(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
特許文献1に、
図5に示されるような、マシニングセンタによって歯車を加工する方法が開示されている。
【0003】
図5に示されるマシニングセンタMCは、特に、大きなモジュール部品を有する歯車(
図5(B)参照)2を精密機械仕上げするために設計されたものである。マシニングセンタMCは、(直線的な双方向矢印により図示された)3つの直交軸と、回転テーブル4の回転軸とを有している。ワークピースである歯車2は、回転テーブル4上に設置される。
【0004】
このマシニングセンタMCは、ツール軸8Cの周りに回転する円筒状の工具(ツール)8を含むスピンドル9を有する。ツール軸8Cは、歯車2に対して複数の軸の周りにおいて回転可能である。工具8は、加工の際に歯車2の歯面(被加工面)2A上の一部において接線方向に少なくとも部分的に接触する。
【0005】
工具8の加工走査方向Eの送り出し動作は、歯面2Aに対する工具8の相対的な移動により実施される。こうした相対的移動は、マシニングセンタMCのNC制御(数値制御)により実現される。
【0006】
このマシニングセンタMCでは、
図5(B)に示されるように、歯車2の歯面2Aに、工具8を当接させながら移動させ、当該歯車2の歯面2Aを加工している。
図5(B)の例では、工具8を、ツール軸8Cの周りで回転させながら加工走査方向Eに移動させている。つまり、加工走査方向Eに工具8を移動して加工した後、該工具8を、加工走査方向Eとほぼ直交する方向にδEだけ、僅かにシフトさせ、再び加工走査方向Eに移動して順次歯面2A全体を加工している。これにより、所望の形状の歯面を形成することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面に基づいて、本発明の実施形態の一例を詳細に説明する。
【0016】
マシニングセンタは、JIS B 0105において、『主として回転工具を使用し、フライス削り、中ぐり、穴あけ及びねじ立てを含む複数の切削加工ができ、かつ、加工プログラムに従って工具を自動で交換できる数値制御工作機械』と定義されている。機械の構造によって、主軸が水平の横形、及び垂直の立形がある。
【0017】
本発明に係る加工方法を実施するマシニングセンタの具体的なハード構成としては、例えば、前述した
図5で示されるような構成を有するマシニングセンタ(MC)を採用することができる。
【0018】
図1および
図2に、本発明の実施形態の一例に係るマシニングセンタによる歯車の加工方法を模式的に示す。
【0019】
マシニングセンタ(全体は図示略)の工具10は、軸心10Cの周りで回転可能な円筒形状の切削体で構成されている。軸心10Cから加工面10Bまでの半径はr10である。工具10は、NC制御によって、位置や角度が調整可能である。
【0020】
図1および
図2は、平行軸歯車(全体は図示略)20の加工方法の例を示したもので、(これから加工しようとする)平行軸歯車20の歯21に対するマシニングセンタの工具10の位置関係を模式的に示している。
図1(A)は、斜視図、
図1(B)は、歯21と工具10を歯筋と平行の方向から見た断面図である。また、
図2は、工具10を平行軸歯車20の径方向外側から見た平面図である。なお、この例では、便宜上、歯筋方向をX、歯丈方向をY、歯面の法線方向をZと称する。
図2では、紙面の下方向が、歯面の法線方向Zに相当している。
【0021】
この加工例では、基本的に、工具10を歯筋方向Xに沿って移動させることによって歯面22を加工している。すなわち、当該加工方法において、工具10が歯21の歯面22を加工するために移動してゆく方向は、歯筋方向Xである。なお、以降、工具が歯車の歯の歯面を加工するために移動してゆく方向を、「加工走査方向」と称す。
【0022】
図1、
