合として、好ましくは5〜50質量%、より好ましくは10〜45質量%、更に好ましくは15〜40質量%である。含有量を5質量%以上とすることは、耐熱性の観点から好ましく、50質量%以下とすることは、電気特性の観点から好ましい。
【0031】
本実施形態の積層板は、適当な添加剤を更に含有することができる。添加剤としては、難燃剤、熱安定剤、酸化防止剤、UV吸収剤、界面活性剤、滑剤、充填剤、ポリマー添加剤等が挙げられる。
【0032】
例えば、難燃剤としては、燃焼のメカニズムを阻害する機能を有するものであれば特に制限されず、三酸化アンチモン、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、ほう酸亜鉛等の無機難燃剤、ヘキサブロモベンゼン、デカブロモジフェニルエタン、4,4−ジブロモビフェニル、エチレンビステトラブロモフタルイミド等の芳香族臭素化合物、等が挙げられる。中でも、得られる積層板の誘電率及び誘電正接を低く抑えられる観点からデカブロモジフェニルエタン等が好ましい。
【0033】
添加剤の使用量は、PPEと架橋性化合物の架橋体との合計100質量部に対して、好ましくは5質量部以上、より好ましくは10質量部以上、更に好ましくは15質量部以上である。また、得られる積層板の誘電率及び誘電正接を小さく維持できる観点から、添加剤の使用量は、好ましくは50質量部以下、より好ましくは45質量部以下、更に好ましくは40質量部以下である。
【0034】
積層板は、有機溶剤(B)以外の追加の溶剤を更に含有してもよいが、積層板中に追加の溶剤が存在する場合、有機溶剤(B)と追加の溶剤との合計量100質量%に対して、追加の溶剤の量は、好ましくは70質量%以下、より好ましくは50質量%以下、更に好ましくは30質量%以下、最も好ましくは10質量%以下である。追加の溶剤の量が70質量%以下であれば、有機溶剤(B)による効果が得られる傾向となり好ましい。
また、積層板の耐熱性や電気特性の観点から、積層板中に含まれる有機溶剤(B)と追加の溶剤の合計は、好ましくは1.2質量%以下、より好ましくは1.1質量%以下、更に好ましくは1.0質量%以下である。
【0035】
本実施の形態の積層板とは、典型的には、PPE(A)及び有機溶剤(B)を含む絶縁層と、銅箔、樹脂付金属箔等の導電層とを含む。積層板は、例えば以下のような方法により製造できる。
【0036】
本発明の他の実施態様は、以下の工程:
(1)ポリフェニレンエーテル(A)と、有機溶剤(B)と、架橋性化合物とを含む積層板前駆体を調製する工程、及び
(2)該積層板前駆体を加熱硬化させ、積層板を得る工程
を含む、積層板の製造方法である。なおポリフェニレンエーテル(A)、有機溶剤(B)及び架橋性化合物の詳細は前述したとおりである。
【0037】
かかる実施形態における積層板前駆体は、PPE(A)、有機溶剤(B)、及び架橋性化合物を含むワニスより調製される。ワニスは、PPE(A)及び架橋性化合物を含む固形分(以下、ワニス中の固形分を樹脂組成物ともいう。)と、有機溶剤(B)を含む溶媒又は分散媒とを含むことができる。積層板前駆体は、支持フィルムを基材として該ワニスを基材上に塗工し、該ワニス中の溶媒を実質的に除去して得られる乾燥成型物や、該ワニスを多孔性基材に含浸し、該ワニス中の分散媒を実質的に除去して得られるプリプレグを包含する。
【0038】
前記支持フィルムとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン;ポリ塩化ビニル;ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル;ポリカーボネート;ポリイミド;銅箔、アルミ箔等の金属箔;離形紙等を挙げることができる。尚、支持フィルムは、マッド処理、コロナ処理、離形処理等の化学的及び/又は物理的処理を予め施したものであってもよい。
【0039】
前記多孔性基材としては、例えば、ロービングクロス、クロス、チョップドマット、サーフェシングマット等の各種ガラスクロス、アスベスト布、金属繊維布、及びその他合成若しくは天然の無機繊維布;全芳香族ポリアミド繊維、全芳香族ポリエステル繊維、ポリベンゾオキサゾール繊維等の液晶繊維から得られる織布又は不織布;綿布、麻布、フェルト等の天然繊維布;カーボン繊維布、クラフト紙、コットン紙、紙−ガラス混繊紙から得られる布等の天然セルロース系基材、ポリテトラフルオロエチレン多孔質フィルム等が挙げられ、これらを単独で又は2種以上組み合わせて用いることができる。
