(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0015】
[概説]
当業者ならば、本発明の対象の性質を説明するために記載され例示されてきた部分および動作の詳細、材料および配置構成において、多くの修正および変形が可能であり、そのような修正および変形は、そこに含有される教示および特許請求の範囲の精神および範囲から逸脱しないことが理解されよう。
【0016】
その可能性ある実施形態のいくつかにおいて、本発明の対象は一般に、織地の既存の性質を必ずしも打ち消すことなく織地に新しい性質を与える、ポリペプチドを含む基材材料のコーティングを対象とする。バイオマテリアルをベースにしたコーティングは、本発明の対象の下で企図される。様々な天然または合成シルク(例えば、蚕蛾またはスパイダシルク)のポリペプチドまたはタンパク質をベースにしたコーティングが、本発明の対象の下で特に企図される。本発明の対象の下で特に企図される基材には、織地が含まれる。織地は、任意の特定のタイプに限定されない。本明細書で使用される「織地」は最も広範な意味で使用され、即ち、アパレル、履物および室内装飾材料の品目などの、完成品の布地または服地のような有用な柔軟な材料の、織られた、編まれた、フェルト製の、またはその他の織られたもしくは不織の薄いシートに使用される。織地は、合成繊維、天然繊維、ブレンドおよびバイオベースの繊維材料からなるものであってもよい。
【0017】
その可能性ある実施形態のいくつかにおいて、本発明の対象は、プラズマ加工操作における、基材として織られたおよび不織の織地(本明細書では、「加工物」と呼ぶこともある。)の表面の修飾に関する。「大気プラズマ」加工として公知の種類のプラズマ加工操作は、そのような修飾をもたらすのに特に適している。織地表面にポリペプチドまたはタンパク質コーティングを付着させる性質における、織地の修飾が、本発明の対象によって特に企図される。
【0018】
様々な実施形態では、機能性タンパク質を布地表面またはその他の基材表面に堆積し硬化するのに、プラズマ加工を使用する。プラズマ処理を介して織地上に堆積されたバイオマテリアルの構造物を生成することは、本発明の対象による、触覚フィードバックまたは布地の風合いを変化させる新規な手法である。プラズマ堆積による手触り感の変化は、所望の物理的性質を有するバイオマテリアルの堆積を含む。バイオマテリアルは、合成および天然タンパク質、セルロース材料、ならびにやがて開発される材料を含んでいてもよい。例えばシルクは、滑らかさおよび快適さが公知である。シルクポリペプチドまたはタンパク質を布地に堆積することによって、シルクの感触が与えられるように、布地の風合いを変化させてもよい。したがっていくつかの実施形態では、本発明の対象は、所定の風合いまたは触覚属性、例えば、滑らかさ、摩擦、弾性、熱伝導性、および任意のその他の触知属性に関して、織地の風合いを改善することを対象とする。
【0019】
いくつかの実施形態では、得られる構造物に新しい機能性を与えるために、プラズマ加工を使用して、織地の1カ所以上の表面に物質を堆積し、この新しい機能性は、布地の風合いの修飾に加えられるまたはその代わりとなるものである。例えば、シルクポリペプチドまたはタンパク質を布地に堆積することによって、布地の強度または弾性を変化させてもよい。したがって、いくつかの実施形態では、本発明の対象は、所定の属性、例えば、強度、弾性、熱保持性、およびその他の物理的属性に関して、織地の風合いを改善することを対象とする。
【0020】
現行の織地湿式プロセスは、エネルギおよび資源集約的である。染色、水または染みを弾く性質の付加、およびその他の表面処理などの、織地プロセスは、乾燥のために大量の水および大量のエネルギを必要とし、硬化温度を維持する必要がある。湿式染色設備は、工場の床に広い設置面積も有する。したがって、水をほとんどまたは全く使用しない、改善された織地プロセスが求められている。そのようなプロセスは、少ないエネルギおよび空間と、より少ない化学物質および副生成物しか必要としないことも求められている。様々な疎水性/親水性のバイオマテリアルを選択することにより、プラズマ加工は、撥水性および染色可能性などの特性を与えるのに使用されてもよい。例えば、主として疎水性である天然または合成アミノ酸を有するポリペプチドは、水および/または染みを弾く性質を与えてもよい。
【0021】
プラズマ技術は、少なくともほぼ1960年代以来のものである。プラズマは一般に、イオン、自由電子、ある量の可視、UV、およびIR放射エネルギなどの励起種によって特徴付けられる物質の、気状相と見なされる。プラズマ状態は、電気エネルギ、核エネルギ、熱エネルギ、機械エネルギ、および/または放射エネルギによって発生させることができる。プラズマは、荷電粒子密度、温度、圧力、電場および/または磁場の存在/不在によって、特徴付けてもよい。プラズマは一般に、熱または熱以外として分類される。熱プラズマでは、数千度の温度に到達し、それが織地およびその他一般の材料に破壊的となる。熱以外のプラズマは、摂氏0〜100度の間の範囲など低温で維持され得るので、「冷」プラズマと呼ぶこともある。織地の適用例で使用することができる、2つのタイプの冷プラズマ:低圧、即ち準大気圧(約1〜100pa)、および大気(周囲)圧がある。
【0022】
大気プラズマは、いくつかの異なる形:コロナ処理、誘電障壁放電、ハイブリッド結合、および大気グロー放電で利用可能である。低圧プラズマ処理の1つの欠点は、収容された容器内で、真空中で行われることである。したがって処理は、連続加工ではなく、織地のバッチ加工に限定される。ロールツーロール(roll-to-roll)プロセスで大量の織地を加工する速度では、バッチ加工は効率的ではない。一方、大気プラズマ処理における最近の発展により、現在では、織地の連続加工の可能性が存在する。大気プラズマは、ロールツーロールプロセスとすることができ、室温で高温反応を模倣することができるので、織地の修飾に使用される理想的なプロセスであることが将来約束される。
【0023】
織地は、高い硬化およびプロセス温度にしばしば限定される。多くのパラメータが、プラズマ処理に影響を及ぼすが(プラズマガスのタイプ、滞留時間、ガス流、周波数、電力、圧力、周囲温度、液体モノマ、ガス)、プロセスは、よりエネルギ効率が高く、環境に優しい。従来の高温プラズマプロセスのマイナス面は、表面修飾および分子修飾が、プラズマの侵襲的な性質によって制限されることである。プラズマは、プラズマに注入される分子の分子鎖を破壊し、材料を断片化する。大気プラズマは、ヤーン間の空間を維持し、多数回の家庭での洗濯に耐え、布地の一体化を維持し、布地の空気透過性に影響を及ぼさないコーティングを生成するように、十分なエネルギを提供する。織布における繊維の間の空間は、100nm程度であり、70nmの被膜の厚さは、布地の通気性に対して無視できるほどの影響しか及ぼさないと考えられる。
【0024】
プラズマ中のイオン化種は、電圧がガスの両端に印加されたときに生じることができる。プラズマ中に存在するラジカルは、基材の表面および/またはプラズマ中のその他の化学種と反応する。プラズマ反応は、様々な方法で基材表面を変換することができる。プラズマ中の化学種およびエネルギは、基材表面をエッチングし、または清浄化するのに使用されてもよい。プラズマは、様々な形の基材表面活性化を引き起こし得る。例えばプラズマ条件は、化学結合の破壊、化学的部分および官能基のグラフト化、表面材料の揮発および除去(エッチング)、表面汚染物質/層の解離(清浄化/精練)、および相似コーティングの堆積を引き起こし得る。これら全てのプロセスでは、織地材料の非常に表面特異的な領域(例えば、<1000A)に、構成繊維またはその他の構成材料のバルク特性に悪影響を及ぼすことなく新しい所望の性質が与えられる。いくつかの織地の適用例を示すと、表面は、粗くしても滑らかにしてもよい。表面は、より疎水性にまたはより親水性にしてもよい。表面の化学的修飾は、官能基を基材表面に結合することによって行うことができる。薄膜のプラズマ重合も、選択肢である。プラズマプロセス中、モノマまたはポリマを、一緒に連結し、または基材表面で重合することができ、様々な表面および技術的性能の変化を持つ薄膜が提供される。前処理および表面修飾は、プラズマガス/基材の相互作用を使用して実現することができる。例えば、薄膜および官能基を付着させるため、少量の化学物質を、シリンジまたはミストを介してプラズマ雲(plasma cloud)に注入する。あるガスプラズマは、ある効果のために、即ち:アルゴン−表面粗さの改良;酸素−表面および表面エネルギ改良;アンモニアおよび二酸化炭素−表面化学反応性の改良に使用される。ヘリウムの不活性ガスプラズマの使用は、フリーラジカル反応を介して重合するモノマに特に適している。不活性ガスは、生成されたポリマコーティングを化学的に変化させることなく、重合を誘発することができる。前述の反応性ガス(H
2、N
2、NH
3)の付加は、得られるポリマの性能および組成を変化させることができる。これらのブレンドは、縮合反応またはポリマ鎖の架橋を誘導することができる。例えばH
2の付加は、縮合反応により、OH基の損失を介してモノマの縮合をもたらすことができる。さらに、モノマの耐久性を増大させるため、N
2およびNH
3の付加は、ポリマ鎖の架橋を誘導し得る。モノマと布地との間で誘導されたプラズマ誘導重合反応またはモノマ間重合の提案された経路が、文献に記載されている。
【0025】
本明細書で企図されるバイオマテリアルの付着に加え、プラズマ処理は、撥水、難燃、およびその他の仕上げなどの布地の処理の適用に使用されている。難燃性および撥水性モノマは、浴内で混合され、基材に付着されてもよく、またはプラズマチャンバ内で気化させ付着させてもよい。次いで仕上げは、大気グロー放電プラズマなどのプラズマ操作を使用して同時に硬化する。したがって添加剤は、本明細書に開示されたバイオマテリアルを付着するのに使用された同じプラズマプロセスによって、同時にまたは順次、基材に付着させてもよい。添加剤は、撥水性、抗菌性、難燃性、染色化学、およびその他の布地の処理の1種以上の仕上げの、一次、二次、またはより高次の付着を含む。したがって、1種以上の二次機能性仕上げの付加は、本明細書で企図されるタンパク質モノマ供給原料に、または別々に付着される供給原料に含めてもよい。例えば、異なる供給原料での二次仕上げは、大気プラズマ内でのさらなる通過を介して付加してもよい。
【0026】
下記は、タンパク質モノマの導入および硬化と、その後に続く二次仕上げの、1つの可能性ある実施形態である。第1のステップである予備堆積ステップでは、基材、例えば布地を、プラズマ前処理に供して布地の表面を活性化する。第2のステップでは、ポリペプチドモノマが、蒸気の形で(またはパッディング(padding)付加を介して)布地の活性化表面に堆積される。第3のステップでは、堆積されたモノマを持つ布地表面を、第2のプラズマ曝露に供して、モノマを重合する。この多重ステップのプロセスは、1ステッププラズマ処理ステップで布地をプラズマモノマミックス中に通し、また布地へのモノマの堆積、重合、または硬化を可能にする1ステッププロセスに対して、モノマ供給原料溶液組成およびプラズマパラメータ、例えば流量などを最適化するのに使用されてもよい。さらに、二次仕上げは、これらのプロセスの下で、布地および供給原料溶液に付加することができる。
【0027】
プラズマ条件は、ほぼ室温であり、かつほぼ大気圧である。以下に企図されるタンパク質およびその他のバイオマテリアルは、液体スプレまたは蒸気または噴霧化粒子としてプラズマチャンバ内に注入されてもよく、プラズマプロセス条件になるまで維持されることが期待される。プラズマが生成されると、電圧の印加によって、活性種が生成され、それが織地表面に衝突する。織地では、プラズマが通常は基材の炭素またはヘテロ原子と反応し、活性フリーラジカル官能基を形成することができる。材料(例えば、シルクポリペプチド)がプラズマに注入された場合、材料は、化学結合を介して基材の活性表面基に結合し硬化すべきである。例えば材料は、モノマ間におよび/または基材と結合を形成することによって基材の表面で重合する、モノマ材料であってもよい。
