(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
長尺のアーバ部と、前記アーバ部の先端側に設けられると共に工具が装着される工具取付具と、前記アーバ部の基端側に工作機械の回転駆動軸に取り付けるためのシャンク部とを有し、前記工具を用いて切削加工時に生じるびびり振動を抑制する防振手段が前記アーバ部に設けられた工具ホルダにおいて、
前記アーバ部の内部には、当該アーバ部の先端側において外部へ開放状に形成され、且つ前記アーバ部の軸心方向に沿って中空とされた長尺の孔部が形成されており、
前記孔部には、当該孔部の内径と略同径とされた外径を有する長尺状の中芯体が挿入されていて、
前記防振手段は、前記中芯体が前記孔部に嵌り込んで構成される「入れ子機構」からなり、
前記中芯体は、中央部に貫通孔を有し且つ積層された複数のリング部材と、
前記リング部材の貫通孔内に嵌り込み可能とされると共に、積層されたリング部材の貫通孔を貫通するように挿入される長尺棒状の軸部材と、
前記軸部材の両端部から積層された複数のリング部材を挟み込むように締め付ける締結具と、で構成されていて、
前記孔部の内径Dと前記リング部材の外径dとの差Δdが、−20μm≦Δd≦10μmの範囲とされ、
前記積層されたリング部材の軸心方向長さlと前記アーバ部の長さL1との比率は、0.3≦l/L1≦0.7の範囲とされ、
前記リング部材の外径dと前記アーバ部の外径D1との比率は、d:D1=1:2とされている
ことを特徴とする防振手段が設けられた工具ホルダ。
【背景技術】
【0002】
従来より、被加工材(例えば、鋼材)に対して、ボーリング加工、中ぐり加工やフライス加工など切削加工を行う際には、長尺の工具ホルダの先端に回転切削工具を取り付けて、その取り付けられた回転切削工具を用いて切削加工を行っている。
ところが、ボーリング加工やフライス加工などを行ってゆく過程においては、回転切削工具が取り付けられた長尺の工具ホルダを被加工材に押し込む際に、回転切削工具に発生する抵抗力により振動(びびり振動)が生じ、加工精度の不良や加工能率の低下を引き起こしたり、長尺の工具ホルダの工具寿命を短くする虞があった。
【0003】
上述した問題を解決するために、様々な防振技術が開発されてきた。例えば、長尺の工具ホルダに備えられたアーバ部を高剛性化する防振技術(アーバを高剛性の部材で作製したり、鋼材製のアーバ部の中空内部に高剛性の部材で作成された防振用の芯棒を圧入したりする技術)や、アーバ部を高減衰能化する防振技術(アーバ部の中空内部にウエイトなどの粘弾性体を充填したり、回転切削工具の先端にウエイトなどの粘弾性体を取り付けたりする技術)などが挙げられる。
【0004】
工具ホルダのアーバ部を高剛性化する防振技術としては、例えば、特許文献1及び特許文献2に開示されているようなものがある。
特許文献1には、軸方向の端部に切刃を保持する鋼材製アーバであって、前記アーバの外壁面に溶射層を有する防振アーバが開示されている。
また、特許文献2には、長尺の工具本体の先端には切れ刃チップが装着されて、被削材の深部が切削できるようにした工具であって、工具本体の一部には、防振効果を高める目的で、超硬合金の如き高剛性材料の使用された深部加工用の防振工具において、前記工具本体には、その軸心に沿って、基部側直径が先端側直径より大きなテーパ部を有する穴が後端より穿設され、該テーパ部に適合するテーパ部を有する前記高剛性材料からなる丸棒が前記穴に挿入されて、前記穴の入口近傍に螺設されたねじ部に螺合する押込みねじにより、前記丸棒が工具本体内に圧接固定されるようにした深部加工用の防振工具が開示されている。
【0005】
一方、アーバ部を高減衰能化する防振技術(びびり振動の振動エネルギを粘弾性体のひずみエネルギとして吸収させる技術)としては、例えば、特許文献3〜特許文献6に開示されているようなものがある。
