特許第6282142号(P6282142)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6282142
(24)【登録日】2018年2月2日
(45)【発行日】2018年2月21日
(54)【発明の名称】赤外線反射基板およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/26 20060101AFI20180208BHJP
   B32B 9/00 20060101ALI20180208BHJP
   C23C 14/06 20060101ALI20180208BHJP
   C23C 14/34 20060101ALI20180208BHJP
   B32B 15/04 20060101ALI20180208BHJP
【FI】
   G02B5/26
   B32B9/00 A
   C23C14/06 N
   C23C14/34 R
   B32B15/04 Z
【請求項の数】13
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2014-40906(P2014-40906)
(22)【出願日】2014年3月3日
(65)【公開番号】特開2015-166141(P2015-166141A)
(43)【公開日】2015年9月24日
【審査請求日】2017年1月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100152571
【弁理士】
【氏名又は名称】新宅 将人
(74)【代理人】
【識別番号】100141852
【弁理士】
【氏名又は名称】吉本 力
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 聖彦
(72)【発明者】
【氏名】大森 裕
【審査官】 横川 美穂
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2010/055832(WO,A1)
【文献】 特開平11−157881(JP,A)
【文献】 特開2013−256104(JP,A)
【文献】 特表2005−502076(JP,A)
【文献】 特開平1−317136(JP,A)
【文献】 特開平2−009731(JP,A)
【文献】 特開2007−314364(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明基材上に、第一金属酸化物層、第二金属酸化物層および金属層をこの順に備え、
前記第一金属酸化物層は、屈折率が2.2以上であり、
前記第二金属酸化物層は、酸化錫および酸化亜鉛を含有し、酸素量が化学量論組成に対して不足している金属酸化物からなり、
前記第二金属酸化物層と前記金属層とが直接接している、赤外線反射基板。
【請求項2】
前記第一金属酸化物層は、Ti,Nb,Ta,Mo,WおよびZrからなる群から選択される1以上の金属の酸化物からなる、請求項1に記載の赤外線反射基板。
【請求項3】
前記金属層の前記基材側と反対側の面に、さらに表面側金属酸化物層を備える、請求項1または2に記載の赤外線反射基板。
【請求項4】
前記表面側金属酸化物層が、酸化錫および酸化亜鉛を含有する金属酸化物からなる、請求項3に記載の赤外線反射基板。
【請求項5】
前記表面側金属酸化物層が、前記金属層と直接接している、請求項3または4に記載の赤外線反射基板。
【請求項6】
前記表面側金属酸化物層上に、透明樹脂層を備える、請求項3〜5のいずれか1項に記載の赤外線反射基板。
【請求項7】
前記透明樹脂層が、前記表面側金属酸化物層と直接接している、請求項6に記載の赤外線反射基板。
【請求項8】
前記透明樹脂層の膜厚が、20nm〜150nmである、請求項6または7に記載の赤外線反射基板。
【請求項9】
前記透明基材が、可撓性の透明フィルムである、請求項1〜8のいずれか1項に記載の赤外線反射基板。
【請求項10】
透明基材上に、第一金属酸化物層、第二金属酸化物層および金属層をこの順に備える赤外線反射基板を製造する方法であって、
前記第一金属酸化物層は屈折率が2.2以上であり、前記第二金属酸化物層は酸化錫および酸化亜鉛を含有する金属酸化物からなり、
透明基材上に、第一金属酸化物層が成膜される第一金属酸化物層形成工程;
前記第一金属酸化物層上に、第二金属酸化物層が直流スパッタ法により成膜される第二金属酸化物層形成工程;および
前記第二金属酸化物層の直上に、金属層が成膜される金属層形成工程、をこの順に有し、
前記第二金属酸化物層形成工程において、
亜鉛原子および錫原子を含有し、酸化亜鉛と酸化錫のうち少なくとも一方の金属酸化物と金属粉末とが焼結されたターゲットが用いられ、
スパッタ成膜室内に、不活性ガスおよび酸素が導入され、スパッタ成膜室に導入されるガス中の酸素濃度が8体積%以下である、
赤外線反射基板の製造方法。
【請求項11】
前記金属層上に、酸化錫および酸化亜鉛を含有する表面側金属酸化物層が直流スパッタにより成膜される表面側金属酸化物層形成工程、をさらに有する、請求項10に記載の赤外線反射基板の製造方法。
【請求項12】
前記表面側金属酸化物層形成工程において、
亜鉛原子および錫原子を含有し、酸化亜鉛と酸化錫のうち少なくとも一方の金属酸化物と金属粉末とが焼結されたスパッタターゲットを用いて、直流スパッタ法により成膜が行われる、請求項11に記載の赤外線反射基板の製造方法。
【請求項13】
前記表面側金属酸化物層上に、さらに透明樹脂層が形成される透明樹脂層形成工程を有する、請求項11または12に記載の赤外線反射基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、赤外線を反射することにより、遮熱性および断熱性を発揮する赤外線反射基板、およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
窓ガラスやショーウィンドウ等に遮熱性や断熱性を付与する目的で、ガラスやフィルム等の透明基材上に赤外線反射層を備える赤外線反射基板が用いられている。赤外線反射層は、赤外線の反射率が高くかつ低放射率であることが好ましく、その材料として、銀等の金属が用いられている。
【0003】
赤外線反射基板が窓ガラス等に応用される場合は、可視光の透過率が高いことが求められる。銀等の金属層は可視光の反射率が高く透明性が低いため、赤外線反射基板の可視光透過率を高めるためには、赤外線反射層の透過率および反射率の波長選択性を高め、可視光の反射率を低減させる必要がある。そのため、銀等の金属層と、酸化インジウム錫(ITO)等の金属酸化物層とを積層し、反射光の多重干渉効果を利用して、透過率および反射率に、所期の波長選択性を持たせることが行われている。
【0004】
特許文献1では、金属酸化物層として、二酸化チタン(TiO)等の高屈折率材料を用いて、可視光透過率を高めることが提案されている。また、特許文献1では、銀等の金属層上に、酸化チタン層を成膜する際に、酸化チタン粉末と金属チタン粉末との混合物から得られる還元性の酸化物ターゲット(酸化物の化学量論組成に対して酸素が欠乏しているターゲット)を用い、直流スパッタ法により成膜を行う方法が開示されている。この方法によれば、金属酸化物を高速成膜可能であることに加えて、金属層の酸化が抑制されるため、可視光透過率が高く、かつ低放射率(高断熱性)の赤外線反射基板が得られることが開示されている。
