(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、機械的強度が高く、しかも特に腐食に耐性のある軽量の金属補強体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この目的において、本発明の1つの主題は、ワイヤの炭素重量含有量Cが0.4%≦C≦0.74%であり、mm単位で表される直径d’から直径dまでのワイヤの途切れのない一連の引き抜き工程を含み、ここで真歪ε’=2ln(d’/d)がε’>4であるような鋼鉄ワイヤを引き抜くプロセスである。
【0009】
使用されるワイヤは、比較的低い炭素重量含有量Cを有する。従って、ワイヤの引き抜き性、すなわち比較的大きな直径d’から比較的小さな直径dを得る可能性が向上する。換言すると、比較的低い炭素重量含有量Cにより高い真歪ε’が可能となり、これによりワイヤを十分に加工硬化して、高い機械的強度特性、特に高い最大引張強度をワイヤに与えることが可能となる。
【0010】
従って、ワイヤは、疲労及び腐食の影響を比較的受けにくく、これによりタイヤの耐久性が向上する。更に、ワイヤは、タイヤを補強するのに十分な機械的強度を保持しながら、ワイヤの直径を低減することが可能とする。
【0011】
最大引張強度又は極限引張強度は、ワイヤを破断するのに必要な力に相当する。Rで表記される最大引張強度(MPa単位)の測定は、ISO標準6892(1984年)に従って実施される。
【0012】
途切れのない一連の引き抜き工程とは、一連の工程のうちの2つの引き抜き工程の間に引き抜き工程以外の何らかの工程、特に熱処理工程をワイヤが受けないことを意味すると理解される。換言すると、ワイヤは、一連の工程のうちの2つの直接連続する引き抜き工程間に何らかの工程、特に熱処理工程を受けることはない。
【0013】
有利には、ε’≧4.3、好ましくはε’≧4.5であり、より好ましくはε’≧4.7である。
【0014】
その結果、ワイヤは、改善された最大引張強度Rを有する。
【0015】
1つの実施形態において、ワイヤは、0.4%≦C≦0.5%、好ましくは、0.42%≦C≦0.48%であるような炭素重量含有量Cを有する。
【0016】
1つの実施形態において、ワイヤは、0.5%≦C≦0.6%、好ましくは、0.5%<C<0.6%、より好ましくは0.55%≦C≦0.6%であるような炭素重量含有量Cを有する。
【0017】
1つの実施形態において、ワイヤは、0.6%≦C≦0.74%、好ましくは0.65%≦C≦0.74%であるような炭素重量含有量Cを有する。
【0018】
任意選択の特性によれば、d’は1mm以上であり、好ましくは1.3mm以上である。直径d’は、ワイヤを加工硬化することにより高い機械的特性を得るのに十分に大きい。d’は、2.2mm以下であり、好ましくは2mm以下である。直径d’は、ワイヤの最終直径まで下降硬化するのを可能にする程十分に小さい。
【0019】
有利には、dは、0.10mm以上であり、好ましくは0.12mm以上である。
【0020】
直径dが小さすぎると、ワイヤの工業生産コストが高くなり、大量生産に不適合となる。
【0021】
有利には、dは、0.25mm以下であり、好ましくは0.23mm以下である。
【0022】
直径dが大きすぎると、例えば重量車両タイプの車両用のタイヤの特定のパイル、特にカーカス補強部材で使用するには、ワイヤの柔軟性及び耐久性が低すぎるものとなる。
【0023】
任意選択的に、鋼鉄の微細構造は、フェライト・パーライト又はパーライトである。フェライト・パーライト又はパーライトの微細構造は、金属組織観察により別の構造、特にマルテンサイト微細構造と区別される。フェライト・パーライト微細構造は、フェライト粒子とラメラパーライトゾーンを有する。パーライト微細構造は、実質的にフェライト及びセメンタイトラメラのみを有する。これに対して、マルテンサイト微細構造は、当業者にはフェライト・パーライト及びパーライトの微細構造の粒子及びラメラから区別する方法が既知となるラス(laths)及び/又はニードルを含む。