【0040】
尚、プリプレグに占める(分散媒除去後の)樹脂組成物の割合は、プリプレグ全量100質量部に対して、30〜80質量部であることが好ましく、より好ましくは40〜70質量部である。樹脂組成物の割合が30質量部以上である場合、プリプレグを、例えば、電子回路基板成型用の絶縁材料として使用した際、優れた絶縁信頼性と電気特性とが得られるため傾向となり好ましい。また、樹脂組成物の割合が80質量部以下である場合、例えば、得られる電子回路基板が、曲げ弾性等の機械特性に優れる傾向となるため好ましい。
【0041】
積層板は、例えば、上述の積層板前駆体の1枚又は複数枚を銅箔と重ねた後、プレス成型により樹脂成分を硬化させて絶縁層を形成することにより製造することができる。銅箔の代わりに例えば樹脂付金属箔を用いることも可能である。
【実施例】
【0042】
以下、実施例及び比較例を挙げて本実施の形態をより具体的に説明するが、本実施の形態はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0043】
以下に示す製造例に従って、低分子量PPEを調製し、実施例に用いた。
なお、実施例中のPPEの数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により、分子量既知の標準ポリスチレンの溶出時間との比較で求めた。測定装置には、HLC−8220GPC(東ソー社製)を用い、カラム:Shodex LF−804×2(昭和電工株式会社製)、溶離液:50℃のクロロホルム、検出器:RI の条件で測定を行った。
【0044】
<製造例1:低分子量PPE>
90℃に加温されたオイルバスに10Lのフラスコを設置し、フラスコ内部に毎分30mlで窒素ガスを導入した。以降、操作は常に窒素ガス気流下で行った。ここにPPE(S202A、旭化成ケミカルズ社製、数平均分子量18000)、1kg、及びトルエン3kgを入れ、攪拌溶解させた。更に80gのビスフェノールAをメタノール350gに溶かした溶液を上記フラスコに攪拌しながら加えた。5分間攪拌を続けた後、6質量%ナフテン酸コバルトミネラルスピリット溶液3mlを注射器で加え、5分間攪拌を続けた。続いてベンゾイルパーオキサイド溶液375gにトルエン1125gを加えて、ベンゾイルパーオキサイド濃度が10質量%になるように希釈した溶液を滴下ロートに入れ、上記フラスコに2時間かけて滴下していった。滴下終了後、更に2時間加熱及び攪拌を続け、低分子量PPEを含む反応液を得た。これに多量のメタノールを加え、低分子量PPEを沈殿させ、ろ別後、乾燥させて低分子量PPEを得た。得られた低分子量PPEの数平均分子量は2,800であった。
【0045】
<製造例2:低分子量・ベンジル化PPE>
製造例1と同様の方法で、メタノールを添加してPPEを沈殿させる前の工程まで行い、低分子量PPEを含む反応液を得た。該反応液の温度を50℃に下げ、水酸化ナトリウム340gをイオン交換水3050gに溶解させた水溶液とテトラブチルアンモニウムヨード31gとを加えて、5分間撹拌した。続いて、塩化ベンジル1070gを加えてから温度50℃で4時間撹拌を続け、低分子量・ベンジル化ポリフェニレンエーテルを含む反応液を得た。これに多量のメタノールを加え、低分子量・ベンジル化ポリフェニレンエーテルを沈殿させ、ろ別後、乾燥させて低分子量・ベンジル化PPEを得た。
得られた低分子量・ベンジル化PPEの数平均分子量は3,000であった。
【0046】
<製造例3:低分子量・ビニルベンジル化PPE>
塩化ベンジル1070gをクロロメチルスチレン1290gに変更する以外は製造例2と同様の方法で、低分子量・ビニルベンジル化PPEを得た。
得られた低分子量・ビニルベンジル化PPEの数平均分子量は3,100であった。
【0047】
[実施例1〜16、比較例1〜5]
表1に示す配合にてPPE含有塗工用ワニスを作製し、厚さ約0.1mmのEガラス製ガラスクロス(2116スタイル、旭シュエーベル製)に含侵させて、スリットで余分なワニスを掻き落とした後、乾燥機にて種々の条件で乾燥し、溶媒を必要量残存させたプリプレグを得た。該プリプレグを積層板前駆体として用いて、以下の方法で積層板を作製し、実施例中の物性を測定した。