【0005】
特許文献2には、銀層の両面に酸化亜鉛錫(ZTO)を備える透明導電膜を、プラズマディスプレイの電磁波遮蔽フィルターや液晶ディスプレイの透明電極等に用いることが開示されている。ZTOは、耐湿性や耐薬品性に優れるため、透明導電膜の耐久性が高められる。ZTO層の成膜方法としては、ZnとSnの酸化物焼結体ターゲットを用いたスパッタ法、および金属ターゲットを用いた反応性スパッタ法が開示されており、金属膜へのダメージを低減する観点から、酸化物焼結ターゲットを用いる方法が好適であるとされている。
【0006】
また、特許文献2では、透明導電膜の機械的、化学的耐久性を向上させる目的で、ZTO膜上に、他の金属酸化物層を設け、導電性や耐薬品性を高めることが開示されている。また、ZTO膜上の金属酸化物層として、二酸化チタン等の高屈折材料を用いることにより、可視光の反射防止効果が高められ、透明性が向上することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平11−124689号公報
【特許文献2】特開2007−250430号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記特許文献1,2に開示されているように、銀等の金属層と、酸化チタン等の高屈折率金属酸化物層との積層構成により、可視光の反射率を低減させ、透明性を高めることができる。しかし、二酸化チタン等の高屈折率金属酸化物は、銀等の金属層との密着性が低い。そのため、特許文献1に開示されている赤外線反射基板は、耐久性が低く、金属層の劣化により透明性や赤外線反射特性(断熱性および遮熱性)が低下するとの問題がある。また、特許文献2のように、金属層と高屈折率金属酸化物層との間に完全酸化物のZTO層を設けた場合も、金属層とZTO層との密着性が十分ではなく、耐久性の大幅な向上は期待できなかった。
【0009】
また、特許文献2にも開示されているように、金属亜鉛と金属錫からなる金属ターゲットを用いた反応性スパッタ法によりZTO層を形成すると、ZTOの成膜下地となる金属層(Ag等)が、成膜雰囲気中の過剰な酸素によって酸化され、赤外線反射基板の遮熱性・断熱性・透明性(可視光透過率)等の特性が低下するとの問題を生じる。一方、酸化亜鉛と酸化錫の酸化物焼結体ターゲットは導電性が低く、特に、錫の含有量が大きいSnリッチのZTOは、高成膜レートが実現可能な直流スパッタ法による成膜を安定して行うことが困難である。
【0010】
上記のように、透明基材上に金属層と金属酸化物層との積層体を備える赤外線反射基板では、高屈折率金属酸化物層を用いることで、可視光の反射を低減して透明性を向上できるが、十分な耐久性を付与することが困難であった。また、従来技術では、金属層と高屈折率金属酸化物層との間にZTOを設けた場合でも、金属層との密着性や生産性を向上するための有効な手段が見出されていない。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記現状に鑑みて、本発明者らが検討の結果、高屈折率金属酸化物層と金属層との間に、金属酸化物と金属粉末と焼結したターゲットを用いてZTOをスパッタ成膜することにより、高い成膜レートが実現されるとともに、各層間の密着性が高められ、可視光透過率および耐久性に優れる赤外線反射基板が得られることを見出し、本発明に至った。
【0012】
本発明の赤外線反射基板は、透明基材上に、第一金属酸化物層、第二金属酸化物層および金属層をこの順に備え、第二金属酸化物層と金属層とが直接接している。本発明の一実施形態では、透明基材は、可撓性の透明フィルムである。
【0013】
第一金属酸化物層は、屈折率が2.2以上である。第一金属酸化物層は、Ti,Nb,Ta,Mo,WおよびZrからなる群から選択される1以上の金属の酸化物からなることが好ましい。第二金属酸化物層は、酸化錫および酸化亜鉛を含有し、酸素量が化学量論組成に対して不足している金属酸化物からなる。
【0014】
本発明の好ましい形態では、赤外線反射基板は、金属層の基材側と反対側の面に、さらに表面側金属酸化物層を備える。表面側金属酸化物層は、金属層と直接接していることが好ましい。表面側金属酸化物層の材料としては、酸化錫および酸化亜鉛を含有する金属酸化物が好ましく用いられる。
【0015】
本発明のさらに好ましい形態では、赤外線反射基板は、表面側金属酸化物層上に、透明樹脂層を備える。透明樹脂層は、表面側金属酸化物層と直接接していることが好ましい。透明樹脂層の膜厚は、20nm〜150nmであることが好ましい。
【0016】
また、本発明は、透明基材上に、第一金属酸化物層、第二金属酸化物層および金属層をこの順に備える赤外線反射基板を製造する方法に関する。本発明の製造方法は、透明基材上に、第一金属酸化物層が成膜される工程(第一金属酸化物層形成工程)、第一金属酸化物層上に、第二金属酸化物層が直流スパッタ法により成膜される工程(第二金属酸化物層形成工程)、および第二金属酸化物層の直上に、金属層が成膜される工程(金属層形成工程)、をこの順に有する。
【0017】
本発明の製造方法では、第二金属酸化物層形成工程のスパッタターゲットとして、亜鉛原子および錫原子を含有し、酸化亜鉛と酸化錫のうち少なくとも一方の金属酸化物と金属粉末とが焼結されたターゲットが用いられる。第二金属酸化物層の成膜時には、スパッタ成膜室内に、不活性ガスおよび酸素が導入される。スパッタ成膜室に導入されるガス中の酸素濃度は8体積%以下が好ましい。
【0018】
本発明の製造方法では、金属層形成工程の後に、金属層上に表面側金属酸化物層が形成される工程(表面側金属酸化物層形成工程)が行われてもよい。表面側金属酸化物層形成工程において、表面側金属酸化物層は、直流スパッタにより成膜されることが好ましい。第二金属酸化物層のスパッタ成膜に際しては、亜鉛原子および錫原子を含有し、酸化亜鉛と酸化錫のうち少なくとも一方の金属酸化物と金属粉末とが焼結されたスパッタターゲットが好ましく用いられる。
【0019】
本発明の製造方法は、表面側金属層酸化物形成の後に、表面側金属酸化物層上に、さらに透明樹脂層が形成される工程(透明樹脂層形成工程)を有していてもよい。
【発明の効果】
【0020】
本発明の赤外線反射基板は、透明基材と金属層との間に、高屈折率の第一金属酸化物層と、所定の組成の第二金属酸化物層とを備えるため、可視光反射率が小さく透明性に優れると共に、金属酸化物層と金属層との密着性が高く、耐久性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】一実施形態の赤外線反射基板の積層構成を模式的に示す断面図である。
図2】赤外線反射基板の使用例を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