【0024】
プロセスの1つの任意選択的な特性によれば、直径d’から直径dへのワイヤの途切れのない一連の引き抜き工程は、湿式環境で行われる。
【0025】
湿式引き抜きは、液体環境(例えば水溶液)においてワイヤが円運動することを意味すると理解される。好ましくは、湿式引き抜き中の引き抜き潤滑剤は、液体形態である。湿式引き抜き中、引張手段(例えばキャプスタン)は、液体環境(例えば水溶液)に曝される。
【0026】
好ましくは、プロセスは、直径d’から直径dへのワイヤの一連の引き抜き工程の前に、直径Dから直径d’へのワイヤの途切れのない一連の引き抜き工程を含む。
【0027】
途切れのない一連の引き抜き工程とは、一連の工程のうちの2つの引き抜き工程の間に引き抜き工程以外の何らかの工程、特に熱処理工程をワイヤが受けないことを意味すると理解される。換言すると、ワイヤは、一連の工程のうちの2つの直接連続する引き抜き工程間に何らかの工程、特に熱処理工程を受けることはない。
【0028】
有利には、真歪εT=2ln(D/d’)は、ε≦3、好ましくはε≦2.75、より好ましくはε≦2.5であるようなものである。
【0029】
従って、ワイヤの引き抜きは、直径Dから直径d’に限定され、これにより、機械的引張強度Rを高めるために、直径d’から直径dへのワイヤの途切れのない一連の引き抜き工程の間にワイヤを十分に加工硬化することが可能となる。
【0030】
好ましくは、直径Dから直径d’へのワイヤの一連の引き抜き工程は、乾燥環境で実行される。
【0031】
乾式引き抜きは、気体環境(例えば周囲空気)においてワイヤが円運動することを意味すると理解される。好ましくは、乾式引き抜き中の引き抜き潤滑剤は粉状形態である。乾式引き抜き中、引張手段(例えばキャプスタン)は、気体環境(例えば周囲空気)に曝される。
【0032】
好ましくは、真歪εT=2ln(D/d)は、εT≧6.5、好ましくはεT≧6.75、より好ましくはεT≧7であるようなものである。
【0033】
任意選択的に、Dは、4mm以上であり、好ましくは、5mm以上である。
【0034】
有利には、直径d’のワイヤが加熱処理される。
【0035】
好ましくは、鋼鉄の微細構造は、この熱処理工程の前に観察される。
【0036】
有利には、直径d’のワイヤは、少なくとも1つの金属層で被覆される。
【0037】
本発明は、添付図面を参照しながら単に非限定的な例証として示した以下の説明を読むとより良く理解されるであろう。
【発明を実施するための形態】
【0039】
タイヤ
図1には、全体として参照番号10が付けられた本発明によるタイヤが示されている。
【0040】
タイヤ10は、クラウン補強部材14により補強されたクラウン12と、2つのサイドウォール16と、2つのビード18とを備え、これらビード18の各々は、ビードワイヤ20により補強される。クラウン12は、この概略図には示されていないトレッドにより囲まれる。カーカス補強部材22は、各ビード18内の2つのビードワイヤ20の周りに巻き付けられ、ここではリム26に取り付けて図示された、タイヤ10の外側に向かって位置決めされる折り返し部24を含む。
【0041】
カーカス補強部材22は、それ自体公知の方法で、ワイヤ又はコードにより補強された少なくとも1つのプライからなる。カーカス補強部材のこれらのワイヤ又はコードは、「ラジアル」ワイヤ又はコードと呼ばれ、すなわち、これらのワイヤ又はコードは、互いに実質的に平行に位置決めされ、円周方向正中面(2つのビード18間の中間に位置しクラウン補強部材14の中央を通るタイヤの回転軸に垂直な平面)に対して80°〜90°間の角度をなすよう一方のビードから他方のビードまで延びる。