図2の描写から明らかなように、この実施形態に係るマシニングセンタによる平行軸歯車20の加工方法においては、工具10と、平行軸歯車20の歯面22との距離L(L1a、L2a、L1b、L2b、L1c、L2c、…)を変化させながら、該工具10を歯面22に沿って移動させ、平行軸歯車20の歯面22を加工している。すなわち、該マシニングセンタの工具10と平行軸歯車20の歯面22との距離Lは一定ではない。ここで、「工具と歯車の歯面との距離」とは、「工具の軸心と、当該工具の移動によってこれから加工しようとする歯面(当該加工走査を行うときの被加工面)との距離」を指している。なお、以下、当該「工具と歯車の歯面との距離」を、単に「工具歯面距離」と称す。
【0023】
より具体的に説明すると、
図2において、波打って描かれている曲線L10Cは、工具10の軸心10Cの軌跡を示している。この加工方法においては、例えば、加工時t1での工具歯面距離LはL1a、加工時t2での工具歯面距離LはL2aである。L1a≠L2aであり、工具歯面距離Lは、一定しておらず、加工時間tと共に変化している。つまり、工具歯面距離Lを変化させながら、該工具10を歯面22に沿って移動させ、平行軸歯車20の歯面22を加工している。
【0024】
図1および
図2の加工方法の場合、工具10の軸心10Cから加工面10Bまでの半径r10から工具歯面距離Lを引いた値(r10−L)が、切削代δLに相当することになる。この例における加工方法においては、切削代δL(=r10−L)は、工具歯面距離Lの変化に伴って変化している。つまり、切削代δLは、一定しておらず、時間と共に変化している。したがって、
図1および
図2の加工方法は、「切削代δLを、変化させながら、工具10を歯面22に沿って移動させ、平行軸歯車20の歯面22を加工する加工方法」と捉えることもできる。
【0025】
なお、切削代δLの最小値は、正であっても、零であっても、負(マイナス)であってもよい。切削代δLの最小値が正の場合、なにがしかの加工(切削)が常になされている。切削代δLの最小値が零の場合は、工具10は歯面22と接しているが加工はなされない瞬間があることになる。また、切削代δLの最小値が負(マイナス)の場合は、工具10が一時的に歯面22から離れるときがあることになる。なお、この例では、切削代δLの最小値は、零となっている。
【0026】
図1および
図2の加工方法をさらに詳細に説明する。
【0027】
図1の加工方法では、工具10の軸心10Cが歯面22から最も遠ざかったときの離反側極値L1は、それぞれL1a、L1b、L1c、…である。工具歯面距離Lの離反側極値L1は、この例では同一とされている(L1a=L1b=L1c…)。また、工具10の軸心10Cが歯面22に最も近づいたときの接近側極値L2は、それぞれL2a、L2b、L2c、…である。工具歯面距離Lの接近側極値L2も、この例では、それぞれ同一とされている(L2a=L2b=L2c…)。つまり工具10の軸心10Cは、常に一定の振れ幅W10の範囲に収められている。
【0028】
また、工具10の軸心10Cの離反側極値L1を結んだ線(L1a、L1b、L1c、…を結んだ線)LL1は、歯面22と平行である。工具10の軸心10Cの接近側極値L2を結んだ線(L2a、L2b、L2c、…を結んだ線)LL2も、歯面22と平行である。
【0029】
一方、この加工方法では、工具歯面距離Lの極値L1、L2の周期は、一定とはされていない。ここで、「極値の周期」とは、「特定の離反側極値から次の離反側極値までの加工走査方向の距離」、あるいは「特定の接近側極値から次の接近側極値までの加工走査方向の距離」をいう。ここでの加工走査方向の距離は、加工時間と捉えることもできる。
【0030】
