【実施例1】
【0012】
本実施例では、空転中の交流電動機の回転状態の判断が可能な電力変換装置の構成の一例を説明する。具体的に考えられる本発明の適用例として、例えば、ファン用途に交流電動機を用いている場合に、外力(風等)により交流電動機が空転中において、電力変換装置は停止しており、交流電動機の回転状態を知ることができない。本発明を適用することで、交流電動機が空転中の場合における始動方法、交流電動機が停止中の場合における始動方法を選択することが可能となり、始動失敗の懸念はなくなる。
【0013】
図1は、実施例1における電力変換装置の構成図の一例である。永久磁石同期電動機105を駆動する電力変換装置101は、平滑コンデンサ102と、電力変換器103と、電流検出器104と、制御装置106とを有する。
【0014】
平滑コンデンサ102は、直流電圧を平滑化するための平滑コンデンサであるが、平滑させずに直流電圧を直接入力してもよい。電力変換器103は、半導体スイッチング素子のオン・オフの組み合わせに応じて、直流電圧を任意の電圧に変換する。
【0015】
電流検出器104は、例えばシャント抵抗やホールCTであって、電力変換器103の3相出力電流を検出する。2相のみを検出し、3相交流の総和が零であることから、残りの1相を算出してもよい。また、電力変換器103の入力の正極または負極にシャント抵抗を配置し、シャント抵抗に流れる電流から3相出力電流を推定してもよい。
【0016】
制御装置106は、交流電動機制御部107と、交流電動機状態判断部108と、ゲート信号制御部109と、設定部110とを有する。交流電動機制御部107は、永久磁石同期電動機105の速度またはトルクを任意に制御するために、3相出力電流に基づいた電圧指令を出力する。
【0017】
交流電動機状態判断部108は、設定部110から交流電動機状態判断値、交流電動機定数設定値等の各設定値、電流検出器104にて検出した3相出力電流を受け付け、指令部111から回転状態判断実施指令を受け付けた際、永久磁石同期電動機105の回転状態を交流電動機制御部107に、また遮断指令をゲート信号制御部109に出力する。本実施例の構成は、指令部111を電力変換装置101の外で構成したが、電力変換装置101内に構成しても構わない。
【0018】
ゲート信号制御部109は、交流電動機制御部107より電圧指令を受け取り、永久磁石同期電動機105に電圧指令に基づいた電圧が印加されるように、半導体スイッチング素子のオン・オフを制御する。また、ゲート信号制御部109は、交流電動機状態判断部108より遮断指令を受け取ると、永久磁石同期電動機105に対して電圧印加を中断するように、半導体スイッチング素子をすべてオフする。
【0019】
図2は、
図1に示した電力変換装置の交流電動機状態判断部108の構成図の一例である。交流電動機状態判断部108に例えば3相出力電流i
u、i
v、i
wが入力されている場合、ピーク電流生成部201にてピーク電流を生成する。
【0020】
交流電動機状態判断処理部203は、
図2のピーク電流生成部201にて生成したピーク電流、交流電動機定数等を入力とし、回転状態判断結果、測定状態を出力する。測定状態に応じて電圧印加処理部202では、任意の電圧の印加指令もしくは遮断指令を出力する。この際、印加する任意の電圧は、直流電圧でも交流電圧でも良い。また、印加する電圧は、ユーザがパラメータ等で任意に決定することもできる。
【0021】
図3は、
図2に示した電力変換装置の交流電動機状態判別部108内の交流電動機状態判断処理部203の構成処理の一例である。交流電動機状態判断処理部203の内部処理として、例えば、まず交流電動機状態判断値判定処理部304にてピーク電流値が判断値以上もしくは超えているか否か判定する。交流電動機状態判断値の判断は、以上でも超えていてもどちらでも良く、その判定をパラメータ等で任意にユーザが設定し決定しても良い。判定結果が「YES」の場合、回転中処理部305にて回転中と判定される。また、判定結果が「NO」の場合、交流電動機状態判断時間判定処理部307にて判断値以上もしくは超えているか否か判定する。交流電動機状態判断時間の判断は、以上でも超えていてもどちらでも良く、その判定をパラメータ等で任意にユーザが設定し決定しても良い。判定結果が「YES」の場合、非回転中処理部308にて非回転中と判定される。また、判定結果が「NO」の場合、測定中処理部309にて測定中と判定される。次に、回転状態判断終了判定処理部306にて判断済か否か判定する。判定結果が「YES」の場合、測定終了処理部310を介して遮断命令を命令部311に出力し、命令部311からは