【0042】
クラウン補強部材14は、本発明によるワイヤ又はコードにより補強された少なくとも1つのプライを備える。
図1に極めて簡易的に描いたこのクラウン補強部材14においては、本発明のワイヤ又はコードは、例えば、ワーキングクラウンプライ又は三角形クラウンプライ(もしくはハーフプライ)及び/又は保護クラウンプライの全て又は一部をこのような三角形又は保護クラウンプライの使用時に補強することができることは、理解されるであろう。勿論、ワーキングプライ、三角形プライ及び/又は保護プライに加えて、本発明のタイヤのクラウン補強部材14は、例えば1つ又はそれ以上のフーププライのような他のクラウンプライを含むことができる。
【0043】
当然のことながら、タイヤ10は更に、内側ゴム又はエラストマー層(通常「内側ライナ」と呼ばれる)を公知の手法で備え、該内側ライナは、タイヤの半径方向内側面を定め、タイヤの内側空間から発生する空気拡散からカーカス補強部材を保護することを目的とする。有利には、特に重量車両用のタイヤの場合、タイヤはまた、カーカス補強部材と内側層との間に位置する中間補強エラストマー層を備えることができ、中間エラストマー補強層は、内側層ひいてはカーカス補強部材を補強することを目的とし、またカーカス補強部材が受ける応力を部分的に非局在化させることを目的とする。
【0044】
タイヤは、本発明によるワイヤ又はコードが埋設されたゴムマトリックスを備える半仕上げ品の形で存在する、上述の様々な要素を組み付けることにより製造される。
【0045】
コード
クラウン及び/又はカーカス補強部材がコードにより補強される場合、コードは、本発明による複数の鋼鉄ワイヤをケーブル固定又はねじりの何れかで組み立てることによって製造される。
【0046】
バン、重量車両(すなわち地下鉄、バス、大型道路輸送車両(大型トラック、トラクタ、トレーラ)及びオフロード車両)、農業機械又は建設土木機械のような大型車両から選択された産業車両、航空機、及び他の輸送又は荷役車両用のタイヤの場合、クラウン及び/又はカーカス補強部材は、特に、1+3+8、1+6+11、1+6+12、2+7、3+8、3+9及び3+9+15構造の層状コード、並びに3x(1+5)、(1+6)x(3+8)、(1+6)x(3+9+15)及び(1+6)x(4+10+16)構造のストランド化コードから選択された本発明によるコードより補強される。クラウン及び/又はカーカス補強部材を補強することができる他のコードはまた、国際特許公開公報WO2010/139583において記載されている。
【0047】
乗用車用のタイヤの場合、クラウン及び/又はカーカス補強部材は、本発明によるコード、特に2+1、2+2、2+4及び4x3構造のコードから選択されたコードにより補強される。
【0048】
本発明によるコードは、とりわけ、国際特許公開公報WO2010/139583に記載されるように、そのままでゴム引きされる。
【0049】
クラウン及び/又はカーカス補強部材はまた、組み立てられていない本発明による1又はそれ以上の個々のワイヤにより補強することができる。
【0050】
ワイヤ
ワイヤは、鋼鉄から作られ、すなわち、主成分として(すなわち50重量%よりも多い)又は完全に(100重量%)鋼鉄から成る。
【0051】
ワイヤは、フェライト−パーライト又はパーライト炭素鋼(以下「炭素鋼」(定義上は、少なくとも11%のクロム及び少なくとも50%の鉄を含む鋼鉄)で表される)で作るのが好ましい。使用する鋼鉄は、詳細には炭素鋼であるので、0.4%≦C≦0.74%であるような鋼鉄の炭素重量含有量Cを含む。使用する鋼鉄は、鉄と、0.3重量%から0.7重量%(ここでは0.5重量%)のマンガンと、0.1重量%から0.3重量%(ここでは0.2重量%)のシリコンと、最大で0.045重量%(ここでは0重量%)のリンと、最大で0.045重量%(ここでは0重量%)の硫黄と、最大で