この例では、加工時t5から周期のスケジュールが変更されている。具体的には、例えば、離反側極値L1aから離反側極値L1bまでの周期C1aと、離反側極値L1bから離反側極値L1cまでの周期C1bは等しい(C1a=C1b)。しかし、離反側極値L1cから離反側極値L1dまでの周期C1cは、周期C1bより長い(C1b<C1c)。そして、それ以降は、(長い周期で)一定である(C1c=C1d)。つまり、この
図1および
図2の例では、極値L1(或いはL2)の周期は、一定ではなく、加工の開始直後が、より短い周期となるように設定されている。
【0031】
ただし、工具歯面距離Lの極値L1、L2の周期の設定の仕方は、特に限定されるものではなく、例えば、ランダムに変更させてもよいし、あるいは、常に一定に維持されるように設定してもよい(後述)。
【0032】
なお、工具歯面距離Lがいかなる値のときから歯面22の加工を開始するかについては、特に問われないが、この
図1および
図2の加工方法では、加工開始時の歯面22の端部22Aの位置と、工具歯面距離Lの離反側極値L1(L1a)の位置とをリンクさせ、離反側極値L1(L1a)から、歯面22の加工が開始するように設定している。
【0033】
次に、加工走査方向について説明する。
【0034】
図1および
図2の加工方法では、工具10の加工走査方向(工具10が歯面22を加工するために移動してゆく方向)は、歯筋方向Xのみとされている。つまり、a)工具10を、歯面22の歯丈方向Yの特定の位置において歯筋方向Xに沿って工具歯面距離Lを変化させながら移動させ、その後、b)工具10の位置を歯丈方向Yに僅かだけ(δYだけ)シフトし、再び、c)歯筋方向Xに沿って移動させる、という加工パスを繰り返して、平行軸歯車20の歯面22を加工している。
図1(B)では、工具10の軸心10Cの特定の位置(例えば工具10の軸心10Cの先端)10Caが、δYずつ順次移動してゆく様子を示している。
【0035】
もっとも、加工走査方向をどのように設定するかについては、この例(歯筋方向X)に限定されない。例えば、
図1および
図2の例では、歯筋方向Xに代え、あるいは歯筋方向Xに加えて、歯丈方向Yにも工具10を移動して歯面22を加工するようにしてもよい。
【0036】
なお、
図1および
図2の被加工歯車は、平行軸歯車20であるため、歯丈方向Yは、該平行軸歯車20が図示せぬ相手歯車と噛合する際に、当該相手歯車の歯面との間に相対滑りが生じる方向に相当している。したがって、
図1および
図2の平行軸歯車20の加工に当たって、加工走査方向を歯丈方向Yに取るというのは、工具10を相手歯車の歯面との間に相対滑りが生じる方向(Y)に移動させながら、該平行軸歯車20の歯面22を加工するということでもある。
【0037】
別言するならば、
図1および
図2の平行軸歯車20の加工に当たって、加工走査方向を「歯筋方向Xおよび歯丈方向Yの両方に取る」というのは、工具10を、平行軸歯車20が相手歯車と噛合する際に、該相手歯車の歯面との間に相対滑りが生じる方向と、該相対滑りが生じる方向と直交する方向に移動させて平行軸歯車20の歯面22を加工する、ということでもある。
【0038】
次に、
図1および
図2の加工方法の作用を説明する。
【0039】
従来は、マシニングセンタによって平行軸歯車20を加工する場合、工具歯面距離Lは、一定であった。換言するならば、切削代δLが一定であった。すなわち、歯面22の加工は、工具10に強い加工負荷が連続的に掛かる態様で行われていた。そのため、加工部の温度が上昇し易く、工具10が劣化して寿命が短くなり易いという問題があった。また、切り粉が長く連続的に生成し易く、切り粉の処理が問題となることもあった。
【0040】
これに対し、本実施形態に係る加工方法では、工具歯面距離Lを変化させながら、工具10を歯面22に沿って移動させ、平行軸歯車20の歯面22を加工する。そのため、工具歯面距離Lの変化に伴って切削代δLが変化し、強い加工負荷と軽い加工負荷を繰り返しながら加工が行われてゆくことになる。これにより、加工部の温度の上昇をより低減することができ、工具10が劣化して寿命が短くなるのをより抑制することができる。