【0028】
布地および同様の繊維ベースの基材では、大気プラズマがほぼ室内条件であるので、布地を空気の湿度に予備調整することは必ずしも必要ではない。いくつかの可能性ある実施形態において、一般的なプロセスでは、布地をプラズマチャンバ内に移動させ、布地を大気圧でモノマに曝し、その後、プラズマによって布地表面でモノマの急速重合または硬化を行って、布地のドレープまたは通気性に影響を及ぼさない均一なコーティングを実現する。堆積された(および/または重合された)モノマの量は、プラズマ条件下でのチャンバ内でのモノマの流量および段階速度または滞留時間に依存し得る。プラズマ条件下でのチャンバ内で費やされた時間の変化は、付着の厚さを増大させることができる。さらにプロセスは、布地のドレープまたは剛性に影響を与えることなく所望の触知感覚が得られるように、コーティングの厚さを増大させるため、非常に多くの回数を繰り返すことができる。
【0029】
一般に、プラズマは、基材表面に短寿命の活性化種を生成し得る。大気プラズマ操作は室温でのフリーラジカル化学作用を使用するので、ポリペプチドは、プラズマ操作中に安定のままであることが予測される。しかし、タンパク質そのものは、ウールの布地(タンパク質でもある。)の前処理で見られたものに類似した手法で、プラズマ中で活性化されることが可能である。タンパク質および布地の基材が共にプラズマによって活性化された場合、各材料からのフリーラジカルは互いに結合することができ、接着を向上させることができる。タンパク質の活性化に問題があり、またはその活性化がタンパク質材料を破壊する場合、ラジカル形成を明確にするために供給ガスを変化させることが可能と考えられる。別の可能性は、モノマコーティングとして、基材上にタンパク質を堆積することであり、モノマを一緒に重合する薬剤としてプラズマからの活性種を使用することである。
【0030】
簡単に言えば、プラズマ装置の電場によって発生したプラズマまたは活性種の電場は、特定の活性基を発生させることができ、プラズマまたはプラズマの活性種と連絡した状態で、プラズマ中に分散させたタンパク質上にまたは基材上に選択的に活性基を形成することができる。プラズマは、モノマを重合するために、および基材の表面上にヒドロキシル、アミン、ペルオキシドなどの活性種を導入するために、使うことができる。
【0031】
大気圧プラズマは、典型的にはヘリウム(例えば、ポリマ堆積の場合)をキャリアガスとして使用するが、その他のガスまたはブレンドを使用することができる。しかしヘリウムは、高イオン化を引き起こすのに十分な振動、電子、および回転エネルギレベルに欠ける可能性がある小さい原子である。その他のガスを、比較的高いエネルギのプラズマを生成する際のキャリアガスとして使用してもよい。そのようなガスには、周囲空気、窒素、酸素、アルゴン、およびこれらのガスの任意の組合せが含まれる。これらのその他のキャリアガスは、比較的高い電圧を必要とし、織地基材に損傷を与える可能性があり、したがってガスおよびプロセス条件は、相応に選択されることになる。
【0032】
[タンパク質の堆積およびコーティング]
いくつかの実施形態では、本発明の対象は、ポリペプチドのモノマの性質のバイオマテリアルを、織地材料またはその他の基材の表面に堆積し、モノマを重合して、基材の表面に固着された層にする方法を対象とする。シルクまたはウールに特有のポリペプチドが、とりわけ企図される。
【0033】
他に指示しない限り、「ポリペプチド」および「タンパク質」という用語は、本明細書では同義に使用され、長さまたは翻訳後修飾とは無関係に、アミノ酸の任意のペプチド結合鎖を意味する。
【0034】
シルクタンパク質に関するバイオテクノロジは、十分確立されており、スパイダDNAなどの供給源から合成シルクを生成するための多くの文献を含む。したがって、下記の内容は、一般的な考察を、主にスパイダシルクをベースにしたいくつかの詳細な代表例と一緒に述べたものである。
【0035】
スパイダシルクは、ウールに類似した化学反応性を有すると考えられる。ウールは、大気プラズマ加工操作の下で使用可能であり、一般に安定であり、結合を形成できることが見出されている。ウールおよびシルクは共に、タンパク質であり、アミノ酸を共有し、これらは電場の下で反応性基にすることができるものである。
【0036】
1つの一般的なシルクはスパイダシルクである。その原材料の状態にあるスパイダシルクの1つの形は、2種の主なタンパク質、セリシンおよびフィブロインからなる。フィブロインはシルクの構造中心であり、セリシンは、それを取り囲む粘性材料である。
図4は、(Gly−Ser−Gly−Ala−Gly−Ala)
nであるフィブロインの一次構造を示す。フィブロインは、クモによってだけではなくカイコガ(Bombyx mori)、その他のガ属、例えば、ヤママユガ(Antheraea)、クリクラサン(Cricula)、エリサン(Samia)、およびゴノメタ(Gonometa)などの蚕蛾の幼虫(moth larvae)、ならびに数多くのその他の昆虫によって生成された、不溶性タンパク質である。フィブロインタンパク質は、逆平行βシートの層からなる。高いグリシン(およびより少ない程度まで、アラニン)含量は、シートの耐密な充填を可能にし、これはシルクの剛性構造および引張り強さに寄与する。フィブロインは、それ自体を、シルクI、II、およびIIIと呼ばれる3つの構造に配置構成することが公知である。シルクIは、カイコガ(Bombyx mori)の絹糸腺から放出されたフィブロインの天然形態である。シルクIIは、絹紡糸におけるフィブロイン分子の配置構成を指し、これはより大きい強度を有し、しばしば様々な商用の適用例で使用されるものである。シルクIIIは、フィブロインの新たに発見された構造である。シルクIIIは、界面(即ち、空気−水の界面、水−油の界面など)で、フィブロイン溶液中で主に形成される。
【0037】
天然スパイダシルクは、ポリペプチドモノマのミルクから生成される。重合は、脱水素プロセスの下で生じる。プロセスの最終ステップは、分子の伸長である。この伸長は、応力下にあり、水素結合によって分子を一緒に接合させ、結晶化させる。このプロセス中、親水性基は内側に移動し、プロセスにおける過剰な水および疎水性基を外に押し遣る。
【0038】
合成シルクタンパク質の溶液は同様に結合する。合成形成中、無極性アミノ酸の疎水性作用(タンパク質間相互作用)、分散力、およびアルギニン残基からの静電引力が、フィブロイン分子の結合に寄与する。記載されるこれら分子の相互作用と、繊維および基材の表面エネルギ(疎水性/親水性)を変化させるのにプラズマを使用できる能力により、ドラグライン(dragline)スパイダシルクのアミノ酸配列は同様に反応することになり、おそらくはウール繊維よりも良好な反応可能性を有すると考えられる。スパイダシルクは、ほとんどの一般的な溶媒および酵素に対して耐性があるので、シルクを布地またはその他の基材に付着させるのにプラズマ加工操作を使用することは、材料の堆積およびコーティングに対する新規な手法である。
【0039】
シルク繊維は水の損失により構造を得るので、この開示は、水を除去してシルクを繊維表面に重合するために制御された熱および硬化ステップを使用する、水の付着を介した布地表面へのシルクタンパク質の付着も企図する。
【0040】
いくつかの実施形態では、シルクタンパク質は、パッドプロセス(pad process)などで布地に直接付着されてもよく、プラズマ操作は、布地上のタンパク質を直接硬化するのに使用されてもよい。
【0041】
この開示は、全ての生物由来スパイダシルク、カイコシルク、その他の節足動物シルク、およびムラサキイガイシルクの使用を含む。この開示は、広範な種々のアミノ酸の組合せおよびブレンド、またはその他の合成、例えば組換えシルク供給源の使用を含み、これらは、当業者ならばシルクタンパク質の代表的なものであると理解するものである。タンパク質の供給源には、天然で収集された生物学的供給源、およびトランスジェニック宿主、例えば大腸菌(E.coli)、哺乳動物細胞(例えば、ヤギ細胞)、および植物供給源、例えば葉、塊茎、小胞体などが含まれるが、これらに限定するものではない。
【0042】
以下の表は、スパイダシルクドラグラインおよびウールの比較アミノ酸組成物を示す。これらの類似性は、無数の研究と共に、タンパク質繊維(ウールおよびシルク)の反応性および使用とプラズマ技術に関して、一貫性および実現可能性を示す。全てのタイプのシルクは4タイプのアミノ酸モチーフを共有するが、クモは、最大7タイプのシルクを合成することができる。これらのタイプは、弾性、結晶化度、弾性を、高強度および低強度で変化している。したがって、合成シルクが市販されるようになるにつれ、種々の性質に合わせてシルクを調整することが可能になる。本発明の性質によれば、全てのシルクと、種々の手触り感、弾性、および強度に合わせたそれらアミノ酸組成物の組合せは、本開示に含まれる。これは、下記のスパイダシルク:ドラグライン、ビスシッド(Visscid)、グルーライク(Glue-like)、マイナー(minor)、コクーン(Cocoon)、ラッピング(Wrapping)、およびアタッチメント(Attachment)シルクの組成物およびブレンドを含む。
【0044】
例示的な例として、米国特許第7,057,023号は、様々な形のスパイダシルクポリペプチドと、シルクを紡糸するための方法および装置とを開示している。その他のシルクのように、スパイダシルクは、大部分が非必須アミノ酸からなるタンパク質様繊維である。円網紡糸スパイダは、7組ほどの多くの高度に特殊化した腺を有し、最大7つの異なるタイプのシルクを生成する。各シルクタンパク質は、異なるアミノ酸組成、機械的性質および機能を有する。シルク繊維の物理的性質は、アミノ酸配列、紡糸メカニズム、および繊維が生成される環境条件によって影響を受ける。
【0045】
スパイダシルクタンパク質は、それらが生成されるクモの腺または器官に応じて表される。存在することが公知のスパイダシルクには、大瓶状糸(major ampullate)(MaSp)、小瓶状糸(minor ampullate)(MiSp)、鞭毛状糸(flagelliform)(Flag)、管状糸(tubuliform)、集合糸(aggregate)、ブドウ状糸(aciniform)、およびナシ状糸(pyriform)スパイダシルクタンパク質が含まれる。各器官由来のスパイダシルクタンパク質は、一般に、それらの物理的および化学的性質によってその他の合成器官由来のものと区別可能である。例えば、大瓶状糸シルクまたはドラグラインシルクは極めて靭性が高い。ウェブ構造に使用される小瓶状糸シルクは、高い引張り強さを有する。部分的に鞭毛状糸シルクからなる円網の捕獲螺旋スパイラルは、弾性であり、破断前の長さを3倍にすることができる。管状糸シルクは卵嚢の外層に使用され、それに対してブドウ状糸シルクはラッピング捕食に関与し、ナシ状糸シルクは、アタッチメントディスク(attachment disk)として下に置かれる。
【0046】
本発明の対象で使用され得るバイオフィラメントタンパク質には、組換えにより生成された大瓶状糸、小瓶状糸、鞭毛状糸、管状糸、集合糸、ブドウ状糸、およびナシ状糸タンパク質を含めたスパイダシルクタンパク質が含まれる。これらのタンパク質は、アメリカジョロウグモ(Nephilla clavipes)、Arhaneus亜種(Arhaneus ssp.)、およびニワオニグモ(A. diadematus)を含むがこれらに限定されない様々なクモ類によって生成されたような、任意のタイプのバイオフィラメントタンパク質であってもよい。また、上述のように、カイコガ(Bombyx mori)などの昆虫によって生成されたタンパク質も、本発明での使用に適している。アメリカジョロウグモ(Nephilia clavipes)大瓶状腺によって生成されたドラグラインシルクは、MaSpIおよびMaSpIIと呼ばれる少なくとも2種のタンパク質の混合物として、天然に生じる。同様に、ニワオニグモ(A. diadematus)によって生成されたドラグラインシルクも、ADF−3およびADF−4と呼ばれる2種のタンパク質の混合物からなる。