0.008重量%(ここでは0重量%)の窒素と、を含む。
【0052】
使用する鋼鉄は、Cr、Ni、Co、V、又は他の様々な公知の元素(例えば、リサーチディスクロージャ(Research Disclosure)34984−「タイヤ用のマイクロ合金鋼鉄コード構造(Micro−alloyed steel cord constructions for tyres)」1993年5月、及びリサーチディスクロージャ(Research Disclosure)34054−「タイヤ用高引張強度鋼鉄コード構造(High tensile strength steel cord constructions for tyres)」1992年8月を参照のこと)を含むことができ、これにより鋼鉄を極めて特定の用途に適合させることが可能となる。
【0053】
任意選択的に、使用する鋼鉄は、最大で上限0.1重量%、好ましくは上限0.05重量%、より好ましくは上限0.02重量%(ここでは0%)のバナジウムを含む。
【0054】
任意選択的に、使用する鋼鉄は、最大で上限0.1重量%、好ましくは上限0.05重量%、より好ましくは上限0.02重量%、ここでは0%のクロムを含む。
【0055】
任意選択的に、使用する鋼鉄は、最大で上限0.1重量%、好ましくは上限0.05重量%、より好ましくは上限0.02重量%(ここでは0%)のモリブデンを含む。
【0056】
任意選択的に、使用する鋼鉄は、最大で上限0.1重量%、好ましくは上限0.05重量%、より好ましくは上限0.02重量%のバナジウム、クロム及びモリブデンを含む。
【0057】
任意選択的に、使用する鋼鉄は、最大で上限0.05重量%、好ましくは上限0.01重量%、より好ましくは上限0.001重量%(ここでは0%)のニッケルを含む。
【0058】
任意選択的に、使用する鋼鉄は、最大で上限0.05重量%、好ましくは上限0.01重量%、より好ましくは上限0.001重量%(ここでは0%)のボロンを含む。
【0059】
任意選択的に、使用する鋼鉄は、最大で上限0.05重量%、好ましくは上限0.01重量%、より好ましくは上限0.001重量%(ここでは0%)のコバルトを含む。
【0060】
ワイヤは、金属層で被覆することができ、金属層は、例えば、接着、耐腐食又は耐経時特性などのワイヤ、コード及び/又はタイヤ自体の加工特性もしくは使用特性を改善する。ワイヤは、好ましくは、真鍮(Cu−Zn合金)又は亜鉛の層で被覆される。
【0061】
以下の表1において、従来技術及び本発明によるワイヤをまとめている。
【0062】
表1から表4の実施例のワイヤは、0.10mm以上、好ましくは0.12mm以上である直径dを有する。更に、表1から表4の実施例のワイヤは、0.25mm以下、好ましくは0.23mm以下の直径dを有する。
【0064】
実施例1及び2は、従来技術1のワイヤとは対照的に、MPa単位で表した、ワイヤの最大引張強度RがA=0.87で、R≧A(920C+500)/d
1/2であるようなものである。
【0065】
実施例1及び2のワイヤは、A=1であり、好ましくはA=1.10、より好ましくはA=1.30であるようなものである点に留意されたい。
【0066】
実施例1及び2のワイヤは、R≧2600MPaであり、好ましくはR≧2800MPa、より好ましくはR≧3000MPaであるようなものである点に留意されたい。
【0068】
実施例3〜5は、従来技術2によるワイヤとは対照的に、MPa単位で表記されるワイヤの最大引張強度は、A=1でR≧2950MPaであるときに、R≧A(920C+500)/d
1/2であるようなものである。
【0069】
実施例3〜5によるワイヤは、A=1.10であるようなものである点に留意されたい。また、実施例4〜5によるワイヤは、A=1.18であるようなものである点に留意されたい。最後に、実施例5によるワイヤは、A=1.26であるようなものである点に留意されたい。