特許文献3には、先端部に切刃を装着したシャンク部を有する切削工具において、該シャンク部の後端部から軸心に沿って穿設された穴部と、該穴部に挿入された高剛性棒と、該高剛性棒と該穴部の内壁面とが形成する間隙に充填されたエポキシ樹脂系接着剤と、該シャンク部の後端部に嵌合する押圧固定具と、を備え、且つ、該高剛性棒は該押圧固定具により押圧固定されている切削工具が開示されている。
【0006】
特許文献4には、先端側に工具を着脱可能に固定する工具保持手段が設けられ、基端側に工作機械のスピンドルに取り付けるためのシャンク部が設けられ、前記工具を用いて加工する際に該工具に生じる振動を抑制する振動抑制部を備えた工具保持体であって、この工具保持体の周部には該工具保持体の軸方向に延設される補強部が放射方向に複数設けられ、この補強部同士の間には振動減衰材が収納される収納凹部が設けられ、この収納凹部には前記振動減衰材が収納され、この振動減衰材と前記補強部とで前記振動抑制部が構成されている工具保持体が開示されている。
【0007】
特許文献5には、円盤状の本体に切れ刃を取り付けた回転切削工具において、前記円盤状の本体の端面側に、粘弾性体を介してリング状の錘を設け、工具本体の回転軸方向に前記錘が前記本体と相対的に移動可能に構成した回転切削工具が開示されている。
特許文献6には、切削時のびびり振動を抑制するための減衰用部材であって、剛性体と
粘弾性体とから構成され、前記剛性体の一方の先端部近傍に前記粘弾性体を備え、他方の先端部が切削工具のシャンクを把持する部分に保持可能な形状を有し、前記粘弾性体を介して前記剛性体を前記シャンクに当接させることで切削時のびびり振動を抑制する切削工具の減衰用部材が開示されている。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の防振手段7が設けられた工具ホルダ1について、図面に基づき説明する。
図1は、本発明の防振手段7が設けられている工具ホルダ1を模式的に示した側面図である。
工具ホルダ1は、被加工材に対してボーリング加工、中ぐり加工やフライス加工など切削加工を行う際に用いられるものである。この工具ホルダ1は、工作機械の回転駆動軸(スピンドル軸)に取り付けられるようになっていて、その回転駆動軸の回転駆動力を、アーバ部5の先端側に取り付けられたエンドミル、ボーリングヘッドなどの工具15に伝達して、被加工材に対して切削加工を行うようになっている。
【0020】
図1に示すように、工具ホルダ1は、長尺のアーバ部5と、そのアーバ部5の先端側に設けられると共に工具15(例えば、回転切削工具など)が装着される工具取付具(図示せず)と、アーバ部5の基端側に設けられて工作機械の回転駆動軸(スピンドル軸)に取り付けるためのシャンク部2と、切削加工時に生じる「びびり振動」(以降、単に振動と呼ぶ)を抑制ないしは防止する防振手段7とを有している。
【0021】
特に、寸法サイズが大きく且つ複雑な形状の被加工材や、深い窪みなどの切削加工が困難とされる領域を有する被加工材に対しては、非常に長い突き出し量を有するアーバ部5を備えられた工具ホルダ1が用いられる。
具体的には、工具ホルダ1は、工作機械の回転駆動軸に取り付けられるシャンク部2に長尺のアーバ部5の基端側が接合されていて、このアーバ部5がシャンク部2から軸心方
向に沿って突出するように配備されているものである。加えて、アーバ部5には、切削加工時に生じる振動を抑制する防振手段7が設けられている。また、アーバ部5の先端側には、工具15(ボーリングヘッド等の切刃)を装着する工具取付具が設けられている。
【0022】