【0047】
スパイダシルクタンパク質の配列決定は、これらのタンパク質が4種の単純なアミノ酸モチーフ:(1)ポリアラニン(Ala
n);(2)交互に配されたグリシンおよびアラニン(GlyAla)
n;(3)GlyGlyXaa;および(4)GlyProGly(Xaa)
nの反復によって支配されることを明らかにしており、式中、Xaaは、Ala、Tyr、Leu、およびGlnを含めたアミノ酸の小さい部分集合を表す(例えば、GlyProGlyXaaXaaモチーフの場合、GlyProGlyGlnGlnが主な形である。)。ハヤシら(Hayashi,et al.),J.Mol.Biol. 275:773,1998;ヒンマンら(Hinman,et al),Trends in Biotech.18:374 379,2000。スパイダシルクタンパク質は、反復ペプチドモチーフをクラスタまたはモジュールに分離する、荷電基またはその他のモチーフを含むスペーサまたはリンカ領域を含有していてもよい。
【0048】
GlyProGly(Xaa)
nモチーフのモジュールは、タンパク質に弾性を与えるβターン螺旋構造を形成することが考えられる。大瓶状糸および鞭毛状糸シルクは共に、GlyProGlyXaaXaaモチーフを有し、5 10%超の弾性を有する唯一のシルクである。約35%の弾性を有する大瓶状糸シルクは、1列に約5回のβターンの平均値を含有し、一方、200%超の弾性を有する鞭毛状糸シルクは、この同じモジュールが約50回繰り返されたものを有する。ポリアラニン(Ala
n)および(GlyAla)
nモチーフは、タンパク質に強度を与える結晶質βシート構造を形成する。大瓶状糸および小瓶状糸シルクは共に非常に強力であり、これらシルクのそれぞれの少なくとも1種のタンパク質は、(Ala
n)/(GlyAla)
nモジュールを含有する。GlyGlyXaaモチーフは、1ターン当たり3つのアミノ酸(3
10螺旋)を有する螺旋構造に関連付けられ、ほとんどのスパイダシルクで見出される。GlyGlyXaaモチーフは、追加の弾性特性をシルクに与えてもよい。
【0049】
本発明の対象による方法に適用可能なバイオフィラメントタンパク質は、米国特許第5,989,894号および第5,728,810号(本願に引用して援用する)に記載されているように、天然のまたは組換えにより生成されたMaSpIおよびMaSpIIタンパク質を含む。これらの特許は、スパイダシルクタンパク質MaSpIおよびMaSpIIの部分cDNAクローンと、それらに対応するアミノ酸配列とを開示する。MaSpIおよびMaSpIIスパイダシルクまたはそれらの断片もしくは変種は、通常、断片に関して少なくとも約16,000ダルトン、好ましくは16,000から100,000ダルトン、より好ましくは50,000から80,000ダルトン、全長タンパク質に関して100,000超であるが300,000ダルトン未満、好ましくは120,000から300,000ダルトンの分子量を有する。
【0050】
本発明の対象は、米国特許第5,756,677号および第5,733,771号に開示されているものなどの小瓶状糸スパイダシルクタンパク質と、米国特許第5,994,099号に記載されているものなどの鞭毛状糸シルクと、米国仮特許出願第60/315,529号に記載されているスパイダシルクタンパク質を使用してもよい。これらの特許および出願は、本願に引用して援用する。
【0051】
スパイダシルクタンパク質の配列は、タンパク質が所望の物理特性を保持する限り、アミノ酸挿入または末端付加を有していてもよい。同様に、アミノ酸配列の一部は、タンパク質が所望の物理特性を保持する限り、タンパク質から欠失した状態であってもよい。タンパク質が所望の物理特性を保有し、または保持する限り、アミノ酸置換が配列内でなされてもよい。
【0052】
本発明の方法は、生物流体から、天然のまたは組換えにより生成されたADF−1、ADF−2、ADF−3、およびADF−4タンパク質を、回収するのに使用されてもよい。これらのタンパク質は、ニワオニグモ(Araneus diadematus)種のクモによって、天然で生成される。ADF−1は一般に、68%のポリ(Ala)
5または(GlyAla)
2〜7と、32%のGlyGlyTyrGlyGlnGlyTyrとを含む。ADF−2タンパク質は一般に、19%のポリ(A)
8と、81%のGlyGlyAlaGlyGlnGlyGlyTyrおよびGlyGlyGlnGlyGlyGlnGlyGlyTyrGlyGlyLeuGlySerGlnGlyAlaとを含む。ADF−3タンパク質は一般に、21%のAlaSerAlaAlaAlaAlaAlaAlaと79%の(GlyProGlyGlnGln)
n(式中、n=1 8である。)とを含む。ADF−4タンパク質は、27%のSerSerAlaAlaAlaAlaAlaAlaAlaAlaと、73%のGlyProGlySerGlnGlyProSerおよびGlyProGlyGlyTyrとを含む。
【0053】
(本明細書で使用されるアミノ酸の略称は、従来/3文字1文字のアミノ酸略称記号である
アラニン Ala A アルギニン Arg R アスパラギン Asn N アスパラギン酸 Asp D アスパラギンまたはアスパラギン酸 Asx B システイン Cys C グルタミン Gln Q グルタミン酸 Glu E グルタミンまたはグルタミン酸 Glx Z グリシン Gly G ヒスチジン His H ロイシン Leu L リシン Lys K メチオニン Met M フェニルアラニン Phe F プロリン Pro P セリン Ser S トレオニン Thr T トリプトファン Trp W チロシン Tyr Y バリン Val V。)
【0054】
本発明の対象は、新規であり著しく改善された物理的、化学的および生物学的性質と機能が示されるよう、木綿またはウールなどの天然に生ずる基材材料を改善するのに使用されてもよい。さらに、織地産業では、改善された強度、弾性、曲げ剛性、および/または運動に対する抵抗を有すると共に、空気透過性および着心地の快適さを保持する、木綿またはウールなどの天然に生ずる材料を提供することが望ましい。本発明の対象の下で、意外にもシルクポリペプチドは、非常に効率良いコーティング反応を得るのに、あるプラズマ技術を使用して付着することができ、その結果、上述の所望の性質を有する、コーティングされた天然に生ずる材料の生成が可能になることがわかった。
【0055】
本発明の対象という文脈において、シルクポリペプチドを使用するコーティング反応は、天然に生ずる材料への効果的な分子の結合も可能にし、その結果、特定の適用例に合わせて調整された材料、例えばコーティングされた織地、服地、履物用織地であって、UV遮断、抗菌性および自己清浄化特性をもたらす非常に活性のある表面を有するものが生成される。コーティングは、導電性がコーティングまたはその選択された部分に与えられるように、ドープされてもよい。ドーピング剤の一例は、ヨウ素および様々な伝導性金属である。選択されたドーピングによって、伝導性回路またはトレースが、エレクトロニクスおよびコンピューティングまたはワイヤレスの適用例、例えば「スマートクローシング(smart clothing)」の分野で生じるような適用例で使用される、コーティング内に形成されてもよい。
【0056】
本発明の対象という文脈において、「シルクポリペプチド」という用語は、天然または合成形態で発現するシルクポリペプチドまたはタンパク質(他に指示されない限り、本明細書で使用されるこれら2つの用語は、同義である。)を指す。組換え(例えば、微生物、昆虫、植物、または哺乳動物)発現系由来の、即ち、その天然の環境から分離された、シルクポリペプチド(組換えシルクポリペプチドまたはタンパク質)であってもよい。あるいは、天然供給源(例えば、クモ、カイコ、ムラサキイガイ、またはハエ幼虫)から収集されたシルクポリペプチドであってもよい。
【0057】
本発明の対象という文脈で使用される「シルクポリペプチド」はさらに、1つの同一の反復単位の多数の複製物(例えば、A
2、Q
6またはC
16、但し、項目(item)2、6または16は、反復単位の数を表す。)、または2つ以上の異なる反復単位の多数の複製物(例えば、(AQ)
24または(AQ)
12C
16)の、少なくとも50%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、好ましくは少なくとも95%および100%を含みまたはこれらからなる、アミノ酸配列を有するポリペプチドを指す。
【0058】
本発明の対象という文脈において、「反復単位」は、天然に生ずるシルクポリペプチド(例えば、MaSpI、ADF−3、ADF−4、またはFlag)内で反復して生じる少なくとも1つのペプチドモチーフ(例えば、AAAAAAまたはGPGQQ)を含むまたはそれらからなる領域に対応するアミノ酸配列(即ち、同一アミノ酸配列)内の領域、またはそれに実質的に類似したアミノ酸配列(即ち、変異のあるアミノ酸配列)を指す。これに関し、「実質的に類似した」は、アミノ酸同一性の程度が、それぞれ基準となる天然に生ずるアミノ酸配列の全長にわたって、少なくとも50%、51%、52%、53%、54%、55%、56%、57%、58%、59%、60%、61%、62%、63%、64%、65%、66%、67%、68%、69%、70%、71%、72%、73%、74%、75%、76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%または99.9%であることを意味する。
【0059】
例えば、天然に生ずるシルクポリペプチドのアミノ酸配列と「同一」であるアミノ酸配列を有する「反復単位」は、スパイダシルクの1つ以上の公知のペプチドモチーフ、例えば、MaSp I、MaSp II、ADF−3、および/またはADF−4に対応するシルクポリペプチドの一部とすることができる。例えば、天然に生ずるシルクポリペプチドのアミノ酸配列に「実質的に類似した」アミノ酸配列を有する「反復単位」は、MaSpI、MaSpII、ADF−3、および/またはADF−4の1つ以上のペプチドモチーフに対応するが特定のアミノ酸の位置に1つ以上のアミノ酸置換を有する、シルクポリペプチドの一部とすることができる。
【0060】
「反復単位」は、天然に生ずるシルクポリペプチドのカルボキシル末端に存在することが一般に考えられる非反復親水性アミノ酸ドメインを含まない。
【0061】
本発明の対象による「反復単位」は、長さが3から200アミノ酸もしくは5から150アミノ酸、または長さが10から100アミノ酸もしくは15から80アミノ酸、または長さが18から60もしくは20から40アミノ酸である、アミノ酸配列を指してもよい。例えば反復単位は、長さが3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、60、61、62、63、64、65、66、67、68、69、70、71、72、73、74、75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99、100、105、110、115、120、125、130、135、140、145、150、155、160、165、170、175、180、185、190、195、または200のアミノ酸であってもよい。本発明の対象による反復単位は、3、4、5、6、7、8、9、10、12、15、18、20、24、27、28、30、34、35、または39アミノ酸からなるものであってもよい。
【0062】