図1は、赤外線反射基板の構成例を模式的に示す断面図である。赤外線反射基板100は、透明基材10の一主面上に、基材側金属酸化物層20および金属層30を、この順に備える。基材側金属酸化物層20は、透明基材10側から、第一金属酸化物層21と、第二金属酸化物層22とを備える。第二金属酸化物層22と金属層30とは直接接している。
【0023】
[透明基材]
透明基材10としては、可視光透過率が80%以上のものが好適に用いられる。なお、可視光透過率は、JIS A5759−2008(建築窓ガラスフィルム)に準じて測定される。
【0024】
透明基材10の厚みは、特に限定されずないが、例えば10μm〜10mm程度である。透明基材としては、ガラス板や可撓性の透明樹脂フィルム等が用いられる。特に、赤外線反射基板の生産性を高め、かつ窓ガラス等へ赤外線反射基板を貼り合わせる際の施工を容易とする観点から、透明基材10としては、可撓性の透明樹脂フィルムが好適に用いられる。透明基材として透明樹脂フィルムが用いられる場合、その厚みは10μm〜300μm程度の範囲が好適である。また、透明基材10上に、金属層や金属酸化物層等が形成される際に、高温での加工が行われる場合があるため、透明樹脂フィルム基材を構成する樹脂材料は、耐熱性に優れるものが好ましい。透明樹脂フィルム基材を構成する樹脂材料としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリカーボネート(PC)等が挙げられる。
【0025】
透明基材10が透明樹脂フィルム基材である場合、赤外線反射基板の機械的強度を高める等の目的で、フィルムの表面に硬化樹脂層を備えるものが好適に用いられる。また、透明フィルム基材10が、金属酸化物層20形成面側に硬化樹脂層を備える場合、金属層や金属酸化物層、およびその上に形成される透明樹脂層等の耐擦傷性が高められる傾向がある。硬化樹脂層は、例えばアクリル系、シリコーン系等の適宜な紫外線硬化型樹脂の硬化被膜を、透明フィルム基材に付設する方式等により形成することができる。ハードコート層としては、硬度の高いものが好適に用いられる。
【0026】
透明基材10の表面には、その上に形成される第一金属酸化物層21との密着性を高める等の目的で、コロナ処理、プラズマ処理、フレーム処理、オゾン処理、プライマー処理、グロー処理、ケン化処理、カップリング剤による処理等の表面改質処理が行われてもよい。
【0027】
[基材側金属酸化物層]
透明基材10上には、基材側金属酸化物層20が形成される。基材側金属酸化物層20は、透明基材10側から、第一金属酸化物層21と、第二金属酸化物層22とを備える。
【0028】
<第一金属酸化物層>
第一金属酸化物層21は、屈折率が2.2以上である。高屈折率の第一金属酸化物層21を備えることにより、赤外線反射基板の可視光反射率が低減され、透明性が高められる。なお、本明細書における屈折率は、波長550nmにおける測定値であり、分光エリプソネータによって測定される。
【0029】
第一金属酸化物層の材料としては、Ti,Nb,Ta,Mo,WおよびZrからなる群から選択される1以上の金属の酸化物が好ましく用いられる。より具体的には、二酸化チタン(TiO)、五酸化ニオブ(Nb)、五酸化タンタル(Ta)、三酸化タングステン(WO)、三酸化モリブデン(MoO)、二酸化ジルコニウム(ZrO)や、これらの複合酸化物が挙げられる。
【0030】
第一金属酸化物層21の成膜方法は、特に限定されないが、スパッタ法、真空蒸着法、CVD法、電子線蒸着法等のドライプロセスによる成膜が好ましく、中でも直流スパッタ法が好ましい。スパッタ法は、酸化物ターゲットを用いたスパッタ法、および金属ターゲットを用いた反応性スパッタ法のいずれでもよい。また、酸素量が化学量論組成に満たない金属酸化物ターゲット(還元性酸化物ターゲット)を用い、Ar等の不活性ガスと酸素を導入しながら、スパッタ成膜が行われてもよい。還元性酸化物ターゲットは、化学量論の酸素を含む完全酸化物ターゲットに比して導電性が高く、直流スパッタによる成膜レートが高められるため、赤外線反射基板の生産性を向上できる。
【0031】
還元性酸化物ターゲットは、例えば、金属酸化物と金属粉末とを、高圧圧縮法、焼結あるいは溶射することにより作製でき、中でも焼結法が好ましく用いられる。例えば、酸化チタン成膜用の還元性酸化物ターゲットは、チタニア粉末と金属チタン粉末の混合物を焼結することにより得られる。また、酸化ニオブ形成用の還元性酸化物ターゲットは、五酸化ニオブ粉末と金属Nb粉末との混合物を焼結することにより得られる。
【0032】
第一金属酸化物層21の膜厚は、赤外線反射基板の可視光反射率を低減させ、透明性が高められるように、金属層や他の金属酸化物層の材料や膜厚等を勘案して適宜に設定される。第一金属酸化物層の膜厚は、例えば、3nm〜50nm程度、好ましくは、5nm〜30nm程度、より好ましくは、7nm〜25nm程度の範囲で調整され得る。
【0033】
<第二金属酸化物層>
第一金属酸化物層21上には、第二金属酸化物層22が形成される。第二金属酸化物層22は、酸化亜鉛および酸化錫を含む複合金属酸化物である。第二金属酸化物層は、第一金属酸化物層とともに、可視光の反射量を低減させ、高い可視光透過率と、赤外線反射率とを両立させる等の目的で設けられる。また、第一金属酸化物層と金属層との間に第二金属酸化物層を備えることにより、赤外線反射基板の耐久性が高められる。
【0034】
第二金属酸化物層22は、第一金属酸化物層21上に直接形成されてもよく、他の層を介して形成されてもよい。赤外線反射基板の積層構成を簡素化し、生産性を高める観点からは、第二金属酸化物層22は、第一金属酸化物層21の直上に形成されることが好ましい。
【0035】
酸化亜鉛錫(ZTO)は、化学的安定性(酸、アルカリ、塩化物イオン等に対する耐久性)に優れている。第二金属酸化物層22は、酸素量が化学量論組成に対して不足している(酸素欠損を有する)ものが好ましい。酸素欠損を有するZTOは、化学量論組成の酸素を有する(完全酸化された)ZTOに比べて、銀等の金属層との密着性に優れる傾向がある。そのため、金属層30に隣接して第二金属酸化物層22が設けられることにより、金属層の劣化が抑制され、赤外線反射基板の耐久性が高められる。一方、金属酸化物中の酸素欠損が過度に多くなると、金属酸化物による可視光の吸収が増大し、透明性が低下する傾向がある。
【0036】
第二金属酸化物層22は、直流スパッタ法により成膜されることが好ましい。直流スパッタ法は、成膜レートが高いため、赤外線反射基板の生産性を向上可能である。直流スパッタ法により第二金属酸化物層を成膜する際のスパッタターゲットとして、亜鉛原子および錫原子を含有し、酸化亜鉛と酸化錫のうち少なくとも一方の金属酸化物と、金属粉末とが焼結されたターゲットが用いられる。具体的には、ターゲット形成材料が酸化亜鉛を含有し、酸化錫を含有しない場合、ターゲット形成材料には金属錫粉末が含まれる。ターゲット形成材料が酸化錫を含有し、酸化亜鉛を含有しない場合、ターゲット形成材料には金属亜鉛粉末が含まれる。ターゲット形成材料が酸化亜鉛と酸化錫の両方を含有する場合、ターゲット形成材料中の金属粉末は、金属亜鉛、金属錫以外の金属であってもよいが、金属亜鉛と金属錫のうちの少なくともいずれか一方が含まれることが好ましく、金属亜鉛が含まれることが特に好ましい。