【0070】
実施例3〜5によるワイヤは、R≧3100MPaであるようなものである点に留意されたい。また、実施例4〜5によるワイヤは、R≧3200MPaであるようなものである点に留意されたい。最後に、実施例4によるワイヤは、R≧3300MPaであるようなものである点に留意されたい。
【0072】
実施例6は、従来技術3によるワイヤとは対照的に、MPa単位で表したワイヤの最大引張強度Rが、d<0.17mmにおいてA=0.96でR≧A(920C+500)/d
1/2であるようなものである。
【0073】
実施例6によるワイヤは、d<0.17mmにおいて、A=1.10、好ましくはA=1.14、より好ましくはA=1.18であるようなものである点に留意されたい。
【0074】
実施例6によるワイヤは、d<0.17mmにおいて、R≧2900MPa、好ましくはR≧3200MPa、より好ましくはR≧3300MPa、更に好ましくはR≧3400MPaであるようなものである点に留意されたい。
【0076】
実施例7及び8は、0.17≦d≦0.23mmにおいて、従来技術4によるワイヤとは対照的に、MPa単位で表したワイヤの最大引張強度Rが、A=1.24でR≧A(920C+500)/d
1/2であるようなものである。
【0077】
実施例7及び8によるワイヤは、0.17≦d≦0.23mmにおいて、好ましくはA=1.26、より好ましくはA=1.28であるようなものである点に留意されたい。また、実施例8によるワイヤは、0.17≦d≦0.23mmにおいて、好ましくはA=1.30であるようなものである点に留意されたい。
【0078】
実施例7及び8によるワイヤは、0.17≦d≦0.23mmにおいて、R≧3000MPa、好ましくはR≧3200MPa、より好ましくはR≧3250MPa、更に好ましくはR≧3500MPaであるようなものである点に留意されたい。
【0079】
実施例1から8によるワイヤは、最大引張強度R≦3.7(920C+500)であり、好ましくはR≦3.6(920C+500)、より好ましくはR≦3.5(920C+500)である。
【0080】
本発明によるワイヤの引き抜きプロセスの実施例
図2には、上述のようなワイヤを引き抜くことを可能にするプロセスの概略図が示されている。
【0081】
巻き解き(uncoilig)工程100において、初期直径がD≧4で、好ましくはD≧5、ここでは5.5mmに等しく、最大引張強度が850MPa〜1200MPaの間、ここではR=1200MPaである鋼鉄ワイヤが解かれる。ワイヤストックと呼ばれるワイヤは、ペイオフリール上にコイルの形態で格納され、これから自動化された解き手段(例えばアンコイラー)を使用して解かれる。また、鋼鉄の微細構造はフェライト・パーライトである。
【0082】
ワイヤストックの剥がし(descaling)工程200において、ワイヤストックは、複数の連続したプーリに移行されて、複数のプーリにより各々形成された2つのストレイテナー(straighteners)に入り、各ストレイテナーのプーリは、他方のストレイテナーのプーリの回転軸に垂直な軸の周りで回転可能に取り付けられている。以上のようにして、ワイヤストックの表面に存在するスケールと呼ばれる酸化鉄の層が除去される。
【0083】
工程300において、ワイヤストックは、引き抜き潤滑剤として接着促進剤の層で被覆される。
【0084】
工程400
1から400
nの目的は、ワイヤの直径を初期直径Dから中間直径d’に低減することであり、例えば中間直径は、1mm以上、好ましくは1.3mm以上であり、また、例えば2.2mm以下、好ましくは2mm以下である。
【0085】
工程400
1から400