本発明の対象による方法および構成物で使用されるシルクポリペプチドは、6から1500の間のアミノ酸、または200から1300の間のアミノ酸、または250から1200の間のアミノ酸、または500から1000の間のアミノ酸からなるものであってもよい。
【0063】
本発明の対象による構成物および方法で使用するのに適したシルクポリペプチドは、2から80の間の反復単位、3から80の間の反復単位、または4から60の間の反復単位、または8から48の間の反復単位、または10から40の間の反復単位、または16から32の間の反復単位からなるものであってもよい。例えば、シルクポリペプチドは、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、60、61、62、63、64、65、66、67、68、69、70、71、72、73、74、75、76、77、78、79または80の反復単位を有していてもよい。シルクポリペプチドは、4、8、12、16、24、32、または48反復単位からなるものであってもよい。
【0064】
上記にて提示したように、シルクポリペプチドの反復単位の少なくとも2つは、同一反復単位であってもよい。したがって、本発明の対象による構成物および方法で使用されるシルクポリペプチドは、1つの同一反復単位の多数の複製物(例えば、A
2またはC
16、但し、項目2または6は反復単位の数を表す。)または2つ以上の異なる反復単位の多数の複製物(例えば、(AQ)
24または(QAQ)
8)からなるものであってもよい。例えば、本発明の対象による構成物および方法で使用されるシルクポリペプチドの80反復単位の、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11;12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、60、61、62、63、64、65、66、67、68、69、70、71、72、73、74、75、76、77、78、79または80が、同一反復単位であってもよい。
【0065】
2つ以上のポリペプチド中の残基は、残基がポリペプチド構造内で類似の位置を占有している場合、互いに「対応している」と言われる。2つ以上のポリペプチド内の類似の位置が、アミノ酸配列または構造の類似性に基づきポリペプチド配列を位置合わせすることによって決定できることは、当技術分野で周知である。そのような位置合わせツールは、当業者に周知であり、例えば、ワールドワイドウェブ上、例えばClustalW(www.ebi.ac.uk/clustalw)またはAlign(http://www.ebi.ac.uk/emboss/align/index.html)で、好ましくはAlign EMBOSS:needleについての標準設定、Matrix:Blosum62、Gap Open 10.0、Gap Extend 0.5を使用して得ることができる。
【0066】
本発明の対象はシルクタンパク質に限定されず、本明細書で教示される原理はその他のタンパク質に適用される。例えばウールポリペプチドは、本明細書に開示されるシルクポリペプチドの適用例に類似した手法で、プラズマ処理で使用するのに適応させてもよい。
【0067】
ウールは、22の天然に生ずるアミノ酸のうち約18のアミノ酸を含有する。これらの酸を、表1に示す。化学的に、ウールは、100以上の異なるタンパク質(ポリマ鎖になるアミノ酸の組合せ)を有することが推定されている。ウール地の塩基性反復単位を
図5に示す。しかしウール繊維の構造は、スパイダシルクに非常に似て複雑であり、したがって組成は均一ではなく、ポリマ鎖の異なる側基および配置構成を有する。ウールのタンパク質構造および組成は、異なる動物、異なる品種(breed)全体にわたって、また異なる地理的場所、環境および標高で生きている品種間で、様々である。ウール生成動物には、ヒツジおよびヤギ科のメンバが含まれる。ウールそのものは、5つのグループ:フリース、ピース、ベリース、クラッチング、およびロックスに分けられる。フリースは、一般にアパレルで使用され、それぞれが別々に加工される。ウールは、良好な手触り感および熱保持性(ウェットおよびドライ)を含めた多くの望ましい性質を有する。炎に対して自己消火性でもある。したがって、織地基材に望ましいコーティングと考えられる。
【0068】
[プラズマ加工]
プラズマは、一般に、イオン、自由電子、ある量の可視、UV、およびIR放射エネルギなどの、励起種によって特徴付けられる物質の気状相と見なされる。プラズマ状態は、電気エネルギ、核エネルギ、熱エネルギ、機械エネルギ、および/または放射エネルギによって発生させることができる。プラズマは、荷電粒子密度、温度、圧力、電場および/または磁場の存在/不在によって特徴付けられてもよい。プラズマは一般に、熱性または非熱性として分類される。熱プラズマでは、織地およびその他の一般的な材料に対して破壊的な、数千度の温度に到達する。非熱プラズマは、摂氏0〜100度の範囲のような低温で維持され得るので、「冷」プラズマと呼ぶこともある。織地の適用例に使用することができる、2つのタイプの冷プラズマ操作:低圧、即ち準大気圧(約1〜100pa)と、大気(周囲)圧である。
【0069】
大気プラズマは、いくつかの異なる形:コロナ処理、誘電障壁放電、ハイブリッド結合、および大気グロー放電で利用可能である。低圧プラズマ処理の1つの欠点は、収容された容器内で、真空中で行われることである。したがって処理は、連続加工ではなく、織地のバッチ加工に限定される。ロールツーロールプロセスで大量の織地を加工する速度では、バッチ加工は効率的ではない。一方、大気プラズマ処理における最近の発展により、現在では、織地の連続加工の可能性が存在する。大気プラズマは、ロールツーロールプロセスとすることができ、室温で高温反応を模倣することができ、水をほとんどまたは全く必要としないので、織地の修飾に使用される新規で有利なプロセスである。
【0070】
プラズマ中のイオン化種は、電圧がガスの両端に印加されたときに発生する。プラズマ中に存在するラジカルは、基材の表面および/またはプラズマ中のその他の化学種と反応する。プラズマ反応は、様々な方法で基材表面を変換することができる。プラズマ中の化学種およびエネルギは、基材表面をエッチングし、または清浄化するのに使用されてもよい。プラズマは、様々な形の基材表面活性化を引き起こし得る。例えばプラズマ条件は、化学結合の破壊、化学的部分および官能基のグラフト化、表面材料の揮発および除去(エッチング)、表面汚染物質/層の解離(清浄化/精練)、および相似コーティングの堆積を引き起こし得る。これら全てのプロセスでは、織地材料の非常に表面特異的な領域(例えば、<1000A)に、構成繊維またはその他の構成材料のバルク特性に悪影響を及ぼすことなく、新しい所望の性質が与えられる。いくつかの織地の適用例を示すため、表面は、粗くしても滑らかにしてもよい。表面は、より疎水性に、またはより親水性にしてもよい。表面の化学的修飾は、官能基を基材表面に結合することによって行うことができる。薄膜のプラズマ重合も、選択肢である。プラズマプロセス中、モノマまたはポリマを、一緒に連結し、または基材表面で重合することができ、様々な表面および技術的性能の変化を持つ薄膜が提供される。前処理および表面修飾は、プラズマガス/基材の相互作用のみを使用して実現することができる。例えば、薄膜および官能基を付着させるため、少量の化学物質を、シリンジまたはミストを介してプラズマ雲に注入する。あるガスプラズマは、ある効果のために、即ち、アルゴン−表面粗さの改良;酸素−表面および表面エネルギの改良;アンモニアおよび二酸化炭素−表面化学反応性の改良に使用される。
【0071】
米国特許公開第20080107822号は、大気圧プラズマ重合を使用した繊維質材料の処理を対象とし、本明細書の教示と矛盾のない全ての目的で、その全体を本願に引用して援用する。開示されたシステムおよび方法は、本明細書で企図されるシルクポリペプチドなどのポリペプチドおよびタンパク質でコーティングされた織地の提供で使用するのに適応させてもよい。第’822号特許公開と矛盾することなく、かつより詳細に以下に論じられるように、
図2〜3は、適切なシステムの例を示す。
【0072】
米国特許第8,361,276号は、下流での加工のための大面積の大気圧プラズマに関する方法およびシステムを開示し、本明細書の教示と矛盾することのない全ての目的で、その全体を本願に引用して援用する。その特許におけるシステムおよび方法は、本明細書で企図されるシルクポリペプチドなどのポリペプチドおよびタンパク質で、織地をコーティングする際の使用に適応されてもよい。その特許と矛盾することなく、かつより詳細に以下に論じるように、
図2〜3は、適切なシステムの例を示す。このシステムは、摂氏50度未満の動作ガス温度を有する状態で、約0.1W/cm
3から約200W/cm
3の間の電力密度で大面積の温度制御された、安定した放電を生成することが可能な、非円弧状大気圧プラズマ発生装置を含んでいてもよい。装置は、活性化学種(本明細書では、「反応性種」と呼ぶこともある。)を生成する。反応性種は、気状準安定物質およびラジカルを含んでいてもよい。そのような化学種は、例として、重合(例えば、フリーラジカル誘導によるまたは脱水素をベースにした重合)、表面の清浄化および修飾、エッチング、接着の促進、および滅菌に使用されてもよい。システムは、例えば、冷却型RF駆動式電極もしくは冷却型接地電極のいずれか、または2つの冷却型電極を含んでいてもよく、プラズマの活性成分は、プラズマから外に出て内側または外側の加工物に向かってもよく、このとき同時に、プラズマの電気的影響またはイオン成分に材料を曝してもよくまたは曝さなくてもよい。
【0073】
いくつかの実施形態では、本発明の対象は、約0.1W/cm
3から200W/cm
3の間の電力密度で、しかし最高で約50℃の中性ガス温度を有することも可能な、大面積の非熱性の安定な放電を生成するための大気圧プラズマ発生装置に関する。下記において、「大気圧(atmospheric pressure)」という用語は、約500Torrから約1000Torrの間の圧力を意味する。プラズマの活性化学種または活性物理種はプラズマ放電から出て行き、その後、放電の外側に配置された基材に衝突し、それによって基材表面の加工が可能になるが、このとき同時に、プラズマの電場またはイオン成分に対する基材の曝露は行わない。記載されるように、プラズマは、長期および連続的な動作中であっても約50℃未満の中性ガス温度を有し、例としてガス準安定物質およびラジカルを含む化学種が発生し得る。高電力密度、より低い動作プラズマ温度、およびプラズマの外側での加工される材料の配置は、ほとんどの基材の加速した加工速度および処理を可能にする。プラズマ供給源は、例として、重合(例えば、フリーラジカル誘導によるまたは脱水素をベースにした重合)、表面の清浄化および修飾、エッチング、接着の促進、および滅菌に使用されてもよい。
【0074】
ある実施形態では、本発明の対象は、基材である織地材料またはその他の基材の表面を、選択された特性を有するポリマのモノマ前駆体であるシルクまたはウールポリペプチドなどの少なくとも1種のポリペプチドでコーティングするステップと、コーティングされた基材を、大気圧不活性ガスプラズマ中で発生した活性種に曝露するステップとを対象とし、少なくとも1種のモノマ前駆体は重合され、それによって、選択された特性を有する完成品が形成される。基材は、プラズマ装置のチャンバ内に導入される前または後に、モノマでコーティングされてもよい。
【0075】
耐久性あるコーティングを生成するために、パルス式または非パルス式高電力プラズマを使用してもよく、それは、1秒以下(何分とは対照的に)のプラズマ曝露を使用して適用してもよく、より厚い、より耐久性あるコーティングを発生させるための、連続的に適用される有効電力密度は、1から5W/cm
2の間(これは、先行技術のプラズマに関して報告された電力密度の10
2から10