【0037】
酸化亜鉛や酸化錫(特に酸化錫)は導電性が小さいため、金属酸化物のみを焼結させたZTOの完全酸化物ターゲットは、導電性が小さく、直流スパッタでは放電が生じなかったり、成膜を長時間安定して行うことが困難となる傾向がある。これに対して、本発明では、金属酸化物と金属粉末とが焼結された還元性酸化物ターゲットが用いられることにより、ターゲットの導電性を向上し、直流スパッタ成膜時の放電を安定させることができる。
【0038】
スパッタターゲットの形成に用いられる金属の量が過度に小さいと、ターゲットに十分な導電性が付与されず、直流スパッタによる成膜が不安定となる場合がある。一方、ターゲット中の金属の含有量が過度に大きいと、スパッタ成膜時に酸化されない残存金属や、酸素量が化学量論組成に満たない金属酸化物の量が増大し、金属酸化物の酸素量が、化学量論組成に対して過度に不足するために、可視光透過率の低下を招く傾向がある。そのため、スパッタターゲットの形成に用いられる金属の量は、ターゲット形成材料中、0.1重量%〜20重量%が好ましく、0.2重量%〜15重量%がより好ましく、0.5重量%〜13重量%がさらに好ましく、1重量%〜12重量%が特に好ましい。なお、ターゲット形成材料として用いられる金属粉末は、焼結により酸化されるため、焼結ターゲット中ではその一部が金属酸化物として存在していてもよい。
【0039】
第二金属酸化物層22の成膜に用いられるスパッタターゲット中に含まれる亜鉛原子と錫原子の割合は、原子比でZn:Sn=10:90〜60:40の範囲が好ましい。Zn:Snの比は、15:85〜50:50がより好ましく、20:80〜40:60がさらに好ましい。Znの含有量を、SnとZnの合計100原子%に対して10%原子以上とすることで、ターゲットの導電性が高められ、直流スパッタによる成膜が可能となるため、赤外線反射基板の生産性をさらに高めることができる。成膜性向上の観点から、ターゲットの体積抵抗率は、1000mΩ・cm以下が好ましく、500mΩ・cm以下がより好ましく、300mΩ・cm以下がさらに好ましく、150mΩ・cm以下が特に好ましく、100mΩ・cm以下が最も好ましい。
【0040】
一方、Znの含有量が過度に大きく、相対的にSnの含有量が小さいと、第二金属酸化物層自体の耐久性の低下や、金属層との密着性の低下により、赤外線反射基板の耐久性が低下する傾向がある。そのため、ターゲット中の、Zn原子の含有量は、SnとZnの合計100原子%に対して、60原子%以下が好ましく、50原子%以下がより好ましく、40原子%以下がさらに好ましい。なお、スパッタターゲット中に含まれる亜鉛原子は、酸化亜鉛中の亜鉛原子と、金属亜鉛粉末に由来するものである。また、スパッタターゲット中に含まれる錫原子は、酸化錫中の錫原子と、金属錫粉末に由来するものである。
【0041】
第二金属酸化物層22として、Snの含有量が大きいSnリッチなZTOが成膜されることにより、金属層30と金属酸化物層22との密着性が高められ、金属層の劣化抑制により、赤外線反射基板の耐久性が向上する傾向がある。そのため、スパッタターゲット中のSnの含有量は、SnとZnの合計100原子%に対して40原子%以上が好ましく、50原子%以上がより好ましく、60原子%以上がさらに好ましい。一般に、SnリッチのZTOは、導電性が小さくなる傾向があるが、上述のように、金属酸化物と金属粉末とが焼結されたターゲットが用いられることにより、ターゲットの導電性が向上するため、SnリッチなZTOを、直流スパッタにより高レートで成膜することができる。
【0042】
第二金属酸化物層22の成膜に用いられるスパッタターゲットは、亜鉛、錫、およびこれらの酸化物以外に、Ti,Zr,Hf,Nb,Al,Ga,In,Tl等の金属、あるいいはこれらの金属酸化物を含有してもよい。ただし、亜鉛と錫以外の金属原子の含有量が増加すると、金属層との密着性が低下する場合がある。そのため、金属酸化物の成膜に用いられるスパッタターゲット中の金属の合計100原子%のうち、亜鉛原子と錫原子の合計は、97原子%以上が好ましく、99原子%以上がより好ましい。
【0043】
第二金属酸化物層のスパッタ成膜にあたり、まず、スパッタ成膜室内を真空排気して、スパッタ装置内の水分や基材から発生する有機ガス等の不純物を取り除いた雰囲気とすることが好ましい。真空排気後に、スパッタ成膜室内に、Ar等の不活性ガスと酸素とを導入しながら、スパッタ成膜が行われる。第二金属酸化物層形成工程における成膜室内への酸素の導入量は、全導入ガス流量に対し8体積%以下であることが好ましく、5体積%以下であることがより好ましく、4体積%以下であることがさらに好ましい。スパッタ成膜時の酸素導入量が大きいと、ZTOが完全に酸化され、第二金属酸化物層22と金属層30との密着性が低下する傾向がある。
【0044】
一方、スパッタ成膜時の酸素の導入量が過度に少ないと、金属酸化物の酸素欠損量が増大し、透明性が低下する傾向がある。そのため、スパッタ成膜時の成膜室内への酸素の導入量は、全導入ガス流量に対し0.1体積%以上が好ましく、0.5体積%以上がより好ましく、1体積%以上がさらに好ましい。
【0045】
なお、酸素導入量は、金属酸化物層の成膜に用いられるターゲットが配置された成膜室への全ガス導入量に対する酸素の量(体積%)である。遮蔽板により区切られた複数の成膜室を備えるスパッタ成膜装置が用いられる場合は、それぞれの区切られた成膜室へのガス導入量を基準に酸素導入量が算出される。
【0046】
第二金属酸化物層22のスパッタ成膜時の基板温度は、透明基材の耐熱温度より低温であることが好ましい。透明基材10が樹脂フィルム基材である場合、基板温度は、例えば、20℃〜160℃が好ましく、30℃〜140℃がより好ましい。第二金属酸化物層のスパッタ成膜時の電力密度は、例えば、0.1W/cm〜10W/cmが好ましく、0.5W/cm〜7.5W/cmがより好ましく、1W/cm〜6W/cmがさらに好ましい。また、成膜時のプロセス圧力は、例えば、0.01Pa〜10Paが好ましく、0.05Pa〜5Paがより好ましく、0.1Pa〜1Paがさらに好ましい。プロセス圧力が高すぎると成膜速度が低下する傾向があり、逆に圧力が低すぎると放電が不安定となる傾向がある。
【0047】
スパッタ成膜により得られる第二金属酸化物層の組成(金属原子の含有比)は、ターゲットの組成を反映したものとなる。そのため、第二金属酸化物層の亜鉛原子と錫原子の割合は、原子比でZn:Sn=10:90〜60:40の範囲が好ましい。Zn:Snの比は、15:85〜50:50がより好ましく、20:80〜40:60がさらに好ましい。
【0048】
第二金属酸化物層22として、Snの含有量が大きいSnリッチなZTOが成膜されることにより、金属層30と金属酸化物層22との密着性が高められる。そのため、金属層の劣化が抑制され、赤外線反射基板の耐久性が向上する傾向がある。かかる観点から、スパッタターゲット中のSnの含有量は、SnとZnの合計100原子%に対して40原子%以上が好ましく、50原子%以上がより好ましく、60原子%以上がさらに好ましい。一般に、SnリッチのZTOは、導電性が小さくなる傾向があるが、本発明においては、前述のごとく、金属酸化物と金属粉末とが焼結された還元性酸化物ターゲットが用いられることにより、ターゲットの導電性が向上するため、SnリッチなZTOを直流スパッタにより成膜することができる。