図2の電圧印加処理部202へ遮断命令が出力されると同時に回転状態判断結果も出力する。判定結果が「NO」の場合、測定継続処理部312を介して印加命令を命令部311に出力し、命令部311からは
図2の電圧印加処理部202へ印加命令が出力され測定を継続する。
【0022】
ここで、交流電動機状態判断値判定処理部304で用いた交流電動機状態判断値および交流電動機状態判断時間判定処理部307で用いた交流電動機状態判断時間について説明する。
【0023】
例えば、交流電動機定数として予め知られている誘起電圧定数Keと所望の周波数に応じた電圧を数1によって決定することができる。ここで、所望の周波数は、例えば、永久磁石同期電動機105における基底周波数の10%やパラメータ等で任意にユーザが設定し決定しても良い。
【0024】
数1において、Keは、永久磁石同期電動機105の誘起電圧定数、fは、所望の周波数である。
【0025】
【数1】
【0026】
図4は実施例1における任意の電圧を印加する電力変換装置と永久磁石同期電動機105の関係を示す簡易的な1相分の等価回路図の一例である。
図4において、V
Iは任意の印加電圧、Rは永久磁石同期電動機105の巻線抵抗、Lは永久磁石同期電動機105の巻線インダクタンス、V
Mは永久磁石同期電動機105から発生する誘起電圧である。また、このときの電流Iは、任意の印加電圧V
Iと永久磁石同期電動機105から発生する誘起電圧V
Mの差分および永久磁石同期電動機105の巻線抵抗R、巻線インダクタンスLにより流れる。
【0027】
図5は、実施例1における、永久磁石同期電動機105回転中に、電圧V
Iを印加した際に流れる電流と時間の関係を示した一例である。なお、図中のV
Mは誘起電圧の実効値もしくは波高値である。任意の電圧を印加すると、ある一定時間経過後に、任意の印加電圧と永久磁石同期電動機105が発生する誘起電圧とに対応した電流が流れる。このとき、流れる電流の約63%の値まで成長する時間すなわち時定数τは、電動機定数を用いて数2にて導出することができる。
【0028】
数2において、Lは、永久磁石同期電動機105の巻線インダクタンス、Rは永久磁石同期電動機105の巻線抵抗である。
【0029】
【数2】
【0030】
なお、
図5は簡易的な1相分の等価回路における、直流電圧印加時の一例を示したが、2相や3相といった多相交流の場合には、印加電圧のノルムをV
I、誘起電圧のノルムをV
Mとすることで、同様に考えることが可能である。
【0031】
以上のように
図5の関係があることを利用すると、交流電動機状態判断値は、任意に印加した電圧と永久磁石同期電動機105から発生する誘起電圧の電圧差分値及び永久磁石同期電動機105の巻線抵抗Rから導出した値の約63%の値とすることができる。ここで、交流電動機状態判断値は、数1を用いて決定してもよく、その判断値をパラメータ等で任意にユーザが設定し設けても良い。
【0032】
交流電動機状態判断時間は、数2で導出した値の時定数τとするができる。交流電動機状態判断時間は、数2を用いて決定してもよく、その判断時間をパラメータ等で任意にユーザが設定し設けても良い。
【0033】
図6は、実施例1における、永久磁石同期電動機105に交流電動機状態判断値を加味した電圧を印加した際の電流と時間の関係図の一例である。なお、
図6は、永久磁石同期電動機105が高速で回転している際の電流と時間の関係、及び、低速で回転している際の電流と時間の関係を、同図にて示している。
図6において、I
Jは、数1を用いて導出した交流電動機状態判断値である。
【0034】
低速時においては、永久磁石同期電動機105から発生する誘起電圧が小さいため、流れる電流は小さく、時定数τを経過しても交流電動機状態判断値以下もしくは未満となる。すなわち、数1で設定した周波数をそれ以下での回転は停止として判断をする停止判断周波数とし、その周波数以下もしくは未満で回転しているということを表しており、非回転と判断することができる。
【0035】
一方、高速時においては、永久磁石同期電動機105から発生する誘起電圧が大きいため、流れる電流は大きく、時定数τを経過する前に交流電動機状態判断値以上もしくは超過となる。すなわち、数1で設定した周波数以上もしくは超えて回転しているということを表しており、回転中と判断することができる。
【0036】