4倍)であってもよい。有効RF周波数の範囲は、電極に容量結合されたときに電極付近に「シース」または暗所を発生させる任意のAC周波数を含んでいてもよい。典型的な周波数は、40kHzから100MHzの間であってもよい。
【0076】
本発明の対象のいくつかの実施形態によれば、シルクポリペプチドモノマ前駆体の比較的厚い被膜が、プラズマ領域外の布地に堆積されてもよく、コーティングされた布地は、引き続き不活性ガスプラズマ内に移動し、そこでは、堆積された被膜内での成分のプラズマ誘導重合および架橋において、準安定なイオン性の化学種などの生成物が発生する。重合プロセスは、比較的厚い被膜内で伝播し得るので、本発明の対象によるプロセスは、ほとんどのプラズマプロセスに典型的なものではない浸透効果を発揮し、即ち、重合は、被膜の表面で開始され、プラズマ発生活性種により誘導され、プラズマ内で生成された気相種が通常は浸透しないと考えられる領域を含めた縮合被膜(condensed film)内を、内向きに伝播する。この手法では、モノマの表面に対する準安定な化学種またはイオン種の影響によって、プラズマに直接曝露されない被膜内の場所であっても、縮合被膜中の連鎖反応を通して多くの重合事象が誘導され得る。
【0077】
本発明の対象のいくつかの実施形態によれば、例としてヘリウムプラズマなどの大気ガスプラズマの使用は、断片化によって、堆積された被膜の化学的な侵襲または分解を回避する。大気圧の条件は、プラズマによって生成されたイオンを熱化すると言うべきである。したがって、プラズマ内で生成された準安定のイオン種は、被膜内の成分の重合および架橋を誘導すると共にその他の部分を化学的に非反応性に保った状態にするのに効果的である。その他の可能性ある不活性キャリアガスには、アルゴン、クリプトン、ネオン、およびキセノンが含まれ、これらは不活性プラズマガスとして使用されてもよい。
【0078】
プラズマに印加される電力の増大が、電極付近のシースまたは「暗所(dark space)」の厚さを増大させることは周知である。本願の特許請求の範囲に記載される発明の場合のような、容量結合されたプラズマにおいて、シースは、電子を反発させる時間平均電場を有する。したがって、電子衝突を経た励起によって気相種からの可視放出を発生させる電子の濃度が、実質的に低減するので、目に見えなくなるようである。シース内のこの低レベルの電子密度は、フルオロカーボンモノマの解離を阻止する。不活性ガスプラズマ内で形成された、中性の準安定物質は、シースの電圧降下を容易に横断し、重合を誘導することができる。
【0079】
電子は、RFサイクルの短い部分に関してシースを遷移することしかできず、電荷の等化を維持するのに必要な程度に遷移することしかできない。正に帯電したイオンはシースを遷移し、真空ベースのプラズマでは、モノマを単に重合させる代わりにモノマを断片化するのに十分なエネルギ(10〜100eV)で基材に衝撃を与える。したがって、本発明の対象によれば、織地は、電極に対してまたは電極近くに配置することによってシース領域内に保持されてもよく、この場合、プラズマに印加される高電力は、電子またはイオンのエネルギ衝突によるモノマの断片化を回避しながら、布地上で縮合されたモノマ種の重合および架橋を開始するのに有用なより多くの数の準安定種を発生させる。さらに、織られた状態の織地および不織地に関するプラズマ処理プロセスは、基材が電極に対して緊密に保持される場合、プラズマに対向する基材面に実質的に限定される。したがって選択された処理は、重合を誘導するのに所望の供給原料およびキャリアガスプラズマを使用して、布地の片面または両面に適用することができる。
【0080】
さらに大気プラズマは、高dcバイアスがシース領域に発生する真空ベースのプラズマとは対照的に、電子衝突と同じ破壊効果を発揮すると考えられるエネルギイオンによって、基材に対するモノマの衝撃を効果的に排除する。即ち、大気圧プラズマ中では、イオンが中性気相種と頻繁に衝突し、したがって、通常なら真空中で動作するプラズマ内で発生すると考えられる運動エネルギを、獲得しない。大気圧プラズマ中では、イオンが室温付近まで熱化し(真空ベースのプラズマに関する10から100eVの間とは対照的に、約0.03eV)、そのような化学種では破壊的影響を提供できないようにする。さらに、この大気プラズマ供給源は「対称」プラズマであり、即ち、平行RF駆動および接地電極の面積は等しく、プラズマの電気的挙動に寄与する接地チャンバ壁が存在しない。したがって、DCバイアスはなく、電力密度は、米国特許出願公開第2004/0152381号の真空ベースのプラズマで提示された電力密度よりも>10
4倍高くなり得る。本明細書で使用される「大気圧」プラズマは、シースを横断するイオンを熱化するのに衝突が有効であるプラズマシースをもたらすのに、十分高い全体ガス圧でのプラズマの動作と定義される。典型的には、この動作は、300Torrから3000Torrの間の圧力で生ずる。600Torrから800Torrの間の圧力が一般に用いられることになると予想される。
【0081】
ヘリウムなどの不活性キャリアガスプラズマの使用は、フリーラジカル反応から重合されるモノマに最も良く適している。不活性ガスプラズマには、得られるポリマを化学的に変性させることなくフリーラジカル重合プロセスを誘発することが可能であるという利点がある。しかしいくつかの状況では、例としてH
2、N
2、NH
3またはCF
4などの少量の反応性ガスを不活性ガスに添加して、得られるポリマの性質、性能、または組成を変化させることが有利と考えられる。典型的には全ガス流の20%未満になる量の、そのようなガスの使用は、ポリマ鎖間の縮合反応または架橋などのその他の形の重合を促進させるのに有用と考えられる。H
2の添加は、縮合反応を経た−OH基の損失を必要とするモノマの重合を、促進させる助けになると考えられる。同様に、N
2またはNH
3の使用は、ポリマ鎖の架橋を促進させる可能性があり、その結果、得られるモノマの耐久性がより大きくなる。
【0082】
本発明の対象の、ある特定の可能性ある実施形態によれば、大気圧で動作する別々のプロセスモジュールを、(1)基材上のバイオマテリアルの被膜を縮合させるのに、および(2)縮合物を大気圧プラズマに曝露するのに用いてもよい。あるいは、バイオマテリアルの縮合および重合プロセスは、別々のモジュールではなく同じモジュールで実現させてもよい。典型的には、これは、モノマの蒸気がプラズマ領域から離れた状態に保たれるよう、ヘリウムまたはその他の不活性キャリアガスの、一定の外向きの流れを保つことを意味すると考えられる。2モジュールプロセスは、基材上のバイオマテリアル被膜の耐久性を与えるのに、およびプラズマシステムの電極上での望ましくない被膜堆積を回避するのに有益である。被膜堆積は電極上に形成されないので、織地処理システムは、連続的に、また気相堆積種がプラズマ中に形成される場合よりも少ないメンテナンスで動作させてもよい。
【0083】
織地材料の例には、ウール、シルク、コラーゲン、木綿およびその他のセルロースなどの動物または植物由来の繊維、ポリオレフィン繊維、ポリエステル、ポリアミド(即ち、ナイロン)、液晶ポリマからの繊維(例えば、アラミド)、ポリオキシメチレン、ポリアクリル(即ち、ポリアクリロニトリル)、ポリ(フェニレンスルフィド)、ポリ(ビニルアルコール)、ポリ(エーテルエーテルケトン)(即ち、PEEK)、ポリ[2,2’−(m−フェニレン)−5,5’−ビベンズイミダゾール](即ち、PBI)、ポリ(ブリコール酸)、ポリ(グリコール酸−co−L−乳酸)、およびポリ(L−ラクチド)、芳香族ポリヒドラジド、芳香族ポリアゾメチン、芳香族ポリイミド、ポリ(ブテン−1)、ポリカーボネート、ポリスチレン、およびポリテトラフルオロエチレンなどの合成繊維、ならびに前述の組合せで作製される織地が含まれるが、これらに限定するものではない。そのような組合せは、ある所望の繊維特性の増強を可能にし得る。典型的には、織地材料またはその他の基材は、シートまたは材料のその他の平面形態として、提供され加工されると考えられる。しかし当業者ならば、その他の基材には、ヤーン、スレッド、繊維、およびその他のそのようなフィラメント様材料;膜および被膜、例えば、防水性、耐水性、通気性および/または風防性などの環境条件を制御する、完全、部分または選択的障壁層として使用されるものを含めてもよいことが理解されよう。防水性で通気性の膜材料の例は、商標名GoreTexの下で販売されてもよい延伸PTFEである。
【0084】
平面もしくはシートの形またはフィラメント様の形を有する基材に加え、基材は、立体3D形態を有することができる。例えば、その形は、足型の容積の一部または全てを表す、足型上の材料とすることができる。基材は、品物を収容するバックパックまたはその他の物品とすることができる。平面、フィラメント様、または3Dの形にある基材は、履物、アパレル、バックパックおよびその他のキャリアの構造、家具、または室内装飾材料などに使用されるフォーム物体とすることができる。フォーム材料には、EVAおよびPUが含まれる。基材は、同様に任意の天然または合成のゴムまたは皮革とすることができる。
【0085】
本明細書で企図される、コーティングされた材料および基材の複合体を、本明細書では「構造物(construct)」と呼ぶこともある。コーティングは、共有結合、水素結合、ファンデルワールス力、およびイオン結合を含めた任意の公知の化学結合または結合力によって、構造物内の下に在る基材に固着されてもよい。コーティングは、均一な厚さまたは様々な厚さで付着させてもよい。ポリマコーティングの場合、モノマ単位は、下に在る基材の部分上にモノリシック構造を形成する。その他の場合には、モノマバイオマテリアルは、必ずしもモノマ同士を結合させるのではなく、モノマと基材の反応性部位とを結合させて、下に在る基材の部分上に永続的なコーティングを形成する(言い換えれば、モノマは正式にはモノマでなく、基材と化合する反応物である。)。可変性の厚さのコーティングの場合、そのコーティングの厚さは、表面上の平均厚さと見なしてもよい。多くの適用例で、コーティングは、1nmから1mm、もしくは10nmから100μmの間、または40nmから50μmの間、または0.5μmから10μmの間、または1.0μmから5μmの間の厚さを有する。これらの範囲は代表的なものであり、本発明の対象は広範な厚さを包含し、特に示された例に限定するものではない。
【0086】
コーティングは、典型的には、所望の表面積と同一の拡がりを持つ。言い換えれば、コーティングは、選択された全表面積にほぼ該当する。しかしこれは、全面積が中実コーティングで覆われたというわけではない。コーティングはその性質が、例えば、画定された表面積とほぼ同一の拡がりを持つウェブ、多孔質膜、規則的に間隔を空けて配置された穿孔の網状構造、またはその他の非中実パターンであってもよい。コーティングは、一部の面積が他よりも厚くなっている様々なトポロジを有していてもよい。コーティングは、2次元または3次元フィーチャを含んでいてもよい。例えば、マイクロエレクトロニクスデバイス、センサ、回路またはトレースをコーティングと一体化して、機能的フィーチャを提供することができる。
【0087】
アパレルの適用例の場合、コーティングされた表面積は一般に、少なくとも6平方インチと考えられる。アパレルの適用例に合わせた材料のバッチ加工ロールの場合、ロール材料のコーティングされた表面積は、典型的にはその幅が少なくとも約50〜72インチの間であり、長さが約1〜100メートルの間と考えられる。ロールの長さは、布地の材料および構造に依存する。例えばフリースは、バルク状で、長さの短いロールとして輸送されると考えられ、一方、10〜20デニールのダウンプルーフ性の布地は、より長いロールとして輸送することができる。アパレルの適用例で、そのような材料は、全体的にまたは部分的にアパレル物品の外層、中間層、および/または内層で使用することができる。
【0088】
次に