n(nは6から12まで変化する)は、初期直径Dから中間直径d’までの途切れのない一連のワイヤの乾式引き抜き工程を形成する。各工程400
1から400
nは、上流側にあるワイヤの直径よりも小さな直径を有するダイにワイヤが移行する乾式引き抜き工程である。従って、ワイヤは、ダイの下流側の直径がダイの上流側の直径よりも小さい。各ダイの直径は、上流に位置するダイの直径よりも小さい。初期直径Dから中間直径d’までの途切れのない一連のワイヤの乾式引き抜き工程において、真歪はε=2ln(D/d’)として定義される。
【0086】
各ダイの下流側に位置するワイヤを引張するための手段、ここではキャプスタンにより、各ダイを通してワイヤを引き抜くのに十分な引張力を作用させることができる。粉状形態の引き抜き潤滑剤が使用される。
【0087】
熱処理工程500において、中間直径d’のワイヤの金属組織構造が、ワイヤストックの構造を再生するために改質される。
【0088】
この工程500の間、中間直径d’のワイヤは、鋼鉄のオーステナイト化温度(ここでは850℃以上)で加熱され、その後冷却されて、パーライト又はフェライト・パーライト微細構造が得られる。
【0089】
工程600において、中間直径d’のワイヤは、少なくとも1つの金属層(ここでは真鍮の層)で被覆される。工程700
1から700
m(mは8から23まで変化する)の目的は、ワイヤの直径を中間直径d’から最終直径dにまで低減し、且つワイヤの最大引張強度を向上させることである。
【0090】
工程700
1から700
mは、中間直径d’から最終直径dへのワイヤの途切れのない一連の湿式引き抜き工程を形成する。各工程700
1〜700
mは、上流側にあるワイヤの直径よりも小さな直径を有するダイにワイヤが移行する湿式引き抜き工程である。従って、ワイヤは、ダイの下流側の直径がダイの上流側の直径よりも小さい。各ダイの直径は、上流に位置するダイの直径よりも小さい。中間直径d’から最終直径dまでのワイヤの途切れのない一連の乾式引き抜き工程において、真歪はε’=2ln(d’/d)で定義される。
【0091】
変形形態として、工程700
1から700
mは、乾燥環境で実行される。
【0092】
各ダイの下流側に位置するワイヤを引張するための手段、ここでは段付きキャプスタンにより、各ダイを通してワイヤを引き抜くのに十分な引張力を作用させることができる。引張手段及びダイは、例えば、国際特許公開公報WO2008/113481に記載されるように、引き抜き潤滑剤の液体浴に浸漬される。
【0093】
このようにして、引き抜きプロセスは、例えば乾式環境で1回と湿式環境で1回など、N回の途切れのない一連の引き抜き工程を含む。ここではN=2である。従って、引き抜きプロセスに関する全真歪は、εT=2ln(D/d)として定義することができる。
【0094】
引き抜きプロセスは、ワイヤストックの構造を再生することを目的とするM回の熱処理工程を含む。ここではM=1であり、これにより直径dのワイヤの工業生産コストを削減することができる。
【0095】
ワイヤは、本発明によるプロセスにより得ることができる。
【0096】
表5には、上述のワイヤ及びプロセスの特性、並びに従来技術によるワイヤの特性に関する様々な値がまとめられている。
【0098】
実施例1及び2では、ε≦3であり、好ましくはε≦2.75、より好ましくはε≦2.5である点に留意されたい。また、実施例1及び2では、εT≧6.5であり、好ましくはεT≧6.75である点にも留意されたい。実施例3では、より好ましくはεT≧7である。
【0099】
更に、従来技術1とは違って、実施例1及び2では、ε’>4又はε’≧4.3、好ましくはε’≧4.5であり、より好ましくはε’≧4.7である点に留意されたい。
【0101】