シャンク部2は、内部が中空とされ且つ端部が先細るようなテーパ形状の円錐部材3と、その円錐部材3の底部に連接された円板部材4とからなるものであって、テーパ形状の円錐部材3が工作機械の回転駆動軸に取り付けられるようになっている。また、円板部材4には、アーバ部5の基端側が接合されている。なお、本実施形態では、テーパ形状のシャンク部2を回転駆動軸に直接取り付ける構成として説明したが、ストレート形状のシャンク部2を別体のホルダを介して回転駆動軸に取り付ける構成としてもよい。
【0023】
アーバ部5は、シャンク部2の円板部材4から軸心方向に沿って突出状に設けられた長尺の円柱部材であって、鋼材や超硬合金などの硬質材料で形成されている。アーバ部5の長さL
1は例えば100mm〜500mm程度であり、アーバ部5の外径d
1はシャンク部2の円板部材4の外径より小径とされ、例えばφ30mm〜φ100mm程度である。
アーバ部5の軸心方向の先端側には、工具取付具が設けられている。工具取付具は、荒切削用の工具15や仕上切削用の工具15などの仕様の異なる工具15(切刃)をアーバ部5に取り付けるアタッチメントである。この工具取付具を、工具15に設けられた取付部に装着し、その工具15と工具取付具とをボルトなどの締結具(図示せず)で固定する。
【0024】
このように工具15を固定することで、回転駆動軸の回転駆動力をアーバ部5を介して工具15に伝達することができる。なお、工具取付具は、エンドミルやドリルなどを取り付けるためのミーリングチャックであってもよい。
ところで、このように締結された工具15を用いて、被加工材にボーリング加工やフライス加工などの切削加工を行うと、工具15に発生する抵抗力により長尺のアーバ部5に振動が生じてしまう虞がある。特に、工具突き出し長さ/工具径(L
1/D
2)の値が大きい場合、切削加工時にアーバ部5に大きな振動が生じてしまい、工具ホルダ1の動剛性を大きく低下させてしまう。
【0025】
そこで、本願発明者らは、上述した問題を解決するために鋭意研究を重ね、以下に示す防振手段7が設けられた工具ホルダ1を発明した。
本発明に係る防振手段7が設けられた工具ホルダ1は、長尺のアーバ部5に、このアーバ部5の振動を抑制する防振手段7が設けられているものである。
[第1実施形態]
まず、本発明の防振手段7が設けられた工具ホルダ1における第1実施形態について、図に基づき説明する。
【0026】
図1(a)に示すように、第1実施形態に係る工具ホルダ1のアーバ部5は、その内部に軸心方向に沿って中空とされた長尺の孔部6が形成されていて、孔部6は当該アーバ部5の先端側(工具15が取り付けられる側)において外部へ開放状に形成されている。言い換えると、このアーバ部5は、有底円筒状に形成された筒部材ともいえる。アーバ部5の孔部6には、当該孔部6の内径Dと略同径とされた外径dを有する長尺状の中芯体8が挿入されている。
【0027】
第1実施形態の防振手段7は、アーバ部5に形成された孔部6に長尺の中芯体8が嵌り込んで構成される「入れ子機構」からなるものである。
図1(b)に示すように、中芯体8は、中央部に貫通孔10を有し且つアーバ部5の軸心方向に沿って積層された複数のリング部材9(本実施形態では、板厚tのリング部材9を9個積層させている)と、リング部材9の内径d’と略同径とされた外径d
1を有すると共に、積層されたリング部材9の貫通孔10を貫通するように挿入される長尺棒状の軸部材13とから構成されている。この軸部材13は、積層されたリング部材9の両端側から突出する長さとされており、突出した部分にはナットなどの締結具14が螺合可能とされている。この締結具14より、軸部材13の両端部から積層された複数のリング部材9を挟み込むことが可能とされている。
【0028】
この入れ子機構においては、切削加工時に生じた振動エネルギを、中芯体8の外壁面と
孔部6の内壁面との間に発生する摩擦エネルギに変換することで、アーバ部5に生じる振動を抑制するようになっている。加えて、積層されたリング部材9の貫通孔10と軸部材13との間に発生する摩擦エネルギ、各隣り合う2つのリング部材9間で発生する摩擦エネルギにより、アーバ部5に生じる振動を抑制するようになっている。