【0049】
スパッタ成膜により得られる第二金属酸化物層の組成(金属原子の含有比)は、ターゲットの組成を反映したものとなる。そのため、第二金属酸化物層の亜鉛原子と錫原子の割合は、原子比でZn:Sn=10:90〜60:40の範囲が好ましい。Zn:Snの比は、15:85〜50:50がより好ましく、20:80〜40:60がさらに好ましい。
【0050】
第二金属酸化物層22の膜厚は、赤外線反射基板の可視光反射率を低減させ、透明性が高められるように、金属層や他の金属酸化物層の材料や膜厚等を勘案して適宜に設定される。第二金属酸化物層の膜厚は、例えば、3nm〜50nm程度、好ましくは、5nm〜30nm程度、より好ましくは、7nm〜25nm程度の範囲で調整され得る。
【0051】
[金属層]
基材側金属酸化物層20の第二金属酸化物層22上には、金属層30が形成される。金属層30は、赤外線反射の中心的な役割を有する。赤外線反射基板の可視光透過率を高める観点から、金属層30としては、銀を主成分とする、銀層または銀合金層が好適に用いられる。また、銀は高い自由電子密度を有し、近赤外線・遠赤外線の高い反射率を実現できるため、遮熱効果および断熱効果に優れる赤外線反射基板が得られる。
【0052】
金属層30中の銀の含有量は、85重量%以上が好ましく、90重量%以上がより好ましく、95重量%以上がさらに好ましい。金属層中の銀の含有量を高めることで、透過率および反射率の波長選択性を高め、赤外線反射基板の可視光透過率を高めることができる。
【0053】
金属層30は、銀以外の金属を含有する銀合金層であってもよい。例えば、金属層の耐久性を高めるために、銀合金が用いられる場合がある。金属層の耐久性を高める目的で添加される金属としては、パラジウム(Pd),金(Au),銅(Cu),ビスマス(Bi),ゲルマニウム(Ge),ガリウム(Ga)等が好ましい。中でも、銀に高い耐久性を付与する観点から、Pdが最も好適に用いられる。Pd等の添加量を増加させると、金属層の耐久性が向上する傾向がある。金属層30が、Pd等の銀以外の金属を含有する場合、その含有量は、0.3重量%以上が好ましく、0.5重量%以上がより好ましく、1重量%以上がさらに好ましく、2重量%以上が特に好ましい。一方で、Pd等の添加量が増加し、銀の含有量が低下すると、赤外線反射基板の可視光透過率が低下する傾向がある。そのため、金属層30中の銀以外の金属の含有量は、15重量%以下が好ましく、10重量%以下がより好ましく、5重量%以下がさらに好ましい。
【0054】
金属層30の成膜方法は、特に限定されないが、スパッタ法、真空蒸着法、CVD法、電子線蒸着法等のドライプロセスが好ましい。特に、本発明においては、赤外線反射基板の生産性向上の観点から、直流スパッタ法により金属層が成膜されることが好ましい。
【0055】
金属層30の厚みは、赤外線反射基板の可視光反射率を低減させ、透明性が高められるように、金属層の屈折率や、金属酸化物層の屈折率および厚み等を勘案して適宜に設定される。金属層30の厚みは、例えば、3nm〜50nmの範囲で調整され得る。
【0056】
[金属層上の積層構成]
図1に示すように、本発明の赤外線反射基板は、金属層30上に、さらに他の層を備えていてもよい。可視光透過率を高める観点から、赤外線反射基板は、金属層30上に、表面側金属酸化物層40を備えることが好ましい。また、赤外線反射基板の耐久性等を向上する観点から、表面側金属酸化物層40上に、透明樹脂層50が設けられることが好ましい。
【0057】
<表面側金属酸化物層>
金属層30上に、表面側金属酸化物層40を備えることで、金属層30との界面における可視光の反射率を低減させ、高い可視光透過率と赤外線反射率とを両立させることができる。また、表面側金属酸化物層40は、金属層30の劣化を防止するための保護層としても機能し得る。
【0058】
表面側金属酸化物層は、単層でもよく、2層以上が積層されたものであってもよい。屈折率の異なる複数の金属酸化物層が積層されている場合、赤外線反射基板の可視光反射率を低減させることができる。一方、赤外線反射基板の積層構成を簡素化し、生産性を高める観点から、表面側金属酸化物層40は、単層であることが好ましい。また、後述するように、表面側金属酸化物層40が単層の場合でも、その上に透明樹脂層50を設けることで、赤外線反射基板の可視光反射率を低減させ、透明性を向上できる。
【0059】
赤外線反射基板の反射および透過の波長選択性を高める観点から、表面側金属酸化物層40の屈折率は、1.5以上が好ましく、1.6以上がより好ましく、1.7以上がさらに好ましい。上記の屈折率を有する材料としては、Ti,Zr,Hf,Nb,Zn,Al,Ga,In,Tl,Ga,Sn等の金属の酸化物、あるいはこれらの金属の複合酸化物が挙げられる。特に、本発明においては、表面側金属酸化物層40の材料として、基材側の第二金属酸化物層22と同様に、酸化亜鉛と酸化錫とを含む複合金属酸化物が用いられることが好ましい。
【0060】
前述のように、酸化亜鉛および酸化錫を含む金属酸化物は、化学的安定性(酸、アルカリ、塩化物イオン等に対する耐久性)に優れているため、表面側金属酸化物層40自体の耐久性が高められると共に、金属層30の劣化を抑制し、赤外線反射基板の耐久性を高めることができる。特に、表面側金属酸化物層40が酸素欠損を有している場合は、表面側金属酸化物層40と金属層30との密着性の向上により、赤外線反射基板の耐久性をさらに向上できる。また、表面側金属酸化物層40が酸素欠損を有するZTOであれば、金属酸化物層40と、その上に形成される透明樹脂層50との密着性向上による耐久性向上も期待できる。
【0061】
表面側金属酸化物層の成膜方法は特に限定されないが、生産性の観点から、直流スパッタ法が好ましい。表面側金属酸化物層として、酸化亜鉛および酸化錫を含む金属酸化物層が形成される場合、亜鉛原子と錫原子の割合は、基材側の第二金属層と同様に、原子比でZn:Sn=10:90〜60:40の範囲が好ましい。Zn:Snの比は、15:85〜50:50がより好ましく、20:80〜40:60がさらに好ましい。
【0062】
表面側金属酸化物層のスパッタ成膜に際しては、亜鉛原子および錫原子を含有し、酸化亜鉛と酸化錫のうち少なくとも一方の金属酸化物と金属粉末とが焼結された還元性の酸化物ターゲットを用いることが好ましい。また、スパッタ成膜室に導入されるガス中の酸素濃度は、全導入ガス流量の8体積%以下が好ましく、5体積%以下がより好ましく、4体積%以下がさらに好ましい。還元性酸化物ターゲットを用い、低酸素濃度で表面側金属酸化物層の成膜が行われた場合、表面側金属酸化物層40は、金属層30および透明樹脂層50のそれぞれとの密着性に優れるため、高い耐久性を有する赤外線反射基板が得られる。また、表面側金属酸化物層40成膜時の酸素導入量を少なくすることにより、金属層30の酸化が抑制され、赤外線反射基板の断熱性や遮熱性が高められる傾向がある。