図1を見ると、基材の不活性ガス大気プラズマ重合処理を行うための装置10の一実施形態の全体像の概略図が示されている。加熱されても加熱されなくてもよい槽12には、供給原料13が入っており、例えばシルクポリペプチド化学物質と任意の所望の添加剤とのモノマ混合物が入っている。モノマ混合物は、槽12から、加熱されたまたは加熱されていない管16を経て引き出されるが、この管16には、加熱されたまたは加熱されていない計量ポンプ22に向かって矢印20で示される方向に、弁18が挿入されている。様々な構成要素の温度は、液体状態の試薬に対して維持される。モノマおよびその他の化学物質の規制された一定の流れは、計量ポンプ22から、加熱されたまたは加熱されていないライン24を通って出て行き、気化器ユニット26内へと向けられ、そこで供給原料を蒸気に、即ち気状、エアロゾル、または噴霧化された液体または固体供給原料の流れに変換する(気化ユニットおよび関連するステップは、槽12内に保持された供給原料13が既にガスまたはその他の蒸気形態にある場合、必ずしも必要ではない。)。不活性ガス流28は、ガス供給源30から気化器26に導入されて、蒸気の流れを気化器26の外およびアプリケータ32の中に向けてもよく、このアプリケータ32は、揮発したモノマおよび添加剤を含有するガス流36が布地34上に向けられるように、スリット対向布地34を含んでいる。布地または不織基材34は矢印38の方向に移動し、したがって布地は高温ガス流36によって加熱されず、揮発性化学物質が布地の新鮮なセクション上で絶えず縮合するようになる。モノマ化学物質は、電極44および46上での望ましくない化学ラジカルおよび望ましくない被膜堆積の発生を回避するために、チャンバ40内で布地34に付着されてもよく、それが蒸気をプラズマ領域42から遠ざける助けをする。アプリケータ32に面する布地34の表面でモノマ材料が縮合した後、布地を2次大気圧エンクロージャ48内に通す。エンクロージャまたはチャンバ40および48は、それぞれ排気管50および52を含む。「エンクロージャおよびチャンバ」という用語は同義に使用される。それらは、気密チャンバ内のような完全に閉鎖された有界空間を、必ずしも意味しない。エンクロージャまたはチャンバは、片持ち型であってもよくまたは壁面に開口を有していてもよい。
【0089】
エンクロージャ48では、布地34が、大気圧プラズマ供給源の部分である電極44および46の間を通り、そこで不活性ガスプラズマ42を発生させる。連続して維持され得るこのプラズマは、0.25から4W/cm
2の間の電力レベルで動作する。多くの適用例で、1から2W/cm
2の間の電力レベルが用いられる。不活性ガスを気化器26にも供給し得る、供給源30からの不活性ガス流54は、プラズマガスである。モノマ種のこの縮合または堆積の後、プラズマ誘導重合を選択された回数だけ繰り返すことによって、直前に得られたコーティング上にそれぞれ形成される多数のポリマコートを発生させ、より大きい耐久性を得てもよい。上述のように、プラズマ放電42の1つ以上は、例としてH
2、N
2、CF
4またはNH
3などの反応性分子の少量の添加を含めた不活性ガス混合物を用いて、架橋またはその他の形の重合反応を促進させてもよい。
【0090】
領域56は、モノマが存在しないセクションを示す(ポリマは、多数のアプリケータおよびプラズマが用いられる場合に存在していてもよく、その場合、領域56は、初期の処理プロセスからのポリマを有すると考えられる。)。領域58は、モノマ化学物質が加えられるセクションであると認める。領域60は、気化器/アプリケータによって加えられた化学物質を硬化しまたは重合しまたは架橋するプラズマ重合領域を示す。領域62は、布地が少なくとも1回処理された領域であると認める。
図1に示されていないものは、(1)電極44および46に接続されかつプラズマ42に電力を供給し調整するのに使用される、無線周波数プラズマ電源およびマッチングネットワーク、(2)プラズマのガス温度が70℃でまたはそれよりも低く維持され得るように、電極44および46を冷却するのに使用される水冷器、(3)供給源30用の圧縮ガス調整器、(4)アプリケータ領域の端から端まで、プラズマ領域内に、およびプラズマ領域外に、布地34を移動させるのに使用される、ドライバおよびローラ、(5)不活性ガスを収集しリサイクルさせるための排気管50および52内のポンプであり、その全ては当業者に周知である。布地34は、その片面の処理プロセスを制限するために、1つの電極46に対して保持されてもよい。どちらの電極も、この目的で使用することができる。
【0091】
アプリケータチャンバまたはエンクロージャ40、およびプラズマチャンバまたはエンクロージャ48は、個別のチャンバまたはエンクロージャとして図示されているが、それぞれの特徴および機能は、共通のエンクロージャの下で提供され得る。例えば、アプリケータ32、およびプラズマ領域42を発生させるためのプラズマ供給源、即ち電極44、46は、単一エンクロージャ内に存在させることができる(例えば、以下に論じる
図2〜3参照)。アプリケータは、プラズマ発生電極の動作と同時に動作させることができ、またはアプリケータおよび電極を逐次動作させることができる。アプリケータは、キャリアガス用の供給材入口とは無関係に動作する、システム内の個別の装置とすることができる。または、キャリアガス用の供給材入口と一体化して、バイオマテリアルおよびキャリアガスが、共通のエンクロージャ内に導入され、かつプラズマ発生用の電場に曝される単一の、共通する流れの中にあるようにすることができる。
【0092】
単一の組のアプリケータおよびプラズマ供給源に加え、一連のアプリケータ/プラズマ供給源を使用して、単一基材に多層のコーティングを設けることができる。同様に、単一の組のアプリケータ/プラズマ供給源では、多層のコーティングまたは基材は、アプリケータおよびプラズマ供給源の第1の動作の後にコーティングされた基材の移動を、元のアプリケータに、次いでアプリケータおよびプラズマ供給源の第2の動作に向けたプラズマ供給源へと反転させることによって、付着させることができる。
【0093】
例示的な実験室用プラズマ装置に関する、電極の典型的な寸法は、幅1cmから13cmの間、長さ30cm、ギャップは1から2.5mmの間である。典型的な電圧は、13.56MHz、27.1MHz、および40.68MHzを含む周波数で120から450Vの間(ピーク間)であってもよい。
【0094】
まとめると本発明の対象は、織地基材またはその他の基材の表面で50nmよりも薄いまたは厚い、シルクタンパク質などのコーティングの、プラズマをベースにした重合を含む。本発明の対象は、モノマ混合物を最初に基材に付着させ、次いで縮合モノマ(未処理のまたはその他の化学物質が付着された)でコーティングされた基材を大気圧プラズマ中に移動させる連続操作であって、モノマを破壊することなく被膜を重合し架橋させるのに不活性ガスプラズマを使用する連続操作に適している。十分に高い電力で(>0.25W/cm
2、典型的には1から2W/cm
2の間)プラズマを操作することにより、ウェブ速度で、例えば10〜100m/分で、かつ例えば10〜200cmの電極寸法(ウェブ移動方向で)を使用して、モノマ被膜を重合することが可能である。大気圧での操作は、事前設定された水分レベルに布地を予備調整することが必要ではないことを意味する。プラズマをパルス送出することも必要ではなく、それによって装置のより大きな処理能力が可能になるが、それは処理プロセスの使用率が100%であるからである。
【0095】
本発明の対象による方法で使用され得るプラズマ装置の別の例を、
図2〜3に示す。原則として装置は、電極間のプラズマ領域で発生した活性化学または物理種の高速流を、プラズマ領域から外に出し、加工物(基材)に衝突させ、その後に活性種を、衝突またはエネルギの損失によって不活性化させ、それによって、加工物を電場またはプラズマ中に存在する帯電成分に曝すことなく、加工物に対して化学的および/または物理的変化を生じさせることが可能になる。この作用は、接地またはRF電極における平行な開口間に形成された中空カソード効果から「プラズマ突起」を生成し、これらの突起を使用して活性種をそれらの発生点からさらに下流まで運ぶのを支援することによって、実現される。本発明の状況において、中空カソード効果は、接地された液体冷却管状または楕円状の電極間に生成されて、電極を効率的に冷却し、それを通して活性種が、プラズマ内での発生の後に流れる。接地電極を形成するのに円形または楕円形の管を使用する利点とは、類似のアスペクト比を有する複数の水冷式の矩形または方形電極の使用とは対照的に、楕円形または丸型電極構成が鋭いエッジ(edge)を回避することであるが、このエッジ付近では、関係式E=V/r(式中、rはエッジの曲率半径であり、Vは電極に印加された瞬間電圧であり、Eは電場である。)から得られると考えられる局所的に高められた電場に起因して、放電が乱されかつ望ましくない状態まで高められるものである、鋭いエッジを回避することである。高められた電場はアーク放電を誘導しがちである。上述のように、この下流加工手法は、プラズマ内で形成された荷電種への加工物の曝露も阻害するが、その理由は、そのような荷電種がプラズマから離れるとすぐに再結合するからである。
【0096】
図2は、プラズマ加工装置110の一実施形態の斜視図を概略的に示し、液体冷却ダクト114a〜114dを有するRF電極112であって、銅またはその他の金属リボン(
図2には示していない。)を使用した電極112に接続されたRF電源およびRFマッチングネットワーク116によって電力が供給され、例えばガラス繊維、G10/FR4(McMaster−Carr)、フェノール樹脂PTFE、ガラス、またはセラミックから製作され得る絶縁部材118a〜118cによって支持されている、RF電極112が示されており、それにより、平行な、接地された中空円形または楕円形の管124a〜124dを使用して構成された、RF電極112と平面接地電極122との間の第1の選択されたスペーシング120が、維持される。電気エネルギは、約1MHzから約100MHzの間の周波数範囲で供給され、RFマッチングネットワークは、装置内で50オームからの負荷偏差に合わせて調節するのに使用されるものである。冷却器126は、液体冷却に適応させた冷却ダクト114a〜114dおよび中空管124a〜124dに、液体冷却剤を供給する。矩形または円形の管材が、冷却ダクト114a〜114dの代わりに使用されてもよい。加工される材料128は、接地電極122の近傍でプラズマの外に配置され、そこから第2の選択されたスペーシング130を空けて維持される。材料128は、適切な移動装置132を使用して、加工中に移動させてもよい。ガス供給およびマニホールド136によって供給されるガス入口管134a〜134cは、適切なガス混合物を、公称上のO.D.が3/8インチであるガス流通管138a〜138cに供給し、そこでは、例えばガス流通管138a〜138cの全体にわたってほぼ一定のガス圧が維持されるよう、各ガス流通管138aごとに少なくとも1つのガス入口管134aが存在する。ガス流通管138a〜138cは、例えばプラスチック、Teflon、または金属から作製されてもよい。明らかに、より広いRF電極112に適応できるように、追加の入口管134を設けることも考えられる。ガス流通管138a〜138cは、その長さに沿って間隔を空けて配置され、かつ接地電極122に面する穴(
図1には示していない。)を有し、したがってガスは、RF電極112の底面141が外に開いている先細りのチャネル140a〜140cを経て発生する。先細りチャネル140a〜140cは、所定位置にしっかり固定され、かつ表面141から後退させたガス流通管138a〜138cを保持する。無線周波数電極112は、2つの対向部分112aおよび112bに分割されることが示されており、したがって、放電装置110の動作中に必要に応じて清浄化および維持管理がなされるよう、チャネル114a〜114dおよび140a〜140cを容易に機械加工することができ、ガス流通管138a〜138cを設置することができるようになる。