【0029】
以降、
図1(c)に示すように、孔部6の内壁面と積層されたリング部材9の外壁面とが接触する面を接触面Aとし、この接触面Aの面積(接触面積)をS
Aとする。積層されたリング部材9の内壁面と軸部材13の外壁面とが接触する面を接触面Bとし、この接触面Bの面積(接触面積)をS
Bとする。各隣り合う2つのリング部材9が接触する面を接触面Cとし、この接触面Cの面積(接触面積)の中芯体8全体での合計値をS
Cとする。
【0030】
まず、
図1(b)に示すように、第1実施形態の防振手段7である「入れ子機構」は、孔部6の内径Dとリング部材9(中芯体8)の外径dとの差Δdが、−20μm≦Δd≦10μmの範囲とされ、積層されたリング部材9の軸心方向長さlとアーバ部5の長さL
1との比率は、0.3≦l/L
1≦0.7の範囲とされ、リング部材9の外径dとアーバ部5の外径D
1との比率は、d:D
1=1:2とされている。
【0031】
また、リング部材9の貫通孔10の内径d’と軸部材13の外径d
1との差Δd’が、−20μm≦Δd’≦10μmの範囲とされ、孔部6の軸心方向深さLは、アーバ部5の先端側から、棒部材の長さl
1以上(L≧l
1)とされている。
詳しくは、「入れ子機構」における孔部6の内径Dとリング部材9の外径dとの差Δdが−20μm≦Δd≦10μmの範囲の略「しまりばめ」状態であり、且つ積層されたリング部材9の軸心方向長さlとアーバ部5の長さL
1との比率が、0.3≦l/L
1≦0.7の範囲であると、孔部6の内壁面と積層されたリング部材9(中芯体8)の外壁面とが密着するように面接触し、その接触面Aにおいて大きな押圧力が発生する。この孔部6の内壁面と積層されたリング部材9の外壁面との間に発生する押圧力は、工具ホルダ1が回転してアーバ部5に曲げ変形が加えられる際に、孔部6の内壁面と積層されたリング部材9の外壁面との間(摺動面)に摩擦エネルギAを生じさせる。
【0032】
また、「入れ子機構」におけるリング部材9の貫通孔10の内径d’と軸部材13の外径d
1との差Δd’が、−20μm≦Δd’≦10μmの範囲とされ、且つ積層されたリング部材9の軸心方向長さlとアーバ部5の長さL
1との比率が、0.3≦l/L
1≦0.7の範囲であると、積層されたリング部材9(中芯体8)の貫通孔の内壁面と軸部材13の外壁面とが密着するように面接触し、その接触面Bにおいて大きな押圧力が発生する。この積層されたリング部材9の内壁面と軸部材13の外壁面との間に発生する押圧力は、工具ホルダ1が回転して積層されたリング部材9(中芯体8)に曲げ変形が加えられる際に、積層されたリング部材9の内壁面と軸部材13の外壁面との間(摺動面)に摩擦エネルギBを生じさせる。
【0033】
さらに、積層されたリング部材9において、軸部材13の両端部から締結具14で積層された複数のリング部材9を挟み込むように、所定の締結トルクT(詳細は後述)にて締め付けられている。つまり、積層されたリング部材9は、略一体化されたものとなっている。このように、それぞれ隣り合う2つのリング部材9は、押し付けられながら面接触することとなり、その接触面Cにおいて大きな押圧力が発生する。この押圧力は、工具ホルダ1が回転して積層されたリング部材9(中芯体8)に曲げ変形が加えられる際に、それぞれ隣り合うリング部材9の間の接触面(摺動面)に摩擦エネルギCを生じさせる。
【0034】
これら摩擦エネルギA,B,Cが、切削加工時に生じるアーバ部5の振動エネルギを吸収する(摩擦エネルギA,B,Cが振動エネルギを打ち消す)ようになっている。すなわち、各接触面A,B,Cとの間に生じた摩擦が、切削加工時に生じるアーバ部5の振動を抑制ないし防止するものとなっている。