実施例3から5においてε≦3、好ましくは実施例4及び5においてε<2,75、より好ましくは実施例5においてε≦2.5である点に留意されたい。また、実施例3から5においてεT≧6.5、及び好ましくはεT≧6.75である点に留意されたい。例えば、実施例3及び4においてより好ましくはεT≧7である。
【0102】
更に、従来技術2とは違って、実施例3から5においてε’>4、又はε’≧4.3であり、実施例4及び5において好ましくはε’≧4.5である点に留意されたい。
【0104】
実施例6から8においてε≦3、好ましくは実施例7及び8においてε<2,75、より好ましくは実施例8においてε≦2.5である点に留意されたい。また、実施例6から8においてεT≧6.5、及び好ましくはεT≧6.75である点に留意されたい。例えば、実施例6においてより好ましくはεT≧7である。
【0105】
更に、従来技術3及び4とは違って、実施例6から8においてε’>4、又はε’≧4.3である点に留意されたい。好ましくは、実施例8においてε’≧4.5である。
【0106】
本発明は上述の実施形態に限定されない。
【0107】
実際に、剥がし工程200は、例えば酸である化学物質の作用により行うことができる。
【0108】
更に、工程600の間、中間直径のワイヤは、亜鉛層のみで被覆することができる。更に、ワイヤは、例えばワイヤの耐腐食性及び/又はゴムに対する接着性を改善する役割を有する真鍮又は亜鉛以外の金属層、例えば、Co、Ni、Al、又は化合物Cu、Zn、Al、Ni、Co及びSnのうちの二種類又はそれ以上から成る合金の薄層で被覆することができる。
【0109】
他の主題は、本発明によるプロセスを用いて得ることができる。すなわち、本発明によるプロセスによって得られる複数のワイヤを備えたコードを得ることができる。このようなコードは、層構造のタイプ又はストランドタイプのものである。ワイヤ又はストランドを組み立てるための2つの実行可能な技術、すなわち、ケーブル固定法(この場合、組立点の前後で同期回転する理由から、ワイヤ又はストランドがこれら自体の軸の周りにねじりを受けない)と、ねじり法(この場合、ワイヤ又はストランドは、これら自体の軸線の周りに全体的なねじりと個々のねじりの両方を受け、これによりワイヤ又はストランドの各々にねじり戻りトルクが発生する)とがあることが想起される。
【0110】
また、本発明によるプロセスによって得られる少なくとも1つのワイヤが埋設されたゴムマトリックスを備える半仕上げ要素を得ることも可能である。
【0111】
ゴムマトリックスは、少なくともジエンエラストマー、補強充填剤、加硫系及び様々な添加剤を含む。
【0112】
ゴムマトリックスのジエンエラストマーは、少なくとも部分的に(すなわち、単独重合体又は共重合体)ジエンモノマー(2つの共役又は非共役炭素−炭素二重結合を含むモノマー)に由来するエラストマーを意味するものと一般に理解される。
【0113】
ジエンエラストマーは、公知のように、2つのカテゴリ、すなわち、「本質的に非飽和」と呼ばれるものと、「本質的に飽和」と呼ばれるものに分類することができる。特に好ましくは、ゴムマトリックスのジエンエラストマーは、ポリブタジエン(BR)、合成ポリイソプレン(IR)、天然ゴム(NR)、ブタジエン共重合体、イソプレン共重合体、及びこれらエラストマーの混合物から成る(本質的に非飽和の)ジエンエラストマーの群から選択される。このような共重合体は、より好ましくは、ブタジエン/スチレン共重合体(SBR)、イソプレン/ブタジエン共重合体(BIR)、イソプレン/スチレン共重合体(SIR)、イソプレン/ブタジエン/スチレン共重合体(SBIR)及びこのような共重合体の混合物から成る群から選択される。
【0114】
ゴムマトリックスは、単一のジエンエラストマー又は複数のジエンエラストマーの混合物を含むことができ、ジエンエラストマーは、ジエンエラストマー以外のあらゆる種類の合成エラストマーと組み合わせて、又は例えば熱可塑性重合体などのエラストマー以外のポリマーと組み合わせて使用することも可能である。