図2に示される3本のガス流通管138a〜138cは、中心同士が2.5インチの間隔で分離され、面141から0.125インチ後退させてもよい。本発明の対象の別の実施形態では、管材を用いない場合、Oリングを使用して、冷却液体を対向部分112aおよび112bの冷却ダクト114a〜114cに閉じ込めることができる。装置110の側面を経たプロセスガスの損失を防止するために、ガス流を、第1から最後の接地管124a〜124dの間の空間を封止することによって、さらに部材118bおよび118cを絶縁することによって遮断し、その結果、ガス流の方向は、接地管124a〜124dの間の開口(
図2には示さず。)を常に通るようになる。
【0097】
図3は、このプラズマ加工装置110の側面の概略図であり、ガス供給管134b、RF電極112用の水冷チャネル114bおよび114c、後退ガス流通管138b、管状接地電極122、および第1のスペーシング120で形成されたプラズマの下流に配置される材料128を図示している。ガスをガス流通管138bの外に流して先細りチャネル140bに入れ、さらにRF電極112bの表面141の外に出す、放射状の穴142も示される。穴142は、直径が0.03インチであってもよい。隣接する接地電極管124a〜124dの間のギャップは、約0.03インチから0.12インチの間であってもよい。2つのプラズマ放電装置:1つは約0.12インチの電極ギャップを有し、もう1つは約0.093インチの電極ギャップを有する装置の間で、同じサイズの電極22に関してより多くの接地管を有する後者の装置は、同じ流動条件でより良好な結果をもたらすことになると考えられる。その相違は、より小さいギャップによって実現された、より高い「下流」ガス流速と、増大した管面積による、より良好なガス冷却との結果と考えられる。
【0098】
上述のように、RF電極の効果的な冷却は、アルミニウムでも作製され得るRF電極112の上部および底部セクション112aおよび112bの間に方形の銅またはアルミニウム管材114a〜114dを挟み、伝導によってRF電極112を冷却する冷却器126から、サーモスタット制御された冷水を流すことによって実現されてもよい。RF電極112も接地電極122も、誘電材料で覆われていないので、電極とガスとの間の熱伝導は大きく高められ、効果的で効率的なガス冷却が可能になる。接地電極122は、一連の平行な均等に間隔を空けて配置された管124a〜124cを含み、その内部には、冷却器126を利用して冷却水も流れる。RF電極112の冷却ダクトまたは管114a〜114dと、管124a〜124dは、例えばグリコールをベースにした冷却剤や冷やされたガスなどのその他の流体によって、十分に冷却することができる。接地電極122の管124a〜124dによる高表面積により、ガス冷却は、水冷式平面電極よりも増強される。1/4インチの外径(O.D.)と、管の間の約0.09インチの開放面積のギャップを有する管の場合、平面電極上の表面積の増大は、約2.2倍である。したがって、基材または加工物上への下流ガス流は、効果的に冷却され得る。楕円形状の接地電極管124a〜124dが使用される場合、寸法が短い管がRF電極112に垂直であり、寸法が長い管はRF電極112に平行である。
【0099】
流動ガスは、プラズマを発生させるのに、また、スペーシング120におけるRFおよび接地電極の間のプラズマ放電で生成された活性成分を、接地電極122の管144a〜144d(
図2)の間の空間を経てプラズマの外に運び、さらに加工物基材128上に運ぶのに用いられる。この目的に効果的なあるガス混合物は、本明細書の
図2および3にも示されるように、ガス供給部136(
図2および3)からガス入口管134a〜134cに流れさらにガス流通管138a〜138cに流れる約85%から約100%のヘリウムを含む。その他のガスまたは気化物質を、ヘリウム流に添加して、プラズマ体積内での活性種の形成を増強させてもよい。流通管138a〜138cは、小さい開口142を備え、そのためガスは、プラズマに面する電極の面から流通管を出ることが可能になる。これらの流通管を、電極112に機械加工されたギャップまたはチャネル140a〜140c内にそれぞれ配置することによって、流通管は、ガス出口開口のようにプラズマの活性領域から離される。チャネルは、RFおよび接地電極の間の電極間ギャップが放電を引き起こすのに大き過ぎるので、そのごく近くでプラズマを形成することができない。ガス流通管は、微小中空放電の場合と同様の手法で、小さい開口で生じ得る高い中空カソード効果に起因して引き起こされる、アーク放電の事象を防止するために、放電から離れて配置される。3列のガス流通管は、2m×0.3mのRF電極112に関する均一な加工を実現するのに十分であることが見出され、より長い寸法は、
図3に示されるように流通管138a〜138dに平行であり、ガス流通管の軸は、材料128の移動に垂直である。
【0100】
上述のように、プラズマからのガス流は、管の間の狭い空間を経ること以外、プラズマ領域から出て行くのを防止される。熱エネルギをプロセスガスに付加するかなりの電力(約10W/cm
3から場合によって約100W/cm
3超の間)がプラズマ中に蓄積される場合であっても、水冷システムにより行われる効率的なガス冷却と、管およびRF電極上に断熱材(電気的な誘電体カバーなど)が存在しないことによって、ガス温度は低く保たれる。これは、高温ガスへの短時間の曝露によって、加工物上の縮合モノマを高速で気化させ、このシステムから逃すことになるので、本発明のプラズマ放電装置が薄膜モノマの表面重合に使用される場合に有意になり得る。
【0101】
材料128は、接地電極管の平行な配置構成に対して垂直に移動させてもよく、表面の全面積がガス流に曝されるので均一な表面処理が行われる。材料と管の底部との間のギャップも、制御し変更することができる。このギャップは、典型的には約0.5mmから約10mmの間である。大きなギャップの場合、装置は、ディープパイルカーペットなどの厚い基材に付着されたモノマを重合させることができるが、プラズマから流出する活性化学種の一部がその他の時間依存的手段(放射線または衝突などによる)によって再結合しまたは不活性化して、より遅い加工をもたらすという欠点もある。材料と管との間が小さいギャップの場合、活性種の不活性化が最小限に抑えられるという利点があるが、材料からの任意の揮発性蒸気とプロセスガスとを混合することによって、RFおよび接地電極間のプラズマ体積をさらに汚染する傾向がある。その他の加工ステップから蒸気を放出し得る材料を処理する能力は、in−situ加工法のいずれかを使用したそのような材料の処理が、放出された揮発性蒸気によるプロセスガスの汚染をもたらす可能性があり、またはコスト上禁止されるような高いガス流が必要と考えられるので、著しく有利である。管の近接するスペーシングも、プラズマガスが材料に向かってより速い速度で出て行くのを可能にするが、それはガス流がより小さい空間内に向かうからであり、それによってガスの線形速度を増大させ、しかしそれに付随してガスの消費は増大せず、それによって動作コストも増大しない。
【0102】
加工物または材料が、装置内に静止状態で保持されることになった場合、その結果は、縞状の処理になると考えられ、各縞は、接地電極管124a〜124dの間のギャップに該当する。加工物を、均一な手法および接地電極に直交する方向に装置の端から端まで移動させることにより、均一な表面加工が実現された。これは、インラインプロセスまたは独立型バッチプロセスのいずれかで材料の連続処理を提供する。加工物または材料128は、例えば、織地、カーペット、プラスチック、紙、金属被膜、および不織布などの柔軟な材料、または、例えば、ガラス、シリコンウエハ、金属および金属シート、木材、複合材料、ボール紙、手術器具、もしくはスキンなどの剛性の高い材料を含んでいてもよい。加工物は、層状材料であってもよい。
【0103】
材料は、コンベヤベルトを使用して、ステージを移動させて、またはその他の移動手段を経て移動させてもよい。加工物はプラズマの外にあり、電場は内部にあるので、その移動は複雑ではない。加工物と、接地電極管124a〜124dの間のプラズマ発生種の出口との間の距離は、活性種の不活性化または減衰が、下流領域でのガス流の化学反応性を破壊しないように調節される。接地電極管124a〜124dの表面から、約0mmから約10mmの間の加工物の配置および移動は、加工化学の性質に応じてこの条件を満足させ得る。
【0104】
まとめると、1つの可能性ある実施形態において、プラズマの安定な非アーク放電動作は、3つの条件を満足させる必要がある:(a)例えば、約85%から約100%の間のヘリウムからなるプロセスガスの流れ、(b)剥き出しの金属電極をプラズマに曝す、約1MHzから約100MHzの間の周波数範囲での1つの電極のRF励磁、および(c)約0.5mmから約3mmの間にある、RF駆動電極と接地電極との間のギャップ。約13.56MHzのRF周波数が満足のいく結果を得ることになる場合、約1.6mmのスペーシングが考えられる(より高い周波数では、僅かにさらに小さい距離になる。)。さらに、低温動作(即ち、約0℃から約100℃の間、または10℃〜35℃の間)は、例えば冷やした空気、エチレングリコール、または蒸留水などの温度制御された流体を使用した、両方の電極の効率的な冷却を必要とする。ブラインなどの伝導性流体の使用は、ブラインの腐蝕作用ならびに生じ得る無線周波数電力の漏電により望ましくない。
【0105】
いくつかの実施形態では、織地基材上の、付着したシルクポリペプチドの厚さのコーティングは、1nmから1mmの間、または10nmから100μm、または40nmから50μmの間、または0.5μmから10μmの間、または1.0μmから5μmの間である。これらの範囲は代表例であり、本発明の対象は広範な厚さを包含し、特に与えられた例に限定されるものではない。1nm〜20nmは、表面特性の変更例として十分である。しかし、20nmを超える厚さが、布地の表面の触知変化を誘発する能力を確実にするのに必要になる可能性もある。
【0106】
いくつかの実施形態では、面に特異的なプラズマ処理に関する米国特許第8,016,894号の教示に矛盾することなく、コーティングされた織地の片面をプラズマに曝露してもよく、一方、織地の他方の面は、プラズマ種を透過させない表面に近接して維持される。このようにプラズマは、織地の片面を選択的に修飾(例えば、コーティング)してもよい。不透過性表面に面する布地の面は、プラズマ中で発生した化学種による修飾から保護される。布地が、いくらかの力で不透過性表面に対して押圧されるのか、または単に表面に隣接するのか、またはその近傍にあるのか否かは、その表面と、意図的に加工されまたは除去された表面との間の性質の差を非有意なものにすることなく、保護された表面のどの程度を除去しまたは修飾することができるのかに依存することになると言うべきである。大量の布地を加工するには、織地が有効な長さの時間をプラズマ中で費やすように選択された速度で、織地をプラズマ中で移動させてもよい。いくつかの状況では、プラズマ処理は、プラズマに対向する側にある布地の表面に、追加の望ましい性質を有する機能的リガンドを提供してもよく、保護された面上のコーティングは、本質的にコーティングされたままで保持され、プラズマ加工された面とは異なる機能性を有していてもよい。したがって本発明の装置および方法は、所望の二重機能性の布地を実現するのに使用されてもよい。
【0107】
[供給原料]
本発明の対象による方法で使用されるドープまたは供給原料溶液は、本明細書で企図される任意のシルクタンパク質を含む溶液であってもよい。本明細書で使用される「溶液(solution)」という用語は、厳密な溶液だけでなく懸濁体およびコロイドも含む広範な用語である。ドープ溶液に使用される溶媒は、スパイダシルクタンパク質が可溶なまたは分散可能な任意の水溶液であってもよい。以後、「溶媒(solvent)」は、溶解したまたは分散した粒子を生成するのに使用され得る任意の液体である。同様に、「溶解(dissolving)」および同様の用語に言及するとき、適正な溶液、懸濁体、またはコロイドを形成する目的で溶解しまたは分散する動作を意味する。