【0048】
(1)溶剤含有量
以下の方法により、ガスクロマトグラフィーにて、積層板の溶剤含有量を測定した。
【0049】
上記プリプレグを2枚重ねて、更にその上下に、35μm銅箔(GTS−MP箔、古河電気工業)をプロファイル面がプリプレグ側となるように重ね、室温から昇温速度3℃/分で加熱しながら圧力10kg/cm2の条件で真空プレスを行い、130℃に達したら、昇温速度3℃/分で加熱しながら圧力40kg/cm2で真空プレスを行い、200℃に達したら、温度を200℃に保ったまま圧力40kg/cm2、時間60分間の条件で真空プレスを行うことによって、積層板を作製した。
【0050】
該積層板を、塩化鉄を用いて公知の方法でエッチングし、銅箔を完全に除去した後、正確に3g切り出した。切り出した3gの積層板を5mm角程度に更に細かく切り、クロロホルム(シグマアルドリッチ ≧ 99.5%)60gに入れて、3時間撹拌後、24時間静置させて、積層板中に含まれる残存溶媒をクロロホルムに抽出した。次いで、濾過操作により固形分を除去し、精秤したn−ヘキサデカン(シグマアルドリッチ ≧ 99%)0.1gを加え、更にクロロホルムを加えて、合計量100gのサンプル液を調製した。該サンプル液をキャピラリガスクロマトグラフ(GC―2010、島津製作所)にて測定し、ヘキサデカンを内部標準物質として、溶剤含有量を定量した。
【0051】
(2)含有溶剤の沸点
上述の方法でガスクロマトグラフィーにて同定した積層板の含有溶剤について、同じ溶剤を試薬として入手し、JISK2233に記載の、平均還流沸点試験に準拠して測定した。
【0052】
(3)含有溶剤の1−オクタノール/水分配係数(LogPow
上述の方法でガスクロマトグラフィーにて同定した積層板の含有溶剤について、同じ溶剤を試薬として入手し、JISZ7260−107に記載のフラスコ振とう法に準拠して測定した。
【0053】
(4)誘電正接
以下の方法により、積層板の誘電正接について、経時的な変化を測定した。
上記プリプレグを10枚重ねる点以外は、前述と同じ条件で真空プレス成型を行い、積層板を作製した。該積層板を、塩化鉄を用いて公知の方法でエッチングし、銅箔を完全に除去した後、長さ約50mm、幅約1.5mmの試験片を5つ切り出し、105℃、2時間乾燥し、以下に示す条件で10GHzの誘電正接を測定した。
【0054】
測定1:乾燥直後に測定
測定2:23℃、50%RHの恒温室に24時間静置後に測定
測定3:23℃、50%RHの恒温室に240時間静置後に測定
なお測定は、ベクトルネットワークアナライザー(E8362B AgilentTechnologies社製)を用い、周波数10GHzの条件で、空洞共振器(CP531 関東電子応用開発製)を用いて測定した。測定は、切り出した5つの試験片で行い、その平均値を誘電正接の値とした。
【0055】
(5)銅箔剥離強度
上記プリプレグを2枚重ねて、前述と同じ条件で真空プレス成型を行った。得られた積層板を、幅15mm×長さ150mmのサイズに切り出し、オートグラフ(AG−5000D、株式会社島津製作所製)を用い、銅箔を除去面に対し90℃の角度で50mm/分の速度で引き剥がした際の荷重の平均値を測定し、5回の測定の平均値を求め、次の評価を行った。
【0056】
○:銅箔剥離強度が、1.4kN/m以上
×:銅箔剥離強度が、1.4kN/m未満
【0057】
【表1】
【0058】
材料の詳細は以下のとおりである。
【0059】
【表2】
【0060】
溶媒の分配係数、沸点は以下の通りである。
【0061】
【表3】
【0062】
表1に示すように、実施例1〜16では、良好な電気特性を持続的に保有する積層板を得ることができた。
比較例1は、有機溶剤の含有量が不足しており、電気特性の経時的な悪化を防ぐことができなかった。
比較例2は、有機溶剤の含有量が過剰であり、良好な電気特性を得ることができなかった。
比較例3と5とは、有機溶剤の沸点が低く、電気特性の経時的な悪化を十分に防ぐことができなかった。
比較例4は、有機溶剤の分配係数が低く、良好な電気特性を得ることができなかった。これは、有機溶剤の疎水性が不十分であったためと推定される。