なお、寸法差Δdが−20μmよりも小さい値あるいは10μmよりも大きい値、寸法差Δd’が−20μmよりも小さい値あるいは10μmよりも大きい値、積層されたリング部材9の軸心方向長さlとアーバ部5の長さL
1との比率が、上記で規定した0.3≦l/L
1≦0.7の範囲外の場合は、「入れ子機構」のすべり面における摩擦(摩擦エネルギ)が生じ難く、防振手段7のダンパ(減衰)効果が小さくなるため、アーバ部5に発
生する振動を抑制ないしは防止することが困難である。
【0035】
また、リング部材9の外径dとアーバ部5の外径D
1との比率は、d:D
1=1:2とされている理由を次に示す。
リング部材9の外径dとアーバ部5の外径D
1との比率が、d:D
1=1:1に近い、つまり薄肉円筒状のアーバ部5である場合、切削加工時において薄肉円筒状のアーバ部5が損傷してしまう虞がある。また、リング部材9の外径dがアーバ部5の外径D
1との差が大きくなる、つまりアーバ部5の外径D
1に対してリング部材9の外径dが非常に小さい径とされる場合、摩擦エネルギが生じ難く、切削加工時に生じるアーバ部5の振動エネルギを吸収する(摩擦エネルギが振動エネルギを打ち消す)ことができない。すなわち、切削加工時に生じるアーバ部5の振動を抑制ないし防止することが困難である。
【0036】
同様な観点から、リング部材9の貫通孔の内径d’とリング部材9の外径dとの比率が、d’:d=1:2とするとよい。
なお、孔部6の軸心方向深さLは、アーバ部5の先端側から、軸部材13の長さl
1以上(L≧l
1)とすることが好ましい。
以上述べたように、中芯体8と孔部6とからなる「入れ子機構」(防振手段7)の形状及び寸法を適切なものに設定することで、アーバ部5に生じる振動エネルギを摩擦エネルギに変換して、アーバ部5を減衰させて振動を抑制することが可能となる。
【0037】
一方、中芯体8と孔部6とからなる「入れ子機構」の形状及び寸法を別の観点から、設定してもよい。
別の観点とは、
図1(c)に示すように、接触面Aの接触面積S
Aと、接触面Bの接触面積S
Bと、接触面Cの合計面積である接触面積S
Cとを適切に設定することである。
すなわち、防振手段7においての「入れ子機構」は、リング部材9全体の外壁面と孔部6の内壁面とが面接触する部分の接触面積S
Aと、リング部材9の貫通孔10の内壁面と軸部材13の外壁面とが面接触する部分の接触面積S
Bと、積層されたリング部材9において隣り合う2つのリング部材9が面接触する部分の接触面積の合計値S
Cとを合計した面積合計値S
Tが、20000mm
2≦S
Tとされている。
【0038】
また、工具ホルダ1が回転してアーバ部5に曲げ変形(捻れ)が加えられる際に、孔部6の内壁面と積層されたリング部材9(中芯体8)の外壁面との間の「接触面積S
A」(摺動面A)にて、摩擦エネルギAが発生する。また、積層されたリング部材9(中芯体8)の内壁面との軸部材13の外壁面との間の「接触面積S
B」(摺動面B)にて、摩擦エネルギBが発生する。
【0039】
さらに、工具ホルダ1が回転して積層されたリング部材9に曲げ変形(撓み)が加えられる際に、積層されたリング部材9において隣り合う2つのリング部材9が面接触する部分の合計値「接触面積S
C」(摺動面C)にて、摩擦エネルギCが発生する。
このとき、積層されたリング部材9において、軸部材13の両端部から締結具14で積層された複数のリング部材9を挟み込むように、0.005d
13.07(N・m)<T≦0.015d
13.07(N・m)の範囲の締結トルクTにて締め付けられている。締結具14を前述の範囲の締結トルクTで締め付けることによって、隣り合う2つのリング部材9の摺動状況が変わり、所望の摩擦エネルギCが得られる。
【0040】
なお、所定の締結トルクTが0.015d
13.07(N・m)より大きい(締め付けが強い)場合、摺動面Cにおいて摩擦しなくなり、摩擦エネルギCが発生し難くなる。また、所定の締結トルクTが0.005d