【0063】
表面側金属酸化物層40の厚みは、例えば、3nm〜100nm程度、好ましくは、5nm〜80nm程度の範囲で調整され得る。
【0064】
<透明樹脂層>
表面側金属酸化物層40上には、透明樹脂層50が形成されることが好ましい。金属層30の表面に、無機物からなる金属酸化物層40と有機物からなる透明樹脂層50とが設けられることで、金属層30に対する保護効果が高められ、赤外線反射基板の耐久性がさらに向上する傾向がある。
【0065】
樹脂層(有機物)は、一般にC=C結合、C=O結合、C−O結合、芳香族環等を含んでおり、波長5μm〜25μmの遠赤外線領域の赤外振動吸吸が大きい。樹脂層で吸収された遠赤外線は、金属層で反射されることなく、熱伝導により室外へ熱として拡散される。一方、透明樹脂層50による遠赤外線吸収が少ない場合、室内の遠赤外線は、透明樹脂層50および表面側金属酸化物層40を透過して金属層30に到達し、金属層30で反射され、室内に反射される(図2参照)。そのため、透明樹脂層50による遠赤外線の吸収率が小さいほど、赤外線反射基板による断熱効果が高められる。
【0066】
透明樹脂層による遠赤外線吸収量を小さくして、赤外線反射基板による断熱効果を高める観点から、透明樹脂層50の厚みは、150nm以下が好ましく、120nm以下がより好ましく、100nm以下がさらに好ましい。一方、透明樹脂層に機械的強度および化学的強度を付与して、赤外線反射基板の耐久性を高める観点から、透明樹脂層50の厚みは、20nm以上が好ましく、30nm以上がより好ましく、40nm以上がさらに好ましい。
【0067】
透明樹脂層50の膜厚を上記範囲とすることにより、断熱効果が高められることに加えて、赤外線反射基板の可視光反射率が低減され、透明性が高められる。すなわち、透明樹脂層50の膜厚が上記範囲であれば、透明樹脂層50の表面側での反射光と金属酸化物層40側界面での反射光との多重反射干渉により、可視光の反射率が低減され、透明樹脂層が反射防止層として機能し得る。そのため、表面側金属酸化物層40がZTO等の単層の金属酸化物層からなる場合でも、透明性に優れる赤外線反射基板が得られる。
【0068】
可視光の反射率を低下させるために、透明樹脂層50の光学膜厚(屈折率と物理的な膜厚の積)は、50nm〜150nmが好ましく、70nm〜130nmがより好ましく、80nm〜120nmがさらに好ましい。透明樹脂層の光学膜厚が上記範囲であれば、透明樹脂層による反射防止効果が高められることに加えて、光学膜厚が可視光の波長範囲よりも小さいため、界面での多重反射干渉により、赤外線反射基板の表面が虹模様に見える「虹彩現象」が抑制されるため、赤外線反射基板の視認性が高められる。
【0069】
透明樹脂層50の材料としては、可視光透過率が高く、機械的強度および化学的強度に優れるものが好ましい。例えば、フッ素系、アクリル系、ウレタン系、エステル系、エポキシ系、シリコーン系等の活性光線硬化型あるいは熱硬化型の有機樹脂や、有機成分と無機成分が化学結合した有機・無機ハイブリッド材料が好ましく用いられる。
【0070】
透明樹脂層50の材料には、架橋構造が導入されることが好ましい。架橋構造が形成されることにより、透明樹脂層の機械的強度および化学的強度が高められ、金属層や金属酸化物層に対する保護機能が増大する。透明樹脂層の形成時に、各種の架橋剤を用いることにより、架橋構造が導入される。特に、架橋剤として、酸性基と重合性官能基とを同一分子中に有するエステル化合物を用いた場合に、透明樹脂層の機械的強度や化学的強度がさらに高められる傾向がある。酸性基と重合性官能基とを同一分子中に有するエステル化合物としては、リン酸、硫酸、シュウ酸、コハク酸、フタル酸、フマル酸、マレイン酸等の多塩基酸と;エチレン性不飽和基、シラノール基、エポキシ基等の重合性官能基と水酸基とを分子中に有する化合物とのエステルが挙げられる。なお、当該重合性エステル化合物は、ジエステルやトリエステル等の多価エステルでもよいが、多塩基酸の酸性基中の少なくとも1つはエステル化されていないことが好ましい。
【0071】
透明樹脂層50の機械的強度および化学的強度を高める観点から、上記重合性エステル化合物は、重合性官能基として(メタ)アクリロイル基を含有することが好ましい。また、架橋構造の導入を容易とする観点から、上記重合性エステル化合物は、分子中に複数の重合性官能基を有していてもよい。
【0072】
上記重合性エステル化合物の中でも、リン酸と重合性官能基を有する有機酸とのエステル化合物が、透明樹脂層と金属酸化物層との密着性を高める上で好ましい。透明樹脂層と金属酸化物層との密着性の向上は、重合性エステル化合物中の酸性基が金属酸化物と高い親和性を示すことに由来し、中でもリン酸エステル化合物中のリン酸ヒドロキシ基が金属酸化物層との親和性に優れるため、密着性が向上すると推定される。
【0073】
リン酸と重合性官能基を有する有機酸とのエステル化合物としては、例えば、下記式(1)で表される、リン酸モノエステル化合物またはリン酸ジエステル化合物が好適に用いられる。なお、リン酸モノエステルとリン酸ジエステルとを併用することもできる。
【0074】
【化1】
式中、Xは水素原子またはメチル基を表し、(Y)は−OCO(CH−基を表す。nは0または1であり、pは1または2であり、mは1〜6の整数である。
【0075】
上記式(1)で表されるリン酸エステル化合物の市販品としては、日本化薬製のKAYAMERシリーズ(例えば、「KAYAMER PM−1」,「KAYAMER PM−21」,「KAYAMER PM−2」)等が挙げられる。
【0076】
また、上記重合性エステル化合物として、多官能(メタ)アクリル化合物と、多塩基酸とのエステル化合物も好ましく用いられる。多官能(メタ)アクリル化合物としては、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、およびジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらの多官能(メタ)アクリル化合物と多塩基酸の無水物(無水コハク酸、無水マレイン酸、無水フタル酸等)とのエステル化により多官能(メタ)アクリル化合物と多塩基酸とのエステル化合物が得られる。
【0077】
多官能(メタ)アクリル化合物と多塩基酸とのエステル化合物市販品としては、共栄社化学製の「ライトアクリレート DPE6A−MS」(ジペンタエリスリトールペンタアクリレートコハク酸変成物)、「ライトアクリレート PE3A−MS」(ペンタエリスリトールトリアクリレートコハク酸変成物)、「ライトアクリレート DPE6A−MP」(ジペンタエリスリトールペンタアクリレートフタル酸変成物)、「ライトアクリレート PE3A−MP」(ペンタエリスリトールトリアクリレートフタル酸変成物)等が挙げられる。
【0078】