【0041】
また、工具歯面距離Lの離反側極値L1の近傍で切り粉が切断され易いため切り粉が長く連続的に生成されるのが抑制され、切り粉の処理がより容易になるという効果も得られる。特に、この例では、離反側極値L1で切削代δLが零となるため、切り粉は必ず切断される。
【0042】
さらには、歯面22には、切削代δLが変化したことによる細かな凹凸が生じるようになるため、より潤滑剤を保持することができるようになり、装置に組み込んだときの平行軸歯車20の寿命も伸長させることができる。また、歯面22の相手歯車との摺動部に潤滑剤が潤沢に供給されることから、噛合の円滑性も確保できる。
【0043】
このような基本的作用効果に加え、この
図1および
図2の加工方法では、以下の作用効果も得られる。
【0044】
先ず、工具10の軸心10Cが、常に一定の振れ幅W10の範囲に収められている。そのため、表面粗さを一定の水準(振れ幅W10に相当する水準)に維持することができる。ただし、振れ幅については、必ずしも一定に収める必要はなく、振れ幅自体が変化する設定であってもよい。
【0045】
次に、この
図1および
図2の加工方法では、工具歯面距離Lの離反側極値L1を結んだ線(L1a、L1b、L1c、…を結んだ線)LL1が、歯面22と平行である。これにより、歯面22の最表面部を面一に形成することができるため、相手歯車と噛合するときの噛合の円滑性を高く維持することができる。
【0046】
また、この
図1および
図2の加工方法では、工具歯面距離Lの接近側極値L2を結んだ線(L2a、L2b、L2c、…を結んだ線)LL2が、歯面22と平行である。そのため、歯面22に形成される凹凸の底部の深さが一定であり、歯面22に凹凸が形成される構成でありながら、該歯面22の一部に応力が集中する虞が小さい。
【0047】
ただし、この離反側極値L1および接近側極値L2の値についても、必ずしも、それぞれを同一の値とする必要はなく、離反側極値あるいは接近側極値の一つ一つが異なる値とされていてもよい(あるいは複数単位で異なる値とされていてもよい)。
【0048】
また、この
図1および
図2の加工方法では、工具歯面距離Lの極値L1、L2の周期に関し、加工開始直後が、より短い周期となるように設定されている。そのため、加工開始直後の工具10の加工負荷をより低減でき、工具10の寿命をより伸長させることができる。
【0049】
ただし、前述したように、この工具歯面距離Lの極値L1、L2の周期は、必ずしもこのような設定とする必要はなく、例えば、ランダムに変更させてもよいし、あるいは、常に一定に維持されるように設定してもよい。
【0050】
さらには、この
図1および
図2の加工方法では、加工開始時の歯面22の端部22Aの位置と、工具歯面距離Lの離反側極値L1の位置とをリンクさせ、離反側極値L1aから、歯面22の加工が開始するように設定している。そのため、加工開始時の工具10の負荷を低減することができる(円滑に加工を開始できる)と共に、歯面22の端部22Aで欠けやバリが発生する不具合をより低減することができる。
【0051】
ただし、この加工開始時の歯面の端部の位置と、工具歯面距離の極値の位置との制御上のリンクは、必ずしも取らなくてもよく、取る場合でも、必ずしも上記例に限定されない。
【0052】
図3に、本発明の他の実施形態の一例に係るマシニングセンタによる歯車の加工方法を示す。
図3は、本発明をべべル歯車30の歯面32の加工に適用したものである。
【0053】