【0108】
溶媒は、pHが約4から約12の水性緩衝溶液であってもよい。ある場合には、溶液は、約11のpH(例えば、pH10.6〜11.3)を有する。ドープ溶液のpHを約pH11に調節することによって凝集体の形成が低減し、破損に対してより耐性のある、より高い品質のコーティング層が得られる。一実施形態では、ドープのpHは、グリシンを添加することによって調節される。
【0109】
シルクポリペプチドの疎水性に応じて、ドープ溶液は、ヘキサフルオロイソプロパノールなどの可溶化剤およびその他の有機溶媒、または塩酸グアニジン、尿素、またはその他の変性剤もしくはカオトロピック剤などを、含有してもしなくてもよい。スパイダシルクタンパク質の液晶構造を促進させる水性緩衝液が、いくつかの適用例で望ましいと考えられる。ドープ溶液で使用される適切な緩衝溶液は、50mMのグリシンを含んでいてもよい。その他の有用な緩衝液には、PBS(リン酸緩衝生理食塩液)、Tris(トリスヒドロキシメチルアミノエタン)、ピロリジン、ピペリジン、ジアルキルアミン(例えば、ジエチルアミン)、ホモシステイン、システイン、6−アミノへキサン酸、CABS(N−シクロヘキシル−4−アミノブタン−1−スルホン酸)、4−アミノ酪酸、プロリン、トレオニン、CAPS(N−シクロヘキシル−3−アミノプロパン−1−スルホン酸)、β−アラニン(3−アミノプロパン酸)、リシン、アスコルベート、トリアルキルアミン(例えば、トリエチルアミン)、システイン酸、およびカーボネートが含まれるが、これらに限定するものではない。
【0110】
その他の実施形態では、ドープ溶液は、1種以上の非水性溶媒に溶解したシルクポリペプチドを含む。
【0111】
通常、ドープ溶液は、シルクタンパク質が約2〜60%またはそれ以上(w/v)である。ドープ溶液は、シルクタンパク質が約15〜25%(w/v)または約20%(w/v)であってもよい。ドープ溶液の濃度は、織地のまたはその他の作業基材のコーティングに適切な形でシルクタンパク質を維持するように、十分高くすべきであるが、溶液中のタンパク質のゲル化および沈殿が回避されるように十分低くすべきである。15%(w/v)過剰な濃度のシルクタンパク質が、コーティングに適した形を実現するのに必要と考えられ;しかし、40%より高い濃度で、不溶性凝集体および/または無配向スパイダシルク繊維の形成が生じ得る。
【0112】
ドープ溶液は、このドープ溶液の安定性および物理的性質(例えば、粘度)を改善する様々な添加剤を含有していてもよい。これらの添加剤は、ドープの安定性を増大させるのに、または溶液中のシルクタンパク質の結晶化度を増大させるのに使用されてもよい。そのような添加剤は、約45%、50%、60%またはそれ以上(w/v)の高さのシルクタンパク質であるドープ溶液からの、織地およびその他の基材のコーティングを可能にし得る。ドープ溶液添加剤は、所望の性質を付加するために、織地およびその他の基材上のシルクタンパク質コーティングに組み込まれるようになってもよい。このタイプの典型的な添加剤は、例えば可塑剤を含んでいてもよい。別の可能性ある添加剤は、粘度増強剤として機能することができ、ドープ溶液の安定性および加工性を促進させることができ、ドープのゲル化の阻害剤として働くことができる、4,000,000〜9,000,000またはそれ以上の範囲の分子量を有するポリエチレンオキシドである。おそらく適切な用途の例として、4,000,000から6,000,000の分子量を有するポリエチレンオキシドを、0.03から2%の濃度でドープ溶液に添加してもよい。別の例では、4,000,000から9,000,000の範囲または10,000,000よりも大きい分子量を有するポリエチレンオキシドが、水溶液に溶解可能である場合には、そのポリエチレンオキシドがドープ溶液に溶解する能力を保持する濃度で添加される。ポリマの分子量が高いほど、使用することができる濃度は低くなる。典型的には、ドープ溶液中のシルクタンパク質とポリマとの比は、100:1以下になるべきである。
【0113】
添加剤は、クモによって自然に分泌された、水性ドープ中に存在する化合物、例えばGABアミド(γ−アミノブチルアミド)、N−アセチルタウリン、コリン、ベタイン、イセチオン酸、システイン酸、リシン、セリン、硝酸カリウム、リン酸二水素カリウム、グリシン、および高級飽和脂肪酸などを含んでもよい。ヴォルラス(Vollrath)ら、Nature 345: 526 528, 1990;ヴォルラス(Vollrath)、Reviews in Molecular Biotechnology, 74:67 83, 2000。これらの天然に生ずる添加剤は、捕獲ウェブの水性コーティングを維持するのを助け、シルクタンパク質を好ましい配座で保持する。したがって、ウェブは、様々な条件下で安定化し、脱水が防止される。特に、ベタインおよびGABアミドは、浸透圧保護性であり、広範な有機体によって使用されるオスモライトである。タウリンは、タンパク質安定化化合物である。
【0114】
ドープ溶液に使用され得るその他の添加剤には、スクシンアミド、モルホリン、CHES(N−シクロヘキシルアミノエタンスルホン酸)、ACES(N−(2−アセトアミド)−2−アミノエタンスルホン酸)、2,2,2−トリフルオロエタノール、ヘキサン酸およびステアリン酸などの飽和脂肪酸、グリセロール、エチレングリコール、ポリ(エチレングリコール)、乳酸、クエン酸、および2−メルカプトエチルアミンが含まれるが、これらに限定するものではない。
【0115】
その他の有用な添加剤を、凝固浴に含めてもよい。ある界面活性剤、浸透圧保護剤、安定化剤、UV阻害剤、および抗菌剤を含めた添加剤は、ドープ溶液に、または凝固浴に、またはその両方に添加される場合に有効である。UV放射線、ラジカル形成、および生分解から保護する安定化剤には、例えば、2−ヒドロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシフェニル−2−(2H)−ベンゾトリアゾール、シフマメート(cifmamate)、およびこれらの混合物が含まれる。これらの化学物質は、UVエネルギを吸収し消散させることが可能であり、それによってUV分解が阻止される。フリーラジカルは、ヒンダードアミン光安定化剤(HALS)、ブチル化ヒドロキシアニソール(BHA)、およびブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)によって中和される。スピンドープに添加され得る抗菌剤には、硝酸銀、ヨウ素化ラジカル(例えば、Triosyn;Hydro Biotech)、塩化ベンジルアルコニウム、臭化アルキルピリジニウム(セトリミド)、および臭化アルキルトリメチルアンモニウムが含まれる。粘度増強剤は、ドープのレオロジ特性を改善するのに添加されてもよい。その例には、ポリアクリレート、アルギネート、セルロース、グアー、デンプン、およびこれらのポリマの誘導体であって、疎水性により修飾された誘導体が含まれるが、これらに限定するものではない。好ましい実施形態では、ポリエチレンオキシドが添加される。1つのそのような実施形態では、好ましくは4,000,000から6,000,000の分子量を有するポリエチレンオキシドが、0.03から2%の濃度でドープ溶液に添加される。別のそのような実施形態では、6,000,000から9,000,000に及ぶ、または10,000,000よりも大きい分子量を有するポリエチレンオキシドは、このポリエチレンオキシドがドープ溶液中に溶解する能力を保持する濃度で添加される。好ましくは、ドープ溶液中のシルクタンパク質とポリマとの比が、100:1以下である。
【0116】
ドープは通常、その全体を本願に引用して援用する、2003年1月13日に出願された、「Recovery of Biofilament Proteins from Biological Fluids」という名称の米国出願第10/341,097号に開示されるような、トランスジェニック生物から誘導された生物流体から調製される。ドープの生成に使用される組換えスパイダシルクタンパク質は、例えば、トランスジェニック哺乳類細胞、植物、または動物の培養物から回収することができ、ドープは、培地、植物抽出物、またはトランスジェニック哺乳類の血液、尿、もしくは乳から調製することができる。タンジェント流濾過、遠心分離およびフィルタリングならびにクロマトグラフィ技法などの方法を介して、ドープから汚染生体分子(例えば、タンパク質、脂質、炭水化物)を除去することにより、一般に紡糸繊維の性質が改善される。
【0117】
本発明の方法により、ドープ溶液は、多くの適用例に関して0℃から100℃の範囲の温度で、コーティング用に生成および/または使用されてもよい。しかし、ある材料の、ドープ溶液へのチップ融解は、約2℃〜380℃の範囲を必要とする可能性がある。ポリペプチド材料の融解温度は、アミノ酸配列に依存する。しかし、温度をその範囲の下方で保持するには、チップ融解物の代わりにモノマの分散体を使用してもよい。
【0118】
類似のウールポリペプチド供給原料、ならびにその他のポリペプチド供給原料は、シルクポリペプチドに関して上記したものと同じ概略的な教示に従って、生成されてもよい。
【0119】
前述の教示から、当業者なら、様々な望ましい性質または特性を織地材料およびその他の基材に与えてもよいことが理解されよう。本明細書で使用される、そのような性質または特性には、改善された触覚または風合い(例えば、布地の軟化)、強度、耐久性、弾性、水および油汚れの撥水性、昆虫忌避性、帯電防止性、日光および照明条件における退色抵抗性、臭い、感染、ならびにかび(mold)または白かび(mildew)の形成を低減させる抗菌性が含まれる。
【0120】
任意の特定の実施例に関連した上述の原理は、その他の実施例の任意の1つ以上に関連して記載した原理と組み合わせることができる。したがってこの詳細な記載は、限定の意味で解釈されないものとし、この開示の考察に従って、当業者ならば、広く様々な役立つシステムと、本明細書に記載される様々な概念を使用して考え出されたその他のシステムとが理解されよう。さらに、当業者ならば、本明細書に開示される例示的な実施形態は、開示される原理から逸脱することなく様々な構成に適応できることが理解されよう。開示された実施形態の先の記載は、当業者が、開示された革新的内容を作製しまたは使用できるようにするために提示する。それらの実施形態に対する様々な修正は、当業者に容易に明らかにされ、本明細書に定義される一般的原理は、本開示の精神または範囲から逸脱することなくその他の実施形態に適用され得る。したがって、特許請求の範囲に記載される発明は、本明細書に示される実施形態に限定されるものではなく、特許請求の言語と矛盾しない全範囲に一致するものであり、冠詞「a」または「an」を使用するような単数形で要素に言及する場合、そのように特に指示しない限り「唯一のもの」を意味するものではなく、むしろ「1つ以上」を意味する。さらに、本明細書には、開示が特許請求の範囲内に明らかに示されるか否かにかかわらず、本明細書には、公に献ずることを意図して開示されたものはない。特許請求の要素は、この要素が「〜のための手段(means for)」または「〜のためのステップ(step for)」という文言を使用して明示されない限り、米国特許法の下で「ミーンズプラスファンクション(means plus function)」クレームと解釈されるものではない。
【0121】
当業者ならば、本発明の対象の性質を説明するために記載され図示されてきた部品および動作の詳細、材料および配置構成において多くの修正例および変形例が可能であり、そのような修正例および変形例は、そこに含まれる教示および請求項の精神および範囲から逸脱しないことが理解されよう。
【0122】
本明細書に引用され得る全ての特許および非特許文献は、全ての目的でその全体を本願に引用して援用する。