ここで、交流電動機状態判断値において停止と判断する周波数と印加する任意の電圧の関係性について具体的な数値例を用いて説明する。例えば、永久磁石同期電動機105の停止判断周波数を10Hzとした場合について説明する。この際に停止と判断する周波数は、ユーザが任意にパラメータ等で決定しても良く、本処理内部で予め設けておいても良い。印加する電圧は、例えば上記停止判断周波数および数1から5Hz相当の電圧を演算し、これをV
Iとして永久磁石同期電動機105に印加する。また、交流電動機状態判断値I
Jは、印加した電圧V
Iと永久磁石同期電動機105の巻線抵抗Rから導出した値の約63%の値とする。具体的な数値条件として、永久磁石同期電動機105の巻線抵抗R、永久磁石同期電動機105の巻線インダクタンスL、永久磁石同期電動機105の誘起電圧定数Keを説明の便宜上すべて1とする。
【0037】
図7は、実施例1において特定の条件時における永久磁石同期電動機105の回転周波数に応じた電流成長図の一例である。
図7において交流電動機状態判断時間τは、上記条件と数2より1sとなる。永久磁石同期電動機105の回転周波数が10Hzより高い場合、交流電動機状態判断時間τの経過前に、交流電動機状態判断値I
Jを超えていることがわかる。よって、回転中と判断することが出来る。また、永久磁石同期電動機105の回転周波数が10Hzより低い場合、交流電動機状態判断時間τ経過時に交流電動機状態判断値I
Jを超えていない。よって、非回転と判断することが出来る。例えば、永久磁石同期電動機105の回転周波数が5Hzであった場合は、永久磁石同期電動機105の誘起電圧と、印加された5Hz相当の電圧Viが相殺されるため、電流値は0となる。 上記具体例では、停止と判断する周波数の決定後、印加する電圧を導出したが、印加する電圧から停止と判断する周波数を逆算して求めることも可能である。
【0038】
図8は、実施例1における電力変換装置の交流電動機状態判断値及び交流電動機状態判断時間に任意の閾値を設けた場合の印加電圧と電流の関係図である。交流電動機状態判断負閾値801は、例えば
図5の交流電動機状態判断値の−5%であり、交流電動機状態判断正閾値802は、例えば
図5の交流電動機状態判断値の+5%とすることができる。同様に、交流電動機状態判断負時間閾値803は、例えば数2で導出した交流電動機状態判断時間の−5%であり、交流電動機状態判断正時間閾値804は、例えば数2で導出した交流電動機状態判断時間の+5%とすることが可能である。それぞれの閾値で設定した範囲内(±5%)においては、それぞれ状態判断値、状態判断時間と同一値であると判断することができ、測定の誤差等を考慮した判断が可能となる。なお、交流電動機状態判断負閾値801と交流電動機状態判断正閾値802、交流電動機状態判断負時間閾値803と交流電動機状態判断正時間閾値804のどれも同一の値でも異なる値でも構わない。交流電動機状態判断負閾値801と交流電動機状態判断正閾値802、交流電動機状態判断負時間閾値803と交流電動機状態判断正時間閾値804は、パラメータ等で任意にユーザが設定しても良い。
【0039】
以上、任意の電圧を印加することで流れる電流値が交流電動機状態判断時間までに交流電動機状態判断値以上もしくは超えたか否かで、回転状態を判断することができる。
【0040】
なお、判断結果をもって、永久磁石同期電動機105の再起動方法を選択することができる。具体的な再起動方法の例として、出力する周波数を0Hzから再起動する方法と回転子の周波数、位相、回転方向に合わせながら再起動する方法がある。例えば、回転状態判断結果が非回転中であったら0Hzから徐々に周波数を上昇させて再起動する。このような再起動方法をとることで永久磁石同期電動機105の回転周波数を取得する必要がないためより早く再起動することが可能となる。また、例えば、回転状態判断結果が回転中であったら回転子空転中の周波数、位相、回転方向に合わせながら再起動することができる。このような再起動方法をとることで、永久磁石同期電動機105に過度な負荷を与えることなくスムーズに再起動することが可能となる。
【実施例2】
【0041】
本実施例では、実施例1と共通する部分については、同様の符号を用いて説明し、異なる部分について詳細に説明するものとする。
【0042】
図9は、本実施例の構成図の一例である。誘導電動機905を駆動する電力変換装置901は、平滑コンデンサ102と、電力変換器103と、電流検出器104と、制御装置906とを有する。制御装置906は、交流電動機制御部107と、交流電動機状態判断部908と、ゲート信号制御部109と、設定部910とを有する。