【0115】
補強充填剤として、カーボンブラック又は無機充填剤を使用することが好ましい。より詳細には、あらゆるカーボンブラック、特に従来からタイヤで使用されているHAF、ISAF及びSAFタイプのブラックがカーボンブラックとして適切である。このようなブラックの非限定的な実施例として、例えば、N115、N134、N234、N330、N339、M347及びN375ブラックを挙げることができる。しかしながら、当然であるが、カーボンブラックは、補強充填剤及び特に他の無機充填剤と配合して使用できる。このような充填剤は、シリカ、特に、デグサ(Degussa)社により提供されるUltrasil7000シリカ及びUltrasil7005シリカである、高分散性シリカを含む。
【0116】
最後に、当業者であれば、上記段落で記載された補強無機充填剤と同等の充填剤として、他の特性、特に有機的特性の補強充填剤を用いることができ、但し、この補強充填剤は、シリカのような無機層で覆われるか、又は補強充填剤の表面に充填剤とエラストマーとの間の結合を形成するために結合剤を使用することが必要となる官能性サイト、特にヒドロキシルサイトを含むことを条件とする。
【0117】
また、目標とする用途に応じて、粘土粒子、ベントナイト、タルク、チョーク及びカオリンのような、例えば着色タイヤのサイドウォール又はトレッドで使用できる不活性(非補強性)充填剤を補強充填剤に添加することができる。
【0118】
ゴムマトリックスはまた、タイヤの製造用のエラストマー組成物で通常使用される標準添加剤の全て又は一部を含むことができ、例えば、標準添加剤として、可塑化剤又は性質上芳香性でも非芳香性でもよい伸展油、顔料、耐オゾン性ワックス、化学的オゾン劣化防止剤、酸化防止物質のような保護剤、疲労防止剤、補強充填剤、メチレン受容体(例えばフェノールノボラック樹脂)、メチレン供与体(例えばHMT(ヘキサメチレンテトラミン)又はH3M(ヘキサメトキシメチルメラミン))が挙げられる。
【0119】
ゴムマトリックスはまた、硫黄又は硫黄供与体、及び/又は過酸化物、及び/又はビスマレイミド、加硫促進剤及び加硫活性剤の何れかに基づいた加硫系を含むことができる。実際の加硫系は、好ましくは、硫黄及び一次加硫促進剤、特に、2−メルカプトベンゾチアジル二硫化物(MBTS)、N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアゾールスルフェンアミド(CBS)、N、N−ジシクロヘキシル−2−ベンゾチアゾールスルフェンアミド(DCBS)、N−tert−ブチル−2−ベンゾチアゾールスルフェンアミド(TBBS)、N−tert−ブチル−2−ベンゾチアゾールスルフェンイミド(TBSI)及びこれらの化合物の混合物からなる群から選択されるような、スルフェンアミドタイプの促進剤に基づく加硫系である。
【0120】
最後に、本発明によるプロセスによって得られるワイヤを備えたタイヤを得ることができる。
【0121】
好ましくは、本発明のタイヤは、乗用車、バン、重量車(すなわち、地下鉄、バス、大型道路輸送車両(大型トラック、トラクタ、トレーラ)、及びオフロード車両)、農業機械又は建設土木機械のような大型車両から選択された産業車両、航空機、及び他の輸送又は荷役車両を対象としている。より好ましくは、タイヤは、大型車、農業機械又は建設土木機械、航空機、及び他の輸送又は荷役車両を対象としている。
【0122】
好ましくは、ワイヤは、タイヤクラウン及び/又はカーカス補強部材を補強することを目的とする。より好ましくは、ワイヤは、タイヤカーカス補強部材を補強することを目的とする。
【0123】
好ましくは、タイヤは、重量車両タイプの車両向けであり、本発明によるプロセスによって得られた少なくとも1つのワイヤを含むカーカス補強部材を備える。