図3では、ベベル歯車30全体の図示は省略されているが、当該ベベル歯車30の1つ1つの歯は、ほぼピッチ円錐面上に形成されている。一般に、ベベル歯車においては、歯幅に対して歯丈が変化する設計とすることも多いが、このベベル歯車30では、歯幅に対して歯丈がほぼ一定に形成されている。なお、ベベル歯車には、歯筋がピッチ円錐の母直線と一致する直ぐ歯べべル歯車(Straight bevel gear)と、歯筋がピッチ円錐の母直線に対し湾曲している曲がり歯べべル歯車(Spiral bevel gear)が、知られているが、この本実施形態のベベル歯車30は、曲がり歯べべル歯車である。なお、歯幅に対して歯丈が変化する設計のベベル歯車にも、また、歯筋がピッチ円錐の母直線と一致する直ぐ歯べべル歯車に対しても、適用可能である。
【0054】
このようなベベル歯車30に対しても、マシニングセンタの工具10と、ベベル歯車30の歯面32との距離を変化させながら、工具10を歯面32に沿って移動させることにより、先の実施形態と同様の作用効果を得ることができる。
【0055】
ただし、
図3では、工具10の加工走査方向を、歯筋方向Xおよび歯丈方向Yの両方に対して傾斜した方向J、Kに取り、工具10をベベル歯車30の歯筋方向Xおよび歯丈方向Yの両方に対して傾斜した方向J、Kに移動させながら、ベベル歯車30の歯31の歯面32を加工するようにしている。
【0056】
具体的には、
図3の加工走査方向Jは、歯筋方向Xとθ1だけ傾斜した方向であり、かつ歯丈方向Yとθ2だけ傾斜した方向とされている。角度θ1も角度θ2も零でないことから、結局、この
図3の加工方法における加工走査方向Jは、ベベル歯車30の歯筋方向Xおよび歯丈方向Yの両方に対して傾斜した方向に相当していることになる。同様に加工走査方向Kも、ベベル歯車30の歯筋方向Xおよび歯丈方向Yの両方に対して傾斜した方向に相当している。
【0057】
結局、
図3の加工方法は、ベベル歯車30の歯筋方向Xおよび歯丈方向Yの両方に対して傾斜した加工走査方向J、および、該加工走査方向Jと交わると共にベベル歯車30の歯筋方向Xおよび歯丈方向Yの両方に対して傾斜した加工走査方向Kの2つの加工走査方向に沿ってそれぞれ工具10を移動させ、ベベル歯車30の歯面32を加工する方法であると言える。
【0058】
ここで、上記加工走査方向J、Kを、別の視点から説明すると、加工走査方向Jは、当該ベベル歯車30が図示せぬ相手歯車と噛合する際に、該相手歯車の歯面との間に相対滑りが生じる方向と一致している。つまり、
図3の加工走査方向Jは、工具10を、ベベル歯車30が相手歯車と噛合する際に、該相手歯車の歯面との間に相対滑りが生じる方向でもある。
【0059】
したがって、この観点で
図3の加工方法を言い換えると、工具10を、ベベル歯車30が相手歯車と噛合する際に、該相手歯車の歯面との間に相対滑りが生じる方向に移動させながら、ベベル歯車30の歯面を加工すると共に、該相対滑りが生じる方向と交差する方向Kに移動させてベベル歯車30の歯面32を加工する方法ということになる。
【0060】
マシニングセンタによる歯車20、30の加工は、加工パスの数が有限であることから、歯面22、32が多角形的に角張る傾向となり易い。しかし、上記例のように、工具10を、少なくとも互いに交わる2方向に移動させて歯車20、30の歯面22、32を加工するようにすると、この傾向を緩和してより円滑な歯面とすることができる。
【0061】
このときに、加工走査方向として歯筋方向Xと歯丈方向Yの2つ方向を採用すると、制御プログラムの構築が、比較的容易である。
【0062】
また、加工走査方向として、相手歯車の歯面との間に相対滑りが生じる方向および該相対滑りが生じる方向と直角(或いは交差する)方向を採用した場合には、歯車20、30が相手歯車と噛合する際に、潤滑剤を潤沢に供給することができ、歯車20、30自体の寿命をより伸長することができる。
【0063】
図4に、本発明のさらに他の実施形態の一例を示す。
【0064】
これまでの実施形態は、工具を加工走査方向に移動させる際に、工具歯面距離(工具と歯車の歯面との距離)を変化させるだけであったが(