13.07(N・m)より小さい(締め付けが弱い)場合、摺動面Cにおいての摩擦が少なく、所望の摩擦エネルギCが得られない。
このように、摺動面A,B,Cにて生じる摩擦エネルギA,B,Cが、切削加工時に生じるアーバ部5の振動エネルギを吸収する(摩擦エネルギA,B,Cが振動エネルギを打ち消す)ようになっている。すなわち、各接触面(摺動面)A,B,Cとの間に生じた摩擦が、切削加工時に生じるアーバ部5の振動を抑制ないし防止するものとなっている。
【0041】
以上述べたように、第1実施形態の「入れ子機構」における「接触面積S
A」、「接触面積S
B」、「接触面積S
C」、「面積合計値S
T」、ならびに前述した「締結トルクT」を、適切に設定することで、振動エネルギを効果的に摩擦エネルギに変換でき、アーバ
部5の振動を「入れ子機構」からなる防振手段7にて抑制させることができる。
[実験例]
次に、第1実施形態に係る防振手段7が設けられた工具ホルダ1を用いて、被加工材にボーリング加工を実施した結果を述べる。
【0042】
第1実施形態に係る防振手段7が設けられ、且つボーリング加工用の工具15が取り付けられた工具ホルダ1と、同様の工具15が取り付けられた比較例の工具ホルダとを用意して、被加工材にボーリング加工を実施する。
第1実施形態の防振手段7が設けられた工具ホルダ1として、工具15の外径D
2が53mm、工具ホルダ1の突き出し長さL
2が285mm、アーバ部5の外径D
1が50mm、リング部材9(アルミニウム製、外径d:φ20mm、内径d’:φ10mm、板厚t:10mm、枚数:10枚、長さl:100mm)を積層させた中芯体8を孔部6に挿入した工具ホルダ1Aを用意する。
【0043】
なお、実験例では、「入れ子機構」における孔部6の内径Dと積層されたリング部材9の外径dとの差Δdを−3μmとする。また、所定の範囲内の締結トルクTで締結具14を締め付ける。
一方で、比較例の工具ホルダとして、一般的な工具ホルダ(アーバ部:大昭和精機製,型番HSK−A100−CK5−228、工具(ヘッド):大昭和精機製, 型番RW53−70CK5,1枚刃)、防振手段7を有さない工具ホルダCを用意する。
【0044】
そして、表1にボーリング加工の条件を示す。
【0046】
ボーリング加工の実施については、まず工具ホルダ1A及び工具ホルダCの回転数を
1000rpm、工具送り量を0.15mm/rev、工具切込み量(片)を0.025mmに設定して加工を始めて、その後工具切込み量(片)を0.025mm毎に増加させてゆき、アーバ部5に振動が発生するまで加工を実施した。
本願発明者らは、前述した切削試験を行った結果、第1実施形態の防振手段7が設けられた工具ホルダ1Aは、被加工材に対してボーリング加工を行う際に、工具ホルダCよりアーバ部5に発生する振動を効果的に抑制していることを知見した。すなわち、第1実施形態の防振手段7が設けられた工具ホルダ1Aは、高い減衰性を有していることがわかった。
【0047】
また、本願発明者らは、第1実施形態の防振手段7が設けられた工具ホルダ1Aは、比較例の工具ホルダCを用いている場合よりも深く切削することが可能であることも知見した。
また、積層されたリング部材9の長さlを70mmとしたものを用いて前述した切削試験を行った際に、切込み量が0.06mmを超えると加工振動が発生した。その結果、本願発明者らは、積層されたリング部材9の長さlによって、アーバ部5に生じる振動を効果的に抑制することができることも知見した。
【0048】
そして、表2に上記の実験結果を示す。
【0050】
表2に示すように、第1実施形態の防振手段7が設けられた工具ホルダ1Aは、防振手段7を有さない工具ホルダCより、減衰係数cが大きく増加していることがわかる。
このように、積層されたリング部材9(中芯体8)の長さlとアーバ部5の長さL
1との比率を、0.3≦l/L