【0043】
交流電動機状態判断部908は、設定部910から交流電動機状態判断設定値、交流電動機状態判断時間設定値等の各設定値、3相出力電流を受け付け、指令部111から回転状態判断実施指令を受け付けた際、誘導電動機905の回転状態を交流電動機制御部107に、また遮断指令をゲート信号制御部109に出力する。
【0044】
図10は、交流電動機状態判断部908の構成図の一例である。交流電動機状態判断部908の内部処理として、例えば、まず交流電動機状態判断値判定処理部1004にてピーク電流値が設定値以上もしくは超えているか否か判定する。交流電動機状態判断設定値の判断は、以上でも超えていてもどちらでも良く、パラメータ等で任意にユーザが設定し決定しても良い。判定結果が「YES」の場合、回転中処理部305にて回転中と判定される。また、判定結果が「NO」の場合、交流電動機状態判断時間判定処理部1007にて設定値以上もしくは超えているか否か判定する。交流電動機状態判断時間の判断は、以上でも超えていてもどちらでも良く、パラメータ等で任意にユーザが設定し決定しても良い。判定結果が「YES」の場合、非回転中処理部308にて非回転中と判定される。また、判定結果が「NO」の場合、測定中処理部309にて測定中と判定される。
【0045】
本実施例の
図10において、以下の誘導電動機905の回転状態判断方法については実施例1と同様であるので省略する。ここで、回転子空転中の誘導電動機905に印加する電圧は、実施例1のように数1を用いて導出しても、パラメータ等でユーザが任意に設定した値を印加しても良い。
【0046】
交流電動機状態判断処理部1003内にある交流電動機状態判断値判定処理部904の交流電動機状態判断設定値は、実施例1のように交流電動機定数から導出しても、パラメータ等でユーザが任意に設定した値を用いても良い。また、交流電動機状態判断時間判定処理部1007の交流電動機状態判断時間設定値においても同様に、交流電動機定数から導出しても、パラメータ等でユーザが任意に設定した値を用いても良い。
【0047】
交流電動機の回転状態判断後、例えば、交流電動機状態判断部908が、交流電動機回転状態判断結果情報を
図9の表示部909に通信等を用いて通報し交流電動機回転状態を表示させる。また、交流電動機状態判断部908は、交流電動機回転状態を交流電動機回転状態出力部910に通報し、交流電動機回転状態出力部910は、交流電動機回転状態を知らせるため交流電動機回転状態信号を出力し、端子等を介して外部に通報する。
【0048】
上記では、主に交流電動機が一般的な1次遅れ系で表現できるものと想定し、時定数τや定常値の約63%を用いて説明したが、本発明はこれに限らない。例えば、時定数τの代わりに、定常値の10%から90%に至る時間、すなわち立ち上がり時間を用いることや、定常値の約63%の代わりに定常値の50%を用いることといった、様々な変形を考えることが可能である。
【0049】
なお、上記実施形態では永久磁石同期電動機や誘導電動機に適用した場合につき説明したが、例えば交流電動機や直流電動機、回転子に永久磁石を用いない同期電動機のような、誘起電圧が発生していない状態で、外力で回転もしくは停止している電動機においても適用可能である。例えば誘導電動機の場合、外力により回転していても時間の経過とともに、残留電圧がなくなってしまう。本発明では、このような場合であっても、電力変換装置から電動機に電圧を印加することにより、電動機からの電流を検出することができ、回転状態の判断が可能となる。
【0050】
本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【0051】
また、上記の各構成、機能、処理部、処理手段等は、それらの一部又は全部を、例えば集積回路で設計する等によりハードウェアで実現してもよい。また、上記の各構成、機能等は、プロセッサがそれぞれの機能を実現するプログラムを解釈し、実行することによりソフトウェアで実現してもよい。各機能を実現するプログラム、テーブル、ファイル等の情報は、メモリや、ハードディスク、SSD(Solid State Drive)等の記録装置、または、ICカード、SDカード、DVD等の記録媒体に置くことができる。
【0052】
また、制御線や情報線は説明上必要と考えられるものを示しており、製品上必ずしも全ての制御線や情報線を示しているとは限らない。実際には殆ど全ての構成が相互に接続されていると考えてもよい。