透明樹脂層が、上記エステル化合物に由来する架橋構造を有する場合、透明樹脂層中の架橋構造の含有量は、1重量%〜40重量%が好ましく、1.5重量%〜30重量%がより好ましく、2重量%〜20重量%がさらに好ましく、2.5重量%〜17.5重量%が特に好ましい。エステル化合物由来の架橋構造の含有量が過度に小さいと、強度や密着性の向上効果が十分に得られない場合がある。一方、エステル化合物由来の架橋構造の含有量が過度に大きいと、透明樹脂層形成時の硬化速度が小さくなって硬度が低下したり、透明樹脂層表面の滑り性が低下して耐擦傷性が低下する場合がある。透明樹脂層中のエステル化合物に由来する構造の含有量は、透明樹脂層形成時に、組成物中の上記エステル化合物の含有量を調整することによって、所望の範囲とすることができる。
【0079】
透明樹脂層50の形成方法は特に限定されない。透明樹脂層は、例えば、有機樹脂、あるいは有機樹脂の硬化性モノマーやオリゴマーと、必要に応じて上記エステル化合物等の架橋剤とを溶剤に溶解させて溶液を調整し、この溶液を金属酸化物層40上に塗布し、溶媒を乾燥させた後、紫外線や電子線等の照射や熱エネルギ―の付与によって、硬化させる方法により形成される。
【0080】
なお、透明樹脂層50の材料としては、上記の有機材料や架橋剤以外に、シランカップリング剤、チタンカップリング剤等のカップリング剤、レベリング剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、熱安定剤、滑剤、可塑剤、着色防止剤、難燃剤、帯電防止剤等の添加剤が含まれていてもよい。これらの添加剤の含有量は、本発明の目的を損なわない範囲で適宜に調整され得る。
【0081】
上記のように、金属層30上に、表面側金属酸化物層40と透明樹脂層50とが形成されることにより、各層間の密着性が高められる。また、透明樹脂層50の膜厚を調整することにより可視光の反射防止効果を付与できるため、金属層30上の表面側金属酸化物層40が単層の場合でも、可視光透過率が高く、耐久性に優れる赤外線反射基板が得られる。
【0082】
[接着剤層]
透明基材10の金属酸化物層20形成面と反対側の面には、赤外線反射基板と窓ガラス等との貼り合せに用いるための接着剤層等が付設されていてもよい(図2参照)。接着剤層60としては、可視光透過率が高く、透明基材10との屈折率差が小さいものが好適に用いられる、例えば、アクリル系の粘着剤(感圧接着剤)は、光学的透明性に優れ、適度な濡れ性と凝集性と接着性を示し、耐候性や耐熱性等に優れることから、透明基材に付設される接着剤層の材料として好適である。
【0083】
接着剤層は、可視光の透過率が高く、かつ紫外線透過率が小さいものが好ましい。接着剤層の紫外線透過率を小さくすることによって、太陽光等の紫外線に起因する金属層等の劣化を抑制することができる。接着剤層の紫外線透過率を小さくする観点から、接着剤層は紫外線吸収剤を含有することが好ましい。なお、紫外線吸収剤を含有する透明フィルム基材等を用いることによっても、屋外からの紫外線に起因する金属層等の劣化を抑制できる。接着剤層の露出面は、赤外線反射基板が実用に供されるまでの間、露出面の汚染防止等を目的にセパレータが仮着されてカバーされることが好ましい。これにより、通例の取扱状態で、接着剤層の露出面の外部との接触による汚染を防止できる。
【0084】
[用途]
本発明の赤外線反射基板は、建物や乗り物等の窓、植物等を入れる透明ケース、冷凍もしくは冷蔵のショーケース等に用いられる。透明基材10がガラス等の剛性基材の場合は、赤外線反射基板を、そのまま窓ガラス等として用いることができる。透明基材10がフィルム基材等の可撓性基材の場合は、赤外線反射基板を窓ガラス等に貼着して使用することが好ましい。
【0085】
図2は、赤外線反射基板の使用形態を模式的に表す断面図である。当該使用形態において、赤外線反射基板100は、透明基材10側が、適宜の接着剤層60等を介して、窓90に貼り合せられ、建物や自動車の窓90の室内側に配置して用いられる。当該使用形態では、室内側に透明樹脂層50が配置される。特に透明基材10が樹脂フィルム基材である場合、樹脂フィルムは遠赤外線の吸収量が大きいため、室内の断熱性を高めるためには、室内側に透明樹脂層50が配置されることが好ましい。
【0086】
図2に模式的に示すように、赤外線反射基板100は、屋外からの可視光(VIS)を透過して室内に導入すると共に、屋外からの近赤外線(NIR)を金属層30で反射する。近赤外線の反射により、太陽光等に起因する室外からの熱の室内への流入が抑制される(遮熱効果が発揮される)ため、夏場の冷房効率を高めることができる。さらに、金属層30は、暖房器具80等から放射される室内の遠赤外線(FIR)を反射するため、断熱効果が発揮され、冬場の暖房効率を高めることができる。
【実施例】
【0087】
以下に、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0088】
[測定方法]
<各層の厚み>
透明フィルム基材上に形成された各層の厚みは、集束イオンビーム加工観察装置(日立製作所製、製品名「FB−2100」)を用いて、集束イオンビーム(FIB)法により試料を加工し、その断面を、電界放出形透過電子顕微鏡(日立製作所製、製品名「HF−2000」)により観察して求めた。
【0089】
<可視光透過率および反射率>
可視光の透過率および反射率は、いずれも分光光度計(日立ハイテク製 製品名「U−4100」)を用いて測定した。透過率は、JIS A5759−2008(建築窓ガラスフィルム)に準じて求めた。反射率は、透明フィルム基材側から入射角5°で光を入射し、波長400nm〜800nmの範囲の5°絶対反射率(可視光反射率)の平均を算出することにより求めた。
【0090】
<垂直放射率>
垂直放射率は、角度可変反射アクセサリを備えるフーリエ変換型赤外分光(FT−IR)装置(Varian製)を用いて、透明樹脂層側から赤外線を照射した場合の、波長5μm〜25μmの赤外光の正反射率を測定し、JIS R3106−2008(板ガラス類の透過率・反射率・放射率・日射熱取得率の試験方法)に準じて求めた。
【0091】
<耐塩水性試験>
赤外線反射基板の透明フィルム基材側の面を、厚み25μmの粘着剤層を介して3cm×3cmのガラス板に貼り合せたものを試料として用いた。この試料を5重量%の塩化ナトリウム水溶液に浸漬し、試料および塩化ナトリウム水溶液が入った容器を50℃の乾燥機に入れ、5日後および10日後に放射率の変化および外観の変化を確認し、以下の評価基準に従って評価した。
◎:10日間浸漬後も外観変化がなく、かつ放射率の変化が0.02以下であるもの
〇:5日間浸漬後は外観変化がなく、かつ放射率の変化が0.02以下であるが、10日間浸漬後は外観変化が確認されるもの
△:5日間浸漬後に、外観の変化が確認されるが、放射率の変化が0.02以下であるもの
×:5日間浸漬後に、外観の変化が確認され、放射率の変化が0.02以上であるもの
【0092】
[実施例1]
(基材へのハードコート層の形成)
厚みが50μmのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(東レ製、商品名「ルミラー U48」、可視光透過率93%)の一方の面に、アクリル系の紫外線硬化型ハードコート層(JSR製 オプスターZ7540)が2μmの厚みで形成された。詳しくは、グラビアコーターにより、ハードコート溶液が塗布され、80℃で乾燥後、窒素雰囲気下で超高圧水銀ランプにより積算光量200J/cmの紫外線が照射され、硬化が行われた。