1≦0.7の範囲とすることで、「入れ子機構」においてのすべり(摺動)が相対的に大きくなり、摩擦がより生じやすくなる。
【0051】
以上の実験結果より、積層されたリング部材9(中芯体8)と孔部6とからなる「入れ子機構」の形状及び寸法を設定することで、防振手段7のダンパ効果が高くなり、アーバ部5が高減衰能化される。それゆえ、アーバ部5に生じる振動を抑制することが可能となる。
[第2実施形態]
次に、本発明の防振手段7が設けられた工具ホルダ1における第2実施形態について、図に基づき説明する。
【0052】
図2(a)に示すように、第2実施形態に係る防振手段7が設けられた工具ホルダ1は、中芯体8の構成が第1実施形態と大きく異なっており、それ以外の部分は、第1実施形態の装置(
図1参照)と略同じである。
すなわち、第2実施形態の防振手段7が設けられた工具ホルダ1は、長尺のアーバ部5と、そのアーバ部5の先端側に設けられると共に工具15(例えば、回転切削工具など)が装着される工具取付具(図示せず)と、アーバ部5の基端側に工作機械の回転駆動軸(スピンドル軸)に取り付けるためのシャンク部2と、を第1実施形態と同様に有している。また、アーバ部5の内部に、その先端側において外部へ開放状、且つ軸心方向に沿って中空とされた長尺の孔部6が形成されている点も第1実施形態と略も同じである。
【0053】
加えて、切削加工時に生じる「びびり振動」を抑制ないしは防止する防振手段7が設けられ、その防振手段7はアーバ部5に形成された孔部6に長尺の中芯体8が嵌り込んで構成される「入れ子機構」からなる点も第1実施形態と略も同じである。
しかしながら、第2実施形態では、アーバ部5に挿入された中芯体8の形状が異なっている。
【0054】
具体的には、
図2(b)に示すように、第2実施形態の中芯体8は、中央部に軸心方向に沿った貫通孔12を有する長尺で且つ単一の円筒体11と、円筒体11の内径d’と略同径とされた外径d
1を有すると共に、当該円筒体11の貫通孔12に挿入される長尺棒状の軸部材13とで構成されている。この軸部材13は、円筒体11の両端側から突出する長さとされており、突出した部分にはナットなどの締結具14が螺合可能とされている。この締結具14より、軸部材13の両端部から長尺の円筒体11を挟み込むことが可能とされている。
【0055】
この入れ子機構においても第1実施形態と同様に、切削加工時に生じた振動エネルギを、円筒体11の外壁面と孔部6の内壁面との間に発生する摩擦エネルギに変換することで、アーバ部5に生じる振動を抑制するようになっている。加えて、円筒体11の貫通孔12と軸部材13との間に発生する摩擦エネルギにより、アーバ部5に生じる振動を抑制するようになっている。
【0056】
第2実施形態の工具ホルダ1においても、防振手段7が以下の寸法・形状を満たすことで、アーバ部5に生じる振動を確実に抑制できることを、本願発明者らは、数々の実験を通じて知見している。
まず、
図2(b)に示すように、第2実施形態の防振手段7である「入れ子機構」は、
孔部6の内径Dと円筒体11の外径dとの差Δdが、−20μm≦Δd≦10μmの範囲とされ、円筒体11の軸心方向長さlとアーバ部5の長さL
1との比率は、0.3≦l/L
1≦0.7の範囲とされ、円筒体11の外径dとアーバ部5の外径D
1との比率は、d:D
1=1:2とされている。
【0057】
また、円筒体11の貫通孔12の内径d’と軸部材13の外径d
1との差Δd’が、−20μm≦Δd’≦10μmの範囲とされ、孔部6の軸心方向深さLは、アーバ部5の先端側から、軸部材13の長さl
1以上(L≧l
1)とされている。
さらに、
図2(c)に示すように、第2実施形態の防振手段7における「入れ子機構」は、円筒体11全体の外壁面と孔部6の内壁面とが面接触する部分の接触面積S
Aと、円筒体11の貫通孔12の内壁面と軸部材13の外壁面とが面接触する部分の接触面積S