図4(A)の括弧書きの10Ca参照)、
図4においては、工具10を、工具歯面距離Lを変化させると共に、「ベベル歯車30の歯面32に沿う方向であって加工走査方向(この例では歯筋方向)Xと直角の方向(この例では歯丈方向)Y」にも動かしながら、ベベル歯車30の歯面32を加工するようにしている。なお、この
図4の例では、加工走査方向Xは歯筋方向と一致しているため、「歯面32に沿う方向であって加工走査方向Xと直角の方向」は、歯丈方向Yに相当している。
【0065】
具体的には、工具10を、
図4(A)に示されるように、歯面32に沿って、螺旋状に移動しながら、ベベル歯車30の歯面32を加工するようにしている。
図4の例では、工具10の軸心10Cの特定の位置(例えば工具10の軸心10Cの先端)10Caを加工走査方向(この例では歯筋方向)Xから見たときに、該特定の位置10Ca(加工パスの投影線に相当)が、微小の直径d10Cの円周C10C上を動いている。つまり、工具10を、歯面32に沿って、所定のピッチP10を有する「ねじ状」の加工パスとなるように移動しながら、ベベル歯車30を加工している。
【0066】
このように、工具10を歯面32に沿って、螺旋状に移動させながら該歯面32を加工するようにした場合は、加工点を移動させながら(より広範囲の加工点で)加工することができるようになる。これにより、工具10の加工部が極めて狭い範囲に集中するのを低減できるだけでなく、温度が上昇する部分を分散させることができ、工具10の寿命を一層伸長させることができる。また、加工精度をより長期に亘って高く維持することもできる。もちろん、工具歯面距離(L)も変化しているので、軽負荷加工が周期的に発生して断続的に高負荷となる加工とすることができるという、これまで説明した工具歯面距離(L)が変化することによる作用効果も得られる。
【0067】
また、この実施形態では、工具10を、歯面32に沿って、螺旋状に移動させる制御を行う際に、該工具10を、歯面32に沿って、所定のピッチP10を有する「ねじ状」となるように移動させながら、ベベル歯車30の歯面32を加工するようにしている。このため、工具10は、極めて複雑な動きを呈することになるにも拘わらず、「ねじ状」の加工パスとなることから、数値制御のプログラムの作成が比較的容易である。
【0068】
ただし、加工パスは、必ずしも、ねじ状の螺旋でなくてもよい。例えば、楕円状の螺旋、つまり、ねじを潰したような螺旋状に移動しながら、歯車を加工するものであってもよい。さらには、3角形や4角形等の多角形の角を丸めたような形状で周回する螺旋であってもよい。
【0069】
「ねじ状」の螺旋としない場合は、工具歯面距離の長短(切削代の大小)と、工具の加工部の分散の程度(工具の切削範囲の広狭)とのバランスを、歯車の種類や形状、あるいは求められる歯面の表面特性等に応じて、より柔軟に設計することができる。
【0070】
なお、工具歯面距離を変化させるバリエーションや、螺旋状に移動する際の螺旋の形状等に関するバリエーションは、各加工走査方向毎に採用することができる。換言するならば、加工走査方向を複数有する場合は、それぞれの加工走査方向毎に、採用するバリエーション(工具歯面距離のバリエーションや、螺旋状に移動する際の螺旋の形状等に関するバリエーション等)が異なっていてもよい。
【0071】
また、上記実施形態では、加工走査方向が、1或いは2の例を示していたが、加工走査方向は、3以上としてもよい。つまり、互いに交わる3以上の方向に移動させて歯車の歯面を加工するようにしてもよい。
【0072】
また、上記例では、本発明を平行軸歯車およびベベル歯車に適用した例が示されていたが、本発明では、加工する歯車の種類は、特に上記種類に限定されない。例えば、ヘリカル歯車や、ウォーム歯車、あるいは、ハイポイド歯車等の加工にも同様に適用可能であり、同様の作用効果が得られる。