【0093】
<金属酸化物層および金属層の形成>
PETフィルム基材のハードコート層上に、巻取式スパッタ装置を用いて、DCマグネトロンスパッタ法により、膜厚17.5nmの酸化ニオブ層、膜厚15nmの基材側酸化亜鉛錫(ZTO)層、Ag−Pd合金からなる膜厚16nmの金属層、膜厚22.5nmの表面側酸化亜鉛錫層が順次形成された。
【0094】
酸化ニオブ層の成膜には、スパッタターゲットとして、酸化ニオブと金属ニオブ粉末を焼結させたターゲット(NBOターゲット)が用いられた。酸化ニオブ層成膜時のスパッタ成膜室へのガス導入量は、Ar:O=85:15(体積比)であった。なお、これと同条件でPET基板上に成膜された酸化ニオブ層の屈折率は、2.33であった。
【0095】
基材側および表面側のZTO層の形成には、酸化亜鉛と酸化錫と金属亜鉛粉末とを、8.5:83:8.5の重量比で焼結させたターゲットが用いられ、電力密度:2.67W/cm、プロセス圧力:0.4Pa、基板温度80℃の条件でスパッタが行われた。この際、スパッタ成膜室へのガス導入量は、Ar:Oが98:2(体積比)となるように調整された。
【0096】
Ag−Pd金属層の形成には、銀:パラジウムを96.4:3.6の重量比で含有する金属ターゲットが用いられた。
【0097】
(透明樹脂層の形成)
グラビアコーターにより、表面側ZTO層上に、フッ素系のハードコート溶液(JSR製 オプスターJUA204)を塗布し、60℃で1分間乾燥後、窒素雰囲気下で超高圧水銀ランプにより積算光量400mJ/cmの紫外線を照射することにより、厚み60nmのフッ素系ハードコート層が形成された。
【0098】
[実施例2]
基材側の高屈折率金属酸化物層として、酸化ニオブ層に代えて、膜厚15nmの酸化チタン層が形成されたこと以外は、実施例1と同様にして赤外線反射基板が作製された。酸化チタン層の成膜には、スパッタターゲットとして、酸化チタンと金属チタン粉末を焼結させたターゲット(AGCセラミックス製、TXOターゲット)が用いられた。なお、これと同条件でPET基板上に成膜された酸化チタン層の屈折率は、2.34であった。
【0099】
[実施例3]
Ag−Pd金属層の膜厚が11nmに変更されたこと以外は、実施例1と同様にして赤外線反射基板が作製された。
【0100】
[比較例1]
比較例1では、酸化ニオブ層が形成されず、PETフィルム基材上に膜厚30nmの酸化亜鉛錫層が形成され、その上にAg−Pd合金からなる膜厚15nmの金属層、および膜厚22.5nmの酸化亜鉛錫層が順次形成された。また、比較例1では、基材側酸化亜鉛錫層成膜時のスパッタ成膜室へのガス導入量が、Ar:O=90:10(体積比)に変更された。それ以外は、実施例1と同様にして赤外線反射基板が作製された。
【0101】
[比較例2]
比較例2では、PETフィルム基材上に膜厚32nmの酸化ニオブ層が形成され、その上に基材側酸化亜鉛錫層が形成されず、Ag−Pd合金からなる膜厚16nmの金属層が形成された。その後は、実施例1と同様にして赤外線反射基板が作製された。
【0102】
[比較例3]
基材側酸化亜鉛錫層成膜時のスパッタ成膜室へのガス導入量が、Ar:O=90:10(体積比)に変更され、Ag−Pd合金層の膜厚が15nmに変更された。それ以外は、実施例2と同様にして赤外線反射基板が作製された。
【0103】
[比較例4]
比較例4では、PETフィルム基材上に膜厚30nmの酸化チタン層が形成され、その上にAg−Pd合金からなる膜厚15nmの金属層が形成された。Ag‐Pd金属層上に、さらに膜厚30nmの表面側酸化チタン層が形成された。基材側の酸化チタン層および表面側の酸化チタン層の形成は、いずれも上記実施例2の酸化チタン層の形成と同条件で行われた。比較例4では、透明樹脂層の形成は行われなかった。
【0104】
[参考例1,2]
透明樹脂層の厚みが、それぞれ表1に示すように変更されたこと以外は、実施例1と同様にして赤外線反射基板が作製された。
【0105】
[評価]
上記各実施例および比較例の赤外線反射基板の積層構成および評価結果を表1に示す。表1の層構成において、( )内は各層の膜厚を表し、基材側金属酸化物層のZTOの[ ]内の数値は、スパッタ成膜時の導入ガスの酸素濃度を表す。なお、ZTO成膜時の導入ガスの酸素濃度が記載されていないものは、2体積%である。
【0106】
【表1】
【0107】
基材側金属酸化物層として、PETフィルム基材上に高屈折率金属酸化物層および低酸素量のZTOがこの順に形成された実施例1〜3の赤外線反射フィルムは、いずれも可視光透過率が高く、かつ耐塩水性も良好であった。金属層の膜厚が11nmである実施例3では、金属層の膜厚が16nmである実施例1に比べて、垂直放射率がやや上昇しているものの、反射率の低減により可視光透過率の大幅な向上が見られた。
【0108】
酸素導入量10体積%で基材側のZTO層が形成された比較例3では、実施例2に比して耐塩水性が低下していた。なお、比較例3では、赤外線反射フィルムの可視光反射率は、実施例2と略同等であるが、可視光透過率が向上していた。これは、基材側のZTO層製膜時の酸素導入量が多いために、ZTOの酸素量が化学量論組成に達し、ZTOによる光吸収が低減されたことに起因すると考えられる。
【0109】
基材側金属酸化物層として、高屈折率金属酸化物層が形成されず、ZTOのみが形成された比較例1では、実施例1に比べて可視光の反射率が大幅に増大していた。そのため、比較例1では、実施例1よりも基材側のZTO層製膜時の酸素導入量が多く、ZTOによる光吸収が低減されているにも関わらず、実施例1に比して可視光透過率が低下していた。一方、基材側金属酸化物層として高屈折率金属酸化物層のみが形成され、基材側にZTO層が形成されなかった比較例2では、可視光透過率は実施例1とほぼ同等であったが、耐久性が著しく低下していた。
【0110】
また、基材側金属酸化物層および表面側金属酸化物層として、酸化チタン層が形成された比較例4では、表面側の酸化チタン層を製膜後に、金属層が黒色に変化していた。これは、金属層上に酸化チタン層を製膜する際に、下地である金属層の酸化等による劣化が生じたためであると考えられる。実施例1と参考例1,2とを対比すると、赤外線反射フィルムの最表面に形成される透明樹脂層の膜厚を調整することにより、可視光透過率および耐久性の向上が可能であることが分かる。なお、透明保護層の膜厚が200nmの参考例2では、虹彩現象による視認性の低下がみられた。
【0111】
以上の結果から、基材側の金属酸化物層として、酸化チタンや酸化ニオブ等の高屈折率金属酸化物層と、酸素量が化学量論に満たないZTOとがこの順に形成され、その上に金属層が形成されることにより、可視光の透過率が高く、かつ耐久性に優れる赤外線反射基板が得られることが分かる。
【符号の説明】
【0112】
100: 赤外線反射基板
10: 透明基材
20: 基材側金属酸化物層
21: 第一金属酸化物層
22: 第二金属酸化物層
30: 金属層
40: 表面側金属酸化物層
50: 透明樹脂層
60: 接着剤層
図1
図2