Bとを合計した面積合計値S
Tが、20000mm
2≦S
Tとされている。
【0058】
詳しくは、接触面積S
Aの所定の範囲は、円筒体11の外径d(孔部6の内径D)と円筒体11の軸心方向長さlとによって設定され、接触面積S
Bの所定の範囲は、円筒体11の貫通孔12の内径d’(軸部材13の外径d
1)と円筒体11の軸心方向長さlとによって設定される。
また、工具ホルダ1が回転してアーバ部5に曲げ変形(捻れ)が加えられる際に、円筒体11(中芯体8)の外壁面と孔部6の内壁面との間の「接触面積S
A」(摺動面A)にて、摩擦エネルギAが発生する。また、円筒体11(中芯体8)の内壁面との軸部材13の外壁面との間の「接触面積S
B」(摺動面B)にて、摩擦エネルギBが発生する。
【0059】
このとき、円筒体11において、軸部材13の両端部から締結具14で円筒体11を挟み込むように、0.005d
13.07(N・m)<T≦0.015d
13.07(N・m)の範囲の締結トルクTにて締め付けられている。締結具14を前述の範囲の締結トルクTで締め付けることによって、円筒体11の摺動状況が変わり、所望の摩擦エネルギA,Bが得られる。
【0060】
なお、所定の締結トルクTが0.015d
13.07(N・m)より大きい(締め付けが強い)場合、摺動面A,Bにおいて摩擦しなくなり、摩擦エネルギA,Bが発生し難くなる。また、所定の締結トルクTが0.005d
13.07(N・m)より小さい(締め付けが弱い)場合、摺動面A,Bにおいての摩擦が少なく、所望の摩擦エネルギA,Bが得られない。
【0061】
このように、摺動面A,Bにて生じる摩擦エネルギA,Bが、切削加工時に生じるアーバ部5の振動エネルギを吸収する(摩擦エネルギA,Bが振動エネルギを打ち消す)ようになっている。すなわち、各接触面(摺動面)A,Bとの間に生じた摩擦が、切削加工時に生じるアーバ部5の振動を抑制ないし防止するものとなっている。
以上述べたように、第2実施形態の「入れ子機構」における「接触面積S
A」、「接触面積S
B」、「面積合計値S
T」、ならびに前述した「締結トルクT」を、適切に設定することで、振動エネルギを効果的に摩擦エネルギに変換でき、アーバ部5の振動を「入れ子機構」からなる防振手段7にて抑制させることができる。
【0062】
上記した本発明の防振手段7が設けられた工具ホルダ1によれば、切削加工時に発生するアーバ部5の振動エネルギを「入れ子機構」で摩擦エネルギに変換してアーバ部5を高減衰能化することで、切削加工時に発生するアーバ部5の振動(びびり振動)を抑制ないしは防止することができると共に、低コストで製造することが可能である。
なお、今回開示された実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。
【0063】
例えば、本実施形態では、アーバ部5に関して、孔部6が有底円筒状(非貫通)に形成されたものと説明したが、挿入される中芯体8が孔部6にて固定できるものであれば、貫通された孔部6であってもよい。
また、第1実施形態の中芯体8を、板厚tのリング部材9を9個積層させたものとして説明したが、中芯体8の長さlの範囲(接触面積Aの範囲)であれば、積層させるリング部材9の個数は問わない。
【0064】
また、本実施形態では、工具ホルダ1について、仕様の異なる工具15を着脱自在に取
り付けることのできる工具取付具を有するもの(工具交換タイプ)として説明したが、各仕様の工具15ごとに用意されたもの(工具固定タイプ)であってもよい。
特に、今回開示された実施形態において、明示的に開示されていない事項、例えば、運転条件や操業条件、各種パラメータ、構成物の寸法、重量、体積などは、当業者が通常実施する範囲を逸脱するものではなく、通常の当業者であれば、容易に想定することが可能な値を採用している。